説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】初期グリップ性能を維持しながら後半グリップ性能を改善できるとともに、優れた耐摩耗性も有するタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】酸及び窒素化合物、並びに/又は、有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、クマロンインデン樹脂と、テルペン系樹脂とを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
レース用タイヤをはじめとした競技用タイヤのトレッドゴムには、一般にグリップ性能及び耐摩耗性がともに優れたゴム組成物が要求される。従来から高いグリップ性能を得るためにガラス転移温度(Tg)の高いスチレンブタジエンゴムを使用する方法が知られているが、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなるという問題があった。
【0003】
また、軟化点の高い樹脂をプロセスオイルと置換して配合する方法も知られているが、置換量が多量であると、該樹脂の影響により、温度依存性が大きくなるという問題があった。
【0004】
特許文献1、2には、窒素化合物と酸を配合して水素結合を形成させることやイオン結合を有する化合物を配合することでグリップ性能(ドライ路面におけるグリップ性能)を向上したゴム組成物が開示されている。しかし、グリップ性能の温度依存性について未だ改善の余地があるとともに、耐摩耗性の改善も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−112921号公報
【特許文献2】特開2006−124423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、初期グリップ性能を維持しながら後半グリップ性能を改善できるとともに、優れた耐摩耗性も有するタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題について検討した結果、テルペン系樹脂が他のレジンより温度依存性が小さいという知見、更には該樹脂とクマロンインデン樹脂を併用することで初期グリップ性能を維持しつつ高温グリップ性能を向上できるという知見を見出すことにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、酸及び窒素化合物、並びに/又は、有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、クマロンインデン樹脂と、テルペン系樹脂とを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。ここで、上記テルペン系樹脂がポリテルペン又はテルペンフェノールであることが好ましい。
【0009】
上記酸がカルボン酸又はフェノール誘導体であることが好ましい。また、上記窒素化合物がピペリジン誘導体、イミダゾール類及びカプロラクタム類からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0010】
ゴム成分100質量部に対して、上記クマロンインデン樹脂の含有量が2〜50質量部であり、上記テルペン系樹脂の含有量が2〜50質量部であることが好ましい。
【0011】
上記クマロンインデン樹脂の軟化点が70〜170℃であり、上記ポリテルペンの軟化点が70〜150℃であり、上記テルペンフェノールの軟化点が80〜160℃であることが好ましい。また、上記テルペンフェノールの水酸基価が30〜150KOHmg/gであることが好ましい。
【0012】
上記ゴム組成物は、トレッド用ゴム組成物として用いられることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。ここで、上記空気入りタイヤは、競技用タイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸及び窒素化合物、並びに/又は、有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩、及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、クマロンインデン樹脂と、テルペン系樹脂とを含むタイヤ用ゴム組成物であるので、初期グリップ性能を維持しながら後半グリップ性能を改善でき、また、優れた耐摩耗性も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、(i)酸及び窒素化合物、並びに/又は、有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、(ii)クマロンインデン樹脂と、(iii)テルペン系樹脂とを含む。
【0016】
従来から高温グリップ性能の向上のためにオイルに代えて高融点のレジンを多量に配合されているが、ゴム組成物の温度依存性が大きくなり、初期グリップ性能(走行初期のタイヤが暖まっていない状態でのグリップ性能)が悪化する。これに対し、本発明では、上記成分(i)に加えて、更にクマロンインデン樹脂及びテルペン系樹脂の両成分を配合することで、初期グリップ性能を維持しながら後半グリップ性能を改善できる。同時に、優れた耐摩耗性も得られる。
【0017】
本発明で使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などのジエン系ゴムなどが挙げられる。なかでも、高いtanδが得られるという理由から、SBRが好ましい。
【0018】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)などを使用できる。なかでも、ブローアウトが起こりにくいという理由から、S−SBRが好ましい。
【0019】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。25質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。また、上記スチレン含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。50質量%を超えると、発熱しやすくなり、ブローアウトが起こりやすい傾向がある。
なお、スチレン含有量は、H−NMR測定によって算出される。
【0020】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、グリップ性能に優れるという理由から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0021】
本発明のゴム組成物はカーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、良好な補強性が得られ、優れたグリップ性能や耐摩耗性が発揮される。
【0022】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は80m/g以上が好ましく、120m/g以上がより好ましい。80m/g未満では、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該NSAは200m/g以下が好ましく、160m/g以下がより好ましい。200m/gを超えると、カーボンブラックの分散性が悪化し、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0023】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上である。50質量部未満では、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは190質量部以下である。200質量部を超えると、分散性が低く、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0024】
本発明では、(i−i)酸及び窒素化合物、並びに/又は、(i−ii)有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が使用される。
【0025】
