説明

タイヤ

【課題】優れた転がり抵抗性と良好なドライ操縦安定性とを両立し得るタイヤを提供する。
【解決手段】(A)天然ゴム及びジエン系合成ゴムの中から選ばれる少なくとも一種のゴム成分と、その100質量部に対し、(B)無機充填材20〜150質量部及び(C)多価アルコールのマレイン酸又はフマル酸エステル0.3〜7質量部を含むと共に、(D)特定構造を有する、保護化メルカプトシランからなるシランカップリング剤を、前記(B)成分の無機充填材に対して2〜30質量%の割合で含むゴム組成物を用いることを特徴とするタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のゴム組成物を用いたタイヤに関する。さらに詳しくは、本発明は、無機充填材配合系において、特定構造を有する、保護されたメルカプト基を含むメルカプトシラン(以下、「保護化メルカプトシラン」という。)からなるシランカップリング剤と多価アルコールのマレイン酸又はフマル酸エステルを含むゴム組成物を用いてなる、優れた転がり抵抗性と良好なドライ操縦安定性とを両立し得るタイヤ、特に空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの社会的な要請及び環境問題への関心の高まりに伴い、自動車の低燃費化に対する要求はより過酷なものとなりつつある。このような要求に対応するため、乗用車用タイヤやトラック・バス用タイヤの性能についても転がり抵抗の減少が求められてきている。タイヤの転がり抵抗を下げる手法としては、タイヤ構造の最適化による手法についても検討されてきたものの、トレッドゴム層として、より発熱性の低いゴム組成物を用いることが最も一般的な手法として行われている。
このような発熱性の低いゴム組成物を得るために、数多くの技術開発がなされてきているが、エネルギーロス低減の点からは、トレッドゴムをより固くすることが有利なことは知られている。しかし、この場合には、押出し性は悪化するなどタイヤ製造の際の作業性に悪影響を及ぼす。
一方、近年、自動車の安全性への関心の高まりに伴い、低燃費性能のみならず、湿潤路面での性能(以下、ウェット性能という)、特に、制動性能についても要求が高まってきた。このため、タイヤトレッドのゴム組成物に対する性能要求は、単なる転がり抵抗の低減に止まらず、ウェット性能と低燃費性能を高度に両立するものが必要とされている。
【0003】
このような、良好な低燃費性と良好なウェット性能とを同時にタイヤに与えるゴム組成物を得る方法として、補強用充填材として、これまで一般的に用いられてきたカーボンブラックに変えてシリカ等の無機充填材を用いる方法がすでに行われている。
しかしながら、シリカは、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあり、ゴム中へのシリカ粒子の分散が不十分になるため、通常は、シリカ表面のシラノール基がアルコキシシランと縮合反応することを利用して種々のアルコキシシランが、シリカ表面処理剤あるいはカップリング剤として用いられている。例えば、最近シランカップリング剤として、アシルチオアルキルトリアルコキシシランなどの保護化メルカプトシランが開発されている(例えば、特許文献1参照)。この保護化メルカプトシランは、ゴム組成物中へのシリカの分散性を良くし、作業性を向上させると共に、転がり抵抗性能も向上させる作用を有しているが、ドライ操縦安定性を低下させるという問題を有している。
シリカ等の無機充填材配合ゴムの省燃費性を損なわずに操縦安定性を向上させる方法として、樹脂を添加する方法が知られているが(例えば特許文献2、特許文献3参照)、これらの樹脂とゴムとの相溶性は不十分であり、加硫ゴムの表面荒れが生じる等の問題を有している。
【0004】
【特許文献1】特表2001−505225号公報
【特許文献2】特開2000−80205号公報
【特許文献3】特開2000−290433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、優れた転がり抵抗性と良好なドライ操縦安定性とを両立し得るタイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムに、シリカ等の無機充填材と多価アルコールのマレイン酸又はフマル酸エステルと特定のシランカップリング剤とを、それぞれ所定の割合で配合してなるゴム組成物をタイヤに用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1](A)天然ゴム及びジエン系合成ゴムの中から選ばれる少なくとも一種のゴム成分と、その100質量部に対し、(B)無機充填材20〜150質量部及び(C)一般式(I)
HOOC−CH=CH−COO−A1−OOC−CH=CH−COOH・・・(I)
[式中、A1は−R1O−、−(R2O)s−、−CH2CH(OH)CH2O−又は−(R3OOC−R4−COO−)t3O−で示される基であり、R1は炭素数2〜36の二価の炭化水素基、R2は炭素数2〜4のアルカンジイル基、sは平均付加モル数で1〜60の数、R3は炭素数2〜18の二価の炭化水素基又は−(R5O)u5−(ただし、R5は炭素数2〜4のアルカンジイル基、uは平均付加モル数で1〜30の数を示す。)、R4は炭素数2〜18の二価の炭化水素基、tは平均値で1〜30の数である。]
で表される化合物0.3〜7質量部を含むと共に、(D)一般式(II)
【化1】

