ゼオライト、吸着材、該吸着材を用いた吸着ヒートポンプおよび吸着ヒートポンプの運転方法
【課題】低い相対蒸気圧域で吸着質を吸脱着することができ、低温側が比較的高い温度で、高温側が比較的低く、それらの温度差が小さい条件でも十分に吸着ヒートポンプを運転させることができる吸着材と、この吸着材を使用した効率の良い吸着ヒートポンプを提供する。
【解決手段】骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型ゼオライトであり、M/Feモル比が、0.25<M/Fe<1.0であるゼオライト。このゼオライトを用いた吸着材、この吸着材を用いた吸着ヒートポンプ。骨格構造にアルミニウムとリンと鉄に加えて、所定の割合でスズおよび/またはチタンを有するAFI型ゼオライトは、アルミニウムとリンと鉄のみからなるゼオライトの性能が向上されたものであり、スズおよび/またはチタンは、他の多くの金属と比べてもその性能変化が大きい。
【解決手段】骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型ゼオライトであり、M/Feモル比が、0.25<M/Fe<1.0であるゼオライト。このゼオライトを用いた吸着材、この吸着材を用いた吸着ヒートポンプ。骨格構造にアルミニウムとリンと鉄に加えて、所定の割合でスズおよび/またはチタンを有するAFI型ゼオライトは、アルミニウムとリンと鉄のみからなるゼオライトの性能が向上されたものであり、スズおよび/またはチタンは、他の多くの金属と比べてもその性能変化が大きい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なゼオライトおよびこのゼオライトを用いた吸着材と、該吸着材を用いた吸着ヒートポンプ、および該吸着ヒートポンプの運転方法に関するものであり、詳しくは、温暖化による外気温の上昇に伴い、夏場の高温下においても低温の冷水を製造することができ、かつ繰り返し使用条件においても優れた性能安定性、耐久性を示す新規なゼオライト系の吸着材、ならびに、当該吸着材を使用した吸着ヒートポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライトについては、分子ふるい、イオン交換材料、触媒、吸着材料等として、様々な性質を持つゼオライトが合成されており、工業的にも重要な物質となっている。また、その用途についても、それぞれの性質を利用して、触媒、触媒担体、廃水処理、排ガス処理、鮮度保持(エチレン吸着)、洗剤(ビルダー・クレンザー)、制菌、乾燥剤、脱臭剤、土壌改良剤等の用途が知られており、さらに他の用途への応用も検討されている。
【0003】
一方、近年、コージェネレーションシステムにおいては、冬場の電力・熱需要に対する夏場の電力需要の偏りに対応するため、吸着材の蓄熱機能を利用し、内燃機関などから排出される低温の排熱を有効活用することが検討されている。コージェネレーションシステムを含む環境共生型熱エネルギー利用システムにおいて、吸着ヒートポンプは、補助動力を用いることなく、低質熱エネルギーを熱源として作動させ得る最も優れた排熱回収手段の一つであり、その本格導入が期待されている。
【0004】
吸着ヒートポンプは、吸着材の吸着・脱着現象に付随して起こる相変化を利用して熱の汲み上げを行うシステムであり、吸着材によって水などの吸着質を吸着・脱着する吸着器と、吸着器における吸着操作に伴って吸着質の蒸発により冷熱を生成する蒸発器と、吸着器で脱着された吸着質の蒸気を凝縮させて蒸発器に供給する凝縮器とから主に構成される。吸着ヒートポンプの作動過程においては、吸着材を加熱再生する際、エンジン等の排熱を回収する場合もある。
【0005】
このような吸着ヒートポンプに利用可能な熱源の温度は、排熱発生側のシステムによって大きく異なる。例えば、高温側の熱源として利用されるガスエンジンコージェネレーションや固体高分子型燃料電池の排熱温度は60℃〜80℃であり、自動車エンジンの冷却水の温度は85℃〜90℃である。一方、冷却側の熱源温度も装置の設置場所によって異なる。例えば、自動車の場合はラジエーターで得られる温度であり、ビルや住宅などでは水冷塔や河川水などの温度である。従って、吸着ヒートポンプの操作温度範囲は、一般に、ビルなどに設置する場合には低温側が25〜40℃、高温側が60〜80℃、自動車などに設置する場合には低温側が30〜40℃、高温側が85〜90℃程度である。
吸着ヒートポンプによりこれらの排熱を効率的に利用するためには、低温側熱源の温度と、高温側熱源の温度差が小さい場合でも、駆動できることが望まれている。
【0006】
吸着ヒートポンプをコージェネレーションシステム等に適用する場合、特に、吸着材の吸着特性が重要な要素である。
【0007】
すなわち、上記の様な排熱を効率的に利用するための吸着材の特性としては、吸着材の周囲の低温側熱源と高温側熱源の温度差が小さく、例えば低温側の熱源の冷却能力が比較的弱く、比較的高い温度になる空冷式による場合でも、装置を充分に作動させるために、低い相対蒸気圧で吸着質を吸着する必要があり、また、装置を小型化するため、吸着材の吸脱着量が十分に大きい必要がある。そして、吸着材の再生に低温熱源を利用するため、脱着温度が低い必要がある。
【0008】
このような要求特性に対して、一般的な吸着材、例えば、Y型ゼオライトは、吸着物質を脱着させるべく相対蒸気圧を0とするために、150〜200℃あるいはそれ以上の高温にする必要があり、低温排熱には適さない。また、A型シリカゲル、13X等のゼオライトは、吸着性能が低いため、上記のシステムに適用しようとすると、吸着時に使用する冷媒を含め、吸着材が大量に必要となり、装置の大型化などの問題を惹起する。また、同様の目的で検討されているメソポーラスシリカ(FSM−16等)は、界面活性剤のミセル構造を鋳型として合成したものであり、低い相対蒸気圧では吸着しないため、実際、コージェネレーション機器や燃料電池などの冷却水から得られる低温排熱を利用し難いと言う問題がある。
【0009】
しかして、これら吸着材自体の吸着特性の改善も試みられているが、ゼオライト等の吸着材は構造が壊れ易く、しかも、工業的に製造し難いためにコストが嵩むと言う問題も指摘されている。
【0010】
上記の様な問題に対し、本発明者等は、先に、吸着ヒートポンプ用の吸着材として、より低い相対蒸気圧ないしはより高温で吸着質を吸着し、より高い相対蒸気圧ないしはより低温で吸着質を脱着し、しかも、吸脱着量の一層大きな吸着材として、骨格構造にアルミニウムとリンとヘテロ原子とを含むゼオライトを用いた吸着材、ならびに、当該吸着材を使用した吸着ヒートポンプを提案した(特許文献1)。斯かる吸着材は、25℃の水蒸気吸着等温線における相対蒸気圧が0.05以上且つ0.30以下の範囲で、相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.18g/g以上の相対蒸気圧域を有し、また、フレームワーク密度が10.0T/1,000Å3以上で且つ16.0T/1,000Å3以下である。
【0011】
また、特許文献2や特許文献3には、骨格構造にアルミニウムとリンと鉄とを含むゼオライトから成る吸着材が記載され、該アルミニウムとリンと鉄以外に、「他の元素(M)が含まれていても良い」との記載があり、該他の元素として、チタンやスズも例示されているが、他の元素(M)が含まれている具体例の記載は無い。しかも、M/Feのモル比は「3以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは0.5以下であり、M/Feがこの範囲にない場合は、本発明における吸着性能が十分あらわれない」といった記載からも明らかなように、ここでの他の元素(M)は、鉄アルミノフォスフェートの性能の向上に寄与しない、むしろ含有される必要がないものとして記載されている。また、特許文献2,3には、該他の元素(M)の中で、スズやチタンが特に性能を向上させることについても、AFI型ゼオライトに有効であることについても、何ら示唆されていない。
【0012】
特許文献4には、骨格構造にアルミニウムとリンとガリウムとを含むゼオライトから成る吸着材が記載されているが、鉄とスズまたは鉄とチタンの組み合わせの記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−372332号公報
【特許文献2】特開2004−136269号公報
【特許文献3】特開2005−205331号公報
【特許文献4】特開2005−230738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、コージェネレーションシステムの排熱利用においては、一層の省エネルギー化を図る観点から、より低温の排熱をより高温の環境において有効利用する技術が求められている。具体的には、高温側熱源としての排熱温度が60〜80℃であるのに対し、低温側の熱源温度は、例えば、工場や住宅などに空調用として吸着ヒートポンプを使用しようとした場合、建物の断熱効果などを考慮すると、外気温度から10℃程度高い温度となる。このようなことから、従来のゼオライトに比べて、より低温の排熱を利用することができ、かつ、吸脱着における吸着量差が大きく、より大きな吸着性能を発揮し得る新たな吸着材、すなわち、低い相対蒸気圧域で吸着質を吸脱着でき、例えば、低温側の熱源温度が35℃、高温側の熱源温度が75℃のような、低温側が比較的高い温度で高温側が比較的低く、それらの温度差が小さい条件でも吸着ヒートポンプを十分に運転させ得る吸着材が要望されている。また、生成する冷水も10℃以下、できれば8℃以下、場合によっては6℃以下の低温が求められており、その点においてもより低い相対蒸気圧で吸着可能であり、かつ低温で脱着が可能な吸着材が要望されている。
【0015】
本発明は、このような低い相対蒸気圧域で吸着質を吸脱着することができ、低温側が空冷式あるいは水冷式に依らず、比較的高い温度で、高温側が比較的低く、それらの温度差が小さい条件でも十分に吸着ヒートポンプを運転させることができる吸着材と、この吸着材を使用した効率の良い吸着ヒートポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、骨格構造にアルミニウムとリンと鉄に加えて、所定の割合でスズおよび/またはチタンを有するAFI型のゼオライトは、アルミニウムとリンと鉄のみからなるゼオライトの性能が向上されたものであり、スズおよび/またはチタンは、他の多くの金属と比べてもその性能変化が大きいこと、この効果はAFI型ゼオライトに特有のものであることを知見し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明の第1の発明は、骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が
0.25<M/Fe<1.0
であり、好ましくは
0.5<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト、に存する。
本発明の第2の発明は、該ゼオライトを用いた吸着材、に存する。
本発明の第3の発明は、該吸着材を用いた吸着ヒートポンプ、に存する。
本発明の第4の発明は、該吸着ヒートポンプの運転方法、に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のゼオライトは、吸着材、分離剤、触媒、触媒担体等として有用であり、種々の応用分野に用いられるが、中でもこれを用いた吸着材は、例えば、低温側の熱源温度が35℃、高温側の熱源温度が75℃以下というような、温度差が小さく、低い相対蒸気圧域で吸着質を吸脱着することができ、しかも、吸着質の吸脱着における吸着量差が大きいため、低温の熱を有効に利用することができ、効率よく吸着ヒートポンプを駆動させることができる。また、この吸着材は、吸着質の繰り返し吸脱着における耐久性が高いため、吸着ヒートポンプ等として用いる場合の実用性、信頼性が高い。
【0019】
このような本発明の吸着材を用いた吸着ヒートポンプによれば、低温の熱で効率よく駆動するため、コージェネレーションシステム等の排熱を有効に活用でき、一層の省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る吸着ヒートポンプ用吸着材の適用例としての吸着ヒートポンプの一構成例を示すフロー図である。
【図2】本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として固体高分子型燃料電池の排熱を利用した冷熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図3】本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として太陽熱利用給湯器の温熱を利用した冷熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図4】本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として内燃機関利用のコージェネレーションシステムの低温排熱を利用した冷熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図5】本発明に係る吸着ヒートポンプを使用した温熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図6】実施例1で得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのX線回折(XRD)パターンである。
【図7】実施例1および比較例1における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線、および75℃での脱着過程における水蒸気脱着等温線のグラフである。
【図8】実施例2における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線のグラフである。
【図9】比較例3における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線のグラフである。
【図10】実施例3における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線のグラフである。
【図11】実施例4と比較例5の吸着ヒートポンプの冷却水温度に対する冷却出力性能の評価結果を示すグラフである。
【図12】実施例4と比較例5の吸着ヒートポンプの冷水温度に対する冷却出力性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のゼオライト、吸着材、吸着ヒートポンプ、および該吸着ヒートポンプの運転方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明は、これらの内容に特定されるものではない。
【0022】
本発明の第1の発明は、骨格構造にアルミニウム(Al)、リン(P)、鉄(Fe)およびM(Mはスズおよび/またはチタン)とを含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が、
0.25<M/Fe<1.0
であり、好ましくは
0.5<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト、であって、骨格構造に鉄(Fe)とヘテロ原子M(Mはスズおよび/またはチタン)を含むアルミノフォスフェートであるAFI構造のゼオライトであると言い換えることもできる。
【0023】
AFI型のゼオライトとは、国際ゼオライト学会(International zeolite association(IZA))がDatabase of Zeolite Structuresで分類しているAFI構造を有するものであり、XRD(X-ray diffraction)分析により決定される。
【0024】
本発明のゼオライトにおけるM/Feモル比は、
0.55≦M/Fe≦0.95
であることがより好ましく、
0.60≦M/Fe≦0.90
であることが特に好ましい。M/Feモル比が上記下限より大きいことにより、低い相対蒸気圧域での吸着量が大きくなり、上記上限より小さいことにより、脱着の温度を低くすることができ、好ましい。
【0025】
また、Mはスズ(Sn)、チタン(Ti)のいずれでもよいが、スズであることが吸着量および耐久性の面でチタンより優れており、より好ましい。
【0026】
このように、ゼオライトの骨格構造にアルミニウムとリンと鉄に加えて、所定の割合でスズおよび/またはチタンを有する本発明のAFI型のゼオライトは、アルミニウムとリンと鉄のみからなるゼオライトに比べて性能に優れ、スズおよび/またはチタンによる効果は他の多くの金属と比べてもその性能変化が大きい。
該性能変化としては、特に吸着材として有効な性能であり、中でも、吸着ヒートポンプ用の吸着材として非常に有効である。すなわち、本発明のゼオライトは、特定の温度領域で吸脱着し、かつ、吸脱着における吸着質の吸着量差が大きく、更に、繰り返し吸脱着条件下での耐久性が高いゼオライトである。この耐久性としては、後述の実施例における水蒸気繰り返し吸脱着試験の条件における維持率が90%以上であるのが好ましく、特に好ましくは該維持率93%以上である。
また、この性能向上の変化は、他の一般的な骨格構造を有するゼオライトの場合においても必ずしも認められるものではなく、AFI型ゼオライト特有の効果である。
【0027】
また、本発明のAFI型ゼオライトの骨格構造を構成しているM、Al、PおよびFeの構成割合(モル比)は、下記式(1)〜(3)を満たす範囲であることが好ましく、特に式(1)については式(1-1)、更に式(1-2)で表されることが好ましい。
【0028】
0.001≦x≦0.3 …(1)
(xは(Fe+M)/(M+Al+P+Fe)(モル比)を表す)
0.03≦y≦0.6 …(2)
(yはAl/(M+Al+P+Fe)(モル比)を表す)
0.03≦z≦0.6 …(3)
(zはP/(M+Al+P+Fe)(モル比)を表す))
0.003≦x≦0.2 …(1-1)
0.005≦x≦0.1 …(1-2)
【0029】
x,y,zがそれぞれ前記の範囲内であることにより、所望の吸着特性が得られ、またゼオライトを形成することができ、耐久性も十分なものとすることができる。
【0030】
なお、上記の原子の各モル比は元素分析により特定することができる。通常、元素分析においては、塩酸水溶液で試料を加熱溶解した後、ICP分析を行う。
【0031】
本発明のゼオライトの製造方法については特に限定されるものではないが、通常、アルミニウム源、鉄源、リン源、M(スズおよび/またはチタン)源およびテンプレートを混合した後、水熱合成して製造される。
以下、その一例を説明する。
【0032】
先ず、アルミニウム源、鉄源、リン源、M(スズおよび/またはチタン)源、および、テンプレートを混合する。
【0033】
アルミニウム源としては、特に限定されないが、通常、擬ベーマイト、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド等のアルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。取扱いが容易な点および反応性が高い点で、アルミニウム源としては擬ベーマイトが好ましい。
【0034】
鉄源として特に限定はされないが、通常、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄等の無機酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄等の有機酸鉄、鉄ペンタカルボニル、フェロセン等の鉄有機金属化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、無機酸鉄、有機酸鉄が水に溶けやすい点で好ましく、中でも、硝酸第二鉄、硫酸第一鉄などの無機酸鉄化合物がより好ましい。場合によってはコロイド状の鉄水酸化物等を使用してもよい。
【0035】
リン源としては、通常、リン酸が用いられるが、リン酸アルミニウムを使用することもできる。リン源についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
