説明

セロトニン代謝性バチルス属菌

【課題】腸管内のセロトニンを低減できるバチルス属菌の提供。
【解決手段】芽胞が低pH耐性能及び胆汁酸耐性能を有し、かつ増殖時にセロトニン代謝能を有するバチルス属菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロトニン代謝能を有する非病原性のバチルス属菌に関する。
【背景技術】
【0002】
下痢は現代社会において、クオリティー・オブ・ライフを低下させる大きな問題である。特に現代日本人においては自覚症状を訴えていないケースも含めると14.2%という高率で過敏性腸症候群(IBS)の発症が認められるなど大きな問題となっている(非特許文献1、2)。また、酪農畜産分野でも大きな問題で、特に哺乳期のウシ、ブタやふ化直後のニワトリなどでは下痢の発生が成長の阻害に直結することが多く、経済的にも問題である。
【0003】
これらの対策としてヒト用、家畜用のバチルス属菌を用いた生菌剤が上市されている(非特許文献3)。しかしながら、その下痢抑制の作用メカニズムは必ずしも明らかにされておらず、その効果も十分とはいえなかった。
【0004】
ところで、セロトニンは脳内では神経伝達物質として働いているが、腸では腸管運動を促進することが知られている(非特許文献4、5)。体内での分布からみると、セロトニンのおよそ90%は腸管に分布し、そのほとんどは腸クロム親和性細胞(EC細胞=enterochromaffin cell)の顆粒内に局在していることが知られている。腸管セロトニンの遊離は自律神経系・体液性の制御機構以外にも消化管腔内の食物による物理的・化学的刺激によって複雑に調節されているが、遊離した場合、大部分は基底膜側に分泌され、腸管運動に関与する一方、一部は管腔側にも遊離される。セロトニンにはこのような作用があるため、マウスにセロトニンを皮下注射・腹腔注射すると数時間内に糞便量の増加・糞便中含水量の増加が起こる。また、この作用はセロトニン受容体ブロック薬の経口投与で緩和される(非特許文献6、7)。実際、この作用を利用して米国ではセロトニン受容体(5-HT3)受容体拮抗薬Alosetron(登録商標)が重症の過敏性腸症候群(IBS)女性患者用として実用化されている。
また、腸管微生物の増殖バランスが崩れると各種アミンが生成され、人体に悪影響を及ぼすことが指摘されている(非特許文献8)。
さらにセロトニンは大腸がんの肥大にも関与しているとする複数の報告がある(非特許文献9)。
これらのことから、腸管内のセロトニン濃度を低めることは下痢をはじめとする様々な疾患予防に対しても重要と考えられる。
また、セロトニン以外の生物由来アミンとしてチラミンは発酵食品や腐敗した食品中にしばしば含まれ、摂取するとアレルギー様食中毒の原因となることが知られている(非特許文献10)。この点からは腸管内のチラミン濃度を低下させることもアレルギー様食中毒の予防に対して重要と考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dig. Dis. Sci.(2004) 49:1049-1053
【非特許文献2】佐々木(編)2006.過敏性腸症候群(山中書店)
【非特許文献3】FEMS Microbiol Rev. (2005) 29:813-835
【非特許文献4】豊田隆謙(編)1991「消化管機能−自律神経と消化管ホルモン−」医薬ジャーナル社
【非特許文献5】日内会誌 (1970) 59:31−38
【非特許文献6】Jpn. J. Pharmacol. (2000) 82: 350-352.
【非特許文献7】Aliment. Pharmacol. Ther. 23: 1067-1076.
【非特許文献8】Med. Lab. Sci.(1977) 34: 131-143.
【非特許文献9】Oncol. Rep.(2005) 14:1593-1597.
【非特許文献10】J.Toxicol.Clin.Toxicol.(1989)27:225-240.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、市場に流通しているバチルス属生菌剤は、その下痢抑制の作用メカニズムは必ずしも明らかにされておらず、その効果も十分とはいえなかった。
従って、本発明の課題は、過剰な腸管運動の原因であるセロトニンの腸管内濃度を低下させ、整腸用の生菌剤として有用な新たなバチルス属菌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、腸管への到達能力を有し、かつ腸管内のセロトニンを代謝する能力の高い新たな微生物を探索したところ、バチルス属に属する微生物の中にこの目的に合致する性質を有し、経口投与すると実際に下痢抑制作用が顕著なものを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、芽胞が低pH耐性能及び胆汁酸耐性能を有し、かつ増殖時にセロトニン代謝能を有するバチルス属菌を提供するものである。
また、本発明は、上記バチルス属菌と、薬剤又は食品として許容される担体とを含む、医薬、動物薬、食品又は飼料用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバチルス属菌は、芽胞が低pH及び胆汁酸に対する耐性が強いため、胃及び十二指腸内で生存し、腸管まで到達し、かつ増殖時、すなわち腸管内においてセロトニンを代謝して腸管内セロトニン濃度を低下させる作用を有することから、腸管内セロトニン濃度上昇に起因する下痢、過敏性腸症候群、大腸がん等の疾患の予防及び治療に有用である。本発明のバチルス属細菌を含む組成物は、ヒトを含む動物用の医薬、食品及び飼料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、質量%とは(wt/vol)%を意味し、容量%とは(vol/vol)%を意味する。
【0011】
本発明のバチルス属菌は、芽胞が低pH耐性能及び胆汁酸耐性能を有し、かつ増殖時にセロトニン代謝能を有する。
【0012】
本発明における芽胞の低pH耐性能とは、芽胞が低pH条件でも生存することを意味し、pH3.0の条件でも3時間以上生存するのが好ましい。本発明のバチルス属菌は、pH3.0程度の条件で3時間以上生存するので、経口摂取した場合、胃及び十二指腸を通過し腸管に到達するまでの間、芽胞の状態で死滅せずに生存する。より好ましい低pH耐性能は、37℃、pH3.8、0.04%ペプシンの存在下において3時間以上生存する能力である。
