説明

セルロースナノファイバーの製造方法

【課題】流動性と透明性に優れた高濃度のセルロースナノファイバー分散液を低エネルギーで効率良く製造できる方法を提供する。
【解決手段】(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用い水中にてセルロース系原料を酸化し、過酸化水素及びオゾンを添加して酸化分解処理し、次いで解繊・分散処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−オキシル化合物で酸化したセルロース系原料から、従来よりも低エネルギーで高濃度のセルロースナノファイバー分散液を製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系原料を触媒量の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースのミクロフィブリルの表面にカルボキシル基を効率よく導入することができ、このカルボキシル基を導入したセルロース系原料は、水中でミキサーなどの簡単な機械処理を行なうことにより、高粘度で透明なセルロースナノファイバー水分散液へと調製することができることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
セルロースナノファイバーは、生分解性のある水分散型新規素材である。セルロースナノファイバーの表面には酸化反応によりカルボキシル基が導入されているため、セルロースナノファイバーを、カルボキシル基を基点として、自由に改質することができる。また、上記の方法により得られたセルロースナノファイバーは、分散液の形態であるため、各種水溶性ポリマーとブレンドしたり、或いは有機・無機系顔料と複合化することで品質の改変を図ることもできる。さらに、セルロースナノファイバーをシート化したり繊維化することも可能である。セルロースナノファイバーのこのような特性を活かし、高機能包装材料、透明有機基盤部材、高機能繊維、分離膜、再生医療材料などに応用することが想定されている。今後、セルロースナノファイバーの特徴を最大限活用することで循環型の安全・安心社会形成に不可欠な新規高機能性商品の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Saito, T., et al., Cellulose Commun., 14 (2), 62 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法、すなわち、セルロース系原料をTEMPOを用いて酸化してミキサーで解繊することにより得られたセルロースナノファイバー分散液は、0.3〜0.5%(w/v)といった程度の低い濃度でもB型粘度(60rpm、20℃)が800〜4000mPa・s程度というように、非常に高い粘度を有しており、取り扱いが容易ではなく、その応用範囲は実際には限られていた。例えば、セルロースナノファイバー分散液を基材に塗布して基材上にフィルムを形成させる場合、分散液の粘度が高すぎると均質に塗布することができないため、分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を500〜3000mPa・s程度に調整しなければならず、そのためには、分散液中のセルロースナノファイバーの濃度を0.2〜0.4%(w/v)程度の低い濃度に設定せざるを得なかった。しかしながら、そのような低濃度の分散液を用いる場合には、所望のフィルム厚みが達成されるまで何度も塗布と乾燥とを繰り返し実施せざるを得ず、効率が悪いという問題があった。
【0006】
また、セルロースナノファイバー分散液を顔料及びバインダーを含む塗料に混ぜて紙などに塗布する場合、分散液の粘度が高すぎると塗料中に均一に混合させることができないため、分散液の濃度を低くして低粘度化させなければならないが、このような低濃度の分散液を用いると塗料の濃度が希薄となり、塗布に必要な十分な粘性が確保できないため塗布し難くなったり、乾燥負荷が増大したり、また、塗料が原紙に浸透することにより有効塗膜が薄くなって光沢発現性や表面強度、印刷むらの抑制などの塗膜に期待される所望の機能が発現しないという問題もあった。
【0007】
このように、TEMPOを用いて酸化して得られたセルロース系原料をミキサーを用いて解繊処理する従来の方法では、得られる分散液の粘度が非常に高くなり、様々な問題を生じていた。また、粘度が高すぎると、攪拌羽周辺のみで分散が進行するため、不均一な分散が生じ、透明性の低い分散液となるという問題もあった。
【0008】
また、酸化されたセルロース系原料を、ミキサーよりも解繊・分散力の高いホモジナイザーを用いて解繊処理すると、分散初期にセルロース系原料が顕著に増粘して流動性が悪化し、分散処理時に要する消費電力量が大幅に増大するという問題があり、また、装置内部にセルロースナノファイバー分散液が付着して分散が十分に行なわれなくなったり、また、装置から分散液を取り出すなどの操作が困難になって分散液の歩留りが低下するという問題もあった。
【0009】
以上の課題に鑑み、本発明は、流動性と透明性に優れた高濃度のセルロースナノファイバー分散液を低エネルギーで製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる従来技術の問題を解決するために鋭意検討した結果、TEMPOにより酸化して得られたセルロース系原料を、過酸化水素及びオゾンで処理した後、解繊・分散処理することにより、1〜3%(w/v)くらいの高濃度であっても流動性と透明性とに優れているセルロースナノファイバー分散液を効率良く調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物との存在下でセルロース系原料を酸化し、得られた酸化されたセルロース系原料を過酸化水素とオゾンで処理し、次いで解繊・分散処理することにより、高濃度であっても流動性に優れていて取り扱いがしやすく、かつ透明性にも優れているセルロースナノファイバーの分散液を低い消費電力量で効率的に製造することができる。本発明により得られたセルロースナノファイバー分散液は、高濃度であっても流動性に優れているため、例えば、セルロースナノファイバーを基材に塗布して基材上にフィルムを形成させる際に、1〜3%(w/v)といった高濃度のセルロースナノファイバーを含有する塗料を500〜3000mPa・s(B型粘度、60rpm、20℃)といった低い粘度で調製することができ、塗料を1回塗布するだけで5〜30μm程度の厚さを有するフィルムを形成できるといった利点がある。従来は、500〜3000mPa・s(B型粘度、60rpm、20℃)程度の粘度を有する塗料を調製するためには、セルロースナノファイバーの濃度を0.2〜0.4%(w/v)といった低い濃度に設定せざるを得ず、5〜30μm程度の厚さを有するフィルムを作成するには、塗布と乾燥を何度も繰り返し行なう必要があった。本発明により得られるセルロースナノファイバー分散液の高濃度で流動性が高いという特徴は、非常に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用い水中にてセルロース系原料を酸化し、酸化されたセルロース系原料を過酸化水素水及びオゾンで処理し、次いで解繊・分散処理することを特徴としており、これにより、解繊・分散処理における消費電力量を低減させることができ、セルロースナノファイバーを低エネルギーで効率よく製造することができる。
