説明

ゼーマン減速器、ゼーマン減速装置用コイル及び原子ビーム冷却方法

本発明は、ゼーマン減速装置と、このゼーマン減速装置用のコイルと、原子ビームを冷却する方法とに関する。長手軸(L)に沿って広がる内部通路(230)を備える冷却部(212)を有するゼーマン減速器が開示され、内部通路(230)は、長手軸(L)に垂直な断面を有し、内部通路(230)の断面積は、冷却部(212)の少なくとも一部において長手軸(L)に沿って単調増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼーマン減速器と、ゼーマン減速装置に配置されたゼーマン減速装置用コイルと、原子ビームを冷却する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
ゼーマン減速器は、長手方向(longitudinal)に小さくなる磁場を生成するコイルと、原子の長手方向の速度を低減させるレーザとを備える。この効果はレーザ冷却とも呼ばれる。原子の横方向の(transversal)速度を低減させるために、コイルの下流の追加のレーザ装置が、1又は2の横方向における原子の横方向の速度を低減し、原子ビームの横方向の視準を与える。JJAP(Japanese Journal of applied physics)第36巻、第1部、第2号、905〜909ページ、コンドウヨシテル(Yoshiteru Kondo)等著「Influence of the magnetic field gradient on the extraction of slow sodium atoms outside the solenoid in the Zeeman‐slower(ゼーマン減速器におけるソレノイドの外部のナトリウム原子の抽出に対する磁場勾配の影響)」という刊行物において、原子ビームを冷却する冷却装置が説明されており、そこではゼーマン減速器が長手方向の減速を与えている。ソレノイド又はコイルの下流に配置される第2ステージにおいて、原子は横方向に減速されている。
【発明の概要】
【0003】
周知のレーザ冷却装置においては、少なくとも2つの別々のレーザ冷却機器が使用され、1つは長手方向の冷却に、1つは横方向の冷却に用いられるが、そのどちらも原子ビームへ配列されなければならない。オーブンがホット(hot)原子ビームを作り出し、このホット原子ビームは第1のコイルにおいて長手方向に減速される。第1の長手方向減速後、横手方向の減速が行われる。しかしながら、方向が第1のコイルの通路に合う原子のみ、第2のコイルでさらに減速可能である。これにより、ゼーマン減速器が与える原子の流束(flux)が制限され、堆積処理(deposition)に用いられる場合には処理間隔が長くなる。したがって、本発明の目的は、原子の流束(flux)をより高くできるゼーマン減速器を提供することである。
【0004】
この目的は、請求項1に記載のゼーマン減速器、請求項12に記載のコイル及び請求項13に記載の原子ビームを冷却する方法によって解決される。
【0005】
請求項1に記載のゼーマン減速器は、長手軸に沿って広がる内部通路を備える冷却部を有し、内部通路は長手軸に垂直な断面を有する。本発明によれば、内部通路の断面積は、少なくとも冷却部においては長手軸に沿って単調増加する。本発明の意味における「単調(monotonous)」増加は、「厳密な単調(strictly monotonous)」増加、すなわち長手軸に沿って進んだ場合における断面積の実増加と、一般的でより広義の単調増加、すなわち厳密に増加する部分と、断面積は不変のままである長手軸に沿ったある面積又は領域との両部分をカバーするところと、の両方をカバーする。
【0006】
本発明の意味における「内部通路(inner passage)」は、コイルの内側に囲まれた完全な物理空間として理解されなければならない。さらに、磁場の長手方向成分は内部通路の長手軸Lに沿った磁場の成分である。
【0007】
冷却部に沿った広がるこの既存の通路は、オーブンが放出する原子ビームの拡大の原因となる。長手軸に沿って入力から始まり出力端までの通路の単調増加は、長手軸とは方向が異なる原子もまた流束(flux)に貢献しうるということを確証する。オーブンは原子をいかなる方向にも放出するため、より高い数の原子がゼーマン減速器の出力において与えられる。特に、長手軸に傾いた方向に伝送される原子は、先行技術のゼーマン減速器のように、通路の内部表面によって停止されない。むしろ、出力直径がより高いビームを与えることが可能であり、それにより、より高い流束がもたらされる。
【0008】
好ましくは、冷却部は入力端から出力端まで長手軸に沿って広がり、出力端の断面積は、入力端の断面積の少なくとも120%であり、これにより、全流束の実質的な増加が可能になる。
【0009】
ある実施形態において、内部通路の断面は円形をしており、コイルの構成を単純化する。効果的には、内部通路を囲み、内部通路において長手軸方向に磁場を与えるコイルを、ゼーマン減速器は備え、磁場は長手軸に沿って単調減少し、冷却部において、長手軸に垂直な平面において実質的に均質である。このような磁場は、通路が定める体積にわたって不変条件を与え、冷却性能を増大させる。
【0010】
ある実施形態において、ゼーマン減速器は、内部通路を囲むコイルが作り出す出力端付近の内部通路における磁場とは実質的に異なる磁場を作り出す少なくとも1つの抽出コイルを出力端の付近に備える。減速器の出力の直後である抽出コイルの配置は冷却条件を唐突に終了させ、そのため冷却は通路においてのみ行われ、通路の外側では抑えられる。言うまでもなく、抽出コイルの磁場は、通路の周りに配置されるコイルの磁場と組み合わせられるため、ゼーマン減速器を設計するときには両方の磁場を考慮しなければならない。抽出コイルは反位相コイルとしても知られる。好ましくは、抽出コイルが生成する磁場は、通路を囲むコイルの磁場の反対である。
【0011】
冷却性能をさらに改善するために、偏向器に当たる光の少なくとも一部を、内部通路へ、長手軸へ傾けて偏向する偏向器が与えられる。これにより、光の傾いた角度は、長手軸とは異なる方向に減速すなわち冷却を与えるため、追加の横方向冷却がもたらされる。これにより、コイルにおける横方向及び長手方向の冷却を組み合わせてできるようになる。横方向冷却はビームを視準するものであり、これにより、流束及びビーム密度が改善される。また、より少ない原子が、通路を定める壁に到達し、より高い割合の入力原子が通路の出力に到達する。好ましい実施形態が、内部通路の少なくとも部分において反射表面を備え、反射表面は偏向器から受光し、内部通路へ、長手軸へ傾けて光を反射する。この実施形態では、通路の出力端を明るくすることに2つの効果がある。すなわち(A)光が原子ビームに直接衝突し、長手方向の減速をもたらし、(B)光が反射表面に当たり、実質的に傾いた方向に、原子ビームへ反射し、実質的な横方向成分をもつ減速をもたらす。したがって、1つの光ビームは、様々な角度で傾いて出力端に当たると、同時に長手方向冷却と横方向冷却とを達成可能である。
【0012】
効果的には、偏向器は、出力端(230)の断面に光エネルギー分布を作り出す出力端(220)へ光を偏向するものである。光エネルギー分布は長手軸(L)に対して回転対称であり、
