説明

タマネギの苦みの発生を抑制する方法

【課題】加熱による有用成分の溶出、加熱臭の発生、品質変化を防止して、フレッシュ感を有しながら苦味のないタマネギ破砕物、タマネギ搾汁液等、およびそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】ホール状のタマネギの中心温度を、200分以内に0℃から凝固点以下にしてから、−5℃/h以上の冷凍速度で−20℃以下にし、さらに45時間以上−20℃以下にて保持した後に、前記ホール状のタマネギを解凍し、破砕して得られるタマネギ破砕物により、上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タマネギの苦みの発生を抑制する方法に関し、さらに詳しくは、苦みの発生が抑制されたタマネギ破砕物、タマネギ搾汁液等、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タマネギは従来から西洋料理をはじめとする様々な食品に用いられる素材であるとともに、タマネギに含まれる成分が血糖低下作用などの生理活性を有する物質(シクロアリインなど)の前駆体であることが知られていることから、タマネギの破砕物、搾汁液、エキスなどは、食品素材、調味料、健康食品などに広く用いられている。
【0003】
一般に、タマネギの破砕物は外皮を除去したホール状のタマネギをミル等の破砕機、磨砕機などを用いて破砕することにより得られ、またタマネギの搾汁液は前記のようにして得られたタマネギの破砕物を、圧搾機を用いて処理する、遠心分離機を用いて処理すること等により得られる。
【0004】
しかし、このようにして得られたタマネギの破砕物や搾汁液は、刺激臭、辛味、苦味等が強いものであった。このように辛味等が強くなるのは、上記のような処理を施す過程でタマネギの細胞が破壊されることにより、タマネギ由来の酵素(CS−リアーゼなど)が反応し、酵素反応により酸味、苦味、辛味等のもととなる成分が生成するためと考えられている。
【0005】
そこで、上記のような成分が発生することを防止するため、タマネギを加熱水あるいは沸騰水中で加熱することにより酵素を失活させる方法が提案されている。
特許文献1には、タマネギなどのユリ科野菜を80℃以上の水浴中で加熱し、その中心部の温度が60〜80℃に達した時から0〜20分間当該温度に保つことにより、酵素が失活して上記のような成分の発生が抑制される結果、酸味や苦味等が抑制され、タマネギの野菜としての本来の甘さを維持する方法が記載されている。
【0006】
また特許文献2には、生理活性を有するシクロアリインを所定量含有するタマネギエキスを製造する方法として、タマネギを60〜120℃の温度で加熱して酵素を失活させ、シクロアリイン前駆体を高濃度に維持した後に、破砕搾汁し、得られたタマネギ搾汁を90〜120℃の温度で再加熱するか、又はアルカリ処理してシクロアリイン前駆体をシクロアリインに変換しその濃度を高めたタマネギエキスの製造方法が記載されている。
【0007】
上記のようにタマネギを加熱して酵素を失活させる方法以外に、酵素の活性を低温で一時的に失活させ、その後加温等することにより酵素を活性化させる方法なども提案されている。
特許文献3には、無疵のアリウム属植物の鱗茎部(ニンニク、タマネギなど)を共晶温度以下で凍結を行い、細胞内酵素等の活性を抑えた状態で不用部を除去し鱗茎部だけを荒粉砕又は細片とした後、凍結乾燥して水分を除去したアリウム属植物鱗茎部の加工品が記載されている。
【0008】
