説明

タコの複合処理製剤並びに前処理方法

【課題】冷凍タコの蒸し・煮沸処理の前に行う前処理で用いる処理剤で、ミョウバンによるヌメリ取り効果と酸化防止効果とをまとめて行い、蒸し・煮沸処理後に得られるタコが白化せず鮮やかな赤い発色を示すようにする。
【解決手段】エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩、又はそれらの2種以上の混合物からなる処理成分と、ピロ亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムのうち少なくとも1種からなる亜硫酸成分と、酸性にするためのミョウバンとを含み、上記亜硫酸成分が全体に占める含有率が5重量%以上20重量%以下であり、上記処理成分が全体に占める割合が20重量%以上56重量%以下であり、0.5重量%水溶液としたときのpHが3.0以上5.0以下である、タコの複合処理製剤を調製して用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、解凍したタコを蒸し・煮沸処理する際に、ヌメリを取ると共に白化を防ぎ、鮮やかに発色させる処理に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍タコを蒸し、煮沸した上で出荷する際には、冷凍タコをそのまま熱するのではなく、解凍後に、処理剤溶液で洗うことで、酸化防止効果を与えたり、ヌメリを取ったりする前処理作業を行うことで、製品である蒸し煮沸タコの発色を鮮やかにし、かつ保存後の退色を防止し、皮めくれを防止するといった効果を与えている。
【0003】
その処理の従来の手順は例えば、図1のような構成になる。まず、原料である冷凍タコを、解凍機を用いるか、又は自然解凍にて解凍させる(11)。解凍されたタコを洗い機で水洗いし(12)、包丁を用いた手作業で股切りを行う(13)。股切りを行ったタコを洗い機に投入し、塩化ナトリウム水溶液で塩揉みを行う(14)。この塩揉みにより、後述する蒸し・煮沸処理によるタコの発色をよくする。ただし、この工程ではタコのヌメリが残ってしまう。ヌメリが残っている状態で蒸し処理を行うと皮めくれが生じてしまう。このため、塩揉みの後に、より酸性の強いミョウバン水溶液で洗うことで、皮膚を整えるとともに、皮膚の表面のヌメリを取る酸性処理を行う(15)。ここまでが前処理である。このような前処理を行う例が、特許文献1に記載されている。
【0004】
また、アスコルビン酸類と可食性有機酸塩とからなる発色用組成物を用いて蒸し・煮沸処理前のタコを薬品処理することで、蒸し・煮沸処理後の発色を鮮やかにすると共に、酸化防止効果を向上させる例が特許文献2に記載されている。さらに、塩揉みの際に塩化ナトリウムとともにこの発色用組成物を添加して、塩揉み(14)と上記発色用組成物による処理とを一度に行う場合もある。このようにまとめることで、上記発色用組成物による効果を付与しつつ、工程に要する時間を短縮し水を節約することができる。
【0005】
前処理の終わったタコを、蒸し器で蒸した後(20)、アルカリ性水溶液を満たしたボイル槽で短時間煮沸する(21)、蒸し・煮沸処理を行う。これにより、上記の前処理に応じた色合いでタコは赤く発色する。このように蒸してからアルカリに漬けることで、発色の調整ができる。蒸すことなくいきなり茹でると、煮汁によってタコ全体が染まってしまうが、蒸してから短時間茹でると足の吸盤部分の本来発色しない部分を白く残すことができるのでより好ましい。
【0006】
加熱が終わった蒸し煮沸タコを、冷却槽に投入して冷却し、冷蔵、又は冷凍保存する(22)。冷却保存されたタコは、人間が手作業で品質確認しつつ箱詰めする(23)。その後、箱ごと金属検出器にかけて、上記の処理工程で金属片等が紛れ込んでいないかを確認した上で(24)、製品として出荷する(25)。
【0007】