【0013】
本発明における芽胞の胆汁酸耐性能とは、芽胞が胆汁酸存在下で生存することを意味し、0.5%胆汁酸の存在下で生存するのが好ましい。本発明のバチルス属菌は、0.5%胆汁酸の存在下でも生存するので、経口摂取した場合、胃だけでなく十二指腸を通過し腸管に到達するまでの間、芽胞の状態で死滅せずに生存する。より好ましい胆汁酸耐性能は、37℃、0.5%胆汁酸の存在下で生存する能力である。ここで胆汁酸にはコール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸が含まれる。
【0014】
本発明のバチルス属菌は、増殖時にセロトニン代謝能を有する。すなわち、増殖時にセロトニンを代謝し、セロトニン活性のない物質に変換する能力を有する。当該セロトニン代謝能は、増殖過程において100mg/L濃度のセロトニンを72時間以内に75mg/L以下まで低減するものが好ましく、特に65mg/L以下まで低減するものが好ましい。
セロトニン代謝産物としては、代謝産物そのものにセロトニン活性がなく、かつ腸管内で再度代謝されることによってセロトニンに再変換されにくいN−[2-(5−ヒドロキシインドール−3−イル)エチル]コハク酸アミド(式1、ブホブタン酸、Bufobutanoic acid)に代謝するものが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
また、本発明のバチルス属菌の中には、増殖時にチラミン代謝能、すなわち、増殖時にチラミンを代謝し、チラミン活性のない物質に変換する能力を有するものもある。このため、食餌中チラミンの摂取によるアレルギー様食中毒も同時に予防したい場合には、チラミン代謝能も併せ持つ菌株を用いることが好ましい。
チラミン代謝産物としては、代謝産物そのものにチラミン活性がなく、かつ腸管内で再度代謝されることによってチラミンに再変換されにくいN−(4−ヒドロキシフェネチル)コハク酸アミド(式2)に代謝するものが好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
また、本発明のバチルス属菌は、下痢毒または嘔吐毒といった食中毒関連毒素の産生能を有しないものが好ましい。下痢毒産生株かどうかについては、結紮腸管ループ試験、血管透過性亢進試験、免疫学的検出法である逆受身ラテックス凝集試験などによって検査することができるほか、検出用キット(CRET−RPLA(登録商標)、デンカ生研製)なども用いることができる。また、嘔吐毒産生株かどうかについてはサルまたは処方したい対象動物への経口投与試験により確認することができる(近藤・渡辺(編著)1995『スポア実験マニュアル』技報堂出版)。
【0019】
本発明のバチルス属菌のより好ましい態様は、下記の性質(a)、(b)及び(c):
(a)芽胞が37℃、pH3.0、0.04%ペプシンの存在下において3時間以上生存し、
(b)芽胞が37℃、0.5%胆汁酸塩の存在下において生存し、
(c)増殖過程において100mg/L濃度のセロトニンを72時間以内に75mg/L以下に低減する
を有し、下痢毒または嘔吐毒の産生能を有しないバチルス属菌である。
【0020】
本発明のバチルス属菌としては、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・アシディセラー(Bacillus acidiceler)、バチルス・アシディコーラ(Bacillus acidicola)、バチルス・アエオリウス(Bacillus aeolius)、バチルス・アエリウス(Bacillus aerius)、バチルス・アエロフィルス(Bacillus aerophilus)、バチルス・アガラドヘレンス(Bacillus agaradhaerens)、バチルス・アキバイ(Bacillus akibai)、バチルス・アルカリフィルス(Bacillus alcalophilus)、バチルス・アルギコーラ(Bacillus algicola)、バチルス・アルカリジアゾトロフィカス(Bacillus alkalidiazotrophicus)、バチルス・アルカリテルリス(Bacillus alkalitelluris)、バチルス・アルティチュジニス(Bacillus altitudinis)、バチルス・アルベアユエンシス(Bacillus alveayuensis)、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・アクイマリス(Bacillus aquimaris)、バチルス・アレノシイ(Bacillus arenosi)、バチルス・アルセニシセレナティス(Bacillus arseniciselenatis)、バチルス・アルセニカス(Bacillus arsenicus)、バチルス・アーヴァイ(Bacillus arvi)、バチルス・アサヒイ(Bacillus asahii)、バチルス・アトロファエウス(Bacillus atrophaeus)、バチルス・アウランティアカス(Bacillus aurantiacus)、バチルス・アキサクィエンシス(Bacillus axarquiensis)、バチルス・アゾトフォーマンス(Bacillus azotoformans)、バチルス・バディウス(Bacillus badius)、バチルス・バーバリカス(Bacillus barbaricus)、バチルス・バタビエンシス(Bacillus bataviensis)、バチルス・ベンゾボランス(Bacillus benzoevorans)、バチルス・ボゴリエンシス(Bacillus bogoriensis)、バチルス・ボロニフィルス(Bacillus boroniphilus)、バチルス・ブタノリボランス(Bacillus butanolivorans)、バチルス・カーボニフィルス(Bacillus carboniphilus)、バチルス・セセンベンシス(Bacillus cecembensis)、バチルス・セルロシリティカス(Bacillus cellulosilyticus)、バチルス・チャガノレンシス(Bacillus chagannorensis)、バチルス・シービー(Bacillus cibi)、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・クラーキー(Bacillus clarkii)、バチルス・クラウシー(Bacillus