説明

タイヤ用ゴム組成物および空気入りタイヤ

【課題】ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能をバランスよく改善できるタイヤ用ゴム組成物、およびこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】スチレンブタジエンゴムを60〜100質量%含有するゴム成分と、(a)フェノール系化合物、(b)テルペン系化合物および(c)芳香族ビニル系化合物を共重合して得られた樹脂とを含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、およびそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車用タイヤに使用されるゴム組成物(特に、トレッド用ゴム組成物)は、走行時におけるチャンキング(部分的なゴムの剥離)の発生を抑制するため、高い機械的強度(耐チャンキング性能)が求められる。二輪車用タイヤに使用されるゴム組成物には、他にもドライグリップ性能、ウェットグリップ性能等、種々の性能が要求され、これらの性能を確保するため、従来より様々な工夫がなされている。
【0003】
その中で、レジンを配合することによりグリップ性能を向上させることは広く知られており、フェノール系樹脂などが好適に使われている(特許文献1)。しかし、ドライグリップ性能に特化したゴム組成物では、ウェットグリップ性能を犠牲にする傾向があるため、路面状況の変化に充分に対応できないという問題があった。さらに、グリップ性能に特化したゴム組成物では、耐チャンキング性能を犠牲にする傾向があった。
【0004】
ウェットグリップ性能を改善するために、これまでレジンとしてスチレンやα−メチルスチレンなどのオリゴマーや、テルペン系樹脂を添加する技術が知られている。
【0005】
スチレンやα−メチルスチレンなどのオリゴマーを配合する場合、ウェットグリップ性能の改善は添加量に依存し、添加量を増やすと、ウェットグリップ性能は向上するが、ドライグリップ性能、耐チャンキング性能が低下するという問題点がある。また、テルペン系樹脂は最適な量では耐チャンキング性能の改善効果があるものの、ウェットグリップ性能の向上効果はスチレンやα−メチルスチレンなどのオリゴマー程の効果がなく不十分である。また、充分なドライグリップ性能も得られない傾向がある。一方、フェノール系樹脂を配合する場合、良好なドライグリップ性能が得られるものの、充分なウェットグリップ性能、耐チャンキング性能が得られないという問題点がある。
【0006】
そこで、これらの樹脂をブレンドすることで、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能のバランスが向上することが考えられるが、それぞれの樹脂のポリマーへの相溶性が異なるために、それぞれの樹脂が均一にポリマーに分散することは困難であり、単純なブレンドで十分に性能向上をさせることはできていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−350535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能をバランスよく改善できるタイヤ用ゴム組成物、およびこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、スチレンブタジエンゴムを60〜100質量%含有するゴム成分と、(a)フェノール系化合物、(b)テルペン系化合物および(c)芳香族ビニル系化合物を共重合して得られた樹脂とを含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0010】
フェノール系化合物(a)がフェノールおよび/またはアルキルフェノールであり、テルペン系化合物(b)が水酸基を持たない環状不飽和炭化水素であり、芳香族ビニル系化合物(c)がスチレンおよび/またはアルキル置換スチレンであることが好ましい。
【0011】
テルペン系化合物(b)がα−ピネン、β−ピネン、3−カレン、リモネンおよびジペンテンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
樹脂の配合量が、ゴム成分100質量部に対して5〜50質量部であることが好ましい。
【0013】
上記樹脂100質量%中のフェノール系化合物(a)の共重合割合が5〜10質量%、テルペン系化合物(b)の共重合割合が70〜85質量%、芳香族ビニル系化合物(c)の共重合割合が10〜20質量%であることが好ましい。
【0014】
上記タイヤ用ゴム組成物は、さらに、カーボンブラックを含むことが好ましい。
【0015】
上記タイヤ用ゴム組成物は、JIS K6251:2010に基づいて、試験片としてダンベル状3号形試験片を使用し、23℃雰囲気下において引張試験を実施して測定した破断強度TB(MPa)、破断時伸びEB(%)から算出されるTB×EB/2が3500以上であることが好ましい。
【0016】
上記タイヤ用ゴム組成物は、トレッド用ゴム組成物として用いられることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた二輪車用タイヤに関する。
【0018】
上記二輪車用タイヤは、モトクロス用タイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定量のスチレンブタジエンゴムと、(a)フェノール系化合物、(b)テルペン系化合物および(c)芳香族ビニル系化合物を共重合して得られた樹脂とを含有するタイヤ用ゴム組成物であるので、該ゴム組成物をタイヤ部材(特に、トレッド(キャップトレッド))に使用することにより、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能がバランスよく優れた空気入りタイヤ(二輪車用タイヤ)を提供できる。なお、本明細書において、単にグリップ性能と記載する場合には、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能の両方を含むこととする。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムを60〜100質量%含有するゴム成分と、(a)フェノール系化合物、(b)テルペン系化合物および(c)芳香族ビニル系化合物を共重合して得られた樹脂とを含有する。
【0021】
本発明では、ゴム成分としてスチレンブタジエンゴム(SBR)が使用される。SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。なかでも、本発明の効果が好適に得られるという理由から、E−SBRが好ましい。
【0022】
