説明

セレノ−ヒドロキシ酸由来の有機セレンによって栄養強化された非光合成微生物並びに栄養物、化粧品および医薬の分野におけるその利用

本発明は、有機セリン、より具体的には、(D,L)形態である2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸などのセレノヒドロキシ酸型の化合物または、前記化合物のエナンチオマー、塩、エステル若しくはアミド誘導体由来のセレノメチオニンを用いる非光合成微生物の栄養強化に関し、動物若しくはヒトの栄養物、化粧品または医薬の分野における栄養強化された微生物、特に細菌の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、有機セレン、とりわけ、セレノ−ヒドロキシ酸型の化合物、より具体的には前記化合物の(D,L)形態である、または前記化合物の鏡像異性体、塩、エステルもしくはアミド誘導体の形態である2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸による非光合成微生物の栄養強化に関し、動物またはヒトの栄養物、化粧品若しくは医薬の分野におけるこのように栄養強化された微生物の使用に関する。
【0002】
セレンはヒトおよび特に動物にとって不可欠な微量栄養素である(Wendel, A.; Phosphorus, Sulfur Silicon Relat Elem.; 1992; 67, 1-4, 405-415)。特に、セレンはグルタチオンペルオキシダーゼ、チオレドキシンレダクターゼおよびセレノプロテインPなどのセレンタンパク質の生合成において、L(+)−セレノシステインまたはL(+)−セレノメチオニンの形態で関与している(Mutter, S. et al.; Arch. Microbiol, 1997; 168; 421)。
【0003】
ヒトにおいては、特に長期間にわたり非経口による摂取を必要とする患者の事例において、セレン欠乏症が報告されてきた((Von Stockhausen, H.B.; Biol. Trace Elem. Res.; 1988; 15; 147-155)。毎日200μgのセレンの補給が、平均体重の成人男性に対して安全かつ適切であると考えられている。
【0004】
セレンは自然界においては有機および無機の二つの形態で見いだされる。
【0005】
無機化合物は最も通常には、亜セレン酸ナトリウムまたはセレン酸塩などの塩である。これらの化合物はヒトおよび大部分の動物に対して大変有毒である。
【0006】
有機化合物(有機セレン化合物)は、生物においては、特にアミノ酸L(+)−セレノメチオニン、L(+)−メチルセレノシステイン、L(+)−セレノシステインである。
【0007】
L(+)−セレノメチオニンは、ヒトにおいておよび動物において、有機セレンの主要な供給源である。しかし、ヒトおよび動物はこのアミノ酸に対して栄養要求性であり、このアミノ酸は食品を通じてのみ獲得される。
【0008】
従って、セレン欠乏症の処置または予防を目的とした栄養補助食品においては、セレンは、理想的には、この有機の形態で取り入れられるべきである。
【0009】
従って、L(+)−セレノメチオニンによる食品の補充は、亜セレン酸ナトリウムの形態における摂取よりも大幅に毒性が低く、より良い生物学的利用性を有する(Mony, MC et al.; J. of Trace Elem. Exp. Med.; 2000; 13; 367-380)。
【0010】
現在、生物によるセレンの獲得のための他の代謝経路は、基質として無機セレン、特に亜セレン酸ナトリウムの形態で、およびセレノメチオニンを用いるセレンの獲得以外に知られていない。
【0011】
有機セレンの好適な供給は、高等植物(特にコムギ、トウモロコシ、大豆)において見いだすことができ、80%以上のセレンがL(+)−セレノメチオニンにより構成される(Schrauzer, G.N.; J.Am.Coll. Nutrit,; 2001; 20; 1; 1-4)。しかし、これらの植物におけるセレン濃度は不十分であり、簡単に、費用をかけずに、食物添加物を製造することができない。
【0012】
セレンに富んだ組成物を得るために探索された一つの道筋は、無機セレン由来の有機セレンによりある種の微生物を栄養強化することである。これらの微生物は、一度栄養強化されると、食物製品または化粧品の調製のための原材料として役立つ。
【0013】
それ自体を用いるために、またはこれらを食物組成物中に取り入れるために(Moesgaard S. et al., 2003年9月16日のデンマーク特許第200200408号公報)、または、セレンにより栄養強化されたパン(Wang Boaquan, 2006年8月16日の中国特許第1817143号公報)、牛乳(Jeng Chang-Yi, 2003年12月11日の台湾特許第565432号公報)、卵(Cui Li et al., 2007年3月7日の中国特許第1302723号公報)、チョコレート(In Gyeong Suk et al., 2004年11月8日の韓国特許第20040101145号公報)若しくはビール(Jakovleva L.G. et al., 2003年7月27日のロシア特許第2209237号公報)などのセレンにより栄養強化された派生製品を得るために、セレンにより栄養強化された酵母、特に酵母サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cereviciae)(Oh Tae-Kwang et al., 1995年6月26日の韓国特許第950006950号公報)の調製を多くの文献が記載している。健康食品の分野では、セレンにより栄養強化された酵母を含む料理が、妊娠女性に対して(Wang Weiyi, 2006年5月31日の中国特許第1778199号公報)、または低血糖症患者の腸内微小環境を改善するために(Li Tao Zhao, 2006年8月2日の中国特許第1810161号公報)、提案されている。皮膚化粧品の分野では、セレンにより栄養強化された酵母を含む組成物が、脱毛を抑制するために(Kasik Heinz, 2000年6月21日のデンマーク特許第19858670号公報)、または光加齢を防ぐために(Kawai Norihisa et al., 1995年11月14日の日本国特許公報第07300409号)開発されてきた。セレンにより栄養強化された酵母を含む医薬製剤が、糖尿病と関連した網膜症などの炎症性病変(Crary Ely J., 1997年6月17日の米国特許第5639482号公報)、または心臓血管病変(Nagy P.L. et al.; 1992年9月28日の特許第HUT060436号公報)の予防および処置において用いられてきた。
【0014】
