説明

セルロース脂肪酸混合エステル中空糸

【課題】マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維軸に連続して中空部を有し、軽量性、保温性及びソフト性に優れた衣料用に好適なセルロースエステル糸を提供する。
【解決手段】高い中空率を有し、単糸直径が小さく機械的特性に優れたセルロース脂肪酸混合エステル中空糸。具体的には中空率が10〜50%、引張強度が0.8cN/dtex以上、伸度が15%以上であることを特徴とする。又マルチフィラメントを構成する単糸の直径は100μm以下であり、セルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネート、またはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする。単糸断面形状は円形、三角形、四角形等特に限定されず、又中空部が複数存在する中空糸であっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維軸方向に連続して中空部を有し、軽量性、保温性およびソフト性に優れた衣料用に好適なセルロース脂肪酸混合エステル中空糸に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル、セルロースエーテルなどのセルロース系材料は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス材料として、また自然環境下にて生分解可能な材料として、昨今、大きな注目を集めつつある。
【0003】
セルロース系フィラメントとしては、ビスコース、キュプラなどの再生セルロース繊維、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート繊維が知られている。これらの繊維はいずれも組成物が熱可塑性を全く有していない、あるいは熱可塑化が発現する温度が熱分解温度以上であるため、溶融紡糸法によって繊維化することはできず、溶媒を使用する湿式あるいは乾式の製糸方法によって製造されている。これらの繊維はセルロース由来であることによって、良好な光沢や吸放湿性など衣料用繊維として非常に良好な特性を有している一方、有害な有機溶媒を用いた溶液紡糸であるため環境負荷が懸念される。
【0004】
このため、溶融紡糸法による繊維化として、セルロースエステル樹脂に大量の可塑剤を添加することにより、樹脂の熱分解温度以下での熱流動性を向上させ溶融紡糸を行う技術が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
これらで提案されている方法により得られるセルロース系中空糸(膜)は、逆浸透膜や血液透析などにおいて、従来より実用的に使用されている。しかしながら、これらの中空糸は、中空率は非常に高いものの、単糸繊度が大きい(単糸の直径が大きい)ため衣料用途としては使用できなかった。さらには、機械的特性が非常に悪く、実用上に耐える機械的特性を有しているものではなかった。
【0006】
このように高い中空率を有しながらも、単糸繊度が小さく、実用上に耐えうる機械的特性を有するセルロース系中空糸は存在していなかった。
【特許文献1】特開昭54−42420号公報
【特許文献2】特開昭59−199807号公報
【特許文献3】特開昭60−5202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、衣料用に適した太さを有し、かつ繊維の機械的特性に優れたセルロース脂肪酸混合エステル中空糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、セルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物からなるマルチフィラメントであって、マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維軸方向に連続して中空部を有しており、特定の高い中空率を有しかつ機械的特性に優れたセルロース脂肪酸混合エステル中空糸を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、上記の課題を達成するため、以下の構成を採用するものである。すなわち、
[1]セルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物からなるマルチフィラメントであって、下記(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とするセルロース脂肪酸混合エステル中空糸。
(1)マルチフィラメントを構成する各単糸は繊維軸方向に連続して中空率が10〜50%である中空部を有すること。
(2)マルチフィラメントの引張強度が0.8cN/dtex以上であること。
(3)マルチフィラメントの伸度が15%以上であること。
【0010】
[2]マルチフィラメントを構成する単糸の直径が100μm以下であることを特徴とする前記[1]記載のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸。
【0011】
[3]セルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸。
【0012】
[4]前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維構造物。
【0013】
[5]温度20℃、相対湿度65%の標準状態における吸湿率が2〜8重量%であることを特徴とする[4]に記載の繊維構造物。
【0014】
