説明

ソイルセメント構造物及びその構築方法

【課題】地中連続壁などのソイルセメント構造物を構築するにあたり、簡易な工程又は構成で、先行エレメントと後行エレメントとの境界部が止水性及び強度を保持可能なソイルセメント構造物及びその構築方法を提供する。
【解決手段】遮水壁10を構築する方法は、少なくとも後行エレメントBを施工するにあたり、高炉スラグ、フライアッシュ、ベントナイト及び水を含む掘削液30を用いて掘削孔28を掘削し、掘削された掘削孔28に、セメント、ベントナイト及び水を含む固化液32を注入して、固化液32と掘削液30と掘削土とを混合し、これら混合された固化液32と掘削液30と掘削土とを硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント構造物及びその構築方法に係り、特に分割されて施工される先行エレメントと後行エレメントとの施工目地の止水性及び強度を向上させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、土留め壁や地下タンクの外壁などの構築に、先行して施工を行う先行エレメントと、その後、後行して施工を行う後行エレメントとに工程を分割し、先行エレメントと後行エレメントの一部をラップさせて地中連続壁を構築する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多軸オーガ掘削機で所定間隔に掘削孔を掘削し、オーガロッドから抽出するセメントミルクと掘削土砂とを攪拌してソイルセメントを掘削孔内に充填してエレメントを順次形成し、次に先行するエレメント間を単軸オーガで端部をラップさせて掘削し、連続するエレメントを形成して地中連続壁を構築する方法が開示されている。これは、先行エレメント間を連続させるための後行エレメントを構築する際に、後行エレメントの造成にともなう産業廃棄物扱いとなる土の量を削減するものである。
【特許文献1】特開2002−339345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような地中連続壁を構築するにあたり、施工対象の地盤が硬質である等のために地盤の掘削に時間を要する場合に、セメントミルクなどの固化液を注入しながら掘削すると、掘削が未完了の段階にソイルセメントが硬化してしまい、十分な深度のソイルセメント構造物を構築できなくなることがある。このような場合には、先ず、掘削時において孔壁の崩落防止を主目的とした掘削中に硬化しない掘削液を注入し、掘削完了後、掘削土及び掘削液の混合物に固化液を混入することで、地中連続壁を構築する方法が用いられる。
【0005】
このような施工方法では、掘削完了後に、掘削液と掘削土の混合物に固化液を混入する段階で、固化液を掘削孔内で十分に攪拌させて、固化液を孔内の隅々まで行き渡らせ、掘削液と混合又は置換させることが必要となる。
【0006】
しかしながら、掘削孔内に注入された固化液を、専用機械等を用いて十分に攪拌したとしても、掘削孔の孔壁面に付着したり、孔壁面下に浸透したりする掘削液まで完全に混合又は置換させることは困難である。また、例えば、掘削液が孔壁に浸透している層までを、掘削に用いた掘削ビットやカッターユニットを用いて削り取る等の処理を行って強制的に、孔壁に付着又は浸透する掘削液を除去しようとしても、孔壁の全ての面を処理するには手間及び時間を要することになり、ひいては除去処理を実施中にソイルセメントが硬化するおそれがあるため、その適用も困難である。
【0007】
その結果、この先行エレメントと後行エレメントとの境界部に掘削液が残置されることとなり、その部分の硬化が不十分となって止水性や強度が低下してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、地中連続壁などのソイルセメント構造物を構築するにあたり、簡易な工程又は構成で、先行エレメントと後行エレメントとの境界部が止水性及び強度を保持可能なソイルセメント構造物及びその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は施工対象領域を複数のエレメントに分け、先行して施工する先行エレメントと、その先行エレメントと一部ラップし、後行して施工する後行エレメントとを連続させて、地中にソイルセメント構造物を構築する方法であって、
少なくとも前記後行エレメントを施工するにあたり、高炉スラグ、ベントナイト及び水を含む掘削液を用いて前記後行エレメントを構築するための孔を掘削し、
