説明

ゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法及びその繊維構造物

【課題】 本発明は、一度の浸漬処理でケイ素化合物とアルミニウム化合物とを同時にガラス繊維に付与してゼオライトの生成反応を行わせることができるガラス繊維の製造方法及びその繊維構造物を提供する。
【解決手段】 本発明のゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法は、ケイ素化合物とアルミニウム化合物と水酸化ナトリウムが溶解している水溶液であって、ケイ素化合物を酸化ケイ素、アルミニウム化合物を酸化アルミニウムにそれぞれ換算した場合、その合計量(Y)として0.0703〜1.6403質量%が前記水溶液中に溶解していると共に、前記水溶液中における水酸化ナトリウム濃度(X)が4〜15質量%であり、前記酸化ケイ素と酸化アルミニウムに換算した合計量(Y)と水酸化ナトリウム濃度(X)の関係が下式(I)で表される水溶液でガラス繊維を処理したことを特徴とする。
Y≦0.1427X−0.5006 (I)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト結晶をガラス繊維表層に生成させるための製造方法、その製造方法で製造されたゼオライト被覆ガラス繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライト被覆ガラス繊維は、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水からなる反応混合物スラリーにシリカ−アルミナ系ガラス繊維を浸漬して製造する方法が提案されてきた。
【0003】
また、上記製造法の問題である大量の粉末状ゼオライトの副生の解決方法として、シリカ−アルミナ系ガラス繊維を水酸化ナトリウム水溶液中で加熱し、ガラス繊維表面にゼオライトを結晶化させる方法も提案されている。
しかしながら、特許文献1も特許文献2においても、シリカ−アルミナ系ガラス繊維を水酸化ナトリウム水溶液中で加熱し、ガラス繊維表面にゼオライトを結晶化させているが、ガラス繊維の素材である酸化アルミニウムと酸化ケイ素をゼオライトの素材とするため、ガラス繊維が減量する、また、ガラス繊維が減量することにより、ガラス繊維が脆化するなどの問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平11−217241号公報
【特許文献2】特開2001−39740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、一度の浸漬処理でケイ素化合物とアルミニウム化合物とを同時にガラス繊維に付与してゼオライトの生成反応を行わせることができるガラス繊維の製造方法及びその繊維構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、アルミン酸ソーダ等のアルミニウム化合物の水酸化ナトリウム水溶液とケイ酸ソーダ等のケイ素化合物の水溶液とを混合すること、この場合、ケイ素化合物を酸化ケイ素、アルミニウム化合物を酸化アルミニウムにそれぞれ換算した場合、その合計量として0.0703〜1.6403質量%が水溶液中に溶解していると共に、水酸化ナトリウムの濃度が4〜15質量%となるようにアルミニウム化合物、ケイ素化合物、水酸化ナトリウム、水を使用することにより、透明、均一な混合水溶液が得られることを見出した。そして、この混合水溶液でガラス繊維を処理することにより、ガラス繊維に同時にアルミニウム化合物とケイ素化合物とを付与でき、両化合物を湿熱加熱条件下において反応させることにより、ガラス繊維の表面にゼオライトを生成させることができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記のゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法及びその繊維構造物を提供する。
<1>ケイ素化合物とアルミニウム化合物と水酸化ナトリウムが溶解している水溶液であって、ケイ素化合物を酸化ケイ素、アルミニウム化合物を酸化アルミニウムにそれぞれ換算した場合、その合計量(Y)として0.0703〜1.6403質量%が前記水溶液中に溶解していると共に、前記水溶液中における水酸化ナトリウム濃度(X)が4〜15質量%であり、前記酸化ケイ素と酸化アルミニウムに換算した合計量(Y)と水酸化ナトリウム濃度(X)の関係が下式(I)で表される水溶液でガラス繊維を処理することを特徴とするゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法。
