説明

タンパク質アイソフォームのアッセイ

本発明は、少なくとも2つの異なるグリコシル化パターンを有するアイソフォームが存在するタンパク質のアッセイの方法を提供する。この方法は、前記タンパク質を含むサンプルをタンパク質分解酵素に接触させること、及び、前記タンパク質のタンパク質分解により生じたペプチド断片の少なくとも1つについて、その含有量又は相対的な含有量を検出することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上のグリコシル化パターンが異なるアイソフォーム、例えば、グリコシル化アイソフォームと非グリコシル化アイソフォーム、又は、完全グリコシル化アイソフォームと部分グリコシル化アイソフォーム等が存在するタンパク質のアッセイ、並びに、そのようなアッセイのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
様々なタンパク質が、グリコシル化パターンが異なる2以上の異なるアイソフォームとして存在する。このような差異、又は、異なってグリコシル化されたアイソフォームの相対的比率は、病気若しくは疾患、又は、薬物乱用の指標となりうる。それゆえ、異なってグリコシル化されたアイソフォームを区別できるアッセイシステムが必要とされている。
【0003】
しかしながら、異なってグリコシル化された内因性タンパク質のアイソフォームを区別する抗体を利用した方法は、比較的問題がある。なぜなら、内因性グリコシル化タンパク質の特定のアイソフォームに特異的又は選択的に結合する抗体を産生できる成功率が、比較的低いからである。
【0004】
異なってグリコシル化された内因性タンパク質のアイソフォームの相対濃度測定が臨床上の関心となっている一例が、血中タンパク質トランスフェリンのケースである。トランスフェリンのアミノ酸バックボーンは、末端シアル酸基を有するバイ若しくはトリアンテナリーのオリゴ糖側鎖が結合する部位を、2ヶ所(Asn413及びAsn611)含む。健康な患者の場合、血中トランスフェリン分子の大部分は、4〜5のシアル酸基を有する。しかしながら、患者がアルコール依存症である場合、無シアル酸基又は2若しくは3つのシアル酸基を有するトランスフェリン分子の割合が、相対的に増加する。実際に、1つ又は双方の完全なグリカン鎖の欠失は、アルコール依存症者におけるトランスフェリンアイソフォームの特徴的な特性であることが示されている(例えば、非特許文献1参照)。トランスフェリンアイソフォームの異常な相対的増加は、同様に、糖質欠乏糖タンパク質シンドローム(CDGS)又は先天性グリコシル化疾患(CDG)の患者においても起きる。これらは、例えば、Keirらによって論じられている(非特許文献2参照)。
【0005】
このような「糖質欠乏トランスフェリン」(CDT)又は「糖質フリートランスフェリン」(CFT)に対する様々なアッセイが提案されている。しかしながら、自動化に適したものは、概して、イオン交換樹脂の使用に依存しており、4若しくは5のシアル酸基を有するトランスフェリン分子から、3若しくはそれ以下のシアル酸基を有するトランスフェリン分子を分離している。すなわち、異なるアイソフォームが前記樹脂から放出される又は前記樹脂に吸着する異なるpHを基準としている。このようなアッセイの例としては、US−A−4626355(Pharmacia社;特許文献1)、WO96/26444(Axis社;特許文献2)、及び、WO01/42795(Axis社;特許文献3)に記載のものが挙げられる。
【0006】
翻訳後にグリコシル化されるプロテインであれば、異なるグリコシル化アイソフォームが発生しうる。従って、トランスフェリンに加えて、その他の臨床的に関連のあるタンパク質が、異なってグリコシル化されたアイソフォームとして存在する。これらには、ガン及びその他の疾病のグリコシル化マーカーが含まれる。その例としては、アルカリ性ホスファターゼ(AP)(非特許文献3参照)、α−フェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)が挙げられ、そして場合によりプリオンタンパク質(CD230)も含まれる。
【0007】
