説明

セルロースナノファイバーとポリイミドによる透明な複合フィルム

【課題】本発明の目的は、極めて低い熱線膨張、熱収縮という耐熱性を備えながら、透明性の高い有機光電変換素子(有機太陽電池)や有機EL素子の様な有機電子デバイスに提供する透明な複合フィルムを提供することである。
【解決手段】ポリイミド樹脂とセルロースナノファイバーを架橋したことを特徴とする透明な複合フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なポリイミド樹脂に低線膨張率であるセルロースナノファイバー(以下、CNFともいう)を均一に分散した透明な複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に各種繊維状強化材を配合することで、その強度、剛性を大幅に向上させた繊維強化複合材料は、電気・電子、機械、自動車、建材等の産業分野で広く用いられている。この繊維強化複合材料に配合される繊維状強化材としては、優れた強度と軽量性を有するガラス繊維が主に用いられている。しかし、ガラス繊維強化材料では、高剛性化は達成されるが比重が大きくなる為、軽量化に限界があった。
【0003】
これに対し、繊維状強化材としてポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維といった有機材料からなる繊維強化材が検討されてきたが、これらの繊維状強化材を配合した繊維強化材料は軽量性やサーマルリサイクル性については確保できるものの、機械的補強効果が十分でないという問題があった。
【0004】
一方、近年、カーボンニュートラルの観点から植物由来材料を利用した高機能材料が注目される中、この植物繊維を解繊してフィブリル化したセルロース繊維を樹脂に混合した繊維複合材料が提案されている。
【0005】
特許文献1、2には、セルロースナノファイバー(CNF)を抄紙し、CNFシート化した後、樹脂に含侵させて複合フィルムを作成する方法があるが、樹脂全体にCNFが均一に分散されていないため、透明性、耐熱性等の性能が不十分である。
【0006】
近年、液晶表示素子、有機EL素子、光電変換素子などへの応用が進んでいる透明基板には、軽量化、大型化という要求に加え、ロール・トゥ・ロールでの生産が可能であること、長期信頼性や、形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わり、重く割れやい大面積化が困難なガラス基板に代わって透明プラスチック等のフィルム基板が採用され始めている。
【0007】
しかしながら、透明プラスチック等のフィルム基板はガラスに対し熱線膨張、熱収縮など耐熱性の面で問題がある。
【0008】
一方、ポリイミドは、高い耐熱性をもつことが知られている。一般的なポリイミドは芳香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンとから得られ、分子の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合により優れた耐熱性、耐薬品性、機械物性、電気特性を有するため、成形材料、複合材料、電気・電子部品などの分野において幅広く用いられている。この他にも、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物及びその反応性誘導体を用いた熱溶融可能なポリイミドや、着色を取り除いた無色透明性ポリイミドが開発されている。
【0009】
繊維による強化ポリイミドとして、特許文献3においては、ポリイミド樹脂に繊維であるグラファイトを混ぜているが目的は、導電性であり透明性にはない。
【0010】
また、特許文献4においては、ポリイミド樹脂に繊維であるカーボンナノチューブを溶液状態で混合し、溶媒キャスト法で製膜しているが、イミド化においては400℃の熱をかけており、CNFの熱分解温度以上であるため、熱イミド化法では、CNFとのコンポジットは不可能である上に、高温下でのイミド化のため透明性もない。
【0011】
このように透明性と耐熱性を兼ね備えたポリイミドによる透明な複合フィルムはこれまでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−291371号公報
【特許文献2】特開2007−165357号公報
【特許文献3】特開2011−57739号公報
【特許文献4】特開2010−42959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、極めて低い熱線膨張、熱収縮という耐熱性を備えながら、透明性の高い有機光電変換素子(有機太陽電池)や有機EL素子の様な有機電子デバイスに提供する透明な複合フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0015】
1.ポリイミド樹脂とセルロースナノファイバーを架橋したことを特徴とする透明な複合フィルム。
【0016】
2.前記ポリイミド樹脂は、ポリイミド前駆体から化学イミド化によって形成されることを特徴とする前記1に記載の透明な複合フィルム。
【0017】
3.前記化学イミド化する前に、セルロースナノファイバーとポリイミド前駆体を混合することを特徴とする前記2に記載の透明な複合フィルム。
【0018】
4.セルロースナノファイバーがパルプを2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルで酸化処理することで得られたことを特徴とする前記3に記載の透明な複合フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、極めて低い熱線膨張、熱収縮という耐熱性を備えながら、透明性の高い有機電子デバイスに提供する透明な複合フィルムを得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、繊維による強化ポリイミドとして、ポリイミドを作成する化学イミド化工程でセルロースナノファイバーとポリイミドを化学架橋させることでセルロースナノファイバーとポリイミドを強固に結合させ、ガラス並みの線膨張を達成したものである。
【0021】