前記掘削した孔に、セメント、ベントナイト及び水を含む固化液を注入して、当該固化液と前記掘削液と掘削土とを混合し、
前記混合された固化液と掘削液と掘削土とを硬化させることを特徴とする(第1の発明)。
【0010】
本発明によるソイルセメント構造物を構築する方法によれば、掘削液に高炉スラグを用いることにより、高炉スラグを含む掘削液は、固化液に含まれるセメントによるアルカリ刺激を受け、自ら硬化する性質を有するため、先行エレメントと後行エレメントとの境界部の止水性及び強度を保持できる。これにより、全体として止水性及び強度に優れたソイルセメント構造物を構築することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、フライアッシュを配合した前記掘削液を用いることを特徴とする。
本発明によるソイルセメント構造物を構築する方法によれば、先行エレメントと後行エレメントとの境界部の止水性及び強度をさらに向上させることができる。これは、フライアッシュを構成するシリカやアルミナが、セメント中の遊離石灰と結合して不溶性の固い物質を作り、ソイルセメントの組織を緻密にして、その止水性を向上させるためである。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、水900重量部に対し、前記高炉スラグ150〜250重量部、前記フライアッシュ30〜60重量部、及び前記ベントナイト10〜30重量部の配合比で配合した前記掘削液を用いることを特徴とする請求項2に記載のソイルセメント構造物を構築する。
【0013】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明において、水750重量部に対し、前記セメント600〜700重量部、及び前記ベントナイト10〜30重量部の配合比で配合した前記固化液を用いることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、施工対象領域を複数のエレメントに分け、先行して施工する先行エレメントと、その先行エレメントと一部ラップし、後行して施工する後行エレメントとを連続させて地中に構築されるソイルセメント構造物であって、少なくとも前記後行エレメントは、高炉スラグ、ベントナイト及び水を含む掘削液を用いて前記後行エレメントを構築するための孔を掘削し、前記掘削した孔に、セメント、ベントナイト及び水を含む固化液を注入して、当該固化液と前記掘削液と掘削土とを混合し、前記混合された固化液と掘削液と掘削土とを硬化させてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地中連続壁などのソイルセメント構造物を構築する際にあたり、簡易な工程又は構成で、先行エレメントと後行エレメントとの境界部が止水性及び強度を保持可能なソイルセメント構造物及びその構築方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。本実施形態は、地中連続壁のうちダムやドックなどの遮水壁を構築するために、CSM(Cutter Soil Mixing)工法を用いた施工例である。
【0017】
図1は、CSM工法によって構築される遮水壁10の施工手順を説明するための斜視図である。
【0018】
図1に示すように、CSM工法では、横方向に連続して延長する遮水壁10を構築するにあたり、一度に施工可能な領域(以下、エレメントという)を単位として、遮水壁10が施工される領域を複数のエレメントに分割して施工する。具体的には、先に施工されるエレメントA(以下、先行エレメントAという)と、後に施工されるエレメントB(以下、後行エレメントBという)とに分割される。なお、これらのエレメントの掘削幅は、後述するカッターユニットの幅に相当し、その領域は、互いのエレメントの端部を一部ラップするように設定される。
【0019】
先行エレメントAは、例えば、番号1から3に示すように所定の間隔Mを隔てながら施工される。このとき、間隔Mは後述するカッターユニットの幅よりも短く設定される。
【0020】
そして、先行エレメントAの施工後、後行エレメントBは、番号4と5に示すように、先行エレメントA間の間隔Mの未施工領域だけでなく、その間隔Mの領域の両側に位置する、先に施工済みの先行エレメントAの端部を含めて施工される。
【0021】