M(スズおよび/またはチタン)源としては、Mがスズの場合は、硫酸スズ(II)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、シュウ酸スズ(II)、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、ステアリン酸スズ(II)などが挙げられるが、比較的水に溶けやすく、腐食を起こしにくい点から、硫酸スズ(II)が好ましい。
Mがチタンの場合は、チタンイソプロポキシド、チタンエトキシド、チタンブトキシドなどのチタンアルコキシド、塩化チタン、硫酸チタニルなどのチタン塩などが挙げられるが、反応性、取り扱いやすさの点等からチタンアルコキシドが好ましい。
これらM源についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
AFIのテンプレートとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩、モルホリン、ジ−n−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−イソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン、シクロヘキシルアミン、2−メチルピリジン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、コリン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルピペリジン、3−メチルピペリジン、N−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、キヌクリジン、N,N’−ジメチル−1,4−ジアザビシクロ−(2,2,2)オクタンイオン、ジ−n−ブチルアミン、ネオペンチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、イソプロピルアミン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、ピロリジン、2−イミダゾリドン、ジ−イソプロピル−エチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、ヘキサメチレンイミン等の1級アミン、2級アミン、3級アミン、ポリアミンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジ−n−イソプロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドが反応性の点で好ましく、工業的にはより安価なトリエチルアミンが一層好ましい。
【0038】
上記のアルミニウム源、鉄源、リン源、M源、およびテンプレートを混合して水性ゲルを調合する。混合順序は条件により異なるが、通常は、先ず、リン源、アルミニウム源を混合し、これに鉄源およびM源と、テンプレートとを混合する。鉄源とM源とは、予め混合してから、リン源およびアルミニウム源の混合物と混合しても良いが、鉄源とM源とを同時、或いは逐次的に混合しても良く、好ましくは鉄源の混合後に、M源を混合するのが好ましい。
【0039】
水は、リン源とアルミニウム源との混合時に存在していることが好ましく、この混合物に更に鉄源およびM源を混合する際に水を追加して混合してもよい。また、リン源等は水溶液の形で混合に供してもよい。
【0040】
上記の水性ゲルの組成は、通常、酸化物のモル比で表して、0.01≦FeO/P2O5≦1.5であり、更に合成のし易さの観点からは、0.02≦FeO/P2O5≦1.0が好ましく、0.05≦FeO/P2O5≦0.5がより好ましい。また、P2O5/Al2O3のモル比は、0.6以上で且つ1.7以下であり、更に合成のしやすさの観点からは、0.7以上で且つ1.6以下が好ましく、0.8以上で且つ1.5以下がより好ましい。
【0041】
また、テンプレートの使用量はP2O5に対してモル比で0.1〜3であり、好ましくは0.5〜2、より好ましくは0.7〜1.5である。テンプレートの使用量が上記下限以上であるとテンプレート量が十分となり、上記上限以下であるとアルカリ濃度を抑えることができ、従って、上記範囲内であることにより良好な結晶化を行うことができる。
【0042】
また、水の割合の下限は、Al2O3に対してモル比で3以上であり、合成のし易さの観点からは5以上が好ましく、10以上がより好ましい。Al2O3に対する水のモル比の上限は通常200以下で、合成のし易さおよび生産性の高さの観点からは150以下が好ましく、120以下がより好ましい。
また、水性ゲルのpHは4〜10であり、合成のし易さの観点からは4.5〜9が好ましく、5.0〜8.5がより好ましい。
【0043】
なお、各水性ゲル中には、所望により、上記以外の成分を共存させてもよい。この様な成分としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や塩、アルコール等の親水性有機溶媒が挙げられる。
【0044】
水熱合成は、上記の水性ゲルを耐圧容器に入れ、自己発生圧下、または、結晶化を阻害しない気体の加圧下において、攪拌または静置状態で所定温度を保持することにより行われる。水熱合成の際の温度は通常100〜300℃であり、合成のし易さの観点からは150〜250℃が好ましく、170〜220℃がより好ましい。反応時間は、3時間〜30日であり、合成のし易さの観点からは5時間〜15日が好ましく、7時間〜7日がより好ましい。
【0045】
水熱合成後は、生成物を分離し、次いで、水洗、乾燥した後、空気などを使用した焼成を施し、含有する有機物の一部または全部を除去することにより、本発明のゼオライトを得ることができる。
【0046】
本発明の第2の発明である吸着材は、基本的に上記の本発明のゼオライトから成るものであるが、その性能を損わない範囲において、他の吸着材を混合したり、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。またその吸着材の用途は特に限定されないが、吸着ヒートポンプに使用することが好ましい。
【0047】
本発明の吸着材が使用される吸着ヒートポンプとしては、吸着熱を放出しつつ前記吸着材に吸着質を吸着する吸着操作と、外部の温熱により前記吸着材から吸着質を脱着する脱着操作とを繰り返す吸着器と、吸着質の蒸発により得られた冷熱を外部へ取り出すと共に、発生した吸着質の蒸気が前記吸着器に回収される蒸発器と、前記吸着器で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷熱により凝縮させると共に、凝縮した吸着質を前記蒸発器に供給する凝縮器とを備える本発明の吸着ヒートポンプが挙げられる。
【0048】
吸着材を用いた吸着ヒートポンプにおいて、吸着ヒートポンプの操作蒸気圧範囲は、高温熱源温度(Thigh)、低温熱源温度(Tlow1)、低温熱源温度(Tlow2)および冷熱生成温度(Tcool)から求められる脱着側相対蒸気圧(φ1)と吸着側相対蒸気圧(φ2)によって決定される。脱着側相対蒸気圧(φ1)と吸着側相対蒸気圧(φ2)は、以下の式(a),(b)により算出され、脱着側相対蒸気圧(φ1)と吸着側相対蒸気圧(φ2)との間が操作可能な相対蒸気圧範囲である。
【0049】
脱着側相対蒸気圧(φ1)=平衡蒸気圧(Plow1)/平衡蒸気圧(Phigh)
…(a)
吸着側相対蒸気圧(φ2)=平衡蒸気圧(Pcool)/平衡蒸気圧(Plow2)
…(b)
【0050】
ここで、高温熱源温度(Thigh)とは、吸着材から吸着質を脱着して吸着材を再生する際に加熱する熱媒の温度を意味し、低温熱源温度(Tlow1)とは、凝縮器の吸着質の温度を意味し、低温熱源温度(Tlow2)とは、再生後の吸着材を吸着に供する際に冷却する熱媒の温度を意味し、冷熱生成温度(Tcool)とは、蒸発器の吸着質の温度すなわち生成した冷熱の温度を意味する。上記の式中、平衡蒸気圧(Plow1)、(Phigh)、(Pcool)および(Plow2)は、夫々、上記の各温度(Tlow1)、(Thigh)、(Tcool)および(Tlow2)における平衡蒸気圧を示し、これらは吸着質の平衡蒸気圧曲線を利用して、温度から求めることができる。
通常Tlow1とTlow2は同じ温度になる場合が多いので、以下まとめてTlowと記載する場合がある。
【0051】
本発明の吸着材は、特に吸着ヒートポンプにおいて、Tcoolが10℃よりも低く、Tlowが比較的高く、Thighが比較的低い場合に適している。この吸着ヒートポンプにおいて、吸着質が最も一般的な水である場合の、Tcoolが10℃よりも低く、Tlowが比較的高く、Thighが比較的高い操作蒸気圧範囲を例示すると、吸着側相対蒸気圧(φ2)は、冷熱生成温度(Tcool)が6℃、低温熱源温度(Tlow2)が35℃の場合で0.17となる。また、脱着側相対蒸気圧(φ1)は、低温熱源温度(Tlow1)が35℃、高温熱源温度(Thigh)が75℃の場合で0.15となる。従って、吸着ヒートポンプを作動する相対水蒸気圧範囲(脱着側相対蒸気圧(φ1)から吸着側相対蒸気圧(φ2)の範囲)は0.15〜0.17となり、吸着材としてはこの範囲で吸着量の変化の大きなもの、具体的には好ましくは0.07g/g以上、より好ましくは0.09g/g以上であることが好ましい。
【0052】
本発明のゼオライトを用いた吸着材を使用した吸着ヒートポンプの運転方法は、以下のような条件で使用した場合、特に優れた性能を示す。
【0053】
本発明においては、比較的高温の環境で吸着ヒートポンプを使用するため、吸着材の吸着温度(Tlow)は25〜45℃が好ましい。吸着温度(Tlow)の上限は、夏期の外気温度に応じて決定され、コージェネレーション装置の設置場所の条件変動などを考慮して35〜45℃程度である。吸着温度(Tlow)の下限に関しては特に限界はないが、例えば、家庭用コージェネレーション装置へ組み込まれる固体高分子型燃料電池が夏期の朝方に作動する様な場合を想定し、かつ、比較的高温の環境で使用することを想定すると、吸着温度(Tlow)の下限は、通常25〜30℃、好ましくは30℃以上である。すなわち、吸着温度(Tlow)は、一般的には25〜45℃、好ましくは30〜43℃、更に好ましくは35〜40℃である。
【0054】
具体的には、水蒸気を吸脱着して運転する吸着ヒートポンプの場合は、水蒸気の吸着温度(Tlow)を25〜45℃としたとき、水蒸気の脱着温度(Thigh)および冷熱生成温度(Tcool)が次式(1)および(2)を満たす条件で運転する方法であり、この場合、吸着温度(Tlow)における水蒸気吸着量と脱着温度(Thigh)における水蒸気吸着量との差が0.07g/g以上、好ましくは0.09g/g以上であることが可能となる。
【0055】
Thigh≦100℃ …(1)
0℃≦Tcool≦10℃ …(2)
(好ましくは、0℃≦Tcool≦8℃、より好ましくは0℃≦Tcool≦6℃)
一方、従来技術では、せいぜい
Tlow−25℃<Tcool<25℃
であった。すなわち、Tlow≦30℃の場合であれば、前記式(2)のような条件の運転も可能であったが、Tlow≧35℃では、そのような条件での運転は不可能であった。
【0056】
また、吸着温度(Tlow)と脱着温度(Thigh)との温度差が大きく、脱着温度(Thigh)が100℃より大きい運転条件とすると、従来技術に対して利点がなく、しかも実用的な運転条件ではないので、本発明では、好ましくは吸脱着温度差(Thigh−Tlow)が極めて小さい(すなわち、吸着と脱着の相対蒸気圧の差が非常に小さい)条件での使用条件であることを特徴とする運転条件とする。
【0057】
本発明の吸着材を使用すると、比較的高い吸着温度(Tlow)に対して極めて低い冷熱の取り出しが可能であることに特徴がある。
【0058】
上記の冷熱生成温度(Tcool)とは、吸着質が吸着されることにより蒸発潜熱を奪われて冷やされた際の吸着質の温度、すなわち、吸着される水の吸着前後の平均温度であり、吸着質量と吸着量の関係から一義的に決まる温度である。斯かる温度については、より低い方が生成熱としての価値は大きいが、下限は利用可能な温度の価値を基準に決定される。従って、式(2)は、水蒸気を用いた吸着ヒートポンプであるため、冷熱生成温度(Tcool)は0℃以上であることが必要である。一方、冷熱生成温度(Tcool)は10℃以下であり、好ましくは8℃以下、更に好ましくは6℃以下である。
【0059】
吸着材に要求される特性の1つとして、吸着量差、すなわち、吸着温度(Tlow)における水蒸気吸着量と脱着温度(Thigh)における水蒸気吸着量との差が挙げられる。吸着量差は、[1]吸着温度(Tlow)における吸着等温線と、[2]脱着温度(Thigh)における吸着等温線とを用いて、[a]冷熱生成温度(Tcool)と吸着温度(Tlow)から決定される相対湿度(吸着側相対蒸気圧)での吸着量と、[b]吸着温度(Tlow)と脱着温度(Thigh)から決定される相対湿度(脱着側相対蒸気圧)での吸着量の差を意味する。
【0060】
吸着量差は、具体的には次の1)〜4)に従って求められる。
1)吸着温度(Tlow)における吸着等温線および脱着温度(Thigh)における吸着等温線を測定する。
2)設定する冷熱生成温度(Tcool)と吸着温度(Tlow)とから決定される相対蒸気圧を求め、その相対蒸気圧(吸着側相対蒸気圧)における水蒸気吸着量をTlowの吸着等温線から求める。
3)同様に、脱着温度(Thigh)と吸着温度(Tlow)とから決定される相対蒸気圧を求め、その相対蒸気圧(脱着側相対蒸気圧)における水蒸気吸着量をThighの吸着等温線から求める。
4)上記の2)および3)で求められた各水蒸気吸着量の差を求める。吸着側相対蒸気圧における水蒸気吸着量は、「吸着温度(Tlow)で測定した吸着等温線」、すなわち、例えば吸着温度(Tlow)=35℃の吸着等温線から求めることができ、図7の実施例1の場合、相対蒸気圧は0.24、そのときの水蒸気吸着量は0.12g/gと読める。同様に、脱着側相対蒸気圧は、「脱着温度(Thigh)で測定した吸着等温線」、すなわち、例えば脱着温度(Thigh)=75℃の吸着等温線から求めることができ、相対蒸気圧0.15のときの水蒸気吸着量は約0.04g/gと読める。これから、両者の間の吸着量差は0.08g/gとなる。
【0061】
本発明の吸着材は、35℃で測定した水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.17において、吸着量が0.10[g・H2O/g・吸着材]以上、特に0.12g/g以上であることが好ましい。吸着量が上記下限値以上であることにより、所定の能力の吸着ヒートポンプに必要とする吸着材の容積を小さくすることができ、装置の大型化を防止することができる。
【0062】
上記の吸着量差の違いは、具体的には吸着ヒートポンプにおいて以下の様に影響する。
例えば、吸着ヒートポンプを冷房装置として使用し、5.0kW(=18,000kJ)の冷房能力(木造南向き和室16畳程度の冷房能力)を得る場合を想定すると、吸着材の吸着量差が0.08g/gの場合、吸着ヒートポンプにおける吸着材の必要量は、以下の式により15.0kgとなる。ただし、水の蒸発潜熱量は約2500kJ/kgであり、吸脱着の切り替えサイクルを10分(6回/時間)とする。
【0063】
吸着材必要量=
18000kJ/(2500kJ×0.08kg/kg×6回/hr)=15.0kg
【0064】
吸着ヒートポンプにおいて、吸着量は多い程良いが、吸着材の重量および容積は少ない程良い。すなわち、吸着ヒートポンプにおいては、設置面積に制約を受ける場合が多いため、より小型化を図った上でより大きな性能が求められる。従って、吸着材としては、吸着量差に関して上記の要件を満足するものがよい。吸着量差が小さい場合には、吸着材の必要量が大きくなり、装置が大型化するので好ましくない。例えば、吸着材の吸着量差が0.05g/gであった場合、上記式で算出される吸着材の必要量が24kgとなる。
【0065】
本発明の吸着材は、上記の様な吸着特性を備えていることにより、前記の如く、低温側熱源の温度が35℃で且つ高温側熱源の温度が75℃と言う厳しい条件でも吸着ヒートポンプを運転することができ、また、上記の様に大きな吸着量差を有していることにより、吸着ヒートポンプを一層コンパクトに構成できる。
【0066】
また、本発明の吸着材は、蓄熱材でもあるから、その特性を出力の面から規定することができる。すなわち、吸着材の出力密度(単位質量当たりの出力)は、上記の吸着量差、蒸発潜熱および吸着ヒートポンプでの吸脱着サイクルによって特定できる。例えば、吸着量差が0.08g/g、水の蒸発潜熱が約2500kJ/kgであり、10分サイクルで水を吸着したとすると、吸着材の出力密度は、以下の演算の様に0.33kw/kgとなる。吸着材の出力密度は、吸着量差と同様に、より大きい方が望ましいが、吸着材の材料上の制約や吸着ヒートポンプにおける吸着サイクルの設計上の制約から、1.5kw/kg程度以下である。
【0067】
吸着材の出力密度:吸着量差×蒸発潜熱/サイクル時間
=0.08×2500/600=0.33kW/kg
【0068】
また、吸着材の出力密度については、吸着ヒートポンプを実稼動させる場合の装置の大きさを考慮して設計する必要がある。通常、吸着ヒートポンプにおいては、吸着質を吸着・脱着する吸着器(吸着器モジュール)が少なくとも2基以上設けられており、これらの切替操作により装置全体として吸着機能を連続的に発揮する。しかも、各吸着器は、例えば、特開2001−213149号公報などに記載の様に、多数のフィン等から成る熱交換部材の表面に吸着材を付着させ、且つ熱交換部材を密閉容器内に収容した構造を備えている。そして、吸着器においては、吸着材が占有する部分と、熱交換部材自体が占有する部分とが存在し、吸着材が占める容積は実質的に約50%である。
【0069】
従って、実際のスケールからすると、吸着器における吸着材の充填密度は、最大で800kg/m3、最小で500kg/m3、平均で600kg/m3であるため、吸着器に要求される単位容積あたりの出力密度は、吸着材の吸着材の出力密度を0.33kw/kgとすると、以下の式から約100kw/m3となる。吸着器の出力密度の上限と下限は、吸着材の出力密度に依存し、通常は80〜450kw/m3程度である。
【0070】
吸着器(吸着器モジュール)の出力密度:
吸着材の出力密度×充填密度×吸着材の占める容積割合
=0.33×600×0.5=99kW/m3
【0071】
次に、上記の吸着材の適用例として、本発明の吸着ヒートポンプについて図1に基づいて説明する。図1は、本発明の吸着材が好適に適用される本発明の吸着ヒートポンプの構成の一例を示すフロー図である。
【0072】
本発明の吸着ヒートポンプは、上記の吸着材を使用した吸着ヒートポンプであり、概略、図1に示す様に、内部に吸着材を充填して成り、吸着熱を放出しつつ吸着材に吸着質を吸着する吸着操作、および、外部の温熱により吸着材から吸着質を脱着する脱着操作を繰り返すと共に、吸着質の吸着操作により発生した熱を熱媒に伝達する吸着器(1)および(2)と、吸着質の蒸発により得られた冷熱を外部へ取り出すと共に、発生した吸着質の蒸気が吸着器(1)および(2)に回収される蒸発器(4)と、吸着器(1)および(2)で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷熱により凝縮させると共に、凝縮した吸着質を蒸発器(4)に供給し且つ吸着質の凝縮により得られた温熱を外部へ放出する凝縮器(5)とを備えている。
【0073】
吸着材が充填された吸着器(1)および(2)は、各入口側および各出口側がそれぞれ吸着質配管(30)により相互に接続され、吸着質配管(30)には、制御バルブ(31)〜(34)が設けられる。なお、吸着質配管(30)内において、吸着質は、蒸気または液体と蒸気の混合物として存在する。
【0074】
一方の吸着器(1)には熱媒配管(11)が接続され、他方の吸着器(2)には熱媒配管(21)が接続される。熱媒配管(11)には、切替バルブ(115)および(116)が設けられ、熱媒配管(21)には、切替バルブ(215)および(216)が設けられる。そして、熱媒配管(11)および(21)は、各々、吸着器(1)および(2)内の吸着材を加熱するための加熱源となる熱媒、または、吸着材を冷却するための冷却源となる熱媒が流れる様になされている。熱媒としては、吸着器(1)および(2)内の吸着材を有効に加熱または冷却し得る限り、各種の媒体を使用できる。
【0075】
