説明

タンパク質の精製方法

【課題】純度が高くかつ活性を維持したタンパク質を、簡便かつ大量に精製することができるタンパク質の精製方法を開発する。
【解決手段】酸化ケイ素含有物質に吸着した、第1タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質を、2価カチオン含有溶液と接触させる工程を包含し、第1タンパク質が、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の精製方法に関するものであり、より詳細には、酸化ケイ素含有物質への吸着性を有する分子を用いた、アフィニティ精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は生体を形成する主要物質の一つであり、医薬品または医療用材料などとしても広く用いられている。用いられるべきタンパク質は、従来から様々な方法(例えば、天然の素材からのタンパク質精製)によって取得されている。近年では、各種細胞に目的のタンパク質を強制的に発現し、これによって得られたタンパク質を各種用途に用いている。しかしながら、上記従来の方法では、細胞から所望のタンパク質を精製するための複雑な工程が必要であるという問題点を有している。また、用途によっては、多量のタンパク質が必要とされる場合がある。しかし、古典的な手法ではタンパク質があまり多く取得できないという問題点を有している。
【0003】
これまでに、各種細胞にて強制的に発現されたタンパク質を容易に精製することが可能な様々な方法の開発が進められてきた。例えば、上記従来のタンパク質の精製方法としては、各種タグが連結された融合タンパク質を各種細胞にて強制的に発現し、上記タグと当該タグに対してアフィニティを有する担体との吸着作用に基づいて、融合タンパク質を精製する方法が用いられている。現在までに多くの種類のタグが開発されており、当該タグとして、例えば、GSTタンパク質、HAタグ、Flagタグ、Mycタグ、およびHisタグなどが挙げられる。
【特許文献1】WO 2007/055288 パンフレット(2007年5月18日公開)
【非特許文献1】Taniguchi, K. et al., The Si-tag for immobilizing proteins on a silica surface. Biotechnol. Bioeng. 96: 1023-1029 (2007)
【非特許文献2】Fuchs, S.M. and Raines, R.T. Polyarginine as a multifunctional fusion tag. Protein. Sci. 14: 1538-1544 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、種々のタンパク質の機能解析が行われており、複数のタンパク質の相互作用を調べるために、上述したようなタグが用いられている。このような解析は多角的に行われる必要があり、タンパク質精製に利用されるタグの種類は多ければ多いほど好ましい。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、タンパク質精製に利用可能なさらなるタグを見出し、新たなタンパク質精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、酸化ケイ素系の基板上にタンパク質を吸着させる技術について研究を進めており、酸化ケイ素含有物質に特異的に結合するタンパク質が存在することを見出している(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。また、9個のアルギニン残基(ポリアルギニンタグ)を付加したタンパク質が、酵素活性を保ったまま、ガラス表面上やシリカ樹脂に直接吸着できることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。これらの技術は、基板上へタンパク質を強固に吸着させる点において非常に優れたものである。しかし、「吸着」の面において優れているとはいえ、基板を再利用するためにタンパク質を酸化ケイ素含有物質から解離するには、強酸や強塩基を用いる必要があり、このような解離方法を採用した場合には、吸着させていたタンパク質を再利用することができなかった。すなわち、上記技術はいずれもタンパク質の回収技術として利用し得るものではなかった。
【0007】
本発明者らは、独自の観点に基づいて、酸化ケイ素含有物質に吸着したタンパク質がカチオン溶液またはアニオン溶液にて酸化ケイ素含有物質から解離するか否かを検討した。しかし、カラムクロマトグラフィーにて頻繁に用いられるNaCl水溶液をどのような高濃度で用いても、酸化ケイ素含有物質に吸着したタンパク質を酸化ケイ素含有物質から解離させることができなかった。しかし、独自の観点に基づく鋭意検討を重ねた結果、2価カチオン含有溶液を用いれば、酸化ケイ素含有物質に吸着したタンパク質を酸化ケイ素含有物質から解離させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るタンパク質の精製方法は、タンパク質の精製方法であって、酸化ケイ素含有物質に吸着した、第1タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質を、2価カチオン含有溶液と接触させる工程を包含し、第1タンパク質が、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であることを特徴としている。
【0009】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、前記融合タンパク質を酸化ケイ素含有物質に吸着させる工程をさらに包含することが好ましい。
【0010】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、前記融合タンパク質を形質転換体内で発現させる工程をさらに包含することが好ましい。
【0011】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、第1タンパク質をコードする第1のDNAに、第2タンパク質をコードする第2のDNAをインフレームで連結させる工程をさらに包含することが好ましい。
【0012】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、前記2価カチオン含有溶液が、MgCl溶液、CaCl溶液、またはNiCl溶液であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、前記2価カチオン含有溶液中の2価カチオンの濃度が、0.2M以上であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、前記第1タンパク質が、以下の(a)あるいは(b)に記載のポリペプチドであることが好ましい。つまり、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0015】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、前記第1タンパク質が、以下の(c)あるいは(d)に記載のポリペプチドであることが好ましい。つまり、
(c)配列番号45、47または49に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
(d)配列番号45、47または49に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0016】
本発明に係るタンパク質の精製方法は、タンパク質の精製方法であって、酸化ケイ素含有物質に吸着させたタンパク質を、2価カチオン含有溶液と接触させる工程を包含し、該タンパク質が、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であることを特徴としている。
【0017】
本発明に係るタンパク質の精製方法では、第2タンパク質が、前記タンパク質に融合されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係るタンパク質の精製用キットは、タンパク質の精製用キットであって、第1タンパク質をコードする第1のDNA、および第2タンパク質をコードする第2のDNAを第1のDNAにインフレームで連結させるための挿入部位を有している発現ベクターを備えており、第1タンパク質が、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であることを特徴としている。
