説明

タイヤ横力算出方法および装置、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法および装置、タイヤ特性算出方法および装置、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法、および、プログラム

【課題】キャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する力あるいはモーメントを正確に算出する。
【解決手段】地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するとき、横力が算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定するステップと、設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出するステップと、を有する。前記タイヤ力学モデルは、横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。このタイヤ力学モデルを用いて、キャンバスティフネスの値および横ねじり剛性の値を算出する。さらに、このタイヤ力学モデルを用いて、キャンバ角が付与された条件下のコーナリング特性あるいは制駆動特性を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出する算出方法および装置、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、横力を算出するときに用いるキャンバ剛性パラメータの値を抽出する方法および装置、これらの方法を用いたタイヤ特性算出方法および装置、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法、およびコンピュータが実行可能なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、タイヤのコーナリング特性および制駆動特性について、タイヤ力学モデルを用いて予測する方法が種々提案されている。
タイヤのコーナリング特性および制駆動特性は、具体的に、横軸にスリップ角を、縦軸に横力あるいは制駆動力を表したグラフにおいて表されるタイヤの特性曲線である。この特性曲線のデータは、別途作成された車両モデルに組み込まれて、車両モデルを用いた運動性能シミュレーションに用いられる。したがって、運動性能シミュレーションを正確に行って正しい評価ができるように、タイヤのコーナリング特性および制駆動特性を、正確に予測して算出することが望まれている。
【0003】
タイヤ力学モデルは、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成される解析モデルである。タイヤ力学要素パラメータには、タイヤトレッド部の横方向の剪断剛性によって定められる横剛性やタイヤトレッド部の前後方向(制駆動方向)の剪断剛性の他、路面とタイヤ間の静止摩擦係数、路面とタイヤ間の動摩擦係数等の他、各種係数等が含まれる。このように、タイヤ力学モデルにおけるタイヤ力学要素パラメータは、タイヤトレッド部やベルト部等のタイヤ構成部材と同程度の細かさで定義されているので、タイヤ力学要素パラメータの値とタイヤ構成部材の種類との間の対応関係が強い。したがって、タイヤ力学要素パラメータの値の好ましい方向が、上述の運動性能シミュレーションの結果から定まると、この方向に応じてタイヤ構成部材の種類を変更すればよい。
【0004】
このようなタイヤ力学モデルを用いたタイヤの設計方法は、下記特許文献1に記載されている。
しかし、特許文献1では、タイヤが車両に装着されるときの対地キャンバ角を0度としているため、特許文献1で算出されるコーナリング特性および制駆動特性は、対地キャンバ角が付いた車両装着タイヤのコーナリング特性および制駆動特性を必ずしも正確に再現していない、といった問題がある。
【0005】
一方、下記非特許文献1には、キャンバ角を持つタイヤのモデルが示されている。当該文献の第3頁右欄には、キャンバスラスト(横力)を算出する式が記載されている(式(12)、(13))。当該文献の式(12)によると、横剛性Cyiをベルトの曲げ変形に乗算することによりキャンバスラスト(横力)を算出している。したがって、算出されるキャンバスラスト(横力)は、キャンバ角の増大に比例して直線的に大きくなる。しかし、実測されるキャンバスラスト(横力)のキャンバ角依存性は、直線ではなく曲線で示される。当該文献の第4頁に示されているFig.12のキャンバスラストにおいて、実測値はキャンバ角に非線形に変化していることがわかる。このように、当該文献におけるキャンバスラスト(横力)のキャンバ角依存性は正確に表されていない、といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−49725号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「キャンバ角をもつタイヤのモデリングについて」,影山一郎、桑原悟,日本機械学会第9回交通・物流部門大会講演論文集[2000−12.13〜15,川崎],第27〜第30頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するために、キャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を正確に算出することのできる方法および装置を提供するとともに、この方法および装置を用いて、タイヤ力学モデルのキャンバ剛性パラメータの値を抽出する方法および装置、キャンバ角の付与されたタイヤのタイヤ特性を正確に算出する方法および装置、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法、およびこれらの方法を実施するプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出する算出方法であって、
横力が算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出するステップと、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
【0010】
本発明の別の一態様は、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出する際に用いるキャンバ剛性パラメータの値を抽出する方法であって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するステップと、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルで用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出するステップと、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力するステップと、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
【0011】
本発明の更に別の一態様は、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力をコンピュータに算出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値をコンピュータに設定させる手順と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を前記コンピュータに算出させて出力させる手順と、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルを用いて前記横力が算出されるとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角が用いられる。
【0012】
本発明の更に別の一態様は、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出する算出装置であって、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定する設定部と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出する算出部と、を有する。その際、前記算出部は、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
【0013】
本発明の更に別の一態様は、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出するときに用いるキャンバ剛性パラメータの値を、コンピュータに抽出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データをコンピュータに取得させる手順と、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて、前記コンピュータに抽出させる手順と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力させる手順と、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
【0014】
