説明

タイヤモデル作成方法、及びタイヤモデル作成装置

【課題】タイヤ性能を評価する際、実測値に近い解析結果が得られ、かつ、演算時間を短縮できるようなタイヤモデルを作成する。
【解決手段】トレッド部に形成される細溝141〜147壁面の間に空気入りタイヤには実在しない疑似弾性体を有限個の要素に分割した疑似モデルを設定し、疑似モデルに、トレッド部の弾性率よりも低い弾性率を設定することにより、タイヤモデルを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成方法、及びタイヤモデル作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの開発において、有限要素法などの数値解析手法や計算機環境の発達により、実際に空気入りタイヤを製造し、自動車に装着して走行試験を行わなくても、新たに設計した空気入りタイヤの走行性能や特性といったタイヤ性能の予測・評価が可能になってきた(例えば、特許文献1参照)。タイヤ性能予測方法を用いて、空気入りタイヤの設計・製造・評価といった開発サイクルの一部を数値解析で置き換えることで、空気入りタイヤの開発期間の短縮が実現されている。
【0003】
近年では、空気入りタイヤの高性能化に伴って、複雑な構造を正確に表している構造モデルを作成し、構造モデルを使って、より精度の高い解析を行いたいという要求が高まっている。そこで、従来のタイヤ性能予測方法では、平面に形成された2次元パターンにおいて要素分割を設定し、続いて、高さ方向(すなわち、タイヤ径方向)に細分化することによって3次元モデルを作成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−168505号公報 第4図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有限要素法では、要素のサイズを細かく定義すれば、複雑な構造のモデルを正確に作成することは可能であるが、要素数が増える。また、例えば、タイヤモデルと路面モデルとの間、タイヤモデルに設定された溝の壁面同士のように、モデルが接触するところには、接触するための境界条件を定義する必要がある。
【0006】
このため、精度の高いモデルを作成すると、要素数が増えるだけでなく、境界条件が複雑化するため、演算量が極端に増大する。また、演算が収束しない可能性が高くなる。そのため、実際の使用に堪えない演算時間を要し、タイヤ開発サイクルの一部を数値解析に置き換えることの利点が薄れるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、タイヤ性能を評価する際、実測値に近い解析結果が得られ、かつ、演算時間を短縮できるようなタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成方法、及びタイヤモデル作成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は以下の特徴を備える。すなわち、本発明の第1の特徴は、トレッド部に複数の溝が形成され、前記トレッド部が路面に接地したときに溝の壁面が互いに当接する細溝を有する空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成方法であって、前記細溝の壁面の間に前記空気入りタイヤには実在しない疑似弾性体を有限個の要素に分割した疑似モデルが設定されるステップと、前記疑似モデルに、前記トレッド部の弾性率よりも低い弾性率を設定するステップとを有することを要旨とする。
【0009】
本発明の第1の特徴によれば、細溝の互いに対向する壁面のモデルに互いに当接する境界条件を設定する変わりに、細溝に疑似弾性体が配置されているように設定するため、細溝の壁部同士に接触のための境界条件を設定する場合に比べ、計算量を減らすことができる。また、作成されたタイヤモデルを用いてタイヤ性能を解析する際には、細溝の互いに対向する壁面のモデル同士がオーバラップしたり、貫通したりする結果が導かれることがなく、演算の収束性が高められる。
【0010】
これにより、実測値に近い解析結果が得られ、かつ、演算時間を短縮できるようなタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成方法、及びタイヤモデル作成装置を提供できる。
【0011】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記疑似モデルの弾性率は、前記トレッド部の弾性率の1/10000以上1/100以下に設定されることを要旨とする。
【0012】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1又は第2の何れか1つの特徴に係り、前記疑似モデルのポワソン比は、0.001以上0.1以下に設定されることを要旨とする。
【0013】
本発明の第4の特徴は、本発明の第1乃至第3の何れか1つの特徴に係り、前記疑似モデルは、前記トレッド部の前記空気入りタイヤのタイヤ赤道線を含む中央領域に存在する前記タイヤ幅方向に延びた細溝内に設定されることを要旨とする。
