説明

タイヤコード及びそれを用いてなるタイヤ

【課題】優れたユニフォーミティー、走行安定性、耐久性を発揮するとともに、転がり抵抗を低減するタイヤに適したポリエステルタイヤコード、およびそれを用いてなる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維から構成されたタイヤコードで、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含み、該層状ナノ粒子は金属元素、特にZn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる1種以上の金属元素を含む化合物から構成されている。また、該層状ナノ粒子が金属−リン化合物であり、その該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体である。またタイヤコードに用いられるポリエステル繊維がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維から構成されたタイヤコードに関し、さらには優れた走行安定性や耐久性を有するタイヤ用のタイヤコード及びそれを用いてなるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車用ラジアルタイヤのカーカス材としてはポリエステル繊維からなるコードを使用することが主流となっている。これは、ポリエステル繊維が従来使用されてきたナイロン繊維、レーヨン繊維等と比較して強度、モジュラス、寸法安定性、などの特性バランスに優れることや、さらには低コスト材料であることが主な理由である(特許文献1等)。ポリエステル繊維の中でも、高速紡糸によって得られる寸法安定性とモジュラスに優れたいわゆるHMLS(High Modulus - Low Shrinkage)ポリエステル繊維が開発され、HMLSポリエステル繊維を乗用車用ラジアルタイヤのカーカス材として使用することにより、タイヤの操縦安定性の向上、ユニフォーミティーの向上が図られるようになってきている。
【0003】
一方、最近の自動車を取り巻く環境負荷低減、燃費向上ニーズの高まりから、上記の操縦安定性の向上、ユニフォーミティーの向上の目的に加え、タイヤにおける転がり抵抗低減や軽量化による低燃費化が図られるようになってきている。例えば、タイヤに使用されるゴム量を低減したり、タイヤ補強材の使用量を低減することによりタイヤの軽量化を図る手法が採用されている。しかしこの場合、タイヤを支える繊維を主体とするカーカス材のより一層の耐久性や寸法安定性の向上が求められている。さらにはカーカス材及びそれを構成する補強用繊維コード自体がタイヤ走行時に受ける繰返し応力、歪み入力に対して発熱し、転がり抵抗が上昇する一因となっていた。
【0004】
これに対し、例えば特許文献1では、ラジアルタイヤの操縦安定性、ユニフォーミティーを向上するポリエステル繊維コードとして、酸成分としてイソフタル酸を0〜10mol%、アルコール成分としてブチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールを0〜10mol%、それぞれの和が1〜10mol%となるように共重合したポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル繊維コードが開示されている。この方法によれば、ポリエステルを共重合することによって原糸を低収縮化することはできるものの、共重合化によって繊維の結晶化度が低下し繊維中の非晶領域が大きくなってしまうため、高温雰囲気下に曝される加硫成型時やタイヤ走行時における耐熱性、耐久性は低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−241281号公報
【特許文献2】特開2000−96370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れたユニフォーミティー、走行安定性、耐久性を発揮するとともに、転がり抵抗を低減するタイヤに適したポリエステルタイヤコード、およびそれを用いてなる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイヤコードは、ポリエステル繊維を含む繊維から構成されたタイヤコードであって、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0008】
さらには、該層状ナノ粒子が金属元素を主要構成成分とし、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であること、特には該層状ナノ粒子が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることが好ましい。また、該層状ナノ粒子が金属−リン化合物であることや、その該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましく、該ポリエステル繊維中の金属およびリンの含有量が下記数式(I)及び数式(II)を満たしていることが好ましい。
10≦M≦1000 数式(I)
0.8≦P/M≦2.0 数式(II)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【0009】
このような本発明のタイヤコードに用いられるポリエステル繊維を構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましい。また、該ポリエステル繊維の赤道方向の広角X線回折(XRD回折)回折において、2θ(シータ)=2〜7°に回折ピークを有するものであることが好ましい。
【0010】
