タンパク質、タンパク質の固定方法、構造体、バイオセンサー、核酸、ベクター及び標的物質検出用キット
【課題】微細構造体において基体と目的物質との結合に利用し得る、光架橋基と特異的に結合可能な抗光架橋基抗体、かかる抗体または一部を少なくとも含む複合タンパク質、及びこれらの標的物質の検出への利用のための技術を提供すること。
【解決手段】光架橋基を認識する抗体の構造を少なくとも有するタンパク質を提供する。
【解決手段】光架橋基を認識する抗体の構造を少なくとも有するタンパク質を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質、該タンパク質を基体に固定させる方法、タンパク質と基体とを有する構造体、該構造体を有するバイオセンサー、前記タンパク質をコードする核酸、該核酸を含むベクター、前記基体とタンパク質とを有する標的物質検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、タンパク質に代表される生体分子は、その機能を発揮する為に原子レベルで制御された精密な構造を構築することが知られており、そのような生体分子の特性を利用し、生体分子を種々の材料上に配することが検討されている。利用分野としては、主にバイオセンサーや生体分子の精製プロセスがあり、近年では、半導体プロセスでのナノスケール構造形成などへの生体分子利用などが更に挙げられる。例えば、特許文献1(特開2005−312446号公報)は、金と目的物質(標的物質)との結合に利用し得る、金と特異的に結合可能な金結合性のタンパク質を開示している。当該特許文献に開示されたタンパク質は金に対して結合性を有する抗体の少なくとも一部を含んでいるタンパク質である。このタンパク質は抗体構造を足場とし、抗体の抗原認識能力を活かして直接的に金を認識するタンパク質である。特許文献1では、金基体を用いたバイオセンサーへの用途が想定されている。また、特許文献1におけるタンパク質の固定は、金認識能を利用した分子認識による固定であるので、固定されたタンパク質に配向性が付与され、タンパク質を同質的に固定することでバイオセンサーの性能向上が見込まれる。
【0003】
しかし、特許文献1では、金基体へのタンパク質固定に、抗原−抗体反応に見られる分子認識を利用しているため、タンパク質は非共有結合的に固定されており、少なからず固定したタンパク質の解離が生じる恐れがある。その結果、バイオセンサーに用いる場合、速度論的な解析が必要となる。また、このタンパク質をバイオセンサーに用いる場合、金基体を用いたものに限られるために、金基体への非特異吸着防止技術の工夫が更に必要となる。
【0004】
一方、タンパク質を基体へ固定する方法として、従来、タンパク質の物理的吸着や化学架橋を利用した固定方法が検討されている。また、種々の標的物質を検出するバイオセンサーを製造する場合、固定するタンパク質の数(分子の個数)は、通常検出したい標的物質数以上必要になるため、同一の固定方法で効率よく必要数のタンパク質を固定できる手法が求められている。しかし、本来、固定するタンパク質は化学的に種々雑多で、官能基の種類や量も異なる上に、官能基のタンパク質表面での存在位置も異なる。結果として、同一の固定方法で基体に複数のタンパク質を同質的に固定することは非常に困難な場合が多かった。
【0005】
一方、非特許文献1(Langmuir (2002) 18, 2463−2467)では、光架橋基を介して共有結合的にタンパク質を基体へ固定する技術を開示している。ここでは光架橋基を有する非特異吸着防止ポリマーを利用しているのでタンパク質の種類による官能基の違いはほぼ無視することができ、従来の固定方法に比べて、より同質的に固定することができる。しかしながら非特許文献1で示唆されるのは、あくまでタンパク質の種類による固定量の変化を抑えられることに止まり、非特許文献1では、バイオセンサーに求められるタンパク質の同質的な配向性を有した固定には何ら言及されていない。
【0006】
また、固定するタンパク質の末端や特定のサイトに特定の配列、例えばHis TagやCysteine残基を導入し、タンパク質を修飾してより配向性を持たせて固定する方法も広く知られている。しかし、このようなタンパク質の修飾は、ある種のタンパク質で微生物などでの生産性に悪影響をもたらしたり、導入残基が低分子量のため基体表面からの影響によりタンパク質の標的物質捕捉活性が低下する恐れがある。
【特許文献1】特開2005−312446号公報
【非特許文献1】Langmuir (2002) 18, 2463−2467
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1のタンパク質は、金基体に分子認識反応により固定されるので、非常に均質的で配向性に優れた固定状態を得ることができる。しかしながら、分子認識反応のみを利用して固定するため、得られた構造体上では非共有結合的であり、ある確率でタンパク質が基体から解離する恐れがある。つまり、特許文献1は均質的ではあるが、共有結合によるタンパク質の固定方法を開示するものではない。また、特許文献1は金基体以外への分子認識反応を利用した固定法を開示するものでもない。
【0008】
一方、非特許文献1は、光架橋基を介してタンパク質を共有結合的に固定することを開示している。非特許文献1の方法によれば、種々タンパク質の官能基などの違いを実質無視することができるため、タンパク質をある程度均質的に基体に固定できる。しかしながら、非特許文献1には、タンパク質に配向性を持たせる固定方法の開示はない。
【0009】
一方、バイオセンサーや診断デバイスなど各種の機器の商業レベルでの製造プロセスやコスト、性能を考えると、捕捉タンパク質のより少量使用で目的とする感度等の機能が得られることが望まれる。更に、これらの機器の製造プロセス数の低減や製造時間の短縮が求められる。つまり、いかにより少量のタンパク質を用いて、基体上での標的物質との結合活性が高いタンパク質を、効率よく短時間に基材へ固定できるか、が重要である。また、このようなタンパク質の固定化技術を用いて、捕捉タンパク質をバイオセンサーや診断薬・診断デバイスに搭載し、医療機器として商品化を行う際には、再現性や精度の点から、より緻密にタンパク質を配向させて基体に固定化することが重要になる。更に、タンパク質の生産性はデバイスのコスト低減に寄与するため、捕捉タンパク質を微生物等で大量に生産できることが望まれる。
【0010】
本発明の目的は、上記の捕捉タンパク質とタンパク質固定化技術の両方に対する要求を満たすための技術を提供する可能性を広げることにある。本発明の他の目的は、遺伝子工学を利用して微生物により安定的に製造可能であり、かつ基体へ配向性良く共有結合的に固定化が可能である、すなわち光照射により基体表面に架橋結合可能なタンパク質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記一般式I(R1は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基を
表し、R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基を表す。)で表される反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなることを特徴とするタンパク質である。
【化1】
本発明のタンパク質は、前記光架橋基のみを認識する抗体からなっていてもよいし、前記光架橋基とその他の部分とをあわせて認識する抗体からなっていてもよい。
前記抗体としては、受託番号FERM BP−10762、FERM BP−10763またはFERM BP−10764、FERM BP−10825またはFERM BP−10826として寄託されたハイブリドーマにより産生されるものが挙げられる。
また、前記抗体としては、以下の(a)から(d)のいずれかのアミノ酸配列の組み合わせからなる相補性決定領域の組み合わせまたはこれと機能的に同等の相補性決定領域の組み合わせを有するものが挙げられる。
(a)配列番号:1、2および3のアミノ酸配列の組み合わせ
(b)配列番号:4、5および6のアミノ酸配列の組み合わせ
(c)配列番号:7、8および9のアミノ酸配列の組み合わせ
(d)配列番号:10、11および12のアミノ酸配列の組み合わせ
また、前記抗体としては、キメラ抗体、相補性決定領域移植抗体、一本鎖抗体、またはこれらの抗体断片からなる群より選択されるものが挙げられる。
【0012】
また、本発明の標的物質と結合し得るタンパク質は、反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を認識する第1の領域の少なくとも一つと、標的物質を認識する第2の領域の少なくとも1つと、
を有し、前記第1の領域が、前述したタンパク質のいずれかまたはその一部からなり、前記第2の領域が認識する標的物質が、前述した反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基と異なることを特徴とするタンパク質である。
【0013】
また、本発明は、タンパク質の架橋基認識能と架橋反応を利用して該タンパク質を基体に固定する方法であって、
1)基体表面に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を設ける工程と、
2)前述したタンパク質のいずれかを、前記基体表面の架橋基に、該タンパク質の該架橋基認識能を利用して反応させて、該タンパク質を該基体に固定する工程と、
3)前記反応後、あるいは同時に光を照射し、前記光架橋基を利用した光架橋反応により、前記基体と前記タンパク質との間に架橋構造を形成する工程と、
を有することを特徴とするタンパク質の固定方法である。
【0014】
また、本発明は、基体とタンパク質を有する構造体であって、
前記基体が表面の少なくとも一部に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体を有し、前記タンパク質が前述したタンパク質のいずれかであることを特徴とする構造体である。
【0015】
また、本発明は、上記構造体を有するバイオセンサーである。
【0016】
また、本発明は、前述したタンパク質のいずれかをコードする核酸である。
【0017】
また、本発明は、上記核酸を含むベクターである。
【0018】
本発明のキットは、標的物質を検出するための検出用キットであって、上記の構造体を形成するための基体と、タンパク質と、を有することを特徴とする標的物質検出用キットである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所望の機能を有するタンパク質を基体に固定するための技術を提供することができる。また、本発明は、タンパク質を基体に固定した構造体のバイオセンサーや生体分子の精製プロセスなどの種々の分野への利用に寄与するものである。また、本発明にかかるタンパク質は、遺伝子工学を利用して微生物を用いることでも安定して製造可能である。また、本発明のタンパク質は、基体に配向性良く共有結合による固定化が可能である。また、本発明は、光照射により基体表面へ架橋結合可能なタンパク質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のタンパク質は、少なくとも反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を認識する抗体からなる。本発明のタンパク質は、反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基のみを認識するタンパク質であってもよいし、光架橋基とその他の部分とをあわせて認識する抗体からなっていてもよい。後者の例としては、光架橋基とその近傍を認識するものを挙げることができる。前者は、「反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基のみを認識する抗体からなるタンパク質」、すなわち光架橋基そのものを認識する抗体からなるタンパク質である。後者は「反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなるタンパク質」であって、光架橋基以外の部分もあわせて認識する抗体からなるタンパク質である。
【0021】
この光架橋基を認識する抗体を、所望の機能を有するタンパク質の少なくとも一部として用い、この光架橋基を基体表面に設けておくことで、分子認識を利用したこのタンパク質の基体表面への良好な固定状態を得ることが可能となる。また、光照射により、タンパク質を良好な固定状態で共有結合的に固定することが可能となる。
【0022】
この光架橋基を認識する抗体として、以下の独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央6)に、ブタペスト条約下で国際寄託されているハイブリドーマにより産生されるものが好適に利用可能である。
・Mouse−Mouse hybridoma 1E2−2H6−1A9
国際寄託番号:FERM BP−10762(FERM P−20855(受託日:平成18年3月29日)から平成19年1月19日に国際寄託へ移管)。
・Mouse−Mouse hybridoma 6A8−1C6−1B6
国際寄託番号:FERM BP−10763(FERM P−20856(受託日:平成18年3月29日)から平成19年1月19日に国際寄託へ移管)。
・Mouse−Mouse hybridoma 6C9−A5B10
国際寄託番号:FERM BP−10764(FERM P−20857(受託日:平成18年3月29日)から平成19年1月19日に国際寄託へ移管)
・Mouse−Mouse hybridoma 4G2−1E10−1F10
国際寄託番号:FERM BP−10825(受託日:平成19年5月10日)
・Mouse−Mouse hybridoma 6H11−F11F4
国際寄託番号:FERM BP−10826(受託日:平成19年5月10日)
また、この抗体としては、以下の(a)から(d)のいずれかのアミノ酸配列の組み合わせからなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有する抗体を挙げることができる。
(a)配列番号:1、2、および3のアミノ酸配列の組み合わせ
(b)配列番号:4、5、および6のアミノ酸配列の組み合わせ
(c)配列番号:7、8、および9のアミノ酸配列の組み合わせ
(d)配列番号:10、11および12のアミノ酸配列の組み合わせ
【0023】
なお、上記の「機能的に同等の相補性決定領域」とは、アミノ酸の欠失、置換または挿入によりアミノ酸配列の変更がなされた場合においても、上記の光架橋基認識能を維持しているものをいう。例えば、光架橋基認識能が維持されている範囲内で、1〜数個のアミノ酸の欠失、置換または挿入による配列変更を上記のアミノ酸配列に行ったものを挙げることができる。
【0024】
上記の抗体は、キメラ抗体、相補性決定領域移植抗体、一本鎖抗体、またはこれらの抗体断片からなる群より選択されるいずれかの形態を有することができる。
【0025】
上記の抗体を利用して標的物質と結合し得るタンパク質を得ることができる。すなわち、かかるタンパク質は、以下の構成を有する。
(1)反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を認識する第1の領域の少なくとも一つ
(2)前記第1の領域と異なる物質を認識する第2の領域の少なくとも1つ
(3)前記第1の領域が、上記抗体からなるタンパク質またはその一部からなる
【0026】
なお、上記の第2の領域において認識される標的物質は、上記の構造体の用途に応じたタンパク質における所望の機能に応じて標的となる物質であり、例えば、バイオセンサーにおいては検出対象としての物質であり、分離プロセスにおける分離対象物質である。また、上記の第2の領域を2以上設け、各領域で異なる標的物質の2以上を認識できるようにすることも可能である。
【0027】
更に、上記の少なくとも光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質または標的物質と結合し得るタンパク質の光架橋基認識能と、架橋反応と、を利用して、タンパク質を基体に固定する方法を提供することができる。かかる固定方法は、以下の工程を有する。
【0028】
1)基体表面に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体を設ける工程
2)反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなるタンパク質を、前記基体表面の架橋基に、該タンパク質の該架橋基認識能を利用して反応させて、該タンパク質を該基体に固定する工程
3)前記反応後、あるいは同時に光を照射し、前記光架橋基を利用した光架橋反応により、前記基体と前記タンパク質との間に架橋構造を形成する工程
【0029】
上記の少なくとも光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質または標的物質と結合し得るタンパク質を基体に固定することで、バイオセンサーや生体分子の精製プロセスなど種々の分野においての利用が期待できる構造体を得ることができる。
【0030】
また、この構造体を構成するタンパク質として、バイオセンサーとしての機能を有する酵素や検出対象捕捉用のタンパク質を用いることで、この構造体をバイオセンサーのセンサー部として利用可能となる。更に、この構造体を形成するためのタンパク質と基体とを少なくとも用いて検出対象としての標的物質を検出するためのキットを構成することができる。
【0031】
一方、上記の少なくとも光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質または標的物質と結合し得るタンパク質をコードする核酸をベクターに組み込んで、微生物などの宿主細胞で発現させることで、これらのタンパク質の安定生産が可能となる。
【0032】
本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質は光架橋基結合部位と前記部位を形成する免疫グロブリンドメイン構造部を有する。その結果、この構造部に連鎖して結合する標的物質結合部位を基体表面に固定化する際に、標的物質結合部位にはその本来の機能に対する固定化の影響は及ばないか、極めて少なくなる。そして、標的物質結合部位と基体との距離が、構造部の存在により保たれているため標的物質結合部位がその機能に影響を及ぼすような基体からの相互作用を受けることもない。その結果、高い標的物質捕捉能を有することが可能になる。なお、この光架橋基認識能を有するタンパク質とは、前記光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質と前記標的物質と結合し得るタンパク質とを含む概念で用いられる。
【0033】
本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質をバイオセンサーに用いる場合、原理的には、検出方法は限定されない。どんな検出法でも利用可能である。つまり、前記構造体が光架橋基を利用した固定状態が維持可能な方法であれば特に限定されない。すなわち、本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質は、基体表面に光照射により架橋固定することができ、バイオセンサーに用いた場合、共有結合的に固定され、且つ、非常に安定に均質的に配向することができ、バイオセンサーの精度向上につながる。なお、光架橋基認識能を有するタンパク質は構造体上の光架橋基を認識するため、自動的に該タンパク質の光架橋基結合部位が光架橋基の方向を向くことになる。その結果、標的物質結合部位が構造体と反対方向に提示されることになり、配向性が担保されることとなる。
【0034】
本発明にかかる構造体を適用し得るバイオセンサーの一例の構造を図16に示す。このバイオセンサーの基体上には、まず、非特異吸着防止効果を有するタンパク質などからなる非特異防止層が設けられている。この非特異防止層の表面に配置された光架橋基を利用して標的物質を捕捉する機能を有する光架橋基認識複合体タンパク質が固定されている。この光架橋基認識複合体タンパク質への標的物質の捕捉の有無により、標的物質のセンシングを行う。
【0035】
更に、本発明の光架橋基認識能を有するタンパク質の内の、標的物質認識能を更に有する、すなわち標的物質との特異的結合性を併せ持つタンパク質(以下、光架橋基認識複合タンパク質という)を用いることで少なくとも以下の(i)乃至(iii)の要素からなる多層体を形成することができる。
(i)表面の少なくとも一部に光架橋基を有する基板
(ii)本発明の光架橋基認識複合タンパク質
(iii)本発明の光架橋基認識複合タンパク質が結合できる標的物質
【0036】
なお、光架橋基認識複合タンパク質として2以上の異なる標的物質を認識するものを用いることもできる。この際、光架橋基認識複合タンパク質は光架橋基認識部位として少なくとも立体的にも安定したβシート構造であるイムノグロブリン構造体を有することができ、その結果、基体と標的物質との結合部位の間に所定の距離をおいたこれらの空間位置を保つことが可能となる。すなわち、光架橋基認識複合タンパク質の標的物質結合部位が、光架橋基を含む基板から何らかの相互作用を受けることがなく、結合能を保持することができる。また、これにより極めて薄膜で緻密に配向した多層構造体を形成することが可能である。この光架橋基認識複合タンパク質によるこれらの特性を利用して、検出装置を構成することができる。例えば、金薄膜上に光架橋基を少なくとも有する分子層を設け、更に所望の1以上の標的物質と結合可能な光架橋基認識複合タンパク質を設けることで、所望とする標的物質のセンシング素子とすることができる。その場合、光架橋基認識複合タンパク質に捕捉された標的物質の検出方法としては、光学的な手段、例えば表面プラズモン共鳴などを利用した手段を利用することができる。
【0037】
本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質を用いた基体への固定では、光照射量、照射タイミングなどを変更することで、短時間にその固定量を所望量に制御することができる。そのため、バイオセンサーの製造プロセスの短縮、タンパク質使用量の低減など商業レベルでのメリットが見込まれる。
【0038】
以下、本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質、それを用いた構造体および標的物質の検出用途などについて更に詳細に説明する。
(1)光架橋基認識能を有するタンパク質
・光架橋基
本発明の光架橋基認識能を有するタンパク質は、少なくとも光架橋基を認識する抗光架橋基抗体からなるものである。なお、該抗光架橋基抗体は、前記光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質に相当する。この抗体が認識する光架橋基は、反応性フェニルジアジリン誘導体をその機能を損なうことなく基板等の所定の部位に設けられたものである。反応性フェニルジアジリン誘導体は、下記一般式Iで表される。
【0039】
【化2】
【0040】
(R1は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基を表す。)
R1は、水素原子、または置換基を有してもよいアルキル基である。R1のアルキル基の置換基としては、フッ素原子などの電子吸引基を挙げることができる。置換基を有してもよいアルキル基としてはトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0041】
R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルキル基、置換されていてもよい(ポリ)アルキレンオキシドアルキルエーテル基、アルコキシ基、又は、アルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基である。R2は、好ましくは水素原子又はアルコキシ基を表し、アルコキシ基の炭素数は1〜3が好ましい。アルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基は、好ましくは−(CmH2mO)n−(CH2)o−R4で表され、式中、mは2又は3、nは1〜6のいずれかの整数、oは1〜4のいずれかの整数を表し、R4は水素原子、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基、好ましくは水素原子を表す。アルキレンオキシドとして例えば、ポリエチレングリコール鎖などが固定するタンパク質の安定化という点で適用できる。また、R2は−CN2R1に対してメタ位にあることが好ましい。また、光架橋基認識タンパク質により認識されればジアジリン化合物中にR2は複数あってもよく、その際それぞれは同一であっても異なってもよい。R2が複数の場合も、少なくとも1つのR2が、−CN2R1に対してメタ位に存在することが好ましい。
【0042】
反応性フェニルジアジリン誘導体からなる基を基板面に設ける場合の構造を以下の一般式I’に示す。
【0043】
【化3】
【0044】
R3は、基体への光架橋基担持固定のための官能基を表し、基体表面に担持された官能基と反応できる基であればどんなものでも良い。例えば、カルボキシル基、ホルミル基、活性エステル基、水酸基、チオール、スルフィド、アミノ基、ハロゲン置換アルキル基、トリアルコキシシリル基、又はこれらの置換基を有する基等が挙げられる。R3は−CN2R1に対してパラ位にあることが好ましい。
【0045】
また、標的物質の基体への非特異吸着を防止することを目的として、非特異吸着防止効果を有するタンパク質と光架橋基を供給する化合物とのコンジュゲートを形成し、光架橋基を有する分子とすることができる。例えば、BSA(Bovine Serum Albumin:牛血清アルブミン)、カゼインタンパク質とのコンジュゲートとすることができる。その場合、R3を介して、BSAやカゼインタンパク質などのタンパク質に光架橋基を連結することができる。これらのコンジュゲートを利用することで、例えばバイオセンサーでの基体表面の所定部位への非特異吸着防止処理を、捕捉タンパク質の基体への固定処理を行う際に同時に行うことが可能となる。また、抗光架橋基抗体を作出するための免疫工程に用いられるタンパク質であるキャリヤー蛋白質(Carrier Protein)とのコンジュゲートでもよい。このキャリヤー蛋白質として、例えば、OVA(Ovalbumin:卵白アルブミン)やKLH(Keyhole Limpet Haemocyanin:スカシ貝ヘモシアニン)がある。本発明に係るタンパク質の特徴である光架橋基を認識する能力が発揮されればどんな光架橋基を有する分子でも良い。
【0046】
また、光架橋は、350nm付近の紫外線照射により達成され、本発明の光架橋によるタンパク質の配向的固定はTOFmassなどの質量分析により確認できる。つまり、本発明によるタンパク質は分子認識により光架橋基を認識し、更に光照射により架橋されるので、本発明にかかる構造体を適当なタンパク質分解酵素で処理して質量分析をすることで、特定の領域が光架橋されていることが確認できる。
【0047】
・分子認識
本発明に係るタンパク質は、分子認識能として、少なくとも光架橋基認識能を有する。分子認識には、生体分子反応である抗体・抗原反応が含まれ、好ましくはこれらの複合体の解離定数KD値が10-4M以下である。KD値が10-4M以下であれば、非特異吸着性のタンパク質の吸着挙動と分子認識を十分に区別することが可能である。例えばカロリメトリーやSPR、QCMなどの生体分子相互作用計測装置により区別することができる。タンパク質の固定操作時間の短縮という点から解離定数は10-6M以下であることがより好ましい。
【0048】
・抗体
本発明において用いられる抗光架橋基抗体は、抗光架橋基抗体全体を用いて、あるいは、架橋基認識部位を含む部分を用いて形成することができる。抗光架橋基抗体としては、光架橋基(またはその誘導体)または光架橋基(またはその誘導体)を少なくとも含む部位に特異的に結合する抗体を用いることができる。例えば、脊椎動物のリンパ系細胞で産出することができる。また、それらのアミノ酸配列におけるアミノ酸の1個または数個が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、その構造・機能が維持されている抗体(抗体変異体)を用いることができる。抗体は、その特性(免疫学的または物理学的な)の分類において、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに分類されるが、本発明において用いられる抗体はその何れの分類に属するものであってもよい。更には、これらが多量体を形成していてもよい。例えば、IgAは2量体、IgMは5量体を形成するが、金に結合しうる形状であれば何ら問題はない。また、その使用用途がin vitroである場合は哺乳類に限らず、IgW、IgYであっても問題ない。
【0049】
本発明における抗体には、特に、重鎖(H鎖)及び/または軽鎖(L鎖)の一部が特定の種、または特定の抗体クラス若しくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラス若しくはサブクラス由来である「キメラ」抗体が含まれる。更に、本発明における抗体には、先に挙げた抗体変異体、並びに抗体の断片も含まれる。これらについては、米国特許第4,816,567号;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855(1984)に開示がある。
【0050】
本発明において、「抗体変異体」とは、1またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列変異体を指す。例えば、抗体の可変領域を、光架橋基結合能を改善するために改変することができる。このような改変は、部位特異的変異、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。このような変異体は、抗体の重鎖若しくは軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となった抗体のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。
【0051】
また、本発明にかかる抗体の相補性決定領域(CDR)と機能的に同等の相補性決定領域とは、本発明の抗体のCDRのアミノ酸配列と類似したアミノ酸配列を有し、光架橋基を少なくとも分子認識して結合することを言う。CDRとは抗体の可変領域に存在する抗原への結合の特異性を決定している領域であり、H鎖とL鎖にそれぞれ3箇所ずつ存在し、それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3と命名されている。各CDRを挟むようにフレームワークと呼ばれるアミノ酸配列の保存性の高い4つの領域が介在する。CDRは他の抗体に移植することが可能であり、所望の抗体のフレームワークと組み合わせることにより組み換え抗体を作製することができる。また抗原に対する結合性を維持しながら1または数個のCDRのアミノ酸を改変することが可能である。例えば、CDR中の1または数個のアミノ酸を、置換、欠失、および/または付加することができる。
【0052】
アミノ酸残基の置換により変異を行う場合においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質は、以下のように分類することができる。
(1)疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)
(2)親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)
(3)脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)
(4)水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)
(5)硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)
(6)カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)
(7)塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)
(8)芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)
【0053】
これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。この点についてはMark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666に開示がある。変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、各CDRのアミノ酸の40%以内であり、好ましくは35%以内であり、さらに好ましくは30%以内である。アミノ酸配列の同一性は本明細書に記載したようにして決定すればよい。
【0054】
具体的には、塩基配列およびアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNおよびBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。この点についてはAltschul et al.J.Mol.Biol.215:403−410,1990に開示がある。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。この点についてはNCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトで参照可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0055】
・キメラ抗体、相補性決定領域(CDR)移植抗体、抗体断片
本発明では、種々の抗体分子の提示を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体などが挙げられ、例えばマウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域をヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域に導入した抗体が挙げられる。このような抗体は、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0056】
ヒト化抗体は、例えば所望の目的に利用するマウス抗体などの非ヒト抗体の重鎖または軽鎖の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域に置き換えたものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。(例えば、Jones et al.,Nature 321:522−525(1986))。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることによってヒト化抗体を得ることができる。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体に導入させたCDRまたはフレームワーク配列のどちらにも含まれないアミノ酸残基を含んでいてもよい。通常、このようなアミノ酸残基の導入は、抗体の抗原認識・結合能力をより正確に至適化するために行われる。例えば必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