Y≦0.1427X−0.5006 (I)
<2>前記水溶液にガラス繊維構造者を浸漬させた後、湿熱加熱してガラス繊維表層でケイ素化合物とアルミニウム化合物とを反応させてゼオライト結晶を生成させることを特徴とするゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法。
<3>ケイ素化合物がケイ酸ソーダであり、アルミニウム化合物がアルミン酸ソーダである<1>乃至<2>記載のゼオライト被覆ガラス繊維構造物の製造方法。
<4><1>〜<3>のいずれかに記載の方法で製造されたものであって、形状が綿状又は糸又は織布又は不織布であるゼオライト被覆ガラス繊維構造物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一液で一度の処理によってアルミニウム化合物とケイ素化合物とを同時にガラス繊維に付与してゼオライト生成反応を行わせることができるので、ゼオライトを被覆したガラス繊維を簡単に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いるガラス繊維の加工液は、ガラス繊維表層にゼオライトを生成させるための水溶液にガラス繊維又はガラス繊維からなる繊維構造物を浸漬する方法であり、ケイ素化合物を酸化ケイ素(Si0)、アルミニウム化合物を酸化アルミニウム(Al)にそれぞれ換算した場合、その合計量(Y)として0.0703〜1.6403質量%が溶解していると共に、水酸化ナトリウム濃度が4〜15質量%である水酸化ナトリウム水溶液からなるものである。
【0010】
上記合計量(Y)が0.0703質量%より低いとゼオライトの合成量が少なくなり、1.6403質量%より多いとケイ素化合物とアルミニウム化合物の利用されない量が生じる。また、水酸化ナトリウム濃度が4質量%より低いとガラス繊維の物理的な変化が少なくガラス繊維表層でのゼオライトの合成がすすまない、15質量%より多いとガラス繊維の物理的な変化が大きく、例えば減量や脆化などが発生する。
また、水酸化ナトリウム濃度は、7質量%未満ではゼオライトの合成効率が低く、12質量%超ではイオン交換機能が低下するため、7〜12質量%がより好ましい。
【0011】
この場合、ケイ素化合物とアルミニウム化合物とは、質量比として1:0.2〜1:2、特に1:0.8〜1:1.5の割合で使用することが好ましい。
【0012】
ここで、ケイ素化合物としては、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、水ガラス、シリカゾル等を使用することができる。一方、アルミニウム化合物としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、等が挙げられる。
【0013】
例えば、ガラス繊維表層でゼオライトを生成する場合は、ケイ素化合物としてはメタケイ酸ナトリウムを、アルミニウム化合物としてはアルミン酸ナトリウムを好適に使用できる。
【0014】
上記ガラス繊維の加工液は、アルミニウム化合物を含む水酸化ナトリウム水溶液と、ケイ素化合物の水溶液とを準備し、これらをアルミニウム化合物、ケイ素化合物及び水酸化ナトリウムの濃度が上述した範囲になるように混合することによって、透明、均一混合水溶液を得ることができる。また、アルミニウム化合物の水溶液とケイ素化合物を含む水酸化アルミニウム水溶液を混合しても同様な結果が得られる。
【0015】
なお、上記混合は室温において行うことができるが、30〜90℃程度に加熱しても差し支えない。
【0016】
本発明で用いられた加工液は、上述したように、実質的に透明、均一であり、25℃においてB形粘度計を用いて測定した程度が約2mPa・s以下の低粘度であり、この加工液を用いてガラス繊維を処理するものである。
【0017】
その製造法としては、ガラス繊維を上記加工液に浸漬する等の方法でガラス繊維表層に、上記ケイ素化合物及びアルミニウム化合物をガラス繊維に付与し、必要に応じて室温下で養生した後、湿熱加熱させることにより、ケイ素化合物とアルミニウム化合物を水蒸気の存在下で反応させ、これによってガラス繊維表層にゼオライトを形成させるものである。
【0018】
この場合、ガラス繊維の種類及び太さは特に制限されず、特に本発明はガラス繊維の太さが10μm以上のシリカーアルミナガラス繊維構造物の処理に有効である。
【0019】