同様に、細菌、より具体的にはプロバイオティック細菌(共生細菌)が、セレンによる栄養強化に用いられてきた(Calomme M. et al., Biol. Trace Elem. Res.; 1995; 47; 379-383)。ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、同様に、ラクトバチルス・ルーテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・フェリントシェンシス(Lactobacillus ferintoshensis)、ラクトバチルス・ブチネリ/パラブチネリ(Lactobacillus buchneri/parabuchneri)(Andreoni V. et al., 米国特許第0258964号公報)が、セレンにより栄養強化された栄養補助食品として記載されている。しかし、ラクトバチルス・カゼイ亜種カゼイ(Lactobacillus casei ssp casei)では、セレンが主にセレノシステインの形態で取り込まれていることが示されている(Calomme M. et al., Biological Trace Element Research 1995, 47, 379-383)。免疫系および疾患耐性を強化するために、酵母およびラクトバチルスから構成されるプロバイオティクスの混合物が調製されてきた(Huang Kehe Qin, 2006年11月8日の中国特許第1283171C号公報)。
【0015】
しかし、これらすべての調製において、セレンにより栄養強化された微生物は、もっぱら無機セレンから調製されている。従って、最もよく用いられるセレンの供給源は、微生物の培地に溶解している亜セレン酸ナトリウムまたはセレン酸塩である。それによって栄養強化された微生物は、ヒトの体によって同化できる十分な量の有機セレンを合成するにも関わらず、しばしば高い残留レベルの未変換の無機セレンを有し、消費者に対して危険であることが示されている。加えて、ラクトバチルス属の細菌などの細菌は、この無機セレンを主にセレノシステインに変換するが、セレノメチオニンには変換しない。
【0016】
WO2006/008190号公報にて公表された先行出願において、出願人は、L(+)−セレノメチオニンの合成のための前駆体としてヒトおよび動物において役立つセレノ−ヒドロキシ酸型の新しい有機化合物を記載している。
【発明の概要】
【0017】
驚くべきことに、出願人はWO2006/008190号公報に記載されたセレノ−ヒドロキシ酸型の有機化合物が培地に取り込まれると、有機セレンによる栄養強化の目的で細菌および酵母などの異なる微生物によって、用いられうることを見いだした。得られた結果は、これらの化合物により、亜セレン酸ナトリウムなどの通常用いられる無機化合物で得られえるのと同等またはむしろ優れた収量で、有機セレン、より具体的にはセレノメチオニンにより大変効率的に非光合成微生物の栄養強化が可能になることを明らかにした。
【0018】
従って、セレノ−ヒドロキシ酸型の有機化合物由来のセレノメチオニンによる微生物の栄養強化によって、ヒトおよび動物に対して最高に生物利用可能で、かつ事実上無機セレンを排除したセレンの供給源を主に含む微生物の製造が可能になったと考えられる。よって、本発明は、無機セレン含有量を低減し、セレノメチオニンにより栄養強化された新しい微生物を入手可能にすることによって、先行技術の方法に関連した毒性の問題を解決した。
【0019】
従って、栄養強化された非光合成微生物は、セレン欠乏症の予防または治療の背景において、特に医薬の、栄養上の、または美容の製品および組成物を製造するために食品の中に直接用いられてもよい。
【0020】
図1〜6は、異なる無機(亜セレン酸ナトリウム)および有機(セレノメチオニン若しくは2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ酪酸)(THD−177)セレン化合物で補われたYPG(Saccharomyces cerevisiae)またはMRS(Lactobacillus casei)培地において、時間経過による微生物の増殖の進展を示す図を表す。X軸は培養の時間数に対応し、Y軸は細胞の密度(550nmにて計測された吸収)に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】酵母Saccharomyces cerevisiaeを、亜セレン酸ナトリウム(無機化合物)を補ったYPG培地で培養した。
【図2】酵母Saccharomyces cerevisiaeを、セレノメチオニン(有機化合物)を補ったYPG培地で培養した。
【図3】酵母Saccharomyces cerevisiaeを、2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ酪酸(本発明による有機化合物)を補ったYPG培地で培養した。
【図4】細菌Lactobacillus caseiを、亜セレン酸ナトリウム(無機化合物)を補ったMRS培地で培養した。
【図5】細菌Lactobacillus caseiを、セレノメチオニン(有機化合物)を補ったMRS培地で培養した。
【図6】細菌Lactobacillus caseiを、2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ酪酸(本発明による有機化合物)を補ったMRS培地で培養した。
【発明の具体的な説明】
【0022】
本出願は、非光合成微生物、換言すれば、その成長が直接には光供給源に依存しない微生物に限られる。
【0023】
本発明の範囲において得られた実験結果は、より具体的には非光合成細菌および酵母に関係し、これらは光合成微生物とは大きく異なる代謝を有する。
【0024】
微生物とは、下記の界の一つに属するあらゆる生きた単細胞生物であると理解される:微視的な若しくは超微視的な大きさの真核生物または原核生物の細胞構造を有し、代謝および生殖能力を有する、モネラ界、原生生物界、菌界または原生動物亜界。前記単細胞生物は繊維またはバイオフィルムの形態でありうる。
【0025】
有機セレンとは、特にアミノ酸であるセレノメチオニン、メチルセレノシステイン、セレノシスチンおよびセレノシステインまたはこれらを含むペプチド若しくはタンパク質など、生物により製造されうるその化学構造において、少なくとも一つのセレン原子を有する少なくとも一つの化合物を含む一組の有機分子であると理解される。
【0026】
好ましくは、本発明に記載した非光合成微生物は、酵母または細菌であり、より好ましくは、サッカロマイセス属の酵母またはラクトバチルス属の細菌である。
【0027】
従って、有機セリンにより栄養強化された微生物は、そのままで、または食品添加物として用いることができる。それらは例えば、変換された製品の調製のための基礎として役立つ組成物の中に取り込まれうる安定な粉を形成させるために乾燥してもよいし、食料品の変換プロセスにおいてプロバイオティクス(共生生物)として生きている状態で使用されてもよい。
【0028】
従って、本発明の対象は、非光合成微生物をセレノ−ヒドロキシ酸型の化合物を含んでなる培地で培養する、有機セレンによる非光合成微生物の栄養強化の新しい方法である。
【0029】
好ましくは、セレノ−ヒドロキシ酸型の化合物は一般式(I)の化合物、その塩、またはエステル若しくはアミド誘導体である。
【化1】

