説明

センサ信号の処理装置

【課題】アナログフィルタ回路の遅延を補正する際に、温度や個体差あるいは経年による遅延時間の変化を考慮した補正ができるようにする。
【解決手段】電子制御装置1は、CPSセンサ2のセンサ信号をアナログフィルタ回路5を介してA/D変換回路4aによりデジタル信号に変換する。不揮発性メモリ9には遅延時間を補正するためのデータが記憶されており、マイクロコンピュータ4は、センサ信号が大きく変動するクランク角の期間中にセンサ信号をA/D変換して取り込み、遅延時間の補正を行う。アナログフィルタ回路5の遅延時間は、温度や個体差、経年で変動するが、温度は温度センサ3で測定し、個体差は予め製造段階で測定し、経年変動はイグニッションのオンオフ回数から推定し、対応する情報を不揮発性メモリ9に記憶しておくことで補正できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ信号の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンを制御するために設けられるセンサなどにおいては、エンジンの回転位置に対応した信号を得る必要がある。また、センサから得るセンサ信号によりエンジンを制御する際に、マイクロコンピュータなどの制御装置で処理するのにデジタル信号に変換することが必要となる。この場合、センサから出力されるアナログのセンサ信号をデジタル信号に変換する関係でアンチエイリアシングフィルタとしてのアナログフィルタを介した状態で信号処理をする。このとき、センサ信号をアナログフィルタでフィルタリングすると位相遅れが発生するので、これを補正する必要がある。このような補正をする方法として、例えば特許文献1に示される技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−169728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に示される技術では、デジタルフィルタにより遅れを補正する構成を採用しているが、アナログフィルタ回路の部品は初期公差、温度公差、耐久公差が大きく一意にアナログフィルタ回路の遅延時間は決定しないため、デジタルフィルタによりこの公差を補償する補正処理はできないという課題がある。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、センサ信号をアナログフィルタによりフィルタリングした際に発生する遅延を補正する際に、アナログフィルタを構成する部品の初期公差や、温度公差あるいは経年などの耐久公差による遅延時間の変化を考慮した補正をすることができるようにしたセンサ信号の処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のセンサ信号の処理装置によれば、車両のエンジンを制御するために用いられるセンサが出力するセンサ信号を処理するものであって、センサから出力されるセンサ信号はアナログフィルタ回路においてフィルタリングされ、この後、フィルタリングされたアナログ信号はA/D変換手段によりデジタル信号に変換される。制御回路は、デジタル信号に変換されたセンサ信号を用いてエンジン制御のための信号を生成する。このとき、制御回路は、不揮発性メモリに記憶されている遅延情報を用いてアナログフィルタ回路において発生した位相の遅れを補正する処理を行う。この場合、アナログフィルタ回路が発生する遅延は、使用している部品の回路定数により求めることができるが、回路定数は温度や経年により変化することが見込まれると共に、個体差もあるので、これらの必要な情報を考慮した遅延情報として記憶させておくことで正確に補正することができる。
【0007】
請求項2に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記発明において、温度センサをアナログフィルタ回路の温度を検出するように設け、不揮発性メモリにはアナログフィルタ回路の温度に応じた遅延時間の情報を記憶する構成とし、制御回路により、アナログフィルタ回路の位相遅れを補正する際に、温度センサによる検出温度に対応した遅延情報つまり温度公差の情報を不揮発性メモリから読み出して補正することができる。これにより、温度が変動してアナログフィルタ回路の遅延時間が変動する場合でもこれに追随して位相の補正を行うことができるようになり、正確な補正処理を行うことができるようになる。
【0008】
請求項3に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記した請求項2の発明において、アナログフィルタ回路の遅延時間の温度特性のデータとして特性曲線の近似を3点以上のデータとして不揮発性メモリに記憶させ、制御回路により、アナログフィルタ回路の遅延時間の補正を、不揮発性メモリに記憶された温度特性の3点以上のデータから現在の検出温度に相当する遅延時間特性を算出して行うので、アナログフィルタ回路の温度特性が温度に対して直線的に変動しない場合でも遅延時間の補正を正確に行うことができるようになる。