本発明の更に別の一態様は、地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出するときに用いられるキャンバ剛性パラメータの値を抽出する装置であって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するデータ取得部と、
横力が算出可能なタイヤ力学モデルが用いるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出する抽出部と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力する出力部と、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
【0015】
本発明の更に別の一態様は、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いたタイヤ力学モデルに基づいて、キャンバ角が付与された条件におけるタイヤのコーナリング特性および/または制駆動特性を算出するタイヤ特性算出方法であって、
タイヤ力学モデルに用いるタイヤ力学要素パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を算出するステップと、を有する。その際、前記タイヤ力学要素パラメータは、前記タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む。
【0016】
本発明の更に別の一態様は、前記タイヤ特性算出方法で算出されたコーナリング特性および/または制駆動特性を評価する評価ステップと、
この評価結果に応じて、前記タイヤ力学要素パラメータの値を実現するタイヤ形状あるいはタイヤ構成部材を変更する設計ステップと、を有するタイヤの設計方法である。
【0017】
本発明の更に別の一態様は、前記タイヤ特性算出方法で算出されたコーナリング特性および/または制駆動特性を取得するステップと、
車両を再現した車両モデルに、前記コーナリング特性および/または制駆動特性を適用して車両の運動特性を解析するステップと、を有する車両の運動解析方法である。
【発明の効果】
【0018】
上述のタイヤ横力算出方法および装置、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法および装置で用いるタイヤ力学モデルは、修正キャンバ角を用いるので、キャンバ角の付与されたタイヤのタイヤ特性を正確に算出することができ、また、タイヤ剛性パラメータの値を正確に算出することができる。
したがって、このタイヤ力学モデルを用いて、タイヤ特性算出方法および装置、および、プログラムは、キャンバ角の付与されたタイヤのコーナリング特性あるいは制駆動特性等のタイヤ特性を正確に算出することができる。したがって、算出したタイヤ特性をタイヤの設計方法、車両の運動解析方法に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】タイヤに作用する力、モーメント、方向を説明する図である。
【図2】本実施形態の装置の構成を示す図である。
【図3】(a),(b)は、本実施形態の方法に用いるタイヤ力学モデルを説明する図である。
【図4】図3(a),(b)に示すタイヤ力学モデルの部分モデル1を説明する図である。
【図5】(a),(b)は、図4に示す部分モデル1で用いる接地形状の変化を説明する図である。
【図6】図4に示す部分モデル1で用いるキャンバスラストの発生を説明する図である。
【図7】(a),(b)は、図4に示す部分モデル1で用いる修正キャンバ角を説明する図である。
【図8】図2に示すパラメータ抽出部およびタイヤ力学モデル演算部で行われるタイヤ力学要素パラメータの値を抽出するフローを説明する図である。
【図9】図2に示すタイヤ特性算出部およびタイヤ力学モデル演算部で行われるキャンバスラストを算出するフローを説明する図である。
【図10】図9に示すフローで算出された、キャンバスラストのキャンバ角依存性を表すタイヤ特性の算出結果の一例を示す図である。
【図11】図3(a),(b)に示すタイヤ力学モデルの部分モデル2を説明する図である。
【図12】図3(a),(b)に示すタイヤ力学モデルの部分モデル3を説明する図である。
【図13】(a)〜(e)は、図11,図12に示す部分モデル2,3で用いるメカニズムを説明する図である。
【図14】(a)〜(d)は、図11,図12に示す部分モデル2,3で用いる他のメカニズムを説明する図である。
【図15】(a)〜(c)は、図11,図12に示す部分モデル2,3で用いる他のメカニズムを説明する図である。
【図16】図11,図12に示す部分モデル2,3で算出される前後力、横力、セルフアライニングトルクの算出処理を説明する図である。
【図17】図11,図12に示される部分モデル2,3を用いてタイヤ特性を算出するフローを説明する図である。
【図18】(a),(b)は、タイヤ特性の算出結果の一例(キャンバ角γ=0)を示す図である。
【図19】(a),(b)は、タイヤ特性の算出結果の一例(キャンバ角γ=+4度)を示す図である。
【図20】(a),(b)は、タイヤ特性の算出結果の一例(キャンバ角γ=−4度)を示す図である。
【図21】(a)〜(c)は、タイヤ特性の算出結果の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のタイヤ横力算出方法および装置、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法および装置、タイヤ特性算出方法および装置、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法、および、プログラムについて詳細に説明する。
【0021】
図1は、タイヤに作用する力およびトルク(モーメント)を説明する図である。
以降で説明する横力Fyは、タイヤが路面から受ける力のうち、タイヤ回転軸の方向の成分をいい、前後力Fxは、タイヤが路面から受ける力のうち、タイヤホイール中心面の方向の成分をいう。スリップ角αは、タイヤの進行方向が、タイヤホイール中心面に対してずれる角度をいう。セルフアライニングトルクMzは、タイヤの接地中心を通る、路面に対して垂直な軸周りに作用するトルクをいう。セルフアライニングトルクMzは、スリップ角を増減させるようにタイヤを回転させるトルクをいう。キャンバ角γは、地面に対して垂直な方向を基準としてタイヤホイール中心面が傾斜する角度をいう。
オーバーターニングモーメントMxは、キャンバ角γを増減させる方向に作用するトルクをいう。
上記力およびトルクはいずれも、タイヤ軸に作用する物理量として実際のタイヤで測定可能である。
【0022】
(本実施形態の装置の概要)
図2は、タイヤ横力算出方法、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法およびタイヤ特性算出方法を実施する装置1の構成を示す図である。
【0023】
装置1は、各種プログラムを実行させるコンピュータで構成され、タイヤの横力(キャンバスラスト)を算出し、あるいは、タイヤ剛性パラメータの値を抽出し、あるいはタイヤ特性を算出し、車両の運動解析を行い、あるいは、タイヤ構成部材の種類の変更等のタイヤの設計を示唆する。
【0024】
装置1は、キャンバ角γが付与されたタイヤについて、タイヤの横力を算出することにより、タイヤ特性を算出し、このタイヤ特性を用いて、車両走行シミュレーションを行い、車両の運動を解析する。装置1は、さらに、車両の走行シミュレーションから見たタイヤの好ましい方向を知り、この方向に合うタイヤ剛性パラメータの値を定めることにより、タイヤ形状あるいはタイヤ構成部材の変更を示唆する。さらに、装置1は、キャンバ角γの付与によって発生するキャンバスラスト(横力Fy)を定めるタイヤ剛性パラメータの値を抽出する。
【0025】
装置1は、図2に示すように、コンピュータの各部及びプログラムの実行を管理、制御するCPU2と、バス3を介して各種条件や演算結果を記憶するメモリ4と、各種条件や各種情報を指示入力するマウスやキーボード等の入力操作系5と、入力操作系5をバス3に接続するインターフェース6と、各種条件や情報の入力画面やシミュレーション結果をはじめとする各種プログラムの処理結果を画面表示し、プリント出力する出力装置7と、各種プログラムを実行することによって生成されるモジュール群8と、を有する。
【0026】
ここでモジュール群8は、設定部9と、タイヤ特性算出部10と、パラメータ抽出部11と、タイヤ力学モデル演算部12と、車両走行シミュレーション部13と、統合・管理部14と、を有する。
設定部9は、後述するタイヤ力学モデルの各種タイヤ力学要素パラメータの値を設定する。この設定された値は、タイヤ力学モデル演算部12において横力、前後力、セルフアライニングトルクの算出に用いられる。さらに設定部9は、車両走行シミュレーションに用いる車両諸元の各値を設定する。設定された値は車両走行シミュレーション部13において、シミュレーションに用いられる。これらの設定は、オペレータによる入力操作系5を用いた入力に基づいて行われる。
メモリ4は、現在の検討中のタイヤのタイヤ力学要素パラメータの値と、現在の検討中の車両諸言の各値とをセットとして記憶し、設定部9がこのセットの値を呼び出して値の設定を行うこともできる。
また、設定部9は、タイヤの負荷荷重、算出するスリップ角度、制駆動を表すスリップ率、あるいはキャンバ角、あるいは、これらの範囲を設定する。設定された負荷荷重、スリップ角、スリップ率、あるいは、キャンバ角、あるいはこれらの範囲は、タイヤ特性算出部10およびパラメータ抽出部11、タイヤ力学モデル演算部12、車両走行シミュレーション部13に送られる。設定部9は、また、タイヤ特性の算出を行うか、タイヤ力学要素パラメータの値の抽出を行うか、車両走行シミュレーションを行うか、等の処理内容を設定する。