吸着器(1)は、脱着操作の際、切替バルブ(115)および(116)の開閉により、入口(113)より媒体として例えば温水を導入し、出口(114)に排出する様に構成されている。また、吸着操作の際、切替バルブ(115)および(116)の開閉により、入口(111)から例えば媒体として冷却水を導入し、出口(112)に排出する様に構成されている。一方、吸着器(2)は、脱着操作の際、切替バルブ(215)および(216)の開閉により、入口(213)より例えば媒体として温水を導入し、出口(214)に排出する様に構成されている。また、吸着操作の際、切替バルブ(215)および(216)の開閉により、入口(211)より媒体として例えば冷却水を導入し、出口(212)に排出する様に構成されている。
【0076】
なお、図示しないが、熱媒配管(11)および(21)には、温水を供給するため、温水を発生する熱源、温水を循環するポンプが接続され、また、冷却水を供給するため、外気と熱交換可能な室外機が接続される。熱源としては、後述する様に、ガスエンジン、ガスタービン等のコージェネレーション機器や燃料電池などを利用できる。
【0077】
吸着器(1)および(2)の入口側の吸着質配管(30)には蒸発器(4)が接続され、吸着器(1)および(2)の出口側の吸着質配管(30)には凝縮器(5)が接続されている。すなわち、上記の吸着器(1)および(2)は、蒸発器(4)と凝縮器(5)の間に並列に配置されており、そして、凝縮器(5)と蒸発器(4)の間には、凝縮器(5)にて凝縮された吸着質を蒸発器(4)に戻すための戻し配管(3)が設けられている。なお、符号(41)は蒸発器(4)からの冷房出力となる冷水配管、符号(42)は冷水の出口となる冷水配管をそれぞれ示し、冷水配管(41)と冷水配管(42)の間には、室内空間(空調空間)と熱交換するための室内機(300)、および、冷水を循環するポンプ(301)が配置される。また、符号(51)は凝縮器(5)に対する冷却水の入口配管を示し、符号(52)は冷却水の出口配管を示す。
【0078】
次に、この上記の吸着式ヒートポンプの運転方法について説明する。第1行程では、制御バルブ(31)および(34)を閉止し、かつ、制御バルブ(32)および(33)を開放することにより、吸着器(2)において吸着工程を行い、同時に、吸着器(1)において脱着(再生)工程を行う。また、切替バルブ(115)、(116)、(215)および(216)を操作し、熱媒配管(11)には温水を流通させ、熱媒配管(21)には冷却水を流通させる。
【0079】
吸着器(2)の吸着工程においては、熱媒配管(21)を通し、冷却塔などの外部の熱交換器によって冷やされた冷却流体(冷却水や冷気)を導入することにより、吸着器(2)を冷却する。冷却流体の温度は、周囲の温度から決まり、例えば家庭用燃料電池への組み込みを前提とした場合には25〜45℃である。一方、制御バルブ(32)の開操作により、蒸発器(4)内の水(吸着質)は蒸発し、水蒸気となって吸着器(2)に流れ込み、吸着材に吸着される。蒸発器(4)から吸着器(2)への水蒸気移動は、蒸発温度での飽和蒸気圧と吸着材温度(水冷式、空冷式に依らず、一般的には25〜45℃、好ましくは30〜43℃、更に好ましくは35〜40℃)に対応した吸着平衡圧との差により行われ、蒸発器(4)においては、水の蒸発に伴う気化熱に応じた冷熱、すなわち、冷房出力を得ることができる。
【0080】
吸着側相対蒸気圧(φ2)(蒸発器(4)で生成する冷水温度における吸着質の平衡蒸気圧を、吸着器(2)の冷却水の温度における吸着質の平衡蒸気圧で除すことにより求められる値)は、吸着器(2)の冷却水の温度と蒸発器(4)で生成する冷水温度との関係から決定されるが、通常、吸着側相対蒸気圧(φ2)は、吸着材が最大に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも大きくなる様に運転するのが好ましい。その理由は次の通りである。すなわち、吸着材が最大に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも吸着側相対蒸気圧(φ2)が小さい場合には、吸着材の吸着機能を有効に利用できず、運転効率が低下する。上記の吸着側相対蒸気圧(φ2)は環境温度などにより適宜に設定することができる。
【0081】
吸着器(1)の再生工程において、吸着器(1)は、通常は53〜100℃、好ましくは58〜85℃、更に好ましくは60〜80℃の温水により加熱される。これにより、吸着器(1)の吸着材は、前記の温度範囲に対応した平衡蒸気圧になり、凝縮器(5)の凝縮温度25〜45℃(凝縮器(5)を冷却する冷却水の温度)での飽和蒸気圧で水(吸着質)を脱着する。脱着された水は、吸着器(1)から凝縮器(5)へ水蒸気の状態で移動し、凝縮されて水となる。そして、凝縮器(5)で得られた水は、戻し配管(3)により蒸発器(4)へ循環供給される。
【0082】
脱着側相対蒸気圧(φ1)(凝縮器(5)の冷却水の温度における吸着質の平衡蒸気圧を、温水の温度における吸着質の平衡蒸気圧で除すことにより求められる値)は、凝縮器(5)の冷却水の温度と温水の温度との関係から決定されるが、脱着側相対蒸気圧(φ1)は、吸着材が急激に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも小さくなる様に運転するのが好ましい。その理由は次の通りである。すなわち、吸着材が急激に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも脱着側相対蒸気圧(φ1)が大きい場合には、吸着材の優れた吸着機能を有効に利用できない。
【0083】
上記の脱着側相対蒸気圧(φ1)は、環境温度などにより適宜に設定することができるが、脱着側相対蒸気圧(φ1)における吸着量が通常は0.14g/g以下、好ましくは0.10g/g以下となる様な温度条件で運転される。更に、脱着側相対蒸気圧(φ1)における吸着量と吸着側相対蒸気圧(φ2)における吸着量との差が、通常は0.07g以上、好ましくは0.09g/g以上となる様に運転する。
【0084】
次の第2行程では、吸着器(1)が吸着工程、吸着器(2)が再生工程となる様に、制御バルブ(31)〜(34)、ならびに、切り替えバルブ(115)、(116)、(215)および(216)を切り替えることにより、上記と同様に、蒸発器(4)から冷熱、換言すれば、冷房出力を得ることができる。すなわち、第2行程では、制御バルブ(32)および(33)を閉止し、かつ、制御バルブ(31)および(34)を開放することにより、吸着器(1)において吸着工程を行い、同時に、吸着器(2)において再生工程を行う。また、その際、切替バルブ(115)、(116)、(215)および(216)を操作し、熱媒配管(21)には温水を流通させ、熱媒配管(11)には冷却水を流通させる。
【0085】
以上の様に、第1および第2行程を順次に切り替えることにより、吸着ヒートポンプを連続運転することができる。なお、図1においては、2基の吸着器(1)および(2)を備えた吸着ヒートポンプについて例示したが、本発明の吸着ヒートポンプにおいては、吸着材が吸着した吸着質の脱着を適宜行い、いずれかの吸着器が吸着質を吸着できる状態を維持できる限り、吸着器は何基設置されていてもよい。
【0086】
図1に示されるような本発明の吸着ヒートポンプの吸着器は、一般的には吸着材を充填あるいは塗布したフィンチューブ熱交換器である。
【0087】
本発明のゼオライトを吸着材として該熱交換器に適用する場合、例えば、無機系あるいは有機系のバインダーと共にスラリーを調合して、該フィン表面に塗布・乾燥させて固定膜を形成する(塗布型の熱交換器)。
【0088】
他方、ペレット状(粒状)のゼオライト(吸着材)をフィン間に密充填する場合もあるが、吸着材がペレットの場合、小さな粒体を連続したフィン間とチューブ表面で形成される隙間に密充填し、熱交換器全体をメッシュの細かい金網で包み込む方法がしばしば行われる。この方法では迅速かつ容易に熱交換器の製造が可能である。しかし、このような系では、吸着材の粒体間および粒体と熱交換器本体の金属(フィンやチューブ)表面とが点接触となり、熱伝達が乏しいために熱交換性能としてはあまり高くならない。また、その熱効率は、ペレットの内部拡散による影響も受ける。
【0089】
それに対して塗布型の熱交換器の場合では、塗膜が熱交換器の表面に均一に塗布されている限り、大きな伝熱面積を有することになるので、上記で指摘した伝熱上の難点を解決することができるので好ましい。
【0090】
該塗布型の熱交換器を製造する際に使用されるバインダーとしては、形成される塗膜に実用上必要な耐久性や接着性を満足するものであれば特に限定されず、各種の無機系または有機系バインダーを用いることができる。
【0091】
無機系バインダーとしては、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物や粘土等が挙げられる。
【0092】
有機系バインダーとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボーネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、シリコーン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ラテックス、セルロース、マレイミド化合物等が挙げられる。
【0093】
一般には、塗膜の強度維持の観点から、バインダーとしては、硬化により凝集力を高められる熱硬化性の樹脂が好ましく、例えば、フィン等、塗布される熱交換器基材が銅やアルミニウム等の金属フィンである場合は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、またはこれらの誘導体であるのが好ましい。
なお、これらのバインダーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0094】
バインダーを用いる場合、溶剤に希釈して使用しても良いが、溶剤を用いる場合には、ゼオライトの表面を露出させ、吸着阻害の少ない塗膜を得るために、水系の乳化物とするのが好ましい。
【0095】
バインダーの使用量は、形成される塗膜中の含有量として5〜30重量%とするのが好ましい。バインダー量が5重量%未満であると、十分な塗膜強度が得られず、30重量%より多いと、塗膜の空隙率が減少し、吸脱着速度を低下させるので好ましくない。
【0096】
塗膜形成には、その他の添加剤として、各種添加剤を使用することも可能である。例えば、レオロジー添加剤、界面活性剤、消泡剤、硬化剤、酸化防止剤、pH調整剤、防錆剤などを塗膜形成用のスラリーに添加することができる。
【0097】
塗布型の場合の塗膜形成用のスラリーの塗布方法としては、公知の方法が挙げられるが、ディップ(含浸、浸漬)、ナイフコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーン印刷、パッド印刷、オフセット印刷等の方法が挙げられる。
【0098】
熱交換器の基材の型式としては、プレートフィン型のほか、シート状、板状、エロフィンチューブ型、コルゲート型等、公知の熱交換器に用いられる形状のものが制限無く使用できる。基材の材質も特に制限は無く、金属、セラミックス、グラファイト、樹脂、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の複合材等も使用することができる。
【0099】
上記の様な本発明の吸着ヒートポンプは、低温排熱を熱源として駆動させることができるため、省エネルギー化が求められるコージェネレーションシステム等の各種のシステムに適用できる。以下、本発明に係る吸着ヒートポンプの適用例として、固体高分子型燃料電池の排熱を利用した冷熱生成システム、太陽熱利用給湯器の温熱を利用した冷熱生成システム、内燃機関利用のコージェネレーションシステムの低温排熱を利用した冷熱生成システム、および、温熱生成システムについて、図2〜図5を参照して説明する。
【0100】
図2は、本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として固体高分子型燃料電池の排熱を利用した冷熱生成システムの構成図であり、図3は、太陽熱利用給湯器の温熱を利用した冷熱生成システムの構成図である。図4は、エンジンの低温排熱を利用した冷熱生成システムの構成図である。また、図5は、本発明に係る吸着ヒートポンプを使用した温熱生成システムの構成図である。なお、図2〜図5においては本発明の吸着ヒートポンプを符号(1A)で示す。
【0101】
図2に示す冷熱生成システムは、家庭用電源に固体高分子型燃料電池(PEFC)(81)を組み込んだコージェネレーションシステムである。斯かるシステムは、平6−74597号公報、特開2001−213149号公報などに開示されている。PEFC(81)は、発電効率が約40%であり、廃熱を効率的に利用することで総合効率が80%程度まで向上するため、排熱の有効利用方法が各種提案されているが、80℃以下の低温排熱の利用用途が少なく、斯かる低温排熱の有効活用が望まれている。
【0102】
そこで、図2に示す様に、本発明においては、PEFC(81)から排出される80℃以下の熱を吸着ヒートポンプ(1A)に利用する。すなわち、本発明の吸着ヒートポンプ(1A)において、吸着器(1)および(2)は、固体高分子型燃料電池(PEFC)(81)から発生した低温排熱を外部の温熱として使用する様になされている。具体的には、PEFC(81)の排熱を熱交換器(82)によって回収し、熱交換器(82)の例えば温水を吸着器(1)および(2)に導入することにより、吸着材から水(吸着質)を脱着する際の加熱源として利用する。なお、吸着器(1)および(2)は、吸着時には吸着熱を除去する必要があるため、冷却水を流して熱交換を行うが、斯かる冷却水の供給は、車のラジエーターからの排水や水道水などの冷熱源となる冷媒を循環させる方法が一般的であり、場合によっては外部の冷たい水を使用することもできる。また、前述のような水冷式以外にも、空気で冷却する空冷式も採用可能である。
【0103】
吸着ヒートポンプ(1A)は、冷熱生成装置であるから、図2に示す様なシステムに組み込むことにより、排熱利用による冷熱生成が可能となる。また、従来の冷熱生成機器では、冷媒圧縮のためのコンプレッサが必要であるが、図2に示すシステムによれば、コンプレッサ等の装置や動力が必要ないため、省電力を図ることができ、しかも、熱媒として水を使用できるため、脱フロンの観点からしても環境に好ましい。
【0104】
図3に示す冷熱生成システムは、太陽熱利用給湯器の温熱を利用して冷熱を生成するシステムである。太陽熱利用給湯器システムは、特開昭63−118564号公報などに開示されている。上記の給湯器システムは、集熱器(83)を含む集熱回路と、貯湯タンク(84)を含む給湯回路とを備え、貯湯タンク(84)の湯温と補給する水温とをセンサーで検出し、貯湯タンク(84)から集熱器(83)に循環させる水量をポンプ制御することにより、貯湯タンク(84)に一定温度の温水を常に一定量蓄える様になされたものである。貯湯タンク(84)の温熱は、本来は給湯により十分に利用可能であるが、季節によっては給湯需要量が変動する。具体的には、冬期には十分利用可能であるが、夏期には熱需要の減少により温熱が余り、その結果、省エネルギー化を達成していないと言う実情がある。
【0105】
そこで、図3に示す様に、本発明においては、貯湯タンク(84)に蓄えられる湯温の温熱を吸着ヒートポンプ(1A)に利用する。すなわち、本発明の吸着ヒートポンプ(1A)において、吸着器(1)および(2)は、貯湯タンク(84)に蓄えられる余剰の温熱、換言すれば、太陽熱利用給湯器から発生した低温排熱を外部の温熱として使用する様になされている。具体的には、貯湯タンク(84)に蓄えられた湯温の温熱を蛇腹管構造などの熱交換器によって回収し、熱交換器の例えば温水を吸着器(1)および(2)に導入することにより、吸着材から水(吸着質)を脱着する際の加熱源として利用する。なお、吸着器(1)および(2)における吸着熱の除去には、前述と同様に、各種の冷却水を使用でき、また、貯湯タンク(84)に新たに供給する水を冷却水として使用することもできる。
【0106】
本発明の吸着ヒートポンプ(1A)は、図3に示す様なシステムに組み込むことにより、余剰の熱を利用して冷熱を生成することが可能となる。すなわち、夏期に余剰の温熱を利用することにより、効率の良い冷房を行うことができる。しかも、給湯器システムの余剰の熱を利用するため、一層省エネルギー化を促進できる。更に、図3に示すシステムによれば、コンプレッサ等の装置や動力が必要ないため、省電力を図ることができ、しかも、熱媒として水を使用できるため、脱フロンの観点からしても環境に好ましい。
【0107】
図4に示す冷熱生成システムは、内燃機関を使用して発電を行い、蒸気、温水および冷水の製造を行うガスタービンコージェネレーションシステムにおいて構築される低温排熱利用システムである。ガスタービンコージェネレーションシステムは、特開2002−266656号公報などに開示されている。周知の通り、斯かるシステムは、例えば、ガスタービン(内燃機関)によって発電機を駆動することにより発電を行い、ガスタービンの燃焼排ガスの熱を排熱回収ボイラで回収して蒸気を発生させ、排熱回収ボイラから供給される蒸気を駆動熱源として吸収式冷凍機により冷水を製造し、また、排熱回収ボイラを通過した排ガスの熱を温水ボイラによって更に回収して温水を製造し、そして、温水ボイラで製造した温水を駆動熱源として吸着式冷凍機(吸着ヒートポンプ)により冷水を製造する様になされている。
【0108】
本発明においては、図4に示す様に、内燃機関利用のコージェネレーションシステムの温水ボイラ(85)で回収される温水の熱を吸着ヒートポンプ(1A)に利用する。すなわち、本発明の吸着ヒートポンプ(1A)において、吸着器(1)および(2)は、内燃機関利用のコージェネレーションシステムから発生する低温排熱を外部の温熱として使用する様になされている。具体的には、温水ボイラ(85)において蛇腹管構造などの熱交換器により温熱を回収し、熱媒としての例えば温水を熱交換器から吸着器(1)および(2)に導入することにより、吸着材から水(吸着質)を脱着する際の加熱源として利用する。なお、吸着器(1)および(2)における吸着熱の除去には、前述と同様に、各種の冷却流体を使用できる。
【0109】
本発明の吸着ヒートポンプ(1A)は、図4に示す様なコージェネレーションシステムに組み込むことにより、従来は利用価値の低かった温水の低温排熱を一層有効活用して冷熱を低コストで生成することができる。しかも、熱媒として水を使用できるため、環境保護の観点からも好ましい。また、吸収式冷凍機の様に臭化リチウム等の吸収液を使用することがないため、保守管理に手間が掛からず、保守費用も低減できる。更に、ガスタービンと略同時に起動できるため、負荷変動などにも迅速に対応できる。
【0110】
図5に示す温熱生成システムは、吸着材の吸着熱を利用して温熱を生成するシステムである。吸着ヒートポンプ(1A)は、前述の様に、吸着操作の際、吸着材に所定の吸着能力を発揮させるため、通常の運転時には吸着熱を冷却水などにより除去し、吸着材の温度を下げるが、前記の吸着熱を有効利用することにより、温熱生成が可能となる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0112】
[実施例1]
水90gと85重量%リン酸水溶液46gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)24.5gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これに硫酸第一鉄7水和物5.6gを水37gに溶かした水溶液を加え、さらに硫酸スズ(II)4.3gを水40gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン24.2gを混合して1時間攪拌して水性ゲル(pH5)を得た。これをテフロン(登録商標)製内筒の入った1Lの誘導攪拌式ステンレスオートクレーブに仕込み、100rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0113】
こうして得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのXRDを以下の条件で測定したところ、図6に示す通りであり、AFI型であった。
<XRDの測定方法>
X線源:Cu−Kα線(λ=1.54Å)
