説明

セレノアミノ酸の誘導体

動物用食事における強化された生物学的に利用可能なセレン源としてのセレノ−α−アミノ酸、特にセレノメチオニンの誘導体。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
栄養上のセレンの本質的な役割は、1957年にSchwarzおよびFoltzにより最初に認識された(非特許文献1)。これらの研究者らは、ビタミンEの欠乏した精製した食餌を与えたときにラットが肝壊死を発症することを観察した。しかしながら、セレンを食餌に添加することにより、この病状の発症は予防された。ニワトリにおける滲出性体質(腹部および胸部の皮下腔への血漿の漏出により特徴付けられる病状)の発症を食餌性セレンにより予防しうることが、Pattersonらにより同年に報告された(非特許文献2)。栄養上のセレンの重要な役割は、家畜におけるセレン欠乏の実際の影響を認識することにより、さらに実証された(非特許文献3および非特許文献4)。その後の研究では、セレンが動物に必須の元素であり、それが欠乏すると種々の障害を生じることが確認された(非特許文献5)。
【0002】
ヒトの栄養上のセレンの重要性およびその欠乏がヒトの健康に及ぼす影響は、1970年代まで認識されていなかった。セレンの欠乏は、克山病(中国の農村部で生活するヒトが罹患する拡張型心筋症により特徴付けられるヒトの病状)に関与する要因の1つであることが見いだされた。克山病の発生率は、セレン欠乏地域の分布と一致した(非特許文献6)。さらに、前向きプラセボ対照試験では、亜セレン酸ナトリウム錠剤を投与することにより疾患の新規症例を予防できることが実証された(非特許文献7)。重篤患者における食事起因性セレン欠乏の有害作用が、いくつかの症例研究で報告された。完全非経口栄養の1名の患者で骨格筋障害が発症し、セレノメチオニンの静脈内投与により改善された(非特許文献8)。栄養上のセレン欠乏により引き起こされた致死的心筋症が、死亡するまで2年間にわたり非経口栄養を受けていた43歳の男性で報告された(非特許文献9)。1982年、食事性セレン欠乏に関連する致死的心筋症の第2の症例が、少なくとも2年間にわたる在宅中心静脈栄養の患者で報告された(非特許文献10)。
【0003】
ヒトおよび動物の栄養上のセレンの本質的な役割が認識された結果、ヒトに対する推奨一日許容量(RDA)が確立され、動物用飼料中への追加のセレン化合物の組込みが承認されるに至った。最近、医薬研究所食品栄養委員会(The Food and Nutrition Board of the Institute of Medicine)は、セレンのRDAを55μgに改訂した(非特許文献11)。1974年、食品医薬品局(FDA)は、飼料添加剤として亜セレン酸ナトリウムおよびセレン酸ナトリウムを承認した。これらの無機セレン塩は、飼料乾物中0.3ppmのSeレベルで添加可能である。2000年6月、FDAは、家禽ブロイラー用および産卵鶏用の食餌におけるセレン酵母の使用を承認した。
【0004】
セレンの有益な作用の発現に関与する生化学的機序が明らかになり始めたのは、セレンが抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼの必須成分であることが見いだされた1973年であった(非特許文献12および非特許文献13)。併行して、細胞外セレノプロテイン(セレノプロテインP)が、ラット、アカゲザル、およびヒトの血漿中に見いだされ、グルタチオンペルオキシダーゼと異なることが確認された(非特許文献14)。セレンの他の機能は、甲状腺ホルモン代謝を調節するヨードチロニン脱ヨウ素酵素の触媒活性成分としての機能である。つい最近、チオレドキシンレダクターゼの活性中心でセレノシステインが同定され、これらの酵素により触媒される種々の代謝過程でセレンの果たす役割が示された。
【0005】
最近の研究により、哺乳動物におけるセレンの役割は、セレノ酵素の生理学的機能に限定されていないことが明らかにされている。現在では、セレンは、男性の妊性に不可欠な精子形成において非常に特異的な役割を有すると考えられている(非特許文献15)。精核に特異的なセレノ酵素が同定されたことから、精子成熟においてセレンの果たす重要な役割がさらに強調されることになった(非特許文献16)。
【0006】
食事に必要とされるセレンの量は、通常、天然に存在する有機セレン化合物を含有する食事を摂取することにより満たされる。有機セレン化合物に富んだ食品原料および飼料原料としては、肉、魚、乳製品、いくつかの野菜、および穀物が挙げられる。植物起源の材料中のセレンの濃度は、多くの場合、植物が栽培された土壌中のセレンの濃度に依存する。ロッキー山脈諸州の土壌は、他の州よりも高レベルのセレンを含有するので、こうした土壌で生育する植物は、より高レベルのセレンを含有する。自然食品原料中および飼料原料中の有機セレンの大部分は、L−セレノメチオニンとして存在する。セレンに富んだ土壌で生育するいくつかの蓄積植物および野菜(たとえば、ニンニク、タマネギ、およびブロッコリー)は、主要な有機セレン化合物としてSe−メチルセレノシステインおよびその誘導体を含有する。米国の天然飼料植物中のセレンの優位な形態の1つは、セレン酸塩である。試験した24種の植物に関して、セレン酸塩は、全セレンの5〜92%を占めた。亜セレン酸塩は、これらの植物のうち全セレンの3%を亜セレン酸塩として含有する1種以外のすべてに含まれていなかった(非特許文献17)。摂取されるセレンの形態に関係なく、それは、同一の中間プールを介してさまざまな代謝経路により、セレンの生物学的作用に関与する特異的なセレノシステイン含有セレノプロテインに変換される。このセレノシステイン含有セレノプロテインの組織中レベルは、ホメオスタシスにより制御されているように思われる。最適必要量を超えるサプリメントのセレンを摂取しても、組織中の特異的セレノプロテインの濃度は、増大しないように思われる。しかしながら、セレノメチオニンを摂取した場合、他のセレン源を摂取した場合に観測されるよりも高い比率で組織中にセレンが保持される。