説明

セルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体

【課題】繊維状セルロースの取り扱いが容易で、成形時の加熱により成形体が変色したり、臭気が発生することがなく、さらに、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面における親和性が良好であるため、外観もよく、成形体の強度特性が良好であり、かつ再成形可能な、すなわちリサイクル性のあるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂とセルロースとを、回転羽根が配設されてなる回転軸が備えられた撹拌室を有するバッチ式密閉型混練装置で溶融混合するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法おいて、セルロースが乾式解繊機により解繊された繊維状セルロースであり、溶融混合時の撹拌室内部の温度が150〜370℃で、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間にあり、かつ、回転軸の回転トルクが最小値に達し上昇に転じた直後に、溶融混合を停止することを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維状セルロースを含有したセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維、炭素繊維等をプラスチック材料中に分散させた繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、FRP)は、軽量で強度が高い上、耐久性が良好であることから、レース用車両のフレーム、航空機の翼といった、極限状態での使用が想定された最先端技術分野から自動車・鉄道車両の内外装、ユニットバスや浄化槽等の住宅設備機器等の分野で大きな地位を占めている。しかし、FRPは、プラスチック材料とガラス繊維、炭素繊維等の強化繊維との分離が困難であるため、リサイクル性が低く、また、焼却廃棄しても残渣としてガラス繊維が残ってしまう等の問題があり、環境負荷と同時にライフサイクルコストを考えた場合、見かけ以上に高価な素材となってしまう可能性がある。
【0003】
そこで、コスト面はもちろん、近年のリサイクル運動の高まりの中から、一般建材や一般的な成形品の用途で、プラスチック材料に繊維状セルロースを分散させた素材が開発されている。プラスチック材料としては、特に、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂を用いたものが多い。当初、これらは、プラスチック成形工場から排出される廃プラスチックや市中より回収された廃プラスチックをプラスチック材料の原料とし、同じく市中より回収された古紙や建築廃材等の木質材料を繊維状セルロースの原料とした組み合わせで提案されていたものが多かった。現在、繊維状セルロースとしての木質材料とプラスチックとの複合材料の利用は欧米で盛んであり、特に北米においては年間100万トン規模で製造され、そのほとんどは外構用のデッキ材として利用されている。これらは、Wood−Plastic−Composites、Wood−Polymer Composites、Woodfiber−Polymer Composites等と呼ばれている。これらでは、繊維状セルロースとしては純度が高い漂白されたパルプ等ではなく、植物材チップ等事前処理がなされていない木質材料を用いることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところが、最近では、繊維状セルロースの高強度性、高弾性、低熱膨張性が注目され、プラスチック材料の強化繊維として繊維状セルロースが注目されている。特に、プラスチック素材分野で、近年その使用が広まりつつあるポリ乳酸等のバイオプラスチックの分野で、バイオプラスチックの強度特性を補うためにケナフ繊維等の繊維状セルロースとの複合化が検討され、すでに実用化されている。
【0005】
一方、繊維状セルロースとプラスチック材料とを複合化させる製造方法として、一般的には、紙、植物性材料等を解繊、粉砕処理した後に、プラスチック材料と溶融混合する。解繊、粉砕処理に用いられるのは、一般的な解繊機や粉砕機であったり、あるいは、水に分散した状態で解繊、粉砕するときには、高圧式ホモジナイザーや石臼式摩擦機等が用いられる。また、繊維状セルロースとプラスチック材料との溶融混合には、ヘンシェルミキサー(登録商標)等のバッチ式高速混練装置や、一軸混練押出装置、二軸混練押出装置等の連続式混練装置が用いられている(例えば、特許文献2および3参照)。バッチ式高速混練装置を用いた際には、溶融混合後、低温、低速で撹拌して造粒することにより、その後の成形がやりやすくなる提案もなされている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
さらに、バッチ式の高速混練装置の中には、繊維状セルロースの解繊工程を経ず、粗粉砕されたセルロース材料と熱可塑性樹脂とを高温高圧力条件下で溶融混合して、その溶融混合過程でセルロース材料が解繊されて、繊維状セルロースとして熱可塑性樹脂中に分散する高速混練装置も提案されている(例えば、特許文献5および6参照)。さらに、この装置で、ミクロフィブリル化されたセルロースナノファイバーの水分散体と熱可塑性樹脂との溶融混合が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−118452号公報
【特許文献2】特開平1−118425号公報
【特許文献3】特開2007−84713号公報
【特許文献4】特開2009−1597号公報
【特許文献5】国際公開第2004/076044号パンフレット
【特許文献6】特開2008−93831号公報
【特許文献7】特開2009−29927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3、4に記載されているように、熱可塑性樹脂との溶融混合前に、繊維状セルロースが解繊される製造方法で得たセルロース含有熱可塑性樹脂で作製した成形体の外観は、繊維の塊をほとんど発見することができないくらいに良好である。しかし、高速混練装置で溶融混合して、熱可塑性樹脂を繊維状セルロースに付着させているだけなため、表面が親水性の繊維状セルロースと非親水性の熱可塑性樹脂とは親和性が低く、成形体としたときに、成形体内部の繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面に空隙が発生してしまい、緻密な成形体を作ることができない。そのため、成形体で歪が生じたり、成形体の反りが発生する等の原因となってしまうことがある。
【0009】
一方、特許文献5には、高速混練装置を用いたセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法が開示されているが、そこで用いるセルロース系材料は含水率等の事前の調整をする必要がなく、単に小片化または細片化されていればよい旨記載されている。しかし、特許文献5に記載されているセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法では、熱可塑性樹脂中に分散しているセルロース材料の形状、大きさのばらつきの幅が大きく、そのセルロース含有熱可塑性樹脂を含有してなる成形体の、特に強度特性のばらつきが大きくなってしまう上、成形時にかかる熱によりセルロース系材料がダメージを受け、成形体が茶色く変色したり、焦げ臭い異臭を放つことがある。さらに、成形体を粉砕し、再度成形材料として使用すると、再び含有するセルロースに熱がかかるため、セルロースの劣化が起こるとともに、変色、異臭がさらに強くなってしまう。
【0010】
また、特許文献6に記載の射出成形用樹脂の製造方法では、繊維状セルロースとしては、リグニンを含有した植物片でなければならない。そのため、成形品の色が木質的なものとなってしまう上、成形時の加熱により、含有する植物片が焦げやすく、臭気が発生しやすい。さらに、特許文献7においては、セルロースナノファイバーにまで繊維状セルロースをミクロフィブリル化するには、摩擦機、グラインダー等で多くの時間をかけて処理する必要がある上、得られたセルロースナノファイバーは水分散体のため、溶融混合に非常に時間がかかってしまう。