(選択肢1)長手軸(L)に対するオフセットなしの長手軸(L)への距離に依存して、負の指数関数的であるか、
(選択肢2)長手軸(L)に対するオフセットを有する長手軸(L)への距離に依存して、負の指数関数的であるか、
(選択肢3)出力端(230)の断面にわたって、実質的に不変である。
【0013】
選択肢1において、最高強度は中央であり、通路の外周に向かって指数関数的に減少する。高い光強度量が長手方向冷却に使用され、一方で傾いた角度においては小部分しか反射されて当たらない。選択肢2において、光の実質的部分が直接長手方向冷却を行う。しかしながら、実質的部分もまた反射し、傾いた角度で原子ビームへ放出され、実質的横方向冷却成分をもたらす。負の指数関数分布の最大値の位置も定まり、この長手軸に沿った位置において最大横方向冷却が起こる。この効果を使用して、横方向冷却をある面積に集めることが可能である。選択肢1と選択肢2との両方はガウス分布を形成し、対応のスキャン装置によって容易に実施される。選択肢3は均質光強度を与え、結果的に通路の全長に沿った横方向減速の均質分布を与える。言うまでもなく、色々な分布をもついくつかの光源を組み合わせることが可能である。また、1つの光源で上述の分布の組合せを与えることが可能である。
【0014】
本発明によれば、ゼーマン減速器のある実施形態が、偏向器にレーザビームを放出するレーザ装置を備え、偏向器は、上記少なくとも1つのコイルの長手軸とレーザビームとの間の角度を変えるものである。これを光源として、又はスキャン装置として用いて、上述の光強度分布を作り出してもよい。好ましくは、偏向器は出力端の断面に光を向けて、出力端を明るくし、光エネルギーの分布が出力端の少なくとも部分的面積を覆う。
【0015】
さらに、上述の目的は、本発明によるゼーマン減速器の内部通路を定める内部表面を有するコイルによって解決され、内部表面は、内部通路へ光を反射する少なくとも1つの反射面積を備える。ゼーマン減速器が定める広がる通路とコイルの反射性内部表面との組合せは、原子の高い流束と、組み合わせられた横方向減速及び長手方向減速との両方を可能とする。このコイルは、ゼーマン減速器に集積されてオーブンに接続されると、性能を改善する。
【0016】
加えて、上述の目的は原子ビームを冷却する方法によって解決され、当該方法は、磁場を与えるステップと、磁場へ原子ビームを放出するステップと、原子ビームへ光ビームの少なくとも一部を向けるステップとを含む。当該方法は、原子ビームを放出するステップが長手軸に沿って原子ビームを放出することを含み、原子ビームが長手軸に垂直な方向において長手軸に沿って実質的に広がる断面を有するということを特徴とする。上述のように、原子ビームの拡大は、減速が実行可能な体積をより高くし、冷却された原子の収率をより高くする。好ましくは、当該方法は、長手軸に沿って単調増加する断面積を有する内部通路を与えるステップを含み、内部通路は原子ビームを調節するものである。効果的には、原子ビーム及び/又は内部通路の断面積は長手軸に沿って全体で少なくとも約20%広がる。この拡大によって、より多くの原子を冷却体積に含むことが可能である。当該方法の好ましい実施形態は磁場を与えるステップを含み、長手軸に平行な磁場を与えることを含み、磁場は、長手軸に沿って減少する磁場強度を有する。磁場は、長手軸に垂直な平面において実質的に均質である。当該方法は、原子ビームの伝搬方向へ傾いた方向に光ビームの少なくとも一部を原子ビームへ向けることによって、長手軸に垂直な方向に原子ビームの追加減速を与えるステップをさらに含む。これにより、長手方向減速に横方向減速成分が加わる。長手軸から実質的に変位した位置において、原子ビームへ光ビームの少なくとも一部を原子ビームへ傾けて反射することを含んで、光ビームの少なくとも一部を原子ビームへ向けることによって、実質的な横方向冷却成分が達成可能である。
【0017】
本発明によれば、当該方法は材料をコーティングすることに使用する。当該方法の効果的な実施形態において、当該方法は、有機オプトエレクトロニクス装置を製造することに使用され、加えて、本発明によるゼーマン減速器の実施形態を使用するステップを含む。
【0018】
本発明の基礎となる発想は、広がる原子ビームと、当該ビームを調節するゼーマン冷却器とを使用することである。原子ビームはオーブンが生成し、オーブンは本来いかなる方向にも原子を放出するものであるため、許容角度の実質的な増加は、流束の激しい増加をもたらす。本発明の別の様相は、増加角度を用いて、傾いたレーザビームを冷却通路へ放出することであり、この傾いたレーザビームは横方向減速成分を与える。原子ビームが冷却通路に進入した後通路を移動中に横方向に減速している場合、ビームの拡大はかなり削減される。したがって、2つの組のレーザビームが用いられ、1つは長手軸に平行なものであり、1つは長手軸に傾いたものである。偏向器を使用して、平行レーザビームと傾斜レーザビームとに入射レーザビームを分割し偏向してもよい。傾斜レーザビームはスキャンされ、レーザビームパターンで通路の出力をカバーするのであるが、通路へレーザビームを傾いた方向に向ける反射表面に部分的に当たる。レーザビームは原子ビームに対して反伝搬である。
【0019】
コーティング処理用冷却原子作成に使用されると、従来のゼーマン減速器に必要な時間の小さなパーセンテージまでコーティングの時間が削減可能である。したがって、感度の高い材料表面をコーティングする、例えば有機オプトエレクトロニクス装置製造して電気接触のある有機LEDを提供するような冷却原子の高いスループットをもたらすことに、本発明は特に専用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】巻き線(winding)の個々のターンの分布を説明した、先行技術のゼーマン減速器の概略図を示す。
【図2】ゼーマン減速器の先行技術のコイルの断面である。
【図3】本発明によるコイルの好ましい実施形態の断面である。
【図4a】コイルの入力端付近における図2のコイル及び図3のコイルの磁場の横方向の均質性を示す。
【図4b】コイルの出力端付近における図2のコイル及び図3のコイルの磁場の横方向の均質性を示す。
【図5】本発明によるゼーマン減速器の一実施形態の断面である。
【図6】原子ビームに加え、横方向及び長手方向の減速に用いるレーザビームを示した、本発明によるゼーマン減速器の一実施形態の断面である。
【図7】通路の指数関数的な拡大を示した、ゼーマン減速器の一実施形態の断面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ゼーマン減速器による効果的な冷却のために、コイルは磁場分布と、原子ビームに対するゼーマン離調及びドップラー離調の補正を内部通路の断面の一部又は全部について提供するエネルギー及び波長を有するレーザとを与えるものとされる。冷却中、すなわちゼーマン効果による減速中、原子はレーザビームからの光子を吸収する。ある時間tlocalの後、原子は光子を放出するが、ここでは4π環境における任意の方向でのことである。吸収される光子には明確な方向があるが、放出される光子の方向は任意であるため、純変化は原子の力積を変えることとなり、ゆえに原子の局所的速度を変化させることとなる。
