説明

ゼーベック電流積分による温度差検出装置

【課題】従来の電流検出型熱電対のS/Nを増大させると共に、更に高感度化させた電流検出型熱電対による温度差検出装置を提供し、熱型赤外線センサ、気圧センサ、ガスセンサやフローセンサなどに応用できる超小型の高感度な温度差検出装置を提供する。
【解決手段】熱電対の短絡電流を利用して温度差を検出する温度差検出装置において、この短絡電流を計測する短絡電流計測手段、この短絡電流を積分する積分手段、所定の時間だけ積分させる時間設定手段、上記積分後、初期状態の復帰させる初期状態復帰手段、前記積分手段の出力を取り出す電圧出力手段を備え、この電圧出力手段からの出力電圧を用いて、前記温度差を求めるようにした。短絡電流計測手段としてOPアンプ、積分手段としてコンデンサ、初期状態復帰手段としてクロックパルスと同期したスイッチ、電圧出力手段としてピークホールド回路を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電対を用いて温度差を検出するに当たり、信号対雑音比(S/N)を大きくさせて増幅させるようにした高感度な温度差検出装置に関するもので、熱電対を用いて温度差を検出するのに、熱起電力の開放電圧の大きさから求めるのではなく、熱電対を含む閉回路を構成して、そこを流れる電流であるゼーベック電流から被検出温度差を求める、所謂、電流検出型熱電対において、その短絡電流をコンデンサなどの積分手段に通じることにより電荷を所定に時間だけ貯めて、そのときの大きくなった出力電圧を基にして被測定温度差を検出できるようにした温度差検出装置提供するものである。本発明により、S/Nの良い高感度な温度差検出装置となり、高感度の熱型赤外線センサやフローセンサなどに応用できるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、温度差を検出するのに、ある基準温度に対して被検出温度差を有する箇所に熱電対の温接点と冷接点となる二つの接合部間に温度差を形成して、その開放熱起電力から温度差を求めていた。
【0003】
また、本発明者は、先に「温度差の検出方法、温度センサおよびこれを用いた赤外線センサ」(特願2004-026247)(特許文献1)を発明して、熱電対の温接点と冷接点となる二つの接合部間の温度差による熱起電力を開放電圧で測定するのではなく、短絡電流を計測して温度差を計測する方法を提案し、これを電流検出型熱電対と名づけ、実験的にその優位性を示してきた。本発明者は、更に、「電流検出型熱電対の校正方法と校正用熱電対を備えた電流検出型熱電対」(特願2005-332341(特許文献2)、特願2006-300301(特許文献3))を発明して、その校正方法などを提案してきた。
【0004】
この電流検出型熱電対の基本原理は、次のようなことに基づくものである。半導体のゼーベック係数αsは、抵抗率ρに関し、次の数式1で表現されることが分かっている。
【0005】
【数1】

ここで、kはボルツマン定数、qは電荷素量であり、Siでは、ρ0=5x10−6Ωm、m=2.6である。従来は、上式から抵抗率ρが大きい方がゼーベック係数αsも大きくなるので、抵抗率ρの大きい半導体を使用して、熱電対やサーモパイルを作成する傾向にあった。しかし、余り大きな抵抗率の半導体を使用すると、内部抵抗の極めて大きなサーモパイルになり、その妥協点を探していた。しかし、上式数1は、次のことも意味していることに本発明者が気づいた。すなわち、抵抗率ρが3〜4桁下がっても、ゼーベック係数αsは、3〜9分の1程度しか下がらないことを意味する。抵抗率の逆数である導電率は、熱電対(サーモカップル)を短絡するとそこを流れる電流に比例するので、抵抗率の極めて小さい熱電対を作成し、何らかの方法でその短絡電流が計測できれば、従来のサーモカップルやサーモパイルなどの開放電圧を計測するより極めて高い感度とS/Nが得られると予想される。
【0006】