このことは、セレノメチオニンの一部だけが他のセレン源と同じように中間プールを介して特異的なセレノシステイン含有タンパク質に代謝されるという事実に起因する。摂取されたセレノメチオニンの特定のパーセントは、メチオニンの代わりにタンパク質中に非特異的に直接組み込まれる。この非特異的に結合されたセレンは、メチオニンに富んだタンパク質中に高濃度で存在する。非特異的なタンパク質中に組み込まれる摂取されたセレノメチオニンの分率は、セレノメチオニンとメチオニンの比に依存し、セレンの状態には依存しないように思われる。低メチオニン食を摂取した場合、タンパク質中へのセレノメチオニンの非特異的組込みの増大により、特異的セレノプロテインの濃度および作用が低下した。セレノメチオニンの非特異的組込みは、骨格筋、赤血球、膵臓、肝臓、胃、腎臓、および胃腸粘膜のタンパク質で起こる。体タンパク質からのセレノメチオニンの放出は、タンパク質の代謝回転に関連している。長期間にわたりセレノアミノ酸の摂取を継続すれば、組織中のセレノメチオニンの定常状態濃度が確立されるであろう。(非特許文献18)。
【0007】
動物におけるセレノメチオニン、Se−メチル−セレノシステイン、亜セレン酸塩、およびセレン酸塩の体内動態は、注意深く研究されてきた。動物の栄養上のこれらの一般的セレン源は、さまざまな経路で中間セレンプールに到達し、最終的には、特異的セレノプロテイン中に組み込まれるか、または容易に排泄されうる極性代謝産物にさらに変換される。
【0008】
摂取されたセレン源の一部は、多くの経路を介して排出される。経口摂取された亜セレン酸塩およびセレン酸塩の一部は、胃腸管内でセレン元素に還元されて糞便中に排泄される。亜セレン酸塩およびセレン酸塩はまた、尿中にも排泄される。
【0009】
承認されたセレン源を動物用飼料に追加することが一般的になってきている。現在、亜セレン酸塩やセレン酸塩のような無機供給源のほかに有機供給源のセレン酵母も、飼料原料としてFDAにより承認されている。しかしながら、添加可能なセレンの量および補給してもよい家畜の種は、規制されている。亜セレン酸塩やセレン酸塩のような無機セレン源を飼料原料として使用することが承認されたことは、興味深い。なぜなら、これらは、天然には飼料中に有意な濃度で存在しないからである。L−セレノメチオニンは、自然食品中および飼料中に最も一般的に存在するセレンの形態である。しかしながら、合成L−セレノメチオニンは、畜産において飼料原料として使用するのに手ごろな価格で市販されていなかった。したがって、セレン強化酵母が、実用的な手ごろな価格のL−セレノメチオニン源として使用されてきた。セレンに富んだ培地中で増殖されたサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiea)の特別菌株は、乾物1gあたり3000μg程度のSeを蓄積する。酵母中のセレンのほとんどは、L−セレノメチオニンとして存在する。L−セレノメチオニンは、主に、L−メチオニンの代わりに酵母タンパク質中に組み込まれて存在する。Se−アデノシル−セレノホモシステイン(2〜5%)、セレノシステイン(0.5%)、メチルセレノシステイン(0.5%)、セレノシスタチオニン(0.5%)、およびγ−グルタミル−Se−メチルセレノシステイン(0.5%)をはじめとする他の有機セレン化合物は、低濃度で存在しうる。わずかな無機セレンが、亜セレン酸塩またはセレン酸塩として酵母中に存在するにすぎない(非特許文献19)。
【0010】
セレンの状態および家畜の健康に及ぼす亜セレン酸塩サプリメントおよびセレン酵母サプリメントの影響を比較するいくつかの研究が、過去数年間に発表された。セレン欠乏動物では、血漿中および組織中のセレン濃度は、セレンの摂取量の増大に伴ってある点まで直線的に増大し、それ以降は、血漿中および組織中のセレン濃度は、摂取量の増大と共に有意に変化しない。たとえば、亜セレン酸ナトリウム由来の食餌性セレンと乳牛の血漿中および乳中のセレン濃度との関係が、Mausらにより調べられた。血漿中および乳中のセレン濃度は、セレンの摂取量の増大に伴って直線的に約2〜6mg/日で増大した。摂取量をさらに増大させても、血漿中および乳中のセレンは、ごくわずかな変化を示すにすぎなかった(非特許文献20)。
【0011】
いくつかの動物試験において、セレンは、亜セレン酸塩由来またはセレン酸塩由来よりもセレン酵母由来のほうが生物学的利用性が高いことが見いだされた。組織中のセレン濃度の増大は、亜セレン酸塩を与えた動物と比較して、セレン酵母を与えた動物のほうが大きかった。しかしながら、グルタチオンペルオキシダーゼ活性の増大は、サプリメントのセレン源に関係なくほぼ同一であった。動物の健康に及ぼすセレン補給の好ましい作用が、いくつかの研究で実証された。たとえば、乳腺炎病原体を保有する乳区パーセント(percent quarters)の減少および乳中の体細胞数の減少により実証されるように、セレン補給により、乳牛の乳房の健康が改善された。この場合も、セレン酵母の作用は、亜セレン酸ナトリウムの作用よりも大きかった(非特許文献21)。
【0012】