clausii)、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス・コアウイレンシス(Bacillus coahuilensis)、バチルス・コーニー(Bacillus cohnii)、バチルス・デシシフロンディス(Bacillus decisifrondis)、バチルス・デコロラチオニス(Bacillus decolorationis)、バチルス・ドレンテンシス(Bacillus drentensis)、バチルス・エダフィカス(Bacillus edaphicus)、バチルス・エンドフィティカス(Bacillus endophyticus)、バチルス・ファラギニス(Bacillus farraginis)、バチルス・フォスティディオサス(Bacillus fastidiosus)、バチルス・ファルマス(Bacillus firmus)、バチルス・フレクサス(Bacillus flexus)、バチルス・ホラミニス(Bacillus foraminis)、バチルス・フォルディ(Bacillus fordii)、バチルス・フォルティス(Bacillus fortis)、バチルス・フマリオリィ(Bacillus fumarioli)、バチルス・フニクラス(Bacillus funiculus)、バチルス・ガラクトシディリティカス(Bacillus galactosidilyticus)、バチルス・ゲラティニ(Bacillus gelatini)、バチルス・ギブソニー(Bacillus gibsonii)、バチルス・ハルマパラス(Bacillus halmapalus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、バチルス・ハロフィルス(Bacillus halophilus)、バチルス・ヘミセルロシリティカス(Bacillus hemicellulosilyticus)、バチルス・ハーバーステイネンシス(Bacillus herbersteinensis)、バチルス・ホリコシー(Bacillus horikoshii)、バチルス・ホルティ(Bacillus horti)、バチルス・フミ(Bacillus humi)、バチルス・ファジンポエンシス(Bacillus hwajinpoensis)、バチルス・イドリエンシス(Bacillus idriensis)、バチルス・インディカス(Bacillus indicus)、バチルス・インファンティス(Bacillus infantis)、バチルス・インファーナス(Bacillus infernus)、バチルス・インソリタス(Bacillus insolitus)、バチルス・イサベリエ(Bacillus isabeliae)、バチルス・チョッカリ(Bacillus jeotgali)、バチルス・コリエンシス(Bacillus koreensis)、バチルス・クルーウィッチアエ(Bacillus krulwichiae)、バチルス・レヘンシス(Bacillus lehensis)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・リトラリス(Bacillus litoralis)、バチルス・ルシフェレンシス(Bacillus luciferensis)、バチルス・マカウエンシス(Bacillus macauensis)、バチルス・マキアエ(Bacillus macyae)、バチルス・マラシテンシス(Bacillus malacitensis)、バチルス・マンナニリティカス(Bacillus mannanilyticus)、バチルス・マリナス(Bacillus marinus)、バチルス・マリスフラビィ(Bacillus marisflavi)、バチルス・マシリエンシス(Bacillus massiliensis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・メタノリカス(Bacillus methanolicus)、バチルス・モジャベンシス(Bacillus mojavensis)、バチルス・ムシラギノサス(Bacillus mucilaginosus)、バチルス・ムラリス(Bacillus muralis)、バチルス・ムリマルティニ(Bacillus murimartini)、バチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)、バチルス・ネールソニー(Bacillus nealsonii)、バチルス・ニアベンシス(Bacillus niabensis)、バチルス・ニアシニ(Bacillus niacini)、バチルス・ノバリス(Bacillus novalis)、バチルス・オデッセイ(Bacillus odysseyi)、バチルス・オクヘンシス(Bacillus okhensis)、バチルス・オクヒデンシス(Bacillus okuhidensis)、バチルス・オレロニウス(Bacillus oleronius)、バチルス・オシメンシス(Bacillus oshimensis)、バチルス・パリダス(Bacillus pallidus)、バチルス・パナシテラエ(Bacillus panaciterrae)、バチルス・パタゴニエンシス(Bacillus patagoniensis)、バチルス・プラコルチディス(Bacillus plakortidis)、バチルス・ポチェオネンシス(Bacillus pocheonensis)、バチルス・ポリゴニ(Bacillus polygoni)、バチルス・シュードアルカリフィルス(Bacillus pseudalcaliphilus)、バチルス・シュードファーマス(Bacillus pseudofirmus)、バチルス・シュードミコイデス(Bacillus pseudomycoides)、バチルス・シクロデュランス(Bacillus psychrodurans)、バチルス・フィクロサッカロリティカス(Bacillus psychrosaccharolyticus)、バチルス・フィクロトレランス(Bacillus psychrotolerans)、バチルス・プミラス(Bacillus pumilus)、バチルス・ピクナス(Bacillus pycnus)、バチルス・キングダオネンシス(Bacillus qingdaonensis)、バチルス・ルリス(Bacillus ruris)、バチルス・サフェンシス(Bacillus safensis)、バチルス・サラリウス(Bacillus salarius)、バチルス・サリフィルス(Bacillus