説明

セルロース系繊維構造体及びそれから成るワイパー

【課題】 対象物が静電気などによる帯電を嫌う例えばセンサーや磁気ヘッドと言った精密電装部品を拭取る分野などにおいて用いるアニオンなどの不純物の溶出が極めて少なくかつ高い帯電防止性能を有するワイパー製品を提供する事。
【解決手段】 表面抵抗率が、5.0×1010Ω/cm未満且つ基布より溶出するアニオン成分が0.8μg/cm未満である事を特徴とするセルロース系繊維構造体。及び特定のアニオン系帯電防止剤を付与する事を特徴とする該繊維構造体及び該繊維構造体よりなるワイパー。及び前記特定のアニオン系帯電防止剤を用いる事を特徴とする繊維構造体の加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてクリーンルームで取り扱われる材料の拭き取りに用いられるワイパーとして好適なセルロース系繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系繊維不職布は、従来から電子材料用途のワイパー、医療系用途のガーゼやワイパー、生活資材用途のウエットティッシュ、ワイパー、衛生材料例えば生理用品等の表面材、農業資材用途の保水材、種子保持材、食品関連用途のワイパー、フィルター、化粧品関連用途のパフ表面材、化粧液保持材、産業資材用途のテープ用基材等の各種用途に利用されている。これはセルロース繊維が以下の特長を有しているためと考えられる。
1.吸液性、特に吸水性に優れること。
2.生分解性であること。
3.吸湿性が高いため帯電防止性能に優れること。
4.親水性・疎水性薬剤に含浸させても、不純物が溶出してこない事。
【0003】
上記以外にも、耐熱性に優れている等のセルロース固有の特性も使用用途によっては加味される。
上記特徴の中において、特に吸湿性が高いため帯電防止性能に優れる点、親水性・疎水性薬剤に含浸させても、カチオン、アニオンなどのイオン性不純物が溶出しにくい点については、対象物が静電気などによる帯電を嫌い、またアニオン・カチオン成分の付着による腐食が起こりやすい例えばセンサー,ハードディスク用磁気ヘッドと言った精密電装部品、および、該部品製造時に用いる各種備品を拭取る分野などにおいて極めて重要視される要素であり、該分野においては殆どと言ってよいほどセルロース系繊維で構成されるワイパーが使用されている。
【0004】
しかし昨今の半導体産業の急速な成長により、該分野におけるワイパーを必要とされる対象物の細密化などにより、上記不純物の溶出が少なく且つ、今まで以上に高い帯電防止性能を持つセルロース系繊維ワイパーと言うものが求められている。例えば、素子に微弱な電流を流すことで現れる信号磁界を、電流抵抗値によって検出するMRヘッドなどにおいては、微弱な摩擦帯電が生じた箇所に部品を近づけるだけでも、スパーク現象や帯電電界そのものによって損傷してしまう為に、部品や備品を拭取るワイパーについては、温度20℃、湿度50%RHの環境下において、少なくとも1.0×1011Ω/cm未満の表面抵抗率が必要な事が研究の結果判明した。
特に加工を行っていないセルロース系繊維ワイパーの表面抵抗率は、一般的に1.0×1011Ω/cm以上である。
【0005】
セルロース系繊維ワイパーに帯電防止剤を付与する技術としては、例えば陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤からなる帯電防止剤及び陰イオン増粘剤又は非イオン増粘剤からなる増粘剤を含む水性洗浄剤を不織布に含浸する方法(特許文献1記載)がある。
しかしながらこの方法は、防汚性などを持つ帯電防止剤などを直接に対象物に付与させることを目的としているため、磁気ヘッドなどの精密電装部品のワイパーとして用いた場合、帯電防止剤中に含まれるアニオンなどにより部品が汚染され歩留まりが低下してしまう。
【0006】
また、セルロース分解酵素に酵素処理を行った後に帯電防止加工を行う耐久帯電防止性に優れた繊維製品の加工方法(特許文献2記載)がある。