【0057】
また本発明にかかる抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の断片又はその修飾物であってもよい。「抗体断片」とは、全長抗体の一部を指し、一般に、抗原結合領域または可変領域を含む断片のことである。本発明で述べる抗体断片とは、モノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab’)2、Fab'、Fab、Fd、Fv(va
riable fragment of antibody)、scFv(singlechain Fv)、dsFv(disulphide stabilised Fv)あるいは可変領域(VH)または軽鎖可変領域(VL)からなる単ドメインdAb(single domain antibody)等が挙げられる。
【0058】
・抗光架橋基抗体の取得
本発明にかかる光架橋基認識能を有する抗体(抗光架橋基抗体)の取得は、従来行われてきた抗血清調製技術、および細胞融合によるモノクローン抗体作製技術を適宜選択して行うことができる。例えば、結合対象となる光架橋基は低分子化合物であるため、光架橋基を有するハプテンを作製し、キャリアタンパク質KLH(Keyhole Limpet Haemocyanin:スカシ貝ヘモシアニン)と結合した免疫原を調製して適当な免疫動物に免疫する。抗体価の上昇を確認したところで血清中から抗体を回収することができる。前記免疫は、免疫原となる光架橋基キャリアタンパク質コンジュゲートを適当な溶媒、例えば生理食塩水などで適当な濃度に希釈し、この溶液を静脈内や腹腔内に投与することにより行うことができる。更に、必要に応じてフロイント完全アジュバントを併用投与してもよい。動物に1〜2週間間隔で3〜4回程度投与する方法が一般的である。このようにして免疫された動物を最終免疫後3日目に解剖し、摘出した脾臓から得られた脾臓細胞を免疫細胞として使用する。また、本発明の光架橋基は紫外線(350nm)で失活するので、免疫するまでは暗室などで行うことが望ましい。
【0059】
得られる抗体はポリクローナルでも良いが、モノクローナルとすることによってより光架橋基に対する特異性に優れたクローンを選択することが可能となる。モノクローナルな抗体は、それを産生する細胞をクローニングすることによって得ることができる。一般的には、免疫動物から回収した脾臓等のイムノグルブリン産生細胞を癌化細胞と融合させることによってハイブリドーマを形成することができる(Gulfre G.,Nature 266.550−552,1977)。例えば、癌化細胞としてはマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(ATCC No. CRL−1580)、P3/NSI/1−Ag4−1(NS−1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/0−Ag14(Sp2/O,Sp2)、NS0、PAI、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU−266AR1、GM1500−6TG−A1−2、UC729−6、CEM−AGR、D1R11あるいはCEM−T15等のミエローマ細胞をあげることができる。
【0060】
モノクローナルの抗体を産生する細胞のスクリーニングは、前記細胞をタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前記光架橋基に対する反応性を測定することにより行うことができる。この測定には、例えばRIA(radio immunoassay)やELISA(enzyme−linked immuno−solvent assay)等の酵素免疫測定法、免疫沈降等を利用できる。または、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)装置を利用した光架橋基に対する結合性を定量的に測定することも可能である。SPR装置により評価する場合は、センサー金表面に直接、アジュバントタンパク質を物理吸着または化学架橋固定して測定することができる。
【0061】
・抗体断片
本発明で述べる抗体断片とは、モノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab’)2、Fab’、Fab、Fd、Fv(variable fragmen
t of antibody)、scFv(single chain Fv)、dsFv(disulphide stabilised Fv)あるいは可変領域(VH)または軽鎖可変領域(VL)からなる単ドメインdAb(single domain antibody)等が挙げられる。
【0062】
ここで、「F(ab’)2」及び「Fab’」とは、抗体のヒンジ領域で2本の重鎖(
H鎖)間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。この抗体フラグメントは、タンパク分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で抗体を処理することにより得ることができる。例えば、IgGをパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断される。その結果、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)からなる軽鎖(L鎖)、及び重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域1(CH1)とからなる重鎖(H鎖)フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つのフラグメントが得られる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fab’という。またIgGをペプシンで処理する
と、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFab’がヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造する
ことができる。この抗体フラグメントをF(ab’)2という。
【0063】
このように、本発明にかかる光架橋基認識抗体は、上記Fab’、F(ab’)2であ
ってもよい。また、VHと前記CH1を結合したFd断片であっても構わない。
【0064】
さらには、抗体の可変領域部(Fv)またはその一部であってもよく、例えばFvを構成する重鎖可変領域(VH)や軽鎖可変領域(VL)またはその一部であってもよい。一方、前記VHまたはVLからなる複合体において、一方のカルボキシ末端と他方のアミノ末端数個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結した一本鎖Fv(single chain Fv:scFv)を利用することもできる。上記scFvを形成するVH/VL間(順不同)に一以上のアミノ酸からなるリンカーを設けることが望ましい。アミノ酸リンカーの残基長については、VHまたはVLと抗原との結合に必要な構造形成を妨げるような拘束力を持たないように設計することが重要である。具体的な例としては、アミノ酸リンカー長は、5乃至18残基が一般的で15残基が最も多く用いられ検討されている。これら断片は遺伝工学的な手法により得ることが可能である。
【0065】
更には、VH、VLが何れか単ドメインdAbであっても構わないが、前記単ドメイン構造は一般的に不安定であることが多いのでPEG修飾等の化学修飾による安定化を施しても良い。また、重鎖抗体としてin vivoにおいても存在し、機能することができることが知られているラクダ重鎖抗体の可変領域VHH(J.Mol.Biol、311:p123、2001)、Nurse sharkのイムノグロブリン様分子の可変領域IgNARであっても構わない。更には、ヒト又はマウス由来に代表される重鎖・軽鎖から構成される抗体分子のVH、VLを、図1乃至図4のようにドメイン単体で使用する際に、VH/VL界面等に重鎖抗体の相当部分を参考にして変異導入することによって安定性を向上させても良い。
【0066】
光架橋基認識部位は、(1)抗体重鎖可変領域(VH)、その変異体及びこれらの一部、並びに(2)抗体軽鎖可変領域(VL)、その変異体及びこれらの一部、から選択された少なくとも1種を含んでなるものとすることができる。抗体重鎖可変領域(VH)の相補性決定領域のセットとしては、配列番号:1〜3のアミノ酸配列の組み合わせまたは4〜6のアミノ配列の組み合わせから選ばれるタンパク質を好ましいものとして挙げることができる。抗体軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域のセットとしては、配列番号:7〜9のアミノ酸配列の組み合わせまたは10〜12のアミノ配列の組み合わせから選ばれるタンパク質を好ましいものとして挙げることができる。これらの配列を以下に示す。
PM1−VH CDR
配列番号1:(H鎖CDR1)
S H N M L
配列番号:2(H鎖CDR2)
G I Y P G D G D T S Y N Q N F K G
配列番号:3(H鎖CDR3)
W D L L C F D Y
PM2−VH CDR
配列番号:4(H鎖CDR1)
S Y W M H
配列番号:5(H鎖CDR2)
Y I N P S T G Y T E Y N Q K F
配列番号:6(H鎖CDR3)
N G N G Y
PM1−VL CDR
配列番号:7(L鎖CDR1)
R A S S S I S Y M H
配列番号:8(L鎖CDR2)
A S Q S I S
配列番号:9(L鎖CDR3)
Q Q W S N S P P Y T
PM2−VL CDR
配列番号:10(L鎖CDR1)
T A S Q S I S Y V V
配列番号:11(L鎖CDR2)
S A S N L A S
配列番号:12(L鎖CDR3)
G Q G Y S P L T
これらの配列番号:1〜12のアミノ配列のそれぞれの一個もしくは数個のアミノ酸が、欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を一つ以上含み、光架橋基結合性を有している抗体断片も機能的に同等であれば同様に利用できる。
【0067】
上記のアミノ酸配列からなるCDR領域を、FRに挿入することで目的とするV鎖やL鎖などを得ることができる。配列番号13〜16にFR中にCDR領域が配置された状態の一例が示されている。配列番号13のアミノ酸配列の第31番〜第35番が配列番号1のアミノ酸配列からなるH鎖CDR1である。以下、配列番号13のアミノ酸配列には、配列番号2のアミノ酸配列からなるH鎖CDR2及び配列番号3のアミノ酸配列からならるH鎖CDR3が含まれている。更に、配列番号14、15及び16のアミノ酸配列には、それぞれ上記配列番号4〜6、7〜9及び10〜12のアミノ酸配列の組み合わせからなるCDRが含まれている。フレームとしては、目的とする抗体としての機能が得られるものであれば特に制限されず、公知の種々のフレームから目的に応じて選択してCDR領域と組み合わせることができる。
【0068】
・光架橋基認識抗体断片の取得
・酵素処理による取得
また、上記抗体をある種の酵素処理することで、前記抗体の抗原結合部位及び抗原結合能をある程度有した抗体断片を得ることもできる。例えば、前記得られた抗体をパパイン処理することによりFab断片またはその類似体を得るができ、ペプシン処理によってF(ab’)2断片またはその類似体が得られる。前記抗体断片は、前記酵素的手法の他に
化学的分解して作製する方法もある。これら抗体断片も光架橋基に対して結合能を有するものであれば、何ら問題なく使用することができる。
【0069】
本発明に係わる上記Fab’、Fv、VHまたはVLのdAbを得る方法としては、遺
伝工学的な手法を用いた取得も可能である。例えば、前記VHまたはVL遺伝子ライブラリーを作製し、それらをタンパク質として網羅的に発現させて、その遺伝子と対応させながら、光架橋基または標的物質に対する結合性により選択する方法がある。前記遺伝子ライブラリーは、たとえば、臍帯血、扁桃、骨髄、あるいは末梢血細胞や脾細胞等から得ることができる。例えば、ヒト末梢血細胞からmRNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、ヒトVH、VLをコードする配列をプローブとして、ヒトVHまたはVLのcDNAライブラリーを作製する。例えば、ヒトVHファミリー(VH1乃至7)をファミリー毎に幅広く増幅することができるプライマーやヒトVLを増幅できるプライマーは公知である。これらVH、VL毎にプライマーを組み合わせてRT−PCRを行い、VH、VLをコードした遺伝子を取得する。また、ファージディスプレー法を用いることも可能である。ファージディスプレー法では、VH、VLまたはそれら含む複合体(例えば、Fab、scFv)をコードした遺伝子ライブラリーを、ファージ外殻タンパクをコードした遺伝子と結合し、ファージミドライブラリーを作製する。それらを大腸菌に形質転換し、種々のVHまたはVLを外殻タンパクの一部として有するファージとして発現させる。それらのファージを用いて、上記同様にして光架橋基また標的物質に対する結合性により選択することができる。ファージに融合タンパクとして提示されたVHまたはVLをコードする遺伝子は、ファージ内にファージミドにコードされているのでDNAシークエンス解析をすることにより、特定することができる。
【0070】
・ライブラリーの選択に用いる光架橋基を有する被結合対象物
パニングにより抗光架橋基抗体断片を選択する際に用いる被結合対象物としては、少なくともその表面の一部に光架橋基を有する物質から種々選択して用いることができる。パニングにより選択する場合は、光架橋基以外の物質に対して吸着するタンパク質の混入を除くために被結合対象物表面は光架橋基のみであることがより望ましい。表面以外の内部コア基材となる材料は、既知の種々の材料から選択して用いることができる。光架橋基を含む分子を直接、または間接的に固定できる被結合対象物表面であればどんなものでも良い。また、被結合対象物に、非特異吸着を抑制する処理を施すことができる。また、パニング選択中は、本発明の光架橋基が失活するのを防ぐため、極力暗室または紫外線をカットするイエローカーテン内で行うことが望ましい。
【0071】
本発明は、上記光架橋基認識抗体をコードする核酸をも含む。更に、本発明は、宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、マウス、ヒト等由来の従来既知のタンパク発現用細胞)を形質転換して、上記光架橋基認識抗体を発現させるための遺伝子ベクターとなる核酸と、上記光架橋基認識抗体をコードする核酸とを有する構成物をも含む。一つの構造物(発現ベクター)により発現できる本発明の光架橋基認識抗体は、抗体全分子、またはその抗体断片であるF(ab’)2、Fab、Fv(scFv)、VH、VL、またはこれら複合体
から選択して、設計することが可能である。ひとつの発現用ベクターに複数の前記断片をコードする場合、それぞれの抗体断片が独立した個々のポリペプチド鎖として発現させることができる。また、ドメイン間を連続して結合またはアミノ酸を介して結合させた一つのポリペプチド鎖として発現ベクターの構成とすることも可能である。
【0072】
本発明の光架橋基認識抗体発現用の発現ベクターの構成は、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の導入遺伝子を発現させるために必要な構成等に組み込むことより、設計及び構築することができる。発現ベクターは、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の構成等を参照し、構築することができる。また、大腸菌等を宿主細胞として用いる場合、外来遺伝子産物である本発明に係る光架橋基認識抗体またその構成物を速やかに細胞質外に除外することで、プロテアーゼによる分解を少なくすることが可能である。また、この外来遺伝子産物が菌体にとって毒性である場合でも、菌体外へ分泌することによりその影響を小さくすることができることが知られている。通常、既知の細胞質膜あるいは内膜を通過して分泌されるタンパク質の多くがその前駆体のN末端にシグナルペプチドを有し、分泌過程においてシグナルペプチダーゼにより切断され、成熟タンパク質となる。多くのシグナルペプチドはそのN末に塩基性のアミノ酸、疎水性アミノ酸、シグナルペプチダーゼによる切断部位と配置されている。
【0073】
本発明にかかる光架橋基認識抗体をコードする核酸の5’側にシグナルペプチドである
pelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより、光架橋基認識抗体を分泌発現させることができる。
【0074】
また、ひとつのベクター中に本発明にかかる光架橋基認識抗体(複数の抗体断片含む)から構成されるポリペプチド鎖をそれぞれ独立して複数挿入することも可能である。この場合、各ドメインまたはポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコードす
る核酸を配置し、分泌を促すことができる。更に、または一以上のドメインからなるポリペプチド鎖として発現させる場合、前記ポリペプチド鎖の5’末端に同様にしてpelB
をコードする核酸を配置することにより分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した本発明の光架橋基認識抗体は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。
【0075】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0076】
完全抗体として光架橋基認識抗体を取得精製する場合、アフィニティー精製カラムとしてプロテインAカラム、プロテインGカラムの使用が挙げられる。
【0077】
また、抗体断片を発現させ精製する作業の簡便さを考慮して、種々の抗体断片を形成するポリペプチド鎖のNまたはC末端にアフィニティー精製用のタグを遺伝子工学的に配置することが可能である。精製用タグとしては、ヒスチジンが6残基連続したヒスチジンタグ(以下、His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼのグルタチオン結合部位などが挙げられる。タグの導入方法としては、発現ベクターにおける光架橋基認識抗体をコードする核酸の5’または3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市
販の精製タグ導入用ベクターを使用するなどが挙げられる。
【0078】
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
【0079】
以下に、上記発現ベクターを用いた本発明の光架橋基認識抗体の製造方法について述べる。本発明にかかる光架橋基認識抗体、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、従来既知のタンパク発現用の宿主細胞を、宿主細胞に応じて設計した上記光架橋基認識抗体発現ベクターで形質転換することにより製造可能である。すなわち、かかる光架橋基認識抗体、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、宿主細胞内のタンパク合成システムを用いて、宿主細胞内に合成される。その後、宿主細胞内外に蓄積または分泌された目的タンパク質を細胞内部または細胞培養上清から精製することにより、目的とする用途に利用可能となる。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合、本発明にかかる光架橋基認識抗体をコードする核酸の5’側にpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドを
コードする核酸を配することにより細胞質外に分泌発現しやすい構成にすることができる。
【0080】
ひとつの発現用ベクターで本発明にかかる光架橋基認識抗体を構成する複数のポリペプチド鎖を発現させる場合、各ポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコー
ドする核酸を配置することで、発現時に細胞質外への分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した光架橋基認識抗体は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。精製方法としては、精製タグがHisタグの場合、ニッケルキレートカラムやGSTの場合、グルタチオン固定化カラムを使用することで精製することができる。
【0081】
また、菌体内に発現した光架橋基認識抗体が不溶性顆粒で得ることも可能である。この場合、培養液から得られた菌体をフレンチプレスや超音波により破砕した細胞破砕液から不溶性顆粒を遠心分離することができる。得られた不溶性顆粒画分を尿素、塩酸グアニジン塩を含む従来既知の変性剤を含んだ緩衝溶液で可溶化した後に、変性条件下で前記と同様なカラム精製することができる。得られたカラム溶出画分は、リフォールディング作業により、変性剤除去と活性構造再構築を行うことができる。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。具体的には、段階透析法や希釈法などを目的のタンパクに応じて用いることが可能である。
【0082】
本発明にかかる光架橋基認識抗体の各ドメインまたは各ポリペプチド鎖は、同一宿主細胞内で発現させることも可能であるし、別の宿主細胞を使用して発現した後に共存させて、複合体化させることも可能である。
【0083】
更に、本発明の光架橋基認識抗体をコードするベクターを用いて、細胞抽出液を用いて生体外でのタンパク質発現をすることも可能である。好適に用いられる細胞抽出液としては、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球等が挙げられる。しかしながら、上記無細胞抽出液によるタンパク合成は一般的には還元条件下で行われる。その為に、抗体中のジスルフィド結合を形成させるために何らかの処理を行う方がより好ましい。
【0084】
・抗体断片タンパク発現
光架橋基認識抗体をコードするDNAを、所望の制限酵素、例えば上記の例ではNcoI/NheIにより切断して光架橋基認識抗体断片コードDNAを得る。これを宿主細胞に応じた従来公知のタンパク発現用プラスミドに導入することで抗体断片を得ることができる。例えば、大腸菌の場合、菌体外発現またはペリプラズム画分から目的の抗体断片を回収したい場合、前記抗体断片コード遺伝子の上流に従来既知のシグナルペプチドを導入することができる。シグナルペプチドとしては、pelB等が挙げられる。また、発現後、培養上清または菌体画分から目的タンパクを精製を容易にするために、従来既知の精製用タグを融合してもよい。具体的には、ヒスチジン6残基(His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼのグルタチオン結合部を導入し、融合タンパクとすることができる。これらは、Hisタグの場合、ニッケル等の金属キレートカラムなどにより精製することが容易にできる。GSTタグの場合は、グルタチオンをセファロース等に担体に固定化したカラムにより精製することが可能である。
【0085】
また、菌体内に発現した目的タンパクが不溶性顆粒で得ることができない場合、これらを尿素、塩酸グアニジン塩を含む従来既知の緩衝溶液で可溶化した後に、リフォールディングを行うことも可能である。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。具体的には、段階透析法や希釈法などを目的のタンパクに応じて用いることが可能である。
【0086】
これらで得られた抗体、及びそれらの断片、例えばFab、(Fab’)2、Fd、V
HまたはVLまたは前記それらの複合体等のアミノ酸配列において、一もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても光架橋基結合性を示すものであれば本発明の範囲から超えるものではない。
【0087】
・基体及び構造体
抗光架橋基抗体と、表面の少なくとも一部が光架橋基から形成されている基体とから各種の用途に使用し得る構造体を得ることができる。この基体は、その表面の少なくとも一部に光架橋基が配置されたものであり、本発明の構造体を形成しうるものであればいかなる材質、形状のものも利用可能である。光架橋基の基体上への形成に関しては、公知の反応が利用できる。反応の例として、ガラス表面とシランカップリング剤との反応、プラスティップ表面の官能基と活性ハロゲン化物との反応、セルロース系樹脂とイソシアネート類との反応、物理吸着などが挙げられる。予め基体表面に導入された基との反応例としては、求核性基(アミノ基、ヒドロキシル基など)と電子受容基(カルボキシル基、エステル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、共役ケトン、アクリル酸エステル、ビニルスルホン、酸無水物、アシルハライド、スルホニルハライドなど)との組み合わせ、生体反応を利用した組み合わせ(ビオチン−アビジン、基質―酵素)、金−チオールの組合せなど、基体の種類により適宜選択することができる。また、上記反応を行うための材料を基体の一部分に配置することが可能である。この配置は、例えば、スタンパーの利用やパターニングにより達成できる。基体の材質は、本発明の構造体を形成しうるものであればいかなる材質でもよく、金属、金属酸化物、無機半導体、有機半導体、ガラス類、セラミクス、天然高分子、合成高分子、プラスチックから選ばれる何れか1以上或いはその複合体を含んでなる材質である。本発明に用いる基体の形状は、本発明の構造体を形成しうるものであればいかなる形状でもよく、板状、粒子状、多孔体状、突起状、繊維状、筒状、網目状から選ばれる何れか1以上の形状を含んでなる形状である。
【0088】
本発明に用いることのできる基体材料とその基体の例示は、特開2005−312446号公報に開示されているものが使用できるが、これらに限定されるものではない。また、本発明の基体の大きさは使用用途に応じて種々選択することが可能である。
【0089】
・標的物質検出用のキット
本発明にかかる抗光架橋基抗体に標的物質との結合性を付加した構成を用いて、標的物質検出用のキットを得ることができる。例えば、上記の構造体を形成するための基体及び抗光架橋基抗体と、該構造体への標的物質の結合を検出するための検出手段と、を有する標的物質検出用キットを構成することができる。抗光架橋基抗体を基体へ光照射により架橋固定化する方法は後述する。本キットにおける抗光架橋基抗体は、例えば種々の抗体に結合する糖鎖提示体として用いることができる。つまり、標的物質が抗体の糖鎖結合物質であることができる。標的物質と抗体との結合の形成を物理的あるいは化学的な手法で検出することによって標的物質の検出を行うことができる。更に、例えば、光学的な変化、電気的な変化、あるいは熱的な変化などにおける物理量の変化によって標的物質と抗光架橋基抗体との結合を検出することができる。
【0090】
なお、かかる標的物質(特に抗原)との結合性を付加した構成としては、後述する光架橋基認識複合タンパク質として利用する場合を好ましいものとして挙げることができる。
【0091】
・表面プラズモン共鳴装置および水晶発振子マイクロバランス装置
なお、光架橋基認識能を有するタンパク質への標的物質の結合は、例えば、従来既知の表面プラズモン共鳴(SPR)測定装置や水晶発振子マイクロバランス(QCM)などで定量的に測定することができる。表面プラズモン共鳴は、一般にガラス基板上に設けた金薄膜上の屈折率変化を全反射角以下でガラス側から入射させた光によりガラス/金界面で生じるエバネセント波と金薄膜上の自由電子の共鳴(表面プラズモン共鳴)によって生じる共鳴角変化から測定する方法である。測定された屈折率変化を、標的物質の結合量として換算し、評価できる。光架橋基を化学的或は物理的に金薄膜上に形成したチップを作製し評価することができる。QCMは一般的に水晶発振子上の金電極面で行われる生体分子相互作用を水晶の周波数変化を指標に定量評価が可能である。その結果、周波数変化を被対象タンパク質の金への結合量として評価できる。SPR同様光架橋基を化学的或は物理的に金薄膜上に形成したチップを作製し評価することができる。
【0092】
・解離定数(KD)
「解離定数(KD)」とは、「解離速度(kd)」値を「結合速度(ka)」値で除して求められる値である。これらの定数は、モノクローナル抗体またはそれらの断片が光架橋基に対する親和性を表す指標として用いることができる。この定数は、種々の方法に従って解析することができるが、本発明においては、測定機器であるBiacore2000(ビアコア社製)を用い、この装置に添付された解析ソフトに従って、得られた結合曲線から解析して得た。
【0093】
・光架橋基認識複合タンパク質
本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質は、2以上のドメインから構成され、1以上のドメインが上記の構成の抗光架橋基抗体を有するものとして提供することができる。但し、全ドメインが抗光架橋基抗体を有することはなく、少なくとも1つのドメインが標的物質認識能を有する標的物質結合部位を成すドメインとして提供される。本複合タンパク質において、標的物質結合部位を成すドメインは標的物質を特異的に認識結合できればどんな構造の分子でも良い。タンパク質、糖鎖、核酸、脂質及びこれらの複合体などを用いることができる。タンパク質の場合、例えば抗体を超える親和性や抗体が認識できない分子認識などが期待される非抗体構造を有し且つ遺伝子工学的改変を施し標的物質に特異的に結合することが可能である分子、それらの断片、または誘導体も利用でき、少なくとも抗体の一部を有しているものが好ましい。かかる分子としては、アンキリン構造分子(Andreas Pluckthun et al., Nature Biotechnology Vol22, No.5, 575−582(2004))、アフィリン分子(Sci Protein社)、アフィボディー分子(Per−Ake Nygren et al., Proteins:Structure,Function, and Genetics 48, 454−462(2002)))、フィブロネクチンTypeIII 10th、リポカリン、GFP、レクチン、チオレドキシン、Omp(アウターメンブレンタンパク質)分子などを挙げることができる。また、それらの断片、または誘導体があり、少なくとも抗体の一部を有しているものも挙げることができる。
複合タンパク質には以下の構成のものが例示できる。
(a)上記構成の抗光架橋基抗体を含む第一のドメインと、標的物質に対する結合部位を有するタンパク質を含む第二のドメインと、を有する複合タンパク質
(b)上記の第一のドメインと第二のドメインに加えて、第一のドメインと複合体を形成する第三のドメイン及び前記第二のドメインと複合体を形成する第四のドメインの少なくとも一方を更に有する複合タンパク質
【0094】
なお、第一〜第四のドメインの被結合物質への結合性は各ドメインで独立して設定することができ、これらのドメインにおいて同じ結合性を有するドメインが2以上存在してもよく、異なる結合性のドメインからこれらのドメインを構成してもよい。更に、前記第一〜第四のドメインから選択された少なくとも2種が同一ポリペプチド鎖中に含まれているものであってもよい。このような構成としては、以下の構成を含む場合を挙げることができる。
(1)第一のドメインと第二のドメインが一本のポリペプチド鎖を形成している構成
(2)第一のドメインと第二のドメインが一以上のアミノ酸を介して結合されている構成
(3)第三のドメインと第四のドメインが一本のポリペプチド鎖を形成する構成
(4)第三のドメインと第四のドメインが一以上のアミノ酸を介して結合されている構成
(5)第一のドメインと第二のドメインを含んでなる第一のポリペプチド鎖と、第三のドメインと第四のドメインを含んでなる第二のポリペプチド鎖とからなる構成
(6)第一のドメインと第二のドメインを含んでなる第一のポリペプチド鎖と、第三のドメインと第二のドメインを含んでなる第三のポリペプチド鎖とからなる構成
(7)第一のドメインと第二のドメインを含んでなる第一のポリペプチド鎖と、第一のドメインと第四のドメインを含んでなる第四のポリペプチド鎖と、からなる構成
(8)少なくとも第一のドメインと第二のドメイン、及び第三のドメインを含んでなる一つのポリペプチド鎖からなる構成
(9)少なくとも第一のドメインと第二のドメイン、第四のドメインを含んでなる一つのポリペプチド鎖からなる構成
(10)第一〜第四のドメインを含んでなる一つのポリペプチド鎖からなる構成
【0095】
光架橋基認識複合タンパク質の構成要素としてのタンパク質は、少なくとも二以上のアミノ酸が結合して形成されるポリペプチド鎖を少なくとも一以上含んでなり、それらポリペプチド鎖が特定の立体構造を形成するように折り畳まれている構造を有する分子をいう。このタンパク質は、この構造により、固有の機能(変換、分子認識等)を発揮できるものとなっている。また、本発明の光架橋基認識複合タンパク質は、上述のとおり、少なくとも光架橋基に対する結合部位を一以上有し、更に標的物質との結合部位を少なくとも一以上有する、多価または多重特異性の結合性を示す複合タンパク質である。好ましい構成では、光架橋基に対する結合部位を有する第一のドメインは、少なくとも抗体軽鎖可変領域(VL)または重鎖可変領域(VH)の一部を含み、標的物質に対する結合部位を有する第二のドメインは、少なくともVHまたはVLの一部を含む。以下、光架橋基に結合するVH、VLをVH(P)、VL(P)、標的物質に結合するVH、VLをVH(T)、VL(T)とする。
抗体重鎖可変領域(VH)、抗体軽鎖可変領域(VL)は、前述したように抗体重鎖及び抗体軽鎖が有する可変領域である。抗体重鎖可変領域(VH)、抗体軽鎖可変領域(VL)は、一般的には各々アミノ酸約110個からなり、筒状の構造をとり、逆平行の向きに配置されたβシート群による層状構造が形成されている。この層状構造をひとつのSS結合により結合し、非常に安定した構造体を形成している。また、可変領域(VHまたはVL)は、抗体の多様な抗原への結合を決定する相補的決定領域(complementarity determining region:CDR)と呼ばれる部分を有することが知られている。CDRは、VHまたはVLにそれぞれ3つあり、比較的に多様性の少ないアミノ酸配列であるフレームワーク領域により分離されて配置され、対象となる認識部位の官能基の空間配置を認識することにより、より高度な特異的な分子認識を可能としている。
【0096】
