説明

セルロース繊維複合材料

【課題】セルロース繊維を複合化したことによる高強度、高弾性率及び低線膨張性を十分に確保した上で、低位相差、低ヘーズかつ高光透過率で、光学的等方性、透明性等の光学特性に優れたセルロース繊維複合材料を提供する。
【解決手段】セルロース繊維とマトリクス材料とを含むセルロース繊維複合材料であって、セルロース繊維含有量が40重量%以上で、厚み50μmにおける位相差が20nm以下で、膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいてJIS K7136によるヘーズが5%以下であることを特徴とするセルロース繊維複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維とマトリクス材料とからなる複合材料に関するものであり、詳しくは、低配向、高含有率のセルロース繊維膜により、低位相差、低ヘーズかつ高光透過率を実現したセルロース繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶や有機EL等のディスプレイ用基板には、ガラス板が広く用いられている。しかし、ガラス板は比重が大きく軽量化が困難で、割れやすい、曲げられない、厚みが厚いなどの欠点があることから、近年、ガラス板に変わるプラスチック基板の適用が検討されている。具体的には、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等を用いたディスプレイ用基板が使用されている。
【0003】
しかしながら、これら従来のガラス代替用プラスチック材料は、ガラス板に比べて線膨張係数が大きいため、基板上に薄膜トランジスタ等のデバイス層を高温で蒸着させるプロセスの際に、反りや蒸着膜の割れ、半導体の断線などの問題が生じ易く、実用は困難である。
このため、これらの用途に適用する材料として、高透明性、高耐熱性、低吸水性かつ低線膨張係数のプラスチック材料が求められている。
【0004】
近年、バクテリアセルロースをはじめとするセルロースの微細繊維を用いた複合材料がさかんに研究されている。セルロースは伸びきり鎖結晶を有することから、低線膨張係数、高弾性率、高強度を発現することが知られている。また、微細化することにより太さが数nmから200nmの範囲にある微小かつ高結晶性のセルロースナノファイバーが得られ、その繊維の隙間をマトリクス材料で埋めることで高い透明性と低線膨張係数の複合材料が得られることが報告されている。
【0005】
しかしながら、従来、セルロースの微細繊維を用いた複合材料において、液晶や有機EL等のディスプレイ用基板にとって重要な光学的等方性については、殆ど報告されていない。
【0006】
例えば、特許文献1においては、バクテリアセルロースと光硬化性樹脂との複合材料に関する記載があり、バクテリアセルロース内の水をイソプロパノールと完全置換し、コールドプレス後、紫外線硬化樹脂を含浸させて紫外線を照射することにより硬化させてセルロース繊維複合材料を製造することが記載されているが、この方法では、コールドプレス時にバクテリアセルロースが流れ出る水流に沿って配向するなど、繊維の方向に異方性が出やすいことから、得られる複合材料の位相差が大きいという問題が考えらる。また、本発明者らの検討によれば、バクテリアセルロースは一般的に断面10nm×50nmの偏平なリボン状であり、繊維径が太いため、光の散乱現象が生ずる。このため、この複合材料ではヘーズが大きいという問題もある。
【0007】
また、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4においては、木質を原料としてグラインダー処理して得られるナノファイバーセルロース繊維(以下「NFCe」と略記する)と光硬化性樹脂との複合材料に関する記載があり、本発明者らの検討によれば、このNFCeの平均繊維径は60nm程度と推定され、この複合材料であれば、バクテリアセルロースを用いる場合よりも、位相差は小さいと考えられる。しかし、たとえ位相差が小さくても、繊維径が太いセルロース繊維が残っているため、光の散乱現象が生じ、ヘーズが大きいという問題点がある。
【0008】
特許文献5においては、バクテリアセルロースをミキサーで予備分散し、高圧ホモジナイザーで80MPaで分散し熱硬化性樹脂との複合材料としたものに関する記載があるが、バクテリアセルロースの繊維径は50〜60nmと太いので、光透過率が低くなるという問題があった。また、バクテリアセルロースの繊維径が太いので、散乱が大きく光学特性に劣り、ヘーズが大きくなる(透明性が悪くなる)という問題が考えられた。もとより、この特許文献5の例では、セルロース繊維含有量が少ないため、たとえ位相差が許容の範囲だったとしても、含有される繊維当たりの位相差が大きくなり、光学特性と機械特性とのバランスが悪くなると考えられる。
さらに、バクテリアセルロースを使用する限り培養に時間がかかるため、大量供給に難があるという問題もあった。
【0009】
特許文献6においては、コットンリンターを原料として不織布を得ている。しかし、本発明者らの検討によれば、コットンリンターを用いた場合、高圧ホモジナイザー処理10パス程度の解繊では不十分であり、マトリクス材料と複合化した際のヘーズが大きいことが判明した。これは、コットンリンターは結晶性が高く、大きな剪断応力をかけないと十分に解繊されないことによると考えられる。
【特許文献1】特開2006−241450号公報
【特許文献2】特開2006−35647号公報
【特許文献3】特開2006−240295号公報
【特許文献4】特開2008−24778号公報
【特許文献5】特開2006−316253号公報
【特許文献6】WO2006/004012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、セルロース繊維は、高強度、低線膨張係数という優れた特性を有するものの、従来の複合材料では、セルロース繊維が高アスペクト比であることに由来するセルロース繊維膜の異方性が発現し、その結果、複合材料としたときに、位相差(光学的異方性)が大きくなり、また、太径のセルロース繊維の混入に起因する光散乱のために、各種ディスプレイ基板材料、太陽電池用基板、窓材等の用途として、特に各種ディスプレイ基板材料として用いるには十分な性能が得られないという問題があった。
【0011】
本発明はこの問題を解決し、セルロース繊維を複合化したことによる高強度、高弾性率及び低線膨張性を十分に確保した上で、低位相差、低ヘーズかつ高光透過率で、光学的等方性、透明性等の光学特性に優れたセルロース繊維複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の解繊方法を採用すると共に、得られたセルロース繊維分散液を希釈して濾過することにより、太径の繊維を含まず、均一な繊維径の微細なセルロース繊維が低配向で均一に分散することにより、配向性の小さいセルロース繊維膜を得ることができ、このセルロース繊維膜にマトリクス材料を複合化することで、高透明性、低位相差かつ低ヘーズの複合材料が得られることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] セルロース繊維とマトリクス材料とを含むセルロース繊維複合材料であって、セルロース繊維含有量が40重量%以上で、厚み50μmにおける位相差が20nm以下で、膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいてJIS K7136によるヘーズが5%以下であることを特徴とするセルロース繊維複合材料。
【0014】
[2] 25℃において、マトリクス材料の波長587.6nmの光の対する屈折率が1.45〜1.65であることを特徴とする[1]に記載のセルロース繊維複合材料。
【0015】
[3] セルロース繊維含有量が0.01〜0.2重量%のセルロース繊維分散液を濾過して製造されたセルロース繊維膜を、マトリクス材料と複合化してなることを特徴とする[1]又は[2]に記載のセルロース繊維複合材料。
【0016】
[4] セルロース繊維原料液を、100MPa以上の高圧雰囲気下から噴出させて減圧することにより解繊(微細化)した後、濾過することを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のセルロース繊維複合材料。
【0017】
[5] 膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいて、JIS K7105による全光線透過率が87%以上であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載のセルロース繊維複合材料。
【0018】
[6] 波長400〜800nmの全範囲における光透過率が85%以上で、波長400nm〜600nmの範囲の光透過率の傾きが0.022(%/nm)以下であることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載のセルロース繊維複合材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、セルロース繊維にマトリクス材料を複合化した、高強度、高弾性率で低線膨張係数のセルロース繊維複合材料であって、透明性に優れ、低位相差(光学的等方性に優れる)かつ低ヘーズの光学性能に優れたセルロース繊維複合材料が提供される。
【0020】
本発明のセルロース繊維複合材料は、樹脂に対してセルロース繊維を複合化したことによる低線膨張係数、高弾性率、高強度と、高透明性、低位相差、低ヘーズが要求される用途、例えば、各種ディスプレイ基板材料、太陽電池用基板、窓材等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0022】
本発明のセルロース繊維複合材料は、セルロース繊維とマトリクス材料とを含むセルロース繊維複合材料であって、下記(1)を満たすものである。
(1)セルロース繊維含有量が40重量%以上で、膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいて厚み50μmにおける位相差が20nm以下で、JIS K7136によるヘーズが5%以下。
【0023】
このような本発明のセルロース繊維複合材料は、例えば、セルロース繊維原料液を、100MPa以上の高圧雰囲気下から噴出させて減圧することにより解繊(微細化)した後、セルロース繊維含有量が0.01〜0.2重量%のセルロース繊維分散液を得、この分散液を濾過して製造されたセルロース繊維膜を、マトリクス材料と複合化することにより製造される。
【0024】
[1]セルロース繊維膜の製造
まず、本発明のセルロース繊維複合材料の製造に好適に用いられる、上記セルロース繊維膜の製造手順に従って、本発明のセルロース繊維複合材料を説明するが、以下の製造方法の説明は本発明のセルロース繊維複合材料を構成するセルロース繊維膜の製造方法の一例であって、本発明のセルロース繊維複合材料に用いられるセルロース繊維膜の製造方法は何ら以下の製造方法に限定されず、また、本発明のセルロース繊維複合材料は、必ずしも以下の方法で製造されたセルロース繊維膜を用いたものに限定されるものではない。
【0025】
本発明に係るセルロース繊維膜(以下「本発明のセルロース繊維膜」と称す場合がある。)は、好ましくは、木質材料を水中で精製処理して得られるセルロース原料液を、100MPa以上の高圧雰囲気下から噴出して減圧する等の特定の方法で解繊(微細化)して得られたセルロース繊維の分散液を、0.01〜0.2重量%に希釈して濾過することにより、濾材上に、分散媒が多く残留するセルロース繊維のウェット膜を製膜し、このウェット膜を加熱プレス成形して製造される。
【0026】
[セルロース繊維原料液の調製]
<セルロース繊維原料>
本発明で使用されるセルロース繊維は、好ましくは木質材料、即ち、針葉樹又は広葉樹等を原料とする。
セルロース繊維の原料としては、他にもバクテリアの産生するバクテリアセルロース、コットンリンターやコットンリント等のコットン、バロニアやシオグサ等の海草やホヤの被嚢等が挙げられる。この中で、特に木質材料からセルロースを得る方法は、製紙工業として古くから工業化されていることから、他の原料に比べてセルロースを容易にかつ効率的に得ることができる点において有利である。しかも、木質材料は、地球上で最大量の生物資源であり、年間約700億トン以上ともいわれる量が生産されている持続型資源あることから、地球温暖化に影響する二酸化炭素削減への寄与も大きく、環境及び経済的な面からも優位である。
【0027】
<精製処理>
上述の木質材料は、水性媒体中で精製処理して木質材料中のセルロース以外の物質、例えばリグニンやヘミセルロース、樹脂(ヤニ)等を除去することが好ましい。
【0028】
この木質材料の精製処理に用いる水性媒体としては、一般的に水が用いられるが、好ましくは酸又は塩基、その他の処理剤の水溶液が用いられ、最終的に水で洗浄処理することが可能である。
また、精製処理時には温度や圧力をかけてもよく、この原料の木質材料は、木材チップや木粉などの状態に破砕してもよく、破砕は精製処理前、処理の途中、処理後、いずれのタイミングで行ってもかまわない。また、精製したセルロースに後述の化学修飾を行ってもよい。
【0029】
なお、精製処理中から精製処理終了後において、セルロースを完全に乾燥させることなく常に水に濡れた状態にしておくと、後のセルロース繊維の解繊(微細化)時に効率良くセルロース繊維分散液を得ることができるので、精製処理中からその終了後において、セルロースを完全に乾燥させないことが好ましい。
【0030】
<木質材料の破砕>
木質材料を精製処理前、処理中、処理後のいずれかにおいて破砕する場合は、例えば、精製処理前であれば衝撃式粉砕機やせん断式粉砕機などを用い、また精製処理中、処理後であればリファイナーなどを用いて、好ましくは粒径500μm以下、より好ましくは粒径300μm以下、更に好ましくは粒径250μm以下に粉砕する。尚、粒径の下限に特に制限はないが、現実的には粒径1μm以上である。
実用的には平均粒径50〜250μm程度に破砕、分級した木粉を原料とするのが好ましい。
【0031】
<処理剤>
木質材料の精製処理に使用する酸又は塩基、その他の処理剤としては、特に限定されるものではないが、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、硫化ナトリウム、硫化マグネシウム、水硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酢酸、シュウ酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、塩素、過塩素酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素、オゾン、ハイドロサルファイト、アントラキノン、ジヒドロジヒドロキシアントラセン、テトラヒドロアントラキノン、アントラヒドロキノン、また、エタノール、メタノール、2−プロパノールなどのアルコール類及びアセトンなどの水溶性有機溶媒などが挙げられる。これらの処理剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、2種以上の処理剤を用いて、2回以上の精製処理を行うこともでき、その場合、異なる処理剤を用いた精製処理間で、水で洗浄処理してもよい。