もう一つの本発明の空気入りタイヤは、上記のいずれかのタイヤコードを用いてなる空気入りタイヤである。さらには、該タイヤコードが、空気入りタイヤのトレッドの内部に配置したベルトおよびカーカスプライの少なくとも一方に用いられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたユニフォーミティー、走行安定性、耐久性を発揮するとともに、転がり抵抗を低減するタイヤに適したポリエステルタイヤコード、およびそれを用いてなる空気入りタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のタイヤコードを構成するポリエステル繊維(実施例1)の透過型電子顕微鏡写真(TEM)である。なお、図中の矢印は繊維軸方向を示したものである。
【図2】本発明のタイヤコードを構成するポリエステル繊維(実施例1、比較例1)の広角X線回折スペクトルである。縦軸は回折強度、横軸は角度2θ(°)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤコードは、ポリエステル繊維を含む繊維から構成されたタイヤコードであるが、使用されるそのポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを必須とするものである。
【0014】
ここで本発明に使用されるポリエステル繊維を構成するポリエステルポリマーとしては、産業資材等、特にゴム補強用繊維として優れた特性を有する汎用的なポリエステルポリマーが用いられる。中でもポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましく、とりわけ物性に優れ、大量生産に適したポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。ポリエステルの主たる繰返し単位としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0015】
そして本発明に使用されるポリエステル繊維は上記のようなポリエステルからなる繊維であって、かつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを必須とする。さらには層状ナノ粒子が金属含有層状ナノ粒子であることが好ましく、特には二価金属とリン化合物からなる層状ナノ粒子であることが最も好ましい。通常ポリエステル繊維は、そのエステル交換触媒・重縮合触媒として用いられた球状の触媒含有粒子を含むことが多いが、本発明で使用されるポリエステル繊維に含有される触媒含有粒子の形状が、層状ナノ粒子であることにその最大の特徴がある。この本発明の作用機構は定かではないが、ポリマー中の粒子形状が層状構造をとることにより、球状粒子に比べてその表面積が大きくなり表面エネルギー活性も高く、結晶核剤としての作用を促進させるためであると考えられる。そしてこの触媒含有の微粒子が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmとの微小構造をとることによりさらにポリマーの結晶性が向上し、結晶構造の均一化や微分散化が促進され、分子配向を適切に抑制するため、繊維の物性が著しく向上するとともに優れた耐久性、寸法安定性を発揮するものであると考えられる。
【0016】
この層状ナノ粒子の一辺の長さとしてはさらには6〜80nmであることが好ましく、10〜60nmであることがさらに好ましい。このような本発明に適用されるポリエステル繊維中の層状ナノ粒子は透過型電子顕微鏡(TEM)により確認することができる。層状ナノ粒子の大きさが100nmより大きいと繊維中で異物として作用し断糸や単糸切れが発生しやすく、強度やモジュラス等の機械特性やタイヤの耐久性などの低下を引き起こしてしまう。一方、粒子が小さすぎる場合には、ポリマーの結晶性向上や製糸性向上などの効果が得られにくく、得られる繊維の物性が低下するばかりでなく、タイヤの耐久性やユニフォーミティーも低下する。
【0017】
また層状ナノ粒子の各層の層間間隔としては1〜5nm、さらには1.5〜3nmであることが好ましい。層状ナノ粒子の一辺の長さが長すぎると微小構造とならずに欠点が目立つようになる。また一辺の長さが小さすぎると層状構造をとりにくくなる。一方、この層状ナノ粒子の層間間隔としては主に金属元素から成る層と、それ以外の元素である炭素、リン、酸素などの元素からなる層の間隔であり通常1〜5nm、さらに多くは1.5〜3nmの範囲をとることが好ましい。また層状構造とは、各層が少なくとも3層以上、好ましくは5〜100層並行して並んでいる状態である。またその各層の間隔は、各層の配列のほぼ直角方向に、各層の長さの1/5以下の間隔にて並んでいる状態であることが好ましい。
【0018】
本発明に使用されるポリエステル繊維はこのような層状ナノ粒子を含むことを必須とするが、好ましくは触媒含有粒子の50%以上が層状構造をとることが好ましく、さらには70%以上が、最も好ましくは全ての触媒含有粒子が層状構造であることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明に使用されるポリエステル繊維は、繊維の赤道方向の広角X線回折(XRD回折)において、2θ(シータ)=2〜7°に回折ピークを有することが好ましい。この数値は、nmオーダーの層間間隔を有する層状ナノ粒子が繊維軸方向に規則正しく配向していることを示すものである。このように層状ナノ粒子が繊維軸方向に特異的に配向することによって、本発明に使用されるポリエステル繊維は、さらにポリエステル製糸工程での断糸が極めて低くなり、得られたポリエステル繊維に欠点が少ないものとなった。そしてその物性が極めて高いレベルであるゆえに、耐久性、寸法安定性に優れたタイヤコードが得られ、それを用いた特に空気入りタイヤの耐久性、ユニフォーミティーが向上し、さらに転がり抵抗の低減をすることが可能となったのである。
【0020】
また、本発明の層状ナノ粒子中に含まれる金属元素としては、二価金属であることが好ましい。さらには金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。さらには層状ナノ粒子としては、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることが好ましい。このような金属元素は、本願の微小な層状ナノ粒子を構成しやすいとともに、触媒活性が高く好ましい。
【0021】