これまでの短絡電流検出型熱電対では、短絡電流を計測するのにOPアンプ(演算増幅器)の仮想短絡を利用し、その短絡電流を電圧に変換するために、帰還抵抗RfをOPアンプに取り付けて、その電圧降下をOPアンプの出力電圧Vとして利用し、この出力電圧Vと被検出温度差ΔTを予め用意した校正曲線により求めていた。しかし、更に微小な温度差を検出するには、さらに高感度化する必要があり、そのためには、信号対雑音比(S/N)を大きくする必要があった。
【0007】
この従来の短絡電流検出型熱電対では、帰還抵抗RfをOPアンプに取り付けて、その電圧降下をOPアンプの出力電圧Vとして利用していたので、応答速度は速いものの、入力信号に含まれる雑音や誘導雑音がそのままOPアンプの出力電圧Vに反映していた。また、帰還抵抗Rfに適当な時定数になるようなコンデンサCを並列接続して、出力電圧Vに含まれる高周波成分をコンデンサでバイパスさせて、RfとCで決まる時定数内で平均化させてS/Nを向上させるようにしていた。それでも本質的に時々刻々変化する熱電対の短絡電流を反映したOPアンプの出力電圧Vになるだけなので、感度を増大することが困難であった。そのためには、S/Nが大きい初段増幅が必要であった。
【0008】
また、従来、アナログ入力電圧Viをデジタル変換するのに(AD変換)、OPアンプとコンデンサCとを用いて、所定の入力抵抗Rを通してアナログ入力電圧Viを電流に変化して、その後、OPアンプに備えたコンデンサCに充電して、電圧変換し、次に、既知の基準電源Vrefを用いて、これを打ち消してゼロになるように、逆にコンデンサCに蓄えられた電荷を完全に打ち消すための時間を計測してデジタル化するもので、短い時間間隔のクロックパルスを用いて、このクロックパルスのカウント数Nで求めて、デジタル化するというやり方があった。しかし、これは、信号増幅が目的で無く、AD変換の手段であり、更に、打ち消すための時間とその付属回路が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2004-026247
【特許文献2】特願2005-332341
【特許文献3】特願2006-300301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の電流検出型熱電対を、更にS/Nを増大させると共に、大きな初段増幅させて高感度化できる電流検出型熱電対による温度差検出装置を提供し、熱型赤外線センサ、気圧センサ、ガスセンサやフローセンサなどに応用できる超小型の高感度な温度差検出装置を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる温度差検出装置は、熱電対のゼーベック電流を利用して温度差を検出する温度差検出装置において、該ゼーベック電流を計測するゼーベック電流計測手段、該ゼーベック電流を積分する積分手段、所定の時間だけ積分させる時間設定手段、上記積分後、初期状態の復帰させる初期状態復帰手段、前記積分手段の出力を所定の期間保持する電圧出力手段を備え、該電圧出力手段からの出力電圧を用いて、前記温度差を求めるようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係わる温度差検出装置の短絡電流検出用熱電対における温度差の検出は、従来の開放熱起電力を計測する方式の場合とは異なり、熱電対を電流検出型として用いるようとしているために短絡電流計測手段を用いるが、演算増幅器(OPアンプ)のように、電流検出手段の測定器の内部抵抗が等価的に打ち消されてゼロになるような測定器にする方が良く、熱電対に流れる短絡電流を容易に計測できるようにしている。また、熱電対の内部抵抗は、熱電対を構成する二つの導体の材料、寸法や形状などにより異なり、同一の熱起電力に対して大きな電流が流れるように可能な限り内部抵抗が小さくなる導体材料の組み合わせとする必要があり、その中でも熱起電力が大きい熱電対、すなわち、絶対熱電能Eに相当するゼーベック係数の大きな材料を用いた方が良い。
【0013】
また、この短絡電流を積分する積分手段として、コンデンサを用いて充電させて、その蓄えられた電荷に基づく両端の電位差を利用すること、コンデンサを用いずに、短絡電流信号を抵抗に通じて、その両端の電圧に変換しておき、例えば、0.1ミリ秒程度毎に、それらの電圧をソフトウエア上で足し算するようにしても良い。また、それらの出力電圧をICメモリに蓄えて利用できるようにしても良い。
