説明

セルロース系材料粒子及びその製造方法

【課題】赤血球類似の形態をもつセルロース系材料粒子及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】セルロース系材料から構成され、長径が10μm以下で表裏面の中央部が凹んだ略円板状の粒子である。キャピラリーの一端から原料溶液を吐出する吐出手段と吐出された前記原料溶液にテイラーコーンが形成され、その先端からクーロン爆発が生起するように、前記吐出手段から吐出される前記原料溶液との間に所定の電位差が付与する電源装置とを用いて原料溶液を前記吐出手段から前記対極に向けて噴射し溶媒を蒸発させることにより粒子を製造する方法であって、前記原料溶液は分子構造中にOH基を有し、前記溶媒に可溶なセルロース系材料であり、前記セルロース系材料から構成され、長径が10μm以下で表裏面の中央部が凹んだ略円板状であるセルロース系材料粒子が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系材料粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでバイオマテリアル分野では、化学的な相互作用を利用して、体内で起こる生物学的反応を制御してきた。例えば、ナノ粒子のPEG被覆・修飾により、マクロファージによる貪食を回避させ、血液循環時間を延長させることや、抗体や葉酸などのがん標的分子を修飾することにより、がん組織への能動的ターゲティングを達成する試みが行われてきた。
【0003】
近年の材料設計技術の進展により、非球状粒子の精密合成が可能となったことから、新しい材料設計パラメータとして材料の形状が注目されるようになってきた。例えば、Championらは様々な形状(球状、扁平楕円状、円盤状、UFO状)のポリスチレン粒子を作製し、それらのマクロファージへの取り込みを調べることによって、粒子全体の形状ではなく、局所的な形状がその取り込みに影響を与えることを明らかにした(非特許文献1)。さらに最近、彼らはワーム状の粒子は同体積の球状粒子とは異なりマクロファージによる貪食を回避できることを報告している(非特許文献2)。粒子の形状はターゲティング効率にも影響を与え、マイクロメートルサイズのディスク状粒子はナノスケールの球状粒子に比べて、ターゲティング効率が良いと報告されている(非特許文献3)。また、Tasciottiらは球状粒子に比べて血管内皮に付着しやすい半球状シリコン粒子を作製し、DDSキャリアーへの応用を試みている(非特許文献4、5)。これらの報告のように、ユニークな形状の粒子を用いることで、球状粒子では得られない利点を利用することができるようになる。
【0004】
自然界には、生物学的反応を制御するうえで参考になる形状が多数存在する。その一例として赤血球が挙げられる(非特許文献6)。赤血球は約10μmの窪んだ円盤状であり、その独特な形状のため脾臓での貪食を回避することができ、110〜120日間も血液中を循環することができることが知られている。一方で、球状粒子の場合では、100nm以上の粒子は貪食されてしまい、たとえ粒径を100nm以下にしたとしても完全には貪食を回避することはできない。さらに、赤血球はパラシュートのような形状に変化することで、赤血球の直径よりも細い毛細血管を通過することができることが知られている(非特許文献7)。これらの特徴から、赤血球は医療用材料として理想的な形状といえ、人工的に赤血球状の粒子を合成することができれば、バイオマテリアル分野の研究を押し進めることができる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. A. Champion, S. Mitragotri, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2006, 103, 4930.
【非特許文献2】J. A. Champion, S. Mitragotri, Pharm. Res. 2009, 26, 244.
【非特許文献3】J. A. Champion, Y. K. Katare, S. Mitragotri, J. Control. Rel. 2007, 121, 3.
【非特許文献4】E. Tasciotti, X. Liu, R. Bhavane, K. Plant, A. D. Leonard, B. K. Price,M. M.-C. Cheng, P. Decuzzi, J. M. Tour, F. Robertson, M. Ferrari, Nat. Nanotechnol. 2008, 3, 151.
【非特許文献5】K. Riehemann, S. W. Schneider, T. A. Luger, B. Godin, M. Ferrari, H. Fuchs, Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 872.
【非特許文献6】S. Mitragotri, J. Lahann, Nat. Mater. 2009, 8, 15.
【非特許文献7】K. Tsukada, E. Sekizuka, C. Oshio, H. Minamitani, Microvasc. Res. 2001, 61, 231.
【非特許文献8】A. Greiner, J. H. Wendorff, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 5670.
【非特許文献9】J. H. Moon, G. R. Yi, S. M. Yang, D. J. Pine, S. B. Park, Adv. Mater. 2004, 16, 605.
【非特許文献10】G. Larsen, R. Spretz, R. Velarde-Ortiz, Adv. Mater. 2004, 16, 166.
【非特許文献11】K. Tashiro, M. Kobayashi, Polymer 1991, 32, 1516.
【非特許文献12】S. Megelski, J. S. Stephenes, D. B. Chase, J. F. Rabolt, Macromolecules 2002, 35, 8456.
【非特許文献13】C. L. Casper, J. S. Stephenes, N. G. Tassi, D. B. Chase, J. F. Rabolt, Macromolecules 2004, 37, 573.
【非特許文献14】P. Barbaro, F. Liguori, Chem. Rev. 2009, 109, 515.
【非特許文献15】S. J. Pierre, J. C. Thies, A. Dureault, N. R. Cameron, J. C. M. van Hest, N. Carette, T. Michon, R. Weberskirch, Adv. Mater. 2006, 18, 1822.