ここで、ガラス繊維としては、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムや酸化カルシウム等の組成により種々のものが挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を混用したものであっても構わない。また、天然、再生セルロース繊維又は半合成繊維にナイロン、ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維等、他の繊維を本発明の目的を損なわない範囲で混合して用いても差し支えない。
【0020】
かかるガラス繊維からなる構造物としては、綿状、糸、織布、不織布を挙げることができ、具体的には、上記ガラス繊維を製織してなる、平織、綾織、朱子織等の織物や、あるいは不織布等が挙げられ、これらは必要に応じて、染色加工等の処理を施すことができる。
【0021】
この場合、このようなガラス繊維及びその構造物を処理するガラス繊維加工液としては、水酸化ナトリウム濃度が高すぎると、ガラス繊維の素材が溶け出し脆化や減量が生じ、水酸化ナトリウム濃度が低すぎると、ゼオライトの生成率が低下するおそれがあるので、ケイ素化合物を酸化ケイ素、アルミニウム化合物を酸化アルミニウムにそれぞれ換算した場合、その合計量(Y)として0.0703〜1.6403質量%が溶解していると共に、水酸化ナトリウム濃度が4〜15質量である水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0022】
ガラス繊維構造物に上記水溶液を浸漬させる方法は特に制限されず、パディング法、コーティング法、スプレー法、浴中法等いずれの方法でも構わないが、特にパディング法が加工性(生産性)に優れることから好ましく採用することができる。
【0023】
ガラス繊維構造物を上記加工液に浸漬させた後、好ましくは4〜20時間、室温下で養生し、次いで湿熱加熱させる。湿熱加熱の条件は、60〜100℃、特に70〜90℃で、0.5〜20時間、特に1〜3時間が好ましい。湿熱加熱は、例えば、上記加工液を浸漬させたガラス繊維構造物等を密閉空間へ投入し、これを上記温度に加熱する方法等により行うことができる。これにより、ケイ素化合物とアルミニウム化合物とを効率よく反応させ、結晶成長を促すことができる。
【0024】
反応終了後は、30〜90℃の温水で洗い、表面に生成した結晶を洗い流し、続いて乾燥させることが好ましい。
【0025】
なお、上記ガラス繊維表層にゼオライト結晶を形成させる場合に、更にゼオライト結晶中に銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、マンガンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオンを導入(イオン変換)することができる。このように銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン等の金属イオンをゼオライト結晶中に導入(イオン交換)する場合、これらの金属の金属塩、例えば銅イオン等を含有する水溶液を濃度0.1〜1.0質量%、特に0.2〜0.6質量%に調製し、この水溶液をゼオライト結晶が生成したガラス繊維構造物に付与する方法を採用することができる。この場合、上記金属塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記水溶液を繊維構造物に付与する方法は特に制限されず、浸漬法、コーティング法、パディング法、スプレー法等が挙げられ、浸漬法、パディング法を好ましく用いることができる。
【0027】
繊維構造物に上記金属イオンの水溶液を付与した後、50〜65℃の湯にて洗い乾燥して、金属イオンを導入したガラス繊維構造物を得ることができる。
【0028】
また、本発明におけるゼオライトは、特に合成ゼオライト(4A型)、X型、Y型が吸着特性および金属イオン交換性の点から好ましい。
【0029】
なお、本発明のガラス繊維構造物は、上記製造法(処理法)において、ガラス繊維が減量せず、脆化しないことが望ましい。
【0030】
本発明のガラス繊維構造物は、それ自体で高消臭(脱臭)性、陽イオン交換能、吸放湿性能等に優れ、高い機能性を有するものであるが、上述したように、更にゼオライト結晶中に、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、マンガンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオンの1種又は2種以上を導入(置換)することで、抗菌性、防カビ性、ウィルス不活化性等の各種機能を付与することができる。
【0031】