【0014】
本発明の第5の特徴は、本発明の第1乃至第3の何れか1つの特徴に係り、前記疑似モデルは、前記トレッド部におけるタイヤ赤道線よりも前タイヤ幅方向外側を含むショルダー領域ににおいてタイヤ周方向に延びる細溝内に設定されることを要旨とする。
【0015】
本発明の第6の特徴は、本発明の第1乃至第5の何れか1つの特徴に係り、前記疑似モデルは、前記トレッド部が接地しても接地圧により溝の壁面が互い当接しない溝幅を有する溝には設定されないことを要旨とする。
【0016】
本発明の第7の特徴は、本発明の第1乃至第6の何れか1つの特徴に係るタイヤモデル作成方法を実行するタイヤモデル作成装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タイヤ性能を評価する際、実測値に近い解析結果が得られ、かつ、演算時間を短縮できるようなタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成方法、及びタイヤモデル作成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施形態にかかるタイヤモデル作成方法を用いて作成されたタイヤモデルを使ってタイヤ性能を評価する処理を説明するフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態にかかるタイヤモデル作成方法を説明するフローチャートである。
【図3】図3は、単位ブロックモデルを説明する概略図である。
【図4】図4は、細溝(サイプ)に設定される疑似モデルを説明する単位ブロックモデルの側面の拡大図である。
【図5】図5は、単位ブロックモデルから形成される部分ブロックモデルの一例を表す図である。
【図6】図6は、細溝に設定される疑似モデルの変形例を説明する単位ブロックモデルの側面の拡大図である。
【図7】図7は、細溝に設定される疑似モデルの変形例を説明する単位ブロックモデルの側面の拡大図である。
【図8】図8は、疑似要素を設定可能な溝を説明するトレッド部の平面図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態に係るタイヤ性能予測方法を実行するタイヤ性能予測装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るタイヤ性能予測方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)タイヤ性能評価方法、(2)タイヤモデル作成方法、(3)タイヤモデル作成装置、(4)作用・効果、(5)その他の実施形態について説明する。
【0020】
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なのものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0021】
(1)タイヤ性能評価方法
図1は、空気入りタイヤの挙動を、本実施形態にかかるタイヤモデル作成方法を用いて作成されたタイヤモデルを使って評価する処理を説明するフローチャートである。タイヤ性能を評価するためのタイヤモデルの解析方法の一例として、大域解析(Global・Analysis:以下、G解析という)と局所解析(Local・Analysis:以下、L解析という)とを組み合わせたGL解析(Global−Local・Analysis)について説明する。
【0022】
本出願人は、タイヤ性能予測方法に関連する技術(特許3133738号公報)を既に提案している。GL解析の詳細は、上記公報に開示されているため、以下では、概略について説明する。
【0023】
ステップS1では、タイヤ性能予測方法の評価対象の空気入りタイヤを設計する。具体的には、空気入りタイヤのタイヤのタイヤサイズ、形状、構造、材料、トレッドパターンなどを定める。
【0024】
ステップS2では、G解析が実行される。タイヤモデルを作成するための数値解析手法として、本実施形態では、有限要素法(FEM)を適用する。G解析では、ゴム、ベルト、プライ、鉄・有機繊維等でできた補強コード、補強コードをシート状に束ねた補強材などの空気入りタイヤの内部構造を有限要素法に従って作成したタイヤモデルと、路面を有限個の要素に分割した路面モデルとが設定される。例えば、路面状態により異なる摩擦係数μを設定することにより、乾燥(DRY)、濡れ(WET)、氷上、雪上、非舗装等に対応する路面状態を再現できる。
【0025】
G解析では、トレッドパターンが無く、内部構造のみが設定されたタイヤモデル(スムースタイヤモデル)を路面モデル上において転動させたときの転動解析と変形計算とを実行し、転動解析と変形計算の結果から、基本的な溝と陸部の構造が設定されたトレッドパターンモデルの変形の軌跡を算出する。
【0026】
ステップS3では、ステップS2で算出されたトレッドパターンモデルの変形軌跡に基づいて、L解析を行う。L解析では、トレッドパターンモデルの少なくとも一部に詳細な構造が設定されたトレッドパターンモデルの物理量変化などを算出する。