このように互いのエレメントの端部を一部ラップするように施工することにより、未施工領域を残すことなく連続した遮水壁10が構築される。すなわち、施工される遮水壁10の先行エレメントAと後行エレメントBとの境界は、図中の施工目地Xとなる。
【0022】
なお、エレメントの施工順序は、同図に示すように、例えば、先ず、先行エレメントAを番号順に1から3まで構築し、その後、後行エレメントBを番号順に4から5を構築することを1サイクルとして、このサイクルを施工方向に順次繰り返していくことによって遮水壁10を構築してもよいが、これに限らず、隣り合うエレメント同士が一部ラップされて連続するように施工されるのであれば、先行エレメント同士及び後行エレメント同士の施工順序は問わない。
【0023】
上記のような個々のエレメントを構築するにはCSM機を使用する。図2は、CSM工法を実施するために用いられるCSM機の立面図である。
【0024】
図2に示すように、CSM機20は、キャタピラを備える移動部22と、移動部22より支持された鉛直に延びるケリーバー24と、ケリーバー24の下端に取り付けられた水平多軸の回転カッターからなるカッターユニット26とを備えている。移動部22により任意の施工対象位置に移動し、カッターユニット26を回転させながらケリーバー24を昇降することで、地盤を矩形状に掘削するとともに掘削された土や注入される掘削液又は固化液を攪拌できるようになっている。
【0025】
図3は、CSM機20を用いてエレメントを構築する施工順序を示す説明図である。
【0026】
図3に示すように、エレメントは掘削工程S100及び造成工程S200の2パス施工からなる。
【0027】
掘削工程S100では、構築するエレメントの近傍位置にCSM機20を移動させ(S110)、カッターユニット26を回転させながらケリーバー24を下降させて地表から所定の深度まで掘削液30を注入及び攪拌しながら掘削し(S120)、目標深度まで掘削したらケリーバー24を上昇させてカッターユニット26を地表に引き上げる(S130)ことで、掘削液30と掘削土との混合物で満たされた矩形の掘削孔28を形成する。なお、この掘削液30には、高炉スラグ、フライアッシュ及びベントナイトの粉体材料と水とを混合したものを用いる。
【0028】
高炉スラグは、溶鉱炉で鉄鉱石を加熱し、鉄を取り出した後に残る産業副産物であって、潜在水硬性を有しており、セメント等と混合する事で水酸化カルシウムや硫酸塩の作用により硬化を促進する性質(以下、ポゾラン反応という)を備えるものである。掘削液には、例えば、JIS A 6206に準拠するコンクリート用高炉スラグ微粉末を用いる。
【0029】
フライアッシュは、火力発電所などのボイラーで微粉炭燃焼後に灰として産出される副産物であり、セメントを混合することにより、セメント中の遊離石灰とフライアッシュのシリカやアルミナが結合して、不溶性の固い物質を作り、ソイルセメントの組織を緻密にして、その止水性を向上させる性質を備えるものである。掘削液には、例えば、JIS A 6201に準拠するものを用いる。
【0030】
ベントナイトは、可塑性に富んだモンモリロナイト質粘土(火山灰の変成物)であり、掘削孔の壁面を保護する性質を有する。掘削液には、例えば、Na型のものを用いる。
【0031】
次に、造成工程S200では、掘削工程S100で掘削され、掘削液30と掘削土との混合物で満たされた掘削孔28に固化液32を注入しながら、カッターユニット26を回転させて再び地表から掘削孔28へ挿入し(S210)、掘削孔28の底部まで移動させる(S220)。そして、注入される固化液32が掘削孔28内で十分に攪拌されるように、掘削孔28の底部において、カッターユニット26を複数回上下に往復移動させ(S230)、その後地表に引き上げる(S240)。この固化液32には、セメント、ベントナイト及び水を混合したものを用いる。セメントには、例えば、汎用のポルトランドセメントを用い、ベントナイトには掘削液30と同様のものを用いる。
【0032】
図4(A)、(B)は、それぞれ掘削液30及び固化液32を構成する各材料の配合の一例を示す表である。
【0033】
図4に示すように、掘削液30は1000リットル当たり、高炉スラグ172kg、フライアシュ55kg、ベントナイト27kg及び水907リットルを含む。また、固化液32は1000リットル当たり、セメント692kg、ベントナイト23kg及び水751リットルを含む。なお、同図に示すように、固化液32は、必要に応じて膨張材や増粘材を配合してもよい。