【0027】
タイヤ特性算出部10は、統合・管理部14の指示に応じて、設定されたスリップ角度、スリップ率、キャンバ角に基づいて、横力、前後力あるいはセルフアライニングトルクを算出する。スリップ角、スリップ率、あるいはキャンバ角の範囲が設定された場合、タイヤ特性算出部10は、設定された範囲内で、所定の刻み幅でスリップ角度、スリップ率、キャンバ角の値を逐次定め、横力、前後力およびセルフアライニングトルクを算出する。具体的には、定められたスリップ角、スリップ率、キャンバ角の値がタイヤ特性算出部10からタイヤ力学モデル演算部12に提供されて、タイヤ力学モデル演算部12で算出された横力、前後力あるいはセルフアライニングトルクがタイヤ特性算出部10に返される。すなわち、横力、前後力、セルフアライニングトルクを主に算出する部分は、タイヤ力学モデル演算部12であり、タイヤ特性算出部10はタイヤ力学モデル演算部12で算出された横力、前後力、セルフアライニングトルクを用いてタイヤ特性を円滑に求める。求められたタイヤ特性の算出結果は、メモリ4に記憶される。タイヤ特性の算出結果は、統合管理部14で評価されて、タイヤ設計に反映される。あるいは、求められたタイヤ特性の算出結果は、車両走行シミュレーション部13にて用いられてタイヤ走行シミュレーションに用いられる。
【0028】
タイヤ特性は、例えば、横軸にスリップ角、縦軸に横力あるいはセルフアライニングトルクで表したグラフ上で定まる特性曲線を含む。スリップ率、キャンバ角およびタイヤの負荷荷重を様々に変えた条件の場合、タイヤ特性は、これらの条件毎の上記グラフ上の特性曲線を含む。
あるいは、タイヤ特性は、横軸にスリップ率、縦軸に横力あるいはセルフアライニングトルクで表したグラフ上で定まる特性曲線を含む。スリップ角、キャンバ角およびタイヤの負荷荷重を様々に変えた条件の場合、タイヤ特性は、これらの条件毎の上記グラフ上の特性曲線を含む。
あるいは、タイヤ特性は、横軸に前後力、縦軸に横力で表したグラフ上で定まる特性曲線を含む。例えば、スリップ角、スリップ率、キャンバ角、およびタイヤの負荷荷重を様々に変えた条件の場合、タイヤ特性は、これらの条件毎の上記グラフ上の特性曲線を含む。
あるいは、タイヤ特性は、横軸にキャンバ角、縦軸に横力あるいはセルフアライニングトルクで表したグラフ上で定まる特性曲線を含む。例えば、スリップ角、スリップ率、およびタイヤの負荷荷重を様々に変えた条件の場合、タイヤ特性は、これらの条件毎の上記グラフで定まる特性曲線を含む。
【0029】
パラメータ抽出部11は、統合・管理部14の指示に応じて、付与されたキャンバ角γと、このキャンバ角γにより発生する横力Fyとの関係を表す実験データをメモリ4から呼び出して取得し、タイヤ力学モデル演算部12を利用して、取得した実験データからキャンバスティフネス(キャンバ剛性パラメータ)の値を抽出する。抽出結果はメモリ4に記憶される。この抽出結果を用いて、さらに、タイヤ特性算出部10はタイヤ特性を算出することができる。
【0030】
タイヤ力学モデル演算部12は、タイヤ力学要素パラメータの値をタイヤ力学モデルに与えて演算可能な状態にし、タイヤ特性算出部10あるいはパラメータ抽出部11から、負荷荷重、接地長、接地幅、スリップ角、スリップ率あるいはキャンバ角等の値の提供を受けると、演算可能な状態のタイヤ力学モデルを用いて、横力Fy、前後力Fx、あるいはセルフアライニングトルクMzを算出し、算出結果をタイヤ特性算出部10あるいはパラメータ抽出部11に返す。
タイヤ力学モデルについては、後述する。
【0031】
車両走行シミュレーション部13は、設定部9で設定された車両諸元の各値を車両モデルに組み込んでシミュレーション可能な状態にする。さらに、車両走行シミュレーション部13は、統合・管理部14の指示に基づいて、タイヤ特性算出部10で生成されたタイヤ特性のデータを用いて、設定部9で設定された走行条件で車両の走行シミュレーション(車両の運動解析)を実施する。走行シミュレーションでは、例えば、制駆動を含んだ車両の走行速度、操舵角、あるいは路面の凹凸等を含んだ走行条件が用いられる。算出結果は、メモリ4に記憶される。
その後、算出結果は、統合・管理部14から呼び出され、タイヤの性能評価に用いられ、タイヤ試作に反映される。
車両の走行シミュレーションで用いる車両モデルは、例えば運動解析ソフトウェアCarSim、制御設計ソフトウェアMatLabにて定義される解析モデル、機構解析ソフトウェアADAMSで作成されたモデル等が用いられる。
なお、タイヤ特性を表す特性曲線のデータを、パラメータで規定される非線形近似式で近似し、車両の走行シミュレーションを行う際、非線形近似式のパラメータの値を用いて走行シミュレーションを行うこともできる。
非線形近似式は、例えば、周知の「Magic Formula」(http://www.tytlabs.co.jp/japanese/review/rev343pdf/343_039mizuno.pdf)を用いることができる。
【0032】
統合・管理部14は、設定部9において設定された内容に応じて、モジュール群8において、タイヤ特性の算出、タイヤ力学要素パラメータの値の抽出、車両走行シミュレーション等の処理内容を指示する。さらに、統合・管理部14は、タイヤ特性算出部10にて得られたタイヤ特性のデータについて、あるいは、車両走行シミュレーション部13にて得られた算出結果に基づいて、タイヤの性能評価を行う。例えば、統合・管理部14は、タイヤ特性のデータあるいは走行シミュレーションの算出結果が目標に近づくように、タイヤ力学要素パラメータの値の修正、およびこの修正に対応したタイヤ構成部材の種類あるいはタイヤ形状の変更を、出力装置7を通してオペレータに示唆する。タイヤ特性あるいは走行シミュレーションの算出結果の目標はタイヤの開発前に定められているので、現在検討中のタイヤに用いるタイヤ構成部材の種類の変更を容易に行うことができる。例えば、タイヤ特性における横力Fyの値が目標に対して5%低い場合、統合・管理部14は、出力装置7を通して、タイヤのトレッドゴム部材のモジュラスを8%上げるように示唆する。さらに、統合・管理部14は、モジュラス8%の上昇のために必要なトレッドゴムのゴム配合を、出力装置7を通してオペレータに提案する。
このようなタイヤの設計を可能にするのは、タイヤ力学モデルのタイヤ力学要素パラメータとタイヤ構成部材との間に強い対応関係があるからである。この場合、効率よくタイヤの設計の示唆あるいは提案をするために、タイヤ力学要素パラメータの値とタイヤ構成部材の種類とが対応したテーブルを備えることが好ましい。
【0033】
(タイヤ力学モデル)
このような装置1におけるタイヤ力学モデル演算部12で用いるタイヤ力学モデルについて説明する。
【0034】
タイヤ力学モデル演算部12で用いるタイヤ力学モデルは解析式で表されたモデルであり、設定された力学要素パラメータの値を用いて前後力、横力あるいはセルフアライニングトルクを算出する。
タイヤ力学モデルは、タイヤ特性算出部10におけるタイヤ特性の算出、およびパラメータ抽出部11におけるタイヤ力学要素パラメータの値の抽出を行う際に用いられる。パラメータ抽出部11において、値が抽出されるタイヤ力学要素パラメータは、キャンバスティフネスCγおよび横ねじり剛性Gmyである。
【0035】
タイヤ力学モデルは、図3(a)に示すように、剛体の円筒部材にサイドウォールのばね特性を表す複数のばね要素からなるサイドウォールモデルと、これらのばね要素に接続された弾性リング体からなるベルトモデルと、この弾性リング体の表面に接続された弾性要素からなるトレッドモデルとを有する。
タイヤ力学モデルは、複数の特化した部分モデルが統合されている。タイヤ力学モデルは、パラメータ抽出部11で用いるキャンバスラスト(横力)の算出を行う部分モデル1と、制動状態における横力Fy、前後力FxあるいはセルフアライニングトルクMzを算出する部分モデル2と、駆動状態における横力Fy、前後力FxあるいはセルフアライニングトルクMzを算出する部分モデル3と、を有する。最初に、タイヤ力学モデルの理解を容易にするために、キャンバ角γとこのキャンバ角γに伴って生じるキャンバスラスト(横力Fy)を算出する部分モデル1から説明する。
【0036】
(部分モデル1)
図4は、キャンバスラスト(横力Fy)の算出を行う部分モデル1を説明する図である。
部分モデル1は、キャンバ角γが入力されると、図4中の式(20)あるいは式(21)に従ってキャンバスラストである横力Fyを計算する。このとき、タイヤ力学要素パラメータである横ねじり剛性Gmyおよびキャンバスティフネス(キャンバ剛性パラメータ)Cγに値が設定され、さらに、接地幅w、接地長l、距離hに値が設定されて、部分モデル1が演算可能状態になっている。
図4に示すように、式(20)、(21)は、横力Fyに関して再帰方程式となっているので、タイヤ特性算出部10は、ニュートン・ラフソン法等を用いて、横力Fyを決定する。
【0037】
なお、パラメータ抽出部11は、横ねじり剛性GmyおよびキャンバスティフネCγの値をこの部分モデル1を用いて抽出することもできる。パラメータ抽出部11は、取得された実験データの特性曲線に最適に近似するように、横ねじり剛性GmyおよびキャンバスティフネスCγの値を変化させながら、最適値を探索する。したがって、パラメータ抽出部11は、横ねじり剛性GmyおよびキャンバスティフネスCγの値を逐次変化させながら、キャンバ角γの設定された範囲内で横力Fyが実験データの各値に略一致するように、横ねじり剛性GmyおよびキャンバスティフネCγの値を求める。このとき、キャンバスラストである横力Fyの算出は、部分モデル1の再帰方程式である式(20)、(21)を用いるので、パラメータ抽出部11は、ニュートン・ラフソン法等を用いる。
