説明

タンデム圧延機の制御方法及び制御装置

【課題】積分型最適サーボ系を用いたタンデム圧延機での板厚・張力制御において、両制御での干渉を抑えることのできる最適な重み行列Q,Rを求めて適正な制御を行うことができるようにする。
【解決手段】連続する上流側の圧延スタンド2aと下流側の圧延スタンド2bとを備えたタンデム圧延機1にて圧延材3の圧延を行うに際し、板厚を制御する板厚制御系とスタンド間張力を制御する張力制御系との制御を行うタンデム圧延機1の制御方法において、タンデム圧延機1の状態方程式を設定し、状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために、重み行列Q、Rを有する第1評価関数を設定し、板厚制御系と張力制御系との干渉が最小となるような重み行列Q、Rを求めるための第2評価関数を設定し、第2評価関数で求められた重み行列Q、Rを用いて、板厚制御系と張力制御系との制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム圧延機の制御方法及び制御装置に関するものであり、詳しくは、連続する上流側の圧延スタンドと下流側の圧延スタンドとを備えたタンデム圧延機において、板厚制御系と張力制御系との制御を行うタンデム圧延機の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薄鋼板や薄アルミ板等の圧延材は、複数の圧延スタンドを有する連続圧延装置(タンデム圧延機)により製造されている。
タンデム圧延機では、圧延材の板厚を所定のものにするために、圧延スタンドにおける圧下荷重やロールギャップなどを制御している。このような制御において、板厚制御と張力制御とを同時に行なうことが多いが、これらを別々の制御器を用いて制御すると互いに干渉が起こり悪影響を与える場合がある。この干渉を小さく抑えることは非常に重要であり、干渉抑制に関し、特許文献1,特許文献2に示すような様々な技術が開発されている。
【0003】
特許文献1は、熱間連続式圧延機のスタンド間に配置されたルーパのトルク制御装置、各スタンドに配置されたミル速度制御装置及び圧下位置制御装置を用いて、出側板厚及びルーパ角度及びスタンド間張力を所望値に制御する方法において、出側板厚偏差、ルーパ角度偏差、ルーパ角速度偏差、スタンド間張力偏差、スタンド間板速度差偏差及びルーパトルク偏差を状態変数とし、出側スタンド圧下位置偏差指示値、ルーパトルク偏差指示値及び入側スタンドまたは出側スタンドのミル速度偏差指示値を操作変数とする状態方程式を設定するとともに、出側スタンド入側板厚偏差と、入側スタンド出側板速度のうち入側スタンドの先進率変化分による出側板速度摂動とを外乱とし、前記出側板厚偏差、ルーパ角度偏差及びスタンド間張力偏差を出力変数とする出力方程式を設定し、出側板厚偏差目標値、ルーパ角度偏差目標値及びスタンド間張力偏差目標値を参照値変数とし、定値外乱及びモデル化誤差に対する制御特性と、参照入力に対する追従特性を独立して設計できる多変数制御理論により得られる制御装置により、出側スタンド圧下位置、ルーパトルク及び入側スタンドまたは出側スタンドのミル速度を同時に操作する熱間連続式圧延機の制御方法を開示する。
【0004】
特許文献2は、複数のスタンドを配置し、前記各スタンド間にルーパを配置した圧延設備における各スタンド出側板厚、スタンド間張力及びルーパ角度を目標の値に制御する制御方法であって、少なくとも一つの制御系において、制御ゲインを圧延速度に応じて変更するものであって、各スタンド出側板厚制御、スタンド間張力制御、及びルーパ角度制御の少なくとも一つの制御において、スタンド出側板厚偏差、ルーパ角度偏差、ルーパ角速度偏差、スタンド間張力偏差、スタンド間速度差偏差のうち少なくとも一つを状態変数とし、ロールギャップ指令、ルーパトルク指令、スタンド速度変更指令の少なくとも一つを入力とした制御器を構成し、圧延時に想定される複数の圧延速度におけるフィードバックゲインを予め求めておき、かつ圧延実施時には前記予め求めた複数のフィードバックゲインより、実圧延速度に応じた制御ゲインを求めて使用する圧延機の制御方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−10809号公報