【0032】
<温度、圧力>
精製処理時の温度、圧力には特に制限はなく、温度は0℃以上100℃以下の範囲で選択され、1気圧を超える加圧下での処理の場合、温度は100℃以上200℃以下とすることが好ましい。
【0033】
<含水量>
セルロースは、精製処理中から精製処理後において、完全に乾燥させることなく常に水に濡れた状態としておくことが好ましく、その含水量の程度としては、セルロース(後述の不純物等も含む)と水との合計重量に対して、水の割合が50重量%以上、特に60重量%以上、とりわけ70重量%以上、最も望ましくは80重量%以上となるような量であることが好ましい。
なお、以下において、この割合を単に「セルロースの含水量」と称す。この含水量は、JIS P8203に準拠した方法で求められる。具体的には、セルロース試料の乾燥前質量を測定後、105℃の乾燥器中で3時間乾燥し、青色シリカゲルのような乾燥剤を入れたデシケータ中で45分間放冷した後、乾燥後質量を測定する。この乾燥前後の質量から含水量を求めることができる。
【0034】
<精製の程度>
木質材料の精製処理で得られるセルロースは、木質材料中のセルロース以外の物質が十分に除去されたものであることが好ましく、精製処理後の不純物含有量は20重量%以下、特に10重量%以下、とりわけ5重量%以下が好ましい。
尚、精製処理後の不純物含有量は、重量法、IR、UV、NMR、液体クロマトグラフィー、TG−DTAなどの公知の手法により調べることができる。
【0035】
[特定の解繊方法]
特定の解繊方法とは繊維径が小さくなればどんな方法を用いてもよい。
例えば、上述のように木質材料を精製処理し、必要に応じて破砕、分級処理して得られたセルロース繊維原料液を高圧雰囲気下から噴出させて減圧することによる解繊方法が挙げられる。また、高速に回転する刃と固定もしくは逆に回転するスリットとの間隙に上記のセルロース繊維原料液を通過させる時に、剪断応力をかけて解繊する回転式解繊方法や、超音波発生装置の振動面に上記セルロース繊維原料液を接触させることにより、発生したキャビテーションが消滅する際に発生する剪断力で解繊する方法等が挙げられる。
【0036】
[噴出による解繊(微細化)処理]
まず、上述のように木質材料を精製処理し、必要に応じて破砕、分級処理して得られたセルロース繊維原料液を高圧雰囲気下から噴出させて減圧することにより解繊(微細化)する方法について詳細に述べる。
【0037】
<セルロース繊維原料液の濃度>
セルロース繊維原料液は、木質材料を処理して得られたセルロースの水性媒体の懸濁液、好ましくは水懸濁液であり、そのセルロース濃度(固形分濃度)は、0.2重量%以上1.0重量%以下、特に0.3重量%以上0.8重量%以下、とりわけ0.4重量%以上0.6重量%以下であることが好ましい。
セルロース繊維原料液中のセルロース濃度が低過ぎると処理するセルロース量に対してセルロース繊維原料液量が多くなり過ぎ効率が悪く、セルロース濃度が高過ぎると細孔からの噴出が困難になる場合がある。
従って、精製等の処理を施して得られたセルロース繊維原料液のセルロース濃度がこの濃度範囲でない場合には、適宜水を添加するなどして上記濃度範囲に調整することが好ましい。
【0038】
<噴出条件>
本発明では、セルロース繊維原料液を100MPa以上の高圧雰囲気下から噴出させて減圧することにより解繊(微細化)する。この噴出手段としては、超高圧ホモジナイザーを用いるのが好ましく、具体的にはセルロース繊維原料液を増圧機で100MPa以上、好ましくは150MPa以上、より好ましくは200MPa以上、更に好ましくは220MPa以上に加圧し、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が50MPa以上、好ましくは80MPa以上、より好ましくは90MPa以上となるように減圧する。この圧力差で生じるへき開現象により、セルロース繊維を解繊(微細化)する。ここで、高圧条件の圧力が低い場合や、高圧から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊(微細化)効率が下がり、所望の微細セルロース繊維を得るための繰り返し噴出回数が多く必要となるため好ましくない。また、セルロース繊維原料液を噴出させる細孔の細孔直径が大き過ぎる場合にも、十分な解繊(微細化)効果が得られず、この場合には、噴出処理を繰り返し行っても、所望の微細セルロース繊維が得られないおそれもある。
【0039】
セルロース繊維原料液の噴出は、必要に応じて複数回繰り返すことにより、微細化度を上げて所望の微細セルロース繊維を得ることができる。この繰り返し回数(パス数)は、通常1回以上、好ましくは3回以上、より好ましくは5回以上、更に好ましくは10回以上で、通常100回以下、好ましくは50回以下、より好ましくは20回以下、更に好ましくは15回以下である。パス数が多い程、微細化の程度を上げることができるが、過度にパス数が多いとコスト高となるため好ましくない。
【0040】
超高圧ホモジナイザーとしては特に限定はないが、具体的装置としてはスギノマシーン社製の「アルティマイザー」を用いることができる。
噴出時の高圧条件は高い程、圧力差により大きなへき開現象でより一層の微細化を図ることができるが、装置仕様の上限として、通常245MPa以下である。
同様に、高圧条件から減圧下への圧力差も大きいことが好ましいが、一般的には、増圧機による加圧条件から大気圧下に噴出することで、圧力差の上限は通常245MPa以下である。
【0041】
また、セルロース繊維原料液を噴出させる細孔の直径は小さければ容易に高圧状態を作り出せるが、過度に小さいと噴出効率が悪くなる。この細孔直径は50μm以上800μm以下、好ましくは100μm以上500μm以下、より好ましくは150μm以上350μm以下である。
【0042】
噴出時の温度(セルロース繊維原料液温度)には特に制限はないが、通常5℃以上100℃以下である。温度が高すぎると装置、具体的には送液ポンプや高圧シール部等の劣化を早める恐れがあるため好ましくない。
【0043】
なお、噴出ノズルは1本でも2本でもよく、噴出させたセルロースを噴出先に設けた壁やボール、リングにぶつけてもよい。更にノズルが2本の場合には噴出先でセルロース同士を衝突させてもよい。
【0044】
[回転式解繊方法による解繊(微細化)]
次に、回転式解繊方法について述べる。
この場合、セルロース繊維原料液の濃度は、上述と同様に0.2重量%以上1.0重量%以下が好ましい。
回転式解繊装置としては、IKA社製のULTRA−TURRAX T−25やT50,T65D、コム・テクニック社製のクレアミックス、KINEMATICA社製のPOLYTRON,MEGATRONなどが挙げられる。
【0045】
クレアミックスを例に説明すると、この装置は、ローターと呼ばれる回転刃と狭い間隙をあけて対峙するスクリーンと呼ばれるスリットを有する固定刃で構成されており、ローターが数万rpmの高速回転することにより、運動エネルギーを与えられたセルロース繊維原料液が、スクリーンスリットを高速で通過する際に大きな剪断力を受け、繊維間からさけるように解繊されるものである。回転数は大きい程、大きな剪断力を発生させるため好ましく、特に1万rpm以上が好ましく、さらに好ましくは2万rpm以上である。スクリーンがローターと逆に回転すれば剪断力はさらに大きくなるため、非常に好ましい。処理時間は、10秒以上1時間以下がよく、さらに好ましくは1分以上30分以下である。処理時間が10秒よりも短いと解繊が不十分であり、1時間を超えても、さらなる解繊度合の向上が望めないため効率的でない。
【0046】
<超音波処理による解繊(微細化)処理>
次に、超音波処理による解繊(微細化)について説明する。
【0047】
上述のセルロース繊維原料液又はセルロース繊維原料液が微細化(解繊)されたセルロース繊維分散液に超音波処理を施すことにより解繊(微細化)する。
【0048】
超音波処理装置としては特に限定はないが、具体的装置としてSMT社製超音波ホモジナイザーUH600Sやヒールッシャー社製のUIP1000、日本エマソン(株)製ソニファイヤーS−450Dなどを用いることができる。
【0049】
超音波の照射時間は長いほど解繊されるが、通常10分以上、好ましくは30分以上、さらに好ましくは60分以上かける。また、4時間以下の照射時間が好ましい。4時間を超える長時間処理では繊維の結晶がこわれ、ゲル状態になってしまい、好ましくない。
【0050】
超音波を連続で処理すると、温度が上昇し続けるので、50%程度の間欠運転を行っても良い。
超音波処理は、ピエゾ素子を共振させて超音波を発生させているので、出力はピエゾ素子の大きさに依存する。低周波になれば高出力にすることができ、高周波になれば低出力になる。周波数は20kHz以上1000kHz以下が好ましい。周波数が20kHz未満では超音波処理の効果が期待できない。周波数が1000kHzを超えるとラジカルが発生し、セルロース繊維にダメージが生じる。出力は300W以上が好ましく、600W以上がより好ましく、1200W以上がさらに好ましい。
【0051】
処理チップは特に限定はないが、チタン合金製を使用してもよい。
【0052】
なお、上述の解繊処理は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。特に超音波処理による解繊は、高圧からの噴出式の解繊方法や回転式の解繊方法を経た後に行うのが効率の点で好ましい。
【0053】
<遠心分離機による処理>
上述の解繊(微細化)されたセルロース繊維分散液から、遠心分離機により十分に解繊された分散液を不十分な解繊しかされていない分散液及び超音波処理を施したときの処理チップの微粒子から分離することができる。十分に解繊された分散液が遠心分離機の処理により上澄みとなる。
【0054】
遠心分離機としては特に限定はないが、具体的装置として日立工機社製遠心分離機CR−22Gを用いることができる。
【0055】
遠心分離機の運転条件は、回転数は5000rpm以上が好ましく、10,000rpm以上がより好ましく、15,000rpm以上がさらに好ましい。運転時間は5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。
【0056】
<セルロース繊維の繊維径・繊維長>
上述の解繊(微細化)処理で得られるセルロース繊維の繊維径は細く、樹脂等のマトリクス材料と複合化した場合、透明性が高いものが得られる点において好ましい。
【0057】
セルロース繊維の繊維径はSEM観察により確認することができるが、上述の方法で得られるセルロース繊維の繊維径は、SEMより観察される繊維径の平均値で4〜200nmであることが好ましい。セルロース繊維の平均繊維径が200nmを超えると、可視光の波長に近づき、マトリクス材料との界面で可視光の屈折が生じ易く、透明性が低下するので好ましくない。また、繊維径が4nm以下の繊維は実質的に製造できない。得られる複合材料の透明性の観点から、セルロース繊維の平均繊維径はより好ましくは4〜100nmである。
【0058】
また、セルロース繊維の長さについては特に限定されないが、平均で100nm以上が好ましい。セルロース繊維の平均長さが100nmより短いと、得られる複合材料の強度が不十分となる恐れがある。
【0059】
[セルロース繊維分散液の濾過]
上述の噴出による解繊(微細化)処理で得られたセルロース繊維分散液を濾過して、セルロース繊維膜を製造する。本発明においては、このセルロース繊維分散液の濾過に当たり、上述の解繊(微細化)処理で得られたセルロース繊維分散液を好ましくはセルロース繊維含有量0.01〜0.2重量%となるように希釈して濾過を行う(以下、この希釈を行った分散液を「セルロース繊維希釈液」と称す場合がある。)。
【0060】
<セルロース繊維希釈液>
本発明に係るセルロース繊維の希釈液のセルロース繊維濃度は0.01〜0.2重量%、好ましくは0.02〜0.15重量%である。このような濃度のセルロース繊維分散液とすることにより、セルロース繊維の分散が等方相となることにより、濾過により異方性のないセルロース繊維膜を得ることができるようになる。
この希釈を行わないと、セルロース繊維分散液が液晶相の状態で濾過を行うことになり、濾過時に発生する濾液の流れによってセルロース繊維が配向し、その結果、得られるセルロース繊維膜が異方性(位相差)を強く持つものとなり、ディスプレイ用途等では問題になる。
【0061】
即ち、セルロース繊維分散液は約0.2重量%濃度以上で液晶相(ネマチック相)を示す。さらに約1重量%濃度になると分散液の粘度が増し、その上高次な相を形成している。セルロース繊維分散液を液晶相を示す濃度よりも高濃度で濾過製膜した場合、セルロース繊維は異方性を持つため、一方向に配向したドメインが複数形成され、又はどの濃度からでも加熱乾燥製膜すると、マルチドメイン構造を持つため、位相差が大きくなるので好ましくない。
セルロース繊維分散液の濾過を行っているときには、概略濾過面を通過する方向へ流れが生ずるが、濾過が進行するに従い、セルロース繊維が堆積し、濾液が通りにくいケーキ層が生じる。そのため、濾過抵抗の小さい部分に向かって、濾液の流れが発生する。その際にセルロース繊維分散液が液晶相の場合は、流動配向してセルロース繊維膜に異方性が発現する。一方、セルロース繊維分散液を希釈して等方相とした場合は、セルロース繊維が個別に堆積するので、濾過により得られるセルロース繊維膜は異方性がなくほぼ等方的になる。
【0062】
なお、このセルロース繊維分散液の希釈に際しては、セルロース繊維分散液を20kHz〜100kHz、100W〜1000W程度の超音波分散機で分散しつつ希釈を行っても良い。このセルロース繊維分散液の希釈には、セルロース繊維分散液中の分散媒と同様の希釈媒体、好ましくは水が用いられる。
【0063】
セルロース繊維分散液が液晶相が等方相かの判断は、直線偏光板を2枚使って行うことができる。通常、直線偏光板2枚を垂直に重ねて透過光観察しても、光が透過しないので黒く見えるだけである。同様に、透過光下で偏光板2枚の間に等方相の液を異方性のない容器に入れて観察すると光が透過しないで黒く見えるだけである。他方、透過光下で偏光板2枚の間に液晶相の液を異方性のない容器に入れて観察すれば、光が部分的に透過するようになり光の模様(テキスチャー)が観察できる。この観察に用いる透過光としては、ハクバ写真産業(株)製ライトビュアー5700等を使用すればよい。
【0064】
<濾材>
セルロース繊維分散液、好ましくはセルロース繊維希釈液の濾過の際に使用する濾過フィルターや濾布等の濾材は、124.5Paの差圧をかけたときの空気の透過度が、1〜20cm・cm−2・min−1、特に2〜15cm・cm−2・min−1、とりわけ3〜10cm・cm−2・min−1であることが好ましい。この濾材の空気の透過度が20cm・cm−2・min−1より大きいと、セルロース繊維分散液(好ましくはセルロース繊維希釈液)中のセルロース繊維が殆ど抜けてしまうという問題が起こる。また、濾材の空気の透過度が1cm・cm−2・min−1より小さいと、セルロース繊維分散液(好ましくはセルロース繊維希釈液)の濾過時間が長くかかりすぎるという問題が起こる。