以下、本発明とその構成要素、および本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0022】
(セルロースナノファイバーについて)
本発明のセルロースナノファイバーは、平均繊維径が2nm以上200nm以下の状態まで解繊されていることが好ましく、さらに繊維表面を化学修飾、あるいは物理修飾により表面処理されたものであればよい。
【0023】
本発明に用いる原料セルロース繊維としては、植物由来のパルプ、木材、コットン、麻、竹、綿、ケナフ、ヘンプ、ジュート、バナナ、ココナツ、海草、お茶葉等の植物繊維から分離した繊維、海産動物であるホヤが産生する動物繊維から分離した繊維、あるいは酢酸菌より産生させたバクテリアセルロース等が挙げられる。これらの中で、植物繊維から分離した繊維が好ましく用いることができるが、より好ましくはパルプ、コットン等の植物繊維から得られる繊維である。
【0024】
本発明においては、これらの繊維をホモジナイザーやグラインダー等を用いて解繊処理し、微細化したミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーとするが、含有されるセルロースが繊維状態を保持している限りにおいては、その解繊維処理方法について何ら制限はない。また木材のような硬いものは、ホモジナイザーで直接処理できない場合、プレ解砕として乾式粉砕機で粉体化する必要があるものもある。
【0025】
具体例をあげると、パルプ等のセルロース繊維を水に入れた分散容器に0.1〜3質量%となるように投入し、これを高圧ホモジナイザーで解繊処理して平均繊維径0.1〜10μm程度のミクロフィブリルに解繊されたセルロース繊維の水分散液を得る。更にグラインダー等で繰り返し磨砕処理することで、平均繊維径2〜200nm程度のナノオーダーのセルロース繊維を得ることができる。
【0026】
上記磨砕処理に用いられるグラインダーとしては、例えば、ピュアファインミル(栗田機械製作所社製)等が挙げられる。また、別の方法として、セルロース繊維の分散液を一対のノズルから250MPa程度の高圧でそれぞれ噴射させ、その噴射流を互いに高速で衝突させることによってセルロース繊維を粉砕する、高圧式ホモジナイザーを用いる方法が知られている。用いられる装置としては、例えば、三和機械社製の「ホモジナイザー」、スギノマシン(株)製の「アルテマイザーシステム」、等が挙げられる。
【0027】
このようにして解繊処理して得られるセルロースナノファイバーの平均繊維径としては、好ましくは2nm以上、200nm以下であり、より好ましくは2nm以上、100nm以下、更に好ましくは4nm以上、40nm以下である。ここで示される平均繊維径は、樹脂中に分散した繊維の径の平均値であり、本発明において、平均繊維径、また後述の平均繊維長の測定は、得られた繊維について透過型電子顕微鏡、H−1700FA型(日立製作所社製)を用いて10000倍の倍率で観察した後、得られた画像について無作為に繊維を100本選び、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて一本毎の繊維径、及び繊維長を解析し、それらの単純な数平均値を求める。
【0028】
本発明において、セルロースナノファイバーの平均繊維径が200nmを超えないほうが、繊維複合材料の強度が十分確保でき、透明樹脂と混合した際の透明性もよい。
【0029】
また、セルロースナノファイバーの長さについては特に限定されるものではないが、平均繊維長で500nm以上、2000nm以下が好ましく、更に好ましくは1000nm以上である。
【0030】
(セルロースの表面処理方法)
平均繊維径が2nm以上200nm以下にしたセルロースナノファイバーの良好な分散性を保つため、部分的に表面修飾を行ってもよい。前記セルロースナノファイバーの表面修飾としては、化学修飾、あるいは物理修飾があるが好ましくは化学修飾法である。
【0031】
本発明においては、セルロースナノファイバーの水酸基を、酸、アルコール類、ハロゲン化試薬、酸無水物、イソシアナート類、シランカップリング剤、ポリマー等の修飾剤を用いて化学修飾させる。化学修飾する方法は公知の方法に従って行うことができ、例えば、解繊処理したセルロースナノファイバーを水、あるいは適当な溶媒に添加して分散させた後、これに化学修飾剤を添加して適当な反応条件下で反応させれば良い。この場合、化学修飾剤の他に、必要に応じて反応触媒を添加することができ、例えば、ピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができるが、反応速度や重合度の低下を防止するため、ピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。
【0032】
反応温度としては、セルロースナノファイバーの黄変や重合度の低下等の変質を抑制し、反応速度を確保する点で、40〜100℃程度が好ましい。反応時間については用いる修飾剤や処理条件により適宜選定すればよい。
【0033】
化学修飾によりセルロース繊維に導入する官能基としては、例えば、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0034】
一方、最近、解繊処理と表面修飾を同時におこなってしまう報告もある。植物資源からリグニン等の不純物を除去、精製して得る天然セルロースをいったん溶媒に溶解させて得られる再生セルロースを原料とした方法である。2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOと表記する)の存在下、次亜塩素酸のような酸化剤を作用させて酸化反応を進行させる方法である。これによれば、再生セルロースを形成するセルロース鎖が分子鎖レベルで、しかもセルロース鎖の構成モノマー単位であるグルコピラノーズ環中のC6位の一級水酸基のみが選択的に酸化され、アルデヒドを経由してカルボキシル基にまで酸化される。この報告(「Cellulose」Vol.5、1998年、第153〜164ページにおけるA.Isogai及びY.Katoによる「TEMPO触媒酸化によるセルロースからのポリウロン酸の調製」と題する記事)の方法を、セルロース繊維のナノファイバーを作成する本方法で作成したセルロース繊維に使用することも可能である。この方法で作成されたセルロース繊維のナノファイバーも上記化学修飾の方法と同様表面水酸基が修飾されたセルロース繊維として用いることが可能である。生産性から考えて解繊と表面修飾が同時に行えるTEMPO酸化処理が好ましい。