[式中、R6は炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、Gはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、Zaはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、 [−0−]0.5、[−0−G−]0.5又は[−O−G−O−] 0.5から選ばれる基であり、Zbはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、 [−O−G−O−] 0.5で表される官能基であり、Zcはそれぞれ独立して−Cl、−Br、−OR7、R7C(=O)O−、R78C=NO−、R78N−,R7−,HO−G−O−で表される官能基であり、Gは上記表記と一致し、R7及びR8はそれぞれ独立に炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基である。
m、n、u、v、wはそれぞれ独立して1≦m≦20、0≦n≦20、0≦u≦3、0≦v≦2、0≦w≦1であり、かつ(u/2)+v+2w=2又は3である。
A部が複数である場合、複数のA部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて
、同一でも異なっていてもよく、B部が複数である場合、複数のB部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて、同一でも異なってもよい。]
で表されるシランカップリング剤を、前記(B)成分の無機充填材に対して2〜30質量%の割合で含むゴム組成物を用いることを特徴とするタイヤ、
[2]前記一般式(II)で表される(D)成分が、化学式(III)、
【化2】

化学式(IV)、
【化3】

及び化学式(V)
【化4】

[式中、Lはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、x=m、y=nである。]で表されるシランカップリング剤の中から選ばれる少なくとも一種である上記[1]に記載のタイヤ、
[3]前記無機充填材がシリカである上記[1]又は[2]に記載のタイヤ、
[4](A)ゴム成分100質量部に対し、(B)無機充填材40〜90質量部を含む上記[1]〜[3]のいずれかに記載のタイヤ、
[5]さらに、(E)カーボンブラックを、(A)ゴム成分100質量部に対し、5〜40質量部の割合で含む上記[1]〜[4]のいずれかに記載のタイヤ、
[6](C)成分の一般式(I)で表される化合物が、ポリエチレングリコールジマレエート又はポリエチレングリコールジフマレートである上記[1]〜[5]のいずれかに記載のタイヤ、及び
[7]前記ゴム組成物をトレッドに用いてなる上記[1]〜[6]のいずれかに記載のタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無機充填材配合系において、特定構造を有する、保護化メルカプトシランからなるシランカップリング剤と多価アルコールのマレイン酸又はフマル酸エステルを含むゴム組成物を用いてなる、優れた転がり抵抗性と良好なドライ操縦安定性とを両立し得るタイヤ、特に空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のタイヤは、(A)天然ゴム及びジエン系合成ゴムの中から選ばれる少なくとも一種のゴム成分と、(B)無機充填材、(C)多価アルコールのマレイン酸又はフマル酸エステル及び(D)保護化メルカプトシランからなるシランカップリング剤を含むゴム組成物を用いてなる。
本発明のタイヤに用いられるゴム組成物においては、(A)ゴム成分として、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムが用いられる。ジエン系合成ゴムとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)及びこれらの混合物等が挙げられる。また、その一部が多官能型変性剤、例えば四塩化スズのような変性剤を用いることにより分岐構造を有しているものでもよい。(A)ゴム成分としては、重量平均分子量が80万以上であるジエン系ゴム(A−1)を用いることが好ましい。高分子量ポリマーにすることによりポリマーの末端数の総数が少なくなり、損失係数(損失正接)がより低減することとなる。
本発明においては、(A)ゴム成分として、天然ゴムを単独で用いてもよいし、前記ジエン系合成ゴム一種以上を用いてもよく、また、天然ゴムとジエン系合成ゴム一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0009】
本発明に係るゴム組成物において、(B)成分として用いられる無機充填材としては、例えば、シリカ又は下記一般式(VI)で表される無機フィラーを挙げることができる。
jM1・pSiOq・rH2O ・・・(VI)
式中、M1は、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、又はこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり、j、p、q及びrは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数、及び0〜10の整数である。尚、上記一般式(VI)において、p、rがともに0である場合には、該無機化合物はアルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1つの金属、金属酸化物又は金属水酸化物となる。
【0010】
この(B)成分の無機充填材は、前記(A)成分であるゴム成分100質量部に対し、20〜150質量部、好ましくは40〜90質量部の範囲で配合される。当該無機充填材の配合量が20質量部未満では、補強性や他の物性の改良効果が不十分であるし、150質量部を超えると作業性及び転がり抵抗が悪化する。
シリカ及び上記一般式(VI)で表される無機フィラー等の無機充填材は、単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0011】
(B)成分の無機充填材としては、シリカが好ましい。シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸)が挙げられるが、中でも破壊特性の改良効果並びにウェットグリップ性及び低転がり抵抗性の両立効果が最も顕著である湿式シリカが好ましい。
この湿式シリカは、補強性、加工性、ウェットグリップ性、耐摩耗性のバランス等の面から、BET法による窒素吸着比表面積(N2SA)が140〜280m2/gであることが好ましく、160〜250m2/gであることがより好ましい。好適な湿式シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)製のAQ、VN3、LP、NA等、デグッサ社製のウルトラジルVN3(N2SA:175m2/g)等が挙げられる。
【0012】