[6]繊維構造物の見掛け密度が1g/cm未満であり、該繊維構造物を純水中で24時間放置した後も、水中に沈降することがないことを特徴とする[4]または[5]に記載の繊維構造物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維軸方向に連続して中空部を有しており、また機械的特性に優れたセルロース脂肪酸混合エステル中空糸とすることができる。また、本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸は、衣料用繊維をはじめとして、軽量性、保温性およびソフト性が要求される用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸について詳細に説明する。
【0017】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステルとは、セルロースのグルコースユニットに存在する3つの水酸基が2種類以上のアシル基により封鎖されたものである。セルロース脂肪酸混合エステルの具体例としては、アセチル基とプロピオニル基が結合したセルロースアセテートプロピオネート、アセチル基とブチリル基が結合したセルロースアセテートブチレートが好ましい。この場合、アセチル基およびアシル基(プロピオニル基またはブチリル基)の平均置換度は、下記式を満たすことが好ましい。なお平均置換度とはセルロースのグルコース単位あたりに存在する3つの水酸基のうちアシル基が化学的に結合した数を指す。
【0018】
2.0≦(アセチル基の平均置換度+アシル基の平均置換度)≦3.0
1.5≦(アセチル基の平均置換度)≦2.5
0.5≦(アシル基の平均置換度)≦1.5
上記式を満たすセルロース脂肪酸混合エステルは、布帛とした場合、熱軟化温度が高く、適度な吸湿性、良好な寸法安定性を有するものとなるため好ましい。
【0019】
セルロース脂肪酸混合エステルの重量平均分子量(Mw)は5.0万〜25.0万であることが好ましい。Mwが5.0万未満の場合、溶融紡糸時の熱分解が顕著となるため、また溶融紡糸して得られるセルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の機械的特性(特に引張強度)が実用レベルに到達しないため好ましくない。Mwが25.0万を越えると、溶融粘度が非常に高くなるため、溶融紡糸による安定した繊維化が行えなくなってしまう。良好な機械的特性、安定した溶融紡糸性の観点から、Mwは6.0万〜22.0万であることがより好ましく、8.0万〜20.0万であることがさらに好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)とは、GPC測定により算出した値をいい、実施例にて詳細に説明する。
【0020】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物には、可塑剤を含有していても良く、可塑剤としては、多価アルコール系化合物が好ましい。具体的にはセルロース脂肪酸混合エステルとの相溶性が良好であり、また溶融紡糸可能な熱可塑化効果が顕著に現れるポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物などであり、なかでもポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、重量平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0021】
また、溶融成形の際、可塑剤の含有量は、5〜25重量%であることが好ましい。可塑剤の含有量を5〜25重量%とすることで、セルロース脂肪酸混合エステルの熱流動特性が向上するため生産効率の高い溶融紡糸法での生産が可能となり、また繊維断面を精密かつ任意に制御することが可能となり、また得られる繊維特性も良好なものとなる。可塑剤の含有量は、より好ましくは8〜22重量%、最も好ましくは10〜20重量%である。
【0022】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物は、リン系酸化防止剤を含有していることが好ましく、特にペンタエリスリトール系化合物が好ましい。リン系酸化防止剤を含有している場合、紡糸温度が高い範囲および低吐出領域においても熱分解防止効果が非常に顕著であり、繊維の機械的特性の悪化が抑制され、得られる繊維の色調が良好になる。リン系酸化防止剤の配合量は、溶融紡糸組成物に対して0.005重量%〜0.500重量%であることが好ましい。
【0023】
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸は、マルチフィラメントを構成する単糸の直径が小さく、高い中空率を有しかつ機械的特性に優れたものである。
【0024】
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の中空率は10〜50%である。中空率が10%未満の場合、本発明の目的とする軽量性の効果が不十分となり、また保温性の効果も小さくなる。中空率は高いほど軽量化、保温性の点からは好ましいが、中空率が50%を越える場合、繊維特性が低下したり、フィブリル化したり、高次加工工程での繊維の潰れが発生しやすくなる。例えば、ローラ類との接糸圧やガイド類での摩擦力あるいは他の外力によって、繊維の横方向から力がかかり、繊維横断面が潰れ、実質の中空率が小さくなる。
【0025】
また、衣料品となったときにも原糸の中空率を保持できなくなるとともに、着用中にも繊維断面の潰れが発生しやすくなる。さらには中空糸を溶融紡糸工程で安定して製造することが困難となってしまう。中空率は10〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、本発明でいう中空率とは、中空糸の繊維軸に対して垂直方向の断面(横断面)を撮影し、断面の全面積(Sa)と中空部の面積(Sb)を測定し、下記式を用いて算出した値をいう。ただし、Sbは、複数の中空部を有する場合には、それぞれの中空部の面積の総和を意味する。
【0027】
中空率(%)=(Sb/Sa)×100