【0009】
請求項4に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記各発明において、アナログフィルタ回路の使用時間を積算する手段を設け、不揮発性メモリに記憶される遅延情報を、アナログフィルタ回路の使用時間に依存した特性を含めた遅延時間の情報として記憶させるので、制御回路により、アナログフィルタ回路の位相遅れの補正をする際に、使用時間を積算する手段による使用時間に対応した遅延情報を不揮発性メモリから読み出して補正することで使用時間すなわち経年変化に追随した特性の変化に応じて遅延時間の補正を行うことができるようになる。
【0010】
請求項5に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記請求項4の発明において、使用時間を積算する手段を、電源のオンオフ回数に応じて使用時間を算出するように構成したので、使用時間を直接積算処理することなくオンオフ回数をカウントすることで概略的に得ることができる。これにより、使用時間に対応した遅延情報を不揮発性メモリから読み出して補正することで使用時間すなわち経年変化に追随した特性の変化に応じて遅延時間の補正を行うことができるようになる。
【0011】
請求項6に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記各発明において、アナログフィルタ回路の低域通過周波数の範囲を、フィルタリングするセンサ信号の遅延時間が周波数成分によらずほぼ一定となる特性の範囲に設定したので、使用するセンサが出力するセンサ信号がアナログフィルタ回路を通過したときに、周波数成分に依存しないで全体として時間軸上でシフトした波形として得られるようになる。これにより、遅延時間の補正をする際に、周波数成分毎に補正を行う必要がなくなり信号処理が簡単な構成で容易に行えるようになる。
【0012】
請求項7に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記各発明において、不揮発性メモリに記憶する遅延時間情報を、予め測定されたデータを製造過程で記憶させるようにしたので、個別に発生するばらつきにも対応した正確な遅延情報を設定することができ、正確な補正処理を行うことができる。
【0013】
請求項8に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記各発明において、制御回路により、アナログフィルタの遅延時間の補正をエンジンの回転に伴うセンサ信号の変動が少ない期間中に行うようにしたので、エンジンの燃焼の動作に与える影響を最小限にして補正を行うことができる。
【0014】
請求項9に記載のセンサ信号の処理装置によれば、上記各発明において、センサとして、筒内圧センサ(CPS;cylinder pressure sensor)を用いているので、センサが検出する筒内圧力に対応したセンサ信号の補正を正確に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す全体の電気的構成図
【図2】クランク角度に対応したセンサ電圧の特性図
【図3】アナログフィルタ回路の周波数遅延特性を示す図
【図4】アナログフィルタ回路のコンデンサの温度特性を示す図
【図5】アナログフィルタ回路の抵抗の温度特性を示す図
【図6】アナログフィルタ回路の遅延時間の温度特性を示す図
【図7】センサ信号の処理手順を示す図(その1)
【図8】センサ信号の処理手順を示す図(その2)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は全体の電気的構成を概略的に示すもので、エンジン制御を行うための電子制御装置1は、エンジンの回転状態を検出するセンサであるCPS(cylinder pressure sensor)2および温度センサ3からのセンサ信号を入力してこれを処理する。電子制御装置1は、マイクロコンピュータ4を主体として構成されるもので、マイクロコンピュータ4には入力段にA/D変換回路4aを備えている。A/D変換回路4aにはアナログフィルタ回路5が接続され、抵抗6aおよびコンデンサ6bを介してCPSセンサ2に接続されている。温度センサ3は、アナログフィルタ回路5の温度を検出するように設けられている。
【0017】
アナログフィルタ回路5は、入力段にバッファ回路5aが設けられ、その出力側に抵抗5b、5c、コンデンサ5d、5eからなるローパスフィルタが設けられ、出力段にバッファ回路5fが設けられたディスクリート回路による構成である。ローパスフィルタ回路5は、CPSセンサ2からのセンサ信号を入力すると所定の低域周波数を通過させてA/D変換回路4aに入力するもので、A/D変換に先立って高い周波数領域の信号をカットするアンチエイリアシングフィルタ機能を担うものである。
【0018】