さらに本発明のポリエステル繊維中に存在する層状ナノ粒子は、金属及びリン化合物から構成されていることが好ましい。そしてリン化合物としては、下記一般式(化I)で表されるリン化合物由来であることが好ましい。
【0022】
【化1】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0023】
ちなみに式中で用いられているArは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を挙げることができる。さらにはRの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときRの置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましく、例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものを挙げることがきる。また上記(化I)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。中でもアリール基を有するリン化合物を添加すると、高い結晶性向上効果が現れる傾向にあり、好ましい。
【0024】
特にリン化合物としては、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸およびそれら誘導体であることが最適であり、中でも下記式で表されるフェニルホスホン酸およびその誘導体は使用量も少なくて済むため有効である。また、得られるポリエステルの色相・溶融安定性、製糸性、高い層状ナノ粒子の形成能などの好ましい物性面、ポリエステル製造工程での副生成物が発生しない面、作業性の面からもフェニルホスホン酸であることが最も好ましい。
【0025】
【化2】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0026】
このような水酸基を有するリン化合物は、沸点が高く、真空下で飛散しにくいため特に好ましい。飛散した場合には、添加したリン化合物がポリエステル中に残存する量が減り効果が得られない傾向となる。飛散性が高い場合には、真空系の閉塞が発生しやすく、高温で溶融・吐出される紡糸工程において、ポリマーから遊離・溶出する現象が発生し、口金に固着した異物を形成しやすい欠点があり、長期間での製糸の安定性を悪化させる原因となり、好ましくない。また、水酸基を有す場合には、リンに直接結合するため、エステル交換触媒・重合触媒などの金属化合物を失活する能力が高く、得られるポリマーの溶融安定性・色相の安定化に資する。
【0027】
本発明のコード中に存在する金属含有の層状ナノ粒子は金属成分とリン成分からなることが好ましいが、この場合本発明に用いられているポリエステル中の金属およびリンの含有量としては、下記の数式(I)式及び数式(II)式を満たしていることが好ましい。
10≦M≦1000 数式(I)
0.8≦P/M≦2.0 数式(II)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【0028】
金属含有量が少なすぎると、結晶核剤として機能する層状ナノ粒子の量が不十分であり、タイヤコードならびにそれを用いてなる空気入りタイヤの物性向上の効果が得られにくい傾向にある。逆に多すぎると異物として繊維中に残存し物性を低下させ、ポリマーの熱劣化が激しくなるなどの傾向にある。また式(II)で示されるP/M比が小さすぎる場合には、金属化合物濃度Mが過剰となり、過剰金属原子成分がポリエステルの熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/M比が大きすぎる場合には、逆にリン化合物が過剰となり、過剰なリン化合物成分がポリエステルの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
【0029】
本発明のタイヤコードを構成するポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexであることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
【0030】
また180℃の乾熱収縮率は、1〜15%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
【0031】
タイヤコードを構成するポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、工業生産性、製糸性の観点からは0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特にゴム補強用繊維の一種であるタイヤコードとしては、強力、耐熱性や接着性の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが特に好ましい。
【0032】
タイヤコードの総繊度に関しても特に制限は無いが、500〜5,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。
【0033】
本発明のタイヤコードは上記のような特徴を有するものであるが、特に本発明で用いられる層状ナノ粒子を含むポリエステル繊維は、より具体的には例えば下記のような製造方法にて得ることができる。
【0034】
まず、ポリエステル繊維を構成するポリエステルポリマーは、例えばテレフタル酸あるいはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエステルの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエステルが合成される。
適当な第3成分としては、1個及び2個のエステル形成官能基を有する化合物が挙げられ、3個の場合も重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
【0035】
また、前記ポリエステル中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていても良いことはいうまでもない。