【0011】
その上、溶融混合時においても、セルロース繊維は混練装置より剪断力と衝撃力を受ける。一本の繊維が受ける剪断力が同じである場合、繊維長および繊維径が小さな繊維片では、セルロース単位体積あたりに働く剪断力がより大きくなるために、一般的に、細かな繊維はより細かくなる傾向にある。予め処理された、繊維径が100nmよりも小さいセルロースナノファイバーの場合でも溶融混合時に剪断力と衝撃力を受けるが、ナノファイバーやミクロフィブリル部分はより細かく、微細になり、繊維としてのアスペクト比(長さ/直径)も低下して、成形体の強度維持もできなくなる。また、溶融混合時にセルロースは300℃近傍から、ゆっくりと自己分解による繊維の崩壊も進むので、より細かな繊維では、より繊維長の低下が進行することになる。いずれにせよ、フィブリル化されたセルロース繊維は、このような溶融混合を行う場合、混練時に受ける剪断力や衝撃力、さらに温度制御等、取り扱いは難しい。
【0012】
そこで、本発明の課題は、繊維状セルロースの取り扱いが容易で、成形時の加熱により成形体が変色したり、臭気を発生することがなく、さらに、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面における親和性が良好であるため、外観もよく、成形体の強度特性が良好であり、かつ、再成形可能な、すなわちリサイクル性のあるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討をした結果、下記に示す本発明により上記課題を解決できることを見出した。
[1]熱可塑性樹脂とセルロースとを、回転羽根が配設されてなる回転軸が備えられた撹拌室を有するバッチ式密閉型混練装置で溶融混合するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、セルロースが乾式解繊機により解繊された繊維状セルロースであり、溶融混合時の撹拌室内部の温度が150〜370℃で、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間にあり、かつ、回転軸の回転トルクが最小値に達し上昇に転じた直後に、溶融混合を停止することを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
[2]セルロースが化学パルプを乾式解繊機により解繊してなる繊維状セルロースである前記[1]記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
[3]セルロースの水分含有率が5〜30質量%である前記[1]または[2]記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
[4]セルロースと熱可塑性樹脂との質量比が10/90〜70/30である前記[1]記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
[5]前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製されてなるセルロース含有熱可塑性樹脂。
[6]前記[5]記載のセルロース含有熱可塑性樹脂を含有してなる成形体。
【発明の効果】
【0014】
セルロース含有熱可塑性樹脂を得るべくセルロースと熱可塑性樹脂とを溶融混合する際、セルロース繊維は混練装置より剪断力と衝撃力を受ける。一本の繊維が受ける剪断力が同じである場合、繊維長あるいは繊維径が小さな繊維片では、セルロース単位体積あたりに働く剪断力はより大きくなるため、一般的に、細かな繊維はより細かくなる傾向にある。また、熱可塑性樹脂成形体に含有されるセルロース繊維の強度補強効果の面からは、セルロース繊維は粒状、粉状といったアスペクト比(繊維長/繊維径)が小さなものより、アスペクト比が大きな繊維状のものの方がより補強効果が大きい。すなわち、高アスペクト比であり、かつ繊維長が短いあるいは繊維径が小さなセルロース繊維を熱可塑性樹脂中に多数均一に分散させた方がより高い強度の成形体を得ることができる。しかし、前記のように繊維長が短かったり、繊維径が小さかったりすると、溶融混合中にセルロース繊維のアスペクト比は小さい方向へ進行してしまい、所望の成形体強度を得ることができなくなる。そこで、本発明では、乾式解繊機により解繊した繊維状セルロースを用いることで成形体強度低下を防げることを見出した。本発明で用いている繊維状セルロースは解繊機により解繊されているため繊維長が長く、溶融混合時の剪断力あるいは衝撃力による影響を受けにくい。さらに、本発明においては、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂とをバッチ式密閉型混練装置を用いて、該混練装置の撹拌室内部の温度が150〜370℃、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間にある条件で溶融混合を行っているため、熱可塑性樹脂中の繊維状セルロースの分散状態が均一であり、その上、繊維状セルロースの形状を維持したままの均一分散状態を実現しているので、結果的に、成形体強度を向上させている。さらに、本発明の温度条件、圧力条件で溶融混合を行うことで繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面における親和性が向上して、両者間の相互作用力が増大するためか成形体の歪あるいは反りが発生しない。
【0015】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂は、セルロースが熱可塑性樹脂中に非常に均一に分散しており、さらに両者の親和性が良好であるため、成形体となしたときに、強度特性が良好で、歪が生じにくい上、変色、異臭の発生がない。さらに、得られた成形体を再度粉砕して、成形用材料として再成形処理をしても、本発明の製造方法で製造したセルロース含有熱可塑性樹脂では、含有するセルロースの熱劣化がほとんど起こらず、均一性も維持されるため、成形体強度の低下および成形体の変色を起こさない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】バッチ式密閉型混練装置の模式図。
【図2】複数の回転羽根が配設された回転軸の模式図。
【図3】水蒸気の解放機構の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で用いる乾式解繊機とは、パルプシート、古紙等のセルロース集合体を、物理的な力で、繊維(ファイバー)を残しながら綿毛のようなふわふわした状態にまで解す装置をいう。その方法としては、シリンダーの表面に多数の爪が配設され、そのシリンダーが高速回転して、パルプシート表面等を爪が引っ掻くようにして繊維を解すもの、回転軸の配設された複数の回転羽根が高速回転することにより繊維状セルロース集合体を打撃し解すもの、表面に溝が形成された円形ディスク同士を、溝が形成された面同士が対抗するように、わずかな距離を開けて配置し、お互いが逆方向に回転してその間に投入される繊維状セルロース集合体を摩擦力により解すもの等様々な方法を用いることができることができ、その解繊の方式は特に制限されない。
【0018】
乾式解繊機としては、例えば、(株)瑞光製解繊機、池上機械(株)製解繊機、石川県創造化開発協同組合製古紙解砕機、西日本技術開発(有)製乾式解繊機、ターボ工業(株)製解繊機等を挙げることができるが、本発明で用いることができる乾式解繊機はこれらに限られない。
【0019】
本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置とは、具体的には、(株)エムアンドエフ・テクノロジー製の国際公開2004/076044号パンフレット記載のバッチ式高速撹拌装置をいう。図1は本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置の模式図である。本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置1においては、機台ベース2上に横向に円筒形の撹拌室3と、材料投入部14およびらせん状羽根部材12が配設される材料供給室13が複数の脚部によって配置される。両端の脚部に配置された軸受4、4により回転軸5を水平に支持して、回転軸5が撹拌室3の中心と同軸的に貫挿配置されている。