【0065】
なお、セルロース繊維分散液、好ましくはセルロース繊維希釈液の濾過を行うときには、できるだけ平滑な濾材面上で、水平な状態で濾過を行うことが重要である。凸凹な濾材面上で濾過を行うと、得られるセルロース繊維膜が凸凹になり、光学的観点はもちろん平滑な複合材料を作成する上で障害となる。また、水平でない状態で濾過を行うと、得られるセルロース繊維膜に膜厚差が発生して均一な複合材料を作成する上で望ましくない。
【0066】
なお、濾過を行う際には、セルロース繊維分散液の溶媒を取り除くために吸引濾過を行っても良い。この場合、吸引の減圧度としては−90〜−100kPa程度であることが好ましい。この減圧度が大き過ぎると装置の耐圧のために非常に大がかりになり、実用的でない。また、小さ過ぎると吸引を行うことによる利点を十分に得ることができない。また、加圧濾過を行ってもよい。加圧度としては100〜400kPa程度であることが好ましい。
【0067】
また、本発明においては、濾過による製膜工程において、濾材上に製膜されているウェット膜中の水を最後にアルコール等の有機溶媒に置換しても良く、このような処理を行うことにより、後述するような、比較的空隙率の大きいセルロース繊維膜を得ることができる。この溶媒置換は濾過により水を除去し、濾材上のウェット膜のセルロース繊維含量が5〜99重量%になったところでアルコール等の有機溶媒を加えるものである。又は、セルロース繊維分散液(セルロース繊維希釈液)を濾過装置に投入した後、アルコール等の有機溶媒を投入した分散液の上部に静かに投入することによっても濾過の最後にアルコール等の有機溶媒と置換することができる。
【0068】
ここで用いるアルコール等の有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール等のアルコール類の他、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、トルエン、四塩化炭素等の1種又は2種以上の有機溶媒が挙げられる。非水溶性有機溶媒を用いる場合は、水溶性有機溶媒との混合溶媒にするか水溶性有機溶媒で置換した後、非水溶性有機溶媒で置換することが好ましい。
【0069】
<加熱プレス>
上記のような濾過により濾材上に製膜された、水及び/又は水を溶媒置換した有機溶媒を含むセルロース繊維からなるウェット膜を、加熱プレスすることにより、水及び/又は有機溶媒を除去して本発明のセルロース繊維膜を得ることができる。なお、この加熱プレスに供されるウェット膜の水及び/又は有機溶媒含有量は、通常、65〜95重量%、好ましくは70〜90重量%、さらに好ましくは75〜85重量%である。加熱プレスに供されるウェット膜の水及び/又は有機溶媒含有量が多過ぎると加圧プレス時にウェット膜形状がつぶれる可能性があり、少な過ぎると空孔ができにくくなり、その結果、複合材料作成時にマトリクス材料がセルロース繊維間に入りにくくなる可能性がある。
【0070】
ウェット膜の加熱プレス時の加熱温度は通常70〜170℃、好ましくは90〜150℃、さらに好ましくは110〜130℃である。
この加熱温度が低すぎると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不十分になる可能性があり、加熱温度が高すぎるとセルロース繊維膜が着色したり、分解したりする可能性がある。
【0071】
また、加熱プレスの加圧条件としては、通常、0.02〜2MPa、好ましくは0.05〜1MPa、より好ましくは0.1〜0.5MPaである。この圧力が低すぎると乾燥が不十分になる可能性がり、圧力が高すぎるとセルロース繊維膜がつぶれたり分解する可能性がある。
【0072】
加熱プレス時間は加熱プレスの条件によっても異なるが、通常2〜10分程度である。
【0073】
なお、後述の不織布の化学修飾を行う場合には、この加熱プレスを行った後、化学修飾を行い、最後に、乾燥を行ってもよい。
【0074】
[化学修飾]
本発明で使用されるセルロース繊維は、化学修飾されたセルロース繊維であっても良い。化学修飾とは、セルロース中の水酸基が化学修飾剤と反応して化学修飾されているものである。
なお、化学修飾はセルロース繊維をセルロース繊維膜とした後に行ってもよく、化学修飾した後にセルロース繊維膜としてもよい。好ましくは、セルロース繊維膜とした後に化学修飾を行う。
【0075】
<種類>
化学修飾によってセルロースに導入させる官能基としては、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの中では特にアセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基等の炭素数2〜12のアシル基、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。
【0076】
<修飾方法>
修飾方法としては、特に限定されるものではないが、セルロース繊維と次に挙げるような化学修飾剤とを反応させる方法がある。この反応条件についても特に限定されるものではないが、必要に応じて溶媒、触媒等を用いたり、加熱、減圧等を行うこともできる。
【0077】
化学修飾剤の種類としては、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、イソシアナート、アルコキシシラン、オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルよるなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0078】
酸としては、例えば酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2−ブタン酸、ペンタン酸等が挙げられる。
【0079】
酸無水物としては、例えば無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水プロパン酸、無水ブタン酸、無水2-ブタン酸、無水ペンタン酸等が挙げられる。
ハロゲン化試薬としては、例えばアセチルハライド、アクリロイルハライド、メタクリロイルハライド、プロパノイルハライド、ブタノイルハライド、2−ブタノイルハライド、ペンタノイルハライド、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライド等が挙げられる。
アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。
イソシアナートとしては、例えばメチルイソシアナート、エチルイソシアナート、プロピルイソシアナート等が挙げられる。
アルコキシシランとしては、例えばメトキシシラン、エトキシシラン等が挙げられる。
オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルとしては、例えばエチルオキシラン、エチルオキセタン等が挙げられる。
【0080】
これらの中では特に無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライドが好ましい。
これらの化学修飾剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0081】
<化学修飾率>
ここでいう化学修飾率とは、セルロース繊維中の全水酸基のうちの化学修飾されたものの割合を示し、化学修飾率は下記の滴定法によって測定することができる。
【0082】
〈測定方法〉
セルロース繊維膜0.5gを精秤しこれにメタノール6mL、蒸留水2mLを添加する。これを60〜70℃で30分攪拌した後、0.05N水酸化ナトリウム水溶液10mLを添加する。これを60〜70℃で15分攪拌しさらに室温で一日攪拌する。ここにフェノールフタレインを用いて0.02N塩酸水溶液で滴定する。
ここで、滴定に要した0.02N塩酸水溶液の量Z(ml)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
Q(mol)=0.05(N)×10(ml)/1000
−0.02(N)×Z(ml)/1000
この置換基のモル数Qと、化学修飾率X(mol%)との関係は、以下の式で算出される(セルロース=(C10=(162.14),繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17)。なお、以下において、Tは置換基の分子量である。
【数1】

これを解いていくと、以下の通りである。
【数2】

【0083】
セルロース繊維の化学修飾率は、セルロースの全水酸基に対して、好ましくは65mol%以下、より好ましくは50mol%以下、さらに好ましくは40mol%以下である。
【0084】
この化学修飾率が高すぎると、セルロース構造が破壊され結晶性が低下するため、得られる複合材料の線膨張係数が大きくなってしまうという問題点があり、また、化学修飾反応後に着色してしまったりするので好ましくない。
【0085】
<セルロース繊維膜の化学修飾>
セルロース繊維膜の化学修飾は、通常の方法をとることができる。すなわち、常法に従って、セルロース繊維膜のセルロースと上述の化学修飾剤とを反応させることによって化学修飾を行うことができる。この際、必要に応じて溶媒や触媒を用いたり、加熱、減圧等を行ってもよい。触媒としてはピリジンやトリエチルアミン、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性触媒や、酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることが好ましい。
【0086】
温度条件としては、高すぎるとセルロースの黄変や重合度の低下等が懸念され、低すぎると反応速度が低下することから40〜130℃が好ましい。反応時間は化学修飾剤や化学修飾率にもよるが数分から数十時間である。
このようにして化学修飾を行った後は、反応を終結させるために水で十分に洗浄することが好ましい。未反応の化学修飾剤が残留していると、後で着色の原因になったり、マトリクス材料と複合化する際に問題になったりするので好ましくない。また、水で十分に洗浄した後、さらに残留する水をアルコール等の有機溶媒で置換することが好ましい。この場合、セルロース繊維膜をアルコール等の有機溶媒に浸漬しておくことで容易に置換することができる。
【0087】
[セルロース繊維膜の厚み]
本発明のセルロース繊維膜の厚みは特に制限されるものではないが、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは50μm以上、特に好ましくは80μm以上で、好ましくは10cm以下、さらに好ましくは1cm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは250μm以下である。セルロース繊維膜の厚みは、製造の安定性、強度の点から上記下限以上で厚い方が好ましく、生産性、均一性、樹脂の含浸性の点から上記上限以下で薄い方が好ましい。
【0088】
なお、セルロース繊維膜の厚みは以下のセルロース繊維膜の空隙率の算出の項に記載した方法で求めることができる。
【0089】
[セルロース繊維膜の空隙率]
本発明のセルロース繊維膜は、空隙率が40vol%以上であることが好ましく、さらには45vol%以上60vol%以下であることが好ましい。セルロース繊維膜の空隙率が小さいと、樹脂等のマトリクス材料が含浸しにくくなり、複合材料にしたときに未含浸部が残るため、その界面で散乱が生じてヘーズが高くなり好ましくない。また、セルロース繊維膜の空隙率が大きいと複合材料としたとき、セルロース繊維による十分な補強効果が得られず、線膨張係数が大きくなるので、好ましくない。
【0090】
ここでいう空隙率とは、セルロース繊維膜中における空隙の体積率を示し、空隙率は、セルロース繊維膜の面積、厚み、重量から、下記式によって求めることができる。
空隙率(vol%)={(1−B/(M×A×t)}×100
ここで、Aはセルロース繊維膜の面積(cm)、t(cm)は厚み、Bはセルロース繊維膜の重量(g)、Mはセルロースの密度であり、本発明ではM=1.5g/cmと仮定する。セルロース繊維膜の膜厚は、膜厚計(Mitutoyo(株)製 IP65)を用いて、セルロース繊維膜の種々な位置について10点の測定を行い、その平均値を採用する。
【0091】
また、複合材料中のセルロース繊維膜の空隙率を求める場合、分光分析や、複合材料の断面のSEM観察を画像解析することにより空隙率を求めることもできる。
【0092】
[2] マトリクス材料との複合化
次に、上述のようにして得られたセルロース繊維膜に、セルロース以外の樹脂等のマトリクス材料を複合化して本発明のセルロース繊維複合材料を製造する方法について説明する。
【0093】
[マトリクス材料の屈折率]
本発明で用いるマトリクス材料は、波長587.6nmの光の対する屈折率(25℃)が1.45以上の材料であることが好ましい。マトリクス材料の屈折率はさらに好ましくは1.50以上である。また、マトリクス材料の屈折率は1.65以下であることが好ましい。マトリクス材料の屈折率はさらに好ましくは1.60以下である。
【0094】
マトリクス材料の屈折率が大きすぎると、反射が大きくなり過ぎて得られる複合材料の透過効率が悪くなる。また、マトリクス材料の屈折率が大きすぎる場合も屈折率が小さすぎる場合も、いずれも、セルロース繊維とマトリクス材料との屈折率差が大きくなり過ぎて、得られる複合材料の光散乱が大きくなる。
【0095】
ここで、マトリクス材料の屈折率は例えば次の方法により測定される。
<マトリクス材料の屈折率>
厚み1mmの硬化させた樹脂を20mm×20mmの正方形に切り出し、切断端をポリッシャー等で研磨した後、島津製作所社製カルニューKPR−2000を用いて、波長587.6nmの屈折率をサンプル温度25℃±0.1℃にて測定する。
【0096】
[樹脂材料]
以下に、マトリクス材料としてのセルロース以外の樹脂材料について説明する。セルロース以外の樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等から得られる少なくとも一種の樹脂が挙げられる。
【0097】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0098】
スチレン系樹脂としては、スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等の重合体及び共重合体が挙げられる。
