説明

ソリッドケーブルの中間接続構造

【課題】健全な防食層を備えると共に、接続部絶縁層における脱油が抑制されたソリッドケーブルの中間接続構造を提供する。
【解決手段】ソリッドケーブル1の導体10同士を接続する導体接続部20と、導体接続部20の外周に絶縁材を巻回して形成された接続部絶縁層21と、接続部絶縁層21の外周に形成された金属シース22と、金属シース22の外周に形成された防食層23とを備える。接続部絶縁層21には、絶縁油が含浸されている。防食層23は、低融点層を備え、この低融点層は、ケーブル油浸絶縁層11の外周に配されるケーブル防食層13よりも低融点の材料からなる。特に、防食層23は、低融点層とこの低融点層よりも融点の高い外側層とを備えること構成とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油が含浸された絶縁層を有するソリッドケーブル同士を接続する中間接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
長距離大容量の直流電力ケーブルとして、導体の外周にクラフト紙を巻回し、このクラフト紙に高粘度の絶縁油を含浸させた絶縁層を備えるソリッドケーブルが利用されている。また、使用温度の更なる高温化、大容量化を図ることが可能なソリッドケーブルとして、ポリプロピレンとクラフト紙との複合テープを巻回して、中粘度の絶縁油を含浸させた絶縁層を備えるソリッドケーブルが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
長距離の電力線路を形成する場合、ソリッドケーブル同士を接続する中間接続部が設けられる。この中間接続部には、予め工場で組み立てられるFJ(Factory joint)と呼ばれる接続部がある。FJの具体的な組立手順は、以下の通りである(図1参照)。(1)ソリッドケーブル1のケーブルコアの端部において絶縁層11を構成するテープ状の絶縁材の一部を除去したり巻き解して導体10を露出させる→(2)露出させた導体10同士を溶接などで接続する→(3)絶縁層11において絶縁材が除去された箇所を埋めるように別のテープ状絶縁材を巻回して、ケーブルコアの端部および導体接続部20の外周を覆うと共に、絶縁層11の絶縁材を巻き戻して接続部絶縁層21を形成する→(4)接続部絶縁層21の外周に金属シース22を形成する→(5)金属シース22の外周にエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)などの樹脂テープを巻回して熱をかけ、これら樹脂テープを溶融して一体化させることで防食層23を形成する→また、船上で組み立てる船上ジョイントと呼ばれる接続部の場合は、更に、(6)補強層24、外装25などを設ける。
【0004】
接続部絶縁層21は、予めケーブル絶縁油と同じ絶縁油を含浸させた絶縁材を巻回して形成する。この巻回の際は、ケーブル絶縁油よりも粘度が低い絶縁油をかけながら行い、絶縁材同士の間を絶縁油で満たし、隙間が無いようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平11―224546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の中間接続構造では、その製造工程の際に以下のような問題が生じる虞がある。
【0007】
金属シースの外周に防食層を形成する際、既述のように巻回された樹脂テープを加熱によって溶着させ、一体化させる。この加熱により、金属シースの内周側に存在する接続部絶縁層に含浸させた絶縁油やかけ油が膨張して移動し、中間接続部に脱油箇所が生じる虞がある。例えば、重力によって、金属シースと接続部絶縁層との間において下方側に絶縁油が移動し、同上方側に脱油箇所が生じる虞がある。また、接続部絶縁層に含浸された絶縁油などが金属シース側(外周側)に移動して、金属シースと接続部絶縁層との間の隙間に抜け出る虞もある。この脱油により絶縁油が存在しない部分は電気的な弱点となり、ケーブルの絶縁特性の低下を招く恐れがある。
【0008】