しかしながらこの方法においては、用いている帯電防止剤が特殊アミノシリコン系、カチオン系、水溶性ウレタン系であるため、電子部品への影響が極めて大きいシリコンをはじめとするカチオン成分が溶出してくるために、部品が汚染・損傷してしまう。また元来帯電防止性能が高く、帯電したとしても+に帯電するセルロース系繊維構造体に対しては、上記に述べたような剤を用いても本目的の表面抵抗率を得る事は難しい。更には、市販のノニオン・カチオン系帯電防止剤には、液の安定化等の理由から、帯電防止効果を有さない無機塩(例えばNaCl,MgCl)が添加されていることが多く、その場合アニオン成分が溶出してくるために、部品が汚染、損傷してしまう。
【0007】
このため従来の方法では、カチオン・アニオンなどの不純物の溶出が極めて少なくかつ高い帯電防止性能を有するワイパーを製造するのは極めて困難であった。
【特許文献1】特開2003−164408号公報
【特許文献2】特開2003−342878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、対象物が静電気などによる帯電を嫌う例えばセンサーや磁気ヘッドと言った精密電装部品を拭取る分野などにおいて用いるアニオンなどの不純物の溶出が極めて少なくかつ高い帯電防止性能を有するワイパー製品を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、上記課題を達成するために本願で特許請求される発明は以下の通りである。
(1)表面抵抗率が、5.0×1010Ω/cm未満且つ基布より溶出するアニオン成分が0.8μg/cm未満である事を特徴とするセルロース系繊維構造体。
(2)アニオン系帯電防止剤が付与されている事を特徴とする上記(1)記載のセルロース系繊維構造体。
(3) アニオン系帯電防止剤が、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、アルキル硫酸塩、リン酸、リン酸エステル塩系から選ばれる少なくとも一種以上であることを特徴とする上記(2)記載のセルロース系繊維構造体。
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載の繊維構造体よりなることを特徴とするクリーンルーム用ワイパー。
(5)スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、アルキル硫酸塩、リン酸、リン酸エステル塩系から選ばれる少なくとも一種以上のアニオン系帯電防止剤を繊維構造体に付与させた後、乾燥処理によって帯電防止剤を固着させる事を特徴とする上記(3)記載のセルロース系繊維構造体の加工方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって得られるセルロース系繊維構造体は、対象物が静電気などによる帯電を嫌う例えばセンサーや磁気ヘッドと言った精密電装部品を拭取る分野などにおいて用いるアニオンなどの不純物の溶出が極めて少なくかつ高い帯電防止性能を有するワイパー製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳説する。
本発明におけるセルロース系繊維とは、麻、綿等の天然セルロース繊維、キュプラ、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン(特に平均重合度500〜600が好ましい。)等の再生セルロース繊維、ライオセル〔LYOCELL:例えば繊維学会誌(繊維と工業)Vol.48,No.11(1992)P.584〜P.591に記載されているコートルズ社の商品名テンセルが相当する。〕等の精製セルロース繊維などであるが、好ましくは、繊維内の不純物が少ない再生セルロース繊維、精製セルロース繊維であり、更に好ましくは再生セルロース連続長繊維である。
【0012】
本発明のセルロース系繊維構造体は、主としてセルロース系繊維からなる。セルロース系繊維100%であってもよく、セルロース系繊維の有する帯電防止性能等の特性を損わない程度に、例えば、ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維を混用しても良い。この場合に繊維構造体におけるセルロース系繊維の含有量は30重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは70重量%以上である。
