説明

セントロメア局在タンパク質

【課題】セントロメアに局在し、染色体の分裂、すなわち細胞分裂を制御しており、制がん剤のターゲット等として有用な新規タンパク質、その抗体及びそのタンパク質をコードする遺伝子を欠損させた細胞を提供する。
【解決手段】特定の配列で示されたアミノ酸配列からなるか、あるいは当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−Tに結合性を有するタンパク質からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セントロメアに局在し、細胞分裂に関与している新規なタンパク質、その用途、その抗体及びそのタンパク質をコードする遺伝子欠損細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
生物が生命を維持するためには、全ゲノム情報を包括する構造体である染色体は安定に保持・増殖されなければならない。正常な細胞では、ほぼ決まった時間周期で染色体の複製と分配が正確に行われる。染色体の複製・分配といった基本的な生体反応に狂いが生じると染色体の異数化、がん化など細胞に対する悪影響が生じる。したがって、染色体分配機構の解明は、がん化の制御につながると考えられる。
【0003】
細胞分裂時に両極から伸びた紡錘体が染色体の特殊構造を捕らえて、両極へ染色体を引っぱり、娘細胞へ分配することで染色体分配はおこる。その際、紡錘体が捕らえる染色体の特殊構造はセントロメア(動原体)と呼ばれている。従って、セントロメアは染色体分配に重要な働きを担っている。また、がん細胞のように過剰な分裂を行う細胞では、セントロメアを構成するあるタンパク質が過剰に発現していることが報告されている(非特許文献1)。我々は、がん細胞の増殖制御を目指してセントロメアを構成するタンパク質についての研究を行っており、特にCENP−HおよびCENP−Iと呼ばれるタンパク質に注目している。CENP−HおよびCENP−Iは染色体分配に関わるセントロメア構成タンパク質であり、CENP−HとCENP−Iが結合していることは報告されている(非特許文献2)。ただし、CENP−HやCENP−Iは、染色体分配において未同定のタンパク質と作用して巨大複合体として機能すると予想された(非特許文献3)。そこで、CENP−HおよびCENP−Iと結合するタンパク質を精製して複合体に含まれるタンパク質を解析した結果、新しくCENP−K,−L,−M,−N,−O,−P,−Q,−R,−S,−T,−Uと命名したセントロメアタンパク質群が同定された(特許文献1、非特許文献4、非特許文献5)。
【特許文献1】特願2006−280255号公報
【非特許文献1】Tomonaga et al., Cancer Res., 63, 3511-3516, 2003
【非特許文献2】Nishihashi et al., Dev. Cell, 2, 463-476, 2002
【非特許文献3】Fukagawa Exp. Cell Res., 296, 21-27, 2004
【非特許文献4】Okada et al., Nature Cell Biol., 8, 446-457, 2006
【非特許文献5】Folts et al., Nature Cell Biol., 8, 458-469, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、セントロメアに局在し、染色体の分裂、すなわち細胞分裂を制御しており、制がん剤のターゲット等として有用な新規タンパク質、その抗体及びそのタンパク質をコードする遺伝子を欠損させた細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、従来のセントロメアタンパク質以外にも、セントロメアに存在し、細胞分裂の制御に関与しているタンパク質があるのではないかとの予測の下に、さらに新たなタンパク質の探索を試みた。その結果、細胞分裂に必須であるCENP−S及びCENP−Tとそれぞれ結合する新たなタンパク質を見出し、当該タンパク質が細胞周期を通じてセントロメアへ局在していることを見出した。また、当該タンパク質のノックアウト細胞を作製したところ、これらのタンパク質が細胞分裂に際し関与していることを見出し、さらにこのタンパク質に対する抗体も見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるか、あるいは当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−Tに結合性を有するタンパク質CENP−T−IP1を提供するものである。
また、本発明は、配列番号2に示されたアミノ酸配列からなるか、あるいは当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−Sに結合性を有するタンパク質CENP−S−IP1を提供するものである。
また本発明は、上記タンパク質CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1を有効成分とする細胞分裂制御剤を提供するものである。
また本発明は、上記タンパク質CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1に対する抗体を提供するものである。