哺乳類のアルカリ性ホスファターゼは、ユビキタスな酵素ファミリーを構成する。APは、糖タンパク質酵素であって、細胞膜の外葉に存在し、そこでは、グリコシルホスファチジルイノシトール部分が、膜アンカーとしての機能を果たす。肝臓AP、骨AP、及び腎臓APの(天然)分子量は、それぞれ、152、166、168kDaと測定されている。正常な骨石化における役割は別として、肝臓/骨/腎臓APの生理学的及び腫瘍性の条件におけるその他の機能については未知のままである。アルカリ性ホスファターゼは、ヒト血清中にいくつかのアイソフォームとして存在する。多様な翻訳後修飾のため、血清中の異なるアイソフォームの同定は複雑である。2つの主要な循環型APアイソザイムは、骨及び肝臓APであるが、これらは、単一遺伝子の産物であってグリコシル化のみが異なるため、区別が困難である。全血清APは、頻繁に日常の臨床分析において要求され、骨格や肝胆汁の状態が判断される。全AP活性に寄与する様々なアイソフォームが有効な臨床上の情報となることが提唱されている。実際、血清における骨AP(BAP)活性の定量的測定は、骨形成速度の指標となり得る。
【0008】
α−フェトプロテイン(AFP)は、哺乳類胎児の発育の主要なタンパク質であり、胎児肝臓及び卵黄嚢により主に合成される。肝臓ガン及び卵黄嚢腫瘍は、しばしば、このタンパク質を産生するため、このタンパク質は、日常的に、診断の癌マーカーとして使用されている。とりわけ、AFPは、肝臓細胞ガン(HCC)及び非セミノーム生殖細胞腫瘍(NSGCT)の診断において、血清学的マーカーとして、広く使用される。AFPは、また、ガンのみならず、正常な妊娠、良性の肝疾患においても上昇する。AFPは、いくつかの疾病に関連した糖鎖構造が異なるアイソフォームとして出現する。従来のアッセイでは、これらのアイソフォームを容易に区別することができない。
【0009】
本発明において、関心のあるその他の糖タンパク質は、α−1−酸性糖タンパク質、α−1−抗トリプシン、ハプトグロビン、サイログロブリン、前立腺特異抗原、HEMPAS赤血球バンド3(これは、II型先天性赤血球異形成貧血に関連する)、PC−1プラズマ細胞膜糖タンパク質、CD41糖タンパク質IIb、CD42bグリコカリシン(glycocalicin)、CD43白血球シアロ糖タンパク質、CD63リソソーム膜結合糖タンパク質3、CD66a胆管糖タンパク質、CD66f妊娠特異的b1糖タンパク質、CD164多重グリコシル化コアタンパク質24、及びCD235グリコホリンファミリーを含む。
【0010】
【特許文献1】米国特許第4626355号明細書
【特許文献2】国際公開第96/26444号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/42795号パンフレット
【非特許文献1】Arndt in Clinical Chemistry 47: 13-27 (2001)
【非特許文献2】Keir et al. in Ann. Clin. Biochem. 36: 20-36 (1999)
【非特許文献3】Magnusson et al. Clinical Chemistry 44: 1621-1628 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
我々は、アッセイにおいて異なってグリコシル化されたタンパク質のアイソフォームを区別するために抗体若しくはその他のリガンドを使用することの問題は、そのようなアッセイにおいて、関心のあるタンパク質を複数のペプチド断片に切断するタンパク質分解酵素の付加的使用により対処できることを見出した。そのタンパク質分解酵素の付加的使用の結果として得られる前記断片は、サンプル中の検体の特徴的なグリコシル化プロファイルである。それゆえ、検体タンパク質の1つのアイソフォームのタンパク質分解は、その他のアイソフォームのタンパク質分解では産生されない断片を生じることができ、したがって、前記断片は、前記特徴的断片に対する特異的結合パートナーにより認識されることができる。また、一つのアイソフォームのタンパク質分解は、断片分離技術(例えば、クロマトグラフィー、質量分析法等)を適用することで、他のアイソフォームから生じたものとは異なる分布パターン(スペクトル)を示す一揃いの断片を生じる。とりわけ適当であるのが、例えば、特異的アミノ酸残基、若しくは特異的なアミノ酸残基の配列等の特異的部位でペプチド鎖を切断するように作用するタンパク質分解酵素である。かくのごとく、これらのタンパク質分解酵素が、関心のある1つのアイソフォームにさらされた場合、そのような部位において切断が発生する。