説明

タンパク質、核酸分子、および微生物の変性、修飾、分解、溶解、および除去のための除染液とその使用

本発明は、混入したタンパク質、核酸、および微生物を、例えば実験室のベンチ、床、機器、および器具などの表面から効率的に破壊し、除去するための界面活性物質、ビタミン、および金属イオンを含む三成分系に関する。タンパク質、核酸、および微生物を除去するためのこれら非腐食性かつ無毒性の溶液を、汚染された表面に噴霧、擦り込み、または浸漬によって塗布することで、タンパク質および核酸分子が破壊・溶解・不活化・除去される。同様に、微生物も高効率的かつ同時に死滅され、すべての遺伝情報が不活化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくないタンパク質、核酸分子、または微生物により汚染された表面を処理するための除染液に関するものである。本発明はさらに除染液の使用および適する緩衝系に関するものである。
【0002】
分子生物学の目覚しい発展により、DNA分子やタンパク質の検出および増幅に関する新たな方法および技術の重要性が強調されている(非特許文献1)。最新の実施例は、医学的診断、法医学的分析、および生物医学的研究に関する。
【0003】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の発明により、単一分子の検出も可能である。この極めて感度の高い、新しい検出法における新たな問題は、実験室、機器、または作業材料の表面が、好ましくない核酸分子、タンパク質、または微生物により汚染されることである。
【0004】
さらに微生物汚染は、例えば食品加工技術、生産施設、病院、衛生施設、そして一般家庭においても深刻な問題および商業的損失を引き起こす。
【背景技術】
【0005】
したがって、長い間にすでに多種多様な除染剤が存在し、例えば微生物に対してはホルムアルデヒド、アルコール類、フェノール類、アジ化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムのような劇薬、あるいは例えば次亜塩素、漂白物質、または鉱酸のような強力な酸化剤を使用してタンパク質を変性させ、核酸を改変する。そうすることによって、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、Klenowポリメラーゼによるニックトランスレーション、SDA(strand‐displacement amplification)法、リガーゼ連鎖反応、転写媒介性増幅、ローリングサークル型増幅、その他多数の増幅法に適合しなくなる。
【0006】
除染に使用される劇薬および強力な酸化剤は、タンパク質に永続的な修飾および変性をもたらし、二本鎖DNAを不安定化させ、そうすることによって増幅反応を阻害する。一般的に修飾および酸化損傷は、標的分子のなかでも特に反応性の高い化学基に生じる。
【0007】
したがって、現在このような劇薬の溶液は、機器、器具、および表面の水洗やすすぎに適用されている。
【0008】
これらの溶液および方法の主な欠点は、タンパク質、DNA、および微生物に対し選択作用しか示さないこと、全核酸を完全には除去しないこと、改変された分子が残存すること、機器、器具、表面、ならびに使用者の皮膚および粘膜に対して適用される化学物質が部分的にしか分解されず、腐食作用を示すことなどである。
【0009】
これらの方法の効率は、溶液中の薬剤を洗剤のような界面活性化学物質と混合することによって限定的に改善された。劇薬物や、核酸、タンパク質、および微生物の不完全な破壊および除去の問題は依然として残っている。
【0010】
記載したさまざまな商標のもとですでに利用され市販されている、DNAおよびタンパク質の混入に対する抗除染液および抗菌剤に関する製品よって、このような溶液に対する商業的関心が強調されるようになった。
【0011】
現行の従来の除染液および除染方法の欠点は、タンパク質または核酸のような様々な生体分子に対する作用が限定されている、あるいは抗菌作用しか発揮しないことと、腐食性の高い劇薬である可能性および有害な特徴により深刻な健康問題が生じることである。特に微生物の除染については、現在のところ、微生物を死滅または不活化させるものの、そのゲノム、遺伝情報、および染色体外DNA分子は不活化も分解もしない溶液しか手に入らない。
【0012】
生理的濃度(マイクロモル)のビタミンおよび抗酸化剤に二価金属イオンを加えると、核酸分子の鎖に部分的損傷および部分的切断が生じることは周知である(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。これらは、特殊な1例にしか適用され得ない、選択的かつ単発的な結果でしかない。
【0013】
現代の分子生物学および遺伝技術における最新の知見によれば、遺伝情報単独あるいは1個の遺伝子、その遺伝子断片、および特定のタンパク質であっても、疾患または望まれない、有害な遺伝情報の変化を引き起こすのに十分である。
【0014】
したがって、表面および機器からタンパク質、核酸、および微生物を効率的かつ同時に、やさしく、害を及ぼさないように除染するための、新しい改善されたプロトコル、薬剤、方法、および溶液が必要である。
【非特許文献1】Sambrook,J.他著(1989年)分子クローニング:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY.