特許文献4には、生の玉ねぎをそのまま、不活性ガス雰囲気中で急速冷凍(温度範囲:0〜−45℃)して保存しておき、これを使用に供する際に、カットしてから所定温度で加熱して使用に供する玉ねぎの加工方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に記載のようにタマネギを加熱して酵素を失活させる方法では、加熱中に有用成分が溶出したり、加熱臭が発生したり、熱により品質が変化したりする(例えば、フレッシュ感の消失)等、風味が低下する問題がある。また、特許文献3に記載の方法では、水分を含まないようにするため凍結乾燥後直ちに加工品が密閉されることになるが、ひとたび密封容器等から出されると、水分に触れて酵素が活性化することにより直ちに特有の匂い・風味が発生することから、当該加工品をさらに加工する場合は、実質的に酵素反応による苦味、辛味等のもととなる成分の発生を抑制、防止することはできない等の問題がある。特許文献4に記載の方法においても、冷凍保存後に苦味に関する酵素等は完全に失活されず、活性を持っていることから、特許文献3と同様に、苦味、辛味等の成分の発生を完全に抑制、防止することができない等の問題がある。また、不活性ガスを用いる必要があることから、保存管理上、またコスト的に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−319139号公報
【特許文献2】特許第3613178号公報
【特許文献3】特開平4−330261号公報
【特許文献4】特開2000−32907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記問題点に鑑みて、本発明の目的とするところは、加熱による有用成分の溶出、加熱臭の発生、品質変化を防止して、フレッシュ感を有しながら苦味のないタマネギ破砕物、タマネギ搾汁液等、およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ホール状のタマネギの中心温度を、所定時間以内に所定温度以下になるように冷凍した後に、タマネギを破砕することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)本発明の第一は、ホール状のタマネギの中心温度を、200分以内に0℃から凝固点以下にしてから、−5℃/h以上の冷凍速度で−20℃以下にし、さらに45時間以上−20℃以下にて保持した後に、前記ホール状のタマネギを解凍し、破砕して得られることを特徴とするタマネギ破砕物に関する。
【0014】
(2)本発明の第一の好ましい態様は、ホール状のタマネギの解凍が、室温にて自然解凍により行われるタマネギ破砕物に関する。
【0015】
(3)本発明の第二は、前記タマネギ破砕物を搾汁して得られるタマネギ搾汁液に関する。
【0016】
(4)本発明の第三は、前記タマネギ搾汁液を濃縮したタマネギエキスに関する。
【0017】
(5)本発明の第四は、前記タマネギ破砕物、前記タマネギ搾汁液、および前記タマネギエキスから選択される1種または2種以上を含有する飲食品に関する。
【0018】
(6)本発明の第五は、ホール状のタマネギの中心温度を、200分以内に0℃から凝固点以下にしてから、−5℃/h以上の冷凍速度で−20℃以下にし、さらに45時間以上−20℃以下にて保持した後に、前記ホール状のタマネギを解凍し、破砕して得られることを特徴とするタマネギ破砕物の製造方法に関する。
【0019】
(7)本発明の第五の好ましい態様は、ホール状のタマネギの解凍が、室温にて自然解凍により行われるタマネギ破砕物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加熱による有用成分の溶出、加熱臭の発生、品質変化を防止して、フレッシュ感を有しながら苦味のないタマネギ破砕物、タマネギ搾汁液等、およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】苦味とピルビン酸濃度との相関関係を示す図である。
【図2】実施例および比較例における苦味とピルビン酸濃度との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のタマネギ破砕物は、ホール状のタマネギの中心温度を、200分以内に0℃から凝固点以下にしてから、−5℃/h以上の冷凍速度で−20℃以下にし、さらに45時間以上−20℃以下にて保持した後に、前記ホール状のタマネギを室温にて解凍し、破砕して得られる。