【0038】
図5(a),(b)〜図7(a),(b)は、部分モデル1のメカニズムを説明する図である。わかりやすく説明するために、図5(a)に示すように、タイヤの替わりに地面をキャンバ角γ分傾斜させて説明する。この場合、傾斜によるタイヤの撓みのうち、最も撓みが変化する部分は、センタ部に対してw・tanγ/2変化する。
一方、図5(b)に示すように、タイヤを側面から見たとき、図5(b)中のタイヤの接地端の接線勾配はl/(2h)になるので、撓みの変化w・tanγ/2を接線勾配l/(2h)で除算することにより、キャンバ角γによって最小接地長la(=l−2hwtanγ/l)および最大接地長lb(=l+2hwtanγ/l)が計算される。lはキャンバ角γ=0における接地中心位置での接地長であり、hは接地中心とタイヤ中心との距離である。なお、接地中心位置における接地長は、キャンバ角γに対して不変な長さlを有する。
このようにキャンバ角γの付与により、図5(b)に示すように、接地形状は矩形形状から台形形状に変化する。さらに、キャンバ角γが大きくなると、接地形状は、最小接地形状la=0となって三角形形状に変化する。すなわち、接地形状は後述するηの絶対値である|η|が1より大きいとき三角形形状に変化する。このとき、接地幅wが狭くなる。
【0039】
一方、図6は、部分モデル1において、タイヤにキャンバ角が付与されたときに生じるキャンバスラストである横力Fyの発生メカニズムを説明する図である。
図6に示すように、キャンバ角γが付与されて傾斜したタイヤのタイヤホイール中心面に平行な面に投影したタイヤの状態を考える。このとき、タイヤの縦撓みによって生じるタイヤの半径方向の力のsinγ成分が、キャンバスラストである横力Fyに相当する。
縦撓みは、図中のx1を用いてl2/(2r)・x1/l・(1−x1/l)で表される。したがって、この縦たわみにスティフネスCzを乗算し、さらに、キャンバ角γをγ+η・Fy/Gmyに修正された修正キャンバ角を用いて、図3(b)に示す台形形状の接地面に沿って面積積分をすることにより、キャンバスラストである横力Fyを算出することができる。上記スティフネスCzにw・l3/(12r)を乗算した積がキャンバスティフネスCγに対応する。すなわち、Cγ=w・l3/(12r)・Czである。
【0040】
上述のように、キャンバ角γを修正するのは、図7(a)に示すようにキャンバ角γが付与されても、図7(b)に示すように、横力Fyに応じて、付与されたキャンバ角γが修正されるからである。具体的には、横力Fyに起因して生じるオーバーターニングモーメントMxによってキャンバ角が修正されるからである。なお、キャンバ角γの修正量中のηは、キャンバ角γによる接地長変化率であり、接地面内のセンタ部分の接地長l(センタ部分の接地長lはキャンバ角γに対して不変)に対する、最大接地長lbと最小接地長laの差分の比率の2分の1の値をいう。すなわち、η=(lb−la)/(2l)である。
以上の説明は、キャンバ角γが正の場合であり、図5(a),(b)において、キャンバ角γが負の場合は、laが最大接地長,lbが最小接地長となり、ηも負値となる。
【0041】
具体的には、横力Fyによる接地面の移動によってオーバーターニングモーメントMxが増加し、この増加によってキャンバ角γがどの程度修正されるかを定めるために、η・Fyは横ねじり剛性Gmyで除算される。したがって、このオーバーターニングモーメントMxによるキャンバ角γの修正量はη・Fy/Gmyとなる。ここで接地長変化率ηを乗算するのは、接地面の形状変化および接地圧がオーバーターニングモーメントMxに影響を与えることを考慮したためである。
こうして、下記式に示すように、接地面の面積積分を行うことにより、キャンバスラストである横力Fyが算出される。|η|が1より大きいか1以下であるか、によって、図4に示されるように、式(20)または式(21)が選択される。これは、|η|が1より大きいとき、台形形状から三角形形状の接地面になり、接地面の面積積分の値が変化するからである。
【0042】
【数1】

【0043】
このように、タイヤ力学モデルの部分モデル1は、式(20)、(21)に示すようにキャンバ角γを修正量η・Fy/Gmyにより修正することにより、再帰方程式となる。このため、キャンバスラストは、従来のように、キャンバ角γに応じて線形的に変化せず、非線形に変化する。
【0044】
図8は、部分モデル1において、キャンバスティフネスCγと横ねじり剛性Gmyの値を抽出するフローを示す図である。
【0045】
まず、パラメータ抽出部11は、設定された負荷荷重F、キャンバ角γ=0の条件における、接地面の接地幅w、接地長l、および接地中心とタイヤ中心との距離h(図1参照)の値をメモリ4から呼び出して取得する(ステップS10)。
【0046】
次に、パラメータ抽出部11は、キャンバスラストである横力Fyのキャンバ角γ依存性の実験データ(キャンバ角γ毎の横力Fy)をメモリ4から呼び出して取得する(ステップS20)。さらに、パラメータ抽出部11は、キャンバスティフネスCγおよび横ねじり剛性Gmyの初期値を設定する(ステップS30)。初期値の設定方法は特に制限されない。過去に決定されたキャンバスティフネスCγの値および横ねじり剛性Gmyの値を初期値として用いてもよい。
【0047】
パラメータ抽出部11は、接地幅w、接地長l、および距離hと、実験データと、キャンバスティフネスCγの初期値および横ねじり剛性Gmyの初期値とを、タイヤ力学モデル演算部12に提供し、タイヤ力学モデルの部分モデル1を演算可能な状態にする。これにより、タイヤ力学モデル演算部12は、実験データの横力Fyを用いて、部分モデル1の式(20)、(21)に従ってキャンバ角γ毎の横力Fy’を算出する(ステップS40)。算出したキャンバ角γ毎の横力Fy’は、パラメータ抽出部11に提供される。
パラメータ抽出部11は、算出されたキャンバ角γ毎の横力Fy’と、実験データの対応する横力Fyとの間で二乗残差和を算出し(ステップS50)、この二乗残差和が所定の値以下であるか否か、すなわち、横力Fy’が横力Fyに収束したか否か、を判別する(ステップS60)。
【0048】
上記判別において、横力Fy’が収束していない場合(Noの場合)、キャンバスティフネスCγ、横ねじり剛性Gmyの値が調整される(ステップS70)。値の調整は、例えばニュートン・ラフソン法を用いて行われる。
上記判別において、横力Fy’が収束する場合(Yesの場合)、パラメータ抽出部11は、設定されているキャンバスティフネスCγ、横ねじり剛性Gmyの値を、タイヤ特性を再現するタイヤ力学要素パラメータの値として決定する(ステップS80)。決定された値は、メモリ4に記憶され、出力装置7に出力される。
このような処理は、装置1においてプログラムを用いて実行される。
【0049】
図9は、部分モデル1において、キャンバスティフネスCγと横ねじり剛性Gmyの値を用いて、スリップ角α=0における横力Fyのキャンバ角γ依存性を表すタイヤ特性を算出するフローを示す図である。
【0050】
まず、タイヤ特性算出部10は、設定部9により設定されたキャンバ角γの範囲を受け、さらに、設定部9により設定されたタイヤの負荷荷重Fの条件下における接地幅w、接地長l、および距離hの値をメモリ4から呼び出して取得する(ステップS100)。さらに、タイヤ特性算出部10は、メモリ4からキャンバスティフネスCγおよび横ねじり剛性Gmyの値を呼び出して取得する(ステップS110)。
次に、タイヤ特性算出部10は、横力Fyの値を初期設定する(ステップS120)。初期設定の設定方法に制限はないが、例えば過去に算出した横力を参照して値が設定される。
【0051】
次に、タイヤ特性算出部10は、設定された各値をタイヤ力学モデル演算部12に提供し、タイヤ力学モデルの部分モデル1を演算可能な状態にする。タイヤ力学モデル演算部12は、設定されたキャンバ角γおよび設定された横力Fyを用いて部分モデル1の式(20)、(21)に従って、横力Fy’を算出する(ステップS130)。算出された横力Fy’は、タイヤ特性算出部10に提供される。
タイヤ特性算出部10は、横力Fy’と横力Fyの誤差を算出し(ステップS140)、この誤差の絶対値が所定の値以下であるか否かによって、横力Fyが収束したか否かを判別する(ステップS150)。
【0052】
上記判別の結果、横力Fyが収束していない場合(Noの場合)、タイヤ特性算出部10は横力Fyの値を調整する(ステップS160)。横力Fyの調整方法は、特に制限されないが、例えば、ニュートン・ラフソン法を用いて行われる。横力Fyが収束している場合、タイヤ特性算出部10は、横力Fyの値がタイヤ特性を表す値であるとして決定する(ステップS170)。
【0053】
次に、タイヤ特性算出部10は、すべてのキャンバ角γについて横力Fyを決定したか否かを判別する(ステップS180)。この判別において、すべてのキャンバ角γについて横力Fyを決定していない場合(Noの場合)、予め定められた刻み幅でキャンバ角γを変更して(ステップS190)、ステップS120に戻り、再度、横力Fyの初期設定を行う。
すべてのキャンバ角γについて横力Fyを決定した場合(Yesの場合)、タイヤ特性算出部10は、タイヤ特性の算出を終了し、算出結果をメモリ4に記憶させる。さらに、タイヤ特性算出部10は算出結果を出力装置7に出力させる。