【0014】
また、所定の時間だけ積分させる時間設定手段として、ICタイマーを利用して所定に時間を決めても良いし、外部で発生させたクロックパルスを利用して、その一つのパルス毎にICスイッチなどのスイッチ駆動するようにして、時々刻々変化する熱電対からの入力信号を出力するようにしても良い。
【0015】
また、上記積分後、初期状態の復帰させる初期状態復帰手段として、積分手段としてのコンデンサに並列の上記スイッチを接続して、スイッチが閉状態になったときに、コンデンサに貯まった電荷を放電させて、空の状態にすることでコンデンサを初期状態に復帰させるようにしても良い。また、ソフトウエア上で足し算したものやメモリ上の値をクリアして、初期状態に復帰させても良い。
【0016】
本発明の請求項2に係わる温度差検出装置は、ゼーベック電流計測手段として、演算増幅器とその仮想短絡を用いたこと、積分手段としてコンデンサを用いたこと、かつ初期状態復帰手段としてコンデンサに並列接続したスイッチを用いた場合である。
【0017】
積分手段としてコンデンサを用いることは、極めて単純な構成になるので実用上の利点がある。コンデンサは、従来の帰還抵抗Rの代わりにOPアンプに接続することにより短絡電流を積分することができる。例えば、コンデンサ容量をCとし、被検出温度差ΔTによる熱電対の短絡電流をIsとすれば、所定の時間tだけ積分させたときのOPアンプの出力電圧Vは、数1式のように、表現される。また、従来の温度差検出装置では、Rを用いていたので、そのときの出力電圧V00は、数2式で表すことができる。従って、これらの比、V/V00は、数3式で表現される。
【0018】
【数1】

【0019】
【数2】

【0020】
【数3】

【0021】
従って、一定の短絡電流IsがコンデンサCに流入して、OPアンプの出力Vが得られたときと、従来のようにコンデンサCではなくて、OPアンプの帰還抵抗Rを用いた場合の出力電圧V00との比は、数3式のように表現されるから、例えば、積分時間tを10ミリ秒(msec)とし、コンデンサCを1000ピコファラッド(pF)、帰還抵抗Rを100キロオーム(kΩ)とすると、V/V00は、100となり、従来よりも100倍の感度が得られることに成る。このようにして、応答は短絡電流の積分期間があるために、その積分期間より速い応答は望めないが、感度の増大が見込める。熱型赤外線センサに応用するときには、積分時間を赤外線受光部の熱時定数程度に積分時間を選んでおけば実質的に、問題がない。
【0022】
また、コンデンサCでの短絡電流の積分を用いているので、その積分時間内の雑音は、信号である短絡電流に重畳されるが、一般に雑音は正と負とが入り混じり平均化するとゼロになる性質があるから積分時間内の雑音は正負互いに打ちけられる傾向にあり、S/Nが大きい状態になる。このようにして、S/Nの大きい初段増幅器として好適である。
【0023】
本発明の請求項3に係わる温度差検出装置は、クロックパルスを時間設定手段として用いたこと、かつこのクロックパルスの一回毎に初期状態復帰手段を駆動するようにした場合である。
【0024】
クロックパルス発生器で、例えば、5Vの電圧振幅、10ミリ秒(msec)、デューティ比1:1の矩形波パルス信号で、アナログスイッチを駆動するようにして、OPアンプに取り付けた積分手段としてのコンデンサCを電荷の充電と放電させるようにする。アナログスイッチを開(オフ)状態にして、このときコンデンサCに貯まった電荷は、コンデンサCの両端に電圧を発生する(この電圧が、OPアンプの出力電圧Vを形成することになる)し、アナログスイッチを閉(オン)状態にして、放電させると出力電圧Vはゼロになり、初期状態に復帰することになる。このように、クロックパルスを印加して、アナログスイッチを開(オフ)状態にしたときに、短絡電流の積分が開始し、アナログスイッチを閉(オン)状態にしたときに、放電が開始するので、このアナログスイッチが開状態の期間(この場合には、10ミリ秒)が積分する時間となる。なお、クロックパルスの幅を調整することで、積分時間を延ばしたり、縮めたりすることができるし、アナログスイッチの閉(オン)時の内部抵抗が小さい場合には、放電時間を短くしても良いので、ほぼ連続的なOPアンプの出力電圧を得ることができる。