【0022】
レーザは「ブルーチューニング(blue tuning)」を与えるが、この「ブルーチューニング」は冷却される原子の種類に依存するものである。例えばより高い周波数への約300MHzチューニングは良い値である。ある実施形態において、「ブルーチューニング」は1MHzと1GHzとの間である。
【0023】
【数1】


原子の減速を与えるためには、上式の関係を満たさねばならず、ただし、原子共鳴からのΔは局所的離調であり、Vatomは原子の局所的速度であり、λLaserはレーザの波長であり、μはボーアの磁子であり、hはプランク定数であり、Bは局所的磁場強度であり、ΔvLaserはレーザ離調、すなわち原子共鳴からのレーザ周波数の偏差であって、その単位は、レーザ周波数が数百THz程度である場合にはMHzとなる。第1の分数はドップラー離調を表しており、残りの項はゼーマン離調を表している。
【0024】
【数2】


飽和Sは、上式のように与えられ、ただし、Sは飽和パラメータであり、Iは局所的光強度であり、Isatは飽和強度であって原子の種類に依存するものであり、γは原子共鳴の自然幅であって、例えばCaであればγ=34.58MHzであり、Δは原子共鳴からの局所的離調である。
【0025】
【数3】

4π環境における光子の吸収及び光子の再放出の1完全サイクルに必要な時間は上式である。ここで、τは特定の原子遷移の期間であり、すなわち下式である。
【0026】
【数4】

原子の入力速度は約400〜1400m/sである。ある実施形態において、入力速度は約1000m/sである。出力目標速度は、約1m/s〜300m/sである。好ましくは、出力目標速度は100m/sである。出力目標速度は、基板上の所望温度に依存し、基板は覆われているものである。原子ビームの出力強度は、約1012原子/scmである。しかしながら、1010〜1014も、又はそれよりも高くとも、期待され使用されることであろう。
【0027】
カルシウムを用いて、原子による光子/吸収放出期間は、共鳴状態で4.9nsである。レーザの波長は、磁場強度に従い依存して調整しなければならない。有機又は無機材料活性層が、例えば厚さが約1〜80nmであるカルシウムで形成されたような層にコーティングされる。コーティング処理中、覆われる材料の温度は、いかなるダメージをも避けるべく、RT(約300K)を大きく超えるべきではない。目標速度が約150m/sである原子ビームは、温度が約300K(RT)である。先行技術の原子ビームにおいては、強度が10〜1010原子/scmであり、速度が1〜10m/sであり、先行技術において、冷却された原子ビームを使用して、光電子装置における活性層のコーティングが行われたことは未だなく、もし使用されたとしても、コーティング処理の期間が30〜50時間となり、望ましくはない過冷却が起こるであろう。
【0028】
本発明は、原子ビームの強度を1012〜1014原子/secまでにして、期間を3〜4程度のマグニチュード削減することが可能である。オーブンは、典型的に速度が約1000m/sである原子を放出する。
【0029】
原子ビームは、好ましくは、Ca原子、Ag原子、Cr原子、Fe原子及びAl原子で形成される。ゼーマン減速器における圧力(内部通路)は、好ましくは10−1〜10−8Paの範囲である。
【0030】
コイルの一実施形態は、長さが200mmと500mmとの間であり、好ましくは約350mmである。入力直径は20〜250mmであり、好ましくは40mmと120mmとの間であり、効果的には80mmである。出力直径は、25mmと400mmとの間にあり、好ましくは40mmと80mmとの間にあり、効果的には約50mmである。
【0031】
コイルに供給される電流は、3Aと30Aとの間であり、好ましくは8と15Aとの間である。ある1つの実施形態においては、電流は約11.5Aである。コイルへ供給される電力は1と30kWとの間であり、好ましくは5〜20kWである。ある実施形態において、コイルへ提供される電力は14kWである。一般的に、コイルには、数kWの電力が供給される。しかしながら、内部通路を囲む素子又は壁の温度を110℃より低く保つよう冷却が適用されるべきである。好ましくは、コイルは上記出力端の付近に抽出コイルを備え、この抽出コイルは、長手軸まわりに配置され、冷却部の外部に位置し、出力端又は出力端付近の横方向の均質性を高く保持するものである。抽出コイルは、好ましくはコイルの出力端に配置され、少なくとも2つのコイルを備え、そのうち1つのコイルは、長手軸に沿って原子ビームに反平行の磁束成分を提供するものであり、図3に示す一実施形態においては、コイルは(作り出される磁場成分の方向以外)実質的に同一であり、一方で反平行場成分を作り出すコイルは、コイルの冷却部と平行場成分を作り出すコイルとの間に配置される。
【0032】
本発明によれば、長手軸に沿って磁場強度が低下する、長手軸に平行な磁場をコイルが作り出し、この磁場は、コイルの長手軸に垂直な平面において実質的に均質である原子ビームは、長手軸に沿った方向で磁場へ向けられる。レーザビームの少なくとも一部が原子ビームへ向けられ、同レーザビーム又は別のレーザビームの少なくとも一部が、方向が長手軸に傾いた磁場において上記原子ビーム上に向けられる。
【0033】
好ましい一実施形態において、コイルは、方向が長手軸である磁場を与えるものである少なくとも1つの巻き線を有し、この少なくとも1つの巻き線は、コイル全体において長手軸に垂直な平面におけるコイル内部で磁場が実質的に同質であるようにされる。この場分布は、長手軸に沿った原子速度を減速させる効果的な長手方向及び横方向の冷却を与える。追加的又は代替的に、コイルは、冷却部に少なくとも1つの巻き線を備え、入力部に少なくとも別の巻き線を備え、磁場の調整を可能にする。コイルは、互いに接続された又は複数の電流源から供給される複数の巻き線を備えることが可能である。コイルの巻き線は、いくつかの部分に分離可能であり、又は1又は2以上の電流供給の接続を可能とするタップを有することも可能である。複数の部分に分離された場合、作り出される磁束は、複数の部分を流れる各個別の電流を調整することによって調整される。このように、磁場の均質性及び長手方向分布は所望の特性へ調整可能である。加えて、それぞれの電流又は所望の電力源を調節することによって、いかなる非均質性も補正可能である。2つのレーザが使用可能であり、そのうち1つを長手方向冷却に、1つを追加の横方向冷却成分に使用する。横方向冷却成分は、傾いたレーザビームと原子ビームとの間の傾きに依存する。
【0034】
あるいは、1つのレーザが使用可能であり、このレーザは、例えば偏向器又は追加のビームスプリッタによって2つのビームに分離される。ビームは、上述のように、それぞれ長手方向冷却と追加の横方向冷却とに使用される。
【0035】
放出されたレーザビームの少なくとも一部は、原子ビームに関して反伝搬され、長手方向の減速をもたらす。
【0036】
