説明

セルロース系繊維を用いた織物

【課題】織物がふかつかず、表面がなめらかで寸法変化が少ない織物として好適であるセルロース系繊維を用いた織物を提供する。
【解決手段】セルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維からなり、撚係数が4,000〜18,000の範囲の撚りが付与され、かつ下記(a)〜(c)の条件を満たす撚糸を、経糸および/または緯糸に片撚りで用いた織物。
(a)56デシテックス≦総繊度≦165デシテックス
(b)1.0%≦沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率(ΔWD)≦5.0%
(c)10≦タフネス(強度(cN/dtex)×伸度(%))≦40

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撚を施したセルロース系繊維を用いた織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース、セルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、自然環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
婦人用衣料の分野でもセルロースは様々な商品が販売されているが、その繊維の製造方法はレーヨンのようにセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がなかった。これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強い。
【0004】
他方、従来の有機溶媒を用いて製造されるセルロースアセテート繊維は、セルロース繊維が親水性に優れる素材であるために洗濯後の寸法安定性に劣ることや湿潤時の強伸度低下によるフィブリル化の改善のためにポリエステル繊維等との交織・混繊など(いわゆる、複合使い)の方法が数多く採られているが(例えば、特許文献1,2参照)、他の繊維と複合することでこれらセルロース系繊維の特徴がいかされていないのが現状である。
【0005】
そこで、特定のセルロースエステル組成物を用いることによって、本来有する吸放湿性や高発色性を損なうことなく、優れた光沢感、清涼感、あるいはシボによる意匠性を付与したセルロースエステル系織編物が提案されている(特許文献3参照)。しかし、この技術ではシボによる意匠性付与が目的の1つであり、表面のなめらかな織物は得られていない。
【0006】
一方、異型断面のセルロース繊維を得る試みがなされている。例えば、Y字型断面を有する繊維を得るため三角形の口金工孔あるいは略三角形口金から吐出したポリマー溶液を溶剤の揮発によりY字型とすることが行われている(特許文献4参照)。さらに、H字型の形状を有する口金孔から略H字型のセルロース繊維を得ることが行われている(特許文献5参照)。しかし、これらの溶融紡糸法で製造されたセルロース繊維は繊維断面形状の制御が困難であり、安定した形状が生産しにくく実用に耐えられないのが現状である。
【特許文献1】特開平06−025937号公報
【特許文献2】特開平06−073634号公報
【特許文献3】特開2007−169853号公報
【特許文献4】特開昭60-134012号公報
【特許文献5】特開2001-140124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は上記のような問題点を克服した織物を提供することにある。さらに具体的には撚糸織物でありながら織物の表面がなめらかでソフトな風合いで、寸法安定性を兼ね備えた織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題は、本発明により解決することができる。すなわち、セルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維からなり、撚係数が4,000〜18,000の範囲の撚りが付与され、かつ可塑剤溶出後に、下記(a)〜(c)の条件を満たしている撚糸を経糸および/または緯糸に片撚りで用いた織物で、
(a)56デシテックス≦トータル繊度≦165デシテックス
(b)1.0≦沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率(ΔWD)≦5.0
(c)10≦タフネス(強度(cN/dtex)×伸度(%))≦40
かかる織物の好ましい態様としては、
染色加工後の織物の経・緯カバーファクターの総和が1,500〜2,500、厚さが0.15〜0.4mm、織物表面のなめらかさを表すKES摩擦特性のMMD/SMDの比が4.0×10−3以下で洗濯後の寸法変化率が経緯方向とも±2.5%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、織物がふかつかず、表面がなめらかで寸法変化が少ない織物として好適であるセルロース系繊維を用いた織物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、従来のセルロース繊維に撚を施して使用した場合には実現できなかった、なめらかなタッチを維持しながら洗濯による寸法変化が少ない織物について鋭意検討した結果、セルロース混合エステル繊維からなる異型断面形状繊維に撚を施こした撚糸を用いた織物により解決されることを見出した。