saliphilus)、バチルス・シュリジェリー(Bacillus schlegelii)、バチルス・セレナターセナティス(Bacillus selenatarsenatis)、バチルス・セレニティレドセンス(Bacillus selenitireducens)、バチルス・セオハエアネンシス(Bacillus seohaeanensis)、バチルス・サックレトニー(Bacillus shackletonii)、バチルス・シルベストリス(Bacillus silvestris)、バチルス・シンプレックス(Bacillus simplex)、バチルス・シラリス(Bacillus siralis)、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)、バチルス・ソリ(Bacillus soli)、バチルス・ソノレンシス(Bacillus sonorensis)、バチルス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・スポロサーモデュランス(Bacillus sporothermodurans)、バチルス・ストラトスフェリカス(Bacillus stratosphericus)、バチルス・サブテラネウス(Bacillus subterraneus)、バチルス・タエアネンシス(Bacillus taeanensis)、バチルス・テクィレンシス(Bacillus tequilensis)、バチルス・サーマンタルクティカス(Bacillus thermantarcticus)、バチルス・サーモアミロボランス(Bacillus thermoamylovorans)、バチルス・サーモクローカー(Bacillus thermocloacae)、バチルス・チオパランス(Bacillus thioparans)、バチルス・ツスシー(Bacillus tusciae)、バチルス・バリスモーチス(Bacillus vallismortis)、バチルス・ベデリ(Bacillus vedderi)、バチルス・ベレゼンシス(Bacillus velezensis)、バチルス・ビエトナメンシス(Bacillus vietnamensis)、バチルス・ビレティ(Bacillus vireti)、バチルス・ワコエンシス(Bacillus wakoensis)、バチルス・ヴェイヘンステファネンシス(Bacillus weihenstephanensis)に属するものが挙げられる。このうち、腸管への到達能力の点で、バチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシス、バチルス・ズブチリスに属するものが特に好ましい。
【0021】
本発明のバチルス属菌のうち好適な具体例としては、バチルス・チューリンゲンシスB−3(郵便番号292−0818 日本国 千葉県 木更津市 かずさ鎌足2−5−8(独)製品評価技術基板機構特許微生物寄託センター 受領番号NITE AP−689)株、バチルス・セレウスB−6(NITE AP−690)株、同CA−15株、同CB−01株、同CB−15株等が挙げられ、セロトニン代謝能が高い点で、バチルス・セレウスB−15株が特に好ましい。
上記のうち、バチルス・チューリンゲンシスB−3株及びバチルス・セレウスB−6株は土壌から分離されたものである。また、他の株は子牛糞便中から分離されたものである。
【0022】
これらの微生物を培養し芽胞を得るには、通常のバチルス属微生物が増殖する条件で行えばよい。
培地には、バチルス属微生物の増殖に必要な炭素源、窒素源、ビタミン源、ミネラル源等を添加するのが好ましい。炭素源としては、グルコース、水飴、可溶性デンプンなどが用いられる。窒素源としては、トリプトン、ソイトン、酵母エキス、ペプトン、カゼイン、カゼイン消化物、肉エキス、コーンスチープリカー、アミノ酸液、大豆粕、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等を用いることができるが、芽胞形成を促進するにはグルコース濃度を通常の培養条件よりも低くした方がよいことはいうまでもない。
ミネラル源としては、マグネシウム塩、カリウム塩、リン酸塩、鉄塩、マンガン塩などを用いることができるが、芽胞形成を促進するにはマンガン塩を添加することが望ましい。
【0023】
生菌および/または芽胞を得るための培養方法としては、液体培地を用いて、振盪培養、撹拌培養を行えばよい。
培養条件としては好気的条件で、8〜45℃、pH3.2〜9.5が好ましい。培養時間は、48〜720時間でよい。
【0024】
得られた芽胞は、上述の培養液そのものを懸濁液状の生菌含有組成物(以下、生菌剤ということもある)とすることができる。また、培養液を濃縮することにより生菌含有組成物とすることもできる。濃縮は、ろ過法や遠心分離法等の公知の方法で行うことができる。また、培養液を希釈することにより生菌含有組成物とすることができる。希釈には、水、果汁、野菜等の搾汁、乳、乳製品、牧草や穀物などの熱水抽出後に加水して加熱殺菌した糟糠類分散物等を使用することができる。
【0025】
また、培養液を遠心分離して菌体を採集し、滅菌した生理食塩水等で洗浄した後、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、流動層乾燥、真空凍結乾燥等の公知の方法により乾燥し、乾燥粉末の形態の生菌含有組成物とすることもできる。乾燥に先立って、菌株を基材に固定することもできる。基材は、当該バチルス属菌株の生存に影響を与えない限り、有機物でも無機物でも良く、多糖類、澱粉、炭酸カルシウム、スキムミルク等の乳製品の他、市販の豆乳等も使用することができる。基材への固定は、培養液やその濃縮物又は希釈物を基材に混合、塗布、被覆、浸透、又は噴霧すること等により行うことができる。
乾燥粉末は、公知の方法により、造粒しても良く、押出成形、打錠成形等によりペレット化しても良く、またマイクロカプセル化した生菌剤としても良い。カプセル化のためには、ゼラチン、レシチン、ステアレート類、アルギナート類、トラガカンス、アラビアゴム、変性澱粉、セルロース、パルミチン等を使用することができる。
また、生菌剤の製造と同様に、培養後、加熱等により殺菌した死菌体を生菌剤に混合して使用することもできる。
【0026】
また、適宜加水後、加熱滅菌した大豆子実に当該菌株を接種し、上述の条件で培養すれば、当該菌株が増殖し、芽胞も形成するため、そのまま日本の伝統食品である納豆として製造することができる。
