説明

センサ制御装置

【課題】PMセンサによるPM量検出不可となる期間を減らし、ひいてはセンサ検出値の利用範囲の拡張を図る。
【解決手段】PMセンサ17は、排気中に含まれるPM(導電性粒子状物質)を付着させる被付着部と、被付着部に互いに離間して設けられる一対の対向電極とを有し、一対の対向電極間の抵抗値に応じた検出信号を出力する。マイコン44は、PMセンサ17によるセンサ検出値に基づいてPM堆積量を算出する。PMセンサ17には、被付着部に付着したPMを燃焼除去させるべく被付着部を加熱するヒータ部35が設けられている。マイコン44は、ヒータ部35による加熱に際し、その加熱によるPMの燃焼除去後に被付着部に一部のPMが残存するようにヒータ部35の通電を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質検出センサの検出信号に基づいて粒子状物質(PM:Particulate Matter)の量を算出するセンサ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジン等から排出されるPMの量を検出するPMセンサ(粒子状物質検出センサ)が各種提案されている。例えば、特許文献1のPMセンサでは、絶縁基板上に一対の対向電極を設けておき、その一対の対向電極間にPMが堆積すると電極間抵抗が変化することを利用し、電極間抵抗を計測することでPM量を検出する構成としている。この場合、センサ素子に接続される検出回路としては、一対の対向電極間の抵抗分である電極間抵抗と所定のシャント抵抗とにより分圧回路を構成し、分圧回路の中間点電圧をセンサ検出信号として出力するようにしていた。
【0003】
また、PMセンサの絶縁基板において、そのPMの堆積量は徐々に増えるため、そのPMを除去させるために定期又は不定期でPMの燃焼除去が行われる。この燃焼除去により、絶縁基板に堆積したPM量がほぼ0になり、センサ検出値が初期値(ゼロ点)に復帰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−196453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PMセンサにおいてPMの燃焼除去が行われる場合には、絶縁基板上のPMが全て除去されるため、その後は、絶縁基板にある程度の量のPMが付着するまで、PM量が検出不可能となる。これは、一般にPMセンサの不感帯と称される。不感帯によりPM量が検出不可能となる場合、例えば、PMセンサ出力の変化量に基づいてエンジンからのPM排出量を算出したりすることが不可能となる。
【0006】
本発明は、PMセンサによるPM量検出不可となる期間を減らし、ひいてはセンサ検出値の利用範囲の拡張を図ることができるセンサ制御装置を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。
【0008】
本発明のセンサ制御装置は、ガス中に含まれる導電性の粒子状物質を付着させる被付着部と、前記被付着部に互いに離間して設けられる一対の対向電極とを有し、前記一対の対向電極間の抵抗値に応じた検出信号を出力する粒子状物質検出センサに適用され、該粒子状物質検出センサによるセンサ検出値に基づいて前記粒子状物質の付着量を算出するものである。そして、請求項1に記載の発明では、前記被付着部に付着した粒子状物質を燃焼除去させるべく前記被付着部を加熱する加熱手段と、前記加熱手段による前記被付着部の加熱に際し、その加熱による粒子状物質の燃焼除去後に前記被付着部に一部の粒子状物質が残存するように前記加熱手段の加熱を制御する加熱制御手段と、を備える。
【0009】
要するに、粒子状物質検出センサでは、被付着部に付着した全ての粒子状物質を燃焼除去すると、その後は、被付着部にある程度の量の粒子状物質が付着するまで、粒子状物質の付着量が検出不可能となる、いわゆる不感帯が存在する。この点、上記構成によれば、加熱手段による被付着部の加熱に際し、その加熱による粒子状物質の燃焼除去後に被付着部に一部の粒子状物質が残存するように加熱手段の加熱を制御するため、粒子状物質の燃焼除去直後も、一対の対向電極間に粒子状物質が残存し、その残存している粒子状物質の量に応じたセンサ検出値を取得できる。つまり、不感帯を無くすことが可能となる。また、仮に一対の対向電極間において粒子状物質が途切れたとしても、被付着部上に粒子状物質が残存していることでいち早く一対の対向電極間が導通され、不感帯を短縮することができる。したがって、粒子状物質検出センサにおける検出不感帯を減らす又は無くし、ひいてはセンサ検出値の利用範囲の拡張を図ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、加熱手段の加熱開始後においてセンサ検出値が粒子状物質の量=0に相当するゼロ点値に復帰する以前に、加熱手段による加熱を停止させる。