上記脱油の問題に対して、脱油を抑制するために防食層を形成する際の加熱温度を低く設定すると、今度は樹脂テープの溶着が十分でなく、防食層の外側から金属シースに達する海水などの流路が形成される虞がある。このような流路が形成されてしまうと、防食層は金属シースの防食を抑制するという役割を果たさなくなる。また、仮に流路が形成されていない場合であっても、未溶着部分が、防食層の外側から金属シースに達する流路に進展する虞がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされて、その目的の一つは、健全な防食層を備えると共に、接続部絶縁層における脱油が抑制されたソリッドケーブルの中間接続構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、導体と導体を覆うケーブル油浸絶縁層とが段階的に露出された一対のケーブルコアの端部と、この露出された導体同士を接続する導体接続部と、これらケーブルコアの端部及び導体接続部の外周にテープ状の絶縁材を巻回して構成される接続部絶縁層と、接続部絶縁層の外周に形成される金属シースと、金属シースの外周に形成される防食層とを備えるソリッドケーブルの中間接続構造に係る。そして、本発明ソリッドケーブルの中間接続構造は、防食層が、前記ケーブル油浸絶縁層の外周側に配されるケーブル防食層よりも低融点の材料からなる低融点層を備えることを特徴とする。
【0011】
中間接続構造の防食層において、ケーブル防食層よりも低融点材料からなる低融点層が存在するということは、中間接続構造の防食層を形成する際に金属シースの外周に形成されるテープ巻回層において、ケーブル防食層よりも低融点材料からなる層状部分が存在したことを意味する。このようなテープ巻回層が従来と同じ熱量で処理された場合、樹脂テープ同士がムラなく溶着し、未溶着部分の殆どない低融点層を有する防食層が形成される。この低融点層が防食層における防食層の内外に連通する流路の形成を抑制するので、健全な防食層となる。また、テープ巻回層が従来よりも小さな熱量で処理された場合でも、テープ巻回層の低融点材料からなる部分が十分に溶着して、低融点層を有する防食層が形成される。この場合、テープ巻回層に加えられる熱量が従来よりも低いため、金属シースの内側にある接続部絶縁層の温度上昇も低く抑えられ、接続部絶縁層における脱油も生じ難い。つまり、本発明ソリッドケーブルの中間接続構造は、健全な防食層を有し、かつ、接続部絶縁層において脱油が殆ど生じていないソリッドケーブルの中間接続構造である。
【0012】
低融点層を備える防食層は、低融点層のみから構成されている単層構造であっても良いし、低融点層を含む多層構造であっても良い。
【0013】
防食層を低融点層のみから構成されているということは、防食層を形成する際に金属シースの外周に巻回される樹脂テープからなるテープ巻回層も、ケーブル防食層よりも低融点の材料からなる構成を備えていたことを意味する。このようなテープ巻回層に対して防食層を形成するために加えられる熱量が従来よりも小さくても、テープ巻回層を構成する各樹脂テープ同士が未溶着部分を殆ど生じることなく溶着する。また、テープ巻回層に加える熱量を小さくすれば、テープ巻回層が形成される金属シースの内側にある接続部絶縁層の温度上昇も低く抑えられ、接続部絶縁層における脱油が生じ難い。つまり、低融点層のみからなる防食層を備える中間接続構造は、健全な防食層を有し、かつ、接続部絶縁層において脱油が殆ど生じていないソリッドケーブルの中間接続構造である。
【0014】
一方、多層構造の防食層の例としては、低融点層と、この低融点層よりも外側で低融点層よりも高融点材料からなる外側層とを備える防食層を挙げることができる。防食層が、上記のような外側層と低融点層とを備えているということは、防食層を形成する際に、金属シースの外周に巻回される樹脂テープからなるテープ巻回層も、外層側よりも内層側で融点が低い構成を備えていたことを意味する。
【0015】