【0027】
本発明のバチルス属菌は、優れた腸管到達能を有し、かつ腸管内でセロトニンを代謝しセロトニン濃度を低下させる作用を有するため、ヒトを含む動物の腸管内セロトニン濃度の上昇に起因する種々の疾患の予防及び/又は治療用の医薬、動物用薬、食品及び飼料として有用である。ここでセロトニン濃度の上昇に起因する疾患としては、消化器障害、例えば過敏性腸症候群、下痢、腹痛、大腸がん、炎症性腸疾患、膨満、腹部痙攣が挙げられる。
【0028】
本発明において、動物とはヒトを含む脊椎動物を意味し、牛、馬、豚、羊、鶏等の家畜、サル、犬、猫、ハムスター、小鳥等の愛玩動物の他、魚等も含まれる。
本発明の組成物を給与するヒト以外の対象は、動物であれば、特に、種類や給与時期に制限はない。好ましい対象動物は、消化管の発達が十分に成熟していない幼動物であり、牛、豚、馬、羊等の哺乳類の幼動物が特に好ましい。更に、給与時期としては、乳成分主体の食餌を給与されている哺乳期が好ましい。中でも、野外で飼育する動物においては気温や気候変動の大きい場合など、下痢の発生しやすい条件での給与が好ましい。特に対象動物として、ルーメンが発達しておらず、ルーメンの影響による当該バチルス属菌の死滅がない点で、哺乳期の牛が好ましい。
また、本発明のバチルス属菌をヒトに投与又は給与する場合、その時期に制限はないが、精神的なストレスを感じる時、やむを得ず不衛生な食事・飲料を摂取する可能性のある時、旅行時、抗生物質使用時、大腸がん発生リスクの高まる壮年期から老齢期が好ましい。
【0029】
本発明のバチルス属菌をヒトを含む動物に投与又は給与するには、バチルス属菌の芽胞又は菌体(両者をあわせて生菌ともいう)を直接投与又は給与してもよいが、これらの生菌に、他の有効成分、及び/又は薬剤又は食品に許容される担体を組み合せて、医薬、動物薬、食品又は飼料用組成物とすることができる。本発明のバチルス属菌は、芽胞として配合するのが安定性の点でより好ましい。
ここで他の有効成分としては、プレバイオティクス、プロバイオティクス、酵素等が挙げられる。
【0030】
プレバイオティクスは、整腸作用を増強する目的で使用できる。プレバイオティクスの種類はヒトや動物の嗜好性、組成物の溶解性、流動性、保存安定性等に悪影響を与えない限り、特に限定されない。例えば、セロオリゴ糖(セロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース等)、ゲンチオオリゴ糖、ラミナリオリゴ糖、フラクトオリゴ糖(1−ケストース、ニストース、フラクトシルニストース等)、トレハルロース、パラチノース、パラチノースオリゴ糖、グルコシルスクロース、ラクトスクロース、テアンデロース、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、コージオリゴ糖、トレハロース、サイクロデキストリン、分岐サイクロデキスリン、キシロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、スタキオース、ラフィノース、レバンオリゴ糖、マンノオリゴ糖、イヌロオリゴ糖、アガロオリゴ糖、ネオアガロオリゴ糖等のオリゴ糖を単独又はこれらを組み合わせて使用することができる。これらのオリゴ糖は公知の方法で製造して使用しても良いが、市販のものを使用することができる。また、公知の方法により、デンプン、セルロース、ヘミセルロース、グルカン、キチン、キトサン、マンナン、キシラン、ペクチン、寒天、グアガム、キサンタンガムなどを加水分解して得られるオリゴ糖、さらに、市販のオリゴ糖を酵素等により転移及び/又は重合させて得られる、未精製又は粗精製のオリゴ糖を使用しても良い。これらのオリゴ糖は、病原性細菌の利用性が低いオリゴ糖が好ましい。
【0031】
プロバイオティクスとしては、乳酸菌等の細菌や酵母、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ミリナス、ラクトバチルス・ペントサス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・カゼイ、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ファシウム、クロストリジウム・ブチリカム、ビフィドバクテリウム・サーモフィルス、ビフィドバクテリウム・シュウドロンガム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ペディオコッカス・アシディラクティシ、ストレプトコッカス・ボビス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・インファンタリアス、サッカロミセス・セレビシエ、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの微生物を別々に培養した後、本発明バチルス属菌の芽胞と混合するか、又は、微生物同士の相性が良い場合には最初から混合培養することもできる。
【0032】
使用可能な酵素としては、例えば、セルラーゼ、フィターゼ、β−グルコシダーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、β−グルカナーゼ、ペントサナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、プロテアーゼ、ペプチダーゼ及びこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
本発明の組成物には、医薬、食品添加物、飼料添加物等の形態、及び食品、動物配合飼料等の形態が含まれる。これらの形態にするに際しては、薬剤又は食品に許容される担体を含有させることができる。
【0034】
ここで、医薬、食品添加物、飼料用添加物等の形態の配合に許容される担体としては、ヒトや動物の嗜好性に悪影響を与えたり、組成物の保存安定性や作業性の悪化や、乳成分と混合した際に、凝集、沈殿等の悪影響を与えないものであればよく、例えば、酸化防止剤(クエン酸、アスコルビン酸、ビタミンE等)、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等)、増粘剤(寒天、グルコマンナン、ゼラチン等)、ビタミン類(ビタミンA、B1、B2等)、フレーバー(ハーブ、ベリー、オレンジ等)等の各種成分が挙げられる。
【0035】
