説明

ゼオライト成形体、植生基盤材料、及び水処理剤

【課題】多孔質かつ高強度のゼオライト成形体を提供する。
【解決手段】ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を混合し、成形、焼成を行うことによって成形した。好ましくは、前記酸性原料が硫酸鉄(I)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(I)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(I)、硝酸鉄(II)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記酸性原料が硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記粘土原料が蛙目粘土、木節粘土、カオリン、頁岩粘土、せっ器粘土、赤土、青土、陶石、ベントナイト、ろう石、酸性白土、メタカオリン、セピオライト、アタパルジャイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼオライト成形体並びに、ゼオライト成形体からなる植生基盤材料、及び水処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、優れた分子吸着・ふるい作用、イオン交換作用、触媒作用を有し、吸着剤や分離材などの環境浄化材料や触媒などとして広く用いられている。我が国のゼオライト市場は、合成ゼオライトが年間1万4千トン、天然ゼオライトが年間1万5千トンであり、その主な用途は合成ゼオライトでは洗剤ビルダー、吸着剤、触媒など、天然ゼオライトでは水田、畑、ゴルフ場芝等に用いる土壌改良材である。
【0003】
ゼオライトは粉体のままでは取り扱いが難しく、用途も制限を受けるため、必要とされる形状、寸法の成形体に加工することで、さらに様々な産業分野で好適に用いることができる。
【0004】
ゼオライト成形体は、通常、バインダーを添加して成形を行った後に、焼成して得られる焼成体である。この成形体が、優れた機能を発揮するためには、その比表面積や気孔率などの多孔質性に優れ、さらには実用上、一定以上の強度を有し、なおかつ用途に応じて適した形状に成形することができる成形自由度を有することが必要である。しかしながら、ゼオライトは、可塑性が不良で成形加工が難しく、また、耐熱性が通常は800℃以下と低いため、ゼオライトの性能を保持するには、これより低温度で焼成を行わねばならず、高強度の成形体を得ることは困難である。
【0005】
ゼオライト成形体原料の可塑性の改善、成形性の確保のためには、有機バインダーを配合すればよいが、製造コストが高くなる上その強度は低下し、さらに焼成後も内部に残存して多孔質性を低下させるという問題がある。このような観点から、以下に述べるように無機バインダーを用いた種々のゼオライト成形技術が開発されてきている。
【0006】
一方、天然ゼオライトの農業分野における効能はよく知られ、古くから農業資材として用いられており、地力増進法(昭和59年法律第34号)による指定資材にも指定されている。しかしながら、天然ゼオライトは一般的にアルカリ性であり、土壌中に多くを混合すると植物の成育阻害が生じ、これを改良するため様々な資材と組み合わせて植生基盤として利用することが行われている。
【0007】
ゼオライトの成形方法に関しては、特許文献1には、ゼオライト、カオリン型粘土、酸化アルミニウム及び無機系分散剤からなるゼオライトビーズ成形体の製造方法に関する記載がされており、さらに、特許文献2には、ゼオライトとアルミナ粉末をバインダーとするゼオライト微小球状成形体の製造方法について示されている。特許文献3には、可塑性粘土と、アルカリ(土類)金属化合物を含むゼオライト含有組成物を低温焼成する多孔質焼成体の製造方法について示されている。
【0008】
ゼオライトを用いた植生基盤材料に関しては、特許文献4には粗粒、細粒ゼオライトとガラス粉により構成される冷却効果及び植生効果を維持することのできる焼結体の製造方法について記載されている。つぎに、特許文献5には、人工ゼオライト、軽石、ピートモス、堆肥、パーライト、赤玉土、バーミキュライト、バーク、椰子がら、くん炭などを混合した園芸用培養土を作成する方法について記載されている。また、特許文献6には木材チップ、パーライト、ゼオライト等を混合して、セメント等の固化剤を投入成形固結してブロック化する屋上緑化材の製造方法、特許文献7にはゼオライト、炭化物、パーライト等を蒟蒻いも類等の穀物から生成される澱粉のりを用いて成形した緑化用軽量土壌の製造方法について記載されている。これらの特許文献には、他の園芸資材と組み合わせて、ゼオライトのアルカリ性を緩和する方法や、植生基盤用成形体の製造方法について種々記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−261330号公報