ある実施形態において、偏向手段は、長手軸と同軸方向にレーザビームの少なくとも一部を偏向させ、偏向器又は反射器へレーザビームの少なくとも一部を偏向させる。好ましくは、偏向手段は2つの異なる方向に偏向させ、別の実施形態においては、長手軸に垂直な第1の方向及び第2の方向に偏向させる。効果的には、2つの異なる方向は互いに垂直であり、又は第1の方向は第2の方向に垂直であり、それによりデカルト配向をもたらす。偏向手段は、長手軸へともに傾いた2つの異なる方向にレーザビームの少なくとも部分を偏向する2D音響光学変調器を備える。別の実施形態において、偏向手段は、第1の方向にレーザビームの少なくとも部分を変更する第1の1D音響光学変調器と、第1の方向とは異なる第2の方向にレーザビームの少なくとも部分を変更する第1の1D音響光学変調器とを備え、第1及び第2の方向は、コイルの長手軸又は通路へ傾いている。
【0037】
本発明によれば、レーザ及び偏向手段は、通路の出力端へ投影されるある光強度又は光エネルギー分布を生成するために与えられる。あるいは、光エネルギー分布はガウス分布又はさらに高次の超ガウス分布であり、中央に、すなわち長手軸に1つ最大値を有し、又は、中央から変位又はオフセットした最大値を有することが可能であり、ドーナツビームの断面と同様である(異なる次数からのラゲールガウスモード)。好ましくは、エネルギー分布は均一である。しかしながら、不均一分布は、複雑性の低いレーザ/偏向器組合せを提供可能である。出力端を明るくする光エネルギーの分布は、好ましくは、出力端の完全な面積をカバーする。あるいは、中央領域の実質的部分がカバーされ、好ましくは長手軸の周りの面積の40%、70%又は80%がカバーされる。ある実施形態において、光エネルギーは中央を同心円状に囲う環に集中し、これは中央から変位するガウス分布の場合であり、中央は長手軸上にある。
【0038】
ある実施形態において、ゼーマン減速装置の偏向手段は、長手軸へともに傾いた2つの異なる方向にレーザビームの少なくとも部分を偏向する2D音響光学変調器を備えるか、あるいは、第1の方向にレーザビームの少なくとも部分を偏向する第1の1D音響光学変調器と、第1の方向とは異なる第2の方向にレーザビームの少なくとも部分を偏向する第2の1D音響光学変調器とを備え、第1及び第2の方向は、長手軸へ傾いている。音響光学変調器は、電気信号による偏向方向の単純で速い制御を与える。
【0039】
この実施形態において、2つの異なる方向は、又は第1の方向と第2の方向とは、好ましくは長手軸に垂直である。あるいは、2つの異なる方向は互いに垂直であり、又は、第1の方向は第2の方向に垂直である。この幾何学的配列は、偏向手段により与えられる偏向方向の単純化された制御を可能とするデカルト系を形成する。
【0040】
偏向手段を制御するために、偏向手段に適当に接続された制御装置が使用可能であり、制御装置は少なくとも第1の信号と第2の信号とを提供し、各信号は、レーザビームの少なくとも一部が変調器の少なくとも部分に分布するような振幅と周波数とを有する。
【0041】
ある実施形態において、本発明によるゼーマン減速装置は、偏向手段を制御する制御装置をさらに備え、制御装置は少なくとも第1の信号と第2の信号とを提供し、各信号は、レーザビームの少なくとも一部が偏向器の少なくとも部分に分布するような振幅と周波数とを有する。電気制御は精密な偏向を可能とし、かかる電気制御は従来の電気制御手段によって提供可能である。
【0042】
好ましくは、第1の信号は第1の振幅及び第1の周波数を有する第1の正弦波であり、第2の信号は第2の振幅及び第1の周波数を有する第2の正弦波であり、偏向手段は、長手軸に垂直な平面においてリサジュー図形を与える。このように、振幅と周波数とを制御して、レーザビームの少なくとも一部の色々な形と分布とを与えることが可能である。
【0043】
好ましい実施形態において、偏向手段を制御する第1の信号は第1の振幅及び第1の周波数を有する第1の正弦波であり、偏向手段を制御する第2の信号は第2の振幅と第2の周波数を有する第2の正弦波である。このように、偏向手段は、長手軸に垂直な平面においてリサジュー図形を与える。好ましくは、第1の振幅は第2の振幅に等しく、それにより円対称の光分布がもたらされる。
【0044】
効果的には、レーザビームの少なくとも一部が第1及び第2の方向に偏向され、各方向は長手軸に垂直であり、原子ビームにレーザビームの少なくとも一部を向ける前に、原子ビームに対してレーザビームを向けるものである。第1及び第2の方向に対して、長手軸に垂直な平面の少なくとも部分にレーザビームエネルギーの少なくとも一部を広げるために、それぞれ第1及び第2の方向における偏向の程度を制御するそれぞれ第1及び第2の制御信号を提供することを、偏向のステップは含んでもよい。
【0045】
レーザの波長は、冷却される原子の種類に大きく依存する。例えば、Caに対する波長は423nmである。当業者ならば、原子の種類それぞれに適当な波長を選択することが可能である。レーザ電力は好ましくは約50mWである。しかしながら、レーザ電力は、5mWから50mWの範囲に及ぶ場合がある。好ましくは、レーザ電力は10mWと200mWとの間にある。効果的には、レーザ線幅は、5〜20mHzであり、好ましくは10MHzである。しかしながら、0.1MHz〜50MHzの間のいずれかの値を使用する場合もある。
【0046】
上述のように、ゼーマン減速器の内部通路、すなわちコイルの内部通路は、原子の減速が起こるところであるわけだが、その出力端にかけて広がっていく。内部通路の断面積は単調増加する。ある実施形態においては、増加は一定であり、内部通路は入力端から出力端へ広がる円錐型となる。好ましくは、断面は円筒である。ある実施形態において、減速器の内部直径はa=r0.6であり、rは内部通路の入力端への距離である。言うまでもなく、この形状は通路の一部、すなわち冷却部にのみ適用可能である。0.6以外(0.6よりも小又は大)の電力係数も使用可能である。
【0047】
原子のスピンを考慮したゼーマン冷却の動作原理は以下を特徴とする場合もある。磁場は原子のスピンをレベルに分割する。これをゼーマン効果とも呼ぶ。入力端における原子は高速度を有し、原子ビームへ向けて放出されるレーザビームに関する実質的なドップラーシフトを引き起こす。原子の励起レベルはゼーマン効果により分割されシフトされ、したがって、ゼーマン効果によってシフトされた励起レベルがドップラーシフトと釣り合えば、レーザの力積は原子に吸収される。原子がその励起レベルから後退すると、レベルの差と釣り合ったエネルギーが放出される。レーザ力積の吸収は、方向Bへ向かう力積を加え(図1を参照)、一方、再放出されたエネルギーは、ランダムな方向をもつ力積をもたらす。複数の衝突について、原子の速度は低減されて方向Aにあり(図1を参照)、これを長手方向減速又は冷却と呼ぶ。通路の出力端における原子は入力端における原子よりも実質的に遅いため、出力端における低減したドップラーシフトを考慮した適当な磁場は、入力端におけるより高速度の原子のものよりも低い。先行技術においては、余分なステージを与えて、横方向速度を低減させており、このステージは、ゼーマン減速器の出力端の後、すなわち原子ビームの下流に配置されている。
【0048】