SBR中のスチレン含有率は、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。25質量%未満では、充分なグリップ性能(特に、ウェットグリップ性能)が得られない傾向がある。また、該スチレン含有率は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。60質量%を超えると、耐摩耗性、耐チャンキング性能が低下するだけでなく、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまう傾向がある。
【0023】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、60質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。60質量%未満であると、充分なグリップ性能(特に、ウェットグリップ性能)が得られない傾向がある。また、SBRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%でもよい。
【0024】
本発明で使用できるSBR以外のゴム成分としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明では、(a)フェノール系化合物、(b)テルペン系化合物および(c)芳香族ビニル系化合物を共重合して得られた樹脂が使用される。
【0026】
(a)フェノール系化合物としては、フェノール性水酸基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール(アルコキシ基の炭素原子数はアルキル基と同様である。)、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を含有するハロゲン化フェノール、不飽和炭化水素基含有フェノールなどの1価のフェノール類が挙げられる。なかでも、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能をバランス良く改善できる点から、フェノール、o、m、p位の少なくとも1つがアルキル基で置換されたアルキルフェノールが好ましく、アルキルフェノール(特に、p位がアルキル基で置換されたアルキルフェノール)がより好ましい。
【0027】
アルキルフェノールにおけるアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。
アルキルフェノールの具体例としては、例えば、メチルフェノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、デシルフェノール、ジノニルフェノールが挙げられ、o、m、p位のいずれが置換されたものでもよい。なかでも、t−ブチルフェノール、メチルフェノールが好ましい。
【0028】
アルコキシフェノールとしては、前述のアルキルフェノールのアルキル基に対応するアルコキシ基で置換されたメトキシフェノールなどが挙げられる。
ハロゲン化フェノールとしては、例えば、クロロフェノール、ブロモフェノールが挙げられる。
【0029】
不飽和炭化水素基含有フェノールとしては、1分子中に少なくとも1個のヒドロキシフェニル基を含み、かつフェニル基の水素原子のうちの少なくとも1個が不飽和炭化水素基で置換された化合物が挙げられる。不飽和炭化水素基における不飽和結合としては、二重結合、三重結合が挙げられる。不飽和炭化水素基としては、炭素原子数2〜10のアルケニル基が挙げられる。不飽和置換基含有フェノールの具体例としては、イソプロペニルフェノール、ブテニルフェノールなどが挙げられる。これらのフェノール系化合物は単独でもまたは2種以上を併用してもよい。
【0030】
(b)テルペン系化合物は、(Cの組成で表される炭化水素およびその含酸素誘導体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物が挙げられる。テルペン系化合物は特に限定されないが、環状不飽和炭化水素が好ましく、また、水酸基を持たない化合物が好ましい。
【0031】
テルペン系化合物の具体例としては、α−ピネン、β−ピネン、3−カレン(δ−3−カレン)、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールなどが挙げられる。なかでも、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能をバランス良く改善できる点から、α−ピネン、β−ピネン、3−カレン(δ−3−カレン)、ジペンテン、リモネンが好ましく、α−ピネン、β−ピネン、3−カレンがより好ましい。これらのテルペン系化合物は単独でもまたは2種以上を併用してもよい。
【0032】
(c)芳香族ビニル系化合物としては、芳香環とビニル基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、スチレン;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、t−ブチルスチレンなどのアルキル置換スチレンが挙げられる。また他に、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレンなども挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても用いてもよい。なかでも、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能をバランス良く改善できる点から、スチレン、アルキル置換スチレンが好ましく、アルキル置換スチレンがより好ましく、α−メチルスチレンが更に好ましい。これらの芳香族ビニル系化合物は単独でもまたは2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記樹脂(100質量%)におけるフェノール系化合物(a)の共重合割合は、5〜10質量%が好ましく、5〜8質量%がより好ましい。5質量%未満では、充分なグリップ性能が得られない傾向となり、10質量%を超えると、充分な耐チャンキング性能が得られない傾向となる。
【0034】
テルペン系化合物(b)の共重合割合は、70〜85質量%が好ましく、75〜85質量%がより好ましい。70質量%未満では、充分な耐チャンキング性能が得られない傾向となり、85質量%を超えると、充分なグリップ性能が得られない傾向となる。
【0035】
芳香族ビニル系化合物(c)の共重合割合は、10〜20質量%が好ましく、15〜20質量%がより好ましい。10質量%未満では、充分なウェットグリップ性能が得られない傾向となり、20質量%を超えると、充分なドライグリップ性能、耐チャンキング性能が得られない傾向となる。
【0036】
前記樹脂の軟化点は特に限定されないが、30〜180℃が好ましく、40〜160℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましい。軟化点が30℃未満であれば、ウェットグリップ性能の向上効果が小さくなる傾向があり、180℃を超えると、ドライグリップ性能の向上効果が小さくなる傾向がある。