また本発明は、上記タンパク質CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1をコードする遺伝子の機能を欠損させた細胞を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のCENP−T−IP1及びCENP−S−IP1はそれぞれCENP−T及びCENP−Sと結合し、細胞分裂に深く関与している。従って、これらのタンパク質は、細胞分裂を増強させる作用を有する。一方、セントロメアタンパク質はがん細胞で発現が強く亢進することが知られており、これらのタンパク質に対する抗体は抗がん剤として有用である。また本発明のタンパク質をコードする遺伝子の機能を欠損した細胞は、染色体分裂の機能解明およびがん創薬に有用なモデル細胞である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明タンパク質は、配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−T及びCENP−Sに結合性を有するタンパク質である。ここで、上記1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列と配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列との相同性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、さらに好ましくは98%以上である。
【0009】
配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列は、ニワトリ由来のタンパク質である。しかし、前記の如く1又は数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつCENP−T及びCENP−Sに結合性を有する限り、ヒトを含む哺乳類由来のタンパク質も本発明に含まれることはいうまでもない。
【0010】
セントロメアに局在するタンパク質の同定は、生化学的手法や遺伝学的手法を用いることで数多く試みられている。しかしながら、存在量の少なさや抽出技術の困難さから、新しくセントロメアタンパク質を同定したという成功例は数少ない。また、既存のセントロメアタンパク質にタグをつけたタンパク質を細胞内で大量発現させて、結合タンパク質を同定する試みが最近さかんに行われている。しかしながら、大量発現することで、そのタンパク質がセントロメア以外の場所に局在し、セントロメアに局在するセントロメアタンパク質同定がうまくいかないなど技術的な問題点が数多くあった。
【0011】
本発明のタンパク質は、例えばニワトリDT40細胞を用いて、以下の如くして分離できる。すなわち、ニワトリDT40細胞内では、相同組み換えが高頻度でおこるために遺伝子改変を効率的に行うことができる。セントロメアタンパク質CENP−T又はCENP−Sの発現を100%タグ付きの融合タンパク質に置き換えた細胞株を樹立した。この細胞株では、タグ付きのCENP−TやCENP−Sがセントロメア以外に局在してしまうという前記問題点が克服できていた。そこでこれらの細胞株を用いてクロマチン画分を調製し、抗タグ抗体を用いた免疫沈降法によりCENP−T及びCENP−Sと結合するタンパク質を同定した。得られたペプチド配列をもとにcDNAクローニングすることにより、本発明の配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列からなる2種類のタンパク質が得られる。
【0012】
得られた本発明タンパク質は、これをGFP融合タンパク質等の標識タンパク質として細胞内で発現させれば、細胞周期を通じてセントロメアへ局在することが確認できる。
【0013】
かくして得られた本発明のタンパク質は、アミノ酸配列及び塩基配列が判明したので、前記手段に限定されず、ペプチド合成等により製造することもでき、通常の遺伝子組み換え手段により製造できることは言うまでもない。
【0014】
本発明タンパク質は、CENP−T及びCENP−Sに結合し、かつセントロメアへ局在する。従って、染色体の分配に必須のタンパク質である。本発明タンパク質が過剰に発現する細胞は、がん化している可能性が高く、本発明タンパク質を検出すればがんの診断が可能である。また、本発明タンパク質又の過剰発現を指標にして、制がん剤の開発が可能である。すなわち、本発明タンパク質又はその遺伝子の過剰発現を抑制する薬剤を探索すれば制がん剤がスクリーニングできる。また、本発明のタンパク質に細胞分裂制御剤としても使用できる。
【0015】
本発明のタンパク質に対する抗体としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれる。具体的には、マウス抗体、ラット抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト型化抗体などの公知の抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0016】