温度センサ3の出力端子は抵抗7a、コンデンサ7bの回路を介してA/D変換回路4aに接続されている。温度センサ3の温度検出信号は、A/D変換回路4aによりデジタルの温度検出信号に変換されてマイクロコンピュータ4に入力される。また、この他に、エンジンのクランク軸の回転速度および回転位置を検出するための回転数信号および気筒判別信号が電子制御装置1に入力されるようになっており、信号生成回路8を介してマイクロコンピュータ4に入力される。
【0019】
信号生成回路8は、回転数信号と気筒判別信号とから、エンジンの各気筒の圧縮行程上死点TDC(top dead center)のタイミングで立ち下がるTDC信号を生成して、そのTDC信号をマイクロコンピュータ4へ出力するようになっている。なお、エンジンが4気筒の場合には、TDC信号は、180°CA(crank angle)毎(クランク軸が180°回転する毎)に立ち下がることとなる。
【0020】
不揮発性メモリ9は、電気的に書き換え可能なEEPROMからなるもので、マイクロコンピュータ4によりデータの読み出しおよび書き込みが可能に設けられている。不揮発性メモリ9には、後述するようにCPSセンサ2のセンサ信号を補正するためのデータが予め記憶されている。センサ信号を補正するためのデータは、センサ信号がアナログフィルタ回路5を通過する際に発生する遅延時間を補正するためのもので、この遅延時間が温度によって変動するのを温度特性のデータとして記憶させるものである。この温度特性は、温度の変化により曲線的に変動するので、この特性を表現できる3つの温度における遅延時間の特性を記憶させている。
【0021】
また、マイクロコンピュータ4は、イグニッション(IG)スイッチのオンオフの累積回数に対応した信号を他のECUから取得して不揮発性メモリ9に記憶するように構成されており、このイグニッションスイッチのオンオフの累積回数からアナログフィルタ回路6の使用時間に相当するデータを概略的に推定するように構成されている。
【0022】
CPSセンサ2のセンサ信号(センサ電圧)は、図2に示すように、クランク角度で示すと0°CAである上死点(TDC)の位置で最も大きく、その前後180°CA(−180°CA〜+180°CA)の範囲で大きく変動し、他の+180°CA〜+540°CA(つまり+180°CA〜−180°CA)までの範囲では殆ど変動しない。したがって、変動の大きい±180°CAの範囲でセンサ信号を正確に検出し、他の角度領域で補正の処理をすることができる。
【0023】
また、CPSセンサ2のセンサ信号は、周波数成分として例えば10〜110Hzの範囲の信号を含んでいる。アナログフィルタ回路5における遅延時間の補正に際して、群遅延特性が揃った領域となるように、アナログフィルタ回路5の遅延時間の周波数特性を10〜110Hzの範囲においてほぼ同じつまりフラットな特性となるようにフィルタ特性を設定している。したがって、CPSセンサ2のセンサ信号は、アナログフィルタ回路5を通過した時点で波形のひずみが少ない状態に保持され、全体を遅延時間に対応してシフトさせれば遅延時間の補正を行うことができる。
【0024】
アナログフィルタ回路5の遅延時間特性は、抵抗5b、5cの抵抗値およびコンデンサ5d、5eの静電容量の温度特性に依存している。コンデンサ5d、5eの静電容量の温度特性は、例えば図4に示すように、低温側から温度上昇に伴って上昇し、20℃でピーク値を示し、さらに温度上昇に伴って低下する特性を有する。また、抵抗5b、5cの抵抗値の温度特性は、図5に示すように、温度に比例してほぼ直線的に増加する特性を有する。
【0025】
この結果、アナログフィルタ回路5としては、RC時定数に相当する遅延時間が抵抗5b、5cの抵抗値とコンデンサ5d、5eの静電容量の積に比例した特性となるので、図6に示すような温度特性として得られる。使用温度範囲では、±20%程度の範囲で変動するもので、曲線で示される温度公差の補正データとなる。この曲線となる温度交差の補正データは、曲線の特性を3点以上のデータで近似することができるので、図示のように特徴的な温度に対応した点(図中黒丸で示している)を選んでこれらの遅延時間のデータを不揮発性メモリ9に記憶させている。
【0026】
また、アナログフィルタ回路5の遅延時間特性は、温度以外にも個別のばらつきがあるので、これら初期公差に対応する遅延時間の補正データを製造段階で予め測定して不揮発性メモリ9に記憶させている。このような個体による初期公差は、例えば±20%程度あるので、事前に個別に測定をして記憶させることで正確に補正をすることができる。
【0027】
さらに、アナログフィルタ回路5の各部品は使用時間に応じて経年変化(耐久変化)が生ずるので、これらの傾向を予め測定して使用時間に対応した遅延時間の補正データを不揮発性メモリ9に記憶させている。この場合、使用時間による遅延時間の変動は30〜50%の範囲で大きく変動することがわかっており、これに対応させるデータを記憶することで正確に補正をすることができる。
【0028】