【0019】
本発明に係るタンパク質の精製用キットでは、シリカ粒子またはシリカ基板をさらに備えていることが好ましい。
【0020】
本発明に係るタンパク質の精製用キットでは、2価カチオン含有溶液をさらに備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、新たなタンパク質精製方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは、酸化ケイ素含有物質と特異的に結合するタンパク質をこれまでに見出している(特許文献1参照)。このようなタンパク質(第1タンパク質)を介することによって、さらなるタンパク質(第2タンパク質)をその構造および機能を改変することなく酸化ケイ素含有物質に固定化し得る。今回、第2タンパク質の構造および機能を損傷することなく、酸化ケイ素含有物質からタンパク質を解離する手法を見出した。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「第1タンパク質」、すなわち「酸化ケイ素含有物質に特異的に結合するタンパク質」は、「0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質」であれば特に限定されない。また、このようなタンパク質の由来は特に限定されず、細菌、酵母、植物、動物など、いずれの生物に由来するタンパク質であってもよい。なお、説明の便宜上、第1タンパク質を、適宜「SBP」(SBPはsilicon material binding proteinの略)とも称する。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「酸化ケイ素含有物質」は、少なくとも酸素(O)とケイ素(Si)とを含有する物質であればよく、酸素およびケイ素以外の元素は特に限定されず、「酸素およびケイ素のみからなる物質」、であっても「酸素、ケイ素およびその他の元素からなる物質」であってもよい。「酸化ケイ素含有物質」としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、ガラス、石綿、石英、水晶、ケイ砂、角閃石、輝石、雲母、滑石、長石などが挙げられる。また、有機系酸化ケイ素含有物質(例えば、シリコーンなど)も「酸化ケイ素含有物質」に含まれる。
【0025】
本発明に用いられる第1タンパク質は、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であればよく、例えば、タンパク質溶液(すなわち、1種以上のタンパク質を含む溶液)に酸化ケイ素含有物質を添加し、その後酸化ケイ素含有物質を回収して0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で洗浄し、洗浄後においても酸化ケイ素含有物質に結合しているタンパク質を単離することによって、取得され得る。
【0026】
用いられるタンパク質溶液としては、例えば、細胞破砕液、ならびにファージライブラリー由来のランダムペプチドライブラリーおよび合成ペプチドライブラリーが挙げられるが、これらに限定されない。なお、このタンパク質溶液にはタンパク質以外の物質が含まれていてもよい。タンパク質溶液の調製は、用いる材料に応じて適宜公知の方法を選択すればよい。例えば細胞破砕液を調製する場合には、ホモジナイザー、超音波などにより物理的に細胞を破砕する方法、酵素や界面活性剤を用いて細胞を破砕する方法、酵素や界面活性剤と物理的方法を組み合わせて細胞を破砕する方法などを用いることができる。
【0027】
添加する酸化ケイ素含有物質は特に限定されない。例えば本発明者は、細菌由来の細胞破砕液1mlに対して10mgのケイ素粉末または5mgの石綿(クリソタイル)を添加している(特許文献1参照)。また、本発明者らは、マウス肺由来の細胞破砕液0.6mlに対して5mgの石綿(クリソタイル)を添加している(特許文献1参照)。
【0028】
タンパク質溶液に酸化ケイ素含有物質を添加した後は、当該タンパク質と酸化ケイ素含有物質との混合液を十分混和することが好ましい。混和する条件は特に限定されないが、例えば4℃で15分〜30分間転倒混和することが挙げられる。
【0029】
酸化ケイ素含有物質の回収は、例えば上記混合液を酸化ケイ素含有物質のみが沈澱する程度の回転数で遠心分離し上清を除くことにより行うことができる。また、上記混合液を適当なポアサイズのフィルターを用いてろ過することにより行うことができる。ただし、これらの方法に限定されるものではない。回収操作を行うことにより酸化ケイ素含有物質と結合していないタンパク質を除くことができる。
【0030】
洗浄は、酸化ケイ素含有物質と非特異的に結合しているタンパク質を除外するために行う。洗浄方法としては、例えば上記により回収した酸化ケイ素含有物質に0.1M塩化ナトリウムを含む溶液を加え、ピペッティング等により十分混和後、上記と同様に遠心分離やフィルターろ過を行う方法が挙げられる。この操作を数回繰り返すことにより洗浄効果が向上する。また、洗浄用の0.1M塩化ナトリウムを含む溶液を用いて上記タンパク質溶液を調製することで、洗浄効果(非特異的な結合を除外する効果)を向上させることができる。
【0031】
洗浄用の0.1M塩化ナトリウムを含む溶液は、0.1M塩化ナトリウムを含むものであれば特に限定されないが、pHが中性付近の緩衝液が好ましい。なお、「0.1M塩化ナトリウムを含む溶液」とは酸化ケイ素含有物質に非特異的なタンパク質の結合が見られる0.1M未満を排除する意図であり、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液は「0.1M塩化ナトリウムを含む溶液」に該当する。
【0032】
本発明に用いられる第1タンパク質は、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であればよいが、溶液の塩化ナトリウム濃度を高くすることにより、酸化ケイ素含有物質に対してより特異的に結合し得るタンパク質を取得することができる。例えば、シリカと特異的に結合するタンパク質を取得する場合には、0.2M塩化ナトリウムを含む溶液を用いることが好ましく、0.5M塩化ナトリウムを含む溶液を用いることがより好ましく、1M塩化ナトリウムを含む溶液を用いることがさらに好ましい。また、例えば石綿と特異的に結合するタンパク質を取得する場合には、0.2M塩化ナトリウムを含む溶液を用いることが好ましく、0.3M塩化ナトリウムを含む溶液を用いることがより好ましい。さらに、洗浄用溶液に界面活性剤を添加することで、結合特異性の高いタンパク質を取得することができる。
【0033】
本発明者は、シリカと特異的に結合する細菌由来のタンパク質を取得する際に、1M塩化ナトリウムおよび0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)を洗浄用緩衝液として用いている。また、石綿に特異的に結合する細菌由来のタンパク質を取得する際に、0.1M塩化ナトリウムおよび0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)を洗浄用緩衝液として用いている(実施例参照)。
【0034】
酸化ケイ素含有物質と特異的に結合している状態のタンパク質を酸化ケイ素含有物質から遊離させる方法としては、例えばドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いる方法、pHを低下させる方法、溶液の塩濃度を上げる(塩化ナトリウム濃度を2M程度にする)方法などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明者は、1%ドデシル硫酸ナトリウムおよび2%メルカプトエタノールを含む液を用いている(実施例参照)。
【0035】
