説明

タイルユニット及びタイル張り工法

【課題】目地幅を小さくしたり大きくしたりする目地調整を極めて容易に行うことができるタイルユニットと、このタイルユニットを用いたタイル張り工法を提供する。
【解決手段】タイルユニット10は、目地間隙を介して整列配置された複数枚の陶磁器製タイル11を連結シート15,16によって連結したものである。連結シート15,16は、紙15aの裏面に熱可塑性接着剤層15bを設けたものである。タイルユニット10をモルタル2,3で張った後、目地幅を拡張させると、紙15aは切れ、接着剤層15bは伸長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のタイルを連結シートで連結してなるタイルユニットに係り、特に、タイルの裏面に連結シートが付着されているタイルユニットに関する。また、本発明は、このタイルユニットを用いたタイル張り工法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイルの裏面に、隣接するタイルに架け渡すように紙などの連結材を接着剤で接着することにより、複数枚のタイルを連結してなるタイルユニットは、1回のタイル貼り操作で、複数枚のタイルを施工することができ、施工作業の軽減、工期の短縮に有効であることから、従来、内外装用タイルの施工に広く用いられている。
【0003】
連結材としては紙が広く用いられている(例えば特開平8−109730)が、合成樹脂が用いられることもある(特開2001−107537)。
【0004】
タイルユニットを壁面に張った後の目地調整を行い易くするために、連結材として糸を用いることが特開平10−317637に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−109730
【特許文献2】特開2001−107537
【特許文献3】特開平10−317637
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タイルユニットを壁面にモルタル等で張った後、モルタル等が硬化する前に目地調整を行うことがある。連結材が紙よりなる場合は、目地幅を小さくするだけでなく、紙が水分を吸収して切れ易くなっているので、目地幅を大きくすることが可能である。しかしながら、紙が切れてしまうと、タイル同士を連結する機能が失われてしまう。
【0007】
連結材が合成樹脂である上記特開平10−317637にあっては、合成樹脂の厚さが大きいので、目地幅の調整を行なうには、カッター等で連結材を切断する必要があり、作業性に劣る。また、連結材を切断すると、タイル同士の連結機能が無くなる。
【0008】
特開平10−317637のように連結材を糸とした場合、目地幅を小さくするのは容易となるが、目地幅を大きくするときには、やはり糸を切る必要があるので、作業性に劣る。なお、伸長性を有した糸を用いたのでは、タイルユニットの定型性が失われてしまう。例えば、壁面に張り付けるべく吊り下げたときに糸が伸びてしまい、タイルユニットの寸法が大きくなってしまう。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、目地幅を小さくしたり大きくしたりする目地調整を極めて容易に行うことができるタイルユニットと、このタイルユニットを用いたタイル張り工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1のタイルユニットは、複数枚のタイルが並列され、タイルの裏面に接着された連結材によって隣接するタイル同士が連結されたタイルユニットにおいて、該連結材は、湿潤するとタイル張り時に目地幅拡張調整力を受けたときに破断可能となる湿潤破断性連結材と、タイル張り時に目地幅拡張調整力を受けたときに延伸する延伸性連結材とからなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2のタイルユニットは、請求項1において、前記湿潤破断性連結材は紙であり、延伸性連結材は合成樹脂であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3のタイルユニットは、請求項2において、前記紙と合成樹脂とが一体となって連結シートを構成していることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4のタイルユニットは、請求項3において、目地部における合成樹脂層の厚みが100〜200μmであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5のタイルユニットは、請求項3又は4において、前記連結シートに、目地部に臨む孔が設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項6のタイル張り工法は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイルユニットを、下地面に対して水性張付材料によって張り付けるタイル張り工法において、該水性張付材料によってタイルユニットを下地面に張った後、一部のタイルに力を加えて目地幅を拡大させるようにずらして目地間隔を調整することを特徴とするものである。