出力設定:40kV、30mA
測定時光学条件:発散スリット=1°
散乱スリット=1°
受光スリット=0.2mm
回折ピークの位置:2θ(回折角)
測定範囲:2θ=3−50°
【0114】
更に、得られた乾燥物3gを縦型の石英管に入れ、室温から1.5℃/分で昇温し、550℃で6時間の空気焼成を行った。
このものを塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行った。その結果、(Fe+Sn)/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.079、Sn/Feのモル比は0.51、Al/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.44、P/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.48であった。
【0115】
また、得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図7に示した。また、75℃での脱着時の水蒸気吸着等温線も磁器浮遊式天秤による吸着等温線測定装置(日本ベル社製)で測定し、結果を図7に合わせて示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0116】
また、以下の水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ維持率は、96.1%であった。
【0117】
<水蒸気繰り返し吸脱着試験>
試料を90℃に保たれた真空容器内に保持し、5℃の飽和水蒸気雰囲気と80℃飽和水蒸気雰囲気にそれぞれ90秒曝す操作を繰り返す。このとき80℃の飽和水蒸気雰囲気に曝されたときに試料に吸着した水は、5℃の飽和水蒸気雰囲気で一部が脱着し、5℃に保った水だめに移動する。m回目の吸着からn回目の脱着で、5℃の水だめに移動した水の総量(Qn;m(g))と試料の乾燥重量(W(g))から一回あたりの平均吸着量(Cn;m(g/g))を以下のようにして求める。
[Cn;m]=[Qn;m]/(n−m+1)/W
吸脱着試験の維持率とは、水蒸気繰り返し吸脱着試験の1回から1000回の平均吸着量に対する1001回から2000回の平均吸着量の比を求めたものである。
【0118】
[実施例2]
水16.8gと85重量%リン酸水溶液9.2gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)4.9gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これに硫酸第一鉄7水和物2.2gを水7.6gに溶かした水溶液を加え、さらに硫酸スズ(II)0.86gを水9.0gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン4.8gを混合して1時間攪拌し水性ゲル(pH5)を得た。これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0119】
こうして得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型であった。
得られた乾燥物を実施例1と同様にして空気焼成した。
また、実施例1と同様に元素分析を行った結果、(Fe+Sn)/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.053、Sn/Feのモル比は0.86、Al/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.46、P/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.49であった。
【0120】
得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図8に示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0121】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、96.9%であった。
【0122】
[実施例3]
水10gと85重量%リン酸水溶液8.6gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)4.9gをゆっくりと加えて攪拌した。これを1時間攪拌し、次いで、硫酸第一鉄7水和物2.2gを水23.5gに溶かした水溶液を加え、更にトリエチルアミン4.8gを混合した後、1時間攪拌した。さらに、オルトチタン酸テトライソプロピル1.8gを加え、これを1時間攪拌し、水性ゲル(pH5)を得た。これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、デカンテーションにより上澄みを除き、沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0123】
得られた乾燥物3gを縦型の石英管に入れ、室温から1℃/分の昇温速度で昇温し、550℃で6時間の空気焼成を行った。
こうして得られた結晶性鉄チタンアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型(フレームワーク密度は17.3T/1000Å3)であった。
このものを塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行った。その結果、(Fe+Ti)/(Fe+Ti+Al+P)のモル比は0.056、Ti/Feのモル比は0.30、Al/(Fe+Ti+Al+P)のモル比は0.43、P/(Fe+Ti+Al+P)のモル比は0.51であった。
【0124】
また、得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル製)で測定し、結果を図10に示した。なお、測定は空気高温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181Torr、平衡時間500秒の条件で行った。
図10より、35℃の吸着温度で6℃という低い冷水を得る場合の相対蒸気圧に相当する0.17の場合でも、水吸着量が0.13g/gと大きいことが分かる。
【0125】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、95.7%であった。
【0126】
[比較例1:スズを含まないAFI型ゼオライトの比較例]
実施例2において、硫酸スズ(II)を加えない他は同様に合成を行った。
こうして得られた結晶性鉄アルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型であった。
【0127】
得られた乾燥物を実施例1と同様にして空気焼成した。
得られたゼオライトについて35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図7に示した。また、75℃での脱着時の水蒸気吸着等温線も実施例1と同じ方法で測定し、結果を図7に合わせて示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0128】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、94.6%であった。
【0129】
[比較例2:骨格構造がCHA型であるシリカスズアルミノフォスフェートの比較例]
水20gと85重量%リン酸水溶液10.1gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)6.5gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これにfumedシリカ(アエロジル200、日本アエロジル社製)0.75gを水12gに分散させたものを加え、さらに硫酸スズ(II)1.1gを水10gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン5.1gとモルホリン4.4gを混合したものを加えて1時間攪拌して水性ゲルを得た。
これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で48時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0130】
こうして得られた結晶性シリカスズアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、CHA型であった。
得られた乾燥物を実施例1と同様に空気焼成した。
【0131】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、21.9%であった。
【0132】
なお、スズを添加しないこと以外は上記と同様にして合成して得られたCHA型のシリカアルミノフォスフェートの場合は、維持率が100%であった。
従って、スズを含有すれば、どのような構造のアルミノフォスフェートでも耐久性が高くなるということではなく、むしろ耐久性を低下させる場合があることがわかり、スズの効果はAFI型に特有なことであることが確認された。
【0133】
[比較例3:Sn/Fe≦0.5であるAFI型ゼオライトの比較例]
水15gと85重量%リン酸水溶液9.2gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)4.9gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これに硫酸第一鉄7水和物2.2gを水10gに溶かした水溶液を加え、さらに硫酸スズ(II)0.43gを水8gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン4.8gを混合して1時間攪拌して水性ゲルを得た。
これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0134】
こうして得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型であった。
得られた乾燥物を実施例1と同様に空気焼成した。
また、実施例1と同様に元素分析を行った結果、(Fe+Sn)/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.052、Sn/Feのモル比は0.11、Al/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.45、P/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.50であった。
【0135】
得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図9に示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0136】
図7に示す結果から、本発明の実施例1のゼオライトは、35℃における吸着等温線が相対蒸気圧0.1〜0.18の範囲で急激に水蒸気を吸着する曲線であり、特に35℃の吸着温度で6℃という低い冷水を得る場合の相対蒸気圧に相当する0.17の場合でも吸着量が0.122g/gと大きいのに対し、比較例1では0.015g/gしかないことが分かる。また、35℃での吸着時の相対蒸気圧0.17の場合の吸着量と75℃での脱着時の相対蒸気圧0.15の場合の吸着量との差についても、実施例1では0.08g/gであるのに対して、比較例1では0.01g/gと極めて小さいことがわかる。
【0137】
すなわち、本発明のゼオライトを吸着材として使用すると、比較的低温の排熱を利用した場合も、換言すれば、水蒸気の脱着温度が比較的低温でも、吸着温度(Tlow)と脱着温度(Thigh)における吸着量差が大きく、また、出力密度が大きいことが分かる。上記の様な特性を有するゼオライトは、出力密度が十分に大きく、本発明の吸着材として、最も好ましいものの一つである。
【0138】
また、図8,9より、実施例2に比べて、スズの含有量が少ない比較例3の場合は、特に35℃の吸着温度で6℃という低い冷水を得る場合の相対蒸気圧に相当する0.17の場合の吸着量が、実施例2では0.15g/gであるのに対し、比較例3では0.07g/gと十分ではなく、しかも目的の領域で十分な吸着量差が得られず、低温側が高温である場合の吸着材としては、十分な性能を示すことができないことが分かる。
【0139】
また、本発明のゼオライトは、水蒸気繰り返し吸脱着試験後の安定性(耐久性)にも優れているので、吸着ヒートポンプ等に使用した場合に長期間の使用にも耐えることができるため、実用性にも優れている。
このような効果は、スズやチタンを添加すればどのようなゼオライトでも得られる効果ではないことが比較例2の結果から明らかである。
【0140】
[比較例4:種々のFe−Me−AFI型ゼオライトの吸着性能と耐久性比較]
実施例1と同様の方法で、ヘテロ原子が、スズのかわりに、同じモル比になるようにして、ニッケル、ケイ素、コバルト、銅、マグネシウム、ジルコニウムの成分(以上を纏めて「Me」で示す)を加えてFe−Me−AFI型アルミノフォスフェートのゼオライトを合成した。
Meそれぞれの原料は、硝酸ニッケル、fumedシリカ、硝酸コバルト、硝酸銅、硝酸マグネシウム、硝酸ジルコニルを用いた。
これらのゼオライトの35℃での吸着時の水蒸気吸着等温線を測定した。
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行って、維持率を求めた。
各ゼオライトの35℃水蒸気吸着等温線における相対蒸気圧0.17での吸着量と維持率を下記表1に記載した。表1には比較例1のゼオライトと実施例1のゼオライトの値を併記した。
本比較例では、特許文献2,3に記載される種々のMeについて比較試験を行ったが、35℃相対蒸気圧0.17で吸着量が0.1g/g以上かつ維持率が90%以上のものはなかった。
【0141】
【表1】
【0142】
[実施例4,比較例5:吸着ヒートポンプ適用例]
実施例1で得られた本発明の吸着材(ゼオライト)(実施例4)、または公知の吸着材(AQSOA(登録商標)−Z01、三菱樹脂(株)製 AFI型鉄アルミノフォスフェート)(比較例5)を用い、以下の通り熱交換器を作成し、図1に示したような構成の1kW級吸着式冷凍機に用いた場合の適用実験を行った。
【0143】
なお、本発明の吸着材(ゼオライト)は、低い相対蒸気圧で吸着質を吸着する点に特徴がある。この「低い相対蒸気圧で吸着質を吸着する」とは、
(1) 吸着材及び吸着材周囲雰囲気(冷却流体)が高温で吸着可能であること、
または
(2) 冷水をより低温にした条件で吸着可能であること
を示す。
以下の表2の条件は、(1)の状態の実験例であり、表5の条件は、(2)の状態の実験例である。
【0144】
<熱交換器の作成>
吸着材1000gとイオン交換水1000gを混合し、吸着熱により生成する温度を十分に冷ました後に有機バインダーとしてjER1256(三菱化学(株)製品、商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)の水系エマルジョンを添加し、均一に混合してスラリーを調製した。
上記スラリーを用い、アルミニウム製フラットフィンに、塗布重量165gとなるように塗布および加熱乾燥した熱交換器を計4個作成した。これらを図1中の吸着器(1),(2)にそれぞれ2個ずつ設置し、吸着ヒートポンプを作成した。
【0145】
<(1)の条件>
吸着の際の低温熱源として熱媒配管(11)や(21)を通して供給される冷却水の温度(入口温度)を変動させて(27℃、30℃、32℃、35℃)測定を行った。表2に主な実験条件を示す。
実験条件において、冷却水温度以外は一定値とした。温水温度はそれぞれの条件で吸着材の出力が限界に達してこれ以上には向上しえない状態になる最低温度とした。なお、温水の温度は、脱着の際の高温熱源として熱媒配管(11)や(21)を通して供給される温水の温度(入口温度)であり、冷水の温度は冷房出力となる冷水配管(41)を通り、蒸発器(4)に供給される冷水の温度(入口温度)、および冷水配管(42)を通る蒸発器(4)の冷水温度(出口温度)として、出力性能(kW)を評価し、公知の吸着材を使用した場合(比較例5)の結果(表3)と、本発明の吸着材を使用した場合(実施例4)の結果(表4)を示した。また、この結果を纏めて図11に示した。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
この結果、低温熱源である冷却水温度(吸着材温度)が低ければ、公知の吸着材(比較例5)でも本発明の吸着材(実施例4)でも冷却出力に大きな差は無いが、冷却水温度が高いほど、冷却出力が高く、その差が顕著であることが分かった。
【0150】
<(2)の条件>
上記(1)の条件に対して、冷却水温度(低温熱源)を32℃に固定し、冷水流量を一定にし、温水温度(高温熱源温度)は公知の吸着材(比較例5)では、吸着材の出力が限界に達してこれ以上には向上しえない状態になる最低温度とし、本発明の吸着材(実施例4)では、80%の出力となる状態となる温度とし、冷水温度を9℃または7℃として冷却出力を測定した場合の条件(表5)と、結果(比較例5=表6、実施例4=表7)を示した。
また、これらの結果を図12に示した。
【0151】
【表5】
【0152】
【表6】
【0153】
【表7】
【0154】
その結果、図12から明らかなように、吸着式冷凍機から取り出せる冷水温度が低い場合ほど(冷水入口温度が9℃の場合に比べて、7℃の場合の方が)、公知の吸着材(比較例5)に比べて本発明の吸着材(実施例4)の方が、冷却出力(kW)が相対的に高くなり、その差異が大きいことが分かる。
【符号の説明】
【0155】
1 吸着器
11 熱媒配管
115 切替バルブ
116 切替バルブ
2 吸着器
21 熱媒配管
215 切替バルブ
216 切替バルブ
3 戻し配管
30 吸着質配管
31 制御バルブ
32 制御バルブ
33 制御バルブ
34 制御バルブ
300 室内機
301 ポンプ
4 蒸発器
41 冷水配管
42 冷水配管
5 凝縮器
51 入口配管
52 出口配管
81 固体高分子型燃料電池(PEFC)
82 熱交換器
83 集熱器
84 貯湯タンク
85 温水ボイラ
86 貯湯タンク
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なゼオライトおよびこのゼオライトを用いた吸着材と、該吸着材を用いた吸着ヒートポンプ、および該吸着ヒートポンプの運転方法に関するものであり、詳しくは、温暖化による外気温の上昇に伴い、夏場の高温下においても低温の冷水を製造することができ、かつ繰り返し使用条件においても優れた性能安定性、耐久性を示す新規なゼオライト系の吸着材、ならびに、当該吸着材を使用した吸着ヒートポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライトについては、分子ふるい、イオン交換材料、触媒、吸着材料等として、様々な性質を持つゼオライトが合成されており、工業的にも重要な物質となっている。また、その用途についても、それぞれの性質を利用して、触媒、触媒担体、廃水処理、排ガス処理、鮮度保持(エチレン吸着)、洗剤(ビルダー・クレンザー)、制菌、乾燥剤、脱臭剤、土壌改良剤等の用途が知られており、さらに他の用途への応用も検討されている。
【0003】
一方、近年、コージェネレーションシステムにおいては、冬場の電力・熱需要に対する夏場の電力需要の偏りに対応するため、吸着材の蓄熱機能を利用し、内燃機関などから排出される低温の排熱を有効活用することが検討されている。コージェネレーションシステムを含む環境共生型熱エネルギー利用システムにおいて、吸着ヒートポンプは、補助動力を用いることなく、低質熱エネルギーを熱源として作動させ得る最も優れた排熱回収手段の一つであり、その本格導入が期待されている。
【0004】
吸着ヒートポンプは、吸着材の吸着・脱着現象に付随して起こる相変化を利用して熱の汲み上げを行うシステムであり、吸着材によって水などの吸着質を吸着・脱着する吸着器と、吸着器における吸着操作に伴って吸着質の蒸発により冷熱を生成する蒸発器と、吸着器で脱着された吸着質の蒸気を凝縮させて蒸発器に供給する凝縮器とから主に構成される。吸着ヒートポンプの作動過程においては、吸着材を加熱再生する際、エンジン等の排熱を回収する場合もある。