【0027】
L解析では、トレッドパターンモデルを構成する陸部ブロックのひとつ(単位ブロックという)に細溝が形成された単位ブロックモデルが設定される。また、単位ブロックモデルが複数集合した部分ブロックモデルが設定される。
【0028】
部分ブロックモデルと路面モデルとの間の境界条件が、G解析において計算されたトレッドパターンモデルの変形軌跡に基づいて設定される。境界条件が設定された路面モデル上で部分ブロックモデルを転動させる転動計算と、変形計算の結果から、部分ブロックモデルに生じる物理量が算出される。
【0029】
算出された物理量に基づいて、部分ブロックモデルがトレッド部の全周に亘って形成された空気入りタイヤ全体に相当する完全タイヤモデルのタイヤ性能を予測することができる。
【0030】
ステップS4では、タイヤ挙動の評価を行う。目標とする性能が満足されないときは、ステップS4において否定され、ステップS5において、設計案を変更又は修正してL解析のみが繰り返される。性能が十分であるときは、ステップS4で肯定され、ステップS6において、ステップS1で設定した設計案のタイヤまたはステップS5で修正した設計案を採用し、本ルーチンを終了する。
【0031】
(2)タイヤモデル作成方法
(2−1)疑似モデルの作成
本発明の実施形態に係るタイヤモデル作成方法は、ステップS3のL解析で解析する対象であるトレッドパターンモデルの少なくとも一部に詳細な構造(例えば、細溝)が設定されたトレッドパターンモデルの作成に適用できる。以下、本発明の実施形態に係るタイヤモデル作成方法について、図面を参照して詳細に説明する。図2は、本実施形態にかかるタイヤモデル作成方法を説明するフローチャートである。
【0032】
ステップS31では、単位ブロックモデル140が作成される。単位ブロックモデルは、空気入りタイヤの陸部ブロックのうち1ブロックを有限個の要素によって分割したものである。
【0033】
図3は、単位ブロックモデルを説明する斜視図である。図4は、単位ブロックモデルの細溝を図3に示す矢印F3方向からみた側面の拡大図である。ステップS31では、単位ブロックモデル140の細溝141〜147の壁面の間に、実際の空気入りタイヤの細溝の壁面の間には実在しない疑似弾性体を有限個の要素で分割した疑似モデル201〜207が設定される。なお、本実施形態では、細溝とは、溝幅が、例えば、0.3mm〜4mm程度の溝をいう。
【0034】
ステップS32では、疑似モデルに、トレッド部の弾性率よりも低い弾性率を設定する。一例として、疑似モデル201〜207の弾性率は、トレッド部、すなわち単位ブロックモデル140に設定される弾性率の1/10000以上1/100以下に設定する。また、疑似モデル201〜207のポワソン比は、0.001以上0.1以下に設定される。
【0035】
図5は、部分ブロックモデル150を説明する図である。ステップS33において、単位ブロックモデル140が複数集合して形成される部分ブロックモデル150が設定される。部分ブロックモデル150は、単位ブロックモデル140をタイヤトレッド幅方向TW及び周方向TRに複数個配列されることによって形成される。
【0036】
ステップS33において、路面モデルが設定される。
【0037】
ステップS34では、路面モデルと部分ブロックモデル150との間の境界条件が設定される。すなわち、G解析において計算されたトレッドパターンモデルの変形軌跡に基づいて路面モデルに境界条件が設定される。
【0038】
ステップS35では、境界条件が設定された路面モデル上で部分ブロックモデル150を転動させる転動計算が実行される。
【0039】
ステップS36では、転動計算の結果から部分ブロックモデル150の変形軌跡が計算される。また、部分ブロックモデル150に生じる物理量の変動が算出される。算出された物理量に基づいてタイヤ性能を予測する。
【0040】
以上の処理により、疑似モデルによって形成された部分ブロックモデル150を用いてタイヤ性能を予測する。
【0041】
(2−2)疑似モデルの変形例
上述のタイヤモデル作成方法では、疑似弾性体が細溝141〜147を満たしている場合を説明した。しかし、疑似弾性体が細溝141〜147の溝内に部分的に存在している疑似モデルを設定することもできる。図6,7は、細溝に設定される疑似モデルの変形例を説明する単位ブロックモデル140の側面の拡大図である。
【0042】
図6では、疑似モデル213,214は、細溝143,144の溝底から所定の高さh1,h2まで存在している。図7に示す疑似モデル224,224は、細溝143,144の溝開口から溝の途中まで存在している。
【0043】
(2−3)疑似モデルを設定する溝
上述のタイヤモデル作成方法では、陸部ブロックに形成される細溝141〜147の壁面の間に疑似モデルを作成した。しかし、疑似モデルは、陸部ブロックに形成される細溝141〜147以外の溝に設定されてもよい。図8は、疑似モデルを設定可能な溝を説明するトレッド部の平面図である。
【0044】