【非特許文献2】Podiatry S.J.,Katz A.,Wang Y.,Eck P.,Kwon O.,Lee J.H.,Chen S.,Corpse C,Data A,Data SK および Levine M.(2003年)抗酸化物質としてのビタミンC:病気の予防におけるその役割の評価。J.Am.Coll.Nut.1巻,p.18‐35
【非特許文献3】Blocking O.,Virolainen E.,Fagerstedt K.V.(2003年)抗酸化物質、酸化的損傷および酸素欠乏のストレス:a Review .Annals Botany 91巻:p.179‐194
【非特許文献4】Veal J.M.,Merchant K.&Rill R.L.(1991年)フェナントロリン+銅によるDNA分裂における還元剤と1,10−フェナントロリン濃度の影響。Nucl Acids Res 19巻,No.12,p.3383‐3388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、ここに記載する発明の目的は、先行技術の現時点での制限事項および欠点を克服し、劇薬や酸化を促進する腐食性の薬剤を使用せずに、混入した基質を完全に除染するための新しい方法および溶液を開発することである。
【0016】
本発明によれば、この目的は、
a)少なくとも1種類のビタミンと、
b)少なくとも1種類の金属イオンと、
c)少なくとも1種類の界面活性化合物
による相乗作用を有する混合物を含む除染液によって達成されるものであり、このような混合物のpH値は、pH2〜pH8.5の範囲である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
天然の抗酸化物質と金属イオンおよび界面活性剤を適用することにより、予想外の、そして驚くべきことであるが、様々なビタミン、金属イオン、および洗剤を組み合わせると、核酸分子およびタンパク質に極めて迅速かつ大量の鎖切断および改変が起こることが分かった。この驚くべき効果から、これらの物質の遺伝情報およびタンパク質を不活化し、分解することで、微生物を効率的に死滅できるようになる。特に驚くべき、新しい知見は、本発明の三成分系によりpH2〜pH8.5の範囲で不活化および分解が起こり、実質的に同等の効果が得られることである。比較的穏やかなpHの範囲で作業できるため、本発明による溶液は表面の損傷を防ぎ、また、使用者の皮膚に適合している。三成分系を液体で噴霧、擦り込み、または浸漬することによってタンパク質および核酸が変性・溶解・不活化・分解・除去され、それにより微生物も高効率的に死滅される。
【0018】
本発明の有利な実施形態では、この混合物のpH値の範囲はpH3〜pH7、好ましくはpH4〜pH6であることが示される。このようなpHの範囲では、本発明による溶液は長期に渡って安定しており、核酸を極めて十分に分解できるようになる。さらに、pH4〜pH6の範囲での皮膚適合性は最適である。
【0019】
特に好適なのは、この混合物がさらに炭酸および琥珀酸誘導体を含む緩衝系を含み、それぞれが好ましくは1 mM〜500 mMの濃度である有利な実施形態である。本発明によるこの緩衝系と本発明による除染液とを使用すれば、溶解成分、具体的には酸性ビタミンにより酸性の範囲となっているこの溶液のpH値が、例えば中性または弱塩基性の範囲まで増加し得る。溶解金属イオンの沈殿は生じない。
【0020】
本発明による除染液の好適な実施形態では、本発明による溶液に含まれるビタミンやそのビタミンの塩類または酸性誘導体は、それぞれ水溶性ビタミン群から選択された1つまたは複数の化合物および/またはこれと関連のある塩類であり、好ましくはビタミンC、リボフラビン、およびナイアシンのような抗酸化の特性を有する。これらは本溶液の総量と関連して、好ましくは1 mM〜1000 mMの濃度、特に10 mM〜100 mMの濃度で使用する。
【0021】