【0099】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の重合体及び共重合体が挙げられる。ここで「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。(メタ)アクリル酸エステルとは(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキルエステル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0100】
芳香族ポリカーボネート系樹脂とは、3価以上の多価フェノール類を共重合成分として含有できる1種以上のビスフェノール類と、ビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される共重合体であり、必要に応じて芳香族ポリエステルカーボネート類とするために共重合成分としてテレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸又はその誘導体(例えば芳香族ジカルボン酸ジエステルや芳香族ジカルボン酸塩化物)を使用してもよいものである。
【0101】
前記ビスフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールS、ビスフェノールZ(略号はアルドリッチ社試薬カタログを参照)等が例示され、中でもビスフェノールAとビスフェノールZ(中心炭素がシクロヘキサン環に参加しているもの)が好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。共重合可能な3価フェノール類としては、1,1,1−(4−ヒドロキシフェニル)エタンやフロログルシノールなどが例示できる。
【0102】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂としては、脂肪族ジオール成分及び/又は脂環式ジオール成分とビスアルキルカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される共重合体である。脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノールやイソソルバイト等が挙げられる。
【0103】
芳香族ポリエステル系樹脂としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のジオール類とテレフタル酸等の芳香族カルボン酸との共重合体が挙げられる。また、ポリアリレートのように、ビスフェノールA等のジオール類とテレフタル酸やイソフタル酸等の芳香族カルボン酸との共重合体も挙げられる。
【0104】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、上記ジオールとコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体やグリコール酸や乳酸等のヒドロキシジカルボン酸の共重合体等が挙げられる。
【0105】
脂肪族ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素数2〜8程度のα−オレフィンの単独重合体、それらのα−オレフィンと、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜18程度の他のα−オレフィン等との二元或いは三元の共重合体等;具体的には、例えば、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状高密度ポリエチレン等のエチレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体等のエチレン系樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂、1−ブテン単独重合体、1−ブテン−エチレン共重合体、1−ブテン−プロピレン共重合体等の1−ブテン系樹脂、及び4−メチル−1−ペンテン単独重合体、4−メチル−1−ペンテン−エチレン共重合体等の4−メチル−1−ペンテン系樹脂等の樹脂、並びに、エチレンと他のα−オレフィンとの共重合体、1−ブテンと他のα−オレフィンとの共重合体、更に、例えば1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、1,4−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン等の非共役ジエンとの二元或いは三元の共重合体等、具体的には、例えばエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合体等のオレフィン系ゴム等が挙げられ、これらのオレフィン系重合体は2種以上が併用されていてもよい。
【0106】
環状オレフィン系樹脂とは、ノルボルネンやシクロヘキサジエン等、ポリマー鎖中に環状オレフィン骨格を含む重合体もしくはこれらを含む共重合体である。例えば、ノルボルネン骨格の繰り返し単位、又はノルボルネン骨格とメチレン骨格の共重合体よりなるノルボルネン系樹脂が挙げられ、市販品としては、JSR製の「アートン」、日本ゼオン製の「ゼネックス」及び「ゼオノア」、三井化学製の「アペル」、チコナ製の「トーパス」等が挙げられる。
【0107】
ポリアミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0108】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体も挙げられる。
【0109】
ポリイミド系樹脂としては、無水ポリメリット酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の共重合体であるピロメリット酸型イミド、無水塩化トリメリット酸やp−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンやジイソシアネート化合物からなる共重合体であるトリメリット酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン等からなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等からなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイミドや4,4’−ジアミノジフェニルメタン等からなるビスマレイミド型ポリイミド等が挙げられる。
【0110】
ポリアセタール系樹脂としては、オキシメチレン構造を単位構造にもつホモポリマーと、オキシエチレン単位を含む共重合体が挙げられる。
【0111】
ポリスルホン系樹脂としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールA等の共重合体が挙げられる。
【0112】
非晶性フッ素系樹脂としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0113】
これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0114】
<硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂、光線硬化性樹脂とは、硬化する前の前駆体もしくは硬化してなる樹脂硬化物のことを意味する。ここで前駆体は、常温では液状、半固体状又は固形状等であって常温下又は加熱下で流動性を示す物質を意味する。これらは硬化剤、触媒、熱又は光の作用によって重合反応や架橋反応を起こして分子量を増大させながら網目状の三次元構造を形成してなる不溶不融の樹脂となり得る。また、樹脂硬化物とは、上記熱硬化性樹脂前駆体又は光硬化性樹脂前駆体が硬化してなる樹脂を意味する。
【0115】
<<熱硬化性樹脂>>
本発明における熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の前駆体が挙げられる。
【0116】
上記エポキシ樹脂前駆体としては、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいう。上記エポキシ樹脂前駆体中のエポキシ基の数としては、1分子あたり1個以上7個以下であることが好ましく、1分子あたり2個以上であることがより好ましい。ここで、前駆体1分子あたりのエポキシ基の数は、エポキシ樹脂前駆体中のエポキシ基の総数をエポキシ樹脂中の分子の総数で除算することにより求められる。上記エポキシ樹脂前駆体としては特に限定されず、例えば、以下に示したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独でも2種以上併用されてもよい。これらエポキシ樹脂は硬化剤を用いて熱硬化性樹脂前躯体を硬化することにより得られる。
【0117】
例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の、ノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ樹脂及びこれらの水添化物や臭素化物等の前駆体が挙げられる。また、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルアジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチルアジペート、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル等の脂環族エポキシ樹脂が挙げられる。また、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、炭素数が2〜9(好ましくは2〜4)のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールやポリテトラメチレンエーテルグリコール等を含む長鎖ポリオールのポリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。また、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル−p−オキシ安息香酸、サリチル酸のグリシジルエーテル−グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂及びこれらの水添化物等が挙げられる。また、トリグリシジルイソシアヌレート、環状アルキレン尿素のN,N’−ジグリシジル誘導体、p−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体のグリシジルアミン型エポキシ樹脂及びこれらの水添化物等が挙げられる。また、グリシジル(メタ)アクリレートと、エチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等のラジカル重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。また、エポキシ化ポリブタジエン等の共役ジエン化合物を主体とする重合体又はその部分水添物の重合体における不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したもの等が挙げられる。また、エポキシ化SBS等のような、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック又はその部分水添化物の重合体ブロックとを同一分子内にもつブロック共重合体における共役ジエン化合物の不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したもの等が挙げられる。また1分子あたり1個以上、好ましくは2個以上のエポキシ基を有するポリエステル樹脂等が挙げられる。また、上記エポキシ樹脂の構造中にウレタン結合やポリカプロラクトン結合を導入した、ウレタン変成エポキシ樹脂やポリカプロラクトン変成エポキシ樹脂等が挙げられる。上記変成エポキシ樹脂としては、例えば、上記エポキシ樹脂にNBR、CTBN、ポリブタジエン、アクリルゴム等のゴム成分を含有させたゴム変成エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、エポキシ樹脂以外に、少なくとも1つのオキシラン環を有する樹脂又はオリゴマーが添加されてもよい。また、フルオレン含有エポキシ樹脂、フルオレン基を含有する熱硬化性樹脂及び組成物、又はその硬化物も挙げられる。これらフルオレン含有エポキシ樹脂は、高耐熱であるため好適に用いられる。上記エポキシ樹脂前駆体の硬化反応に用いられる硬化剤としては、特に限定されず、例えば、アミン化合物、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物等の化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、光潜在性カチオン重合開始剤、ジシアンアミド及びその誘導体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0118】
アクリル樹脂前駆体としては、分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単官能(メタ)アクリレート化合物、分子内に2個又は3個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物、スチレン系化合物、アクリル酸誘導体、分子内に4〜8個の(メタ)アクリロイル基を有するアクリレート化合物、エポキシ(メタ)アクリレート化合物、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単官能(メタ)アクリレート化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0119】
特に、脂環骨格を有するモノ(メタ)アクリレートは、耐熱性が高くなるので、好適に利用することができる。脂環骨格モノ(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば(ヒドロキシ−アクリロイルオキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(ヒドロキシ−メタクリロイルオキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(ヒドロキシ−アクリロイルオキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(ヒドロキシ−メタクリロイルオキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(ヒドロキシメチル−アクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(ヒドロキシメチル−メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(ヒドロキシメチル−アクリロイルオキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(ヒドロキシメチル−メタクリロイルオキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(ヒドロキシエチル−アクリロイルオキシエチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(ヒドロキシエチル−メタクリロイルオキシエチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(ヒドロキシエチル−アクリロイルオキシエチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(ヒドロキシエチル−メタクリロイルオキシエチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン等が挙げられる。また、これらの混合物等を挙げることが出来る。