酸としては、特に限定されず、例えば、カルボン酸、フェノール誘導体、スルホン酸などが挙げられる。なかでも、加硫特性に悪影響を与えにくいという理由から、カルボン酸、フェノール誘導体が好ましい。
【0026】
カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、オレイン酸などの脂肪族モノカルボン酸、コハク酸、マレイン酸などの脂肪族ジカルボン酸、安息香酸、安息香酸誘導体、ケイ皮酸、ナフトエ酸などの芳香族モノカルボン酸、フタル酸、無水フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸などが挙げられる。安息香酸誘導体としては、例えば、安息香酸に炭化水素基(アルキル基、アルコキシ基など)、水酸基などの官能基が導入されたものが挙げられ、具体的には、p−メチル安息香酸、p−メトキシ安息香酸、p−クロロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸などが挙げられる。
【0027】
フェノール誘導体としては、例えば、2−tert−ブチルフェノール;2−エチル−6−メチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;3−メチル−2,6−ビス(1−メチルエチル)フェノール;4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;3−メチル−2,6−ビス(1−メチルプロピル)フェノール;2−ブチル−6−エチルフェノール;4−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;4−tert−ブチル−2,6−ジメチルフェノール;6−tert−ブチル−2,3−ジメチルフェノール;2−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2−シクロヘキシル−6−tert−ブチルフェノール;2−シクロヘキシル−6−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール;4,4'−ジヒドロキシビフェニル;4,4'−チオビスフェノール;ヒドロキノン;1,5−ヒドロキシナフタレン;4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4'−エチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4'−プロピリデンビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4'−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2'−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)などを挙げることができる。なかでも、窒素化合物と水素結合を形成しやすいという理由から、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)が好ましい。
【0028】
上記酸は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。0.5質量部未満であると、窒素化合物と水素結合を充分に形成できず、グリップ性能の向上効果が充分に得られないおそれがある。酸の含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。20質量部を超えると、架橋阻害により耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0030】
窒素化合物は、酸と水素結合を形成できるものが好ましく、このような窒素化合物をゴム組成物中に配合することで、中温条件(30〜50℃)下でのグリップ性能を向上させることができる。
【0031】
窒素化合物は、窒素を含む環状構造を1つ以上有することが好ましい。窒素を含む環状構造を1つも含まないと、高温条件(100℃前後)下でのグリップ性能を改善できない傾向がある。
【0032】
このような窒素化合物としては、ピペリジン誘導体、イミダゾール類、及びカプロラクタム類からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。なかでも、ピペリジン誘導体がより好ましい。
【0033】
ピペリジン誘導体としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、1,2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−メタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−メタクリレートなどの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン及びその誘導体などが挙げられる。なかでも、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンまたはその誘導体が好ましく、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの誘導体がより好ましく、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートが更に好ましい。
【0034】
イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0035】
カプロラクタム類としては、例えば、ε−カプロラクタムなどが挙げられる。
【0036】
窒素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、2種以上を組み合わせても効果が小さく、さらにゴム強度が低下するという理由から、1種のみで用いることが好ましい。
【0037】
窒素化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.5質量部未満であると、酸と充分な水素結合が形成されず、グリップ性能の向上効果が充分に得られないおそれがある。窒素化合物の含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、架橋が不充分となり、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0038】
本発明では、(i−i)の酸と窒素化合物の混合物に代えて、又は、該混合物と共に(i−ii)有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が使用される。(i−ii)の化合物は、イオン結合を含み、ゴム組成物中に配合することで、グリップ性能(特に、高温条件(100℃前後)下でのグリップ性能)を向上させることができる。
【0039】
有機カルボン酸金属塩としては、脂肪酸金属塩などが挙げられ、塩を形成する金属としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛、ニッケルなどの遷移金属などが挙げられる。具体的には、酢酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸マグネシウムなどがあり、一般的に市販され、入手しやすいことから、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムが好ましい。
【0040】
チオカルボン酸塩としては、例えば、チオ酢酸塩、チオプロピオン酸塩などが挙げられる。リン酸塩としては、例えば、メタリン酸塩などが挙げられる。チオカルボン酸塩、リン酸塩において、チオカルボン酸又はリン酸と塩を形成する物質としては、例えば、脂肪酸金属塩と同様の金属、アミノ酸などの正電荷を有する有機物などが挙げられる。
【0041】
有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩としては、上記化合物を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、2種以上を組み合わせることによる効果が得られにくく、さらに、ゴム強度が低下し、好ましくないため、単独で用いることが好ましい。
【0042】