【0011】
本発明のセルロース混合エステル組成物とは、セルロース混合エステルを必須の成分とするもので必要に応じて可塑剤などの添加剤を含有することが可能である。セルロース混合エステルとは、セルロースを構成するグルコース単位に3個存在する水酸基が、2種類以上のアシル基によってエステル化されているものをいう。具体的なセルロース混合エステル組成物の例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートなどのセルロース混合エステルが挙げられる。中でもセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートは製造が容易なことおよび耐熱性に優れていることから好ましい。
【0012】
本発明における異形断面形状繊維は、セルロース混合エステルを主成分とするセルロース混合エステル組成物よりなるが、このセルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの含有量は、70〜95重量%であることが好ましい。セルロース混合エステルの含有量を70重量%以上とすることによって、強度を維持できる効果を持つセルロース混合エステルの比率が十分高くなり、繊維の機械的特性が向上する。セルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの含有量は、75重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが最も好ましい。また、組成物の熱流動性を高めて溶融紡糸を可能にするという観点に加え、得られる繊維の柔軟性を高めるためには、セルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの比率は95重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、90重量%以下であり、最も好ましくは85重量%以下である。
【0013】
本発明で用いられるセルロース混合エステル組成物は、セルロース混合エステル組成物からなる異形断面形状繊維を製造する時点においては、可塑剤を含んでいることが重要である。可塑剤の量としては5〜30重量%含有することが好ましい。5重量%以上の可塑剤を含有することで、組成物の熱流動性が良好となり、溶融紡糸時の生産性を向上することが可能となる。また、30重量%以下の可塑剤量とすることで、繊維表面への可塑剤のブリードアウトを抑制することができ、室温での膠着などのトラブルを回避することができる。セルロース混合エステル組成物の可塑剤含有量は、溶融紡糸時の生産性の観点から、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが最も好ましい。また、ブリードアウトを抑制する観点からは、25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが最も好ましい。
【0014】
本発明において用いられる可塑剤は、本発明のセルロース混合エステルに混和するものであれば特に制限はなく用いることができるが、水溶性可塑剤であることが必要である。例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、グリセリン混合エステルなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。ここで、水溶性可塑剤とは水系処理で繊維から除去できるものをいう。
【0015】
本発明ではセルロース混合エステル組成物からなる繊維の製造には、溶融紡糸法が好ましく用いられる。溶融紡糸法では、前記した可塑剤を含むセルロース混合エステル組成物を、公知の溶融紡糸機において加熱溶融した後に口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取ることができる。この際、紡糸温度は200℃〜280℃が好ましく、さらに好ましくは240℃〜270℃である。紡糸温度を200℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また280℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0016】
次に撚糸について説明する。撚りには、S撚りとZ撚りの2つの撚り方向があり、撚りの強さには甘撚と言われる500T/m以下のもの、中撚の500〜1,000T/m、強撚の1,000〜2,500T/m、極強撚の2,500T/mのものがある。
【0017】
撚り数の表示方法としては、1mあたりの長さにおける撚の回数で表される。撚をかける洋式撚糸機には、イタリー式、リング式、フライヤー式などがある。
【0018】
これらの方法を用いて糸に撚りをかけることにより、無撚糸使いの織物では表現出来なかった織物の表面感や風合い、肌触りなどが全く異なる新しい質感のものを生み出すことができるのである。
【0019】