上記一般式(VI)で表される無機フィラーとしては、γ−アルミナ、α−アルミナ等のアルミナ(Al23)、ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al23・H2O)、ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)3]、炭酸アルミニウム[Al2(CO32]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al23)、クレー(Al23・2SiO2)、カオリン(Al23・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al23・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al23・4SiO2・2H2O)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5 、Al4・3SiO4・5H2O等)、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3等)、ケイ酸カルシウム(Ca2・SiO4等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al23・CaO・2SiO2等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)2・nH2O]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO32]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等が使用できる。また、前記一般式(VI)中のM1がアルミニウム金属、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、又はアルミニウムの炭酸塩から選ばれる少なくとも一つである場合が好ましい。
【0013】
本発明に係るゴム組成物においては、必要に応じ、前記無機充填材と共に、(E)成分として、カーボンブラックを併用することができる。このカーボンブラックの配合量は、補強効果、作業性及び他の性能の観点から、(A)成分であるゴム成分100質量部に対して、5〜40質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。カーボンブラックとしては、例えばFEF、GPF、SRF、HAF、N339、IISAF、ISAF、SAF等が挙げられる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA、JIS K 6217−2:2001に準拠する)は20〜160m2/gであることが好ましく、70〜160m2/gであることがより好ましい。また、好ましくはジブチルフタレート吸油量(DBP、JIS K 6217−4:2001に準拠する)が80〜170cm3/100gのカーボンブラックである。これらのカーボンブラックを用いることにより、諸物性、特に破壊特性の改良効果は大きくなる。好ましいカーボンブラックはHAF、N339、IISAF、ISAF、SAFである。
【0014】
本発明に係るゴム組成物においては、(C)成分として、一般式(I)
HOOC−CH=CH−COO−A1−OOC−CH=CH−COOH・・・(I)
で表される化合物、すなわち多価アルコールのマレイン酸又はフマル酸エステルが用いられる。
一般式(I)において、A1は−R1O−、−(R2O)s−、−CH2CH(OH)CH2O−又は−(R3OOC−R4−COO−)t3O−で示される基である。ここで、R1は炭素数2〜36の二価の炭化水素基を示す。この二価の炭化水素基としては、炭素数2〜36のアルカンジイル基若しくはアルケンジイル基又は炭素数6〜18の二価の芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは炭素数2〜18のアルカンジイル基又はフェニレン基、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルカンジイル基である。またR2は炭素数2〜4のアルカンジイル基、好ましくはエチレン基又はプロピレン基であり、sはオキシアルカンジイル基の平均付加モル数を示す1〜60の数であり、好ましくは2〜40、さらに好ましくは4〜30の数である。R3は炭素数2〜18の二価の炭化水素基又は−(R5O)u5−を示す。この二価の炭化水素基としては、炭素数2〜18のアルカンジイル基若しくはアルケンジイル基、炭素数6〜18の二価の芳香族炭化水素基が挙げられる。−(R5O)u5−において、R5は炭素数2〜4のアルカンジイル基、uはオキシアルカンジイル基の平均付加モル数を示す1〜30の数であり、好ましくは1〜20、さらに好ましくは2〜15の数である。R4は炭素数2〜18の二価の炭化水素基を示す。この二価の炭化水素基としては、炭素数2〜18のアルカンジイル基若しくはアルケンジイル基又は炭素数6〜18の二価の芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは炭素数2〜12のアルカンジイル基又はフェニレン基、さらに好ましくは炭素数2〜8のアルカンジイル基である。tは平均値で1〜30、好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜15の数である。
【0015】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、グリセリンジマレエート、1,4−ブタンジオールジマレエート,1,6−ヘキサンジオールジマレエート等のアルキレンジオールのジマレエート、1,6−ヘキサンジオールジフマレート等のアルキレンジオールのジフマレート、PEG200ジマレエート,PEG600ジマレエート等のポリオキシアルキレングリコールのジマレエート(ここでPEG200、PEG600とは、それぞれ平均分子量200又は600のポリエチレングリコールを示す)、両末端にカルボキシル基を有するポリブチレンマレエート、両末端にカルボキシル基を有するポリ(PEG200)マレエート等の両末端カルボン酸型ポリアルキレングリコール/マレイン酸ポリエステル、両末端にカルボキシル基を有するポリブチレンアジペートマレエート、PEG600ジフマレート等のポリオキシアルキレングリコールのジフマレート、両末端にカルボキシル基を有するポリブチレンフマレート、両末端にカルボキシル基を有するポリ(PEG200)フマレート等の両末端カルボン酸型ポリアルキレングリコール/フマル酸ポリエステル等が挙げられる。
これらの中で、性能及び経済性の面で、ポリエチレングリコールジマレエート又はポリエチレングリコールジフマレートが好ましい。
当該(C)成分の分子量は250以上であることが好ましく、さらには250〜5000の範囲であること、特には250〜3000の範囲であることが好ましい。この範囲であると引火点が高く、安全上望ましいばかりでなく、発煙が少なく作業環境上も好ましい。
【0016】
本発明に係るゴム組成物において、当該(C)成分は、無機充填材、特にシリカと水素結合を、ポリマーと硫黄等を介して化学結合を形成し得るので、ゴム組成物の動的貯蔵弾性率(E')を高くすることができ、これにより本発明のタイヤのドライ操縦安定性を向上することができる。
本発明においては、当該(C)成分は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、(A)成分であるゴム成分100質量部に対して、0.3〜7質量部の範囲で選定される。当該(C)成分の配合量が上記範囲にあれば、得られる本発明のタイヤは転がり抵抗性能を保持すると共に、ドライ操縦安定性を向上させることができる。当該(C)成分の好ましい配合量は0.5〜5質量部である。
【0017】
本発明に係るゴム組成物においては、(D)成分として、一般式(II)
【0018】
【化5】