【特許文献2】特開2004−238209号公報
【特許文献3】国際公開WO2006/054718号パンフレット
【特許文献4】特開2000−169258号公報
【特許文献5】特開2002−84877号公報
【特許文献6】特開2005−73538号公報
【特許文献7】特開2004−329031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のように、ゼオライトは可塑性に乏しく、さらに耐熱性が低い特性をもつため、ゼオライトを高含有させて高強度の成形体を製造することは困難である。本発明では、このようなゼオライトの成形における課題を解決し、多孔質かつ高強度のゼオライト成形体を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、ゼオライト成形体のpHを調整することで、水処理材や農業資材、園芸資材として、より効果的に利用することができるゼオライト成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のゼオライト成形体は、ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を含有することを特徴とする。
【0013】
また、前記酸性原料が硫酸鉄(I)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(I)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(I)、硝酸鉄(II)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
また、前記酸性原料が硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
また、前記粘土原料が蛙目粘土、木節粘土、カオリン、頁岩粘土、せっ器粘土、赤土、青土、陶石、ベントナイト、ろう石、酸性白土、メタカオリン、セピオライト、アタパルジャイトからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
さらに、pHが5.0〜8.5の範囲に調整されたことを特徴とする。
【0017】
本発明の植生基盤材料は、本発明のゼオライト成形体からなる。
【0018】
本発明の水処理剤は、本発明のゼオライト成形体からなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のゼオライト成形体は、ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を含有するものである。このゼオライト成形体は、ゼオライトの特性を損なわず保持し、また、必要な強度をもつため、水処理剤、脱臭剤、ガス処理剤、建材として用いることができる。
【0020】
また、pHが5.0〜8.5に調整されたものであり、高保水性、高保肥性の特徴と植生基盤として適切なpH特性をもち、植生基盤材料、園芸材料として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のゼオライト成形体について詳細に説明する。
【0022】
本発明のゼオライト成形体は、ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を含有するものであり、ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を混合し、成形、焼成を行うことによって得ることができる。
【0023】
ゼオライトには多くの種類があり、例えば、クリノプチロライト、モルデナイトなどの天然ゼオライト、A型、X型、Y型、USY型(超安定Y型)、シリカライト、ZSM−5などの工業原料を用いて得られる合成ゼオライト、石炭灰等のシリカ、アルミ成分を含む廃棄物やリサイクル原料から合成されたA型、X型、Y型などのゼオライトが挙げられる。また、ミクロ多孔性を有しゼオライトと類似の性質を示す総称としてゼオライトという用語が用いられる。
【0024】