【0005】
このような吸着ヒートポンプに利用可能な熱源の温度は、排熱発生側のシステムによって大きく異なる。例えば、高温側の熱源として利用されるガスエンジンコージェネレーションや固体高分子型燃料電池の排熱温度は60℃〜80℃であり、自動車エンジンの冷却水の温度は85℃〜90℃である。一方、冷却側の熱源温度も装置の設置場所によって異なる。例えば、自動車の場合はラジエーターで得られる温度であり、ビルや住宅などでは水冷塔や河川水などの温度である。従って、吸着ヒートポンプの操作温度範囲は、一般に、ビルなどに設置する場合には低温側が25〜40℃、高温側が60〜80℃、自動車などに設置する場合には低温側が30〜40℃、高温側が85〜90℃程度である。
吸着ヒートポンプによりこれらの排熱を効率的に利用するためには、低温側熱源の温度と、高温側熱源の温度差が小さい場合でも、駆動できることが望まれている。
【0006】
吸着ヒートポンプをコージェネレーションシステム等に適用する場合、特に、吸着材の吸着特性が重要な要素である。
【0007】
すなわち、上記の様な排熱を効率的に利用するための吸着材の特性としては、吸着材の周囲の低温側熱源と高温側熱源の温度差が小さく、例えば低温側の熱源の冷却能力が比較的弱く、比較的高い温度になる空冷式による場合でも、装置を充分に作動させるために、低い相対蒸気圧で吸着質を吸着する必要があり、また、装置を小型化するため、吸着材の吸脱着量が十分に大きい必要がある。そして、吸着材の再生に低温熱源を利用するため、脱着温度が低い必要がある。
【0008】
このような要求特性に対して、一般的な吸着材、例えば、Y型ゼオライトは、吸着物質を脱着させるべく相対蒸気圧を0とするために、150〜200℃あるいはそれ以上の高温にする必要があり、低温排熱には適さない。また、A型シリカゲル、13X等のゼオライトは、吸着性能が低いため、上記のシステムに適用しようとすると、吸着時に使用する冷媒を含め、吸着材が大量に必要となり、装置の大型化などの問題を惹起する。また、同様の目的で検討されているメソポーラスシリカ(FSM−16等)は、界面活性剤のミセル構造を鋳型として合成したものであり、低い相対蒸気圧では吸着しないため、実際、コージェネレーション機器や燃料電池などの冷却水から得られる低温排熱を利用し難いと言う問題がある。
【0009】
しかして、これら吸着材自体の吸着特性の改善も試みられているが、ゼオライト等の吸着材は構造が壊れ易く、しかも、工業的に製造し難いためにコストが嵩むと言う問題も指摘されている。
【0010】
上記の様な問題に対し、本発明者等は、先に、吸着ヒートポンプ用の吸着材として、より低い相対蒸気圧ないしはより高温で吸着質を吸着し、より高い相対蒸気圧ないしはより低温で吸着質を脱着し、しかも、吸脱着量の一層大きな吸着材として、骨格構造にアルミニウムとリンとヘテロ原子とを含むゼオライトを用いた吸着材、ならびに、当該吸着材を使用した吸着ヒートポンプを提案した(特許文献1)。斯かる吸着材は、25℃の水蒸気吸着等温線における相対蒸気圧が0.05以上且つ0.30以下の範囲で、相対蒸気圧が0.15変化したときの吸着量変化が0.18g/g以上の相対蒸気圧域を有し、また、フレームワーク密度が10.0T/1,000Å3以上で且つ16.0T/1,000Å3以下である。
【0011】
また、特許文献2や特許文献3には、骨格構造にアルミニウムとリンと鉄とを含むゼオライトから成る吸着材が記載され、該アルミニウムとリンと鉄以外に、「他の元素(M)が含まれていても良い」との記載があり、該他の元素として、チタンやスズも例示されているが、他の元素(M)が含まれている具体例の記載は無い。しかも、M/Feのモル比は「3以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは0.5以下であり、M/Feがこの範囲にない場合は、本発明における吸着性能が十分あらわれない」といった記載からも明らかなように、ここでの他の元素(M)は、鉄アルミノフォスフェートの性能の向上に寄与しない、むしろ含有される必要がないものとして記載されている。また、特許文献2,3には、該他の元素(M)の中で、スズやチタンが特に性能を向上させることについても、AFI型ゼオライトに有効であることについても、何ら示唆されていない。
【0012】
特許文献4には、骨格構造にアルミニウムとリンとガリウムとを含むゼオライトから成る吸着材が記載されているが、鉄とスズまたは鉄とチタンの組み合わせの記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−372332号公報
【特許文献2】特開2004−136269号公報
【特許文献3】特開2005−205331号公報
【特許文献4】特開2005−230738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、コージェネレーションシステムの排熱利用においては、一層の省エネルギー化を図る観点から、より低温の排熱をより高温の環境において有効利用する技術が求められている。具体的には、高温側熱源としての排熱温度が60〜80℃であるのに対し、低温側の熱源温度は、例えば、工場や住宅などに空調用として吸着ヒートポンプを使用しようとした場合、建物の断熱効果などを考慮すると、外気温度から10℃程度高い温度となる。このようなことから、従来のゼオライトに比べて、より低温の排熱を利用することができ、かつ、吸脱着における吸着量差が大きく、より大きな吸着性能を発揮し得る新たな吸着材、すなわち、低い相対蒸気圧域で吸着質を吸脱着でき、例えば、低温側の熱源温度が35℃、高温側の熱源温度が75℃のような、低温側が比較的高い温度で高温側が比較的低く、それらの温度差が小さい条件でも吸着ヒートポンプを十分に運転させ得る吸着材が要望されている。また、生成する冷水も10℃以下、できれば8℃以下、場合によっては6℃以下の低温が求められており、その点においてもより低い相対蒸気圧で吸着可能であり、かつ低温で脱着が可能な吸着材が要望されている。
【0015】
本発明は、このような低い相対蒸気圧域で吸着質を吸脱着することができ、低温側が空冷式あるいは水冷式に依らず、比較的高い温度で、高温側が比較的低く、それらの温度差が小さい条件でも十分に吸着ヒートポンプを運転させることができる吸着材と、この吸着材を使用した効率の良い吸着ヒートポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、骨格構造にアルミニウムとリンと鉄に加えて、所定の割合でスズおよび/またはチタンを有するAFI型のゼオライトは、アルミニウムとリンと鉄のみからなるゼオライトの性能が向上されたものであり、スズおよび/またはチタンは、他の多くの金属と比べてもその性能変化が大きいこと、この効果はAFI型ゼオライトに特有のものであることを知見し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明の第1の発明は、骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が
0.25<M/Fe<1.0
であり、好ましくは
0.5<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト、に存する。
本発明の第2の発明は、該ゼオライトを用いた吸着材、に存する。
本発明の第3の発明は、該吸着材を用いた吸着ヒートポンプ、に存する。
本発明の第4の発明は、該吸着ヒートポンプの運転方法、に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のゼオライトは、吸着材、分離剤、触媒、触媒担体等として有用であり、種々の応用分野に用いられるが、中でもこれを用いた吸着材は、例えば、低温側の熱源温度が35℃、高温側の熱源温度が75℃以下というような、温度差が小さく、低い相対蒸気圧域で吸着質を吸脱着することができ、しかも、吸着質の吸脱着における吸着量差が大きいため、低温の熱を有効に利用することができ、効率よく吸着ヒートポンプを駆動させることができる。また、この吸着材は、吸着質の繰り返し吸脱着における耐久性が高いため、吸着ヒートポンプ等として用いる場合の実用性、信頼性が高い。
【0019】
このような本発明の吸着材を用いた吸着ヒートポンプによれば、低温の熱で効率よく駆動するため、コージェネレーションシステム等の排熱を有効に活用でき、一層の省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る吸着ヒートポンプ用吸着材の適用例としての吸着ヒートポンプの一構成例を示すフロー図である。
【図2】本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として固体高分子型燃料電池の排熱を利用した冷熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図3】本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として太陽熱利用給湯器の温熱を利用した冷熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図4】本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として内燃機関利用のコージェネレーションシステムの低温排熱を利用した冷熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図5】本発明に係る吸着ヒートポンプを使用した温熱生成システムの一例を示す構成図である。
【図6】実施例1で得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのX線回折(XRD)パターンである。
【図7】実施例1および比較例1における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線、および75℃での脱着過程における水蒸気脱着等温線のグラフである。
【図8】実施例2における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線のグラフである。
【図9】比較例3における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線のグラフである。
【図10】実施例3における35℃での吸着過程における水蒸気吸着等温線のグラフである。
【図11】実施例4と比較例5の吸着ヒートポンプの冷却水温度に対する冷却出力性能の評価結果を示すグラフである。
【図12】実施例4と比較例5の吸着ヒートポンプの冷水温度に対する冷却出力性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のゼオライト、吸着材、吸着ヒートポンプ、および該吸着ヒートポンプの運転方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明は、これらの内容に特定されるものではない。
【0022】
本発明の第1の発明は、骨格構造にアルミニウム(Al)、リン(P)、鉄(Fe)およびM(Mはスズおよび/またはチタン)とを含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が、
0.25<M/Fe<1.0
であり、好ましくは
0.5<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト、であって、骨格構造に鉄(Fe)とヘテロ原子M(Mはスズおよび/またはチタン)を含むアルミノフォスフェートであるAFI構造のゼオライトであると言い換えることもできる。
【0023】
AFI型のゼオライトとは、国際ゼオライト学会(International zeolite association(IZA))がDatabase of Zeolite Structuresで分類しているAFI構造を有するものであり、XRD(X-ray diffraction)分析により決定される。
【0024】
本発明のゼオライトにおけるM/Feモル比は、
0.55≦M/Fe≦0.95
であることがより好ましく、
0.60≦M/Fe≦0.90
であることが特に好ましい。M/Feモル比が上記下限より大きいことにより、低い相対蒸気圧域での吸着量が大きくなり、上記上限より小さいことにより、脱着の温度を低くすることができ、好ましい。
【0025】
また、Mはスズ(Sn)、チタン(Ti)のいずれでもよいが、スズであることが吸着量および耐久性の面でチタンより優れており、より好ましい。
【0026】
このように、ゼオライトの骨格構造にアルミニウムとリンと鉄に加えて、所定の割合でスズおよび/またはチタンを有する本発明のAFI型のゼオライトは、アルミニウムとリンと鉄のみからなるゼオライトに比べて性能に優れ、スズおよび/またはチタンによる効果は他の多くの金属と比べてもその性能変化が大きい。
該性能変化としては、特に吸着材として有効な性能であり、中でも、吸着ヒートポンプ用の吸着材として非常に有効である。すなわち、本発明のゼオライトは、特定の温度領域で吸脱着し、かつ、吸脱着における吸着質の吸着量差が大きく、更に、繰り返し吸脱着条件下での耐久性が高いゼオライトである。この耐久性としては、後述の実施例における水蒸気繰り返し吸脱着試験の条件における維持率が90%以上であるのが好ましく、特に好ましくは該維持率93%以上である。
また、この性能向上の変化は、他の一般的な骨格構造を有するゼオライトの場合においても必ずしも認められるものではなく、AFI型ゼオライト特有の効果である。
【0027】
また、本発明のAFI型ゼオライトの骨格構造を構成しているM、Al、PおよびFeの構成割合(モル比)は、下記式(1)〜(3)を満たす範囲であることが好ましく、特に式(1)については式(1-1)、更に式(1-2)で表されることが好ましい。
【0028】
0.001≦x≦0.3 …(1)
(xは(Fe+M)/(M+Al+P+Fe)(モル比)を表す)
0.03≦y≦0.6 …(2)
(yはAl/(M+Al+P+Fe)(モル比)を表す)
0.03≦z≦0.6 …(3)
(zはP/(M+Al+P+Fe)(モル比)を表す))
0.003≦x≦0.2 …(1-1)
0.005≦x≦0.1 …(1-2)
【0029】
x,y,zがそれぞれ前記の範囲内であることにより、所望の吸着特性が得られ、またゼオライトを形成することができ、耐久性も十分なものとすることができる。
【0030】
なお、上記の原子の各モル比は元素分析により特定することができる。通常、元素分析においては、塩酸水溶液で試料を加熱溶解した後、ICP分析を行う。
【0031】
本発明のゼオライトの製造方法については特に限定されるものではないが、通常、アルミニウム源、鉄源、リン源、M(スズおよび/またはチタン)源およびテンプレートを混合した後、水熱合成して製造される。
以下、その一例を説明する。
【0032】
先ず、アルミニウム源、鉄源、リン源、M(スズおよび/またはチタン)源、および、テンプレートを混合する。
【0033】
アルミニウム源としては、特に限定されないが、通常、擬ベーマイト、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド等のアルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。取扱いが容易な点および反応性が高い点で、アルミニウム源としては擬ベーマイトが好ましい。
【0034】
鉄源として特に限定はされないが、通常、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄等の無機酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄等の有機酸鉄、鉄ペンタカルボニル、フェロセン等の鉄有機金属化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、無機酸鉄、有機酸鉄が水に溶けやすい点で好ましく、中でも、硝酸第二鉄、硫酸第一鉄などの無機酸鉄化合物がより好ましい。場合によってはコロイド状の鉄水酸化物等を使用してもよい。
【0035】
リン源としては、通常、リン酸が用いられるが、リン酸アルミニウムを使用することもできる。リン源についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
M(スズおよび/またはチタン)源としては、Mがスズの場合は、硫酸スズ(II)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、シュウ酸スズ(II)、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、ステアリン酸スズ(II)などが挙げられるが、比較的水に溶けやすく、腐食を起こしにくい点から、硫酸スズ(II)が好ましい。
Mがチタンの場合は、チタンイソプロポキシド、チタンエトキシド、チタンブトキシドなどのチタンアルコキシド、塩化チタン、硫酸チタニルなどのチタン塩などが挙げられるが、反応性、取り扱いやすさの点等からチタンアルコキシドが好ましい。
これらM源についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
AFIのテンプレートとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩、モルホリン、ジ−n−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−イソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン、シクロヘキシルアミン、2−メチルピリジン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、コリン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルピペリジン、3−メチルピペリジン、N−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、キヌクリジン、N,N’−ジメチル−1,4−ジアザビシクロ−(2,2,2)オクタンイオン、ジ−n−ブチルアミン、ネオペンチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、イソプロピルアミン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、ピロリジン、2−イミダゾリドン、ジ−イソプロピル−エチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、ヘキサメチレンイミン等の1級アミン、2級アミン、3級アミン、ポリアミンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジ−n−イソプロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドが反応性の点で好ましく、工業的にはより安価なトリエチルアミンが一層好ましい。
【0038】
上記のアルミニウム源、鉄源、リン源、M源、およびテンプレートを混合して水性ゲルを調合する。混合順序は条件により異なるが、通常は、先ず、リン源、アルミニウム源を混合し、これに鉄源およびM源と、テンプレートとを混合する。鉄源とM源とは、予め混合してから、リン源およびアルミニウム源の混合物と混合しても良いが、鉄源とM源とを同時、或いは逐次的に混合しても良く、好ましくは鉄源の混合後に、M源を混合するのが好ましい。
【0039】
水は、リン源とアルミニウム源との混合時に存在していることが好ましく、この混合物に更に鉄源およびM源を混合する際に水を追加して混合してもよい。また、リン源等は水溶液の形で混合に供してもよい。
【0040】
上記の水性ゲルの組成は、通常、酸化物のモル比で表して、0.01≦FeO/P2O5≦1.5であり、更に合成のし易さの観点からは、0.02≦FeO/P2O5≦1.0が好ましく、0.05≦FeO/P2O5≦0.5がより好ましい。また、P2O5/Al2O3のモル比は、0.6以上で且つ1.7以下であり、更に合成のしやすさの観点からは、0.7以上で且つ1.6以下が好ましく、0.8以上で且つ1.5以下がより好ましい。