以下に、本発明の光架橋基認識複合タンパク質の一例について述べる。本発明の光架橋基認識複合タンパク質の最小単位は、上記第一のドメインと上記第二のドメインから構成され、図1にその模式的な図を示す。その組み合わせ例としては、VH(P)−VH(T)、VH(P)−VL(T)、VL(P)−VH(T)、VL(P)−VL(T)といった組み合わせが挙げられる。(P)で示されるタンパク質が、抗光架橋基抗体タンパク質である。この例では、光架橋基認識複合タンパク質は、第一のドメインと第二のドメインは相補的な結合部位を形成することなく、第一のドメインが光架橋基、第二のドメインが標的物質へと独立して結合するものである。第一のドメインと第二ドメインは、独立したポリペプチド鎖であっても、ドメインが連続的に結合されたポリペプチド鎖であってもよい。但し、ポリペプチド鎖が連続して結合されたポリペプチド鎖を形成することが、製造工程の簡略化及びその機能発現においてより好ましい形態である。第一のドメインと第二のドメインが連続して結合されたポリペプチド鎖の場合、第一のドメインと第二のドメインを直接連鎖してもよいし、一個以上のアミノ酸からなるリンカーを介して連鎖してもよい。アミノ酸からなるリンカーは1乃至10個のアミノ酸からなるものであることが好ましい。より好ましくは1乃至5個のアミノ酸からなるものである。リンカーのアミノ酸長が11乃至15である場合、第一のドメインと第二のドメインは配置による制限が少なく、前記ドメイン間で相補的な結合形成(scFv化)してしまう場合がある。このVH/VL間の相補的な複合体形成を抑制するために、リンカー長を短くし、ドメイン間に構造的な制約を負荷することが有効であることが知られている。一方で、標的物質との結合性において立体障害を受けないようにするためにあえてリンカー長を11以上に長く設けることも可能である。その場合、例えば重鎖抗体の抗原認識部位VHHやVH/VL界面を遺伝子工学的に改変したVHまたはVLを用いることが望ましい。第一もしくは第二のドメインのそれぞれが光架橋基もしくは標的物質に結合した場合にもたらされる構造変化の影響が互いの所望する光架橋基と標的物質に対する結合能に影響がないことが望ましい。このために、リンカーにα−ヘリックス等の二次構造を持たせたり、本来所望の結合特性に無関係なポリペプチドのドメンインを挿入することも所望の特性や生産性に著しい影響を与えない範囲において可能である。
【0097】
更に、先に述べたように、本発明の光架橋基認識複合タンパク質は、第一のドメインと複合体を形成する第三のドメイン、または/及び第二のドメインと複合体を形成する第四のドメインを含んでなる構成であっても良い。なお、これらの第三のドメイン及び第四のドメインのそれぞれは、VHまたはVLの一部を少なくとも含む構成とすることができる。第三のドメインは、第一のドメインと複合体を形成することにより、第一のドメインと相補的な光架橋基結合部位を形成していることがより望ましい。例えば、図2(a)の模式図で示すように第一のドメインがVH(P)である場合、第三のドメインは第一のドメインとFvを形成し得るVLであることが好ましい。より好ましくは第一のドメインと第三のドメインが光架橋基結合部位を連合して形成する構成である。このように第一のドメインが第三のドメインとFvを形成することにより、構造的により安定化し、構造変化による機能低下を抑制することが期待できる。さらに、第三のドメインが第一のドメインと連合して光架橋基結合部位を形成することにより、更に結合能(例えば、結合速度の向上、解離速度の抑制等)を向上することも期待される。
【0098】
更には、図2(b)に示すように第一のドメインと第三のドメインは、それぞれ独立したポリペプチド鎖として設けても、連鎖してなるポリペプチド鎖であってもよい(例えば、図2(b)の模式図に示すように第三のドメイン−第一のドメイン−第二のドメインを連結してもよい。各ドメインは光架橋基及び標的物質に対して結合能が発揮されるように適宜その構成及び各ドメイン間の結合の組み合わせを決定することができる。)。また、別の例として、図3の模式図に示すような構成も可能である。つまり、前記第一のドメインと前記第二のドメインからなるポリペプチド鎖と第三のドメインと前記第二のドメインからなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第一のドメインと第三のドメインから形成されるFvまたはFv様複合体により光架橋基と結合し、上記第二のドメインにより標的物質に対して結合するアンカーとして第一のドメインが機能するものである。
【0099】
また、本発明の光架橋基認識複合タンパク質は、第二のドメインと複合体を形成する、少なくともVHまたはVLの一部からなる第四のドメインを含んだ構成であっても良い。第四のドメインは、前記第二のドメインとともに標的物質に対する結合部位を相補的に形成することが望ましい。例えば、図4(a)の模式図に示すように、第二のドメインがVLである場合、第四のドメインは第二のドメインとFvを形成し得るVHであることが好ましい。より好ましくは第二のドメインと第四のドメインが前記標的物質に対する結合部位を連合して形成する構成である。また、図4(b)の模式図に示すように、第一のドメイン、第二のドメイン、及び第四のドメインが連鎖したポリペプチド鎖を形成してもよい。図4(b)の構成では、第一のドメインにて少なくとも表面の一部に光架橋基を有する基体と結合し、第二及び第四のドメインにて標的物質と結合するように各ドメインを選択することができる。この構成においては、特に、第一のドメインが基体との結合した際において不可逆的な構造変化をした場合においてもリンカー等を好適に設計することにより第二及び第四のドメインの標的物質との結合能への影響を最小限に抑えるようにすることが可能である。
【0100】
更に、図5の模式図に示すような構成も可能である。つまり、前記第一のドメインと前記第二のドメインからなるポリペプチド鎖と第一のドメインと前記第四のドメインからなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第二のドメインと第四のドメインから形成されるFvまたはFv様複合体により標的物質を結合し、上記両ポリペプチド鎖を光架橋基に対して結合するアンカーとして第一のドメインが機能するものである。
【0101】
また、本光架橋基認識複合タンパク質は第三及び第四のドメインをともに構成材料とすることが可能である。図6の模式図に示すように第三のドメインと第四のドメインがそれぞれ独立したポリペプチド鎖であっても、図7の模式図に示すように連鎖されてなるポリペプチド鎖であってもよい。連鎖したポリペプチド鎖の場合、第三のドメインと第四のドメインを直接連鎖してもよいし、図7のように一以上のアミノ酸からなるリンカーを介して連鎖してもよい。また、図8の模式図に示すように前記第一乃至第四のドメインが一つのポリペプチド鎖内に連鎖されたものであってもよい。この場合、第一のドメインと第三のドメインが複合体を形成し光架橋基と結合し、第二のドメインと第四のドメインが複合体を形成し標的物質に結合できるように配置できるように構成されるものである。その為に、前記リンカーをドメイン間に設けることが好ましい。例えば、第一及び第二のドメイン間、第三及び第四のドメイン間は1乃至5アミノ酸であり、第二及び第三のアミノ酸のドメイン間は15乃至25アミノ酸である。同じような構成において、第一のドメインと第二のドメイン、第三のドメインと第四のドメインをそれぞれ/双方とも入れ替えること可能である。
【0102】
これら一本鎖ポリペプチド内における各ドメインの配列は、光架橋基及び標的物質に対する結合性、及び本光架橋基認識複合タンパク質の長期安定性等、所望の特性に応じて適宜選択して決定することが可能である。
【0103】
第一のドメインとしては、例えば、配列番号:1乃至配列番号:3のセット、配列番号:4及至配列番号:6のセットのアミノ酸からなる各セットの3つのCDRsまたはこれらと機能的に同等のCDRsを有する第一のドメインが挙げられる。それぞれのアミノ酸配列は抗体のH鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。機能的に同等のCDRとは、一個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列のものであって光架橋基に対する結合性を保持できれば何ら問題はない。各CDRsは適宜各セット間で組み合わせても光架橋基に対する結合性を保持していれば何ら問題は無い。なお、上記配列を第三のドメインとして用いてもかまわない。
【0104】
第三のドメインとしては、例えば、配列番号:7及至配列番号:9のセット、配列番号:10及至配列番号:12のセットのアミノ酸からなる各セットの3つのCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを有する第三のドメインが挙げられる。それぞれのアミノ酸配列は抗体のL鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。機能的に同等のCDRとは、一個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列のものであって光架橋基に対する結合性を保持できれば何ら問題はない。各CDRは適宜各セット間で交換して組み合わせても光架橋基に対する結合性を保持していれば何ら問題は無い。なお、上記配列を第一のドメインとして用いてもかまわない。
【0105】
上記第一のドメインと第三のドメインのCDRセットまたはドメイン間で適宜交換して組み合わせて用いることができる。光架橋基に対する結合性を保持していれば何ら問題は無い。好ましくは、第一と第三のドメインの組み合わせはH鎖とL鎖由来のCDRセットの組み合わせが好ましい。
【0106】
本発明は、上記光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸をも含む。更に、宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、マウス、ヒト等由来の従来既知のタンパク発現用細胞)を形質転換に用い、上記光架橋基認識複合タンパクを発現させるための遺伝子ベクターと、上記光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸を有する構成物をも含む。
【0107】
一つの構造物(発現ベクター)により発現できる本発明に係る光架橋基認識複合タンパク質の各ドメインは、1乃至4のいずれかから選択して、設計することが可能である。ひとつの発現ベクターに本発明の光架橋基認識複合タンパク質の複数のドメインをコードする場合、それぞれのドメインが独立した個々のポリペプチド鎖として発現させることができる。また、ドメイン間を連続して結合またはアミノ酸を介して結合させた一つのポリペプチド鎖として発現する発現ベクターの構成とすることも可能である。本発明の光架橋基認識複合タンパク質発現ベクターは、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の導入遺伝子を発現させるために必要な構成等に組み込むことより、設計及び構築することができる。発現ベクターは、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の構成等を参照し、構築することができる。また、大腸菌等を宿主細胞として用いる場合、外来遺伝子産物である光架橋基認識複合タンパク質を速やかに細胞質外に除外することで、プロテアーゼによる分解を少なくすることが可能である。また、この外来遺伝子産物が菌体にとって毒性である場合でも、菌体外へ分泌することによりその影響を小さくすることができることが知られている。通常、既知の細胞質膜あるいは内膜を通過して分泌されるタンパク質の多くがその前駆体のN末端にシグナルペプチドを有し、分泌過程においてシグナルペプチダーゼにより切断され、成熟タンパク質となる。多くのシグナルペプチドはそのN末に塩基性のアミノ酸、疎水性アミノ酸、シグナルペプチダーゼによる切断部位と配置されている。
【0108】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸の5’側にシグナルペプチドで
あるpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより、これを分泌発現させることができる。また、ひとつのベクター中に光架橋基認識複合タンパク質を構成する各ドメインまたは複数のドメインから構成されるポリペプチド鎖をそれぞれ独立して複数挿入することも可能である。この場合、各ドメインまたはポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコードする核酸を配置し、これらの分泌
を促すことができる。更に、または一以上のドメインからなるポリペプチド鎖として発現させる場合、前記ポリペプチド鎖の5’末端に同様にしてpelBをコードする核酸を配
置することにより、その分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した光架橋基認識複合タンパク質、あるいはその構成用途してのドメインは、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。また、発現させたタンパク精製時の作業の簡便さを考慮して、独立した各ドメインもしくは複数のドメインが結合して形成されたポリペプチド鎖のNまたはC末端に精製用のタグを遺伝子工学的に配置することが可能である。精製用タグとしては、ヒスチジンが6残基連続したヒスチジンタグ(以下、His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼのグルタチオン結合部位などが挙げられる。タグの導入方法としては、発現ベクターにおける光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸の5’または3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市
販の精製タグ導入用ベクターを使用するなどが挙げられる。
【0109】
以下に、上記発現ベクターを用いた本発明の光架橋基認識複合タンパク質の製造方法について述べる。
【0110】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、従来既知のタンパク発現用の宿主細胞を、宿主細胞に応じて設計した上記光架橋基認識複合タンパク質発現用ベクターで形質転換することにより生産することができる。この場合、これらは、宿主細胞内のタンパク合成システムを用いて、宿主細胞内に合成される。その後、宿主細胞内外に蓄積または分泌された目的生産物を細胞内部または細胞培養上清から精製することにより得ることができる。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合、光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸の5’側にpelBに代表される従来既知
のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより細胞質外に分泌発現しやすい構成にすることができる。ひとつの発現ベクターで光架橋基認識複合タンパク質を構成する各ドメインを得るための複数のポリペプチド鎖を発現させる場合、各ポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコードする核酸を配置し、発現時に細胞質外への分泌
を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した光架橋基認識複合タンパク質は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。精製方法としては、精製タグがHisタグの場合、ニッケルキレートカラムやGSTの場合、グルタチオン固定化カラムを使用することで精製することができる。タンパク質の発現誘導以降の操作は可能な限り暗室またはイエローカーテン内で行うことが望ましい。
【0111】
また、菌体内に発現した本発明の光架橋基認識複合タンパクを不溶性顆粒で得ることも可能である。この場合、培養液から得られた菌体をフレンチプレスや超音波により破砕した細胞破砕液から前記不溶性顆粒を遠心分離することができる。得られた不溶性顆粒画分を尿素、塩酸グアニジン塩を含む従来既知の変性剤を含んだ緩衝溶液で可溶化した後に、変性条件下で前記と同様なカラム精製することができる。得られたカラム溶出画分は、リフォールディング作業により、変性剤除去と活性構造再構築を行うことができる。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。具体的には、段階透析法や希釈法などを目的のタンパクに応じて用いることが可能である。
【0112】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質の各ドメインまたは各ポリペプチド鎖は、各々を同一宿主細胞内で発現させてから複合化させることも可能であるし、別の宿主細胞を使用して発現した後に共存させて、複合体化させることも可能である。
【0113】
更に、本発明の光架橋基認識複合タンパク質をコードするベクターを用いて、細胞抽出液を用いて生体外でのタンパク質発現をすることも可能である。好適に用いられる細胞抽出液としては、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球等が挙げられる。しかしながら、上記無細胞抽出液によるタンパク合成は一般的には還元条件下で行われる。その為に、抗体断片中のジスルフィド結合を形成させるために何らかの処理を行う方がより好ましい。
【0114】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質の光架橋基に対する好ましい解離定数(KD)は、先に述べたとおり、10-4M以下であり、より好ましくは10-6M以下である。
【0115】
本発明の標的物質に対して結合能を有するこのような抗体重鎖可変領域(VH)、または抗体軽鎖可変領域(VL)を取得する方法のひとつとして以下の方法を挙げることができる。
【0116】
まず、VHまたはVL遺伝子ライブラリーを作製し、それらをタンパク質として網羅的に発現させる。次に、その遺伝子と対応させながら、標的物質に対する結合性により選択する。
【0117】
前記遺伝子ライブラリーは、たとえば、臍帯血、扁桃、骨髄、あるいは末梢血細胞や脾細胞等から得ることができる。例えば、ヒト末梢血細胞からmRNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、ヒトVH、VLをコードする配列をプローブとして、ヒトVHまたはVLのcDNAライブラリーを作製する。例えば、ヒトVHファミリー(VH1乃至7)をファミリー毎に幅広く増幅することができるプライマーやヒトVLを増幅できるプライマーは公知である。これらVH、VL毎にプライマーを組み合わせてRT−PCRを行い、VH、VLをコードした遺伝子を取得する。
【0118】
また、ファージディスプレー法を用いることも可能である。ファージディスプレー法では、まず、VH、VLまたはそれら含む複合体(例えば、Fab、scFv)をコードした遺伝子ライブラリーを、ファージ外殻タンパクをコードした遺伝子と結合し、ファージミドライブラリーを作製する。次に、それらを大腸菌に形質転換し、種々のVHまたはVLを外殻タンパクの一部として有するファージとして発現させる。それらのファージを用いて、上記同様にして標的物質に対する結合性により所望のVH、VLまたはそれら含む複合体を選択する。ファージに融合タンパクとして提示されたVHまたはVLをコードする遺伝子は、ファージ内にファージミドにコードされているのでDNAシークエンス解析をすることにより、特定することができる。もちろん、ファージディスプレー法と同等の選択方法も適用できる。
【0119】
さらに、本発明の標的物質に対して結合能を有する非抗体構造の標的物質捕捉タンパク質、例えばアンキリン、アフィリンなども上記選択方法を用いて選択することができる。更には、標的物質にて免疫した動物から目的の抗体を産出する細胞を採取し、上記と同じプライマーを使用し、VHまたはVLの塩基配列及びアミノ酸配列を特定することができる。
【0120】
また、本発明の第二のドメイン、第四のドメインは標的物質に対して既知の抗体及び抗体断片の可変領域のアミノ配列を元に設計することができる。また、標的物質に対する抗体または抗体断片が未取得の場合、これに対する抗体を取得した後にアミノ酸配列を解析することにより、前記と同様にして設計することも可能である。前記第三のドメインと前記第四のドメインが供に本発明の金結合性タンパク質を構成するドメインであってもよい。このようにして、得られたVHまたはVLの塩基配列を用いて、本発明の光架橋基認識複合タンパクを作製することが可能である。
【0121】
・光架橋基を有する被結合対象物
免疫やパニング等により光架橋基認識複合タンパク質を選択する際に用いる被結合対象物としては、先に抗光架橋基抗体の場合に例示したものが利用できる。
【0122】
・基体及び構造体
本発明に係る光架橋基認識複合タンパク質は、基体との組み合わせることで種々の用途に利用できる構造体を得ることができる。この用途に利用できる基体としては、先に抗光架橋基抗体の場合に例示したものが利用できる。
【0123】
・標的物質
本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質を、光架橋基と結合性を有するドメインと、標的物質に対して結合性を有するドメインとが含まれるように構成することで、標的物質検出用の複合タンパク質として利用することが可能となる。この検出対象としての標的物質としては、抗原抗体反応を用いた各手法によって抗原となり得る物質であれば如何なる分子も用いることが可能である。例えば、標的物質は、非生体物質と生体物質に大別される。
【0124】
本発明に用いることのできる標的物質としての非生体物質、生体物質または具体的なタンパク質の例示は、特開2005−312446号公報の段落0108〜0111に開示されているものが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0125】
・標的物質検出用キット
本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質を用いて標的物質検出用のキットを構成することができる。例えば、第二ドメイン及び必要に応じて用いられる第四ドメインに標的物質に対して特異的に結合する抗体又はその変異体を用いた光架橋基認識複合タンパク質を用いる。この光架橋基認識複合タンパク質と、光架橋基を含む表面を有する基体と、必要に応じて、基体上に光架橋基認識複合タンパク質を介して固定された標的物質を検出するための検出手段と、を含む標的物質検出用のキットを構成することができる。光架橋基を含む基体上に光架橋基認識複合タンパク質を介して固定された標的物質の検出には、例えば、前記基体が金基板であり、その基板表面に光架橋基を設けていれば、前述の表面プラズモン共鳴測定装置を用いて測定することが可能である。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。下記に示す実施例において本発明タンパク質を光照射により光架橋する工程以外は、基本的に暗室またはイエローカーテン内で操作を行うことができる。
【0127】
実施例1(免疫原のマウスへの免疫)
本発明における抗光架橋基抗体を取得するため、免疫原として4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−KHL conjugate (株式会社矢内原研究所製)を用いてマウスに6回免疫した。免疫する前の免疫原溶液の取扱いはイエローカーテン内で行った。
【0128】
一回目の免疫は次の手順で行った。まず、2mg/ml免疫原溶液0.7ml(免疫原1.4mg)にフロイント完全アジュバント(CALBIOCHEM社製 Code No.344289)0.7mlを加えて、ジョイントで連結させた注射筒内で約10分間混合しエマルジョンを作製した。次に、このエマルジョン0.2ml(0.2mg)をマウス(Balb/c、♀、7週齢)1匹の腹腔内に免疫した。合計5匹のマウスに免疫を行った。
【0129】
2〜6回目の免疫は次の手順で行った。まず、1mg/ml免疫原溶液0.7ml(免疫原0.7mg)にフロイント不完全アジュバント(DIFCO社製 Code No.263910)0.7mlを加えて、ジョイントで連結させた注射筒内で約10分間混合しエマルジョンを作製した。次に、このエマルジョン0.2ml(0.1mg)をマウス1匹の腹腔内に免疫した。4回免疫後12日目及び5回免疫後7日目に部分採血して抗血清を取得し、抗体価測定に用いた。
【0130】
実施例2(抗血清の抗体価測定)
下記(1)、(2)の異なる方法により、実施例1で部分採血したサンプルの抗体価を従来既知のELISA法により測定した。また、下記に示す操作のすべては可能な限り暗所にて行った。
(1)ヤギ抗マウスIgG(Fc)抗体固定による測定法
抗原サンプルとして、4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoyl−Arg−Arg−NHNH−biotin(株式会社矢内原研究所製)を用いた。ヤギ抗マウスIgG(Fc)抗体を固相化した96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに、以下の各成分を添加した。
(1)0.01ng/ml〜10μg/mlに希釈した抗原サンプル溶液50μl
(2)2000〜1600倍希釈した抗血清(4回及び5回免疫後部分採血抗血清)50
μl
その状態で、室温で3時間反応させた。次に、96ウェルタイタープレートを洗浄後、3000倍に希釈したSA−HRP溶液(ONCOGENE社製 Cat No.OR03L)100μlを分注し室温で2時間反応させた。更にプレートを洗浄して基質溶液(OPD;SIGMA社製 Cat No.UK−B25)100μlを分注し室温で20分間反応させた。最後に2N硫酸溶液100μlを加えて反応を停止し、OD492nmの吸収をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0131】
マウス(mouse)No.1〜5の4回免疫後部分採血した抗血清のビオチン標識体を用いた抗体価測定結果を図9中の(1−1)、(2−1)及び(3−1)、並びに図10中の(1−1)及び(2−1)に示した。また、マウスNo.1〜5の5回免疫後部分採血した抗血清のビオチン標識体を用いた抗体価測定結果を図9中の(1−2)、(2−2)及び(3−2)、並びに図10の(1−2)及び(2−2)に示した。また、4回及び5回免疫後部分採血抗血清を比較して、いずれのマウスの抗体価もほぼ同じであった。マウスNo.3が最も高い抗体価を示し、以下No.2、No.4、No.1、No.5の順で高かった。これらの図9及び図10中、−●−は×2000の場合を、−■−は×4000の場合を、−▲−は×8000の場合を、−○−は×16000の場合を示す。
【0132】
(2)抗原固定による測定法
抗原サンプルとして、4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−BSA conjugate (株式会社矢内原研究所製)を用いた。まず、0.1M NaHCO3溶液を用いて1μg/mlの抗原サンプル溶液を調製し、96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに0.1mlずつ添加し、4℃で一晩静置した。溶液を捨てブロックエース(4倍希釈液)0.3mlを分注し、4℃更に一晩静置し、プレート内の溶液を除きデシケーター内で2日間乾燥させ抗原サンプルを固相化した96ウェルマイクロタイタープレートを作製した。使用まで4℃で保存した。上記プレートのウェルに3000〜375000倍希釈した抗血清(4回及び5回免疫後部分採血抗血清)100μlを添加し、室温で3時間反応させた。次に、96ウェルタイタープレートを洗浄後、10000倍に希釈したヤギ抗マウス抗体―HRPコンジュゲート(conjugate)溶液(ICN社製 Code No.674281)100μlを分注し室温で2時間反応させた。更にプレートを洗浄して基質溶液(OPD;SIGMA社製 Cat No.UK−B25)100μlを分注し室温で20分間反応させた。最後に2N硫酸溶液100μlを加えて反応を停止し、OD492nmの吸収をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0133】
マウスNo.1〜5の4回免疫後部分採血した抗血清のBSAコンジュゲート固相化プレートを用いた抗体価測定結果を図11中の(1)に、5回免疫後部分採血した抗血清のビオチン標識体を用いた抗体価測定結果を図11中の(2)に示した。いずれのマウス抗血清もBSAコントロール(BSA control)プレートにはほとんど反応しなかった。また、4回及び5回免疫後部分採血抗血清を比較して、いずれのマウスの抗体価もほぼ同じであった。マウスNo.5が最も高い抗体価を示し、以下No.4、No.3、No.2、No.1の順で高かった。
【0134】
実施例3(ハイブリドーマの作製(細胞融合))
実施例2の部分採血抗体価測定の結果より、マウスNo.3及びNo.5をハイブリドーマ作製のサンプルとした。まず、5cmシャーレに培養液(RPMI 1640: ICN社製)5mlを加え、火炎滅菌したスチールメッシュを入れた。マウスより摘出した脾臓をメッシュ上で磨り潰し、単離脾細胞を得た。脾細胞を50ml遠心チュ−ブに移し、20mlの培養液で2回洗浄した。あらかじめ培養してあるP3U1ミエローマ細胞を20mlの培養液で2回洗浄した。それぞれの細胞数をカウントし、脾細胞とミエローマ細胞を10:1の割合で混合し、遠心した。細胞沈査にPEG溶液HYBRI−MAX(SIGMA社製)2mlを30秒間かけて加えた後、30秒間ゆっくりと混合した。培養液5mlを2分間かけて加え、さらに培養液5mlを加えた。そして、37℃で3分間インキュベートした。その後、800rpmで5分間遠心した。細胞沈査にHAT培地(invitrogen社製)をゆっくりと加え、脾臓細胞数で2〜3×105/0.2ml/wellに調整した。その後更に、96ウェル培養用プレートの各ウェルに0.2mlずつ分注した。その後、CO2インキュベーター内で10日間培養して、細胞融合を完了した。
【0135】
実施例4(スクリーニング&抗体価測定)
実施例2の(2)に記載の抗体価測定法と同様に実施例3で得たハイブリドーマに関して測定を行い、抗体価の上昇確認することでハイブリドーマのスクリーニングを完了した。2次スクリーニングまで行い抗体価の高いハイブリドーマ細胞を得た。その結果、マウスNo.3より4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−BSA conjugateを固相化したプレートに反応する抗体を産生するハイブリドーマ2株、マウスNo.5より4株の計6株を得た。得られたハイブリドーマ株6種類の名を6H11−F11F4、6C9−A5B10、6A8−1C6−1B6、1E2−2H6−1A9、4G2−1E10−1F10、3E12−1B6−1A5と定めた。
【0136】
実施例5(クローニング(二回)及び腹水の作製)
マウスの胸腺を摘出し、胸腺細胞を調製した。胸腺細胞を培養液で5×106細胞/mlに調整し、その100μlを96ウェル培養プレートの各ウェルへ入れた。実施例4の2次スクリーニングで選択したハイブリドーマ細胞をそれぞれ培養液で10細胞/mlに希釈し、その細胞希釈液100μlを上記調製した培養プレートの各ウェルへ入れた。10日間培養後各ウェルのコロニーを観察し、1コロニーのみのウェルを確認した。次に培養上清を回収し、抗体価の測定方法により陽性ウェルをO.D.値の高いものより順次選択した。クローン細胞約5×106個をあらかじめプリスタン0.5mlを腹腔内に投与したヌードマウス2匹ずつに投与し、約10日後より腹水を採取した。
【0137】
実施例6(モノクローナル抗体の精製)
実施例5で得た腹水に脱脂処理を行い、等量の硫酸アンモニウムを徐々に滴下した後、4℃で1時間放置した。懸濁液を3500rpmで30分遠心し、上清を除いた後沈査を元の腹水量のダルベッコPBS(−)(日水製薬株式会社)に溶解した。生理食塩水(5L×2)で透析し、−30℃で凍結保存した。実施例5で各種ハイブリドーマから得られたモノクローナル抗体名もハイブリドーマ株と同様の名前とし、各々の採取腹水量と抗体精製量について表1に示した。
【0138】
【表1】
【0139】
実施例7(モノクローナル抗体のアイソタイプ決定)
精製したモノクローナル抗体のアイソタイプをMouse Antibody Isotyping Kit(大日本製薬株式会社:Code No.MMT1)を用いて決定した。培養液150μlをキット添付のチューブへ入れ、30秒間静置した後、攪拌した。キット添付のスティックをチューブに入れ反応した。各抗体のアイソタイプを表1にまとめた。取得したすべてのモノクローナル抗体はIgMであり、詳細として、3E12−1B6−1A5は、IgM(λ)であり、その他抗体6H11−F11F4、6C9−A5B10,6A8−1C6−1B6、1E2−2H6−1A9、4G2−1E10−1F10はIgM(κ)であった。
【0140】
実施例8(精製モノクローナル抗体の反応性)
実施例2の(2)に記載の抗体価測定法と同様に行い抗体の反応性を評価した。実施例2における抗血清の代わりに実施例6で得た精製モノクローナル抗体6種類について濃度希釈系列を作製し、測定をした。その結果、図12〜14に示すとおり、6種類すべてのモノクローナル抗体において、BSAコントロールプレートではほとんど反応せず(○)、抗原提示BSAプレートにおいて濃度に依存して有意に反応する(●)ことが解った。
【0141】
実施例9(抗体可変部位遺伝子配列解析)
(1)Total RNAの調製
実施例4で得たハイブリドーマ細胞6種の内、3種類(1E2−2H6−1A9、6A8−1C6−1B6、6C9−A5B10)のモノクローナル抗体について遺伝子解析を行った。以下の実施例において、上記3種の産生するモノクローナル抗体を改めてPM1、PM2、PM3と命名した(同順)。PM1及びPM2を産生する2種のハイブリドーマ細胞を1種毎に回収し処理した後、それぞれについてTrizol試薬(Invitrogen社製)中において、ホモジナイズにより破砕した。以降の操作は、Trizol試薬のプロトコールに準じた条件で作業を行い、Total RNAの抽出・精製を行った。Total RNAをDNase I(タカラバイオ)で処理し、残存するDNAを分解した後、精製した。
(2)RT−PCR反応
(1)で調製したTotal RNAを鋳型にして、RT−PCR反応を行った。RT反応には、High Fidelity RNA PCR Kit(タカラバイオ)を使用して、PCRにはTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ)を使用した。RT反応に用いた各H鎖、L鎖増幅用primerは、Mouse scFv Module Recombinant Phage Antibody system(アマシャムバイオサイエンス)添付のPrimerセット(Light Primer Mix(アマシャム 27−1583−01)、Heavy Primers(アマシャム 27−1586−01))を用いた。以下に反応組成と反応条件を示す。
<RT反応液組成>
2×Bca 1st Buffer 10.0μl
25mM MgSO4 4.0μl
dNTP Mixure 1.0μl
RNase Inhibitor 0.5μl
Bca PLUS RTase 1.0μl
Oligo dT−Adaptor Primer FB 1.0μl
RNA 1.0μl
RNase Free H2O Up to 20.0μl
<RT反応条件>
65℃ 1min.