使用時間のデータについては、マイクロコンピュータ4によりイグニッションスイッチのオン期間中の時間を積算計時することで得ることができる。また、この実施形態では、イグニッションスイッチのオンオフの積算回数を示す信号を他のECUから受信しており、このオンオフ回数から概略的な使用時間を推定することができるので、これによって使用時間あるいは使用時間に相当するデータを得ることができる。
【0029】
次に、遅延時間の補正の処理について図7および図8を参照して説明する。まず、マイクロコンピュータ4による遅延時間の補正の概略的な処理について図7のフローチャートを用いて説明する。まず、マイクロコンピュータ4は、信号生成回路8から入力されている回転数信号によりクランク角度(クランクが上死点TDCにあるときを0°とする)が−180°CA〜+180°CAの範囲(上死点TDCを中心として±180°CAの範囲)にあるか否かを判断する(A1)。クランク角度がこの範囲にあるときには、図2に示したようにセンサ信号の大きさ(センサ電圧)が大きく変化するので、マイクロコンピュータ4はYESと判断して時間カウンタを開始させる(A2)。なお、クランク角度がこの範囲にないときにはNOと判断してこの範囲に入ってYESとなるまで待機する。
【0030】
マイクロコンピュータ4は、時間カウンタのカウント動作を開始した後、アナログフィルタ回路5からA/D変換回路4aに入力されるセンサ信号を所定時間毎(例えば5μsec毎)にA/D変換してデジタル信号として取り込む(A3)。次に、マイクロコンピュータ4は、時間カウンタ値を取得し(A4)、時間カウンタ値からA/D変換に要した時間とアナログフィルタ回路5によるフィルタ遅延時間とを差し引いた時間カウンタ値を補正後の時間カウンタ値として求め(A5)、そのときのA/D変換されたデジタル信号の値を補正後の時間カウンタ値と共に記憶する(A6)。
【0031】
なお、上記のように遅延時間の補正について時間カウンタ値から、A/D変換に要した時間とアナログフィルタ回路5によるフィルタ遅延時間とを差し引いた時間カウンタ値を補正後の時間カウンタ値として求めることで位相の補償が行えるのは、次の理由による。すなわち、前述のように、CPSセンサ2のセンサ信号に含まれる周波数成分が10〜110Hzであるのに対して、アナログフィルタ回路5のフィルタ特性が図3に示したような特性を示していることで、センサ信号がアナログフィルタ回路5を通過した場合に、センサ信号の周波数成分の全体がほぼ同じ時間だけ遅れるようになっているからである。この結果、単純に時間軸で遅延時間に相当する時間分をシフトさせることで補正することができるのである。そして、その遅延時間の主たる要素を、初期公差を含めた温度公差のデータと経年変化のデータとから求めることで位相遅れの補償を行うものである。
【0032】
この後、マイクロコンピュータ4は、回転数信号の値で示されるクランク角度が−180°CA〜+180°CAの範囲にあるか否かを判断し、YESの場合には再びA/D変換のA3に戻ってA7までのステップを繰り返し、クランク角度−180°CA〜+180°CAの範囲におけるA/D変換されたデジタル信号を補正された時間カウンタ値と共に記憶していく。これにより、クランク角度−180°CA〜+180°CAの範囲のCPSセンサ2のセンサ信号を補正された時間カウンタ値で取り込んで記憶することができる。そして、クランク角度が−180°CA〜+180°CAの範囲から外れると、マイクロコンピュータ4は、ステップA7でNOと判断して時間カウンタを停止し(A8)、ステップA1に戻ってクランク角度が−180°CA〜+180°CAの範囲に入るまで待機状態となる。以下、マイクロコンピュータ4は、上記の処理を繰り返し実行する。
【0033】
次に、遅延時間情報の取得処理について図8のフローチャートにより説明する。マイクロコンピュータ4は、上記の処理に加えて、次の処理を実施している。すなわち、マイクロコンピュータ4は、内部のメモリに遅延時間のデータが記憶されているか否かを判断し(B1)、記憶されていない場合には、初期公差情報を不揮発性メモリ9から読み出して取得する(B2)。遅延時間のデータが記憶されていない場合とは、例えば電源(イグニッション)起動時、あるいはメモリのデータが消失しているような場合である。信号生成回路8から入力される回転数信号によるクランク角度の値が−180°CA〜+180°CAの範囲にある間は、マイクロコンピュータ4は待機状態となる(B3)。なお、マイクロコンピュータ4は、上記したステップB1で、内部のメモリに遅延時間のデータが記憶されている場合にはNOと判断して、ステップB3にジャンプし、以後、クランク角度の値が−180°CA〜+180°CAの範囲から外れるまで待機状態となる。
【0034】
次に、マイクロコンピュータ4は、クランク角度の値が−180°CA〜+180°CAの範囲から外れると、ステップB3でNOと判断して温度情報とイグニッション(IG)累積回数の情報を取得する(B4)。取得したデータに基づいて、マイクロコンピュータ4は、アナログフィルタ回路6の遅延時間に関する情報を、初期公差、温度特性、イグニッション累積回数などの情報に基づいて算出し、遅延時間に関する情報のマップをメモリ内に記憶する(B5)。