【0023】
本発明に使用するタマネギは、その種類、産地、および収穫時期などについて特に限定はない。また、収穫後のタマネギの貯蔵方法、貯蔵期間についても特に限定されない。本発明では、タマネギの細胞が破壊されることで、タマネギ由来の酵素が反応することにより、苦味、辛味等のもととなる成分が生成することを防止するため、ホール状のタマネギを生のまま使用する。また、上記のように冷凍する際における、タマネギの外皮(鱗皮、薄皮)の有無は問わないが、風味や衛生上の観点から、外皮を除去したものを用いるのが好ましい。
【0024】
本発明では、先ずホール状のタマネギの中心温度が、200分以内、好ましくは180分以内、より好ましくは90分以内に0℃から凝固点以下になるように冷凍する。これにより、タマネギの細胞の破壊が抑制され、得られるタマネギ破砕物等の苦み等の発生が抑制される傾向にある。尚、上記凝固点は、タマネギの種類や糖度、水分等にもよるが概ね−1.5〜−2.5℃である。
【0025】
この際、ホール状のタマネギの中心温度が、0℃になるまでの冷却条件は特に制限はない。従って、収穫直後のタマネギを所定の処理後あるいはそのまま冷凍しても良いし、収穫後に冷蔵保存していたものを上記のように冷凍しても良い。
【0026】
上記条件でホール状のタマネギを冷却、冷凍した後、ホール状のタマネギの中心温度が、−5℃/h以上の冷凍速度で−20℃以下になるようにさらに冷凍する。冷凍速度が−5℃/hより遅い場合及び/又は到達温度が−20℃より高い場合は、タマネギ破砕物等の苦み等の発生が抑制されない傾向にある。
【0027】
上記条件でホール状のタマネギの中心温度が−20℃以下に到達した後、さらに、45時間以上−20℃以下にて保持する。当該温度での保持時間が45時間未満の場合は、タマネギ破砕物等の苦み等の発生が抑制されない傾向にある。
【0028】
本発明では上記各条件を全て満足する冷凍条件の場合に、タマネギ破砕物等の苦み等の発生が抑制されるため、このような冷凍条件を設定することが可能な冷凍装置であれば、どのようなものでも良い。具体的には、市販のショックフリーザーなどが挙げられる。
【0029】
上記条件を達成することができる冷凍装置の条件としては、予め−25℃に冷却された装置内に、ホール状のタマネギを静置し、−25℃の冷気を循環させる場合などが例示できる。この際、ホール状のタマネギの中心温度の測定は、タマネギの縦、横、高さの中間点に温度計のセンサーを差し込むことにより行うことができる。
【0030】
また、冷凍装置内でのタマネギの配置としては、タマネギの中心温度が一様に所定温度以下になるようにすることができれば特に制限はないが、直接冷気が各タマネギにあたることが望ましいため、通気孔がある容器を用い、風通しが良くなる積載をすることが望ましい。
【0031】
以上のようにして冷凍したホール状のタマネギを、解凍した後、公知の方法により破砕して、本発明のタマネギ破砕物が得られる。本発明における解凍方法は、特に制限はなく、自然解凍や高周波装置による強制的な解凍などにより行うことができるが、風味の観点から、室温(1〜30℃)で自然解凍するのが好ましく、5〜25℃がより好ましい。
【0032】
タマネギの破砕処理としては、冷凍装置からホール状のタマネギを取り出して、破砕装置に投入し、タマネギを破砕することにより行う。本発明では、上記冷凍処理により、酵素が失活しているため、所定の冷凍処理を終えたタマネギは、どのような条件で破砕処理を行っても、得られるタマネギ破砕物には苦みの発生が殆どない。尚、上記破砕装置としては、ミキサー、コミトロール、マスコロイダー、フードプロセッサー、パルパーフィニッシャー等公知の装置が例示できる。
【0033】
また、得られる破砕物は、処理条件により、みじん切り状、ペースト状などとすることができ、後述のタマネギ搾汁液の製造に使用することのほか、野菜飲料、ドレッシングなどの食品素材として直接使用することも可能であり、生のタマネギのフレッシュ感のある飲食品を得ることができる。