本発明に用いられるゼオライトとしては、これら全てを取り扱うことができ、触媒、ガス吸着、水中でのイオン処理などは前記の合成ゼオライトを用いて成形体を製造することができる。また、以下に述べるような園芸材や農業資材等については、経済性を考慮して、クリノプチロライト、モルデナイト等の天然ゼオライトが用いられる。天然ゼオライトを用いる場合には、成形性確保の観点から、その最大粒径が2mm以下のものを使用することが好ましく、100μm以下のものを使用することがより好ましい。また、合成ゼオライトは通常数μmの粒径をもっている。
【0025】
ゼオライトの耐熱温度は、種類や組成によって異なり、天然ゼオライトやA型、X型、Y型ゼオライトなどはおよそ800℃、シリカライトやUSY型(超安定Y型)などのシリカリッチなゼオライトはおよそ900〜1000℃程度である。本発明のゼオライト成形体は、通常600〜700℃の低温焼成で得ることができるが、より高温で焼成を行った方が高強度となることから、成形対象のゼオライトの種類により、焼成温度を決定すればよい。
【0026】
本発明のゼオライト成形体の製造においては、ゼオライトの特性を効果的に発揮するため、ゼオライトの含有量は50質量%以上であることが好ましく、70質量%であることがより好ましい。
【0027】
また、本発明のゼオライト成形体は、ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を含み、pHが5〜8.5の範囲に調整されたものである。
【0028】
固体のpHの定義方法には決められた方法はないが、本発明ではゼオライト成形体を土壌に混合したり、溶液中に今後したりして使用することを想定している。このため本発明でいうpHとは、地盤工学会基準(JGS0211−200*)「土懸濁液のpH試験方法」で定義される値をいい、この測定法により、ゼオライト成形体のpHの値を代表的に評価することとする。この方法の概要としては、以下のとおりである。
(1)粒径を考慮して適量の試料をビーカーに入れ、土壌試料の乾燥質量に対する水(試料中の水を含む)の質量比が5になるように水を加える。試料の含水比をあらかじめ測定し、試料の乾燥質量を求めておく。質量比を5にしても懸濁液の状態にならない場合は、さらに水を加える。
(2)試料を攪拌棒で懸濁させ、30分以上、3時間以内静置したものを測定用の試料液とする。
【0029】
また、このほか農業分野における土壌のpH測定法として、「土壌養分分析法」があり、これにおいては土と水の質量比を2.5に規定しているが、得られる測定値としては、上記とほぼ近似した値となる。
【0030】
前記の酸性原料としては、硫酸鉄(I)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(I)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(I)、硝酸鉄(II)からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。また、さらに酸性原料として、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。このほかに硫酸アルミニウムについても本発明の酸性原料として用いることができる。バインダー材料としてこれらの酸性原料と粘土原料を加えることで、成形体のpHを緩衝、制御できるともに、成形体原料の可塑性を向上させ、成形加工性、成形体の強度の改善を図ることができる。
【0031】
ゼオライトの成形において、天然ゼオライトは高強度の成形体が得られやすく、また、A型ゼオライト、X型ゼオライト等の合成ゼオライトは、高強度の成形体は得られにくい傾向がある。これは、一般的な天然ゼオライトは純度が低く、シリカなどの不純物を含み、粒度分布の幅があるため密度が高くなり、また、合成ゼオライトは粒径が数μmの細粒で粒径が均一であり密度が低いことに起因していると思われる。しかしながら、このような合成ゼオライトを原料として用いた場合においても、本発明のゼオライト成形体は、水処理剤などとして用いるための適切な材料強度を有している。
【0032】
本発明のゼオライト成形体は、実施例に示すように酸性原料として、硫酸鉄(I)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(I)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(I)、硝酸鉄(II)などの鉄原料を用いて、ゼオライトに天然ゼオライトを用いた場合には、10N/mm以上の高強度を有している。通常のセメントモルタルの曲げ強度はN/mm程度であることから、これと比較すれば、本発明のゼオライト成形体が高強度であることが分かる。
【0033】