【0011】
既存の技術では、粒子状物質検出センサにおける粒子状物質の燃焼除去に際しては粒子状物質を全て除去するようにしており、センサ検出値がゼロ点値、すなわち粒子状物質の付着量=0に相当する値に復帰した後まで加熱が継続される。これに対し、本発明では、センサ検出値がゼロ点に復帰する以前に加熱を停止させるため、粒子状物質検出センサに一部の粒子状物質を残存させることが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、粒子状物質の燃焼除去後において被付着部に付着している粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値を取得し、該取得したセンサ検出値に基づいて、次回以降の加熱制御手段による加熱条件を設定する。
【0013】
加熱制御を実施すると、被付着部に付着している粒子状物質が燃焼除去されることに伴い一対の対向電極間の抵抗が増加変化する。ここで、一部の粒子状物質を残存させる場合に、その残存量(粒子状物質の最少量)があらかじめ想定した量にならないことがあると考えられる。この点、上記のとおり、被付着部に付着している粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値を算出し、そのセンサ検出値に基づいて次回以降の加熱条件を設定することにより、燃焼除去後の粒子状物質の残存量を所望量又はそれに近い量に調整することができる。
【0014】
ここで、請求項4に記載したように、粒子状物質の燃焼除去後における粒子状物質検出センサの基準出力値を定めておき、粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値と基準出力値との比較に基づいて加熱条件を設定するとよい。
【0015】
この場合、粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値と基準出力値との比較において、粒子状物質の残存量が基準量(基準出力値に相当する量)よりも多い場合には、粒子状物質の燃焼除去量を増やすべく、加熱の熱量を増やしたり加熱終了のタイミングを遅らせたりする。また逆に、粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値と基準出力値との比較において、粒子状物質の残存量が基準量(基準出力値に相当する量)よりも少ない場合には、粒子状物質の燃焼除去量を減らすべく、加熱の熱量を減らしたり加熱終了のタイミングを早めたりする。
【0016】
請求項5に記載の発明では、粒子状物質の燃焼除去後において被付着部に付着している粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値を取得し、該取得したセンサ検出値を初期値として、その初期値と都度のセンサ検出値とに基づいて前記粒子状物質の付着量を算出する。
【0017】
上記のとおり燃焼除去後に一部の粒子状物質を残存させる構成では、燃焼除去後の粒子状物質の残存量(すなわち粒子状物質の最少量)が一定量でないと考えられる。この点、請求項5の発明では、被付着部に付着している粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値を取得し、そのセンサ検出値を初期値として用いることにより、それ以降の粒子状物質の付着量の算出を好適に実施できる。つまり、燃焼除去後の粒子状物質の残存量(すなわち粒子状物質の最少量)を基準に、それからの粒子状物質の付着量を正しく求めることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、被付着部に付着している全ての粒子状物質を燃焼除去させる第1燃焼処理と、被付着部に付着している一部の粒子状物質を未燃焼とする第2燃焼処理とのいずれかを選択的に実施する。
【0019】
ここで、一部の粒子状物質を残存させる燃焼処理だけを繰り返し実施する場合には、被付着部において常に同じ部位の粒子状物質だけが残存し、結果として粒子状物質が固着することが懸念される。これに対し、粒子状物質の全除去(第1燃焼処理)と、粒子状物質の一部除去(第2燃焼処理)とを選択的に実施することで、粒子状物質の固着を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】発明の実施の形態におけるエンジン制御システムの概要を示す構成図。