【0034】
本発明のタマネギ搾汁液は、上記のようにして得られたタマネギ破砕物を、圧搾または遠心分離することにより得ることができる。具体的には、上記のように破砕処理したタマネギ破砕物を既存のスクリュープレス機などの圧搾機でプレス処理を施したり、既存の遠心分離機等を用いて遠心分離処理を施したりすることにより得られる。
【0035】
このようにして得られるタマネギ搾汁液は、上記のような冷凍処理を施したタマネギを用いており、タマネギ由来の酵素が失活しているため、苦味の発生が著しく低減されたものである。そのため、本発明のタマネギ破砕物と同様に種々の食品素材として好適に用いることができる。
【0036】
本発明のタマネギエキスは、上記のようにして得られたタマネギ搾汁液を既存の方法で濃縮して得ることができる。具体的には、加熱濃縮法、遠心分離法、減圧濃縮法、逆浸透膜法、凍結濃縮法、およびこれらを適宜組み合わせた方法などが挙げられる。但し、生のタマネギのフレッシュ感を維持する場合には、減圧濃縮法、逆浸透膜法などの非加熱法を採用しても良い。このようにして得られたタマネギエキスは、タマネギ由来の酵素が失活しているため、苦味の発生が著しく低減されたものである。そのため、本発明のタマネギ破砕物と同様の種々の食品素材、または、加熱食品の素材等様々な食品として好適に用いることができる。該加熱食品の種類は特に限定されないが、例えば、カレー、デミグラスソース、クリームシチュー、ミートソース、トマトソース、ウスターソース、中濃ソース、お好み焼きソース等の各種ソース類、オニオンスープ、コンソメスープ、ラーメンスープ、コーンスープ等の各種スープ類、カレールー、シチュー用ルー等の各種ルー類、ドレッシング類、タレ類、ハンバーグ、ミートボール等の畜肉練り製品類、パン類や菓子類等の生地類などが挙げられる。また、使用方法も特に限定されないが、原料として調理前に添加することもできるし、調理後に添加してもよい。また、本発明のタマネギエキスをそのまま食品に塗りつけたり、トッピングすることによって使用することもできる。
【0037】
本発明のタマネギ破砕物、同搾汁液、同エキスは、それぞれ単独で上記のような食品素材として含有させることができ、また、これらを2種以上組み合わせて、種々の飲食品に含有させることもできる。さらには、本発明のタマネギ搾汁液を本発明以外のタマネギ搾汁液と混ぜ合わせることにより、苦味を抑えたタマネギエキスを作製することもできる。
【0038】
尚、本発明のタマネギ破砕物、搾汁液の苦味の評価は、官能試験のほか、タマネギ由来の酵素であるCS−リアーゼによる酵素反応の結果生ずるピルビン酸の濃度を指標とすることができ、ピルビン酸濃度は、市販のキットを用いること等により測定することができる。
【0039】
ところで、本来ピルビン酸自体は苦味を呈する物質ではないが、ピルビン酸の生成は、CS−リアーゼがタマネギ細胞内で活性を有し、酵素反応が行われたことを意味する。従って、ピルビン酸生成量と苦味成分の生成量が相関することが示唆される。そこで、一般に流通しているタマネギについて検討したところ、前記相関を裏付ける結果が得られた。即ち、5℃で冷蔵保存していた既存のタマネギ、「T−357」、「北もみじ2000」、「もみじ3号」および「スーパー北もみじ」の4品種について、各タマネギの外皮を除去、水洗し、室温にてミキサーで破砕し、搾汁機を用いて搾汁し、後述の実施例記載の手法によりピルビン酸濃度の測定を行い、各搾汁液の苦味(後述の実施例の欄に記載の官能試験による。評価基準は表2の苦味の基準に従った。)とピルビン酸濃度の相関関係を調べた。その結果、苦味が強くなるにつれて、ピルビン酸濃度は高くなっており、苦味成分の生成量とピルビン酸生成量とが相関関係を有することが分かる。尚、各搾汁液の評価結果を表1に、表1の結果をグラフ化したものを図1に示す。
【0040】
【表1】