【0020】
撹拌室3中を貫通して配置された回転軸5の外周には、図2に示されるように、計6枚の横断面形状矩形であるとともに、全体形状矩形の回転羽根10a〜10fが、回転軸5の円周方向の180度の角度間隔の部位における軸方向において対向して突設されている。そのうちの軸方向の両端部の回転羽根10aおよび10fは、図1の右側面から見た場合の時計回りに回転したとき、その前縁が撹拌室3の両端の垂直壁11、11の内面とほとんど隙間なく摺接するように回転軸5の外周に固着されている。また、中間部の4枚の回転羽根10b、10c、10d、10eは回転軸5の外周面に千鳥状に固着され、回転時の前縁が該撹拌室3の両端を向く方向に各々配置されている。
【0021】
撹拌室3の両端垂直壁11のモーター側は、撹拌室3の一方の端壁に開設された撹拌室3の材料供給口であり、12は回転軸5の外周に形成されたらせん状の材料供給羽根部材であり、13は供給スクリューを包囲している材料供給室、14は材料供給室13の上方に設けられた材料投入部であり、材料投入部14には材料を投入した後溶融混練時に密閉性を保ち得る開閉自在のシャッター15が設けられている。
【0022】
本発明で用いられるバッチ式密閉型混練装置には、回転軸5の両端に、水蒸気の解放機構20が設けられている。図3は水蒸気の解放機構20の拡大模式図である。水蒸気の解放機構部を構成する回転軸の部分にはらせん状の溝22が切られており、回転軸5が回転したときに、外部から空気が撹拌室内部に送り込まれるように右ネジ、あるいは左ネジの方向にらせん状の溝22は切られている。図3において、矢印24は外部から撹拌室内部へ送り込まれる空気の方向を示している。また、本発明において、溶融混練時、撹拌室3内部は非常な高圧力状態となるため、撹拌室内部の高圧力水蒸気は、矢印23の方向へ向かい外部に漏れ出ようとする。しかし、水蒸気の解放機構部20において、回転軸5に切ってあるらせん状の溝22の最外周部と外壁部との隙間の距離がわずかであるため、この部分で、両者はぶつかり合い、いずれ均衡を保つようになる。らせん状の溝22の最外周部と外壁との隙間の距離は、具体的には50〜3000μmであり、より好ましい隙間の距離は50〜700μmであり、さらに好ましくは50〜500μmである。
【0023】
回転羽根が配置された回転軸5は駆動源であるモーター8に連結されているが、本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置においては、モーター8にかかる回転トルクを計測するトルクメーターが設置され、制御盤21にて回転トルクがモニターできる。本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法においては、該トルクメーターから計測される回転羽根10aないし10fが配設された回転軸5の回転トルクの変化を計測し、溶融混練の終了時点を判断する。回転トルクの計測値に応じた終了操作の措置は、初めて扱う素材のときには必須であるものの、同じ素材を定常的に用いる場合は、必ずしも毎回計測する必要はなく、実績より溶融混練の必要時間を決定しておき、その決められた溶融混練時間により終了時点を決めてもよい。
【0024】
本発明におけるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂が、バッチ式密閉型混練装置の撹拌室内で溶融混合される温度圧力条件は、温度範囲は150〜370℃であり、200〜370℃がより好ましく、250〜370℃がさらに好ましい、また、圧力範囲は0.20MPa〜溶融混練温度における飽和水蒸気圧であり、2.00〜溶融混練温度における飽和水蒸気圧がより好ましい。本発明においては、水の超臨界状態である温度375℃、圧力22.00MPa条件よりわずかに温度または圧力、あるいは両者が低い水の亜臨界状態で溶融混練が行われるとより一層好ましい。
【0025】
本発明における飽和水蒸気圧とは、数1で示すtetens(1930)式を用いて、溶融混練温度より算出するものであるが、溶融混練時において、溶融混練温度が一定であり、撹拌室の内部容積に変化がなければ、該撹拌室内部の水蒸気圧力は飽和水蒸気圧を超えることはない。
【0026】
【数1】

【0027】
T(℃):撹拌室内部温度
E(T)(hPa):温度T(℃)における飽和水蒸気圧
【0028】
本発明におけるセルロースは、植物細胞壁を原料とするセルロース集合体を乾式解繊機により解繊した繊維状セルロースであれば特に制限されない。セルロース集合体としては、例えば、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹等の天然セルロースを主成分とするパルプ、紙、古紙が使用される。パルプは、機械的方法で得られたパルプ(砕木パルプ、リファイナ・グランド・パルプ、サーモメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプ等)、化学的方法で得られたパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプ等)等であってもよい。
【0029】
本発明で用いるセルロースは、化学パルプを乾式解繊機で解繊した繊維状セルロースであることが好ましい。化学パルプは、その色の均質性が高いため、成形体となしたときに色相が均一となる上、成形時、マスターバッチや顔料を混合して成形体を着色しても均一な色の外観をもった成形体を得ることができる。化学パルプとは、例えば、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹等の天然セルロースを化学的に処理したパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプ等)である。地が白い方が成形体の色の調整がしやすいことより、化学的に漂白されて色が白いクラフトパルプ(N−BKP、L−BKP等)を用いることがより好ましい。
【0030】
本発明で用いるセルロースは、乾式解繊機により繊維一本々々まで解されてあれば、その後、繊維塊(例えば、綿状)となっていてもよい。解繊された繊維状セルロースの寸法は特に制限はないが、繊維長は成形時の作業性より0.5〜10mmが好ましく、1〜8mmがより好ましく、1〜5mmがさらに好ましい。繊維径は10〜100μmが好ましく、10〜70μmがより好ましく、15〜50μmがさらに好ましい。なお、解繊された繊維状セルロースの寸法においては、成形体の強度を維持するために、特にアスペクト比(長さ/直径)が重要となる。本発明における解繊された繊維状セルロースのアスペクト比は10〜1000が好ましく、30〜500がより好ましく、50〜100がさらに好ましい。
【0031】
本発明で用いるセルロースは、水分含有率が5〜30質量%であるものが好ましい。セルロースの水分含有率がこの範囲にあると、溶融混合時間が短くなり、生産性が良好である。一方、水分含有率が5質量%未満であると、時間をかけても撹拌室内部の圧力が上がらないことがある。また、圧力が上がり溶融混練を行っても、セルロースあるいは繊維間相互作用が増大して、セルロースの分散性が悪化し、その結果、繊維塊が増えるため成形体の強度が低下したり、成形性が低下したりすることがある。また、30質量%を超えた水分含有率とすると、セルロースの脱水に時間がかかるため溶融混練時間が長くなりセルロースが分解されやすくなることがある。水分含有率は8〜25質量%がより好ましく、10〜20質量%がさらに好ましい。なお、本発明における水分含有率とは、乾燥温度を120±2℃として、JIS P8203に則った操作方法で求めた絶乾率を100質量%から除した数値をいう。