さらに、本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる異形断面形状繊維は、製造されたままの段階では可塑剤を含んでいるため、その後、水系処理すると含有量のほぼ100%が除去され、繊維重量が5〜30重量%(可塑剤の含有量に等しい量)減少することになる。そのため、撚りをかけた後に可塑剤の除去処理を行えば、従来のセルロース繊維に撚を施した糸に比べて単繊維間の空隙が大きくでき、ソフトな風合いという優れた特性をもたせることができる。その結果、本発明の織物では、撚数が高くなっても従来のセルロース系糸に比べて撚糸によるシャリ感が少なく、新規な撚糸織物のタッチや婦人用織物に求められる審美性、すなわち光沢感や艶感などの特徴を表現することが可能となった。
【0020】
ここで、異型断面形状とは三角あるいは四〜八葉、C型、H型、X型、Y型、Z型などの丸形とは異なる断面形状であることをいう。本発明の織物を構成する異型断面形状繊維は、従来のセルロース系繊維では得られなかったものであり、自由にシャープな異型断面形状を作ることができ、凸部が3〜8個からなる多角形断面を有するフィラメントや中空断面を有する繊維とすることができる。この凸部を有する断面形状の効果で繊維間の排除体積をさらに大きくすることでペーパーライクな風合いになりにくくするためである。
【0021】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維の単繊維繊度は、0.5デシテックス〜5デシテックスの範囲であれば良いが、発色性や風合いの観点から0.8デシテックス〜3.0デシテックスの範囲がより好ましい。
【0022】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維で構成される撚糸の繊度は、56デシテックス以上165デシテックス以下が好ましい。56デシテックス未満では強度が低く撚糸工程での毛羽や糸切れが、また織物の引裂強度が低下するなどの懸念がある。165デシテックス以上の太い繊度を用いると織物の厚みが厚くなり、なめらかさやソフトさが軽減されることになる。より好ましくは、84デシテックス〜100デシテックスの範囲である。なお、ここでいう繊度は、可塑剤を除去した後の繊度である。
【0023】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維で構成される撚糸の撚係数は4,000〜18,000であることが重要である。なお、ここでいう撚係数は、可塑剤を除去した後の撚係数である。さらに、織物とするには、この撚糸を片撚りで用いることが重要である。なお、片撚りとは、織物の経糸または緯糸に、同じ撚り方向の撚糸のみを用いることをいう。
【0024】
通常、撚係数が4,000未満で構成糸の撚の方向が片方向(例えばS方向)のみであれば、織物のシボが発生することなくプレーンな表面状態の織物が作れる。しかしながら、撚係数が4,000〜18,000である場合には、SおよびZの両方向に追撚した糸を用いないと織物表面は均一なシボ表面が発生しない。特に、片撚にした糸を用いた織物では楊柳のような大きなシボが発生するため、滑らかな織物の表面を作ることができない。
【0025】
また、撚り係数が4,000以上であれば、撚糸が集束形状を示し、曲げ回復性もよく反発のある風合いが維持できるのである。18,000を越えるとシャリ味が強くなりすぎ針金のような硬い風合いになり好ましくない。
【0026】
また、特許文献3(特開2007−169853号公報)に記載のように可塑剤溶出後の細繊度糸化した糸に撚係数を同じように施した場合では、撚糸が1626t/mと強い撚がかかり、なおかつ糸と糸の隙間が生じないため非常にじゃりじゃりしたタッチの糸で、シボが発生する。
【0027】
ここで、撚り係数(α)=T×D0.5
T:撚数(t/m)、
D:セルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維の総繊度(dtex)、である。
【0028】
本発明の織物を構成する撚糸の収縮率、すなわち沸騰水処理、さらに乾熱処理した後の収縮率は1.0%以上5.0%以下であることが重要である。沸騰水処理し、さらに乾熱処理を施したその撚糸の収縮率が1.0%未満であると、撚糸に変化が無く特徴のない糸になり、また収縮率が5.0%超えると、収縮による撚糸のジャリ味が強くなりすぎて織物表面特性が硬くなりすぎ、好ましくないものになってしまう。さらに沸騰水処理及び乾熱処理後の収縮率が1.5%〜4.5%であればソフトなより好ましい風合いのものになる。
【0029】
収縮率の計算は次式に示す。
沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率(ΔWD)(%)={(L0−L1)/L0}×100
L0:カセの元周長(cm)、
L1:沸騰水処理後さらに乾熱処理した撚糸のカセ周長(cm)、である。
【0030】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維の撚を施した糸の強伸度特性であるタフネス、即ち強度と伸度の積は10以上40以下の範囲が好ましい。
タフネス=強度(cN/dtex)×伸度(%)