【非特許文献16】A. Rawat, Q. H. Majumder, F. Ahsan, J. Control. Rel. 2008, 128, 224.
【非特許文献17】J. Park, K. An, Y. Hwang, J.-G. Park, H.-J. Noh, J.-Y. Kim, J.-H. Park, N.-M. Hwang, T. Hyeon, Nat. Mater. 2004, 3, 891.
【非特許文献18】C. L. Dennis, R. P. Borges, L. D. Buda, U. Ebels, J. F. Gregg, M. Hehn, E. Jouguelet, K. Ounadjela, I. Prtej, I. L. Prejbeanu, M. J. Thornton, J. Phys.: Condens. Matter. 2002, 14, R1175.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、赤血球類似の形態をもつ新規材料(セルロース系材料粒子)及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に係る本発明のセルロース系材料粒子の特徴は、セルロース系材料から構成され、長径が10μm以下で表裏面の中央部が凹んだ略円板状であることにある。
【0008】
上記課題を解決する請求項2に係る本発明のセルロース系材料粒子の特徴は、請求項1において、磁性体粒子及び/又は薬剤が内部に分散されていることにある。
【0009】
上記課題を解決する請求項3に係る本発明のセルロース系材料粒子の製造方法の特徴は、キャピラリーの一端から原料溶液を吐出する吐出手段と、
吐出された前記原料溶液にテイラーコーン(Taylor corn)が形成され、その先端からクーロン爆発が生起するように、前記吐出手段から吐出される前記原料溶液との間に所定の電位差が付与される対極と、
前記所定の電位差を付与する電源装置と、
を用いて原料溶液を前記吐出手段から前記対極に向けて噴射し溶媒を蒸発させることにより粒子を製造する方法であって、
前記原料溶液は分子構造中にOH基を有し、前記溶媒に可溶なセルロース系材料であり、
前記セルロース系材料から構成され、長径が10μm以下で表裏面の中央部が凹んだ略円板状であるセルロース系材料粒子が製造されることにある。
【0010】
上記課題を解決する請求項4に係る本発明のセルロース系材料粒子の製造方法の特徴は、請求項3において、前記セルロース系材料は、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースからなる群から選択される1又は2以上の材料であることにある。
【0011】
上記課題を解決する請求項5に係る本発明のセルロース系材料粒子の製造方法の特徴は、請求項3又は4において、前記原料溶液は、製造されるセルロース系材料粒子よりも粒径が小さい磁性体粒子が分散されている、及び/又は、薬剤が溶解乃至分散されていることにある。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、赤血球類似の形態の粒子にすることにより、赤血球類似の体内動態を示すことが期待できる。また、セルロース系材料は赤血球類似の形状を形成しやすい。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、磁性体粒子及び/又は薬剤が内部に分散されていることで分散された材料に応じた性能を付与することができる。セルロース系材料は細胞毒性が小さく、内部に分散する物質を安定して生体内にて保持することができる。また、分散させる薬剤とセルロース系材料との親和性によっては薬剤が溶け出す動態が制御可能になる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、効率的に赤血球類似の形態をもつ粒子を製造することができる。
【0015】
赤血球状粒子の作製する方法として、本願発明ではエレクトロスピニング法を応用した方法を採用した(以下、「エレクトロスプレー法」と称する)。エレクトロスピニング法はポリマー、セラミックス、コンポジットなどのナノファイバーを容易に作製することができる方法としてよく知られている。ナノファイバーは次のようなプロセスで形成される(非特許文献8)。図1に示すように、先端に導電性のキャピラリー10が接続されるシリンダ21とシリンダ21内を摺動するピストン22とをもつ吐出手段と、キャピラリー10の先端から延長した方向に配設される導電性の板状部材である対極板12と、キャピラリー10及び対極板12の間に電圧を印加する電源装置11とを有するエレクトロスピニング装置において、シリンダ21内に高濃度のポリマー溶液試料Pを充填し、高電圧が印加された状態でキャピラリー10の先端から徐々に吐出する。吐出されたポリマー溶液Pはキャピラリー10の出口で液滴となるが、キャピラリー10に印加された電場により印加電圧と同符号に帯電し、電荷反発に伴いTaylor coneと呼ばれる円錐状に変化する。さらに液滴はその電荷反発力が表面張力を超えると分裂し、電場内を対極板12に向かいジェット流として噴出を始める。噴出された液滴は対極板12に向かうにつれて溶媒が蒸発を始める。溶媒蒸発に伴い、表面電荷が増加した液滴は更に分裂を繰り返し微細なサブミクロン粒子となり、スプレー状に気相中へ放出される。高濃度のポリマー溶液の曳糸性は通常液体と比べて大きいため、溶液流の細化に伴い表面電荷密度が増大し電荷反発が増すと、繊維状に引き伸ばされる。形成されたナノファイバーは、電場内を捕集電極に向かい噴出、堆積する。
【0016】