【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0042】
実施例等の説明に先立ち、苦味の評価の指標となるピルビン酸濃度の測定方法を以下に説明する。
<ピルビン酸濃度測定法>
Fキット−ピルビン酸(J.K.インターナショナル製)を用いて搾汁液のピルビン酸濃度を測定した。原理はピルビン酸と還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)がL−乳酸脱水素酵素によりL−乳酸と酸化されたNADへと変化することを利用しており、L−乳酸脱水素酵素反応前後のNADHの吸光度(340nm)の減少からピルビン酸の濃度を求めるというものである。具体的には以下のようにして行った。
【0043】
搾汁液100gを濾紙(アドバンテック製)で濾過し、清澄な搾汁液20mLを得た。この搾汁液をpH7.0〜7.6になるように0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整を行った。この際に添加した0.1N水酸化ナトリウム水溶液の溶液量から希釈ファクターF(F=20/(20+[0.1N水酸化ナトリウム水溶液の溶液量]))を求めた。この搾汁液0.05mLとFキット−ピルビン酸に付属の緩衝液1.0mL、NADH溶液0.1mL、蒸留水1.95mLを十分に混和し試料を作製した。また、同様に搾汁液の代わりに蒸留水を加えたブランクを作製した。25℃で3分間加温後、試料とブランクの吸光度(340nm)を測定した。それぞれの吸光度の値をS0およびB0とした。その後、L−乳酸脱水素酵素を0.02mL添加し、十分に混和後、25℃で5〜6分間加温して反応を完了させた後、再び試料とブランクの吸光度(340nm)を測定した。それぞれの吸光度の値をS1およびB1とした。尚、吸光度測定には紫外可視分光光度計UV−160A(株式会杜島津製作所製)を用いた。これらの手順から得た吸光度の値からΔA=(S0−S1)−(B0−B1)を求め、ピルビン酸濃度(g/L)=0
.4363×ΔA/Fの式を用いてピルビン酸濃度を求めた。
【0044】
(実施例1)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ2kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は60分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は60分であった。−20℃で46時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物1.8kgを得た。また、得られたタマネギ破砕物1kgを、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.7kgを得た。得られた搾汁液について上述の分析条件でピルビン酸濃度測定を行うと0.17g/Lであった。
【0045】
(比較例1)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ2kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は420分であり、その後−10℃に到達するまでの時間は145分であった。−10℃で61時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物1.8kgを得た。また、得られたタマネギ破砕物1kgを、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.7kgを得た。得られた搾汁液について上述の分析条件でピルビン酸濃度測定を行うと0.78g/Lであった。
【0046】
(比較例2)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ2kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は60分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は60分であった。−20℃で18時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物1.8kgを得た。また、得られたタマネギ破砕物1kgを、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.7kgを得た。得られた搾汁液について上述の分析条件でピルビン酸濃度測定を行うと0.30g/Lであった。
【0047】
(実施例2)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ2kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は180分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は180分であった。−20℃で70時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物1.8kgを得た。また、得られたタマネギ破砕物1kgを、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.7kgを得た。得られた搾汁液について上述の分析条件でピルビン酸濃度測定を行うと0.16g/Lであった。
【0048】
(比較例3)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ2kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は480分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は260分であった。−20℃で81時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物1.8kgを得た。また、得られたタマネギ破砕物1kgを、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.7kgを得た。得られた搾汁液について上述の分析条件でピルビン酸濃度測定を行うと0.27g/Lであった。
【0049】
(実施例3)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ2kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は90分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は240分であった。−20℃で89時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物1.8kgを得た。また、得られたタマネギ破砕物1kgを、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.7kgを得た。得られた搾汁液について上述の分析条件でピルビン酸濃度測定を行うと0.17g/Lであった。