本発明による除染液のさらに好適な実施形態では、本発明により使用される金属イオンは、元素周期表の4族および/またはI族、II族、およびVIII族の二価イオンおよび/または三価イオンの金属である。これらの金属は、塩類とその有機および/または無機の酸および塩基と組み合わせて使用される。本発明によれば、VIII族、特に鉄、コバルト、ニッケル、銅、または亜鉛から選択された1つまたは複数の化合物が好適である。これらの化合物は本溶液の総量と関連して、好ましくは1 mM〜100 mMの濃度、特に5 mM〜10 mMの濃度で使用する。
【0022】
本発明による溶液に含まれる界面活性物質は、例えば、陰イオン性、非イオン性、両性、または陽イオン性の不活性の界面活性剤またはその適切な混合物と考えられる。特に、硫酸アルキルエーテル、アルキルスルホン酸塩および/またはアリルスルホン酸塩、硫酸アルキル、両性界面活性剤、ベタイン、アルキルアミドアルキルアミン、アルキル置換アミノ酸、アルキル置換イミノ酸、アシル化アミノ酸、および両性界面活性剤混合物を使用することができる。基本的に、不活性の界面活性剤は、いずれも適している。不活性の意味は、これらの界面活性剤が、相乗作用を有する溶液とその効果を阻害あるいは低減しないことである。本発明によれば、陰イオン性および非イオン性の界面活性剤が好適である。これらは本溶液の総量と関連して、好ましくは0.1 %〜10 %(重量)の濃度、特に0.2 %〜0.5 %(重量)の濃度で使用する。
【0023】
本発明による除染液は、例えば特異的なpH値を規定する、例えばTris(Tris[ヒドロキシメチル]‐アミノメタン)、MES(2[モルフォリノ]エタンスルホン酸)、HEPES(2‐[4‐(2‐ヒドロキシエチル)‐1‐ピペラジニル]‐エタンスルホン酸)、および/またはMOPS(3‐[N‐モルフォリノ]プロパンスルホン酸)のような適切な緩衝物質など、一般的な不活性の補助物質および添加物をさらに含んでいると考えられる。この緩衝系は、本溶液の総量と関連して、1 mM〜500 mMの濃度で使用される。
【0024】
この新しい三成分系の有効作用は、様々な分離物質が単独では特殊な分解作用を呈さず、また、本発明の範囲外の成分の混合物も有効ではない、あるいは効果が限定されることが証明された通り、より驚くべきものでもある。ビタミン、金属イオン、および界面活性剤の併用、好ましくは適切な混合物の形態でのみ、相乗効果が発揮され、迅速かつ大量に生体分子が分解される。具体的には、妥当かつ好適な濃度を維持することにより、本発明による除染液の有効な活性を確保する。
【発明の効果】
【0025】
これにより、タンパク質や核酸の混入および微生物を除去するため、基本的に、あらゆる種類の表面を非常にやさしく処理することができる。
【0026】
一般的に、汚染された表面上に本発明関連溶液を噴霧または擦り込む、あるいは浸責することによって除染が達成される。表面上のタンパク質、核酸、および微生物を完全に変性、改変、分解、溶解、または除去するには、通常、室温または室温よりやや高めの温度時の滞留時間が0.5〜2分であれば十分である。しかし、適用される方法は様々なため異なる課題に適応させることができる。
【0027】
本発明の別の目的は、表面上のタンパク質、核酸分子、および微生物を浸透、改変、分解、溶解、または除去するのに本発明関連除染液を使用することである。
【0028】
炭酸および琥珀酸誘導体を含む新しい、有利な緩衝系は、特に本発明の除染液に適している。pH値がpH2〜pH8.5の様々な混合物は明るい黄色〜明るいオレンジ色の透明な、長期に渡って安定している溶液であり、図5に示した通り、pH1.5の強力な鉱酸であるリン酸0.5 Mと比較して、pH4.5〜pH6の範囲で極めて効率よくDNA分子を分解する。
【0029】
本発明による緩衝系の有利な実施形態では、炭酸および琥珀酸誘導体は、それぞれ1 mM〜500 mMの濃度で提供される。
【0030】
この緩衝系を含む溶液は、有利には、pHがpH2〜pH8.5の範囲、特にpH3〜pH7、好ましくはpH4〜pH6に調整されると考えられる。これにより、本溶液にさらに溶解される成分が損傷を受けない上に、皮膚に適合する溶液を調製することができる。
【0031】
したがって、本発明は、
a)少なくとも1種類のビタミンと、
b)少なくとも1種類の金属イオンと、
c)少なくとも1種類の界面活性物質