なお、上記前処理のうち、酸性処理(15)で用いるミョウバン水溶液の代わりに、他の有機酸を用いて行ったヌメリとり剤の例が、特許文献3に記載されている。この例では、タコに限らず魚介類全般に対して、蒸し・煮沸処理後の発色をよくする洗い作業を行った後に、酸性の溶液で処理することで、ヌメリをとることが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−227273号公報
【特許文献2】特開昭59−169467号公報
【特許文献3】特開2005−168456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の処理剤で処理したのでは、最終的に得られる蒸し煮沸ダコにおいて、本来鮮やかな赤色になるはずの色合いが白っぽくなる白化が起きてしまった。この白化は、特許文献1の処理剤での処理後に特許文献2の発色用組成物を用いたとしても十分に防ぐことができなかった。
【0010】
また、蒸し・煮沸処理前に行う前処理工程のうち、塩揉み、薬品処理、酸性処理の各工程ではいずれも大量の水を消費し、また、時間もかかるため、出来るだけ作業工程をまとめることが必要であった。しかし、特許文献3に記載のヌメリとり剤を用いる場合でも、それだけでは効果が不完全なので別途酸性処理が必要であり、前処理として最低でも二段階の工程が必要であった。一方、特許文献1に記載のミョウバンによる上記酸性処理を、特許文献2に記載の上記薬品処理や上記塩揉みとまとめて行っても、やはり白化が起きることは避けられないため、単純に作業工程をまとめることはできなかった。
【0011】
そこでこの発明は、タコを蒸し煮沸する前の前処理において、酸化防止効果を与える薬品処理にミョウバンを用いる酸性処理をまとめるにあたって生じる白化を抑え、工程をまとめつつ鮮やかに発色したタコを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、蒸し・煮沸処理の前に水溶液として用いる前処理用の複合製剤として、エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩、又はそれらの2種以上の混合物からなる処理成分と、ピロ亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムのうち少なくとも1種からなる亜硫酸成分と、ミョウバンとを含み、上記亜硫酸成分が全体に占める含有率が5重量%以上20重量%以下であり、上記処理成分が全体に占める割合が20重量%以上56重量%以下であり、0.5重量%水溶液としたときのpHが3.0以上5.0以下である、タコの複合処理製剤を用いることで上記の課題を解決したのである。
【0013】
上記の構成のうち、ミョウバンによる白化を抑える効果は、適切な量の亜硫酸成分を含有することによって得られる。亜硫酸成分自体は上記処理成分と同様に発色効果を有するが、上記処理成分だけでは白化を防止することができず、亜硫酸成分との併用により十分な白化を防止でき、鮮やかな赤い発色を得ることができる。
【0014】
これにより、ミョウバンを含んでいても問題なく処理を行うことができ、ヌメリを取り、煮沸後の皮めくれを防止する酸性処理の効果が得られる。また、合わせて上記処理成分を有することで、得られた鮮やかな赤色を長期間に亘って維持する酸化防止効果を得ることができる。
【0015】
さらに、これらとは別に、有機酸、酸性リン酸化合物又はその両方からなる酸性成分を含んでもよい。これらの含有率を増やすとともに、ミョウバンの使用量を削減し、より確実に白化を抑えつつ、適切なpHを保つことができる。また、有機酸や酸性リン酸化合物のうち、特に酒石酸やメタリン酸ナトリウムなどが含まれると、発色をより鮮やかにする効果を発揮するとともに、pHを低く調整しやすくなる。その中でも特にメタリン酸ナトリウムは高い酸性を示すので含まれることが望ましいが、一方で潮解性が高いため、過剰に含むと複合処理製剤が湿り易いという問題を生じるので、望ましい含有量はある程度制限される。
【0016】