【特許文献2】特開2001−71010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された制御方法は、圧下装置、ルーパトルク制御装置、ロール速度制御装置を用いて、出側板厚、ルーパ角度、スタンド間張力を目標値に制御するものであり、定値外乱及びモデル化誤差に対する制御特性と、参照入力に対する追従特性を独立して設計できる多変数制御理論により得られる結果を基に圧延スタンドを制御するものとなっている。
【0007】
しかしながら、この制御方法では、圧下装置、ルーパトルク制御装置、ロール速度制御装置に対する指令値を計算するにあたり、ゲインマトリクスや重みマトリクスが必要である。特許文献1で引用されている文献(藤崎、池田著「2自由度積分型最適サーボ系の構成」)によれば、ゲインマトリクスを求めるためには最適サーボ系設計における重み行列Q,Rを設定する必要があり、またこれとは別の重み行列Wも設定する必要があるが、特許文献1においては、Q,R,Wを求める(設定する)方法については全く示されていない。Q,R,Wの値によっては板厚制御系と張力制御系の干渉性が大きくも小さくもなるが、Q,R,Wとも行列なので設定するパラメータ数としては非常に多くなる。加えて、重み行列Q,Rの値と制御応答の関係が明確に結びついていないため、干渉を抑制できるような重み行列Q,R,Wを人手で(例えば、トライアンドエラー等)で探し出すことは困難である。
【0008】
一方、特許文献2に開示された制御方法は、ロールギャップ、ルーパトルク、ロール速度を操作して、出側板厚、スタンド間張力、ルーパ角度を目標値に制御するものであり、複数の圧延速度における制御ゲインを最適レギュレータ問題の解として予め求めておき、圧延実施時には実圧延速度に応じた制御ゲインを制御に使用する技術となっている。
しかしながら、この制御方法では、積分型最適サーボ系ではなく、積分器のない最適サーボ系を設計しているため、制御対象のモデルに誤差があったり定値外乱がある場合に、目標値との定常偏差が生じるといった問題を有している。加えて、最適サーボ系設計における重み行列Q,Rを設定する手法に関する開示がなされていない。
【0009】
すなわち、上述した2つの特許文献においては、タンデム圧延機において板厚制御と張力制御とを同時に行なうに際し、両制御の干渉を小さく抑えるために最適サーボ制御を採用しているものの、最適サーボ系設計における重み行列Q,Rを設定する手法に関する開示がなされておらず、実際の現場でこれらの技術を用いたとしても、板厚制御系と張力制御系の干渉が小さくなるような重み行列Q,Rを設定することが困難であるといった問題が存在する。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、積分型最適サーボ系を用いたタンデム圧延機での板厚・張力制御において、両制御での干渉を抑えることのできる最適な重み行列Q,Rを求めて適正な制御を行うことができるタンデム圧延機の制御方法及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の技術的手段は、連続する上流側の圧延スタンドと下流側の圧延スタンドとを備えたタンデム圧延機にて圧延材の圧延を行うに際し、板厚を制御する板厚制御系とスタンド間張力を制御する張力制御系との制御を行うタンデム圧延機の制御方法において、前記タンデム圧延機の状態方程式を設定し、前記状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために、重み行列Q、Rを有する第1評価関数を設定し、前記板厚制御系と張力制御系との干渉が最小となるような重み行列Q、Rを求めるための第2評価関数を設定し、前記第2評価関数で求められた重み行列Q、Rを用いて、前記板厚制御系と張力制御系との制御を行う点にある。
【0012】
前記第1評価関数は、重み行列Q、Rを有する二次形式を備えており、前記状態方程式において、入力は下流側の圧延スタンドのロールギャップ値と、上流側の圧延スタンド又は下流圧延スタンドのロール速度指令値とし、出力は下流側の圧延スタンドの出側板厚と前記スタンド間張力とすることが好ましい。
前記第2評価関数は、板厚制御系と張力制御系との干渉性を示す関数F1、F3に、板厚制御系の応答性を示す関数F2と、張力制御系の応答性を示す関数F4とを加えたものであることが好ましい。
【0013】
