説明

タイヤ用ゴム組成物並びにそれをビードワイヤの被覆に用いた空気入りタイヤ

【課題】加工性を変えることなく、耐セット性が改良されたゴム組成物の提供。
【解決手段】(A)天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを少なくとも30重量部含むジエン系ゴム100重量部、(B)式(I):


で表されるカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物0.4〜10重量部、(C)カーボンブラック30〜150重量部並びに(D)炭酸金属塩20〜100重量部を含んでなり、カルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(B)と炭酸金属塩(D)との重量比((B)/(D))が0.02〜0.15であるタイヤ用ゴム組成物並びにそれをビードワイヤ被覆用に用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物並びにそれを用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは耐圧縮永久歪性(以後、耐セット性という)が改良されたタイヤ用ゴム組成物並びにそれをビードワイヤの被覆に用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのビードワイヤの周りに被覆するゴムの耐セット性を改善することにより、ビード部のかしめ効果が維持できるので、ハンドリング性能及びリムへの嵌合圧力保持性能の経時変化を抑制することが可能となる。従来、ゴムの耐セット性を改善する手法として、硫黄/加硫促進剤配合比の最適化や、カーボンブラック及びシリカやクレーなどの無機フィラー配合量の低減等が検討されてきているが(例えば特許文献1参照)、その効果が必ずしも充分でない上、無機フィラー配合量の低減により、加工時に流動性が損なわれるという欠点があった。
【0003】
【特許文献1】日本特許第02763480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、前述の従来技術の問題点を解消して、加工性に影響を及ぼすことなく、耐セット性が改良されたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、(A)天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを少なくとも30重量部含むジエン系ゴム100重量部、
(B)式(I):
【化1】

(式中、n及びn’は、それぞれ独立に、1〜4の整数であり、
1 及びR2 は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜20の有機基であり、R1 及びR2 は、有機基である場合には、当該有機基の鎖内にヘテロ原子を有していてもよく、あるいは、R1 及びR2 は、それらが結合している窒素原子と共に1つの複素環基を形成しており、その環上に置換基を有していてもよく、
Xは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の鎖式炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及び複素環基から選ばれる有機基であり、Xが鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基である場合には、Xは、その炭素鎖内にヘテロ原子を有していてもよい)
で表されるカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物0.4〜10重量部、
(C)カーボンブラック30〜150重量部並びに
(D)炭酸金属塩20〜100重量部
を含んでなり、カルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(B)と炭酸金属塩(D)との重量比((B)/(D))が0.02〜0.15であるタイヤ用ゴム組成物並びにそれをビードワイヤの被覆用に用いた空気入りタイヤが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前記式(I)のカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(B)を、炭酸カルシウムなどの炭酸金属塩と併用することにより、加工性に悪影響を及ぼすことなく、耐セット性に優れたゴム組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく研究を進めた結果、前記式(I)のカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物を、炭酸金属塩と共に、ビードワイヤ被覆用ゴム組成物に所定量配合して炭酸金属塩とゴムとの間に相互作用をもたせることによって、ゴム組成物の加工性を変えることなく、耐セット性を改善することに成功した。
【0008】
本発明のゴム組成物には、ゴム成分(A)として、天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)を少なくとも30重量部、好ましくは40〜70重量部含むジエン系ゴム100重量部を配合する。このNR及び/又はIRの配合量が少ないとワイヤとの接着性が劣るので好ましくない。本発明において使用する他のジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、具体的にはブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)などをあげることができる。
【0009】
本発明によれば、前記式(I)のカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(B)を、カップリング剤として、ジエン系ゴム(A)100重量部当り0.4〜10重量部、好ましくは1〜5重量部配合する。このカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(I)の配合量が少ないと耐セット性の改善効果が得られないので好ましくなく、逆に多いと過度の加硫促進効果が発生し、実用に適さないので好ましくない。
【0010】
本発明において使用するカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(即ち本発明のジスルフィドのアミン塩化合物)は、前記式(I)で表わされる化合物であり、その詳細は平成18年8月14日に出願の特願2006−221258号出願に記載の通りである(引用によりこの出願の内容を本明細書に組み入れるものとする)。具体的には、前記式(I)において、R1 ,R2 及びR3 は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の有機基であることができ、そのような有機基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ステアリル基などの鎖式炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基などの環式炭化水素基が挙げられる。それら有機基の鎖内に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を有していてもよい。そのような有機基の例としては、例えば、メトキシプロピル基、メトキシエチル基、テトラヒドロフルフリル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシシクロヘキシル基等が挙げられる。R1 及びR2 は、それらが結合している窒素原子と共に、複素環基、例えばイミダゾール基、トリアゾール基、ピラゾール基、アジリジン基、ピロリジン基、ピペリジン基、モルホリン基、チアモルホリン基等の基を形成していてもよい。R1 及びR2 がそれらが結合している窒素原子と共に複素環基を形成している場合には、さらにその複素環上に置換基を有していてもよい。この置換基の例としては、例えばメチル、エチルなどのアルキル基;ブロモ、クロロなどのハロゲン基;ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、エステル基等が挙げられる。
【0011】
前記式(I)において、Xは、置換基を有していてもよい炭素数2〜20の、好ましくは炭素数2〜12の、鎖式炭化水素基もしくは脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及び複素環基から選ばれる有機基である。この有機基の例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基、シクロブチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、チアゾール基、チアジアゾール基、ピルジルナフチレン基等が挙げられる。Xが鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基である場合には、Xは、その炭素鎖内に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から成る群から選ばれるヘテロ原子を有していてもよく、メチル、エチルなどのアルキル基、ブロモ、クロロなどのハロゲン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基などを有してもよい。
【0012】
本発明に係るジスルフィドのアミン塩化合物(I)は、下記反応式(1)に示すように、前記式(II)で示される1つの分子にカルボン酸を有するジスルフィド化合物(式中、Xは前記定義の通りである)と前記式(III)のアミン類(式中、R1 ,R2 及びR3は前記定義の通りである)とを反応させることにより製造することができる。この反応には酸化剤や触媒などを必要とすることなく、適当な溶媒(例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族アルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、2−ブタノンなどのケトン類など)中で式(II)及び式(III)の化合物を混合反応させることによって、製造することができる。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明の別の態様によれば、前記ジスルフィドのアミン塩化合物(I)は、下記反応式(2)に示すように、1つの分子にカルボン酸を含有するチオール化合物(IV)とアミン(III)との反応を酸化剤の存在下で反応させることによって製造することができる。
【0015】
【化3】