なお、上記処理成分としては、アスコルビン酸とエリソルビン酸とで効果に違いはなく、それらのアルカリ金属塩を用いてもよいし、それらを混合して用いてもよい。なお、アルカリ金属塩を用いる場合は全体がアルカリ性にシフトしやすいため、ミョウバンや上記酸性成分の比率を高めてpHを調整する。
【発明の効果】
【0017】
この発明にかかる複合処理製剤を用いて前処理することにより、蒸し煮沸したタコが白化することなく、鮮やかな赤い発色を呈させつつ、その赤い発色を長期間に亘って保持することができる。
【0018】
また、この発明にかかる複合処理製剤を用いることで、従来は別個の工程として、それぞれで時間と水とを消費していた、酸化防止効果を与える添加剤による薬品処理工程と、酸性溶液を用いてヌメリを取り、蒸し・煮沸処理時の皮めくれを防ぐ酸性処理とを一つの洗い工程にまとめることができ、前処理を簡略化し、かかる時間と使用する水の節約ができる。すなわち、この複合処理製剤による前処理で、ヌメリ取り効果と、蒸し・煮沸処理時の発色効果と、その後の酸化防止効果とを一挙に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、解凍したタコを蒸し・煮沸処理するに際して、その処理前に水溶液として用いて洗うことでタコに酸化防止効果、蒸し・煮沸処理時の皮めくれ防止効果、及び、蒸し・煮沸処理後において白化を防止しつつ鮮やかな赤色に発色させる発色効果等の効果を与える複合処理製剤である。なお、蒸し・煮沸処理とは、タコを蒸した後にアルカリ水で煮沸して、赤く発色させる処理のことを示す。
【0020】
この発明にかかる複合処理製剤は、処理成分と亜硫酸成分、ミョウバンとを含有するものであり、水溶液として解凍したタコを洗うことで前記処理成分による処理効果を発揮させる。
【0021】
上記処理成分とは、エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩、又はそれらの2種以上の混合物からなり、主としてタコに酸化防止効果を与え、蒸し・煮沸処理後に鮮やかな赤い発色効果を発揮させるものである。エリソルビン酸とアスコルビン酸とで、得られる効果に差はなく、エリソルビン酸を用いる方が経済的に好ましい。なお、酸とアルカリ金属塩を用いる場合の違いは、その他の成分によってpHを調整する際の混合比が変わるのみで、酸化防止効果に違いは無い。なお、アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。
【0022】
上記亜硫酸成分は、ピロ亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムのうち少なくとも1種からなり、主として蒸し・煮沸処理した際にタコが赤く発色する際に、その発色を鮮やかにする効果を有する。また、タコの種類によっては生じる黒みを抜く効果も有する。さらに、上記処理成分による酸化防止効果を補強する効果も有する。量比には特に限定はなく、どちらが多くてもよい。
【0023】
上記のミョウバンは、この発明にかかる複合処理製剤を、全体として弱酸性にして、タコのヌメリを取るとともに、蒸し・煮沸後の皮めくれを防止する効果を有する。一方でミョウバンは蒸し・煮沸後のタコの発色を白っぽくする効果も有する。しかしこの発明にかかる複合処理製剤は、ミョウバンを上記亜硫酸成分と併用することにより、その白化を抑制している。
【0024】