【0035】
このような手法で表面処理された、セルロース繊維は、表面の水酸基の少なくとも一部が修飾されているため、セルロース繊維の溶剤に対する濃度は、1質量%以上30質量%以下とすることが可能である。また好ましくは、3質量%以上20質量%以下とすることも可能であり、収率を上げることができる。
【0036】
セルロース繊維の解繊処理は、溶媒である水に対してセルロース繊維の濃度が、0.1質量%以上3質量%以下で行うのが好ましいが、表面処理の濃度に濃縮する方法としては、解繊処理後のセルロース繊維を、風乾、オーブン乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の手段で一度乾燥させた後、表面処理に必要な濃度で溶媒中に分散させても良い。また、表面処理を行うときには、解繊直後のセルロース繊維の濃度は、0.1質量%以上3質量%以下で行い、表面処理後、セルロース繊維の溶剤に対する濃度を、1質量%以上30質量%以下となるようにエバポレーター、膜分離方法等の濃縮方法で濃縮してもよい。また可能であれば、解繊直後のセルロース繊維の濃度は、0.1質量%以上3質量%以下のセルロース分散液をエバポレーター、膜分離方法等の濃縮方法で濃縮してから表面処理を行っても良い。表面処理前は、セルロース表面に多数の水酸基が露出しており、ゲル化の原因になるため、好ましくは、表面処理後の濃縮方法が良い。
【0037】
(セルロース分散溶媒)
セルロース繊維を解繊する際の溶媒としては、セルロース繊維が分散できればよく、水、アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭化水素類等が使用できる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせても使用できる。好ましい溶媒は、水溶性の溶媒であり、水がさらに好ましい。
【0038】
(有機溶媒と溶媒置換方法)
セルロース繊維は親水性であり、解繊する際は水で分散する方が好ましいが、ポリイミドまたはポリイミド前駆体と混合する際には、有機溶剤に置換することが好ましい。
【0039】
溶媒置換とは、ある溶媒から異なった溶媒に置換することである。本発明においては、元にあった溶媒の残存率が1質量%以下になった時点で溶媒置換が終了したとする。本発明の好ましい残存率としては、0.5質量%である。
【0040】
セルロース繊維を水溶性の溶媒の分散状態から置換させる有機溶媒としては、繊維に化学的または物理的損傷を与えず、繊維が有機溶媒中に分散できればよい。有機溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭化水素類等が使用できる。これらの有機溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせても使用できる。
【0041】
その他、ポリイミドを溶解する観点からN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、m−クレゾ−ル、フェノ−ル、p−クロルフェノール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、1,4−ジオキサン、イプシロンカプロラクタム、ジクロロメタン、クロロホルムなどが使用可能であり、2種以上を併用してもよい。ポリイミドの有機溶媒溶液(ポリイミドワニス)の性能を考慮すると、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、シクロペンタノンなどが好ましい。
【0042】
置換方法としては、限外ろ過方法、減圧蒸留方法、デカンテーション方法、共沸方法による水の除去、エバポレーター、膜分離方法が挙げられる。
【0043】
また、繊維が凝集しないように一度、水溶性の溶媒を凍結乾燥した後、前記有機溶媒に置換してもよい。好ましくは、膜分離方法で溶媒置換するのが良い。
【0044】
(ポリイミド樹脂及びポリイミド前駆体について)
本発明においては、ポリイミド前駆体又はポリイミドの有機溶媒溶液を支持体上にキャストして乾燥させる溶液キャスト法により無色透明樹脂フィルムの製造することができる。
【0045】
特に下記一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド(以下、ポリイミド(A)と称する。)又は下記一般式(I′)で示される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体(以下、ポリイミド前駆体(A′)と称する。)が好ましい。
【0046】
【化1】

【0047】
式中、Rは炭素数4〜39の4価の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。Φは炭素数2〜39の2価の脂肪族炭化水素基、脂環族式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせからなる基であって、結合基として、−O−、−SO−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−OSi(CH−、−CO−及び−S−からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含有していてもよい。
【0048】
Rが表す、炭素数4〜39の4価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ブタン−1,1,4,4−トリイル基、オクタン−1,1,8,8−トリイル基、デカン−1,1,10,10−トリイル基などの基が挙げられる。
【0049】