【0025】
本発明の請求項4に係わる温度差検出装置は、電圧出力手段としてピークホールド回路とした場合である。
【0026】
上述のように、アナログスイッチを閉(オン)状態にして、コンデンサの放電が開始するので、その直前のコンデンサの両端の電圧が、最大になる。このアナログスイッチが開状態(オフ)期間の最後のコンデンサの両端の電圧である最大電圧を計測するようにすることが、高感度化するのに最適であり、この最大電圧はその直後のアナログスイッチを閉(オン)状態での放電開始により、急激にOPアンプの出力電圧Vが小さくなり始めるので、波形として、ピークを形成する。従って、公知のピークホールド回路を用いることにより、この最大電圧を計測することができる。この出力電圧Vと被検出温度差ΔTとの予め用意してある校正曲線を利用するなどして、被検出温度差ΔTを求めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の温度差検出装置では、短絡電流計測手段としての演算増幅器(OPアンプ)と積分手段としてのコンデンサを用いて、簡単に熱電対(または、複数の熱電対の組であるサーモパイル)の微小な短絡電流を所定の時間だけ積分するので、積分後のOPアンプの出力電圧を大きくすることができる。従って、被検出温度差を高感度に検出できるという利点がある。
【0028】
本発明の温度差検出装置では、積分手段としてのコンデンサを用いることができるので、短絡電流に含まれる雑音、または誘導雑音の正負の変化を打ち消し合うので、S/Nを大きくすることができるという利点がある。
【0029】
本発明の温度差検出装置では、クロックパルスを時間設定手段として利用し、初期状態復帰手段としてのアナログスイッチを簡単にオン、オフ状態にすることができるので、小型で単純な回路構成となるという利点がある。なお、クロックパルスの発生器も公知のICタイマーなどの単純な回路で構成できるので、これも搭載した温度差検出装置の小型化が容易である。
【0030】
本発明の温度差検出装置では、電圧出力手段として公知のピークホールド回路が利用できるので、簡単に温度差検出装置が構成できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の温度差検出装置を、熱型赤外線センサの温度検出部に適用した場合の一実施例を示す回路構成概略図である。(実施例1)
【図2】熱電対を短絡電流検出型熱電対として利用した場合の動作を説明する従来の回路構成概略図である。(実施例1)
【図3】本発明の温度差検出装置を説明するための他の一実施例を示す回路構成のうちの熱電対部分の概略図である。(実施例2)
【図4】本発明の温度差検出装置を説明するための他の一実施例を示す回路構成概略図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の温度差検出装置の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の温度差検出装置を、熱型赤外線センサの温度差検出部に適用した場合の一実施例を示す回路構成概略図である。
【0034】
本発明の温度差検出装置に用いる短絡電流検出型熱電対の熱電対10を利用して、これを熱型赤外線センサとして実施する場合は、図1を参照して、例えば、次のようにする。SOI基板の薄いn型の高濃度SOI層(例えば、厚み5μm)をMEMS技術でその下部に空洞を形成して細長いカンチレバとして残し、熱電対を構成する導体10Bとして利用する。また、この薄いn型の高濃度SOI層の導体10B上を熱酸化してシリコン酸化膜の薄い絶縁膜を形成する。そして、これを介して、カンチレバの先端付近で導体10Bと接合する導体10A(例えば、ニッケルNi)薄膜をスパッタリング堆積などで形成して、カンチレバ型の熱電対10を形成する。