による混合物を含む溶液のpH値を調整する方法にも関するものであり、この場合、本発明による緩衝系により、この混合物はpH値がpH2〜pH8.5の範囲、特にpH3〜pH7、好ましくはpH4〜pH6に調整され得る。
【実施例】
【0032】
(図1)〜(図5)新しい三成分系と先行技術による従来の他の溶液によるDNA分子の効率的な分解の比較。同一量のDNAプラスミド(YEp351)を記載の溶液にて2分間処理した。次いで、そのDNA試料を変性させ、ゲル電気泳動により、アガロースゲル(1%)において一本鎖DNA分子を分離した。臭化エチジウムで染色後、記載の写真を撮影した。対照は、減菌水にて処理した正常なプラスミドDNAである。DNA鎖に切れ目を導入すると、各DNA分子のサイズおよび分子量が減少する。この効果は、対照および分子量マーカーとの比較により、ゲルにおいて確認できる。各試料には、減菌Tris緩衝液(1 mM、pH8.0)中にDNA 5 μlが存在しており、記載の溶液5 μlにて室温で2分間処理した。続いてその試料を100 mM Tris(pH12)5 μlおよびブロモフェノールブルーと混和し、95℃で5分間変性させた。この変性させた試料を速やかに4℃まで冷却し、同一量のDNA 1 μgを各レーンに流した。DNA分子は、1%アガロースゲルにおいてゲル電気泳動したのち、臭化エチジウムで染色し、写真撮影した。
【0033】
(図1)ビタミンおよび金属イオンのみと、ビタミン、金属イオン、および界面活性剤を含む三成分系による核酸分解の比較(M:DNAラダーマーカー1 kb、C:対照:DNA+減菌水5 μl、1:5 mM FeCl,2:1 mM FAD,3:1 mM FAD+1mM FeCl,4:100 mM NAD,5:100 mM NAD+5mM FeCl,6:100 mMチアミン、7:100 mMチアミン+5 mM FeCl、8:100 mMビタミンC、9:100 mMビタミンC+5 mM FeCl、10:100 mM Na‐アスコルビン酸、11:100 mM Na‐アスコルビン酸+5 mM FeCl、12:100 mMアスコルビン酸+5 mM FeCl)。いずれの試料も、0.2 %Triton X‐100および0.2 %Tween 20を含んでいた。
【0034】
(図2)ビタミンC、金属イオン、および界面活性剤を含む混合物による核酸分解に関する試験(L:ラダー1 Kb、M:DNAマーカーLambda EcoRI/HindIII、1:10 mMビタミンC、2:100 mMビタミンC、3:10 mM FeCl、4:100 mMビタミンC+10 mM FeCl、5:10 mM ZnCl、6:100 mMビタミンC+10 mM ZnCl、7:DNA‐OFFTM、C:対照:減菌水5 μl)。いずれの試料も、0.2 %Triton X‐100および0.2 %Tween 20を含んでいた。
【0035】
(図3)アスコルビン酸またはNa‐アスコルビン酸含有混合物による核酸分解の比較(M:DNAマーカーLambda EcoRI/HindIII、C:対照:減菌水 5 μl、1:DNA‐OFFTM、2:100 mM HAc+10 mM FeCl+0.2 % Triton X‐100、3:100 mMアスコルビン酸+0.2 % TritonX‐100、4:100 mMアスコルビン酸+10 mM FeSO+0.2% TritonX‐100、5:100 mMアスコルビン酸+ZnCl+0.2 % TritonX‐100、6:100 mM Na‐アスコルビン酸+0.2 % TritonX‐100,7:100 mM Na‐アスコルビン酸+10 mM FeCl+0.2 % TritonX‐ 100,8:100 mM Na‐アスコルビン酸+ZnCl+ 0.2 % TritonX‐ 100)
【0036】