また、Rが表す、炭素数4〜39の4価の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロブタン−1,2,3,4−テトライル基、シクロペンタン−1,2,4,5−テトライル基、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトライル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトライル基、3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトライル基、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基、3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基などの基が挙げられる。
【0050】
Φが表す、上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば下記構造式で示される基が挙げられる。
【0051】
【化2】

【0052】
上記構造式において、nは繰り返し単位の数を示し、1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。また、Xは、炭素数1〜3のアルカンジイル基、つまり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基であり、メチレン基が好ましい。
【0053】
Φが表す、上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の脂環式炭化水素基としては、例えば下記構造式で示される基が挙げられる。
【0054】
【化3】

【0055】
Φが表す、上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の芳香族炭化水素基としては、例えば下記構造式で示される基が挙げられる。
【0056】
【化4】

【0057】
これら脂肪族炭化水素基、脂環族式炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせからなる基としては、例えば下記構造式で示される基が挙げられる。
【0058】
【化5】

【0059】
Φとしては、結合基を有する炭素数2〜39の2価の芳香族炭化水素基、又は該芳香族炭化水素基と脂肪族炭化水素基の組み合わせであることが好ましく、特に以下の構造式で示される基が好ましい。
【0060】
【化6】

【0061】
ポリイミド前駆体(A′)は、上記の通り、ポリイミド(A)のイミド結合の一部が解離した構造に当たり、ポリイミド前駆体(A′)の詳細説明はポリイミド(A)に対応させて考えることができるため、以下、代表的にポリイミド(A)について詳細に記載する。
【0062】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位は、全ての繰り返し単位に対して好ましくは10〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%、さらに好ましくは80〜100モル%、特に好ましくは90〜100モル%である。また、ポリイミド(A)1分子中の一般式(I)の繰り返し単位の個数は、10〜2000、好ましくは20〜200であり、この範囲において、さらにガラス転移温度が230〜350℃であることが好ましく、250〜330℃であることがより好ましい。
【0063】
ポリイミド(A)は、脂肪族もしくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体と、ジアミン又はその誘導体とを反応させることにより得られる。
【0064】
脂肪族もしくは脂環式テトラカルボン酸の誘導体としては、脂肪族もしくは脂環式テトラカルボン酸、脂肪族もしくは脂環式テトラカルボン酸エステル類、脂肪族もしくは脂環式テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。なお、脂肪族もしくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体のうち、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0065】
ジアミンの誘導体としては、ジイソシアネート、ジアミノジシラン類などが挙げられる。ジアミン又はその誘導体のうち、ジアミンが好ましい。とくに好ましくは、F素置換基があるもの、脂環式のジアミンが好ましい。
【0066】
脂肪族テトラカルボン酸としては、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などが挙げられる。脂環式テトラカルボン酸としては、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸などが挙げられる。
【0067】
脂肪族テトラカルボン酸エステル類としては、例えば、上記脂肪族テトラカルボン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、トリアルキルエステル、テトラアルキルエステルが挙げられる。
【0068】
脂環式テトラカルボン酸エステル類としては、例えば、上記脂環式テトラカルボン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、トリアルキルエステル、テトラアルキルエステルが挙げられる。なお、アルキル基部位は、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましい。
【0069】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0070】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。特に好ましいのは1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。
【0071】