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の引張強度は0.8cN/dtex以上である。引張強度が0.8cN/dtex以上であれば、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないため好ましい。良好な引張強度特性の観点から、引張強度は高ければ高いほど実用範囲が広がり各種用途に展開できるため好ましいが、現状では2.0cN/dtex程度が上限である。引張強度は0.9cN/dtex以上であることがより好ましく、1.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の伸度は15%以上である。伸度が15%以上である場合には、紡糸工程で毛羽が発生せず、また製織や製編時など高次加工工程において毛羽や糸切れが多発することがなく、高次加工の工程通過性が良好となる。また伸度は50%以下であることが好ましく、50%以下の場合、繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどによる最終製品の染色欠点を生じることがない。伸度は、18%〜45%であることがより好ましく、20〜40%であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の直径は、マルチフィラメントを構成する単糸直径が100μm以下である。単糸直径を100μm以下とすることで、繊維構造物の適度な曲げ剛性により、ソフトさが要求される衣料用布帛などにも適用することができる。なお単位直径は小さければ小さいほどソフト性が増すが、機械的特性および繊度変動値(U%)の観点から、単糸直径は10μm以上であることが好ましい。単糸直径はより好ましくは10〜75μmであり、さらに好ましくは10〜50μmであり、最も好ましくは10〜40μmである。
【0030】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の繊度変動値(U%)は3.0%以下であることが好ましい。繊度変動値(U%)は繊維長手方向における太さ斑の指標であり、ツェルベガーウースター社製ウースターテスターにより求めることができる。繊度変動値(U%)が3.0%以下であれば、繊維長手方向の均一性が優れていることを指し、織編物に加工する際、毛羽や糸切れが発生せず、また染色を行っても、部分的に強い染め斑、染め筋などの欠点が発生せず、高品位な織編物となる。繊度変動値(U%)は小さい程良いが、現状の下限は0.2%である。繊度変動値は、より好ましくは0.2〜2.5%、さらに好ましくは0.2〜2.0%、最も好ましくは0.2〜1.5%である。なお、繊度変動値(U%)の測定条件に関しては、実施例にて詳細に説明する。
【0031】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の単糸断面形状に関しては特に限定されるものではなく、例えば通常の円形断面(図1(a)〜(c))、三角形(図1(d))、四角形などの多角形状断面、扁平断面などを採用することができる。また、中空糸断面の外側の形状が円形で、内側の形状が三角形(図1(b))、四角形(図1(c))などのように外側と内側で断面形状が異なる中空糸や、中空部が複数個存在する中空糸(図1(e)、(f))であっても良い。
【0032】
本発明において、セルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物を溶融成形した後、温水、熱水等の水や有機溶剤等を用いた薬液処理で中空糸に含有されている可塑剤を溶出させても良く、最終製品におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸に含まれる可塑剤含有量は0〜25重量%であることが好ましい。可塑剤の含有量がこの範囲にある場合、最終製品の強力が不足することがなく、また熱軟化温度も高くなるため好ましい。
【0033】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸には、その物性を損なわない範囲で艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色防止剤、着色顔料、染料、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤等として、無機微粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0034】
セルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物を溶融紡糸法による繊維化の際、紡糸温度は220℃〜280℃であることが好ましい。紡糸温度を220℃以上とすることにより、紡糸口金より吐出された糸条の伸長粘度が十分に低下するため、メルトフラクチャー(紡糸口金孔通過時においてポリマーの剪断応力が高いと流線乱れが発生し、紡糸口金より吐出された糸条の形状が不規則になる現象)起因の短ピッチの周期斑が現れず、太さ斑のない均一性の優れた繊維を得ることができる。さらには、紡糸口金より吐出した糸条の細化変形過程が緩やかになるため、繊維微細構造が発達し繊維特性が良好となる。また製糸性も安定する。また紡糸温度を280℃以下とすることにより、中空率を10%以上とすることが可能になり、熱可塑性組成物の熱分解を抑制できるため、得られる繊維の分子量低下による機械的特性不良や着色による品位悪化が抑制できる。紡糸温度は230℃〜270℃であることがより好ましく、240℃〜260℃であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸は、中空繊維を製造する各種の紡糸口金を使用することができ、具体的には、C型スリット(図2(a))、弧状のスリット部が複数個(3〜5個)配置されて1個の吐出孔を形成する紡糸口金(図2(b)〜(c))、3つのスリットが三角形状に配置されて1個の吐出孔を形成する紡糸口金(図2(d))、あるいはT型スリット部が複数個配置されて1個の吐出孔を形成する紡糸口金(図2(e)、〜(f))等を用いて製造することができる。