【0019】
で表される保護化メルカプトシランからなるシランカップリング剤が用いられる。
一般式(II)において、式中R6は炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、Gはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、Zaはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、 [−0−]0.5、[−0−G−]0.5又は[−O−G−O−] 0.5から選ばれる基であり、Zbはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、 [−O−G−O−] 0.5で表される官能基であり、Zcはそれぞれ独立して−Cl、−Br、−OR7、R7C(=O)O−、R78C=NO−、R78N−,R7−,HO−G−O−で表される官能基であり、Gは上記表記と一致し、R7及びR8はそれぞれ独立に炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基である。
m、n、u、v、wはそれぞれ独立して1≦m≦20、0≦n≦20、0≦u≦3、0≦v≦2、0≦w≦1であり、かつ(u/2)+v+2w=2又は3である。
A部が複数である場合、複数のA部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、B部が複数である場合、複数のB部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて、同一でも異なってもよい。
【0020】
本発明に係るゴム組成物は、(D)成分として、このようなシランカップリング剤を用いることにより、転がり抵抗性能の向上した空気入りタイヤを与えることができる。
本発明においては、この(D)成分のシランカップリング剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、前記(B)成分の無機充填材に対して、2〜30質量%の範囲で選定される。当該シランカップリング剤の配合量が上記範囲にあれば、前記本発明の効果が充分に発揮される。好ましい配合量は5〜26質量%の範囲である。
【0021】
上記一般式(II)で得られるシランカップリング剤としては、以下の化学式(III)、化学式(IV)、及び化学式(V)、
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