一般に、脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドは、中間生成物であるポリアミド酸とジアミンが強固な塩を形成するため、高分子量化するためには塩の溶解性が比較的高い溶媒(例えばクレゾール、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いることが好ましい。ところが、脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドでも、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物を構成成分としている場合には、ポリアミド酸とジアミンの塩は比較的弱い結合で結ばれているので、高分子量化が容易で、フレキシブルなフィルムが得られ易い。
【0072】
脂肪族もしくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ポリイミドの溶媒可溶性、フィルムのフレキシビリティ、熱圧着性、透明性を損なわない範囲で、他のテトラカルボン酸又はその誘導体(特に二無水物)を併用してもよい。
【0073】
かかる他のテトラカルボン酸又はその誘導体としては、例えばピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタンなどの芳香族系テトラカルボン酸及びこれらの誘導体(特に二無水物);エチレンテトラカルボン酸などの炭素数1〜3の脂肪族テトラカルボン酸及びこれらの誘導体(特に二無水物)などが挙げられる。
【0074】
透明性の観点から嵩高いF素置換基を導入したものも好ましい。
【0075】
ジアミンは、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン又はこれらの混合物のいずれでもよい。なお、本発明において“芳香族ジアミン”とは、アミノ基が芳香族環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、その他の置換基(例えば、ハロゲン原子、スルホニル基、カルボニル基、酸素原子など。)を含んでいてもよい。“脂肪族ジアミン”とは、アミノ基が脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香族炭化水素基、その他の置換基(例えば、ハロゲン原子、スルホニル基、カルボニル基、酸素原子など。)を含んでいてもよい。
【0076】
ジアミン成分としては、下記式(5)〜(7)で表される構造単位の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0077】
【化7】

【0078】
芳香族ジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3′−ジヒドロキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジクロロ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジフルオロ−4,4′−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)4−メチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)アダマンタンなどが挙げられる。
【0079】
脂肪族ジアミンとしては、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,4−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジエチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,2−ビス(4,4′−ジアミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4′−ジアミノメチルシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。
【0080】
ジアミン誘導体であるジイソシアネートとしては、例えば、上記芳香族又は脂肪族ジアミンとホスゲンを反応させて得られるジイソシアネートが挙げられる。
【0081】
また、ジアミン誘導体であるジアミノジシラン類としては、例えば上記芳香族又は脂肪族ジアミンとクロロトリメチルシランを反応させて得られるトリメチルシリル化した芳香族又は脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0082】
以上のジアミン及びその誘導体は任意に混合して用いてもよいが、それらの中におけるジアミンの量が50〜100モル%となることが好ましく、80〜100モル%となることがより好ましい。
【0083】
ポリイミド前駆体又はポリイミドを用いセルロースナノファイバーと架橋させる場合、ポリイミド前駆体又はポリイミドの有機溶媒溶液を使用する。該有機溶媒は、ポリイミド前駆体又はポリイミドを溶解し得るものであり、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、m−クレゾ−ル、フェノ−ル、p−クロルフェノール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、1,4−ジオキサン、イプシロンカプロラクタム、ジクロロメタン、クロロホルムなどが使用可能であり、2種以上を併用してもよい。ポリイミドの有機溶媒溶液(ポリイミドワニス)の性能(ポリイミドの溶解性が維持され、不溶分を発生しにくいという長期保存安定性等)を考慮すると、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、シクロペンタノンを単独で又は混合して使用することが好ましい。
【0084】
また、これら有機溶媒と併せて、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどの貧溶媒を、ポリイミド前駆体又はポリイミドが析出しない程度に使用してもよい。
【0085】
(セルロースナノファイバー(CNF)分散液との混合方法)
セルロースナノファイバー(CNF)分散液は、化学イミド化前のポリイミド前駆体溶液中でも、またはポリイミド溶液中に添加しても良いが、好ましくは、化学イミド化前にポリイミド前駆体溶液に添加する。
【0086】
ポリイミド前駆体にCNFを添加することで化学イミド化の際に、CNFとポリイミドが化学架橋をおこしやすく、樹脂の耐熱性がより良くなる。