なお、樹脂の軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0037】
前記樹脂の重量平均分子量Mwは特に限定されないが、300〜5000が好ましく、300〜2000がより好ましい。Mwが300未満であれば、ウェットグリップ性能の向上効果が小さくなる傾向があり、5000を超えると、ドライグリップ性能が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレンより換算した値である。
【0038】
前記樹脂は、(a)、(b)および(c)を公知の方法で共重合することにより合成できる。例えば、トルエンなどの有機溶媒中に、BFなどの触媒存在下において、フェノール系化合物、テルペン系化合物および芳香族ビニル系化合物を任意の順序で滴下し、所定の温度および時間反応させることにより調製できる。
【0039】
樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜50質量部が好ましく、6〜40質量部がより好ましく、8〜35質量部がさらに好ましく、20〜30質量部が特に好ましい。5質量部未満では、充分なドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能が得られない傾向となり、50質量部を超えると、耐チャンキング性能、ウェットグリップ性能が低下する傾向がある。
【0040】
本発明では、補強用充填剤として、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなど、従来タイヤ用ゴム組成物において慣用されるもののなかから任意に選択して用いることができる。なかでも、カーボンブラックが好ましい。
【0041】
カーボンブラックを使用することにより、グリップ性能を向上でき、また、耐摩耗性、耐チャンキング性能や操縦安定性の改善効果も得られる。カーボンブラックとしては、例えば、GPF、HAF、ISAF、SAFなど、タイヤ工業において一般的なものを用いることができる。
【0042】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上、更に好ましくは120m/g以上である。NSAが50m/g未満では、充分な耐摩耗性、耐チャンキング性能、グリップ性能が得られない傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは好ましくは200m/g以下、より好ましくは160m/g以下である。NSAが200m/gを超えると、カーボンブラックの分散性が悪く、耐摩耗性、耐チャンキング性能が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0043】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは70質量部以上、より好ましくは80質量部以上である。70質量部未満では、充分な耐摩耗性、耐チャンキング性能、グリップ性能が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは120質量部以下である。200質量部を超えると、加工性やカーボンブラックの分散性が悪く、耐摩耗性、耐チャンキング性能が低下する傾向がある。
【0044】
本発明では、グリップ性能などの観点から、軟化剤を配合することが好ましい。
軟化剤としては特に限定されないが、鉱物油などのオイルが挙げられる。オイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイルが挙げられる。
【0045】
特に、耐久性(耐チャンキング性能)とグリップ性能の性能バランスに優れるという点から、液状ジエン系重合体を、軟化剤の一部または全部として使用することが好ましい。なお、本発明において、液状ジエン系重合体とは、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体である。
【0046】
液状ジエン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.0×10〜2.0×10であることが好ましく、1.5×10〜6.0×10であることがより好ましく、2.0×10〜2.0×10であることが更に好ましく、3.0×10〜1.5×10であることが特に好ましい。1.0×10未満では、耐チャンキング性能が低下し、十分な耐久性が確保できない恐れがある。一方、2.0×10を超えると、重合溶液の粘度が高くなり過ぎ生産性が悪化する恐れがある。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた値である。
【0047】
液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。なかでも、耐久性(耐チャンキング性能)とグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、液状SBR、液状IRを使用することが好ましく、液状SBRを使用することがより好ましい。これらの液状ジエン系重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
液状SBRのビニル含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。ビニル含量が10質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該ビニル含量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。ビニル含量が90質量%を超えると、耐摩耗性、耐チャンキング性能が悪化する傾向がある。
なお、液状SBRのビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0049】
液状SBRのスチレン含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。スチレン含量が10質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該スチレン含量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。スチレン含量が60質量%を超えると、軟化点が高くなり、ゴムが硬くなり、グリップ性能が悪化するおそれがある。
なお、液状SBRのスチレン含量は、H−NMR測定により算出される。
【0050】