【0013】
(N−オキシル化合物)
本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
(式1中、R1〜R4は同一又は異なる炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。)
式1で表される化合物のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下TEMPOと称する)及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下、4−ヒドロキシTEMPOと称する)を発生する化合物が好ましい。また、下記式2〜4のいずれかで表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体は、安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、とりわけ好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
(式2〜4中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖である。)
さらに、下記式5で表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、短時間で、均一なセルロースナノファイバーを製造できるため、とりわけ好ましい。
【0020】
【化5】

【0021】
(式5中、R5及びR6は、同一又は異なる水素又はC1〜C6の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基を示す。)
N−オキシル化合物の使用量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜0.5mmol程度を用いることができる。
【0022】
(臭化物またはヨウ化物)
セルロース系原料の酸化の際に用いる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などを使用することができる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度を用いることができる。
【0023】
(酸化剤)
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。中でも、ナノファイバー生産コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが、特に好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度を用いることができる。
【0024】
(セルロース系原料)
本発明で用いるセルロース系原料は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などを使用することができる他、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物を使用することもできる。このうち、漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ、粉末セルロース、または微結晶セルロース粉末を用いることが量産化やコストの観点から好ましい。また、粉末セルロース及び微結晶セルロース粉末を用いると、高濃度であってもより低い粘度を有するセルロースナノファイバー分散液を製造することができるから、とりわけ好ましい。
【0025】
粉末セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解処理で除去した後、粉砕・篩い分けすることで得られる微結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100〜500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。体積平均粒子径が、100μm以下であると、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロックR(日本製紙ケミカル社製)、セオラスTM(旭化成ケミカルズ社製)、アビセルR(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。
【0026】
(酸化反応条件)
本発明の方法は温和な条件であっても酸化反応を円滑に進行させることができるという特色がある。そのため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。なお、反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率良く進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが望ましい。酸化反応における反応時間は、適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、0.5〜4時間程度である。
【0027】
(過酸化水素及びオゾンによる酸化分解処理)