図1は先行技術によるゼーマン減速器の原理を示す。原子は、冷却されることとなるわけだが、オーブン10によって生成され、コイル20の入力端22へ放出される。コイルは巻き線24を備え、巻き線24は内部通路26のまわりに巻かれ、内部通路26を通って原子はコイルの入力端22から出力端28へ放出される。内部通路26は、コイル20の円形の入力端と出力端と円筒型内部壁とによって定まる円筒である。コイルへの、コイル長手軸Lに沿い、コイルの出力端28に向かう1つの方向Aに、オーブン10は原子ビームを放出する。出力端28において、長手軸に沿い、コイルを貫通する原子ビームへ向かい、原子ビームに反平行である、方向Aに反平行な方向に、レーザ装置30は出力端へレーザビームを放出する。
【0049】
図2において、従来のゼーマン減速器コイル100の断面を示す。長さあたりの巻き線の数(「巻き線密度(winding density)」)は、コイルの入力側110から出力側112へ向かって減少する。コイル112の出力端の付近に、抽出コイル120が配置される。抽出コイルは、反位相コイルとも呼ばれる。抽出コイル120は、コイル100と同一の巻き線方向を有する1つのブロック120aと、ブロック120aのものとは反対の巻き線方向を有する別の反位相ブロック120bとからなる。コイル100によって形成される通路130は、コイル中央軸と同軸であり、入力110と出力112との間で広がる円筒の形状を有する。
【0050】
図3において、本発明によるコイルの一実施形態の断面を示す。コイル200は入力端210と出力端220とを有する。
【0051】
図3は、本発明によるコイル200の一実施形態の長手方向の断面を示す。コイルは、内部通路230によって接続される入力端210と出力端220とを有する。コイルの冷却部212において、内部通路230は、出力端220へ向かって円錐の形状に線形に広がる。コイルの入力部214において、内部通路は、不変の円形断面を有し、したがって入力端210から冷却部212の最初へ広がる円筒を形成する。好ましくは、入力部214の最後における内部通路230の断面は、冷却部212の最初における内部通路230の断面に等しい。ある実施形態において、冷却部における内部通路230を取り囲む表面250は反射性であり、偏向器を与えるものである。反射表面250に当たるレーザビームは、長手軸Lに向かって反射される。別の実施形態において、反射表面は、内部通路230の外部表面において与えられるものではなく、別の形状で、例えば内部通路の先細さよりも多かれ少なかれ先細りの円錐の形状である。また、反射表面は、内部通路220の外部表面への距離に長手軸と同軸に配置可能である。さらに、本発明の一実施形態の一例として、反射表面の少なくとも部分が内部通路230の外に位置することが可能である。反射表面は、一続きのものとして提供することも、又は複数の反射器で形成することも可能である。さらに、内部通路の外部表面の部分のみに反射器を与えることも可能である。コイルの出力端に向けられるレーザ光エネルギーの少なくとも一部が、長手軸へ傾いて入力端から出力端へコイルを通過する原子ビームに反射するように、偏向器が与えられるということにしたがって、本発明の基本原理が満たされる限り、偏向器の様々な修正を与えることは当業者にとって明らかである。
【0052】
長手軸の外を進む原子に減速を与えるため、コイルによって与えられた磁場は、原子ビームの断面もまた出力端に向かって広がるために特に出力端又はその付近における断面にわたって極度に均質でなければならない。横方向断面にわたってほぼ均質である場強度を備えるコイルの出力端付近の磁場を与えるため、コイルを形成する巻き線は、好ましくは図3に示すように配置される。図3において、点の各対応組((x,y)及び(x,−y))は、内部通路の周りの巻き線の1つのループに対応する。図3に示す個々のループの分布は出力端及びその付近において均質性の高い磁場をもたらすということが発見されている。入力部214において、個々のループは円筒型内部通路230と外部境界との間に配置される。第1に、入力端210からの距離が増加すると、巻き線の外半径は指数関数的に低減し、肩242を形成する。肩は凹み243において終わり、そこから外半径は負の指数関数的に再び増加して、第2の肩244を形成する。第1の肩と凹みとは、両方とも入力端214に位置しており、それによって第2の肩244を形成する長さあたりの巻き線の増加は冷却部に位置している。第2の肩を形成する増加は、負の指数関数的なプログレッションで漸近線244aに近づく。出力端200において、外半径は、小ピーク246の後に出力端220へ向けて線形減少248する。同時に、内部通路230の直径が増加するために、巻き線の最小内部半径は、冷却部における内部通路が円錐形状のため線形減少する。点として表す各ループは、磁場分布に対する1つの成分に対応し、その各々はビオ・サバールの法則によってまとめることが可能である。したがって、上述の説明は、出力端における均質な場をもたらす主な特徴しか反映しない。しかしながら、図3に示し、明示的に上述してはいない特徴も、磁場の均質性に干渉を有する。したがって、図3から抽出可能な各特徴は磁場の均質性への貢献を与える。特に、個々の寸法も、寸法間の関係も、内部通路及び長手軸からの距離も、磁場の均質性に貢献する。さらに、追加の抽出コイル260a、260bが、出力端における内部通路の流束分布に貢献する。したがって、寸法と長手軸からの距離とに関する特徴も考慮しなければならない。巻き線260aが、巻き線260b及び巻き線240と反対の方向にまかれている。言うまでもなく、巻き線は、一連に又は平行に接続される巻き線部に与えることが可能である。さらに図3は、等しいワイヤサイズに対する巻き線の分布を示す。ワイヤサイズが異なる場合、コイルの形状は修正可能である。さらに、図3における1つの点は、1つのループであることも可能であり、又はある数のループを示すことも可能である。個々のループの分布のいかなる修正も、得られる磁場分布を基本的に変化させないということは、当業者にとって明らかであり、得られる磁場分布はループの位置及び電流を特徴とする。図3において、各単一の点の位置は、ループの組のうちの1つの素子又はループを表し、ループは、全磁場分布をもたらすビオ・サバールの法則によってまとめられる。これは図2、5、6及び7においても当てはまる。さらに、図4bにおける各点は、それぞれのループを流れるある電流単位を表す。
【0053】
図3に示す実施形態は、図3のコイルの寸法及び幾何学的配列を反映して、以下に説明する特徴のうちの1つ、組合せ又は全部を有する。