本発明において、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。20質量部未満では、添加による効果が得られないおそれがある。また、該オイルの含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。100質量部を超えると、耐摩耗性、耐チャンキング性能が悪化する傾向がある。
ここで、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0051】
液状ジエン系重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満では、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、該液状ジエン系重合体の含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。50質量部を超えると、耐摩耗性、耐チャンキング性能が悪化する傾向がある。
【0052】
また、前記樹脂、オイルおよび液状ジエン系重合体の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは75質量部以上である。50質量部未満では、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、該合計含有量は、好ましくは180質量部以下、より好ましくは140質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。180質量部を超えると、耐摩耗性、耐チャンキング性能が悪化する傾向がある。
【0053】
また、カーボンブラックの配合量と、前記樹脂、オイルおよび液状ジエン系重合体の合計含有量の比率(カーボンブラックの配合量/前記樹脂、オイルおよび液状ジエン系重合体の合計含有量)が、1.1〜1.6が好ましく、1.1〜1.5がより好ましく、1.1〜1.3が更に好ましい。
【0054】
本発明のゴム組成物には、上記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、粘着付与剤、ワックス、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0055】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0056】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材に使用でき、なかでも、トレッド部に用いられることが好ましく、キャップトレッドに用いられることが特に好ましい。キャップトレッドに使用することで、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能の優れた性能バランスが得られる。
【0057】
本発明のゴム組成物(加硫後)は、JIS K6251:2010に基づいて、試験片としてダンベル状3号形試験片を使用し、23℃雰囲気下において引張試験を実施して測定した破断強度TB(MPa)、破断時伸びEB(%)から算出されるTB×EB/2(MPa・%)が、3500以上であることが好ましく、4000以上であることがより好ましい。該TB×EB/2の上限は特に限定されず、高ければ高いほどよい。
TB×EB/2が上記範囲内であると、良好な耐チャンキング性能を確保できる。
【0058】
本発明のゴム組成物(加硫後)は、JIS K6253:2006に基づいて、25℃雰囲気下において硬度計を用いて測定した硬度が、50〜75であることが好ましく、55〜70であることがより好ましい。硬度が上記範囲内であると、良好な操縦安定性を維持しつつ、良好なグリップ性能を確保できる。
【0059】
本発明の空気入りタイヤ(二輪車用タイヤ)は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。また、ストリップを巻きつけて作製するSTW工法により二輪車用タイヤを製造してもよい。
【0060】
本発明の二輪車用タイヤは、自動二輪車用タイヤとして用いられ、特に、モトクロス用タイヤとして好適に用いられる。
【実施例】
【0061】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0062】
製造例1〜4
<使用薬品>
レジンの合成に使用した薬品を以下に示す。なお、薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
トルエン:関東化学(株)製
α−ピネン:東京化成工業(株)製
3−カレン:東京化成工業(株)製
p−tブチルフェノール:和光純薬工業(株)製
スチレン:東京化成工業(株)製
α−メチルスチレン:東京化成工業(株)製
三フッ化ホウ素(BF):東京化成工業(株)製
炭酸ナトリウム:東京化成工業(株)製
【0063】
<合成方法>
温度計、攪拌装置、冷却器、Dean−Starkトラップを備えた三口フラスコを十分に窒素置換し、そこにトルエン200gを添加した。これにp−tブチルフェノールを10g添加し、攪拌、還流を2時間行った。触媒としてBFガスを1.2g添加し、α−ピネン76gを90分程度の時間で滴下し、その後スチレン14gを30分程度の時間で滴下し、40℃において60分間窒素下で攪拌しながら重合を行った。反応終了後、炭酸ナトリウム1.2gを100mlの水に溶解したものを添加して反応を停止させ、水洗を繰り返すことで触媒を除去した。減圧蒸留することでトルエン、未反応モノマーを除去し目的とするレジンAを得た。
α−ピネンの代わりに3−カレンを、スチレンの代わりにα−メチルスチレンを用い、表1の添加量に変更する他は、レジンAと同様の方法でレジンB〜Dを合成した。
合成したレジンの組成、軟化点、分子量を表1に示す。なお、分子量、軟化点は以下の方法で測定した。
【0064】
(重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)の測定)
Mw、Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた。
【0065】
(軟化点)
軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度を軟化点とした。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例および比較例
<使用薬品>
実施例および比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:Nipol9548(日本ゼオン(株)製、E−SBR、スチレン含有率:35質量%、ゴム成分100質量部に対して、オイル分を37.5質量部含有)
カーボンブラック:シースト9 SAF(東海カーボン(株)製、NSA:142m/g)
液状SBR:RAICON100(サートマー社製、スチレン含量:20質量%、ビニル含量:70質量%、Mw:5000)
オイル:ダイアナプロセスAH−24(出光興産(株)製)