【0032】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法の手順を説明する。用意したセルロース集合体(例えば、L−BKP)を乾式解繊機により、解繊された繊維状セルロースを得る。次に、セルロースと熱可塑性樹脂をバッチ式密閉型混練装置に投入する。セルロースと熱可塑性樹脂は、投入前にブレンダー等で予備混合しておいてもよいし、撹拌室3に順番に投入してもよい。予備混合なしに直接セルロースと熱可塑性樹脂を撹拌室3に投入する際は、撹拌室3内部の回転羽根10aないし10fを低速で回転させながら投入することが好ましい。セルロースと熱可塑性樹脂を撹拌室3に投入後、該撹拌室3を密閉状態にし、回転羽根10aないし10fを高速回転させる。セルロースと熱可塑性樹脂は強力な剪断力を受け、撹拌室3内部の温度は急上昇する。温度の急上昇に伴い、セルロースが含有している水分が蒸発し、水蒸気と化し、撹拌室3内部が水蒸気で充満され内部圧力が急激に上昇する。さらに、撹拌室3内部の温度が熱可塑性樹脂の軟化温度、溶融温度を超えることにより、熱可塑性樹脂の軟化あるいは溶融が開始し、セルロースとの溶融混合が開始する。
【0033】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法においては、回転羽根10aないし10fが配設された回転軸5の回転トルクを計測することで、溶融混合の進行状況を把握し、溶融混合の停止を見極めることができる。すなわち、回転羽根10aないし10fの回転数の高まりとともに回転トルクが上昇するが、被混練物の温度の上昇に伴い、熱可塑性樹脂の熱溶融が開始するため、一度最大値に達した回転トルクは、該熱可塑性樹脂の熱溶融の進行とともに低下し続ける。このとき、セルロースと熱可塑性樹脂との溶融混合が始まっており、セルロースと樹脂との界面における相互作用力が増大することにより、回転トルクはいったん最小値を示した後に反転して再上昇を始める。本発明においては、回転トルクが再上昇し始めた直後に回転軸5の回転を停止すればよい。本発明において、撹拌室3内の温度は、回転トルクが上昇→低下→上昇と変動している間も上昇を続けるが、溶融混合は、回転トルクの再上昇後、被混練物の熱分解温度に達する前に停止することが好ましい。
【0034】
溶融混合の際、セルロースと熱可塑性樹脂からなる被混練物は酸化分解から保護されている必要がある。特に、酸素による酸化の抑制は、被混練物の構造物性変化を抑制するために重要である。そのため、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法においては、水蒸気の解放機構部において、水蒸気の流出入の均衡を保った状態、すなわち、撹拌室内部から流出する水蒸気と外部から撹拌室内へ流入する空気とが該解放機構部で釣り合い均衡状態を保つことにより、撹拌室内部への空気の流入を防ぐようにすることが好ましい。本発明の製造方法においては、混練開始直後、撹拌室内の圧力は急激に上昇し、その時点では、水蒸気の解放機構部において、水蒸気の流出入は均衡を保った状態にはなく、撹拌室内部の水蒸気は解放機構部より外部に流出する。この間、撹拌室内部の圧力は減少傾向を示し、最終的に均衡状態に達して、一定圧力を保持するようになる。また、本発明の製造方法においては、撹拌室内部が水の亜臨界状態となることがある。水の亜臨界状態とは、水の超臨界点(温度375℃、圧力22.00MPa)よりも低い状態をいい、亜臨界水は酸化性が非常に強い。セルロースは、300℃、20.00MPa近辺の水の亜臨界状態中でも水和反応による分解をゆっくり受けるため、反応時間も重要となる。以上のことを考慮した上で、本発明の製造方法においては、撹拌室の圧力を保持した状態で、回転トルクが最小値を示した直後、すなわち、最小値を示してから、少なくとも1秒から10分、より好ましくは1秒から2分、さらに好ましくは1秒から30秒、酸素の流入を防止し、セルロースと熱可塑性樹脂を酸素酸化や水和による分解から保護しながら溶融混合を行うことが好ましい。また、装置の強度の問題から、撹拌室内の圧力が23.00MPa付近より高いと、急激な圧力上昇に耐え切れず撹拌室そのものが破損したりするトラブルが発生する確率が高くなる。装置の強度を上げればよいが、そのための費用が非常にかかるため経済的に好ましくない。
【0035】
本発明における熱可塑性樹脂とは、ガラス転移温度または融点まで加熱することによって軟化し、目的の形に成形できる樹脂のことであり、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンからなるポリエチレン類、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等からなるポリエステル樹脂類等を挙げることができるが、熱可塑性樹脂であれば特に制限されない。好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類が用いられる。
【0036】
さらに、熱可塑性樹脂として、生分解性樹脂を用いることもできる。生分解性樹脂を用いることにより、廃棄の際、成形品を土中に埋設等することにより該成形品が分解されることが期待される。生分解性樹脂としては、環境的に分解される樹脂、特に微生物の作用により分解される樹脂であれば特に制限されない。例えば、具体的には、高分子多糖類、微生物ポリエステル、脂肪族ポリエステル等が挙げられ、より具体的には、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリエチレンサクシネートカーボネート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリヒドロキシアルカノート(例えば、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリ(3−ヒドロキシ吉草酸)(PHV))、ラクトン樹脂、低分子量脂肪族ジカルボン酸と低分子量脂肪族ジオールから得られるポリエステル樹脂、酢酸セルロース系等の複合体、変性デンプン−変性ポリビニルアルコール複合体、その他の複合体を挙げることができる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂として生分解性樹脂を用いる場合、その汎用性よりポリ乳酸樹脂を用いるのが好ましい。ポリ乳酸樹脂には、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマーおよびブレンドポリマー等の乳酸系ポリマーが含まれる。乳酸系ポリマーの質量平均分子量は一般に5〜50万である。また、ポリ乳酸樹脂におけるL−乳酸単位とD−乳酸単位の構成モル比L/Dは100/0〜0/100のいずれであってもよく、特に制限されない。
【0038】
本発明において、セルロースと熱可塑性樹脂との質量比が10/90〜70/30であることが好ましい。質量比がこの範囲であると、熱可塑性樹脂中のセルロースの分散状態がより均一となり、成形体中に分散しているセルロースの方向がよりランダムになり、成形体強度に異方性を生じなくなる。また、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との質量比がこの範囲にあると、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂でできた成形品を焼却した際に発生する燃焼熱量が少なくてすむ。質量比は20/80〜60/40がより好ましく、40/60〜60/40がさらに好ましい。
【0039】
本発明において、セルロースと熱可塑性樹脂以外に各種添加剤を適宜加えることができる。添加剤としては、相溶化剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、透明核剤、抗菌剤、防黴剤、難燃剤等の添加剤を、単独または2種類以上併せて使用することができるが、これらに限定されるわけではない。特に、有機系酸化防止剤、有機系紫外線吸収剤、帯電防止剤、および難燃剤を添加することにより、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の用途が広がるために好ましい。有機系酸化防止剤の例としては、フェノール系、ヒンダードフェノール系、チオエーテル系、およびホスファイト系のものが挙げられる。
【0040】