ここで、防食層を形成する手順を確認すると、通常、巻回した樹脂テープの外周側を囲むようにヒータを配置して樹脂テープの加熱を行うため、樹脂テープの巻回層の外側から内側に向かって段階的に温度が上昇し、樹脂テープが溶着していくことが判る。そのため、外層側よりも内層側で融点が低いテープ巻回層を外周側から加熱すると、巻回層の外層から内層に向かって段階的に温度が上昇し、樹脂テープが溶着していく。このとき、上段の構成のようにテープ巻回層の内層側が低融点であると、テープ巻回層に加える熱量を従来よりも低くしても、全体にわたって未溶着部分の殆どない防食層が形成される。また、テープ巻回層に加えられる熱量が従来よりも低いため、接続部絶縁層における脱油が生じ難い。つまり、外側層と低融点層を備える中間接続構造は、健全な防食層を有し、かつ、接続部絶縁層において脱油が殆ど生じていないソリッドケーブルの中間接続構造である。
【0016】
上記のことに加え、低融点層と外側層とを備える防食層は、低融点層のみから構成される防食層よりも機械的強度を高くすることができる。一般に、低融点の樹脂材料は機械的強度が低い傾向にある。つまり、低融点層よりも融点の高い外側層は、低融点層よりも機械的強度が高いと言えるので、低融点層と外側層とを備える防食層は、外側層により機械的強度が高く保たれる。
【0017】
多層構造の防食層において、低融点層の厚さは、防食層全体の厚さの2/5〜4/5であることが好ましい。
【0018】
防食層の材料として通常使用される樹脂テープに対して、その融点を下げるための添加材を添加した場合、樹脂テープの機械的強度(代表的には、引張強度)が低下する傾向にある。そのため、防食層の全てを融点の低い材料から構成すると、防食層の機械的強度が低下する虞がある。これに対して、防食層における低融点層の割合が上記範囲にあれば、防食層を形成する際に加えられる熱量を、脱油が殆ど生じない程度に低く抑えることができるし、出来上がった防食層の機械的強度も十分な値となる。
【0019】
多層構造の防食層における外側層と低融点層は、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂で構成されることが好ましい。この場合、外側層を構成する共重合樹脂における酢酸ビニルの割合は3質量%以下とし、低融点層を構成する共重合樹脂における酢酸ビニルの割合は5〜10質量%とすることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、防食層全体の溶着の度合いと防食層に要求される機械的強度のバランスが非常に良い。また、低融点層と外側層とが同じポリエチレン樹脂をベースとしているため、これらの層が隙間なく溶着している。
【0021】
以下、本発明ソリッドケーブルの中間接続構造における防食層以外の好ましい態様について説明する。
【0022】
本発明中間接続構造は、金属シースと接続部絶縁層との間に、ケーブル油浸絶縁層に含浸されるケーブル絶縁油よりも動粘度が高い材料からなる高粘度部を備えることが好ましい。
【0023】
中間接続構造における防食層の形成にあたり金属シース上に形成されるテープ巻回層を加熱すると、金属シース及びその内周側に存在する構成部材も加熱される。特に、金属シースの直下に位置する高粘度部が加熱される。しかし、高粘度部は、動粘度が高い材料から構成されるため、上記加熱により移動し難い。また、金属シースと接続部絶縁層との間に上述の移動し難い高粘度部が存在することで、接続部絶縁層に含浸された絶縁油などが加熱されて外周側に移動しようとしても、高粘度部が障害壁として機能し、当該絶縁油を高粘度部よりも内側に極力留めようとする。従って、接続部絶縁層に含浸された絶縁油などが、金属シースと接続部絶縁層との隙間に移動し難い。
【0024】
上記高粘度部の構成材料としては、例えば、ケーブル絶縁油よりも動粘度が高い絶縁油を挙げることができる。特に、ケーブル絶縁油を中粘度油とする場合、ケーブル絶縁油よりも動粘度が高い中粘度油を利用すると良い。このような動粘度が高い絶縁油を用いる場合、中間接続部の施工時に金属シースに設けた孔から注入することで、高粘度部を簡単に形成することができる。絶縁油を注入する際は絶縁油を加熱して粘度を下げた状態とすると、注入し易い。
【0025】
本発明中間接続構造において、接続部絶縁層の少なくとも一部は、絶縁紙とプラスチック層とを複合した複合テープを巻回して形成することが好ましい。
【0026】