撚糸のタフネスが10未満では弱くて製織時の糸切れが懸念される。また、40超えると製織時の経糸張力管理が難しくなり経筋の原因になりやすく、織物品位が劣ることになる。なお、糸の強度及び伸度の測定方法は、JIS L1013−1999の8.5引裂強さおよび伸び率の方法に準じる。
【0031】
本発明における織物の織組織は特に制限されるものでない。平組織、綾組織、朱子組織やその他変化組織を含む任意の組織で良い。
【0032】
セルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維で構成される撚糸使いの織物は、製織後に、まず水系処理をすることが重要である。セルロース混合エステル組成物からなる繊維を溶融紡糸するにあたって必要であった可塑剤を除去するためである。この段階でセルロース混合エステル組成物に含まれている可塑剤は、親油性の高い界面活性剤を吸尽しやすい性質があるため、最初に精練剤を含まない水系処理を行うことが重要である。水溶性可塑剤が、精練剤に含まれている界面活性剤を吸尽すると染色時の色ぶれや堅牢度の低下を招く恐れがあるためで、水溶性可塑剤を除去した後に、改めて精練剤を含む水系処理液で処理し油剤や糊剤を除去することが望ましい。
【0033】
この水系処理温度は15〜60℃が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。処理温度が15℃以上であれば、可塑剤の除去を短時間で行うことが出きる。また、60℃以下であれば、原糸強伸度の低下に影響が少なく好ましい。
【0034】
このようにして得られたセルロース混合エステル組成物を用いた撚糸織物には、もはや可塑剤は残っていないか、残っていても極少量であることが好ましい。
【0035】
その後、染色加工し、製品としての織物とする。
【0036】
得られた織物の経・緯カバーファクターの総和は1,500〜2,500の範囲にあることが好ましい。かかる経・緯カバーファクターの総和が1,500以下では密度が粗くてザックリしたものになり、目ずれや目ヨレなどを引き起こし、さらには織物の引裂強力の低下が懸念される。また、2,500以上になると織物密度が密な状態になり撚糸によるじゃり味が強くなりすぎ、目的の好ましい風合いが得られないものになってしまう。
【0037】
カバーファクター=タテ糸密度×(タテ糸繊度デシテックス)0.5+ヨコ糸密度×(ヨコ糸繊度デシテックス)0.5
本発明の織物は、押圧荷重50g/cm時における厚さが0.2〜0.4mmの範囲であれば好ましい風合いとなる。織物の厚さが0.15mm以下では薄くて撚糸の効果がない織物となる。同様に厚さが0.4mm以上の厚いものになると、撚糸の収縮率や解撚による糸のふくらみから織物表面のシボ状の凹凸が大きくなり、硬い風合いのものになり好ましくない。より好ましくは0.18mm〜0.35mmの範囲である。
【0038】
織物表面のなめらかさを示すMMD/SMD値が4.0×10−3以下であることが本発明の織物の特徴の1つである。織物表面のなめらかさを示すMMD/SMD値求めるには、カトーテック製のKES−FB4を用いて表面摩擦特性を測定する。この表面粗さSMDの値が大きいほど織物の表面凹凸が著しいことを表している。従って、表面のなめらかさであるMMD/SMD値が小さいほど表面のタッチがなめらかで、肌触りがソフトのであることが判断できる。
【0039】
織物表面のなめらかさを表すMMD/SMDの比は4.0×10−3以下であることが好ましい。MMD/SMDの比が4.0×10−3以上になると、解撚によるシボの発生が著しく、織物表面がざらついて特徴であるなめらかな表面感をもつ織物とはならない。
【0040】
本発明の織物の洗濯後の寸法変化率は、それぞれ経・緯方向ともに±2.5%以下であることが好ましい。一般に市販されているセルロース系繊維は公定水分率が10重量%以上であるため高次加工中における糸の膨潤効果により2.5%以下の寸法安定性を得ることが出来ず、さらに洗濯後の織物表面の凹凸も著しくなり洗濯後のしわが非常に目立つものになる。その欠点を改善するため、セルロース系繊維を疎水化させる樹脂加工等の処理方法が用いられること多いが、このような後加工では風合いが粗硬化する傾向となる。
【0041】
洗濯による寸法変化率を測定する方法としては、標準状態で4時間以上放置した後の織物を長さおよび幅方向に平行に40cm程度の大きさに裁断し、織物の長さおよび幅方向に伸ばさないように織物の縁をかがり、経および緯に20cm間隔の印をそれぞれ3箇所等間隔につけ測定点とする。
【0042】
所定の洗濯処理を行なった後、織物を平らな台に置き不自然なしわや張力を除いて経方向および緯方向の印間の長さを測り(0.5mmまで読みとる)平均値を求める。
【0043】
次式により寸法変化率を計算する。
寸法変化率(%)=((L−200)/200)×100
ここで、Lは処理後の経または緯の印間の長さの平均値(mm)を表す。
【0044】
なお、所定の洗濯処理とはJIS L 0217−1995 に記載の103法に準じる。液温40℃の水に洗濯用合成洗剤を溶解して洗濯液とし、浴比1対30となるように試料および必要に応じて負荷布を投入し、5分間処理後、脱水、次に水道水に替え同一の浴比で2分間すすぎ洗いをした後、脱水を行う。再び2分間のすすぎ洗い脱水を行い、直射日光の影響を受けない状態で吊り干しをおこなう。