また、このほか、酸性原料として正リン酸、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等の無機酸とアルカリ、アルカリ土類金属元素化合物を組み合わせて用いることができる。ここで用いるアルカリ、アルカリ土類金属元素化合物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、酸性メタリン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、硫酸カルシウム(石膏)、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、酸性ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、第一リン酸マグネシウム、さらに、炭酸マグネシウム(マグネサイト)、軽焼マグネシア、水酸化マグネシウム(ブルーサイト)、第二リン酸マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、メタリン酸マグネシウムなどが挙げられ、これらのうちの少なくとも1種と前記の無機酸を組み合わせることにより、良好な可塑性を得ることができ、製造時の成形性を確保することができ、また、pHを前記の範囲に調整することができる。さらに、酸性物質として、鉄粉、酸化鉄粉などを併せて用いてもよい。
【0034】
本発明のゼオライト成形体は、成形に必須のバインダー成分として、粘土原料を用いている。すなわち、ゼオライトと酸性原料のみでは十分な成形加工性を得ることは困難である。本発明のゼオライト成形体に用いることのできる粘土原料としては、特に限定されないが、例えば、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、頁岩粘土、せっ器粘土、赤土、青土、陶石、ベントナイト、ろう石、酸性白土、メタカオリン、セピオライト、アタパルジャイトなどを挙げることができ、これらの群から選択される少なくとも1種以上の粘土原料を用いることができる。
【0035】
上記粘土原料は、主にカオリナイト、ハロイサイト、セリサイト、モンモリロナイトなどの粘土鉱物をその組成に含むものである。このような可塑性粘土は、陶器用粘土原料として過去数百年にわたり使用されてきたものであり、可塑性が良好であり成形性が優れている。
【0036】
また、セピオライト、アタパルジャイトは、含水マグネシウム珪酸塩、含水珪酸アルミニウムマグネシウムを主成分とする粘土鉱物であり、成形体の多孔質性の向上を図る場合に用いると有効である。
【0037】
上記の粘土原料は数μm〜100μmの範囲の粒径のものを用いることができ、成形対象のゼオライトの粒径、成形原料全体の粒度の分布を考慮して、適切な粒径サイズを選定すべきである。
【0038】
また、これらの粘土原料のみで、成形体原料の可塑性が不足する場合は、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの有機バインダー成分を、成形体原料に対して数質量%以下の量を添加すればよい。さらに、成形体の軽量化を図る目的のためには、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、パーライト粉末、バーミキュライト粉末などを混合してもよい。
【0039】
酸性物質の混合量は、数質量%の添加でゼオライト成形原料の可塑性を改善し、多孔質かつ高強度の成形体を得ることができるため、10質量%以下の添加、好ましくは5質量%以下の使用が好ましい。また、粘土原料は、可塑性、成形性を改善するために10質量%以上の量の使用が好ましい。
【0040】
以上の原料を混合することにより、本発明のゼオライト成形体の製造時に必要な可塑性を得ることができ、既存の様々な窯業分野の成形技術を適用し成形加工を行うことが可能である。この具体的な成形方法としては、押し出し成形、プレス成形、ロールプレス成形、鋳込み成形、押し型成形、転動造粒などの成形方法が挙げられ、これらの成形方法を適用して、多孔質かつ高強度の成形体を得ることができる。これにより、本発明のゼオライト成形体は水処理剤、ガス処理剤、建材などの用途に好適に用いることができる。
【0041】
また、酸性原料を用いて成形体を形成することにより、天然ゼオライトのアルカリを緩衝しpH調整を行うことができる。これにより、本発明のゼオライト成形体は、例えば、飲料水処理のための水処理剤や排水処理剤や、以下のように、農業、園芸資材として好適に用いることができる。中国などのアジア地域では近年の急速な工業発展に伴い、飲料水の確保が重要な課題となっているが、本発明のゼオライト成形体は地下水、河川水などの原水からアンモニア、重金属等を除去する水処理剤として好適に用いることが可能である。また、本発明のゼオライト成形体は、排水中の陽イオン除去剤として用いることができるが、流出水のpHの昇を抑制するため、有効に用いることができる。