本発明の抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明の抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、及び遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。
【0017】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、本発明タンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法に従って免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0018】
本発明の抗体は、CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1に特異的に結合するので、CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1の免疫学的検出法に使用することができる。当該免疫学的検出手段としては、例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウエスタンブロット、免疫染色、免疫核酸法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme-ilnded immunosorbent assay:ELISA)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0019】
また、本発明の抗体はCENP−T−IP1又はCENP−S−IP1を特異的に結合するので、これらのタンパク質の作用を中和し、細胞分裂抑制剤として有用である。当該細胞分裂抑制剤は、抗がん薬として使用できる。
【0020】
本発明のノックアウト細胞は、CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1の遺伝子の機能を欠損させたものである。本発明において、CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1をコードする遺伝子の機能を欠損させたとは、該遺伝子の遺伝子産物であるCENP−T−IP1又はCENP−S−IP1が正常に産生されないようにしたことをいい、CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1自体が産生しない場合、及び一部を欠損するなどして機能を発現し得ないタンパク質を産生する場合が含まれる。
【0021】
本発明のノックアウト細胞は、例えばCENP−T−IP1又はCENP−S−IP1の遺伝子領域の一部又は全部を相同組み換え方法によって、染色体上の当該遺伝子を破壊することにより行なわれる。相同組み換えは、他の遺伝子、例えば薬剤耐性遺伝子との間に相同組み換えを行うことにより、CENP−T−IP1又はCENP−S−IP1の遺伝子の領域を細胞から欠失させることにより行うのが好ましい。
【0022】
本発明のノックアウト細胞の樹立は、具体的には次の如くして行われる。CENP−T−IP1を例にして説明する。
宿主としては例えば、ニワトリのB細胞由来のDT40細胞を用いることができる。DT40細胞は2倍体であるため、CENP−T−IP1が2ローカス存在する。そこで、2つのノックアウトコンストラクトを作成して順次遺伝子破壊を行う。はじめに、薬剤耐性遺伝子、例えばヒスティディノール耐性遺伝子(hisD遺伝子)を含むノックアウトコンストラクトを導入する。このノックアウトコンストラクトがCENP−T−IP1の遺伝子領域と相同組み換えを起こすと、CENP−T−IP1のエキソン1からエキソン2がhisD遺伝子と置き換わり、CENP−T−IP1の一つの遺伝子領域が破壊される。1遺伝子座が破壊された細胞へもう一つの薬剤耐性遺伝子、例えばピユーロマイシン耐性遺伝子を含む2つ目のノックアウトコンストラクトを導入して2遺伝子座も完全に破壊する。ノックアウト株の全ゲノムDNAを抽出して制限酵素で消化してゲル電気泳動後、DNAをフィルターに転写する。検出プローブをラベルしたのちフィルターとハイブリダイズして、遺伝子置換を起こしている細胞を選択する。
【0023】
かくして得られるノックアウト細胞は、異常な細胞分裂像を示す。従って、CENP−T−IP1及びCENP−S−IP1はいずれも細胞分裂に必須であることが判明した。従って、本発明のノックアウト細胞は、がん治療薬のスクリーニングモデル細胞として、また細胞分裂の機構解明に有用である。
【実施例】
【0024】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
実施例1
(タンパク質の同定)
CENP−S遺伝子CENP−T遺伝子のゲノム領域を薬剤耐性遺伝子と置換したニワトリDT40細胞株(CENP−SおよびCENP−Tノックアウト株)へFLAGタグ融合CENP−SあるいはCENP−Tタンパク質発現遺伝子を導入した。これらの細胞株では、細胞内のCENP−SあるいはCENP−Tタンパク質の全てがFLAGタグ融合タンパク質に置き換わっている。
【0026】