医薬、食品添加物、飼料用添加物は、適宜公知の方法で錠剤、カプセル、粉末、ペースト、液状製剤、食品サプリメント、食品、飼料または飼料添加物の形態に製剤化することが出来る。また、公知の方法により医薬または動物薬の形態に製剤化することも出来る。
本発明の医薬、食品添加物、飼料用添加物中のバチルス属菌の含有量は、嗜好性、組成物の溶解性、流動性、保存安定性等に悪影響を与えない範囲であれば、特に制限はない。当該バチルス属菌芽胞密度を確保し、より効率的に腸管内において維持又は増殖させるために、組成物の重量を基準として、当該芽胞が103CFU/g以上含有していることが好ましい。さらに、当該芽胞の含有量は、腸管内において維持又は増殖させるために、105〜1012CFU/gが好ましい。
【0036】
本発明の食品または動物用配合飼料としては、例えば、生乳、代用乳、人工乳、ほ液等の食品や飼料に、本発明の前記食品添加物又は飼料用組成物を必要量添加した液状で給与する形態や、乾牧草、穀類、食品加工副産物、農産加工副産物、全粉乳、脱脂粉乳等に前記組成物を必要量添加した、粉状、ペレット状、練り状等の配合飼料の形態でも良い。
本発明の食品または動物用配合飼料に対する、本発明の食品添加物又は飼料用添加物の添加量は、本発明のバチルス属菌を動物の腸管内において維持又は増殖させる効果が得られる量であれば、特に制限はない。前記組成物の組成や給与する動物の種類によっても異なるが、効果とコスト面を考慮すると、食品または動物配合飼料の重量を基準として、0.001〜10重量%、又は1日に、対象動物の体重1kgあたり、前記組成物を0.001〜100g、好ましくは0.01〜10g摂取するように、組成物の添加量を調節する。
【0037】
本発明のバチルス属菌株を動物の腸管内において維持又は増殖させる方法は、当該菌株の芽胞を対象とする動物に給与すれば良く、その給与量は特に制限はない。当該菌株の生菌量を確保し、腸管内においてより高密度で維持又は増殖させるためには、1日に、対象動物の体重1kgあたり、当該芽胞を102CFU以上給与するのが好ましい。より高い効果とコスト面を考慮すると、1日、対象動物の体重1kgあたり、当該芽胞を104〜109CFU給与するのが好ましい。さらには1日、対象動物の体重1kgあたり、当該芽胞を105〜109CFU給与するのが好ましい。
【0038】
これらの成分を同時に又は連続して給与することができれば、どのような方法で給与しても良く、すべての成分を食品または飼料に混合して給与しても、それぞれの成分を別々の組成物として給与しても良い。例えば、上記成分の所要量を混合して又は別々に水道水、ミネラル含有水、生乳、全粉乳、脱脂粉乳、乳清、代用乳、人工乳、ほ液、リキッドフィード等の飲水、液状食品または液状飼料に溶解又は分散させて、動物に飲用液として給与しても良い。また、上記成分の所要量を混合して又は別々に粉末、錠剤、ペレット、練り餌等の形態のサプリメントを調製して、給与しても良い。また、給与中の食品や飼料、ペットフードなどに振りかけたり、混合して給与しても良い。
畜産農家において、容易に本発明の方法を実施するために、本発明の組成物を使用して、上述の飲用液やサプリメントを調製したり、給与中の食品や飼料等に混合等して上記成分の所要量を動物に給与することが好ましい。
【実施例】
【0039】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
実施例1 セロトニン代謝能の評価
直径18mm試験管にセロトニン塩酸塩100mg/L添加したNutrient Broth(ベクトン・ディッキンソンアンドカンパニー社製、以下NB)を各5mL準備し、オートクレーブ滅菌後、あらかじめNBで前培養したBacillus thuringiensis B−3株(北海道別海町土壌由来、(独)製品評価技術基板機構特許微生物寄託センター受領番号NITE AP−689)、B. cereusB−6株(北海道別海町由来、同受領番号NITE AP−690)、B. cereusCB−01株(哺乳期ホルスタイン糞便由来)、及びB. cereusCA−15株(哺乳期ホルスタイン糞便由来)のうちいずれかを接種し、37℃で72時間震盪培養を行った。また、比較対照として大腸菌(Escherichia coli #4、哺乳期ホルスタイン糞便由来)を同様に培養した。培養24時間後と72時間後に培養液1mLを採取し、以下の通りセロトニンを定量した。培養液は12,000rpm、10分間遠心分離し、上澄を細孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、10%メタノールで10倍希釈した。ろ液はHPLC(カラム、Puresil C18内径4.6mm×長さ250mm(Waters社製);移動相、0.1容量%酢酸ナトリウム含有10容量%メタノール(pH7.0);流速、0.8mL/分)を用い、蛍光検出器(FS−8010、東ソー製;励起波長、280nm;検出波長、370nm)で分析した。ピークは9.9分に認められ、ピーク面積を標品のセロトニンによって作成した検量線と比較し、培養液中から得られたセロトニン濃度を算出した。結果は表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例2 セロトニン代謝産物の分析
NBにセロトニン塩酸塩を100mg/L添加し、pH6.8に調整した上で、500mL容バッフル付き三角フラスコ2本に300mLずつ分注し、オートクレーブ滅菌後、あらかじめNBで前培養したBacillus thuringiensis B−3株、B. cereus B−6株、及びCA−15株をそれぞれ接種した。培養温度は37℃とし、回転数80rpmで3日間振とう培養した。得られた培養液は6,500rpm、30分で遠心分離し、上澄みを塩酸でpH3.0に調整した。別途、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂ダイヤイオンHP−20をメタノールで洗浄した後、カラム(内径20mm×長さ300mm)に充填し、pH3.0酢酸水を通液して調整した。本カラムに上記上澄み液を流し、培養液中有機化合物を吸着した。このカラムを10容量%イソプロパノール500mLで溶出したところ、蛍光検出器(励起波長、280nm;検出波長、370nm)で検出が可能であったため、濃縮し、水相をpH2.5に調整し、酢酸エチルで抽出を行った。その結果、酢酸エチル相にも上記と同様の蛍光検出可能な物質が存在したため、無水硫酸マグネシウムで脱水後、濃縮乾固し、少量の20容量%メタノールに溶解し、別途メタノールで洗浄後、20容量%メタノールを通液して調製したSepPak tC18カートリッジ(Waters社製)を通過させた。