説明

タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたタイヤ部材を有するタイヤ

【課題】転がり抵抗を低減させ、引裂強さおよび耐屈曲亀裂成長性を向上させることができるタイヤ用ゴム組成物ならびにそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】エポキシ化天然ゴムの水素添加物をゴム成分中に3〜100重量%含有するタイヤ用ゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたタイヤ部材を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ部材として必要なゴム物性としては、優れた引張強さおよび引裂強さ(耐クラック性)、耐老化防止性、耐屈曲疲労性(特に耐屈曲亀裂成長性)が必要となる。これらの物性をさらに改善させるために、ブタジエンゴム(BR)等を混合し、さらに、補強性および強度を改善するためにカーボンブラックが補強用フィラーとして用いられてきた。
【0003】
しかし、近年、とくに自動車の低燃費化が要求されており、タイヤについてもさらなる転がり抵抗の低減化が求められている。例えば、フィラーとしてカーボンブラックの他にシリカや炭酸カルシウム等の白色充填剤を併用することにより、タイヤ全体の転がり抵抗を低減させる試みがなされている。特に、空気入りタイヤの中でも、高性能タイヤを製造する場合、特にタイヤ全体の転がり抵抗を低減することが要求される。しかしながら、シリカや炭酸カルシウム等の白色充填剤は分散性が悪く、引張強さや引裂強さなどの強度の点で劣るという欠点があった。
【0004】
そのため、シリカを配合したゴム組成物に天然ゴム(以下、NRともいう)よりガラス転移温度が高いエポキシ化天然ゴム(以下、ENRともいう)をゴム成分中に配合することにより、ENR中のエポキシ基とシリカの水酸基との相互作用により、シリカの分散性を向上させ、その結果、機械的強度や耐摩耗性を得るということが試みられている。しかしながら、ENRを配合すると、ヒステリシスロスが大きく、トレッドにおけるウェットグリップ性能に優れている反面、転がり抵抗特性が不充分であるという欠点があった。また、シリカとENRを配合することによって、天然ゴムに比べて耐熱性および耐久性が低下するという問題点があった。
【0005】
また、ウェットグリップ性能の向上と転がり抵抗の低減を両立したトレッド用ゴム組成物を得るために、特許文献1では、ENRをルイス酸、アミン化合物、チオール化合物、アミド化合物またはイミダゾール化合物と反応させてエポキシ基の開環を行うことにより得られる改質ENRをゴム成分中に含有する旨が記載されている。しかしながら、特許文献1の改質ENRでは、エポキシ基のみを選択的に開環させることは難しく、ポリマーの低分子量化を避けることができないという問題点があった。
【0006】
また、環境問題が重視されるようになり、CO2排出抑制の規制が強化され、また、石油資源は有限であって供給量が年々減少していることから、将来的に石油価格の高騰が予測され、カーボンブラックなどの石油資源を含む配合物の使用には限界がみられる。
【0007】
このように、フィラーについては、石油資源から得られるカーボンブラックに替わり、石油外資源から得られるシリカや炭酸カルシウム等を積極的に使用していくことが必要となってくる。
【0008】
特許文献2には、天然ゴムに対して、フィラーとしてシリカを高充填させた空気入りタイヤが開示されているが、サイドウォールが充分な耐屈曲疲労性(特に、耐屈曲亀裂成長性)や引裂強さを有しないため、耐久性を考慮した場合、実用化するのは困難であった。
【0009】
【特許文献1】特開2004−359773号公報
【特許文献2】特開2003−63206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、転がり抵抗を低減させ、引裂強さおよび耐屈曲亀裂成長性を向上させることができるタイヤ用ゴム組成物ならびにそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ENRの水素添加物をゴム成分中に3〜100重量%含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0012】
ENRの水素添加物の水素化添加率は、20〜100%であることが好ましい。
【0013】
ENRの水素添加物の重量平均分子量は、100,000〜1,500,000であることが好ましい。
【0014】
さらに、前記タイヤ用ゴム組成物は、シリカ、炭酸カルシウムおよび水酸化アルミニウムよりなる群から選ばれる1種以上の充填剤をゴム成分100重量部に対して、10〜90重量部含有することが好ましい。
【0015】
前記タイヤ用ゴム組成物のENRの水素添加物は、有機溶媒に溶解させる工程、および水素化触媒の存在下で、ENRと水素を反応させて得られることが好ましい。
【0016】
前記タイヤ用ゴム組成物のENRの水素添加物は、ENRラテックスを水素化触媒の存在下で、水素と反応させて得られることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記のタイヤ用ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたタイヤに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ENRの水素添加物を含有することで、転がり抵抗を低減させ、引裂強度および耐屈曲亀裂成長性を向上させることができるタイヤ用ゴム組成物ならびにそれを用いたタイヤ部材を有するタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ENRの水素添加物を含有する。