セルロース系繊維構造体の形態には特に制限はなく、例えば、織編物、不織布、繊維製品から、ワタ、糸条などのいずれの形態でも良いが、好ましくは編物及び不織布であり、より好ましくは不織布である。また、繊維の組織、単糸デニール等は特に限定されない。
【0013】
本発明のセルロース系繊維構造体の構造は特に限定されないが、少なくとも片側表面において、セルロース繊維が面積率50%以上で存在することが好ましい。ここでいう面積率とは表面に存在するセルロース系繊維の面積比率であり、例えば合成繊維と複合されている場合、セルロース系繊維が染色され、合成繊維が染色されない染料で構造体を染色し、表面積に対する染色部分の面積を画像解析等することによって求めることができる。両側表面のセルロース系繊維面積率が50%未満であると、特にワイパーを乾燥状態で使用する際に、十分な帯電防止性能を得にくい。
また、必要に応じて例えば片側が主にセルロース系繊維でもう一方が主に合成繊維で構成された2層構造や、両面が主にセルロース系繊維で中央部が主に合成繊維で構成された3層構造の構造体であってもよい。
【0014】
また、セルロース系繊維構造体の製造方法も特に限定されない。例えば、湿式法、抄紙法、乾式法で作られたものでもよく、これらが複合されたものでもよい。構造体が不織布の場合、不織布を複合する方法も特に限定されないが、好ましくは親水性あるいは疎水性溶媒へ溶出するようなバインダーを用いない、高圧流体による複合やエンボス等による圧着が良い。
本発明のセルロース系繊維構造体の目付及び厚みは用途により適宜選択が可能である。構造体の強度および硬さ等、ワイパーに求められる性能を満足させるためには、目付は8〜150g/mが好ましく、より好ましくは10〜120g/mであり、厚みは0.03〜1mmが好ましく、より好ましくは0.05〜0.8mmである。
【0015】
また、本発明のセルロース系繊維構造体は、開口部や凹部、凹凸等で形成されたパターン等の表面修飾されているものであれば、拭き取り性能の点で好ましい。開口部や凹部、メッシュパターンの形状は用法等で適宜選択すればよい。例えば、楕円形や円形、正方形や長方形、ひし形等の独立したパターンや凹凸形状が組み合わされた例えば杉綾形状のパターン等、適宜選択すればよいし、その配列パターン、例えば独立した開口部や凹部で千鳥配列にしたりする等も適宜選択すればよい。独立した開口部や凹部のパターンを設ける場合には、開口部や凹部の1個あたりの面積は0.05〜10mmが好ましく、より好ましくは0.1〜5mm、更に好ましくは0.2〜2.5mmである。尚、開口部や凹部の1個あたりの面積は、構造体の裏側に例えば黒色の色紙等を置いて2値化、すなわち黒と白に分離できる状態にして開口部や凹部が判別できる状態にして画像処理等で求めることができる。
【0016】
また、このような表面修飾は、例えば不織布の場合、不織布をメッシュ状のネットに乗せた状態で高圧液体流で処理する方法で、ネットの交絡点部の上にある不織布の繊維が高圧液体流で周囲に押しやられることにより、好適に得ることができる。また、例えば金属ロールの表面に凹凸パターンを作成し、金属ロールとゴムロールの間に圧力をかけながら不織布を通して凹凸形状をつけるいわゆるエンボス等の手法でも好適に得ることができる。
本発明のセルロース系繊維構造体の製造方法について一例を紹介する。本発明の好ましい態様は再生セルロース連続長繊維不織布であるが、例えば旭化成せんい株式会社製のキュプラ不織布「ベンリーゼ(登録商標)」がこれに相当する。
【0017】