このような処理は、装置1においてプログラムを用いて実行される。
【0054】
図10は、215/55R17 63Vのタイヤ(空気圧230kPa,負荷荷重4.転動速度5km/時)のキャンバスラストのキャンバ角γ依存性を示す図である。
図中の「本発明」は、取得した実験データに近似するように横ねじり剛性GmyおよびキャンバスティフネスCγ(=Cz・w・l3/(12r))の値を抽出し、これを用いて、タイヤ特性算出部10にて、キャンバスラストのキャンバ角γの依存性を算出した結果である。
従来例は、キャンバ角γに対して線形的に変化する。一方、キャンバ角γが修正量η・Fy/Gmyだけ修正された修正キャンバ角を採用したタイヤ力学モデルを用いる「本発明」は、、実測のキャンバスラストの実験データに近似した算出結果を得ることができる。
【0055】
(部分モデル2,3)
次に、部分モデル2,3について説明する。
部分モデル2、3は、上述の部分モデル1を組み込んだ、タイヤの制駆動状態におけるタイヤ特性を算出するモデルである。部分モデル2,3は、タイヤ力学モデルで力が釣り合い状態(平衡状態)にある、制動状態,駆動状態の前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMzを算出する。部分モデル2はスリップ率が制動状態であるとき用いられ、部分モデル3はスリップ率が駆動状態であるとき用いられる。
なお、タイヤ力学モデル演算部12は、力学要素パラメータの値を用いて前後力Fx、横力FyあるいはセルフアライニングトルクMzを算出する。算出結果は、メモリ4に記憶されるとともに、出力装置7に出力される。
【0056】
なお、後述する部分モデル2,3は、キャンバ角γの大小によって接地面の接地形状が台形形状、あるいは台形形状が更に進んで三角形形状になる。接地長変化率の絶対値|η|が1以下のとき接地面は台形形状となり、|η|が1より大きいとき、接地面は三角形形状となる。車両に用いる実用的なキャンバ角γの範囲において|η|は1以下であるため、以降の説明では、好適な実施形態として、|η|が1以下である例を中心に説明する。|η|が1より大きい場合、後述する式(4)は下記式(4A)に、式(6)は下記式(6A)に、式(7)は下記式(7A)に、式(8)は下記式(8A)に、式(14)は下記式(14A)に、式(16)は式(6A)に、式(17)は下記式(17A)に、式(18)は下記式(18A)に変更される。
【0057】
【数2】

【0058】
【数3】

【0059】
【数4】

【0060】
【数5】

【0061】
【数6】

【0062】
【数7】

【0063】
【数8】

【0064】
タイヤ力学モデルに用いられるタイヤ力学要素パラメータは、以下のものが例示される。
(a)タイヤトレッド部の横方向の剪断剛性によって定められる横剛性K
(b)タイヤトレッド部の前後方向(制駆動方向)の剪断剛性によって定められる前後剛性K
(c)タイヤトレッド部のタイヤ中心軸周りのねじり剛性A
(d)路面とタイヤ間の静止摩擦係数、μ
(e)路面とタイヤ間の動摩擦係数μd0,bV)、
(f)ベルト部材の横方向曲げ係数ε、
(g)タイヤのタイヤ中心軸周りのねじり剛性の逆数であるねじりコンプライアンス(1/Gmz)、
(h)キャンバスラストを生じさせるキャンバスティフネスCγ
(i)接地面の横ねじり剛性Gmy
(j)横力発生中の接地面の接地圧力分布を規定する係数n,q
(k)接地圧力分布の偏向の程度を表す係数C
(l)タイヤの接地面の中心位置の前後方向への移動の程度を示す移動係数Cxc
(m)横力発生時の実効接地長l、等である。
【0065】
ここで、横剛性K、前後剛性K、ねじり剛性Aは、それぞれタイヤトレッド部の剪断変形に対する横方向の剛性パラメータ、前後方向の剛性パラメータ、タイヤの接地中心を通り、接地面に垂直な軸周りのねじりの剛性パラメータである。横方向曲げ係数ε、ねじりコンプライアンス(1/Gmz)のGmzは、ベルト部材の横曲げ変形に対するタイヤの剛性パラメータ及びタイヤのねじり変形に対する剛性パラメータである。キャンバスティフネスCγは、図6に示す縦撓みに応じてタイヤの半径方向の力を発生させる。接地面の横ねじり剛性Gmyは、接地面における横方向に引っ張られてタイヤがねじられるときの剛性である。
なお、横力の発生する方向である横方向とは、タイヤ回転軸の軸方向であるので、タイヤが直進状態で転動する場合の横方向はタイヤの進行方向に対して直交する方向となって方向が一致するが、スリップ角が付いた場合の横方向はスリップ角分ずれる。また、タイヤ中心軸(図14(a),(b)中の軸CLをいう)は、タイヤ回転軸に直交し、かつタイヤ中心を通る、路面に垂直な軸である。
【0066】
タイヤ力学モデルの部分モデル2,3では、より具体的には、以下の処理が行われる。
図11は、制駆動方向のスリップ率Sが制動である時の処理内容を、図12は、制駆動方向のスリップ率Sが駆動である時の処理内容をそれぞれ示している。
制動の場合、キャンバスティフネスCγ、横ねじり剛性Gmy及びベルト部材の横方向曲げ係数ε、係数C、横剛性Kやねじり剛性A等の非線形パラメータおよび線形パラメータからなるタイヤ力学要素パラメータの値が設定され、キャンバ角γ、スリップ角α、制動時のスリップ率S、タイヤ走行速度V、及び前後力Fx、横力Fy、セルフアライニングトルクM、さらに、接地幅w、接地長l、距離hを入力することで、図11中の式(1)〜(8)に従って演算された前後力、横力及びセルフアライニングトルクの値(以降、前後力Fx’、横力Fy’、セルフアライニングトルクM’とする)が算出される。勿論、タイヤ特性算出部10は、入力された前後力Fx,横力Fy及びセルフアライニングトルクMの値と、算出された前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクM’の値との誤差が所定値以下、すなわち略一致した(収束した、タイヤ力学モデルで力が釣り合い状態となった)場合にのみ、前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMの値を、力の釣り合い状態を実現するタイヤの前後力、横力及びトルクの値として決定する。
なお、線形パラメータとは、式(6)〜(8)において線形の形式で表されている力学要素パラメータをいい、非線形パラメータとは、式(6)〜(8)において非線形の形式で表されている力学要素パラメータをいう。
【0067】
部分モデル2は、図13(a)に示され、さらに図11中の式(1)に示されるように、入力されたセルフアライニングトルクMとねじりコンプライアンス(1/Gmz)とによって求められるねじり戻し角を算出し、このねじり戻し角を、付与されたスリップ角αから差し引くことにより、実効スリップ角αを算出する。図13(a)は、スリップ角αが付与された際、スリップ角αによって生じるセルフアライニングトルクによってスリップ角αを減ずるようにタイヤ自身に作用し、実効スリップ角αとなっている状態を示している。このように実効スリップ角αを算出するのは、スリップ角αが比較的小さい場合、セルフアライニングトルクMは、付与されたスリップ角αを低減するようにタイヤ自身に作用しねじり戻す作用を有するからである。したがって、スリップ角αが比較的小さい場合、図13(a)に示すように、実際に付与されたスリップ角αに対して実効スリップ角αは小さくなる。
なお、図13(b)は、この実効スリップ角αによって生じる横方向変位とベルトの横曲げ変形によって生じる横方向変位の関係を示している。この内容は、式(7)に示されている。図13(c)はタイヤの接地面が前後力によって前後方向に移動することを示している。この内容は、式(3)に示されている。
【0068】
さらに、図11中の式(2)により、前後力Fxから接地圧分布の形状を規定する偏向係数qを算出する。偏向係数qは、前後力Fxが0のとき、値q0を持つ。偏向係数qとは、スリップ角α=0の直進状態の接地圧分布(図14(a)参照)が、図14(b)に示すように前後力Fxが発生して接地圧分布が進行方向前方(接地面における踏込み端)に向かって偏向した接地圧分布の形状を表すパラメータである。偏向係数qは、前後力Fxが0のとき0に設定される。この接地圧分布をp(t)(tは、図14(a),(b)中の進行方向の後方向に向かってt軸をとった場合の接地長さで規格化した座標位置)とすると、接地圧分布p(t)の形状は、図14(b)中の式(9)で表される関数Dgsp(t;n,q)で規定される。
ここで、関数Dgsp(t;n,q)中の係数nは横力発生中の接地面の接地圧分布を規定するもので、図14(c)に示すように接地圧分布の踏込み端及び蹴りだし端付近で角張る(曲率が大きくなる)ように接地圧分布を規定する係数である。また、図14(d)に示すように係数qが0から1になるにしたがって接地圧分布のピーク位置は踏込み端側に移動するように設定されている。このように係数q及び係数nは、接地圧分布の形状を規定する形状規定係数である。
【0069】
さらに、式(3)により、前後力Fxの発生により、タイヤの接地面の中心位置が前後方向に移動する量が算出される。図13(c)に示されるように、前後力Fxの発生時のタイヤの接地中心位置が前後方向へ移動する程度を表す値(xc/l)を、式(3)に従って、前後力Fxと関連づけて算出する。すなわち、制駆動方向のスリップ率が与えられたとき、タイヤ軸力として発生する前後力によってタイヤの路面に対する接地面の位置が前後方向に移動するように、発生する前後力に応じて接地面の中心位置が移動するようにモデルが構成されている。この移動量を表す(x/l)は、後述するセルフアライニングトルクMzを算出する式(8)にて用いられる。ここでlは、センタ部分の接地長である。このように式(3)においてタイヤの接地面の中心位置の移動を定めるのは、実際にタイヤ制動時の接地近傍のタイヤ変形は、図13(d)に示すように、制動時と駆動時におけるタイヤの接地面近傍の形状は互いに異なっており、制駆動により接地中心位置が移動するからである。なお、図13(d)は、195/65R15 91H(内圧230kPa、荷重4kN、走行速度60km/時)のタイヤ形状についてレーザスキャナで測定した実測結果を示す図である。
