説明

タイヤ用チェーファー織物および空気入りタイヤ

【課題】 柔軟な糸により所定の織物強度を確保することができ、しかもタイヤの空気漏れを良好に防止することができるタイヤ用チェーファー織物およびこれをチェーファー部材として使用してなる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 長さ方向に対し垂直方向の断面形状が楕円でありその長径(a)と短径(b)の比(b/a)が0.3以上1.0未満の範囲内で、かつ繊度が300dtex超過1400dtex未満である有機モノフィラメント糸が経糸及び/又は緯糸として使用されているタイヤ用チェーファー織物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤとリムとの接触部分を良好に保護し、この接触部分からの空気漏れを良好に防止し得るタイヤ用チェーファー織物およびこれをチェーファー部材として使用してなる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、空気入りタイヤに気体が充填されてホイールリムに装着されたときの一方のビード部の横断面を示す。図1に示すように、カーカスプライ1はビードワイヤー3の周囲にタイヤの内側から外側に向かって巻き上げられており、従来、ビード部の表層部には補強部材としてチェーファー部材2がタイヤビード部の外郭に沿って、また一部はリムフランジ4の内面形状に沿って配置されている。チェーファー部材2をこのように配置することにより、カーカスプライ1がリムフランジ4に直接触れないように保護され、この接触部分からの空気漏れを防止することが可能となる。
【0003】
また、空気入りタイヤはホイールベース部とタイヤ内壁とが作る空間に空気や窒素等の不活性ガスが充填されて使用されるため、タイヤが車両に装着され荷重が付加されて転動走行するときのリムフランジ部とビード部との間の摩擦運動に起因するビード部の摩滅損傷や、タイヤをリムに組み付ける際にリムフランジ部の外径に対しビード内径が小さいことに起因するビード部のトウにおける亀裂損傷などが発生するが、これら問題を防ぐためにもチェーファー部材2の配置は有効である。かかるチェーファー部材2は一般に織物から構成されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ナイロン6又はナイロン66からなる繊維で単糸数が2から10本で構成される糸を経糸及び/又は緯糸に使用したタイヤ用チェーファー織物が提案されている。このようなチェーファー織物は、所定の織物強度を有し、柔軟で接着剤等を多く付着することなく空気漏れが防止できると報告されている。
【0005】
また、最近、空気入りタイヤはその空気漏れを防ぐ目的で、チェーファー部材2の織物にモノフィラメント糸を適用することが考えられている。かかる織物は通常平織であり、平織物は、ユニフル織りで製織すると織り速度が遅くコストが割高になるため、織り効率の高いレピア織機又はレピアに準じた高速織機を用いて、その作業効率を高めることも考えられている。このような織機で織られた織物にあっては緯糸の両端が切り離しとなる。このため、からみ糸を用いて織物端部のほつれ防止をする必要があり、このようなからみ糸にはナイロンやポリエステルなどの材質からなる紡績糸を用いることが考えられる。しかし、からみ糸にスパン糸やマルチフィラメント糸を単純に使用すると、撚り収束力が強力になるに従い接着剤等のディッピング液等がからみ糸の横断面中心部まで浸透しなくなる場合がある。このような不具合は、低圧状態では問題とならない空気透過が高圧状態で起こり、高圧を内部にかける空気入りタイヤにあっては気体抜けが生じ易くなる。そこで、このような不具合を解消するために、特許文献2ではチェーファー部材2としての織物を平織物にした場合の両端のほつれ防止のために使用するからみ糸を、複数のモノフィラメントで束ねて構成すると共に、そのモノフィラメント糸の合糸する場合の合糸構造などを限定することにより、更にはそのモノフィラメント糸の本数、モノフィラメントの材料等を特定の範囲に限定することにより、含浸接着剤等の浸透を十分なものとすると共に、機械的強度も十分に満たされることが述べられている。
【特許文献1】特開2001−271244号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2004−238767号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空気入りタイヤの空気漏れを防ぐという観点からはチェーファー部材の織物にモノフィラメント糸を適用することが最適であることが分かったが、その場合、一定の織物強度を得るためにモノフィラメント糸を太くするか織物の密度を多くする必要がある。しかし、モノフィラメント糸を太くすると糸が硬くなり、織るときの織機の停止が多くなったりし、一方、織物の密度を多くすると腰(スティフネス)が強くなり、後工程での成型がやりにくくなり、また、成型後に浮きあがり問題を生じて製品に空気がたまり、不良品となるという問題がある。このような問題点に対し、十分に満足な結果が得られる技術は未だ報告されていないのが現状である。