【図2】PMセンサを構成するセンサ素子の要部構成を分解して示す分解斜視図。
【図3】PMセンサに関する電気的構成図。
【図4】PM強制燃焼時の基本動作を説明するためのタイムチャート。
【図5】PMセンサの再生処理を示すフローチャート。
【図6】PM検出電圧とPM堆積量との関係を示す図。
【図7】条件設定処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車載エンジンを備える車両エンジンシステムにおいて、同エンジンから排出される排気中のPM量(導電性粒子状物質の量)を監視するものである。特に、エンジン排気管にPMセンサを設け、そのPMセンサでのPM付着量に基づいてPM量を監視するものとしている。図1は、本システムの概略構成を示す構成図である。
【0022】
図1において、エンジン11は直噴式ガソリンエンジンであり、同エンジン11には、同エンジン11の運転に関わるアクチュエータとして燃料噴射弁12や点火装置13等が設けられている。エンジン11の排気管14には排気浄化装置としての三元触媒15が設けられており、その三元触媒15の上流側にはA/Fセンサ16が設けられ、下流側には粒子状物質検出センサとしてのPMセンサ17が設けられている。その他、本システムでは、エンジン回転速度を検出するための回転センサ18や、吸気管圧力を検出するための圧力センサ19等が設けられている。
【0023】
ECU20は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(マイコン)を主体として構成されており、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン11の各種制御を実施する。すなわち、ECU20は、上記各種センサ等から各々信号を入力し、それらの各種信号に基づいて燃料噴射量や点火時期を演算して燃料噴射弁12や点火装置13の駆動を制御する。
【0024】
また、ECU20は、PMセンサ17の検出信号に基づいてエンジン11の実際のPM排出量(実PM排出量)を算出し、その実PM排出量に基づいてエンジン11の燃焼状態を診断する。具体的には、実PM排出量が所定の異常判定値を超えていれば、PM排出過多の状態であり、エンジン異常であると判定する。
【0025】
その他、ECU20は、PMセンサ17の検出結果から算出される実PM排出量に基づいて、エンジン11の制御態様を可変に制御する構成であってもよい。例えば、実PM排出量に基づいて燃料噴射量を制御したり、燃料噴射時期を制御したり、点火時期を制御したりすることが可能である。
【0026】
次に、PMセンサ17の構成、及びそのPMセンサ17に関する電気的構成を図2及び図3を用いて説明する。図2は、PMセンサ17を構成するセンサ素子31の要部構成を分解して示す分解斜視図であり、図3は、PMセンサ17に関する電気的構成図である。
【0027】
図2に示すように、センサ素子31は、長尺板状をなす2枚の絶縁基板32,33を有しており、一方の絶縁基板32にはPM量を検出するためのPM検出部34が設けられ、他方の絶縁基板33にはセンサ素子31を加熱するためのヒータ部35が設けられている。センサ素子31は、絶縁基板32,33が二層に積層されることで構成されている。絶縁基板32が被付着部に相当する。
【0028】
絶縁基板32には、他方の絶縁基板33とは反対側の基板表面に、互いに離間して設けられる一対の検出電極36a,36bが設けられており、この一対の検出電極36a,36bによりPM検出部34が構成されている。検出電極36a,36bは、各々複数の櫛歯を有する櫛歯形状をなしており、各検出電極36a,36bの櫛歯同士が互い違いとなるようして所定間隔をあけて対向配置されている。また、ヒータ部35は例えば電熱線からなる発熱体により構成されている。
【0029】
ただし、一対の検出電極36a,36bの形状は上記に限定されず、曲線状をなす形状で設けられているものや、各1本の線からなる一対の電極部が所定距離を隔てて平行に対向配置されているものであってもよい。
【0030】