【0070】
さらに、式(4)により、スリップ率(制駆動方向のスリップ率S及びスリップ角α)が大きいときに起こる接地面内での滑り摩擦と凝着摩擦との境界位置(lh/l)が算出される。境界位置(lh/l)は、以下のように定義される。
図15(a)〜(c)に示される最大摩擦曲線は、凝着摩擦係数μに接地圧分布p(t)を乗算したものである。
踏込み端で路面と接地したタイヤのトレッド部材は、蹴りだし端に移動するにつれてスリップ角αによって徐々に路面から横方向の剪断を受け、トレッド部材に横方向剪断力(凝着摩擦力)が発生する。さらに、路面の移動速度(タイヤの走行速度)とタイヤの回転速度と差によって生じる制駆動方向のスリップ率Sによって、トレッド部材は徐々に路面から前後方向に剪断を受け、トレッド部材に前後方向剪断力(凝着摩擦力)が発生する。タイヤと路面との間に発生する剪断力は、横方向剪断力と前後方向剪断力との合力により表される。
この剪断力の合力は、徐々に大きくなって最大摩擦曲線に達すると、路面に凝着していたタイヤトレッド部材は滑り出し、滑り摩擦係数μに接地圧分布p(t)を乗算した滑り摩擦曲線に従って滑り摩擦力が発生する。図15(a)では、境界位置(lh/l)より踏込み端側の領域がタイヤトレッド部材が路面に凝着した凝着域となり、蹴りだし側の領域がタイヤトレッド部材が路面に対して滑る滑り域となる。境界位置(lh/l)は、式(4)により定まる。
【0071】
なお、スリップ角αは、横方向のスリップ率tanαと表すことで、制駆動方向のスリップ率Sと同じ無次元の単位で表すことができ、制駆動方向のスリップ率Sとともに、スリップ率として統合することができる。以下の説明では、制駆動方向のスリップ率Sとスリップ角αとを統合したスリップ率に替えて、主にスリップ角αを用いて説明する。
図15(b)は、スリップ角αが図15(a)に示すスリップ角αよりも大きくなった状態を示している。境界位置(lh/l)は図15(a)に比べて踏込み端側に移動している。さらに、スリップ角αが大きくなると、図15(c)に示すように接地面の踏込み端の位置から滑り摩擦が発生する状態となる。
【0072】
図15(a)〜(c)からわかるように、スリップ角αによって凝着域と滑り域の割合が大きく変化する。このような凝着域及び滑り域の横方向摩擦力、すなわち横力成分をタイヤ幅方向に沿って積分することによって横力Fy’を算出することができ、さらにタイヤの接地中心周りのモーメントを算出することによってセルフアライニングトルクM’を算出することができる。
同様に、前後方向についても、凝着域及び滑り域の前後方向摩擦力、すなわち前後力成分をタイヤ幅方向に沿って積分することによって前後力Fx’を算出することができる。なお、上述したように、部分モデル2,3は、いずれもキャンバ角γによって接地面が矩形から台形形状に変化するが、そのときの凝着域とすべり域との境界位置(lh/l)は、接地面内の幅方向で変化しない。すなわち、境界位置(lh/l)は、タイヤの幅方向において、一定であると、仮定されている。
【0073】
図11中の式(6)では、上述の凝着域及び滑り域に分けて前後力Fx’を算出し、さらに式(7),(8)では、実効スリップ角αを用いて横力Fy’及びトルクM’を算出する。式(6)〜(8)には、キャンバ角γによる接地長変化率ηが含まれており、キャンバ角γによる接地形状の変化が考慮されている。なお、滑り摩擦係数μdは、式(5)に示すように、滑り速度依存性(式(5)の右辺第2項)を有するように規定されている。滑り速度依存性を表す係数は、スリップ角αと制駆動方向のスリップ率Sに応じて変化する。
【0074】
次に、式(6)〜(8)についてより詳しく説明する。
式(6)は、2つの項(2つの前後力成分)の和によって前後力Fx’を算出する。第1項は積分範囲が0〜(lh/l)の積分結果であって、凝着域に発生する凝着前後力成分を表す。第2項は積分範囲が(lh/l)〜1の積分であって滑り域に発生する滑り前後力成分を表す。
式(7)では3つの項(3つの横力成分)の和によって横力Fy’を算出する。第1項は積分範囲が0〜(lh/l)の積分であって、凝着域に発生する凝着横力成分を表す。第2項は積分範囲が(lh/l)〜1の積分であって滑り域に発生する滑り横力成分を表す。第3項は、キャンバスラストの横力成分を表す。式(7)中の第1項の凝着横力成分は凝着域における横力であり、式(7)では、実効スリップ角αによって生じるトレッド部材の横方向変位がベルトの横曲げ変形によって緩和された状態を表すことによって凝着横力成分を算出する。第2項の滑り横力成分は滑り域における横力であり、式(7)では、実効スリップ角αによって生じる接地圧分布p(t)の形状を関数Dgsp(t;n,q)で表して滑り横力成分を算出する。第3項のキャンバスラストの横力成分は、図4中の式(20)に従って算出される横力と同じである。
【0075】
また、式(8)中、第1項は積分範囲が0〜(lh/l)の積分であって、凝着域に発生する凝着横力成分によって生じるトルク成分を表し、第2項は積分範囲が(lh/l)〜1の積分であって滑り域に発生する滑り横力成分によって生じるトルク成分を表す。第3項は、接地形状が台形形状になったことにより、粘着域の前後力がMz’に与える成分を、第4項は、接地形状が台形形状になったことにより、すべり域の前後力がMz’に与える成分を表す。さらに、第5項が設けられている。第5項は(lh/l)・tanαに比例した項であり、タイヤの接地面が実行スリップ角αによって横方向に移動し、この時の移動量とタイヤに生じる粘着域およびすべり域の前後力によって生じるタイヤ中心周りのトルク成分を表す。しかも、これらの項のいずれにも、キャンバ角γによって接地形状が台形形状になる効果が接地長変化率ηを通して含まれている。
【0076】
滑り域における滑り摩擦係数μdについて、前後力を算出する式(6)と横力を算出する式(7)では、同じ滑り摩擦係数を用いているが、トレッドパターンによって滑り摩擦係数が異なるように、式(6)と式(7)において、異なるパラメータとして扱ってもよい。
又、式(6)〜(8)中で用いられるβは、制駆動時における接地面の滑り域における滑り方向の角度を表し、スリップ角と制駆動方向のスリップ率とによって定められる。この滑り方向に対して摩擦力が働くため、式(6)では滑り方向に対する前後力のcos成分が、式(7)では滑り方向に対する横力のsin成分が、式(8)では、トルクに寄与する横力のsin成分がそれぞれ、前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクM’に寄与する。すなわち、この滑り方向の角度βを用いて前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクM’を算出する。滑り域における滑り方向は、制駆動方向の滑りとスリップ角αによる滑りが同時に発生するため、必ずしもスリップ角αの方向及び制駆動方向の滑りにならない。具体的には、図13(e)に示すように、タイヤの走行速度Vとタイヤの回転速度Vの向きが異なり、この向きの違いから、滑り速度Vs、滑り方向の角度βが定められる。このときの滑り方向の角度βが、式(6)〜(8)、又後述する図12中の式(16)〜(18)の括弧内に定義される。式(6)〜(8)と式(16)〜(18)におけるβの定義が異なるのは、後述するように制動時と駆動時における制駆動方向のスリップ率Sの定義が異なることによる。
【0077】
駆動時の場合、部分モデル3が用いられる。図12に示すように、制動時の場合と同様に、線形パラメータ及び非線形パラメータからなる力学要素パラメータの値が設定され、スリップ角α、キャンバ角γ、制駆動方向のスリップ率S、タイヤの走行速度V、及び前後力Fx、横力Fy、セルフアライニングトルクM、接地長l、接地幅w、距離hを入力することで、図12中の式(11)〜(18)によって処理された前後力、横力及びトルクの値(以降、前後力Fx’、横力Fy’、セルフアライニングトルクM’とする)が算出される。勿論、タイヤ特性算出部10は、入力された前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMの値と、演算され算出された前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクM’の値との誤差が所定値以下、すなわち略一致した(収束した、タイヤ力学モデルで力が釣り合い状態となった)場合にのみ、前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMの値を、力の釣り合い状態を実現するタイヤの横力及びセルフアライニングトルクの値として決定する。
【0078】