これらの細胞を大量培養して1×109個の細胞を集めた。これらの細胞を5mlの溶解緩衝液(50mM Na phosphate [pH8.0], 0.3M NaCl, 0.1% NP-40, 5 mM β-mercaptoethanol, complete protease inhibitor [Roche], 20 units/ml DNase I [TAKARA])中でよく溶かし、超音波破砕後20,000×g,4℃の条件で10分間、遠心分離を行い、上清を得た。その上清に抗FLAG抗体を固定化したレジン(Anti-FLAG M2-beads [SIGMA])を添加して4℃で2時間撹拌した。その後レジンを遠心分離によって回収し、溶解緩衝液を用いて洗浄した。さらに、溶解緩衝液に3xFLAG ペプチド(SIGMA)を添加してタンパク質の溶出を行った。溶出されたタンパク質に終濃度20%(W/V)トリクロロ酢酸を添加し、4℃で2時間静置し、遠心分離によって蛋白質を回収した。回収された蛋白質をSDS−PAGEによって分離した後、銀染色で検出した。その際、CENP−S−FLAGおよびCENP−T−FLAGを発現させていない細胞からも上記と同様の実験を行い、コントロールとした。
【0027】
その結果を図1に示す。コントロールになく、FLAG特異的に検出されるバンド(図1中の*)を切り出して質量分析処理を行うことで各タンパク質の部分アミノ酸配列を決定した。CENP−S−FLAG発現細胞より1種類(CENP−S−IP1と命名:配列番号2)およびCENP−T−FLAG発現細胞より1種類(CENP−T−IP1と命名:配列番号1)のタンパク質が同定された。それぞれのタンパク質情報をNCBIのタンパク質データベースで検索したところ、いずれも機能未同定のタンパク質として登録されてはいるが、セントロメアへ局在するという報告は全くない。
【0028】
そこで、得られた部分アミノ酸配列をもとにプローブを調製し、ニワトリ胚由来のcDNAライブラリーを用いて完全長のcDNAをクローニングした。
【0029】
このcDNAをもとに、GFP融合タンパク質としてそれぞれのタンパク質を発現させ、細胞内局在を蛍光顕微鏡にて観察した(図2及び3)。いずれのタンパク質も細胞周期を通じてセントロメアへ局在することが知られているCENP−Cとの共局在が観察され、新規のセントロメア局在タンパク質であることが証明された。
【0030】
実施例2
(CENP−T−IP1のノックアウト細胞の作成)
ニワトリのB細胞由来のDT40細胞を宿主に用いた。遺伝子破壊はCENP−T−IP1の遺伝子領域の一部を相同組み換え法によって、薬剤耐性遺伝子と置換して遺伝子領域の一部を細胞から欠失させることで行った。
【0031】
CENP−T−IP1は、細胞増殖に必須である遺伝子のために、この遺伝子を破壊すると細胞が死滅して、細胞を得ることができない。DT40細胞は2倍体であるため、CENP−T−IP1は2アリル存在する。そこで、はじめに1アリルのCENP−T−IP1遺伝子座(図4,1stアリル)のCENP−T−IP1エキソン1からエキソン2をヒスティディノール耐性遺伝子(hisD遺伝子)と置き換えることにより破壊した。2遺伝子座の遺伝子破壊に先立ち、テトラサイクリンに応答するプロモーターの下流にCENP−T−IP1のcDNAをつないだプラスミドをDT40細胞内に導入してテトラサイクリン非存在下では、本プロモーターからCENP−T−IP1が安定に発現する細胞を構築した。すなわち、この細胞では、CENP−T−IP1は、まだ遺伝子破壊されていない1遺伝子座のCENP−T−IP1遺伝子領域からとテトラサイクリンに応答するプロモーターの2カ所から発現している。この細胞へピユーロマイシン耐性遺伝子(Puror遺伝子)を含むノックアウトコンストラクトを導入した。このピユーロマイシン耐性遺伝子を含むノックアウトコンストラクトがCENP−T−IP1の2アリル目の遺伝子領域(図4、2ndアリル)と相同組み換えを起こすと、CENP−T−IP1のエキソン1からエキソン2がピユーロマイシン耐性遺伝子と置き換わり、CENP−T−IP1のすべての遺伝子領域が破壊される。作成したノックアウト細胞の全ゲノムDNAを抽出して制限酵素SpeI+XhoIで消化してゲル電気泳動後、DNAをフィルターに転写した。フィルターを図4で示すprobeを放射能ラベルしたのちハイブリダイズして、遺伝子置換を起こしている細胞を選択した。DNA置換が起きていないと約8kbにバンドがでる(図5のwild-type)が、1遺伝子座のCENP−T−IP1の遺伝子領域が破壊されると、8kbに加えて6kb(図5の1st)のバンドをしめす。また、1遺伝子座にcDNAを導入した細胞でも同様のパターンを示す(図5の1st+cDNA)。2遺伝子座とも破壊されている細胞では、8kbのバンドはでずに、6kbのバンドを示す(図5の2nd+cDNA)。これが目的のノックアウトクローンの遺伝子座のパターンである。この細胞を#2−1と呼んでいる。
【0032】
得られたCENP−T−IP1のコンディショナルノックアウト細胞は、テトラサイクリンに応答するプロモーターからのみCENP−T−IP1を発現している。この細胞へテトラサイクリンを終濃度で2マイクログラム/ml加えることで、このプロモーター活性が失われ、CENP−T−IP1の遺伝子発現が抑制されることが期待される。そこで、テトラサイクリンの添加後の細胞分裂を観察したところ、異常な細胞分裂像(図6)が多く観察された。また、このノックアウト細胞では、細胞分裂に必須なCENP−Hの局在性が著しく失われることも明らかになった(図7)。以上のことから、CENP−T−IP1は、細胞分裂に必須なセントロメアタンパク質であることが証明された。