【0035】
この場合、例えば温度特性についての遅延時間の情報を算出する過程では、マイクロコンピュータ4は、メモリに記憶された3点のデータに基づいてその時の温度に対応する特性曲線のデータを演算により推定する。温度特性の特性曲線は前述のように図6のような曲線で表されるので、曲線を復元するのに適当な3点のデータを設定することで比較的良い近似データを得ることができる。なお、初期公差に相当する遅延時間の情報は、この温度特性の遅延時間の情報に含めた形で記憶させることができる。
【0036】
また、同様にして、経年の変化を示す遅延時間の情報としては、時間の経過に伴う遅延時間の変動を所定の時間単位毎に記憶させたり、あるいは変化が生ずる特徴となる時点のデータを記憶させたりするなどして、何点かのデータを代表として記憶させることで近似することができる。
【0037】
そして、前述の図7に示した遅延時間の処理では、マイクロコンピュータ4は、上記のようにしてメモリに記憶されている遅延情報の情報に基づいてステップA5において演算処理をおこなっている。
【0038】
このような本実施形態によれば、アナログフィルタ回路5による遅延時間に関する情報を不揮発性メモリ9に予め記憶しておき、CPSセンサ2のセンサ信号についてアナログフィルタ回路5を通じてA/D変換回路4aで変換した後に、マイクロコンピュータ4により遅延時間を補正する演算をするようにしたので、簡単な構成で遅延時間の補正を正確にすることができる。
【0039】
また、アナログフィルタ回路5の温度を温度センサ3により検出し、使用時の温度に応じて位相遅れの補正を行うので、温度特性に起因した遅延時間の補償を温度の変化に追随して正確に行うことができる。
【0040】
第3に、アナログフィルタ回路5の遅延時間の温度特性のデータとして特性曲線の近似を3点以上のデータとして不揮発性メモリ9に記憶させ、マイクロコンピュータ4によりアナログフィルタ回路5の遅延時間の補正を行うので、アナログフィルタ回路の温度特性が温度に対して直線的に変動しない場合でも遅延時間の補正を正確に行うことができるようになる。
【0041】
第4に、アナログフィルタ回路5の使用時間を積算する手段として、電源のオンオフ回数を示すデータを入力し、そのオンオフの累積回数に応じて使用時間を算出するように構成したので、使用時間を直接積算処理することなくオンオフ回数をカウントすることで概略的に得ることができる。これにより、使用時間に対応した遅延情報を不揮発性メモリから読み出して補正することで使用時間すなわち経年変化に追随した特性の変化に応じて遅延時間の補正を行うことができるようになる。
【0042】
第5に、アナログフィルタ回路5の低域通過周波数の範囲を、フィルタリングするCPSセンサ2のセンサ信号の遅延時間が周波数成分によらずほぼ一定となる特性の範囲に設定したので、使用するセンサが出力するセンサ信号がアナログフィルタ回路5を通過したときに、周波数成分に依存しないで全体として時間軸上でシフトした波形として得られるようになる。これにより、遅延時間の補正をする際に、周波数成分毎に補正を行う必要がなくなり信号処理が簡単な構成で容易に行えるようになる。
【0043】
第6に、不揮発性メモリ9に記憶する遅延時間情報を、予め測定されたデータを製造過程で記憶させるようにしたので、個別に発生するばらつきにも対応した正確な遅延情報を設定することができ、正確な補正処理を行うことができる。
【0044】
第7に、マイクロコンピュータ5により、アナログフィルタ回路5の遅延時間の補正をエンジンの回転に伴うセンサ信号の変動が少ない期間中すなわちクランク角で+180°CA〜−180°CAの範囲で行うようにしたので、エンジンの燃焼の動作に与える影響を最小限にして補正を行うことができる。
【0045】
(他の実施形態)
なお、本発明は、上述した一実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能であり、例えば、以下のように変形または拡張することができる。
A/D変換手段は、マイクロコンピュータ4に付随するA/D変換回路4aを用いる構成としたが、マイクロコンピュータ4とは別途にA/D変換回路を設ける構成としても良い。
【0046】
不揮発性メモリは、別体の不揮発性メモリ9として設ける構成としたが、マイクロコンピュータ4内に一体に設けられる不揮発性メモリを用いても良い。
不揮発性メモリ9に記憶させる遅延時間の情報として、温度特性を3点で近似したデータとしているが、これにかぎらず、直線的に近似できる場合には2点のデータで良いし、更に複雑な温度特性を呈する場合には4点以上のデータで近似するようにしても良い。
【0047】
アナログフィルタ回路5の遅延時間の補正を、温度特性、初期公差、経年変化の各情報を用いて行うものを示したが、さらに異なる変動要素を考慮する場合には、その変動要素の遅延時間の情報も記憶させるようにしても良い。