図8に示されたトレッド部250には、タイヤ赤道線CLを含む中央領域にセンター陸部260が形成される。センター陸部260には、トレッド幅方向に沿って細溝261,262,263,264が形成される。細溝261,262,263,264に疑似モデルを設定することができる。
【0045】
また、トレッド部250の幅方向外側を含むショルダー領域には、ブロック状のショルダー陸部270,271,272,273が形成される。ショルダー陸部270,271,272,273には、周方向に沿って細溝281,282,283,284が形成される。細溝281,282,283,284に疑似モデルを設定することができる。ここで、疑似モデルが設定される細溝281,282,283,284は、トレッド部250が接地したときに、接地圧により溝の壁面が互い当接する溝幅を有する溝である。
【0046】
(3)タイヤ性能予測装置
図9には、本発明の実施形態に係るタイヤ性能予測方法を実行するタイヤ性能予測装置としてのコンピュータ300の概略が示されている。図9に示すように、コンピュータ300は、半導体メモリー、ハードディスクなどの記憶部(不図示)、処理部(不図示)などを備えた本体部310と、入力部320と、表示部330とを備える。処理部は、図1を用いて説明したタイヤ性能予測方法、及び図2を用いて説明したタイヤモデル作成方法を実行する。
【0047】
コンピュータ300は、図示しないが着脱可能な記憶媒体と、この記憶媒体に対して書き込み・読み出しを可能にするドライバが備えられていてもよい。図1,2を用いて説明したタイヤ性能予測方法、タイヤモデル作成方法を実行するプログラムを予め記憶媒体に記録しておき、記憶媒体から読み出されたプログラムを実行してもよい。コンピュータ300の記憶部にプログラムを格納(インストール)して実行してもよい。コンピュータ300は、図示しないが、例えば、ネットワークに接続可能であってもよい。ネットワークを介して、タイヤ性能予測方法、タイヤモデル作成方法を実行するプログラムを取得してもよい。
【0048】
(4)作用・効果
本実施形態のタイヤモデル作成方法によれば、細溝141〜147の互いに対向する壁面のモデルに互いに当接する境界条件を設定する変わりに、細溝141〜147に疑似弾性体が配置されているように設定するため、細溝141〜147の壁部同士に接触のための境界条件を設定する場合に比べ、計算量を減らすことができる。また、作成されたタイヤモデルを用いてタイヤ性能を解析する際には、細溝141〜147の互いに対向する壁面のモデル同士がオーバラップしたり、貫通したりする解析結果が導かれることがなく、演算の収束性が高められる。
【0049】
これにより、実測値に近い解析結果が得られ、かつ、演算時間を短縮できるようなタイヤモデルを作成することができる。
【0050】
本実施形態では、疑似モデルの弾性率は、トレッド部の弾性率の1/10000以上1/100以下に設定されることが好ましい。また、疑似モデルのポワソン比は、0.001以上0.1以下に設定されることが好ましい。疑似モデルの弾性率及びポワソン比を上記範囲とすることにより、溝の壁面が当接する実際の空気入りタイヤの挙動に近い挙動の解析が可能になる。
【0051】
疑似モデルは、トレッド部300のタイヤ赤道線CLを含む中央領域に形成される細溝261,262,263,264に設定されることができる。中央領域に形成される細溝261,262,263,264の壁面は、踏み蹴り時にかかる周方向の剪断力によって互いに当接し易い。従って、タイヤ赤道線CLを含む中央領域に形成される細溝261,262,263,264に疑似弾性体が配置されているタイヤモデルを用いて解析することにより、実測に近い、すなわち精度の高い解析が可能になる。
【0052】
疑似モデルは、ショルダー陸部270,271,272,273に周方向に沿って形成される細溝281,282,283,284に設定されることができる。ショルダー陸部270,271,272,273に周方向に沿って形成される細溝281,282,283,284の壁面は、接地時のトレッド幅方向の剪断力によって互いに当接し易い。従って、細溝281,282,283,284に疑似弾性体が配置されているタイヤモデルを用いて解析することにより、実測に近い、すなわち精度の高い解析が可能になる。
【0053】
(5)その他の実施形態
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例が明らかとなる。例えば、本発明の実施形態は、次のように変更することができる。
【0054】
実施形態では、本発明に係るタイヤモデル作成方法をGL解析におけるL解析で使用するモデルの作成に適用する場合について説明した。しかし、GL解析におけるタイヤモデルの作成に限定されない。
【0055】
また、実施形態のタイヤモデル作成方法では、図5に示すように、単位ブロックモデル140の集合体として部分ブロックモデル150が設定される。しかし、単位ブロックモデル140の集合体でなくてもよい。複雑な非対称パターンを備えた部分ブロックモデル150が設定されてもよい。
【0056】
上述のタイヤモデル作成方法では、細溝141〜147に想定される疑似弾性体は、図4,6,7に限定されない。例えば、溝の深さ方向の中央部付近に疑似弾性体が配置されているモデルを作成してもよい。