図3に表すある実施形態において、コイルは、内部線と外部線との間のコイルの長手方向部に与えられる巻き線と、入力部にわたって入力端における内部線と長手軸との間の距離と等しい実質的に均一な入力半径Rを有する内部通路とを備える。入力部は入力端からx位置=3×Rまで広がる。冷却部は3×Rのx位置から17×Rのx位置まで広がる。冷却部における内部線は、Rのy位置における3×Rのx位置から4×Rのy位置における17×Rのx位置まで広がる直線である。外部線は、7.5×Rのy位置における入力端において開始し、2.8×Rのx位置及び2.8×Rのy位置まで指数関数的に落ち込み、肩を形成する。外部線は、3.3×Rのx位置における4×Rのy位置を横切って、2.8×Rのx位置及び2.8×Rのy位置から漸近的に18.9×Rのx位置及び5.3×Rのy位置まで負の指数関数的に実質的に増加する。外部線は、18.9×Rのx位置及び5.3×Rのy位置から19.2×Rのx位置及び5.8×Rのy位置まで増加し、及び/又は外部線は、19.2×Rのx位置及び5.8×Rのy位置から、コイルの出力半径と等しい20×Rのx位置及び4.1×Rのy位置における出力端まで減少する。上述においては、x位置は長手軸に沿った位置を示し、y位置は長手軸に垂直な位置を示す。x位置の原点は入力端であり、y位置の原点は長手軸である。好ましくは、上にあげた全部の特徴が実現される。しかしながら、このような幾何学的配列関連特徴のうちいくつか又はサブコンビネーションのみが実現される場合もある。正確な値ではなく、±1%、±10%又は±20%のそれぞれの耐性を有する値が実現される実施形態も、本発明によるコイルは備えてもよい。好ましくは、幾何学的特徴は5%の精度で実現される。加えて、図3における特徴のいくつか又は組合せが本発明の好ましい実施形態において実現されるが、かかる特徴は数的には上述していないが、図3から測定及び導出が可能である。例としては、部243における短ピーク又は僅かな凹み243’及び243’’は、本発明の好ましい実施形態の特徴である。当業者にとって幾何学的特性は図3から明らかである。
【0054】
図4aは、図2及び図3のコイルが生成する磁場を参照し、長手軸からある距離における場強度(軸外磁場)に対する長手軸上の磁場強度(軸上磁場)の比を、縦軸に割り当てて、横軸に割り当てた長手軸からの距離の関数として示している。図2の先行技術のコイルに対する(四角形で示す)、及び図3のコイルに対する(ひし形で示す)コイルの入力端又はその付近における比を、図4の値は示している。このように、図4aは、入力端における均質性に対する表示を与える。本発明によるコイルの均質性は、特に長手軸Lからの実質的距離において、先行技術のコイルの均質性よりも高い、ということが分かる。量コイルの場は、長手軸からの距離が増加するとともに増加する。したがって、軸外位置においては、ゼーマン離調は必ずしもドップラー離調を補正するとはいえない。しかしながら、入力端において、原子ビームは出力端よりもはるかに視準され、結果的に、横方向冷却効果、すなわちビームの視準は冷却効果に関して重要ではない。さらに、入力端又はその付近において、原子ビームは長手軸まわりに集中する。それとは対照的に、通路を通って進行するように、特に出力端付近では原子の高い流束を生じるように、ビームを視準することが非常に重要である。したがって、出力端又はその付近における横方向断面にわたる磁場の均質性は、原子の高い流束にとっては不可欠である。
【0055】
図4aのように、図4bは、長手軸からの距離における強度に対する長手軸上の磁場強度の比を、縦軸に割り当てて、横軸に割り当てる長手軸からの距離の関数として示す。図4aの値は、図2の最新技術のコイルに対して(四角で示す)、また図3のコイルに対して(ひし形で示す)、コイルの入力端における比例を示す。入力端における磁場に関する図4aとは対照的に、図4bは出力端又はその付近における磁場に関する。巻き線又は電流ループの分布を最適化した結果として、本発明によるコイルの磁場は、長手軸への距離にほぼ独立である。したがって、本発明によるコイルは、出力端における完全な断面にわたって実質的に同一の場強度を与える。出力場又はその付近における長手方向磁場の横方向最大非均質性は、図3に示す本発明によるコイルについて約0.2%である。対照的に、図2に示す先行技術のコイルは、2.5%までの差を示す。したがって、出力端又はその付近における通路の横方向断面全体にわたって分布する原子への図3のコイルの冷却効果は、内部通路におけるいかなる位置に対してもゼーマン離調及びドップラー離調の相互補正が正確であるため、実質的にはより高いものである。図2及び3は縮尺どおりの表現であり、いかなる相対及び絶対寸法も本発明に関している。
【0056】
図5は、本発明によるゼーマン減速装置の一実施形態を示す。ゼーマン減速器300は、本発明によるコイル310と、偏向装置320とを備える。コイル310の、また部分的にはコイルの外側の内部通路330において、反射表面312がコイルの内部表面の付近に与えられる。反射表面はコイルの完全な内部表面を覆い、コイルの冷却部302においては、偏向装置320に向かって広がる。ゼーマン減速装置300は、入力端314と出力端316とを備える。偏向装置320は出力端へレーザビームを偏向し、出力端では、オーブン(図示せず)が原子、例えば原子又は他の原子を入力端314へ放出する。反射器は、冷却部302において、偏向装置320及び出力端316へ向かって広がる。入力部304は、入力部に入力端314と反射表面312とを備え、出力端における直径と比較して直径が小さい管形状を有する。第3部306において、反射器は偏向装置320に向かってわずかに狭くなる。この第3部306に抽出コイル311が配置される。好ましくは、コイル310、抽出コイル311及び偏向装置320は、1つの共通の長手軸Lに沿って並べられる。好ましくは、偏向装置は長手軸から小さな変位しか有さない。図5は、いくつかの例示的レーザビームをさらに示しており、第1部分340は、反射表面312に向けられ、長手軸Lに向かって反射する。レーザビームの第2部分342は入力端314に向けられる。レーザビーム340、342は、オーブン(図示せず)が入力端314へ放出する原子ビーム(図示せず)へ反伝搬している。
【0057】
図5の反射表面312は、入力部において短く薄い管として図示されており、入力部には、冷却部における出力端に向かって複数の入力直径へ広がる円錐が続く。しかしながら、寸法の幾何学的配列及び比は、用途、及びコイルが作り出す場に適合可能である。さらに、反射表面は、原子ビームに当たる反射レーザビームの長手方向分布を修正する放物線状の反射器の形状又は他の形状をすることが可能である。ある実施形態において、反射表面は、入力端付近の位置に反射レーザビームを集める形状をしている。さらに、横方向冷却成分の大きさは、原子ビームへの反射レーザビームの傾きに直接関係する。円錐状反射表面について、入力端の近くに反射されているレーザは、傾きの劣角において原子ビームに当たり、劣横方向減速成分がもたらされる。このように、反射器は、入力端付近のレーザビームのより高い補正を与えるために、この効果を補正する形状をすることが可能である。代替的又は追加的に、入力端付近に当たるビームの傾きの角度が増加するような形状の反射表面を与えることによって、例えば放物線形状によって、又は反射器の円錐形状に放物線成分を加えることによって、入力端付近の原子ビームに当たるビームに対する横方向減速成分は増加可能である。ある実施形態において、指数が0と1との間、例えば0.6である指数関数プログレッションが用いられる。入力端に関して長手軸に沿ったこの曲率のオフセットがある場合がある。さらに、長手軸に垂直な長手軸へのオフセットも使用可能である。また、通路の一部のみがこのような曲率をもつ場合もある。非円錐形状をしたこのような反射器は、反射器の形状とコイルの内壁又は内部表面の形状との間の空間に依存して、反射器とコイルの内部表面との間で長手方向に変化する距離から離れる円錐状冷却部を有するコイルに合うことが可能である。