取得した第1タンパク質の同定は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、上記により酸化ケイ素含有物質から遊離したタンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーし、膜をクマシーブリリアントブルーで染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出す。切り出したバンドのトリプシン消化物をマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOFMS)により分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析により同定することができ、公知のタンパク質データベースからアミノ酸配列を取得することができる。また、例えば、自動ペプチドシーケンサを用いてアミノ酸配列を決定することができる。
【0036】
アミノ酸配列が決定すれば、当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、公知の遺伝子データベースから取得することができる。また、当該タンパク質のアミノ酸配列に基づいて、プライマーまたはプローブを設計し、当該タンパク質コードするDNA断片をクローニングして、DNAシーケンサを用いて塩基配列を決定することができる。
【0037】
本発明に好適に用いることができる第1タンパク質としては、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、41または43に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。これらのタンパク質は、本発明者により第1タンパク質として同定されている。また、これらのタンパク質は全て公知のタンパク質であるが、酸化ケイ素含有物質と特異的に結合し得ることは本発明者が初めて見出した機能である。
【0038】
上記18種類のタンパク質のうち、配列番号1、3、5、7、9、11に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、本発明者がシリカと特異的に結合するタンパク質として同定したタンパク質であり、配列番号13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、41、43に示されるアミノ酸配列らなるタンパク質は本発明者が石綿と特異的に結合するタンパク質として同定したタンパク質である。
【0039】
また、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、41または43に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質も、本発明に好適に用いることができる。「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」については、後述する。
【0040】
本発明に用いられる第1タンパク質は、その供給源となる細胞を培養し、単離、精製することにより生産できる。また、公知の遺伝子工学的手法により組み換え発現ベクター構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組み換えタンパク質として発現させることにより生産できる。
【0041】
以下、酸化ケイ素含有物質としてシリカを用い、第1タンパク質(酸化ケイ素含有物質に特異的に結合するタンパク質)としてリボソームL2タンパク質を用いた一実施形態を例に本発明を説明するが、本発明がこの態様に限定されないことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0042】
本実施の形態のタンパク質の精製方法は、シリカに吸着した、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質を、2価カチオン含有溶液によってシリカから解離させる工程を有する方法である。つまり、本実施の形態のタンパク質の精製方法では、リボソームL2タンパク質のシリカへの吸着を2価カチオンによって特異的に解離させることによって、目的の融合タンパク質を精製している。以下に、各構成について説明する。
【0043】
リボソームL2タンパク質は、本発明者らによってシリカ(二酸化ケイ素、SiO)に特異的に吸着することが見出されたタンパク質である。なお、本明細書において、「タンパク質」は、「ポリペプチド」または「ペプチド」と交換可能に使用される。用語「タンパク質」には、タンパク質の部分断片(フラグメント)が含まれるものとする。また、用語「タンパク質」には、融合タンパク質が含まれるものとする。用語「融合タンパク質」は、2つ以上の異種タンパク質の一部(フラグメント)または全部が融合されたタンパク質である。
【0044】
上記リボソームL2タンパク質の由来は特に限定されず、細菌、酵母、植物、動物など、いずれの生物に由来するものであってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。具体的には、リボソームL2タンパク質は、以下の(a)あるいは(b)に記載のポリペプチドであってもよい:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0045】
また、リボソームL2タンパク質は、以下の(c)あるいは(d)に記載のポリペプチドであってもよい:
(c)配列番号45、47または49に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
(d)配列番号45、47または49に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0046】
なお、配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、リボソームL2タンパク質の全長に相当するポリペプチドであり、配列番号45または47にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、シリカへの吸着に必要なリボソームL2タンパク質の部分領域(それぞれ、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第1〜60位または第204〜273位)に相当するポリペプチドである。このように、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第1〜60位または第204〜273位を含んでいるタンパク質は、シリカへの吸着が保持される。すなわち、本発明に利用可能なリボソームL2タンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフラグメントであって、該フラグメントはそれぞれ配列番号1に示されるアミノ酸配列の第1〜60位または第204〜273位を含んでいる、タンパク質であるといえる。また、本発明に利用可能なリボソームL2タンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第1〜60位からなるポリペプチドと配列番号1に示されるアミノ酸配列の第204〜273位からなるポリペプチドとの融合ポリペプチド(すなわち、配列番号49に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)であってもよい。なお、本明細書中において、本発明に利用可能なリボソームL2タンパク質は、シリカへ特異的に吸着し得るポリペプチドが意図され、「シリカ結合性タグ」とも称する。また、タンパク質のシリカへの吸着を「結合」とも称する。
【0047】
ここで「1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により置換、欠失、挿入および/または付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法によって人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0048】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、当該タンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた、当該分野において周知である。好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸の置換、欠失、挿入および/または付加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。