要約すると、現在、食事性セレンは、ヒトおよび動物の健康および福祉に不可欠であることが十分に認識されている。いくつかの研究により、セレンは、無機供給源由来よりも有機供給源由来のほうが生物学的利用性が高いことが実証されている。商業用途に利用可能な唯一の有機セレン源は、セレンに富んだ酵母製剤である。酵母の場合、セレンは、主に、L−セレノメチオニンに富んだタンパク質として存在する。セレン酵母は、現在、食事性セレン源として広く認められているが、それを使用するうえで、いくつかの欠点を抱えている。酵母中の有機的に結合したセレンの濃度は、亜セレン酸塩強化培地からL−セレノメチオニンを形成するその能力により限定される。現在、酵母中のセレンの最大可能濃度は、2000μg/乾物gであるように思われる。第2に、酵母中の有機的に結合したセレンは、大量生産プロセスにおけるわずかな変動の影響をも受けやすい生物学的過程により生産されるので、セレン化合物の厳密な組成は、変動しやすく、容易にはわからない。ときとして、酵母は、亜セレン酸塩やセレン酸塩のような無機セレン化合物をさまざまな濃度で含有する。第3に、有機セレン化合物は、細胞内タンパク質の一部として酵母中に存在する。摂取後、これらの化合物が吸収可能になる前に、酵母の細胞壁が破壊され、消化酵素のタンパク質分解作用を受けうる動物の胃腸管内にタンパク質が放出されなければならない。セレン化合物が吸収可能になるのは、タンパク質が単一アミノ酸またはジペプチドに加水分解された後に限られる。無傷の酵母細胞からの単一アミノ酸またはジペプチドとしてのセレン化合物の放出は、完全ではなく、胃腸管内の条件に大きく依存する。こうした欠点があるので、容易に生物学的に利用可能な食事性セレン源として機能するセレン強化酵母の代替物を開発するという重要なニーズが存在する。我々の先行特許(特許文献1)は、錯塩に関するものであった。本改良は、非常に安定な特定のエステルおよび有機誘導体に関する。
【特許文献1】米国特許第6,911,550号
【非特許文献1】Selenium as an integral part of factor 3 against dietary necrotic liver degeneration. J. Am. Chem. Soc. 79:3292 (1957)
【非特許文献2】Effect of selenium in preventing exudative diathesis in chicks. Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 95: 617-620 (1957)
【非特許文献3】Effects of selenium and vitamin E on white muscle disease. Science 128: 1090 (1958)
【非特許文献4】A review of selenium responsive diseases of New Zealand livestock. Fed. Proc. 2o: 679 (1961)
【非特許文献5】The role of selenium in nutrition. Academic Press, Orlando, Florida, pp 265-399 (1986b)
【非特許文献6】Epidemiologic studies on the etiologic relationship of selenium and Keshan disease. Chin. Med J. 92:477-482 (1979)
【非特許文献7】Observations on effect of sodium selenite in prevention of Keshan disease. Chin. Med J. 92:471-477 (1979)
【非特許文献8】Selenium deficiency in total parenteral nutrition. Am. J. Clin. Nutr. 32: 2076-2085 (1979)
【非特許文献9】An occidental case of cardiomyopathy and selenium deficiency. The New England Journal of Medicine. 304: 1210-1212 (1981)
【非特許文献10】Selenium Deficiency and Fatal Cardiomyopathy in a Patient on Home Parenteral Nutrition. Gastroenterology. 83:689-693 (1982)
【非特許文献11】Dietary Reference Intakes for Vitamin C, Vitamin E, Selenium, and Carotenoids. Washington, D.C.: National Academy Press, (2000)
【非特許文献12】Selenium: Biochemical Role as a Component of Glutathione Peroxidase. Science, 179: 588-590 (1973)
【非特許文献13】Glutathione Peroxidase. A Selenoenzyme. FEBS Lett. 32: 132-134)
【非特許文献14】Selenoprotein P. Cellular and Molecular Life Sciences. 57: 1836-1845 (2000)
【非特許文献15】Dual Function of the Selenoprotein PHGPx During Sperm Maturation. Science 285: 1393-1396 (1999)
【非特許文献16】Identification of a Specific Sperm Nuclei Selenoenzyme Necessary for Protamine Thiol Cross-Linking During Sperm Maturation. FASEB J 15: 1236-1238 (2001)
【非特許文献17】Selenocompounds in Plants and Animals and their Biological Significance. Journal of the American College of Nutrition, 12: 223-232 (2002)
【非特許文献18】Nutritional Selenium Supplements: Product Types, Quality, and Safety. Journal of the American College of Nutrition, 20: 1-4 (2001)