【0050】
(比較例4)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ2kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は180分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は840分であった。−20℃で70時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物1.8kgを得た。また、得られたタマネギ破砕物1kgを、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.7kgを得た。得られた搾汁液について上述の分析条件でピルビン酸濃度測定を行うと0.32g/Lであった。
【0051】
(タマネギ破砕物の官能評価)
表2に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表2に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表3に示すとおり、実施例1〜3のタマネギ破砕物は苦味が感じられなかった。それに対して、比較例1のタマネギ破砕物は苦味が非常に強く、強い刺激臭や辛味を有していた。また、比較例2〜4のタマネギ破砕物は刺激臭や辛味は強くないものの、苦味を有していた。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
(タマネギ搾汁液の官能評価)
表2に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表2に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表4に示すとおり、実施例1〜3のタマネギ搾汁液は苦味が感じられず、ピルビン酸濃度も低かった。それに対して、比較例1のタマネギ搾汁液は苦味が非常に強く、強い刺激臭や辛味を有しており、ピルビン酸濃度も非常に高かった。また、比較例2〜4のタマネギ搾汁液は刺激臭や辛味は強くないものの、苦味を有しており、ピルビン酸濃度も高かった。
【0055】
また、実施例1〜3、比較例1〜4の各搾汁液のピルビン酸濃度と苦味(官能評価結果)の相関関係を表5に、更にその結果をグラフ化したものを図2に示す。尚、先述の一般に流通している4品種のタマネギに関する結果も併記した。図2より、ピルビン酸濃度と苦味の関係には強い相関関係があり、ピルビン酸濃度が0.2g/L以下であると苦味の評価が3点を超え、苦味が大幅に低減することが分かる。
【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
(実施例4)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ1kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は60分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は60分であった。−20℃で46時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物0.8kgを得た。得られたタマネギ破砕物を、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.5kgを得た。減圧加熱濃縮装置(日本ビュッヒ株式会社製 ロータリーエバポレーターR−215)を用いて、タマネギ搾汁液0.5kgを品温37℃、ヒーティングバス60℃、回転数100回/分の条件で減圧濃縮を行い、タマネギエキス40g(Brix値72%)を得た。
【0059】
(比較例5)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ1kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は420分であり、その後−10℃に到達するまでの時間は145分であった。−10℃で61時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物0.8kgを得た。得られたタマネギ破砕物を、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.5kgを得た。減圧加熱濃縮装置(日本ビュッヒ株式会社製 ロータリーエバポレーターR−215)を用いて、タマネギ搾汁液0.5kgを品温37℃、ヒーティングバス60℃、回転数100回/分の条件で減圧濃縮を行い、タマネギエキス40g(Brix値72%)を得た。
【0060】
(比較例6)
外皮を除去して水洗した北海道産タマネギ1kgを冷凍庫に入れ、冷凍を行った。冷凍履歴としてはタマネギの中心温度が0℃から−2℃までの時間は60分であり、その後−20℃に到達するまでの時間は60分であった。−20℃で18時間保存後、冷凍していたタマネギを常温で自然解凍し、ミキサーで破砕することによりタマネギ破砕物0.8kgを得た。得られたタマネギ破砕物を、搾汁機を用いて搾汁し、タマネギ搾汁液0.5kgを得た。減圧加熱濃縮装置(日本ビュッヒ株式会社製 ロータリーエバポレーターR−215)を用いて、タマネギ搾汁液0.5kgを品温37℃、ヒーティングバス60℃、回転数100回/分の条件で減圧濃縮を行い、タマネギエキス40g(Brix値72%)を得た。
【0061】
(タマネギエキスの官能評価)
実施例4のタマネギエキスは苦味がなく、甘味の強いタマネギエキスであった。それに対し、比較例5のタマネギエキスは非常に苦味が強く、甘味が弱く感じられた。また、比較例6のタマネギエキスも苦味が強かった。
【0062】
(タマネギ破砕物を用いた野菜果物飲料:野菜果物飲料1)
実施例1〜3及び比較例1〜4のタマネギ破砕物を用いて表6に示す配合で野菜果物飲料1を作製した(それぞれ実施例5〜7、比較例7〜10とする。)。表2に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表2に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表7に示すとおり、実施例5〜7の野菜果物飲料1は比較例7〜10のものと比較して、甘味を強く感じ、苦味によって風味が損なわれていないフレッシュ感のある野菜果物飲料であった。
【0063】
【表6】

