説明

タイル及びその施工構造

【課題】タイル表面と張出部との間の段差面の色調を改良することにより、著しく美観に優れたタイル仕上面とすることができるタイル及びその施工構造を提供する。
【解決手段】段付きタイル1は、タイル素地として比較的暗色のものを用いて形成され、本体1Aの表面5に明色系の釉薬を施釉することにより、張出部1Bの表面(張出面)7の明度よりも高くしている。また、張出部1Bと表面5との間の段差面6にあっては、表面5と張出面7との中間の明度と釉薬を施釉している。表面5の明度が最も高く、段差面6の明度がそれよりも低く、張出面7の明度がさらに低くなっているため、目地の陰影が強調され、立体感に富んだ美観に優れた仕上りを得ることができる。明度の代りに色彩を異ならせ、段差面6の少なくとも一部の色彩を表面5のものと張出面7のものとの中間としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイル及びその施工構造に係り、特に、施工が容易で、しかも装飾性に優れたタイル施工面を形成することができるタイル及びその施工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイルの施工法としては、躯体表面にモルタルを介してタイルを直接張り付ける湿式手張り工法が主に採用されている。しかしながら、このような湿式手張り工法では、工期が長く、職人の工賃が嵩んだり、張り付け強度にムラがあったりするという問題がある。また、目地の色にもムラが出易く、美麗なタイル施工面を形成することが困難であるという問題もある。
【0003】
このような問題を解決するために、躯体にタイル係止用の凸部又は凹部を設け、タイルの裏面を該凹部又は凸部に係止する方法も行なわれている。
【0004】
この方法は、例えば、第3図に示す如く、躯体11の凸部12に、裏面に凹条13が形成されたタイル14を係止することにより取り付ける。図中、15は不定形シーリング材である。ここで、用いられるタイル14は、上辺部分に突出する張出部14aが設けられ、下辺部分に該張出部14aが差し込まれる凹欠部14bが形成されている。このようなタイル14では、タイル上辺部分の張出部14aが下辺部分の凹欠部14bに差し込まれるため、目地材は不要とされ、容易かつ効率的な施工を行なうことができる。
【0005】
ところで、タイルは通常所定配合の坏土成形体を焼成して製造されるため、その表面はすべて同様の色調を呈する。
【0006】
このため、第3図に示す如く、タイル14の上辺部分の張出部14aをタイル下辺部分の凹欠部14bに差し込んでタイル14を取り付けた際、隣接するタイル間の目地に相当する張出部14aの表出部14cは、当然タイル14の本体の表面と同様の色調となる。
【0007】
このため、形成されたタイル施工面は、タイル表面も目地相当部もすべて同様の色調となり、目地相当部の存在がはっきりしない。このため、メリハリのない単一壁面のように認められる、即ち、タイル施工面は、タイルの形状、大きさ、色調と、目地間隔、目地の色調等の調和により豊かな装飾性を演出するものであるところから、目地部もタイル部も全く同様の色調のタイル施工面では、タイル本来の美観を引き出すことはできない。
【0008】
そこで、タイルの木端面の後縁側から側方に張り出す張出部が、一側辺部又は隣接する二側辺部に設けられ、かつ、該張出部が設けられた側辺部に対向する側辺部には、タイル木端面の後縁側を切り欠いた形状の凹欠部が設けられたタイル(以下「段付きタイル」ということがある。)を、該張出部を隣接するタイルの凹欠部内に挿入するようにして施工するタイル及びその施工構造において、タイル表面の明度を該張出部の明度よりも高くしたタイルを、該明度の低い張出部が施工表面に露出するように施工することが、特公平8−33071号公報、特開平8−42112号、特開平9−235855号に記載されている。
【0009】
かかるタイル及びその施工構造であれば、壁面に露出して目地相当部を構成する張出部の明度が低く、タイル本体表面の明度が高いため、この明暗のコントラストにより、目地部を明確にすると共に、タイル本体表面をくっきりと浮き上がらせることができる。このため、タイル本来の美観を十分に生かした、美麗なタイル施工面を形成することができる。
【特許文献1】特公平8−33071号
【特許文献2】特開平8−42112号