【0042】
また、このほかに、ゼオライト成形体のpH調整を行う方法として、ゼオライト成形体を酸に浸漬する方法がある。この方法を行うためには、ゼオライト成形体の耐酸性が高い必要があり、無機材料で構成された成形体を用いて行うことが好ましい。例えば、特許文献3に記載のゼオライト成形方法によれば、600〜750℃の低温焼成を行うことにより、多孔質で堅固な成形体を得ることができるが、バインダー成分により成形体のpHは9〜11程度となる。しかしながら、このようにアルカリ性の高い成形体においても、酸に浸漬することで、バインダーのアルカリ成分の中和、ゼオライトの構造内のNa、あるいはKイオンと水素イオンとを交換することで、成形体のpHを意図する範囲に低下させることができる。このようして得たゼオライト成形体についても、上記と同様に水処理剤や植生基盤材料として好適に用いることができる。
【0043】
次に農業、園芸分野に用いるゼオライト成形体について述べる。前述のようにゼオライトは多孔質性と陽イオン交換能力の優れた特性をもち、天然ゼオライトは古くから土壌改良材、農業資材として利用されているが、天然ゼオライトには、アルカリ性を呈する特徴がある。
【0044】
植物の成育に適する土壌のpHは植物の種類によって異なるが、一般的には5.5〜6.5の範囲といわれており、植生基盤のpHがこの範囲を大きく外れると成育阻害が発生することが多い。このため、天然ゼオライトを植生基盤材料として用いる場合では、土壌のpHが高くなってしまうため、一定の量以上を混合することはできない。また、天然ゼオライトは含水するとゼラチン状となり、土の透水性を低下させるなどの問題も生じる。このような問題点があり、天然ゼオライトは現状では園芸、農業分野において限定的に使用されるに留まっている。すなわち、ゼオライトの植生基盤材料として利用価値を高めるためには、多孔質性とイオン交換能力を保持したまま、pH特性を改良し、水と接しても強度を保持する成形体を製造する必要がある。
【0045】
なお、ゼオライト成形体を植生基盤材料として用いる利点としては、以下の点が挙げられる。いずれも粉体のままの利用では得られない利点であり、成形体として利用する効果は大きい。
(1)成形ゼオライトを土壌と混合することにより、土壌の保水性、通気性を大きく向上させることができる。
(2)成形することでゼオライトのpHを調整し、任意の形状・寸法を与えることができる。
(3)環境中において流出、飛散による消失を防ぐことができる。
(4)無機材で堅固な成形体とすることで、腐植・劣化の影響が少なくなり、ゼオライトの性質、セラミックスとしての性能を長期間保持できる。
(5)土壌との分離が容易で、再使用することができる。
(6)成形により様々な形状、寸法を与えることにより、美観が向上し、製品としての付加価値を高めることができる。
【0046】
前記のように本発明のゼオライト成形体では、pHが5〜8.5の範囲に調整されたものであり、植生基盤材料として適するpH特性を有している。ゼオライト成形体に配合する酸性原料としては、硫酸鉄(I)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(I)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(I)、硝酸鉄(II)からなる群から選ばれる少なくとも1種、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。また、酸性原料として、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化銀、硝酸銀、酢酸銀を添加した場合は、成形体に抗菌性を付与することができる。
【0047】
酸性原料として用いる鉄は植物の成長にとって必要な元素であり、マグネシウム、硝酸、リン酸、カリウム等の成分は肥料として用いられる成分である。以上のように、これらの酸性原料はpH緩衝成分であるとともに、また植物の栽培に有効な成分でもある。
【0048】
本発明のゼオライト成形体は、0.5mm〜数mmのサイズに成形され、土壌と混合し植生基盤として用いることができる。土壌とゼオライト成形体とを混合することで、植物の利用可能な範囲の保水性が大きく向上し、さらに、通気性も向上する。これまでの試験評価の結果、ゼオライト成形体を適切に混合した植生基盤では植物の成育が促進されることが確認されている。
【0049】