なお、図示は省略するが、PMセンサ17は、センサ素子31を保持するための保持部を有しており、センサ素子31はその一端側が保持部により保持された状態で排気管に固定されるようになっている。この場合、少なくともPM検出部34及びヒータ部35を含む部位が排気管内に位置するように配されるとともに、センサ素子31において絶縁基板32(PM被付着部)が排気上流側を向くようにして、PMセンサ17が排気管に取り付けられる構成となっている。これにより、PMを含む排気が排気管内を流れる際、そのPMが絶縁基板32において検出電極36a,36b及びその周辺に付着し堆積する。また、PMセンサ17は、センサ素子31の突出部分を覆う保護カバーを有している。
【0031】
上記構成のPMセンサ17は、排気中のPMがセンサ素子31の絶縁基板32に付着し堆積すると、それによりPM検出部34の抵抗値(すなわち一対の検出電極36a,36b間の抵抗値)が変化すること、及びその抵抗値の変化がPM堆積量に対応していることから、その抵抗値の変化を利用してPM量を検出するものである。
【0032】
図3に示すように、PMセンサ17に関する電気的構成として、PMセンサ17のPM検出部34の一端側にはセンサ電源41が接続され、他端側にはシャント抵抗42が接続されている。センサ電源41は、例えば定電圧回路により構成されており、定電圧Vccが5Vとなっている。この場合、PM検出部34とシャント抵抗42とにより分圧回路40が形成されており、それらの中間点電圧がPM検出電圧Vpm(センサ検出値)としてECU20に入力されるようになっている。つまり、PM検出部34ではPM堆積量に応じて抵抗値Rpmが変化し、その抵抗値Rpmとシャント抵抗42の抵抗値RsとによりPM検出電圧Vpmが変化する。そして、そのPM検出電圧VpmがA/D変換器43を介してマイコン44に入力される。
【0033】
ここで、Vcc=5V、Rs=100kΩとすると、PM検出電圧Vpmは次の(1)式で求められる。
Vpm=5V×100kΩ/(100kΩ+Rpm) …(1)
このとき、PM堆積量が0(又は略0)であれば、PM検出部34の抵抗値Rpmは無限大になることから、Vpm=0Vとなる。また、PM堆積によりPM検出部34の抵抗値Rpmが例えば1kΩまで低下すると、Vpm=4.95Vとなる。こうしてPM検出部34でのPM堆積量に応じてPM検出電圧Vpmが変化する。マイコン44は、PM検出電圧Vpmに応じてPM堆積量を算出する。
【0034】
分圧回路40により信号出力回路が構成されており、この分圧回路40によって0〜5Vを出力範囲としてPM検出電圧Vpmが変化可能となっている。この場合、PM検出電圧Vpmの出力上限値は5Vであり、より厳密には5Vよりも若干低い電圧値となっている。
【0035】
また、PMセンサ17のヒータ部35には、ヒータ電源45が接続されている。ヒータ電源45は例えば車載バッテリであり、車載バッテリからの給電によりヒータ部35が加熱される。この場合、ヒータ部35のローサイドにはスイッチング素子としてのトランジスタ46が接続されており、マイコン44によりトランジスタ46がオン/オフされることでヒータ部35の加熱制御が行われる。
【0036】
絶縁基板32上にPMが堆積した状態でヒータ部35の通電を開始すると、堆積PMの温度が上昇し、それに伴い堆積PMが強制的に燃焼される。こうした強制燃焼により、絶縁基板32に堆積したPMが燃焼除去される。マイコン44は、例えば、エンジン始動時や運転終了時に、又はPM堆積量が所定量になったと判定された時に、PMの強制燃焼要求が生じたとしてヒータ部35による加熱制御を実施する。なお、PMセンサ17のPM強制燃焼の処理は、PMセンサ17においてPM堆積量の検出機能を再生するものであり、その意味からセンサ再生処理とも称される。
【0037】
その他、ECU20には、各種の学習値や異常診断値(ダイアグデータ)等を記憶するためのバックアップ用メモリとしてのEEPROM47が設けられている。
【0038】
ところで、PMセンサ17では、絶縁基板32上において一対の検出電極36a,36b間を導通させるようにPMが堆積(付着)することで電極間抵抗が低下するが、絶縁基板32に微少量のPMが付着した状態では、一対の検出電極36a,36b間を導通させるまでには至らず、電極間抵抗の低下も生じない。つまり、PMセンサ17(絶縁基板32)にPMが全く付着していない状態からPMが付着し始めることを想定すると、その付着し始めからある程度経過するまでの期間は、PM検出電圧Vpmが0Vのままとなる、いわゆる不感帯となる。
【0039】
本実施形態では、PMセンサ17のPM強制燃焼時に、絶縁基板32に堆積しているPMを全て燃焼除去させるのではなく、一部のPMを絶縁基板32上に堆積させたまま残し、それによりPMセンサ17の検出不感帯を無くすようにしている。つまり、PMの燃焼除去直後にも、一対の検出電極36a,36b間にPMを残存させることで、その残存しているPMの量に応じたPM検出電圧Vpmを取得できるようにし、これによりPM検出電圧Vpmが0VのままとなるPM検出の不感帯を無くすようにしている。