【非特許文献19】Selenomethionine: A Review of its Nutritional Significance, Metabolism and Toxicity. J. Nutr. 130: 1653-1656 (2000)
【非特許文献20】Relationship of Dietary Selenium to Selenium in Plasma and Milk from Dairy Cows, J Dairy Sci, 63: 532-537 (1980)
【非特許文献21】Comparisons of Selenite and Selenium Yeast Feed Supplements on Se-incorporation, Mastitis and Leucocyte Function in Se-deficient Dairy Cows, J Vet Med A, 42: 111-121 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
最近、ヒト用および家畜用のサプリメントとして使用するための改良された生物学的利用能を有する食事性セレン源の需要が、高まってきている。合成セレノアミノ酸は、最近、妥当な費用で市販されるようになってきている。しかしながら、こうしたアミノ酸は、水溶性が低く、その結晶は、撥水性を有するので、溶解速度が遅い。低溶解度および低溶解速度であると、動物に与えた後のこうした化合物の生物学的利用能は低い。本発明の主目的の1つは、改良された生物学的利用能を有するセレノアミノ酸の誘導体を同定し、次に、それらを調製することである。
【0014】
セレンは、硫黄と同様に、第VIA族元素のメンバーである。それは、さまざまな同素形で存在し、−2、0、+2、+4、および+6の酸化状態を有する。セレンは、非金属元素である。それは、単原子アニオンを形成可能であるので、共有結合だけでなくイオン結合をも形成可能である。酸化状態が−2の場合、セレンは、炭素置換基と共有結合を形成し、多くの場合、天然に存在する化合物中の硫黄と置換可能である。セレンの生物学的役割は、セレンが−2の酸化状態で存在し、かつ機能性タンパク質の一部として通常は炭素と共有結合している天然に存在する化合物に起因する。セレノアミノ酸は、食事性セレン源として提案されている。しかしながら、こうした化合物の生物学的利用能は、動物の栄養状態および食事の組成および胃腸管の内容物により有意に低減される可能性があることが確認されている。したがって、こうしたアミノ酸の生物学的利用能を改善しうるセレノアミノ酸の誘導体を探索することが望まれた。先行特許(米国特許第6,911,550号)では、本願の発明者らは、改良された生物学的利用能を有するセレノアミノ酸の可逆的誘導体について記述した。こうした可逆的誘導体は、L−セレノメチオニンのようなセレノアミノ酸の1:1亜鉛錯体である。本発明の主目的は、改良された生物学的利用能を有するセレノアミノ酸の新規な不可逆的誘導体を製造することである。こうした新規な化合物は、α−アミノ基および/またはカルボキシル基と保護基との間に共有結合を形成してセレノアミノ酸を化学的に修飾することにより形成される。こうした化学的に安定な化合物は、動物により摂取された後、セレノアミノ酸に酵素的に修飾される。
【0015】
本発明の他の目的は、こうした誘導体の調製方法および家畜の飼料原料としてのそれらの使用について記述することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の概要
ヒトおよび家畜に有効な食事性のサプリメントセレン源であるセレノアミノ酸の新規誘導体を調製する。新規な誘導体は、もとのセレノアミノ酸よりも改良された物理的性質、化学的性質、または生物学的性質を有する。こうした誘導体は、セレノアミノ酸よりも増強された生物学的利用能および/または増大された安定性を有する。それらは、L−セレノメチオニンのようなセレノアミノ酸の1:1錯体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
好ましい実施形態の詳細な説明
飼料サプリメントに使用するための現在入手可能なセレン源の性能は不十分であるので、改良された生物学的利用能を有するセレノメチオニンの誘導体を探索することが必要であった。新規な誘導体の所望の性質としては、以下のものが挙げられる。
【0018】
1.誘導体は、容易に生物学的に利用可能なセレン源でなければならない。
【0019】
2.誘導体は、親化合物よりも安定でなければならない。
【0020】
3.誘導体の物理的性質(たとえば、溶解度、溶解速度、臭気)は、親化合物よりも有利なものである。
【0021】
4.誘導体は、市販の試薬を用いてかつ妥当な費用で親化合物から容易に調製可能である。
【0022】
5.セレン含有化合物はいずれも安全域が狭いことが確認されているので、誘導体は、親化合物と同程度に安全でなければならない。
【0023】
6.反芻動物においてセレン源として使用できるように、誘導体は、反芻胃の内容物中で安定でなければならない。
【0024】
他の市販のセレノアミノ酸(たとえばメチル−L−セレノシステイン)は、L−セレノメチオニンと類似の望ましくない物理的性質を有することが判明した。したがって、こうしたセレノアミノ酸の誘導体も調製した。こうした誘導体は、セレノメチオニンの性質と類似の性質を有することが判明した。
【0025】
セレノアミノ酸誘導体の1つのグループは、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、およびイソプロピルエステルのような単純脂肪族エステルである。このグループの中では、イソプロピルエステルが好ましい化合物であった。これらは、適切な触媒またはカップリング剤の存在下でセレノアミノ酸をイソプロピルアルコールと反応させることにより、容易に調製される。これらは、濃硫酸およびチオニルクロリドを含むものであった。アミノ酸エステルは、通常、塩酸塩として分離される。L−セレノメチオニンイソプロピルエステル塩酸塩は、水に易溶であり、固体状態および溶液状態でL−セレノメチオニンよりもかなり安定である。こうした誘導体は、もとのセレノアミノ酸よりもはるかに大きい脂溶性を有し、pH>5.0で腸の内容物から受動拡散により急速に吸収されるであろう。