本発明の他の技術的手段は、連続する上流側の圧延スタンドと下流側の圧延スタンドとを備えたタンデム圧延機に備えられて、板厚を制御する板厚制御系とスタンド間張力を制御する張力制御系との制御を行う制御装置であって、前記タンデム圧延機の状態方程式が設定され、前記状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために、重み行列Q、Rを有する第1評価関数が設定され、前記板厚制御系と張力制御系との干渉が最小となるような重み行列Q、Rを求めるための第2評価関数が設定されていて、前記第2評価関数で求められた重み行列Q、Rを用いて、前記板厚制御系と張力制御系との制御を行うように構成されている点にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、板厚制御系と張力制御系を制御する際に、板厚制御系と張力制御系の干渉が小さくなるような重み行列Q,Rを人手を使わず短時間で探し出し、タンデム圧延機の適正な制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るタンデム圧延機中の2つの圧延スタンドを示した図である。
【図2】図1に示された2つの圧延スタンド(制御対象)をモデル化したブロック図である。
【図3】2つの圧延スタンドをモデル化した制御対象に積分補償を加えた拡大系を示すブロック図である。
【図4】圧延スタンドにおけるシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る圧延スタンドにおけるシミュレーション結果を示す図である。
【図6】従来の圧延スタンドにおけるシミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明の実施形態における制御のフローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
図1は、本実施形態のタンデム圧延機1の一部を示す模式図である。
タンデム圧延機1は複数の圧延スタンド2を有しており、上流側の圧延スタンド2に圧延材3が通された後、下流側へ向けて圧延スタンド2を通過する毎に圧下され、最下流の圧延スタンド2を出たところで所定の仕上げ板厚となり、巻き取り装置で巻き取られる。
【0017】
図1に示すように、連続する2つの圧延スタンドを見たとき、上流側に位置する圧延スタンドを上流側圧延スタンド2aとし、下流側に位置する圧延スタンドを下流側圧延スタンド2bとして説明する。
各圧延スタンド2は、上下一対のワークロール4を有し、この一対のワークロール4はそれぞれバックアップロール5でサポートされている。ワークロール4は、電動機Mで駆動されているが、この電動機Mは、ロール速度制御装置6により自由に回転速度を調整できるようになっている。上下のワークロール4の間隔は、油圧又は電動機で駆動される圧下装置7によってギャップ量を調整できる構造になっており、圧下位置制御装置8からの指令に基づき、ロールギャップ量が変更されるようになっている。
【0018】
下流側圧延スタンド2bの出側には、圧延材3の板厚を検出する板厚検出器9が設けられる。また、各圧延スタンド2、2間においては、張力を検出する張力検出器10が設けられる。
さて、鋼板等の薄板を製造するタンデム圧延機1において、製品である薄板の板厚を目標値に一致させ、かつ、薄板全般に渡って板厚を均一に保つため、AGCによる板厚制御を行っている。そして、圧延材3に作用する張力を破断限界内に保たなければ安定な操業にならないため、ルーパ制御などによってスタンド2、2間の張力制御も行っている。
【0019】
本発明のタンデム圧延機1においても、板厚を制御する板厚制御(板厚制御系という)とスタンド間2、2の張力を制御する張力制御(張力制御系という)とを行っており、これらの板厚制御系や張力制御系の制御を行う制御装置14が設けられている。
以下、本発明の板厚制御系と張力制御系との制御について、この制御を実施する制御装置14の構成と合わせて説明する。
【0020】
制御装置14は、板厚張力制御手段11と、制御ゲイン演算手段15と、重み演算手段16とを備えている。板厚張力制御手段11、制御ゲイン演算手段15、重み演算手段16は、制御装置14に格納されたソフトウエア等で構成されている。
板厚張力制御手段11は、板厚及び張力の2つの目標値に対して、タンデム圧延機1のワークロール4の回転速度と、上下のワークロール4の間隔の2つの操作量を操作することで板厚制御系と張力制御系との2つの制御を同時に行うものである。