【0040】
図4は、PMセンサ17でのPM堆積とPM強制燃焼(燃焼除去)とが繰り返し実施される場合においてPM検出電圧Vpmの変化を示すタイムチャートであり、(a)は従来技術におけるPM検出電圧Vpmの変化を、(b)は本実施形態におけるPM検出電圧Vpmの変化を示す。なお、図4では、PM検出電圧Vpmが所定値Vth1に到達したら、すなわちPM堆積量が所定量になったら、その時点でヒータ加熱によるPM強制燃焼が実施されることとしている。
【0041】
図4(a)において、PM検出電圧Vpmは、PMセンサ17におけるPM堆積が進むにつれて上昇する。そして、PM検出電圧Vpmが所定値Vth1に到達したタイミングt1でヒータ通電が開始される。このヒータ通電により、PMセンサ17に堆積しているPMが燃焼除去される。これにより、PM検出電圧Vpmが0V(ゼロ点)まで低下し、その後タイミングt2でヒータ通電が終了される。その後、絶縁基板32上にPMが再び堆積し、タイミングt3ではPM検出電圧Vpmが再び上昇し始める。タイミングt2〜t3の期間は、PM堆積が再開されてもPM検出電圧Vpmが上昇しない不感帯となっている。
【0042】
一方、図4(b)では、(a)と同様に、PM検出電圧Vpmが所定値Vth1に到達した時点でヒータ通電が開始され(タイミングt11)、このヒータ通電により、PMセンサ17に堆積しているPMが燃焼除去される。ただし図4(b)では、(a)と異なり、ヒータ通電の開始後においてPM検出電圧Vpmが降下している最中であって、PM検出電圧Vpmが所定値Vth2まで降下した時点で、ヒータ通電が終了されている(タイミングt12)。つまり、PM検出電圧Vpmが0V(ゼロ点)まで低下するよりも前にヒータ通電を終了している。これにより、タイミングt12の後は、若干のPM燃焼が継続された後にPM燃焼が終了し、結果として絶縁基板32上には若干量のPMが残存することとなる。つまり、絶縁基板32上には、一対の検出電極36a,36bの導通を維持するだけのPMが残り、それゆえにPM検出電圧Vpmは0Vまで低下しない。
【0043】
ここで、PMの燃焼除去後におけるPM検出電圧Vpmの最小値はVminであり、これは、PMの燃焼除去後において絶縁基板32に付着しているPMが最少量となった状態でのPM検出電圧Vpmである。言い換えれば、これはPM残存量に相当する電圧値でもある。そしてその後、エンジンの運転に伴い新たにPMが堆積することにより、不感帯が生じることなく直ちにPM検出電圧Vpmが上昇変化することとなる。
【0044】
図5は、PMセンサ17の再生処理を示すフローチャートであり、本処理はマイコン44により所定周期で繰り返し実行される。
【0045】
図5において、ステップS11では、今現在のPM検出電圧Vpmを取得し、続くステップS12では、PM検出電圧Vpmに基づいてPM堆積量を算出する。このPM堆積量は、例えばエンジン11のPM排出量を監視するのに用いられる。本実施形態では、PM強制燃焼により最少量となったPM堆積量を初期PM量として、その状態から付着したPM量をPM堆積量として算出することとしており、PM検出電圧VpmとPM堆積量との関係は図6に示すとおりである。なお、Vminは、PMの燃焼除去後のPM検出電圧Vpmの最小値であり(図4(b)参照)、これはPM量を積算していく上での初期値である。kは、PM検出電圧Vpm[V]をPM堆積量[mg]に変換するための変換係数である。より具体的には、次の(1)式によりPM堆積量を算出する。
PM堆積量=(Vpm−Vmin)×k …(1)
その後、ステップS13では、今現在、PM強制燃焼の実行中であるか否かを判定する。このとき、図4(b)で言えば、タイミングt11〜t12の期間では、ヒータ通電中であるためにステップS13がYESと判定され、タイミングt12〜t13の期間では、ヒータ非通電中であるためにステップS13がNOと判定される。そして、PM強制燃焼の実行中でなければステップS14に進み、実行中であればステップS18に進む。
【0046】
ステップS14に進んだ場合、今現在のPM検出電圧Vpmが、PM強制燃焼開始の判定しきい値である第1判定値Vth1以上であるか否かを判定する。そして、Vpm≧Vth1であれば、ステップS15に進み、PM強制燃焼を開始する(ヒータ通電を開始する)。
【0047】