エレクトロスプレー法は、エレクトロスピニング法よりも低濃度のポリマー溶液を用い、曳糸性を小さくすることで、ファイバーではなく、微小粒子を形成することができる方法である。これまでに、エレクトロスピニング法により球状粒子が作製されているが(非特許文献9、10)、 ポリマーとしてOH基を有するセルロース系材料を用いることにより、ポリマー溶液の濃度、印加電圧などの条件を検討することで、赤血球類似の形状をもつ非球状粒子を作製することが可能になった。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、セルロース系材料として上述の材料を採用することにより、赤血球類似の形態をもつ粒子の製造が更に容易になる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、セルロース系材料粒子の内部に磁性体粒子を分散させたり、薬剤を溶解乃至分散させたりすることによって内部にそれらを分散させた赤血球類似の形態をもつ粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で用いた製造装置の概略図である。
【図2】実施例において種々の高分子材料を用いて製造された粒子のSEM写真(a:EHEC、b:HPC、c:CEC、d:デキストラン、e:PEG、f:PMMA、g:コンドロイチン硫酸)である。
【図3】セルロースの分子の構造を示す概略図である。
【図4】EHECを原料として用い、濃度を変化させて製造したセルロース系材料粒子のSEM写真(a:1mg/mL、b:2mg/mL、c:3mg/mL、d:5mg/mL、e:8.5mg/mL、f:20mg/mL、g:25mg/mL、h:30mg/mL、スケールバー5μm)である。
【図5】磁性体粒子含有セルロース系材料粒子のSEM写真(a:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、b:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2、スケールバー1μm)及びTEM写真(c−f:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2、スケールバー200nm)である。
【図6】エネルギー分散型X線分光法による磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2の元素分析の結果を示す図である。
【図7】XRDの結果を示す図(a:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、b:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2、c:Fe3O(JCPDS card No.251402))である。
【図8】FT−IRスペクトル(a:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子、b:EHEC)。
【図9】a:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1及び2のZFC−FC曲線、b:磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1及び2のM−H曲線(磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1(●:5K、■:300K)、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2(○:5K、□:300K)、はめ込み部分は原点付近の拡大図)。
【図10】a:寒天ファントムの外観、b:寒天ファントムのMRI画像、c:bの中央部のスライス画像(T2強調MRI)。
【図11】磁性体粒子及び蛍光色素含有セルロース系材料粒子の蛍光イメージの写真(a:励起波長435-480nm、b:励起波長500-560nm、スケールバー1μm)である。
【図12】セルロース系材料粒子のフィルタ通過前後の粒度分布(a:通過前、b:通過後)である。
【図13】セルロース系材料粒子のフィルタ通過前後の粒子画像(a:通過前、b:通過後)である。
【図14】溶出試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のセルロース系材料粒子及びその製造方法について以下詳細に説明を行う。本発明のセルロース系材料粒子(本発明の製造方法にて製造された粒子を含む)は血液中に導入して用いることができる。特に、磁性体粒子を内部に分散させたものは生体内におけるイメージングのために用いることができる。磁性体粒子を用いたイメージングとしては、核磁気共鳴画像法などが挙げられる。また、蛍光色素を含有させ、蛍光発光により組織を外部から観察したりすることができる。
【0021】
また、生体に供給することを希望する薬剤を内部に分散させたものは薬剤送達システムの一部を構成することができる。セルロース系材料粒子を構成するセルロース系材料の種類(有する官能基の種類、分子量などが異なるものも含む)や、粒子の大きさなどを変化させることにより粒子の内部から薬物が溶出するのに要する時間を制御できる。例えば、セルロース系材料粒子を構成するセルロース系材料はOH基をもつため、薬剤としてOH基と親和性が高いものであればセルロース系材料と体液(血液など)との間の溶解度に応じて薬剤を徐々に溶解すること(薬剤を徐放させること)ができる。また、セルロース系材料に薬剤を結合(セルロース系材料のOH基などに対して加水分解可能に結合するなど)することにより薬剤を徐放させることができる。ここで、薬剤を内部に分散させる方法としては、セルロース系材料内に均等に分散する方法(分子レベルで混合する場合など)、不均等に分散する方法(薬剤を粒子として含有する場合など)により分散させることができる。
【0022】
生体内の必要な部位(目的部位)に本粒子を送達するために本粒子の表面に必要な官能基を導入することができる。また、磁性体粒子を導入した本発明粒子を採用する場合には目的部位に磁場を印加することにより目的部位に本粒子を到達・集合させることができる。
【0023】
(セルロース系材料粒子)
本発明のセルロース系材料粒子はセルロース系材料から構成され、長径が10μm以下で表裏面の中央部が凹んだ略円板状である粒子である。ここで、長径とは粒子のうち最も長さが長い部分をいう。どこが長径であるかはSEMなどにより判別可能である。従って、