【0034】
このようにして掘削工程S100及び造成工程S200の後、掘削孔内の固化液が混合された混合物を十分に硬化させることにより、エレメントが構築される。
【0035】
以上説明した本実施形態による遮水壁10の構築方法によれば、掘削工程S100で用いる掘削液30に高炉スラグを配合することにより、後行エレメントBの構築の際に、先行エレメントAとの目地に掘削液30が付着していても、固化液32と混合されることによって、掘削液30に含まれる高炉スラグが固化液32に含まれるセメントとポゾラン反応を起こして硬化するため、先行エレメントAと後行エレメントBとの施工目地Xの止水性及び強度を保持できる。これにより、全体として止水性及び強度に優れた遮水壁10を構築することができる。
【0036】
また、本実施形態による遮水壁の構築方法によれば、掘削工程S100で用いる掘削液30にフライアッシュを配合することにより、先行エレメントAと後行エレメントBとの施工目地Xの止水性及び強度をさらに向上させることができる。
【0037】
なお、本実施形態における掘削液30は、高炉スラグ、フライアッシュ及びベントナイトの粉体材料と水とを混合したものによって構成されるものとしたが、これに限らず、この掘削液30にセメントを少量であれば配合してもよい。これにより、掘削液30の粘度を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】CSM工法によって構築される遮水壁の施工手順を説明するための斜視図である。
【図2】CSM工法を実施するために用いられるCSM機の立面図である。
【図3】CSM機を用いてエレメントを構築する施工順序を示す説明図である。
【図4】掘削液及び固化液を構成する各材料の配合の一例を示す表である。
【符号の説明】
【0039】
10 遮水壁
20 CSM機
22 移動部
24 ケリーバー
26 カッターユニット
28 掘削孔
30 掘削液
32 固化液
A 先行エレメント
B 後行エレメント
X 施工目地
S100 掘削工程
S200 造成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工対象領域を複数のエレメントに分け、先行して施工する先行エレメントと、その先行エレメントと一部ラップし、後行して施工する後行エレメントとを連続させて、地中にソイルセメント構造物を構築する方法であって、
少なくとも前記後行エレメントを施工するにあたり、高炉スラグ、ベントナイト及び水を含む掘削液を用いて前記後行エレメントを構築するための孔を掘削し、
前記掘削した孔に、セメント、ベントナイト及び水を含む固化液を注入して、当該固化液と前記掘削液と掘削土とを混合し、
前記混合された固化液と掘削液と掘削土とを硬化させることを特徴とするソイルセメント構造物を構築する方法。
【請求項2】
フライアッシュを配合した前記掘削液を用いることを特徴とする請求項1に記載のソイルセメント構造物を構築する方法。
【請求項3】
水900重量部に対し、前記高炉スラグ150〜250重量部、前記フライアッシュ30〜60重量部、及び前記ベントナイト10〜30重量部の配合比で配合した前記掘削液を用いることを特徴とする請求項2に記載のソイルセメント構造物を構築する方法。
【請求項4】
水750重量部に対し、前記セメント600〜700重量部、及び前記ベントナイト10〜30重量部の配合比で配合した前記固化液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のソイルセメント構造物を構築する方法。
【請求項5】
施工対象領域を複数のエレメントに分け、先行して施工する先行エレメントと、その先行エレメントと一部ラップし、後行して施工する後行エレメントとを連続させて地中に構築されるソイルセメント構造物であって、
少なくとも前記後行エレメントは、高炉スラグ、ベントナイト及び水を含む掘削液を用いて前記後行エレメントを構築するための孔を掘削し、前記掘削した孔に、セメント、ベントナイト及び水を含む固化液を注入して、当該固化液と前記掘削液と掘削土とを混合し、前記混合された固化液と掘削液と掘削土とを硬化させてなることを特徴とするソイルセメント構造物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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