センサ信号のA/D変換をクランク角で−180°CA〜+180°CAの範囲とし、位相の補正をするのをその範囲以外のクランク角のときに行う構成としたが、この範囲は有効な情報の利用あるいは演算効率などを考慮して適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
図面中、1は電子制御装置(センサ信号の処理装置)、2はCPSセンサ(センサ)、3は温度センサ、4はマイクロコンピュータ(制御回路)、4aはA/D変換回路(A/D変換手段)、5はアナログフィルタ回路、9は不揮発性メモリである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンを制御するために用いられるセンサが出力するセンサ信号に対してフィルタ処理を行うセンサ信号の処理装置であって、
前記センサ信号が入力されるアナログフィルタ回路と、
前記アナログフィルタ回路が出力するアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、
前記A/D変換手段により変換されたデジタル信号を用いてエンジンを制御する制御回路と、
前記アナログフィルタ回路の遅延情報を記憶する不揮発性メモリを備え、
前記制御回路は、前記不揮発性メモリに記憶された前記遅延情報を用いて前記アナログフィルタ回路の位相遅れを補正することを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ信号の処理装置において、
前記アナログフィルタ回路の温度を検出する温度センサを設け、
前記不揮発性メモリに記憶される前記遅延情報は、前記アナログフィルタ回路の温度特性を含めた遅延時間の情報として記憶され、
前記制御回路は、前記アナログフィルタ回路の位相遅れの補正をする際に、前記温度センサによる検出温度に対応した前記遅延情報を前記不揮発性メモリから読み出して補正することを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のセンサ信号の処理装置において、
前記不揮発性メモリに記憶される前記遅延時間の温度特性のデータは、特性曲線の近似を3点以上のデータで行うように記憶され、
前記制御回路は、前記アナログフィルタ回路の遅延時間の補正を、前記不揮発性メモリに記憶された温度特性の3点以上のデータから現在の検出温度に相当する遅延時間特性を算出するように構成されていることを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のセンサ信号の処理装置において、
前記アナログフィルタ回路の使用時間を積算する手段を設け、
前記不揮発性メモリに記憶される前記遅延情報は、前記アナログフィルタ回路の使用時間に依存した特性を含めた遅延時間の情報として記憶され、
前記制御回路は、前記アナログフィルタ回路の位相遅れの補正をする際に、前記使用時間を積算する手段による使用時間に対応した前記遅延情報を前記不揮発性メモリから読み出して補正することを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載のセンサ信号の処理装置において、
前記使用時間を積算する手段は、電源のオンオフ回数に応じて使用時間を算出するように構成されていることを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のセンサ信号の処理装置において、
前記アナログフィルタ回路の低域通過周波数の範囲は、フィルタリングする前記センサ信号の遅延時間が周波数成分によらずほぼ一定となる特性の範囲に設定されていることを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のセンサ信号の処理装置において、
前記不揮発性メモリに記憶する前記遅延時間情報は、予め測定されたデータを製造過程で記憶させることを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のセンサ信号の処理装置において、
前記制御回路は、前記アナログフィルタ回路の遅延時間の補正を前記エンジンの回転に伴う前記センサ信号の変動が少ない期間中に行うことを特徴とするセンサ信号の処理装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のセンサ信号の処理装置において、
前記センサは、筒内圧センサ(CPS;cylinder pressure sensor)であることを特徴とするセンサ信号の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79627(P2013−79627A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220958(P2011−220958)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】