【0036】
より具体的にこのようなポリエステルポリマーの製造方法を述べると、従来公知のポリエステルポリマーの製造方法を挙げることができる。すなわち、酸成分として、テレフタル酸ジメチル(DMT)あるいはナフタレン−2,6―ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表されるジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。あるいは、酸成分としてテレフタル酸(TA)あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
【0037】
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、上記の層状ナノ粒子を構成する金属を用いることが効率的であるが、それ以外の金属を用いてもよく、中でも、ポリエステルの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト化合物が好ましく、さらにマンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0038】
重合触媒については、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム化合物が好ましい。中でも、ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
【0039】
なお、テレフタル酸のごとき芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールのごときグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法においては、上記のようなエステル交換触媒やその直接エステル化反応の際の触媒は一般には不要である。しかし本発明では、あえて層状ナノ粒子を形成しうる金属成分を含有せしめることが必要となる。金属成分の含有量としては、ポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%の範囲内であることが好ましい。
【0040】
また、層状ナノ粒子を生成するためにはこれら金属成分が存在するポリエステル中にリン化合物を添加することが好ましい。このリン化合物の添加時期は、特に限定されるものではなく、ポリエステル製造の任意の工程において添加することができる。好ましくは、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重合終了する間であり、より好ましくはエステル交換反応又はエステル化反応の終了した時点から重合反応の終了時点の間である。
【0041】
あるいは、ポリエステルの重合後に、混練機を用いて、リン化合物を練り込む方法を採用することもできる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、さらに好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのリン化合物、ポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えばリン化合物、ポリエステルを別々に混練機に供給する方法、高濃度のリン化合物を含有するマスターチップとポリエステルを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。
【0042】
このように重合された、ポリエステルのポリマーは、紡糸直前の樹脂チップの極限粘度としては、公知の溶融重合や固相重合を行うことによって、ポリエチレンテレフタレートでは0.80〜1.20、ポリエチレンナフタレートでは0.65〜1.2の範囲とすることが好ましい。樹脂チップの極限粘度が低すぎる場合には溶融紡糸後の繊維を高強度化させることが困難となる。また極限粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点等からも好ましくない。極限粘度としては、さらにはそれぞれ0.9〜1.1、0.7〜1.0の範囲内であることが好ましい。
【0043】
本発明のタイヤコードに用いるポリエステル繊維を製造するためには、このようにして得られたポリエステルポリマーを溶融紡糸することによって得ることができる。より具体的には得られたポリエステルポリマーを285〜335℃の温度にて溶融し、紡糸口金としてはキャピラリーを具備したものを用いて紡糸することができる。また、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過することが好ましい。加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。
【0044】
加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。次いで、冷却された糸状については、油剤を付与することが好ましい。
【0045】
また、このようにして溶融ポリマー組成物を紡糸口金から吐出し成形する場合、紡糸速度としては300〜6000m/分であることが好ましい。さらには紡糸後さらに延伸する方法が、高効率の生産が行える点から好ましい。
【0046】
特にこのようなポリエステル繊維は、高速にて紡糸することが好ましく、紡糸速度としては1500〜5500m/分であることが好ましい。この場合、延伸前に得られる繊維は部分配向糸となる。通常はこのように高速にて紡糸して繊維を高度に配向結晶化させた場合、紡糸段階で断糸することが多かった。しかし上記の層状ナノ粒子をポリマー中に分散形成し含有せしめる本発明では断糸は少ない。配向結晶化が均一に進み紡糸欠点を低減することができたものと推定される。そしてこのように製糸性が大幅に向上した結果として、結果的に本発明では、タイヤコードおよびそれを用いてなる空気入りタイヤとして特筆すべき優れた機械特性や耐久性、寸法安定性などを発揮することとなったのである。
【0047】