【0020】
ENRの水素添加物の配合量は、ゴム成分中、3重量%以上であり、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。ENRの水素添加物の配合量が3重量%未満であると、耐熱性や耐久性の向上が望めない傾向がある。また、ENRの水素添加物の配合量は、ゴム成分中、100重量%以下であり、90重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましく、60重量%以下が特に好ましい。
【0021】
ENRのエポキシ化は、市販のENRを用いてもよいし、天然ゴムをエポキシ化して用いてもよい。天然ゴムをエポキシ化する方法としては、特に限定されないが、クロロヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキド法、過酸法などの方法によって行うことができる。具体的には、例えば、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法などがあげられる。
【0022】
ENRのエポキシ化率は、3モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましく、15モル%以上が特に好ましい。エポキシ化率が3モル%未満では、改質の効果が小さくなる傾向がある。また、ENRのエポキシ化率は、80モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。エポキシ化率が80モル%をこえると、ポリマーがゲル化する傾向がある。
【0023】
ENRの水素添加物とは、ENRに水素付加反応を起こさせた化合物をいい、ENR中のエポキシ基はできるだけ変化させずに、二重結合を減少させた構造を有し、エポキシ化されていない炭素−炭素二重結合についても水素化され二重結合が減少する。そのため、二重結合による酸化反応は抑制されるため、補強性、耐熱性、耐オゾン性が向上する。
【0024】
ENRの水素添加物の水素添加率は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。ENRの水素添加物の水素添加率が20%未満であると、通常のENRと比較しても大きな物性の差がみられず、さらに、耐オゾン性、耐屈曲性の向上効果が得られない傾向がある。また、ENRの水素添加物の水素添加率は100%でもよいが、90%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0025】
ENRの水素添加物の重量平均分子量(以下、Mwともいう)は、100,000以上が好ましく、500,000以上がより好ましく、700,000以上がさらに好ましい。ENRの水素添加物のMwが、100,000未満であると、タイヤ用のゴム材料としての物性を保てない傾向がある。また、ENRの水素添加物のMwは大きくても問題はないが、1,500,000以下が好ましい。
【0026】
前記ゴム組成物は、さらに、ジエン系ゴムを含んでいてもよい。
【0027】
ジエン系ゴムとしては、たとえば、NR、ENR、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などのENRの水素添加物以外のゴムがあげられるが、石油外資源であり、環境にやさしいため、NR、ENRおよびそれらの変性体が好ましく、NRがより好ましい。
【0028】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、さらに、充填剤を含むことが好ましい。
【0029】
充填剤としては、たとえば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、クレー、マイカ、アルミナ、タルクなどがあげられ、これらの充填剤はとくに制限はなく、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、低コストであり、補強性および低燃費性を向上させられる点、ENRの水素添加物中のエポキシ基とシリカの水酸基のような極性基との相互作用するため良好な分散性が得られる点から、シリカ、炭酸カルシウムおよび水酸化アルミニウムよりなる群から選ばれる1種以上の充填剤が好ましく、シリカがより好ましい。
【0030】
シリカ、炭酸カルシウムおよび水酸化アルミニウムよりなる群から選ばれる1種以上の充填剤の添加量は、ゴム成分100重量部に対して、10重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましく、30重量部以上がさらに好ましい。シリカの添加量が、10重量部未満であると、補強効果が弱い傾向がある。また、充填剤の添加量は、ゴム成分100重量部に対して、90重量部以下が好ましく、85重量部以下がより好ましく、80重量部以下がさらに好ましい。充填剤の添加量が、90重量部をこえると、充填剤の分散不良により物性の低下が著しい傾向がある。
【0031】
また、充填剤としてシリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。