(図4)鉱酸、アスコルビン酸、またはNa‐アスコルビン酸(pH6〜pH8.5)含有混合物による核酸分解の比較(M:DNAマーカーLambda EcoRI/HindIII、C:対照:DNA+減菌水 5 μl、1:RNase‐OFFTM(試料1)、2:RNase‐OFFTM(試料2)、3:DNA‐OFFTM(試料1)、4:DNA‐OFFTM(試料2)、5:0.5 M HPO、6:0.5 M HNO、7:100 mMアスコルビン酸+10 mM FeCl、8:10 mMアスコルビン酸+10 mM FeCl、9:100 mM Na‐アスコルビン酸+10 mM FeCl、10:9のみにあるようなpH6の混合物。11:9のみにあるようなpH7.1の混合物12:9のみにあるようなpH8の混合物13:9のみにあるようなpH8.5の混合物。試料5〜試料13は0.2 % Triton X‐100および0.2 % Tween20を含んでいた。
【0037】
(図5)Na‐アスコルビン酸および琥珀酸を含有する新たな緩衝系の例と鉱酸との比較。基礎混合物は、50 mMアスコルビン酸、5 mM FeCl、0.2 % Triton X‐100、およびTween 20を含む(M:DNAマーカーラダー1kb)、C:対照:DNA+無菌水5 μl、1:pH10の混合物、2:pH9の混合物、3:pH7の混合物、4:pH6の混合物、5:pH4の混合物、6:0.5 M HPO(pH1.5)、0.2 % Triton X‐100、および0.2 %Tween20。(図6)新しい三成分系による処理後に阻止されたDNA分子のPCR増幅(混合物A:100 mMビタミンC+10 mM FeCl+0.2 % Triton X‐100、および0.2 % Tween 20)。本DNA試料の様々な量(0.1〜1 ng)をPCRチューブにおいて凍結乾燥させた。その凍結乾燥させたDNAを含むPCRチューブを記載の溶液にて20秒間処理した。続いてそのチューブを減菌蒸留水100 μlで2回洗浄した。最後に、そのチューブをPCR反応混合物50 μlで充填し、PCR反応を実施した。PCR反応混合物には、対照DNA(酵母菌scIMP2遺伝子)および試験DNA(酵母菌scPCP1遺伝子)の増幅用プライマー対が含まれていた。対照DNA(1ng)はPCR反応成功を示す。試験DNAのバンドは、この遺伝子の正常なDNA分子が依然として存在していたことを示す。試験DNAが完全に除去または阻止されている場合は、増幅されたDNAバンドはゲルに存在していないはずである。1%アガロースゲルにおいてゲル電気泳動したのち、DNAを臭化エチジウムで染色し、写真撮影した。陽性対照として、従来のDNA‐OFFTMを使用した。無菌水(HO)を陰性対照とした。
【0038】
(図7)RNaseA酵素の不活化に関して先行技術と新しい三成分系とを比較した試験。同一量のRNaseA 10 μgをエッペンドルフチューブで凍結乾燥させた。次いで、各チューブを記載の溶液1 mlで処理し、20秒間ボルテックスし、最後に室温で5分間インキュベートした。続いて各チューブを減菌水1 mlで2回洗浄した。次いで大腸菌由来のtotal RNA5 μgをチューブに添加し、37℃で30分間インキュベートした。続いてtotal RNA試料とホルムアミド/ブロムフェノールブルー緩衝液とを混和し、95℃で5分間変性させた。次いで完全なtotal RNA試料5 μgをアガロースゲル(1.2%)電気泳動にかけ、分離した。臭化エチジウムで染色後、記載の写真を撮影した。未処理の対照は、正常なtotal RNAを示す。活性RNaseA存在下では、これらのRNA分子は分解される。RNaseAの完全な不活化が成功した場合、total RNA分子も正常なままである(C:total RNAの対照、1:RNase‐OFF(A)、2:RNase‐OFF(B)、3:100 mMビタミンC+10 mM FeCl+0.5 % SDSを有するアスコルビン酸混合物、4:空のレーン、5:水、6:RNase A 10 μg、7:空のレーン、C:total RNAの対照)。
【0039】