有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.5質量部未満では、グリップ性能の向上効果が充分に得られないおそれがある。また、上記合計含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、架橋が不充分となり、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0043】
上記クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0044】
上記クマロンインデン樹脂の軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上である。70℃未満であると、充分な剛性感(ハンドリング性能)が得られないおそれがある。また、該軟化点は、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下である。170℃を超えると、初期グリップ性能が悪化する傾向がある。
なお、クマロンインデン樹脂の軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0045】
クマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部未満では、充分な高温グリップ性能が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下である。50質量部を超えると、充分な初期グリップ性能が得られないおそれがある。
【0046】
上記テルペン系樹脂としては、ポリテルペン、テルペンフェノールなどが挙げられる。
【0047】
ポリテルペンは、テルペン化合物を重合して得られる樹脂及びそれらの水素添加物である。テルペン化合物は、(Cの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールなどが挙げられる。
【0048】
ポリテルペンとしては、上述したテルペン化合物を原料とするα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂の他、該テルペン樹脂に水素添加処理した水素添加テルペン樹脂も挙げられる。
【0049】
ポリテルペンの軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。70℃未満であると、充分な高温グリップ性能、剛性感が得られないおそれがある。また、該軟化点は、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下である。150℃を超えると、初期グリップ性能が悪化する傾向がある。
なお、テルペン系樹脂の軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0050】
ポリテルペンの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは400以上、より好ましくは600以上であり、好ましくは800以下、より好ましくは600以下である。上記範囲内のMwを持つ樹脂を使用することで、初期グリップ性能を維持しながら後半グリップ性能を改善できる。
なお、本明細書において、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレンより換算した値である。
【0051】
テルペンフェノールとしては、上記テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とする樹脂が挙げられ、具体的には、上記テルペン化合物、フェノール系化合物及びホルマリンを縮合させた樹脂が挙げられる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。
【0052】
テルペンフェノールとしては、たとえばアリゾナケミカル社のTP115、TP300などの市販品を好適に用いることができる。
【0053】
テルペンフェノールの軟化点は、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である。該軟化点は、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。160℃を超えると、初期グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0054】
テルペンフェノールの水酸基価(KOHmg/g)は、好ましくは30以上、より好ましくは40以上である。好ましくは150以下、より好ましくは140以下である。水酸基価が上記範囲内であると、後半グリップ性能の改善効果が高い。
なお、本明細書において、水酸基価とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、電位差滴定法(JIS K 0070:1992)により測定した値である。
【0055】
テルペンフェノールの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは400以上、より好ましくは600以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは800以下、更に好ましくは600以下である。上記範囲内のMwを持つ樹脂を使用することで、初期グリップ性能を維持しながら後半グリップ性能を改善できる。
【0056】
テルペン系樹脂の合計含有量の下限はゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、上限は好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下である。また、ポリテルペンを使用する場合のその配合量、テルペンフェノールを使用する場合のその配合量も同様の範囲が好適である。下限未満であると、高温グリップ性能の向上効果が充分に得られないおそれがあり、上限を超えると、初期グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0057】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、各種老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、オイル、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0058】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生湯、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油などが挙げられる。なかでも、アロマ系プロセスオイルが好適に用いられる。
【0059】
上記ゴム組成物がオイルを含有する場合、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上である。10質量部未満では、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。また、オイルの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは140質量部以下である。150質量部を超えると、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0060】
上記ゴム組成物において、上記クマロンインデン樹脂、テルペン系樹脂及びオイルの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。15質量部未満では、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは190質量部以下である。200質量部を超えると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。
【0061】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材(特に、トレッド)に好適に使用できる。
【0062】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0063】
本発明の空気入りタイヤは、競技用タイヤ(カート、ラリー、ジムカーナー、その他市販の4輪レース用タイヤ、2輪競技用タイヤなど)などとして好適に用いられる。