【0026】
探索した誘導体の第2のグループは、セレノアミノ酸のN−スクシニル誘導体である。こうした化合物は、セレノアミノ酸を無水コハク酸と反応させることにより、容易に得られた。セレノアミノ酸のα−アミノ基がマスキングされているので、こうした化合物は、部分解離型の酸である。こうした化合物は、その塩として分離されて容易に精製される。カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、またはマグネシウム塩を調製することが可能である。N−スクシニル−L−セレノメチオニンのナトリウム塩は、水に易溶である。それは、固体状態および溶液状態でL−セレノメチオニンよりもかなり安定である。こうした誘導体は、もとのセレノアミノ酸よりもはるかに大きい脂溶性を有し、pH<3.0で胃腸の内容物から受動拡散により急速に吸収されるであろう。
【0027】
探索した誘導体の第3のグループは、セレノアミノ酸のN−カルバモイル誘導体およびヒダントイン誘導体である。N−カルバモイル−L−セレノメチオニンは、水溶液中90℃でL−セレノメチオニンとシアン酸カリウムとを反応させることにより得られる。3N塩酸中でN−カルバモイル誘導体を加熱すると、L−セレノメチオニンヒダントインが提供される。N−カルバモイル誘導体は、より水に可溶であり、その溶液は、もとのセレノアミノ酸よりも安定であると思われる。ヒダントインは溶解度が低く、もとのセレノアミノ酸よりも安定であると思われる。
【0028】
以上に記載の化合物は、セレノアミノ酸の可逆的誘導体である。動物により摂取された後、それらは、主に酵素触媒反応によりもとのセレノアミノ酸に容易に変換されると予想される。たとえば、L−セレノメチオニンイソプロピルエステルは、血液中および肝臓のような他の組織中に存在するエステラーゼにより、容易に加水分解されると予想される。また、pH7.4の血漿においてエステルの非酵素的加水分解が起こる可能性もある。N−スクシニル誘導体は、おそらく血漿中および肝臓中のアミダーゼにより酵素的に加水分解されるであろう。
【0029】
本発明に記述されているセレノアミノ酸誘導体は、容易に利用可能なセレン源として固体もしくは液体の飼料に添加できる。添加される化合物の量は、補給される動物に依存するであろう。ブタおよび家禽の場合、0.05〜2.00ppmのSe、好ましくは0.1〜0.3ppmのSeが、食餌に追加されるであろう。ウシの場合、1日あたり1頭につき0.05〜10mgのSe、好ましくは1日あたり1頭につき2〜7mgのSeが、飼料に追加されるであろう。
【0030】
以下の実施例は、こうした錯体の実用的取得方法、その性質、および動物の栄養上のセレン源としてのそれらの使用を例示すべく提供される。
【実施例1】
【0031】
L−セレノメチオニンイソプロピルエステルヒドロクロリド(化合物1)の調製:
1000mlの丸底フラスコ中にイソプロピルアルコール(150ml)を添加した。フラスコを氷水浴中に配置し、一定の攪拌を行いながら濃硫酸(43.208gの工業グレード品(少なくとも93%))を注意深く滴下した。攪拌を継続しながらL−セレノメチオニン(66.962g、0.338モル)を注意深く添加した。Soxhlet抽出管をフラスコの上端に取り付けた。Molecular Sieve 3Aが充填されたフリットディスク付きガラス製抽出シンブルを抽出管内に配置した。イソプロピルアルコールを添加して抽出管を満たした。還流冷却器を抽出管に取り付けた。イソプロピルアルコールの穏やかな還流が起こるように、混合物をマントルヒーターにより加熱する。反応混合物を還流下で48時間加熱した。加熱を中止し、フラスコを氷水浴中に配置した。混合を継続しながら水酸化アンモニウム溶液を徐々に添加する。多量の白色沈殿が形成された。混合物を濾過し、沈殿物をイソプロピルアルコールで洗浄する。濾液と洗液とを合わせて減圧下で濃縮することにより、粘稠な油を得た。残渣を100mlのエチルアセテート中に溶解させた。エチルアセテート溶液を分液漏斗に移し、希釈水酸化アンモニウム溶液およびブライン溶液を逐次的に用いて抽出した。エチルアセテート抽出物を無水硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、溶媒を減圧下で除去し、粘稠な黄色油(42.337g、収率52.61%)を得た。油をイソプロピルアルコール(200ml)中に溶解させ、濃塩酸(20g)を添加した。混合物を減圧下で濃縮し、残渣を最少量のエチルアセテート中に溶解させた。濁りを生じるまで、無水エーテルを滴下した。混合物を冷蔵庫中に4日間保存した。白色結晶性沈殿物を濾過し、無水エーテルで洗浄した。
【0032】
臭化カリウムペレット中の固体のFTIRスペクトルは、ほぼ次の位置:3413.8(W), 2981.7(vs), 2877.6(vs), 2615.3(m), 2488.0(w), 2100.0(m), 1732.0(vs), 1585.4(m), 1512.1(m), 1465.8(m), 1442.7(m), 1377.1(m), 1276.8(s), 1242.1(vs), 1188.1(s), 1107.1(vs), 1068.5(m), 902.6(m) および 813.9(w) cm-1に吸収ピークを示した。(w、弱い;m、中程度;s、強い;vs、非常に強い)。このスペクトルは、ほぼ次の位置:3433.1(w), 2923.9(s), 2731.0(m), 2611.4(m), 2117.7(w), 1608.5(s), 1581.5(vs), 1512.1(s), 1411.8(s), 1338.5(m), 1269.1(w), 1218.9(w), 1153.4(w), および 540.0(w) cm-1に吸収ピークを示したL−セレノメチオニンのスペクトルとは異なる。