接続部絶縁層は絶縁材を巻回して構成する。特に、絶縁材として複合テープを利用すると、絶縁特性が高く好ましい。複合テープは、プラスチック層の厚さの割合(k値)が高いものを利用すると、抵抗率ρが大きく、絶縁特性が高い。k値の高い複合テープは、例えばスーパーカレンダー加工を施すことで製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明ソリッドケーブルの中間接続構造は、健全な防食層を備えるので、耐久性が高い。特に、海底ケーブルの場合、補修や再布設が容易ではないので、耐久性が高いことは大きな利点となる。また、本発明ソリッドケーブルの中間接続構造は、接続部絶縁層における脱油が抑制されているので、優れた絶縁特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[実施形態1]
図1は、本発明ソリッドケーブルの中間接続構造の縦断面模式図である。ソリッドケーブル1は、中心から順に、導体10、ケーブル油浸絶縁層11、金属シース12、ケーブル防食層13、補強層14、外装15を備える。ケーブル油浸絶縁層11には、絶縁油(ケーブル絶縁油)が含浸されている。両ケーブル1を接続する中間接続構造2は、両ケーブル1の端部において上記各構成部材を段剥ぎして露出された導体10同士を接続する導体接続部20と、この導体接続部20及びケーブルコアの端部の外周に設けられた接続部絶縁層21と、接続部絶縁層21の外周に形成された金属シース22と、金属シース22の外周に形成された防食層23とを備える。接続部絶縁層21にも絶縁油が含浸されている。この中間接続構造2の最も特徴とするところは、防食層23の構成にある。以下、ソリッドケーブルの中間接続構造に係る各構成を説明する。
【0029】
<ソリッドケーブル>
《導体など》
導体10は、複数の銅素線を撚り合わせた、いわゆるキーストン導体が利用できる。金属シース12は、鉛などの金属により形成される。ケーブル防食層13は、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)といった樹脂により形成される。補強層14は、金属シース12にかかるフープストレスを分担する層であり、ステンレス鋼といった高抗張力材料などからなる帯状材を巻回して構成される。外装15は、鉄線が利用できる。
【0030】
《ケーブル油浸絶縁層》
ケーブル油浸絶縁層11は、導体10側から順に内部半導電層(図示せず)、主絶縁層、外部半導電層(図示せず)を備える。主絶縁層は、二枚の絶縁紙の間にプラスチック層を有する複合テープを螺旋状にギャップ巻きして構成される。複合テープは、二枚のクラフト紙の間にポリプロピレン(PP)層を有するPPLP(住友電気工業株式会社の登録商標)が利用できる。この複合テープは、例えばPPフィルムの厚さの割合(k値)が40〜90%である適宜なものを利用できる。ここでは、スーパーカレンダー加工を施すことでk値の高めたものを利用している。
【0031】
なお、主絶縁層において内周側(導体直上)及び外周側(金属シースの直下)にクラフト紙を巻回してなる低ρ層を備える構成とすると、主絶縁層においてストレスが高く導体の影響を受け易い部分が受けるストレスを低減することができる。また、主絶縁層の中間部に1〜3枚程度のクラフト紙を巻回してなる層を設けるとクッション効果が期待できる。
【0032】
ケーブル油浸絶縁層11に含浸されるケーブル絶縁油として、例えば、60℃における動粘度が約200mm/sである中粘度のポリブテン油(日本石油化学株式会社製HV−15)が挙げられる。
【0033】
外部半導電層の外周には、外部半導電層と金属シース12との導通を確保するために銅線を織り込んだ布テープ(図示せず)を巻回しても良い。
【0034】
<中間接続構造>
《導体接続部》
導体接続部20は、各ケーブル1の端部から露出する導体10同士を溶接したり、接続スリーブを用いて導体10同士を接続することで構成される。
【0035】
《接続部絶縁層》
接続部絶縁層21は、導体接続部20およびケーブルコアの端部の外周に、ケーブル油浸絶縁層11と同様のテープ状絶縁材(PPLP(登録商標))を螺旋状にギャップ巻きすると共に、ケーブル油浸絶縁層11を構成する絶縁材の一部を巻き戻して構成される。接続部絶縁層21の形成にあたり巻き足す絶縁材は、巻回前にケーブル絶縁油と同様の絶縁油(上述した中粘度油)を含浸させてから、巻回する。また、絶縁材間には、接続部絶縁層21を構成する際にかけ油として用いられた絶縁油が存在する。かけ油には、通常、ケーブル絶縁油よりも動粘度が低い絶縁油が用いられるが、ケーブル絶縁油と同じものを用いても良い。