[式中Lはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、x=m、y=nである。]を挙げることができる。
【0025】
上記化学式(III)で表されるシランカップリング剤としては、Momentive Performance Materials社製、商品名「NXT Low−V Silane(商標)」が市販品として入手できる。
また、化学式(IV)で表されるシランカップリング剤としては、Momentive Performance Materials社製、商品名「NXT Ultra Low−V Silane(商標)」が同様に市販品として入手することができる。
さらに、化学式(V)で表されるシランカップリング剤としては、Momentive Performance Materials社製、商品名「NXT-Z(商標)」として挙げることができる。
【0026】
上記の化学式(III)、(IV)及び(V)で表されるシランカップリング剤(以下、「NXTシラン」という。)の中から選ばれる少なくとも一種を上記の重量平均分子量が80万以上であるジエン系ゴム(A−1)と併用することにより、損失係数(tanδ)を大きく低減することが可能となる。NXTシランの使用により無機充填材の分散を良好にすることができるため、高分子量ポリマーの損失係数低減効果と相乗的に損失係数が低減するからである。これにより、上記2つを用いることによって転がり抵抗性能が大幅に向上することとなる。
【0027】
また、化学式(V)で表されるシランカップリング剤{特に、商品名「NXT-Z(商標)」}は、アルコキシシラン炭素数が多い、即ちエトキシ基の数が少ないため、揮発性化合物VOC(特にアルコール)の発生が少なく、環境負荷が小さいので好ましい。この化学式(V)で表されるシランカップリング剤{特に、商品名「NXT-Z(商標)」}は、タイヤ性能として低発熱性に優れ、転がり抵抗性能が大幅に向上すると共に耐摩耗性も向上するゴム組成物を得ることからさらに好ましい。
さらに、化学式(V)で表されるシランカップリング剤と(C)成分とを組み合わせることにより、化学式(V)で表されるシランカップリング剤の(B)無機充填材(特にシリカ)分散効果が(C)成分によるヒステリシスロス上昇を抑制することができるため、化学式(V)で表されるシランカップリング剤及び(C)成分のそれぞれを単独で用いる場合と比較して効果的に、優れた転がり抵抗性と良好なドライ操縦安定性とを両立し得る。
【0028】
さらに、(D)成分のシランカップリング剤とポリマーをカップリングするためにDPG(ジフェニルグアニジン)などに代表されるプロトンドナーを脱保護化剤として最終混練工程に配合することが好ましい。その使用量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜5.0質量部が好ましく、更に好ましくは0.2〜3.0質量部である。
【0029】
本発明に係るゴム組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、プロセス油、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を含有させることができる。
上記加硫剤としては、硫黄等が挙げられ、その使用量は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として0.1〜10.0質量部が好ましく、0.3〜5.0質量部がより好ましく、0.5〜5.0質量部がさらに好ましい。
【0030】
本発明で使用できる加硫促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、M(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアジルジスルフィド)、CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)等のチアゾール系、あるいはDPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤等を挙げることができ、その使用量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜5.0質量部が好ましく、更に好ましくは0.2〜3.0質量部である。
【0031】
また、本発明に係るゴム組成物で使用できるプロセス油としては、例えばパラフィン系、ナフテン系、アロマチック系等を挙げることができる。引張強度、耐摩耗性を重視する用途にはアロマチック系が、ヒステリシスロス、低温特性を重視する用途にはナフテン系又はパラフィン系が用いられる。その使用量は、ゴム成分100質量部に対して、0〜100質量部が好ましく、100質量部以下であれば加硫ゴムの引張強度、低発熱性が良好となる。
【0032】
本発明に係るゴム組成物は、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることによって得られ、成形加工後、加硫を行い、タイヤ用途として、タイヤトレッドに用いられる。また、その他アンダートレッド、サイドウォール、カーカスコーティングゴム、ベルトコーティングゴム、ビードフィラー、チェーファー、ビードコーティングゴム等にも用いることができる。
本発明のタイヤは、前述の本発明に係るゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて、上記のように各種薬品を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で、タイヤ部材、好ましくはタイヤトレッドに加工され、タイヤ成型機上で通常の方法により貼り付け成型され、生タイヤが成型される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが得られる。
このようにして得られた本発明のタイヤ、特に空気入りタイヤは、優れた転がり抵抗性能を保持すると共に、良好なドライ操縦安定性を有している。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた供試タイヤの転がり抵抗性能及びドライ操縦安定性は、下記の方法に従って評価した。
(1)転がり抵抗性能
供試タイヤを内圧0.2MPa、荷重4315N、リム7JJの条件下、外径1.7mのドラムの上に接触させてドラムを回転させ、速度120km/時まで上昇後、ドラムを惰行させて速度80km/時のときの慣性モーメントより算出した値から、下記式によって評価した。数値は比較例1を100として指数で表し、大きい程好ましい。
指数値=[(比較例1のタイヤの慣性モーメント)/(供試タイヤの慣性モーメント)]×100
(2)ドライ操縦安定性
排気量2000ccの乗用車4輪共に、同一ゴム組成物を用いた供試タイヤを装着し、テストコースでの乾燥路面制動距離を求め、比較例1の制動距離の逆数を100として下記式により指数表示した。この指数の値が大きいほど、ドライ操縦安定性が良好である。
指数値=[(比較例1のタイヤの制動距離)/(供試タイヤの制動距離)]×100
【0034】
実施例1〜7及び比較例1〜7
表1に示す配合組成の14種類のゴム組成物を調製し、それぞれ14種類のタイヤサイズ215/45R17の空気入りタイヤを常法に従って試作した。
各タイヤについて、転がり抵抗性能及びドライ操縦安定性を評価した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