【0016】
請求項7のタイル張り工法は、請求項6において、前記水性張付材料はモルタルであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のタイルユニットは、紙などの湿潤破断性連結材によってタイル同士を連結しているので、タイルユニットの定型性が良好である。
【0018】
本発明のタイルユニットを下地面に対してモルタル等の水性接着剤を用いて張付施工した後、目地調整を行うには、モルタル等が硬化する前に、好ましくは張付直後に、タイルに力を加えてタイルの位置をずらして目地幅を調整する。
【0019】
湿潤破断性連結材は、水性接着剤水分を吸収して切れ易くなっているので、タイルに目地幅を大きくする方向に力が加えられると、容易に破断する。延伸性連結材は、この力が加えられると伸長する。これにより、延伸性連結材を破断させることなく、目地幅を拡大させる目地調整を容易に行うことができる。もちろん、目地幅を小さくする目地調整も可能である。
【0020】
なお、湿潤破断性連結材が切れた後でも、タイル同士は延伸性連結材を介して連結されているので、タイルの剥落が防止される。
【0021】
連結シートに孔が設けられている場合、タイルユニットを水性接着剤張りするに際し、水性接着剤の一部が孔を通って目地内に入り込む。この際、孔の内周面から水が湿潤破断性連結材中に染み込むので、湿潤破断性連結材の強度が速やかに低下する。そのため、タイルユニットを張った直後に目地幅の拡張調整を行った場合に、湿潤破断性連結材がスムーズに破断する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態に係るタイルユニットの裏面図である。
【図2】実施の形態に係るタイルユニットの断面図である。
【図3】タイルユニットの施工方法を示す断面図である。
【図4】タイルユニットの施工方法を示す断面図である。
【図5】施工されたタイルユニット群の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係るタイルユニット10の裏面図、第2図は第1図のB−B線断面図である。
【0024】
このタイルユニット10は、目地間隙を介して整列配置された複数枚の陶磁器製タイル11を連結シート15,16によって連結したものである。タイル11は、方形であり、その裏面には一端縁から他端縁にまで延在する凸部12が設けられ、凸部12同士の間が溝13となっている。溝13は、奥側ほど幅が広くなるアリ溝である。
【0025】
タイル11の4辺のうち、凸部12及び溝13の延在方向と平行方向に延在する辺に沿う部分は凸部12となっている。なお、この辺に沿う凸部12においては、タイル11の端辺ほど高さが小さくなるように、「しめ勾配」と称される傾斜面12aが設けられている。
【0026】
この傾斜面12aを除いて、各凸部12の頂面は同一高さの平坦面となっている。各タイル11は、凸部12及び溝13を平行にして整列配置されている。
【0027】
目地14は外装モザイクタイル50mm二丁(タイル実寸:45mm×95mm)の場合、4〜6mm特に4.2〜5.8mm程度の幅であることが好適である。この目地14を跨ぐようにして連結シート15,16が各タイル11の裏面に接着されている。連結シート15,16は、紙15aの裏面に熱可塑性接着剤層15bを設けたものである。紙15aとしてはクラフト紙が好適であり、その厚さは100〜1000μm特に100〜300μm程度が好適である。接着剤としては、EVA(エチレン酢酸ビニル)系、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、塩ビ系、変成シリコン系、オレフィン系、ポリウレタン系、ポリスチレン系などの各種熱可塑性合成樹脂又はこれらを混合した樹脂系のものが好適である。この接着剤層の厚さは50〜300μm特に100〜200μm程度が好適である。接着剤層としては、特に厚さ100〜200μmのEVA層が好適である。
【0028】
この実施の形態では、連結シート15は略正方形であり、その中央部には直径8〜10mm程度の小孔15hが設けられている。この小孔15hは、タイルユニット10を壁面に張り付ける際にモルタルを通過させるためのものである。