キュプラ不織布の製造方法は、異物を除去し、重合度を調整したコットンリンターを銅アンモニウム溶液に溶解させた原液を細孔(原液吐出孔)を有した紡糸口金(紡口)から押し出し、水と共に漏斗内を落下させ、脱アンモニアさせることにより原液を凝固させつつ、延伸を行い、ネット上へ振り落としウエブ形成させる。この際、ネットを進行させながら進行方向と垂直方向へ振動させることにより、ネットへ振り落とされる繊維はSinカーブを描くことになる。紡糸時の延伸は100〜500倍が可能であり、紡糸漏斗の形状と、その中を流下させる紡糸水量を変えることにより、延伸倍率の調整が任意に可能である。延伸倍率を変えることにより、単繊度や不織布の強度を変えることが可能である。また、紡糸水量や温度を変化させることに原液内に微量残留する低分子量セルロース、いわゆるヘミセルロースをコントロールすることも可能である。また、ネットの進行速度、振動幅を制御することにより、繊維配列方向を制御し、不織布としての強度や伸度等をコントロールすることが可能である。
【0018】
紡糸漏斗の形状としては、矩形型が好ましく、流下させる紡糸漏斗の長さは100〜400mm、流下出口のスリット幅は2〜5mmが好ましい。本発明に用いる紡口の原液吐出孔の直径は0.1〜0.5mmが好ましく、形状は丸型が好ましい。また、不織布の均一性を確保する意味から、ウエブを積層して不織布化することが好ましく、その積層枚数は3〜10枚が好ましい。積層後のウエブを例えば特許第787914号公報、特許第877579号公報に記載の方法により、ウエブ状態でセルロースを再生させたり、精練したりした後、高圧水流により繊維交絡させ不織布を製造する。この際に意匠性を付与するために不織布に穴や凹凸をつけたりすることが高圧水流の条件や不織布の下及び/又は上に配置されるネットの柄によって可能となる。得られた不織布は乾燥、巻き取り品として得ることができる。紡糸から巻き取りまでが一連の工程で成されるため繊維が切断されずに連続的に繋がっているので連続長繊維不織布という。
【0019】
本発明のセルロース系繊維構造体は、表面抵抗率が、5.0×1010Ω/cm未満且つ基布より溶出するアニオン成分が0.8μg/cm未満である事を特徴とする。
本発明において表面抵抗率とは、温度20℃、湿度50%の環境下に於いてASTM規格D−257準拠のテストを行った際の表面抵抗率が、5.0×1010Ω/cm未満である事を特徴とする。より好ましくは3.0×1010Ω/cm未満、特に好ましくは1.0×1010Ω/cm未満である。
本発明においてアニオン成分とは、ワイパーとして拭取る対象物への汚染原因となる陰イオンの総称であるが、特に磁気ヘッドなどの精密電装部品に対して影響の高いフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオンを言う。
【0020】
本発明では、繊維構造体2gを200mlの純水中に1時間浸漬させた後にろ過を行い、そのろ液を液体クロマトグラフィーにて分析した際に、構造体より溶出した上記イオンの総量が0.8μg/cm未満である事を特徴とする。より好ましくは0.5μg/cm未満、特に好ましくは0.4μg/cm未満である。本発明のセルロース系繊維構造体は、拭取る対象物の汚染を最小限に抑えることでき、本目的のワイパーとして好適に用いることができる。
【0021】
本発明のセルロース系繊維構造体は、アニオン系帯電防止剤を付与させることによって好適に目的の性能を付与することができる。具体的な構造は特に限定されるものではないが、好ましくはスルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、アルキル硫酸塩、リン酸、リン酸エステル塩系等のアニオン系帯電防止剤であり、特に好ましくは、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩、アルキル硫酸塩系帯電防止剤である。
【0022】
本発明における帯電防止剤の付与量は、目的とする性能を発現させるために構造体に対して0.4〜2.0重量%である事が好ましく、より好ましくは0.6〜1.3重量%である。0.4重量%未満であると、十分な帯電防止性能を付与する事が出来ず、また2.0重量%を超えると、溶出するアニオン成分が目的の値をオーバーするため好ましくない。
本発明における構造体に対する帯電防止剤の付与方法は、連続的、またはバッチ式にて、剤を、パッド、浸漬、噴霧、塗布等により付着させ乾燥させる加工を用いる事が出来る。
【0023】