【0032】
前記シランカップリング剤としては、たとえば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシランなどがあげられ、これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
シリカおよびシランカップリング剤を配合する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100重量部に対して0.1重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましく、1重量部以上がさらに好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.1重量部未満では、シリカと充分に反応せず、補強性が向上しない傾向がある。
【0034】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、ENRの水素添加物、ジエン系ゴム、充填剤およびシランカップリング剤以外にも、従来タイヤ工業で使用される配合剤、たとえば、ステアリン酸、酸化亜鉛、各種老化防止剤、ワックスなどの軟化剤、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを配合することができる。
【0035】
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるENRの水素添加物は、ENRを有機溶媒に溶解させる工程、および水素化触媒の存在下で、エポキシ化天然ゴムと水素を反応させる工程を含む製造方法と、エポキシ化天然ゴムラテックス(ENRラテックス)を水素化触媒の存在下で、水素と反応させる工程を含む製造方法によって得られる。
【0036】
有機溶媒中でENRの水素添加物を製造する際に用いる有機溶媒としては、トルエンのほか、例えば、アルコール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、塩化メチレン、クロロホルム、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの極性溶媒があげられる。
【0037】
ENRを有機溶媒に溶解させた際の溶液のENRの濃度は、2重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。溶液の濃度が、2重量%未満であると、ゴムを回収することができず、工業的に生産することが困難である傾向がある。
【0038】
ENRを水素付加反応させるための水素化触媒としては、炭素−炭素二重結合に水素添加に一般的に用いられる均一系触媒および不均一系触媒を用いることができる。均一系触媒としては、周期表第8族、第9族また第10族の金属元素を含む錯体触媒があげられ、具体的には、(クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム)(RhCl(PPH33)などのロジウム錯体触媒があげられる。また、炭酸カルシウム、カーボン担持触媒を用いれば、金属量を減らすことができるため、コスト低減の点で好ましい。また、不均一系触媒としては、塩化コバルト(CoCl2)、塩化パラジウム(PdCl2)などがあげられる。
【0039】
有機溶媒中でENRの水素添加物を製造する際に、ENRを水素付加反応させるための水素ガスの圧入の際の圧力は、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましく、5MPa以上がさらに好ましい。水素ガスの圧入の際の圧力が1MPa未満であると、反応が進行しない傾向がある。また、水素ガスの圧入の際の圧力は、10MPa以下が好ましい。水素ガスの圧入の際の圧力が10MPaをこえると、反応器の技術的に困難である傾向がある。
【0040】
有機溶媒中でENRの水素添加物を製造する際の反応温度は、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。反応温度が30℃未満であると、温度の制御が難しく、水添率のバラつきが多く、反応が充分に進行しない傾向がある。また、反応温度は、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。反応温度が100℃をこえると、ゴムの低分子化が進行する傾向がある。
【0041】
ENRラテックスを水素化触媒の存在下で、水素と反応させる場合におけるENRラテックスは、ENRを蒸留水に分散させることによって得られる。ENRラテックス中のENRの固形分濃度は、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。ENRの固形分濃度が、10重量%未満であると、生産時にゴムを回収することができない傾向がある。また、ENRラテックス中のENRの固形分濃度は、60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。ENRの濃度が、60重量%をこえると、反応中にゴムの凝固がおきる傾向がある。
【0042】