【0120】
分子中に2個又は3個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール以上のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=アクリレートメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=アクリレートメタクリレート、2,2−ビス[4−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,4−ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]シクロヘキサン等が挙げられる。
【0121】
スチレン系化合物としては、スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0122】
エステル以外の(メタ)アクリル酸誘導体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0123】
これらの中でも、含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート化合物が好適に用いられる。
例えばビス(アクリロイルオキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、ビス(メタクリロイルオキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(アクリロイルオキシ−メタクリロイルオキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、ビス(アクリロイルオキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、ビス(メタクリロイルオキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(アクリロイルオキシ−メタクリロイルオキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、ビス(アクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(アクリロイルオキシメチル−メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、ビス(アクリロイルオキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、ビス(メタクリロイルオキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(アクリロイルオキシメチル−メタクリロイルオキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、ビス(アクリロイルオキシエチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、ビス(メタクリロイルオキシエチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、(アクリロイルオキシエチル−メタクリロイルオキシエチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、ビス(アクリロイルオキシエチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、ビス(メタクリロイルオキシエチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン、(アクリロイルオキシエチル−メタクリロイルオキシエチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン等、及びこれらの混合物等を挙げることが出来る。
【0124】
これらのうち、ビス(アクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン及び(アクリロイルオキシメチル−メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンから選ばれるものが好ましい。これらのビス(メタ)アクリレートは、いくつか併用することもできる。
【0125】
分子内に4〜8個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとしては、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステル等が利用できる。具体的には、ペンタエリスリテールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリテールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールセプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0126】
次にエポキシ(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ基を有する化合物、ビスフェノールA型プロピレンオキサイド付加型の末端グリシジルエーテル、フルオレンエポキシ樹脂等と(メタ)アクリル酸との反応物を挙げることができる。具体的にはビスフェノールAジグリシジルエーテル=ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジプロピレンオキサイドジグリシジルエーテル=ジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル=ジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテル=ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル=ジ(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル=ジ(メタ)アクリレート、グリセリンジグリシジルエーテル=ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル=トリ(メタ)アクリレート、2−ヒドリキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルブチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアミノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0127】
分子内にウレタン結合を有する(メタ)アクリレートとしては、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2〜10個(好ましくは2〜5個)有するウレタンオリゴマー等が挙げられる。例えば、ジオール類及びジイソシアネー類を反応させて得られるウレタンプレポリマーと、ヒドロキシ基含有の(メタ)アクリレートを反応させて製造される(メタ)アクリロイル基含有ウレタンオリゴマーがある。
【0128】
ここで用いるジオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリヘプタメチレングリコール、ポリデカメチレングリコールあるいは二種以上のイオン重合性環状化合物を開環共重合させて得られるポリエーテルジオール等が挙げられる。イオン重合性環状化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブテン−1−オキシド、イソブテンオキシド、3,3−ビスクロロメチルオキセタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、テトラオキサン、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルカーボネート、ブタジエンモノオキシド、イソプレンモノオキシド、ビニルオキセタン、ビニルテトラヒドロフラン、ビニルシクロヘキセンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、安息香酸グリシジルエステル等の環状エーテル類が挙げられる。また、上記イオン性重合性環状化合物と、エチレンイミン等の環状イミン類、β−プロピオラクトン、グリコール酸ラクチド等の環状ラクトン酸、あるいはジメチルシクロポリシロキサン類とを開環共重合させたポリエーテルジオールを使用することもできる。上記二種以上のイオン重合性環状化合物の具体的な組み合わせとしては、テトラヒドロフランとプロピレンオキシド、テトラヒドロフランと2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランとエチレンオキシド、プロピレンオキシドとエチレンオキシド、ブテンオキシドとエチレンオキシド等を挙げることができる。これらのイオン重合性環状化合物の開環共重合体はランダムに結合していてもよいし、ブロック状の結合をしていてもよい。
【0129】
ここまでに述べたこれらのポリエーテルジオールは、例えばPTMG1000、PTMG2000(以上、三菱化学(株)製)、PPG1000、EXCENOL2020、1020(以上、旭オーリン(株)製)、PEG1000、ユニセーフDC1100、DC1800(以上、日本油脂(株)製)、PPTG2000、PPTG1000、PTG400、PTGL2000(以上、保土ヶ谷化学(株)製)、Z−3001−4、Z−3001−5、PBG2000A、PBG2000B(以上、第一工業製薬(株)製)等の市販品としても入手することができる。
【0130】
上記のポリエーテルジオールの他にポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトンジオール等が挙げられ、これらのジオールをポリエーテルジオールと併用して用いることもできる。これらの構造単位の重合様式は特に制限されず、ランダム重合、ブロック重合、グラフト重合のいずれであってもよい。ここで用いるポリエステルジオールとしては、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の多価アルコールとフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマール酸、アジピン酸、セバシン酸等の多塩基酸とを反応して得られるポリエステルポリオール等を挙げることができる。市販品としてはクラポールP−2010、PMIPA、PKA−A、PKA−A2、PNA−2000(以上、(株)クラレ製)等が入手できる。
【0131】
また、ポリカーボネートジオールとしては、例えば1,6−ヘキサンポリカーボネート等が挙げられ、市販品としてはDN−980、981、982、983(以上、日本ポリウレタン(株)製)、PC−8000(米国PPG(株)製)等が挙げられる。
【0132】
さらにポリカプロラクトンジオールとしては、ε−カプロラクトンと、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,2−ポリブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール等の2価のジオールとを反応させて得られるポリカプロラクトンジオールが挙げられる。これらのジオールは、プラクセル205、205AL、212、212AL、220、220AL(以上、ダイセル(株)製)等が市販品として入手することができる。
【0133】
上記以外のジオールも数多く使用することができる。このようなジオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールAのブチレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールFのブチレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールAのブチレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールFのブチレンオキサイド付加ジオール、ジシクロペンタジエンのジメチロール化合物、トリシクロデカンジメタノール、β−メチル−δ−バレロラクトン、ヒドロキシ末端ポリブタジエン、ヒドロキシ末端水添ポリブタジエン、ヒマシ油変性ポリオール、ポリジメチルシロキサンの末端ジオール化合物、ポリジメチルシロキサンカルビトール変性ポリオール等が挙げられる。
【0134】
また上記したようなジオールを併用する以外にも、ポリオキシアルキレン構造を有するジオールとともにジアミンを併用することも可能であり、このようなジアミンとしてはエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、パラフェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン等のジアミンやヘテロ原子を含むジアミン、ポリエーテルジアミン等が挙げられる。
【0135】
好ましいジオールとしては1,4−ブタンジオールの重合体であるポリテトラメチレンエーテルグリコールが挙げられる。このジオールの好ましい分子量は数平均分子量で通常50〜15,000であり、特に500〜3,000である。
【0136】
一方、ジイソシアネート類としては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3′−ジメチルフェニレンジイソシアネート、4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジシクロヘキシル ジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネート、4−ジフェニルプロパンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネートは一種でも、二種以上を併用して用いてもよい。中でもイソホロンジイソシアネートやノルボルナンジイソシアネート、メチレンジシクロヘキシル ジイソシアネートなどの脂環骨格を有するジイソシアネートが好適に用いられる。