【0029】
連結シート16は、連結シート15を半割した長方形状のものである。
【0030】
タイル11を連結シート15,16で連結するには、作業盤上の規定位置に各連結シート15,16を接着剤付着面が上向きとなるように配置しておく。整列配置され、接着剤の溶融温度以上に加温されたタイル11を、タイル11の裏面が下向きとなるようにチャックし、作業盤上の連結シート15,16に押し付け、タイル11の熱によって接着剤を溶融させ、連結シート15,16をタイル11の裏面に付着させる。タイルを放冷することにより接着剤が硬化し、連結シート15,16がタイル11の裏面に強固に付着し、タイルユニット10が得られる。
【0031】
このタイルユニット10にあっては、4枚のタイル11のコーナー部が臨む目地間隙交点部に連結シート15が配置されている。凸部12の長辺が臨むタイル11の辺同士をつなぐように連結シート15がタイル11,11の裏面に接着されている。各凸部12及び溝13の端部が臨むタイル11の辺同士をつなぐように連結シート16がタイル11,11の裏面に接着されている。
【0032】
このように構成されたタイルユニット10を第3図(a)のように下地面としての壁面1に対し下地モルタル2(壁面1に塗着したモルタル)及び張付モルタル3(タイルユニット10の各タイル11の裏面に付着させたモルタル)を用いて張付施工する。その後、目地幅を拡大する調整を行うには、モルタル2,3が硬化する前に、好ましくは張付直後に、タイル11に壁面1に沿う方向に力Fを加えてタイル11の位置をずらして目地幅を調整する。
【0033】
タイル11に力Fを加えるには、叩き板(たたきいた)と称されるゴム貼り板でタイル11を斜めに叩いて少しずつずらすのが好ましい。紙15aは、モルタル中の水分を吸収して切れ易くなっているので、タイル11に目地幅を大きくする方向に力Fが加えられると、容易に破断する。接着剤層15bは、この力が加えられると伸長する。これにより、第3図(b)のように、目地幅をtからtへ拡大させる目地調整を容易に行うことができる。もちろん、目地幅を小さくする目地調整も可能である。この場合、連結シート15は、しわが入る如く変形し、目地幅が狭められる。
【0034】
この実施の形態によると、紙15aが切れた後でも、タイル11同士は接着剤層15bを介して連結されているので、タイル11の剥落が防止される。
【0035】
この実施の形態では、連結シート15に小孔15hが設けられている。そのため、タイルユニット10をモルタル張りするに際し、第4図の通り、モルタルの一部が小孔15hを通って目地14内に入り込む。
【0036】
このように、小孔15hにモルタルが入り込むため、小孔15hの内周面に露呈する紙15aの端面や紙15aと接着剤層15bとの界面から水が紙15a中に染み込むので、紙15aの強度が速やかに低下する。そのため、タイルユニット10をモルタルで張った直後に目地幅の拡張調整を行った場合に、紙15aがスムーズに破断する。
【0037】
なお、タイルユニット10を張った後に、タイル11間の目地調整を行うことの必要性について第5図を参照して説明する。
【0038】
第5図の通り、複数個のタイルユニット10を壁面に張った場合、目地としては、タイルユニット10のタイル11,11間の目地14と、タイルユニット10同士の間の目地Mとが存在する。目地Mの幅は、タイルユニット10を張るときに調整することができるが、目地14については、規定寸法t(例えば5mm)となっている。
【0039】
壁面の下地面の寸法が目地Mをタイルユニット10の目地14の規格寸法の間隔とすれば足りるときには、目地調整は不要である。ところが、下地面の寸法のために目地Mの幅が目地14の寸法5mmより大きくなってしまうことがある。このような場合、目地Mの幅をそのままとしたのでは、壁面の目地通りが悪く、美観に劣る。
【0040】
このような場合、例えばタイルユニット10内のタイル11,11の目地14の間隔をt=6mmとし、タイルユニット10間の目地M幅も6mmとなるように調整すれば、目地通りは良好なものとなる。
【0041】
本発明によれば、タイルユニット10間のタイル11,11間の目地幅も、張付後に容易に調整することができるので、目地通りが良好なタイル張り仕上げ面となるように施工することができる。
【0042】
上記実施の形態では、モルタルにてタイル張りを行っているが、水性接着剤を用いる場合にも適用できる。
【0043】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。例えば、タイルは長方形であってもよい。半分の大きさの連結シート16の代りに、1枚物の大きさの連結シート15を用いてもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0045】