(式中、
n=0、1または2;
=OH、OCOR、OPO、OPOまたはOR
=OH、R、NHR、S−システイニルまたはS−グルタチオニル;
ここで、n=1かつR=OHのとき、RはOHではなく、
=アルコキシル、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド4、セラミド5、セラミド6aおよび6b、S−システイニル、S−グルタチオニルまたは下記の基から選択される基:
【化2】


OR=アルコキシル(C〜C26)、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド4、セラミド5、セラミド6aおよび6b、または下記の基から選択される基:
【化3】


OR=アルコキシル(C〜C26)、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド4、セラミド5、セラミド6aおよび6b、または下記の基から選択される基:
【化4】


OR=ピルベート、ラクテート、シトレート、フマレート、マレエート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、パルミトレエート、オレエート、リノレエート、天然脂肪酸残基または13−シスレチノエート;
NHR=NH、NH−アルキル(C〜C26)、天然アミノ酸残基または天然アミン残基)。
【0030】
上記式(I)において:
−アルキルとは、1から26の、好都合には1から10の、より好都合には1から6の、直鎖または環状炭素原子を含んでなり、場合により分岐していてもよく、場合によりフッ素化若しくはポリフッ素化されていてもよく、場合により一以上の炭素−炭素二重結合を含んでいてもよい、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、トリフルオロメチル、リノレイルの脂肪鎖、リノレニルの脂肪鎖、パルミトイルの脂肪鎖などの脂肪酸の脂肪鎖(換言すれば酸官能基の無い)などの基であると理解される。
【0031】
−アルコキシルとは、第1級、第2級または第3級アルコールから由来し、アルコール官能基の酸素原子を通じて他の分子と結合し、1から26の、好都合には1から10の、より好都合には1から6の、直鎖または環状炭素原子を含んでなり、場合により分岐していてもよく、場合によりフッ素化若しくはポリフッ素化されていてもよく、場合により一以上の炭素−炭素二重結合を含んでなってもよい、例えば、メトキシル、エトキシル、イソプロポキシル、トリフルオロメトキシルなどの基であると理解される。
【0032】
−セラミド型の遊離基の構造は、特に“Cosmetic Lipids and the Skin Barrier”, Thomas Forster Ed. 2002, Marcel Dekker, Inc., page 2, figure 2.に記載されている。
【0033】
−天然とは、ヒトの生体の代謝物同様に、植物または動物の生物の代謝物に見出されるあらゆる対応する化合物であると理解される。
【0034】
−脂肪酸とは、4から28の炭素原子(カルボン酸官能基の炭素原子を含む)を含んでなり、炭化水素鎖が、直鎖、飽和または不飽和である、脂肪族カルボン酸であると理解される。
【0035】
−脂肪酸残基とは、脂肪酸はカルボン酸官能基(COOH)を通じてその分子の残りの部分と結合することと理解される。
【0036】
−脂肪族アルコールとは、上記にて定義された脂肪酸であって、カルボン酸官能基(COOH)がアルコール官能基(OH)に置き換わった脂肪酸であると理解される。
【0037】
−天然アミノ酸とは、特に下記アミノ酸であると理解される:アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)およびバリン(Val)。
【0038】
−天然アミンとは、プトレシン、カダベリン、スペルミン、スペルミジンなどのNH官能基を有する天然第1級アミンであると理解される。
【0039】
−アミノ酸またはアミンの残基とは、アミノ酸またはアミンがその第1級アミン官能基(NH)を通じてその分子の残りの部分と結合することと理解される。
【0040】
−オリゴマーとは、エステル型の結合で共に結合した2から15の単量体の鎖から構成されるあらゆる化合物であると理解される。
【0041】
−ポリマーとは、エステル型の結合で共に結合した15を超える単量体の鎖により構成されるあらゆる化合物であると理解される。
【0042】
本発明によれば、前記式(I)の化合物は好ましくはカルシウム、マグネシウムまたは亜鉛の塩の形態で使用され、これにより微生物による同化作用が向上すると共に培地における溶解性が向上する。
【0043】
本発明は、式(I)の化合物の立体異性体と、すべての割合での立体異性体の混合物を包含し、特にラセミ体混合物をも包含する。
【0044】
「立体異性体」とは、本発明によれば、ジアステレオマーおよびエナンチオマーであると理解される。従ってこれらは光学異性体である。互いの鏡像でない立体異性体は「ジアステレオマー」と呼ばれ、お互いの鏡像であるが重ねて置くことのできない立体異性体は「エナンチオマー」と呼ばれる。
【0045】
反対のキラリティーの二つの個別のエナンチオマーの形態を等量で含む混合物は「ラセミ体混合物」と呼ばれる。
【0046】
好都合には、一般式(I)においてnは0を表す。
【0047】
は、OH、OCOR、またはOR基を表し、好都合にはRがアルコキシル基を表す。特に、RはOH基を表すことができる。
【0048】
は、特にOHまたはR基を、より具体的にはOHまたはアルコキシル(C〜C26)基を表す。
【0049】
本発明の範囲内で用いられるセレノ−ヒドロキシ酸は、より具体的には、下記式:
【化5】