【0041】
また、テンプレートの使用量はP2O5に対してモル比で0.1〜3であり、好ましくは0.5〜2、より好ましくは0.7〜1.5である。テンプレートの使用量が上記下限以上であるとテンプレート量が十分となり、上記上限以下であるとアルカリ濃度を抑えることができ、従って、上記範囲内であることにより良好な結晶化を行うことができる。
【0042】
また、水の割合の下限は、Al2O3に対してモル比で3以上であり、合成のし易さの観点からは5以上が好ましく、10以上がより好ましい。Al2O3に対する水のモル比の上限は通常200以下で、合成のし易さおよび生産性の高さの観点からは150以下が好ましく、120以下がより好ましい。
また、水性ゲルのpHは4〜10であり、合成のし易さの観点からは4.5〜9が好ましく、5.0〜8.5がより好ましい。
【0043】
なお、各水性ゲル中には、所望により、上記以外の成分を共存させてもよい。この様な成分としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や塩、アルコール等の親水性有機溶媒が挙げられる。
【0044】
水熱合成は、上記の水性ゲルを耐圧容器に入れ、自己発生圧下、または、結晶化を阻害しない気体の加圧下において、攪拌または静置状態で所定温度を保持することにより行われる。水熱合成の際の温度は通常100〜300℃であり、合成のし易さの観点からは150〜250℃が好ましく、170〜220℃がより好ましい。反応時間は、3時間〜30日であり、合成のし易さの観点からは5時間〜15日が好ましく、7時間〜7日がより好ましい。
【0045】
水熱合成後は、生成物を分離し、次いで、水洗、乾燥した後、空気などを使用した焼成を施し、含有する有機物の一部または全部を除去することにより、本発明のゼオライトを得ることができる。
【0046】
本発明の第2の発明である吸着材は、基本的に上記の本発明のゼオライトから成るものであるが、その性能を損わない範囲において、他の吸着材を混合したり、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。またその吸着材の用途は特に限定されないが、吸着ヒートポンプに使用することが好ましい。
【0047】
本発明の吸着材が使用される吸着ヒートポンプとしては、吸着熱を放出しつつ前記吸着材に吸着質を吸着する吸着操作と、外部の温熱により前記吸着材から吸着質を脱着する脱着操作とを繰り返す吸着器と、吸着質の蒸発により得られた冷熱を外部へ取り出すと共に、発生した吸着質の蒸気が前記吸着器に回収される蒸発器と、前記吸着器で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷熱により凝縮させると共に、凝縮した吸着質を前記蒸発器に供給する凝縮器とを備える本発明の吸着ヒートポンプが挙げられる。
【0048】
吸着材を用いた吸着ヒートポンプにおいて、吸着ヒートポンプの操作蒸気圧範囲は、高温熱源温度(Thigh)、低温熱源温度(Tlow1)、低温熱源温度(Tlow2)および冷熱生成温度(Tcool)から求められる脱着側相対蒸気圧(φ1)と吸着側相対蒸気圧(φ2)によって決定される。脱着側相対蒸気圧(φ1)と吸着側相対蒸気圧(φ2)は、以下の式(a),(b)により算出され、脱着側相対蒸気圧(φ1)と吸着側相対蒸気圧(φ2)との間が操作可能な相対蒸気圧範囲である。
【0049】
脱着側相対蒸気圧(φ1)=平衡蒸気圧(Plow1)/平衡蒸気圧(Phigh)
…(a)
吸着側相対蒸気圧(φ2)=平衡蒸気圧(Pcool)/平衡蒸気圧(Plow2)
…(b)
【0050】
ここで、高温熱源温度(Thigh)とは、吸着材から吸着質を脱着して吸着材を再生する際に加熱する熱媒の温度を意味し、低温熱源温度(Tlow1)とは、凝縮器の吸着質の温度を意味し、低温熱源温度(Tlow2)とは、再生後の吸着材を吸着に供する際に冷却する熱媒の温度を意味し、冷熱生成温度(Tcool)とは、蒸発器の吸着質の温度すなわち生成した冷熱の温度を意味する。上記の式中、平衡蒸気圧(Plow1)、(Phigh)、(Pcool)および(Plow2)は、夫々、上記の各温度(Tlow1)、(Thigh)、(Tcool)および(Tlow2)における平衡蒸気圧を示し、これらは吸着質の平衡蒸気圧曲線を利用して、温度から求めることができる。
通常Tlow1とTlow2は同じ温度になる場合が多いので、以下まとめてTlowと記載する場合がある。
【0051】
本発明の吸着材は、特に吸着ヒートポンプにおいて、Tcoolが10℃よりも低く、Tlowが比較的高く、Thighが比較的低い場合に適している。この吸着ヒートポンプにおいて、吸着質が最も一般的な水である場合の、Tcoolが10℃よりも低く、Tlowが比較的高く、Thighが比較的高い操作蒸気圧範囲を例示すると、吸着側相対蒸気圧(φ2)は、冷熱生成温度(Tcool)が6℃、低温熱源温度(Tlow2)が35℃の場合で0.17となる。また、脱着側相対蒸気圧(φ1)は、低温熱源温度(Tlow1)が35℃、高温熱源温度(Thigh)が75℃の場合で0.15となる。従って、吸着ヒートポンプを作動する相対水蒸気圧範囲(脱着側相対蒸気圧(φ1)から吸着側相対蒸気圧(φ2)の範囲)は0.15〜0.17となり、吸着材としてはこの範囲で吸着量の変化の大きなもの、具体的には好ましくは0.07g/g以上、より好ましくは0.09g/g以上であることが好ましい。
【0052】
本発明のゼオライトを用いた吸着材を使用した吸着ヒートポンプの運転方法は、以下のような条件で使用した場合、特に優れた性能を示す。
【0053】
本発明においては、比較的高温の環境で吸着ヒートポンプを使用するため、吸着材の吸着温度(Tlow)は25〜45℃が好ましい。吸着温度(Tlow)の上限は、夏期の外気温度に応じて決定され、コージェネレーション装置の設置場所の条件変動などを考慮して35〜45℃程度である。吸着温度(Tlow)の下限に関しては特に限界はないが、例えば、家庭用コージェネレーション装置へ組み込まれる固体高分子型燃料電池が夏期の朝方に作動する様な場合を想定し、かつ、比較的高温の環境で使用することを想定すると、吸着温度(Tlow)の下限は、通常25〜30℃、好ましくは30℃以上である。すなわち、吸着温度(Tlow)は、一般的には25〜45℃、好ましくは30〜43℃、更に好ましくは35〜40℃である。
【0054】
具体的には、水蒸気を吸脱着して運転する吸着ヒートポンプの場合は、水蒸気の吸着温度(Tlow)を25〜45℃としたとき、水蒸気の脱着温度(Thigh)および冷熱生成温度(Tcool)が次式(1)および(2)を満たす条件で運転する方法であり、この場合、吸着温度(Tlow)における水蒸気吸着量と脱着温度(Thigh)における水蒸気吸着量との差が0.07g/g以上、好ましくは0.09g/g以上であることが可能となる。
【0055】
Thigh≦100℃ …(1)
0℃≦Tcool≦10℃ …(2)
(好ましくは、0℃≦Tcool≦8℃、より好ましくは0℃≦Tcool≦6℃)
一方、従来技術では、せいぜい
Tlow−25℃<Tcool<25℃
であった。すなわち、Tlow≦30℃の場合であれば、前記式(2)のような条件の運転も可能であったが、Tlow≧35℃では、そのような条件での運転は不可能であった。
【0056】
また、吸着温度(Tlow)と脱着温度(Thigh)との温度差が大きく、脱着温度(Thigh)が100℃より大きい運転条件とすると、従来技術に対して利点がなく、しかも実用的な運転条件ではないので、本発明では、好ましくは吸脱着温度差(Thigh−Tlow)が極めて小さい(すなわち、吸着と脱着の相対蒸気圧の差が非常に小さい)条件での使用条件であることを特徴とする運転条件とする。
【0057】
本発明の吸着材を使用すると、比較的高い吸着温度(Tlow)に対して極めて低い冷熱の取り出しが可能であることに特徴がある。
【0058】
上記の冷熱生成温度(Tcool)とは、吸着質が吸着されることにより蒸発潜熱を奪われて冷やされた際の吸着質の温度、すなわち、吸着される水の吸着前後の平均温度であり、吸着質量と吸着量の関係から一義的に決まる温度である。斯かる温度については、より低い方が生成熱としての価値は大きいが、下限は利用可能な温度の価値を基準に決定される。従って、式(2)は、水蒸気を用いた吸着ヒートポンプであるため、冷熱生成温度(Tcool)は0℃以上であることが必要である。一方、冷熱生成温度(Tcool)は10℃以下であり、好ましくは8℃以下、更に好ましくは6℃以下である。
【0059】
吸着材に要求される特性の1つとして、吸着量差、すなわち、吸着温度(Tlow)における水蒸気吸着量と脱着温度(Thigh)における水蒸気吸着量との差が挙げられる。吸着量差は、[1]吸着温度(Tlow)における吸着等温線と、[2]脱着温度(Thigh)における吸着等温線とを用いて、[a]冷熱生成温度(Tcool)と吸着温度(Tlow)から決定される相対湿度(吸着側相対蒸気圧)での吸着量と、[b]吸着温度(Tlow)と脱着温度(Thigh)から決定される相対湿度(脱着側相対蒸気圧)での吸着量の差を意味する。
【0060】
吸着量差は、具体的には次の1)〜4)に従って求められる。
1)吸着温度(Tlow)における吸着等温線および脱着温度(Thigh)における吸着等温線を測定する。
2)設定する冷熱生成温度(Tcool)と吸着温度(Tlow)とから決定される相対蒸気圧を求め、その相対蒸気圧(吸着側相対蒸気圧)における水蒸気吸着量をTlowの吸着等温線から求める。
3)同様に、脱着温度(Thigh)と吸着温度(Tlow)とから決定される相対蒸気圧を求め、その相対蒸気圧(脱着側相対蒸気圧)における水蒸気吸着量をThighの吸着等温線から求める。
4)上記の2)および3)で求められた各水蒸気吸着量の差を求める。吸着側相対蒸気圧における水蒸気吸着量は、「吸着温度(Tlow)で測定した吸着等温線」、すなわち、例えば吸着温度(Tlow)=35℃の吸着等温線から求めることができ、図7の実施例1の場合、相対蒸気圧は0.24、そのときの水蒸気吸着量は0.12g/gと読める。同様に、脱着側相対蒸気圧は、「脱着温度(Thigh)で測定した吸着等温線」、すなわち、例えば脱着温度(Thigh)=75℃の吸着等温線から求めることができ、相対蒸気圧0.15のときの水蒸気吸着量は約0.04g/gと読める。これから、両者の間の吸着量差は0.08g/gとなる。
【0061】
本発明の吸着材は、35℃で測定した水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.17において、吸着量が0.10[g・H2O/g・吸着材]以上、特に0.12g/g以上であることが好ましい。吸着量が上記下限値以上であることにより、所定の能力の吸着ヒートポンプに必要とする吸着材の容積を小さくすることができ、装置の大型化を防止することができる。
【0062】
上記の吸着量差の違いは、具体的には吸着ヒートポンプにおいて以下の様に影響する。
例えば、吸着ヒートポンプを冷房装置として使用し、5.0kW(=18,000kJ)の冷房能力(木造南向き和室16畳程度の冷房能力)を得る場合を想定すると、吸着材の吸着量差が0.08g/gの場合、吸着ヒートポンプにおける吸着材の必要量は、以下の式により15.0kgとなる。ただし、水の蒸発潜熱量は約2500kJ/kgであり、吸脱着の切り替えサイクルを10分(6回/時間)とする。
【0063】
吸着材必要量=
18000kJ/(2500kJ×0.08kg/kg×6回/hr)=15.0kg
【0064】
吸着ヒートポンプにおいて、吸着量は多い程良いが、吸着材の重量および容積は少ない程良い。すなわち、吸着ヒートポンプにおいては、設置面積に制約を受ける場合が多いため、より小型化を図った上でより大きな性能が求められる。従って、吸着材としては、吸着量差に関して上記の要件を満足するものがよい。吸着量差が小さい場合には、吸着材の必要量が大きくなり、装置が大型化するので好ましくない。例えば、吸着材の吸着量差が0.05g/gであった場合、上記式で算出される吸着材の必要量が24kgとなる。
【0065】
本発明の吸着材は、上記の様な吸着特性を備えていることにより、前記の如く、低温側熱源の温度が35℃で且つ高温側熱源の温度が75℃と言う厳しい条件でも吸着ヒートポンプを運転することができ、また、上記の様に大きな吸着量差を有していることにより、吸着ヒートポンプを一層コンパクトに構成できる。
【0066】
また、本発明の吸着材は、蓄熱材でもあるから、その特性を出力の面から規定することができる。すなわち、吸着材の出力密度(単位質量当たりの出力)は、上記の吸着量差、蒸発潜熱および吸着ヒートポンプでの吸脱着サイクルによって特定できる。例えば、吸着量差が0.08g/g、水の蒸発潜熱が約2500kJ/kgであり、10分サイクルで水を吸着したとすると、吸着材の出力密度は、以下の演算の様に0.33kw/kgとなる。吸着材の出力密度は、吸着量差と同様に、より大きい方が望ましいが、吸着材の材料上の制約や吸着ヒートポンプにおける吸着サイクルの設計上の制約から、1.5kw/kg程度以下である。
【0067】
吸着材の出力密度:吸着量差×蒸発潜熱/サイクル時間
=0.08×2500/600=0.33kW/kg
【0068】
また、吸着材の出力密度については、吸着ヒートポンプを実稼動させる場合の装置の大きさを考慮して設計する必要がある。通常、吸着ヒートポンプにおいては、吸着質を吸着・脱着する吸着器(吸着器モジュール)が少なくとも2基以上設けられており、これらの切替操作により装置全体として吸着機能を連続的に発揮する。しかも、各吸着器は、例えば、特開2001−213149号公報などに記載の様に、多数のフィン等から成る熱交換部材の表面に吸着材を付着させ、且つ熱交換部材を密閉容器内に収容した構造を備えている。そして、吸着器においては、吸着材が占有する部分と、熱交換部材自体が占有する部分とが存在し、吸着材が占める容積は実質的に約50%である。
【0069】
従って、実際のスケールからすると、吸着器における吸着材の充填密度は、最大で800kg/m3、最小で500kg/m3、平均で600kg/m3であるため、吸着器に要求される単位容積あたりの出力密度は、吸着材の吸着材の出力密度を0.33kw/kgとすると、以下の式から約100kw/m3となる。吸着器の出力密度の上限と下限は、吸着材の出力密度に依存し、通常は80〜450kw/m3程度である。
【0070】
吸着器(吸着器モジュール)の出力密度:
吸着材の出力密度×充填密度×吸着材の占める容積割合
=0.33×600×0.5=99kW/m3
【0071】
次に、上記の吸着材の適用例として、本発明の吸着ヒートポンプについて図1に基づいて説明する。図1は、本発明の吸着材が好適に適用される本発明の吸着ヒートポンプの構成の一例を示すフロー図である。
【0072】
本発明の吸着ヒートポンプは、上記の吸着材を使用した吸着ヒートポンプであり、概略、図1に示す様に、内部に吸着材を充填して成り、吸着熱を放出しつつ吸着材に吸着質を吸着する吸着操作、および、外部の温熱により吸着材から吸着質を脱着する脱着操作を繰り返すと共に、吸着質の吸着操作により発生した熱を熱媒に伝達する吸着器(1)および(2)と、吸着質の蒸発により得られた冷熱を外部へ取り出すと共に、発生した吸着質の蒸気が吸着器(1)および(2)に回収される蒸発器(4)と、吸着器(1)および(2)で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷熱により凝縮させると共に、凝縮した吸着質を蒸発器(4)に供給し且つ吸着質の凝縮により得られた温熱を外部へ放出する凝縮器(5)とを備えている。
【0073】
吸着材が充填された吸着器(1)および(2)は、各入口側および各出口側がそれぞれ吸着質配管(30)により相互に接続され、吸着質配管(30)には、制御バルブ(31)〜(34)が設けられる。なお、吸着質配管(30)内において、吸着質は、蒸気または液体と蒸気の混合物として存在する。
【0074】
一方の吸着器(1)には熱媒配管(11)が接続され、他方の吸着器(2)には熱媒配管(21)が接続される。熱媒配管(11)には、切替バルブ(115)および(116)が設けられ、熱媒配管(21)には、切替バルブ(215)および(216)が設けられる。そして、熱媒配管(11)および(21)は、各々、吸着器(1)および(2)内の吸着材を加熱するための加熱源となる熱媒、または、吸着材を冷却するための冷却源となる熱媒が流れる様になされている。熱媒としては、吸着器(1)および(2)内の吸着材を有効に加熱または冷却し得る限り、各種の媒体を使用できる。
【0075】
吸着器(1)は、脱着操作の際、切替バルブ(115)および(116)の開閉により、入口(113)より媒体として例えば温水を導入し、出口(114)に排出する様に構成されている。また、吸着操作の際、切替バルブ(115)および(116)の開閉により、入口(111)から例えば媒体として冷却水を導入し、出口(112)に排出する様に構成されている。一方、吸着器(2)は、脱着操作の際、切替バルブ(215)および(216)の開閉により、入口(213)より例えば媒体として温水を導入し、出口(214)に排出する様に構成されている。また、吸着操作の際、切替バルブ(215)および(216)の開閉により、入口(211)より媒体として例えば冷却水を導入し、出口(212)に排出する様に構成されている。
【0076】
なお、図示しないが、熱媒配管(11)および(21)には、温水を供給するため、温水を発生する熱源、温水を循環するポンプが接続され、また、冷却水を供給するため、外気と熱交換可能な室外機が接続される。熱源としては、後述する様に、ガスエンジン、ガスタービン等のコージェネレーション機器や燃料電池などを利用できる。
【0077】
吸着器(1)および(2)の入口側の吸着質配管(30)には蒸発器(4)が接続され、吸着器(1)および(2)の出口側の吸着質配管(30)には凝縮器(5)が接続されている。すなわち、上記の吸着器(1)および(2)は、蒸発器(4)と凝縮器(5)の間に並列に配置されており、そして、凝縮器(5)と蒸発器(4)の間には、凝縮器(5)にて凝縮された吸着質を蒸発器(4)に戻すための戻し配管(3)が設けられている。なお、符号(41)は蒸発器(4)からの冷房出力となる冷水配管、符号(42)は冷水の出口となる冷水配管をそれぞれ示し、冷水配管(41)と冷水配管(42)の間には、室内空間(空調空間)と熱交換するための室内機(300)、および、冷水を循環するポンプ(301)が配置される。また、符号(51)は凝縮器(5)に対する冷却水の入口配管を示し、符号(52)は冷却水の出口配管を示す。
【0078】
次に、この上記の吸着式ヒートポンプの運転方法について説明する。第1行程では、制御バルブ(31)および(34)を閉止し、かつ、制御バルブ(32)および(33)を開放することにより、吸着器(2)において吸着工程を行い、同時に、吸着器(1)において脱着(再生)工程を行う。また、切替バルブ(115)、(116)、(215)および(216)を操作し、熱媒配管(11)には温水を流通させ、熱媒配管(21)には冷却水を流通させる。
【0079】
吸着器(2)の吸着工程においては、熱媒配管(21)を通し、冷却塔などの外部の熱交換器によって冷やされた冷却流体(冷却水や冷気)を導入することにより、吸着器(2)を冷却する。冷却流体の温度は、周囲の温度から決まり、例えば家庭用燃料電池への組み込みを前提とした場合には25〜45℃である。一方、制御バルブ(32)の開操作により、蒸発器(4)内の水(吸着質)は蒸発し、水蒸気となって吸着器(2)に流れ込み、吸着材に吸着される。蒸発器(4)から吸着器(2)への水蒸気移動は、蒸発温度での飽和蒸気圧と吸着材温度(水冷式、空冷式に依らず、一般的には25〜45℃、好ましくは30〜43℃、更に好ましくは35〜40℃)に対応した吸着平衡圧との差により行われ、蒸発器(4)においては、水の蒸発に伴う気化熱に応じた冷熱、すなわち、冷房出力を得ることができる。
【0080】