実施例1
第1図において、45×95mm、厚み7mm、凸部12の幅6mm、溝13の幅7mm、溝13の深さ1.5mmの陶器質タイルを用いた。
【0046】
連結シート15としては、18mm×20mmの長方形のクラフト紙(厚さ200μm)に接着剤として熱可塑性EVA系接着剤を厚さ100μmに設けたものを用いた。中央の小孔15hの直径は8mmである。連結シート16としては、連結シート15を半分に切ったものを用いた。
【0047】
各連結シート15,16を接着剤層が上向きとなるように作業盤上に配列しておき、120℃に加温した18枚(縦6枚、横3枚)のタイル11の整列体を真空チャックでチャックして連結シート15,16に押し付けて連結シート15,16をタイル11の裏面に接着し、目地幅5mmのタイルユニット10を製作した。
【0048】
このタイルユニット10をモルタルによって壁面に張り付けた。次いで、叩き板を用いてタイル11の間隔を6mmに広げた。なお、タイルを剥してみると、紙15aは破断していたが、接着剤層15bは破断せず、伸長していた。
【0049】
実施例2
接着剤層の厚さを200μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてタイルユニット10を製作した。このタイルユニット10についても、モルタル張りして目地幅を6mmに調整したところ、紙15aは破断したが、接着剤層15bは破断せず、伸長していた。
【0050】
比較例1
接着剤層の厚さを1000μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてタイルユニット10を製作した。このタイルユニット10についてモルタル張り後、目地幅を6mmに調整しようとしたが、接着剤層15bが厚過ぎて殆ど伸長せず、目地幅調整はできなかった。
【0051】
比較例2
接着剤層の厚さを20μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてタイルユニット10を製作した。このタイルユニット10について目地幅を6mmに調整したところ、紙15aだけでなく接着剤層15bも破断することが認められた。
また、延伸性がない接着剤層(酢ビ)としたこと以外は、実施例1と同様にしてタイルユニット10を製作した場合も、紙15aと接着剤層15bが破断することが認められた。
【符号の説明】
【0052】
10 タイルユニット
11 タイル
12 凸部
13 溝
24 目地間隙
15,16 連結シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のタイルが並列され、タイルの裏面に接着された連結材によって隣接するタイル同士が連結されたタイルユニットにおいて、
該連結材は、湿潤するとタイル張り時に目地幅拡張調整力を受けたときに破断可能となる湿潤破断性連結材と、
タイル張り時に目地幅拡張調整力を受けたときに延伸する延伸性連結材とからなることを特徴とするタイルユニット。
【請求項2】
請求項1において、前記湿潤破断性連結材は紙であり、延伸性連結材は合成樹脂であることを特徴とするタイルユニット。
【請求項3】
請求項2において、前記紙と合成樹脂とが一体となって連結シートを構成していることを特徴とするタイルユニット。
【請求項4】
請求項3において、目地部における合成樹脂層の厚みが100〜200μmであることを特徴とするタイルユニット。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記連結シートに、目地部に臨む孔が設けられていることを特徴とするタイルユニット。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイルユニットを、下地面に対して水性張付材料によって張り付けるタイル張り工法において、
該水性張付材料によってタイルユニットを下地面に張った後、一部のタイルに力を加えて目地幅を拡大させるようにずらして目地間隔を調整することを特徴とするタイル張り工法。
【請求項7】
請求項6において、前記水性張付材料はモルタルであることを特徴とするタイル張り工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−242403(P2010−242403A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93076(P2009−93076)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】