30℃ 1min.
30→65℃ 15min.(30℃→65℃を15分かけて行った)
65℃ 30min.
98℃ 5min.
5℃ 5min.
< PCR反応液組成>
10×Ex Taq Buffer 2.0μl
2.5mM dNTPs 1.6μl
Primer(注)
RT Product 1.0μl
Ex Taq(5U/μl) 0.1μl
RNase Free H2O Up to 20.0μl
(注)L鎖を増幅する場合、Light Primer Mix(アマシャムバイオサイエンス)を0.8μl、
H鎖を増幅する場合、Heavy Primer1,2(アマシャムバイオサイエンス)を各0.4μl添加した。
【0142】
<PCR反応条件>
96℃ 5min.
94℃ 30sec.→55℃ 30sec.→72℃ 1min. 30サイクル
72℃ 5min.
4℃
RT―PCR反応液を1%アガロース電気泳動によりcDNA由来の増幅をすべて確認した。
【0143】
(3)TAクローニング
RT−PCR反応により得られた各増幅産物をゲルから切り出し、MinEluteGel Extract Kit(キアゲン)を用いてプライマーを除去して精製した。精製物を、DNA Ligation Kit v2.1(タカラバイオ)を用いて、pT7 Blue−T vector(タカラバイオ)とライゲーション反応を行った。その後、ライゲーション産物を用いて大腸菌DH5α(タカラバイオ)を形質転換した。得られた白コロニーについて、ベクター上のプライマー(M13−47、RV−M(タカラバイオ))を用いてころにーPCRを行い、推定分子量の増幅産物が確認されたそれぞれ8クローンをシークエンス解析に使用した。
【0144】
(4)シークエンス解析
選択したクローンについてプラスミドDNAを調製し、M13−47およびRV−Mプライマーを使用してシークエンス解析を行った。シークエンス反応には、BigDye Terminator v1.1 CycleSequencing Kit(Applied Biosystems)を使用し、Kit添付のプロトコールに準じた条件で反応を行った。シークエンス反応物は、Sephadex G50 Fineを用いてゲルろ過精製した。精製物を用いてABI PRISM3100を用いて電気泳動を行い解析し、ハイブリドーマ2種が産生するモノクローナル抗体(PM1、PM2)の各抗体可変領域(VH、VL)の塩基配列を決定した。(PM1−VH 配列番号:13、PM1−VL 配列番号:14、PM2−VH 配列番号:15、PM2−VL 配列番号:16)
実施例10(細胞寄託)
前記PM1、PM2、PM3モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関して、特許生物寄託センターに寄託を行い、各々受託番号FERM P−20855(FERM BP−10762)、FERM P−20856(FERM BP−10763)およびFERM P−20857(FERM BP−10764)を得た。また、4G2−1E10−1F10、6H11−F11F4を産生するハイブリドーマに関して、特許生物寄託センターに寄託して、各々受託番号FERM BP−10825及びFERM BP−10826を得た。
【0145】
実施例11(精製抗体の光架橋効果評価)
実施例6で精製したモノクローナル抗体(PM1、PM2、PM3)を実施例2の(2)に記載の抗体価測定法と同様にして作製した抗原サンプルを固相化したプレートに分注する。なお、抗原サンプルは、4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−BSA conjugateである。分注後、室温で3時間反応させる。次に、96ウェルタイタープレートを洗浄後、UVクロスリンカー CL−1000L(フナコシ)で上記プレートに365nm波長の光を20mW/cm2程度照射する。その後、洗浄と光照射を4回繰り返し行う。更に、各工程のプレートに、それぞれ10000倍に希釈したヤギ抗マウス抗体―HRPコンジュゲート溶液(ICN社製 Code No.674281)100μlを分注する。分注後、室温で2時間反応させる。更にプレートを洗浄して基質溶液(OPD;SIGMA社製 Cat No.UK−B25)100μlを分注し、室温で20分間反応させる。最後に2N硫酸溶液100μlを加えて反応を停止し、OD492nmの吸収をマイクロプレートリーダーで測定する。対照実験として光照射をせず同数洗浄したプレートを用意する。結果として、MP1〜3のすべてのモノクローナル抗体において、光照射したプレートはほぼ100%抗体が保持されているのに対して光照射しない対照プレートでは洗浄により脱落していく様子が見える(図15)。
【0146】
実施例12(光架橋基およびHEL認識複合タンパク質の取得)
(1)抗光架橋基抗体可変領域VHコード核酸断片の調製
抗光架橋基抗体可変領域VH(PM2−VH 配列番号:15)の5末端側に制限酵素NcoI切断部位、3’末端側に制限酵素NheIを配置したベクター導入用の抗光架橋
基抗体可変領域VH(以下、VHp)を作製する。そのために、プライマーとして、以下のものを用意する。
PM2−VH−F(配列番号:17):
5’−NNNNNCCATGGCCCAGGTGCAGCTGCAGGAGCTGGG−3’
PM2−VH−B(配列番号:18):
5’−NNNNNGCTAGCTGAGGAGACGGTGACCGTGG−3’
【0147】
上記のプライマーセットを用いて市販のPCRキットを当業者の推奨する調合にてPCRを行い、約350bpの塩基対を得る。上記VHB−Fを使用し、市販のシークエンス反応キットと反応液組成によりBigDye−PCR反応を行った。温度サイクルは96℃×3min→(94℃×1min→50℃×1min→68℃×4min)×30cycle→4℃とする目的のVHをコードする塩基配列を有する断片が得られたことを確認する。
(2)抗光架橋基抗体可変領域VLコード核酸断片の調製
抗光架橋基抗体可変領域VL(PM2−VL 配列番号:16)の5末端側に制限酵素NheI部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸、3’末端側にHis×6の
上流に制限酵素SacIIを配置したベクター挿入用の抗光架橋基抗体可変領域VL(以下、VLp)を作製する。そのために、プライマーとして以下のものを用意する。
PM2−VL−F(配列番号:19):
5’−NNNNNGCTAGCGGTGGCGGTGGCTCTGATATCGTCCTGACCCAGAGC−3’
PM2−VL−B(配列番号:20):
5’−NNNNNCCGCGGATTTCAGCTCCAGCTTGGTCC−3’
【0148】
これらのプライマーを使用する以外は、(1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVLの塩基配列を有することを確認できる。
【0149】
実施例13(発現ベクター作製)
上記2種の核酸断片用いてを2つの発現ベクターを以下の構成で構築する。
(1)VHp−VLh発現用ベクター(pPHEL)の作製
(i)VHpの挿入
特開2005−312446号公報に開示されているベクターpGHEL(金結合性VH−HyHEL10認識VL)を、制限酵素NcoI/NheI(ともにNew England Biolabs社)で切断する。得られた断片混合物を、スピンカラム400HR(アマシャムバイオサイエンス)で処理する。次に、同様に実施例12で増幅したPCR産物(VHp)を制限酵素NcoI/NheIにて切断する。得られた切断断片を、市販のゲル精製キット(SV Gel and PCR Clean−up system: Promega社)を使用して精製する。上記二つの断片を、市販のT4リガーゼキット(Roche社)を業者推奨の方法にて調合しライゲーションを行う。ライゲーション溶液をJM109コンピテントセル(Promega社)40μLにヒートショック法により形質転換する。その後、LB/アンピシリン(amp.)プレートに撒き、37℃にて一晩静置する。次に、プレート中から任意のコロニーをLB/amp. 3mL液体培地に植え継ぎ、37℃にて一晩振盪培養を行う。その後、市販のMiniPrepsキット(Plus Minipreps DNA Purification System:Promega社)を使用して、プラスミドを回収する。得られたプラスミドを、MP1−VH−Fと−Bを使用して前記シークエンス方法にて塩基配列を確認したところ、目的の断片が挿入されていることを確認することができ、結果として抗光架橋基抗体可変領域VH−HyHEL10認識VLコンストラクトが得られる。
【0150】
(2)VHh−VLp 発現用ベクター(pHPHOTO)の作製
(ii)VLpの挿入
特開2005−312446号公報に開示されているベクターpHGOLD(HyHEL10認識性VH−金結合VL)を、制限酵素NheI/SacII(ともにNew England Biolabs社)で切断する。得られた断片混合物を、スピンカラム400HR(アマシャムバイオサイエンス)で処理する。次に、同様に実施例12で増幅したPCR産物(VLp)を制限酵素NheI/SacIIにて切断する。得られた切断断片を市販のゲル精製キット(SV Gel and PCR Clean−up system: Promega社)を使用して精製する。上記二つの断片を、市販のT4リガーゼキット(Roche社)を業者推奨の方法にて調合しライゲーションを行う。ライゲーション後、前記のように形質転換を行う。得られたプラスミドが目的のVHh−VLp発現用ベクターpHPHOTOであることを(1)と同様にして確認する。(確認用プライマーは、MP1−VL−F、−B)
実施例14(タンパク発現及び精製)
上記実施例13の(i)で得られたVHp−VLh、及び実施例13の(ii)で得られたVHh−VLpのポリペプチドを発現する発現ベクターを用いて、個別の系において以下に記すタンパク発現及び精製工程を行う。そうして、それぞれポリペプチド鎖VHp−VLh及びVHh−VLpとして取得する。下記に示すリフォールディング完了以降は暗所またはイエローカーテン内で操作を行う。
1)形質転換
上記2つの発現ベクターを用いて、それぞれ異なる大腸菌BL21株を形質転換する(BL21(DE3)コンピテントセル溶液40μL)。形質転換は、ヒートショック(氷中→42℃×90sec→氷中)でおこなう。ヒートショックにより形質転換した上記BL21溶液にLB培地750μLを加え、一時間37℃にて振盪培養を行った。その後、6000rpm×5分間遠心を行い、培養上清650μLを廃棄し、残った培養上清と沈殿となった細胞画分を攪拌し、LB/amp.プレートに撒き、一晩37℃にて静置する。
2)予備培養
プレート上のコロニーを無作為に選択し、3.0mL LB/amp.培地にて28℃にて一晩振盪培養を行う。
3)本培養
上記予備培養溶液を2×YT培地 750MLに植え継ぎ、更に培養を28℃にて継続した。OD600が0.8を越えた時点で、終濃度が1mMとなるようにIPTGを加え、更に28℃にて終夜培養を行う。
4)精製
目的のポリペプチド鎖を不溶性顆粒画分から以下の工程により精製する。
(i)不溶性顆粒の回収
上記3)で得られた培養液を6000rpm×30minにて遠心し、沈殿を菌体画分として得る。得られた菌体をトリス溶液(20mM トリス/500mM NaCl)15mlに氷中にて懸濁する。得られた懸濁液をフレンチプレスにて破砕し、菌破砕液を得る。次に、菌破砕液を12,000rpm×15minで遠心を行い、上清を除き、沈殿を不溶性顆粒画分として得る。
(ii)不溶性顆粒画分の可溶化
上記(i)で得られた不溶性画分を6M 塩酸グアニジン/トリス溶液10mLを加えて、一晩浸漬する。次に、12,000rpm×10minで遠心し、上清を可溶化溶液として得る。
(iii)金属キレートカラム
金属キレートカラム担体として、His−Bind(Novagen社製)を用いる。カラム調製やサンプル負荷、及び洗浄工程は、前記業者の推奨方法に準拠し、室温(20℃)にて行う。目的であるHisタグ融合のポリペプチドの溶出は60mMイミダゾール/Tris溶液にて行う。溶出液のSDS−PAGE(アクリルアミド15%)の結果、単一バンドであり、精製されていることを確認する。
(iv)透析
上記溶出液に対して、外液を6M塩酸グアニンジン/Tris溶液として4℃にて透析を行い、溶出液中のイミダゾールの除去を行い、上記それぞれのポリペプチド鎖溶液を得る。
(v)リフォールディング
上記と同様にして、VHp−VLh及びVHh−VLpのそれぞれのポリペプチド鎖溶液を以下の工程により別個に、脱塩酸グアニンジンを透析(4℃)にて行いながらタンパク質のリフォールディングを行う。
(a)6M塩酸グアニジン/Tris溶液を用い、それぞれのポリペプチド鎖のモル吸光係数とΔO.D.(280nm−320nm)値から濃度7.5μMのサンプル(希釈後体積10ml)を調製する。次にβ−メルカプトエタノール(還元剤)を終濃度375μM(タンパク濃度50倍)になるよう添加、室温、暗所で4時間還元を行う。このサンプル溶液を透析バック(MWCO:14,000)に入れ、透析用サンプルとする。
(b)透析外液を6M塩酸グアニンジン/トリス溶液として、透析サンプルを浸漬し、緩やかに攪拌しながら6時間透析する。
(c)外液の塩酸グアニジン濃度を3M、2Mと段階的に下げる。それぞれの外液濃度において、6時間透析する。
(d)酸化型グルタチオン(GSSG)を終濃度375μM、L−Argを終濃度0.4M)となるようにトリス溶液に加え、上記(c)の2Mの透析外液を加え、塩酸グアニジン濃度が1Mとし、pHをNaOHで、pH8.0(4℃)に調製した溶液にて、12時間緩やかに攪拌しながら透析する。
(e)上記(d)と同様の作業にて塩酸グアニジン濃度0.5Mの含L−Argトリス溶液を整し、更に12時間透析する。
(f)最後にトリス溶液にて12時間透析する。
(g)透析終了後、10000rpmで約20分遠心分離し凝集体と上清を分離する。
(vi)2量化画分の精製
上記(v)で得られた個々の5μMポリペプチド(VHp−VLh、VHh−VLp)溶液を混合し、4℃にて一晩する。次に、セファデックス75カラム(カラム:バッファー 20mM トリス、500mM NaCl、流速 1ml/min)にて二量体化した60kDa相当(インジェクションから約18分)のフラクションを得る。これを相互作用測定用サンプルとする。
【0151】
実施例15(QCM金基板への光架橋基およびHEL認識複合タンパク質の光架橋固定)
水晶発振子マイクロバランス(QCM)により、本複合タンパク質の固定能と標的物質としてのHELの結合能を評価できる。QCM装置として、AFFINIXQ(イニシアム社製)を用いる。
i)基板の前処理
まず、QCM発振子(イニシアム社製)の金電極上をピランハ溶液(過酸化水素水:濃硫酸=1:3)で5分間×2回洗浄し、蒸留水で再度洗浄し、1mMジチオジプロピオン酸エタノール溶液に発振子を浸す。蒸留水で洗浄後、100mg/mlEDC(1−3−(Dimethylaminopropyl)−3−ethylcarbodiimide hydrochloride)水溶液および100mg/mlNHS(N−Hydroxysuccinimide)水溶液を等量混合する。発振子表面に得られた混合液の100μlをキャストし20分放置する。そして、1mMHEPESバッファー(pH8.5)で発振子を洗浄後、0.15mg/mlストレプトアビジン水溶液を発振子表面にキャストし、1時間以上放置する。更にバッファーで洗浄後、1Mエタノールアミン水溶液100μlを発振子表面にキャストし20分放置し、最終的に結合評価に使用するバッファーPBS(pH7.4)に置換する。
【0152】
ii)光架橋基およびHEL認識複合タンパク質の固定
上記前処理をした発振子表面に4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoyl−Arg−Arg−NHNH−biotin溶液(1mg/ml)100μlをキャストし1時間以上放置する。バッファーで洗浄後、実施例14で作製した光架橋基およびHEL認識複合タンパク質を100μlキャストし、UVクロスリンカー CL−1000L(フナコシ)で365nm波長の光を20mW/cm2程度照射する。AFFINIXQに上記発振子を接続し、PBSバッファーが入っているガラスセルに浸し、振動数を安定化させる。光照射により複合タンパク質は架橋固定するので振動数の変化がほとんどないことが確認できる。
【0153】
また、もう一つの固定方法として、上記i)のEDC/NHS処理した発振子に4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid BSA conjugate溶液(1mg/ml)100μlをキャストし1時間以上放置する。バッファーで洗浄後、実施例14で作製した光架橋基およびHEL認識複合タンパク質を100μlキャストし、UVクロスリンカー CL−1000L(フナコシ)で365nm波長の光を20mW/cm2程度照射する。AFFINIXQに上記発振子を接続し、PBSバッファーが入っているガラスセルに浸し、振動数を安定化させる。光照射により複合タンパク質は架橋固定するので振動数の変化がほとんどないことが確認できる。
【0154】
実施例16(QCMによるHEL結合評価)
前記ガラスセルに最終濃度が50nM、200nM、500nMになるようにHEL溶液を添加し、10分後の各々周波数の変化を測定し、回帰線から反応速度定数を算出する。その結果、両固定法ともHELの結合力が十分に保持されていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明によれば、光架橋基に対する結合部位を一以上有し、且つ標的物質に対する結合部位を有する光架橋基認識複合タンパク質、及び前記光架橋基認識複合タンパク質を固定化した基体を含む構造体を提供することができる。本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質を基体に固定化した構造体では、基体表面に設けた光架橋基を特異的に認識する結合部位で結合し、更に光照射により共有結合的に固定化されている。その為、前記タンパク質が有する標的物質結合部位が基体に固定化されることもなく、また一度固定化されたタンパク質は基体から解離することもない。更に光架橋基認識部位の構造部により基体から間隔を確保して均質的に再現良く配向される。それにより、標的物質結合部位が基板からの結合能に対する影響を最小限に抑え、効率的かつ高配向に基板表面上に固定されたものとなる。つまり、本発明は、生体物質などの有機物を基体表面に固定化して、該有機物の有する種々の生理的機能を利用する、バイオセンサーやバイオリアクターを初めとする、各種の生体物質の機能を応用する製品の高性能化に利用可能であることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図5】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図7】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図8】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図9】実施例2で得られた結果を示す図である。
【図10】実施例2で得られた結果を示す図である。
【図11】実施例2で得られた結果を示す図である。
【図12】実施例8で得られた結果を示す図である。
【図13】実施例8で得られた結果を示す図である。
【図14】実施例8で得られた結果を示す図である。
【図15】実施例11で得られた結果を示す図である。
【図16】本発明にかかる構造体を適用し得るバイオセンサーの一例の構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0157】
1 第一のドメイン
2 第二のドメイン
3 第三のドメイン
4 第四のドメイン
5 リンカー
6 リンカー
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質、該タンパク質を基体に固定させる方法、タンパク質と基体とを有する構造体、該構造体を有するバイオセンサー、前記タンパク質をコードする核酸、該核酸を含むベクター、前記基体とタンパク質とを有する標的物質検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、タンパク質に代表される生体分子は、その機能を発揮する為に原子レベルで制御された精密な構造を構築することが知られており、そのような生体分子の特性を利用し、生体分子を種々の材料上に配することが検討されている。利用分野としては、主にバイオセンサーや生体分子の精製プロセスがあり、近年では、半導体プロセスでのナノスケール構造形成などへの生体分子利用などが更に挙げられる。例えば、特許文献1(特開2005−312446号公報)は、金と目的物質(標的物質)との結合に利用し得る、金と特異的に結合可能な金結合性のタンパク質を開示している。当該特許文献に開示されたタンパク質は金に対して結合性を有する抗体の少なくとも一部を含んでいるタンパク質である。このタンパク質は抗体構造を足場とし、抗体の抗原認識能力を活かして直接的に金を認識するタンパク質である。特許文献1では、金基体を用いたバイオセンサーへの用途が想定されている。また、特許文献1におけるタンパク質の固定は、金認識能を利用した分子認識による固定であるので、固定されたタンパク質に配向性が付与され、タンパク質を同質的に固定することでバイオセンサーの性能向上が見込まれる。
【0003】
しかし、特許文献1では、金基体へのタンパク質固定に、抗原−抗体反応に見られる分子認識を利用しているため、タンパク質は非共有結合的に固定されており、少なからず固定したタンパク質の解離が生じる恐れがある。その結果、バイオセンサーに用いる場合、速度論的な解析が必要となる。また、このタンパク質をバイオセンサーに用いる場合、金基体を用いたものに限られるために、金基体への非特異吸着防止技術の工夫が更に必要となる。
【0004】
一方、タンパク質を基体へ固定する方法として、従来、タンパク質の物理的吸着や化学架橋を利用した固定方法が検討されている。また、種々の標的物質を検出するバイオセンサーを製造する場合、固定するタンパク質の数(分子の個数)は、通常検出したい標的物質数以上必要になるため、同一の固定方法で効率よく必要数のタンパク質を固定できる手法が求められている。しかし、本来、固定するタンパク質は化学的に種々雑多で、官能基の種類や量も異なる上に、官能基のタンパク質表面での存在位置も異なる。結果として、同一の固定方法で基体に複数のタンパク質を同質的に固定することは非常に困難な場合が多かった。
【0005】
一方、非特許文献1(Langmuir (2002) 18, 2463−2467)では、光架橋基を介して共有結合的にタンパク質を基体へ固定する技術を開示している。ここでは光架橋基を有する非特異吸着防止ポリマーを利用しているのでタンパク質の種類による官能基の違いはほぼ無視することができ、従来の固定方法に比べて、より同質的に固定することができる。しかしながら非特許文献1で示唆されるのは、あくまでタンパク質の種類による固定量の変化を抑えられることに止まり、非特許文献1では、バイオセンサーに求められるタンパク質の同質的な配向性を有した固定には何ら言及されていない。
【0006】
また、固定するタンパク質の末端や特定のサイトに特定の配列、例えばHis TagやCysteine残基を導入し、タンパク質を修飾してより配向性を持たせて固定する方法も広く知られている。しかし、このようなタンパク質の修飾は、ある種のタンパク質で微生物などでの生産性に悪影響をもたらしたり、導入残基が低分子量のため基体表面からの影響によりタンパク質の標的物質捕捉活性が低下する恐れがある。
【特許文献1】特開2005−312446号公報
【非特許文献1】Langmuir (2002) 18, 2463−2467
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1のタンパク質は、金基体に分子認識反応により固定されるので、非常に均質的で配向性に優れた固定状態を得ることができる。しかしながら、分子認識反応のみを利用して固定するため、得られた構造体上では非共有結合的であり、ある確率でタンパク質が基体から解離する恐れがある。つまり、特許文献1は均質的ではあるが、共有結合によるタンパク質の固定方法を開示するものではない。また、特許文献1は金基体以外への分子認識反応を利用した固定法を開示するものでもない。
【0008】
一方、非特許文献1は、光架橋基を介してタンパク質を共有結合的に固定することを開示している。非特許文献1の方法によれば、種々タンパク質の官能基などの違いを実質無視することができるため、タンパク質をある程度均質的に基体に固定できる。しかしながら、非特許文献1には、タンパク質に配向性を持たせる固定方法の開示はない。
【0009】
一方、バイオセンサーや診断デバイスなど各種の機器の商業レベルでの製造プロセスやコスト、性能を考えると、捕捉タンパク質のより少量使用で目的とする感度等の機能が得られることが望まれる。更に、これらの機器の製造プロセス数の低減や製造時間の短縮が求められる。つまり、いかにより少量のタンパク質を用いて、基体上での標的物質との結合活性が高いタンパク質を、効率よく短時間に基材へ固定できるか、が重要である。また、このようなタンパク質の固定化技術を用いて、捕捉タンパク質をバイオセンサーや診断薬・診断デバイスに搭載し、医療機器として商品化を行う際には、再現性や精度の点から、より緻密にタンパク質を配向させて基体に固定化することが重要になる。更に、タンパク質の生産性はデバイスのコスト低減に寄与するため、捕捉タンパク質を微生物等で大量に生産できることが望まれる。
【0010】
本発明の目的は、上記の捕捉タンパク質とタンパク質固定化技術の両方に対する要求を満たすための技術を提供する可能性を広げることにある。本発明の他の目的は、遺伝子工学を利用して微生物により安定的に製造可能であり、かつ基体へ配向性良く共有結合的に固定化が可能である、すなわち光照射により基体表面に架橋結合可能なタンパク質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記一般式I(R1は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基を
表し、R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基を表す。)で表される反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなることを特徴とするタンパク質である。
【化1】
本発明のタンパク質は、前記光架橋基のみを認識する抗体からなっていてもよいし、前記光架橋基とその他の部分とをあわせて認識する抗体からなっていてもよい。
前記抗体としては、受託番号FERM BP−10762、FERM BP−10763またはFERM BP−10764、FERM BP−10825またはFERM BP−10826として寄託されたハイブリドーマにより産生されるものが挙げられる。
また、前記抗体としては、以下の(a)から(d)のいずれかのアミノ酸配列の組み合わせからなる相補性決定領域の組み合わせまたはこれと機能的に同等の相補性決定領域の組み合わせを有するものが挙げられる。
(a)配列番号:1、2および3のアミノ酸配列の組み合わせ
(b)配列番号:4、5および6のアミノ酸配列の組み合わせ
(c)配列番号:7、8および9のアミノ酸配列の組み合わせ
(d)配列番号:10、11および12のアミノ酸配列の組み合わせ
また、前記抗体としては、キメラ抗体、相補性決定領域移植抗体、一本鎖抗体、またはこれらの抗体断片からなる群より選択されるものが挙げられる。
【0012】
また、本発明の標的物質と結合し得るタンパク質は、反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を認識する第1の領域の少なくとも一つと、標的物質を認識する第2の領域の少なくとも1つと、
を有し、前記第1の領域が、前述したタンパク質のいずれかまたはその一部からなり、前記第2の領域が認識する標的物質が、前述した反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基と異なることを特徴とするタンパク質である。
【0013】
また、本発明は、タンパク質の架橋基認識能と架橋反応を利用して該タンパク質を基体に固定する方法であって、
1)基体表面に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を設ける工程と、
2)前述したタンパク質のいずれかを、前記基体表面の架橋基に、該タンパク質の該架橋基認識能を利用して反応させて、該タンパク質を該基体に固定する工程と、
3)前記反応後、あるいは同時に光を照射し、前記光架橋基を利用した光架橋反応により、前記基体と前記タンパク質との間に架橋構造を形成する工程と、
を有することを特徴とするタンパク質の固定方法である。
【0014】
また、本発明は、基体とタンパク質を有する構造体であって、
前記基体が表面の少なくとも一部に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体を有し、前記タンパク質が前述したタンパク質のいずれかであることを特徴とする構造体である。
【0015】
また、本発明は、上記構造体を有するバイオセンサーである。
【0016】
また、本発明は、前述したタンパク質のいずれかをコードする核酸である。
【0017】
また、本発明は、上記核酸を含むベクターである。
【0018】
本発明のキットは、標的物質を検出するための検出用キットであって、上記の構造体を形成するための基体と、タンパク質と、を有することを特徴とする標的物質検出用キットである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所望の機能を有するタンパク質を基体に固定するための技術を提供することができる。また、本発明は、タンパク質を基体に固定した構造体のバイオセンサーや生体分子の精製プロセスなどの種々の分野への利用に寄与するものである。また、本発明にかかるタンパク質は、遺伝子工学を利用して微生物を用いることでも安定して製造可能である。また、本発明のタンパク質は、基体に配向性良く共有結合による固定化が可能である。また、本発明は、光照射により基体表面へ架橋結合可能なタンパク質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のタンパク質は、少なくとも反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を認識する抗体からなる。本発明のタンパク質は、反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基のみを認識するタンパク質であってもよいし、光架橋基とその他の部分とをあわせて認識する抗体からなっていてもよい。後者の例としては、光架橋基とその近傍を認識するものを挙げることができる。前者は、「反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基のみを認識する抗体からなるタンパク質」、すなわち光架橋基そのものを認識する抗体からなるタンパク質である。後者は「反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなるタンパク質」であって、光架橋基以外の部分もあわせて認識する抗体からなるタンパク質である。