【0016】
前記反応式(1)及び(2)において、アミン(III)は、ジスルフィド化合物(II)又はチオール化合物(IV)に対して、化学量論的に過剰量(例えば1.01〜1.15当量)で反応させるのが好ましい。
【0017】
前記反応式(1)において、出発原料として用いられるカルボン酸含有ジスルフィド化合物(II)の具体例としては、例えば、ジチオジグリコール酸、ジチオジプロピオン酸、ジチオサリチル酸、ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)などがあげられる。一方、反応式(2)で用いられる式(IV)で表わされるチオール化合物としてはメルカプト酢酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、チオニコチン酸などがあげられる。
【0018】
一方、上記式(III)で表されるアミンの具体例としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、イソブチルアミン、tert−ブチルアミン,ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、exo−2−アミノノルボルナン、2−メトキシエチルアミン、ビス(2−メトキシエチル)アミン、テトラフルフリルアミン、モルホリン、チオモルホリン、1−メチルピペラジン、2−メチルイミダゾール、エタノールアミン、2−アミノシクロヘキサノール、ピペラジン、2−ピペラジンメタノール、2−ピペラジンエタノール、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどが挙げられる。
【0019】
前記反応式(2)に使用することができる酸化剤としては、特に制限はないが、次の化合物が挙げられる。塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸アンモニウムなどの塩素酸塩類;過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウムなどの過塩素酸塩類;過酸化リチウム、過酸化ナトリウム、過酸化カリウムなどの無機過酸化物;亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどの亜塩素酸塩類;臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなどの臭素酸塩類;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸塩類;ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カルシウムなどのヨウ素酸塩類;過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムなどの過マンガン酸塩類;重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウムなどの重クロム酸塩類;過ヨウ素酸ナトリウムなどの過ヨウ素酸塩類;メタ過ヨウ素酸などの過ヨウ素酸;無水クロム酸(三酸化クロム)などのクロム酸化物;二酸化鉛などの鉛酸化物;五酸化二ヨウ素などのヨウ素酸化物;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどの亜硝酸塩類;次亜塩素酸カルシウムなどの次亜塩素酸塩類;三塩素化イソシアヌル酸などの塩素化イソシアヌル酸;ペルオキソ二硫酸アンモニウムなどのペルオキソ二硫酸塩類;ペルオキソホウ酸アンモニウムなどのペルオキソホウ酸塩類;過塩素酸;過酸化水素;硝酸;フッ化塩素、三フッ化臭素、五フッ化臭素、五フッ化ヨウ素、ヨウ素などのハロゲン化化合物;エチレンジアミンテトラ酢酸銅、ニトリロトリプロピオン酸銅などの銅の水溶性キレート化合物;ジメチルスルホキシドなどの有機化合物;酸素など。酸化剤として酸素を使用する場合、酸素源として空気を用いることもできる。これらは単独で用いてもよく、危険のない限り複数を組合せて用いてもよい。これらのうち、反応が容易で効率が高い点で、塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、ヨウ素、エチレンジアミンテトラ酢酸銅、ニトリロトリプロピオン酸銅および酸素が好ましい。
【0020】
前記反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、イソプロピルエーテルなどのエーテル類、アセトン、2−ブタノンなどのケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)などの含窒素有機溶媒などがあげられる。これらの溶媒は単独または混合溶媒の形で使用しても良い。これらのうち、ジスルフィド類、チオール類とアミン類への溶解性が高く、反応生成物から取り除きやすい点から、脂肪族アルコール類、エーテル類、ケトン類が好ましい。
【0021】
前記反応の反応温度には特に限定はないが、0℃〜100℃の範囲内であることが好ましい。0℃未満では反応時間が遅くなり、100℃を超える温度では生成物の望ましくない副反応が起こるおそれがある。この反応温度は、さらに好ましくは20℃〜70℃の範囲内である。
【0022】
本発明のゴム組成物には、成分(C)として、カーボンブラックを、ジエン系ゴム100重量部に対し、30〜150重量部、好ましくは60〜120重量部配合する。使用するカーボンブラックの種類には特に限定はないが、GPF,FEFクラスの粒子径をもつカーボンブラックの使用が好ましい。カーボンブラックの使用量が少ないと、必要なゴムの硬度を得ることが出来ず初期の嵌合圧、ハンドリングが得られないので好ましくなく、逆に多いとムーニー粘度が高くなり、押出加工性が悪化するので好ましくない。
【0023】
本発明のゴム組成物には、前記成分(A),(B)及び(C)に加えて、炭酸金属塩を20〜100重量部、好ましくは40〜80重量部配合する。この配合量が少ないとカーボンブラックを多量配合して、被覆加工時の収縮を防止しないとワイヤ上にゴムの未被覆部が発生するので好ましくなく、逆に多いと耐セット性が悪化するので好ましくない。本発明で使用することができる炭酸金属塩としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸バリウム、炭酸アルミニウムなどで、その粒子径は10μm以下であるのが好ましく、0.5〜5μmであるのが更に好ましい。
【0024】
本発明に係るゴム組成物に配合するカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(B)と炭酸金属塩(D)との重量比(B)/(D)は耐セット性の改善効果と加工中の早期加硫防止の観点から0.02〜0.15であり、0.02〜0.1であるのが好ましい。
【0025】
本発明の好ましい態様においては、ビードワイヤとの接着性を高めることができる樹脂(例えば多価メチロールメラミン誘導体、レゾルミン−ホルムアルデヒド誘導体及びその併用系)を、ジエン系ゴム(A)100重量部当り、1〜10重量部、更に好ましくは1〜5重量部配合することができる。
【0026】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラック以外のシリカなどの補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は、汎用のゴム用混練機、例えばロール、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて、一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0027】
本発明に係るゴム組成物は図1に模式的に示す典型的な空気入りタイヤのビードワイヤ被覆用ゴム組成物として好適に用いることができ、従来の一般的な空気入りタイヤの製造ラインにそのまま使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0029】
調製例1:ジスルフィドのアミン塩化合物Aの合成:
メタノール1000g中、ジチオサリチル酸306.4g(1mol)とシクロヘキシルアミン218.2g(2.2mol)を入れ、室温で30分反応させた。反応終了後、減圧下でメタノールを除いてからろ過し、アセトンで2回洗浄・乾燥後、下記式で示される白色粉末の化合物Aを499.2g(収率99%)得た。
【0030】
【化4】