このようにして得られた本発明の織物は、撚糸織物でありながら織物の表面がなめらかでソフトな風合いを有しているため、特に婦人用途の織物として好適である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(1)撚糸
村田機械(株)製のダブルツイスター3M1を使用し、スピンドル回転数8,000rpm、糸速8m/min、加撚張力は65〜70g、巻き取り張力は25〜30gの条件で、S方向に1,800T/mの追撚を実施した。
【0047】
(2)撚止めセット
強撚をかけたため、該撚糸には収縮に影響を及ぼさない程度の低温で撚糸のビリ発生を防止するための撚り止めセットを実施した。具体的にはASHIDA(株)製高圧スチームセッターAV−N Cabinet Dimension 900mmΦ×3775mmLを使用して、処理方法は60℃で30分間とした。
【0048】
(3)検尺機によるカセ作製
(株)大栄科学精器製作所製の検尺機を用いた。巻き取り条件は周長1.125mの枠をセット、巻取速度のSPEED CONTROLを50に設定し、糸張力を8.9cN/デシテックスとして10回巻きとる。これを1つのカセとし、3カセ作成した。
【0049】
(4)沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率(ΔWD)
測定方法は、JIS L 1013−1999の8.18.1および8.18.2に準じた。ただし、8.18.1で沸騰水処理した同じカセを、8.18.2に準じ条件で乾熱処理して、沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率とした。
【0050】
(5)タフネス(強度×伸度)
JIS L 1013−1999の8.5に準じて、インストロン社製のMODELII22で撚糸の強度及び伸度を測定した。
【0051】
(6)厚さ
カトーテック製のKES−FB3を用いて厚さ(TM)を求めた。
【0052】
(7)摩擦特性
測定用のサンプルサイズを20×20cmの1枚を準備したこの試料の幅に対して400gの張力をかけ、標準測定条件である摩擦面が直径0.5mmのピアノ線10本からなる接触面積が25mmの摩擦子に総重量50gの荷重で該織物に載せ、1mm/secの移動速度で測定した。求めた値は、織物の表面を滑らせた時の摩擦抵抗値から平均摩擦係数(MIU)及び表面摩擦係数の変動値(MMD)である。この平均摩擦係数(MIU)値が大きいほど摩擦抵抗が大きいことを、また、表面摩擦係数の変動値(MMD)が大きいほど織物表面がざらついていることを表している。
【0053】
このKES−FB4装置は、摩擦と同時に織物の表面粗さ(SMD)を測定することできる。粗さ測定用の接触子は直径0.5mmのピアノ線1本からなり接触面積5mmに荷重10gで織物の表面に接触させ、1mm/secの移動速度で移動させた時の表面粗さ(SMD)を求めた。
【0054】
(8)洗濯処理
JIS−L−0217 −1995の103法に準じる。
【0055】
(9)洗濯収縮率
JIS−L−1901 −1995の6.1法に準ずる。
【0056】
<実施例1>
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製)80重量%と、可塑剤としてポリエチレングリコール(三洋化成(株)製、PEG600)20重量%を、30mmφエクストルーダーを用いて混合し、セルロース混合エステル組成物のペレットを得た。組成物ペレットを乾燥した後、エクストルーダー型溶融紡糸機を用いて溶融させ、紡糸温度260℃、紡糸速度1500m/分で繊維を得た。なお、繊維を巻き取る前に交絡ガイドを通過させることによって交絡を付与した100デシテックス−36フィラメントの三角断面糸を得た。
【0057】
得られた原糸は、S方向に1,500t/mの撚を入れ、ASHIDA(株)製高圧スチームセッター、AV−N Cabinet Dimension 900mmΦ×3775mmLを使用して60℃で30分間撚糸の撚り止めセットを実施した。
【0058】
得られた撚糸を(株)大栄科学精器製作所製検尺機でカセを作成し、98℃の温水に20分処理し自然乾燥後、タバイエスペック(株)製HIGH−TEMP OVEN PVH−120で乾燥温度150℃で3分間処理し、標準状態で4時間放置した。その後測長し、沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率2.2%、タフネスが19.9であった。
【0059】
経糸に無撚糸、緯糸にS方向に1,500T/mの撚りを入れた撚糸を用い、経密度135本/2.54cm、緯密度85本/2.54cmのデシンを試織した。
得られた織物の生機を40℃で10分間湯洗した後、三洋化成(株)製界面活性剤グランアップUS−20を1g/L含む精練水溶液で熱可塑剤を溶出し、更に80℃で20分間精練処理し150℃で2分間中間セットを施した。このようにして得られた織物を用いて、以下の染色を実施した。
【0060】
染料 Disperse Blue ATT (日本化薬(株)製)
染料濃度 1.0%owf、
浴比 1:30
染液pH 5