【特許文献3】特開平9−235855号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、タイル表面と張出部との間の段差面の色調を改良することにより、著しく美観に優れたタイル仕上面とすることができるタイル及びその施工構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のタイルは、タイルの木端面の後縁側から側方に張り出す張出部が、一側辺部又は隣接する二側辺部に設けられ、かつ、該張出部が設けられた側辺部に対向する側辺部には、タイル木端面の後縁側を切り欠いた形状の凹欠部が設けられたタイルであって、該タイルの表面と該張出部とで色彩又は明度が異なるタイルにおいて、該表面と張出部との段差面の少なくとも一部の色彩又は明度が、該表面の色彩又は明度と該張出部の色彩又は明度の中間のものとなっていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2のタイルは、請求項1において、該段差面の該張出部側の色彩又は明度が、該表面の色彩又は明度と該張出部の色彩又は明度の中間のものとなっていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3のタイルは、請求項1又は2において、該段差面の色彩又は明度が該張出部側ほど該張出部の色彩又は明度に近づくことを特徴とするものである。
【0014】
請求項4のタイル施工構造は、タイルの木端面の後縁側から側方に張り出す張出部が、一側辺部又は隣接する二側辺部に設けられ、かつ、該張出部が設けられた側辺部に対向する側辺部には、タイル木端面の後縁側を切り欠いた形状の凹欠部が設けられたタイルを、該張出部を隣接するタイルの凹欠部内に挿入するようにして施工するタイル施工構造において、該タイルが請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイルであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタイル及びその施工構造にあっては、表面と張出部との間の段差面の少なくとも一部の明度又は色彩が、該表面のものと張出部のものとの中間となっているので、目地部の陰影感が強調され、美観が向上する。
【0016】
この段差面の張出部側の明度又は色彩をこのように表面と張出部との中間とすることにより、あるいは、段差面の張出部側ほど張出部側の明度又は色彩に近くなるようにすることにより、陰影感がさらに強調され、美観が一段と向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
第1図は本発明で使用される段付きタイルの一実施例を示す図であって、各々、第1図の(a)図は斜視図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。
【0019】
第1図に示す段付きタイル1は、本体1Aの一つの側辺部に、タイルの木端面の後縁側から側方に張り出す張出部(表面から後退して外方に張り出す段部)1Bが設けられており、該側辺部と対向する側辺部には、施工にあたり、上記張出部1Bが差し込まれる、タイル木端面の後縁側を切り欠いた形状の凹欠部1Cが設けられている。また、裏面には、躯体への取り付けのための凹条(アリ溝)1Dが形成されている。
【0020】
本実施例の段付きタイル1は、タイル素地として比較的暗色のものを用いて形成され、本体1Aの表面5に明色系の釉薬を施釉することにより、張出部1Bの表面(以下、張出面という)7の明度よりも高くしている。また、張出部1Bと表面5との間の段差面6にあっては、表面5と張出面7との中間の明度の釉薬を施釉している。
【0021】
このように構成された段付きタイル1は、前記第3図と同様に、張出部1Bを上段側の段付きタイル1の凹欠部1Cに係合させるように壁面に取付施工される。
【0022】
このタイル壁にあっては、表面5の明度が最も高く、段差面6の明度がそれよりも低く、張出面7の明度がさらに低くなっているため、目地の陰影が強調され、立体感に富んだ美観に優れた仕上りを得ることができる。
【0023】
なお、段差面6の全体を同一明度としてもよく、段差面6の一部のみを表面5と張出面7との中間明度としてもよい。例えば、段差面6のうち張出面7側の略半分を該中間明度とし、表面5側については表面5と略同明度としてもよい。また、段差面6を表面5側から張出面7側にかけて次第に低明度となるようにしてもよい。このようにすれば、陰影感が一層強調されるようになる。
【0024】
この実施の形態では、表面5、段差面6及び張出面7の明度を異ならせるものとしたが、色彩を異ならせ、段差面6の少なくとも一部の色彩を表面5のものと張出面7のものとの中間としてもよい。この場合も、段差面6の張出面7側を中間色彩としてもよく、また表面5側から張出面7側にかけて次第に色彩が張出面7の色彩に近づくようにしてもよい。
【0025】
第2図に示す段付きタイル1’は、張出部1Bが、隣接する2つの側辺部に設けられ、この張出部1Bが差し込まれる凹欠部1Cが他の2側辺部に設けられているものである。
【0026】