[注]
1)JSR(株)製、商品名「SBR0120(商標)」、オイル含量27.3質量%油展SBR
2)N134、東海カーボン(株)製、商品名「シースト9H(商標)」、窒素吸着比表面積(N2SA:146m2/g)
3)東ソー・シリカ(株)製、商品名「ニプシルAQ(商標)」
4)両末端カルボン酸型の平均重合度4.5のポリエチレングリコール/マレイン酸ポリエステル(ポリエステル部分の重合度5)
5)ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、デグサ社製シランカップリング剤、商品名「Si69(商標)」
6)Momentive Performance Materials社製、商品名「NXT-Z(商標)」
7)N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクラック810−NA(商標)」
8)脱保護化剤:ジフェニルグアニジン(DPG)、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーD(商標)」
9)ジベンゾチアジルジスルフィド、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーDM(商標)」
10)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーCZ(商標)」
【0036】
表1から、以下に示すことが分かる。
実施例1〜7の空気入りタイヤは、いずれも転がり抵抗性能及びドライ操縦安定性が共に優れている。これに対し、比較例1〜7の空気入りタイヤは、いずれも転がり抵抗性能及びドライ操縦安定性の一方が低い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のタイヤは、優れた転がり抵抗性と良好なドライ操縦安定性とを両立し得るので、各種空気入りタイヤ、例えば、乗用車用空気入りタイヤ、軽自動車用空気入りタイヤ、軽トラック用空気入りタイヤ、トラック・バス用空気入りタイヤ等として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)天然ゴム及びジエン系合成ゴムの中から選ばれる少なくとも一種のゴム成分と、その100質量部に対し、(B)無機充填材20〜150質量部及び(C)一般式(I)
HOOC−CH=CH−COO−A1−OOC−CH=CH−COOH・・・(I)
[式中、A1は−R1O−、−(R2O)s−、−CH2CH(OH)CH2O−又は−(R3OOC−R4−COO−)t3O−で示される基であり、R1は炭素数2〜36の二価の炭化水素基、R2は炭素数2〜4のアルカンジイル基、sは平均付加モル数で1〜60の数、R3は炭素数2〜18の二価の炭化水素基又は−(R5O)u5−(ただし、R5は炭素数2〜4のアルカンジイル基、uは平均付加モル数で1〜30の数を示す。)、R4は炭素数2〜18の二価の炭化水素基、tは平均値で1〜30の数である。]
で表される化合物0.3〜7質量部を含むと共に、(D)一般式(II)
【化1】

