説明

タイヤの耐久試験方法

【課題】 タイヤが経時劣化した状態を短時間で精度良く再現させうる劣化促進工程を含むタイヤの耐久試験方法を提供する。
【解決手段】 空気入りタイヤの劣化を促進させる劣化促進工程を含む空気入りタイヤの耐久試験方法であって、前記劣化促進工程は、空気入りタイヤとリムとが囲むタイヤ内腔に、酸素濃度が30%以上である高酸素空気と、10〜3000ccの水とが充填されたタイヤ組立体を準備する第1の工程と、前記タイヤ組立体を、温度50〜100℃及び湿度70〜100%の高温高湿雰囲気中に少なくとも3日間放置する第2の工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤが経時劣化した状態を短時間で精度良く再現させうる劣化促進工程を含むタイヤの耐久試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、長期に亘って使用されることにより、例えば紫外線、酸素、水分及び/又は温度等の様々な要因によってゴムないしタイヤコード等に経時劣化が生じる。従来、空気入りタイヤの耐久性を評価する場合、上述のような経時劣化を考慮に入れるために、該劣化したタイヤで耐久試験が行われる(例えば下記特許文献1ないし2参照)。しかし、実際に長い時間をかけてタイヤを劣化させることは効率が悪く、タイヤの開発にも長期間を要するという欠点がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−132847号公報
【特許文献2】特開2004−233218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、空気入りタイヤとリムとが囲むタイヤ内腔に、酸素濃度が30%以上である高酸素空気と、10〜3000ccの水とが充填されたタイヤ組立体を準備する第1の工程と、前記タイヤ組立体を、温度50〜100℃及び湿度70〜100%の高温高湿雰囲気中に少なくとも3日間放置する第2の工程とを含ませることにより、タイヤの経時劣化した状態を短時間で再現し、さらに精度の高い性能試験等を行うのに役立つタイヤの耐久試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のうち請求項1記載の発明は、空気入りタイヤの劣化を促進させる劣化促進工程を含む空気入りタイヤの耐久試験方法であって、前記劣化促進工程は、空気入りタイヤとリムとが囲むタイヤ内腔に、酸素濃度が30%以上である高酸素空気と、10〜3000ccの水とが充填されたタイヤ組立体を準備する第1の工程と、前記タイヤ組立体を、温度50〜100℃及び湿度70〜100%の高温高湿雰囲気中に少なくとも3日間放置する第2の工程とを含むことを特徴とする空気入りタイヤの耐久試験方法である。
【0006】
ここで、空気(ガス)の酸素濃度は、下記式(1)によって計算される。
酸素濃度(%)=(Po/Pt)×100 …(1)
上記”Pt”は対象となる空気の全圧(Pa)であり、”Po”は前記全圧に対する酸素分圧(Pa)である。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記第2の工程において、前記タイヤ組立体は、前記高温高湿雰囲気中に3〜70日間放置される請求項1記載の空気入りタイヤの耐久試験方法である。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記第2の工程の後、前記空気入りタイヤに規格最大荷重の100%以上の負荷をかけて速度20km/h以上で走行させる耐久試験をさらに含む請求項1又は2に記載の空気入りタイヤの耐久試験方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、タイヤ組立体のタイヤ内腔に高酸素空気と水とが充填されるとともに、該組立体は、高温高湿雰囲気中に少なくとも3日間放置される。このため、タイヤを、短期間で内側及び外側から十分に劣化させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
本発明のタイヤの試験方法は、酸素及び水を用いて空気入りタイヤの劣化を促進させる劣化促進工程を含む。この劣化促進工程を行うことにより、実際に長い時間をかけて空気入りタイヤを走行させて経時劣化させなくとも、それに近い劣化が生じた空気入りタイヤを比較的短時間で得ることができる。そして、劣化させられた空気入りタイヤについて、耐久性試験が行われる。これにより、経時劣化後のタイヤ耐久性能を能率良く短時間で解析することができる。
【0011】
また、本発明では、前記劣化促進工程は、第1の工程及び第2の工程を含む。
【0012】
前記第1の工程では、図1に示されるように、該空気入りタイヤ1とリム2とが囲むタイヤ内腔iに、酸素濃度が30%以上である高酸素空気と、10〜3000ccの水とが充填されたタイヤ組立体3が準備される。
【0013】
前記空気入りタイヤ1は、トレッド部1aと、その両側からタイヤ半径方向内方にのびるサイドウォール部1b、1bと、該サイドウォール部1bの内方端に設けられかつリム3に装着されるビード部1cとを有し、本実施形態ではトラック、バス用のラジアルタイヤが例示される。
【0014】