(ここで、nは前記で定義された通りであり、好ましくは0を表す)
または、その塩、立体異性体若しくはすべての割合での立体異性体の混合物、エステル、またはアミドに対応しうる。
【0050】
「エステル」とは、エステル官能基(−C(O)O−)が、本発明に記載されたセレノ−ヒドロキシ酸型の化合物が持つ、アルコールまたはカルボン酸官能基のOH基から形成されることと理解される。従って、これらのエステルは下記のいずれかにより得られる:
−R=上記で定義されたアルキルである式R−COOHの酸;天然脂肪酸;天然アミノ酸;グルタチオン;ピルビン酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、または13−シス−レチノイン酸などのカルボン酸と;特に酸RCOOHと、詳細には、Rが1から6の炭素原子を含んでなる直鎖若しくは分岐した飽和炭化水素鎖を表す、酸RCOOHとアルコール官能基との反応、または
−R’=上記で定義されたアルコキシルである式R’Hの第1級、第2級または第3級アルコール;脂肪族アルコール;またはセラミドなどのアルコールと;特にアルコールR’Hと、詳細には、Rが1から6の炭素原子を含んでなる直鎖若しくは分岐した飽和炭化水素鎖を表すアルコールR’Hとカルボン酸官能基との反応。
【0051】
「アミド」とは、アミド官能基(−C(O)NH−)が、本発明に記載されたセレノ−ヒドロキシ酸型の化合物が持つ、アルコールまたはカルボン酸官能基のOH基から形成されることと理解される。従って、これらのアミドは下記のいずれかにより得られる:
−用語「エステル」の定義にて記載されたカルボン酸に由来するアミドとアルコールとの反応、または
−用語「エステル」の定義にて記載されたアルコールに由来する、または天然アミノ酸若しくは天然アミンに対応するアミンとカルボン酸官能基との反応。
【0052】
本発明は、より具体的には、下記から選択される式(I)の化合物の使用に関する:
− L−2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸、
− D−2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸、
− D,L−2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸、
または前記化合物の塩。
【0053】
これらの化合物はWO2006/008190号公報にて開示されている。
【0054】
本発明の対象は微生物でもあり、より具体的には、本発明の方法により得ることができる、有機セレンにより栄養強化された非光合成細菌である。このような微生物は、一般的に、セレン当量において、1000ppmを超える、好ましくは1200ppmを超える、より好ましくは1400ppmを超える有機セレン含有量、および前記微生物の乾燥重量において、0.5%未満の、好ましくは0.2%未満の、より好ましくは0.1%未満の無機セレン含有量を有する。
【0055】
同様に、本発明は、より具体的には、酵母であって、前記酵母の乾燥重量中、130マイクログラムセレン当量/グラム(μgSe/g)を超える、好ましくは150μgSe/gを超える、より好ましくは170μgSe/gを超えるセレノメチオニン含有量を含んでなる、セレンにより栄養強化されたサッカロマイセス属の酵母に関する。
【0056】
微生物の全セレンおよびセレノメチオニン含有量は、それぞれ、ミネラル化と、微生物の遠心分離および凍結乾燥の後の酵素消化により、例えば、Mester, Z. et al. (2006) Annal. Bioanal. Chem. 385: 168-180に記載されたLobinskyらによる方法に従って決定することができる。セレノメチオニン含有量は、遊離アミノ酸としてのセレノメチオニン並びに他のアミノ酸に結合した、換言すれば、タンパク質およびペプチド内に存在するセレノメチオニンの含有量に対応する。
【0057】
本発明に記載した酵母は、例えば、セレンにより栄養強化されたパンの製品の製造だけでなく、有機セレンにより栄養強化された動物起源のミルクまたは有機セレンにより栄養強化された卵の取得においても有用である。
【0058】
より具体的には、本発明は、非光合成プロバイオティック細菌であって、前記非光合成プロバイオティック細菌の乾燥重量中、50μgSe/gを超える、好ましくは100μgSe/gを超える、より好ましくは500μgSe/gを超えるセレノメチオニン含有量を含んでなる、非光合成プロバイオティック細菌、具体的には乳酸菌、特にラクトバチルス属の乳酸菌に関する。
【0059】
セレノメチオニンは、細菌に含まれる全セレンの特に50%を超え、好ましくは60%を超えるであろう。
【0060】
このような細菌は、例えば、有機セレンにより栄養強化されたチーズやヨーグルトなどの発酵乳の製造に有用であることが示される。
【0061】
「プロバイオティック」とは、生きているか、若しくは死んだ形態において動物またはヒトにより吸収されうる、並びに栄養上の、医薬の若しくは美容の言い方では、動物またはヒトに対して有益な効果を有する微生物であると理解される。細菌の事例では、それは乳酸菌、特にラクトバチルス属の乳酸菌であってもよい。土壌を解毒するために用いられる細菌Cupriavidus metalliduransおよびRalstonia metalliduransは、この定義には合致しない。
【0062】
本発明に記載された非光合成プロバイオティック細菌は、それゆえに、特に美容の、医薬の、または栄養上の製品において、プロバイオティクスとして用いることができる。
【0063】
それゆえに、本発明に記載した非光合成微生物は、例えば、牛乳や卵などの、特に有機セレンにより栄養強化された二次派生品を得るために、ヒトの栄養摂取や動物の栄養摂取に用いることができる。
【0064】
本発明は、本発明の方法に記載された有機セレンにより栄養強化された微生物に直接由来する、食物、美容または医薬の使用のための、プロバイオティック製品の製造に関する。前記製造は、当業者に知られる技術を含む。
【0065】
本発明の具体的な態様では、あらかじめ本発明の方法に記載された有機セレンにより栄養強化された、生きているか、または死んだ微生物は、規定のプロバイオティック組成物中に添加物として取り込まれる。この事例では、微生物は、組成物中に存在する成分の生物学的な変換には、必ずしも関与しない。
【0066】
本発明のもう一つの態様では、生きている微生物は前もってセレンにより栄養強化されるのではなく、本発明の方法に記載した、上記で定義した式(I)の1種以上の化合物から組成物を製造する方法として栄養強化される。従って、式(I)の前記化合物は、他の成分および非光合成微生物と共に前記組成物中に取り込まれる。従って、得るべき組成物、例えば、その中で酵母が有機セレンにより栄養強化されるパン生地、または、その中で乳酸菌が有機セレンにより栄養強化される発酵乳内で、非光合成微生物は実際に有機セレン化合物の生物学的変換を引き起こすことができる。
【0067】
これらの組成物においては、前に定義されたプロバイオティック細菌、より具体的には、例えば、乳酸菌、特にラクトバチルス属の乳酸菌が用いられる。
【0068】
従って、得られる有機セレンおよび派生製品は、序文にて想起される異なる利用において、特に美容の、医薬のまたは栄養上の作用物質として有用である。
【0069】
本発明は、本発明に記載された有機セレンにより栄養強化された1種以上の微生物、より具体的には前に定義されたプロバイオティック細菌、例えば乳酸菌、特にラクトバチルス属の乳酸菌を含んでなる、(美容の、医薬の、栄養上の使用のための)プロバイオティックな組成物に関する。
【0070】
プロバイオティックな組成物または製品とは、上記で定義されたプロバイオティックとして使用される、生きているか、または死んだ微生物を含んでなる、組成物または製品であると理解される。
【0071】
本発明はさらに、前記で定義された式(I)の1種以上の化合物を含んでなる、非光合成微生物のための培地に関する。そのような培地は、本発明に記載された有機セレンによる微生物の栄養強化の方法の実行に有用である。具体的には、本発明は、上記で定義された少なくとも1種の式(I)の化合物、好ましくは、2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸若しくはその塩、またはそのエステル若しくはアミドの一つ若しくはその立体異性体または立体異性体の混合物を、0.5〜2000mg/L、好ましくは、1〜1000mg/L、より好ましくは2〜500mg/L、つまり、それぞれ、セレン当量において前記化合物の概ね0.2〜800mg/L、好ましくは、セレン当量において前記化合物の0.4〜400mg/L、より好ましくはセレン当量において前記化合物の0.8〜200mg/Lの範囲の濃度で含んでなる培地に関する。
【0072】
本発明に記載された非光合成微生物を調製する方法は、特に、1以上の下記のステップを含んでなる:
−前記非光合成微生物の増殖のために必要な化学元素を含んでなる、培地、好ましくは最少培地を調製すること;
−セレンの有機物供給源として式(I)、好ましくは2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸、またはそれらの塩を培地に導入すること;
−混合物のpHを3〜8の範囲の値に調整すること;
−これらにより構成された混合物中で、25〜80℃の範囲の温度で、100〜500rpmの範囲の環状の攪拌条件下で、および0〜20%の酸素および0.5〜99%の二酸化炭素を含んでいてもよい雰囲気下で、好ましくは24〜96時間、前記非光合成微生物の前培養の接種物を培養内に入れること。
−数分間、4000〜10000rpmで混合物を遠心分離すること;
−生理学的水に細胞ペレットを懸濁すること、
−再度、数分間、4000〜10000rpmで混合物を遠心分離すること;
−セレンにより栄養強化された非光合成微生物が見いだされる、湿った細胞ペレットを滅菌すること。
【0073】
湿った細胞ペレットは、空気中で凍結乾燥または乾燥されてもよい。
【0074】
培地は、特に合成若しくは半合成培地、強化培地、または選択培地であってもよい。
【0075】
微生物の遠心分離および凍結乾燥後、全セレンおよびセレノメチオニンの含有量は、例えば、それぞれ、ミネラル化およびLobinsky, R. et al. described in Mester, Z. et al. (2006) Anal. Bioanal. Chem. 385:168-180に記載の方法による酵素消化後に、決めることができる。
【0076】
本発明の他の特徴および利点は、下記の実施例の中で与えられる。下記の実施例は単に例証を意図して示されるのであって、本発明の範囲を制限するために示されるのではない。
【実施例】
【0077】
実施例1:2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸を含むYPG培地および亜セレン酸ナトリウムを含むYPG培地における、酵母サッカロマイセス・セルビシエの製造:
・系統サッカロマイセス・セルビシエ3053 E000の単離
本系統を、DLC2007年7月22日として同定されたバッチから、FALA BACKHEFEブランドの42gのパンを作る酵母の塊から単離した。この酵母を使用前に+4℃にて冷蔵庫内に保存し、その後、液体YPG(酵母ペプトングルコース)培地に懸濁した。サッカロマイセス・セルビシエ:3053−E000の系統を、YPG培地上に塗布することにより単離されたコロニーの状態で得て、凍結保護剤として10%体積/体積のグリセロールを加え、収集のために−80℃にて保存した。
【表1】