長径が10μm以下であるか否かはSEMなどにより測定できる。より好ましくは使用が想定される体液中において変化した後の形状における長径が10μm以下であることが望ましい。粒子の厚み方向の長さは1μm以下であることが望ましい。そして、凹んでいる「表裏面」とは長径に対して交叉する方向(好ましくは直交する方向)である。
【0024】
「表裏面の中央部が凹んだ」形状であるかどうかの判断はSEMなどにより行うことができる。表裏面の中央部が周囲のいずれかの部分(望ましくは全ての部分)と比較して僅かでも凹んでいる場合には「表裏面の中央部が凹んだ」形状である。つまり、取り囲む周囲の部分の少なくとも一部(望ましくは全部)における厚みが中央部と比較して厚ければよい。
【0025】
粒子を構成するセルロース系材料は分子構造中にOH基をもつものであればよい。例えばセルロースにおけるOH基を何らかの基で修飾(エーテル化、エステル化など)した材料が挙げられる。その場合にOH基のうちの幾つかは残存させる。具体的にはヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースが挙げられる。
【0026】
粒子中には磁性体粒子、薬剤などを分散させることができる。磁性体粒子としてはマグネタイト(Fe)が例示できる。薬剤としては特に限定されず適正な薬剤(薬品、色素など)が導入できる。薬剤はセルロース系材料中に分子状で分散することもできるし、粒子状で分散することもできる。薬品としては医薬用途に用いられるものなどどのようなものであっても良い。色素としてはCdSe・Auナノ粒子、ZnO、TiO2や蛍光色素を導入することにより、本粒子を発光させることができる。上記材料を粒子内に分散させる場合には本発明粒子よりも小さな粒径にすることが望ましい。
【0027】
(セルロース系材料粒子の製造方法)
本発明のセルロース系材料粒子の製造方法は吐出手段と対極と電源装置とを用いて粒子を製造する方法である。
【0028】
吐出手段はキャピラリーの一端から原料溶液を吐出する手段である。原料溶液は原料を溶解した溶液である。原料については後述する。キャピラリーの太さは内部に原料溶液が通過でき(特に磁性体粒子などを含む場合にはその粒子が通過できる大きさ)、その先端で表面張力により保持可能な大きさである。キャピラリーは内部を通過する原料溶液に電圧が印加できるようになっている。例えばキャピラリーを導電性がある材料から形成することができる。特に原料溶液に電圧が印加できればよいので、少なくともキャピラリーの内部に導電性があることが望ましい。キャピラリーは金属により形成できる。セルロース系材料粒子を大量に製造する場合には複数のキャピラリーを用いることが望ましい。キャピラリーから原料溶液を吐出する手段としては特に限定しない。一般的なポンプを採用することができる。また、ポンプなどの機械的に原料溶液を送出する手段を用いず、重力により原料溶液を吐出する構成を採用することもできる。
【0029】
対極は吐出手段から吐出された原料溶液を受ける手段である。原料溶液は対極に至るまでに殆ど溶媒が蒸散していることが望ましい。蒸散が完了するために吐出手段のキャピラリーの先端と対極との間の距離を調節したり、その間の雰囲気を溶媒が蒸散しやすい雰囲気(温度など)にすることができる。対極はキャピラリー内にある原料溶液に対して電位差を生じるように電圧が印加される。
【0030】
電源装置はキャピラリー内にある原料溶液と対極との間に電位差を付与するため、両者に電圧を印加する装置である。キャピラリー側においてはキャピラリーに直接、電圧を印加することでキャピラリーを電極として原料溶液に電圧を印加したり、キャピラリー内の原料溶液に接触する電極を設けて原料溶液に電圧を印加したりできる。対極側については対極をそのまま電極としたり、対極以外の何らかの電極を設けたりすることにより電圧を印加する。キャピラリー内の原料溶液と対極との間には電位差が生じれば充分であり、どちらが正であっても構わないし、どちらかが接地されていても良い。例えば、キャピラリー側が正になるように電圧を印加することができる。電源装置としては直流電源であることが望ましい。
【0031】
キャピラリー内の原料溶液と対極との間に生起させる電位差はキャピラリーの先端から原料溶液が噴射する程度以上の大きさにする。キャピラリー先端からの原料溶液の噴射は生起された電位差により生じたクーロン爆発により進行するため、クーロン爆発が生じる程度の大きさの電位差になるように電圧を印加する。例えば1万V、5万V、10万V、15万V、20万V、25万Vなどの電位差を生じさせることができる。クーロン爆発が生起するか否かの判断は吐出手段により吐出された原料溶液の表面から原料溶液の噴射が生起するか否かで判断できる。
【0032】
原料溶液は原料を溶解した溶液である。原料はセルロース系材料を少なくとも一部に有し、特に全部がセルロース系材料から形成されることが望ましい。セルロース系材料はその構造中にOH基をもつ材料であり、上述したセルロース系材料粒子の欄にて説明したものと同じものが採用できる。セルロース系材料の濃度としては、濃度を濃くすると糸を曳くようになり、濃度を薄くすると円板状から球状に変化する。用いる溶媒はセルロース系材料を溶解できるものであれば特に限定しない。例えば、水(酸、アルカリを含んでも良い。液性を変化させることによりセルロース系材料の溶解性を制御できる場合が考えられる。)、アルコール、それらの混合液が挙げられる。セルロース系材料として分子量を適正に選択できる。
【0033】
原料溶液の好ましい粘度の範囲としては11〜18 mPa・s程度が挙げられる。また、原料として用いられるセルロース系材料の分子量としては特に限定しないが10万程度を採用することができる。
【0034】
キャピラリーの先端と対極との間における溶液の蒸散を促進するために溶媒を含まない空気を供給する手段をもつことが望ましい。また、対極の表面に堆積したセルロース系材料粒子を定期的に回収する回収手段をもつことができる。
【実施例】
【0035】
本発明のセルロース系材料粒子及びその製造方法について実施例に基づき以下詳細に説明する。
(原料溶液の調製)
原料として以下の高分子材料を用い、以下の溶媒に溶解させて原料溶液とした。