また、Vpm<Vth1であれば、ステップS16に進み、前回実施したPM強制燃焼の後にPM検出電圧Vpmの最小値Vminが算出されたか否かを判定する。そして、最小値Vminが算出されていなければ、ステップS17に進み、最小値Vminを算出する。このステップS17では、ヒータ通電の終了後において、所定時間ごとに読み込んだPM検出電圧Vpmについて前回値と今回値とを比較することでPM検出電圧Vpmの最小値Vminを検索し、最小値Vminが見つかった時点でEEPROM47に記憶する。
【0048】
一方、PM強制燃焼中においてステップS18に進んだ場合、今現在のPM検出電圧Vpmが、PM強制燃焼終了の判定しきい値である第2判定値Vth2以下になったか否かを判定する。なお、0<Vth2<Vth1である。そして、Vpm>Vth2であれば、そのまま本処理を一旦終了し、Vpm≦Vth2であれば、ステップS18に進んでPM強制燃焼を終了する(ヒータ通電を終了する)。
【0049】
なお、図5では、Vpm≧Vth1であることをPM強制燃焼の開始条件(ヒータ通電の開始条件)としているが、これを変更してもよい。例えば、エンジン始動時であること、エンジン運転終了時であること、前回のPM強制燃焼からのエンジン運転時間や車両走行距離が所定値になったことの少なくともいずれかをPM強制燃焼の開始条件(ヒータ通電の開始条件)とすることも可能である。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0051】
PMセンサ17のPM強制燃焼処理(センサ再生処理)の実施に際し、PMの燃焼除去後に絶縁基板32に一部のPMが残存するようにヒータ通電制御を実施するようにしたため、PMの燃焼除去直後も、一対の検出電極36a,36b間にPMが残存し、PM強制燃焼処理の実施直後における不感帯を無くすことができる。この場合、PM強制燃焼処理の実施直後にあっても、PMセンサ出力に基づいてエンジン11のPM排出量を監視したりすることができる。その結果、PMセンサ17における検出不感帯を無くし、ひいてはセンサ出力の利用範囲の拡張を図ることができる。
【0052】
なお、PM強制燃焼処理の実施に際しては、PMの燃焼除去分が想定よりも多くなってしまい、一対の検出電極36a,36b間においてPMが途切れることも考えられる。ただし、絶縁基板32上にPMが残存しているためにいち早く一対の検出電極36a,36b間が導通され、不感帯を短縮することができる。したがって、やはりPMセンサ出力の利用範囲の拡張を図ることができる。
【0053】
ヒータ通電制御として、PMの燃焼除去によりPM検出電圧Vpmが降下する途中でヒータ通電を終了させる構成とした。これにより、ヒータ通電開始後においてPM検出電圧Vpmが0V(ゼロ点)に復帰する以前にPM強制燃焼を停止させることができ、結果としてPMセンサ17に一部のPMを残存させることが可能となる。
【0054】
PMの燃焼除去後において絶縁基板32に付着しているPMが最少量となった状態でのPM検出電圧Vpmを最小値Vminとして取得し、その最小値Vminと都度のPM検出電圧Vpmとに基づいてPM堆積量を算出する構成とした。これにより、燃焼除去後におけるPMの残存量(すなわちPM最少量)がPM燃焼除去の都度相違していても、その後におけるPM堆積量を正しく求めることができる。
【0055】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0056】
・上記のようにPMの一部を残存させる場合、その残存量(PM最少量)があらかじめ想定した量にはならないことがあると考えられる。そこで、PMの燃焼除去後においてPMが最少量となった状態でのPM検出電圧Vpm(図4(b)の最小値Vmin)を取得し、そのPM検出電圧Vpmに基づいて、次回以降のPM強制燃焼の実施条件(ヒータ加熱条件)を可変に設定する構成としてもよい。
【0057】
図7は、PM強制燃焼の実施条件を可変設定するための条件設定処理を示すフローチャートであり、本処理はマイコン44により所定周期で繰り返し実行される。図7において、ステップS21では、前回のPMの燃焼除去後に取得したPM検出電圧Vpmの最小値Vminが、あらかじめ定めた基準範囲の上限値Vhi以上であるか否かを判定する。基準範囲は、最小値Vminとして望ましい電圧値を、上限値=Vhi、下限値=Vlowとして規定したものであり、0V付近であってかつ正の電圧域に定められている。基準範囲の上限値及び下限値が基準出力値に相当する。
【0058】