【0049】
代表的に保存性置換と見られるものは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換を挙げることができる。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「第2タンパク質」は、主として精製対象のタンパク質が意図され、「目的のタンパク質」と交換可能に用いられる。第2タンパク質の具体的な構成としては特に限定されず、所望のタンパク質が適宜用いられ得る。
【0051】
次いで、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とを融合させる方法について説明する。
【0052】
リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とを融合させる方法は、リボソームL2タンパク質を強固に第2タンパク質に融合できる方法であればよく、その具体的な方法は特に限定されない。なお、融合部の具体的な結合様式としても特に限定されず、例えば、共有結合、疎水結合、イオン結合、水素結合、またはこれらの複数の結合様式を介して、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とが融合し得る。より強固にリボソームL2タンパク質と第2タンパク質とを融合させるという点においては、上記結合様式の中では共有結合がより好ましい。
【0053】
例えば、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とを融合させる方法としては、架橋剤を用いる方法を挙げることができる。なお、上記架橋剤としては特に限定されず、適宜公知の架橋剤を用いることが可能である。例えば、上記架橋剤としては、ジメチルスベロイミデート二塩酸塩(DMS)、スベリン酸ジ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(DSS)、酒石酸−N−ヒドロキシジスクシンイミドエステル(DST)、p−フェニレンビスマレイミド(pPDM)、メチル4−メルカプトブチルイミデート塩酸塩(MBI)、または、メチル4−アジドベンゾイミデート塩酸塩(ABI)などを用いることが好ましいが、これらに限定されない。上記構成によれば、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とを強固に融合させることができる。特に、リボソームL2タンパク質および第2タンパク質がいずれも入手容易なタンパク質である場合には、上記構成を採用することが好ましい。なお、上記架橋剤を用いてリボソームL2タンパク質を第2タンパク質に融合させる具体的な方法は、架橋剤の種類に応じて適宜公知の方法を用いればよい。
【0054】
また、発現ベクターを用いて両タンパク質を融合タンパク質として発現させることによって、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とを融合させてもよい。上記構成によれば、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とが融合した融合タンパク質を容易に作製することができ、その結果、多種類かつ多量のタンパク質を容易に精製することができる。
【0055】
上記発現ベクターの具体的な構成としては、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質とからなる融合タンパク質をコードする塩基配列を含めばよく、その他の具体的な構成は特に限定されず、宿主中で融合タンパク質を発現可能なベクターであればよい。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いて発現ベクターを作製することが可能である。
【0056】
上記発現ベクターでは、上記融合タンパク質をコードする塩基配列中にリボソームL2タンパク質をコードするタグ配列が含まれている。当該タグ配列は、以下の(e)もしくは(f)に記載のポリヌクレオチドであってもよい:
(e)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(f)配列番号2に示される塩基配列、あるいは配列番号2に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0057】
また、上記発現ベクターでは、上記融合タンパク質をコードする塩基配列中にリボソームL2タンパク質をコードするタグ配列が含まれている。当該タグ配列は、以下の(g)もしくは(h)に記載のポリヌクレオチドであってもよい:
(g)配列番号46、48または50に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(h)配列番号46、48または50に示される塩基配列、あるいは配列番号2に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0058】
なお、配列番号2にて示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、リボソームL2タンパク質の全長に相当するポリヌクレオチドであり、配列番号46または48にて示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、シリカへの吸着に必要なリボソームL2タンパク質の部分領域(それぞれ、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第1〜60位または第204〜273位)に対応するポリヌクレオチドである。また、配列番号50にて示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、リボソームL2タンパク質の上記部分領域(配列番号1に示されるアミノ酸配列の第1〜60位と第204〜273位)の融合ポリペプチドに対応するポリヌクレオチドである。
【0059】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0060】
上記ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版,J.Sambrook and D.W.Russll編,Cold Spring Harbor Laboratory,NY(2001)」に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。
【0061】
また、宿主に応じて適宜プロモーターを選択して発現ベクター中に挿入し、当該プロモーターの下流に、融合タンパク質をコードする塩基配列を挿入すればよい。
【0062】
上記発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーターおよび/または複製起点等)を含有することが好ましい。例えば、細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)を使用することが好ましく、酵母用発現ベクターのプロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、またはPH05プロモーター等を使用することが好ましく、糸状菌用発現ベクターのプロモーターとしては、例えば、アミラーゼプロモーター、またはtrpCプロモーター等を使用することが好ましい。また動物細胞用発現ベクターのプロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)を使用することが好ましい。
【0063】
発現ベクターの作製は、制限酵素および/またはリガーゼ等を用いる慣用的な手法に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主の形質転換もまた、慣用的な手法に従って行うことができる。
【0064】
上記発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては特に限定されないが、宿主として真核生物細胞を用いる場合には、ジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性遺伝子を用いることが好ましく、宿主としてE.coliおよび他の細菌を用いる場合には、テトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子を用いることが好ましい。