・セルロース系材料:エチルヒドロキシエチルセルロース(ethylhydroxyethyl cellulose、EHEC、MW=130,000、東京化成)、 ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxypropyl cellulose、HPC、MW = 100,000、Sigma-Aldrich)、シアノエチルセルロース(cyanoethyl cellulose、CEC、東京化成)
・その他の高分子材料:デキストラン(dextran、MW = 35,000-45,000、Sigma-Aldrich)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG、MW = 20,000、キシダ化学)、ポリメチルメタクリレート(poly(methyl methacrylate)、PMMA、MW = 120,000、Sigma-Aldrich)、コンドロイチン硫酸ナトリウム。
・溶媒:水、クロロホルム(キシダ化学)、エタノール(キシダ化学)、アセトン(キシダ化学)。
(Fe3O4ナノ粒子含有原料溶液の調製)
原料溶液中のFe3O4ナノ粒子濃度が異なる2種類の溶液(溶液1,2)を調製した。
【0036】
溶液1の調製:iron(III)3-allylacetylacetonate (IAA) (50 mg、1.39×10-4mol)とEHEC(200mg、1.54×10-6mol)をエタノール(9 mL)に溶解した。N2H4・H2O(28 mg、5.56×10-4mol)と水(90 mg、5.00×10-3mol)をエタノール(1 mL)に溶解し、前駆体溶液に加えた。この溶液を5時間還流し茶色の溶液を得た。これを室温まで冷却した。
【0037】
溶液2の調製: IAA(100 mg、2.78×10-4 mol)とEHEC(200 mg、1.54×10-6mol)をエタノール(9 mL)に溶解した。N2H4・H2O(56 mg、1.11×10-3mol)と水(180 mg、1.00×10-2mol)をエタノール(1 mL)に溶解し、前駆体溶液に加えた。この溶液を5時間還流し茶色の溶液を得た。これを室温まで冷却した。
(Fe3O4ナノ粒子および蛍光色素を含有する原料溶液の調製)
溶液2(9 mL)にローダミン6G(rhodamine 6G、R6G、東京化成)8 mgを溶解した。
(エレクトロスプレー条件)
原料溶液(1〜10mL)をシリンジ(吐出手段)に入れ、電源装置とうしての直流高圧電源を用いて内径0.6 mm、長さ60 mmの金属製のキャピラリーの先端に電圧印加(15 kV)することにより、エレクトロスプレーを行った。対極には接地したアルミ箔を用い、キャピラリーの先端と対極との間の距離を30 cmとした。この条件によりセルロース系材料粒子を製造した(本発明の製造方法)。
(原料溶液の粘度測定)
エレクトロスプレーに用いる原料溶液の粘度は回転レオメータ(Anton Paar、Physica MCR 301)を用いて測定した。測定条件は、測定時間200秒、測定間隔1秒、せん断速度は0から200(1/秒)へ線形増加とした。
(構造解析)
セルロース系材料としてのEHECを用い、Fe3O4ナノ粒子を含有するセルロース系材料粒子(磁性体粒子含有セルロース系材料粒子)について構造解析を行った。具体的にはフーリエ変換赤外分光(FTIR、Nicolet、Nexus-470)を用いた。磁性体粒子含有セルロース系材料粒子の結晶構造はX線回折(XRD、Rigaku、RINT-2500)を用いて解析した。また、Scherrer式により結晶子サイズを見積もった。
(無機相および有機相の割合の調査)
磁性体粒子含有セルロース系材料粒子の無機相および有機相の割合は示差熱−熱重量同時測定(differential thermal analysis-thermogravimetry、DTA-TG、Rigaku、TG 8120)により見積もった。
(微構造観察)
エレクトロスプレーにより作製した粒子の形状および粒径は透過型電子顕微鏡(TEM、Hitachi、H-800)および走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL、JSM-5600)を用いて観察した。
(磁気特性評価)
磁性体粒子含有セルロース系材料粒子の磁気特性は超伝導量子干渉計(SQUID、Quantum Design、MPMS-7)により評価した。
(MRI)
磁性体粒子含有セルロース系材料粒子を、加熱した寒天水溶液(寒天4質量%、水96質量%)に均一に分散させ、マイクロチューブに流し込み、室温で固め、ファントムを製造した。製造したファントム中の磁性体粒子含有セルロース系材料粒子の濃度は0、12.5、25、50g/mLとした。これらのファントムのT2*強調MRイメージを4.7 T MRI(Varian、Unity INOVA 4.7 T)を用いて撮影した。撮影条件を以下に示す。異方性比率25°、視野60×30、マトリックス512×256、スキャン28分(NEX 64)。
(蛍光イメージング)
Fe3O4ナノ粒子およびR6G含有セルロース系材料粒子(磁性体粒子及び蛍光色素含有セルロース系材料粒子)の蛍光イメージを蛍光顕微鏡(Olympus、U-RFL-T)を用いて観察した。励起波長は460〜495 nmおよび530〜550 nmである。
(フィルタ通過前後の粒度分布測定)
ポアサイズ1μmのメンブレンフィルタ通過前後のセルロース系材料粒子の粒度分布測定および粒子画像撮影を粒子画像解析装置(Sysmex、FPIA-3000S)により行った。
(セルロース系材料粒子内に含む薬剤の放出挙動)
・ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)粒子の作製
タモキシフェン(TMX)10 mgとHPC 300 mgをエタノール10 mLに溶解し、本発明の製造方法(エレクトロスプレー法:印加電圧15 kV、溶液押出速度1 mL/h、ノズルとコレクター間の距離15 cm)により、TMXを内包したHPC粒子(セルロース系材料粒子)を作製した。
・エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)粒子の作製
HPCに代えてEHECを用いて、TMXを内包したEHEC粒子(セルロース系材料粒子)を作製した。
・TMX徐放の評価方法
水5 mLにTMXを内包したHPC粒子およびEHEC粒子5 mgをそれぞれ加え、37℃の恒温槽中で放置した。一定時間毎に溶液のUVスペクトルを測定した。薬物の放出量はUVスペクトルの波長250 nmの吸光度から見積もった。
(結果と考察)
(エレクトロスプレーによる様々な形状のポリマー粒子の合成)
表1にエレクトロスプレーに用いた原料溶液の系、濃度、粘度を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
これらの原料溶液のエレクトロスプレーにより得られた粒子の形状および粒径をSEMにより観察した(図2)。
【0040】
セルロース系材料(EHEC、HPC、CEC)を用いた場合は赤血球に類似した窪んだ円盤状の粒子が得られたが(図2a-c)、それ以外の高分子材料(デキストラン、PEG、PMMA、コンドロイチン硫酸)を用いた場合ではそのような形状の粒子は得られなかった(図2d-g)。
【0041】
セルロース系材料を原料として含む原料溶液をエレクトロスプレーした場合のみ赤血球状粒子が得られた理由として、セルロース系材料の分子構造が影響していると考えられる。
セルロースはβ-グルコースから成り、水素結合によりシート構造を形成することが知られている(図3)。このシート構造が反映され、キャピラリーの先端から噴射されるジェットが円盤状になり、さらにジェットに蓄積された電荷の静電反発とノズルとターゲット間で受ける抵抗により円盤に窪みが生じると考えられる。
【0042】
セルロース系材料以外の高分子材料においても形状に違いが見られ、デキストランでは真球状粒子が得られるが、PEGでは凹凸のある表面をもつ粒子、PMMAではスポンジ状粒子が形成された。
【0043】
エレクトロスピニング法によりファイバーを作製する場合では、溶媒の沸点と大気中の湿度が表面の滑らかさや粒子のポーラス化に強く影響を与えることが知られている(非特許文献12、13)。 ファイバー形成過程における、高揮発性溶媒の急速な蒸発によるジェットの相分離挙動が凹凸のある表面が形成される原因であると考えられている。加えて、溶媒の蒸発における気化冷却により紡糸雰囲気中の水分が小滴となり結露する結果、ポーラスなファイバーが形成される機構が提案されている。本発明方法においても、ファイバーの場合と同様に、製造されたセルロース系材料粒子の表面の形成に溶媒の影響が寄与していると考えられる。これらの表面がラフな粒子はイオン交換樹脂、触媒担体、DDSのキャリアーなど幅広く用いることができる。
(赤血球状粒子の形成過程)
様々な濃度・粘度のEHEC溶液を用いて本発明の製造方法(エレクトロスプレー)により、赤血球状粒子を製造し、その形成条件を調査した。
【0044】
用いたEHEC溶液の濃度および粘度を表2に示し、これらの溶液から得られた粒子のSEM像を図4に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
濃度が1mg/mLのときは、薄いシートがターゲット上に形成された(図4a)。ジェットがターゲットに達するまでに溶媒が完全に蒸発しないためであると考えられる。濃度が2 mg/mLになると溶媒が完全に蒸発し、薄いプレート状粒子が形成した(図4b)。濃度が3 mg/mLになると、このプレート状粒子の表裏面の中央部が窪み始め(図4c)、濃度が高くなるにつれて粒径が増大した(図4d)。濃度が8.5 mg/mLまで増加すると、薄く中央部が窪んだ円盤状の粒子が形成し始めた(図4e)。濃度20 mg/mLにおいても、濃度8.5mg/mLの場合と同様の形状の粒子が観察されるが、その粒径は増大していた(図4f)。濃度が25 mg/mLになると、粒子が肉厚になり、非常に赤血球に類似した形状の粒子が形成された(図4g)。さらに濃度を増加し30 mg/mLにすると、粒径は増大したが、25mg/mLの場合と形状に大きな変化は見られなかった(図4h)。また、この濃度において製造されるセルロース系材料粒子の体積平均粒径は2.5μmであった。
(磁性体粒子含有セルロース系材料粒子の作製とMRIコントラスト増強効果)
磁性体粒子(Fe3O4ナノ粒子)が分散したEHEC溶液(溶液1、2)のエレクトロスプレーにより、Fe3O4ナノ粒子を内包した赤血球状EHEC粒子の作製を試みた。Solution 1、2の粘度はそれぞれ14、12 mPa・sとし、図4で赤血球状粒子ができた粘度範囲(11〜18 mPa・s)に調節した。
【0047】
溶液1、2から作製した粒子のSEM像を図5a、bに示す。どちらの溶液からでも赤血球状の粒子(本発明のセルロース系材料粒子)を作製することができていることが分かる。
【0048】
溶液2から作製したセルロース系材料粒子のTEM像を図5c-fに示す。セルロース系材料粒子の中に約5nmの無機粒子が分散している様子が観察された。この粒子の元素分析(エネルギー分散型X線分光法)からFeの存在が確認でき(図6)、さらに、XRDからFe3O4の生成が確認できたことから(図7)、TEMで観察された無機粒子はFe3O4ナノ粒子であることが明らかとなった。
【0049】
以上より、溶液1、2を原料溶液として行うエレクトロスプレー(本発明の製造方法)により、磁性体粒子(Fe3O4ナノ粒子)sを内包した赤血球の形状をもつEHEC粒子(セルロース系材料粒子)を作製できることが明らかとなった。
【0050】
以後、溶液1、2から作製された磁性体粒子含有セルロース系材料粒子をそれぞれ磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2と称する。
【0051】
図7に示したXRDパターンから、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2の結晶子サイズをScherrer式により求めたところ、それぞれ4.4nm、5.0nmであり、TEMから見積もった平均粒径と一致していた。また、2θ=15〜25°のブロードな回折が見られたが、これはEHECに由来するものである。