【0033】
1mg/mlのL−セレノメチオニンイソプロピルエステルヒドロクロリドを含有する水溶液をUV/Visディテクターを使用するHPLCにより、210nmで分析した。また、Rheodyne Loopインジェクターを用いて、20μlのサンプルをカラムに注入した。移動相として0.1%の酢酸を1ml/分で用いて、250×4.6mmのDiscovery Cyanoカラム(Supelco)を使用した。L−セレノメチオニンイソプロピルエステルヒドロクロリドは、4.467分の保持時間を有していた。L−セレノメチオニンは、この系で4.167分の保持時間を有する。L−セレノメチオニンイソプロピルエステルヒドロクロリドを用いて、ディテクター応答の99%超を占める単一ピークが得られた。この系は、プレミックス中のL−セレノメチオニンイソプロピルエステルヒドロクロリドを測定するのに有用であった。
【実施例2】
【0034】
N−スクシニル−L−セレノメチオニン(化合物2)の調製:
250mlの三口丸底フラスコに温度計、還流冷却器、および添加漏斗を取り付けた。エチルアセテート(75ml)をフラスコに入れた。無水コハク酸(12.404g)を乳鉢中で微粉砕し、フラスコ中のエチルアセテートに添加した。固形分がすべて溶解するまで、混合物をマグネティックスターラーにより攪拌した。L−セレノメチオニン(19.630g、0.1モル)を添加した。希硫酸(1部の濃硫酸を5部の水で希釈することにより得られる1.0mlの溶液)。攪拌を継続しながら混合物を還流下で1時間加熱した。高温の透明溶液を濾過した。濾液が冷却されるにつれて、白色結晶性沈殿物が形成された。沈殿物は、24.92g(収率84.14%)の重量であった。
【0035】
臭化カリウムペレット中の上記で得られた微粉砕結晶のFTIRスペクトルは、ほぼ次の位置:3313.5(m), 3091.7(w), 2931.6(m), 2626.9(w), 1714.6(vs), 1647.1(s), 1616.2(m), 1434.9(m), 1409.9(m), 1245.9(s), 1195.8(s), 964.3(w), 704.0(w), および 636.5(w) cm-1に吸収ピークを示した。(w、弱い;m、中程度;s、強い;vs、非常に強い)。このスペクトルは、ほぼ次の位置:3433.1(w), 2923.9(s), 2731.0(m), 2611.4(m), 2117.7(w), 1608.5(s), 1581.5(vs), 1512.1(s), 1411.8(s), 1338.5(m), 1269.1(w), 1218.9(w), 1153.4(w), および 540.0(w) cm-1に吸収ピークを示したL−セレノメチオニンのスペクトルとは異なる。
【0036】
1mg/mlのN−スクシニル−L−セレノメチオニンを含有する水溶液をUV/Visディテクターを使用するHPLCにより、210nmで分析した。また、Rheodyne Loopインジェクターを用いて、20μlのサンプルをカラムに注入した。移動相として0.1%の酢酸を1ml/分で用いて、250×4.6mmのDiscovery Cyanoカラム(Supelco)を使用した。N−スクシニル−L−セレノメチオニンは、5.56分の保持時間を有していた。L−セレノメチオニンは、この系で4.167分の保持時間を有する。N−スクシニル−L−セレノメチオニンを用いて、ディテクター応答の99.54%超を占める単一ピークが得られた。この系は、プレミックス中のN−スクシニル−L−セレノメチオニンを測定するのに有用であった。
【実施例3】
【0037】
N−カルバモイル−L−セレノメチオニン(化合物3)の調製:
250mlの三口丸底フラスコに温度計、還流冷却器、および添加漏斗を取り付けた。水(40ml)をフラスコに入れた。シアン酸カリウム(9.735g、0.115モル)をフラスコ中の水に添加し、固形分がすべて溶解するまで、低温混合物をマグネティックスターラーにより攪拌した。L−セレノメチオニン(19.815g、0.1モル)を添加した。激しく攪拌しながら混合物を還流下で加熱した。内部温度は、94℃に達し、次に、80〜85℃に低下した。反応混合物を80〜85℃に2時間保持した。得られた透明溶液を室温に冷却した。攪拌を継続しながら塩酸(11.272g、0.115モル)を徐々に添加した。重質の白色結晶性沈殿物が形成された。これを減圧下で濾過した。沈殿物は、20gの重量(収率83.65%)であった。
【0038】
臭化カリウムペレット中の上記で得られた微粉砕結晶のFTIRスペクトルは、ほぼ次の位置:3458.1(s), 3303.8(m), 2929.7(w), 1685.7(vs), 1631.7(vs), 1560.3(vs), 1442.7(w), 1411.8(w), 1282.6(s), 1244.0(w), 1197.7(w), 1180.4(w), 1103.2(w), 931.6(w), 775.3(w), 719.4(w), 576.7(w) および 478.3(w) cm-1に吸収ピークを示した。(w、弱い;m、中程度;s、強い;vs、非常に強い)。このスペクトルは、ほぼ次の位置:3433.1(w), 2923.9(s), 2731.0(m), 2611.4(m), 2117.7(w), 1608.5(s), 1581.5(vs), 1512.1(s), 1411.8(s), 1338.5(m), 1269.1(w), 1218.9(w), 1153.4(w), および 540.0(w) cm-1に吸収ピークを示したL−セレノメチオニンのスペクトルとは異なる。
【0039】