【0036】
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の中空率は、例えば、図1(a)〜(c)に示す吐出孔の場合は、円弧状スリットのスリット巾および吐出孔半径を変更することにより、任意に調整できるが、スリット巾は0.05mm〜0.20mmであることが好ましく、0.07mm〜0.18mmであることがより好ましい。
【0037】
また、吐出孔半径は、0.30mm〜1.00mmであることが好ましく、0.35mm〜0.90mmであることがより好ましい。
【0038】
また、スリット間距離は0.05〜0.20mmであることが好ましく、0.07〜0.18mmであることがより好ましい。
【0039】
図3は、本発明のセルロース脂肪酸エステル中空糸の製造方法に用いる装置の一実施態様を示す図である。図3において、1はスピンブロック、2は溶融紡糸パック、3は紡糸口金、4は冷却開始点、5は冷却装置、6は紡出糸条、7は給油装置、8は第1ゴデットローラー、9は第2ゴデットローラーである。
【0040】
溶融された熱可塑性組成物は、スピンブロック1に装着された溶融紡糸パック2の下部に取り付けられた紡糸口金3の吐出孔より押し出される。押し出された紡出糸条6は、冷却開始点4より冷却装置5により室温まで冷却され、給油装置7により仕上げ剤が付与され、所定の速度で回転する第1ゴデットローラー8、第2ゴデットローラー9を介して、巻取機によって、パッケージ10として巻き取られる。
【0041】
冷却開始点4の位置は、紡糸口金3の下面からの距離が0mm〜200mmであることが好ましい。冷却開始点の位置がこの範囲にある場合、機械的特性および糸の太さ斑のない均一性に優れた高い中空率を有した中空糸を製糸性良く得ることができる。冷却開始点の位置は0mm〜190mmであることがより好ましく、0〜180mmであることが更に好ましい。なお冷却開始点とは、冷却装置上端(図3の符号4で示す位置)を指す。
【0042】
紡糸口金より吐出した糸条の冷却風速度は0.01m/秒〜1.00m/秒であることが好ましい。冷却風速度がこの範囲にある場合、紡糸口金より吐出された糸条を構成する単糸の冷却が均一となり、得られる繊維は太さ斑のない均一性の優れたものとなる。冷却風速度は0.10m/秒〜0.45m/秒であることがより好ましく、0.20m/秒〜0.50m/秒であることがさらに好ましい。
【0043】
紡糸速度は750m/分〜3500m/分であることが好ましい。紡糸速度を750m/分〜3500m/分とすることで、得られる繊維の分子配向が十分に促進される紡糸応力がかかり、繊維特性に優れた繊維を得ることができる。紡糸速度は1000m/分〜3000m/分であることがより好ましく、1250m/分〜2500m/分であることがさらに好ましい。
【0044】
上記のように、本発明で得られるセルロース脂肪酸混合エステル中空糸は、軽量性、保温性、ソフト性、吸湿性などに優れていることから、特にタフタ、デシン、ジョーゼット、ツイルなどの織物、または天竺、スムース、トリコットなどの編物にするのに適している。さらに衣料用途に限らず、不織布用途、メディカル用途や衛生材料、詰め物材として各種リビング材にも使用可能である。
【0045】
本発明の繊維構造物は、本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸を少なくとも一部に用いてなるものである。本発明の繊維構造物において、セルロース脂肪酸混合エステル中空糸以外に採用する繊維については、本発明の趣旨を損なわない範囲において特に制限はなく、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン繊維などの合成繊維、綿糸、麻糸、毛糸、絹糸などの天然繊維、さらにはレーヨン、アセテート、トリアセテート、NメチルモルホリンNオキサイドを用いた溶液紡糸により得られるセルロース系繊維などの化学繊維、再生繊維などを適宜用いることができる。繊維構造物の軽量性の観点からは、他の繊維と混合した繊維構造物とする場合にも、繊維構造物全体重量に対するセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の含有率を30重量%以上とすることが好ましく、50重量%以上とすることがさらに好ましい。また、本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸のみを用いた繊維構造物とすることも可能であり、この場合には良好な軽量性が発現する繊維構造物とすることができる。
【0046】
本発明の繊維構造物はセルロース脂肪酸混合エステル中空糸を用いてなるものであるので、例えば疎水性のプロピロピレン中空糸とは異なり、適度な吸湿性能を有している。本発明の繊維構造物の、温度20℃、相対湿度65%の標準状態における吸湿率は2〜8重量%であることが、着用快適性、制電性等の観点から好ましい。本発明の繊維構造物の標準状態における水分率は、着用快適性、制電性の観点からは、3重量%以上であることがより好ましく、4重量%以上であることが最も好ましい。逆に乾燥速度や湿潤時の強力保持率の観点からは7重量%以下がより好ましく、6重量%以下が最も好ましい。繊維構造物の標準状態における吸湿率は、繊維構造物が使用される用途に照らして、適宜設計することができる。
【0047】
本発明の繊維構造物は、その見掛け密度が1g/cm未満であり、該繊維構造物を純水中で24時間放置した後も、水中に沈降することがないことが好ましい。見掛け密度は、本発明の場合、繊維構造物を構成する繊維の全体重量(g)を同じ繊維の体積(cm)で除した値をいう。ここで繊維の体積とは、中空を有する繊維の場合には中空を含んだ外容積を意味している。見掛け密度は低ければ低いほうが軽量性に優れることとなり好ましいので、具体的には0.9g/cm未満であることがより好ましく、0.8g/cm以下であることが最も好ましい。見掛け密度が1g/cm未満の場合には、4℃の水より軽量になることを意味しており、実際に水中で放置した場合には沈降することがない状態、すなわち繊維構造物の少なくとも一部が水面上に存在する状態を示すようになる。本発明で純水は、公知の手段、たとえばイオン交換樹脂や逆浸透膜などの使用によって水中の不純物濃度を低下させ、その密度を実質的に1.0としたものをいう。