吸着側相対蒸気圧(φ2)(蒸発器(4)で生成する冷水温度における吸着質の平衡蒸気圧を、吸着器(2)の冷却水の温度における吸着質の平衡蒸気圧で除すことにより求められる値)は、吸着器(2)の冷却水の温度と蒸発器(4)で生成する冷水温度との関係から決定されるが、通常、吸着側相対蒸気圧(φ2)は、吸着材が最大に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも大きくなる様に運転するのが好ましい。その理由は次の通りである。すなわち、吸着材が最大に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも吸着側相対蒸気圧(φ2)が小さい場合には、吸着材の吸着機能を有効に利用できず、運転効率が低下する。上記の吸着側相対蒸気圧(φ2)は環境温度などにより適宜に設定することができる。
【0081】
吸着器(1)の再生工程において、吸着器(1)は、通常は53〜100℃、好ましくは58〜85℃、更に好ましくは60〜80℃の温水により加熱される。これにより、吸着器(1)の吸着材は、前記の温度範囲に対応した平衡蒸気圧になり、凝縮器(5)の凝縮温度25〜45℃(凝縮器(5)を冷却する冷却水の温度)での飽和蒸気圧で水(吸着質)を脱着する。脱着された水は、吸着器(1)から凝縮器(5)へ水蒸気の状態で移動し、凝縮されて水となる。そして、凝縮器(5)で得られた水は、戻し配管(3)により蒸発器(4)へ循環供給される。
【0082】
脱着側相対蒸気圧(φ1)(凝縮器(5)の冷却水の温度における吸着質の平衡蒸気圧を、温水の温度における吸着質の平衡蒸気圧で除すことにより求められる値)は、凝縮器(5)の冷却水の温度と温水の温度との関係から決定されるが、脱着側相対蒸気圧(φ1)は、吸着材が急激に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも小さくなる様に運転するのが好ましい。その理由は次の通りである。すなわち、吸着材が急激に水蒸気を吸着する相対蒸気圧よりも脱着側相対蒸気圧(φ1)が大きい場合には、吸着材の優れた吸着機能を有効に利用できない。
【0083】
上記の脱着側相対蒸気圧(φ1)は、環境温度などにより適宜に設定することができるが、脱着側相対蒸気圧(φ1)における吸着量が通常は0.14g/g以下、好ましくは0.10g/g以下となる様な温度条件で運転される。更に、脱着側相対蒸気圧(φ1)における吸着量と吸着側相対蒸気圧(φ2)における吸着量との差が、通常は0.07g以上、好ましくは0.09g/g以上となる様に運転する。
【0084】
次の第2行程では、吸着器(1)が吸着工程、吸着器(2)が再生工程となる様に、制御バルブ(31)〜(34)、ならびに、切り替えバルブ(115)、(116)、(215)および(216)を切り替えることにより、上記と同様に、蒸発器(4)から冷熱、換言すれば、冷房出力を得ることができる。すなわち、第2行程では、制御バルブ(32)および(33)を閉止し、かつ、制御バルブ(31)および(34)を開放することにより、吸着器(1)において吸着工程を行い、同時に、吸着器(2)において再生工程を行う。また、その際、切替バルブ(115)、(116)、(215)および(216)を操作し、熱媒配管(21)には温水を流通させ、熱媒配管(11)には冷却水を流通させる。
【0085】
以上の様に、第1および第2行程を順次に切り替えることにより、吸着ヒートポンプを連続運転することができる。なお、図1においては、2基の吸着器(1)および(2)を備えた吸着ヒートポンプについて例示したが、本発明の吸着ヒートポンプにおいては、吸着材が吸着した吸着質の脱着を適宜行い、いずれかの吸着器が吸着質を吸着できる状態を維持できる限り、吸着器は何基設置されていてもよい。
【0086】
図1に示されるような本発明の吸着ヒートポンプの吸着器は、一般的には吸着材を充填あるいは塗布したフィンチューブ熱交換器である。
【0087】
本発明のゼオライトを吸着材として該熱交換器に適用する場合、例えば、無機系あるいは有機系のバインダーと共にスラリーを調合して、該フィン表面に塗布・乾燥させて固定膜を形成する(塗布型の熱交換器)。
【0088】
他方、ペレット状(粒状)のゼオライト(吸着材)をフィン間に密充填する場合もあるが、吸着材がペレットの場合、小さな粒体を連続したフィン間とチューブ表面で形成される隙間に密充填し、熱交換器全体をメッシュの細かい金網で包み込む方法がしばしば行われる。この方法では迅速かつ容易に熱交換器の製造が可能である。しかし、このような系では、吸着材の粒体間および粒体と熱交換器本体の金属(フィンやチューブ)表面とが点接触となり、熱伝達が乏しいために熱交換性能としてはあまり高くならない。また、その熱効率は、ペレットの内部拡散による影響も受ける。
【0089】
それに対して塗布型の熱交換器の場合では、塗膜が熱交換器の表面に均一に塗布されている限り、大きな伝熱面積を有することになるので、上記で指摘した伝熱上の難点を解決することができるので好ましい。
【0090】
該塗布型の熱交換器を製造する際に使用されるバインダーとしては、形成される塗膜に実用上必要な耐久性や接着性を満足するものであれば特に限定されず、各種の無機系または有機系バインダーを用いることができる。
【0091】
無機系バインダーとしては、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物や粘土等が挙げられる。
【0092】
有機系バインダーとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボーネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、シリコーン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ラテックス、セルロース、マレイミド化合物等が挙げられる。
【0093】
一般には、塗膜の強度維持の観点から、バインダーとしては、硬化により凝集力を高められる熱硬化性の樹脂が好ましく、例えば、フィン等、塗布される熱交換器基材が銅やアルミニウム等の金属フィンである場合は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、またはこれらの誘導体であるのが好ましい。
なお、これらのバインダーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0094】
バインダーを用いる場合、溶剤に希釈して使用しても良いが、溶剤を用いる場合には、ゼオライトの表面を露出させ、吸着阻害の少ない塗膜を得るために、水系の乳化物とするのが好ましい。
【0095】
バインダーの使用量は、形成される塗膜中の含有量として5〜30重量%とするのが好ましい。バインダー量が5重量%未満であると、十分な塗膜強度が得られず、30重量%より多いと、塗膜の空隙率が減少し、吸脱着速度を低下させるので好ましくない。
【0096】
塗膜形成には、その他の添加剤として、各種添加剤を使用することも可能である。例えば、レオロジー添加剤、界面活性剤、消泡剤、硬化剤、酸化防止剤、pH調整剤、防錆剤などを塗膜形成用のスラリーに添加することができる。
【0097】
塗布型の場合の塗膜形成用のスラリーの塗布方法としては、公知の方法が挙げられるが、ディップ(含浸、浸漬)、ナイフコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーン印刷、パッド印刷、オフセット印刷等の方法が挙げられる。
【0098】
熱交換器の基材の型式としては、プレートフィン型のほか、シート状、板状、エロフィンチューブ型、コルゲート型等、公知の熱交換器に用いられる形状のものが制限無く使用できる。基材の材質も特に制限は無く、金属、セラミックス、グラファイト、樹脂、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の複合材等も使用することができる。
【0099】
上記の様な本発明の吸着ヒートポンプは、低温排熱を熱源として駆動させることができるため、省エネルギー化が求められるコージェネレーションシステム等の各種のシステムに適用できる。以下、本発明に係る吸着ヒートポンプの適用例として、固体高分子型燃料電池の排熱を利用した冷熱生成システム、太陽熱利用給湯器の温熱を利用した冷熱生成システム、内燃機関利用のコージェネレーションシステムの低温排熱を利用した冷熱生成システム、および、温熱生成システムについて、図2〜図5を参照して説明する。
【0100】
図2は、本発明に係る吸着ヒートポンプの熱源として固体高分子型燃料電池の排熱を利用した冷熱生成システムの構成図であり、図3は、太陽熱利用給湯器の温熱を利用した冷熱生成システムの構成図である。図4は、エンジンの低温排熱を利用した冷熱生成システムの構成図である。また、図5は、本発明に係る吸着ヒートポンプを使用した温熱生成システムの構成図である。なお、図2〜図5においては本発明の吸着ヒートポンプを符号(1A)で示す。
【0101】
図2に示す冷熱生成システムは、家庭用電源に固体高分子型燃料電池(PEFC)(81)を組み込んだコージェネレーションシステムである。斯かるシステムは、平6−74597号公報、特開2001−213149号公報などに開示されている。PEFC(81)は、発電効率が約40%であり、廃熱を効率的に利用することで総合効率が80%程度まで向上するため、排熱の有効利用方法が各種提案されているが、80℃以下の低温排熱の利用用途が少なく、斯かる低温排熱の有効活用が望まれている。
【0102】
そこで、図2に示す様に、本発明においては、PEFC(81)から排出される80℃以下の熱を吸着ヒートポンプ(1A)に利用する。すなわち、本発明の吸着ヒートポンプ(1A)において、吸着器(1)および(2)は、固体高分子型燃料電池(PEFC)(81)から発生した低温排熱を外部の温熱として使用する様になされている。具体的には、PEFC(81)の排熱を熱交換器(82)によって回収し、熱交換器(82)の例えば温水を吸着器(1)および(2)に導入することにより、吸着材から水(吸着質)を脱着する際の加熱源として利用する。なお、吸着器(1)および(2)は、吸着時には吸着熱を除去する必要があるため、冷却水を流して熱交換を行うが、斯かる冷却水の供給は、車のラジエーターからの排水や水道水などの冷熱源となる冷媒を循環させる方法が一般的であり、場合によっては外部の冷たい水を使用することもできる。また、前述のような水冷式以外にも、空気で冷却する空冷式も採用可能である。
【0103】
吸着ヒートポンプ(1A)は、冷熱生成装置であるから、図2に示す様なシステムに組み込むことにより、排熱利用による冷熱生成が可能となる。また、従来の冷熱生成機器では、冷媒圧縮のためのコンプレッサが必要であるが、図2に示すシステムによれば、コンプレッサ等の装置や動力が必要ないため、省電力を図ることができ、しかも、熱媒として水を使用できるため、脱フロンの観点からしても環境に好ましい。
【0104】
図3に示す冷熱生成システムは、太陽熱利用給湯器の温熱を利用して冷熱を生成するシステムである。太陽熱利用給湯器システムは、特開昭63−118564号公報などに開示されている。上記の給湯器システムは、集熱器(83)を含む集熱回路と、貯湯タンク(84)を含む給湯回路とを備え、貯湯タンク(84)の湯温と補給する水温とをセンサーで検出し、貯湯タンク(84)から集熱器(83)に循環させる水量をポンプ制御することにより、貯湯タンク(84)に一定温度の温水を常に一定量蓄える様になされたものである。貯湯タンク(84)の温熱は、本来は給湯により十分に利用可能であるが、季節によっては給湯需要量が変動する。具体的には、冬期には十分利用可能であるが、夏期には熱需要の減少により温熱が余り、その結果、省エネルギー化を達成していないと言う実情がある。
【0105】
そこで、図3に示す様に、本発明においては、貯湯タンク(84)に蓄えられる湯温の温熱を吸着ヒートポンプ(1A)に利用する。すなわち、本発明の吸着ヒートポンプ(1A)において、吸着器(1)および(2)は、貯湯タンク(84)に蓄えられる余剰の温熱、換言すれば、太陽熱利用給湯器から発生した低温排熱を外部の温熱として使用する様になされている。具体的には、貯湯タンク(84)に蓄えられた湯温の温熱を蛇腹管構造などの熱交換器によって回収し、熱交換器の例えば温水を吸着器(1)および(2)に導入することにより、吸着材から水(吸着質)を脱着する際の加熱源として利用する。なお、吸着器(1)および(2)における吸着熱の除去には、前述と同様に、各種の冷却水を使用でき、また、貯湯タンク(84)に新たに供給する水を冷却水として使用することもできる。
【0106】
本発明の吸着ヒートポンプ(1A)は、図3に示す様なシステムに組み込むことにより、余剰の熱を利用して冷熱を生成することが可能となる。すなわち、夏期に余剰の温熱を利用することにより、効率の良い冷房を行うことができる。しかも、給湯器システムの余剰の熱を利用するため、一層省エネルギー化を促進できる。更に、図3に示すシステムによれば、コンプレッサ等の装置や動力が必要ないため、省電力を図ることができ、しかも、熱媒として水を使用できるため、脱フロンの観点からしても環境に好ましい。
【0107】
図4に示す冷熱生成システムは、内燃機関を使用して発電を行い、蒸気、温水および冷水の製造を行うガスタービンコージェネレーションシステムにおいて構築される低温排熱利用システムである。ガスタービンコージェネレーションシステムは、特開2002−266656号公報などに開示されている。周知の通り、斯かるシステムは、例えば、ガスタービン(内燃機関)によって発電機を駆動することにより発電を行い、ガスタービンの燃焼排ガスの熱を排熱回収ボイラで回収して蒸気を発生させ、排熱回収ボイラから供給される蒸気を駆動熱源として吸収式冷凍機により冷水を製造し、また、排熱回収ボイラを通過した排ガスの熱を温水ボイラによって更に回収して温水を製造し、そして、温水ボイラで製造した温水を駆動熱源として吸着式冷凍機(吸着ヒートポンプ)により冷水を製造する様になされている。
【0108】
本発明においては、図4に示す様に、内燃機関利用のコージェネレーションシステムの温水ボイラ(85)で回収される温水の熱を吸着ヒートポンプ(1A)に利用する。すなわち、本発明の吸着ヒートポンプ(1A)において、吸着器(1)および(2)は、内燃機関利用のコージェネレーションシステムから発生する低温排熱を外部の温熱として使用する様になされている。具体的には、温水ボイラ(85)において蛇腹管構造などの熱交換器により温熱を回収し、熱媒としての例えば温水を熱交換器から吸着器(1)および(2)に導入することにより、吸着材から水(吸着質)を脱着する際の加熱源として利用する。なお、吸着器(1)および(2)における吸着熱の除去には、前述と同様に、各種の冷却流体を使用できる。
【0109】
本発明の吸着ヒートポンプ(1A)は、図4に示す様なコージェネレーションシステムに組み込むことにより、従来は利用価値の低かった温水の低温排熱を一層有効活用して冷熱を低コストで生成することができる。しかも、熱媒として水を使用できるため、環境保護の観点からも好ましい。また、吸収式冷凍機の様に臭化リチウム等の吸収液を使用することがないため、保守管理に手間が掛からず、保守費用も低減できる。更に、ガスタービンと略同時に起動できるため、負荷変動などにも迅速に対応できる。
【0110】
図5に示す温熱生成システムは、吸着材の吸着熱を利用して温熱を生成するシステムである。吸着ヒートポンプ(1A)は、前述の様に、吸着操作の際、吸着材に所定の吸着能力を発揮させるため、通常の運転時には吸着熱を冷却水などにより除去し、吸着材の温度を下げるが、前記の吸着熱を有効利用することにより、温熱生成が可能となる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0112】
[実施例1]
水90gと85重量%リン酸水溶液46gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)24.5gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これに硫酸第一鉄7水和物5.6gを水37gに溶かした水溶液を加え、さらに硫酸スズ(II)4.3gを水40gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン24.2gを混合して1時間攪拌して水性ゲル(pH5)を得た。これをテフロン(登録商標)製内筒の入った1Lの誘導攪拌式ステンレスオートクレーブに仕込み、100rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0113】
こうして得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのXRDを以下の条件で測定したところ、図6に示す通りであり、AFI型であった。
<XRDの測定方法>
X線源:Cu−Kα線(λ=1.54Å)
出力設定:40kV、30mA
測定時光学条件:発散スリット=1°
散乱スリット=1°
受光スリット=0.2mm
回折ピークの位置:2θ(回折角)
測定範囲:2θ=3−50°
【0114】
更に、得られた乾燥物3gを縦型の石英管に入れ、室温から1.5℃/分で昇温し、550℃で6時間の空気焼成を行った。
このものを塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行った。その結果、(Fe+Sn)/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.079、Sn/Feのモル比は0.51、Al/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.44、P/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.48であった。
【0115】
また、得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図7に示した。また、75℃での脱着時の水蒸気吸着等温線も磁器浮遊式天秤による吸着等温線測定装置(日本ベル社製)で測定し、結果を図7に合わせて示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0116】
また、以下の水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ維持率は、96.1%であった。
【0117】
<水蒸気繰り返し吸脱着試験>
試料を90℃に保たれた真空容器内に保持し、5℃の飽和水蒸気雰囲気と80℃飽和水蒸気雰囲気にそれぞれ90秒曝す操作を繰り返す。このとき80℃の飽和水蒸気雰囲気に曝されたときに試料に吸着した水は、5℃の飽和水蒸気雰囲気で一部が脱着し、5℃に保った水だめに移動する。m回目の吸着からn回目の脱着で、5℃の水だめに移動した水の総量(Qn;m(g))と試料の乾燥重量(W(g))から一回あたりの平均吸着量(Cn;m(g/g))を以下のようにして求める。
[Cn;m]=[Qn;m]/(n−m+1)/W
吸脱着試験の維持率とは、水蒸気繰り返し吸脱着試験の1回から1000回の平均吸着量に対する1001回から2000回の平均吸着量の比を求めたものである。
【0118】
[実施例2]
水16.8gと85重量%リン酸水溶液9.2gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)4.9gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これに硫酸第一鉄7水和物2.2gを水7.6gに溶かした水溶液を加え、さらに硫酸スズ(II)0.86gを水9.0gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン4.8gを混合して1時間攪拌し水性ゲル(pH5)を得た。これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0119】
こうして得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型であった。
得られた乾燥物を実施例1と同様にして空気焼成した。
また、実施例1と同様に元素分析を行った結果、(Fe+Sn)/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.053、Sn/Feのモル比は0.86、Al/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.46、P/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.49であった。
【0120】