【0036】
ケーブル1と同様に、接続部絶縁層21の内周には内部半導電層、外周には外部半導電層を形成し、外部半導電層の外周には、外部半導電層と金属シース22との導通を確保するために銅線を織り込んだ布テープ(図示せず)を巻回する。
【0037】
《高粘度部》
接続部絶縁層21と後述する金属シース22との間に備わる高粘度部は、ケーブル絶縁油よりも動粘度が高い絶縁油により構成される。具体的には、ケーブル絶縁油と同じ絶縁油(上述の中粘度のポリブデン油)をベース油とし、このベース油に増粘剤として、ポリイソブチレンを含有させた絶縁油が挙げられる。増粘剤の含有量は、所望の動粘度になるように適宜調整するとよい。その他、高粘度部の構成材料として、ケーブル絶縁油よりも動粘度が高い絶縁油(上述した60℃における動粘度が約200mm/sよりも高いもの)を用いてもよい。上記布テープは、この動粘度の高い絶縁油が含浸された状態になる。
【0038】
《金属シース》
接続部絶縁層21の外周、より詳しくは外部半導電層の外周に設けられた上記布テープによる層の外周には、鉛管により形成された金属シース22が設けられる。
【0039】
《防食層》
金属シース22の外周には、樹脂からなる防食層23が設けられる。この防食層23は、後述するように樹脂テープを金属シース22の外周に巻回した後、加熱して、樹脂テープ同士を溶着させることで形成される。
【0040】
本発明のソリッドケーブルの中間接続構造における防食層23は、ケーブル防食層13よりも低融点の材料からなる低融点層を備える。具体的には、防食層23は、全体が低融点層からなる単層構造であっても良いし、低融点層とこの低融点層よりも外側にあり、低融点層よりも融点の高い外側層とを有する多層構造であっても良い。一般に、防食層23として使用される低融点材料は機械的強度が低い傾向にあるので、多層構造の防食層23として、外側層により防食層23の機械的強度を保証することが好ましい。多層構造の防食層23を構成する層の数は特に限定されないが、作製の手間などを考慮すれば、防食層23の層数は2層とすることが好ましく、その場合、金属シース22の直上の層が低融点層となり、低融点層の外側の層が外側層になる。防食層23の層数が3層以上ある場合、外側から内側に向かって順次融点が低くなるように樹脂テープの構成材料を選択することが好ましい。
【0041】
低融点材料は、ケーブル防食層13の構成材料よりも5℃以上融点が低いことが好ましく、より好ましくは、ケーブル防食層13の構成材料よりも10℃以上融点が低いものである。ここで、防食層23が低融点層と外側層を有する場合、例えば、外側層をケーブル防食層13と同じ材料で構成し、低融点層を外側層よりも5℃以上(好ましくは10℃以上)融点が低い材料で構成すれば良い。なお、防食層23の厚さが大きければ、防食層の低融点層と外側層の融点差を大きくし、防食層の厚さが小さければ、この融点差を小さくすることが好ましい。
【0042】
また、多層構造の防食層の場合、ベースとなる樹脂材料に対して添加剤の含有量を変化させることで各層の融点を調節することが好ましい。このようにすれば、防食層に備わる各層の溶着性が高く、各層間に隙間が非常に形成され難い。例えば、多層構造の外側層をエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂で構成するのであれば、低融点層は、酢酸ビニルの含有量を外側層よりも多くしたエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂とすれば良い。
【0043】
さらに、多層構造を備える防食層における低融点層の厚さは、防食層23の厚さ(通常、約5mm)の2/5〜4/5とすることが好ましい。低融点層の厚さをこの範囲とすれば、後述するように防食層23を形成する際、接続部絶縁層21に脱油が生じ難いし、十分な機械的強度を備える防食層23とすることができる。特に、低融点層がエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であれば、低融点層の厚さを防食層23の厚さの3/5程度とすることが好ましい。