【0021】
この光架橋基を認識する抗体を、所望の機能を有するタンパク質の少なくとも一部として用い、この光架橋基を基体表面に設けておくことで、分子認識を利用したこのタンパク質の基体表面への良好な固定状態を得ることが可能となる。また、光照射により、タンパク質を良好な固定状態で共有結合的に固定することが可能となる。
【0022】
この光架橋基を認識する抗体として、以下の独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央6)に、ブタペスト条約下で国際寄託されているハイブリドーマにより産生されるものが好適に利用可能である。
・Mouse−Mouse hybridoma 1E2−2H6−1A9
国際寄託番号:FERM BP−10762(FERM P−20855(受託日:平成18年3月29日)から平成19年1月19日に国際寄託へ移管)。
・Mouse−Mouse hybridoma 6A8−1C6−1B6
国際寄託番号:FERM BP−10763(FERM P−20856(受託日:平成18年3月29日)から平成19年1月19日に国際寄託へ移管)。
・Mouse−Mouse hybridoma 6C9−A5B10
国際寄託番号:FERM BP−10764(FERM P−20857(受託日:平成18年3月29日)から平成19年1月19日に国際寄託へ移管)
・Mouse−Mouse hybridoma 4G2−1E10−1F10
国際寄託番号:FERM BP−10825(受託日:平成19年5月10日)
・Mouse−Mouse hybridoma 6H11−F11F4
国際寄託番号:FERM BP−10826(受託日:平成19年5月10日)
また、この抗体としては、以下の(a)から(d)のいずれかのアミノ酸配列の組み合わせからなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有する抗体を挙げることができる。
(a)配列番号:1、2、および3のアミノ酸配列の組み合わせ
(b)配列番号:4、5、および6のアミノ酸配列の組み合わせ
(c)配列番号:7、8、および9のアミノ酸配列の組み合わせ
(d)配列番号:10、11および12のアミノ酸配列の組み合わせ
【0023】
なお、上記の「機能的に同等の相補性決定領域」とは、アミノ酸の欠失、置換または挿入によりアミノ酸配列の変更がなされた場合においても、上記の光架橋基認識能を維持しているものをいう。例えば、光架橋基認識能が維持されている範囲内で、1〜数個のアミノ酸の欠失、置換または挿入による配列変更を上記のアミノ酸配列に行ったものを挙げることができる。
【0024】
上記の抗体は、キメラ抗体、相補性決定領域移植抗体、一本鎖抗体、またはこれらの抗体断片からなる群より選択されるいずれかの形態を有することができる。
【0025】
上記の抗体を利用して標的物質と結合し得るタンパク質を得ることができる。すなわち、かかるタンパク質は、以下の構成を有する。
(1)反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を認識する第1の領域の少なくとも一つ
(2)前記第1の領域と異なる物質を認識する第2の領域の少なくとも1つ
(3)前記第1の領域が、上記抗体からなるタンパク質またはその一部からなる
【0026】
なお、上記の第2の領域において認識される標的物質は、上記の構造体の用途に応じたタンパク質における所望の機能に応じて標的となる物質であり、例えば、バイオセンサーにおいては検出対象としての物質であり、分離プロセスにおける分離対象物質である。また、上記の第2の領域を2以上設け、各領域で異なる標的物質の2以上を認識できるようにすることも可能である。
【0027】
更に、上記の少なくとも光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質または標的物質と結合し得るタンパク質の光架橋基認識能と、架橋反応と、を利用して、タンパク質を基体に固定する方法を提供することができる。かかる固定方法は、以下の工程を有する。
【0028】
1)基体表面に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体を設ける工程
2)反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなるタンパク質を、前記基体表面の架橋基に、該タンパク質の該架橋基認識能を利用して反応させて、該タンパク質を該基体に固定する工程
3)前記反応後、あるいは同時に光を照射し、前記光架橋基を利用した光架橋反応により、前記基体と前記タンパク質との間に架橋構造を形成する工程
【0029】
上記の少なくとも光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質または標的物質と結合し得るタンパク質を基体に固定することで、バイオセンサーや生体分子の精製プロセスなど種々の分野においての利用が期待できる構造体を得ることができる。
【0030】
また、この構造体を構成するタンパク質として、バイオセンサーとしての機能を有する酵素や検出対象捕捉用のタンパク質を用いることで、この構造体をバイオセンサーのセンサー部として利用可能となる。更に、この構造体を形成するためのタンパク質と基体とを少なくとも用いて検出対象としての標的物質を検出するためのキットを構成することができる。
【0031】
一方、上記の少なくとも光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質または標的物質と結合し得るタンパク質をコードする核酸をベクターに組み込んで、微生物などの宿主細胞で発現させることで、これらのタンパク質の安定生産が可能となる。
【0032】
本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質は光架橋基結合部位と前記部位を形成する免疫グロブリンドメイン構造部を有する。その結果、この構造部に連鎖して結合する標的物質結合部位を基体表面に固定化する際に、標的物質結合部位にはその本来の機能に対する固定化の影響は及ばないか、極めて少なくなる。そして、標的物質結合部位と基体との距離が、構造部の存在により保たれているため標的物質結合部位がその機能に影響を及ぼすような基体からの相互作用を受けることもない。その結果、高い標的物質捕捉能を有することが可能になる。なお、この光架橋基認識能を有するタンパク質とは、前記光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質と前記標的物質と結合し得るタンパク質とを含む概念で用いられる。
【0033】
本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質をバイオセンサーに用いる場合、原理的には、検出方法は限定されない。どんな検出法でも利用可能である。つまり、前記構造体が光架橋基を利用した固定状態が維持可能な方法であれば特に限定されない。すなわち、本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質は、基体表面に光照射により架橋固定することができ、バイオセンサーに用いた場合、共有結合的に固定され、且つ、非常に安定に均質的に配向することができ、バイオセンサーの精度向上につながる。なお、光架橋基認識能を有するタンパク質は構造体上の光架橋基を認識するため、自動的に該タンパク質の光架橋基結合部位が光架橋基の方向を向くことになる。その結果、標的物質結合部位が構造体と反対方向に提示されることになり、配向性が担保されることとなる。
【0034】
本発明にかかる構造体を適用し得るバイオセンサーの一例の構造を図16に示す。このバイオセンサーの基体上には、まず、非特異吸着防止効果を有するタンパク質などからなる非特異防止層が設けられている。この非特異防止層の表面に配置された光架橋基を利用して標的物質を捕捉する機能を有する光架橋基認識複合体タンパク質が固定されている。この光架橋基認識複合体タンパク質への標的物質の捕捉の有無により、標的物質のセンシングを行う。
【0035】
更に、本発明の光架橋基認識能を有するタンパク質の内の、標的物質認識能を更に有する、すなわち標的物質との特異的結合性を併せ持つタンパク質(以下、光架橋基認識複合タンパク質という)を用いることで少なくとも以下の(i)乃至(iii)の要素からなる多層体を形成することができる。
(i)表面の少なくとも一部に光架橋基を有する基板
(ii)本発明の光架橋基認識複合タンパク質
(iii)本発明の光架橋基認識複合タンパク質が結合できる標的物質
【0036】
なお、光架橋基認識複合タンパク質として2以上の異なる標的物質を認識するものを用いることもできる。この際、光架橋基認識複合タンパク質は光架橋基認識部位として少なくとも立体的にも安定したβシート構造であるイムノグロブリン構造体を有することができ、その結果、基体と標的物質との結合部位の間に所定の距離をおいたこれらの空間位置を保つことが可能となる。すなわち、光架橋基認識複合タンパク質の標的物質結合部位が、光架橋基を含む基板から何らかの相互作用を受けることがなく、結合能を保持することができる。また、これにより極めて薄膜で緻密に配向した多層構造体を形成することが可能である。この光架橋基認識複合タンパク質によるこれらの特性を利用して、検出装置を構成することができる。例えば、金薄膜上に光架橋基を少なくとも有する分子層を設け、更に所望の1以上の標的物質と結合可能な光架橋基認識複合タンパク質を設けることで、所望とする標的物質のセンシング素子とすることができる。その場合、光架橋基認識複合タンパク質に捕捉された標的物質の検出方法としては、光学的な手段、例えば表面プラズモン共鳴などを利用した手段を利用することができる。
【0037】
本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質を用いた基体への固定では、光照射量、照射タイミングなどを変更することで、短時間にその固定量を所望量に制御することができる。そのため、バイオセンサーの製造プロセスの短縮、タンパク質使用量の低減など商業レベルでのメリットが見込まれる。
【0038】
以下、本発明にかかる光架橋基認識能を有するタンパク質、それを用いた構造体および標的物質の検出用途などについて更に詳細に説明する。
(1)光架橋基認識能を有するタンパク質
・光架橋基
本発明の光架橋基認識能を有するタンパク質は、少なくとも光架橋基を認識する抗光架橋基抗体からなるものである。なお、該抗光架橋基抗体は、前記光架橋基を認識する抗体からなるタンパク質に相当する。この抗体が認識する光架橋基は、反応性フェニルジアジリン誘導体をその機能を損なうことなく基板等の所定の部位に設けられたものである。反応性フェニルジアジリン誘導体は、下記一般式Iで表される。
【0039】
【化2】
【0040】
(R1は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基を表す。)
R1は、水素原子、または置換基を有してもよいアルキル基である。R1のアルキル基の置換基としては、フッ素原子などの電子吸引基を挙げることができる。置換基を有してもよいアルキル基としてはトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0041】
R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルキル基、置換されていてもよい(ポリ)アルキレンオキシドアルキルエーテル基、アルコキシ基、又は、アルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基である。R2は、好ましくは水素原子又はアルコキシ基を表し、アルコキシ基の炭素数は1〜3が好ましい。アルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基は、好ましくは−(CmH2mO)n−(CH2)o−R4で表され、式中、mは2又は3、nは1〜6のいずれかの整数、oは1〜4のいずれかの整数を表し、R4は水素原子、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基、好ましくは水素原子を表す。アルキレンオキシドとして例えば、ポリエチレングリコール鎖などが固定するタンパク質の安定化という点で適用できる。また、R2は−CN2R1に対してメタ位にあることが好ましい。また、光架橋基認識タンパク質により認識されればジアジリン化合物中にR2は複数あってもよく、その際それぞれは同一であっても異なってもよい。R2が複数の場合も、少なくとも1つのR2が、−CN2R1に対してメタ位に存在することが好ましい。
【0042】
反応性フェニルジアジリン誘導体からなる基を基板面に設ける場合の構造を以下の一般式I’に示す。
【0043】
【化3】
【0044】
R3は、基体への光架橋基担持固定のための官能基を表し、基体表面に担持された官能基と反応できる基であればどんなものでも良い。例えば、カルボキシル基、ホルミル基、活性エステル基、水酸基、チオール、スルフィド、アミノ基、ハロゲン置換アルキル基、トリアルコキシシリル基、又はこれらの置換基を有する基等が挙げられる。R3は−CN2R1に対してパラ位にあることが好ましい。
【0045】
また、標的物質の基体への非特異吸着を防止することを目的として、非特異吸着防止効果を有するタンパク質と光架橋基を供給する化合物とのコンジュゲートを形成し、光架橋基を有する分子とすることができる。例えば、BSA(Bovine Serum Albumin:牛血清アルブミン)、カゼインタンパク質とのコンジュゲートとすることができる。その場合、R3を介して、BSAやカゼインタンパク質などのタンパク質に光架橋基を連結することができる。これらのコンジュゲートを利用することで、例えばバイオセンサーでの基体表面の所定部位への非特異吸着防止処理を、捕捉タンパク質の基体への固定処理を行う際に同時に行うことが可能となる。また、抗光架橋基抗体を作出するための免疫工程に用いられるタンパク質であるキャリヤー蛋白質(Carrier Protein)とのコンジュゲートでもよい。このキャリヤー蛋白質として、例えば、OVA(Ovalbumin:卵白アルブミン)やKLH(Keyhole Limpet Haemocyanin:スカシ貝ヘモシアニン)がある。本発明に係るタンパク質の特徴である光架橋基を認識する能力が発揮されればどんな光架橋基を有する分子でも良い。
【0046】
また、光架橋は、350nm付近の紫外線照射により達成され、本発明の光架橋によるタンパク質の配向的固定はTOFmassなどの質量分析により確認できる。つまり、本発明によるタンパク質は分子認識により光架橋基を認識し、更に光照射により架橋されるので、本発明にかかる構造体を適当なタンパク質分解酵素で処理して質量分析をすることで、特定の領域が光架橋されていることが確認できる。
【0047】
・分子認識
本発明に係るタンパク質は、分子認識能として、少なくとも光架橋基認識能を有する。分子認識には、生体分子反応である抗体・抗原反応が含まれ、好ましくはこれらの複合体の解離定数KD値が10-4M以下である。KD値が10-4M以下であれば、非特異吸着性のタンパク質の吸着挙動と分子認識を十分に区別することが可能である。例えばカロリメトリーやSPR、QCMなどの生体分子相互作用計測装置により区別することができる。タンパク質の固定操作時間の短縮という点から解離定数は10-6M以下であることがより好ましい。
【0048】
・抗体
本発明において用いられる抗光架橋基抗体は、抗光架橋基抗体全体を用いて、あるいは、架橋基認識部位を含む部分を用いて形成することができる。抗光架橋基抗体としては、光架橋基(またはその誘導体)または光架橋基(またはその誘導体)を少なくとも含む部位に特異的に結合する抗体を用いることができる。例えば、脊椎動物のリンパ系細胞で産出することができる。また、それらのアミノ酸配列におけるアミノ酸の1個または数個が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、その構造・機能が維持されている抗体(抗体変異体)を用いることができる。抗体は、その特性(免疫学的または物理学的な)の分類において、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに分類されるが、本発明において用いられる抗体はその何れの分類に属するものであってもよい。更には、これらが多量体を形成していてもよい。例えば、IgAは2量体、IgMは5量体を形成するが、金に結合しうる形状であれば何ら問題はない。また、その使用用途がin vitroである場合は哺乳類に限らず、IgW、IgYであっても問題ない。
【0049】
本発明における抗体には、特に、重鎖(H鎖)及び/または軽鎖(L鎖)の一部が特定の種、または特定の抗体クラス若しくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラス若しくはサブクラス由来である「キメラ」抗体が含まれる。更に、本発明における抗体には、先に挙げた抗体変異体、並びに抗体の断片も含まれる。これらについては、米国特許第4,816,567号;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855(1984)に開示がある。
【0050】
本発明において、「抗体変異体」とは、1またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列変異体を指す。例えば、抗体の可変領域を、光架橋基結合能を改善するために改変することができる。このような改変は、部位特異的変異、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。このような変異体は、抗体の重鎖若しくは軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となった抗体のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。
【0051】
また、本発明にかかる抗体の相補性決定領域(CDR)と機能的に同等の相補性決定領域とは、本発明の抗体のCDRのアミノ酸配列と類似したアミノ酸配列を有し、光架橋基を少なくとも分子認識して結合することを言う。CDRとは抗体の可変領域に存在する抗原への結合の特異性を決定している領域であり、H鎖とL鎖にそれぞれ3箇所ずつ存在し、それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3と命名されている。各CDRを挟むようにフレームワークと呼ばれるアミノ酸配列の保存性の高い4つの領域が介在する。CDRは他の抗体に移植することが可能であり、所望の抗体のフレームワークと組み合わせることにより組み換え抗体を作製することができる。また抗原に対する結合性を維持しながら1または数個のCDRのアミノ酸を改変することが可能である。例えば、CDR中の1または数個のアミノ酸を、置換、欠失、および/または付加することができる。
【0052】
アミノ酸残基の置換により変異を行う場合においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質は、以下のように分類することができる。
(1)疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)
(2)親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)
(3)脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)
(4)水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)
(5)硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)
(6)カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)
(7)塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)
(8)芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)
【0053】
これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。この点についてはMark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666に開示がある。変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、各CDRのアミノ酸の40%以内であり、好ましくは35%以内であり、さらに好ましくは30%以内である。アミノ酸配列の同一性は本明細書に記載したようにして決定すればよい。
【0054】
具体的には、塩基配列およびアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNおよびBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。この点についてはAltschul et al.J.Mol.Biol.215:403−410,1990に開示がある。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。この点についてはNCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトで参照可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0055】
・キメラ抗体、相補性決定領域(CDR)移植抗体、抗体断片
本発明では、種々の抗体分子の提示を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体などが挙げられ、例えばマウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域をヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域に導入した抗体が挙げられる。このような抗体は、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0056】
ヒト化抗体は、例えば所望の目的に利用するマウス抗体などの非ヒト抗体の重鎖または軽鎖の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域に置き換えたものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。(例えば、Jones et al.,Nature 321:522−525(1986))。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることによってヒト化抗体を得ることができる。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体に導入させたCDRまたはフレームワーク配列のどちらにも含まれないアミノ酸残基を含んでいてもよい。通常、このようなアミノ酸残基の導入は、抗体の抗原認識・結合能力をより正確に至適化するために行われる。例えば必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
【0057】
また本発明にかかる抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の断片又はその修飾物であってもよい。「抗体断片」とは、全長抗体の一部を指し、一般に、抗原結合領域または可変領域を含む断片のことである。本発明で述べる抗体断片とは、モノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab’)2、Fab'、Fab、Fd、Fv(va
riable fragment of antibody)、scFv(singlechain Fv)、dsFv(disulphide stabilised Fv)あるいは可変領域(VH)または軽鎖可変領域(VL)からなる単ドメインdAb(single domain antibody)等が挙げられる。
【0058】
・抗光架橋基抗体の取得
本発明にかかる光架橋基認識能を有する抗体(抗光架橋基抗体)の取得は、従来行われてきた抗血清調製技術、および細胞融合によるモノクローン抗体作製技術を適宜選択して行うことができる。例えば、結合対象となる光架橋基は低分子化合物であるため、光架橋基を有するハプテンを作製し、キャリアタンパク質KLH(Keyhole Limpet Haemocyanin:スカシ貝ヘモシアニン)と結合した免疫原を調製して適当な免疫動物に免疫する。抗体価の上昇を確認したところで血清中から抗体を回収することができる。前記免疫は、免疫原となる光架橋基キャリアタンパク質コンジュゲートを適当な溶媒、例えば生理食塩水などで適当な濃度に希釈し、この溶液を静脈内や腹腔内に投与することにより行うことができる。更に、必要に応じてフロイント完全アジュバントを併用投与してもよい。動物に1〜2週間間隔で3〜4回程度投与する方法が一般的である。このようにして免疫された動物を最終免疫後3日目に解剖し、摘出した脾臓から得られた脾臓細胞を免疫細胞として使用する。また、本発明の光架橋基は紫外線(350nm)で失活するので、免疫するまでは暗室などで行うことが望ましい。
【0059】
得られる抗体はポリクローナルでも良いが、モノクローナルとすることによってより光架橋基に対する特異性に優れたクローンを選択することが可能となる。モノクローナルな抗体は、それを産生する細胞をクローニングすることによって得ることができる。一般的には、免疫動物から回収した脾臓等のイムノグルブリン産生細胞を癌化細胞と融合させることによってハイブリドーマを形成することができる(Gulfre G.,Nature 266.550−552,1977)。例えば、癌化細胞としてはマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(ATCC No. CRL−1580)、P3/NSI/1−Ag4−1(NS−1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/0−Ag14(Sp2/O,Sp2)、NS0、PAI、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU−266AR1、GM1500−6TG−A1−2、UC729−6、CEM−AGR、D1R11あるいはCEM−T15等のミエローマ細胞をあげることができる。
【0060】
モノクローナルの抗体を産生する細胞のスクリーニングは、前記細胞をタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前記光架橋基に対する反応性を測定することにより行うことができる。この測定には、例えばRIA(radio immunoassay)やELISA(enzyme−linked immuno−solvent assay)等の酵素免疫測定法、免疫沈降等を利用できる。または、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)装置を利用した光架橋基に対する結合性を定量的に測定することも可能である。SPR装置により評価する場合は、センサー金表面に直接、アジュバントタンパク質を物理吸着または化学架橋固定して測定することができる。
【0061】
・抗体断片
本発明で述べる抗体断片とは、モノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab’)2、Fab’、Fab、Fd、Fv(variable fragmen
t of antibody)、scFv(single chain Fv)、dsFv(disulphide stabilised Fv)あるいは可変領域(VH)または軽鎖可変領域(VL)からなる単ドメインdAb(single domain antibody)等が挙げられる。
【0062】
ここで、「F(ab’)2」及び「Fab’」とは、抗体のヒンジ領域で2本の重鎖(
H鎖)間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。この抗体フラグメントは、タンパク分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で抗体を処理することにより得ることができる。例えば、IgGをパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断される。その結果、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)からなる軽鎖(L鎖)、及び重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域1(CH1)とからなる重鎖(H鎖)フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つのフラグメントが得られる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fab’という。またIgGをペプシンで処理する
と、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFab’がヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造する
ことができる。この抗体フラグメントをF(ab’)2という。
【0063】
このように、本発明にかかる光架橋基認識抗体は、上記Fab’、F(ab’)2であ
ってもよい。また、VHと前記CH1を結合したFd断片であっても構わない。
【0064】
さらには、抗体の可変領域部(Fv)またはその一部であってもよく、例えばFvを構成する重鎖可変領域(VH)や軽鎖可変領域(VL)またはその一部であってもよい。一方、前記VHまたはVLからなる複合体において、一方のカルボキシ末端と他方のアミノ末端数個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結した一本鎖Fv(single chain Fv:scFv)を利用することもできる。上記scFvを形成するVH/VL間(順不同)に一以上のアミノ酸からなるリンカーを設けることが望ましい。アミノ酸リンカーの残基長については、VHまたはVLと抗原との結合に必要な構造形成を妨げるような拘束力を持たないように設計することが重要である。具体的な例としては、アミノ酸リンカー長は、5乃至18残基が一般的で15残基が最も多く用いられ検討されている。これら断片は遺伝工学的な手法により得ることが可能である。
【0065】