本発明における構造体は、帯電防止剤の付与後単なる風乾ではなく乾燥処理をする事によって、帯電防止剤を繊維構造体に十分に固着させることができる。付与後の乾燥温度については、剤と構造体との結合力を高める為に、好ましくは70℃〜150℃、より好ましくは90℃〜130℃で行う事が好適である。
【0024】
本発明におけるワイパーの形態は特に限定されず、適宜用途に応じて使いやすい形状を選択することができる。例えば、ワイパーを広げた場合の形状が正方形や長方形等の多角形、円形や楕円形等でも問題なく使用でき、用途によって適宜選択すればよい。
また、使用形態についても特に限定されず、用途によって適宜選択すればよい。例えば、目付が高い場合には平版の形状でもよいし、目付が低い場合には折ってあってもかまわない。また、折って使用する場合には、その折り方も適宜選択することができる。
【0025】
本発明のワイパーは、例えば長尺の巻形状、すなわちロール状でもよい。ロール状のワイパーは自動化された機械や連続的に拭き取る場合に好適に用いられる。ロール状で用いる場合は長繊維であることが好ましい。端部が長さ方向にしか存在しないため、リントの発生源であるワイパーの端部が上述のピース状のワイパーに比べて減少するからである。巻長さや幅等は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択されてよい。
【0026】
また本発明のワイパーにおいて、本発明の目的を損なわない限りワイパーに更に追加的に付与することが出来る各種の機能付加を任意に行う事が出来る。
本発明のクリーンルーム用ワイパーのサイズは特に限定されず、使用用途、使用目的に応じて適宜選択できる。例えば、平版の場合には3〜12インチ角のものが一般的に用いられる。折り品の場合には上述のようなサイズのものが一般的に用いられており、ロール形状の場合には、幅が5〜100cm、巻長さ3〜50m程度のものが一般的に用いられている。
【0027】
本発明のワイパーの包装形態、包装材料等は特に限定されず、用途に応じて適宜選択されてよい。例えば、折りあがった製品を袋に入れ、その袋数個をダンボール箱に入れる等、使用用途に合わせて適宜選択すればよい。包装材料については、目的の性能を阻害するような材質でなければ、特に限定されるものではないが、帯電防止性能を有する袋を用いる事がより好ましい。静電気は物と物とが摩擦することで発生するため、静電気を低下させるためにはワイパー取り出し時の袋との摩擦も考慮することがより望まれる。この場合、袋の材質が表面抵抗率で10〜1010Ω/cm程度であるものを用いることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、例中の処理物の評価は、下記のようにして行った。
1)表面抵抗率評価
<前処理>
加工後の構造体を25cm×25cmのサイズにサンプリングを行った後、温度20℃湿度50%RHの雰囲気下に8時間静置、調湿させる。
<測定>
温度20℃湿度50%RHの雰囲気下において、加工面が表面に出るようにして4つ折にした後、ポータブル表面抵抗率/抵抗計(モデル272A型 モンローエレクトロニクス社製)を用い、プローブと測定器付属の絶縁板との間にサンプルを置き、印加電圧を100Vとして表面抵抗率を測定した。
【0029】
2)溶出アニオン評価
<前処理>
PFAボトルの液体200mlにワイパーを2gの割合で浸し、常温で1時間静置する。1時間浸漬後、繊維状異物の除去の為、フィルター(ADVANTEC製 セルロース・ポリエステル複合メンブランフィルター)にかけてろ過し、ガラス製容器に入れる。
<測定>
前処理で調製した溶液を、イオンクロマトグラフ装置(DIONEX社製 200i/SP)にて溶出したアニオン成分を定量した。
【0030】
3)ワイパー性能
得られた繊維構造体を25cm×25cmのサイズにサンプリングし、加工面が表面に出るようにして4つ折にした状態で用いて、20℃×50%RH雰囲気のクリーンルーム下で上記MRヘッド表面の拭き取り作業を行い、その性能を下記のように判断した。
◎:拭き取り性能は良好で、ヘッド表面の汚染による歩留まり率は5%未満と非常に優れている。
○:拭き取り性能は良好で、ヘッド表面の汚染による歩留まり率は10%未満と優れている。