酸変性ポリオレフィン樹脂を添加すると、セルロースと熱可塑性樹脂との親和性をより一層向上させ、両者の接着性を強固なものとすることができるため好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を、不飽和カルボン酸およびその誘導体(単量体)の一種または二種以上の混合物によって変性したものをいう。不飽和カルボン酸およびその誘導体としては、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸、またはその誘導体、例えば、具体的には、無水物、アミド、イミド、エステル等が挙げられる。これらの中でも、特に無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。無水マレイン酸変性ポリオレフィンのセルロース含有熱可塑性樹脂への添加量は、セルロース含有熱可塑性樹脂に対する含有率で0.1〜10質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。
【0041】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて、各種成形方法により成形体を製造することができる。成形方法としては、一般的な成形方法を用いることができ、特に制限されない。例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、回転成形法、中空成形法(ブロー成形法)、T−ダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法等を挙げることができるが、これらの方法に制限されることはない。また、成形体の形状も特に制限されず、どのような形状のものを、どのような成形方法で製造してもよい。
【実施例】
【0042】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
セルロース集合体として、広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートを用意し、(株)ホーライ製粉砕機(商品名:BO−2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、ターボ工業(株)製解繊機(商品名:ターボミルT−250)に粗粉砕物を投入し、該パルプシートを解繊し、本発明におけるセルロースを得た。なお、該セルロースの水分含有率は18質量%であった。該セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V)/無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、商品名:モディック(登録商標)P928)=50/45/5(質量比)となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の撹拌室に投入した。その後、回転数2700rpmで回転羽根を回転させた。回転開始と同時に水蒸気の解放機構部より水蒸気が漏れだしたが、30秒後に漏れは停止し、水蒸気の解放機構部にて均衡が保たれた状態で溶融混合が進行した。水蒸気の漏れが停止してから30秒後、モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから3秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた。なお、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0044】
(実施例2)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が250℃を示し、圧力が0.20MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0045】
(実施例3)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が250℃を示し、圧力が、250℃における飽和水蒸気圧4.30MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0046】
(実施例4)
回転羽根の回転数を2000rpmに変更し、さらに、水蒸気の解放機構部を調節して、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.20MPaを示すようにした以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0047】
(実施例5)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.30MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例4と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0048】
(実施例6)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が150℃を示し、圧力が、150℃における飽和水蒸気圧0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例4と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0049】
(実施例7)
回転羽根の回転数を3800rpmに変更し、さらに、水蒸気の解放機構部を調節して、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が370℃を示し、圧力が0.20MPaを示すようにした以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0050】
(実施例8)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が370℃を示し、圧力が11.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例7と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0051】
(実施例9)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が370℃を示し、圧力が21.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例7と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、この温度圧力条件は水の亜臨界状態に相当する。
【0052】
(実施例10)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が370℃を示し、圧力が、370℃における飽和水蒸気圧である22.60MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例7と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0053】
(実施例11)
セルロース集合体を針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が18質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0054】
(実施例12)
セルロース集合体を針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が18質量%であった以外は実施例9と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は370℃、圧力は21.00MPaを示していた。なお、この温度圧力条件は水の亜臨界状態に相当する。
【0055】
(実施例13)
セルロース集合体を広葉樹のケミカルグランドパルプ(CGP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が18質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0056】