【0021】
詳しくは、板厚張力制御手段11は、電動機M、圧下装置7、板厚検出器9、張力検出器10から入力された信号、又は、制御ゲイン演算手段15、重み演算手段16での演算結果に基づき、下流側圧延スタンド2bに指示を出す圧下位置制御装置8に指令値を出力すると共に、上流側圧延スタンド2a又は下流側圧延スタンド2bのロール速度を制御するロール速度制御装置6に指令値を出力する。
【0022】
このように、板厚張力制御手段11(制御装置14)の指令によって、下流側圧延スタンド2bの出側板厚と、圧延スタンド2間の張力(スタンド間張力)を目標の値に制御することができる。
ここで、板厚制御系と張力制御系との2つの制御を同時に行った場合、板厚制御系と張力制御系との干渉が発生する可能性がある。そこで、板厚張力制御手段11には、板厚制御系と張力制御系との干渉を出来るだけ小さくするための入力値(制御ゲインKなど)が入力されるようになっている。即ち、板厚張力制御手段11には、板厚制御系と張力制御系との干渉を出来るだけ小さくするための演算を行う制御ゲイン演算手段15及び重み演算手段16の演算結果が入力されるようになっている。
【0023】
この制御ゲイン演算手段15には、タンデム圧延機1の状態方程式と、状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために重み行列Q、Rを有する第1評価関数とが格納されていて、これらによって、制御ゲインKを算出するものとなっている。
重み演算手段16は、板厚制御系と張力制御系との干渉が最小となるような重み行列Q、Rを求めるための第2評価関数が格納されていて、最適化問題を解くことにより、重み行列Q,Rを算出するものとなっている。
【0024】
以下、本発明におけるタンデム圧延機1の状態方程式、第1評価関数、第2評価関数について詳しく説明する。
図2は、タンデム圧延機1のモデルをブロック図で示したものである。
図2に示すように、制御対象ブロック図には、任意の連続する2つの圧延スタンド2が示されており、制御対象ブロックの入力は、ロールギャップ指令値とロール速度指令値とされている。ロールギャップ指令値は、下流側圧延スタンド2bのロールギャップ指令値であり、ロール速度指令値は、上流側圧延スタンド2aのロール速度指令値である。
【0025】
また、制御対象ブロックの出力は、下流側圧延スタンド2bの出側板厚とスタンド2、2間張力である。なお、図2で使用されると共に本明細書で使用される記号は以下の通りである。
【0026】
【数1】

【0027】
図2の制御対象ブロックを状態方程式で表すと式(1)のようになる。この状態方程式は、制御ゲイン演算手段15内に設定されている。
式(1)の状態方程式において、入力は、下流側圧延スタンド2bのロールギャップ値、上流側圧延スタンド2a又は下流圧延スタンド2bのロール速度指令値を含んでいる。また、状態方程式において、出力は下流側圧延スタンド2bの出側板厚とスタンド間張力を含んでいる。
【0028】
【数2】

【0029】
式(1)に示された制御対象に積分補償を加えた拡大系を定義すると、図3に示すものとなる。図3におけるrは目標値ベクトルであり、rとwは式(8)、式(9)で示される。
【0030】
【数3】

【0031】
積分型最適サーボ系において、評価関数(第1評価関数)Jは、式(10)で示される。この第1評価関数Jは、上述した状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために重み行列Q、Rを有するものであって二次形式で表現される。
【0032】
【数4】

【0033】
この第1評価関数Jを最小にする入力uは、以下の式で計算される。
【0034】
【数5】

【0035】
式(11)に従って入力uを計算するような制御装置14は、積分型最適サーボ系の特徴である、応答性、安定性に優れ、かつモデル化誤差や定値外乱があるときも定常偏差なく目標値に追従する、という長所を持ち実用的である。
ところで、板厚張力制御手段11が板厚、張力を同時に目標値に制御する際、その過程において板厚、張力とも目標値から大きく外れず、かつ応答性良く制御するためには、板厚制御系と張力制御系の制御同士の干渉を抑制することが重要である。
【0036】