【0064】
【表7】

【0065】
(タマネギ搾汁液を用いた野菜果物飲料:野菜果物飲料2)
実施例1〜3及び比較例1〜4のタマネギ搾汁液を用いて表8に示す配合で野菜果物飲料2を作製した(それぞれ実施例8〜10、比較例11〜14とする。)。表2に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表2に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表9に示すとおり、実施例8〜10の野菜果物飲料2は比較例11〜14のものと比較して、甘味を強く感じ、苦味によって風味が損なわれていないフレッシュ感のある野菜果物飲料であった。
【0066】
【表8】

【0067】
【表9】

【0068】
(タマネギエキスを用いた野菜果物飲料:野菜果物飲料3)
実施例4及び比較例5、6のタマネギエキスを用いて表10に示す配合で野菜果物飲料3を作製した(それぞれ実施例11、比較例15、16とする。)。表2に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表2に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表11に示すとおり、実施例11の野菜果物飲料3は比較例15、16のものと比較して、甘味を強く感じ、苦味によって風味が損なわれていないフレッシュ感のある野菜果物飲料であった。
【0069】
【表10】

【0070】
【表11】

【0071】
(タマネギエキスを用いたドレッシング)
実施例4及び比較例5、6のタマネギエキスを用いて表12に示す配合でドレッシングを作製した(それぞれ実施例12、比較例17、18とする。)。表13に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表13に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表14に示すとおり、実施例12のドレッシングは比較例17、18のものと比較して、苦味がなく甘味を強く感じる風味のバランスの良いドレッシングであった。
【0072】
【表12】

【0073】
【表13】

【0074】
【表14】

【0075】
(タマネギエキスを用いたカレー)
実施例4及び比較例5、6のタマネギエキスを用いて表15に示す配合でカレーを作製した。(それぞれ実施例13、比較例19、20とする。)表16に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表16に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表17に示すとおり、実施例13のカレーは比較例19、20のものと比較して、甘味を感じ、苦味によって引き起こされる風味の低下のないカレーであった。
【0076】
【表15】

【0077】
【表16】

【0078】
【表17】

【0079】
(タマネギエキスを用いたミートソース)
実施例4及び比較例5、6のタマネギエキスを用いて表18に示す配合でミートソースを作製した。(それぞれ実施例14、比較例21、22とする。)表19に示す評価基準に従い、10名のパネラー(男性5人、女性5人)により評価を行い、パネラーの表19に基づく点数の合計をその人数で割って算術平均値を求めた。その結果、表20に示すとおり、実施例14のミートソースは比較例21、22のものと比較して、苦味がなく甘味に富んだミートソースであった。
【0080】
【表18】

【0081】
【表19】

【0082】
【表20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール状のタマネギの中心温度を、200分以内に0℃から凝固点以下にしてから、−5℃/h以上の冷凍速度で−20℃以下にし、さらに45時間以上−20℃以下にて保持した後に、前記ホール状のタマネギを解凍し、破砕して得られることを特徴とするタマネギ破砕物。
【請求項2】
ホール状のタマネギを室温にて解凍する請求項1記載のタマネギ破砕物。
【請求項3】
請求項1または2記載のタマネギ破砕物を搾汁して得られるタマネギ搾汁液。
【請求項4】
請求項3記載のタマネギ搾汁液を濃縮したタマネギエキス。
【請求項5】
請求項1または2に記載のタマネギ破砕物、請求項3記載のタマネギ搾汁液、および請求項4記載のタマネギエキスから選択される1種または2種以上を含有する飲食品。
【請求項6】
ホール状のタマネギの中心温度を、200分以内に0℃から凝固点以下にしてから、−5℃/h以上の冷凍速度で−20℃以下にし、さらに45時間以上−20℃以下にて保持した後に、前記ホール状のタマネギを解凍し、破砕して得られることを特徴とするタマネギ破砕物の製造方法。
【請求項7】
ホール状のタマネギを室温にて解凍する請求項6記載のタマネギ破砕物の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−233467(P2010−233467A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83023(P2009−83023)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】