【0044】
《補強層、外装》
防食層23の外周には、ケーブル1と同様にステンレス鋼帯などにより構成される補強層24を備える。また、補強層24の外周には、物理的外力から中間接続構造2を保護する鉄線などで構成される外装25を備える。
【0045】
なお、上述の高粘度部は、例えば、中間接続構造をケーブルの軸方向に直交するように切断し、この断面において、金属シースの直下に存在する絶縁油、又は上記布テープに含浸された絶縁油を抽出し、その分子量分布を調べることで特定することができる。
【0046】
<中間接続構造の組立手順>
上記構成を備える中間接続構造2は、以下のようにして形成することができる。但し、防食層23は2層構造の場合を例にして説明する。
【0047】
接続する一対のソリッドケーブル1の端部においてそれぞれ、各構成部材を段剥ぎして導体10を露出させる。ケーブル油浸絶縁層11は、導体10の端部側でテープ状の絶縁材の一部を除去したり巻き解す。そして、露出させた導体10を例えば、溶接により接合する。
【0048】
導体10同士を接続した導体接続部20の外周に、内部半導電層を形成した後、その外周に、予め絶縁油を含浸させた絶縁材を巻回して接続部絶縁層21を形成する。この絶縁材の巻回中、適宜かけ油を行う。接続部絶縁層21の外周に外部半導電層を形成した後、銅線を織り込んだ布テープを巻回する。
【0049】
上記接続部絶縁層21(布テープ)の外周に鉛管を配置し、鉛管の両端部をケーブル1の金属シース12に溶接して、金属シース22を形成する。金属シース22の一部にその表裏に貫通する孔(図示せず)を設けて、上述のケーブル絶縁油よりも動粘度が高い絶縁油(増粘剤を含有した絶縁油や、動粘度が高い絶縁油など)を上記孔から注入する。このとき、絶縁油は、温度を高めた状態とすると、注入作業が行い易い。注入後は、上記孔を塞ぐことで、注入した絶縁油を封止する。
【0050】
注入した絶縁油は上記布テープに染み込んで、接続部絶縁層21と金属シース22との間を埋める高粘度部を形成する。高粘度部は、接続部絶縁層21に含浸されていた絶縁油が金属シース22側に移動することを規制して、接続部絶縁層21の脱油を抑制する。
【0051】
次に、金属シース22の外周に樹脂テープを巻回することで、テープ巻回層を形成する。テープ巻回層を形成したらそのテープ巻回層の外部を取り囲むようにヒータを配置し、巻回された樹脂テープを溶融して防食層23を形成する。
【0052】
テープ巻回層は、1種類の樹脂テープで構成されていても良いし、融点の異なる複数種類の樹脂テープで構成されていても良い。1種類の樹脂テープを使用すれば、単層の防食層が形成されるし、複数種類の樹脂テープを使用すれば、多層の防食層が形成される。
【0053】
1種類の樹脂テープを使用する場合、使用する樹脂テープは、ケーブル1のケーブル防食層13よりも融点の低いものを使用する。従来は、ケーブル防食層13と同じ樹脂からなる樹脂テープを使用してテープ巻回層を形成して熱処理していたので、ケーブル防食層13よりも融点の低い材料からなる樹脂テープであれば、テープ巻回層に加える熱量を従来よりも低く抑えることができる。
【0054】
一方、融点の異なる複数種類の樹脂テープを使用する場合、各種樹脂テープで形成された層を積層する。テープ巻回層の形成の作業性を考慮すれば、樹脂テープを2種とすることが好ましい。具体的には、金属シース22の外周に第一樹脂テープを巻回して層を形成し、さらに第一樹脂テープの層の上に、第二樹脂テープを巻回して層を形成する。この第二樹脂テープは、ケーブル防食層13と同じ材料から構成すると良い。
【0055】