式(14)、式(15)、式(16)〜(18)のそれぞれは、図11中の式(4)、式(5)、式(6)〜(8)と異なるが、この違いは、スリップ率の定義の違いに拠るものである。具体的には、制動時のスリップ率Sは、S=(Vcosα−V)/Vcosα(タイヤの走行速度V、タイヤの回転速度V、スリップ角α)で定義され、駆動時のスリップ率Sは、S=(Vcosα−V)/Vで定義される。このため、タイヤに発生する力を考えるとき、上記スリップ率で定義されるタイヤ側の移動速度(上記定義における右辺の分母)が異なるため、式(14)、式(15)、式(16)〜(18)のそれぞれは、図11中の式(4)、式(5)、式(6)〜(8)と異なっている。その他の式は、図11中の対応する式と同じである。従って、これらの式の説明は省略する。
【0079】
図16は、スリップ角α、キャンバ角γ及び制駆動方向のスリップ率S、層構想度Vrが付与され、タイヤ力学モデルの部分モデル2,3に基づいて前後力Fx’、横力Fy’及びセルアライニングトルクM’が算出されるまでの処理ブロック図である。図16からわかるように、タイヤ力学モデルの部分モデル2,3は、前後力Fx’、横力Fy’及びセルアライニングトルクM’の算出の際、ベルトの横曲げ変形、接地圧分布の前方偏向化及び接地面の後方シフト、タイヤサイドウォールの捩じり変形、接地部分の横ねじり変形のそれぞれがフィードバックされて式(6)〜(8)又は式(16)〜(18)において算出される。なお、前後力Fx’、横力Fy’及びセルアライニングトルクM’を算出する際に用いるベルトの横曲げ変形、接地圧分布の前方偏向化及び接地面の後方シフト、タイヤサイドウォールの捩じり変形、接地面内の横ねじり変形には、付与される前後力Fx、横力Fy、セルフアライニングトルクMzが用いられる。勿論、前後力Fx’、横力Fy’及びセルアライニングトルクM’を算出する際、図3(b)に示すように、接地面がキャンバ角γにより台形形状に変化することも含まれている。
【0080】
なお、タイヤ力学モデル演算部12において算出される前後力Fx’、横力Fy’及びセルアライニングトルクM’は、付与された前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMと必ずしも一致しない。しかし、タイヤ特性算出部10あるいはパラメータ抽出部11において行なわれるシーケンス処理により、付与される前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMと算出される前後力Fx’、横力Fy’及びセルアライニングトルクM’とが略一致する(力の釣り合い状態となる)ように、前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMが探索され、タイヤ力学モデルにおいて釣り合い状態にある前後力、横力及びセルフアライニングトルクが算出される。
【0081】
図17は、タイヤ特性を算出するフローの一例を示す図である。この例は、制駆動方向のスリップ率S及び負荷荷重Fzを一定値に固定して、前後力、横力及びセルフアライニングトルクのスリップ角αの依存性を表す特性曲線を算出する例である。
タイヤ特性算出部12は、まず、線形パラメータの値及び非線形パラメータの値をメモリ4から読み出して各パラメータの値を設定する(ステップS200)。非線形パラメータには、パラメータ抽出部11により値が抽出されたキャンバスティフネスCγの値および接地面における横ねじり剛性Gmyの値が含まれている。さらに、負荷荷重Fzにおける前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMの値を初期設定する(ステップS210)。
【0082】
この後、スリップ角依存性を表す特性曲線を算出する場合、タイヤ特性算出部10は、設定されたスリップ角α=Δαとともに線形パラメータ及び非線形パラメータ及び初期設定された前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクM、さらに、種々の値をタイヤ力学モデル演算部12に付与する。タイヤ力学モデル演算部12は、付与された線形パラメータ及び非線形パラメータと、初期設定された前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMを用いて式(6)〜(8)又は式(16)〜(18)に従って前後力Fx’、横力Fy’、セルアライニングトルクM’を算出する(ステップS220)。
【0083】
こうして算出された前後力Fx’、横力Fy’、セルアライニングトルクM’はタイヤ特性算出部10に返される。タイヤ特性算出部10は、タイヤ力学モデル演算部12に付与した前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMの設定値と算出された前後力Fx’、横力Fy’、セルアライニングトルクM’の計算値との二乗残差和を算出する(ステップS230)。
次に、タイヤ特性算出部10は、算出された二乗残差和が所定値以下となって収束しているか否かを判別する(ステップS240)。収束していないと判別すると、先に設定された前後力Fx、横力Fy、セルアライニングトルクMの設定値を調整する(ステップS250)。この調整された前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMと線形パラメータ及び非線形パラメータの値とが再度タイヤ力学モデル演算部12に付与される。
【0084】
こうして、タイヤ特性算出部10は、二乗残差和が所定値以下となって収束するまで、前後力Fx、横力Fy及びトルクMの設定値を調整する。この設定値の調整は、例えばニュートン・ラフソン法に従って行なわれる。こうして、前後力Fx’、横力Fy’、セルアライニングトルクM’を決定する(ステップS260)。
【0085】
次に、タイヤ特性算出部10は、スリップ角αが所定のスリップ角以下であるか否かを判別する(ステップS270)。タイヤ特性算出部10は、スリップ角αが所定のスリップ角以下であると判別した場合、スリップ角αの条件が変更される(α→α+Δα)(ステップS280)。この後、変更されたスリップ角αにおける前後力Fx、横力Fy、トルクMの初期値が設定され(ステップS210)、前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクM’が算出され(ステップS220)、二乗残差和が算出され(ステップS230)、この二乗残差和により収束が判別される(ステップS240)。こうして、スリップ角αが所定スリップ角となるまで繰り返し変更される(ステップS270)。このスリップ角の変更の度に、タイヤ力学モデル演算部12は、前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクM’を算出し、タイヤ特性算出部10は、収束する前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMを決定する。決定された前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMのデータはメモリ4に記憶され、出力装置7に出力される。
このような処理は、装置1においてプログラムを用いて実行される。
【0086】
図18(a),(b)〜図20(a),(b)は、パラメータ抽出部11で値が抽出されたキャンバスティフネスCγの値と接地面の横ねじり剛性Gmyの値と、メモリ4に記憶されている他のタイヤ力学要素パラメータの値を用いて、キャンバ角γ=0度、キャンバ角γ=+4度、キャンバ角γ=−4度の条件下、スリップ角度αを−20度〜+20度の範囲で設定して、横力Fy及びセルフアライニングトルクMを算出した結果である。メモリ4に記憶されるタイヤ力学要素パラメータの値は、予めキャンバ角γ=0において取得したものである。キャンバスティフネスCγの値と接地面の横ねじり剛性Gmyの値以外のタイヤ力学要素パラメータの値は、例えば、特開2008−49725号公報に記載されている方法を用いて予め取得することができる。
【0087】
図18(a),(b)〜図20(a),(b)の例では、205/50R16 89Vのタイヤを、空気圧230kPa、負荷加重5.72kN、走行速度80km/時、スリップ率S=0、キャンバ角γ=0の条件下、測定して得られたタイヤ特性の実験データ(スリップ角依存性のデータ)からタイヤ力学要素パラメータの値を取得した。タイヤ力学要素パラメータの値の取得方法は、特開2008−49725号公報に記載されている方法を用いて行った。さらに、スリップ角α=0、スリップ率S=0の条件下、キャンバ角γを変化させて得られたキャンバスラストのキャンバ角依存性を示すタイヤ特性の実験データからキャンバスティフネスCγの値と横ねじり剛性Gmyの値を抽出した。抽出したキャンバスティフネスCγの値と横ねじり剛性Gmyを含むタイヤ力学要素パラメータの値を用いて、キャンバ角γ=0、±4度の条件下、横力Fy及びセルフアライニングトルクMを算出した。このようなタイヤ特性の算出結果は、メモリ4に記憶され、さらに出力装置7に出力される。なお、図中、「+」表示は実験データであり、タイヤ特性算出部10で得られたタイヤ特性の算出結果は実線で示されている。
【0088】
図18(a),(b)〜図20(a),(b)によると、キャンバ角γ=0では、横力Fy及びセルフアライニングトルクMともに実験データ(計測値)に極めてよく近似していることがわかる。キャンバ角γ=±4度では、タイヤ特性として重要なスリップ角α=−5度〜+5度の範囲で比較的良好に実験データに近似していることがわかる。
【0089】
図21(a)〜(c)はそれぞれ、図18(a),(b)〜図20(a),(b)の例と同様の方法によりタイヤ力学要素パラメータの値を取得して、キャンバ角γ=0、+4度、−4度における横力Fy及び前後力Fxのデータを纏めた図である。このようなタイヤ特性の算出結果は、メモリ4に記憶され、出力装置7に出力される。
【0090】