更には、VH、VLが何れか単ドメインdAbであっても構わないが、前記単ドメイン構造は一般的に不安定であることが多いのでPEG修飾等の化学修飾による安定化を施しても良い。また、重鎖抗体としてin vivoにおいても存在し、機能することができることが知られているラクダ重鎖抗体の可変領域VHH(J.Mol.Biol、311:p123、2001)、Nurse sharkのイムノグロブリン様分子の可変領域IgNARであっても構わない。更には、ヒト又はマウス由来に代表される重鎖・軽鎖から構成される抗体分子のVH、VLを、図1乃至図4のようにドメイン単体で使用する際に、VH/VL界面等に重鎖抗体の相当部分を参考にして変異導入することによって安定性を向上させても良い。
【0066】
光架橋基認識部位は、(1)抗体重鎖可変領域(VH)、その変異体及びこれらの一部、並びに(2)抗体軽鎖可変領域(VL)、その変異体及びこれらの一部、から選択された少なくとも1種を含んでなるものとすることができる。抗体重鎖可変領域(VH)の相補性決定領域のセットとしては、配列番号:1〜3のアミノ酸配列の組み合わせまたは4〜6のアミノ配列の組み合わせから選ばれるタンパク質を好ましいものとして挙げることができる。抗体軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域のセットとしては、配列番号:7〜9のアミノ酸配列の組み合わせまたは10〜12のアミノ配列の組み合わせから選ばれるタンパク質を好ましいものとして挙げることができる。これらの配列を以下に示す。
PM1−VH CDR
配列番号1:(H鎖CDR1)
S H N M L
配列番号:2(H鎖CDR2)
G I Y P G D G D T S Y N Q N F K G
配列番号:3(H鎖CDR3)
W D L L C F D Y
PM2−VH CDR
配列番号:4(H鎖CDR1)
S Y W M H
配列番号:5(H鎖CDR2)
Y I N P S T G Y T E Y N Q K F
配列番号:6(H鎖CDR3)
N G N G Y
PM1−VL CDR
配列番号:7(L鎖CDR1)
R A S S S I S Y M H
配列番号:8(L鎖CDR2)
A S Q S I S
配列番号:9(L鎖CDR3)
Q Q W S N S P P Y T
PM2−VL CDR
配列番号:10(L鎖CDR1)
T A S Q S I S Y V V
配列番号:11(L鎖CDR2)
S A S N L A S
配列番号:12(L鎖CDR3)
G Q G Y S P L T
これらの配列番号:1〜12のアミノ配列のそれぞれの一個もしくは数個のアミノ酸が、欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を一つ以上含み、光架橋基結合性を有している抗体断片も機能的に同等であれば同様に利用できる。
【0067】
上記のアミノ酸配列からなるCDR領域を、FRに挿入することで目的とするV鎖やL鎖などを得ることができる。配列番号13〜16にFR中にCDR領域が配置された状態の一例が示されている。配列番号13のアミノ酸配列の第31番〜第35番が配列番号1のアミノ酸配列からなるH鎖CDR1である。以下、配列番号13のアミノ酸配列には、配列番号2のアミノ酸配列からなるH鎖CDR2及び配列番号3のアミノ酸配列からならるH鎖CDR3が含まれている。更に、配列番号14、15及び16のアミノ酸配列には、それぞれ上記配列番号4〜6、7〜9及び10〜12のアミノ酸配列の組み合わせからなるCDRが含まれている。フレームとしては、目的とする抗体としての機能が得られるものであれば特に制限されず、公知の種々のフレームから目的に応じて選択してCDR領域と組み合わせることができる。
【0068】
・光架橋基認識抗体断片の取得
・酵素処理による取得
また、上記抗体をある種の酵素処理することで、前記抗体の抗原結合部位及び抗原結合能をある程度有した抗体断片を得ることもできる。例えば、前記得られた抗体をパパイン処理することによりFab断片またはその類似体を得るができ、ペプシン処理によってF(ab’)2断片またはその類似体が得られる。前記抗体断片は、前記酵素的手法の他に
化学的分解して作製する方法もある。これら抗体断片も光架橋基に対して結合能を有するものであれば、何ら問題なく使用することができる。
【0069】
本発明に係わる上記Fab’、Fv、VHまたはVLのdAbを得る方法としては、遺
伝工学的な手法を用いた取得も可能である。例えば、前記VHまたはVL遺伝子ライブラリーを作製し、それらをタンパク質として網羅的に発現させて、その遺伝子と対応させながら、光架橋基または標的物質に対する結合性により選択する方法がある。前記遺伝子ライブラリーは、たとえば、臍帯血、扁桃、骨髄、あるいは末梢血細胞や脾細胞等から得ることができる。例えば、ヒト末梢血細胞からmRNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、ヒトVH、VLをコードする配列をプローブとして、ヒトVHまたはVLのcDNAライブラリーを作製する。例えば、ヒトVHファミリー(VH1乃至7)をファミリー毎に幅広く増幅することができるプライマーやヒトVLを増幅できるプライマーは公知である。これらVH、VL毎にプライマーを組み合わせてRT−PCRを行い、VH、VLをコードした遺伝子を取得する。また、ファージディスプレー法を用いることも可能である。ファージディスプレー法では、VH、VLまたはそれら含む複合体(例えば、Fab、scFv)をコードした遺伝子ライブラリーを、ファージ外殻タンパクをコードした遺伝子と結合し、ファージミドライブラリーを作製する。それらを大腸菌に形質転換し、種々のVHまたはVLを外殻タンパクの一部として有するファージとして発現させる。それらのファージを用いて、上記同様にして光架橋基また標的物質に対する結合性により選択することができる。ファージに融合タンパクとして提示されたVHまたはVLをコードする遺伝子は、ファージ内にファージミドにコードされているのでDNAシークエンス解析をすることにより、特定することができる。
【0070】
・ライブラリーの選択に用いる光架橋基を有する被結合対象物
パニングにより抗光架橋基抗体断片を選択する際に用いる被結合対象物としては、少なくともその表面の一部に光架橋基を有する物質から種々選択して用いることができる。パニングにより選択する場合は、光架橋基以外の物質に対して吸着するタンパク質の混入を除くために被結合対象物表面は光架橋基のみであることがより望ましい。表面以外の内部コア基材となる材料は、既知の種々の材料から選択して用いることができる。光架橋基を含む分子を直接、または間接的に固定できる被結合対象物表面であればどんなものでも良い。また、被結合対象物に、非特異吸着を抑制する処理を施すことができる。また、パニング選択中は、本発明の光架橋基が失活するのを防ぐため、極力暗室または紫外線をカットするイエローカーテン内で行うことが望ましい。
【0071】
本発明は、上記光架橋基認識抗体をコードする核酸をも含む。更に、本発明は、宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、マウス、ヒト等由来の従来既知のタンパク発現用細胞)を形質転換して、上記光架橋基認識抗体を発現させるための遺伝子ベクターとなる核酸と、上記光架橋基認識抗体をコードする核酸とを有する構成物をも含む。一つの構造物(発現ベクター)により発現できる本発明の光架橋基認識抗体は、抗体全分子、またはその抗体断片であるF(ab’)2、Fab、Fv(scFv)、VH、VL、またはこれら複合体
から選択して、設計することが可能である。ひとつの発現用ベクターに複数の前記断片をコードする場合、それぞれの抗体断片が独立した個々のポリペプチド鎖として発現させることができる。また、ドメイン間を連続して結合またはアミノ酸を介して結合させた一つのポリペプチド鎖として発現ベクターの構成とすることも可能である。
【0072】
本発明の光架橋基認識抗体発現用の発現ベクターの構成は、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の導入遺伝子を発現させるために必要な構成等に組み込むことより、設計及び構築することができる。発現ベクターは、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の構成等を参照し、構築することができる。また、大腸菌等を宿主細胞として用いる場合、外来遺伝子産物である本発明に係る光架橋基認識抗体またその構成物を速やかに細胞質外に除外することで、プロテアーゼによる分解を少なくすることが可能である。また、この外来遺伝子産物が菌体にとって毒性である場合でも、菌体外へ分泌することによりその影響を小さくすることができることが知られている。通常、既知の細胞質膜あるいは内膜を通過して分泌されるタンパク質の多くがその前駆体のN末端にシグナルペプチドを有し、分泌過程においてシグナルペプチダーゼにより切断され、成熟タンパク質となる。多くのシグナルペプチドはそのN末に塩基性のアミノ酸、疎水性アミノ酸、シグナルペプチダーゼによる切断部位と配置されている。
【0073】
本発明にかかる光架橋基認識抗体をコードする核酸の5’側にシグナルペプチドである
pelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより、光架橋基認識抗体を分泌発現させることができる。
【0074】
また、ひとつのベクター中に本発明にかかる光架橋基認識抗体(複数の抗体断片含む)から構成されるポリペプチド鎖をそれぞれ独立して複数挿入することも可能である。この場合、各ドメインまたはポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコードす
る核酸を配置し、分泌を促すことができる。更に、または一以上のドメインからなるポリペプチド鎖として発現させる場合、前記ポリペプチド鎖の5’末端に同様にしてpelB
をコードする核酸を配置することにより分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した本発明の光架橋基認識抗体は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。
【0075】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0076】
完全抗体として光架橋基認識抗体を取得精製する場合、アフィニティー精製カラムとしてプロテインAカラム、プロテインGカラムの使用が挙げられる。
【0077】
また、抗体断片を発現させ精製する作業の簡便さを考慮して、種々の抗体断片を形成するポリペプチド鎖のNまたはC末端にアフィニティー精製用のタグを遺伝子工学的に配置することが可能である。精製用タグとしては、ヒスチジンが6残基連続したヒスチジンタグ(以下、His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼのグルタチオン結合部位などが挙げられる。タグの導入方法としては、発現ベクターにおける光架橋基認識抗体をコードする核酸の5’または3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市
販の精製タグ導入用ベクターを使用するなどが挙げられる。
【0078】
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
【0079】
以下に、上記発現ベクターを用いた本発明の光架橋基認識抗体の製造方法について述べる。本発明にかかる光架橋基認識抗体、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、従来既知のタンパク発現用の宿主細胞を、宿主細胞に応じて設計した上記光架橋基認識抗体発現ベクターで形質転換することにより製造可能である。すなわち、かかる光架橋基認識抗体、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、宿主細胞内のタンパク合成システムを用いて、宿主細胞内に合成される。その後、宿主細胞内外に蓄積または分泌された目的タンパク質を細胞内部または細胞培養上清から精製することにより、目的とする用途に利用可能となる。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合、本発明にかかる光架橋基認識抗体をコードする核酸の5’側にpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドを
コードする核酸を配することにより細胞質外に分泌発現しやすい構成にすることができる。
【0080】
ひとつの発現用ベクターで本発明にかかる光架橋基認識抗体を構成する複数のポリペプチド鎖を発現させる場合、各ポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコー
ドする核酸を配置することで、発現時に細胞質外への分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した光架橋基認識抗体は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。精製方法としては、精製タグがHisタグの場合、ニッケルキレートカラムやGSTの場合、グルタチオン固定化カラムを使用することで精製することができる。
【0081】
また、菌体内に発現した光架橋基認識抗体が不溶性顆粒で得ることも可能である。この場合、培養液から得られた菌体をフレンチプレスや超音波により破砕した細胞破砕液から不溶性顆粒を遠心分離することができる。得られた不溶性顆粒画分を尿素、塩酸グアニジン塩を含む従来既知の変性剤を含んだ緩衝溶液で可溶化した後に、変性条件下で前記と同様なカラム精製することができる。得られたカラム溶出画分は、リフォールディング作業により、変性剤除去と活性構造再構築を行うことができる。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。具体的には、段階透析法や希釈法などを目的のタンパクに応じて用いることが可能である。
【0082】
本発明にかかる光架橋基認識抗体の各ドメインまたは各ポリペプチド鎖は、同一宿主細胞内で発現させることも可能であるし、別の宿主細胞を使用して発現した後に共存させて、複合体化させることも可能である。
【0083】
更に、本発明の光架橋基認識抗体をコードするベクターを用いて、細胞抽出液を用いて生体外でのタンパク質発現をすることも可能である。好適に用いられる細胞抽出液としては、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球等が挙げられる。しかしながら、上記無細胞抽出液によるタンパク合成は一般的には還元条件下で行われる。その為に、抗体中のジスルフィド結合を形成させるために何らかの処理を行う方がより好ましい。
【0084】
・抗体断片タンパク発現
光架橋基認識抗体をコードするDNAを、所望の制限酵素、例えば上記の例ではNcoI/NheIにより切断して光架橋基認識抗体断片コードDNAを得る。これを宿主細胞に応じた従来公知のタンパク発現用プラスミドに導入することで抗体断片を得ることができる。例えば、大腸菌の場合、菌体外発現またはペリプラズム画分から目的の抗体断片を回収したい場合、前記抗体断片コード遺伝子の上流に従来既知のシグナルペプチドを導入することができる。シグナルペプチドとしては、pelB等が挙げられる。また、発現後、培養上清または菌体画分から目的タンパクを精製を容易にするために、従来既知の精製用タグを融合してもよい。具体的には、ヒスチジン6残基(His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼのグルタチオン結合部を導入し、融合タンパクとすることができる。これらは、Hisタグの場合、ニッケル等の金属キレートカラムなどにより精製することが容易にできる。GSTタグの場合は、グルタチオンをセファロース等に担体に固定化したカラムにより精製することが可能である。
【0085】
また、菌体内に発現した目的タンパクが不溶性顆粒で得ることができない場合、これらを尿素、塩酸グアニジン塩を含む従来既知の緩衝溶液で可溶化した後に、リフォールディングを行うことも可能である。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。具体的には、段階透析法や希釈法などを目的のタンパクに応じて用いることが可能である。
【0086】
これらで得られた抗体、及びそれらの断片、例えばFab、(Fab’)2、Fd、V
HまたはVLまたは前記それらの複合体等のアミノ酸配列において、一もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても光架橋基結合性を示すものであれば本発明の範囲から超えるものではない。
【0087】
・基体及び構造体
抗光架橋基抗体と、表面の少なくとも一部が光架橋基から形成されている基体とから各種の用途に使用し得る構造体を得ることができる。この基体は、その表面の少なくとも一部に光架橋基が配置されたものであり、本発明の構造体を形成しうるものであればいかなる材質、形状のものも利用可能である。光架橋基の基体上への形成に関しては、公知の反応が利用できる。反応の例として、ガラス表面とシランカップリング剤との反応、プラスティップ表面の官能基と活性ハロゲン化物との反応、セルロース系樹脂とイソシアネート類との反応、物理吸着などが挙げられる。予め基体表面に導入された基との反応例としては、求核性基(アミノ基、ヒドロキシル基など)と電子受容基(カルボキシル基、エステル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、共役ケトン、アクリル酸エステル、ビニルスルホン、酸無水物、アシルハライド、スルホニルハライドなど)との組み合わせ、生体反応を利用した組み合わせ(ビオチン−アビジン、基質―酵素)、金−チオールの組合せなど、基体の種類により適宜選択することができる。また、上記反応を行うための材料を基体の一部分に配置することが可能である。この配置は、例えば、スタンパーの利用やパターニングにより達成できる。基体の材質は、本発明の構造体を形成しうるものであればいかなる材質でもよく、金属、金属酸化物、無機半導体、有機半導体、ガラス類、セラミクス、天然高分子、合成高分子、プラスチックから選ばれる何れか1以上或いはその複合体を含んでなる材質である。本発明に用いる基体の形状は、本発明の構造体を形成しうるものであればいかなる形状でもよく、板状、粒子状、多孔体状、突起状、繊維状、筒状、網目状から選ばれる何れか1以上の形状を含んでなる形状である。
【0088】
本発明に用いることのできる基体材料とその基体の例示は、特開2005−312446号公報に開示されているものが使用できるが、これらに限定されるものではない。また、本発明の基体の大きさは使用用途に応じて種々選択することが可能である。
【0089】
・標的物質検出用のキット
本発明にかかる抗光架橋基抗体に標的物質との結合性を付加した構成を用いて、標的物質検出用のキットを得ることができる。例えば、上記の構造体を形成するための基体及び抗光架橋基抗体と、該構造体への標的物質の結合を検出するための検出手段と、を有する標的物質検出用キットを構成することができる。抗光架橋基抗体を基体へ光照射により架橋固定化する方法は後述する。本キットにおける抗光架橋基抗体は、例えば種々の抗体に結合する糖鎖提示体として用いることができる。つまり、標的物質が抗体の糖鎖結合物質であることができる。標的物質と抗体との結合の形成を物理的あるいは化学的な手法で検出することによって標的物質の検出を行うことができる。更に、例えば、光学的な変化、電気的な変化、あるいは熱的な変化などにおける物理量の変化によって標的物質と抗光架橋基抗体との結合を検出することができる。
【0090】
なお、かかる標的物質(特に抗原)との結合性を付加した構成としては、後述する光架橋基認識複合タンパク質として利用する場合を好ましいものとして挙げることができる。
【0091】
・表面プラズモン共鳴装置および水晶発振子マイクロバランス装置
なお、光架橋基認識能を有するタンパク質への標的物質の結合は、例えば、従来既知の表面プラズモン共鳴(SPR)測定装置や水晶発振子マイクロバランス(QCM)などで定量的に測定することができる。表面プラズモン共鳴は、一般にガラス基板上に設けた金薄膜上の屈折率変化を全反射角以下でガラス側から入射させた光によりガラス/金界面で生じるエバネセント波と金薄膜上の自由電子の共鳴(表面プラズモン共鳴)によって生じる共鳴角変化から測定する方法である。測定された屈折率変化を、標的物質の結合量として換算し、評価できる。光架橋基を化学的或は物理的に金薄膜上に形成したチップを作製し評価することができる。QCMは一般的に水晶発振子上の金電極面で行われる生体分子相互作用を水晶の周波数変化を指標に定量評価が可能である。その結果、周波数変化を被対象タンパク質の金への結合量として評価できる。SPR同様光架橋基を化学的或は物理的に金薄膜上に形成したチップを作製し評価することができる。
【0092】
・解離定数(KD)
「解離定数(KD)」とは、「解離速度(kd)」値を「結合速度(ka)」値で除して求められる値である。これらの定数は、モノクローナル抗体またはそれらの断片が光架橋基に対する親和性を表す指標として用いることができる。この定数は、種々の方法に従って解析することができるが、本発明においては、測定機器であるBiacore2000(ビアコア社製)を用い、この装置に添付された解析ソフトに従って、得られた結合曲線から解析して得た。
【0093】
・光架橋基認識複合タンパク質
本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質は、2以上のドメインから構成され、1以上のドメインが上記の構成の抗光架橋基抗体を有するものとして提供することができる。但し、全ドメインが抗光架橋基抗体を有することはなく、少なくとも1つのドメインが標的物質認識能を有する標的物質結合部位を成すドメインとして提供される。本複合タンパク質において、標的物質結合部位を成すドメインは標的物質を特異的に認識結合できればどんな構造の分子でも良い。タンパク質、糖鎖、核酸、脂質及びこれらの複合体などを用いることができる。タンパク質の場合、例えば抗体を超える親和性や抗体が認識できない分子認識などが期待される非抗体構造を有し且つ遺伝子工学的改変を施し標的物質に特異的に結合することが可能である分子、それらの断片、または誘導体も利用でき、少なくとも抗体の一部を有しているものが好ましい。かかる分子としては、アンキリン構造分子(Andreas Pluckthun et al., Nature Biotechnology Vol22, No.5, 575−582(2004))、アフィリン分子(Sci Protein社)、アフィボディー分子(Per−Ake Nygren et al., Proteins:Structure,Function, and Genetics 48, 454−462(2002)))、フィブロネクチンTypeIII 10th、リポカリン、GFP、レクチン、チオレドキシン、Omp(アウターメンブレンタンパク質)分子などを挙げることができる。また、それらの断片、または誘導体があり、少なくとも抗体の一部を有しているものも挙げることができる。
複合タンパク質には以下の構成のものが例示できる。
(a)上記構成の抗光架橋基抗体を含む第一のドメインと、標的物質に対する結合部位を有するタンパク質を含む第二のドメインと、を有する複合タンパク質
(b)上記の第一のドメインと第二のドメインに加えて、第一のドメインと複合体を形成する第三のドメイン及び前記第二のドメインと複合体を形成する第四のドメインの少なくとも一方を更に有する複合タンパク質
【0094】
なお、第一〜第四のドメインの被結合物質への結合性は各ドメインで独立して設定することができ、これらのドメインにおいて同じ結合性を有するドメインが2以上存在してもよく、異なる結合性のドメインからこれらのドメインを構成してもよい。更に、前記第一〜第四のドメインから選択された少なくとも2種が同一ポリペプチド鎖中に含まれているものであってもよい。このような構成としては、以下の構成を含む場合を挙げることができる。
(1)第一のドメインと第二のドメインが一本のポリペプチド鎖を形成している構成
(2)第一のドメインと第二のドメインが一以上のアミノ酸を介して結合されている構成
(3)第三のドメインと第四のドメインが一本のポリペプチド鎖を形成する構成
(4)第三のドメインと第四のドメインが一以上のアミノ酸を介して結合されている構成
(5)第一のドメインと第二のドメインを含んでなる第一のポリペプチド鎖と、第三のドメインと第四のドメインを含んでなる第二のポリペプチド鎖とからなる構成
(6)第一のドメインと第二のドメインを含んでなる第一のポリペプチド鎖と、第三のドメインと第二のドメインを含んでなる第三のポリペプチド鎖とからなる構成
(7)第一のドメインと第二のドメインを含んでなる第一のポリペプチド鎖と、第一のドメインと第四のドメインを含んでなる第四のポリペプチド鎖と、からなる構成
(8)少なくとも第一のドメインと第二のドメイン、及び第三のドメインを含んでなる一つのポリペプチド鎖からなる構成
(9)少なくとも第一のドメインと第二のドメイン、第四のドメインを含んでなる一つのポリペプチド鎖からなる構成
(10)第一〜第四のドメインを含んでなる一つのポリペプチド鎖からなる構成
【0095】
光架橋基認識複合タンパク質の構成要素としてのタンパク質は、少なくとも二以上のアミノ酸が結合して形成されるポリペプチド鎖を少なくとも一以上含んでなり、それらポリペプチド鎖が特定の立体構造を形成するように折り畳まれている構造を有する分子をいう。このタンパク質は、この構造により、固有の機能(変換、分子認識等)を発揮できるものとなっている。また、本発明の光架橋基認識複合タンパク質は、上述のとおり、少なくとも光架橋基に対する結合部位を一以上有し、更に標的物質との結合部位を少なくとも一以上有する、多価または多重特異性の結合性を示す複合タンパク質である。好ましい構成では、光架橋基に対する結合部位を有する第一のドメインは、少なくとも抗体軽鎖可変領域(VL)または重鎖可変領域(VH)の一部を含み、標的物質に対する結合部位を有する第二のドメインは、少なくともVHまたはVLの一部を含む。以下、光架橋基に結合するVH、VLをVH(P)、VL(P)、標的物質に結合するVH、VLをVH(T)、VL(T)とする。
抗体重鎖可変領域(VH)、抗体軽鎖可変領域(VL)は、前述したように抗体重鎖及び抗体軽鎖が有する可変領域である。抗体重鎖可変領域(VH)、抗体軽鎖可変領域(VL)は、一般的には各々アミノ酸約110個からなり、筒状の構造をとり、逆平行の向きに配置されたβシート群による層状構造が形成されている。この層状構造をひとつのSS結合により結合し、非常に安定した構造体を形成している。また、可変領域(VHまたはVL)は、抗体の多様な抗原への結合を決定する相補的決定領域(complementarity determining region:CDR)と呼ばれる部分を有することが知られている。CDRは、VHまたはVLにそれぞれ3つあり、比較的に多様性の少ないアミノ酸配列であるフレームワーク領域により分離されて配置され、対象となる認識部位の官能基の空間配置を認識することにより、より高度な特異的な分子認識を可能としている。
【0096】
以下に、本発明の光架橋基認識複合タンパク質の一例について述べる。本発明の光架橋基認識複合タンパク質の最小単位は、上記第一のドメインと上記第二のドメインから構成され、図1にその模式的な図を示す。その組み合わせ例としては、VH(P)−VH(T)、VH(P)−VL(T)、VL(P)−VH(T)、VL(P)−VL(T)といった組み合わせが挙げられる。(P)で示されるタンパク質が、抗光架橋基抗体タンパク質である。この例では、光架橋基認識複合タンパク質は、第一のドメインと第二のドメインは相補的な結合部位を形成することなく、第一のドメインが光架橋基、第二のドメインが標的物質へと独立して結合するものである。第一のドメインと第二ドメインは、独立したポリペプチド鎖であっても、ドメインが連続的に結合されたポリペプチド鎖であってもよい。但し、ポリペプチド鎖が連続して結合されたポリペプチド鎖を形成することが、製造工程の簡略化及びその機能発現においてより好ましい形態である。第一のドメインと第二のドメインが連続して結合されたポリペプチド鎖の場合、第一のドメインと第二のドメインを直接連鎖してもよいし、一個以上のアミノ酸からなるリンカーを介して連鎖してもよい。アミノ酸からなるリンカーは1乃至10個のアミノ酸からなるものであることが好ましい。より好ましくは1乃至5個のアミノ酸からなるものである。リンカーのアミノ酸長が11乃至15である場合、第一のドメインと第二のドメインは配置による制限が少なく、前記ドメイン間で相補的な結合形成(scFv化)してしまう場合がある。このVH/VL間の相補的な複合体形成を抑制するために、リンカー長を短くし、ドメイン間に構造的な制約を負荷することが有効であることが知られている。一方で、標的物質との結合性において立体障害を受けないようにするためにあえてリンカー長を11以上に長く設けることも可能である。その場合、例えば重鎖抗体の抗原認識部位VHHやVH/VL界面を遺伝子工学的に改変したVHまたはVLを用いることが望ましい。第一もしくは第二のドメインのそれぞれが光架橋基もしくは標的物質に結合した場合にもたらされる構造変化の影響が互いの所望する光架橋基と標的物質に対する結合能に影響がないことが望ましい。このために、リンカーにα−ヘリックス等の二次構造を持たせたり、本来所望の結合特性に無関係なポリペプチドのドメンインを挿入することも所望の特性や生産性に著しい影響を与えない範囲において可能である。
【0097】
更に、先に述べたように、本発明の光架橋基認識複合タンパク質は、第一のドメインと複合体を形成する第三のドメイン、または/及び第二のドメインと複合体を形成する第四のドメインを含んでなる構成であっても良い。なお、これらの第三のドメイン及び第四のドメインのそれぞれは、VHまたはVLの一部を少なくとも含む構成とすることができる。第三のドメインは、第一のドメインと複合体を形成することにより、第一のドメインと相補的な光架橋基結合部位を形成していることがより望ましい。例えば、図2(a)の模式図で示すように第一のドメインがVH(P)である場合、第三のドメインは第一のドメインとFvを形成し得るVLであることが好ましい。より好ましくは第一のドメインと第三のドメインが光架橋基結合部位を連合して形成する構成である。このように第一のドメインが第三のドメインとFvを形成することにより、構造的により安定化し、構造変化による機能低下を抑制することが期待できる。さらに、第三のドメインが第一のドメインと連合して光架橋基結合部位を形成することにより、更に結合能(例えば、結合速度の向上、解離速度の抑制等)を向上することも期待される。
【0098】
更には、図2(b)に示すように第一のドメインと第三のドメインは、それぞれ独立したポリペプチド鎖として設けても、連鎖してなるポリペプチド鎖であってもよい(例えば、図2(b)の模式図に示すように第三のドメイン−第一のドメイン−第二のドメインを連結してもよい。各ドメインは光架橋基及び標的物質に対して結合能が発揮されるように適宜その構成及び各ドメイン間の結合の組み合わせを決定することができる。)。また、別の例として、図3の模式図に示すような構成も可能である。つまり、前記第一のドメインと前記第二のドメインからなるポリペプチド鎖と第三のドメインと前記第二のドメインからなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第一のドメインと第三のドメインから形成されるFvまたはFv様複合体により光架橋基と結合し、上記第二のドメインにより標的物質に対して結合するアンカーとして第一のドメインが機能するものである。