染色温度 90℃ 染色時間60分。
【0061】
染色後の織物は充分水洗した後、三洋化成(株)製界面活性剤グランアップUS−20を1g/L含む洗浄液(水溶液)で、60℃で20分間洗浄処理、130℃で仕上げセットを施した。
【0062】
織物の特性は、経・緯カバーファクターの総和が2,318、厚さT0が0.244mm、また、洗濯による寸法変化率は経方向が−1.1%、緯方向が−1.0.%であった。1,500T/mの撚糸織物でありながら、シボの無いなめらかな表面で光沢のあるソフトタッチの織物良好であった。特性については、表1に示す。
【0063】
<実施例2>
実施例1と同様にして繊維の品種が100dtex−36フィラメントの楕円八葉であり、偏平度は1:1.5の原糸を得た。得られた100dte−36フィラメントの楕円八葉の繊維にS方向に撚数1,800T/mで撚をかけた。ASHIDA(株)製高圧スチームセッター、AV−N Cabinet Dimension 900mmΦ×3775mmLを使用して60℃で30分間撚糸の撚り止めセットを実施した。
【0064】
得られた撚糸を(株)大栄科学精器製作所製検尺機でカセを作成し、98℃の温水に20分処理し自然乾燥後、タバイエスペック(株)製HIGH−TEMP OVEN PVH−120で乾燥温度150℃で3分間処理し、標準状態で4時間放置した。その後測長し、沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率3.2%、タフネスが18.3であった。
【0065】
無撚糸を経糸とし、S方向に1,500T/mの撚をかけた撚糸を緯糸として密度135本/2.54cm、緯糸密度110本/2.54cmの平組織のデシンを製織した。
【0066】
織物の物性は、カバーファクターの総和が1,905、厚さT0が0.244mm。また、洗濯による寸法変化率は経方向が−1.0%、緯方向が−0.8%であった。1,500T/mの撚糸織物でありながら、シボの無いなめらかな表面で曲げ柔らかいソフトタッチの良好な織物であった。特性については、表1に示す。
【0067】
<比較例1>
セルローストリアセテートをメチレンクロライドおよびメタノールの混合溶媒に溶融させ、乾式紡糸して得られた110デシテックス−26−丸断面のフィラメント糸に実施例1と同様にS方向に2,000T/mの撚を施し、撚り止めセットを実施した。
【0068】
撚糸の撚り係数(α)が20,976、沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率1.9%、タフネスが35.0であった。
【0069】
実施例1と同様に織物を作製し、通常の精練、セットを施した。得られた織物を用いて、染色温度が110℃である以外は実施例1と同様にして染色した。
【0070】
得られた織物は、カバーファクターの総和が2319,厚さT0が0.44mm。また、洗濯による寸法変化率は経方向が−3.7%、緯方向が−10.8%で、シボの大きい楊柳調の表面タッチのシャリ味が強い織物になった。特性については、表1に示す。
【0071】
<比較例2>
ポリエチレンテレフタレートを用い100デシテックスー36―丸断面のフィラメントを得、パッケージ染色機を用い該原糸を20%減量したのち、染色し、先染め糸を得た。
【0072】
撚糸の撚り係数(α)が15,000、沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率2.5%、タフネスが87.0であった。
【0073】
実施例1と同様に80デシテックスと細くなった無撚糸を経糸に、緯糸には糸に1,600t/mのS方向に撚を施した糸を用い織物を作製した。
【0074】
得られた織物は、カバーファクターの総和が2,201、厚さT0が0.40mm。また、洗濯による寸法変化率は経方向が−1.5%、緯方向が−12.8%で、シボの大きい楊柳調の表面タッチのシャリ味が強い織物になった。特性については、表1に示す。
【0075】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース混合エステル組成物からなる異型断面形状繊維からなり、撚係数が4,000〜18,000の範囲の撚りが付与され、かつ可塑剤溶出後に、下記(a)〜(c)の条件を満たしている撚糸を経糸および/または緯糸に片撚りで用いた織物。
(a)56デシテックス≦総繊度≦165デシテックス
(b)1.0%≦沸騰水処理+乾熱処理後の収縮率(ΔWD)≦5.0%
(c)10≦タフネス(強度(cN/dtex)×伸度(%))≦40
【請求項2】
経・緯カバーファクターの総和が1,500〜2,500、厚さが0.15〜0.4mm、織物表面のなめらかさを表すKES摩擦特性のMMD/SMDの比が4.0×10−3以下、かつ、洗濯後の寸法変化率が経・緯方向とも±2.5%以下あることを特徴とする請求項1に記載の織物。

【公開番号】特開2009−242973(P2009−242973A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89933(P2008−89933)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】