また、ENRラテックスを調製する際に、界面活性剤を添加することにより、ENRラテックスの分散度を向上させることができる。界面活性剤の添加量としては、ENRラテックス100重量部に対して、0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。界面活性剤の添加量が0.5重量部未満であると、反応中にゴムが凝固する傾向がある。また、界面活性剤の添加量は、2重量部以下が好ましい。界面活性剤の添加量が2重量部をこえると、水添率が低下したり、反応時間がかかる傾向がある。
【0043】
界面活性剤としては、具体的には、ノニオン系界面活性剤などがあげられる。
【0044】
ENRラテックスの水素付加反応を行う際の水素化触媒としては、特に限定されないが、塩化パラジウムなどのパラジウム系の固体触媒がより好ましい。
【0045】
ENRラテックスの水素付加反応を行う際の水素の圧力は、1MPa以上が好ましく、5MPa以上がより好ましく、8MPa以上がさらに好ましい。水素の圧力が、1MPa未満であると、反応が進行しない、反応に時間がかかる傾向がある。
【0046】
ENRラテックスの水素付加反応を行う際の反応温度は、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。反応温度が30℃未満であると、反応が進行しない、水添率のバラつきが多い傾向がある。また、反応温度は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。反応温度が100℃をこえると、ゴムの低分子量化を引き起こす傾向がある。
【0047】
水素付加反応後のENR溶液またはENRラテックスは、撹拌しながらメタノール、などを少量ずつ添加することによって固体ゴムを析出させる。
【0048】
本発明は、前記のタイヤ用ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたるタイヤにも関する。タイヤ部材としては、トレッド、サイドウォール、チェーファー、インナーライナー、クリンチ、ビード、ブレーカー、ベルト、カーカス、などがあげられるが、特に耐摩耗性を向上させ、転がり抵抗を低減させることができるという観点から、トレッドの用途として用いることが特に好ましい。
【0049】
本発明のタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、必要に応じて前記配合剤を配合した本発明のタイヤ用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状にあわせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより本発明のタイヤを得る。
【実施例】
【0050】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0051】
以下に、実施例および比較例で使用した薬品をまとめて示す。
NR:RSS♯3
ENR1:クンプーランガスリー社(Kumpulan Guthrie Berhad)(マレーシア)製のエポキシ化天然ゴム、ENR−50(エポキシ化率:50重量%)
ENR2:クンプーランガスリー社(Kumpulan Guthrie Berhad)(マレーシア)製のエポキシ化天然ゴム、ENR−25(エポキシ化率:25重量%)
H−ENR:下記作製方法により作製
クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(RhCl(PPH33):和光純薬工業(株)製のクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(RhCl(PPH33
塩化パラジウム(PdCl2):和光純薬工業(株)製の一級試薬
塩酸:ナカライテスク(株)製の特級試薬
水酸化ナトリウム:ナカライテスク(株)製の特級試薬
界面活性剤:花王(株)製のノニオン系化合物
メタノール:ナカライテスク(株)製の特級試薬
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3(BET比表面積:175m2/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(ISAF)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸「桐」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤BBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0052】
<有機溶媒中でのエポキシ化天然ゴムの水素添加物(H−ENR)の作製>
製造例1
固形エポキシ化天然ゴム(ENR−50、29mmol、重量平均分子量(Mw):100,000)50gをトルエンに溶解させ、10重量%のトルエン溶液を作製した。充分に水素置換したオートクレーブ(日東高圧(株)製)内で、耐熱容器に該トルエン溶液1kgおよび触媒RhCl(PPH33(クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム)50g(0.17mmol)を添加し、水素ガスを圧入(圧力:7MPa)し、オートクレーブ内の温度を70℃に調整し、2時間撹拌しながら水素添加率(以下、水添率ともいう)が25%になるように水素添加反応を行った。その後、撹拌しながら反応後のトルエン溶液にメタノールを少量ずつ、完全に固体ゴムが析出するまで添加した。得られた固形ゴムを60℃の条件下で24時間真空乾燥させ、H−ENR1(水素添加率が25%、Mwが500,000)を得た。得られたH−ENRは、1H−NMR(バリアン製)により水添率を測定し、GPC(東ソー(株)製)により重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0053】