このように、装置1は、図7(b)に示すように、横力に応じて、付与されたキャンバ角が修正された修正キャンバ角を用いることにより、キャンバスラストのキャンバ角依存性の実験データをよく再現することができる。このため、装置1は、タイヤ力学モデルを用いて、キャンバ角が付与された条件下のタイヤ特性(コーナリング特性、制駆動特性、およびこれらの複合特性)を比較的再現良く算出することができる。
【0091】
以上、本発明のタイヤ横力算出方法および装置、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法および装置、タイヤ特性算出方法および装置、および、プログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0092】
1 装置
2 CPU
3 バス
4 メモリ
5 入力操作系
6 インターフェース
7 出力装置
8 モジュール群
9 設定部
10 タイヤ特性算出部
11 パラメータ抽出部
12 タイヤ力学モデル演算部
13 車両シミュレーション部
14 統合・管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出する算出方法であって、
横力が算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出するステップと、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ横力算出方法。
【請求項2】
前記付与されたキャンバ角から前記修正キャンバ角を求めるために用いる修正量は、前記付与されたキャンバ角における、タイヤ接地長のタイヤ幅方向変化率に比例し、かつ、前記横力に比例する量である、請求項1に記載のタイヤ横力算出方法。
【請求項3】
地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出する際に用いるキャンバ剛性パラメータの値を抽出する方法であって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するステップと、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルで用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出するステップと、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力するステップと、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ剛性パラメータの値の抽出方法。
【請求項4】
前記付与されたキャンバ角から前記修正キャンバ角を求めるために用いる修正量は、前記付与されたキャンバ角における、タイヤ接地長のタイヤ幅方向変化率に比例し、かつ、前記横力に比例する量である、請求項3に記載のタイヤ剛性パラメータの値の抽出方法。
【請求項5】
地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力をコンピュータに算出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値をコンピュータに設定させる手順と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を前記コンピュータに算出させて出力させる手順と、を有し、
前記タイヤ力学モデルを用いて前記横力が算出されるとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角が用いられる、ことを特徴とするプログラム。
【請求項6】
地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出する算出装置であって、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定する設定部と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出する算出部と、を有し、
前記算出部は、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ横力算出装置。
【請求項7】
地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出するときに用いるキャンバ剛性パラメータの値を、コンピュータに抽出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データをコンピュータに取得させる手順と、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて、前記コンピュータに抽出させる手順と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力させる手順と、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするプログラム。
【請求項8】
地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出するときに用いられるキャンバ剛性パラメータの値を抽出する装置であって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するデータ取得部と、
横力が算出可能なタイヤ力学モデルが用いるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出する抽出部と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力する出力部と、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ剛性パラメータの値の抽出装置。
【請求項9】
複数のタイヤ力学要素パラメータを用いたタイヤ力学モデルに基づいて、キャンバ角が付与された条件におけるタイヤのコーナリング特性および/または制駆動特性を算出するタイヤ特性算出方法であって、
タイヤ力学モデルに用いるタイヤ力学要素パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を算出するステップと、を有し、
前記タイヤ力学要素パラメータは、請求項3または4に記載の方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む、ことを特徴とするタイヤ特性算出方法。
【請求項10】
前記コーナリング特性および/または制駆動特性を算出するとき、前記タイヤ力学モデルでは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角が用いられる、請求項9に記載のタイヤ特性算出方法。
【請求項11】
複数のタイヤ力学要素パラメータを用いたタイヤ力学モデルに基づいて、キャンバ角が付与された条件におけるタイヤのコーナリング特性および/または制駆動特性をコンピュータに算出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
タイヤ力学モデルが用いるタイヤ力学要素パラメータの値をコンピュータに設定させる手順と、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を前記コンピュータに算出させ、出力させる手順と、を有し、
前記タイヤ力学要素パラメータは、請求項3または4に記載の方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む、ことを特徴とするプログラム。
【請求項12】
複数のタイヤ力学要素パラメータを用いたタイヤ力学モデルに基づいて、キャンバ角が付与された条件におけるタイヤのコーナリング特性および/または制駆動特性を算出する装置であって、
前記タイヤ力学要素パラメータの値を設定する設定部と、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を算出する算出部と、を有し、
前記タイヤ力学要素パラメータは、請求項3または4に記載の方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む、ことを特徴とするタイヤ特性算出装置。
【請求項13】
請求項9または10に記載のタイヤ特性算出方法で算出されたコーナリング特性および/または制駆動特性を評価する評価ステップと、
この評価結果に応じて、前記タイヤ力学要素パラメータの値を実現するタイヤ形状あるいはタイヤ構成部材を変更する設計ステップと、を有することを特徴とするタイヤの設計方法。
【請求項14】
請求項9または10に記載のタイヤ特性算出方法で算出されたコーナリング特性および/または制駆動特性を取得するステップと、
車両を再現した車両モデルに、前記コーナリング特性および/または制駆動特性を適用して車両の運動特性を解析するステップと、を有することを特徴とする車両の運動解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−116151(P2011−116151A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272733(P2009−272733)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】