またこの発明にかかる複合処理製剤は、上記の成分とは別に酸性成分を有していてもよい。上記亜硫酸成分だけでは上記ミョウバンによる白化を抑えられない場合、上記ミョウバンの一部をその酸性成分で置き換えて後述するpHを実現することで、白化をより確実に抑えて鮮やかな発色を得ることができる。この酸性成分は、有機酸、酸性リン酸化合物、又はその両方からなる。上記有機酸としては、酒石酸、コハク酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、乳酸、イタコン酸などが挙げられ、酸性リン酸化合物としては、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどが挙げられ、これらを単独で、又は複数を任意に選択して用いてよい。これらの組み合わせにより、発色の色相を微調整することができる。ただし、複合処理製剤を粉体又は粒状物として扱うためには、上記酸性成分は常温で固体であるものが好ましい。酢酸や蟻酸のように常温で液体である有機酸を含むと、それらに複合処理製剤の他の成分が溶けてしまい、扱いにくくなってしまう。また、匂いが生じる点からも酢酸や蟻酸は好ましくない。
【0025】
これらの中でも、有機酸としては酒石酸が、酸性リン酸化合物としてはメタリン酸ナトリウムが含まれていると特に好ましい。これらは特にタコの発色を鮮やかにする効果が高く、これらが一方でも含まれているとよく、両方含まれていると好ましい。また、酒石酸が含まれていると、タコの黒ずみを防止する効果が特に高い。ただし、メタリン酸ナトリウムは潮解性を有するため、大量に含有していると複合処理製剤が水分を吸収して扱いにくく、また保存しにくくなる。
【0026】
また、この発明にかかる複合処理製剤は、水溶液とした際のpHを後述する適切な範囲に調整するために、上記処理成分や上記亜硫酸成分、ミョウバン、上記酸性成分とは別に、pH調整剤を含んでいてもよい。上記処理成分と上記ミョウバンだけでは酸性が強すぎる場合に、pHを上げるために用いる。また、得られるタコの色相調整のために上記酸性成分が過剰になり、pHが低くなりすぎる場合にも用いることができる。このようなpH調整剤としては、上記有機酸のナトリウム塩やカリウム塩などの有機酸塩、ピロリン酸四カリウムなどのアルカリ性リン酸化合物、酢酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0027】
さらに、この発明にかかる複合処理製剤は、上記処理成分と上記亜硫酸成分とミョウバン、上記酸性成分や上記pH調整剤の他に、上記処理成分の処理効果を妨げない範囲でその他の食品添加物となる成分を含んでいてもよい。例えば、デキストリン、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【0028】
この発明にかかる複合処理製剤は、上記処理成分の含有量が20重量%以上である必要があり、30重量%以上であると好ましい。20重量%未満であると、上記処理成分による前処理の主要な目的である、蒸し・煮沸処理後の発色効果と、長期保存後にも対応した酸化防止効果とが不十分となり、赤い発色が不十分になったり、退色し始めるまでの期間が短くなりすぎて、一週間程度の色の保持すらできなくなる場合がある。また45重量%以上であると、求めるこれらの効果が十分に発揮される。一方、上限は特に規定されないが、後述する条件で上記亜硫酸成分を含む必要があり、なおかつ、溶液が下記のpHの条件を満たす程度に上記酸性成分を含む必要がある。具体的には、上記処理成分の含有量が56重量%以下であれば、ほとんどの場合問題はない。
【0029】
この発明にかかる複合処理製剤は、上記亜硫酸成分の全体に占める含有率が5重量%以上である必要がある。5重量%未満であると、上記亜硫酸成分によるタコの発色の向上効果が得られなかったり、不十分となる可能性があるためである。一方で、20重量%以下である必要があり、18重量%以下であると好ましい。20重量%を超えると、硫酸成分の残存量が無視できなくなってくるためである。
【0030】
この発明にかかる複合処理製剤は、ミョウバンが全体に占める含有率が、50重量%以下であると好ましく、40重量%以下であるとより好ましく、30重量%以下であるとより好ましい。ミョウバンは酸性処理のための主成分であるため、ある程度の量があることが必要であるが、ミョウバンの量が多いほどタコの白化が起こりやすくなるので、適切なpHを達成できる範囲であれば含有量が少ないほど好ましい。一方で、ミョウバンはあくまで全体を酸性にするためのものであるため、上記処理成分や上記酸性成分が十分にあり、下記のpHの値を実現できるのであれば、含有量の下限は特に限定されるものではない。ミョウバンは従来よりタコの酸性処理に用いられてきており、メタリン酸ナトリウムと違って潮解性がほとんど無く扱いやすい酸性物質であるため、5重量%程度は含有しているとよく、13重量%以上含むと概ね下記のpHの範囲に調整しやすい。