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記した従来技術の問題を解消し、柔軟な糸により所定の織物強度を確保することができ、しかもタイヤの空気漏れを良好に防止することができるタイヤ用チェーファー織物およびこれをチェーファー部材として使用してなる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、タイヤ用チェーファー織物における有機モノフィラメント糸の断面形状を楕円形とし、かつその太さを所定の範囲内とすることにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のタイヤ用チェーファー織物は、長さ方向に対し垂直方向の断面形状が楕円でありその長径(a)と短径(b)の比(b/a)が0.3以上1.0未満の範囲内で、かつ繊度が300dtex超過1400dtex未満である有機モノフィラメント糸が経糸及び/又は緯糸として使用されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記タイヤ用チェーファー織物をチェーファー部材として使用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟な糸により所定の織物強度を確保することができ、しかもタイヤの空気漏れを良好に防止することができるタイヤ用チェーファー織物およびこれをチェーファー部材として使用してなる空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な一実施の形態につき具体的に説明する。
本発明のタイヤ用チェーファー織物は、以下の条件を満たす有機モノフィラメント糸を経糸及び/又は緯糸として使用してなるものである。
【0013】
有機モノフィラメント糸以外の紡績糸やマルチフィラメント糸の場合、繊維を接着剤処理しても糸の長さ方向に沿って気体透過通路が形成され易く、タイヤの気体透過性を大きくするおそれがある。この点、有機モノフィラメント糸であれば、気体透過通路の形成が少なく、高圧がかかる空気入りタイヤにあっては空気漏れを防ぐ効果が十分に期待できる。
【0014】
本発明に係る有機モノフィラメント糸は、図2に示すように、断面形状が楕円であり長径(a)と短径(b)との比(b/a)が0.3以上1.0未満、好ましくは0.5以上0.8以下である。この比が0.3未満であるとチェーファー部材としての補強性の面で十分ではなくなり、一方、1.0である断面円形となると、タイヤの空気漏れの観点から好ましくない。
【0015】
また、本発明に係る有機モノフィラメント糸は、細くするに従い糸の柔軟性は増すが、織物の密度を多くする必要があり、一方、太くするに従い腰が硬くなり、成型時に問題を生じ易くなる。よって、繊度は、300dtex超過1400dtex未満、好ましくは400dtex以上700dtex以下とする。なお、繊度は、JIS L2037の測定法によって測定され、テックス(tex)で表される。長さ1000mで1gであるときの繊維の太さを1texとし、デシテックス(dtex)はテックス(tex)の1/10である。
【0016】
さらに、本発明に係る有機モノフィラメント糸の具体的な材質としては、ポリアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリフルオロエチレン系、フェノール系等の合成繊維、半合成繊維、再生セルロース繊維等を挙げることができ、更に具体的には、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維等を挙げることができる。これらのうち、特に、ポリアミド系樹脂からなる合成繊維、例えば、ナイロン66やナイロン6等が好ましい。
【0017】
かかる有機モノフィラメント糸は、長さ方向に対し垂直方向の断面形状の長径(a)と短径(b)の比(b/a)を上記範囲内として押し出し、冷却し、延伸を実施し、帯電防止剤、老化防止剤等の油剤を塗布して製糸される。このようにして製糸された有機モノフィラメント糸を経糸及び緯糸の両方に使用しても、あるいは経糸又は緯糸のどちらか一方に使用してもよいが、好ましくは両方に使用する。
【0018】
本発明のタイヤ用チェーファー織物は平織物であり、この平織物は、作業性の面から織り効率の高いレピア織機又はレピアに準じた高速織機を用いた織物であることが好ましいが、本発明にあってはその他の公知の平織機等を使用することもできる。
【0019】
また、かかる平織物の機械的強度及び気密性を十分にするためには、織物本体における経糸及び緯糸の夫々打ち込みは10本/5cm乃至60本/5cmの範囲にあることが望ましい。
【0020】
さらに、上記平織物の接着剤処理に使用する接着剤は、織物に塗布又は織物を浸漬させて使用することから溶液系或いはエマルジョン系の熱硬化型接着剤であることが好ましいが、本発明は特にこのような形態に限定されるものではない。
【0021】
上記接着剤としては、フェノール系−アルデヒド縮合系樹脂とラテックスを混合したラテックス接着剤、例えば、苛性ソーダを触媒として、レゾルシン系−ホルムアルデヒド系を縮合したもの、具体的にはレゾルシン−ホルマリン縮合系接着剤であってスチレンブタジエンラテックス、ビニルピリジンラテックスを混合したラテックス接着剤(RFL)などを挙げることができる。
【0022】
以上のようにして構成された本発明のタイヤ用チェーファー織物は、図1に示すように、タイヤのビード部の表層部にチェーファー部材2として適用され、タイヤビード部の外郭に沿って、また一部はリムフランジ4の内面形状に沿って配置される。本発明のタイヤ用チェーファー織物をチェーファー部材2として適用することにより、この部分からの空気漏れを良好に防止することができる。
【0023】
本発明のチェーファー部材を使用した本発明の空気入りタイヤにあっては、内部圧2.0×105Pa(2kg/cm2)以上での使用に十分に対応しうる。このため、本発明の空気入りタイヤは、内部圧が2.0×105Pa(2kg/cm2)以上、特に、9.8×105乃至2.9×106Pa(10乃至30kg/cm2)の範囲で使用される空気入りタイヤとすることが好ましい。