【0078】
記載された実験では、酵母サッカロマイセス・セルビシエ3053 E000の増殖特性を、亜セレン酸ナトリウム、セレノメチオニン、または2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の形態である、異なる濃度のセレンの存在下で測定し、添加物非存在下の増殖特性(対照)と比較した。系統サッカロマイセス・セルビシエ3053 E000の前培養を、液体YPG培地にて、37℃で、環状攪拌(250rpm)の条件下で、24時間行った。
【0079】
・系統サッカロマイセス・セルビシエ3053 E000の培養条件
100mLのYPG培地内の前記前培養の接種物(1.10CFU/ml)から、pH=4にて、37℃の温度にて、撹拌(250rpm)の条件下で、下記条件に従って培養物を形成させた:
サッカロマイセス・セルビシエ3053−E000の培養物を、550nmでの吸収測定により、およびYPGゲロース培養皿上でCFUを計数することにより、モニターした。
【0080】
・亜セレン酸ナトリウムの形態であるセレンの添加
亜セレン酸ナトリウムの添加のために試験された濃度は、セレン当量において、0.5mg/L、10mg/Lおよび20mg/L、すなわち、それぞれ1.1mg/L、22.22mg/Lおよび44.44mg/Lの亜セレン酸ナトリウムであった。
【0081】
図1のグラフは、異なる濃度の亜セレン酸ナトリウムの存在下における、系統サッカロマイセス・セルビシエ3053−E000の増殖の可視化を可能にする。観察されるように、亜セレン酸ナトリウムは10mg/L(セレン当量において)から毒性効果を見せ始め、得られる増殖率および生物体収量に負の影響を与えた(48時間において−50%)。
【0082】
20mg/Lの濃度(セレン当量において)では、亜セレン酸ナトリウムはサッカロマイセス・セルビシエに対して猛毒性を示すことが分かった。
【0083】
・セレノメチオニンの形態であるセレンの添加
セレノメチオニンの添加のために試験された濃度は、セレン当量において、0.5mg/L、2mg/L、10mg/Lおよび20mg/L、すなわち、それぞれ1.25mg/L、5mg/L、25mg/Lおよび50mg/Lのセレノメチオニンであった。
【0084】
図2のグラフは、異なる濃度のセレノメチオニンの存在下における系統サッカロマイセス・セルビシエ3053−E000の増殖の可視化を可能にする。観察されるように、セレノメチオニンは2mg/L(セレン当量において)から効果を見せ始め、得られる生物体収量に負の影響を与えた(48時間において−29%)。10mg/L(セレン当量において)まで用量を増加させると、得られる増殖率および生物体収量に、より大きな抑制効果を与えた(−50%)が、生存能力には同じだけの影響は与えなかった(−30%)。20mg/Lのセレノメチオニン(セレン当量において)では、増殖率および最終生物体収量に関しては10mg/Lで得られた率および最終生物体収量と同様であり、生存能力に対するより強い毒性効果が見られた(−50%)。
【0085】
・2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の形態であるセレンの添加
2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の添加のために試験された濃度は、セレン当量において、0.5mg/L、2mg/L、10mg/Lおよび20mg/L、つまり、それぞれ1.25mg/L、5mg/L、25mg/Lおよび50mg/Lの2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸(THD−177、テトラエドロン、フランス、CAS:873660−49−2)であった。
【0086】
図3のグラフは、異なる濃度の2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の存在下における、系統サッカロマイセス・セルビシエ3053−E000の増殖の可視化を可能にする。観察されるように、2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸は10mg/L(セレン当量において)から効果を見せ始め、最終生物体収量に負の影響を与え(−15%)、36%生存能力を減少させた。20mg/L(セレン当量において)の濃度の2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸では、生物体収量が36%減少し、生存能力は50%減少した。
【0087】
・セレンによるサッカロマイセス・セルビシエの栄養強化
系統サッカロマイセス・セルビシエ3053−E000の生物体生産に対する以前得られた結果を考慮して、下記に記載する培養において、20mg/L(セレン当量において)の2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の混合率および10mg/L(セレン当量において)の亜セレン酸ナトリウムの混合率の選択を行った:
前培養:YGPで飽和した培養物から、2段階の前培養を行った。
前培養1:10mlの培養(飽和培養物から接種率10%体積/体積、37℃にて24時間培養)
前培養2:100mlの培養(前培養1から接種率10%体積/体積、37℃にて24時間培養)
培養:前培養2から10%体積/体積の率にて1LのYPG培地を接種した。培養物を一定の温度培養し、37℃に制御した。pHを4に調整し、環状撹拌(150rpm)により培養物を混合した。
【0088】
分析のためのサンプルの調製
48時間の培養の後、培地を6500rpmにて5分間遠心分離し、細胞ペレットを生理学的水に懸濁し、その後再度6500rpmにて5分間遠心分離した。
【0089】
湿った細胞ペレットをセレン成分(全セレン、セレノメチオニンおよび亜セレン酸ナトリウム)の分析のために凍結乾燥した。
【0090】
・2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸または亜セレン酸ナトリウムを含む培地において製造された酵母サッカロマイセス・セルビシエのセレン成分の分析
サンプルのミネラル化の後に、全セレンを質量検出に連結したICPにより分析した。セレンの化学種同定は、サンプルの酵素消化の後に、mass−mass検出に連結した高速液体クロマトグラフィーにより行った(Master, Z. et al. (2006) Annul. Bioanal. Chem. 385:168-180)。
【0091】
・結果
全セレン、セレノメチオニンおよび亜セレン酸ナトリウムの濃度は以下の表中で示される:
【表2】