[式中、R6は炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、Gはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、Zaはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、 [−0−]0.5、[−0−G−]0.5又は[−O−G−O−] 0.5から選ばれる基であり、Zbはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、 [−O−G−O−] 0.5で表される官能基であり、Zcはそれぞれ独立して−Cl、−Br、−OR7、R7C(=O)O−、R78C=NO−、R78N−,R7−,HO−G−O−で表される官能基であり、Gは上記表記と一致し、R7及びR8はそれぞれ独立に炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基である。
m、n、u、v、wはそれぞれ独立して1≦m≦20、0≦n≦20、0≦u≦3、0≦v≦2、0≦w≦1であり、かつ(u/2)+v+2w=2又は3である。
A部が複数である場合、複数のA部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、B部が複数である場合、複数のB部におけるZau、Zbv及びZcwそれぞれにおいて、同一でも異なってもよい。]
で表されるシランカップリング剤を、前記(B)成分の無機充填材に対して2〜30質量%の割合で含むゴム組成物を用いることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記一般式(II)で表される(D)成分が、化学式(III)、
【化2】

化学式(IV)、
【化3】

及び化学式(V)
【化4】

[式中、Lはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、x=m、y=nである。]で表されるシランカップリング剤の中から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記無機充填材がシリカである請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
(A)ゴム成分100質量部に対し、(B)無機充填材40〜90質量部を含む請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
さらに、(E)カーボンブラックを、(A)ゴム成分100質量部に対し、5〜40質量部の割合で含む請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
(C)成分の一般式(I)で表される化合物が、ポリエチレングリコールジマレエート又はポリエチレングリコールジフマレートである請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム組成物をトレッドに用いてなる請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤ。

【公開番号】特開2009−280699(P2009−280699A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134104(P2008−134104)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】