また紡糸された繊維を延伸する条件としては、紡糸後に1.5〜10倍に延伸することが好ましい。このように紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能である。従来は例え低倍率で紡糸したとしても延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、断糸が起こることが多かったのである。しかし本発明では層状ナノ化合物の存在により延伸による結晶化において微細結晶が均一に形成されるため、延伸欠点が発生しにくく、高倍率に延伸でき、繊維を高強度化することが可能となったものである。
【0048】
このようなポリエステル繊維を得るための延伸方法としては、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよく、あるいは引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸しても構わない。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
【0049】
延伸時の予熱温度としては、ポリエステル未延伸糸のガラス転移点の20℃低い温度以上、結晶化開始温度の20℃以上低い温度以下で行うことが好ましい。延伸倍率は紡糸速度に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率60〜95%となる延伸倍率で延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃から繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには延神時の熱セット温度が170〜270℃の範囲であることが好ましい。
【0050】
このような製造方法においては、ポリエステルポリマーが本発明特有の層状ナノ粒子を含有することにより、ポリマー組成物の結晶性が向上し、溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成することとなる。そしてこの微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させるため、各工程での断糸率を大幅に低下させ、結果として得られる繊維の物性が向上したのであると考えられる。
【0051】
このようなポリエステル繊維は、繊維の極限粘度IVの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い上、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維であるにもかかわらず毛羽欠点が少なく、製糸性や後工程通過性も良好となる。
【0052】
この本発明の層状ナノ粒子の効果を発揮するメカニズムは必ずしも明確ではないが、微小な層状ナノ粒子を含有し、この微粒子が分散することにより、ポリエステルポリマーが補強され、あるいは欠点への応力の集中を抑制し、繊維の構造的欠陥が低減したためであると考えられる。また、本発明のコードを構成するポリエステル繊維では、層状ナノ粒子が繊維軸に平行に特異的に配向していることが好ましいが、それによりポリマー分子が規則的に配向し、破断紡速の向上、毛羽欠点の低減、製糸性の向上、物性バラツキの減少などの効果を発揮しているものと考えられる。
【0053】
本発明のタイヤコードは、上記のような製造方法などにより得られたポリエステル繊維を含む繊維から構成されたタイヤコードである。
そして本発明のタイヤコードは、ポリエステル繊維をマルチフィラメントとした紡糸し、それに撚りを掛けコードの形態としたものであることが好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上するのである。紡糸されたポリエステル繊維に対する撚り数としては200〜800回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましい。合糸する前のポリエステル繊維糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
【0054】
本発明のタイヤコードは、このようなコードをすだれ織物としてタイヤに用いることも好ましい。この場合、下撚および上撚を施したポリエステル繊維から成るコードを経糸として1000本〜1500本並べ、これらの経糸がばらけないように緯糸で製織することにより該すだれ織物を得ることができる。また、該すだれ織物の好ましい幅は140〜160cmで、長さは800〜2500mであり、緯糸は2.0〜5.0本/5cm間隔で打ち込まれていることが好ましい。
【0055】
すだれを製織する際に使用される緯糸としては、綿やレーヨン等の紡績糸あるいは合成繊維糸条など、従来公知の糸条が例示され、中でも、ポリエステル繊維と綿との精紡交撚糸が好ましい。
【0056】
そして上記のようなポリエステルコードあるいはそれからなるすだれ織物には、タイヤを構成するゴムとポリエステルコードとの接着のために接着剤を付与することが好ましい。付与される接着剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ハロゲン化フェノール化合物及びレゾシンポリサルファイド化合物などを含む接着剤を挙げることができる。特に好ましくは、より具体的には、第1処理液としてエポキシ化合物、ブロックイソシアネ−ト、ラテックスの混合液を付与し、熱処理後に第2処理液としてレゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物およびゴムラテックスからなる液(RFL液)を付与し、さらに熱処理するものであることが好ましい。例えば、接着剤が付与されたポリエステルコードあるいはすだれ織物は、80〜180℃で30〜150秒にて乾燥した後、200〜250℃で30〜150秒、好ましくは210〜240℃で緊張あるいは弛緩熱処理を行う。この際、2%〜10%の延伸が施され、好ましくは3%〜9%の延伸が施されることが好ましい。
【0057】