得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図8に示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0121】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、96.9%であった。
【0122】
[実施例3]
水10gと85重量%リン酸水溶液8.6gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)4.9gをゆっくりと加えて攪拌した。これを1時間攪拌し、次いで、硫酸第一鉄7水和物2.2gを水23.5gに溶かした水溶液を加え、更にトリエチルアミン4.8gを混合した後、1時間攪拌した。さらに、オルトチタン酸テトライソプロピル1.8gを加え、これを1時間攪拌し、水性ゲル(pH5)を得た。これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、デカンテーションにより上澄みを除き、沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0123】
得られた乾燥物3gを縦型の石英管に入れ、室温から1℃/分の昇温速度で昇温し、550℃で6時間の空気焼成を行った。
こうして得られた結晶性鉄チタンアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型(フレームワーク密度は17.3T/1000Å3)であった。
このものを塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行った。その結果、(Fe+Ti)/(Fe+Ti+Al+P)のモル比は0.056、Ti/Feのモル比は0.30、Al/(Fe+Ti+Al+P)のモル比は0.43、P/(Fe+Ti+Al+P)のモル比は0.51であった。
【0124】
また、得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル製)で測定し、結果を図10に示した。なお、測定は空気高温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181Torr、平衡時間500秒の条件で行った。
図10より、35℃の吸着温度で6℃という低い冷水を得る場合の相対蒸気圧に相当する0.17の場合でも、水吸着量が0.13g/gと大きいことが分かる。
【0125】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、95.7%であった。
【0126】
[比較例1:スズを含まないAFI型ゼオライトの比較例]
実施例2において、硫酸スズ(II)を加えない他は同様に合成を行った。
こうして得られた結晶性鉄アルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型であった。
【0127】
得られた乾燥物を実施例1と同様にして空気焼成した。
得られたゼオライトについて35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図7に示した。また、75℃での脱着時の水蒸気吸着等温線も実施例1と同じ方法で測定し、結果を図7に合わせて示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0128】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、94.6%であった。
【0129】
[比較例2:骨格構造がCHA型であるシリカスズアルミノフォスフェートの比較例]
水20gと85重量%リン酸水溶液10.1gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)6.5gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これにfumedシリカ(アエロジル200、日本アエロジル社製)0.75gを水12gに分散させたものを加え、さらに硫酸スズ(II)1.1gを水10gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン5.1gとモルホリン4.4gを混合したものを加えて1時間攪拌して水性ゲルを得た。
これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で48時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0130】
こうして得られた結晶性シリカスズアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、CHA型であった。
得られた乾燥物を実施例1と同様に空気焼成した。
【0131】
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行ったところ、維持率は、21.9%であった。
【0132】
なお、スズを添加しないこと以外は上記と同様にして合成して得られたCHA型のシリカアルミノフォスフェートの場合は、維持率が100%であった。
従って、スズを含有すれば、どのような構造のアルミノフォスフェートでも耐久性が高くなるということではなく、むしろ耐久性を低下させる場合があることがわかり、スズの効果はAFI型に特有なことであることが確認された。
【0133】
[比較例3:Sn/Fe≦0.5であるAFI型ゼオライトの比較例]
水15gと85重量%リン酸水溶液9.2gの混合物に、擬ベーマイト(水分含有量25重量%、サソール社製)4.9gをゆっくりと加えて攪拌した。これを2時間攪拌し、これに硫酸第一鉄7水和物2.2gを水10gに溶かした水溶液を加え、さらに硫酸スズ(II)0.43gを水8gに混合したものを加えて攪拌し、さらにトリエチルアミン4.8gを混合して1時間攪拌して水性ゲルを得た。
これをテフロン(登録商標)製内筒の入った100ccのステンレスオートクレーブに仕込み、オートクレーブごと15rpmで回転させ、190℃で20時間反応させた。反応後、冷却して、濾過により沈殿物を回収し、水洗、濾過を繰り返し、100℃で乾燥した。
【0134】
こうして得られた結晶性鉄スズアルミノフォスフェートのXRDを測定したところ、AFI型であった。
得られた乾燥物を実施例1と同様に空気焼成した。
また、実施例1と同様に元素分析を行った結果、(Fe+Sn)/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.052、Sn/Feのモル比は0.11、Al/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.45、P/(Al+P+Fe+Sn)のモル比は0.50であった。
【0135】
得られたゼオライトの35℃における水蒸気吸着等温線を吸着等温線測定装置(ベルソープ18:日本ベル社製)で測定し、結果を図9に示した。なお、測定は空気恒温槽温度50℃、吸着温度35℃、初期導入圧力3torr、飽和蒸気圧42.181torr、平衡時間500秒の条件で行った。
【0136】
図7に示す結果から、本発明の実施例1のゼオライトは、35℃における吸着等温線が相対蒸気圧0.1〜0.18の範囲で急激に水蒸気を吸着する曲線であり、特に35℃の吸着温度で6℃という低い冷水を得る場合の相対蒸気圧に相当する0.17の場合でも吸着量が0.122g/gと大きいのに対し、比較例1では0.015g/gしかないことが分かる。また、35℃での吸着時の相対蒸気圧0.17の場合の吸着量と75℃での脱着時の相対蒸気圧0.15の場合の吸着量との差についても、実施例1では0.08g/gであるのに対して、比較例1では0.01g/gと極めて小さいことがわかる。
【0137】
すなわち、本発明のゼオライトを吸着材として使用すると、比較的低温の排熱を利用した場合も、換言すれば、水蒸気の脱着温度が比較的低温でも、吸着温度(Tlow)と脱着温度(Thigh)における吸着量差が大きく、また、出力密度が大きいことが分かる。上記の様な特性を有するゼオライトは、出力密度が十分に大きく、本発明の吸着材として、最も好ましいものの一つである。
【0138】
また、図8,9より、実施例2に比べて、スズの含有量が少ない比較例3の場合は、特に35℃の吸着温度で6℃という低い冷水を得る場合の相対蒸気圧に相当する0.17の場合の吸着量が、実施例2では0.15g/gであるのに対し、比較例3では0.07g/gと十分ではなく、しかも目的の領域で十分な吸着量差が得られず、低温側が高温である場合の吸着材としては、十分な性能を示すことができないことが分かる。
【0139】
また、本発明のゼオライトは、水蒸気繰り返し吸脱着試験後の安定性(耐久性)にも優れているので、吸着ヒートポンプ等に使用した場合に長期間の使用にも耐えることができるため、実用性にも優れている。
このような効果は、スズやチタンを添加すればどのようなゼオライトでも得られる効果ではないことが比較例2の結果から明らかである。
【0140】
[比較例4:種々のFe−Me−AFI型ゼオライトの吸着性能と耐久性比較]
実施例1と同様の方法で、ヘテロ原子が、スズのかわりに、同じモル比になるようにして、ニッケル、ケイ素、コバルト、銅、マグネシウム、ジルコニウムの成分(以上を纏めて「Me」で示す)を加えてFe−Me−AFI型アルミノフォスフェートのゼオライトを合成した。
Meそれぞれの原料は、硝酸ニッケル、fumedシリカ、硝酸コバルト、硝酸銅、硝酸マグネシウム、硝酸ジルコニルを用いた。
これらのゼオライトの35℃での吸着時の水蒸気吸着等温線を測定した。
また、実施例1と同様に水蒸気繰り返し吸脱着試験を行って、維持率を求めた。
各ゼオライトの35℃水蒸気吸着等温線における相対蒸気圧0.17での吸着量と維持率を下記表1に記載した。表1には比較例1のゼオライトと実施例1のゼオライトの値を併記した。
本比較例では、特許文献2,3に記載される種々のMeについて比較試験を行ったが、35℃相対蒸気圧0.17で吸着量が0.1g/g以上かつ維持率が90%以上のものはなかった。
【0141】
【表1】
【0142】
[実施例4,比較例5:吸着ヒートポンプ適用例]
実施例1で得られた本発明の吸着材(ゼオライト)(実施例4)、または公知の吸着材(AQSOA(登録商標)−Z01、三菱樹脂(株)製 AFI型鉄アルミノフォスフェート)(比較例5)を用い、以下の通り熱交換器を作成し、図1に示したような構成の1kW級吸着式冷凍機に用いた場合の適用実験を行った。
【0143】
なお、本発明の吸着材(ゼオライト)は、低い相対蒸気圧で吸着質を吸着する点に特徴がある。この「低い相対蒸気圧で吸着質を吸着する」とは、
(1) 吸着材及び吸着材周囲雰囲気(冷却流体)が高温で吸着可能であること、
または
(2) 冷水をより低温にした条件で吸着可能であること
を示す。
以下の表2の条件は、(1)の状態の実験例であり、表5の条件は、(2)の状態の実験例である。
【0144】
<熱交換器の作成>
吸着材1000gとイオン交換水1000gを混合し、吸着熱により生成する温度を十分に冷ました後に有機バインダーとしてjER1256(三菱化学(株)製品、商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)の水系エマルジョンを添加し、均一に混合してスラリーを調製した。
上記スラリーを用い、アルミニウム製フラットフィンに、塗布重量165gとなるように塗布および加熱乾燥した熱交換器を計4個作成した。これらを図1中の吸着器(1),(2)にそれぞれ2個ずつ設置し、吸着ヒートポンプを作成した。
【0145】
<(1)の条件>
吸着の際の低温熱源として熱媒配管(11)や(21)を通して供給される冷却水の温度(入口温度)を変動させて(27℃、30℃、32℃、35℃)測定を行った。表2に主な実験条件を示す。
実験条件において、冷却水温度以外は一定値とした。温水温度はそれぞれの条件で吸着材の出力が限界に達してこれ以上には向上しえない状態になる最低温度とした。なお、温水の温度は、脱着の際の高温熱源として熱媒配管(11)や(21)を通して供給される温水の温度(入口温度)であり、冷水の温度は冷房出力となる冷水配管(41)を通り、蒸発器(4)に供給される冷水の温度(入口温度)、および冷水配管(42)を通る蒸発器(4)の冷水温度(出口温度)として、出力性能(kW)を評価し、公知の吸着材を使用した場合(比較例5)の結果(表3)と、本発明の吸着材を使用した場合(実施例4)の結果(表4)を示した。また、この結果を纏めて図11に示した。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
この結果、低温熱源である冷却水温度(吸着材温度)が低ければ、公知の吸着材(比較例5)でも本発明の吸着材(実施例4)でも冷却出力に大きな差は無いが、冷却水温度が高いほど、冷却出力が高く、その差が顕著であることが分かった。
【0150】
<(2)の条件>
上記(1)の条件に対して、冷却水温度(低温熱源)を32℃に固定し、冷水流量を一定にし、温水温度(高温熱源温度)は公知の吸着材(比較例5)では、吸着材の出力が限界に達してこれ以上には向上しえない状態になる最低温度とし、本発明の吸着材(実施例4)では、80%の出力となる状態となる温度とし、冷水温度を9℃または7℃として冷却出力を測定した場合の条件(表5)と、結果(比較例5=表6、実施例4=表7)を示した。
また、これらの結果を図12に示した。
【0151】
【表5】
【0152】
【表6】
【0153】
【表7】
【0154】
その結果、図12から明らかなように、吸着式冷凍機から取り出せる冷水温度が低い場合ほど(冷水入口温度が9℃の場合に比べて、7℃の場合の方が)、公知の吸着材(比較例5)に比べて本発明の吸着材(実施例4)の方が、冷却出力(kW)が相対的に高くなり、その差異が大きいことが分かる。
【符号の説明】
【0155】
1 吸着器
11 熱媒配管
115 切替バルブ
116 切替バルブ
2 吸着器
21 熱媒配管
215 切替バルブ
216 切替バルブ
3 戻し配管
30 吸着質配管
31 制御バルブ
32 制御バルブ
33 制御バルブ
34 制御バルブ
300 室内機
301 ポンプ
4 蒸発器
41 冷水配管
42 冷水配管
5 凝縮器
51 入口配管
52 出口配管
81 固体高分子型燃料電池(PEFC)
82 熱交換器
83 集熱器
84 貯湯タンク
85 温水ボイラ
86 貯湯タンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が
0.25<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト。
【請求項2】
骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が
0.50<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト。
【請求項3】
Mがスズであることを特徴とする請求項1または2に記載のゼオライト。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゼオライトを用いた吸着材。
【請求項5】
35℃で測定した水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.17における吸着量が0.10g/g以上である請求項4に記載の吸着材。
【請求項6】
35℃での吸着過程での水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.17における吸着量と、75℃での脱着過程での水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.15における吸着量との差が、0.07g/g以上である請求項4または5に記載の吸着材。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の吸着材を使用した吸着ヒートポンプであって、
吸着熱を放出しつつ前記吸着材に吸着質を吸着する吸着操作と、外部の温熱により前記吸着材から吸着質を脱着する脱着操作とを繰り返す吸着器と、
吸着質の蒸発により得られた冷熱を外部へ取り出すと共に、発生した吸着質の蒸気が前記吸着器に回収される蒸発器と、
前記吸着器で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷熱により凝縮させると共に、凝縮した吸着質を前記蒸発器に供給する凝縮器と
を備えることを特徴とする吸着ヒートポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載の吸着ヒートポンプを運転することを特徴とする吸着ヒートポンプの運転方法。
【請求項9】
請求項8に記載の吸着ヒートポンプの運転方法であって、請求項5に記載の吸着材を使用した吸着ヒートポンプを、水蒸気の吸着温度をTlowとし、水蒸気の脱着温度をThighとし、冷熱生成温度をTcoolとしたとき、Thigh≦100℃、かつTlowが25〜45℃の場合に、0℃≦Tcool≦10℃である条件で運転することを特徴とする吸着ヒートポンプの運転方法。
【請求項1】
骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が
0.25<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト。
【請求項2】
骨格構造にアルミニウム、リン、鉄およびM(Mはスズおよび/またはチタン)を含むAFI型のゼオライトであり、M/Feモル比が
0.50<M/Fe<1.0
であることを特徴とするゼオライト。
【請求項3】
Mがスズであることを特徴とする請求項1または2に記載のゼオライト。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゼオライトを用いた吸着材。
【請求項5】
35℃で測定した水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.17における吸着量が0.10g/g以上である請求項4に記載の吸着材。
【請求項6】
35℃での吸着過程での水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.17における吸着量と、75℃での脱着過程での水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.15における吸着量との差が、0.07g/g以上である請求項4または5に記載の吸着材。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の吸着材を使用した吸着ヒートポンプであって、
吸着熱を放出しつつ前記吸着材に吸着質を吸着する吸着操作と、外部の温熱により前記吸着材から吸着質を脱着する脱着操作とを繰り返す吸着器と、
吸着質の蒸発により得られた冷熱を外部へ取り出すと共に、発生した吸着質の蒸気が前記吸着器に回収される蒸発器と、
前記吸着器で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷熱により凝縮させると共に、凝縮した吸着質を前記蒸発器に供給する凝縮器と
を備えることを特徴とする吸着ヒートポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載の吸着ヒートポンプを運転することを特徴とする吸着ヒートポンプの運転方法。
【請求項9】
請求項8に記載の吸着ヒートポンプの運転方法であって、請求項5に記載の吸着材を使用した吸着ヒートポンプを、水蒸気の吸着温度をTlowとし、水蒸気の脱着温度をThighとし、冷熱生成温度をTcoolとしたとき、Thigh≦100℃、かつTlowが25〜45℃の場合に、0℃≦Tcool≦10℃である条件で運転することを特徴とする吸着ヒートポンプの運転方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−67002(P2012−67002A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183706(P2011−183706)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]