ところが、上記した積分型最適サーボ設計で設計した制御系は干渉を十分に抑制できるものとは限らず、重み行列Q,Rの設定により干渉は大きくも小さくもなる。しかし、重み行列Q,Rは共に行列であるため設定するパラメータ数が多く、本実施形態の場合もパラメータ数は13個となる。また、重み行列Q,Rの値と制御応答の関係が明確に結びついていないため、干渉を抑制できるような重み行列Q,Rを人手で探し出すことは困難である。
【0037】
そこで、本実施形態では、制御ゲイン演算手段15に加えて、重み演算手段16を有しており、この重み演算手段16において、板厚制御系と張力制御系の干渉性、板厚制御系の応答性、張力制御系の干渉性を評価する第2評価関数を設定し、この第2評価関数を用いた最適化問題を解くことにより、干渉を抑制し制御応答性も速くなる重み行列Q,Rを短時間で探し出すようにしている。
【0038】
以下、重み演算手段16で行われる処理に関して、具体的に説明する。
まず、積分型最適サーボ設計で得られる制御系を用いて制御したときの板厚応答、張力応答を求めるシミュレータ(シミュレーションモデル)を構築する。
次に、構築したシミュレータを用いて、板厚目標値にステップ関数を入力し、張力目標値は張力の初期値のままとして、そのときの板厚応答と張力応答を求める。図4(a),(b)は、板厚と張力それぞれの目標値と応答の一例を示したものである。なお、図4の計算結果は、重み行列Q、Rが最適化されていない場合の応答の一例である。
【0039】
図4(b)における張力変動が大きいほど、板厚制御系と張力制御系の干渉が大きいと言える。そこで干渉の大きさを表す指標として以下で示すF1を計算する。
【0040】
【数6】

【0041】
このF1は、時刻0〜10[sec]までの1001点における張力目標値と張力値の二乗平均誤差である。
また、図4(a)の結果を用いて、板厚応答性を表す指標として以下で示すF2を計算する。
【0042】
【数7】

【0043】
このF2は、時刻0〜10[sec]までの1001点における板厚目標値と板厚値の二乗平均誤差である。
次に、張力目標値にステップ関数を入力し、板厚目標値は板厚の初期値のままとして、そのときの板厚と張力の応答波形を求めるシミュレーションを行う。
図4(c),(d)は、斯かるシミュレーション結果の一例(板厚と張力それぞれの目標値と応答波形の一例)を示したものである。
【0044】
さらに、干渉の大きさを表す指標としてF3、張力応答性を表す指標としてF4を以下のように定義し、計算を行う。
【0045】
【数8】

【0046】
以上述べたF1,F2,F3,F4を用いて、第2評価関数Fを定義し計算を進める。
【0047】
【数9】

【0048】
ここで、p1,p2,p3,p4 はF1,F2,F3,F4のうちどの指標を重視して設計するかを調整するパラメータである。p1,p3を大きくすると干渉の抑制を重視し、p2を大きくすると板厚応答性を重視し、p4を大きくすると張力応答性を重視して設計できる。
式(18)に示す第2評価関数Fは、板厚制御系と張力制御系との干渉性を示す関数F1、F3に、板厚制御系の応答性を示す関数F2と、張力制御系の応答性を示すF4とを加えたものである。なお、本発明では、板厚制御系と張力制御系との干渉性が小さくなるように第2評価関数を設定すればよいので、板厚制御系と張力制御系との干渉性を示す関数F1、F3のみを有するものであってもよい。
【0049】
以上述べた上で、第2評価関数が最小となるような重み行列Q,Rを、適当な最適化手法を用いて探索する。本実施形態ではPSO(Particle Swarm Optimization)と呼ばれる最適化手法を用いて探索する。PSOについては、「Particle Swarm Optimization −群れでの探索−」(石亀、計測と制御、Vol.476、No.6、pp.459〜465)などに詳述されている。
【0050】
PSOによる最適化においては、様々な重み行列Q,Rにおいて上記のシミュレーションを行い、その結果から第2評価関数を求める、ということを繰り返すことにより、第2評価関数Fnが最小となるような重み行列Q,Rを求める。
なお、第2評価関数Fnを構成するF1,F2,F3,F4は、時刻0〜10[sec]までの1001点を求めるに際して使用する式であり、一般化すると、式(19)、式(20)のように示すことができる。詳しくは、式(19)は、時刻0〜Tまでのn+1点における張力目標値と張力実績値の二乗平均誤差を示す関数であり、式(20)は、時刻0〜Tまでのn+1点における板厚目標値と板厚実績値の二乗平均誤差を示す関数である。