上記第一樹脂テープは、第二樹脂テープよりも融点が低い樹脂を利用する。代表的には、第二樹脂テープを構成する樹脂に添加物を加えて融点を下げた樹脂とすることが好ましい。このようにすれば、第一樹脂テープと第二樹脂テープとが同じ樹脂材料をベースとするので溶着し易い。例えば、第一樹脂テープと第二樹脂テープをエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂製のテープ(EVAテープ)とし、各テープにおける酢酸ビニルの含有量を異ならせることが挙げることができる。具体的には、外側層となるEVAテープにおける酢酸ビニルの含有量を3質量%以下とし、低融点層となるEVAテープにおける酢酸ビニルの含有量を5〜10質量%とすると良い。この場合、低融点層となる樹脂テープの融点は、外側層のそれと比較して融点が約5〜20℃低く、引張強度が約80〜90%である。
【0056】
上記のようなテープ巻回層の構成によれば、テープ巻回層に加える熱量を従来よりも低くしても、テープ巻回層を構成する各層の樹脂テープ同士がムラなく溶着し、未溶着部分の殆どない防食層23を形成できる。これは、テープ巻回層に加えられる熱が、その外周側から内周側に向かって段階的に伝達されるのに対して、テープ巻回層の内周側に、テープ巻回層の外周側の第二樹脂テープよりも融点の低い第一樹脂テープが配置されているためである。テープ巻回層に加える熱量は、第一樹脂テープをどのような材質とするか、どの程度の厚さに巻回するかによって適宜選択すれば良い。
【0057】
また、テープ巻回層に加える熱量が従来よりも低いため、テープ巻回層の下にある金属シース22や接続部絶縁層21に伝達される熱量も低くなる。その結果、接続部絶縁層21における絶縁油の膨張も抑えられ、接続部絶縁層21に脱油が生じ難い。さらに、本実施形態では、接続部絶縁層21と金属シース22との間に高粘度部を備えるので、脱油が非常に効果的に抑制される。
【0058】
なお、中間接続構造2の両端部側では、テープ巻回層に加えた熱がケーブル1に逃げ易いので、特に中間接続構造2の両端部に加える熱量を中間部よりも高くすることが好ましい。
【0059】
上述した防食層23の形成が終了したら、防食層23の外周にステンレス鋼帯を巻回し、ケーブル1の補強層14にステンレス鋼帯を溶接して、補強層24を形成する。
【0060】
最後に、鉄線を巻回して、この鉄線をケーブル1の外装15に溶接して、外装25を形成する。上記工程により、中間接続構造2が形成される。
【0061】
(試験例)
防食層23を低融点層と外側層の2層構造とした本発明の構成を備える試験構造体(試料1および2)と、防食層を単層構造とした従来の構成の試験構造体(比較試料)とで、防食層の形成状態を比較する試験をした。試験構造体は、導体接続部20、接続部絶縁層21、高粘度部、および防食層23までを形成したものとした。
【0062】
<試料1>
従来と同じように、中間接続構造2の金属シース22まで形成する。そして、金属シース22の外周に、10質量%の酢酸ビニルを含有するEVAテープ(第一樹脂テープ;融点94℃)を厚さ約3mmとなるまで巻回し、さらに第一樹脂テープの外周に、3質量%の酢酸ビニルを含有するEVAテープ(第二樹脂テープ;融点110℃)を厚さ約2mmとなるまで巻回してテープ巻回層を形成した。なお、第二樹脂テープは、ケーブル防食層13と同じ材質であった。
【0063】
<試料2>
試料2は、第一樹脂テープとして、酢酸ビニルの含有量を5質量%としたEVAテープ(融点103℃)を使用した。第一樹脂テープ以外の構成は、試料1と同様である。
【0064】
<比較試料>
比較試料は、3質量%の酢酸ビニルを含有するEVAテープ(融点110℃)のみでテープ巻回層を形成した。この構成以外は、試料1と同様である。
【0065】
<加熱試験>
上述したようにテープ巻回層の形成が終了した試料1、試料2、比較試料について、各試料のテープ巻回層の外周を囲むようにヒータを配置する。そして、各試料における金属シース22の外周の温度、即ち、テープ巻回層の最下層の温度が、100〜110℃前後となるようにヒータを調節し、防食層23を形成した。
【0066】
次に、各試料の防食層23を切断し、防食層23の断面の状態を調べた。その結果、試料1、2の防食層23では、樹脂テープは殆ど溶着して一体化していたのに対して、比較試料の防食層23には、一部に明らかな未溶着部分が生じていた。また、上記の設定温度では、接続部絶縁層21の温度が高くなりすぎないため、接続部絶縁層21における脱油が殆ど生じていなかった。