【0058】
好ましい実施形態において、偏向装置320は音響光学変調器(AOM:acousto‐optical modulator)である。AOMは結晶を備え、その結晶の上に電極が付される。電極が加える電場に依存して、光特性、例えば反射指標及び/又は複屈折は変化する。典型的には、透明な圧電結晶が使用される。結晶において0次及び1次の回折が生じる。0次回折では入射レーザは傾いておらず、一方で1次回折は傾きを引き起こす。結晶を通って進行するレーザビームエネルギーの部分342が、0次で回折される、すなわち、長手軸Lに沿って向けられる。レーザビームエネルギーの別の部分は、1次で回折される、すなわち、長手軸に対して傾いて回折され、反射表面に当たる。0次で回折されたレーザエネルギーは長手方向の減速あるいは冷却に用いられ、一方で1次で回折されたレーザエネルギーは減速あるいは冷却の横方向成分を作り出すことに用いられる。言い換えると、1次で回折されたレーザエネルギーは、出力端への原子ビームの拡大を視準又は低減することに用いられる。Y及びZの2つの方向における偏向を与えるために、レーザビームは、2つの相互に垂直に配列されて2D‐AOMを形成するAOMを通る。
【0059】
それぞれの電極に印加される電圧を介して偏向を制御する制御部が第1の偏向信号と第2の偏向信号とを与え、第1の偏向信号はある方向の偏向を制御し、第2の偏向信号は別の方向の偏向を制御する。好ましい実施形態において、これらの方向は長手軸とともにデカルト系を形成する。別の好ましい実施形態において、両偏向信号は、異なる周波数と振幅とを有する正弦波信号であり、その形式は、S=Asin(ωt+φ)と、S=Asin(ωt+φ)とである。両信号S及びSの軌跡(locus)はリサジュー曲線を生成し、Sは、S2が制御する偏向の方向(Z)に垂直な方向(Y)の偏向を制御し、レーザビームの部分は1次で偏向されている。本発明の一実施形態において、制御部は、減速効果を支援するために、レーザビームの波長を制御する信号をさらに提供する。さらに、制御部は、レーザビームの強度を制御する追加信号を提供可能である。加えて、制御部は、コイルへ又は巻き線の個々の部分へ供給される電流を制御する1又は2以上の信号を提供可能である。
【0060】
本発明の一実施形態に置いて、長手軸に垂直な両方向の1次回折は、コイルの出力端に、すなわち反射表面にリサジューパターンを生成する。パターンの最大直径は、偏向信号の振幅に依存する。さらに、レーザビームが原子ビームに当たる位置は偏向信号の振幅によって制御可能である。図5において、ビーム組340の最上のビームは、長手軸Lへの傾きが高く、すなわち制御信号の高い振幅に対応する。ビーム組340の最下のビームは、軸Lへの傾きがより小さく、したがって制御信号の低い振幅に対応する。軸Lへより小さく傾いたビームは入力端314に近い点で原子ビームを横切るが、一方で傾きが最高のビームは出力端316に近く原子ビームに衝突するということが、両例示的ビームの光路から得られる。したがって、制御信号の振幅を変化させることによって、反射レーザビームがどの位置(どのx位置)で原子ビームに当たるかが調整可能である。さらに、この位置における原子の速度及び速度分布を考慮に入れることが可能である。分散瞬間横方向冷却を行うために、振幅及び/又は周波数を周期的にスキャン又はスイープすることにより、ゼーマン減速装置の完全長に沿って横方向冷却に対する点を同調することが可能である。
【0061】
追加的又は代替的に、原子を囲み、入力端から出力端まで、又は内部通路における原子の道の少なくとも一部で原子に続く「光管(light tube)」のように、偏向信号の周波数は同期可能である。好ましくは、この同期及び信号の周波数は原子の速度に依存する。ある実施形態に置いて、原子を囲む「光管」は、円筒対称性を有し、減速及び冷却処理をさらに支援する。第2の偏向信号の周波数は、好ましくは、横方向の速度が小さな減速する原子に対して周囲の「光管」が青離調を与える、すなわち正のドップラーシフトの補正を含むように選択される。また、制御部と偏向装置とが他のパターンを提供することも可能であり、例えば信号が与える完全円があり、円線を作り出し、それにより振幅は周期的にスイープされる。反射表面の少なくとも部分にわたって広がるいかなるパターンも使用可能である。パターンとコイルの形状と反射表面は、好ましくは対称である。しかしながら、他の形状も使用可能であり、例えばコイルの断面及び/又は反射表面に卵形状も使用可能である。コイルは、電気的に接続された複数の巻き線部を備えることが可能である。さらに、コイルの巻き線にはタップが導入可能であり、コイルに供給される電流の電気制御に関するさらなる可能性を与える。また、1よりも多くのレーザを使用することも可能であり、例えば、1つのレーザをY方向の減速に、別のレーザをZ方向の減速に使用し、各レーザが1つの専用音響光学変調器を有するようにもできる。加えて、さらなるレーザを用いて、長手方向の減速用に、長手軸に沿ったレーザビームを提供することも可能である。音響光学変調器の代わりに、他の偏向装置を使用することも可能であり、例えば、電気的に制御可能な回転鏡又は他の装置が使用可能である。さらに、1よりも多くのコイルを用いて、一連に接続されたステージを形成し、各ステージが専用の原子速度間隔を有するようにすることも可能である。この形において、冷却処理はいくつかのステージに分散可能である。
【0062】
図6は、本発明によるゼーマン減速器の一実施形態の断面を描いており、原子ビーム403と、横方向及び長手方向の減速に用いるレーザビーム401402とを示す。原子ビーム403はオーブン(図示せず)によって放出され、原子ビームが長手軸に沿って進行するにつれて増加する断面直径を与える。レーザビーム401が、反伝搬であり、長手方向の減速すなわち上述のような冷却を与える。本発明によれば、傾いたレーザビームもまた通路へ放出され、コイル406と内部通路との間に広がる壁405の内部表面によって反射される。壁は反射表面を備え、横方向の冷却(及び、傾きの角度に依存して、追加の長手方向冷却)を与えるために、傾いたレーザビーム402を通路へ反射する。石英管404が原子ビームを囲み、反射表面を保護する。この実施形態において、冷却目的で完全な体積は使用されない。むしろ、高度の傾きを与えるために、石英管404と反射表面405との間の体積を用いて、レーザビーム402を適当に反射させる。反位相コイル407、408が磁場成分を与え、この磁場成分は唐突に冷却条件を終了させる。コイル407は、コイル408及び406の方向に対向する磁場を与える。コイル406、407及び408が作り出す場は通路の長手軸に平行であり、長手軸に垂直な平面において、少なくとも石英管404が定める面積において均質である。音響光学変調器が、図6に示すように2つの方向y及びzに入射レーザを偏向する。長手軸はx軸に沿って広がり、一方でx、y、z方向はデカルト系を形成する、すなわち相互に垂直である。
【0063】