【0099】
また、本発明の光架橋基認識複合タンパク質は、第二のドメインと複合体を形成する、少なくともVHまたはVLの一部からなる第四のドメインを含んだ構成であっても良い。第四のドメインは、前記第二のドメインとともに標的物質に対する結合部位を相補的に形成することが望ましい。例えば、図4(a)の模式図に示すように、第二のドメインがVLである場合、第四のドメインは第二のドメインとFvを形成し得るVHであることが好ましい。より好ましくは第二のドメインと第四のドメインが前記標的物質に対する結合部位を連合して形成する構成である。また、図4(b)の模式図に示すように、第一のドメイン、第二のドメイン、及び第四のドメインが連鎖したポリペプチド鎖を形成してもよい。図4(b)の構成では、第一のドメインにて少なくとも表面の一部に光架橋基を有する基体と結合し、第二及び第四のドメインにて標的物質と結合するように各ドメインを選択することができる。この構成においては、特に、第一のドメインが基体との結合した際において不可逆的な構造変化をした場合においてもリンカー等を好適に設計することにより第二及び第四のドメインの標的物質との結合能への影響を最小限に抑えるようにすることが可能である。
【0100】
更に、図5の模式図に示すような構成も可能である。つまり、前記第一のドメインと前記第二のドメインからなるポリペプチド鎖と第一のドメインと前記第四のドメインからなるポリペプチド鎖からなる複合体である。この場合、第二のドメインと第四のドメインから形成されるFvまたはFv様複合体により標的物質を結合し、上記両ポリペプチド鎖を光架橋基に対して結合するアンカーとして第一のドメインが機能するものである。
【0101】
また、本光架橋基認識複合タンパク質は第三及び第四のドメインをともに構成材料とすることが可能である。図6の模式図に示すように第三のドメインと第四のドメインがそれぞれ独立したポリペプチド鎖であっても、図7の模式図に示すように連鎖されてなるポリペプチド鎖であってもよい。連鎖したポリペプチド鎖の場合、第三のドメインと第四のドメインを直接連鎖してもよいし、図7のように一以上のアミノ酸からなるリンカーを介して連鎖してもよい。また、図8の模式図に示すように前記第一乃至第四のドメインが一つのポリペプチド鎖内に連鎖されたものであってもよい。この場合、第一のドメインと第三のドメインが複合体を形成し光架橋基と結合し、第二のドメインと第四のドメインが複合体を形成し標的物質に結合できるように配置できるように構成されるものである。その為に、前記リンカーをドメイン間に設けることが好ましい。例えば、第一及び第二のドメイン間、第三及び第四のドメイン間は1乃至5アミノ酸であり、第二及び第三のアミノ酸のドメイン間は15乃至25アミノ酸である。同じような構成において、第一のドメインと第二のドメイン、第三のドメインと第四のドメインをそれぞれ/双方とも入れ替えること可能である。
【0102】
これら一本鎖ポリペプチド内における各ドメインの配列は、光架橋基及び標的物質に対する結合性、及び本光架橋基認識複合タンパク質の長期安定性等、所望の特性に応じて適宜選択して決定することが可能である。
【0103】
第一のドメインとしては、例えば、配列番号:1乃至配列番号:3のセット、配列番号:4及至配列番号:6のセットのアミノ酸からなる各セットの3つのCDRsまたはこれらと機能的に同等のCDRsを有する第一のドメインが挙げられる。それぞれのアミノ酸配列は抗体のH鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。機能的に同等のCDRとは、一個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列のものであって光架橋基に対する結合性を保持できれば何ら問題はない。各CDRsは適宜各セット間で組み合わせても光架橋基に対する結合性を保持していれば何ら問題は無い。なお、上記配列を第三のドメインとして用いてもかまわない。
【0104】
第三のドメインとしては、例えば、配列番号:7及至配列番号:9のセット、配列番号:10及至配列番号:12のセットのアミノ酸からなる各セットの3つのCDRまたはこれらと機能的に同等のCDRを有する第三のドメインが挙げられる。それぞれのアミノ酸配列は抗体のL鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3に対応する。機能的に同等のCDRとは、一個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列のものであって光架橋基に対する結合性を保持できれば何ら問題はない。各CDRは適宜各セット間で交換して組み合わせても光架橋基に対する結合性を保持していれば何ら問題は無い。なお、上記配列を第一のドメインとして用いてもかまわない。
【0105】
上記第一のドメインと第三のドメインのCDRセットまたはドメイン間で適宜交換して組み合わせて用いることができる。光架橋基に対する結合性を保持していれば何ら問題は無い。好ましくは、第一と第三のドメインの組み合わせはH鎖とL鎖由来のCDRセットの組み合わせが好ましい。
【0106】
本発明は、上記光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸をも含む。更に、宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、マウス、ヒト等由来の従来既知のタンパク発現用細胞)を形質転換に用い、上記光架橋基認識複合タンパクを発現させるための遺伝子ベクターと、上記光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸を有する構成物をも含む。
【0107】
一つの構造物(発現ベクター)により発現できる本発明に係る光架橋基認識複合タンパク質の各ドメインは、1乃至4のいずれかから選択して、設計することが可能である。ひとつの発現ベクターに本発明の光架橋基認識複合タンパク質の複数のドメインをコードする場合、それぞれのドメインが独立した個々のポリペプチド鎖として発現させることができる。また、ドメイン間を連続して結合またはアミノ酸を介して結合させた一つのポリペプチド鎖として発現する発現ベクターの構成とすることも可能である。本発明の光架橋基認識複合タンパク質発現ベクターは、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の導入遺伝子を発現させるために必要な構成等に組み込むことより、設計及び構築することができる。発現ベクターは、選択する宿主細胞に応じて既知のプロモーター等の構成等を参照し、構築することができる。また、大腸菌等を宿主細胞として用いる場合、外来遺伝子産物である光架橋基認識複合タンパク質を速やかに細胞質外に除外することで、プロテアーゼによる分解を少なくすることが可能である。また、この外来遺伝子産物が菌体にとって毒性である場合でも、菌体外へ分泌することによりその影響を小さくすることができることが知られている。通常、既知の細胞質膜あるいは内膜を通過して分泌されるタンパク質の多くがその前駆体のN末端にシグナルペプチドを有し、分泌過程においてシグナルペプチダーゼにより切断され、成熟タンパク質となる。多くのシグナルペプチドはそのN末に塩基性のアミノ酸、疎水性アミノ酸、シグナルペプチダーゼによる切断部位と配置されている。
【0108】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸の5’側にシグナルペプチドで
あるpelBに代表される従来既知のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより、これを分泌発現させることができる。また、ひとつのベクター中に光架橋基認識複合タンパク質を構成する各ドメインまたは複数のドメインから構成されるポリペプチド鎖をそれぞれ独立して複数挿入することも可能である。この場合、各ドメインまたはポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコードする核酸を配置し、これらの分泌
を促すことができる。更に、または一以上のドメインからなるポリペプチド鎖として発現させる場合、前記ポリペプチド鎖の5’末端に同様にしてpelBをコードする核酸を配
置することにより、その分泌を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した光架橋基認識複合タンパク質、あるいはその構成用途してのドメインは、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。また、発現させたタンパク精製時の作業の簡便さを考慮して、独立した各ドメインもしくは複数のドメインが結合して形成されたポリペプチド鎖のNまたはC末端に精製用のタグを遺伝子工学的に配置することが可能である。精製用タグとしては、ヒスチジンが6残基連続したヒスチジンタグ(以下、His×6)やグルタチオン−S−トランスフェラーゼのグルタチオン結合部位などが挙げられる。タグの導入方法としては、発現ベクターにおける光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸の5’または3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市
販の精製タグ導入用ベクターを使用するなどが挙げられる。
【0109】
以下に、上記発現ベクターを用いた本発明の光架橋基認識複合タンパク質の製造方法について述べる。
【0110】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質、またはその構成要素となるポリペプチド鎖は、従来既知のタンパク発現用の宿主細胞を、宿主細胞に応じて設計した上記光架橋基認識複合タンパク質発現用ベクターで形質転換することにより生産することができる。この場合、これらは、宿主細胞内のタンパク合成システムを用いて、宿主細胞内に合成される。その後、宿主細胞内外に蓄積または分泌された目的生産物を細胞内部または細胞培養上清から精製することにより得ることができる。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合、光架橋基認識複合タンパク質をコードする核酸の5’側にpelBに代表される従来既知
のシグナルペプチドをコードする核酸を配することにより細胞質外に分泌発現しやすい構成にすることができる。ひとつの発現ベクターで光架橋基認識複合タンパク質を構成する各ドメインを得るための複数のポリペプチド鎖を発現させる場合、各ポリペプチド鎖をコードする核酸の5’側にpelBをコードする核酸を配置し、発現時に細胞質外への分泌
を促すことができる。このようにシグナルペプチドをN末端に融合した光架橋基認識複合タンパク質は、ペリプラズマ画分及び培地上清から精製することができる。精製方法としては、精製タグがHisタグの場合、ニッケルキレートカラムやGSTの場合、グルタチオン固定化カラムを使用することで精製することができる。タンパク質の発現誘導以降の操作は可能な限り暗室またはイエローカーテン内で行うことが望ましい。
【0111】
また、菌体内に発現した本発明の光架橋基認識複合タンパクを不溶性顆粒で得ることも可能である。この場合、培養液から得られた菌体をフレンチプレスや超音波により破砕した細胞破砕液から前記不溶性顆粒を遠心分離することができる。得られた不溶性顆粒画分を尿素、塩酸グアニジン塩を含む従来既知の変性剤を含んだ緩衝溶液で可溶化した後に、変性条件下で前記と同様なカラム精製することができる。得られたカラム溶出画分は、リフォールディング作業により、変性剤除去と活性構造再構築を行うことができる。リフォールディング方法としては、従来既知の方法から適宜用いることも可能である。具体的には、段階透析法や希釈法などを目的のタンパクに応じて用いることが可能である。
【0112】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質の各ドメインまたは各ポリペプチド鎖は、各々を同一宿主細胞内で発現させてから複合化させることも可能であるし、別の宿主細胞を使用して発現した後に共存させて、複合体化させることも可能である。
【0113】
更に、本発明の光架橋基認識複合タンパク質をコードするベクターを用いて、細胞抽出液を用いて生体外でのタンパク質発現をすることも可能である。好適に用いられる細胞抽出液としては、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球等が挙げられる。しかしながら、上記無細胞抽出液によるタンパク合成は一般的には還元条件下で行われる。その為に、抗体断片中のジスルフィド結合を形成させるために何らかの処理を行う方がより好ましい。
【0114】
本発明の光架橋基認識複合タンパク質の光架橋基に対する好ましい解離定数(KD)は、先に述べたとおり、10-4M以下であり、より好ましくは10-6M以下である。
【0115】
本発明の標的物質に対して結合能を有するこのような抗体重鎖可変領域(VH)、または抗体軽鎖可変領域(VL)を取得する方法のひとつとして以下の方法を挙げることができる。
【0116】
まず、VHまたはVL遺伝子ライブラリーを作製し、それらをタンパク質として網羅的に発現させる。次に、その遺伝子と対応させながら、標的物質に対する結合性により選択する。
【0117】
前記遺伝子ライブラリーは、たとえば、臍帯血、扁桃、骨髄、あるいは末梢血細胞や脾細胞等から得ることができる。例えば、ヒト末梢血細胞からmRNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、ヒトVH、VLをコードする配列をプローブとして、ヒトVHまたはVLのcDNAライブラリーを作製する。例えば、ヒトVHファミリー(VH1乃至7)をファミリー毎に幅広く増幅することができるプライマーやヒトVLを増幅できるプライマーは公知である。これらVH、VL毎にプライマーを組み合わせてRT−PCRを行い、VH、VLをコードした遺伝子を取得する。
【0118】
また、ファージディスプレー法を用いることも可能である。ファージディスプレー法では、まず、VH、VLまたはそれら含む複合体(例えば、Fab、scFv)をコードした遺伝子ライブラリーを、ファージ外殻タンパクをコードした遺伝子と結合し、ファージミドライブラリーを作製する。次に、それらを大腸菌に形質転換し、種々のVHまたはVLを外殻タンパクの一部として有するファージとして発現させる。それらのファージを用いて、上記同様にして標的物質に対する結合性により所望のVH、VLまたはそれら含む複合体を選択する。ファージに融合タンパクとして提示されたVHまたはVLをコードする遺伝子は、ファージ内にファージミドにコードされているのでDNAシークエンス解析をすることにより、特定することができる。もちろん、ファージディスプレー法と同等の選択方法も適用できる。
【0119】
さらに、本発明の標的物質に対して結合能を有する非抗体構造の標的物質捕捉タンパク質、例えばアンキリン、アフィリンなども上記選択方法を用いて選択することができる。更には、標的物質にて免疫した動物から目的の抗体を産出する細胞を採取し、上記と同じプライマーを使用し、VHまたはVLの塩基配列及びアミノ酸配列を特定することができる。
【0120】
また、本発明の第二のドメイン、第四のドメインは標的物質に対して既知の抗体及び抗体断片の可変領域のアミノ配列を元に設計することができる。また、標的物質に対する抗体または抗体断片が未取得の場合、これに対する抗体を取得した後にアミノ酸配列を解析することにより、前記と同様にして設計することも可能である。前記第三のドメインと前記第四のドメインが供に本発明の金結合性タンパク質を構成するドメインであってもよい。このようにして、得られたVHまたはVLの塩基配列を用いて、本発明の光架橋基認識複合タンパクを作製することが可能である。
【0121】
・光架橋基を有する被結合対象物
免疫やパニング等により光架橋基認識複合タンパク質を選択する際に用いる被結合対象物としては、先に抗光架橋基抗体の場合に例示したものが利用できる。
【0122】
・基体及び構造体
本発明に係る光架橋基認識複合タンパク質は、基体との組み合わせることで種々の用途に利用できる構造体を得ることができる。この用途に利用できる基体としては、先に抗光架橋基抗体の場合に例示したものが利用できる。
【0123】
・標的物質
本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質を、光架橋基と結合性を有するドメインと、標的物質に対して結合性を有するドメインとが含まれるように構成することで、標的物質検出用の複合タンパク質として利用することが可能となる。この検出対象としての標的物質としては、抗原抗体反応を用いた各手法によって抗原となり得る物質であれば如何なる分子も用いることが可能である。例えば、標的物質は、非生体物質と生体物質に大別される。
【0124】
本発明に用いることのできる標的物質としての非生体物質、生体物質または具体的なタンパク質の例示は、特開2005−312446号公報の段落0108〜0111に開示されているものが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0125】
・標的物質検出用キット
本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質を用いて標的物質検出用のキットを構成することができる。例えば、第二ドメイン及び必要に応じて用いられる第四ドメインに標的物質に対して特異的に結合する抗体又はその変異体を用いた光架橋基認識複合タンパク質を用いる。この光架橋基認識複合タンパク質と、光架橋基を含む表面を有する基体と、必要に応じて、基体上に光架橋基認識複合タンパク質を介して固定された標的物質を検出するための検出手段と、を含む標的物質検出用のキットを構成することができる。光架橋基を含む基体上に光架橋基認識複合タンパク質を介して固定された標的物質の検出には、例えば、前記基体が金基板であり、その基板表面に光架橋基を設けていれば、前述の表面プラズモン共鳴測定装置を用いて測定することが可能である。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。下記に示す実施例において本発明タンパク質を光照射により光架橋する工程以外は、基本的に暗室またはイエローカーテン内で操作を行うことができる。
【0127】
実施例1(免疫原のマウスへの免疫)
本発明における抗光架橋基抗体を取得するため、免疫原として4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−KHL conjugate (株式会社矢内原研究所製)を用いてマウスに6回免疫した。免疫する前の免疫原溶液の取扱いはイエローカーテン内で行った。
【0128】
一回目の免疫は次の手順で行った。まず、2mg/ml免疫原溶液0.7ml(免疫原1.4mg)にフロイント完全アジュバント(CALBIOCHEM社製 Code No.344289)0.7mlを加えて、ジョイントで連結させた注射筒内で約10分間混合しエマルジョンを作製した。次に、このエマルジョン0.2ml(0.2mg)をマウス(Balb/c、♀、7週齢)1匹の腹腔内に免疫した。合計5匹のマウスに免疫を行った。
【0129】
2〜6回目の免疫は次の手順で行った。まず、1mg/ml免疫原溶液0.7ml(免疫原0.7mg)にフロイント不完全アジュバント(DIFCO社製 Code No.263910)0.7mlを加えて、ジョイントで連結させた注射筒内で約10分間混合しエマルジョンを作製した。次に、このエマルジョン0.2ml(0.1mg)をマウス1匹の腹腔内に免疫した。4回免疫後12日目及び5回免疫後7日目に部分採血して抗血清を取得し、抗体価測定に用いた。
【0130】
実施例2(抗血清の抗体価測定)
下記(1)、(2)の異なる方法により、実施例1で部分採血したサンプルの抗体価を従来既知のELISA法により測定した。また、下記に示す操作のすべては可能な限り暗所にて行った。
(1)ヤギ抗マウスIgG(Fc)抗体固定による測定法
抗原サンプルとして、4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoyl−Arg−Arg−NHNH−biotin(株式会社矢内原研究所製)を用いた。ヤギ抗マウスIgG(Fc)抗体を固相化した96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに、以下の各成分を添加した。
(1)0.01ng/ml〜10μg/mlに希釈した抗原サンプル溶液50μl
(2)2000〜1600倍希釈した抗血清(4回及び5回免疫後部分採血抗血清)50
μl
その状態で、室温で3時間反応させた。次に、96ウェルタイタープレートを洗浄後、3000倍に希釈したSA−HRP溶液(ONCOGENE社製 Cat No.OR03L)100μlを分注し室温で2時間反応させた。更にプレートを洗浄して基質溶液(OPD;SIGMA社製 Cat No.UK−B25)100μlを分注し室温で20分間反応させた。最後に2N硫酸溶液100μlを加えて反応を停止し、OD492nmの吸収をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0131】
マウス(mouse)No.1〜5の4回免疫後部分採血した抗血清のビオチン標識体を用いた抗体価測定結果を図9中の(1−1)、(2−1)及び(3−1)、並びに図10中の(1−1)及び(2−1)に示した。また、マウスNo.1〜5の5回免疫後部分採血した抗血清のビオチン標識体を用いた抗体価測定結果を図9中の(1−2)、(2−2)及び(3−2)、並びに図10の(1−2)及び(2−2)に示した。また、4回及び5回免疫後部分採血抗血清を比較して、いずれのマウスの抗体価もほぼ同じであった。マウスNo.3が最も高い抗体価を示し、以下No.2、No.4、No.1、No.5の順で高かった。これらの図9及び図10中、−●−は×2000の場合を、−■−は×4000の場合を、−▲−は×8000の場合を、−○−は×16000の場合を示す。
【0132】
(2)抗原固定による測定法
抗原サンプルとして、4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−BSA conjugate (株式会社矢内原研究所製)を用いた。まず、0.1M NaHCO3溶液を用いて1μg/mlの抗原サンプル溶液を調製し、96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに0.1mlずつ添加し、4℃で一晩静置した。溶液を捨てブロックエース(4倍希釈液)0.3mlを分注し、4℃更に一晩静置し、プレート内の溶液を除きデシケーター内で2日間乾燥させ抗原サンプルを固相化した96ウェルマイクロタイタープレートを作製した。使用まで4℃で保存した。上記プレートのウェルに3000〜375000倍希釈した抗血清(4回及び5回免疫後部分採血抗血清)100μlを添加し、室温で3時間反応させた。次に、96ウェルタイタープレートを洗浄後、10000倍に希釈したヤギ抗マウス抗体―HRPコンジュゲート(conjugate)溶液(ICN社製 Code No.674281)100μlを分注し室温で2時間反応させた。更にプレートを洗浄して基質溶液(OPD;SIGMA社製 Cat No.UK−B25)100μlを分注し室温で20分間反応させた。最後に2N硫酸溶液100μlを加えて反応を停止し、OD492nmの吸収をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0133】
マウスNo.1〜5の4回免疫後部分採血した抗血清のBSAコンジュゲート固相化プレートを用いた抗体価測定結果を図11中の(1)に、5回免疫後部分採血した抗血清のビオチン標識体を用いた抗体価測定結果を図11中の(2)に示した。いずれのマウス抗血清もBSAコントロール(BSA control)プレートにはほとんど反応しなかった。また、4回及び5回免疫後部分採血抗血清を比較して、いずれのマウスの抗体価もほぼ同じであった。マウスNo.5が最も高い抗体価を示し、以下No.4、No.3、No.2、No.1の順で高かった。
【0134】
実施例3(ハイブリドーマの作製(細胞融合))
実施例2の部分採血抗体価測定の結果より、マウスNo.3及びNo.5をハイブリドーマ作製のサンプルとした。まず、5cmシャーレに培養液(RPMI 1640: ICN社製)5mlを加え、火炎滅菌したスチールメッシュを入れた。マウスより摘出した脾臓をメッシュ上で磨り潰し、単離脾細胞を得た。脾細胞を50ml遠心チュ−ブに移し、20mlの培養液で2回洗浄した。あらかじめ培養してあるP3U1ミエローマ細胞を20mlの培養液で2回洗浄した。それぞれの細胞数をカウントし、脾細胞とミエローマ細胞を10:1の割合で混合し、遠心した。細胞沈査にPEG溶液HYBRI−MAX(SIGMA社製)2mlを30秒間かけて加えた後、30秒間ゆっくりと混合した。培養液5mlを2分間かけて加え、さらに培養液5mlを加えた。そして、37℃で3分間インキュベートした。その後、800rpmで5分間遠心した。細胞沈査にHAT培地(invitrogen社製)をゆっくりと加え、脾臓細胞数で2〜3×105/0.2ml/wellに調整した。その後更に、96ウェル培養用プレートの各ウェルに0.2mlずつ分注した。その後、CO2インキュベーター内で10日間培養して、細胞融合を完了した。
【0135】
実施例4(スクリーニング&抗体価測定)
実施例2の(2)に記載の抗体価測定法と同様に実施例3で得たハイブリドーマに関して測定を行い、抗体価の上昇確認することでハイブリドーマのスクリーニングを完了した。2次スクリーニングまで行い抗体価の高いハイブリドーマ細胞を得た。その結果、マウスNo.3より4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−BSA conjugateを固相化したプレートに反応する抗体を産生するハイブリドーマ2株、マウスNo.5より4株の計6株を得た。得られたハイブリドーマ株6種類の名を6H11−F11F4、6C9−A5B10、6A8−1C6−1B6、1E2−2H6−1A9、4G2−1E10−1F10、3E12−1B6−1A5と定めた。
【0136】
実施例5(クローニング(二回)及び腹水の作製)
マウスの胸腺を摘出し、胸腺細胞を調製した。胸腺細胞を培養液で5×106細胞/mlに調整し、その100μlを96ウェル培養プレートの各ウェルへ入れた。実施例4の2次スクリーニングで選択したハイブリドーマ細胞をそれぞれ培養液で10細胞/mlに希釈し、その細胞希釈液100μlを上記調製した培養プレートの各ウェルへ入れた。10日間培養後各ウェルのコロニーを観察し、1コロニーのみのウェルを確認した。次に培養上清を回収し、抗体価の測定方法により陽性ウェルをO.D.値の高いものより順次選択した。クローン細胞約5×106個をあらかじめプリスタン0.5mlを腹腔内に投与したヌードマウス2匹ずつに投与し、約10日後より腹水を採取した。
【0137】
実施例6(モノクローナル抗体の精製)
実施例5で得た腹水に脱脂処理を行い、等量の硫酸アンモニウムを徐々に滴下した後、4℃で1時間放置した。懸濁液を3500rpmで30分遠心し、上清を除いた後沈査を元の腹水量のダルベッコPBS(−)(日水製薬株式会社)に溶解した。生理食塩水(5L×2)で透析し、−30℃で凍結保存した。実施例5で各種ハイブリドーマから得られたモノクローナル抗体名もハイブリドーマ株と同様の名前とし、各々の採取腹水量と抗体精製量について表1に示した。
【0138】
【表1】
【0139】
実施例7(モノクローナル抗体のアイソタイプ決定)
精製したモノクローナル抗体のアイソタイプをMouse Antibody Isotyping Kit(大日本製薬株式会社:Code No.MMT1)を用いて決定した。培養液150μlをキット添付のチューブへ入れ、30秒間静置した後、攪拌した。キット添付のスティックをチューブに入れ反応した。各抗体のアイソタイプを表1にまとめた。取得したすべてのモノクローナル抗体はIgMであり、詳細として、3E12−1B6−1A5は、IgM(λ)であり、その他抗体6H11−F11F4、6C9−A5B10,6A8−1C6−1B6、1E2−2H6−1A9、4G2−1E10−1F10はIgM(κ)であった。
【0140】
実施例8(精製モノクローナル抗体の反応性)
実施例2の(2)に記載の抗体価測定法と同様に行い抗体の反応性を評価した。実施例2における抗血清の代わりに実施例6で得た精製モノクローナル抗体6種類について濃度希釈系列を作製し、測定をした。その結果、図12〜14に示すとおり、6種類すべてのモノクローナル抗体において、BSAコントロールプレートではほとんど反応せず(○)、抗原提示BSAプレートにおいて濃度に依存して有意に反応する(●)ことが解った。
【0141】
実施例9(抗体可変部位遺伝子配列解析)
(1)Total RNAの調製
実施例4で得たハイブリドーマ細胞6種の内、3種類(1E2−2H6−1A9、6A8−1C6−1B6、6C9−A5B10)のモノクローナル抗体について遺伝子解析を行った。以下の実施例において、上記3種の産生するモノクローナル抗体を改めてPM1、PM2、PM3と命名した(同順)。PM1及びPM2を産生する2種のハイブリドーマ細胞を1種毎に回収し処理した後、それぞれについてTrizol試薬(Invitrogen社製)中において、ホモジナイズにより破砕した。以降の操作は、Trizol試薬のプロトコールに準じた条件で作業を行い、Total RNAの抽出・精製を行った。Total RNAをDNase I(タカラバイオ)で処理し、残存するDNAを分解した後、精製した。
(2)RT−PCR反応
(1)で調製したTotal RNAを鋳型にして、RT−PCR反応を行った。RT反応には、High Fidelity RNA PCR Kit(タカラバイオ)を使用して、PCRにはTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ)を使用した。RT反応に用いた各H鎖、L鎖増幅用primerは、Mouse scFv Module Recombinant Phage Antibody system(アマシャムバイオサイエンス)添付のPrimerセット(Light Primer Mix(アマシャム 27−1583−01)、Heavy Primers(アマシャム 27−1586−01))を用いた。以下に反応組成と反応条件を示す。
<RT反応液組成>
2×Bca 1st Buffer 10.0μl
25mM MgSO4 4.0μl
dNTP Mixure 1.0μl
RNase Inhibitor 0.5μl
Bca PLUS RTase 1.0μl
Oligo dT−Adaptor Primer FB 1.0μl
RNA 1.0μl
RNase Free H2O Up to 20.0μl
<RT反応条件>
65℃ 1min.