本発明では、N−オキシル化合物を用いて得られた酸化されたセルロース系原料に過酸化水素及びオゾンを添加し、該原料を酸化分解処理する。本発明で使用するオゾンは、空気あるいは酸素を原料としてオゾン発生装置で公知の方法で発生させることができる。本発明におけるオゾンの添加量(質量)は、セルロース系原料の絶乾質量の0.1〜3倍が好ましい。オゾンの添加量がセルロース系原料の絶乾質量の0.1倍以上であればセルロースの非晶部を十分に分解することができ、次工程での解繊・分散処理に要するエネルギーを大幅に削減することができる。また、3倍以下であればセルロースの過度の分解を抑制でき、セルロース系原料の収率の低下を防ぐことができる。オゾン添加量は、セルロース系原料の絶乾質量の0.3〜2.5倍がより好ましく、0.5〜1.5倍がさらに好ましい。
【0028】
本発明で使用する過酸化水素の添加量(質量)は、セルロース系原料の絶乾質量の0.001〜1.5倍が好ましい。セルロース系原料の添加量の0.001倍以上の量で過酸化水素を使用すると、オゾンと過酸化水素との相乗作用が発揮される。また、セルロース系原料の分解には、過酸化水素を、セルロース系原料の1.5倍以下程度の量で使用すれば十分であり、それより多い添加量はコストアップにつながると考えられる。過酸化水素の添加量は、セルロース系原料の絶乾質量の0.1〜1.0倍がより好ましい。
【0029】
オゾン及び過酸化水素による酸化分解処理は、pH2〜12、好ましくは、pH4〜10、さらに好ましくは、pH6〜8で、温度は10〜90℃、好ましくは、20〜70℃、さらに好ましくは30〜50℃で、1〜20時間、好ましくは、2〜10時間、さらに好ましくは、3〜6時間程度行なうことが、酸化分解反応効率の観点から好ましい。
【0030】
オゾン及び過酸化水素による処理を行なうための装置は、当業者に通常使用される装置を用いることができ、例えば、反応室、攪拌機、薬品注入装置、加熱器、及びpH電極を備えた通常の反応器を使用することができる。
【0031】
オゾン及び過酸化水素による処理後、水溶液中に残留するオゾンや過酸化水素は次工程の解繊・分散処理でも有効に作用し、セルロースナノファイバー分散液の低粘度化を一層促進することができる。
【0032】
(解繊・分散処理)
本発明では、酸化されたセルロース系原料に紫外線を照射した後、解繊・分散処理する。解繊・分散装置の種類としては、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置が挙げられるが、透明性と流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を効率よく得るには、50MPa以上、好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上の条件下で分散できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーで処理することが好ましい。
【0033】
(セルロースナノファイバー)
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。本発明において、「ナノファイバー化する」とは、セルロース系原料を、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。
【0034】
本発明により得られたセルロースナノファイバー分散液は、1.0質量%濃度(w/v)におけるB型粘度(60rpm、20℃)が1000mPa・s以下、好ましくは800mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下であり、かつ、0.1質量%濃度(w/v)における光透過率(660nm)が90%以上、好ましくは95%以上であることが好ましい。本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、流動性と透明性に優れ、さらに、バリヤー性および耐熱性にも優れるので、包装材料等の様々な用途に使用することが可能である。
【0035】
なお、本発明において、セルロースナノファイバー分散液のB型粘度は、当業者に慣用される通常のB型粘度計を用いて測定することができ、例えば、東機産業社のTV−10型粘度計を用いて、20℃及び60rpmの条件で測定することができる。
【0036】
また、セルロースナノファイバー分散液の光透過率は、紫外・可視分光光度計によって測定することができる。
【0037】
(本発明の作用)
本発明では、N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料をオゾン及び過酸化水素で処理し、次いで解繊・分散処理することで、高濃度であっても流動性と透明性に優れているセルロースナノファイバー分散液を低い消費電力量で得ることができる。その理由は、以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、該原料同士の間には、カルボキシル基同士の電荷反発力の作用で、通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在すると考えられる。そして、該原料をオゾン及び過酸化水素で処理すると、オゾン及び過酸化水素から、酸化力に優れるヒドロキシラジカルが発生し、該原料中のセルロース鎖を効率良く酸化分解し、最終的にセルロース系原料を短繊維化すると考えられる。このセルロース系原料の短繊維化により、次工程での解繊・分散処理における分散液のB型粘度が顕著に低下し、分散系の流動性が向上すると考えられる。また、セルロース系原料の短繊維化により、透明性に優れたセルロースナノファイバー分散液が得られると考えられる。
【実施例】
【0038】
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
針葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(日本製紙ケミカル社)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(7mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化パルプを得た。酸化パルプの1%(w/v)スラリー2Lにオゾン濃度6g/L(セルロース系原料の絶乾質量の0.6倍に相当する)、過酸化水素濃度3g/L(セルロース系原料の絶乾質量の0.3倍に相当する)となるように添加し、室温で6時間処理した。オゾンと過酸化水素で処理した酸化パルプスラリーを超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で10回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られた1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)をTV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。また、0.1%(w/v)のセルロースナノファーバー分散液の透明度(660nm光の透過率)をUV−VIS分光光度計UV−265FS(島津製作所社)を用いて測定した。解繊・分散処理に要した消費電力を(処理時における電力)×(処理時間)÷(処理したサンプル量)により求めた。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0040】