このようにして得られたポリエステル繊維からなるタイヤコードあるいはすだれ織物を用いてもう一つの本発明である空気入りタイヤを得ることができる。例えば該タイヤコードが、空気入りタイヤのトレッドの内部に配置したベルトおよびカーカスプライの少なくとも一方に用いた空気入りタイヤである。このようなタイヤは公知の方法により製造することができ、トレッド部の内側に、本発明のタイヤコードからなるベルトまたは/およびカーカスプライを配置することにより、有効に繊維に補強されたタイヤとなるのである。
【0058】
このような本発明のタイヤは、優れたユニフォーミティー、走行安定性、耐久性を発揮するものとなる。また、軽量で転がり抵抗が小さく、操縦安定性に優れた高性能な空気入りタイヤとなる。
【実施例】
【0059】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0060】
(ア)固有粘度:
ポリエステルチップ、ポリエステル繊維を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。IVと表記した。
【0061】
(イ)リン、各金属原子の含有量測定
リンおよびアンチモン、マンガンなどの各元素の含有量は、蛍光X線装置(リガク社 3270E型)を用いて測定し、定量分析を行った。そしてこの蛍光X線測定の際には、チップ・繊維状のポリエステル樹脂ポリマーについては、圧縮プレス機でサンプルを2分間260℃に加熱しながら、7MPaの加圧条件下で平坦面を有する試験成形体を作成し、測定を実施した。
【0062】
(ウ)X線回折
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。なお、層状ナノ粒子の層間距離d(オングストローム)は、2θ(シータ)=2〜7°の赤道方向に現れる回折ピークから2θ(シータ)−d換算表を用いて算出した。
【0063】
(エ)層状ナノ粒子の解析
層状ナノ粒子の有無、構成元素の確認は、ポリエステル樹脂・繊維を、常法によって厚さ50〜100nmの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(FEI社製TECNAI G2)加速電圧120kVで観察し、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製 JEM−2010)加速電圧100kV・プローブ径10nmで元素分析を行った。得られた画像から粒子の1片の長さを求めた。
【0064】
(オ)繊維の強伸度、中間荷伸および150℃乾熱収縮率
JIS L−1013に従って測定した。なお、中間荷伸は強度4cN/dtex時の伸度を表した。
【0065】
(カ)コードの強伸度、中間荷伸および150℃乾熱収縮率
JIS−L1017に従って測定した。なお、中間荷伸は66N応力時の伸度を求めた。
【0066】
(キ)タイヤのユニフォーミティー
JASOC607(自動車用タイヤのユニフォーミティー試験方法)に準拠して、リム(16×6.5JJ)、内圧(200kPa)、荷重(5.50kN)の条件下における試験タイヤのRFV(ラテラルフォースバリエーション)を測定し、比較例1のタイヤを100とした場合の指数で相対評価した。数値が小さなほどユニフォーミティーに優れている。
【0067】
(ク)操縦安定性
試作タイヤを自動車に装着するとともに、180km/h以上の速度で周回コースを走行し、テストドライバー自身で外乱を与えた時の外乱の収れん度合をフィーリングにより評価し、比較例1のタイヤを100とした指数で相対評価した。指数が大きいほど良好である。
【0068】
(ケ)耐久性(ドラムテスト)
タイヤ内圧3.0kg/cm、荷重990kg、速度60km/hの条件で5万kmドラム走行させ、走行させる前と走行させた後のコードの強力保持率を求め比較した。数値が大きなほど高速耐久性に優れている。
【0069】
(コ)タイヤの転がり抵抗特性
リム(16×6.5JJ)、内圧(200kPa)、荷重(5.50kN)の条件下において、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて、23℃で80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。比較例1の値を100とした指数で相対評価した。指数が小さいほど転がり抵抗が小さく、従って燃費性に優れることを示す。
【0070】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(DMT対比30mmol%)を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、フェニルホスホン酸0.0522質量部(DMT対比33mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に三酸化アンチモン0.0964質量部(DMT対比33mmol%)を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。得られたポリエステルチップを透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの層状ナノ粒子を含有していた。結果を表1に示す。
得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下160℃にて3時間の乾燥、予備結晶化し、さらに230℃真空下にて固相重合反応を行い、極限粘度1.02のポリエチレンテレフタレート組成物チップを得た。
【0071】