【0033】
実施例3
(CENP−S−IP1のノックアウト細胞の作成)
ニワトリのB細胞由来のDT40細胞を宿主に用いた。遺伝子破壊はCENP−S−IP1の遺伝子領域の一部を相同組み換え法によって、薬剤耐性遺伝子と置換して遺伝子領域の一部を細胞から欠失させることで行った。
【0034】
DT40細胞は2倍体細胞のため、CENP−S−IP1は2アリル存在する。そこで、はじめに1アリル目のCENP−S−IP1遺伝子座 (図8,1stアリル)のCENP−S−IP1エキソン1からエキソン5をヒスティディノール耐性遺伝子(hisD遺伝子)と置き換えることにより破壊した。さらに、ピユーロマイシン耐性遺伝子(Puror遺伝子)を含むノックアウトコンストラクトを導入し2アリル目の遺伝子破壊を試みた。CENP−S−IP1は生存には、必須でなかったため、CENP−S−IP1のすべての遺伝子領域が破壊されたノックアウト細胞を得ることができた。作成したノックアウト細胞の全ゲノムDNAを抽出して制限酵素EcoRIで消化してゲル電気泳動後、DNAをフィルターに転写した。フィルターを図8で示すprobeを放射能ラベルしたのちハイブリダイズして、遺伝子置換を起こしている細胞を選択した。DNA置換が起きていないと約9.4kbにバンドがでる(図9のwild-type)が、1遺伝子座のCENP−S−IP1の遺伝子領域が破壊されると、9.4kbに加えて5.0kb(図9の1st)のバンドを示す。2遺伝子座とも破壊されている細胞では、9.4kbのバンドはでずに、5.0kbのみのバンドを示す(図9の2nd)。これが目的のノックアウトクローンの遺伝子座のパターンである。この細胞をD9−22−30と呼んでいる。
【0035】
得られたCENP−S−IP1のノックアウト細胞は、細胞生育が可能であるが、セントロメア構成タンパク質であるCENP−Sの局在が失われていた(図10)。このことから、CENP−S−IP1がセントロメアで何らかの機能を担っていることが示唆される。
【0036】
実施例4
(抗CENP−T−IP1抗体および抗CENP−S−IP1抗体の評価)
大腸菌内でCENP−T−IP1およびCENP−S−IP1タンパク質を発現させ、精製したものを抗原とした。常法に従い、ウサギに抗原を注射してポリクローナル抗体を作成した。この抗体は、野生型細胞では、CENP−T−IP1およびCENP−S−IP1をそれぞれ特異的に認識するが、それぞれのノックアウト細胞では、その特異性が失われる(図10)。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】CENP−T−IP1及びCENP−S−IP1の銀染色像を示す図である。
【図2】CENP−T−IP1−GFPの細胞内局在を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図3】CENP−S−IP1−GFPの細胞内局在を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図4】CENP−T−IP1のノックアウト細胞作成のターゲティングを示す図である。
【図5】CENP−T−IP1ノックアウト細胞における遺伝子の発現を示す図である。
【図6】CENP−T−IP1ノックアウト細胞の細胞分裂像を示す図である。
【図7】CENP−T−IP1ノックアウト細胞の細胞分裂像を示す図である。
【図8】CENP−S−IP1ノックアウト細胞作成のターゲティングを示す図である。
【図9】CENP−S−IP1ノックアウト細胞における遺伝子の発現を示す図である。
【図10】CENP−S−IP1ノックアウト細胞の細胞分裂像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるか、あるいは当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−Tに結合性を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号2に示されたアミノ酸配列からなるか、あるいは当該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−Sに結合性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2記載のタンパク質を有効成分とする細胞分裂制御剤。
【請求項4】
請求項1又は2記載のタンパク質に対する抗体。
【請求項5】
請求項1又は2記載のタンパク質をコードする遺伝子の機能を欠損させた細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−196923(P2009−196923A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39526(P2008−39526)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】