【0065】
上記選択マーカーを用いれば、上記発現ベクターが宿主に導入されたか否か、さらには宿主中で融合タンパク質が発現しているか否かを確認することができる。
【0066】
上記宿主としては特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞、およびBowes黒色腫細胞)などを挙げることができる。
【0067】
上記発現ベクターを宿主に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、またはDEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0068】
第2タンパク質に対するリボソームL2タンパク質の融合位置は特に限定されない。例えば、第2タンパク質のN末端に存在するアミノ酸、C末端に存在するアミノ酸、または、N末端とC末端との間に存在するアミノ酸に対してリボソームL2タンパク質を融合させることができる。上述したような発現ベクターを用いる場合には、第2タンパク質のN末端またはC末端に、リボソームL2タンパク質を融合させることが好ましい。上記構成であれば、発現ベクターの構造を簡略化させることができるとともに、当該発現ベクターに対して様々な第2タンパク質をコードする様々な塩基配列を、容易に挿入することができる。
【0069】
以上のように作製された、リボソームL2タンパク質と融合した第2タンパク質は、シリカ(二酸化ケイ素、SiO)に強固に吸着する。タンパク質が吸着するシリカの形態としては特に限定されない。例えば、上記シリカは、粒子状、基板状の形態を有することが好ましい。なお、このとき、上記粒子および基板の全体がシリカによって形成されている必要はなく、少なくともその一部がシリカによって形成されていればよい。例えば、粒子状のシリカを用いてカラムを形成すれば、より容易に第2タンパク質を精製することができる。また、粒子状のシリカを用いれば、遠心分離処理によって、シリカに吸着した状態の第2タンパク質を容易に取得することができる。また、基板状のシリカを用いれば、タンパク質を精製できるのみならず、当該基板上にタンパク質が固定化された各種基板(例えば、シリコン基板を用いる半導体基板など)をより容易に作製することができる。
【0070】
リボソームL2タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質がシリカに吸着している状態もまた、特に限定されない。例えば、融合タンパク質とシリカとを溶液中にて混合することによって、両者を吸着させることが好ましい。
【0071】
上記溶液としては特に限定されないが、例えば、高濃度のNaCl溶液であることが好ましい。溶液中のNaClの具体的な濃度としては特に限定されないが、例えば、0.5M〜5Mであることが好ましく、0.5M〜2.5Mであることがより好ましく、1M〜2Mであることが最も好ましい。上記構成によれば、非常に高いNaCl濃度の条件下にて融合タンパク質とシリカとを結合させるので、融合タンパク質以外の物質がシリカに結合することを防止することができる。換言すれば、上記構成によれば、融合タンパク質を高純度にて精製することができる。
【0072】
また、上記溶液には、界面活性剤が含まれていることが好ましい。上記界面活性剤としては特に限定されないが、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸、またはデオキシコール酸などを用いることが好ましい。上記構成によれば、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質をより高純度にて精製することができる。
【0073】
本実施の形態のタンパク質の精製方法は、シリカに吸着した、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質を2価カチオン含有溶液によって解離させる工程を有している。
【0074】
上記2価カチオン含有溶液としては特に限定されないが、例えば、MgCl溶液、CaCl溶液、NiCl溶液であることが好ましく、MgCl溶液またはCaCl溶液であることが更に好ましく、MgCl溶液であることが最も好ましい。上記構成によれば、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質を、シリカから特異的に解離させることができる。
【0075】
上記2価カチオン含有溶液中の2価カチオンの濃度は特に限定されないが、例えば、0.2M以上であることが好ましく、1M以上の濃度であることが更に好ましく、2M以上の濃度であることが最も好ましい。上記構成によれば、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質を、シリカからより効果的に解離させることができる。
上記解離させる工程の更に具体的な方法としては、例えば、遠心分離法またはカラム法を用いることができる。例えば、上記遠心分離法では、まず、融合タンパク質が吸着したシリカを2価カチオン含有溶液中に分散させる。次いで、当該分散液を遠心分離すれば、上清中に、シリカから解離した融合タンパク質を得ることができる。また、上記カラム法では、融合タンパク質が吸着したシリカによってカラムを作製し、2価カチオン含有溶液を用いて、当該カラムから融合タンパク質を溶出させればよい。
【0076】
以上のように、シリカから解離した状態の融合タンパク質を容易に入手することができる。
【0077】
シリカから解離した状態の融合タンパク質には高濃度の2価カチオン(例えば、MgCl)が含まれる。そこで、本実施の形態のタンパク質の精製方法では、目的に応じて2価カチオンを除去するための除去工程を備えることが好ましい。上記除去工程の具体的な方法としては特に限定されないが、例えば、透析によって2価カチオンを除去することが好ましい。したがって、上記構成によれば、より高純度のタンパク質を精製することができる。
【0078】
また、本実施の形態のタンパク質の精製方法では、上述した解離工程の前に、リボソームL2タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質とシリカとの吸着を解離させない条件下において、当該シリカを洗浄する工程が含まれていることが好ましい。当該工程としては特に限定されないが、例えば、高濃度のNaCl溶液を用いてシリカを洗浄することが好ましい。溶液中のNaClの具体的な濃度としては特に限定されないが、例えば、0.5M〜5Mであることが好ましく、2M〜5Mであることがより好ましく、2Mであることが最も好ましい。上記構成によれば、シリカに対して吸着した第2タンパク質以外の物質を効果的に除去することができる。換言すれば、上記構成によれば、タンパク質を高純度にて精製することができる。
【0079】
また、上記溶液には、界面活性剤が含まれていることが好ましい。上記界面活性剤としては特に限定されないが、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸、またはデオキシコール酸などを用いることが好ましい。上記構成によれば、タンパク質をより高純度にて精製することができる。
【実施例】
【0080】
〔1.シリカ結合性タグ融合プロテインA(SBP-protein A)発現ベクターの作製〕
Staphylococcus aureus subsp. aureus MW2株のプロテインA遺伝子(spa)の配列に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマー(プライマー1、プライマー2)を作製した。
【0081】
プライマー1:5' -ATCGAATTCTGCGCAACACGATGAAGCTCAAC- 3'(配列番号33)
プライマー2:5' -GTTGAGCTCGTGTTGTTGTCTTCCTCTTTTG - 3'(配列番号34)
上記プライマー1、プライマー2、および、鋳型としてStaphylococcus aureus subsp. aureus MW2株の染色体DNAを用いて、PCR法によってプロテインA遺伝子を増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用い、具体的な反応条件などは添付のプロトコールに従った。なお、上記プライマーの塩基配列中、「GAATTC」は、Eco RI認識サイトであり、「GAGCTC」は、Sac I認識サイトである。