(実施例14)
セルロース集合体を広葉樹のケミカルグランドパルプ(CGP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が18質量%であった以外は実施例9と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は370℃、圧力は21.00MPaを示していた。なお、この温度圧力条件は水の亜臨界状態に相当する。
【0057】
(実施例15)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が3質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0058】
(実施例16)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が5質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0059】
(実施例17)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が8質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0060】
(実施例18)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が10質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0061】
(実施例19)
セルロース集合体を針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が20質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0062】
(実施例20)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が25質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0063】
(実施例21)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が30質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0064】
(実施例22)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が35質量%であった以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0065】
(実施例23)
セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=8/87/5(質量比)とし、圧力が2.00MPaとなるように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0066】
(実施例24)
セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=10/85/5(質量比)とし、圧力が2.00MPaとなるように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0067】
(実施例25)
セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=20/75/5(質量比)とし、圧力が2.00MPaとなるように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0068】
(実施例26)
セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=60/35/5(質量比)とし、圧力が2.00MPaとなるように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0069】
(実施例27)
セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=70/25/5(質量比)とし、圧力が2.00MPaとなるように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0070】
(実施例28)
セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=77/18/5(質量比)とし、圧力が2.00MPaとなるように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0071】
(実施例29)
セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=85/10/5(質量比)とし、圧力が2.00MPaとなるように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0072】
(実施例30)
モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから1秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた以外は、実施例18と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0073】
(実施例31)
モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから30秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた以外は、実施例21と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0074】
(実施例32)
セルロース集合体を広葉樹のケミカルグランドパルプ(CGP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が18質量%であったこと、およびモーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから30秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた以外は、実施例28と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0075】
(実施例33)
セルロース集合体を広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が35質量%であった以外は実施例32と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0076】
(実施例34)
セルロース集合体を広葉樹のケミカルグランドパルプ(CGP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が18質量%であったこと、およびモーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから3秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた以外は、実施例28と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0077】
(実施例35)
セルロース集合体を広葉樹のケミカルグランドパルプ(CGP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が35質量%であった以外は実施例31と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0078】
(実施例36)