【0137】
また、反応に用いるヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリロイルフォスフェート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、さらにアルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応により得られる化合物も挙げることができる。これらのうち、特に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0138】
市販のウレタンオリゴマーとしては、EB2ECRYL220(ダイセル・サイテック)、アートレジンUN-3320HA(根上工業)、アートレジンUN-3320HB(根上工業)、アートレジンUN-3320HC(根上工業)、アートレジンUN-330(根上工業)及びアートレジンUN-901T(根上工業)、NK-オリゴU-4HA(新中村化学)、NK-オリゴU-6HA(新中村化学)、NK-オリゴU-324A(新中村化学)、NK-オリゴU-15HA(新中村化学)、NK-オリゴU-108A(新中村化学)、NK-オリゴU-200AX(新中村化学)、NK-オリゴU-122P(新中村化学)、NK-オリゴU-5201(新中村化学)、NK-オリゴU-340AX(新中村化学)、NK-オリゴU-511(新中村化学)、NK-オリゴU-512(新中村化学)、NK-オリゴU-311(新中村化学)、NK-オリゴUA-W1(新中村化学)、NK-オリゴUA-W2(新中村化学)、NK-オリゴUA-W3(新中村化学)、NK-オリゴUA-W4(新中村化学)、NK-オリゴUA-4000(新中村化学)、NK-オリゴUA-100(新中村化学)、紫光UV-1400B(日本合成化学工業)、紫光UV-1700B(日本合成化学工業)、紫光UV-6300B(日本合成化学工業)、紫光UV-7550B(日本合成化学工業)、紫光UV-7600B(日本合成化学工業)、紫光UV-7605B(日本合成化学工業)、紫光UV-7610B(日本合成化学工業)、紫光UV-7620EA(日本合成化学工業)、紫光UV-7630B(日本合成化学工業)、紫光UV-7640B(日本合成化学工業)、紫光UV-6630B(日本合成化学工業)、紫光UV-7000B(日本合成化学工業)、紫光UV-7510B(日本合成化学工業)、紫光UV-7461TE(日本合成化学工業)、紫光UV-3000B(日本合成化学工業)、紫光UV-3200B(日本合成化学工業)、紫光UV-3210EA(日本合成化学工業)、紫光UV-3310B(日本合成化学工業)、紫光UV-3500BA(日本合成化学工業)、紫光UV-3520TL(日本合成化学工業)、紫光UV-3700B(日本合成化学工業)、紫光UV-6100B(日本合成化学工業)、紫光UV-6640B(日本合成化学工業)等が使用できる。
【0139】
分子内にウレタン結合を有する(メタ)アクリレートの数平均分子量は1,000〜100,000が好ましく、更に好ましくは2,000〜10,000である。中でもメチレンジシクロヘキシルジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールを有するウレタンアクリレートは透明性、低複屈折性、柔軟性等の点により優れており、好適に利用することができる。
【0140】
オキセタン樹脂前駆体としては、少なくとも1個のオキセタン環を有する化合物が挙げられる。上記オキセタン樹脂前駆体中のオキセタン環の数は、1分子あたり1個以上、4個以下が好ましい。分子中に1個のオキセタンを有する化合物としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル{[−3−(トリエトキシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、3−エチル−3−メタクリロキシメチルオキセタンなどが挙げられる。分子中に2個のオキセタンを有する化合物としては、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル等が挙げられる。3〜4個のオキセタン環を有する化合物としては、分枝状のポリアルキレンオキシ基やポリシロキシ基と3−アルキル−3−メチルオキセタンの反応物などが挙げられる。
【0141】
フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール等のフェノール類とホルムアルデヒド等を反応させノボラック等を合成し、これをヘキサメチレンテトラミン等で硬化させたもの等が挙げられる。
【0142】
ユリア樹脂としては、尿素等とホルムアルデヒド等の重合反応物が挙げられる。
【0143】
メラミン樹脂としては、メラミン等とホルムアルデヒド等の重合反応物が挙げられる。
【0144】
不飽和ポリエステル樹脂としては、不飽和多塩基酸等と多価アルコール等より得られる不飽和ポリエステルを、これと重合する単量体に溶解し硬化した樹脂等が挙げられる。
珪素樹脂前駆体としては、オルガノポリシロキサン類を主骨格とするものが挙げられる。
ポリウレタン樹脂前駆体としては、グリコール等のジオール類と、ジイソシアネートからなる重合反応物等が挙げられる。
【0145】
ジアリルフタレート樹脂としては、ジアリルフタレートモノマー類とジアリルフタレートプレポリマー類からなる反応物が挙げられる。
【0146】
これら熱硬化性樹脂の硬化剤、硬化触媒としては特に限定はないが、例えば、アミン化合物、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物等の化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、ジシアンアミド及びその誘導体等が挙げられる。これらは単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0147】
<<光硬化性樹脂>>
本発明における光硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、上述の熱硬化性樹脂の説明において例示したエポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂等の前駆体が挙げられる。
【0148】
これら光硬化性樹脂の硬化剤としては特に限定はないが、例えばジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等が挙げられる。
【0149】
今まで述べた熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂は、適宜、連鎖移動剤、紫外線吸収剤、充填剤、シランカップリング剤等と配合した硬化性組成物として用いられる。
【0150】
反応を均一に進行させる目的等で硬化性組成物は連鎖移動剤を含んでも良い。例えば、分子内に2個以上のチオール基を有する多官能メルカプタン化合物を用いることができ、これにより硬化物に適度な靱性を付与する事が出来る。メルカプタン化合物としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(β−チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオグリコレート)、ジエチレングリコールビス(β−チオプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(β−チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(β−チオプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(β−チオグリコレート)等の2〜6価のチオグリコール酸エステル又はチオプロピオン酸エステル;トリス[2−(β−チオプロピオニルオキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2−(β−チオグリコニルオキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2−(β−チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2−(β−チオグリコニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2−(β−チオプロピオニルオキシ)プロピル]トリイソシアヌレート、トリス[2−(β−チオグリコニルオキシ)プロピル]トリイソシアヌレート等のω−SH基含有トリイソシアヌレート;ベンゼンジメルカプタン、キシリレンジメルカプタン、4、4’−ジメルカプトジフェニルスルフィド等のα,ω−SH基含有化合物等が挙げられる。これらの中でもペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、トリス[2−(β−チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレートなどの1種又は2種以上を用いるのが好ましい。メルカプタン化合物を入れる場合は、ラジカル重合可能化合物の合計に対して、通常30重量%以下の割合で含有させる。
【0151】
着色防止目的で硬化性組成物は紫外線吸収剤を含んでも良い。例えば、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれるものであり、その紫外線吸収剤は1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用しても良い。具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4、4’−ジメトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ターシャリーブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物、その他マロン酸エステル系のホスタビンPR−25(クラリアント社)、蓚酸アニリド系のサンデュボアVSU(クラリアント社)などの化合物である。紫外線吸収剤を入れる場合は、ラジカル重合可能化合物の合計100重量部に対して、通常0.01〜1重量部の割合で含有させる。
【0152】
また、セルロース以外の充填剤を含んでも良い。例えば、無機粒子や有機高分子などが挙げられる。具体的には、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子などの無機粒子、ゼオネックス(日本ゼオン社)やアートン(JSR社)などの透明シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートやPMMAなどの汎用熱可塑性ポリマーなどが挙げられる。中でも、ナノサイズのシリカ粒子を用いると透明性を維持することができ好適である。また、紫外線硬化性モノマーと構造の似たポリマーを用いると高濃度までポリマーを溶解させることが可能であり、好適である。
【0153】
また、シランカップリング剤を添加しても良い。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)メチルジエトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ−(アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等は分子中に(メタ)アクリルないしアクリル基を有しており、本発明に係る硬化性組成物中の他のモノマーと共重合することができるので好ましい。シランカップリング剤は、ラジカル重合可能化合物の合計100重量部に対して通常0.1重量部以上50重量部以下となるように含有させる。好ましくは1重量部以上20重量部以下、特に好ましくは1重量部以上20重量部以下である。0.1重量部よりも少ない場合には、これを含有させる効果が十分に得られず、また50重量部よりも多い場合には、硬化体の透明性などの光学特性が損なわれる恐れがある。
【0154】
セルロース繊維膜に樹脂を複合化させるための硬化性組成物は、公知の方法で重合硬化させて、硬化体とすることができる。
例えば、熱硬化、又は放射線硬化等が挙げられる。好ましくは放射線硬化である。放射線としては、赤外線、可視光線、紫外線、電子線等が挙げられるが、好ましくは光である。更に好ましくは波長が200nm〜450nm程度の光であり、更に好ましくは波長が300〜400nmの紫外線である。
【0155】
具体的には、予め硬化性組成物に加熱によりラジカルを発生する熱重合開始剤を添加しておき、加熱して重合させる方法(以下「熱重合」という場合がある)、予め硬化性組成物に紫外線等の放射線によりラジカルを発生する光重合開始剤を添加しておき、放射線を照射して重合させる方法(以下「光重合」という場合がある)等、及び熱重合開始剤と光重合開始自在を併用して予め添加しておき、熱と光の組み合わせにより重合させる方法が挙げられ、本発明においては光重合がより好ましい。
【0156】
光重合開始剤としては、通常、光ラジカル発生剤が用いられる。光ラジカル発生剤としては、この用途に用い得ることが知られている公知の化合物を用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドが好ましい。これらの光重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0157】
光重合開始剤の成分量は、硬化性組成物中の光硬化性樹脂の合計を100重量部としたとき、0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上、更に好ましくは0.05重量部以上である。その上限は、通常1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下、更に好ましくは0.1重量部以下である。光重合開始剤の添加量が多すぎると、重合が急激に進行し、得られる硬化物の複屈折を大きくするだけでなく色相も悪化する。例えば、開始剤の濃度を5重量部とした場合、開始剤の吸収により、紫外線の照射と反対側に光が到達できずに未硬化の部分が生ずる。また、黄色く着色し色相の劣化が著しい。一方、少なすぎると紫外線照射を行っても重合が十分に進行しないおそれがある。
【0158】