【0082】
上記PCR反応によって得られた増幅産物、および発現ベクターpET21−b(Novagen社製)を、制限酵素EcoRIおよびSacIによって、37℃にて2時間消化した。その後、アガロースゲル電気泳動によって、上記増幅断片およびpET21−bを精製した。精製した増幅断片とpET−21bとを、Ligation High(TOYOBO社製)を用いてライゲーションした。なお、ライゲーション反応は、16℃にて2時間行った。
【0083】
以上のようにして得られた発現ベクターを用いて、大腸菌MV1184株を形質転換した。得られた大腸菌コロニーから目的のDNA断片が挿入された発現ベクターを選択し、当該発現ベクターをpET−SpAと命名した。
【0084】
次いで、Escherichia coli K12株のリボソームL2タンパク質の遺伝子(rplB)の配列に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマー(プライマー3、プライマー4)を作製した。
【0085】
プライマー3:5' -GTTGTCGACATGGCAGTTGTTAAATGTAA - 3'(配列番号35)
プライマー4:5' -GTTGCGGCCGCTTTGCTACGGCGACGTACG- 3'(配列番号36)
上記プライマー3、プライマー4、および、鋳型としてEscherichia coli K12株の染色体DNAを用いて、PCR法によってリボソームL2タンパク質の遺伝子を増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用い、具体的な反応条件などは添付のプロトコールに従った。なお、上記プライマーの塩基配列中、「GTCGAC」は、Sal I認識サイトであり、「GCGGCCGC」は、Not I認識サイトである。
【0086】
上記PCR反応によって得られた増幅産物、および発現ベクターpET−SpAを、制限酵素SalIおよびNotIによって、37℃にて2時間消化した。その後、アガロースゲル電気泳動によって、上記増幅断片およびpET−SpAを精製した。精製した増幅断片とpET−SpAとを、Ligation High(TOYOBO社製)を用いてライゲーションした。なお、ライゲーション反応は、16℃にて2時間行った。
【0087】
以上のようにして得られた発現ベクターを用いて、大腸菌MV1184株を形質転換した。得られた大腸菌コロニーから目的のDNA断片が挿入された発現ベクターを選択し、当該発現ベクターをpET−SpA−Sitagと命名した。
【0088】
〔2.シリカ結合性タグ(SBP)発現ベクターの作製〕
Escherichia coli K12株のリボソームL2タンパク質の遺伝子(rplB)の配列に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマー(プライマー3、プライマー4)を作製した。
【0089】
プライマー5:5' -CATCGAATTCTATGGCAGTTGTTAAATGTAAA- 3'(配列番号37)
プライマー6:5' -AGTTGAGCTCGTTTTGCTACGGCGACGTACGA- 3'(配列番号38)
上記プライマー5、プライマー6、および、鋳型としてEscherichia coli K12株の染色体DNAを用いて、PCR法によってリボソームL2タンパク質の遺伝子を増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用い、具体的な反応条件などは添付のプロトコールに従った。なお、上記プライマーの塩基配列中、「GAATTC」は、Eco RI認識サイトであり、「GAGCTC」は、Sac I認識サイトである。
【0090】
上記PCR反応によって得られた増幅産物、および発現ベクターpET21−b(Novagen社製)を、制限酵素Eco RIおよびSac Iによって、37℃にて2時間消化した。その後、アガロースゲル電気泳動によって、上記増幅断片およびpET21−bを精製した。精製した増幅断片とpET21−bとを、Ligation High(TOYOBO社製)を用いてライゲーションした。なお、ライゲーション反応は、16℃にて2時間行った。
【0091】
以上のようにして得られた発現ベクターを用いて、大腸菌MV1184株を形質転換した。得られた大腸菌コロニーから目的のDNA断片が挿入された発現ベクターを選択し、当該発現ベクターをpET−L2Nと命名した。
【0092】
〔3.改変型シリカ結合性タグ(1−60)発現ベクターの作製〕
Escherichia coli K12株のリボソームL2タンパク質の遺伝子(rplB)の配列に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマー(プライマー7、プライマー8)を作製した。
【0093】
プライマー7:5' -AGTAATGCTAGCGCAGTTGTTAAATGTAAACCG- 3'(配列番号39)
プライマー8:5' -ACAATCTCGAGTTACTGCTTGTGGCC - 3'(配列番号40)
上記プライマー7、プライマー8、および、鋳型としてEscherichia coli K12株の染色体DNAを用いて、PCR法によってリボソームL2タンパク質の遺伝子のうちのN末端60残基に相当する領域を増幅した。なお、当該領域は、配列番号46にて示されるポリヌクレオチドであって、当該ポリヌクレオチドは、配列番号45にて示されるポリペプチドをコードしている。PCR反応にはKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用い、具体的な反応条件などは添付のプロトコールに従った。なお、上記プライマーの塩基配列中、「GCTAGC」は、Nhe I認識サイトであり、「CTCGAG」は、Xho I認識サイトである。
【0094】
上記PCR反応によって得られた増幅産物、および発現ベクターpET21−b(Novagen社製)を、制限酵素Nhe IおよびXho Iによって、37℃にて2時間消化した。その後、アガロースゲル電気泳動によって、上記増幅断片およびpET21−bを精製した。精製した増幅断片とpET21−bとを、Ligation High(TOYOBO社製)を用いてライゲーションした。なお、ライゲーション反応は、16℃にて2時間行った。
【0095】
以上のようにして得られた発現ベクターを用いて、大腸菌JM109株を形質転換した。得られた大腸菌コロニーから目的のDNA断片が挿入された発現ベクターを選択し、当該発現ベクターをpET−L2(1−60)と命名した。
【0096】
〔4.シリカ結合性タグ、改変型シリカ結合性タグ、およびシリカ結合性タグ融合プロテインAのシリカを用いた精製〕
pET−L2N、pET−L2(1−60)、pET−SpA−Sitagのそれぞれを用いて、シリカ結合性タグ、改変型シリカ結合性タグ、シリカ結合性タグ融合プロテインAを作製し、シリカ粒子を用いて各タンパク質を精製した。以下に、その方法について説明する。
【0097】
まず、各ベクターが導入された大腸菌を37℃にて培養した。なお、各ベクターの大腸菌への導入は、公知の方法によって行った。OD600が0.6になった時点で、最終濃度が0.5mMとなるようにIPTGを添加した。そして、IPTGを添加して4時間後に、遠心分離処理によって大腸菌を回収した。
【0098】
各大腸菌を破砕液(2M:NaCl、0.5%(v/v):界面活性剤(Tween 20)、25mM:Tris−HCl(pH8.0))に懸濁した後、超音波処理によって大腸菌を破砕した。
【0099】
大腸菌を破砕した後、当該破砕液に対して遠心分離処理(24,000×g、15分間)を行い、上清を回収した。なお、当該上清は、図1において「菌体抽出液(CE)」と記載する。また、図1中、「M」は、分子量マーカーを意図する。
【0100】
上記上清に対してシリカ粒子(Silicon dioxide fine powder ca. 0.8μm、添川理化学株式会社製)を添加して、4℃にて30分間混合した。
【0101】
上記混合の後、遠心分離処理(3,000×g、5分間)によってシリカ粒子を回収した。なお、この時の上清は、図1において「シリカ未結合画分(UB)」と記載する。回収したシリカ粒子を、上記破砕液にて更に2回洗浄した。