【0048】
本発明の繊維構造物は、温度20℃、相対湿度65%の標準状態において2〜8重量%という良好な吸湿特性を有すること、見掛け密度が1g/cm未満であり、該繊維構造物を純水中で24時間放置した後も、水中に沈降しない軽量性を有することなどを適宜採用することが可能である。軽量性のみならず吸湿性にも優れることから、アウター、フォーマルウエアなどの一般衣料はもとより、特に軽量であることが好まれる分野、例えば老人介護衣料などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めたものである。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
A.セルロース脂肪酸混合エステルの平均置換度
セルロースにアセチル基およびアシル基が結合したセルロース脂肪酸混合エステルの平均置換度の算出方法については下記の通りである。
【0051】
80℃で8時間の乾燥したセルロース脂肪酸混合エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0052】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace) }]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
B.GPCによる重量平均分子量(Mw)測定
セルロース脂肪酸混合エステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件のもと、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0053】
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒:テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
C.中空率
中空糸の繊維軸に対して垂直方向の断面(横断面)を撮影し、断面の全面積Saと中空部の面積Sbを測定し、下式を用いて算出した。ただしSbは、中空糸が複数の中空部を有する場合には、それぞれの中空部の面積の総和となる。
【0054】
なお中空率はマルチフィラメントを構成する単糸10本を用いて算出し、その平均値とした。
【0055】
中空率(%)=(Sb/Sa)×100
D.引張強度および伸度
温度20℃、湿度65%の環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS形を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除した値を引張強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。なお測定回数はそれぞれ5回とし、その平均値を引張強度、伸度とした。
【0056】
E.単糸の直径
中空糸の繊維軸に対して垂直方向の断面(横断面)を撮影し、単糸直径を算出した。なお単糸の直径は、マルチフィラメントを構成する単糸10本を用いて算出し、その平均値とした。
【0057】
F.繊度変動値(U%ノーマル)
U%測定は、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて測定して求めた。
【0058】
測定速度 :200m/分
測定時間 :2.5分
測定繊維長:500m
撚り :S撚り、12000/分
なお、測定回数は5回であり、その平均値をU%とした。
【0059】
G.軽量性およびソフト性の評価
中空糸および中空糸と同じ糸直径を有する中実糸(中空率0%)の2つを用いて次の様にして軽量性、ソフト性の評価を行った。まず中空糸および中実糸を用いて釜径3インチ半・27ゲージ丸編機(英光産業社製モデルNCR−BL)で5m長の筒編み地を作成し、該筒編み地についてパネラー10名で官能評価を実施し、下記の基準で評価した。
(1)軽量感:中空糸と中実糸の筒編み地を持った時、前記2つの筒編み地の重量差が明確に感じられたかどうか。
(2)ソフト感:中空糸の筒編み地を握った時、「粗硬感がなくしなやかなタッチである」と感じたか、あるいは「粗硬感が残り硬いタッチ」であると感じたか。
(3)軽量感およびソフト感の評価
◎:9名以上が有意差あり(軽量感あるいはソフト感が優れている)と判定
○:7〜8名が有意差あり(軽量感あるいはソフト感が優れている)と判定
△:5〜6名が有意差あり(軽量感あるいはソフト感が優れている)と判定
×:4名以下が有意差あり(軽量感あるいはソフト感が優れている)と判定
H.温度20℃、相対湿度65%の標準状態における吸湿率
繊維構造物試料を約1g用意し、その絶乾時の重量(W)を測定した。この試料を20℃×65%RHの状態に調湿された恒温恒湿器(ナガノ科学機械製LH−20−11M)中に24時間放置し、平衡状態となった試料の重量(W20)を測定した。その後、下記式により温度20℃、相対湿度65%の標準状態における吸湿率を求めた。
【0060】
吸湿率(重量%)={(W20―)/W}×100
I.純水中の浮揚性
水道水を原料として柴田科学株式会社製ピュアポートPP−101型を用いて純水を作成した。10L容のビーカーに作成した純水を入れ、試料となる繊維構造物を一旦繊維構造物の全部が水中に没するようにして水になじませた後、24時間放置した。24時間後に観察して、繊維構造物の一部が水面上に出ているか、あるいは繊維構造物全体が水中に没しているかを判定した。
【0061】
合成例1