(図8)新しい三成分系による微生物内のゲノムDNAおよび染色体外遺伝物質の効率的な分解。染色体外プラスミドを有する組換え大腸菌株(YEp351)をLB amp mediumにおいて一晩増殖させた。大腸菌懸濁液から5 ul量をリゾチーム溶液5 μl(1mg/ml)にて5分間処理し、続いて記載の溶液(1〜5)5 μlにてさらに5分間インキュベートした。ブロモフェノールブルー試料をゲルのスロットに添加し、DNA分子を電気泳動により分離した。三成分系を含む試料5に関してのみ、DNA分子が大量に分解されている。減菌水(C)を有する対照および試料3ならびに試料4では細胞溶解が認められ、そのため染色体外プラスミドDNAが放出され、ゲルへ移動している。試料1および試料2では、可溶化物およびDNAが沈殿しているため、結果的に全DNA分子がゲルのスロット底に残っている。(M:マーカーラダー1 Kb、C:HOを有する対照、1:70 %エタノール、2:0.5 %BacillozidTM、3:0.5 %SDS、4:0.5 %Na‐アジ化物+0.5 %SDS、5:100 mMビタミンC+10 mMFeCl+0.5%SDS、C:対照:無菌水5 μl
【0040】
(表1)新しい三成分系の抗菌作用に関する試験。記載の微生物について新たに増殖させた培地を50 μl量中細胞数10に調製し、1:1の比率で水、70 %エタノール、または三成分系の混合物(100 mMアスコルビン酸、10mMFeCl、および0.5 %SDS)50 μlと混和した。2分間のインキュベート後、微生物を含む本試料100 ulを各培地上で平板培養した。28℃(Saccharomyces cerevisiaeおよびCandida parapsilosis)または37℃(Escherichia coliおよびBacillus subtilis)で1〜3日間のインキュベート後、増殖したコロニー数を測定した。減菌水を有する試験試料では、全ての微生物が生存していた。70 %エタノールまたは三成分系を有する試験試料では生きている細胞群体は認められず、このような条件下では全ての微生物が死滅することが示された。
【0041】
(表2)表面および機器からDNA分子を除去するための、界面活性物質、ビタミン、および金属イオンを有する溶液の好適な組成を要約する。
【0042】
図中の略語の説明一覧
amp:アンピシリン
BacillozidTM:市販の抗菌溶液
C:対照
DNase‐OFFTM:市販のDNA不活化用溶液
EtBr:臭化エチジウム
FAD:フラビンアデニンジヌクレオチド
HAc:酢酸
M:分子量マーカー
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
RNase‐OFFTM:市販のRNase不活化用溶液
RNaseA:リボヌクレアーゼA(ウシ膵臓由来)
RT:室温
sc:酵母
scIMP2:内膜のプロテアーゼ2用の酵母遺伝子
scPCP1:チトクロームcペルオキシターゼ処理用の酵母遺伝子
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
TX:TritonX‐100(非イオン性界面活性剤)
YEp351:酵母エピソーム様プラスミド
(表1)新しい三成分系の抗菌作用に関する試験。
【表1】

(表2)表面および機器からDNA分子を除去するための、界面活性物質、ビタミン、および金属イオンからなる三成分系を含む溶液の好適な組成。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0043】
本発明は、以下のパートにおいて非制限的な図、例、および表により示される。
【図1】三成分系と先行技術による従来の他の溶液によるDNA分子の効率的な分解の比較。
【図2】三成分系と先行技術による従来の他の溶液によるDNA分子の効率的な分解の比較。
【図3】三成分系と先行技術による従来の他の溶液によるDNA分子の効率的な分解の比較。
【図4】三成分系と先行技術による従来の他の溶液によるDNA分子の効率的な分解の比較。
【図5】三成分系と先行技術による従来の他の溶液によるDNA分子の効率的な分解の比較。
【図6】新しい三成分系による処理後に阻止されたDNA分子のPCR増幅
【図7】RNaseA酵素の不活化に関して先行技術と新たな三成分系とを比較した試験
【図8】新しい三成分系による微生物内のゲノムDNAおよび染色体外遺伝物質の効率的な分解

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種類のビタミンと、
b)少なくとも1種類の金属イオンと、
c)少なくとも1種類の界面活性物質
による相乗作用を有する混合物を含んでいて、前記混合物がpH2〜pH8.5の範囲であることを特徴とする、除染液。