【0087】
ポリイミド前駆体又はポリイミドの有機溶媒溶液の粘度が高い場合などには、適宜、溶媒を添加してもよい。
【0088】
溶媒としては特に限定されるものではなく、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類などを例示することができる。特にトルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、ジクロロメタン、四塩化炭素などの塩素系溶媒、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒等の樹脂バインダーを溶解、膨潤する溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、シクロペンタノン等を用いる。
【0089】
また分散が容易でない場合は、ホモジナイザー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの高剪断力混合機、または超音波分散機を用いて均一に混合する。
【0090】
CNFの含有量としては、ポリイミド樹脂に対して1〜50質量%、好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは2〜20質量%である。
【0091】
(化学イミド化について)
ポリイミド樹脂とセルロースナノファイバーを架橋する工程としては、化学イミド化工程が好ましい。
【0092】
ポリイミド樹脂とセルロースナノファイバーの架橋は、セルロースナノファイバーの水酸基がポリイミド樹脂を構成するカルボキシ成分と反応することによる架橋であり、またはTEMPO処理したセルロースナノファイバーの場合には処理後のセルロースナノファイバーのカルボキシル基とポリイミド樹脂を構成するジアミン成分のアミノ基との脱水反応による架橋もある。
【0093】
上記の理由でポリアミド前駆体を脱水反応で化学イミド化する工程或いはその前にセルロースナノファイバーを添加するのが好ましい。
【0094】
化学イミド化後のポリイミド樹脂溶液にセルロースナノファイバーを添加した場合、フィルム作成時の製膜温度によりセルロースナノファイバーの水酸基、またはTEMPO処理した後のカルボキシル基とポリイミド樹脂との架橋はポリイミド樹脂にも残留したカルボキシ基やアミノ基において行われるが、化学イミド化工程或いはその前に添加した場合に比較すると効率は悪くなる。
【0095】
ポリイミド前駆体の有機溶媒溶液で化学イミド化する方法としては、例えば、下記の(i)〜(iii)の方法が挙げられるが、これらの方法に限定されない。
【0096】
(i)先ず、ポリイミド前駆体を、以下のように合成する。
【0097】
ジアミン又はその誘導体の有機溶媒溶液に、好ましくは脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体を添加、あるいは、好ましくは脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸成分の有機溶媒溶液に、ジアミン又はその誘導体を添加し、好ましくは80℃以下(より好ましくは30℃以下)の温度で0.5〜3時間保ち、ポリイミド前駆体の有機溶媒溶液を得る。
【0098】
得られたポリイミド前駆体の有機溶媒溶液に、水と共沸するトルエン又はキシレンなどの溶媒を添加して、生成した水を共沸により系外へ除きながら脱水反応を行い、ポリイミドの有機溶媒溶液を得ることができる。
【0099】
(ii)上記(i)と同様にして得られるポリイミド前駆体の有機溶媒溶液に無水酢酸などの脱水剤を加えてイミド化した後、ポリイミドに対する溶解能の乏しいメタノールなどの溶媒を添加して、ポリイミドを沈殿させる。ろ過・洗浄・乾燥することにより固体として分離した後、N,N−ジメチルアセトアミドなどの前記有機溶媒に溶解することにより、ポリイミドの有機溶媒溶液を得ることができる。
【0100】
(iii)上記(i)において、例えばクレゾール、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなどの沸点150℃以上の有機溶媒を用いてポリイミド前駆体溶液を調製し、トリエチルアミンなどの第三級アミンを添加してそのまま150〜220℃に3〜12時間保ってイミド化させ、ポリイミドの有機溶媒溶液を得ることができる。
【0101】
なお、ポリイミド前駆体又はポリイミドを溶液重合で製造する場合、触媒として第三級アミンを用いることが好ましい。第三級アミンとしては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン;トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミンなどのアルコールアミン;トリエチレンジアミンなどのジアミン;N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジンなどの含窒素脂環式へテロ環化合物;イミダゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリンなどの含窒素芳香族へテロ環化合物などが挙げられる。これら第三級アミンのうち、トリアルキルアミンが好ましく、トリエチルアミンがより好ましい。
【0102】
また、ポリイミド前駆体又はポリイミドの有機溶媒溶液におけるポリイミド前駆体又はポリイミドの濃度は、1〜50質量%であるのが好ましく、10〜40質量%がより好ましい。50質量%以下であれば、得られるポリイミドフィルムの表面平坦性が良好となる。
【0103】
ポリイミド前駆体又はポリイミドの有機溶媒溶液には、フッ素系、ポリシロキサン系などの界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を添加すると、表面平滑性の良好なフィルムを得やすくなる。界面活性剤は市販品を使用してもよく、フッ素系界面活性剤としては、例えばDIC株式会社のメガファック(登録商標)シリーズや、株式会社ネオスのフタージェント(登録商標)シリーズであるフタージェント(登録商標)251、212MH、250、222F、212D、FTX−218などが挙げられる。ポリシロキサン系界面活性剤としては、例えばビックケミー・ジャパン株式会社のBYK−307、BYK−315、BYK−320、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−332、BYK−333、BYK−344などが挙げられる。