レジンA〜D:製造例1〜4で合成
レジンE:Kristalex3085(α−メチルスチレン樹脂、イーストマンケミカル社製)
レジンF:YSレジンPX1250(テルペン樹脂、ヤスハラケミカル(株)製)
レジンG:Koresin(p−tブチルフェノール樹脂、BASF社製)
酸化亜鉛:酸化亜鉛(三井金属鉱業(株)製)
ステアリン酸:ステアリン酸「椿」(日油(株)製)
老化防止剤:アンチゲン6C(住友化学(株)製)(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:サンノックN(大内新興化学工業(株)製)
硫黄:粉末硫黄(軽井沢硫黄(株)製)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0068】
<ゴム組成物の製造法>
表2に示す配合処方にしたがって、神戸製鋼(株)製1.7Lバンバリーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の材料を130℃で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて120℃で2分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間プレス加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
【0069】
<タイヤの製造法>
得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、150℃の条件下で30分間プレス加硫し、試験用タイヤ(モトクロス用タイヤ)(タイヤサイズ:120/80−19)を得た。
【0070】
<評価方法>
(ドライグリップ性能)
作製した試験用タイヤをモトクロス用自動二輪車(本田技研工業(株)製のCRF450R)の全輪に装着し、モトクロス用テストコース(ドライアスファルト路面)にて10周の実車走行を行なった。その際における、操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどドライグリップ性能に優れることを示す。
【0071】
(耐チャンキング性能)
JIS K6251:2010に基づいて、得られた加硫ゴム組成物からダンベル状3号形試験片を作製し、該試験片を用いて23℃雰囲気下において引張試験を実施して破断強度TB(MPa)、破断時伸びEB(%)を測定した。そして、TB×EB/2(MPa・%)を算出した。結果は、実測値を示すと共に、比較例1の結果を100として指数表示した。TB×EB/2、指数が大きいほど、耐チャンキング性能に優れることを示す。
【0072】
(ウェットグリップ性能)
作製した試験用タイヤをモトクロス用自動二輪車(本田技研工業(株)製のCRF450R)の全輪に装着し、水を撒いて湿潤路面としたモトクロス用テストコース(ウェットアスファルト路面)にて10周の実車走行を行なった。その際における、操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0073】
(硬度)
得られた加硫ゴム組成物を用いてゴムの硬度をJIS K6253:2006に基づいて、25℃雰囲気下において硬度計を用いて測定した(ショア−A測定)。数値が大きいほど硬いことを示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2の結果から、α−メチルスチレン、テルペン、p−tブチルフェノールのレジンを配合した比較例2〜4では、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能のバランスが実施例に比べて劣っていた。また、これらをブレンドした比較例5でも性能バランスはかなり悪かった。
【0076】
一方、特定量のスチレンブタジエンゴムと、(a)フェノール系化合物、(b)テルペン系化合物および(c)芳香族ビニル系化合物を共重合して得られた樹脂(レジンA〜D)とを含有することで、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能、耐チャンキング性能が同時に改善され、これらの性能バランスを顕著に改善できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを60〜100質量%含有するゴム成分と、(a)フェノール系化合物、(b)テルペン系化合物および(c)芳香族ビニル系化合物を共重合して得られた樹脂とを含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
フェノール系化合物(a)がフェノールおよび/またはアルキルフェノールであり、テルペン系化合物(b)が水酸基を持たない環状不飽和炭化水素であり、芳香族ビニル系化合物(c)がスチレンおよび/またはアルキル置換スチレンである請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
テルペン系化合物(b)がα−ピネン、β−ピネン、3−カレン、リモネンおよびジペンテンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
樹脂の配合量が、ゴム成分100質量部に対して5〜50質量部である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
樹脂100質量%中のフェノール系化合物(a)の共重合割合が5〜10質量%、テルペン系化合物(b)の共重合割合が70〜85質量%、芳香族ビニル系化合物(c)の共重合割合が10〜20質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
さらに、カーボンブラックを含む請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
JIS K6251:2010に基づいて、試験片としてダンベル状3号形試験片を使用し、23℃雰囲気下において引張試験を実施して測定した破断強度TB(MPa)、破断時伸びEB(%)から算出されるTB×EB/2が3500以上である請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
トレッド用ゴム組成物として用いられる請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のゴム組成物を用いた二輪車用タイヤ。
【請求項10】
モトクロス用タイヤである請求項9記載の二輪車用タイヤ。

【公開番号】特開2013−91758(P2013−91758A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236234(P2011−236234)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】