この場合、金属イオンの導入量、例えば、銅イオンの導入量はゼオライト結晶の質量に対して0.5〜14質量%が好ましく、より好ましくは7〜12質量%である。金属イオンの量が少なすぎると、イオン効果がない場合がある。
【0032】
本発明のガラス繊維構造物は、消臭性、抗菌性等に非常に優れるため、衣料品(食品・衛生関連作業衣等)、家庭用品(インテリア関連用品等)、衛生材料関連用品、環境浄化システム、農業資材(水耕栽培)、土壌温床、自動車関連用品、ペット関連用品等の産業資材等、様々な用途に利用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0034】
[実施例、比較例]
実施例を表1、比較例を表2に示す量において、成分(i),(ii),(iii),(iv)を使用し、以下の操作を行った。
1 (i)アルミン酸ソーダ(朝日化学工業(株):NA−170)と(iii)苛性ソーダ(日産化学(株):48wt%水溶液)をマグネティックスターラー(ユニコントロールズ(株)製 MKY−215)で数分間(約5分)撹拌し、アルミン酸ソーダを苛性ソーダ溶液に溶解した。
2 次に、(iv)水で希釈した(ii)1号ケイ酸ソーダ(東曹産業工業(株):1号珪酸ソーダL2)を撹拌しながら、上記成分(i),(iii)の混合水溶液を添加した。
3 10分間撹拌後、混合水溶液100gと繊維生地2.0g(日東紡製WEA7628)をステンレス製の筒型密閉容器に封入し、高温高圧染色試験機(辻井染機工業(株):ラボマスター)を用いて加工液を60分間含浸、ならびに85℃で加熱反応させた。
4 反応後、処理布をステンレス製筒型密閉容器から取り出し、60℃温水で繰り返し湯洗いした後、吊り干し乾燥させた。
【0035】
上記ステップ2で得られた混合水溶液の性状を評価した。この場合、低粘度とは、25℃におけるB形粘度計を用いた測定で2mPa・s以下の場合である。
【0036】
また、ステップ4で得られた処理布のゼオライト担持率及び外観を評価した。この場合、ゼオライト担持率の測定は、下記の方法で行った。
10cm×10cmのゼオライトを生成させた処理布を、100gの2%クエン酸水溶液に3時間浸漬した。その後、処理布を水溶液から取り出し乾燥させた後、処理布の質量を測定した。処理布の浸漬前の質量と浸漬後の質量の差から、ゼオライトの担持量を測定して担持率を出した。
なお、外観の評価において、「良好」は加工前の生地と同等の形状を保持している場合であり、「若干硬化」は生地を強く折り曲げることでひび割れを発生する状態である。「ゼオライトが斑に生成」とは、目視により確認できる程度の明らかな斑模様である。「ひび割れ」とは処理布をステンレス製筒型密閉容器から取り出した直後の外観であり、生地に強い力をかけるまでも無く、ひび割れから容易に切断や脱落を発生する状態である。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物とアルミニウム化合物と水酸化ナトリウムが溶解している水溶液であって、ケイ素化合物を酸化ケイ素、アルミニウム化合物を酸化アルミニウムにそれぞれ換算した場合、その合計量(Y)として0.0703〜1.6403質量%が前記水溶液中に溶解していると共に、前記水溶液中における水酸化ナトリウム濃度(X)が4〜15質量%であり、前記酸化ケイ素と酸化アルミニウムに換算した合計量(Y)と水酸化ナトリウム濃度(X)の関係が下式(I)で表される水溶液でガラス繊維を処理することを特徴とするゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法。
Y≦0.1427X−0.5006 (I)
【請求項2】
前記水溶液にガラス繊維を浸漬させた後、湿熱加熱してガラス繊維表層でケイ素化合物とアルミニウム化合物とを反応させてゼオライト結晶を生成させることを特徴とする請求項1記載のゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法。
【請求項3】
ケイ素化合物がケイ酸ソーダであり、アルミニウム化合物がアルミン酸ソーダである請求項1乃至2記載のゼオライト被覆ガラス繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で製造されたものであって、形状が綿状又は糸又は織布又は不織布であるゼオライト被覆ガラス繊維構造物。

【公開番号】特開2008−56550(P2008−56550A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283288(P2006−283288)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】