そして、Vmin≧Vhiであれば、ステップS22に進み、PM強制燃焼中のPM除去量を増やすべく、ヒータ通電終了のタイミングを遅らせる。具体的には、PM強制燃焼終了の判定しきい値である第2判定値Vth2を小さくする。
【0059】
また、ステップS23では、前回のPMの燃焼除去後に取得したPM検出電圧Vpmの最小値Vminが基準範囲の下限値Vlow以下であるか否かを判定する。そして、Vmin≦Vlowであれば、ステップS24に進み、PM強制燃焼中のPM除去量を減らすべく、ヒータ通電終了のタイミングを早める。具体的には、PM強制燃焼終了の判定しきい値である第2判定値Vth2を大きくする。
【0060】
以上により、燃焼除去後のPMの残存量を所望量又はそれに近い量に調整することができる。したがって、PM強制燃焼後におけるPM残存量が多すぎることで、PM再生処理の実施間隔が過剰に短くなってしまうとの不都合を回避できる。また、PM強制燃焼後において、PMが確実に残存している状態とすることができる。
【0061】
また、PM強制燃焼の実施条件を可変設定する手段として、ヒータ発熱量を調整することも可能である。ヒータ発熱量は、例えばヒータ駆動のデューティ指令値を制御することで調整可能である。かかる場合、Vmin≧Vhiであれば、PM強制燃焼中のPM除去量を増やすべく、ヒータ発熱量を増加させる。また、Vmin≦Vlowであれば、PM強制燃焼中のPM除去量を減らすべく、ヒータ発熱量を減少させる。
【0062】
・PMの燃焼除去後におけるPMセンサ17の基準出力値を「0V」としておき、PM検出電圧Vpmの最小値Vminと基準出力値(0V)との比較に基づいてヒータ加熱条件を設定することも可能である。具体的には、PM強制燃焼の終了後において、PM検出電圧Vpmが0Vであるか否かを判定し、Vpm=0であれば、PMの燃焼除去量を減らすべく(すなわち、PM残留量を増やすべく)、加熱の熱量を減らしたり加熱終了のタイミングを早めたりする。また、Vpm≠0(Vpm>0)であれば、ヒータ加熱条件をそのまま維持するか、又は、PMの燃焼除去量を増やすべく(すなわち、PM残留量を減らすべく)、加熱の熱量を増やしたり加熱終了のタイミングを遅らせたりする。
【0063】
・上記実施形態では、PM強制燃焼の開始後において、PM検出電圧Vpmが第2判定値Vth2(0<Vth2<Vth1)まで低下した時点でPM強制燃焼を終了する構成としたが(図4(b)参照)、これを変更し、PM強制燃焼の開始後において、PM検出電圧Vpmが降下し始めた時点でPM強制燃焼を終了する構成としてもよい。その他、ヒータ通電の終了後において余熱によるPMの燃焼速度が早い場合(すなわち、余熱によるPM燃焼量が多い場合)を想定して、PM強制燃焼の開始後において、PM検出電圧Vpmが降下し始める前にPM強制燃焼を終了することも可能である。
【0064】
・絶縁基板32に付着している全てのPMを燃焼除去させる第1燃焼処理と、絶縁基板32に付着している一部のPMを未燃焼とする第2燃焼処理とのいずれかを選択的に実施することも可能である。具体的には、マイコン44は、PM強制燃焼を実施した回数をカウンタ等で算出し、その実施回数が所定値になるまでは第2燃焼処理を実施し、実施回数が所定値になったら1回のみ第1燃焼処理を実施する。例えば、PM燃焼処理の5回に1回の割合で第1燃焼処理を実施する。ここで、PM強制燃焼終了の判定しきい値である第2判定値Vth2について、第1燃焼処理を実施する場合には、Vth2=0Vとし、第2燃焼処理を実施する場合には、Vth2>0Vとする。
【0065】
要するに、一部のPMを残存させる燃焼処理だけを繰り返し実施する場合には、絶縁基板32上において常に同じ部位のPMだけが残存し、結果としてPMが固着することが懸念される。例えば、ヒータ加熱時には絶縁基板32の各部で温度差(温度分布)が生じ、それゆえにPMが残存しがちな部位があると考えられる。これに対し、PMの全除去(第1燃焼処理)と、PMの一部除去(第2燃焼処理)とを選択的に実施することで、絶縁基板32上におけるPMの固着を抑制できる。
【0066】
また、同じ条件で繰り返し第2燃焼処理を実施した場合において、PM検出電圧Vpmの最小値Vminが大きくなる傾向にあれば、PMが燃焼除去されにくい状態であるとして、第1燃焼処理を実施する構成とすることも可能である。
【0067】
車両において、イグニッションスイッチのオン後に1回のみ第1燃焼処理を実施し、それ以降は第2燃焼処理を実施する構成としてもよい。
【0068】