【0092】
表Iにおいて報告され得られた結果は、培地における2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の混合により、サッカロマイセス・セルビシエの全セレン含有量を3500倍程度濃縮(栄養強化)することができ、セレノメチオニンは全セレンの31%を構成していたことを示す。亜セレン酸ナトリウムにより、5000のオーダーのより高い濃縮倍率とすることができたが、セレノメチオニンは全セリン含有量の14%に相当するにすぎなかった。
【0093】
さらに、セレン供給源として2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸を使用した際の酵母サッカロマイセス・セルビシエ内の残留亜セレン酸含有量は、セレン供給源として亜セレン酸ナトリウムを使用した際の残留亜セレン酸含有量の4倍以上少なかった。
【0094】
従って、2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸は、微生物における残留亜セレン酸塩に関連した毒性の危険性を400%軽減する一方で、セレノメチオニンによるサッカロマイセス・セルビシエなどの真核微生物の栄養強化のための、亜セレン酸ナトリウムよりも良いセレン供給源と考えられる。
【0095】
実施例2:2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸を含むMRS培地および亜セレン酸ナトリウムを含むMRS培地における、細菌ラクトバチルス・パラカゼイの製造
・系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052 E000の単離
本系統をダノン社により販売されるACTIMEL(商標)のチューブから単離した。
【0096】
このチューブを使用前に+4℃で冷蔵庫に保存し、その後、内容物を50mLの液体MRS培地で希釈した。
【0097】
ラクトバチルス・パラカゼイ3052−E000の系統を、MRS培地に塗布することにより、単離されたコロニーの状態で得た。これはGalerie API 50 CHLを用いて同定され、凍結保護剤として10%体積/体積グリセロールを添加し、収集のために−80℃においた。
【表3】