また、本発明のゼオライト成形体は0.5mm〜数十mmのサイズに成形され、鉢や花壇の土壌や屋上緑化の軽量土壌の表面に敷設して、マルチング材として用いることができる。本発明のゼオライト成形体は、雑草の生育、虫の発生防止などの通常のマルチング材の機能に加えて、保水性が高いため、優れた冷却効果をもち、夏期の土やけ現象を防止することができる。
【0050】
酸性物質として鉄化合物を配合したゼオライト成形体を土壌に混合すると、植物の生長が促進される明確な効果が認められる。これは、ゼオライトの保水性、保肥性に加えて、pHを適切な範囲に調整することができ、さらに、鉄成分が植物の生長に有効なことによると思われる。例えば、畑における水菜、ほうれん草、小松菜などの栽培などにおいては、本発明の鉄化合物を添加したゼオライト成形体(φ2.5mm、L=3〜10mm)をわずか数質量パーセント混合することで、およそ20%重量の増産効果が認められた。また、実施例に示したようにかなりの量を土壌に混合しても、通常の天然ゼオライトを用いたときのように植物の成育阻害は発生せず、むしろ成長が促進される。そのほか、鉄化合物を配合したゼオライト成形体はマルチング材としても植物の成長に良好な効果を与えることが確認できている。
【0051】
以下、本発明のゼオライト成形体について、具体例に基づき、さらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0052】
表1に記載の配合をもつ原料を加水して宮崎鉄工(株)製、ミキサーMHS−100にて混合し、宮崎鉄工(株)製、混練真空押出成形機FM−P30により、四角形断面10mm×10mm、円形断面φ2mmの2種の形状に成形を行い、乾燥後、650℃で5時間焼成を行った。
【0053】
四角形断面10mm×10mm、長さ70mmのゼオライト成形体を用いて曲げ強度を測定した。曲げ強度はオリエンテック製UCT−5Tを用い、スパン30mmに配置された2支点上にこの成形体サンプルを置き、支点間の中央の1点にクロスヘッド速度0.5mm/分の荷重を加えて3点曲げを行い、焼成体サンプルが破壊されるまでの最大荷重を測定し、次式を用いて求めた。
曲げ強度=3WL/2bd
(式中、W:最大荷重(N)、L:下部支点間距離(mm)、b:試験片の幅(mm)、d:試験片の厚さ(mm)を示す)。
【0054】
さらに、この試験片を用いて、気孔率、嵩比重、pH等の測定評価を行った。この測定結果を表1に併せて示した。
【0055】
本発明のゼオライト成形体である試験例1〜4は、多孔質かつ高強度の良好な成形体特性を示した。通常のセメントモルタルの曲げ強度は2〜4N/mm程度である。これに比べて酸性物質として硫酸第1鉄を添加した試験例1は、曲げ強度13N/mmと極めて高強度な成形体となった。また、硫酸マグネシウムを添加した試験例2とアルカリ土類金属化合物である炭酸マグネシウムを用いた比較例1の成形体の強度を比較すると、本発明の成形体の強度は1.6倍の特性となっている。
【0056】
試験例3、4の酸性物質として硫酸第1鉄、硫酸マグネシウムを添加したA型ゼオライトの成形体強度は、炭酸マグネシウムを用いた比較例3の3倍以上の強度となり、天然ゼオライトの成形体より強度は劣るものの、セメントモルタル程度の適切な材料強度を示した。また、比較例2では、可塑性の不良により、押し出し成形を行うことが不可能であった。
【0057】
比較例1の成形体は、適切な強度をもつが、pHが9.4となり、また前記のように本発明のゼオライト成形体と比べて強度も低い。これにより、本発明の酸性原料である鉄化合物の添加により、可塑性が改善され、成形性が確保でき、また、これにより良好な成形体を製造することが可能になることが分かる。
【0058】
本発明のゼオライト成形体はこのような材料強度をもちながら、気孔率は44〜54%と極めて多孔質である。なお、試験例3、4におけるA型ゼオライト成形体の結晶化度をX線回折により分析したが、粉体原料と比較して低下は認められず、成形により性能が低下していないことを確認した。
【0059】
【表1】

【0060】
ここにクリノプチロライト:(三井金属資源開発株式会社製、イワミライト−250メッシュ、組成SiO:66.0質量%、Al:12.9質量%、Fe:1.8質量%、MgO:0.6質量%、CaO:2.3質量%、NaO:2.6質量%、KO:1.6質量%等)、蛙目粘土:(丸小セラミック製特級水ひ蛙目粘土、平均粒径2.5μm)、硫酸第1鉄7水和物:(株式会社テツゲン製、純度92〜99%)、硫酸マグネシウム7水和物:(馬居化成工業株式会社製、純度98%以上)、炭酸マグネシウム:(神島化学株式会社製、マグネサイト金星、純度98%、平均粒径7μm)、リン酸:(関東化学株式会社製、純度85%)、Na−Aゼオライト:(ユニオン昭和株式会社製、4A powder、粒径5μm以下)を用いた。