・上記実施形態では、PM強制燃焼のための加熱手段として、PMセンサ17の絶縁基板33にヒータ部35を設ける構成としたが、これを変更し、排気管内のガス温度をPM燃焼可能温度(例えば650℃)まで上昇させる構成でもよい。例えば、エンジンから排出されるガス温度を上昇させる手法や、排気管にヒータ等の加熱手段を設けて排気管内の温度を上昇させる手法が考えられる。
【0069】
・エンジン排気管にPMを捕集するためのPMフィルタを設け、その下流側又は上流側の少なくともいずれかにPMセンサを設けた構成において、PMセンサの検出値に基づいてPMフィルタの再生タイミングを制御する構成としてもよい。また、PMセンサの検出値に基づいてPMフィルタの故障診断を実施する構成としてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、直噴式ガソリンエンジンについての適用を例示したが、他の形式のエンジンにも適用できる。例えば、ディーゼルエンジン(特に、直噴式ディーゼルエンジン)に適用することとし、ディーゼルエンジンの排気管に設けられたPMセンサについて本発明を用いることも可能である。また、エンジンの排気以外のガスを対象としてPM量を検出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
11…エンジン、17…PMセンサ(粒子状物質検出センサ)、20…ECU、32…絶縁基板(被付着部)、34…PM検出部、35…ヒータ部(加熱手段)、36a,36b…検出電極(対向電極)、44…マイコン(加熱制御手段、条件設定手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中に含まれる導電性の粒子状物質を付着させる被付着部と、前記被付着部に互いに離間して設けられる一対の対向電極とを有し、前記一対の対向電極間の抵抗値に応じた検出信号を出力する粒子状物質検出センサに適用され、該粒子状物質検出センサによるセンサ検出値に基づいて前記粒子状物質の付着量を算出するセンサ制御装置において、
前記被付着部に付着した粒子状物質を燃焼除去させるべく前記被付着部を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段による前記被付着部の加熱に際し、その加熱による粒子状物質の燃焼除去後に前記被付着部に一部の粒子状物質が残存するように前記加熱手段の加熱を制御する加熱制御手段と、
を備えることを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項2】
前記加熱制御手段は、前記加熱手段の加熱開始後において前記センサ検出値が粒子状物質の量=0に相当するゼロ点値に復帰する以前に、前記加熱手段による加熱を停止させる請求項1に記載のセンサ制御装置。
【請求項3】
前記粒子状物質の燃焼除去後において前記被付着部に付着している粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値を取得し、該取得したセンサ検出値に基づいて、次回以降の前記加熱制御手段による加熱条件を設定する条件設定手段を備える請求項1又は2に記載のセンサ制御装置。
【請求項4】
前記条件設定手段は、前記粒子状物質の燃焼除去後における前記粒子状物質検出センサの基準出力値を定めておき、前記粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値と前記基準出力値との比較に基づいて前記加熱条件を設定する請求項3に記載のセンサ制御装置。
【請求項5】
前記粒子状物質の燃焼除去後において前記被付着部に付着している粒子状物質が最少量となった状態でのセンサ検出値を取得し、該取得したセンサ検出値を初期値として、その初期値と都度のセンサ検出値とに基づいて前記粒子状物質の付着量を算出する手段を備える請求項1乃至4のいずれか一項に記載のセンサ制御装置。
【請求項6】
前記加熱制御手段は、前記被付着部に付着している全ての粒子状物質を燃焼除去させる第1燃焼処理と、前記被付着部に付着している一部の粒子状物質を未燃焼とする第2燃焼処理とのいずれかを選択的に実施する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のセンサ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37369(P2012−37369A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177509(P2010−177509)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】