この実験では、細菌ラクトバチルス・パラカゼイの増殖特性を、亜セレン酸ナトリウム、セレノメチオニン、または2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の形態である、異なる濃度のセレンの存在下で測定し、添加物非存在下での増殖特性と比較した。
【0098】
・系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052 E000の前培養
系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052 E000の前培養を、液体MRS培地において、撹拌なしで、42℃にて、24時間行った。系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052−E000の培養を、100mLのMRS培地における上記前培養の接種物(1.10CFU/ml)から、pH=6.4および42℃の温度にて(撹拌なしで)行った。
培養物は、550nmでの吸収測定により、およびMRS培養皿上でCFUを数えることにより、モニターした。
【0099】
・亜セレン酸ナトリウムの形態であるセレンの添加
亜セレン酸ナトリウムの添加のために試験された濃度は、セレン当量において、0.5mg/L、2mg/mL、10mg/Lおよび20mg/L、つまり、それぞれ1.11mg/L、4.44mg/L、22.22mg/Lおよび44.44mg/Lの亜セレン酸ナトリウムであった。図4のグラフは、亜セレン酸ナトリウムの存在下における、系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052−E000の増殖の可視化を可能にする。
【0100】
観察されるように、0.5mg/mL(セレン当量において)の亜セレン酸ナトリウムの添加から、48時間での25%の生物体生産収量の減少と同様に、ラクトバチルス・パラカゼイの増殖に対して抑制効果を示し始めた。これらの効果は、2mg/mL(セレン当量において)の亜セレン酸ナトリウムの添加により効果が高まり、10および20mg/mL(セレン当量において)の亜セレン酸ナトリウムの濃度では、48時間での収量の減少は90%に達した。これらの量で、亜セレン酸ナトリウムはラクトバチルス・パラカゼイに対して毒性を示した。
【0101】
・セレノメチオニンの形態であるセレンの添加
セレノメチオニンの添加のために試験された濃度は、セレン当量において、0.5mg/L、2mg/L、10mg/Lおよび20mg/L、つまり、それぞれセレノメチオニンについての1.25mg/L、5mg/L、25mg/Lおよび50mg/Lのセレノメチオニンであった。
【0102】
図5のグラフは、異なる濃度のセレノメチオニンの存在下における、系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052−E000の増殖の可視化を可能にする。
【0103】
セレノメチオニンの形態であるセレンの添加は、ラクトバチルス・パラカゼイに対し、20mg/L(セレン当量において)に至るまで、増殖に対する抑制効果または、生物体生産収量における顕著な減少効果を示さなかった。
【0104】
・2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の形態であるセレンの添加
2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の添加のために試験された濃度は、セレン当量において、0.5mg/L、2mg/L、10mg/Lおよび20mg/L、つまり、それぞれ1.25mg/L、5mg/L、25mg/Lおよび50mg/Lの2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸(THD−177、テトラエドロン、フランス、CAS:873660−49−2)であった。
【0105】
図6のグラフは、異なる濃度の2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の存在下における、系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052−E000の増殖の可視化を可能にする。
【0106】
セレノメチオニンの添加と同様に、2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の形態であるセレンの添加は、20mg/L(セレン当量において)の2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸に至るまで、増殖に対する抑制効果または、生物体生産収量における顕著な減少効果を示さなかった。
【0107】
2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の添加の影響力の研究を完全なものにするために、より高い値にて、40および60mg/Lの濃度を、前記と同じ条件下で試験した。
【0108】
2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の形態である20mg/Lのセレンの添加に関する限りは、この系統の増殖および生物体量収量に対して、抑制効果が見られなかった。
【0109】
・セレンによるラクトバチルス・パラカゼイの栄養強化
以前得られた結果を考慮して、系統ラクトバチルス・パラカゼイ3052−E000の生物体の製造のために、60mg/L(セレン当量において)の2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の混合率および1mg/L(セレン当量において)の亜セレン酸ナトリウムの混合率の選択を行った。
【0110】
分析のためのサンプルの調製:
48時間の培養の後、培地を6500rpmにて5分間遠心分離し、細胞ペレットを生理学的水に懸濁し、その後再度6500rpmにて5分間遠心分離した。
【0111】
・2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸または亜セレン酸ナトリウムを含む培地において製造された細菌ラクトバチルス・パラカゼイのセレン成分の分析
全セレンをサンプルのミネラル化の後に、質量検出に連結したICPにより分析した。セレンの化学種同定を、サンプルの酵素消化の後に、mass−mass検出に連結した高速液体クロマトグラフィーにより行った。
【0112】
・結果
全セレン、セレノメチオニンおよび亜セレン酸ナトリウムの濃度は以下の表中で示される:
【表4】