セルロース(コットンリンター)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々1.9、0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.8万であった。
【0062】
実施例1
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート84重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)15.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて240℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸混合エステル組成物ペレット(Mw16.0万)を得た。
【0063】
このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度260℃にて溶融させ、紡糸温度270℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量15.0g/分の条件で、図2(a)に示す口金孔(吐出孔半径が0.50mm、スリット巾0.10mmであるC型スリット)を36ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方150mmの距離(冷却開始点)から、25℃、風速0.3m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1500m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0064】
得られた繊維(100デシテックス(dtex)−36フィラメント)は、中空率が27%、強度が1.28cN/dtex、伸度が22.9%、単糸の直径が19.7μmであり、筒編み地の官能評価結果は、軽量感およびソフト感共に優れたものであった。(表1参照)
実施例2
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート80重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)19.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸混合エステル組成物ペレット(Mw17.1万)を得た。
【0065】
このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度250℃にて溶融させ、紡糸温度250℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量33.0g/分の条件で、図2(b)に示す口金孔(吐出孔半径が0.60mm、スリット間ピッチ0.10mm、スリット巾0.07mmのスリットからなる3分割スリット)を48ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方100mmの距離(冷却開始点)から、25℃、風速0.40m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、2000m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0066】
得られた繊維(167デシテックス−48フィラメント)は、中空率が33%、強度が1.09cN/dtex、伸度が23.8%、単糸の直径が23.0μmであり、筒編み地の官能評価結果は、軽量感およびソフト感共に優れたものであった。(表1参照)
実施例3
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート82重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)17.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸混合エステル組成物ペレット(Mw16.6万)を得た。
【0067】
このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度260℃にて溶融させ、紡糸温度260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量18.0g/分の条件で、図2(c)に示す口金孔(吐出孔半径が0.55mm、スリット間ピッチ0.10mm、スリット巾0.08mmのスリットからなる4分割スリット)を24ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方140mmの距離(冷却開始点)から、25℃、風速0.30m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1800m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0068】
得られた繊維(100デシテックス−24フィラメント)は、中空率が40%、強度が1.15cN/dtex、伸度が26.0%、単糸の直径が26.6μmであり、筒編み地の官能評価結果は、軽量感およびソフト感共に優れたものであった。(表1参照)
実施例4
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートブチレート(CAB381−20)88重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)12重量%を二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw16.2万)を得た。
【0069】
このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度245℃にて溶融させ、紡糸温度245℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量10.0g/分の条件で、図2(e)に示す口金孔(吐出孔半径0.62mm、スリット巾0.10mmのT型スリットからなる4分割スリット)を36ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方70mmの距離(冷却開始点)から、25℃、風速0.25m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1250m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻取張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0070】
得られた繊維(80デシテックス−24フィラメント)は、中空率が20%、強度が1.13cN/dtex、伸度が25.1%、単糸の直径が20.7μmであり、筒編み地の官能評価結果は、軽量感およびソフト感共に優れたものであった。(表1参照)
実施例5
実施例2で得られた繊維を70℃の温水中で30分間処理し、繊維中に含まれる可塑剤(ポリエチレングリコール)を全量溶出させた。得られた繊維(133デシテックス−48フィラメント)は、中空率が31%、強度が1.55cN/dtex、伸度が16.8%、単糸の直径が20.2μmであり、筒編み地の官能評価結果は、軽量感およびソフト感共に優れたものであった。(表1参照)
また、筒編み地の温度20℃、相対湿度65%の状態における吸湿率を測定したところ、4.2重量%であり、快適性に優れていた。筒編み地の見掛け密度は0.89であり、純水中の浮揚性を評価したところ、筒編みは水面付近に位置しており、その一部が水面上に存在することが確認できた。
【0071】
実施例6
実施例3で得られた繊維を90℃の熱水中で20分間処理し、繊維中に含まれる可塑剤(ポリエチレングリコール)を全量溶出させた。得られた繊維(82デシテックス−24フィラメント)は、中空率が39%、強度が1.62cN/dtex、伸度が17.5%、単糸の直径が23.9μmであり、筒編み地の官能評価結果は、軽量感およびソフト感共に優れたものであった。(表1参照))
また、筒編み地の温度20℃、相対湿度65%の状態における吸湿率を測定したところ、3.8重量%であり、快適性に優れていた。筒編み地の見掛け密度は0.78であり、純水中の浮揚性を評価したところ、筒編み地は水面付近に位置しており、その一部が水面上に存在することが確認できた。
【0072】
比較例1
実施例1で用いたペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度260℃にて溶融させ、紡糸温度270℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量15g/分の条件で、0.25mmφ−0.625mmLの口金孔を36ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方150mmの距離(冷却開始点)から、25℃、風速0.30m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1500m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0073】
得られた繊維(中実糸:100デシテックス−36フィラメント)は、強度が1.36cN/dtex、伸度が24.0%、単糸の直径が16.8μmであり、筒編み地の官能評価結果より、軽量感に非常に劣るものであった。(表1参照)
この筒編み地を90℃の熱水中で20分間処理し、繊維中に含まれる可塑剤(ポリエチレングリコール)を全量溶出させた。筒編み地の温度20℃、相対湿度65%の状態における吸湿性は3.8重量%であり、快適性には優れていた。筒編み地の見掛け密度は1.28であり、純水中の浮揚性を評価したところ、筒編み地は水中に完全に没してしまい、浮揚性は全く発現しなかった。
【0074】
比較例2
実施例2で用いたペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度250℃にて溶融させ、紡糸温度250℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量33.0g/分の条件で、図2(b)に示す口金孔(吐出孔半径が0.45mm、スリット間ピッチ0.10mm、スリット巾0.15mmのスリットからなる3分割スリット)を48ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方70mmの距離(冷却開始点)から、25℃、風速0.40m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、2000m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0075】
得られた繊維(167デシテックス−48フィラメント)は、中空率が8%、強度が1.16cN/dtex、伸度が27.8%、単糸の直径が19.6μmであり、筒編み地の官能評価結果より、軽量感に非常に劣るものであった。(表1参照)
比較例3
実施例3で用いたペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度260℃にて溶融させ、紡糸温度260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量18.0g/分の条件で、図2(c)に示す口金孔(吐出孔直径が1.25mm、スリット間ピッチ0.10mm、スリット巾0.08mmのスリットからなる4分割スリット)を24ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方20mmの距離(冷却開始点)から、25℃、風速0.30m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1800m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0076】
