説明

タイヤインナーライナー用ゴム組成物

【課題】タイヤの空気透過防止層として設けられるインナーライナーの耐圧縮永久歪み性と耐クラック性とを高いレベルで両立するタイヤインナーライナー用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ハロゲン化ブチルゴム50重量%以上を含むジエン系ゴム100重量部に対し、複合亜鉛華を酸化亜鉛当量として0.5〜3重量部、硫黄を0.1〜0.9重量部配合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤインナーライナー用ゴム組成物に関し、さらに詳しくは、タイヤの空気透過防止層として設けられるインナーライナーの耐圧縮永久歪み性と耐クラック性とを高いレベルで両立するようにしたタイヤインナーライナー用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チューブレス空気入りタイヤの内面には、空気透過防止性能に優れたブチル系ゴムを主成分とするゴム組成物がインナーライナーとして設けられている。この空気入りタイヤの使用初期においては、図1(A)に示すように、カーカス層2の内周側に積層されたインナーライナー1は均一な厚みを有している。しかし、使用が長期になると、内圧の作用と走行に伴う発熱によりインナーライナー1は、図1(B)に示すように、カーカス層2の被覆ゴム3の変形に伴って、圧縮による永久変形歪みを起こし、ゲージの薄い部分ができる場合がある。特に、タイヤ空気圧が高く、荷重負荷の大きい重荷重用タイヤにおいて、この問題が顕著に起きる。このようにインナーライナーにゲージの薄い永久変形部分が生ずると、空気の透過性はゲージに反比例するため、薄い部分から空気が内部のカーカス層やベルト層などに浸透し、酸化劣化が促進されてタイヤ破壊に至るという問題が生じてしまう。
【0003】
一方、インナーライナーに使用するゴム組成物には、硫黄のほか加硫促進助剤として亜鉛華が配合されている。しかし、昨今の環境保護の対策から金属亜鉛の使用が抑制され、酸化亜鉛(亜鉛華)もその使用量削減が求められている。しかし、インナーライナー用ゴム組成物において亜鉛華を減量した場合、インナーライナーの圧縮永久歪みが増大するという問題があった。
【0004】
従来、亜鉛華の代替材料として複合亜鉛華が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、複合亜鉛華の配合は圧縮永久歪みの抑制には寄与するが、その使用の仕方によってはインナーライナーにクラックを発生しやすくなることがあるため、その解決が課題になっていた。
【特許文献1】特開2001−316527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、タイヤの空気透過防止層として設けられるインナーライナーの耐圧縮永久歪み性と耐クラック性とを高いレベルで両立するタイヤインナーライナー用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴム50重量%以上を含むジエン系ゴム100重量部に対し、複合亜鉛華を酸化亜鉛当量として0.5〜3重量部、硫黄を0.1〜0.9重量部配合することを特徴とする。
【0007】
このタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、重荷重用空気入りタイヤのインナーライナーを形成するのに好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴム50重量%以上を含むジエン系ゴム100重量部に対し、複合亜鉛華を酸化亜鉛当量として0.5〜3重量部を配合したので、金属亜鉛含有量を削減しながら圧縮永久歪みの増大を抑制可能にする。また、複合亜鉛華を酸化亜鉛当量として3重量部以下にし、かつ硫黄の配合を0.9重量部以下にしたので耐クラック性を向上し、耐圧縮永久歪み性と耐クラック性とを高いレベルで両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物のベースゴムは、ハロゲン化ブチルゴム50重量%以上を含むジエン系ゴムである。ハロゲン化ブチルゴムは、ブチルゴムを臭素や塩素などでハロゲン化したもので、空気透過係数が極小である特性を有する。ジエン系ゴムのうち、ハロゲン化ブチルゴムの含有量は50重量%以上であり、好ましくは75〜100重量%である。ハロゲン化ブチルゴムが50重量%未満の場合には、空気透過防止性能が十分に得られないことがある。
【0010】
ハロゲン化ブチルゴム以外のジエン系ゴムは、インナーライナー用ゴムに配合可能なゴムであればよく、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、単独又は複数の種類を配合することができる。
【0011】
タイヤインナーライナー用ゴム組成物は、亜鉛華の代わりに複合亜鉛華を使用することにより、金属亜鉛の含有量を実質的に削減しながら、加硫促進助剤としての機能を確保することができる。複合亜鉛華は、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの有機金属塩の微粒子の表面に酸化亜鉛を被覆した複合粒子であり、特に炭酸カルシウム粒子の表面に酸化亜鉛を複合化したものが好ましい。
【0012】
複合亜鉛華における酸化亜鉛の含有量は、特に制限されるものではないが、好ましくは20〜60重量%、より好ましくは30〜50重量%であるとよい。酸化亜鉛の含有量が60重量%を超えると炭酸カルシウム粒子の表面に複合化した酸化亜鉛の層の厚さが厚くなり加硫促進助剤として機能しない酸化亜鉛の割合が高くなり好ましくない。酸化亜鉛の含有量が20重量%未満では、加硫促進助剤としての機能を十分に確保できないことがあり好ましくない。
【0013】
複合亜鉛華の粒子径は、特に制限されるものではないが、好ましくは0.05〜1.0μm、より好ましくは0.1〜0.4μmにするとよい。粒子径を0.05μm未満にすると取扱い性が悪化し好ましくない。粒子径が1.0μmを超えると加硫が不均一になることがあり好ましくない。
【0014】