【実施例2】
【0061】
試薬を用いてNH濃度300mg/L、pH6.9の溶液を作成した。この溶液に実施例1で得たφ2mm、L=3〜8mm寸法に加工した成形体1,成形体2、成形体5を溶液に対し、それぞれ6質量%添加しゆっくり5時間撹拌を行い、上澄み液をサンプリングし、吸光光度計によりNH濃度の変化を測定した。
この結果、成形体1を添加した溶液ではpH6.5、NH濃度86mg/Lとなり、また、成形体2を添加した溶液ではpH7.3、NH濃度95mg/L、成形体5を添加した溶液ではpH9.0、NH濃度108mg/Lとなり、試験評価を行った溶液中の窒素含有量はいずれも排水基準120mg/L以下となった。
【0062】
このように、本発明のゼオライト成形体は、良好なイオン交換性能を保持しており、また、処理後の溶液のpHは排水基準に適合する範囲となる。この、試験評価の中では鉄化合物を配合した実施例1の吸着効果が最も良好な効果を示した。
一方、比較例として実施した成形体5を用いた例ではアンモニア吸着能力が本発明のゼオライト成形体より劣り、また、溶液のpHは基準である8.7を超過した。
【実施例3】
【0063】
実施例1で作成したφ2mm、L=3〜8mmの寸法の成形体1を用いて植生試験を行った。
【0064】
ここで、表2のように植生基盤土として、成形体1を川砂に30質量%混合した植生基盤、川砂のみの植生基盤の2種を用いて、小松菜を栽培した。各植生基盤のpHは表2のとおりとなった。ここで、上記のpHは地盤工学会の方法によって測定した。
【0065】
この小松菜の栽培においては、各々植生基盤重量の3質量%のぼかし肥料を添加し、水遣りは小松菜の状況に応じて適宜行い、約1ヶ月間栽培を行った。収穫時の小松菜の成育状況を表3に示す。
【0066】
このように本発明のゼオライト成形体は材料のpHを改善し、含水しても多孔性を保持し、保水性、通気性を改善するため、このように多くの量を土壌と混合しても通常の天然ゼオライトを用いたときのように植物の成育阻害を生じない。本発明のゼオライト成形体を混合した植生基盤で成育した小松菜は、川砂で栽培したものと草丈において10%、重量において26%の成長促進効果が認められた。
【0067】
鉄分は植物の成長促進に有効な効果をもつといわれており、これはバインダー成分として用いた鉄化合物の影響と、また、加えてゼオライトによる保水性・保肥性の効果の両者が作用してこのように成長が促進されたものと思われる。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を含有することを特徴とするゼオライト成形体。
【請求項2】
前記酸性原料が硫酸鉄(I)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(I)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(I)、硝酸鉄(II)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のゼオライト成形体。
【請求項3】
前記酸性原料が硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のゼオライト成形体。
【請求項4】
前記粘土原料が蛙目粘土、木節粘土、カオリン、頁岩粘土、せっ器粘土、赤土、青土、陶石、ベントナイト、ろう石、酸性白土、メタカオリン、セピオライト、アタパルジャイトからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のゼオライト成形体。
【請求項5】
pHが5.0〜8.5の範囲に調整されたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のゼオライト成形体。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のゼオライト成形体からなる植生基盤材料。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のゼオライト成形体からなる水処理剤。

【公開番号】特開2010−168239(P2010−168239A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11357(P2009−11357)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(504429921)
【出願人】(501084765)
【Fターム(参考)】