その結果、上記と同様の蛍光検出可能な物質が存在したため、HPLC(カラム、YMC Phe 内径10mm×長さ250mm(YMC社製);移動相、1容量%酢酸含有30容量%メタノール;流速、3.0mL/分)を用いて精製し、蛍光検出されるピークの相当画分(保持時間11〜14分)を分取した。さらに分取した画分はHPLC(カラム、YMC ODS−A 内径10mm×長さ250mm(YMC社製);移動相、1容量%酢酸含有30容量%メタノール;流速、3.0mL/分)を用いて精製し、蛍光検出されるピークの相当画分(保持時間9.5〜12.5分)を分取した。さらに分取した画分はHPLC(カラム、ODS−A 内径10mm×長さ250mm(YMC社製);移動相、1容量%酢酸含有20容量%アセトニトリル;流速、3.0mL/分)で分析したところ、ピークは9.5分に認められた。
【0043】
これは後述の通り化学合成したN−[2−(5−ヒドロキシインドール−3−イル)エチル]コハク酸アミド(Bufobutanoic acid、以下BBA)とほぼ一致した。また、ピークの吸光極大は279nmと化学合成したBBAと一致しており、235〜400nmの吸光スペクトルも化学合成したBBAとほぼ一致した。なお、培地のみを同様に精製・分析したものからはBBAは検出されなかった。
【0044】
標品として使用したBBAは下記の通り化学合成した。
無水コハク酸1.55gにアセトン30mLを加え、室温にて撹拌しながら、5−水酸化トリプタミン塩酸塩(セロトニン塩酸塩、シグマアルドリッチジャパン(株)社製)3gとトリエチルアミン1.97mLをアセトン50mLに溶解したものをゆっくりと加え、さらに30分撹拌を続けた。反応後、溶媒は減圧下で留去し、残滓を5%炭酸水素ナトリウム水溶液と酢酸エチルとで溶解し、分液ロート中で分液した。酢酸エチル相を棄却した後、水相は濃塩酸を用いてpH2.5に調整し、酢酸エチルで抽出を行った。酢酸エチル相は無水硫酸マグネシウムを用いて脱水した後、溶媒を減圧下にて留去した。得られた合成物はHPLC(カラム、YMC−Pack C8 内径20mm×長さ250mm(YMC社製);移動相、1容量%酢酸含有50容量%メタノール;流速、6.0mL/分)を用いて精製し、保持時間12〜14分の溶出液を分取した。分取した画分は減圧乾固し、五酸化二燐共存下のデシケータ内で減圧乾燥し、1.1gのBBAを得た。
以上の結果から、Bacillus thuringiensis B−3株、及びB. cereus B−6株、CA−15株はセロトニンをBBAに代謝していることが確認された。
【0045】
実施例3 チラミン代謝能の評価
直径18mm試験管にチラミン塩酸塩100mg/L添加したNutrient Broth(ベクトン・ディッキンソンアンドカンパニー社製、以下NB)を各5mL準備し、オートクレーブ滅菌後、あらかじめNBで前培養したB. thuringiensis B−3株、B. cereusB−6株、B. cereusCB−01株、及びB. cereusCA−15株のうちいずれかを接種し、37℃で72時間震盪培養を行った。培養72時間後に培養液1mLを採取し、以下の通りチラミンを定量した。培養液は12,000rpm、10分間遠心分離し、上澄を細孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過した。ろ液はHPLC(カラム、Puresil C18内径4.6mm×長さ250mm(Waters社製);移動相、0.1容量%酢酸ナトリウム含有10容量%メタノール(pH7.0);流速、0.8mL/分)を用い、検出波長を280nmとして分析した。ピークは6.7分に認められ、ピーク面積を標品のチラミン塩酸塩によって作成した検量線と比較し、培養液中から得られたチラミン濃度を算出した。結果は表2に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例4 チラミン代謝産物の分析
NBにチラミン塩酸塩を100mg/L添加し、pH6.8に調整した上で、500mL容バッフル付き三角フラスコ2本に300mLずつ分注し、オートクレーブ滅菌後、あらかじめNBで前培養したBacillus thuringiensis B−3株、B. cereus B−6株、及びCA−15株をそれぞれ接種した。培養、ダイヤイオンHP−20カラムでの精製、溶媒抽出、SepPak tC18カートリッジによる精製は実施例2と同様におこなった。得られた精製物をHPLC(カラム、YMC ODS-A 内径10mm×長さ250mm(YMC社製);移動相、1容量%酢酸含有30容量%メタノール;流速、3.0mL/分)を用いて精製したところ、チラミンと類似した277nmに紫外部吸光極大を示すピークが認められたため、相当画分(保持時間13.5〜16.5分)を分取した。さらに分取した画分はHPLC(カラム、Phe 内径10mm×長さ250mm(YMC社製);移動相、1容量%酢酸含有30容量%メタノール;流速、3.0mL/分)を用いて精製し、同様の特徴を示すピークの相当画分(保持時間10〜12.5分)を分取した。さらに分取した画分はHPLC(カラム、ODS−A 内径10mm×長さ250mm(YMC社製);移動相、1容量%酢酸含有20容量%アセトニトリル;流速、3.0mL/分)で分析したところ、対象とするピークは9.5分に認められた。
【0048】
これは化学合成品のN-(4−ヒドロキシフェネチル)コハク酸アミド(N−(4−Hydroxyphenethyl)succinamic acid、以下4HPESA)とほぼ一致し、ピークの吸光極大も277nmと化学合成品と一致しており、235〜400nmの吸光スペクトルも化学合成品とほぼ一致した。なお、培地のみを同様に精製・分析したものからはこのピークは検出されなかった。この結果から、Bacillus thuringiensis B−3株、及びB. cereus B−6株、CA−15株はチラミンを4HPESAに代謝していることが確認された。
【0049】
実施例5 バチルス属菌芽胞の人工消化液中での生残性評価
バチルス属菌の代表株としてBacillus cereus CA−15株を用いて、乳製品と混合して経口投与したと想定した場合の人工消化液中での生残性について試験した。
【0050】
1.芽胞懸濁液の調製