【0051】
【数10】

【0052】
以上に示したように、制御ゲイン演算手段15、重み演算手段16にて、第1評価関数及び第2評価関数における最適化問題を解き、その演算結果を板厚張力制御手段11に出力し、演算結果を基に板厚張力制御手段11によって板厚制御系と張力制御系との制御を行うことによって、タンデム圧延機1による適正な圧延を行うことができる。
図7は、タンデム圧延機1における板厚制御系及び張力制御系の流れを示したものである。
【0053】
図7に示すように、ステップ1では、状態方程式、第1評価関数及び第2評価関数を定めた上で、シミュレータを構築する。
ステップ2では、重み演算手段16にて第2評価関数が最小となるような重み行列Q、Rを求める。
ステップ3では、重み演算手段16にて求めた重み行列Q、R及び第1評価関数等を用いて制御ゲイン演算手段15にて制御ゲインKを求める。
【0054】
ステップ4では、圧延を開始する処理に移行する。
ステップ5では、求まった制御ゲインKを用いつつ板厚張力制御手段11にて入力値、即ち、ロール速度指令値や圧下位置指令値を演算し、演算した演算結果をロール速度制御装置6や圧下位置制御装置8に出力する。
ステップ6では、指令値に基づいてロール速度制御装置6が作動し、ワークロール4のロール速度を制御する。
【0055】
ステップ7では、指令値に基づいて圧下位置制御装置8が作動し、圧下位置を制御する。そして、ステップ5〜ステップ7は繰り返し行われる。
以上、フローチャートを用いて述べた如く、本発明によれば、式(1)に示すようなタンデム圧延機1の状態方程式を設定し、この状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために式(10)に示すような重み行列Q、Rを有する第1評価関数を設定する。また、式(14)〜式(20)に示すような板厚制御系と張力制御系との干渉が最小となるような重み行列Q、Rを求めるための第2評価関数を設定し、制御ゲイン演算手段15や重み演算手段16にて第1評価関数及び第2評価関数における最適化問題を解き、第2評価関数で求められた重み行列Q、Rを用いて板厚制御系と張力制御系との制御を板厚張力制御手段11にて行っている。
【0056】
そのため、積分型最適サーボ系設計により設計される制御装置を用いて板厚と張力を制御する際に、板厚制御系と張力制御系の干渉が小さくなるような重み行列Q,Rを、人手を使わず短時間で探し出し、干渉の小さい制御系を実現することができる。
【実施例】
【0057】
図5(a)〜(d)は、以上述べた実施形態より設計した制御装置14を用いて板厚・張力干渉系を制御するシミュレーションを行った結果である。
図5(a)は、板厚目標値にステップ関数を入力し、張力目標値は張力の初期値のままとしたときの板厚応答を示し、図5(b)は、板厚目標値にステップ関数を入力し、張力目標値は張力の初期値のままとしたときの張力応答を示す。また、張力目標値にステップ関数を入力し、板厚目標値は板厚の初期値のままとしたときの板厚応答を図5(c)に示し、同様にした際の張力応答を図5(d)に示す。
【0058】
図6(a)〜(d)には、本実施例による結果と比較するため、人手により制御応答性が速くなるような重み行列Q,Rを探し、積分型最適サーボ系を設計したときのシミュレーション結果を示す。図6(a)〜(d)はそれぞれ図5(a)〜(d)に対応した図である。
図5、図6を比較することで明らかなように、本実施例の図5(a)では、実際の板厚が約5秒後に板厚目標値に達しているのに対し、従来法の図6(a)では、実際の板厚が約7秒後に板厚目標値に達しており応答性が悪い。また、本実施例の図5(b)では、実際の張力(スタンド間張力)が張力目標値と略一致しているのに対し、従来法の図6(b)では、実際の張力が張力目標値に達するまで7秒間もかかっているとともに数秒間は大きく張力が変動している。同様に、本実施例の図5(c)や図5(b)を見ても、板厚や張力の応答性は従来法よりも優れていて、制御装置14を用いることで、板厚制御系と張力制御系の干渉を十分に抑制できていることがわかる。
【0059】