【0067】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、ケーブル絶縁油や中間接続構造に利用する絶縁油の組成や動粘度、ケーブル油浸絶縁層や接続部絶縁層の構成材料、複合テープのk値などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明ソリッドケーブルの中間接続構造は、電力供給、特に、長距離大容量の電力供給線路を構築するにあたり、ソリッドケーブル同士を接続する箇所に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ソリッドケーブルの中間接続構造の一部を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ソリッドケーブル
10 導体 11 ケーブル油浸絶縁層
12 金属シース 13 ケーブル防食層 14 補強層 15 外装
2 中間接続構造
20 導体接続部 21 接続部絶縁層
22 金属シース 23 防食層 24 補強層 25 外装

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と導体を覆うケーブル油浸絶縁層とが段階的に露出された一対のケーブルコアの端部と、この露出された導体同士を接続する導体接続部と、これらケーブルコアの端部及び導体接続部の外周にテープ状の絶縁材を巻回して構成される接続部絶縁層と、接続部絶縁層の外周に形成される金属シースと、金属シースの外周に形成される防食層とを備えるソリッドケーブルの中間接続構造であって、
前記防食層は、前記ケーブル油浸絶縁層の外周側に配されるケーブル防食層よりも低融点の材料からなる低融点層を備えることを特徴とするソリッドケーブルの中間接続構造。
【請求項2】
前記防食層は、前記低融点層と、この低融点層よりも外側で低融点層よりも高融点材料からなる外側層とを備えることを特徴とする請求項1に記載のソリッドケーブルの中間接続構造。
【請求項3】
前記防食層は、低融点層のみから構成されることを特徴とする請求項1に記載のソリッドケーブルの中間接続構造。
【請求項4】
前記低融点層の厚さは、防食層の厚さの2/5〜4/5であることを特徴とする請求項2に記載のソリッドケーブルの中間接続構造。
【請求項5】
前記外側層と低融点層は、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂で構成され、
前記外側層を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂における酢酸ビニルの割合は3質量%以下であり、
前記低融点層を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂における酢酸ビニルの割合は5〜10質量%であることを特徴とする請求項2または4に記載のソリッドケーブルの中間接続構造。
【請求項6】
前記金属シースと前記接続部絶縁層との間に、前記ケーブル油浸絶縁層に含浸されるケーブル絶縁油よりも動粘度が高い材料からなる高粘度部を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のソリッドケーブルの中間接続構造。
【請求項7】
前記高粘度部は、前記ケーブル絶縁油よりも動粘度が高い絶縁油を含むことを特徴とする請求項6に記載のソリッドケーブルの中間接続構造。
【請求項8】
前記接続部絶縁層の少なくとも一部は、絶縁紙とプラスチック層とを複合した複合テープを巻回して形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のソリッドケーブルの中間接続構造。

【図1】
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【公開番号】特開2010−104122(P2010−104122A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272253(P2008−272253)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】