また、熱重合開始剤を同時に含んでも良い。例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド等が挙げられる。具体的にはベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)ジクミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等を用いることができる。光照射時に熱重合が開始されると、重合を制御することが難しくなるので、これらの熱重合開始剤は好ましくは1分半減期温度が120℃以上であることがよい。これらの重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0159】
[セルロース繊維膜とマトリクス材料との複合化方法]
本発明のセルロース繊維膜に樹脂を複合化して本発明のセルロース繊維複合材料を得る方法としては、特に制限はないが、本発明のセルロース繊維膜にマトリクス材料の樹脂のモノマーを含浸させて重合させる方法;本発明のセルロース繊維膜に熱硬化性樹脂前駆体又は光硬化性樹脂前駆体を含浸させて硬化させる方法;マトリクス材料の樹脂の溶液を本発明のセルロース繊維膜に含浸させて乾燥後、加熱プレス等で密着させる方法;本発明のセルロース繊維膜にマトリクス材料の熱可塑性樹脂の溶融液を含浸させ、加熱プレス等で密着させる方法等が挙げられる。
【0160】
セルロース繊維膜に、モノマーを含浸させて重合させる方法としては、熱可塑性樹脂のモノマーと必要に応じて重合触媒や開始剤をセルロース繊維膜に含浸させ、加熱等で重合させて複合材料を得る方法が挙げられる。
【0161】
熱硬化性樹脂前駆体又は光硬化性樹脂前駆体を含浸させて硬化させる方法としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂前駆体又はアクリル樹脂等の光硬化性樹脂前駆体と硬化剤の混合物を、セルロース繊維膜に含浸させ、熱又は光等により上記熱硬化性樹脂前駆体又は光硬化性樹脂前駆体を硬化させることにより複合材料を得る方法が挙げられる。この場合、照射する放射線の量は、光重合開始剤がラジカルを発生させる範囲であれば任意であるが、極端に少ない場合は重合が不完全となるため硬化物の耐熱性、機械特性が十分に発現されず、逆に極端に過剰な場合は硬化物の黄変等の光による劣化を生じるので、モノマーの組成及び光重合開始剤の種類、量に合わせて、波長300〜450nmの紫外線を、好ましくは0.1J/cm以上200J/cm以下の範囲で照射する。更に好ましくは1J/cm以上20J/cmの範囲で照射する。放射線を複数回に分割して照射すると、より好ましい。すなわち1回目に全照射量の1/20〜1/3程度を照射し、2回目以降に必要残量を照射すると、複屈折のより小さな硬化物が得られる。使用するランプの具体例としては、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ、紫外線LEDランプ等を挙げることができる。
重合をすみやかに完了させる目的で、光重合と熱重合を同時に行ってもよい。この場合には、放射線照射と同時に硬化性組成物を30℃以上300℃以下の範囲で加熱して硬化を行う。この場合、硬化性組成物には、重合を完結するために熱重合開始剤を添加してもよいが、大量に添加すると硬化物の複屈折の増大と色相の悪化をもたらすので、熱重合開始剤は、モノマー量の合計100重量部に対して通常0.1重量部以上2重量部以下、より好ましくは0.3重量部以上1重量部以下となるように用いる。
【0162】
樹脂溶液を含浸させて乾燥後、加熱プレス等で密着させる方法としては、樹脂をその樹脂が溶解する溶媒に溶解させ、その溶液をセルロース繊維膜に含浸させ、乾燥させることで複合材料を得る方法が挙げられる。この場合、乾燥後、加熱プレス等で溶媒が乾燥した空隙を密着させることでより高性能な複合材料を得ることができる。
【0163】
熱可塑性樹脂の溶融液を含浸させ、加熱プレス等で密着させる方法等としては、熱可塑性樹脂をそのガラス温度又は融点以上の温度で溶融させ、セルロース繊維膜に含浸させ、加熱プレス等で密着させる方法を挙げることができる。
【0164】
このようにして製造される複合材料は複数枚重ねて積層体とすることができる。この積層体に加熱プレス処理を加えることで厚膜化することができる。このようにして得られる厚膜の複合材料は、グレージングや構造材料として用いることができる。
【0165】
[3]セルロース繊維複合材料の物性
以下に本発明のセルロース繊維複合材料の物性ないしは好適物性について説明する。
【0166】
[セルロース繊維含有量]
本発明のセルロース繊維複合材料のセルロース繊維含有量は40重量%以上であることを特徴とする。本発明のセルロース繊維複合材料のセルロース繊維含有量は好ましくは45重量%以上であり、70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。セルロース繊維複合材料のセルロース繊維含有量が少なすぎると、セルロース繊維間の結合数が減少して複合材料の強度が低下するといった問題点がある。逆に、セルロース繊維含有量が多すぎるとセルロース繊維間にできる空隙にマトリクス材料が均一に複合化することが難しくなり、光散乱が大きくなり、また、均一性が低下して複合材料に歪みが発生するといった問題点がある。
【0167】
また、本発明のセルロース繊維複合材料中のマトリクス材料含有量は60重量%以下であることが好ましく、より好ましくは55重量%以下で、30重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは40重量%以上である。セルロース繊維複合材料のマトリクス材料含有量が少なすぎると、セルロース繊維間にできる空隙にマトリクス材料が均一に複合化することが難しくなり光散乱が大きくなり、また、均一性が低下して複合材料に歪みが発生するといった問題点がある。逆に、マトリクス材料含有量が多すぎるとセルロース繊維間の結合数が減少して複合材料の強度が低下するといった問題点がある。
【0168】
複合材料中のセルロース繊維及びマトリクス材料の含有量は、例えば、マトリクス材料である樹脂含浸前のセルロース繊維膜の重量と含浸後の複合材料の重量より求めることができる。また、複合材料をマトリックス樹脂が可溶な溶媒に浸漬して樹脂のみを取り除き、残ったセルロース繊維膜の重量から求めることもできる。その他、樹脂の比重から求める方法や、NMR、IRを用いて樹脂やセルロースの官能基を定量して求めることもできる。
【0169】
[厚み]
本発明の複合材料の厚みは、好ましくは20μm以上、10mm以下であり、このような厚みのセルロース繊維複合材料とすることで、十分な強度を得ることができる。複合材料の厚みはより好ましくは25μm以上、8mm以下であり、さらに好ましくは30μm以上、5mm以下である。
【0170】
ここで、セルロース繊維複合材料の厚みは、膜厚計(ミツトヨ(株)製「IP65」)を用いて、セルロース繊維複合材料の任意の位置について3〜10点の測定を行い、その平均値を厚みとして算出した値である。
【0171】
なお、本発明の複合材料は、好ましくはこのような厚みの膜状(フィルム状)又は板状であるが、平膜又は平板に限らず、曲面を有する膜状又は板状とすることもできる。また、その他の異形形状であっても良い。また、厚みは必ずしも均一である必要はなく、部分的に異なっていても良い。
【0172】
[ヘーズ]
本発明のセルロース繊維膜と透明樹脂とを複合化した複合材料は、透明性の高い、すなわちヘーズの低い材料とすることができる。
この複合材料のヘーズ値は、膜厚10〜200μmのいずれかにおいて、JIS K7136に従って測定した値として、10%以下であり、特にこの値は5%以下、とりわけ2以下、更には1%以下であることが各種透明材料として用いる場合に好ましい。
セルロース繊維複合材料のヘーズが大きすぎると、光散乱が大きくなるので透過する光強度が低下し、コントラストが低下するといった問題点がある。
セルロース繊維複合材料のヘーズの測定は、例えばJIS K7136に準拠したスガ試験機製ヘーズメータを用いて行い、C光の値を用いて行うことができる。
【0173】
有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ及び液晶ディスプレイの基板でヘーズが大きいと、平行光線透過率が落ちてコントラスト比の低下が起き、ディスプレイの性能低下につながるという問題が起こる。
本発明のセルロース繊維複合材料は、ヘーズが小さいため、このような問題を解消することができる。
【0174】
[位相差]
本発明のセルロース繊維複合材料は、厚み50μmにおける位相差が20nm以下であることを特徴とする。この位相差は好ましくは10nm以下である。位相差が大きすぎると、コントラストが低下して黒が白みを帯びるといった問題点がある。
セルロース繊維複合材料の位相差は、大塚電子社製RETS−100型位相差フィルム・光学材料評価装置を用いて、回転検光子法で波長が589nmにおける位相差を測定し、セルロース繊維複合材料の厚みから下記式により50μm当りの位相差として算出した値である。
セルロース繊維複合材料の位相差=
位相差の測定値×(50(μm)/セルロース繊維複合材料の厚み(μm))
【0175】
有機エレクトロルミネッセンスディスプレイでは写りこみ防止のために基板に円偏光板を貼合しているが、基板の位相差が無いものと設計されているので、基板に位相差があると位相がずれて写りこみが起こってしまうという問題が起こる。液晶ディスプレイでは液晶の偏向角制御により明度の制御を行っているが、基板に位相差が出ると明度がずれてしまい色相もずれてしまうという問題が起こる。
本発明のセルロース繊維複合材料であれば、位相差が小さいために、このような問題を解消することができる。
【0176】
[全光線透過率]
本発明のセルロース繊維複合材料の全光線透過率は、膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいて87%以上であることが好ましく、89%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率が低いと、セルロース繊維複合材料が白っぽくなり、不透明になるといった問題がある。また、光学用途で使用するときに光透過効率が悪くなるといった問題がある。
【0177】
なお、セルロース繊維複合材料の全光線透過率は、JIS K7105に準拠しているスガ試験機製ヘーズメータを用いてC光により測定される。ここで、全光線透過率は平行光線透過率と拡散透過率を加算したものである。
【0178】
[光透過率]
本発明のセルロース繊維複合材料は、ディスプレイ用途に求められる光学特性として、400nmから800nmの全波長領域での光透過率が85%以上であることが好ましく、86%以上の光透過率を有することがさらに好ましい。セルロース繊維複合材料の光透過率が小さいと、セルロース繊維複合材料が白っぽくなり、不透明になるといった問題がある。また、光学用途で使用するときに光透過効率が悪くなるといった問題がある。
【0179】
また、ディスプレイ用途に求められる光学特性として、400nmから600nmの波長領域で光透過率の傾きが0.022%/nm以下であることが好ましく、この傾きは更に0.020%/nm以下であることが好ましい。この光透過率の傾きが大きいと、色相バランスが悪くなり着色するといった問題がある。
なお、この光透過率の傾きとは、光透過率を縦軸、波長を横軸とする光透過率のチャートにおいて、波長400nmにおける光透過率と波長600nmにおける光透過率を結ぶ直線の傾きをさし、400nmにおける光透過率と600nmにおける光透過率との差を、波長帯域幅200nm(=600nm−400nm)で除して求められる値である。
【0180】
[線膨張係数]
本発明のセルロース繊維複合材料は、本発明のセルロース繊維膜を用いることで、線膨張係数の低い材料とすることができる。
この複合材料の線膨張係数は0.5〜50ppm/Kであることが好ましく、30ppm/K以下であることがさらに好ましく、20ppm/K以下であることが特に好ましい。
【0181】
セルロース繊維複合材料の線膨張係数が大きすぎると、複合材料の加熱プロセス時に膨張収縮して、例えば、セルロース繊維複合材料上のパターン配線が断線するといった問題点がある。線膨張係数が小さすぎると、この複合材料に積層した材料との線膨張係数差が大きくなり、剥がれが発生するといった問題点がある。
なお、この線膨張係数は、SII製TMA120により測定される。
【0182】
有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ及び液晶ディスプレイの基板で線膨張係数が大きいと、製造プロセスで必要な加熱時に断線などの問題が起こる。
本発明のセルロース繊維複合材料は、線膨張係数が低いため、このような問題を解消することができる。
【0183】
[4]セルロース繊維複合材料の用途
本発明のセルロース繊維複合材料は、セルロースの伸びきり鎖結晶のために低線膨張率であり、高弾性、高強度を発現する。また、セルロース繊維を微細化すると共に配向を抑えたことで、透明樹脂と複合化した際、透明性が高く、着色、ヘーズの小さい、しかも低位相差で光学的等方性の高い複合材料を得ることができる。
このように光学特性に優れるため、本発明の複合材料は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイや基板やパネルとして好適である。これらの用途においては、フレキシブルな材料としてガラス代替が可能であり、軽量化、柔軟性、成形性、意匠性等の向上効果が得られる。
また、本発明のセルロース繊維複合材料は、低線膨張率、高弾性、高強度等の特性を生かして透明材料用途以外の構造材料としても用いることができる。特に、グレージング、内装材、外板、バンパー等の自動車材料やパソコンの筐体、家電部品、包装用資材、建築資材、土木資材、水産資材、その他工業用資材は等として好適に用いられる。
【実施例】
【0184】
以下、製造例、実施例及び比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0185】
なお、以下において、製造したセルロース繊維、セルロース繊維膜及びセルロース繊維複合材料の物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
【0186】
<セルロース繊維膜の厚み・空隙率>
空隙率は、セルロース繊維膜の面積、厚み、重量から、下記式によって求めた。
空隙率(vol%)={(1−B/(M×A×t)}×100
ここで、Aはセルロース繊維膜の面積(cm)、t(cm)は厚み、Bはセルロース繊維膜の重量(g)、Mはセルロースの密度であり、本発明ではM=1.5g/cmと仮定する。セルロース繊維膜の膜厚は、膜厚計(Mitutoyo(株)製 IP65)を用いて、セルロース繊維膜の種々な位置について10点の測定を行い、その平均値を採用した。
【0187】
<セルロース繊維複合材料の厚み>
膜厚計(ミツトヨ(株)製「IP65」)を用いて、セルロース繊維複合材料の任意の位置について3〜10点の測定を行い、その平均値を厚みとした。
【0188】
<セルロース繊維複合材料のセルロース繊維含有量>
用いたセルロース繊維膜(又はバクテリアセルロース膜)の重さと得られたセルロース繊維複合材料の重さから求めた。