【0104】
ポリイミド前駆体又はポリイミドの有機溶媒溶液をフィルム化する支持体としては、例えばステンレススチール、アルミなどの金属板、ガラス板が好ましく挙げられ、特にステンレススチール板やステンレススチールベルトが好ましい。
【0105】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0106】
また、塗布された膜は溶媒が除去できる温度なら良く60℃〜400℃、好ましくは70℃〜260℃である。乾燥時間は、好ましくは5秒〜24時間程度、更に好ましくは10秒〜2時間程度である。
【0107】
また、乾燥膜を場合によってアニール処理してもよくアニール温度は、好ましくは60℃〜400℃、更に好ましくは70℃〜260℃である。アニール時間は、好ましくは5秒〜24時間程度、更に好ましくは10秒〜2時間程度である。
【0108】
(フィルムの評価方法)
(1)光線透過率の測定
分光光度計UV−2500PC:島津製作所製を用いて可視光線の入射光量に対する全透過光量を測定した。その550nmの測定結果で示した。
(2)線膨張係数
成形体について、40〜200℃の範囲内で温度を変化させ、線膨張係数を測定した。測定装置としてSII(セイコーインスツルメンツ)社EXSTAR6000 TMA/SS6100を用いた。試験片は、長さは2cm、幅2mm、厚み80μmで行った。
(3)ヘイズ測定
各試料につき、三菱化学社製、SEP−PT−706Dを用いてヘイズを測定した。
(4)熱収縮率(単位:%)
温度200℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向および横方向がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ15cm四方のフィルムを無荷重で入れ、10分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式から縦方向および横方向の熱収縮率をそれぞれ求め平均値で記載した。
【0109】
熱収縮率(%)=(ΔL/L)×100
【実施例】
【0110】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0111】
〈CNF分散液の調製〉
(比較例1)
針葉樹から得られた亜硫酸漂白パルプを、純水に1.0質量%となるように添加し、株式会社 日本精機製作所製 エクセルオートホモジナイザーを用いて3000回転/分で15分、セルロース繊維を解繊した。この水分散液をセルロースAとした。得られたセルロースは走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径250nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0112】
(製造例1)
比較例1の回転数を10000回転/分で15分にした以外は、同様に作成したものをセルロースナノファイバーB(CNF−B)とした。平均繊維径200nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0113】
(製造例2)
製造例1で作成したセルロースナノファイバーBを増幸産業製グラインダーで2回処理した。セルロースナノファイバーが1質量%となるよう水で調整し、セルロースナノファイバーC(CNF−C)を得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径50nmであった。
【0114】
(製造例3)
製造例1で作成したセルロースナノファイバーBを高圧粉砕システム アルテマイザーHJP−2005(スギノマシン株式会社製)で、200MPaにて180回粉砕処理を行った。セルロースナノファイバーが1質量%となるよう水で調整し、セルロースナノファイバーD(CNF−D)を得た。得られたセルロースナノファイバーDは平均繊維径10nmであった。
【0115】
(製造例4)
製造例1で作成したセルロースナノファイバーBを、乾燥質量で1g相当分と0.0125gのTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)および0.125gの臭化ナトリウムを水100mlに分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、セルロースナノファイバーが0.1質量%になるよう水で希釈した。さらに超音波分散機にて1時間処理をし、セルロースナノファイバーE(CNF−E)を得られた、平均繊維径4nmであった。
【0116】
(溶媒置換)
上記比較例1、製造例1〜4のサンプルでシクロペンタノン溶媒へ膜分離方法で徐々に置換してセルロースナノファイバーの濃度が10質量%になるように溶媒置換をおこなった。
【0117】
(ポリイミドの合成)
まずポリイミド前駆体を以下のようにして製造した。
【0118】
温度計、撹拌機、窒素導入管、分液デカンタ及び冷却管を備えた0.5L4つ口フラスコに、窒素気流下、脂環式ジアミン成分として4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン(以下、「HDAM」と略記する。)30.7g(0.146モル)、反応溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」という。)465gを仕込み、室温でそのジアミンを溶解させた。次いで、テトラカルボン酸成分として粉末状の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物(以下、「HPMDA」と略記する。)31.14g(0.139モル)を一度に加えた。この時全モノマー濃度は13.1質量%である。72時間撹拌し透明、均一で粘稠なポリイミド前駆体A溶液を得た。
【0119】