NB培地で継代培養したCA−15株を同培地で37℃、72時間培養した。培養物を遠心分離し、沈殿を生理食塩水で2回洗浄後、元の培養液の1/10の容量の生理食塩水に再懸濁し、芽胞懸濁液を調製した。
【0051】
2.人工胃液処理試験
11%還元脱脂乳水溶液100mLを115℃、20分高圧滅菌処理したものに、4%ペプシン溶液(和光純薬社製)1mL、及び上記菌体懸濁液1mLを添加し、塩酸でpH3.0に調整した。これを37℃、3時間処理することで人工胃液処理を行った(3反復)。結果を表2に示す。人工胃液処理によりCA−15株は有意に減少しなかった。得られた処理液を人工胃液処理液として、以下の試験に用いた。
【0052】
3.人工腸液処理試験
1%胆汁粉末(SIGMA社製)を含む11%還元脱脂乳485mlを115℃、20分高圧滅菌処理したものに、1%トリプシン溶液(和光純薬社製)5ml、1%パンクレアチン溶液(和光純薬社製)5mLを添加し、さらに、上記人工胃液処理液5mLを添加して混合し、水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した。
この混合物を10本の8mL容量のねじ口試験管に5mL分注し、気相部分を炭酸ガスで置換して密封し、37℃、24時間処理することで、人工腸液処理とした(3反復)。
処理前後の生菌数をNutrient Agar(ベクトン・ディッキンソンアンドカンパニー社製、以下NA)培地を用いたプレートカウント法により測定した。プレートは37℃、2日間培養し、コロニーをカウントした。結果を表3に示す。初発菌数に比べて、24時間処理後において有意な減少は認めらなかった。
【0053】
以上により、人工胃液処理・腸液処理においてCA−15株は減少しないことが判明した。このことは本菌株が経口投与した場合も腸管まで到達できることを示している。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例6 芽胞凍結乾燥品の調製
容量3Lのジャーファーメンターに、1/2濃度のNBを滅菌後注入し、B−6株またはCA−15株をそれぞれ接種し、37℃の条件下で72時間培養した。この培養液を高速冷却遠心機で遠心(3000G、5℃、10分)し、得られた沈殿を生理食塩水で洗浄し、10%のスキムミルク水溶液150mLに懸濁させ、アルミトレイに分注した。これを真空凍結乾燥機(協和真空技術製RLEII−103)により、−50℃に予備凍結後、最終棚温度25℃で計48時間乾燥し、約15gの凍結乾燥品を得た。
生菌数を平板希釈法(NA培地)により生菌数を測定したところ、107CFU/gであった。
【0056】
実施例7 哺乳期の子牛への給与試験
当該バチルス属菌を幼動物に給与した際の効果について調べるため、哺乳期のホルスタイン種の子牛への給与試験を行った。
市場より導入直後の子牛10個体を外観、体重、体調等の条件が統計学的に偏りないように、各5頭ずつ2群(投与群、対照群)に分け、代用乳(雪印種苗社製、「カーフミルクうしっこ」)、人工乳(雪印種苗社製「ハイパスフード40」)を基礎飼料として、投与群には上記芽胞凍結乾燥物を1日に1gを2回に分けて、代用乳と混合して給与した。対照群には動物用飼料組成物を給与しない以外は投与群と同様にした。導入後21日目までの基礎飼料給与プログラムを表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
給与開始後より毎日糞便を観察し、糞便スコア:下痢=2、軟便=1、正常=0として評価した。結果を表5に示す。当該バチルス属菌芽胞を添加することにより、下痢の発生が抑制されることが明らかであった。
【0059】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芽胞が低pH耐性能及び胆汁酸耐性能を有し、かつ増殖時にセロトニン代謝能を有するバチルス属菌。
【請求項2】
芽胞がpH3.0の条件で3時間以上生存し、0.5%胆汁酸の存在下で生存し、かつ増殖時にセロトニン代謝能を有する請求項1記載のバチルス属菌。
【請求項3】
下記の性質(a)、(b)及び(c):
(a)芽胞が37℃、pH3.0、0.04%ペプシンの存在下において3時間以上生存し、
(b)芽胞が37℃、0.5%胆汁酸塩の存在下において生存し、
(c)増殖過程において100mg/L濃度のセロトニンを72時間以内に75mg/L以下に低減する
を有し、下痢毒または嘔吐毒の産生能を有しない請求項1又は2記載のバチルス属菌。
【請求項4】
セロトニン代謝産物がN−[2−(5−ヒドロキシインドール−3−イル)エチル]コハク酸アミドである請求項1〜3のいずれか1項記載のバチルス属菌。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のバチルス属菌と、薬剤又は食品として許容される担体とを含む医薬、動物薬、食品又は飼料用組成物。
【請求項6】
プレバイオティクスをさらに含む請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
錠剤、カプセル、粉末、ペースト、ゲル、液状製剤、食品サプリメント、食品、飼料または飼料添加物の形態である請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
医薬または動物薬の形態である請求項5〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
消化器障害またはその症状を予防および/または治療する医薬または動物薬の形態である請求項5〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
経口投与用である請求項5〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記消化器障害が過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、下痢、腹痛、膨満、腹部痙攣または大腸がんである請求項9又は10に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−16320(P2012−16320A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156360(P2010−156360)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(391009877)雪印種苗株式会社 (19)
【Fターム(参考)】