しかし、他のアイソフォームにおいて、異なるグリコシル化パターンのためにそのような部位が、例えば、糖側鎖又は異なる三次元構造等によりマスクされている場合、切断は発生しない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つのアイソフォームのタンパク質分解が、他のアイソフォームのタンパク質分解では産生できない断片を生じる場合、これにより、特徴的なエピトープが提供され、また、これらの特徴的断片に対する特異的結合パートナーは、サンプルにおける前駆体アイソフォームの濃度測定に使用できる。タンパク質分解が、同様(例えば、抗原性又は分離軸における位置に関して同様)の断片であるが、相対濃度が異なる断片を生じる場合、2以上のそのような断片の相対濃度を測定することができ、その相対存在量の測定、それ故、サンプル中の異なるアイソフォームの濃度測定に使用できる。
【0013】
従って、1つの態様において、本発明は、少なくとも2つの異なったグリコシル化パターンを有するアイソフォームとして存在するタンパク質のアッセイ方法を提供する。前記方法は、前記タンパク質を含むサンプルをタンパク質分解酵素と、好ましくはタンパク質部位特異的タンパク質分解酵素と接触させること、及び、前記タンパク質のタンパク質分解により生じる少なくとも1つのペプチド断片の含有量(content)又は相対含有量を検出することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の方法は、サンプル中若しくは前記サンプルが由来する原料(例えば、血液)中における、関心のあるタンパク質のアイソフォームの濃度又は相対濃度の指標、例えば、定量的、半定量的、若しくは定性的指標を測定することを含むことが好ましい。例えば、前記アイソフォームの濃度を測定してもよく、前記タンパク質が前記アイソフォームとして存在するフラクションを測定してもよく、又は、所定の閾値、例えば、患者の健康若しくは不健康を示す閾値等よりも上か下かとして、前記濃度若しくはフラクションを簡単に測定してもよい。しかしながら、一般的に、糖質欠乏は、存在する糖質欠乏アイソフォームのパーセント(例えば、モルパーセント等)として示すことが好ましい。この目的のため、本発明のアッセイ方法は、例えば、タンパク質分解酵素を使用しないアッセイを並行して行うなどして、糖タンパク質の総含有量を測定することを含むことが好ましい。
【0015】
タンパク質分解が関心のあるタンパク質の特定のアイソフォームに特徴的な断片を生じる場合には厳密に必要というわけではないが、多くの場合、サンプルは関心のあるタンパク質以外のタンパク質を含みうるので、「ノイズ」、すなわち、そのような他のタンパク質に由来するペプチド断片を、前記タンパク質分解酵素と接触させる前に関心のあるタンパク質を他のタンパク質から分離することにより、回避することが望ましい。これは、クロマトグラフィー、担体(substrate)への選択的吸着及び担体からの選択的放出、遠心分離、及び、その他の標準的なタンパク質分離技術により達成できる。しかしながら、アッセイの実行を簡略化するためには、前記分離は、サンプルを、関心のあるタンパク質の少なくとも関心のあるアイソフォームに対する特異的結合パートナーが結合した担体、特に好ましくは、関心のあるタンパク質の全てのアイソフォームを捕捉する機能を有する特異的結合パートナーが結合した担体と接触させることで達成することが好ましい。この例では、前記特異的結合パートナーは、抗体又は抗体断片であることが好ましい。前記担体に結合したタンパク質は、その後、例えば、リンスにより、結合していないタンパク質から分離でき、そして、必要に応じて、前記タンパク質分解酵素と接触させる前に前記担体から放出できる。
【0016】
従って、その他の態様として、本発明は、本発明のアッセイ方法のためのキットを提供する。前記キットは、タンパク質分解酵素、及び、担体(substrate)が結合した特異的結合パートナー(sbp)であって、少なくとも2つ、好ましくは全ての前記タンパク質のアイソフォームに対するsbpを含む。この担体が結合したsbpは、グリコシル化部位から離れた部位で前記タンパク質を結合するものであることが好ましい。特に好ましい態様においては、前記担体が結合したspbは、多孔質膜上に固定される。
【0017】