本発明において、亜鉛華の代わりに複合亜鉛華を使用して酸化亜鉛当量を削減することにより、同じ酸化亜鉛当量の亜鉛華を使用したときと比べ、圧縮永久歪みの増大を抑制することができる。これは、加硫促進助剤として有効に機能する酸化亜鉛の割合が、複合亜鉛華を使用した場合の方が通常の亜鉛華を使用した場合より高く、ゴム組成物の加硫が十分にかつ均質に進むためと考えられる。
【0015】
複合亜鉛華の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、酸化亜鉛当量として0.5〜3重量部、好ましくは1〜2重量部にするとよい。酸化亜鉛当量が0.5重量部未満の場合には、酸化亜鉛当量の削減に伴う圧縮永久歪みの増大を十分に抑制することができず、加硫も不十分になる。酸化亜鉛当量が3重量部を超えると、金属亜鉛の減量に繋がらないことに加え耐クラック性が悪化する。
【0016】
本発明において、硫黄の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、0.1〜0.9重量部であり、好ましくは0.3〜0.7重量部にするとよい。硫黄の配合量が0.1重量部未満であると、加硫が不十分になり、圧縮永久歪みが増大する。硫黄の配合量が0.9重量部を超えると、耐クラック性が悪化する。
【0017】
タイヤインナーライナー用ゴム組成物には、補強充填剤、無機充填剤、老化防止剤、可塑剤、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0018】
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は空気入りタイヤのインナーライナーに使用するのが好ましく、酸化亜鉛当量を削減しながら圧縮永久歪みの増大を抑制し耐クラック性にも優れるため、長期使用時においても高レベルの空気透過防止性能を確保しタイヤ内部部材の酸化劣化を防止可能にする。特に重荷重用空気入りタイヤのインナーライナーに使用した場合、特にその効果が顕著であり、本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物からなるインナーライナーを備えた重荷重用空気入りタイヤは、耐圧縮永久歪み性及び耐クラック性を高いレベルでバランスし耐久性に優れる。
【0019】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
表1,2に示す配合からなる9種類のゴム組成物(実施例1〜3、比較例1〜6)を、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く成分を秤量し、1.8Lの密閉型ミキサーで3〜5分間混練し、放出したマスターバッチに、硫黄及び加硫促進剤を加えて8インチのオープンロールで混練して各ゴム組成物を得た。得られた9種類のゴム組成物(実施例1〜3、比較例1〜6)を、圧縮永久歪み試験用及び屈曲き裂成長試験用(溝のある試験片)の所定形状の金型中で、150℃、60分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法により各試験を行った。
【0021】
圧縮永久歪み
得られたゴム組成物の試験片を用いて、JIS K6262に準拠して、試験片を圧縮する割合が25%であり、温度70℃、試験時間24時間の条件で圧縮永久歪みを測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数で表わし表1,2に示した。この指数が小さいほど圧縮永久歪みが小さく優れることを意味する。
【0022】
耐クラック性
JIS K6260に準拠して、得られたゴム組成物の試験片を温度100℃で192時間、ギヤオーブンで老化した後、切り込みを入れて、デマチャ屈曲試験機を用いて、温度25℃において、き裂成長試験を行い、10000回屈曲後のき裂(クラック)の長さ[mm]を測定した。得られたき裂成長長さを、耐クラック性として表1,2に示した。き裂成長長さが小さいほど耐クラック性に優れることを意味し、4mm以下であることが好ましい。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
Br−IIR:臭素化ブチルゴム、LANXESS社製BROMOBUTYL X2
カーボンブラック:三菱化学社製ダイアブラックG
複合亜鉛華:米庄石灰工業社製マルチTZ(酸化亜鉛の含有量40重量%)
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
炭酸カルシウム:丸尾カルシウム社製MSK−V
ステアリン酸:日本油脂社製ビーズステアリン酸 桐
パラフィンオイル:昭和シェル石油社製プロセスオイル123
加硫促進剤:大内新興化学工業社製サンセラーDM−PO
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(A)(B)はカーカス層に積層したインナーライナーの断面の模式的な説明図であり、(A)は初期状態の断面図、(B)は走行後の状態の断面図を示す。
【符号の説明】
【0027】
1 インナーライナー
2 カーカス層
3 被覆ゴム
4 カーカスコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ブチルゴム50重量%以上を含むジエン系ゴム100重量部に対し、複合亜鉛華を酸化亜鉛当量として0.5〜3重量部、硫黄を0.1〜0.9重量部配合したタイヤインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤインナーライナー用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する重荷重用空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−132839(P2009−132839A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311400(P2007−311400)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】