【0057】
本実施形態では、トレッド部における溝の壁面同士の接触の場合について説明しているが、必ずしも溝に限定されない。また、疑似モデルは、トレッド部250が接地しても接地圧により溝の壁面が互い当接しない溝幅を有する溝には設定しないこともできる。トレッド部が接地しても溝の壁面が互い当接しない溝に疑似モデルを設定しないようにすることにより、無駄な演算を省略できる。
【0058】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0059】
本実施形態において説明したタイヤモデル作成方法により、表1に示す条件で疑似モデルを設定したタイヤモデルを作成した。
【表1】

【0060】
実施例1では、疑似モデルの弾性率を単位ブロックモデルの弾性率の1/1000に設定し、疑似モデルのポワソン比を0.001に設定した。また、全て細溝に対して疑似モデルを設定した。
【0061】
実施例2では、疑似モデルの弾性率を単位ブロックモデルの弾性率の1/1000に設定し、疑似モデルのポワソン比を0.001に設定した。また、ショルダー部の周方向溝と中央部の幅方向溝に対して疑似モデルを設定した。
【0062】
実施例3では、疑似モデルの弾性率を単位ブロックモデルの弾性率の1/100に設定し、疑似モデルのポワソン比を0.01に設定した。また、ショルダー部の周方向溝と中央部の幅方向溝に対して疑似モデルを設定した。
【0063】
実施例4では、疑似モデルの弾性率を単位ブロックモデルの弾性率の1/50に設定し、疑似モデルのポワソン比を0.1に設定した。また、ショルダー部の周方向溝と中央部の幅方向溝に対して疑似モデルを設定した。
【0064】
比較例1では、疑似モデルの弾性率を単位ブロックモデルの弾性率の1/50に設定した。疑似モデルのポワソン比を0.1に設定した。ショルダー部の周方向溝と中央部の幅方向溝に対して疑似モデルを設定した。
【0065】
表1のタイヤモデルを用いて、接地時矩形率、接地幅、接地圧偏差、解析時間を比較した。細溝をモデル化しない場合と、細溝の壁面に対して接触設定をする場合を比較例とした。結果を表2に示す。結果は、実測を100とするインデックスで表した。
【表2】

【0066】
疑似モデルの弾性率を単位ブロックモデルの弾性率の1/1000〜1/100に設定すると、接地時矩形率、接地幅、接地圧偏差において、実測に近い結果が得られた。実施例1〜3の何れの場合も、細溝の壁面に接触する境界条件を設定した比較例3に比べて、解析時間が短縮でき、その上、実測に近い解析結果が得られた。
【符号の説明】
【0067】
140…単位ブロックモデル、 141〜147…細溝、 150…部分ブロックモデル、 201〜207…疑似モデル、 213,214…疑似モデル、 224,224…疑似モデル、 250…トレッド部、 260…センター陸部、 261,262,263,264…細溝、 270,271,272,273…ショルダー陸部、 281,282,283,284…細溝、 300…コンピュータ、 310…本体部、 320…入力部、 330…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に複数の溝が形成され、前記トレッド部が路面に接地したときに溝の壁面が互いに当接する細溝を有する空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成方法であって、
前記細溝の壁面の間に前記空気入りタイヤには実在しない疑似弾性体を有限個の要素に分割した疑似モデルが設定されるステップと、
前記疑似モデルに、前記トレッド部の弾性率よりも低い弾性率を設定するステップと
を有するタイヤモデル作成方法。
【請求項2】
前記疑似モデルの弾性率は、前記トレッド部の弾性率の1/10000以上1/100以下に設定される請求項1に記載のタイヤモデル作成方法。
【請求項3】
前記疑似モデルのポワソン比は、0.001以上0.1以下に設定される請求項1又は2に記載のタイヤモデル作成方法。
【請求項4】
前記疑似モデルは、前記トレッド部の前記空気入りタイヤのタイヤ赤道線を含む中央領域に存在する前記タイヤ幅方向に延びた細溝内に設定される請求項1乃至3の何れか一項に記載のタイヤモデル作成方法。
【請求項5】
前記疑似モデルは、前記トレッド部におけるタイヤ赤道線よりも前タイヤ幅方向外側を含むショルダー領域ににおいてタイヤ周方向に延びる細溝内に設定される請求項1乃至3の何れか一項に記載のタイヤモデル作成方法。
【請求項6】
前記疑似モデルは、前記トレッド部が接地しても接地圧により溝の壁面が互い当接しない溝幅を有する溝には、設定されない請求項1乃至5の何れか一項に記載のタイヤモデル作成方法。
【請求項7】
前記請求項1乃至6の何れか一項に記載のタイヤモデル作成方法を実行するタイヤモデル作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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