【0102】
洗浄後のシリカ粒子を2MのMgClを含む100mM Tris−HCl緩衝液に懸濁し、4℃にて10分間の攪拌を行った。そして、当該操作によって、シリカに結合した各タンパク質をシリカから解離させた。攪拌後、遠心分離処理(3,000×g、5分間)を行ってシリカ粒子を沈殿させた後、その上清を回収した。なお、このときの上清は、図1において「溶出タンパク質画分(P)」と記載する。
【0103】
図1に、シリカ結合性タグ、およびシリカ結合性タグ融合プロテインAのシリカへの結合性を示す電気泳動図を示す。
【0104】
図1に示すように、シリカ結合性タグとシリカとの結合は、2MのMgClによって解離することが明らかになった。また、溶出タンパク質画分(P)には、約90%の高い純度にて、シリカ結合性タグ(SBP)、またはシリカ結合性タグ融合プロテインA(SBP−protein A)が含まれていることが明らかになった。
【0105】
また、溶出タンパク質画分(P)中のMgClを透析によって除去したところ、溶出タンパク質画分(P)中に含まれていたシリカ結合性タンパク質、または融合タンパク質は、再び、シリカに対して結合性を示した。つまり、シリカ結合性タグとシリカとの結合は、MgClの濃度を調節することによって、可逆的に調節し得ることが明らかになった。
【0106】
また、図2に、改変型シリカ結合性タグのシリカへの結合性を示す電気泳動図を示す。なお、図2において、レーン1は、菌体抽出液(CE)中の改変型シリカ結合性タグを示し、レーン2は、シリカ未結合画分(UB)中の改変型シリカ結合性タグを示し、レーン3は、溶出タンパク質画分(P)中の改変型シリカ結合性タグを示している。
【0107】
タンパク質精製用のタグとして利用するには、できるだけサイズが小さい方が望ましい。図2に示すように、改変型シリカ結合性タグのサイズは約60アミノ酸であって、元々のシリカ結合性タグと比較して非常に小さい。しかしながら、図2に示すように、改変型シリカ結合性タグも高純度(約90%)に精製されており、精製用のタグとして有効であることが明らかになった。
【0108】
〔5.シリカ充填カラムを用いたシリカ結合性タグの精製〕
市販の空カラム(Tricorn 5/20; GE Healthcare)にシリカ粒子(直径0.1μm、約800mg、クォートロンSP-03B、扶桑化学工業株式会社製)を充填し、シリカ充填カラムとした。シリカ充填カラムをMilli-Q水、洗浄液(25mM Tris−HCl(pH8.0)、0.5M NaCl、0.5% Tween20にて十分に洗浄した後、シリカ結合性タグを発現させたEscherichia coliの菌体抽出液(湿菌体0.45g相当)を流速0.5mL/minにてシリカ充填カラムに添加した。
【0109】
5mLの洗浄液にて洗浄後、2M MgClを含有する100mM Tris−Hcl(pH8.0)緩衝液を添加してシリカ結合性タグを溶出させた。図3に、シリカ充填カラムによって精製されたシリカ結合性タグの電気泳動図を示す。
【0110】
図3に示すように、高純度(約90%)にてシリカ結合性タグを精製することができた。
【0111】
〔6.シリカ結合性タグの解離条件の検討〕
シリカ粒子に結合したシリカ結合性タグを解離させるための条件を検討した。
【0112】
まず、カラムクロマトグラフィーによって精製したシリカ結合性タグ10μgとシリカ粒子10mgとを、1mLの緩衝液(25mM Tris−HCl(pH8.0)、2M NaCl、0.5%(v/v) Tween20)中に添加し、4℃にて30分間混合した。
【0113】
その後、シリカ結合性タグが結合したシリカ粒子を遠心分離処理(12,000×g、1分間、4℃)によって回収し、当該シリカ粒子を上記緩衝液にて更に2回洗浄した。洗浄後のシリカ粒子に対して各種溶出液を加えて、5分間混合した。その後、遠心分離処理を行って上清を除去した。
【0114】
残ったシリカ粒子に対してSDS−PAGE用のサンプルバッファーを30μl添加し、100℃にて5分間加熱した。これによって、シリカ粒子上に残存していたシリカ結合性タグをサンプルバッファー中に解離させた。その後、シリカ結合性タグが解離したサンプルバッファーを、SDS−PAGE(12.5%)に供した。
【0115】
SDS−PAGEの結果を図4に示す。なお、図4中、レーン1は、溶出液にて溶出させなかった場合にシリカ粒子上に結合しているシリカ結合性タグを示し(negative control)、レーン2は、5M NaCl溶液を溶出液として用いた場合にシリカ粒子上に残存しているシリカ結合性タグを示し、レーン3は、2M MgClを含有する100mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝液を溶出液として用いた場合にシリカ粒子上に残存しているシリカ結合性タグを示し、レーン4は、CHAPS−NaOH(pH12)緩衝液を溶出液として用いた場合にシリカ粒子上に残存しているシリカ結合性タグを示し、レーン5は、1N NaOH溶液を溶出液として用いた場合にシリカ粒子上に残存しているシリカ結合性タグを示し、レーン6は、CHCOOH−NaOH(pH4.26)溶液を溶出液として用いた場合にシリカ粒子上に残存しているシリカ結合性タグを示し、レーン7は、1N HCl溶液を溶出液として用いた場合にシリカ粒子上に残存しているシリカ結合性タグを示し、レーン8は、本実験に用いた精製されたシリカ結合性タグを示している。
【0116】
図4に示すように、1NのHCl溶液や1NのNaOH溶液などの酸・アルカリ溶液を溶出液として用いた場合には、シリカ結合性タグはシリカ粒子から解離することが明らかになった(例えば、レーン5およびレーン7参照)。しかしながら、これらの条件下ではタンパク質の変性が起こり、その結果、活性を維持したタンパク質を精製することができない。活性を保持したままでシリカ結合性タグが連結したタンパク質をシリカ粒子から解離させるためには、中性条件下でシリカ結合性タグを解離させる必要がある。そこで、各種イオンを用いてシリカ結合性タグを解離させることができないか検討した。
【0117】
溶出液として従来から用いられている高濃度のNaCl溶液を用いた場合には、5Mにまで濃度を増加させても、シリカ結合性タグをシリカ粒子から解離させることはできなかった(レーン2参照)。
【0118】
一方、2M MgClを含有する100mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝液を溶出液として用いた場合には、シリカ結合性タグがシリカ粒子から解離することが明らかになった(レーン3参照)。
【0119】
〔7.溶出液のMgCl濃度の検討〕
pET−L2Nが導入されたEscherichia coliを2×YT培地中で培養し、OD600が0.6になった時点で、終濃度が0.5mMとなるようにIPTGを添加した。
【0120】
IPTGを添加して4時間後に、遠心分離処理(6,000×g、15分間、4℃)によって大腸菌を集菌した。得られた菌体を緩衝液(25mM Tris−HCl(pH8.0)に懸濁し、超音波処理によって菌体を破砕した。
【0121】
上記菌体破砕液を遠心分離処理(40,000×g、20分間、4℃)し、これによって得られた上清を、菌体破砕液とした。500μLの菌体破砕液と10mgのシリカ粒子とを、1mLの緩衝液(25mM Tris−HCl(pH8.0)、2M NaCl、0.5%(v/v) Tween20)中に添加し、4℃にて30分間混合した。
【0122】
その後、シリカ結合性タグが結合したシリカ粒子を遠心分離処理(12,000×g、1分間、4℃)によって回収し、当該シリカ粒子を上記緩衝液にて更に2回洗浄した。洗浄後のシリカ粒子に対して各種溶出液を加えて、5分間混合した。その後、遠心分離処理を行って上清とシリカ粒子のペレットとを別々に回収した。
【0123】
上記上清およびシリカ粒子の一部にサンプルバッファーを加え、当該サンプルをSDS−PAGE(12.5%)に供した。
【0124】
また、上記上清の残りを再びシリカ粒子と混合して、シリカ粒子にシリカ結合性タグを吸着させた後、上述した方法と同じ方法にて、2回目の溶出を行った。つまり、2回の精製ステップを経ることによって、精製純度が上昇するか否かを確認した。
【0125】