【0189】
<セルロース繊維複合材料の位相差>
大塚電子社製RETS−100型位相差フィルム・光学材料評価装置を用いて回転検光子法で波長589nmにおける位相差を測定し、上記の厚み測定で求めた厚みから50μm当りの位相差を算出した。
【0190】
<セルロース繊維複合材料のヘーズ>
JIS K7136に準拠し、スガ試験機製ヘーズメータを用いてC光によるヘーズ値を測定した。
【0191】
<セルロース繊維複合材料の全光線透過率>
JIS K7105に準拠し、スガ試験機製ヘーズメータを用いてC光による全光線透過率を測定した。
【0192】
<セルロース繊維複合材料の光透過率>
日立製作所社製分光光度計U−4000を用いて波長200nmから800nmの波長領域において光透過率を測定した。
この光透過率の測定において、400nmと600nmの光透過率の差を求め、それを波長帯域幅200nmで除算して光透過率の傾きを求めた。
また、この400〜800nmの波長帯域における最小の光透過率を求めた。
【0193】
<セルロース繊維複合材料の線膨張係数>
得られた複合材料をレーザーカッターにより、3mm幅×40mm長に切断した。これを、SII製TMA120を用いて引張りモードでチャック間20mm、荷重10g、窒素雰囲気下、室温から180℃まで5℃/min.で昇温、180℃から25℃まで5℃/min.で降温、25℃から180℃まで5℃/min.で昇温した際の2度目の昇温時の60℃から100℃の測定値から線膨張係数を求めた。
【0194】
<樹脂の屈折率>
厚み1mmの硬化させた樹脂を20mm×20mmの正方形に切り出し、切断端をポリッシャー等で研磨した後、島津製作所社製カルニューKPR−2000を用いて、波長587.6nmの屈折率をサンプル温度25℃±0.1℃にて測定した。
【0195】
[製造例1:セルロース繊維分散液1の製造]
米松木粉((株)宮下木材)を炭酸ナトリウム2重量%水溶液で80℃にて6時間脱脂処理した。これを脱塩水で洗浄した後、亜塩素酸ナトリウム0.66重量%、酢酸0.14重量%に調整した水溶液を加えて80℃にて5時間浸漬してリグニン除去を行った。次いで、脱塩水洗浄した後、濾過し、回収した精製セルロースを脱塩水で洗浄後、5重量%の水酸化カリウム水溶液に16時間浸漬してヘミセルロース除去を行った。更に脱塩水で洗浄した後に、セルロース繊維原料の0.5重量%の水懸濁液とし、この水懸濁液を超高圧ホモジナイザー(アルティマイザー「シングルノズルタイプ/細孔直径150μm」スギノマシン社製を使用し、245MPaに加圧して、常圧下に噴出し、パス数10回の処理でセルロース繊維分散液1を得た。
【0196】
[製造例2:セルロース繊維分散液2の製造]
セルロース繊維原料の0.5重量%の水懸濁液の超高圧ホモジナイザーによるパス数を30回としたこと以外は製造例1と同様にしてセルロース繊維分散液2を得た。
【0197】
[製造例3:セルロース繊維分散液3の製造]
製造例1と同様にして製造したセルロース繊維原料の0.5重量%の水懸濁液をパス数を5回としたこと以外は製造例1と同様にして、超高圧ホモジナイザーで処理し、その後、SMT社製超音波ホモジナイザーUH600S(20kHz)を使用してパワー目盛り8で、60分間(50%の間欠運転)処理した。このときの出力を水の温度上昇から測定したところ、224Wであった。その後、日立工機社製遠心分離機CR−22Gを使用して18,000rpmで30分処理して上澄みを取り出し、これをセルロース繊維分散液3とした。
【0198】
[製造例4:セルロース繊維分散液4の製造]
製造例1と同様にして製造したセルロース繊維原料の0.5重量%の水懸濁液1リットルを、増幸産業(株)製の石臼式摩砕機「スーパーマスコロイダーMKCA6−2」に投入し、GC6−80の石臼を用いて、ギャップ間を80μmにして回転数1500rpmで摩砕処理した。摩砕機を通った処理済みセルロース繊維分散液を再び原料投入口に投入し、合計10回摩砕機を通し、セルロース繊維分散液4を得た。
【0199】
[製造例5:バクテリアセルロース膜の製造]
凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株に培養液を加え、1週間静置培養した(25〜30℃)。培養液表面に生成したバクテリアセルロースのうち、厚みが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加えた。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で30日間の静地培養を行った。培養液には、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)を用いた。
【0200】
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、2重量%のアルカリ水溶液で2時間煮沸し、その後、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗して、アルカリ処理液を除去し、バクテリアセルロース中のバクテリアを溶解除去して、厚み1cm、繊維含有率1体積%、水含有率99体積%の含水バクテリアセルロースを得た。この含水バクテリアセルロースを2−プロパノールに浸漬し、120℃、2MPaで5分間プレス成形乾燥して、更に水、エタノール浸漬した後、120℃、2MPaで5分間再加熱プレスすることにより、厚み50μm、空隙率48.0vol%のバクテリアセルロース膜を得た。プレス機にかけた圧力はゲージの読み値であり、使用した加熱プレス機は井元製作所製小型加熱プレス(10t)180Cである。
【0201】
[製造例6:コットンリンターセルロース繊維分散液の製造]
米松木粉の代りにコットンリンターを用いたこと以外は、製造例1と同様に脱脂、リグニン除去、及びヘミセルロース除去を行って脱塩水洗浄した後、0.5重量%の水懸濁液とした。この水懸濁液1リットルを、製造例4と同様にして、10回摩砕処理してコットンリンターセルロース繊維分散液を得た。
【0202】
[実施例1]
製造例1で製造したセルロース繊維分散液1を水でセルロース繊維濃度0.13重量%に希釈して十分に撹拌し、その150gをアドバンテック製濾過フィルターT100A090C(200kPaの差圧をかけたときの空気の透過度18100cm・cm−2・min−1、外挿すれば124.5Paのとき4.6cm・cm−2・min−1)を水平にセットしたアドバンテック製減圧濾過システム用器具KG−90を用いて吸引濾過を行った。吸引濾過時の減圧度は約−90kPaとし、濾過終盤にイソプロピルアルコール(IPA)約30mlを添加して濾過を行った。濾過後、120℃、2MPa、5分の条件で加熱プレスを行った。プレス機にかけた圧力はゲージの読み値であり、使用した加熱プレス機は井元製作所製小型加熱プレス(10t)180Cである。加熱プレスは、濾過後の溶媒が多く残ったセルロース繊維からなるウェット膜を濾過フィルター上に載せたままPET(ポリエチレンテレフタレート)メッシュ(目開き1μm)で覆い、厚み1mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)板で挟んで、さらに120℃で加熱しておいた厚み10mmのSUS板で挟んで行い、これにより、セルロース繊維膜の成形乾燥を行った。加熱プレス後、セルロース繊維膜だけを取り出した。
【0203】
得られたセルロース繊維膜を用いて、以下の方法でセルロース繊維複合材料を製造した。
マトリクス材料としてビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン94重量部、ペンタエリスリトールテトラキスチオ(β−プロピオネート)6重量部、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製ルシリンTPO)0.05重量部、及びベンゾフェノン0.05重量部を混合した溶液に、セルロース繊維膜を含浸させた。これを2枚のガラス板間にはさみ、出力184W/cmの無電極水銀ランプ(フュージョンUV システムズ社製「Dバルブ」)を用いて、被照射ガラス面の照射光量300mW/cmで、0.2秒間、23℃で紫外線を照射した。紫外線照射後のガラス面の温度は25℃であった。次いで、先と反対側のガラス面に紫外線を照射するため、試料を上下反転させ、前回と同様の条件で紫外線を照射した後、さらに、被照射ガラス面の照射光線量1800mW/cmで2秒間紫外線を照射した。紫外線照射後のガラス面の温度は40℃であった。紫外線照射終了後、ガラス板よりはずしてセルロース繊維複合材料を得た。尚、紫外線の照度は、オーク製作所製紫外線照度計「UV−M02」で、アタッチメント「UV−35」を用いて、320〜390nmの紫外線の照度を23℃で測定した。
【0204】
なお、このセルロース繊維複合材料を構成するマトリクス材料としての樹脂の屈折率は1.53である。
【0205】
セルロース繊維膜及びセルロース繊維複合材料の評価結果を表1に示す。
【0206】
[実施例2]
セルロース繊維分散液1の代りに製造例2で製造したセルロース繊維分散液2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セルロース繊維分散液の希釈、濾過及び加熱プレスを行ってセルロース繊維膜を得、同様にセルロース繊維複合材料を製造した。
【0207】
セルロース繊維膜及びセルロース繊維複合材料の評価結果を表1に示す。
【0208】
[実施例3]
セルロース繊維分散液1の代りに製造例3で製造したセルロース繊維分散液3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セルロース繊維分散液の希釈、濾過及び加熱プレスを行ってセルロース繊維膜を得、同様にセルロース繊維複合材料を製造した。
【0209】
セルロース繊維膜及びセルロース繊維複合材料の評価結果を表1に示す。
【0210】
[比較例1]
セルロース繊維分散液1の代りに製造例4で製造したセルロース繊維分散液4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セルロース繊維分散液の希釈、濾過及び加熱プレスを行ってセルロース繊維膜を得、同様にセルロース繊維複合材料を製造した。
【0211】
セルロース繊維膜及びセルロース繊維複合材料の評価結果を表1に示す。
【0212】
[比較例2]
セルロース繊維分散液1から製造されたセルロース繊維膜の代りに、製造例5で製造したバクテリアセルロース膜を用いて実施例1と同様にしてセルロース繊維複合材料を製造した。
【0213】
バクテリアセルロース膜及びセルロース繊維複合材料の評価結果を表1に示す。
【0214】
[比較例3]
セルロース繊維分散液1の代りに製造例6で製造したコットンリンターセルロース繊維分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、コットンリンターセルロース繊維分散液の希釈、濾過及び加熱プレスを行ってセルロース繊維膜を得、同様にセルロース繊維複合材料を製造した。
【0215】
セルロース繊維膜及びセルロース繊維複合材料の評価結果を表1に示す。
【0216】
[比較例4]
製造例1で作製されたセルロース繊維分散液を希釈せずに、その44.2gをアドバンテック製濾過フィルターT100A090Cをセットしたアドバンテック製減圧濾過システム用器具KG−90を用いて吸引濾過を行った。このときのセルロース繊維分散液の固形分濃度(セルロース繊維濃度)は0.587重量%であった。吸引濾過時の減圧度は約−90kPaとし、濾過終盤にIPA約30mlを添加した。濾過後、120℃、2MPa、5分の条件で加熱プレスを行った。プレス機にかけた圧力はゲージの読み値であり、使用した加熱プレス機は井元製作所製小型加熱プレス(10t)180Cである。濾過後の溶媒が多く残ったセルロース繊維からなるウェット膜を濾過フィルター上に載せたままPETメッシュ(目開き1μm)で覆い、厚み1mmのPTFE板で挟んで、さらに120℃で加熱しておいた厚み10mmのSUS板で挟んで加熱プレスを行って、セルロース繊維膜の成形乾燥を行った。加熱プレス後、セルロース繊維膜だけ取り出した。
【0217】
セルロース繊維膜として、このセルロース繊維膜を用いたこと以外は実施例1と同様にセルロース繊維複合材料を製造した。
【0218】
セルロース繊維膜及びセルロース繊維複合材料の評価結果を表1に示す。
【0219】
【表1】

【0220】
表1より、本発明によれば、高透明性で、低位相差、低ヘーズの、光学的等方性、透明性等の光学特性に優れたセルロース繊維複合材料が提供されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維とマトリクス材料とを含むセルロース繊維複合材料であって、セルロース繊維含有量が40重量%以上で、厚み50μmにおける位相差が20nm以下で、膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいてJIS K7136によるヘーズが5%以下であることを特徴とするセルロース繊維複合材料。
【請求項2】
25℃において、マトリクス材料の波長587.6nmの光の対する屈折率が1.45〜1.65であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース繊維複合材料。
【請求項3】
セルロース繊維含有量が0.01〜0.2重量%のセルロース繊維分散液を濾過して製造されたセルロース繊維膜を、マトリクス材料と複合化してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロース繊維複合材料。
【請求項4】
セルロース繊維原料液を、100MPa以上の高圧雰囲気下から噴出させて減圧することにより解繊(微細化)した後、濾過することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のセルロース繊維複合材料。
【請求項5】
膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいて、JIS K7105による全光線透過率が87%以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセルロース繊維複合材料。
【請求項6】
波長400〜800nmの全範囲における光透過率が85%以上で、波長400nm〜600nmの範囲の光透過率の傾きが0.022(%/nm)以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のセルロース繊維複合材料。

【公開番号】特開2010−24376(P2010−24376A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188554(P2008−188554)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】