このポリイミド前駆体A溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。DMAc(ジメチルアセトアミド)中で測定したこのポリイミド前駆体の固有粘度は2.43dL/gであり、高重合体であった。
【0120】
このポリイミド前駆体溶液に過剰量の無水酢酸/ピリジン(体積比7/3)を攪拌しながら滴下し、室温で24時間攪拌して化学イミド化を行った。この際反応溶液はゲル化しなかった。化学イミド化終了後、反応溶液を大量のメタノール中に滴下してポリイミドを沈殿・濾過してメタノールで十分洗浄した後、100℃で真空乾燥してポリイミド粉末Aを得た。このポリイミド粉末はDMAc、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等に室温で高い溶解性を示した。製膜するためにこのポリイミド粉末をシクロペンタノンに再溶解し(10質量%)、シリコンウエハに塗布して150℃で2時間真空乾燥して更に200℃で1時間真空乾燥して基板から剥離し、膜厚約80μmの透明なポリイミドフィルムAを得た。
【0121】
前記ポリイミドフィルムA同様にしてジアミン成分を2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル(以下、TFMBと称する)変更してポリイミド前駆体BとポリイミドフィルムBを作成した。
【0122】
同様にジアミン成分をp−フェニレンジアミン(PDA)変更してポリイミド前駆体CとポリイミドフィルムCを作成した。
【0123】
同様にジアミン成分を3,4′−オキシジアニリン(3,4′−ODA)に変更してポリイミド前駆体DとポリイミドフィルムDを作成した。
【0124】
同様にテトラカルボン酸成分を3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物に変更し、ジアミン成分をHDAMのままでポリイミド前駆体EとポリイミドフィルムEを作成した。
【0125】
(セルロースナノファイバーとポリイミドの混合)
前記ポリイミドの合成で得られた、表1記載のポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体A〜E溶液)、ポリイミド(ポリイミド粉末A〜E、シクロペンタノン溶液(10質量%))又は透明エポキシ樹脂(ダイセル化学社製「セロサイド2021」)と、溶媒置換されたセルロースA、またセルロースナノファイバーB(CNF−B)〜セルロースナノファイバーE(CNF−E)を表1記載のように、また、繊維/樹脂比率(質量%)となるように化学イミド化前後で混合した。混合方法は、株式会社日本精機製作所製エクセルオートホモジナイザーを用いて1000回転/分で15分、さらに10000回転/分で15分混合した。その後、前記「ポリイミドの合成」において記載の方法でそれぞれポリイミドとセルロースナノファイバーの複合フィルム(試料1〜23)、また、エポキシ樹脂とセルロースナノファイバーの複合フィルム(試料24)を作成した。セルロースナノファイバーとポリイミド(或いはエポキシ樹脂)の質量比率に関しても表1に記載した。
【0126】
(複合フィルム試料25の作製:比較例2)
製造例1で得られたセルロースナノファイバーB(含水率95〜99質量%)を、120℃、2MPaで3分ホットプレスし、厚さ約50μmのシート(含水率0質量%)を得た。
【0127】
このシートを、透明エポキシ樹脂(ダイセル化学社製「セロサイド2021」)に減圧下(0.08MPa)で12時間浸漬処理して、繊維強化複合材料を製造した。この繊維強化複合材料の繊維含有率は50質量%であった。
【0128】
この繊維強化複合樹脂材料をマトリックス樹脂の液状前駆体の硬化方法に従って硬化させて直径50mm、厚さ80μmの試料を作製後、測定のためにそれぞれフィルム状に切り出し、この硬化物について表1記載の物性測定を行った。
【0129】
(複合フィルム試料26、27の作製:比較例3)
気相成長炭素繊維(VGCF:昭和電工:繊維径0.15μm、繊維長:10〜20μm)を、シクロペンタノンに1.0質量%となるように添加し、株式会社 日本精機製作所製 エクセルオートホモジナイザーを用いて3000回転/分で15分、で分散した。
【0130】
得られたVGCF分散液は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径250nmに解繊されていることを確認した。これを前述のCNFとポリイミドの混合(化学イミド化前後で混合し)同様な方法でフィルム化しそれぞれ試料26,27を作成した。
【0131】
(評価)
前記した測定方法で、得られた複合フィルム試料の光線透過率、線膨張係数、ヘイズ、熱収縮率、を評価した。
【0132】
試料1〜27の評価結果を表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
表から明らかなように本発明の透明な複合フィルムは透明性が良好で、かつ耐熱性にもすぐれていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂とセルロースナノファイバーを架橋したことを特徴とする透明な複合フィルム。
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂は、ポリイミド前駆体から化学イミド化によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の透明な複合フィルム。
【請求項3】
前記化学イミド化する前に、セルロースナノファイバーとポリイミド前駆体を混合することを特徴とする請求項2に記載の透明な複合フィルム。
【請求項4】
セルロースナノファイバーが、パルプを2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルで酸化処理することで得られたことを特徴とする請求項3に記載の透明な複合フィルム。

【公開番号】特開2013−18931(P2013−18931A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155509(P2011−155509)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】