セルロース集合体を広葉樹のケミカルグランドパルプ(CGP)のパルプシートに変更し、解繊して得られたセルロースの水分含有率が18質量%であったこと、配合をセルロース/熱可塑性樹脂=50/50(質量比)とした以外は実施例31と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。圧力が2.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節したので、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0079】
(実施例37)
回転羽根の回転数を3800rpmに変更し、さらに、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が370℃を示し、圧力が21.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例36と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、この温度圧力条件は水の亜臨界状態に相当する。
【0080】
(比較例1)
セルロース集合体として、広葉樹クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートを用意し、カッタータイプ粉砕機((株)ホーライ製 商品名:BO−2572 2mmメッシュ装着)で粉砕して、平板状セルロースを用意した。なお、得られた平板状セルロースの水分含有率は18質量%であった。繊維状セルロースを平板状セルロースに変更した以外は実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、撹拌室内の圧力を2.00MPaとするために、水蒸気の解放機構部を調節した。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0081】
(比較例2)
バッチ式混練装置であるヘンシェルミキサー(登録商標、三井鉱山(株)製)を140℃に加温し、セルロース集合体として、広葉樹クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートを投入し、平均周速50m/秒で撹拌したところ、撹拌開始から2分後に綿状のセルロースとなった。続いて、ミキサー内に熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V)を投入した後、平均周速50m/秒で撹拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWで、ミキサー内の温度は120℃であった。熱可塑性樹脂投入から10分経過後、動力が上がり始め、さらに1分後、動力が4kWに上昇したので、周速を25m/秒の低速に落とした。さらに、低速の撹拌の継続により動力が上昇し始め、動力が5kWに達したので、ミキサーの排出口を開け、別途用意しておいた室温状態のヘンシェルミキサー(登録商標、三井鉱山(株)製)に移した。その後、室温状態のミキサーを平均周速10m/秒で撹拌を開始し、ミキサー内の温度が80℃になった時点で撹拌を停止し、セルロース含有熱可塑性樹脂を取り出した。取り出したセルロース含有熱可塑性樹脂は直径が数mmから2cm程度の造粒物となっていた。なお、ミキサーは完全に密閉されていないため、撹拌時の圧力は常圧(0.10MPa)である。
【0082】
(比較例3)
セルロースに、湿式で解繊されたセルロース(ダイセル化学工業(株)製、商品名:セリッシュ(登録商標)PC−110T、水分含有率65質量%)を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、撹拌室内の圧力を2.00MPaとするために、水蒸気の解放機構部を調節した。水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0083】
(比較例4)
回転羽根の回転数を1700rpmとして、さらに、水蒸気の解放機構部を調節することにより、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度を140℃、圧力を0.20MPaとした以外は、実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0084】
(比較例5)
回転羽根の回転数を2000rpmとして、さらに、水蒸気の解放機構部を調節することにより、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度を150℃、圧力を0.18MPaとした以外は、実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0085】
(比較例6)
回転羽根の回転数を4000rpmとして、さらに、水蒸気の解放機構部を調節することにより、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度を410℃、圧力を0.20MPaとした以外は、実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0086】
(比較例7)
回転トルクが最大値を示した後、低下し始め最小値に達する直前に溶融混合を終了した以外は実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た
【0087】
(比較例8)
回転トルクが最小値を示してから20分後に溶融混合を終了した以外は実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0088】
(比較例9)
回転トルクが最大値となってから低下し始めたところで溶融混合を終了した以外は実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0089】
(比較例10)
回転トルクが最大値となってから低下し始め、最大値の50%となった時点で溶融混合を終了した以外は実施例1と同様にしてセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0090】
(反り)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で板(150mm×80mm×1mm)を射出成形した。成形の際、射出時間を0.3秒に設定した。作製した板を平らな台の上に置き持ち上がり量を測定した。測定は、四隅のうち1点を台と密着させた際に持ち上がり量が最も高い隅の持ち上がり量を測定した。熱可塑性樹脂中のセルロースの分散性が均一なほど成形体の反りの発生が少ないと考えられることより、持ち上がり量は小さい方が良好で、樹脂特性が均一であると判断される。
【0091】
(曲げ弾性率)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いてJIS K7171に則り曲げ弾性率を測定した。ただし、試験片の数を20個とし、20回測定し、その平均値をもって曲げ弾性率とした。数値は大きい方が曲げ弾性率が高く良好である。なお、試験片は、JIS K7139に則り作製した多目的試験片A形より切り出した。
【0092】
(曲げ弾性率のばらつき)
曲げ弾性率の20点の測定結果より標準偏差を算出し曲げ弾性率のばらつきの尺度とした。標準偏差が小さいほどばらつきが小さく、均一性が高く良好である。なお、前記均一性の高さは、熱可塑性樹脂中のセルロースの分散の均一性の高さを反映したものである。
【0093】
(曲げ弾性率の異方性)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で板(150mm×80mm×4mm)を射出成形した。成形の際、射出時間を0.3秒に設定した。作製した板より曲げ弾性率測定用の試験片を切り出した。試験片の切り出し方向を長辺(150mm)、短辺(80mm)のそれぞれ2方向とし、試験片の長さ方向と板の長辺が平行であるように切り出された試験片をLP片、試験片の幅方向と板の短辺が平行であるように切り出された試験片をWP片とした。それぞれ5個の試験片についてJIS K7171に則って曲げ弾性率を測定し、その平均値をもって各方向の弾性率とした上で、(LP片の曲げ弾性率)/(WP片の曲げ弾性率)を曲げ弾性率の異方性とした。曲げ弾性率の異方性は、1に近いほど異方性が小さく良好である。曲げ弾性率の異方性が小さいほど、熱可塑性樹脂中のセルロースの分散の均一性が高いと判断される。