製造例2
製造例1において、水素ガスを圧入する際に、触媒RhCl(PPH33の添加量を68gに換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR2(水素添加率が50%、Mwが510,000)を得た。
【0054】
製造例3
製造例1において、水素ガスを圧入する際に、触媒RhCl(PPH33の添加量を95gに換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR3(水素添加率が70%、Mwが510,000)を得た。
【0055】
製造例4
製造例1において、水素ガスを圧入する際に、触媒RhCl(PPH33の添加量を120gに、オートクレーブ内の温度を80℃に換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR4(水素添加率が94%、Mwが480,000)を得た。
【0056】
<エポキシ化天然ゴムラテックスの水素添加物(H−ENR)の作製>
製造例5
エポキシ化天然ゴム(ENR−50、29mmol、重量平均分子量(Mw):100,000)1kgに蒸留水2kgを加えて室温で撹拌し、固形分濃度10重量%のENRラテックスを調整した。また、別の容器に塩化パラジウム(PdCl2)100gに対し、蒸留水1kgを加えPdCl2溶液とした。
【0057】
2000mLのガラス容器に、固形分濃度10重量%のENRラテックス(10ml)および界面活性剤(0.02g)を加え、ガラス容器にパラフィンフィルムで栓をし、ガラス容器内にアルゴン(Ar)を流し込み、15分かけてArをバブリングした後、PdCl2水溶液(3.4g、1.9×10-4mol)を加えた。その後、撹拌しながら、0.5Nの塩酸または0.5Nの水酸化ナトリウムを用いて、pH5〜7に調整した後、さらに5分間Arでバブリングし、100mLオートクレーブ(日東高圧(株)製)を用いて、反応温度70℃、水素圧40〜70MPaで24時間撹拌することでH−ENRを調製した。なお、30ccのオートクレーブにオープン系(酸素雰囲気下)で材料を仕込み、3回チッ素でパージし、所定の温度のオイルバスにセットした時点で反応開始とした。
【0058】
反応後のラテックスに撹拌しながらメタノールを少量ずつ、完全に固体ゴムが析出するまで添加した。得られた固形ゴムを24時間減圧乾燥(2〜3mmHg/40℃)させ、H−ENR5(水素添加率が25%、Mwが750,000)を得た。
【0059】
製造例6
製造例5において、オートクレーブ内で反応させる際に、塩化パラジウム水溶液の添加量を8.8gに換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR6(水素添加率が50%、Mwが700,000)を得た。
【0060】
製造例7
製造例5において、オートクレーブ内で反応させる際に、塩化パラジウム水溶液の添加量を15.1gに換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR7(水素添加率が70%、Mwが710,000)を得た。
【0061】
製造例8
製造例5において、オートクレーブ内で反応させる際に、塩化パラジウム水溶液の添加量を20gに、オートクレーブ内の温度を85℃に換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR8(水素添加率が94%、Mwが690,000)を得た。
【0062】
製造例9
製造例4において、ENR−50をENR−25(29mmol、重量平均分子量(Mw):680,000)に換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR9(水素添加率が94%、Mwが600,000)を得た。
【0063】
製造例10
製造例8において、ENR−50をENR−25に換えた以外は、同様にして水素添加反応を行い、H−ENR10(水素添加率が94%、Mwが650,000)を得た。
【0064】
実施例1〜12および比較例1〜4
表1および2の配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を充填率が58%になるように充填し、80rpmで140℃に到達するまで3〜8分間混練りして混練り物を得た。さらに、混練り物をいったん排出した後、得られた混練り物にシリカおよびシランカップリング剤を充填剤が58%になるように添加して、混練機内の温度が140℃になるまで3〜8分間混練りした。
【0065】
次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤BBSを添加して50℃の条件下で3分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物をそれぞれの評価に必要なサイズに成形し、160℃の条件下で20分間プレス加硫することにより加硫ゴム組成物を得た。
【0066】
なお、実施例および比較例のゴム組成物の各物性は、以下の方法により測定した。
【0067】
<粘着性試験>