一旦タンパク質分解すれば、特徴的な断片又は特徴的な断片パターンは、任意の従来技術により検出できる。しかしながら、アッセイの実行を簡略化するためには、検出は、特徴的な断片を検出するものであって、特異的結合パートナーを使用して、前記断片とsbpとの複合体(conjugate)を直接的若しくは間接的に測定するものであることが好ましい。したがって、好ましい態様において、本発明のキットは、さらに、必要に応じて標識された少なくとも1つの、1つの関心のあるタンパク質のアイソフォームに対する前記酵素のタンパク質分解作用で生じ得るペプチド断片の特異的結合パートナーを含む。
【0018】
前記キットは、また、アッセイ方法を実行するための取扱説明書を含むことが好ましく、さらに、必要に応じて標識化された、前記タンパク質:sbp複合体及び/又は前記断片結合sbpに結合可能な2次リガンドを必要に応じて含んでもよい。
【0019】
本発明のアッセイで使用するsbpは、一般的には、抗体若しくは抗体断片、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、又は、有機小分子である。抗体若しくは抗体断片が好ましく、特に好ましくは、モノクローナル抗体である。一つの特定の態様においては、抗体は、特徴的なタンパク質断片のアミノ酸配列の全部又は一部に対応した(又は同様の)配列を有する免疫原性のオリゴペプチド複合体に対して、例えば、US−A−5773572に記載のとおり、産生することができる。
【0020】
前記タンパク質断片により形成される複合体の検出は、上述のとおり、直接的であっても間接的であってもよい。したがって、複合体若しくはsbpの特性(例えば、放射線吸収、発光、散乱等)を検出してもよく、又は、検出可能な特性を有する追加の結合試薬、若しくは検出可能な特性若しくは事象を引き起こす能力を備える追加の結合試薬を使用してもよい。この追加の結合試薬は、そのような複合体に結合するもの、フリーなsbpに結合するもの、又は、そのような複合体とさらなる担体との結合において競合するものであってよい。必要に応じて標識化した結合試薬を利用してそのような直接的及び間接的な検体の検出を行うことは、診断アッセイの分野では、従来公知である。
【0021】
タンパク質断片の検出がなされる方法は、当然に、結合試薬の性質に依存する。すなわち、結合試薬が、例えば、放射線標識、発色団、若しくは、蛍光色素(つまり、フルオロフォア)等のレポーター部分により標識化されているかどうか、結合試薬が、酵素的に活性かどうか(つまり、例えば、光若しくは検出可能な種類のものを発生する等により、その進行が検出可能である反応を触媒できるかどうか)、結合試薬が、光散乱により検出できる凝集体を形成できるか否か等に依存する。このような検出システムは、診断アッセイの分野において従来公知である。
【0022】
本発明の方法の好ましい態様においては、特徴的なタンパク質断片に対するsbpは、多孔質担体上に固定される。例えば、膜を、必要に応じて、関心のあるタンパク質に対するsbpとともに、同じ担体上に固定し、タンパク質を分解して特徴的な断片を担体へ結合させた後に、断片用sbp若しくは断片用sbp:断片複合体に対する標識化結合パートナーを前記担体に接触させる。前記担体をリンスした後、担体に保持された標識を読み取ることで、直接的若しくは間接的である特徴的な断片濃度の指標、それ故、前記断片が由来するアイソフォームの濃度の指標を得ることができる。
【0023】
本発明の方法の他に採りうる好ましい形態において、特徴的な断片に対する標識化sbpは、前記断片との複合体が多孔質膜により保持されるに十分な大きさであるが、その標識化sbpをサンプルと接触させる。そして、タンパク質分解した後、前記サンプルを前記多孔質膜を通過させる(ここで、前記多孔質膜は、同様に、必要に応じて、前記タンパク質に対するsbpが固定化されたものであってよい)。リンス後、前記膜を読み取り、そこに保持された断片:標識化sbp複合体の直接的な指標、それ故、前記断片が由来するアイソフォームの濃度の指標を得ることができる。
【0024】
同様の実施形態において、前記断片用sbpに結合して膜に保持可能な複合体を形成する競合抗原(例えば、抗原を担持するラテックス粒子等の粒子)を使用してもよい。この実施形態において、前記競合抗原及び前記断片用sbpの一方又は両方は、標識化されることが好ましい。そして、前記膜の孔サイズは、結合していない前記断片用sbpを保持しないほど十分な大きさである必要があり、前記断片用sbpが標識化されている場合には、断片用sbp:断片複合体が保持されないほど十分な大きさである必要がある。リンスの後、膜を読み取り、保持された抗原:断片用sbp複合体の濃度の指標、それ故、間接的な前記断片の濃度の指標を得る。