得られた繊維(100デシテックス−24フィラメント)は、中空率が62%、強度が0.62cN/dtex、伸度が14.6%、単糸の直径が33.3μmであり、筒編み地の官能評価結果より、ソフト感に非常に劣るものであった。(表1参照)
実施例7
実施例3で用いたペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度260℃にて溶融させ、紡糸温度260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量45.0g/分の条件で、図2(c)に示す口金孔(吐出孔半径が1.50mm、スリット間ピッチ0.13mm、スリット巾0.08mmのスリットからなる4分割スリット)を6ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を紡糸口金面より下方70mmの距離(冷却開始点)から、この紡出糸条を25℃、風速0.67m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1500m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。
【0077】
得られた繊維(300デシテックス−6フィラメント)は、中空率が48%、強度が0.82cN/dtex、伸度が55.8%、単糸の直径が101.0μmであり、筒編み地の官能評価結果より、ソフト感にやや劣るものであった。(表1参照)
実施例8
市販のポリエチレンテレフタレート繊維(東レ株式会社製56T−24f−NS92)を経糸に、実施例3で得られたセルロース脂肪酸エステル中空糸を緯糸にして、タフタ織物を作成した。得られた織物を80℃で熱水中で20分間の精練を行い、セルロース脂肪酸エステル中空糸に含有されているポリエチレングリコールを全量溶出させた。精練後の織物の経糸密度は40本/cm、緯糸密度は50本/cmであり、繊維構造中のポリエステル繊維は35重量%、セルロース脂肪酸混合エステル中空糸は65重量%であった。
【0078】
得られたタフタ織物の温度20℃、相対湿度65%の標準状態における吸湿率を測定したところ、2.4重量%であり、快適性に優れていた。また、タフタ織物の見掛け密度は0.97であり、純水中の浮揚性を評価したところ、タフタ織物は水面付近に位置しており、その一部が水面上に存在することが確認できた。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
得られる繊維は、マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維軸方向に連続して中空部を有し、軽量性、保温性およびソフト性に優れたものであり、特に衣料用繊維に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の繊維横断面形状を模式的に例示した図である。
【図2】図1のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸を製造する際の吐出孔の形状を模式的に例示した図である。
【図3】本発明のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸の製造方法に用いる溶融紡糸装置の一実施態様を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1:スピンブロック
2:溶融紡糸パック
3:紡糸口金
4:冷却開始点
5:冷却装置
6:紡出糸条
7:給油装置
8:第1ゴデットローラー
9:第2ゴデットローラー
10:巻取糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物からなるマルチフィラメントであって、下記(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とするセルロース脂肪酸混合エステル中空糸。
(1)マルチフィラメントを構成する各単糸は繊維軸方向に連続して中空率が10〜50%である中空部を有すること。
(2)マルチフィラメントの引張強度が0.8cN/dtex以上であること。
(3)マルチフィラメントの伸度が15%以上であること。
【請求項2】
マルチフィラメントを構成する単糸の直径が100μm以下であることを特徴とする請求項1記載のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸。
【請求項3】
セルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース脂肪酸混合エステル中空糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維構造物。
【請求項5】
温度20℃、相対湿度65%の標準状態における吸湿率が2〜8重量%であることを特徴とする請求項4に記載の繊維構造物。
【請求項6】
繊維構造物の見掛け密度が1g/cm未満であり、該繊維構造物を純水中で24時間放置した後も、水中に沈降することがないことを特徴とする請求項4または5に記載の繊維構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−119991(P2007−119991A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256033(P2006−256033)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/溶融紡糸により得られる天然物由来新規繊維の研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】