【請求項2】
前記混合物のpH値の範囲がpH3〜pH7、好ましくはpH4〜pH6であることを特徴とする、請求項1に記載の除染液。
【請求項3】
前記混合物が炭酸および琥珀酸誘導体を含む緩衝系をさらに含み、それぞれが好ましくは1 mM〜500 mMの濃度であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の除染液。
【請求項4】
前記ビタミン、このビタミンの塩類、または酸性誘導体が、抗酸化剤の特徴を有する水溶性ビタミン群から選択される少なくとも1種類の化合物であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の除染液。
【請求項5】
使用される金属イオンが、元素周期表の4族およびI族、II族、またはVIII族から選択されることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の除染液。
【請求項6】
使用される金属イオンが、それぞれ酸または塩基由来の塩類であることを特徴とする、請求項5に記載の除染液。
【請求項7】
前記界面活性物質が、陰イオン性、非イオン性、両性、または陽イオン性の界面活性剤またはその適切な混合物の群の少なくとも1種類の化合物であることを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の除染液。
【請求項8】
a)による前記ビタミンが、1 mM〜1000 mMの濃度で使用されることを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の除染液。
【請求項9】
b)による前記金属イオンが、1 mM〜100 mMの濃度で使用されることを特徴とする、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の除染液。
【請求項10】
c)による前記界面活性物質が、本溶液の総量と関連して、0.1 %〜10 %(重量)の濃度で使用されることを特徴とする、請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の除染液。
【請求項11】
表面上のタンパク質、核酸分子、および微生物を浸透、改変、分解、溶解、または除去するための、請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の除染液の使用。
【請求項12】
炭酸および琥珀酸誘導体を含む溶液の前記pH値を調整するための、緩衝系。
【請求項13】
前記炭酸および琥珀酸誘導体が、それぞれ1 mM〜500 mMの濃度で提供されることを特徴とする請求項12に記載の緩衝系。
【請求項14】
前記緩衝系により、前記溶液のpH値の範囲がpH2〜pH8.5、特にpH3〜pH7、好ましくはpH4〜pH6に調整されることを特徴とする、請求項12または13に記載の緩衝系。
【請求項15】
a)少なくとも1種類のビタミンと、
b)少なくとも1種類の金属イオンと、
c)少なくとも1種類の界面活性物質
の混合物を含む溶液で、請求項12または請求項13に記載の前記緩衝系により、前記混合物のpH値の範囲がpH2〜pH8.5、特にpH3〜pH7、好ましくはpH4〜pH6に調整されることを特徴とする、前記pH値を調整する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−540332(P2008−540332A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508075(P2008−508075)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/DE2006/000758
【国際公開番号】WO2006/116983
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507335399)マルチバインド バイオテク ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】