【0052】
EHECと磁性体粒子含有セルロース系材料粒子のFTIRスペクトルを比較したところ、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子のスペクトルにはスピネル構造のFe-Oに起因する吸収が確認でき、それ以外の吸収はEHECのスペクトルと一致していた(図8)。
【0053】
これより、Fe3O4ナノ粒子を形成する際に行った加水分解によってはEHECの構造が変化しないこと、さらにはスピネル粒子がEHEC中に存在することが明らかとなった。
【0054】
TGから求めた磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2中のFe3O4の割合はそれぞれ12.6質量%、20.7質量%であった。
・磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2の磁気特性をSQUIDにより評価した。図9aにこれらの印加磁場100 OeでのZFC-FC曲線を示す。FC曲線においては、温度低下とともに磁化が増加した。
【0055】
一方、ZFC曲線においては、5 Kから温度を上昇していくと、はじめは磁化が増加するが、その後最大に達すると、温度上昇とともに磁化が減少した。ZFC曲線のカスプはブロッキング温度(TB)と呼ばれ、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2のTBはそれぞれ10 K及び20 Kであった。
【0056】
TBから磁気異方性定数Kを求めたところ、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2のKはそれぞれ7.7×105、1.1×105J/m3であった。一般に、K値は磁性粒子の粒径が減少するにつれて増加する傾向がある。熱分解法により合成された粒径5nmのFe3O4ナノ結晶(NCs)のTBおよびKは、それぞれ40 K及び2.5×105J/m3であることがParkらにより報告されている(非特許文献17)。 磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2のK値はParkらが高温で合成したFe3O4 NCsのK値に匹敵することから、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2中のFe3O4ナノ粒子の表面欠陥層は比較的薄いと考えられる。
【0057】
図9bに磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2(RBC状 Fe3O4ナノ粒子/EHEC ハイブリッド1,2)の5 Kおよび300 KでのM-H曲線を示す。300 Kでは磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2ともに残留磁化(MR)および保磁力(HC)はゼロであり、また40 kOeまで磁場を印加しても飽和しなかった。磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2の40 kOe時の磁化はそれぞれ1.8、4.3 emu/gであった。
【0058】
TGから磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2中のFe3O4の割合はそれぞれ12.6質量%、20.7質量%であるため、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2中のFe3O4ナノ粒子の40 kOe時の磁化はそれぞれ14.3、20.7 emu/gと見積もれる。
【0059】
さらに、Langevin関数により磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2の磁気モーメントの値を求めると、それぞれ7.1×104μB、1.4×108μBであった(μBはBohr磁子、9.3×10-24 J/T)。
【0060】
常磁性体の磁気モーメントは数μBであり、超常磁性体では約105μBであることが知られているため(非特許文献18)、 磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2は超常磁性であることが明らかとなった。
【0061】
一方、ブロッキング温度以下の5 Kでは、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2ともに残留磁化(MR)および保磁力(HC)を示し、さらに磁場40 kOe印加時には完全に飽和していた。
磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1のMR、HC、飽和磁化(MS)はそれぞれ0.3 emu/g、170 Oe、2.0 emu/gであり、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1のMR、HC、MSはそれぞれ1.3 emu/g、300 Oe、5.6 emu/gであった。TB以上ではMRおよびHCがゼロであり、TB以下ではMRおよびHCを示すようになることからも、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子1、2が超常磁性であることが分かる。
・磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2を異なる濃度で寒天からなるファントムに均一に分散し(図10a)、MRIコントラスト増強効果を調べた。図10bの上下方向中央近傍を囲った領域を4.7 Tで撮影したT2*強調MRイメージを図10cに示す。MRイメージは磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2の濃度が増加するにつれて暗くなった。これは、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子2濃度の増加とともに、ファントム中のプロトンのT2緩和時間が短くなり、MRIシグナルが大幅に低下するためである。以上より、磁性体粒子含有セルロース系材料粒子のMRIコントラスト増強効果を確認することができた。