【0031】
1HNMR(400MHz,DMSO−d6)δ in ppm:1.0−1.3,1.5,1.7,1.9,2.9,7.1,7.2,7.5,7.8
元素分析値(%):C26H36N204S2
計算値:C,61.87;H,7.19;N,5.55;S,12.71
測定値:C,61.54;H,7.28;N,5.56;S,12.72
【0032】
標準例、実施例1〜2及び比較例1〜6
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、160℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物の未加硫物性を以下の方法で試験し、結果を表Iに示す。
【0033】
次に得られたゴム組成物を所定の金型中で150℃で30分間加硫して加硫ゴムサンプルを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表Iに示す。
【0034】
ゴム物性評価試験法
ムーニー粘度
JIS K6300に基づき100℃にて測定した。結果は標準例の値を100として指数表示した。この値が小さいほど加工性に優れることを示す。
【0035】
耐セット性
JIS K6262に従って、70℃雰囲気中で22時間経過後のサンプル高さを測定した。結果は標準例の値を100として指数表示した。この数値が大きい程、耐セット性に優れることを示す。
【0036】
反発弾性
JIS K6255に準拠して温度100℃で測定した。結果は標準例の値を100として指数表示した。この値が大きい程、反発弾性に優れていることを示す。なお反発弾性は動的発熱の指標で、一般に発熱性が高いと耐セット性を悪化させる環境因子となりうるので、低発熱(=高反発弾性)であるのが好ましい。
【0037】
【表1】