(株)東洋精機製作所製のPICMA・タックテスタを用いて、上昇スピード30mm/min、測定時間2.5秒間の条件下で、温度23℃、湿度55%での未加硫ゴム組成物の粘着力(N)を測定した。さらに、基準配合の粘着性指数を100とし、下記計算式により、粘着力を指数表示した。粘着性指数が大きいほど粘着力が大きく、優れていることを示す。なお、基準配合は比較例1とした。
(粘着性指数)=(各配合の粘着力/基準配合の粘着力)×100
【0068】
<引裂試験>
JIS K 6252「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム―引裂強さの求め方」に準じて、加硫ゴム組成物から成形した切り込み無しのアングル形試験片を用いることにより、引裂強さ(N/mm)を測定し、比較例1の引裂強度指数を100とし、下記計算式により、引裂強度を指数表示した。引裂強度指数が大きいほど、引裂強度が大きく、好ましいことを示す。
(引裂強度指数)=(各配合の引裂強度)
/(比較例1の引裂強度)×100
【0069】
<フィラーの分散>
加硫ゴム組成物として、2mm×130mm×130mmのゴムスラブシートを作製し、そこから測定用試験片を切り出し、JIS K 6812「ポリオレフィン管、継手及びコンパウンドの顔料分散又はカーボン分散の評価方法」に準じて、加硫ゴム組成物中のシリカの凝集塊をカウントして、分散率(%)をそれぞれ算出して、基準配合の分散率を100として、分散率をそれぞれ指数表示した。フィラー分散指数が大きいほどフィラーが分散し、優れることを示す。
【0070】
<硬度>
JIS K 6253「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に基づき、タイプAデュロメーターを用いて、加硫ゴム組成物の硬度を測定し、基準配合である比較例1のゴム硬度指数を100として、下記計算式により、ゴム硬度を指数表示した。
(ゴム硬度指数)=(各配合のゴム硬度/基準配合のゴム硬度)×100
【0071】
<耐オゾン性試験>
JIS K 6259「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−耐オゾン性の求め方」に基づき、動的オゾン劣化試験を行い、往復運動の周波数0.5±0.025Hz、オゾン濃度50±5pphm、試験温度40℃、引張歪20±2%の条件下で、48時間試験した後の亀裂(クラックの発生の有無)の状態を観察することで、耐オゾン性を評価した。なお、評価方法は、JIS K 6259に記載の方式にしたがい、亀裂の数と大きさを表した。なお、アルファベット(A、BおよびC)は、Aが亀裂の数が少なく、Bは亀裂の数がやや多く、Cが亀裂の数が多いことを示し、数字は、大きいほど、亀裂の大きさが大きいことを示し、「なし」は、クラックが発生しなかったことを示す。
【0072】
<粘弾性試験>
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%および周波数10Hzの条件下で加硫ゴムスラブシートの損失正接(tanδ)を測定し、比較例1の転がり抵抗指数を100とし、下記計算式により、転がり抵抗を指数表示した。転がり抵抗指数が大きいほど、転がり抵抗が低減され、好ましいことを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0073】
上記試験結果を表1および2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化天然ゴムの水素添加物をゴム成分中に3〜100重量%含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
エポキシ化天然ゴムの水素添加物の水素化添加率が20〜100%である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
エポキシ化天然ゴムの水素添加物の重量平均分子量が100,000〜1,500,000である請求項1または2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
さらに、シリカ、炭酸カルシウムおよび水酸化アルミニウムよりなる群から選ばれる1種以上の充填剤をゴム成分100重量部に対して、10〜90重量部含有する請求項1、2または3記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
エポキシ化天然ゴムの水素添加物が、有機溶媒に溶解させる工程、および水素化触媒の存在下で、エポキシ化天然ゴムと水素を反応させる工程を含む製造方法により得られる請求項1、2、3または4記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
エポキシ化天然ゴムの水素添加物が、エポキシ化天然ゴムラテックスを水素化触媒の存在下で、水素と反応させる工程を含む製造方法により得られる請求項1、2、3または4記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載のタイヤ用ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたタイヤ。

【公開番号】特開2008−308601(P2008−308601A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158543(P2007−158543)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】