また空気入りタイヤ1には、トロイド状のカーカス4と、該カーカス4のタイヤ半径方向外側かつトレッド部1aの内部に配されたベルト層5とが設けられる。前記カーカス4は、本実施形態では、1枚のカーカスプライ4Aから構成される。該カーカスプライ4Aは、例えば有機繊維コード又はスチールコードからなり、ビード部1c、1c間をトロイド状にのびる本体部4aと、該本体部4aの両端部に連なりかつ前記ビードコア1dの回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部4bとを有する。また、本実施形態のベルト層5は、金属コードからなる複数枚のベルトプライ5A〜5Dが重ね合わされて構成される。
【0015】
前記リム2は、本実施形態では正規リムであり、かつ、タイヤ内腔に充填される空気圧は正規内圧に設定されるのが望ましい。これは、実際にタイヤが使用される環境により近い状態で、前記空気入りタイヤ1の劣化を行うのに役立つ。本明細書において前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"とする。また「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" であるが、タイヤが乗用車用である場合は一律に200KPaとする。
【0016】
タイヤ内腔iに充填される高酸素空気及び水は、空気入りタイヤ1を内側から劣化させる。このため、前記酸素濃度が30%未満の場合、空気入りタイヤ1の内側からの劣化を短期間で促進させることができない。また、前記高酸素空気は、その酸素濃度は30%以上であれば特に限定はされないが、該濃度を大とすることにより、酸素をタイヤ1の内部により迅速に拡散させ、劣化促進工程時間を削減できる。このような観点より、前記高酸素空気の酸素濃度は、好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上が望ましい。他方、高酸素空気の酸素濃度が高すぎても、その維持や調整が困難になるため、前記酸素濃度は、例えば95%以下、より好ましくは90%以下が望ましい。このような高酸素空気は、例えば図2に示されるように、例えば所定の空気ボンベ6からタイヤバルブ7を介してタイヤ内腔iに充填される。
【0017】
また、タイヤ内腔iには、10〜3000ccの水が充填される。タイヤ内腔iに空気中の水分を超える量の水を含ませることによって、タイヤの内部構造材、とりわけベルトプライ5A、5B等の金属コードの腐食を促進させ、より短期間でタイヤの劣化を再現できる。ここで、タイヤ内腔に注入される水が10cc未満の場合と、前記金属コード等の腐食促進効果が十分に得られない傾向があり、逆に3000ccを超えると、タイヤから漏らさずにリム組みするのが困難な傾向がある。このような観点より、タイヤ内腔iに充填される水の量は、特に好ましくは50cc以上、より好ましくは100cc以上、さらに好ましくは300cc以上が望ましく、また上限については、好ましくは2000cc以下、さらに好ましくは1000cc以下が望ましい。
【0018】
なお、前記水は純水でも良いし、例えば食塩水などが用いられても良い。食塩水を用いた場合、タイヤの内部の金属コードの腐食をより一層促進させることができる。食塩水の塩分濃度は特に定めないが、好ましくは5〜20%程度が望ましい。また、前記水は、リム組み前に、空気入りタイヤ1の内腔面に予め注入しておくことができる。
【0019】
また第2の工程では、第1の工程で準備されたタイヤ組立体3を、温度50〜100℃及び湿度70〜100%の高温高湿雰囲気中に少なくとも3日間放置することにより行われる。該第2の工程は、温度及び湿度管理が可能なスチームオーブン室などで行われるのが望ましい。これにより、高温高湿雰囲気下の温度及び湿度を自在にコントロールすることができる。
【0020】
発明者らは、図1に示したような空気入りタイヤ1を例えばドラム試験器を用いて耐久テストを行うと、新品時と、経時劣化時とでは異なる結果が得られることを知見した。
【0021】
先ず、新品タイヤについて耐久テストを行うと、タイヤに最初に生じる損傷は、カーカスプライ4Aの折返し部4bの端部を起点とした剥離又はトレッドゴム8とベルト層5との間の界面剥離が殆どである。これに対し、実際に経時劣化したタイヤについて耐久テストを行うと、ビード部ではなくトレッド部に損傷が集中する。また、その内訳は、概ね以下のイないしハの損傷に大別される。
イ)カーカス4のサイドウォール1bでの損傷
ロ)ベルトプライ5A、5B間の界面剥離
ハ)カーカス4とベルト層5との間の界面剥離
【0022】
従って、劣化促進工程によりタイヤの経時劣化を精度良く再現するためには、前記イ〜ハの界面における接着強度を短期間に低下させることが必要になる。発明者らは、条件を種々異ならせて劣化促進工程を行った。その結果、空気入りタイヤ1の内部に高酸素空気及び水を充填したタイヤ組立体は、高湿雰囲気下に放置されることによって、前記イ〜ハの損傷を短期間で再現しうることをを見出した。
【0023】
即ち、例えば雰囲気温度を50〜100℃の高温に維持した場合でも、その湿度が70%未満の場合には、前記イないしハの損傷が空気入りタイヤ1に十分に再現できない。しかし、前記湿度を70%以上とすることにより、空気入りタイヤ1をその外部から劣化させ、とりわけトレッド部1aないしサイドウォール部1bの内部に配された金属コードの腐食乃至劣化を効率的に促進させ得る。特に、前記湿度が高いほどタイヤ1がより効率的に劣化されるため、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の湿度が特に望ましい。