【0031】
この発明にかかる複合処理製剤がメタリン酸ナトリウムを含有する場合の含有量は、複合処理製剤全体の17重量%以下であると好ましい。上記の通り、メタリン酸ナトリウムは潮解性を有するため、過剰に含まれていると複合処理製剤自体が湿りやすいものとなってしまうからである。一方、メタリン酸ナトリウムは特に酸性が高いため、0.2重量%以上含まれていると、pHを下記の範囲に調整しやすく望ましい。なお、これらの値はメタリン酸ナトリウムとして無水物を用いた場合の値である。
【0032】
この発明にかかる複合処理製剤は、0.5重量%水溶液としたときのpHが3.0以上5.0以下である必要がある。5.0を超えると、酸性が弱くなりすぎてヌメリを取る効果が不十分になり、残ったヌメリのために、蒸し・煮沸処理時に皮めくれを生じるおそれがある。その場合、別途ミョウバンのみの水溶液などで酸性処理を行う必要が生じ、前処理の工程をまとめて処理を短縮し、使用する水を節約する効果が得られなくなってしまう。pHが5.0以下ではこのようなおそれがなく、特に4.5以下であるとより確実なヌメリ取り効果が得られる。ただし、この発明にかかる複合処理製剤では、上記亜硫酸成分やミョウバンを必須成分として含むため、pH5.0を超えることは現実的ではない。一方、pH3.0未満とすると、酸性が強すぎて処理装置の金属部分を傷めるおそれがある。ただし、有機酸以外に無機の強酸を大量に含むのでないかぎり、このような強酸になることは少ない。ただし、pHが低すぎると装置やタコを傷めるおそれがまったく無いわけではないので、3.5以上であるとより安定した処理ができる。
【0033】
なお、上記の有機酸やリン酸化合物、その他の添加物は、食品衛生法上、食品添加物として利用可能なものである必要がある。
【0034】
この発明にかかる複合処理製剤を用いて、実際にタコの前処理を行うにあたっては、上記複合処理製剤を水に溶解させて、0.2〜1重量%水溶液として用いるとよい。0.3重量%未満では薄すぎて前処理の効果が薄くなってしまう。一方で、0.4重量%を超えて添加させても効果の上昇はあまり見込めず、1重量%を超えて添加させたとしてもほとんど無駄となってしまう。ただし、その濃度で上記のpHの条件を満たすものであることが望ましい。
【0035】
この発明にかかる複合処理製剤による薬品処理は、冷凍ダコ又を解凍して水洗いした後に股切りをしたタコに対して、塩化ナトリウム水溶液による塩揉みと同時、又は塩揉みの後に行う。前記塩揉みと同時に行う場合は、上記複合処理製剤を塩化ナトリウムとともに溶解させた水溶液を用いて洗い機で揉み洗いを行い、一工程で洗い作業を完結させる。一方、塩揉みの後に行う場合は、塩化ナトリウム水溶液中で揉み洗いした後、タコをその液中から一旦引き揚げて、別途用意した上記複合処理製剤水溶液中に漬けて揉み洗いを行う方法と、塩化ナトリウム水溶液を洗い機に満たして洗った後に排水し、その後上記複合処理製剤水溶液を洗い機に投入して洗う方法と、塩化ナトリウム水溶液を洗い機に満たして洗った後、排水せずにその水溶液に所定量の上記複合処理製剤水溶液を添加し溶解させて再び洗う方法とが挙げられる。塩化ナトリウム水溶液と上記複合処理製剤水溶液を別途用意する前二つの方法の方が、最終的に得られる蒸し煮沸タコの品質はよいが、塩化ナトリウム水溶液に複合処理製剤を添加する方法であると、使用する水を半分に節約することができ、経済的である。また、塩揉みと同時に複合処理製剤による処理を行うと、さらに所要時間を短縮することができる。これらの洗い作業は、一般的に用いられる洗い機を用いて行うことができる。
【0036】