そして、このカンチレバ型の熱電対10の全部または先端部付近の領域に赤外線吸収膜を形成して、ここを赤外線受光部100とする。なお、一般に高濃度のn型半導体の絶対熱電能は、金属に比べて大きく、温接点60の方が冷接点70に対して正の電位となる。Ni薄膜金属は、n型半導体でと逆の電圧である温接点60が冷接点70に対して負の電位になる。従って、図1に示すような熱電対10の配置では、赤外線を受光した赤外線受光部100は、温度上昇して、温接点60として作用する。この時、短絡電流計測手段1としての演算増幅器(OPアンプ)20の反転入力端子(−)Bから熱電対10を通して非反転入力端子(+)Aの方向に短絡電流Isが流れることになる。
【0035】
ここでは、熱型の赤外線センサとして実施しているので、薄膜のカンチレバの先端付近にある熱電対10の導体10Aと導体10Bとの接合部を温接点60として利用する。この場合、ここでは図示しないが、カンチレバ状の熱電対10を支持しているSOI基板が、冷接点70となる。この冷接点70の温度を周囲温度である室温と一致させるようにすると良い。このような場合には、本発明の温度差検出装置に用いる回路構成部も室温にするので、短絡電流計測手段1である演算増幅器(OPアンプ)20も冷接点70と同一の温度であり、被検出温度差ΔTは、温接点60と冷接点70との温度差となり、その結果、OPアンプ20の仮想短絡効果により、被検出温度差ΔTによる熱電対10の熱起電力と熱電対10の内部抵抗により定まる短絡電流Isが、積分手段2のコンデンサ25に流れ、この短絡電流Isが積分されることになる。
【0036】
ここでは、図示していないが、熱電対10の温接点60付近に赤外線受光部100用の赤外線吸収膜を有するカンチレバや橋架構造、更にはダイアフラムをアレー状にして、それぞれを画素とするイメージセンサとして利用しても良い。
【0037】
本発明の温度差検出装置について、これを熱型赤外線センサとして実施する場合の動作について、図1を参照して詳細に説明すると次のようである。先ず、室温(例えば、20℃)で赤外線を受光した上述の熱電対10は、被検出温度差ΔTだけ温度上昇して、その時の熱電対10の熱起電力をその内部抵抗で除算した値の短絡電流Isが、初期状態復帰手段4であるスイッチ40が開状態(オフ状態)のときには、OPアンプ20に接続している積分手段2のコンデンサ25に流れる。コンデンサ25が空の電荷であると、その両端の電位差はゼロであるので、OPアンプ20の出力電圧Vもゼロである。しかし、短絡電流Isがコンデンサ25に流れ始めて時間が経過するに従い、徐々にコンデンサ25に短絡電流Isの時間積分した分の電荷が貯まり、OPアンプ20の出力電圧Vもそれと共に上昇する。例えば、コンデンサ25に短絡電流Isを流し始めてから所定の積分時間tを、例えば、10ミリ秒(msec)経過した時点で、コンデンサ25に並列に接続している初期状態復帰手段4のスイッチ40を閉状態(オン状態)にさせると、このコンデンサ25の容量Cとスイッチ40の内部抵抗(オン抵抗)との積で表現される時定数で、このスイッチ40を通してコンデンサ25に貯えられた電荷が放電するので、コンデンサ25の電荷が再びゼロに復帰する。この復帰することを、ここでは、初期状態復帰と呼ぶことにする。このスイッチ40を周期的に開状態(オフ状態)と閉状態(オン状態)とを繰り返させることにより、コンデンサ25が充放電されて、OPアンプ20の出力電圧Vも周期的に同期してゼロから最大値まで変動することになる。出力電圧Vの最大値(ピーク値)は、スイッチ40が閉状態(オン状態)になる直前である。この出力電圧Vのピーク値は、OPアンプ20の出力端子に接続した、例えば、公知のピークホールド回路の出力端での出力電圧V0pとして計測することができる。このようにして得られた出力電圧V0pと予め用意してある被検出温度差ΔTとの校正曲線を用いて、被検出温度差ΔTを計測することができる。
【0038】