【0025】
後者の2実施形態において、標識は、発色団若しくは蛍光色素が好ましく、特に好ましくは、微粒子であって、例えば、文献US−A−5691207、US−A−5650333及びEP−A−564449に記載される金コロイドである。
【0026】
これらの3実施形態は、特に、文献WO02/090995に記載のアッセイプラットフォームとともに使用することに適している。
【0027】
前述したとおり、前記断片は、もう一つの方法として、特異的結合パートナーの使用を必要としない方法、例えば、クロマトグラフィー、質量分析法、NMR(核磁気共鳴分析法)等の方法により検出してもよい。
【0028】
本発明のアッセイ方法で使用する前記タンパク質分解酵素は、タンパク質を切断できる酵素であれば、任意のものであってよい。しかしながら、とりわけ好ましくは、例えば、特異的なアミノ酸残基若しくは配列の近傍等の特異的部位のみでタンパク質を切断できる酵素である。このような特異的プロテアーゼの一例は、例えば、レグメン(legumain)等のアスパラギニルエンドペプチダーゼのグループであって、これらは、アスパラギン部分のC末端側のアミド結合を切断する。これらのエンドペプチダーゼの調製方法は、例えば、US−A−5094952に記載してあり、また、宝酒造株式会社(京都、日本)から市販されている。使用可能なその他のペプチダーゼとしては、例えば、アクロモペプチダーゼ、アシルアミノペプチダーゼ、アスパラギロペプシン、カルボキシペプチダーゼ(A、B若しくはC)、カテプシン(B、D、G若しくはH)、キモパパイン、ジペプチジルペプチダーゼ(I及びIV)、エンドペプチダーゼK、エンドプロテアーゼArg−C、エンテロペプチダーゼ、フィカン(フィシン)、ゼラチナーゼ、γ-Glu-Xカルボキシペプチダーゼ、グルタミルエンドペプチダーゼ、ロイシルアミノペプチダーゼ、膜アラニルアミノペプチダーゼ、膜Pro−Cカルボシキペプチダーゼ、微生物コラゲナーゼ、多触媒エンドペプチダーゼ複合体、膵エラスターゼ、ペプシンA、ペプチジルAspメタロエンドペプチダーゼ、ペプチジルジペプチダーゼ、血漿カリクレイン、プラスミン、t-プラスミノゲンアクチベータ、u-プラスミノゲンアクチベータ、ピログルタミルペプチダーゼ、レニン、レトロペプシン、茎ブロメライン、サブチリシン、サーモリシン、トロンビン、組織カリクレイン、キモトリプシン、カルパイン、プロテアーゼK、クロストリパン、凝固因子Xa、トリプシン及びパパインが含まれる。必要に応じて、2つ以上のこれらのプロテアーゼを、同時又は連続的に使用できる。キモトリプシンの使用が特に好ましい。
【0029】
本発明の方法において、タンパク質は、タンパク質分解酵素と共に、前記タンパク質が、異なるアイソフォームに由来し、異なるアイソフォームに特徴的な断片を放出するよう切断される期間及び条件でインキュベートされることが好ましい。
【0030】
一般的には、インキュベーションは、1〜120分であって、好ましくは5〜40分であり、特に好ましくは、温度は、室温から42℃であって、とりわけ、室温から38℃である。
【0031】
関心のある任意の特定タンパク質においてどの断片を検体として使用するか決定するためには、一般的には、グリコシル化アイソフォームと非グリコシル化アイソフォームを切断して生じた断片を、それらを分離するクロマトグラフィーを使用して比較することが好ましい。選択すべき適切な断片を同定するためには、分光法を使用できる。タンパク質配列が分かっており、プロテアーゼの切断が部位特異的であれば、選択した断片の配列は、一揃いの可能性のある断片から同定できる。このように同定した断片により、従来技術を使用して、前記断片用sbpを作り出すことができる。
【0032】
特に好ましくは、前記特徴的な断片は、二重様式の分離分光技術を使用して同定される。例えば、クロマトグラフィーと質量分析法若しくはNMRとの結合技術である。
【0033】
本発明の1つの実施形態において、検出は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して実施してもよい。前記SPRは、非侵襲性光学技術であって、SPR応答は、分子が結合又は解離したときの探知機表面における質量濃度の変化を反映する。
【0034】
SPRは、ビアコア分析として知られる独自仕様システム(Biacore社、ウプサラ、スウェーデンより購入可能)により実施できる。
【0035】