【0024】
また、タイヤ組立体1が放置される雰囲気の前記温度が50℃未満の場合、空気入りタイヤ1を短期間で劣化させることができない。特に好ましくは前記高温高湿雰囲気下の温度は、とりわけ60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上が特に望ましい。なお前記温度が100℃を超えると、空気入りタイヤ1のゴム層(トレッドゴム8、サイドウォール部1b)において、ゴム焼け等が生じる。従って、次のテストを行うことができない。
【0025】
前記タイヤ組立体3は、高温高湿雰囲気中に少なくとも3日間放置されるが、好ましくは7日以上、より好ましくは10日以上、さらに好ましくは20日以上が望ましい。前記放置時間が3日(即ち、72時間)未満の場合、タイヤ1の劣化が不十分となる。逆に前記放置期間が長すぎても、タイヤの試験効率が低下するため、好ましくは70日以内、より好ましくは60日以内、さらに好ましくは50日以内が望ましい。
【0026】
そして、上述のような第1及び第2の工程を経て空気入りタイヤ1の劣化を促進させることにより、実際の経年劣化と非常に相関性の良い劣化状態が短時間で得られる。
【0027】
本実施形態において、前記第2の工程を終えると、例えばドラム試験器などを用いて空気入りタイヤ1の耐久試験が行われる。空気入りタイヤ1には、実際の経年劣化に近似した劣化ないし老化が生じている。従って、かかる空気入りタイヤ1を用いて耐久試験を行うことによって、経年劣化後の性能を精度良く、かつ、実際にタイヤを経年劣化させることなく評価できる。従って、短期間での評価が可能となる。耐久テストとしては、特に限定はされないが、例えばJIS−D4230の高速耐久性試験方法などを挙げることができる。
【0028】
なお、空気入りタイヤ1としては、例えば上述のカテゴリーのタイヤに限定されるものではなく、乗用車用、トラック用又は自動二輪車用など種々のカテゴリーのタイヤを含ませることができる。また、本発明は、トレッド部に、金属コードからなるベルト層又はブレーカ層を具える空気入りタイヤに特に効果を発揮しうる。
【実施例】
【0029】
本発明の効果を確認するために、表1の仕様に基づいて、それぞれ20本づつ空気入りタイヤの劣化促進工程を行った。タイヤは、図1に示したトラック、バス用の空気入りラジアルタイヤ(サイズ:11R22.5)であり、金属コードからなるベルトプライ及びカーカスプライを具えている。また、リムは22.5×8.25とし、内圧は800kPaである。
【0030】
また実際の経年劣化したタイヤとして、約1年間走行し、トレッド溝が完全摩耗した同じタイヤを用意した。そして、各タイヤ10本づつを解体し、トレッドゴムとベルト層との間の界面(以下、「界面1」という。)、ベルトプライ間の界面(以下、「界面2」という。)及びベルト層とカーカスとの間の界面(以下、「界面3」という。)について、それぞれそれぞれ接着力を測定し、その平均値を示した。該接着力は、引っ張り試験機によって剥離巾25mmの条件で測定された。
【0031】
また残りの10本については、JIS−D4230の高速耐久性試験方法を行い、タイヤに生じた最初の損傷発生部位を調べた。
テスト結果などを表1に示す。
【0032】
【表1】


【0033】
テストの結果、実施例のタイヤは、実際の経年劣化したタイヤと同様、界面2ないし3に損傷が集中しており、かつ、界面での接着力も非常に相関が強いことが確認できたた。他方、比較例のタイヤでは、損傷形態がいずれも新品時のタイヤのそれと近似しており、十分な経時劣化が再現されていないことが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態の第1の工程を説明する略図である。
【図2】空気入りタイヤの断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 空気入りタイヤ
2 リム
3 タイヤ組立体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの劣化を促進させる劣化促進工程を含む空気入りタイヤの耐久試験方法であって、
前記劣化促進工程は、空気入りタイヤとリムとが囲むタイヤ内腔に、酸素濃度が30%以上である高酸素空気と、10〜3000ccの水とが充填されたタイヤ組立体を準備する第1の工程と、
前記タイヤ組立体を、温度50〜100℃及び湿度70〜100%の高温高湿雰囲気中に少なくとも3日間放置する第2の工程とを含むことを特徴とする空気入りタイヤの耐久試験方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記タイヤ組立体は、前記高温高湿雰囲気中に3〜70日間放置される請求項1記載の空気入りタイヤの耐久試験方法。
【請求項3】
前記第2の工程の後、前記空気入りタイヤに規格最大荷重の100%以上の負荷をかけて速度20km/h以上で走行させる耐久試験をさらに含む請求項1又は2に記載の空気入りタイヤの耐久試験方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−337100(P2006−337100A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159876(P2005−159876)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】