スイッチ40の周期的な開状態(オフ状態)と閉状態(オン状態)との繰り返しは、例えば、スイッチ40をアナログスイッチとして、その入力端子に5V振幅の時間設定手段3としてのクロックパルスを印加することで達成できる。アナログスイッチの内部抵抗が小さいので、放電の時定数が数マイクロ秒程度の極めて小さくにすることも可能であるから、必ずしもクロックパルスのデューティ比を1:1にする必要がなく、例えば、開状態(オフ状態)を10ミリ秒とし、閉状態(オン状態)を1ミリ秒のような10:1のようにして、ほぼ連続的なピークホールド回路の出力電圧V0pが得られるようにすることができる。ここでは、外部に取り付けたクロックパルス発生器によりクロックパルスを導入するようにした例である。もちろん、クロックパルス発生器を組み込んだ装置にしても良い。
【0039】
上述では、クロックパルスを導入して、周期的にスイッチ40をオフ状態とオン状態にした場合であるが、必要に応じて、それらの時間調整をしたり、単発もしくは複数回のオフ状態とオン状態の動作をさせても良い。
【0040】
図2には、従来の短絡電流検出型熱電対の動作を説明する回路構成概略図を示しており、熱型赤外線センサの赤外線検出装置に適用した例である。この従来の実施例では、OPアンプ20に帰還抵抗Rfを取り付けている。この場合、応答速度は赤外線受光部100の熱容量と熱コンダクタンスにより定まる熱時定数でほぼ決まり、OPアンプ20の出力電圧Vは、帰還抵抗Rfとそこを流れる短絡電流Isの積になる。従って、熱時定数より十分長い時間を経過しても、短絡電流Isが一定であると出力電圧Vも、一定値となる。短絡電流Isが小さいときには、出力電圧Vも小さい値で一定値となってしまう。これに対して、本発明の温度差検出装置では、前述のように、短絡電流Isの時間積分をさせるので、時間経過と共に出力電圧Vは上昇する。従って、大きな出力電圧Vを得ることができる。例えば、所定の積分時間tを10ミリ秒(msec)とし、コンデンサCを1000ピコファラッド(pF)、帰還抵抗Rを100キロオーム(kΩ)とすると、一定の短絡電流Isが流れたとすると、そのときの出力電圧比、V/V00は、100となり、従来の短絡電流検出型熱電対の動作である図2に示す方式よりも100倍の感度が得られることに成る。ここで、V00は、従来の短絡電流検出型熱電対のOPアンプ20の出力電圧である。また、本発明の温度差検出装置では、従来の帰還抵抗Rの代わりにコンデンサCを挿入しているので、正負に変動する雑音成分を打ち消し、S/Nが大きい赤外線センサになる。
【0041】
本発明の温度差検出装置では、同一の受光面積に形成した場合、1対の内部抵抗の小さい熱電対10を利用した短絡電流検出型熱電対の方が、沢山の熱電対を直列接続したサーモパイルを同様にして短絡電流を検出するようにした場合に比べ、短絡電流Isが大きくなり、大きな電荷が積分手段2のコンデンサ25に蓄えられるので、大きな出力電圧Vが得られえる。もちろん、このとき電圧出力手段5のピークホールド回路50の出力電圧V0pも同様に大きくなる。
【実施例2】
【0042】
図3は、本発明の温度差検出装置を説明するための他の一実施例を示す回路構成のうちの熱電対部分の概略図である。同一の熱電材料からなる2個の熱電対10と熱電対110とを直列接続して、P点とQ点との温度差ΔTを計測する場合の例を示している。これらの2個の熱電対10と熱電対110の同一の熱電材料の導体10Bの端子B’と導体110Bの端子A’とを、前述の実施例1の図1に示すOPアンプ20の対応する反転入力端子Bと非反転入力端子Aにそれぞれ接続することで、実施例1で述べたようにしてP点とQ点との温度差ΔTを高感度に計測できる。なお、2個の熱電対10と熱電対110において、熱電対10の熱電材料の導体10Bと導体10Aとは、それぞれ、対応する熱電対110の熱電材料の導体110Bと導体110Aと同一材料になっている。
【0043】
実施例2の図3では、P点とQ点との温度差ΔTを計測するのに、2個の熱電対10と熱電対110とを直列接続して、単一のOPアンプ20の入力端子に接続した例であるが、2個の熱電対10と熱電対110とをそれぞれ独立のOPアンプ20の入力端子に接続する実施例1の図1に示すようにしておき、それらの差動出力を求めるようにしても良い。