これをポリマー溶融温度300℃にて口径直径1.2mm、384孔数の紡糸口金より紡出し、口金直下に具備した長さ200mmの300℃に加熱した円筒状加熱帯を通じ、次いで吹き出し距離500mmの円筒状チムニーより20℃、65%RHに調整した冷却風を紡出糸条に吹き付けて冷却し、さらに脂肪族エステル化合物を主体成分とする油剤を、繊維の油剤付着量が0.5%となるように油剤付与したのち、表面温度50℃のローラーにて2500m/minの速度で引き取った。紡糸した吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続いて60〜75℃の加熱延伸ローラー間で総延伸倍率2.0倍の多段延伸ののち、190℃で熱セットし巻取速度5000m/minで巻き取り繊度1670dtexのポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの平均11層の層状ナノ粒子を含有しており、一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。また、層状ナノ粒子は繊維軸に平行して配向していることが、透過型顕微鏡観察やX線回折から観察された。酢酸マンガン由来の金属含有量は30mmol%、フェニルホスホン酸由来のリン含有量は30mmol%、P/M比は1.0であった。得られた繊維物性を表1に併せて示す。
さらに得られたポリエステル繊維を、下撚数400回/mで撚糸し、次いで上撚数400回/mで2本撚り合せて1670T/2に撚糸してタイヤコードとした。該タイヤコードをそれぞれ1500本引揃えて経糸とし、これにポリエステル繊維と綿との精紡交撚糸からなる緯糸を4本/5cmの間隔で打ち込んで、タイヤコードから成るすだれ織物を得た。
【0072】
次いで、上記のすだれ織物を、エポキシ化合物、ブロックイソシアネ−ト化合物およびゴムラテックスからなる混合液(第1浴処理液)に浸漬した後、130℃で100秒間乾燥し、続いて240℃で45秒間延伸熱処理した。さらに、上記第1処理浴で処理したすだれ織物を、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)からなる第2処理液に浸漬した後、100℃で100秒間乾燥し、続いて240℃で60秒間延伸熱処理、リラックス熱処理を施した。
最後に、このすだれ織物をカーカス材として用いて、トレッドの内側には、2枚のスチールベルトを配置して補強し、常法により空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ225/60R16)を製造した。得られたすだれ織物を構成するコード物性および空気入りタイヤの特性をまとめて表2に示す。
【0073】
[実施例2〜5]
実施例1と同様のポリエステルポリマーを用い、表1に示す紡糸・延伸条件でポリエステル繊維を得た。得られた繊維には層状ナノ粒子が含有しており、一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様にしてタイヤコード、すだれ、タイヤを製造した。評価結果を表2に併せて示す。
【0074】
[比較例1〜4]
実施例1において、フェニルホスホン酸の代わりにリン酸をDMT対比で60mmol%添加したこと以外は実施例1と同様に実施しポリエステルポリマーを得た。電子顕微鏡で観察したところ、層状ナノ粒子は観察されず、粒子が存在した場合でも一般的な球状の形態であった。さらに実施例1と同様に表1に示す条件にて溶融紡糸、延伸を行いポリエステル繊維を得た。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様にしてタイヤコード、すだれ、タイヤを製造した。評価結果を表2に併せて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、軽量で転がり抵抗が小さく、操縦安定性、耐久性や寸法安定性に優れたポリエステルタイヤコード及び空気入りタイヤを得ることができ、省エネルギーや長期耐久性など環境負荷を低減することができるため実用上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を含む繊維から構成されたタイヤコードであって、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とするタイヤコード。
【請求項2】
該層状ナノ粒子が金属元素を主要構成成分とし、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項1記載のタイヤコード。
【請求項3】
該層状ナノ粒子が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されている請求項1あるいは請求項2記載のタイヤコード。
【請求項4】
該層状ナノ粒子が金属−リン化合物である請求項1から3のいずれか1項記載のタイヤコード。
【請求項5】
該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体である請求項4記載のタイヤコード。
【請求項6】
該ポリエステル繊維中の金属およびリンの含有量が下記数式(I)及び数式(II)を満たしている請求項1〜5のいずれか1項記載のタイヤコード。
10≦M≦1000 (I)
0.8≦P/M≦2.0 (II)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【請求項7】
該ポリエステル繊維を構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものである請求項1〜6のいずれか1項記載のタイヤコード。
【請求項8】
該ポリエステル繊維の赤道方向の広角X線回折(XRD回折)において、2θ(シータ)=2〜7°に回折ピークを有するものである請求項1〜7のいずれか1項記載のタイヤコード。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のタイヤコードを用いてなる空気入りタイヤ。
【請求項10】
該タイヤコードが、空気入りタイヤのトレッドの内部に配置したベルトおよびカーカスプライの少なくとも一方に用いられている請求項9記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−58103(P2011−58103A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205900(P2009−205900)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】