【0024】
本発明の空気入りタイヤを製造するにあたっては、本発明のチェーファー織物を接着剤処理し、加熱して、チェーファー部材を製造する。次に、チェーファー部材をビード部の表層に、即ちビード部の外郭形状に従って、或いはリムフランジの輪郭に沿って配する。しかる後、チェーファー部材等の各部材が組み合わさった未加硫タイヤを加硫成型処理して空気入りタイヤを製造する。
【0025】
このように構成される空気入りタイヤにあっては、内部充填ガスの圧力が2.0×105Pa(2kg/cm2)以上の高圧使用が可能である。従って、本発明の空気入りタイヤは、小型乗用車用空気入りタイヤから、建設車輌、航空機等の比較的大型の空気入りタイヤに至るまで、気密保持性の高いタイヤとして好適に適用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
実施例1〜3、比較例1〜4
ナイロン6のポリマーを使用し、糸の繊度が目標繊度となるよう繊度調整して紡糸し、夫々下記の表1に示す特性値を有するモノフィラメント糸を得た。次いで、得られたモノフィラメント糸を、RFL含浸、乾燥および熱処理後の経糸及び緯糸の密度がいずれも40本/5cmとなるような平織物とした。
【0027】
RFL含浸処理において使用したRFLは苛性ソーダを触媒としレゾルシン、ホルマリンを縮合させスチレンブタジエンラテックス、ビニルピリジンラテックスと混合し濃度を20%として使用した。RFL含浸後の乾燥は100℃で60秒間、熱処理は幅を固定しながら185℃で60秒間行った。
【0028】
得られた熱処理後の平織物の硬さ、ユニットマス比、空気漏れを以下のようにして評価した。
【0029】
(1)硬さ
RFL塗布、乾燥、および熱処理を施したチェーファー平織物を幅25mm、長さ64mmに切り取り、東洋精機(株)製ガーレー式硬さ試験機にて測定した。比較例1の硬さを100として指数表示した。数値が大きいほど硬い。
【0030】
(2)ユニットマス比
RFL塗布、乾燥および熱処理を施したチェーファー織物のモノフィラメント糸上のコーティングゲージを一定になるようにコーティングした後、10cm四方に切り出し、重量を測定した。比較例1の重量を100として指数表示した。数値が大きいほど重い。
【0031】
(3)空気漏れ
RFL塗布、乾燥および熱処理を施したチェーファー織物を幅50mmに切り取り、ゴム(SBR/NR)中に埋め込んで加硫した後、長さ25mmに切り取り、切り取った両端面からチェーファー織物の断面が見えるようにしてその片方の面に1平方センチメートルあたり6kg(5.9×105Pa)の空気圧をかけ、10分間に透過した空気量を測定した。
得られた評価結果を下記の表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果から明らかなように、いずれの実施例も比較例1に比べ織物の硬さが良好であり、またユニットマスも小さくタイヤの軽量化に好適であり、またいずれも空気漏れはなかった。これに対し、比較例2は硬さ、ユニットマスともに良好だが、強力が弱くなりすぎて破れの問題が生じた。また、比較例3は、硬い上にユニットマス比が大きく、不良であり、比較例4はマルチフィラメントのため空気漏れが生じた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤのビード部の断面図である。
【図2】長さ方向に対し垂直方向の断面形状が楕円である有機モノフィラメント糸の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 カーカスプライコード(カ−カスプライ)
2 チェーファー部材
3 ビードワイヤ
4 リムフランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に対し垂直方向の断面形状が楕円でありその長径(a)と短径(b)の比(b/a)が0.3以上1.0未満の範囲内で、かつ繊度が300dtex超過1400dtex未満である有機モノフィラメント糸が経糸及び/又は緯糸として使用されていることを特徴とするタイヤ用チェーファー織物。
【請求項2】
前記有機モノフィラメント糸がポリアミドモノフィラメント糸である請求項1記載のタイヤ用チェーファー織物。
【請求項3】
前記ポリアミドモノフィラメント糸がナイロン6またはナイロン66フィラメント糸である請求項2記載のタイヤ用チェーファー織物。
【請求項4】
前記比(b/a)が0.5以上0.8以下である請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤ用チェーファー織物。
【請求項5】
前記繊度が400dtex以上700dtex以下である請求項1〜4のうちいずれか一項記載のタイヤ用チェーファー織物。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載のタイヤ用チェーファー織物をチェーファー部材として使用したことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−111071(P2006−111071A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298606(P2004−298606)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】