この発明にかかる複合処理製剤によって揉み洗いする薬品処理作業を終えたタコは、その後、蒸し器で蒸した後にpH10〜12程度のアルカリ水や弱酸水、又は上記の処理成分などを含む水溶液で煮沸する、蒸し・煮沸処理を行う。この蒸し・煮沸処理によって、上記の複合処理製剤の構成により厳密な色合いが異なるものの、鮮やかな赤の発色をした蒸し煮沸タコが得られる。なお、蒸す時間とボイルする時間の比は、90:10〜95:5であると、得られる蒸し煮沸タコの品質上よい。蒸し・煮沸処理全体の所要時間は2〜20分程度で望ましい赤い色合いとなる。なお、20分を超えて蒸し・煮沸処理をすると、元々水分含有量の多いタコから多くの水分が抜け出て歩留まりが悪くなってしまう場合がある。
【0037】
なお、煮沸する際に上記の処理成分を含む水溶液を用いると、上記亜硫酸成分による黒ずみを抑制し、発色を鮮やかにしたり、発色をより長く保持することができるようになる。このような処理を行う際には、上記酸性成分などを含んでいてもよい。
【0038】
得られた蒸し煮沸タコは、その後冷蔵保存するか、再び冷凍保存して、蒸し煮沸タコとして出荷できる。この保存時において、上記処理成分による酸化防止効果が発揮されるため、1週間程度の冷蔵、又は冷凍保存では、発色した鮮やかな赤色を保持することが出来る。また、冷蔵保存や冷凍保存を行う前に、上記処理成分や酒石酸を含む水溶液中に浸すことで、酸化防止効果や発色効果をより高めることができる。
【実施例】
【0039】
以下、この発明にかかる複合処理製剤を使用した実施例を説明する。まず、用いた薬品について説明する。なお、表中「ナトリウム」を「Na」と略記する。
【0040】
(処理成分)
・エリソルビン酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・アスコルビン酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・エリソルビン酸……扶桑化学工業(株)製
・アスコルビン酸……扶桑化学工業(株)製
(亜硫酸成分)
・ピロ亜硫酸ナトリウム……神洲化学(株)製
・無水亜硫酸ナトリウム……神洲化学(株)製
(酸性リン酸化合物)
・メタリン酸ナトリウム……太平化学工業(株)製:ウルトラポリン
・ピロリン酸二水素二ナトリウム……燐化学工業(株)製(表中「ピロリン酸HNa」と略記する。)
(有機酸)
・L酒石酸……昭和化工(株)製
・フマル酸……扶桑化学工業(株)製
・コハク酸……扶桑化学工業(株)製
(有機酸塩)
・酒石酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・フマル酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・無水酢酸ナトリウム(表中「酢酸Na」と表記)……南海化学工業(株)製
(その他の成分)
・硫酸アルミニウムカリウム(表中「ミョウバン」と表記)……ラサ晃栄(株)製
・デキストリン……松谷化学工業(株)製:TK16
・塩化ナトリウム……イヌイ(株)製
【0041】
それぞれの例において、処理するタコは水揚げ後に加熱せずに冷凍していたタコを自然解凍させた後、水洗いをして含有する砂を落とすとともに完全な解凍をし、一本一本の足を切り落としたものを用いた。これを5%塩化ナトリウム水溶液で満たした洗い機で10分間洗い、引き揚げた後に、表1及び表2に示す個々の例の複合処理製剤の0.5重量%水溶液で満たした洗い機に投入し、10分間洗った。その後、蒸し・煮沸処理として、3分間蒸し器で蒸した後、pH10のアルカリ水で満たしたボイル槽で1分間湯煮して、赤色に発色させた。それぞれの複合処理製剤の溶液は、pH測定器((株)堀場製作所製:B−212)でpHを測定した。なお、表中pH欄が空白のものは測定していない。
【0042】
【表1】

【表2】

【0043】