表IIにおいて得られた結果は、培地への2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の混合により、ラクトバチルス・パラカゼイの全セレン含有量を5700倍に濃縮することができ、セレノメチオニンは前記全セレンの66%を構成していたことを示す。培地における亜セレン酸ナトリウムの添加後の全セレンの濃縮倍率は、非常に劣っており、700に過ぎず、セレノメチオニンは全セリン含有量の14%に相当するにすぎなかった。
【0113】
従って、セレノメチオニンによるラクトバチルス・パラカゼイなどの原核生物の微生物の栄養強化に対して、2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸は亜セレン酸ナトリウムよりも理想的なセレン供給源である。
【0114】
実施例3:2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸を含むMRS培地における、47時間の培養後の細菌ラクトバチルス・プランタルム3120−E000の製造
この実施例では、培養条件は、実施例2の培養条件と同一であった。これらの仕事に対応する結果は、下記表に記載される。
【表5】

表IIIにおいて得られた結果は、47時間の10mg/Lまたは60mg/Lでの2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の培地への混合により、全セレンをそれぞれ約2000または7000倍に濃縮することができることを示す。さらに、これらの結果はセレノメチオニンが全セレンの88%を超えることを示す。
【0115】
実施例4:48時間の培養後の2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸を含む最少培地(M63+グルコース+メチオニン)における細菌エシェリキア・コリWT3121−E000の製造
系統エシェリキア・コリWT3121−E000の起源は以下の通りである:
エシェリキア・コリK12(系統58)、CGSG参照番号5587。
【表6】

【0116】
これらの仕事に対応する結果は、以下の表に記載される。
【表7】

【0117】
表IVにおいて得られた結果は、48時間、60mg/Lでの培地における2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸の混合が、38000倍を超える全セレンの濃縮を可能にすることを示す。これらの結果は、さらに、セレノメチオニンが全セレンの98%以上を構成することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機セレンによって非光合成微生物を栄養強化する方法であって、前記非光合成微生物をセレノ−ヒドロキシ酸型の化合物を含んでなる培地において培養する、方法。
【請求項2】
セレノ−ヒドロキシ酸型の化合物が、下記一般式(I)、その塩、立体異性体、ラセミ体混合物のようなすべての割合での立体異性体の混合物または前記化合物のエステル若しくはアミド誘導体である、請求項1に記載の方法。
【化1】

(式中、
n=0、1または2;
=OH、OCOR、OPO、OPOまたはOR
=OH、R、NHR、S−システイニルまたはS−グルタチオニル;
ここで、n=1かつR=OHのとき、RはOHではなく、
=アルコキシル、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド4、セラミド5、セラミド6aおよび6b、S−システイニル、S−グルタチオニルまたは下記から選択される基:
【化2】


OR=アルコキシル(C−C26)、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド4、セラミド5、セラミド6aおよび6b、または下記から選択される基:
【化3】


OR=アルコキシル(C−C26)、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド4、セラミド5、セラミド6aおよび6b、または下記から選択される基:
【化4】


OR=ピルベート、ラクテート、シトレート、フマレート、マレエート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、パルミトレエート、オレエート、リノレエート、天然脂肪酸残基または13−シスレチノエート;
NHR=NH、NH−アルキル(C−C26)、天然アミノ酸残基または天然アミン残基。)
【請求項3】
前記セレノ−ヒドロキシ酸型の化合物が、下記式(Ia):
【化5】

(ここで、nは前記で定義された通りであり、好ましくは0を表す)
または、その塩、立体異性体若しくはラセミ体混合物のようなすべての割合での立体異性体の混合物、エステル若しくはアミド、
に対応する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記セレノ−ヒドロキシ酸型の化合物が以下から選ばれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法:
− L−2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸、
− D−2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸、
− D,L−2−ヒドロキシ−4−メチルセレノ−酪酸、
またはこれらの塩。
【請求項5】
前記セレノ−ヒドロキシ酸型の化合物がカルシウム、亜鉛またはマグネシウム塩の形態である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記非光合成微生物が、サッカロマイセス属の酵母のような非光合成酵母、または乳酸菌、特にラクトバチルス属の乳酸菌などの非光合成細菌から選ばれる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
その乾燥重量において、50μgSe/gを超える、好ましくは100μgSe/gを超える、より好ましくは500μgSe/gを超えるセレノメチオニン含有量を含んでなる、有機セレンにより栄養強化された非光合成プロバイオティック細菌。
【請求項8】
乳酸菌、特にラクトバチルス属の乳酸菌である、請求項7に記載の非光合成プロバイオティック細菌。
【請求項9】
無機セレンの乾燥重量において、さらに、0.5%未満、好ましくは0.2%未満、より好ましくは0.1%未満を含んでなる、請求項7または8に記載の非光合成プロバイオティック細菌。
【請求項10】
特に美容、医薬、栄養上の製品における、プロバイオティックとしての、請求項7〜9のいずれか一項に記載の非光合成プロバイオティック細菌の使用。
【請求項11】
生きているか、または死んだ、請求項7〜9のいずれか一項に記載の非光合成プロバイオティック細菌を含んでなるプロバイオティック組成物。
【請求項12】
医薬、美容または栄養上の組成物としてのその使用のための請求項11に記載のプロバイオティック組成物。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のセレノ−ヒドロキシ酸型の化合物を含んでなる、非光合成プロバイオティック微生物のための培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−500645(P2012−500645A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524399(P2011−524399)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061165
【国際公開番号】WO2010/023291
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(507022330)
【氏名又は名称原語表記】TETRAHEDRON
【Fターム(参考)】