【実施例3】
【0044】
図4には、上記実施例1における図1の短絡電流計測手段1の演算増幅器(OPアンプ)20を非反転増幅器として利用し、熱電対またはサーモパイル11の内部抵抗より小さな入力抵抗7(その内部抵抗R)を反転入力端子B側に接続して、熱電対またはサーモパイルの等価的な短絡電流Isを発生させて積分するようにした場合で、上記図1の演算増幅器(OPアンプ)20の入力端子付近を中心に示してあり、他の回路部分は省略したものである。このように、こでは、仮想短絡となる入力端子の反転入力端子Bには、熱電対またはサーモパイル11の内部抵抗よりも小さい入力抵抗7を接続し、等価的短絡電流Isを大きくさせた等価的なゼーベック短絡電流検出回路とした場合であり、電流が流れず、ほぼ電位のみ与える非反転入力端子Aとアースとの間には温度差センサとしての熱電対またはサーモパイル11を接続した場合である。熱電対またはサーモパイル11の内部抵抗よりも小さい入力抵抗7を接続することにより、大きな短絡電流Isが得られるので、増幅度を向上させることができるとともに、増幅度を固定させることができるという利点もある。この場合も動作は、上述の実勢例1における図1を用いた場合とほぼ同等なので、ここでは説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の温度差検出装置は、上述のように、内部抵抗を極めて小さくさせた熱電対を短絡させるので、小さな熱起電力でも大きな短絡電流Isが流れるようになり、更に、この大きな短絡電流Isを所定の時間だけ積分させるので、単純な回路構成で、極めて高感度の温度差センサになると共に、積分することにより正負に変動する雑音成分の打ち消しあい、大きなS/Nの信号増幅となる。従って、微小温度差を高精度で、しかも高感度に計測する必要がある赤外線放射温度計、特に耳式体温計の温度差センサとして有望であり、また、微流量の液体や気体のフローセンサ、水素などの可燃性ガスセンサにおける微小発熱量の計測による水素などのガス検出、熱伝導型ガスセンサ、ピラニ真空計、熱型湿度センサや気圧センサなどの圧力センサなどの温度差計測に最適である。
【符号の説明】
【0046】
1 短絡電流計測手段
2 積分手段
3 時間設定手段
4 初期状態復帰手段
5 電圧出力手段
7 入力抵抗
10 熱電対
10A,10B 導体
11 熱電対又はサーモパイル
20 演算増幅器(OPアンプ)
25 コンデンサ
30 クロックパルス
40 スイッチ
50 ピークホールド回路
60 温接点
70 冷接点
110 熱電対
110A,110B 導体
100 赤外線受光部
200 熱型赤外線センサの温度差検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電対のゼーベック電流を利用して温度差を検出する温度差検出装置において、該ゼーベック電流を計測するゼーベック電流計測手段、該ゼーベック電流を積分する積分手段、所定の時間だけ積分させる時間設定手段、上記積分後、初期状態の復帰させる初期状態復帰手段、前記積分手段の出力を所定の期間保持する電圧出力手段を備え、該電圧出力手段からの出力電圧を用いて、前記温度差を求めるようにしたことを特徴とする温度差検出装置。
【請求項2】
ゼーベック電流計測手段として、演算増幅器とその仮想短絡を用いたこと、積分手段としてコンデンサを用いたこと、かつ初期状態復帰手段としてコンデンサに並列接続したスイッチを用いた請求項1に記載の温度差検出装置。
【請求項3】
クロックパルスを時間設定手段として用いたこと、かつ該クロックパルスの一回毎に初期状態復帰手段を駆動するようにした請求項1から2のいずれかに記載の温度差検出装置。
【請求項4】
電圧出力手段としてピークホールド回路とした請求項1から3のいずれかに記載の温度差検出装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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