それぞれの例において発色させたタコを、十人の人間により目視し、足の吸盤側の発色について全員が良好であると判断したものを○、半数以下の人間が、白化して赤色の発色が不十分であると判断したものを△、過半数が白化により発色不十分と判断したものを×とし、特に発色が良好であると全員が判断したものを◎とする発色官能試験も行った。
【0044】
また、発色後のタコを冷蔵環境で7日間保存し、赤色の発色の鮮やかさが保持されているか否かを目視で確認して酸化防止効果が発揮されているかを調べた。判断基準は上記の発色評価と同様とした。
【0045】
さらに、蒸し・煮沸処理前の段階において、ヌメリが十分に取れているか、五人の人間が触り、全員が十分にヌメリが取れていると判断したものを○、過半数がヌメリを取れていると判断したものを△、過半数がヌメリが残っていると判断したものを×とするヌメリ取り試験も行った。
【0046】
(実施例1〜48)
表1及び2に記載の組成からなる複合処理製剤を用いて上記の処理を行った。
また、このうち実施例1については、エリソルビン酸ナトリウムをアスコルビン酸ナトリウムに変更した例も実施したが、pHは同一となり、得られるタコの発色も見た目には区別が付かず、ヌメリも現れなかった。同様に、実施例18については、エリソルビン酸をアスコルビン酸に変更した例も実施したが、pH、発色、ヌメリの評価は同様であった。さらに、実施例2については、エリソルビン酸ナトリウムの半分をアスコルビン酸ナトリウムに変更した例も実施したが、同様の結果となった。
【0047】
<亜硫酸成分を含まない場合>
(比較例1〜3)
複合処理製剤として亜硫酸成分を含まない、表2に記載の複合処理製剤を使用した。その結果、白化が抑制できず発色が不十分なものとなってしまった。
【0048】
<処理成分が不足である場合>
(比較例4及び5)
上記処理成分が20重量%未満である、表2に記載の複合処理製剤を使用した。その結果、処理後の発色は良好であったが、一週間保存後には発色が保持できず、くすんだ色合いになってしまった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来の冷凍タコの処理工程を示すフロー図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩、又はそれらの2種以上の混合物からなる処理成分と、ピロ亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムのうち少なくとも1種からなる亜硫酸成分と、ミョウバンとを含み、上記亜硫酸成分が全体に占める含有率が5重量%以上20重量%以下であり、上記処理成分が全体に占める割合が20重量%以上56重量%以下であり、0.5重量%水溶液としたときのpHが3.0以上5.0以下である、タコの複合処理製剤。
【請求項2】
有機酸、酸性リン酸化合物、又はその両方からなる酸性成分を含む、請求項1に記載のタコの複合処理製剤。
【請求項3】
上記酸性成分が酒石酸、メタリン酸ナトリウム、又はその両方を含む、請求項2に記載のタコの複合処理製剤。
【請求項4】
メタリン酸ナトリウムが全体に占める含有率が0.2重量%以上17重量%以下である、請求項3に記載のタコの複合処理製剤。
【請求項5】
上記ミョウバンの全体に占める含有率が、5重量%以上50重量%以下である、請求項1から4のいずれか1つに記載のタコの複合処理製剤。
【請求項6】
解凍した蒸し・煮沸処理前のタコを、請求項1から5のいずれか1つに記載のタコの複合処理製剤を水に溶解させてpHを3.0以上5.0以下に調整した水溶液により薬品処理して、ヌメリ取り効果と蒸し・煮沸処理後の発色効果と酸化防止効果とを発揮させる、蒸し・煮沸処理前のタコの前処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の前処理方法で前処理を行った後に、蒸し・煮沸処理を行って白化を抑制しつつ赤い発色を起こさせた蒸し煮沸タコ。

【図1】
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