【0038】
表I脚注
※1:RSS#3
※2:日本ゼオン(株)製SBR Nipol 1502
※3:東海カーボン(株)製シーストV
※4:日本タルク(株)製T クレー
※5:白石カルシウム(株)製白艶華cc
※6:前記調製例1で合成した化合物A
※7:出光興産(株)製ダイアナプロセス AH−20
※8:正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種
※9:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
※10:住友化学(株)製スミカノール507A
※11:三新化学工業(株)製サンフェル
※12:大内新興化学工業(株)製ノクセラー NS−P
【0039】
表Iにおいて、標準例は現在の標準的なビードワイヤ被覆用ゴム組成物の配合の例であり、これを基準にして各例の結果を評価した。比較例1はクレーを炭酸カルシウムに変更した例で、これだけでは、耐セット性の改善は認められない。これに対し、実施例1及び2はカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物を炭酸金属塩と併用した例で、これで耐セット性が改善されている。
【0040】
次に比較例2及び3はカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物の配合比が規定範囲外の例で、配合比が低すぎる場合は、耐セット性の改善効果が得られず、逆に、配合比が高すぎる場合は、耐セット性は改善されるものの、カルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物の有する元々の加硫促進効果のため早期加硫が発生し、実用に適さない。
【0041】
比較例4,5及び6は炭酸カルシウムの配合量が規定範囲外の例で、配合量が少なすぎると、硬度調整の為に増量したカーボンブラックの影響を受け、ムーニー粘度が高くなり、押出加工性に劣るようになる。一方、炭酸カルシウムの配合量が多すぎると、カルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(I)の補強効果を得ても、元々のセット性の悪さをカバーするまでには至らない。またカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物の配合比を増加させると、早期加硫が発生し、実用に適さなくなるので好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上の通り、本発明によれば、カルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(I)をカップリング剤として用い、炭酸金属塩と併用することによりゴム組成物の加工性を変えることなく耐セット性を改善することができるので空気入りタイヤのビードワイヤの被覆用ゴムなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るゴム組成物を用いるビードワイヤの被覆部を他の部位と共に模式的に示す典型的な空気入りタイヤの子午線半断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを少なくとも30重量部含むジエン系ゴム100重量部、
(B)式(I):
【化1】

(式中、R1 ,R2 及びR3 は、独立に、水素又は炭素数1〜20のヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい有機基であり、Xは炭素数2〜20のヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい有機基である。)
で表されるカルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物0.4〜10重量部、
(C)カーボンブラック30〜150重量部並びに
(D)炭酸金属塩20〜100重量部
を含んでなり、カルボン酸含有ジスルフィドのアミン塩化合物(B)と炭酸金属塩(D)との重量比((B)/(D))が0.02〜0.15であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記炭酸金属塩の粒子径が10μm以下である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
ビードワイヤとの接着性を高めるための接着用樹脂1〜10重量部を更に含む請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物をビードワイヤの被覆用に用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−50438(P2008−50438A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226835(P2006−226835)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】