SDS−PAGEの結果を図5に示す。なお、図5中、レーン1は、大腸菌の菌体破砕液中に含まれるシリカ結合性タグを示し、レーン2〜5は、1MのMgClを含有する100mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝液を用いて溶出を行った場合のシリカ結合性タグを示し、レーン6〜9は、2MのMgClを含有する100mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝液を用いて溶出を行った場合のシリカ結合性タグを示している。更に詳細には、レーン2および6は、1回目の溶出画分(上清)中に含まれるシリカ結合性タグを示し、レーン3および7は、1回目の溶出時にシリカ粒子上に残留したシリカ結合性タグを示している。また、レーン4および8は、2回目の溶出画分(上清)中に含まれるシリカ結合性タグを示し、レーン5および9は、2回目の溶出時にシリカ粒子上に残留したシリカ結合性タグを示している。
【0126】
図5に示すように、1MのMgClを用いた場合でも、シリカ結合性タグを解離させることが可能であることが明らかになった(レーン2参照)。また、この場合には、シリカ粒子上に一部のシリカ結合性タグが残留することも明らかになった(レーン3参照)。
【0127】
一方、2MのMgClを用いた場合には、シリカ結合性タグはシリカ粒子上に残留することなく(レーン7参照)、ほぼ全てがシリカ粒子から解離することが明らかになった(レーン6参照)。
【0128】
また、1回の精製操作のみで90%以上の純度でシリカ結合性タグを精製でき、2回の精製操作を行う必要がないことが明らかになった。
【0129】
〔8.Mg2+以外の2価カチオンの解離効果〕
Mg2+以外の2価カチオンが、シリカ結合性タグをシリカ粒子から解離させることができるか否か検討した。なお、具体的な実験は、上述した〔7.溶出液のMgCl濃度の検討〕に記載した方法に従って行った。また、CaCl溶液、NiCl溶液、FeCl溶液、ZnCl溶液、MnCl溶液に関して解離効果を検討しようとしたが、2MのFeCl溶液、ZnCl溶液、およびMnCl溶液を調製しようとしたところ、Tris緩衝液中では沈殿を形成された。そこで、2MのCaCl溶液およびNiCl溶液に関してのみ解離効果を検討した。
【0130】
SDS−PAGEの結果を図6に示す。なお、図6中、レーン1は、溶出液としてCaCl溶液を用いた場合にシリカ粒子上に残留するシリカ結合性タグを示し、レーン2は、溶出液としてNiCl溶液を用いた場合にシリカ粒子上に残留するシリカ結合性タグを示し、レーン3は、溶出液としてCaCl溶液を用いた場合の溶出液中に含まれるシリカ結合性タグを示し、レーン4は、溶出液としてNiCl溶液を用いた場合の溶出液中に含まれるシリカ結合性タグを示している。
【0131】
図6に示すように、CaCl溶液、NiCl溶液の何れを用いた場合でも、シリカ結合性タグがシリカ粒子から解離することが明らかになった。また、シリカ結合性タグの解離効果(溶出効果)は、MgCl溶液に及ばないことが明らかになった。
【0132】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、シリカに結合することができるタンパク質を高純度にて大量に精製することができるので、プロテインチップ、ナノバイオデバイス、医薬品などを製造する広範な技術分野に用いることができる。特に、本発明の製造方法によって作製されたタンパク質はシリカに結合することができるので、本発明は半導体の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】シリカ結合性タグ、およびシリカ結合性タグ融合プロテインAのシリカへの結合性を示す電気泳動図である。
【図2】改変型シリカ結合性タグのシリカへの結合性を示す電気泳動図である。
【図3】シリカ充填カラムによって精製されたシリカ結合性タグの電気泳動図である。
【図4】各種溶出液によってシリカ粒子から解離したシリカ結合性タグを示す電気泳動図である。
【図5】様々な濃度のMgCl溶液によってシリカ粒子から解離したシリカ結合性タグを示す電気泳動図である。
【図6】様々な2価カチオンによってシリカ粒子から解離したシリカ結合性タグを示す電気泳動図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の精製方法であって、
酸化ケイ素含有物質に吸着した、第1タンパク質と第2タンパク質との融合タンパク質を、2価カチオン含有溶液と接触させる工程を包含し、
第1タンパク質が、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であることを特徴とする精製方法。
【請求項2】
前記融合タンパク質を酸化ケイ素含有物質に吸着させる工程をさらに包含する、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記融合タンパク質を形質転換体内で発現させる工程をさらに包含する、請求項2に記載の精製方法。
【請求項4】
第1タンパク質をコードする第1のDNAに、第2タンパク質をコードする第2のDNAをインフレームで連結させる工程をさらに包含する、請求項3に記載の精製方法。
【請求項5】
前記2価カチオン含有溶液が、MgCl溶液、CaCl溶液、またはNiCl溶液であることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の精製方法。
【請求項6】
前記2価カチオン含有溶液中の2価カチオンの濃度が、0.2M以上であることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の精製方法。
【請求項7】
前記第1タンパク質が、以下の(a)あるいは(b)に記載のポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の精製方法。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項8】
前記第1タンパク質が、以下の(c)あるいは(d)に記載のポリペプチドであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のタンパク質の精製方法。
(c)配列番号45、47または49に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
(d)配列番号45、47または49に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項9】
タンパク質の精製方法であって、
酸化ケイ素含有物質に吸着させたタンパク質を、2価カチオン含有溶液と接触させる工程を包含し、
該タンパク質が、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であることを特徴とする精製方法。
【請求項10】
第2タンパク質が、前記タンパク質に融合されている、請求項9に記載のタンパク質の精製方法。
【請求項11】
タンパク質の精製用キットであって、
第1タンパク質をコードする第1のDNA、および第2タンパク質をコードする第2のDNAを第1のDNAにインフレームで連結させるための挿入部位を有している発現ベクターを備えており、
第1タンパク質が、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中で酸化ケイ素含有物質と結合し得るタンパク質であることを特徴とするタンパク質の精製用キット。
【請求項12】
シリカ粒子またはシリカ基板をさらに備えている、請求項11に記載のタンパク質の精製用キット。
【請求項13】
2価カチオン含有溶液をさらに備えている、請求項11に記載のタンパク質の精製用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−37222(P2010−37222A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198819(P2008−198819)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月11日 社団法人日本生物工学会発行の「第60回日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 半導体・バイオ融合集積化技術の構築」プロジェクトに係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】