本発明の方法は、多数サンプルのアッセイにおける使用にとりわけ適している。例えば、マルチウェルのマイクロタイタープレートフォーマットを使用できる(一般的には、n×mウェルプレートであって、n及びmは、20までの正の整数であって、特に好ましくは、96ウェルマイクロタイタープレートである)。
【0036】
本発明のアッセイ方法で使用するサンプルは、一般的には、生体組織、生体器官、若しくは体液(例えば、尿、唾液、粘膜、血液等)又はそれらに由来するものである。好ましくは、前記サンプルは、血液又は血液由来のもの、例えば、血清である。前記サンプルが採取される患者の種としては、好ましくは、哺乳類、爬虫類、鳥類、又は魚介類であって、より好ましくは、哺乳類(とりわけヒト)である。
【0037】
糖タンパク質が、細胞結合性又は細胞被膜性である場合、前記試料は、前記糖タンパクを放出するために従来公知の方法により処置できる。同様に、糖タンパク質は、必要に応じて、金属イオンを含ませたり(例えば、前記タンパク質が鉄結合タンパク質である場合、鉄イオンを添加する)、金属イオンを排除したり、又は、変性したりできる。よって、サンプルの前処理における正確な性質は、アッセイの対象となる特定の糖タンパク質に依存する。
【0038】
本発明によるトランスフェリンのアッセイの例を、添付の図1の概略図で説明する。添付の図2及び3は、キモトリプシンで、グリコシル化及び非グリコシル化トランスフェリンを消化して得られたタンパク質断片の逆相HPLCプロットである。図1は、本発明のアッセイの原理、すなわち、どのように、アシアロトランスフェリンが、タンパク質分解における相違により、通常のトランスフェリンと区別されるかを示した図である。カラムAは、テトラシアロトランスフェリンについて示し、カラムBは、アシアロトランスフェリンについて示す。ステップ1は、血清からのトランスフェリンの捕捉を図示する。グリコシル化及び非グリコシル化の両トランスフェリンアイソフォームが捕捉される。ステップ2は、抗体-トランスフェリン複合体の消化である。非グリコシル化トランスフェリンアイソフォームのみが消化されて特徴的な断片化プロフィールを生じる。ステップ3は、特異的ペプチド断片の検出である。抗体は、前記ペプチドのエピトープを認識するが、完全にグリコシル化された原形を保つトランスフェリン中のエピトープは認識しない。図2は、グリコシル化トランスフェリンのプロットを示し、図3は、非グリコシル化トランスフェリンのプロットを示す。図示のとおり、非グリコシル化アイソフォームに特徴的な(つまり、本質的に特有な)いくつかの断片がある。図4は、非グリコシル化トランスフェリンをキモトリプシンで切断し、MALDI−TOF及びMS−MSにより同定したペプチド断片の一例である。
【0039】
下記表1〜3は、トランスフェリンを、それぞれ、キモトリプシン、トリプシン及びLys−Cによる切断した場合に、理論上得られる、分子量が500g/molを超えるペプチド断片を示す。これらの断片に対する抗体は、例えば、文献US−A−5773572等に記載のとおり、この断片とキャリア分子との免疫原性複合体を使用した抗体産生により容易に製造できる。しかしながら、前記アッセイ方法は、HPLCを使用し、非グリコシル化トランスフェリンに存在する特徴的なピークの範囲を測定することで、簡単に実施することができる。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
図4は、キモトリプシンにより非グリコシル化トランスフェリンを酵素的に切断して特異的に放出されたペプチド断片を、MALDI−TOF及びエレクトロスプレーMS-MSにより、実験的に決定したペプチド配列の一例を示す。その配列は、NKSDNCEDTPEAGYFである。
【0044】
この配列は、非グリコシル化トランスフェリンの切断産物のみを認識するモノクローナル抗体産生のための理想的な候補を示す。この脱アミド化された非グリコシル化15残基のペプチドであって、モノアイソトピック質量値が1690の配列化合物は、逆相HPLCで単離されたピーク分画のMALDI−TOF MSにより決定された。
【実施例1】
【0045】
アッセイ
1. 150μLの血清テストサンプル又はコントロールを、あらかじめ抗トランスフェリンモノクローナル抗体でコートした96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに添加し、穏やかに混合しながら37℃、30分インキュベートする。