【実施例】
【0064】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0065】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:旭化成(株)製のタフデン4850(スチレン含有量:39質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分50質量部含有)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックA(N110、NSA:142m/g)
老化防止剤6C:フレキシス社製サントフレックス13
老化防止剤224:フレキシス社製ノクラック224
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製の酸化亜鉛3種(平均一次粒子径1.0μm)
クマロンインデン樹脂(1):ルトガーケミカル社製のNOVARES C100(クマロンインデン樹脂、軟化点:100℃)
クマロンインデン樹脂(2):ルトガーケミカル社製NOVARES C150(クマロンインデン樹脂、軟化点:150℃)
テルペン系樹脂(1):アリゾナケミカル社製のSylvares TR90(ポリテルペン、軟化点:90℃、水酸基価:0KOHmg/g、Mw:800)
テルペン系樹脂(2):アリゾナケミカル社製のSylvares TR1135(ポリテルペン、軟化点:135℃、水酸基価:0KOHmg/g、Mw:800)
テルペン系樹脂(3):アリゾナケミカル社製のSylvares TP115(テルペンフェノール、軟化点:115℃、水酸基価:50KOHmg/g、Mw:700〜900)
テルペン系樹脂(4):アリゾナケミカル社製のSylvares TP300(テルペンフェノール、軟化点:145℃、水酸基価:100KOHmg/g、Mw:545)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−260
窒素化合物:三共(株)製のサノールLS−765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(下記式で表される化合物))
【化1】

酸(フェノール誘導体):川口化学(株)製のアンテージW300(4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール))
酢酸マグネシウム(有機カルボン酸金属塩):キシダ化学(株)製
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
【0066】
<実施例及び比較例>
表1、2に示す配合内容に従い、BP型バンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄、加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせてタイヤに成形し、170℃で15分間プレス加硫することで試験用カートタイヤ(タイヤサイズ:11×7.10−5)を製造した。
【0067】
得られた加硫ゴム組成物、試験用カートタイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1、2に示す。
【0068】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて、初期歪10%、動歪2%、振動周波数10Hzの条件下で、40℃又は100℃における加硫ゴム組成物の粘弾性(複素弾性率E’及び損失正接tanδ)を測定した。
なお、40℃におけるE’が低いほど、初期グリップ性能(低温条件下でのグリップ性能)に優れる。また、100℃におけるtanδが高いほど、後半グリップ性能(高温条件下でのグリップ性能)に優れる。
【0069】
(引張試験)
JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型ゴム試験片を用いて引張試験を行い、300%伸張時応力(M300)を測定した。そして、比較例1、8の引張強度指数を100とし、下記計算式により、各配合のM300を指数表示した。なお、引張強度指数が大きいほど、耐アブレージョン摩耗性能に優れることを示す。ただし、ブローが発生した場合には、引張強度指数に関わらず、耐アブレージョン摩耗性能は低下する。
(引張強度指数)=(各配合のM300)/(比較例1、8のM300)×100
【0070】
(実車評価)
試験用カートに試験用カートタイヤを装着させ、1周2kmのテストコース(DRY路面)を8周走行し、比較例1、8のタイヤの初期グリップ性能、後半グリップ性能を3.0点とし、6点満点でテストドライバーが官能評価した。なお、初期グリップ性能は1〜4周目の(低温条件下での)グリップ性能、後半グリップ性能は5〜8周目の(高温条件下での)グリップ性能を示す。
また、上記テストコースを18周走行した後、タイヤの摩耗外観を観察した。比較例1のタイヤの摩耗外観を3.0点とし、5点満点で評価した。数値が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1〜2の実施例では、初期グリップ性能を維持しながら後半グリップ性能が改善され、耐摩耗性も優れていた。特に、比較例1、2、4及び実施例1や比較例13、10、14及び実施例7の結果を比べると、アロマオイルをテルペン系樹脂又はクマロンインデン樹脂に置換した場合に初期グリップ性能が悪化するにもかかわらず、これらを併用した場合には更なる悪化はみられず、初期グリップ性能を維持しつつ、高温グリップ性能を改善できることが明らかとなった。また、いずれかに置換しても耐摩耗性の改善効果は発揮されないが、併用によってその改善効果が得られることも明らかとなった。
【0074】
更に実施例5及び6の結果から、ポリテルペンに比べてテルペンフェノールの方が優れた性能を示していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸及び窒素化合物、並びに/又は、有機カルボン酸金属塩、チオカルボン酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、
クマロンインデン樹脂と、
テルペン系樹脂と
を含むタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記テルペン系樹脂がポリテルペン又はテルペンフェノールである請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記酸がカルボン酸又はフェノール誘導体である請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記窒素化合物がピペリジン誘導体、イミダゾール類及びカプロラクタム類からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
ゴム成分100質量部に対して、前記クマロンインデン樹脂の含有量が2〜50質量部であり、前記テルペン系樹脂の含有量が2〜50質量部である請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記クマロンインデン樹脂の軟化点が70〜170℃であり、前記ポリテルペンの軟化点が70〜150℃であり、前記テルペンフェノールの軟化点が80〜160℃である請求項2〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
前記テルペンフェノールの水酸基価が30〜150KOHmg/gである請求項2〜6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
トレッド用ゴム組成物として用いられる請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。
【請求項10】
競技用タイヤである請求項9に記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−144583(P2012−144583A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1440(P2011−1440)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】