超高圧ホモジナイザーの処理圧を100MPaとした以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0041】
超高圧ホモジナイザーの処理圧を50MPaとした以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0042】
超高圧ホモジナイザーの処理圧を30MPaとした以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【実施例5】
【0043】
セルロース系原料として粉末セルロース(日本製紙ケミカル社、粒径75μm)を使用した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【実施例6】
【0044】
セルロース系原料として粉末セルロース(日本製紙ケミカル社、粒径75μm)を使用した以外は、実施例3と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【実施例7】
【0045】
セルロース系原料として粉末セルロース(日本製紙ケミカル社、粒径75μm)を使用した以外は、実施例4と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【実施例8】
【0046】
分散装置として回転刃を装備したハイシェアーミキサー(周速37m/s、日本精機製作所)を使用した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【実施例9】
【0047】
オゾンの濃度を10g/L(セルロース系原料の絶乾質量の1.0倍に相当する)、過酸化水素の濃度を3g/L(セルロース系原料の絶乾質量の0.3倍に相当する)となるように添加した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
オゾン及び過酸化水素による処理を行なわない以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
オゾン単独で処理した以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例3]
過酸化水素単独で処理した以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例4]
オゾン及び過酸化水素による処理を行なわない以外、実施例8と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【実施例10】
【0053】
実施例1により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバーで(バーNo.16)塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約5.3μmであった。
【実施例11】
【0054】
実施例3により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約7.1μmであった。
【実施例12】
【0055】
実施例5により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約3.6μmであった。
【実施例13】
【0056】
実施例9により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約5.7μmであった。
【0057】
[比較例5]
比較例1により製造した1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、B型粘度600mPa・s(60rpm、20℃)となるように濃度を調整した。、このときのセルロースナノファイバー濃度は、0.4%(w/v)であった。この分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約2.0μmであった。実施例10と同じ厚さである5.3μmのフィルムを形成させるためには、塗布と乾燥を少なくとも3回繰り返す必要があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化すること、
(B)前記(A)からのセルロース系原料に、過酸化水素及びオゾンを添加して酸化分解処理すること、及び、
(C)前記(B)からのセルロース系原料を解繊・分散処理することによりナノファイバー化すること、
を含むことを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記オゾンの添加量が、前記(A)からのセルロース系原料の絶乾質量に対して、0.1〜3倍である、請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記過酸化水素の添加量が、前記(A)からのセルロース系原料の絶乾質量に対して、0.001〜1.5倍である、請求項1または2に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記解繊・分散処理が、50MPa以上の圧力下で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。

【公開番号】特開2010−235681(P2010−235681A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82651(P2009−82651)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテク・先端部材実用化研究開発による委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】