2. 前記ウェルを、200μLの0.05%Tween20を含む100mM TrisHClバッファーpH7.8で2回洗浄し、続けて、Tween20を含まない200μLの100mM TrisHClバッファーpH7.8で1回洗浄する。
3. 150μLの予熱した100mM TrisHClバッファーpH7.8を各ウェルに添加し、続けて、10μLのシーケンス級のキモトリプシン(2μg/μL)を添加し、37℃、30分間インキュベートする。
4. 10μLの4℃に予冷した酢酸を添加して反応をストップする。
5. 30μLの100mM TCEPを添加し、さらに10分間インキュベートする。
6. 各ウェルの内容物を、ペプチドであらかじめコートされた新たなウェルに移す。
7. 50μLの125I標識抗ペプチド抗体を加え、37℃、60分間インキュベートする。
8. ウェルを、0.05%Tween20を含む100mM TrisHClバッファーpH7.8で3回洗浄し、プレートに結合した125I標識抗ペプチド抗体を測定する。
9. 結合した抗体量を検量線と比較し、ペプチドの量、それ故、オリジナルサンプル中のCDTの量を測定する。
【実施例2】
【0046】
蛍光偏光免疫アッセイ
1. 50μLの血清テストサンプル又はコントロールを、適当な容器に添加し、シーケンス級のキモトリプシン(40μg)を含む150μLの予熱した100mM TrisHClバッファーpH7.8を各ウェルに添加し、35℃、30分間インキュベートする。
2. 標準的な抗キモトリプシン阻害剤(例えば、100μM TPCK又はアプロトニン)を添加して反応をストップする。
3. 30μLの100mM TCEPを添加し、さらに10分間インキュベートする。
4. タンパク質分解切断混合物を、所定量の蛍光標識化ペプチドを含む新しいウェルに移す。
5. 蛍光の偏光度mPを測定する。
6. 50μLの抗ペプチド抗体を添加し、35℃5分間インキュベートする。
7. 蛍光の偏光度mP’について、第2の測定をする。
8. 偏光蛍光における差異は、抗体に結合したペプチドの相対量を反映するが、前記差異を、標準曲線と比較して、ペプチドの量、それ故、オリジナルサンプル中のCDTの量を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、本発明のアッセイの原理、すなわち、どのように、アシアロトランスフェリンが、タンパク質分解における相違により、通常のトランスフェリンと区別されるかを示した図である。
【図2】図2は、キモトリプシンで、グリコシル化トランスフェリンを消化して得られたタンパク質断片の逆相HPLCプロットである。
【図3】図3は、キモトリプシンで、非グリコシル化トランスフェリンを消化して得られたタンパク質断片の逆相HPLCプロットである。
【図4】図4は、非グリコシル化トランスフェリンをキモトリプシンで切断し、MALDI−TOF及びMS−MSにより同定したペプチド断片の一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なるグリコシル化パターンを有するアイソフォームが存在するタンパク質のアッセイの方法であって、前記タンパク質を含むサンプルをタンパク質分解酵素と接触させること、及び、前記タンパク質のタンパク質分解により生じるペプチド断片の少なくとも1つについてその含有量(content)又は相対含有量を検出することを含む方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、トランスフェリン、アルカリ性ホスファターゼ、絨毛性ゴナドトロピン及びα−フェトプロテインから選択されるタンパク質である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酵素が、タンパク質部位特異的タンパク質分解酵素である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
関心のあるタンパク質を、前記タンパク分解酵素と接触させる前に他のタンパク質から分離する請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のアッセイ方法のためのキットであって、タンパク質分解酵素、及び、担体(substrate)が結合した特異的結合パートナー(sbp)であって前記タンパク質の少なくとも2つのアイソフォームに対するsbpを含むキット。
【請求項6】