図7は、入力端から単調に広がるゼーマン減速器を示す。しかしながら、増加は不変ではない。むしろ、半径は、入力端への距離に依存する指数関数(オフセット含む)である。図7に置いて用いた指数は0.6である。しかしながら、他の関数を使用してもよい。この曲率で、通路の内部表面が反射するレーザビームによって行われる横方向の冷却は、入力付近の部分に集中させることが可能であるが、一方で、原子ビームの出力付近の部分においては横方向の冷却はほとんど起きない。さらに、横方向の冷却のために視準が増加することも考慮に入れる場合があり、これにより原子ビームが同様のプログレッションを有する断面を持つことになる。通路の周りに配置された図7に示す巻き線は、内部通路の非線形曲率を反映する場を作り出す。図7は、図2及び3同様に縮尺どおりの表現であり、コイルを表す巻き線のいかなる相対又は絶対寸法も本発明に関係する。これは図2、3、5及び6にも当てはまることである。図7に示す巻き線構成で、長手軸に垂直な平面において均質である場を与えることが可能である。さらに、場は長手軸に沿って低減し、通路の最後に描いた反位相コイルによって終了される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手軸(L)に沿って広がる内部通路(230)を備える冷却部(212)を有するゼーマン減速器において、前記内部通路(230)は前記長手軸(L)に垂直な断面を有し、前記内部通路(230)の断面積は、少なくとも前記冷却部(212)の一部において、前記長手軸(L)に沿って単調増加すること、を特徴とするゼーマン減速器。
【請求項2】
前記冷却部(212)は入力端(210)から出力端(220)まで前記長手軸(L)に沿って広がり、前記出力端(220)における断面積は、前記入力端(210)における断面積の少なくとも120%である、請求項1に記載のゼーマン減速器。
【請求項3】
前記内部通路の断面は円形をしている、先行する請求項のうちの1項に記載のゼーマン減速器。
【請求項4】
前記内部通路(230)を囲み、前記内部通路(230)において前記長手軸(L)の方向に磁場を与えるコイル(310)をさらに備え、当該磁場は、前記長手軸(L)に沿って単調減少し、前記冷却部(212)において、前記長手軸(L)に垂直な平面において実質的に均質である、先行する請求項のうちの1項に記載のゼーマン減速器。
【請求項5】
前記内部通路を囲む前記コイル(310)が作り出す前記出力端(230)付近の前記内部通路(230)の磁場とは実質的に異なる磁場を作り出す少なくとも1つの抽出コイル(120)を、前記出力端(220)の付近にさらに備える、請求項4に記載のゼーマン減速器。
【請求項6】
偏向器(312)に当たる光の少なくとも一部を、前記内部通路(230)へ、前記長手軸(L)へ傾けて偏向する前記偏向器(312)をさらに備える、先行する請求項のうちの1項に記載のゼーマン減速器。
【請求項7】
前記内部通路(230)の少なくとも部分に反射表面をさらに備え、前記反射表面は前記偏向器から受光し、前記内部通路(230)へ、前記長手軸(L)へ傾けて光を反射させる、請求項6に記載のゼーマン減速器。
【請求項8】
前記偏向器は前記内部通路(230)へ光を偏向し、前記内部通路(230)の断面において光エネルギー分布を作り出し、前記光エネルギー分布は前記長手軸(L)に対して回転対称である、請求項6又は7に記載のゼーマン減速器。
【請求項9】
前記偏向器(320)にレーザビームを放出するレーザ装置をさらに備え、前記偏向器(320)は、前記少なくとも1つのコイル(310)の前記長手軸(L)と前記レーザビームとの間の角度を変える、請求項6〜8のうちの1項に記載のゼーマン減速器。
【請求項10】
前記偏向器は光を前記出力端(220)の断面へ向け、前記出力端(220)を明るくし、光エネルギーの分布が前記出力端の少なくとも部分的面積をカバーする、請求項6〜9のうちの1項に記載のゼーマン減速器。
【請求項11】
前記入力端(210)を通って前記内部通路に入り、前記出力端を通って前記減速器から出る原子ビームを与える手段をさらに備える、先行する請求項のうちの1項に記載のゼーマン減速器。
【請求項12】
先行する請求項のうちの1項に記載のゼーマン減速器の内部通路(230)を定める内部表面を有するコイル(310)であって、前記内部表面は、前記内部通路(230)へ光を反射する少なくとも1つの反射面積を備える、コイル(310)。
【請求項13】
原子ビームを冷却する方法であって、
磁場を与えるステップと、
前記磁場へ原子ビームを放出するステップと、
前記原子ビームへ光ビームの少なくとも一部を向けるステップと
を含み、
前記原子ビームを放出するステップは、前記長手軸に沿って原子ビームを放出することを含み、前記原子ビームは、前記長手軸(L)に垂直な方向に実質的に広がる断面を有すること、を特徴とする方法。
【請求項14】
前記長手軸(L)に沿って単調増加する断面を有する内部通路(230)を与えるステップをさらに含み、前記内部通路(230)は前記原子ビームを調節する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記原子ビームの断面積及び/又は前記内部通路の断面積は、前記長手軸(L)に沿って全体で少なくとも約20%広げられる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
磁場を与えることは、前記長手軸(L)に平行な成分を有する磁場を与えることを含み、当該長手方向磁場成分は、前記長手軸(L)に沿って減少する磁場強度を有し、前記長手方向磁場成分は、前記長手軸(L)に垂直な平面において実質的に均質であり、
前記原子ビームの伝搬方向へ傾いた方向に光ビームの少なくとも一部を前記原子ビームへ向けることによって、前記長手軸に垂直な方向に前記原子ビームの追加の減速を与えるステップをさらに含む、請求項13〜15のうちの1項に記載の方法。
【請求項17】
前記原子ビームへ光ビームの少なくとも一部を向けることは、前記光ビームの少なくとも一部を、前記原子ビームへ傾けて、前記長手軸(L)から実質的に変位した位置において、前記原子ビームへ反射することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項13〜17のうちの1項に記載の方法を実行することによってコーティングする方法。
【請求項19】
請求項1〜11のうちの1項に記載のゼーマン減速器を使用するステップを含む有機オプトエレクトロニクス装置を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−541717(P2009−541717A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515724(P2009−515724)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004639
【国際公開番号】WO2007/147477
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(397051508)ソニー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (140)
【Fターム(参考)】