1mg/mlのN−カルバモイル−L−セレノメチオニンを含有する水溶液をUV/Visディテクターを使用するHPLCにより、210nmで分析した。また、Rheodyne Loopインジェクターを用いて、20μlのサンプルをカラムに注入した。移動相として0.1%の酢酸を1ml/分で用いて、250×4.6mmのDiscovery CyanoカラムSupelco)を使用した。N−カルバモイル−L−セレノメチオニンは、ディテクター応答の99.54%超を占める単一ピークおよび5.15分の保持時間を有していた。L−セレノメチオニンは、この系で4.167分の保持時間を有する。この系は、プレミックス中のN−カルバモイル−L−セレノメチオニンを測定するのに有用であった。
【実施例4】
【0040】
L−セレノメチオニンヒダントイン(化合物4)の調製:
250mlの三口丸底フラスコに温度計、還流冷却器、および添加漏斗を取り付けた。水(40ml)をフラスコに入れた。N−カルバモイル−L−セレノメチオニン(11.969g、0.05モル)をフラスコ中の水に添加し、冷却しながら混合物をマグネティックスターラーにより攪拌した。塩酸(14.599g、0.15モル)を徐々に添加した。激しく攪拌しながら混合物を還流下で2時間加熱した。透明溶液を熱時濾過し、次に、室温に冷却した。重質の白色結晶性沈殿物が形成された。これを減圧下で濾過した。沈殿物は、8.72g(収率78.88%)の重量であった。
【0041】
臭化カリウムペレット中の上記で得られた微粉砕結晶のFTIRスペクトルは、ほぼ次の位置:3062.7(w), 2761.9(w), 1774.4(s), 1732.0(vs), 1423.4(m), 1265.2(w), 1203.5(w), 748.3(w), 632.6(w), および 455.2(w) cm-1に吸収ピークを示した。(w、弱い;m、中程度;s、強い;vs、非常に強い)。このスペクトルは、ほぼ次の位置:3433.1(w), 2923.9(s), 2731.0(m), 2611.4(m), 2117.7(w), 1608.5(s), 1581.5(vs), 1512.1(s), 1411.8(s), 1338.5(m), 1269.1(w), 1218.9(w), 1153.4(w), および 540.0(w) cm-1に吸収ピークを示したL−セレノメチオニンのスペクトルとは異なる。
【0042】
1mg/mlのL−セレノメチオニンヒダントインを含有する水溶液をUV/Visディテクターを使用するHPLCにより、210nmで分析した。また、Rheodyne Loopインジェクターを用いて、20μlのサンプルをカラムに注入した。移動相として0.1%の酢酸を1ml/分で用いて、250×4.6mmのDiscovery Cyanoカラム(Supelco)を使用した。L−セレノメチオニンヒダントインは、ディテクター応答の99.72%超を占める単一ピークおよび5.94分の保持時間を示した。L−セレノメチオニンは、この系で4.167分の保持時間を有する。この系は、プレミックス中のL−セレノメチオニンヒダントインを測定するのに有用であった。
【実施例5】
【0043】
泌乳牛の組織中セレン含有率および全血グルタチオンペルオキシダーゼ活性に及ぼす亜セレン酸ナトリウムおよびN−スクシニル−L−セレノメチオニン(化合物2)の影響の比較:
泌乳牛の現場研究に使用するために、3種のプレミックスを調製した。プレミックスのうちの1種は、追加のセレン源を含有しておらず、プラセボとして機能するように意図されたものであった。第2の種は、亜セレン酸ナトリウムを含有し、第3の種は、N−スクシニル−L−セレノメチオニン(化合物2)を含有していた。250ppmのセレンを含有するように所定量のセレン源を適量の微粉砕糖と混合することにより、各プレミックスを調製した。配合中に食用着色剤の溶液を組み込むことにより各プレミックスを色分けし、ランダム選択により文字表記を与えた。プレミックスを盲検化して動物栄養士に提供した。すなわち、動物栄養士は、各プレミックス中のセレン源を知らなかった。これは、食餌実験の結果を解釈する際に生じうるいかなる先入観をも回避すべく行われた。
【0044】
30頭の泌乳牛に3種のプレミックスのうちの1種をトップドレスとして毎日与えた。組織中セレン含有率および全血グルタチオンペルオキシダーゼ活性に及ぼすこれらのセレン源の影響を調べた。最初の8週間の枯渇期間にわたり、追加のセレンを含まない全混合食をすべてのウシに与えた。7.5mgのセレンを提供するように所定量のプレミックスで毎日の飼料をトップドレスした。処理を8週間継続し、続いて、4週間の枯渇期間を設けた。第1の枯渇期間の1週間前(0週目)から始めて20週間の実験全体にわたり継続して、週1日、乳サンプルを採取した。サンプルを脱脂した後で得られた乳清のセレン含有率を測定した。0週目、8週目、12週目、16週目、および20週目の乳清中のセレン濃度を表1に報告する。第1の枯渇期間の1週間前(0週目)から始めて実験全体にわたり4週間ごとに、週1日、血液サンプルを採取した(表1の8週目、12週目、16週目、および20週目)。抗凝血剤の入った微量元素フリーのバキュテイナーチューブ内に血液サンプルを吸引した。セレンおよびグルタチオンペルオキシダーゼ活性に関して全血のアリコートを分析した。血液の他のアリコートを遠心分離して血漿を採取し、血漿サンプルのセレン含有率を測定した。第1の枯渇期間の1週間前(0週目)から始めて実験全体にわたり4週間ごとに、週1日、肝臓サンプルを生検により取得した(表1の8週目、12週目、16週目、および20週目)。セレン含有率に関して肝臓サンプルを分析した。実験の結果を表1に報告する。表1に示される結果から明らかなように、セレン摂取制限の8週間後(Wk8)の乳清中、血漿中、および肝臓中のセレン濃度は、枯渇期間の開始前(Wk0)のものよりも有意に低かった。サプリメントのセレンを含有しない混合食(プラセボ)をウシに与えると、セレン濃度のわずかな増加を生じるが、Wk0の基礎レベルは十分に回復されなかった。しかしながら、亜セレン酸ナトリウムまたはN−スクシニル−L−セレノメチオニン(化合物2)のいずれかを追加した食餌を与えると、これらの組織中のセレン濃度は、漸進的にかつ有意に増加した(Wk12およびWk16)。セレンの濃度は、第2の枯渇期間の終了時(Wk20)、すべての組織中で有意に減少した。セレンの食餌性摂取量の変化に応答してセレン濃度が劇的に変化することから、これらの組織は、泌乳牛の食餌性セレンの状態の高感度な指標であることが示唆される。これらの3種の組織のセレン濃度が亜セレン酸ナトリウムのときよりも化合物2のときのほうが統計学的に有意に大きい増加を生じることから、N−スクシニル−L−セレノメチオニンが亜セレン酸ナトリウムよりも高い生物学的利用性の食餌性セレン源であることが示唆される点に留意することが重要である。