(磁性体粒子及び蛍光色素含有セルロース系材料粒子の作製とデュアルイメージングへの応用)
MRIと蛍光イメージングを組み合わせたデュアルイメージングを達成するために、蛍光色素(R6G)を溶解した溶液2を原料溶液としてエレクトロスプレー(本発明の製造方法)により、磁性体粒子(Fe3O4ナノ粒子)および蛍光色素(R6G)を内包したセルロース系材料粒子(磁性体粒子及び蛍光色素含有セルロース系材料粒子:RBC状 Fe3O4 ナノ粒子/蛍光色素 /EHECハイブリッド)を作製した。
【0062】
図11aおよびbに、磁性体粒子及び蛍光色素含有セルロース系材料粒子の励起波長460〜495nm、530〜550 nmにおける蛍光イメージを示す。各粒子が赤血球状に緑(図11a)またはオレンジ(図11b)に発光していることから、製造されたセルロース系材料粒子にR6Gが含有されていることが分かる。MRI(図10)と蛍光イメージング(図11)の結果から、磁性体粒子及び蛍光色素含有セルロース系材料粒子のデュアルイメージングプルーブとしての応用が期待できる。
(セルロース系材料粒子の柔軟性)
セルロース系材料粒子は、赤血球と同様の性質、つまり粒径よりも小さいポアを通過することができる可能性がある。そこで、粒径よりも小さいポア(1μm)をもつメンブレンフィルタ通過前後の赤血球状粒子の粒度分布を測定したところ、最大3.5μmのセルロース系材料粒子がフィルタを通過していることが確認された(図12)。さらに、通過前後の粒子画像から、フィルタ通過前後でその形状に大きな変化はなく、そのままの形状をほぼ保っていることが分かった(図13)。これらの結果より、セルロース系材料粒子はその粒径よりも小さいポアを通過することができ、さらにポア通過後も通過前の形状を保っていることから、赤血球と同様に非常に柔軟であることが明らかになった。
(セルロース系材料粒子内に含む薬剤の放出挙動:図14)
・HPC粒子からのTMX徐放
TMXを内包したHPC粒子を水に加えた直後から、TMXはゆっくり放出されはじめ、5時間後には100%TMXが放出された。TMXはほぼ一定の速度で放出された。
・EHEC粒子からのTMX徐放
EHEC粒子を4日間37℃の水中に放置したが、TMXの放出は確認できなかった。これは、EHECが水に不溶であるためであると考えられる。
(結論)
エレクトロスプレー法により多様な形状の粒子を作成できることを見出し、特に本発明のセルロース系材料粒子の製造方法を採用することにより、本発明のセルロース系材料粒子を作製することができた。その形状は原料溶液の溶質、溶媒、濃度、粘度に依存していた。セルロース系材料を用いることで、赤血球に類似した形状のセルロース系材料粒子を作製することができた。
【0063】
赤血球のような形状とポリマーの柔軟性により、粒径よりも小さなポアを通り抜けることができ、最大でポアの3.5倍の大きさの粒子までポアを通過していることが確認された。この性質を利用することで、実際の赤血球のように、血液中を長期間循環することができる可能性がある。
【0064】
さらに、磁性体粒子(Fe3O4ナノ粒子)や蛍光色素を含む原料溶液を用いることにより、ポリマー中に磁性体粒子や蛍光色素を封入することもできた。磁性体粒子や蛍光色素を内包したセルロース系材料粒子はMRIと蛍光イメージングを組み合わせたデュアルイメージングプローブとしての応用が期待できる。
【0065】
また、同様の方法により、生分解性、親水性、ステルス性などを有し、生体反応を制御することができる形状のポリマー粒子にAu、CdSe、薬物などを封入させることで、3種類以上のイメージングを達成するマルチモーダルイメージングプローブやDDSとイメージングを実現するマルチファンクショナルマテリアルを作製することも可能であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系材料から構成され、長径が10μm以下で表裏面の中央部が凹んだ略円板状であることを特徴とするセルロース系材料粒子。
【請求項2】
磁性体粒子及び/又は薬剤が内部に分散されている請求項1に記載のセルロース系材料粒子。
【請求項3】
キャピラリーの一端から原料溶液を吐出する吐出手段と、
吐出された前記原料溶液にテイラーコーン(Taylor corn)が形成され、その先端からクーロン爆発が生起するように、前記吐出手段から吐出される前記原料溶液との間に所定の電位差が付与される対極と、
前記所定の電位差を付与する電源装置と、
を用いて原料溶液を前記吐出手段から前記対極に向けて噴射し溶媒を蒸発させることにより粒子を製造する方法であって、
前記原料溶液は分子構造中にOH基を有し、前記溶媒に可溶なセルロース系材料であり、
前記セルロース系材料から構成され、長径が10μm以下で表裏面の中央部が凹んだ略円板状であるセルロース系材料粒子が製造されることを特徴とするセルロース系材料粒子の製造方法。
【請求項4】
前記セルロース系材料は、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースからなる群から選択される1又は2以上の材料である請求項3に記載のセルロース系材料粒子の製造方法。
【請求項5】
前記原料溶液は、製造されるセルロース系材料粒子よりも粒径が小さい磁性体粒子が分散されている、及び/又は、薬剤が溶解乃至分散されている請求項3又は4に記載のセルロース系材料粒子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図14】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−162715(P2011−162715A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29118(P2010−29118)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】