△:拭き取り性能は良好で、ヘッド表面の汚染による歩留まり率は20%未満と許容できる範囲内であり、クリーンルーム用ワイパーとして使用できる。
×:ヘッド表面にアニオン成分が付着してしまい、ヘッド表面の汚染による歩留まり率が20%以上あり不適である。
【0031】
[実施例1]
平均目付27.5g/mの再生セルロース連続長繊維不織布(ベンリーゼ(登録商標)SB283、旭化成せんい(株)社製)を用意した。
アルキル硫酸塩系帯電防止剤の成分4.5%水溶液をスプレー加工によって、有効成分が不職布に対して0.65重量%の付着量になるよう塗布し、90℃、30秒の乾燥処理を行った。
加工後に、表面抵抗率、溶出アニオンの評価結果を表1に示したが、拭取り性能が良好で、帯電防止性能が極めて高く、且つ溶出するアニオンの極めて少ない構造体が得られた。
【0032】
[実施例2]
実施例1において、スルホン酸塩系帯電防止剤の成分4.5%水溶液を使用した事以外は、実施例1と同条件にて処理を行った。上記処理を行った不織布の評価結果を表1に示したが、拭取り性能が良好な、帯電防止性能が高く、且つ溶出するアニオンの極めて少ない構造体が得られた。
【0033】
[実施例3]
実施例1において、リン酸エステル塩系帯電防止剤の成分1.5%水溶液を使用し、有効成分を不職布に対して0.45重量%付着させる事以外は、実施例1と同条件にて処理を行った。上記処理を行った不織布の評価結果を表1に示したが、拭取り性能が良好な、帯電防止性能が高く、且つ溶出するアニオンの少ない構造体が得られた。
【0034】
[比較例1]
実施例1において、カチオン系帯電防止加工剤エレタットU−52(一方社油脂工業株式会社製)を使用した事以外は、実施例1と同条件にて処理を行った。上記処理を行った不織布の評価結果を表1に示したが、帯電防止性は本目的の性能を満足する事は出来なかった。
【0035】
[比較例2]
実施例1において、ノニオン系帯電防止加工剤ナイスポールFE−18(日華化学株式会社製)を使用した事以外は、実施例1と同条件にて処理を行った。上記処理を行った不織布の評価結果を表1に示したが、溶出するイオン及び拭取り性能を満足する事は出来なかった。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によって、静電気などによる帯電を嫌う精密電装部品を拭取る分野などにおいて、アニオンなどの不純物の溶出が極めて少なくかつ高い帯電防止性能を有するワイパー製品を提供する事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面抵抗率が、5.0×1010Ω/cm未満且つ基布より溶出するアニオン成分が0.8μg/cm未満である事を特徴とするセルロース系繊維構造体。
【請求項2】
アニオン系帯電防止剤が付与されている事を特徴とする請求項1記載のセルロース系繊維構造体。
【請求項3】
アニオン系帯電防止剤が、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、アルキル硫酸塩、リン酸、リン酸エステル塩系から選ばれる少なくとも一種以上であることを特徴とする請求項2記載のセルロース系繊維構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース系繊維構造体よりなることを特徴とするクリーンルーム用ワイパー。
【請求項5】
スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、アルキル硫酸塩、リン酸、リン酸エステル塩系から選ばれる少なくとも一種以上のアニオン系帯電防止剤を繊維構造体に付与させた後、乾燥処理によって帯電防止剤を固着させる事を特徴とする請求項3記載のセルロース系繊維構造体の加工方法。

【公開番号】特開2007−154388(P2007−154388A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354927(P2005−354927)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】