前記sbpが、前記タンパク質の全てのアイソフォームに対するsbpである請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記sbpが、抗体又は抗体断片である請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
前記spbが、グリコシル化部位と離れた部位で前記タンパク質を結合する請求項5から7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
前記検出が、特徴的なペプチド断片とsbpとの複合物(conjugate)である請求項5から8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記sbpが、標識化されている請求項5から9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記sbpが、蛍光色素で標識化されている請求項5から10のいずれか一項に記載のキット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なるグリコシル化パターンを有するアイソフォームが存在するタンパク質のアッセイの方法であって、前記タンパク質を含むサンプルをタンパク質部位特異的タンパク質分解酵素と接触させること、及び、1つのアイソフォームのタンパク質分解により生じたペプチド断片であってその他のアイソフォームのタンパク質分解により生じたものではないペプチド断片の少なくとも1つについて前記断片に対する特異的結合パートナー(sbp)を利用してその含有量(content)又は相対含有量を検出することを含む方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、トランスフェリン、アルカリ性ホスファターゼ、絨毛性ゴナドトロピン及びα−フェトプロテインから選択されるタンパク質である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記sbpが、抗体又は抗体断片である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
関心のあるタンパク質を、前記タンパク分解酵素と接触させる前に他のタンパク質から分離する請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のアッセイ方法のためのキットであって、タンパク質分解酵素、及び、担体(substrate)が結合した特異的結合パートナー(sbp)であって、前記タンパク質の少なくとも2つのアイソフォームに対するsbpを含むキット。
【請求項6】
前記sbpが、前記タンパク質の全てのアイソフォームに対するsbpである請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記sbpが、抗体又は抗体断片である請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
前記spbが、グリコシル化部位と離れた部位で前記タンパク質を結合する請求項5から7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
前記検出が、特徴的なペプチド断片とsbpとの複合物(conjugate)である請求項5から8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記sbpが、標識化されている請求項5から9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記sbpが、蛍光色素で標識化されている請求項5から10のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−517664(P2006−517664A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502250(P2006−502250)
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000480
【国際公開番号】WO2004/070389
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(502301425)アクシス−シールド エイエスエイ (6)
【Fターム(参考)】