このように、人手により重み行列Q、Rを求める従来法では、本実施例のように、最適な重み行列Q、Rを求めることは非常に難しく、本実施例と同じ応答性となる重み行列Q、Rを求めるには、例えば、トライアンドエラー等で繰り返し演算を行わなければならず短時間で求めることは非常に難しい。
一方、本発明では、積分型最適サーボ系設計により設計される制御装置14を用いて板厚と張力を制御する際に板厚制御系と張力制御系との制御における干渉が小さくなるような重み行列Q,Rを、人手を使わず短時間で探し出すことができるため、適正な制御を行うことができる。
【0060】
なお、本発明の制御技術を適用可能なタンデム圧延機1は、冷間タンデム圧延機、熱間タンデム圧延機のいずれであってもよい。また、板厚張力制御手段11は、上流側の圧延スタンド2に備えられたロール速度制御装置6に指令値を出力するとしているが、下流側圧延スタンド2bに備えられたロール速度制御装置6に指令値を出力してもよい。また、図1に示すタンデム圧延機1では、板厚検出器9、張力検出器10が設置されているものとしているが、設置されていない場合であっても、何らかの方法で推定した張力値や板厚値を用い、本発明の制御方法を用いるようにしても何ら問題はない。
【0061】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0062】
1 タンデム圧延機
2 圧延スタンド
2a 上流側圧延スタンド
2b 下流側圧延スタンド
3 圧延材
4 ワークロール
5 バックアップロール
6 ロール速度制御装置
7 圧下装置
8 圧下位置制御装置
9 板厚検出器
10 張力検出器
11 板厚張力制御手段
14 制御装置
15 制御ゲイン演算手段
16 重み演算手段
M 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する上流側の圧延スタンドと下流側の圧延スタンドとを備えたタンデム圧延機にて圧延材の圧延を行うに際し、板厚を制御する板厚制御系とスタンド間張力を制御する張力制御系との制御を行うタンデム圧延機の制御方法において、
前記タンデム圧延機の状態方程式を設定し、
前記状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために、重み行列Q、Rを有する第1評価関数を設定し、
前記板厚制御系と張力制御系との干渉が最小となるような重み行列Q、Rを求めるための第2評価関数を設定し、
前記第2評価関数で求められた重み行列Q、Rを用いて、前記板厚制御系と張力制御系との制御を行うことを特徴とするタンデム圧延機の制御方法。
【請求項2】
前記第1評価関数は、重み行列Q、Rを有する二次形式を備えており、
前記状態方程式において、入力は下流側の圧延スタンドのロールギャップ値と、上流側の圧延スタンド又は下流圧延スタンドのロール速度指令値とし、出力は下流側の圧延スタンドの出側板厚と前記スタンド間張力とすることを特徴とする請求項1に記載のタンデム圧延機の制御方法。
【請求項3】
前記第2評価関数は、板厚制御系と張力制御系との干渉性を示す関数F1、F3に、板厚制御系の応答性を示す関数F2と、張力制御系の応答性を示す関数F4とを加えたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンデム圧延機の制御方法。
【請求項4】
連続する上流側の圧延スタンドと下流側の圧延スタンドとを備えたタンデム圧延機に備えられて、板厚を制御する板厚制御系とスタンド間張力を制御する張力制御系との制御を行う制御装置であって、
前記タンデム圧延機の状態方程式が設定され、前記状態方程式に対する積分型最適サーボ系設計を行うために、重み行列Q、Rを有する第1評価関数が設定され、前記板厚制御系と張力制御系との干渉が最小となるような重み行列Q、Rを求めるための第2評価関数が設定されていて、前記第2評価関数で求められた重み行列Q、Rを用いて、前記板厚制御系と張力制御系との制御を行うように構成されていることを特徴とするタンデム圧延機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−121063(P2012−121063A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276035(P2010−276035)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】