30℃ 1min.
30→65℃ 15min.(30℃→65℃を15分かけて行った)
65℃ 30min.
98℃ 5min.
5℃ 5min.
< PCR反応液組成>
10×Ex Taq Buffer 2.0μl
2.5mM dNTPs 1.6μl
Primer(注)
RT Product 1.0μl
Ex Taq(5U/μl) 0.1μl
RNase Free H2O Up to 20.0μl
(注)L鎖を増幅する場合、Light Primer Mix(アマシャムバイオサイエンス)を0.8μl、
H鎖を増幅する場合、Heavy Primer1,2(アマシャムバイオサイエンス)を各0.4μl添加した。
【0142】
<PCR反応条件>
96℃ 5min.
94℃ 30sec.→55℃ 30sec.→72℃ 1min. 30サイクル
72℃ 5min.
4℃
RT―PCR反応液を1%アガロース電気泳動によりcDNA由来の増幅をすべて確認した。
【0143】
(3)TAクローニング
RT−PCR反応により得られた各増幅産物をゲルから切り出し、MinEluteGel Extract Kit(キアゲン)を用いてプライマーを除去して精製した。精製物を、DNA Ligation Kit v2.1(タカラバイオ)を用いて、pT7 Blue−T vector(タカラバイオ)とライゲーション反応を行った。その後、ライゲーション産物を用いて大腸菌DH5α(タカラバイオ)を形質転換した。得られた白コロニーについて、ベクター上のプライマー(M13−47、RV−M(タカラバイオ))を用いてころにーPCRを行い、推定分子量の増幅産物が確認されたそれぞれ8クローンをシークエンス解析に使用した。
【0144】
(4)シークエンス解析
選択したクローンについてプラスミドDNAを調製し、M13−47およびRV−Mプライマーを使用してシークエンス解析を行った。シークエンス反応には、BigDye Terminator v1.1 CycleSequencing Kit(Applied Biosystems)を使用し、Kit添付のプロトコールに準じた条件で反応を行った。シークエンス反応物は、Sephadex G50 Fineを用いてゲルろ過精製した。精製物を用いてABI PRISM3100を用いて電気泳動を行い解析し、ハイブリドーマ2種が産生するモノクローナル抗体(PM1、PM2)の各抗体可変領域(VH、VL)の塩基配列を決定した。(PM1−VH 配列番号:13、PM1−VL 配列番号:14、PM2−VH 配列番号:15、PM2−VL 配列番号:16)
実施例10(細胞寄託)
前記PM1、PM2、PM3モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関して、特許生物寄託センターに寄託を行い、各々受託番号FERM P−20855(FERM BP−10762)、FERM P−20856(FERM BP−10763)およびFERM P−20857(FERM BP−10764)を得た。また、4G2−1E10−1F10、6H11−F11F4を産生するハイブリドーマに関して、特許生物寄託センターに寄託して、各々受託番号FERM BP−10825及びFERM BP−10826を得た。
【0145】
実施例11(精製抗体の光架橋効果評価)
実施例6で精製したモノクローナル抗体(PM1、PM2、PM3)を実施例2の(2)に記載の抗体価測定法と同様にして作製した抗原サンプルを固相化したプレートに分注する。なお、抗原サンプルは、4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid−BSA conjugateである。分注後、室温で3時間反応させる。次に、96ウェルタイタープレートを洗浄後、UVクロスリンカー CL−1000L(フナコシ)で上記プレートに365nm波長の光を20mW/cm2程度照射する。その後、洗浄と光照射を4回繰り返し行う。更に、各工程のプレートに、それぞれ10000倍に希釈したヤギ抗マウス抗体―HRPコンジュゲート溶液(ICN社製 Code No.674281)100μlを分注する。分注後、室温で2時間反応させる。更にプレートを洗浄して基質溶液(OPD;SIGMA社製 Cat No.UK−B25)100μlを分注し、室温で20分間反応させる。最後に2N硫酸溶液100μlを加えて反応を停止し、OD492nmの吸収をマイクロプレートリーダーで測定する。対照実験として光照射をせず同数洗浄したプレートを用意する。結果として、MP1〜3のすべてのモノクローナル抗体において、光照射したプレートはほぼ100%抗体が保持されているのに対して光照射しない対照プレートでは洗浄により脱落していく様子が見える(図15)。
【0146】
実施例12(光架橋基およびHEL認識複合タンパク質の取得)
(1)抗光架橋基抗体可変領域VHコード核酸断片の調製
抗光架橋基抗体可変領域VH(PM2−VH 配列番号:15)の5末端側に制限酵素NcoI切断部位、3’末端側に制限酵素NheIを配置したベクター導入用の抗光架橋
基抗体可変領域VH(以下、VHp)を作製する。そのために、プライマーとして、以下のものを用意する。
PM2−VH−F(配列番号:17):
5’−NNNNNCCATGGCCCAGGTGCAGCTGCAGGAGCTGGG−3’
PM2−VH−B(配列番号:18):
5’−NNNNNGCTAGCTGAGGAGACGGTGACCGTGG−3’
【0147】
上記のプライマーセットを用いて市販のPCRキットを当業者の推奨する調合にてPCRを行い、約350bpの塩基対を得る。上記VHB−Fを使用し、市販のシークエンス反応キットと反応液組成によりBigDye−PCR反応を行った。温度サイクルは96℃×3min→(94℃×1min→50℃×1min→68℃×4min)×30cycle→4℃とする目的のVHをコードする塩基配列を有する断片が得られたことを確認する。
(2)抗光架橋基抗体可変領域VLコード核酸断片の調製
抗光架橋基抗体可変領域VL(PM2−VL 配列番号:16)の5末端側に制限酵素NheI部位及びリンカー(GGGGS)をコードする核酸、3’末端側にHis×6の
上流に制限酵素SacIIを配置したベクター挿入用の抗光架橋基抗体可変領域VL(以下、VLp)を作製する。そのために、プライマーとして以下のものを用意する。
PM2−VL−F(配列番号:19):
5’−NNNNNGCTAGCGGTGGCGGTGGCTCTGATATCGTCCTGACCCAGAGC−3’
PM2−VL−B(配列番号:20):
5’−NNNNNCCGCGGATTTCAGCTCCAGCTTGGTCC−3’
【0148】
これらのプライマーを使用する以外は、(1)と同様にして核酸断片を得て、目的のVLの塩基配列を有することを確認できる。
【0149】
実施例13(発現ベクター作製)
上記2種の核酸断片用いてを2つの発現ベクターを以下の構成で構築する。
(1)VHp−VLh発現用ベクター(pPHEL)の作製
(i)VHpの挿入
特開2005−312446号公報に開示されているベクターpGHEL(金結合性VH−HyHEL10認識VL)を、制限酵素NcoI/NheI(ともにNew England Biolabs社)で切断する。得られた断片混合物を、スピンカラム400HR(アマシャムバイオサイエンス)で処理する。次に、同様に実施例12で増幅したPCR産物(VHp)を制限酵素NcoI/NheIにて切断する。得られた切断断片を、市販のゲル精製キット(SV Gel and PCR Clean−up system: Promega社)を使用して精製する。上記二つの断片を、市販のT4リガーゼキット(Roche社)を業者推奨の方法にて調合しライゲーションを行う。ライゲーション溶液をJM109コンピテントセル(Promega社)40μLにヒートショック法により形質転換する。その後、LB/アンピシリン(amp.)プレートに撒き、37℃にて一晩静置する。次に、プレート中から任意のコロニーをLB/amp. 3mL液体培地に植え継ぎ、37℃にて一晩振盪培養を行う。その後、市販のMiniPrepsキット(Plus Minipreps DNA Purification System:Promega社)を使用して、プラスミドを回収する。得られたプラスミドを、MP1−VH−Fと−Bを使用して前記シークエンス方法にて塩基配列を確認したところ、目的の断片が挿入されていることを確認することができ、結果として抗光架橋基抗体可変領域VH−HyHEL10認識VLコンストラクトが得られる。
【0150】
(2)VHh−VLp 発現用ベクター(pHPHOTO)の作製
(ii)VLpの挿入
特開2005−312446号公報に開示されているベクターpHGOLD(HyHEL10認識性VH−金結合VL)を、制限酵素NheI/SacII(ともにNew England Biolabs社)で切断する。得られた断片混合物を、スピンカラム400HR(アマシャムバイオサイエンス)で処理する。次に、同様に実施例12で増幅したPCR産物(VLp)を制限酵素NheI/SacIIにて切断する。得られた切断断片を市販のゲル精製キット(SV Gel and PCR Clean−up system: Promega社)を使用して精製する。上記二つの断片を、市販のT4リガーゼキット(Roche社)を業者推奨の方法にて調合しライゲーションを行う。ライゲーション後、前記のように形質転換を行う。得られたプラスミドが目的のVHh−VLp発現用ベクターpHPHOTOであることを(1)と同様にして確認する。(確認用プライマーは、MP1−VL−F、−B)
実施例14(タンパク発現及び精製)
上記実施例13の(i)で得られたVHp−VLh、及び実施例13の(ii)で得られたVHh−VLpのポリペプチドを発現する発現ベクターを用いて、個別の系において以下に記すタンパク発現及び精製工程を行う。そうして、それぞれポリペプチド鎖VHp−VLh及びVHh−VLpとして取得する。下記に示すリフォールディング完了以降は暗所またはイエローカーテン内で操作を行う。
1)形質転換
上記2つの発現ベクターを用いて、それぞれ異なる大腸菌BL21株を形質転換する(BL21(DE3)コンピテントセル溶液40μL)。形質転換は、ヒートショック(氷中→42℃×90sec→氷中)でおこなう。ヒートショックにより形質転換した上記BL21溶液にLB培地750μLを加え、一時間37℃にて振盪培養を行った。その後、6000rpm×5分間遠心を行い、培養上清650μLを廃棄し、残った培養上清と沈殿となった細胞画分を攪拌し、LB/amp.プレートに撒き、一晩37℃にて静置する。
2)予備培養
プレート上のコロニーを無作為に選択し、3.0mL LB/amp.培地にて28℃にて一晩振盪培養を行う。
3)本培養
上記予備培養溶液を2×YT培地 750MLに植え継ぎ、更に培養を28℃にて継続した。OD600が0.8を越えた時点で、終濃度が1mMとなるようにIPTGを加え、更に28℃にて終夜培養を行う。
4)精製
目的のポリペプチド鎖を不溶性顆粒画分から以下の工程により精製する。
(i)不溶性顆粒の回収
上記3)で得られた培養液を6000rpm×30minにて遠心し、沈殿を菌体画分として得る。得られた菌体をトリス溶液(20mM トリス/500mM NaCl)15mlに氷中にて懸濁する。得られた懸濁液をフレンチプレスにて破砕し、菌破砕液を得る。次に、菌破砕液を12,000rpm×15minで遠心を行い、上清を除き、沈殿を不溶性顆粒画分として得る。
(ii)不溶性顆粒画分の可溶化
上記(i)で得られた不溶性画分を6M 塩酸グアニジン/トリス溶液10mLを加えて、一晩浸漬する。次に、12,000rpm×10minで遠心し、上清を可溶化溶液として得る。
(iii)金属キレートカラム
金属キレートカラム担体として、His−Bind(Novagen社製)を用いる。カラム調製やサンプル負荷、及び洗浄工程は、前記業者の推奨方法に準拠し、室温(20℃)にて行う。目的であるHisタグ融合のポリペプチドの溶出は60mMイミダゾール/Tris溶液にて行う。溶出液のSDS−PAGE(アクリルアミド15%)の結果、単一バンドであり、精製されていることを確認する。
(iv)透析
上記溶出液に対して、外液を6M塩酸グアニンジン/Tris溶液として4℃にて透析を行い、溶出液中のイミダゾールの除去を行い、上記それぞれのポリペプチド鎖溶液を得る。
(v)リフォールディング
上記と同様にして、VHp−VLh及びVHh−VLpのそれぞれのポリペプチド鎖溶液を以下の工程により別個に、脱塩酸グアニンジンを透析(4℃)にて行いながらタンパク質のリフォールディングを行う。
(a)6M塩酸グアニジン/Tris溶液を用い、それぞれのポリペプチド鎖のモル吸光係数とΔO.D.(280nm−320nm)値から濃度7.5μMのサンプル(希釈後体積10ml)を調製する。次にβ−メルカプトエタノール(還元剤)を終濃度375μM(タンパク濃度50倍)になるよう添加、室温、暗所で4時間還元を行う。このサンプル溶液を透析バック(MWCO:14,000)に入れ、透析用サンプルとする。
(b)透析外液を6M塩酸グアニンジン/トリス溶液として、透析サンプルを浸漬し、緩やかに攪拌しながら6時間透析する。
(c)外液の塩酸グアニジン濃度を3M、2Mと段階的に下げる。それぞれの外液濃度において、6時間透析する。
(d)酸化型グルタチオン(GSSG)を終濃度375μM、L−Argを終濃度0.4M)となるようにトリス溶液に加え、上記(c)の2Mの透析外液を加え、塩酸グアニジン濃度が1Mとし、pHをNaOHで、pH8.0(4℃)に調製した溶液にて、12時間緩やかに攪拌しながら透析する。
(e)上記(d)と同様の作業にて塩酸グアニジン濃度0.5Mの含L−Argトリス溶液を整し、更に12時間透析する。
(f)最後にトリス溶液にて12時間透析する。
(g)透析終了後、10000rpmで約20分遠心分離し凝集体と上清を分離する。
(vi)2量化画分の精製
上記(v)で得られた個々の5μMポリペプチド(VHp−VLh、VHh−VLp)溶液を混合し、4℃にて一晩する。次に、セファデックス75カラム(カラム:バッファー 20mM トリス、500mM NaCl、流速 1ml/min)にて二量体化した60kDa相当(インジェクションから約18分)のフラクションを得る。これを相互作用測定用サンプルとする。
【0151】
実施例15(QCM金基板への光架橋基およびHEL認識複合タンパク質の光架橋固定)
水晶発振子マイクロバランス(QCM)により、本複合タンパク質の固定能と標的物質としてのHELの結合能を評価できる。QCM装置として、AFFINIXQ(イニシアム社製)を用いる。
i)基板の前処理
まず、QCM発振子(イニシアム社製)の金電極上をピランハ溶液(過酸化水素水:濃硫酸=1:3)で5分間×2回洗浄し、蒸留水で再度洗浄し、1mMジチオジプロピオン酸エタノール溶液に発振子を浸す。蒸留水で洗浄後、100mg/mlEDC(1−3−(Dimethylaminopropyl)−3−ethylcarbodiimide hydrochloride)水溶液および100mg/mlNHS(N−Hydroxysuccinimide)水溶液を等量混合する。発振子表面に得られた混合液の100μlをキャストし20分放置する。そして、1mMHEPESバッファー(pH8.5)で発振子を洗浄後、0.15mg/mlストレプトアビジン水溶液を発振子表面にキャストし、1時間以上放置する。更にバッファーで洗浄後、1Mエタノールアミン水溶液100μlを発振子表面にキャストし20分放置し、最終的に結合評価に使用するバッファーPBS(pH7.4)に置換する。
【0152】
ii)光架橋基およびHEL認識複合タンパク質の固定
上記前処理をした発振子表面に4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoyl−Arg−Arg−NHNH−biotin溶液(1mg/ml)100μlをキャストし1時間以上放置する。バッファーで洗浄後、実施例14で作製した光架橋基およびHEL認識複合タンパク質を100μlキャストし、UVクロスリンカー CL−1000L(フナコシ)で365nm波長の光を20mW/cm2程度照射する。AFFINIXQに上記発振子を接続し、PBSバッファーが入っているガラスセルに浸し、振動数を安定化させる。光照射により複合タンパク質は架橋固定するので振動数の変化がほとんどないことが確認できる。
【0153】
また、もう一つの固定方法として、上記i)のEDC/NHS処理した発振子に4−(1−Azi−2,2,2−trifluoroethyl)benzoic acid BSA conjugate溶液(1mg/ml)100μlをキャストし1時間以上放置する。バッファーで洗浄後、実施例14で作製した光架橋基およびHEL認識複合タンパク質を100μlキャストし、UVクロスリンカー CL−1000L(フナコシ)で365nm波長の光を20mW/cm2程度照射する。AFFINIXQに上記発振子を接続し、PBSバッファーが入っているガラスセルに浸し、振動数を安定化させる。光照射により複合タンパク質は架橋固定するので振動数の変化がほとんどないことが確認できる。
【0154】
実施例16(QCMによるHEL結合評価)
前記ガラスセルに最終濃度が50nM、200nM、500nMになるようにHEL溶液を添加し、10分後の各々周波数の変化を測定し、回帰線から反応速度定数を算出する。その結果、両固定法ともHELの結合力が十分に保持されていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明によれば、光架橋基に対する結合部位を一以上有し、且つ標的物質に対する結合部位を有する光架橋基認識複合タンパク質、及び前記光架橋基認識複合タンパク質を固定化した基体を含む構造体を提供することができる。本発明にかかる光架橋基認識複合タンパク質を基体に固定化した構造体では、基体表面に設けた光架橋基を特異的に認識する結合部位で結合し、更に光照射により共有結合的に固定化されている。その為、前記タンパク質が有する標的物質結合部位が基体に固定化されることもなく、また一度固定化されたタンパク質は基体から解離することもない。更に光架橋基認識部位の構造部により基体から間隔を確保して均質的に再現良く配向される。それにより、標的物質結合部位が基板からの結合能に対する影響を最小限に抑え、効率的かつ高配向に基板表面上に固定されたものとなる。つまり、本発明は、生体物質などの有機物を基体表面に固定化して、該有機物の有する種々の生理的機能を利用する、バイオセンサーやバイオリアクターを初めとする、各種の生体物質の機能を応用する製品の高性能化に利用可能であることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図5】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図7】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図8】本発明にかかる複合タンパク質の一例における、構造体の構成を模式的に示す図である。
【図9】実施例2で得られた結果を示す図である。
【図10】実施例2で得られた結果を示す図である。
【図11】実施例2で得られた結果を示す図である。
【図12】実施例8で得られた結果を示す図である。
【図13】実施例8で得られた結果を示す図である。
【図14】実施例8で得られた結果を示す図である。
【図15】実施例11で得られた結果を示す図である。
【図16】本発明にかかる構造体を適用し得るバイオセンサーの一例の構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0157】
1 第一のドメイン
2 第二のドメイン
3 第三のドメイン
4 第四のドメイン
5 リンカー
6 リンカー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式I(R1は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基を表す。)で表される反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなることを特徴とするタンパク質。
【化1】
【請求項2】
前記光架橋基のみを認識する抗体からなることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記抗体がFERM BP−10762、FERM BP−10763またはFERM BP−10764、FERM BP−10825またはFERM BP−10826として寄託されたハイブリドーマにより産生される請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記抗体が以下の(a)から(d)のいずれかのアミノ酸配列の組み合わせからなる相補性決定領域の組み合わせ、またはこれと機能的に同等の相補性決定領域の組み合わせを有する請求項1乃至3のいずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号:1、2および3のアミノ酸配列の組み合わせ
(b)配列番号:4、5および6のアミノ酸配列の組み合わせ
(c)配列番号:7、8および9のアミノ酸配列の組み合わせ
(d)配列番号:10、11および12のアミノ酸配列の組み合わせ
【請求項5】
前記抗体がキメラ抗体、相補性決定領域移植抗体、一本鎖抗体、またはこれらの抗体断片からなる群より選択される請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項6】
標的物質と結合し得るタンパク質であって、
前記光架橋基を少なくとも認識する第1の領域の少なくとも一つと、
前記標的物質を認識する第2の領域の少なくとも1つと、
を有し、
前記第1の領域が、請求項1乃至5のいずれかに記載のタンパク質またはその一部からなり、
前記第2の領域が認識する標的物質が、前記光架橋基と異なることを特徴とするタンパク質。
【請求項7】
タンパク質の架橋基認識能と架橋反応を利用して該タンパク質を基体に固定する方法であって、
1)基体表面に架橋基として前記反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を設ける工程と、
2)請求項1から6のいずれかに記載のタンパク質を、前記基体表面の架橋基に、該タンパク質の該架橋基認識能を利用して反応させて、該タンパク質を該基体に固定する工程と、
3)前記反応後、あるいは同時に光を照射し、前記光架橋基を利用した光架橋反応により、前記基体と前記タンパク質との間に架橋構造を形成する工程と、
を有することを特徴とするタンパク質の固定方法。
【請求項8】
基体とタンパク質を有する構造体であって、
前記基体が表面の少なくとも一部に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を有し、
前記タンパク質が請求項1から6のいずれかに記載されたタンパク質であることを特徴とする構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の構造体を有するバイオセンサー。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項11】
請求項10記載の核酸を含むベクター。
【請求項12】
標的物質を検出するための検出用キットであって、請求項8に記載の構造体を形成するための基体とタンパク質と、を有することを特徴とする標的物質検出用キット。
【請求項1】
下記一般式I(R1は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R2は、水素原子またはハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキレンオキシドにより置換されていてもよいアルキル基を表す。)で表される反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を少なくとも認識する抗体からなることを特徴とするタンパク質。
【化1】
【請求項2】
前記光架橋基のみを認識する抗体からなることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記抗体がFERM BP−10762、FERM BP−10763またはFERM BP−10764、FERM BP−10825またはFERM BP−10826として寄託されたハイブリドーマにより産生される請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記抗体が以下の(a)から(d)のいずれかのアミノ酸配列の組み合わせからなる相補性決定領域の組み合わせ、またはこれと機能的に同等の相補性決定領域の組み合わせを有する請求項1乃至3のいずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号:1、2および3のアミノ酸配列の組み合わせ
(b)配列番号:4、5および6のアミノ酸配列の組み合わせ
(c)配列番号:7、8および9のアミノ酸配列の組み合わせ
(d)配列番号:10、11および12のアミノ酸配列の組み合わせ
【請求項5】
前記抗体がキメラ抗体、相補性決定領域移植抗体、一本鎖抗体、またはこれらの抗体断片からなる群より選択される請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項6】
標的物質と結合し得るタンパク質であって、
前記光架橋基を少なくとも認識する第1の領域の少なくとも一つと、
前記標的物質を認識する第2の領域の少なくとも1つと、
を有し、
前記第1の領域が、請求項1乃至5のいずれかに記載のタンパク質またはその一部からなり、
前記第2の領域が認識する標的物質が、前記光架橋基と異なることを特徴とするタンパク質。
【請求項7】
タンパク質の架橋基認識能と架橋反応を利用して該タンパク質を基体に固定する方法であって、
1)基体表面に架橋基として前記反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を設ける工程と、
2)請求項1から6のいずれかに記載のタンパク質を、前記基体表面の架橋基に、該タンパク質の該架橋基認識能を利用して反応させて、該タンパク質を該基体に固定する工程と、
3)前記反応後、あるいは同時に光を照射し、前記光架橋基を利用した光架橋反応により、前記基体と前記タンパク質との間に架橋構造を形成する工程と、
を有することを特徴とするタンパク質の固定方法。
【請求項8】
基体とタンパク質を有する構造体であって、
前記基体が表面の少なくとも一部に架橋基として反応性フェニルジアジリン誘導体からなる光架橋基を有し、
前記タンパク質が請求項1から6のいずれかに記載されたタンパク質であることを特徴とする構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の構造体を有するバイオセンサー。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項11】
請求項10記載の核酸を含むベクター。
【請求項12】
標的物質を検出するための検出用キットであって、請求項8に記載の構造体を形成するための基体とタンパク質と、を有することを特徴とする標的物質検出用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−113654(P2008−113654A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257738(P2007−257738)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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