【0094】
(成形体の色)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で板(150mm×80mm×4mm)を射出成形して評価用試験片とした。成形の際、射出時間を0.3秒に設定した。試験片を10枚作製し、目視により色の付き具合を観察した。試験片の色が乳白色で、焦げた茶色の部分が全く見られないものを○、全体的にわずかに茶色に色が付いているもの、あるいは部分的に茶色く焦げたところがあるものを△、明らかに焦げた茶色をしているものを×と評価した。
【0095】
(成形体の臭い)
成形体の色の評価で作製した試験片10枚を重ねたまま臭いをかいで評価した。焦げた臭いがないものを○、焦げた臭いがわずかでもあるものを×とした。
【0096】
(成形体の外観(異物))
成形体の色の評価で作製した試験片において、目視にて一方の面に存在する面積が1mm以上の異物の数を数えた。10枚の試験片に対して評価を行い、平均値をもって成形性の外観(異物)の評価とした。数値は小さい方が良好である。
【0097】
(成形体の着色性)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂90質量部に対して、ブルーのポリオレフィン用マスターバッチ(大日精化工業(株)製、商品名:ダイカラーマスター)10質量部をブレンダーで混合した上で、射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で板(150mm×80mm×4mm)を射出成形して評価用試験片とした。試験片を10枚作製し、目視で着色の具合を評価した。濃いブルーに均一に着色されているものを◎、ほぼ均一に着色されているが、若干の濃淡が見られるものを○、均一に着色されている中に淡点が見られるものを△、ブルーよりも茶色の方が色が濃く、ブルーに着色されているか判定できないものを×とした。◎、○と判定されるものは実用上問題がない。
【0098】
(再成形性)
実施例および比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で板(150mm×80mm×4mm)を射出成形して作製した。成形の際、射出時間を0.3秒に設定した。作製した板を粉砕機((株)ホーライ製、商品名:P1314)で粉砕し、再度、同条件で板(150mm×80mm×4mm)を射出成形した。再度作製した板を用いて、成形体の色の評価および曲げ弾性率の評価を行った。これらの評価結果が、最初に射出成形した板の評価結果と差がないほど再成形性が良好であると判断される。
【0099】
評価結果を表1〜4に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
表1、2に示すとおり、実施例の反り、曲げ弾性率のばらつき、曲げ弾性率の異方性の各評価結果が比較例のそれより優れていることより、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂、およびその成形体では、熱可塑性樹脂中でのセルロースの分散の均一性が非常に高いことがわかる。特に、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との質量比が10/90〜70/30の範囲にあると、両者の界面における親和性が向上するためか、成形体の歪が少なくなり、反りがほとんどなくなること、曲げ弾性率の異方性がなくなることがわかる。さらに、水分含有率が3%である実施例22では曲げ弾性率が、水分含有率が5〜30質量%のものより若干低いこと、水分含有率が35%である実施例22、32、33、35において、成形体の反りが若干高めに出ていることより、水分含有率が5〜30質量%の範囲を外れるとわずかではあるが、熱可塑性樹脂中におけるセルロースの分散均一性が低下することがあり、そのため、成形体の反りが若干大きめに出てしまうことがある。そのことより、セルロースの水分含有率が5〜30質量%にあることがより好ましいことがわかる。また、曲げ弾性率の値自体は、実施例の値は比較例のそれよりかなり高い数値を示しており、本発明が優れていることがわかる。
【0105】
さらに、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を水の亜臨界状態で作製したものでは、特に、曲げ弾性率のばらつきが小さく、また、曲げ弾性率の異方性が小さいことがわかる。
【0106】
成形体の色、臭い、外観(異物)、着色性も本発明の製造方法を用いて作製したセルロース含有熱可塑性樹脂による成形体が優れていることがわかる。その中でも、セルロースが化学パルプであるものの方が、着色性が良好であることがわかる。特に、成形体でセルロースが焦げた臭いが発生しないのは、本発明におけるセルロースと熱可塑性樹脂との親和性が非常に良好であるためである。一方、比較例7〜10の結果より、回転軸の回転トルクが最小値に達し上昇に転じた直後に溶融混合を停止しないことで、特に成形体の色に差が出ることがわかる。
【0107】
実施例における、表3の曲げ弾性率の評価結果と表1の曲げ弾性率の評価結果とを比較すると両者にほとんど差がないことより、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製したセルロース含有樹脂よりなる成形体を再粉砕して、再度成形用材料として用いて成形体を作製しても品質劣化がほとんど起こらないことがわかる。また、再成形しても、セルロースが再加熱により焦げてしまい成形体に色が付いてしまうことがない。一方、比較例においては、曲げ弾性率の低下も成形体の色の劣化も明らかである。
【符号の説明】
【0108】
1 バッチ式密閉型混練装置
2 機台ベース
3 撹拌室
4 軸受
5 回転軸
8 モーター
10a〜10f 回転羽根
11 撹拌室の垂直壁
12 らせん状羽根部材
13 材料供給室
14 材料投入部
15 シャッター
20 水蒸気の解放機構
21 制御盤
22 らせん状溝
23 水蒸気流出方向
24 空気流入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とセルロースとを、回転羽根が配設されてなる回転軸が備えられた撹拌室を有するバッチ式密閉型混練装置で溶融混合するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、セルロースが乾式解繊機により解繊された繊維状セルロースであり、溶融混合時の撹拌室内部の温度が150〜370℃で、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間にあり、かつ、回転軸の回転トルクが最小値に達し上昇に転じた直後に、溶融混合を停止することを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項2】
セルロースが化学パルプを乾式解繊機により解繊してなる繊維状セルロースである請求項1記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項3】
セルロースの水分含有率が5〜30質量%である請求項1または2記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項4】
セルロースと熱可塑性樹脂との質量比が10/90〜70/30である請求項1記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製されてなるセルロース含有熱可塑性樹脂。
【請求項6】
請求項5記載のセルロース含有熱可塑性樹脂を含有してなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−116838(P2011−116838A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274414(P2009−274414)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】