本実施例の段付きタイル1’においても、タイル素地として比較的暗色のものを用い、本体1Aの表面に明色系の釉薬を施釉し、段差面6については張出面7と表面5との中間の明度の釉薬を施釉して中間明度としている。このタイル1’を用いてもタイル1と同様に美観に優れたタイル仕上げ面を得ることができる。
【0027】
この実施例でも、段差面6の一部のみを中間明度としてもよく、例えば、段差面6のうち張出面7側の略半分を該中間明度とし、表面5側については表面5と略同明度としてもよい。また、段差面6を表面5側から張出面7側にかけて次第に低明度となるようにしてもよい。また、表面5、段差面6及び張出面7の色彩を異ならせ、段差面6の少なくとも一部の色彩を表面5のものと張出面7のものとの中間としてもよい。
【0028】
上記の各実施の形態では、タイル本体1Aの表面5の明度を張出面7の明度よりも高くしているが、該表面5の明度を張出面7の明度よりも低くしてもよい。即ち、タイル素地として比較的明色のものを用い、本体1Aの表面5に暗色系の釉薬を施釉し、段差面6に該表面5と張出面7との中間の明度の釉薬を施釉してもよい。
【0029】
上記の各実施の形態では、張出面7をタイル素地面とし、本体1Aの表面5に該タイル素地よりも明色系又は暗色系の(あるいは色彩の異なる)釉薬を施釉することにより、該表面5と張出面7との明度(あるいは色彩)を異ならせているが、該表面5をタイル素地面とし、張出面7に該タイル素地よりも明色系又は暗色系の(あるいは色彩の異なる)釉薬を施釉することにより、該表面5と張出面7との明度(あるいは色彩)を異ならせてもよい。
【0030】
即ち、例えば、タイル素地として明色系のものを用い、張出面7に暗色系の釉薬を施釉し、段差面6に本体表面5(タイル素地)と該張出面7との中間の明度の釉薬を施釉してもよく、あるいは、タイル素地として暗色系のものを用い、張出面7に明色系の釉薬を施釉し、段差面6に本体表面5(タイル素地)と該張出面7との中間の明度の釉薬を施釉してもよい。
【0031】
本体1Aの表面5と張出面7とにそれぞれ明度(あるいは色彩)の異なる釉薬を施釉することにより、該表面5と張出面7との明度(あるいは色彩)を異ならせてもよい。
【0032】
なお、本発明において、施工に用いるタイルの形状や大きさ等には特に制限はない。また、その施工態様においても第3図に示す方法の他、他の様々な方法を採用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明で使用される段付きタイルの一実施例を示す図であって、各々、第1図の(a)図は斜視図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。
【図2】別の実施例のタイルを示す斜視図である。
【図3】タイル施工構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1,1’ 段付きタイル
1B 張出部
5 表面
6 段差面
7 張出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイルの木端面の後縁側から側方に張り出す張出部が、一側辺部又は隣接する二側辺部に設けられ、かつ、該張出部が設けられた側辺部に対向する側辺部には、タイル木端面の後縁側を切り欠いた形状の凹欠部が設けられたタイルであって、
該タイルの表面と該張出部とで色彩又は明度が異なるタイルにおいて、
該表面と張出部との段差面の少なくとも一部の色彩又は明度が、該表面の色彩又は明度と該張出部の色彩又は明度の中間のものとなっていることを特徴とするタイル。
【請求項2】
請求項1において、該段差面の該張出部側の色彩又は明度が、該表面の色彩又は明度と該張出部の色彩又は明度の中間のものとなっていることを特徴とするタイル。
【請求項3】
請求項1又は2において、該段差面の色彩又は明度が該張出部側ほど該張出部の色彩又は明度に近づくことを特徴とするタイル。
【請求項4】
タイルの木端面の後縁側から側方に張り出す張出部が、一側辺部又は隣接する二側辺部に設けられ、かつ、該張出部が設けられた側辺部に対向する側辺部には、タイル木端面の後縁側を切り欠いた形状の凹欠部が設けられたタイルを、該張出部を隣接するタイルの凹欠部内に挿入するようにして施工するタイル施工構造において、該タイルが請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイルであることを特徴とするタイル施工構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−291600(P2006−291600A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114722(P2005−114722)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】