【0045】
食餌性セレン摂取量の変化に応答する全血中のセレン濃度およびグルタチオンペルオキシダーゼ活性(GPX)の変化は、乳清中、血漿中、および肝臓中のものほど感応ではない。このことから、これらのパラメーターが泌乳牛のセレンの状態の有用な指標ではないことが示唆される。
【表1】

【化1】

化合物1
L−セレノメチオニンイソプロピルエステルヒドロクロリド
【化2】

化合物2
(S)−4−(1−カルボキシ−3−(メチルセラニル)プロピルアミノ)−4−オキソブタン酸
N−スクシニル−L−セレノメチオニン
【化3】

化合物3
N−カルバモイル−L−セレノメチオニン
【化4】

化合物4
(S)−5−(2−(メチルセラニル)エチル)イミダゾリジン−2,4−ジオン
L−セレノメチオニンヒダントイン
【0046】
本明細書中で使用する場合、「生物学的に活性な誘導体」という用語は、基本構造(たとえばL−セレノメチオニン)から調製される有機共有結合化合物(生物学的利用性を保持して動物の食事性セレン富化を提供する)を意味する。
【0047】
以上に記載の説明および実施例1〜5からわかるように、本発明により本発明者らの主目的が達成される。本発明の範囲は以下の特許請求の範囲により規定されるので、これらの実施例は例示的なものであり、限定的なものとみなされないことに留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレノ−α−アミノ酸の生物学的に利用可能な不可逆的共有結合誘導体。
【請求項2】
前記セレノアミノ酸がセレノメチオニンである、請求項1に記載の誘導体。
【請求項3】
前記セレノアミノ酸がL−セレノメチオニンである、請求項1に記載の誘導体。
【請求項4】
前記誘導体がN−スクシニル−L−セレノメチオニンである、請求項1または請求項3に記載の誘導体。
【請求項5】

【化1】

〔式中、Rは、脂肪族アルキル基である〕
で示されるL−セレノメチオニンのエステル。
【請求項6】
RがC〜Cである、請求項5に記載のエステル。
【請求項7】
Rがイソプロピルである、請求項5に記載のエステル。
【請求項8】
塩酸塩の形態である、請求項5に記載のエステル。
【請求項9】
N−スクシニル−L−セレノメチオニンおよびその生物学的に活性な誘導体。
【請求項10】
金属が、カリウム、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウムからなる群から選択される、金属塩の形態であるN−スクシニル−L−セレノメチオニンおよび/またはその生物学的に活性な誘導体。
【請求項11】
N−カルバモイル−L−セレノメチオニンおよびその生物学的に活性な誘導体。
【請求項12】
L−セレノメチオニンヒダントインおよびその生物学的に活性な誘導体。
【請求項13】
セレノ−α−アミノ酸および/またはその生物学的に活性な誘導体の錯体を動物用飼料に添加することを含む、動物へのセレン補給方法。
【請求項14】
前記セレノ−α−アミノ酸がL−セレノメチオニンであり、かつ前記生物学的に活性な誘導体がC〜Cエステルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記エステルがイソプロピルエステルである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生物学的に活性な誘導体がN−スクシニル誘導体である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記生物学的に活性な誘導体がN−カルバモイル誘導体である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記生物学的に活性な誘導体がヒダントイン誘導体である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記動物がブタおよび家禽からなる群から選択され、かつ添加量がセレン換算で0.05〜2.0ppmレベルである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記添加量がセレン換算で0.1〜0.3ppmレベルである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記動物が家畜化されたウシであり、かつ前記添加量がセレン換算で1日あたり1頭につき0.05mg〜10mgである、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記添加量がセレン換算で1日あたり1頭につき2〜7mgである、請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2009−505949(P2009−505949A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521480(P2008−521480)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/026652
【国際公開番号】WO2007/011563
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(504107292)ジンプロ コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】