説明

タンパク質チロシンホスファターゼ阻害剤

本発明は、タンパク質チロシンホスファターゼを阻害するホスホペプチド、及びこれらの医学的使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファターゼ阻害剤の分野に属する。より詳細には、本発明は、タンパク質チロシンホスファターゼを阻害するホスホペプチド及びホスホペプチド誘導体、並びにこれらの医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどすべての細胞内シグナリングが、タンパク質リン酸化ステップ及び脱リン酸化ステップに支配されている。リン酸化酵素、即ちキナーゼの役割は極めて早くから理解されていたが、それらの対応物であるホスファターゼの積極的役割は、現在、急速に認知度を高めている。
【0003】
リン酸化/脱リン酸化事象のダイナミックな性質は、細胞をバナジン酸塩などの汎用ホスファターゼ阻害剤で処理した際に、これにより、多数の細胞内標的が大規模かつ急速にリン酸化され、また、これに多面的な生理作用があることで、最も良く理解される。
【0004】
現在までに、100に満たない数のPTPが記載されており(1、2)、ヒトゲノム第1ドラフトのスクリーニング(3、4)で、このファミリーのタンパク質をコードする新遺伝子の発見がなかった(Ibbersonら、投稿済み)ので、この数が大幅に増えることもなさそうである。
【0005】
受容体キナーゼ及びPTPによるシグナリングは複雑である。サイトカイン及び成長因子受容体がリガンド誘発二量体化を通して活性化され、これが受容体キナーゼを活性化するのである。或いは、受容体がJAKなどの細胞内キナーゼを動員し、JAKが受容体(及び、JAK自ら)をリン酸化する。両事象とも、リン酸化カスケードを引き起こす。しかし、受容体ホスホチロシンに結合しこれを遮蔽するSOCS(サイトカインシグナル抑制因子)、PIAS(活性型STATタンパク質阻害因子)、受容体の内部移行及び分解、並びにPTPによる脱リン酸化を含めた、この系路を変調する複数のネガティブフィードバック機構の存在がますます明らかなものになりつつある。PTPは、可溶性タンパク質として、膜結合型「受容体」PTPとして、又は小胞体に付随して存在するため、脱リン酸化は、受容体が膜に固着している間でも、又は受容体が再循環過程にある間でも起こりうる。
【0006】
現在までに、生理的基質と関連付けされていることの知られているPTPはごく少数のみである。しかし、PTP1Bがインシュリンシグナリング及びレプチンシグナリングの負の変調因子であることが発見されたことによって、薬物標的(5〜7)として、PTPに対するかなりの関心がかき立てられた。PTP1Bは、リン酸化されたインシュリン受容体に対して特有の基質特異性を有することが示された(8)。さらに、PTP1Bは、インシュリン受容体チロシンキナーゼの主要な負の調節因子であることも示されている(9、10)。
【0007】
PTP1Bは、c−srcを脱リン酸化及び活性化することができ(65)、また、卵巣(66)及び胸部(65)における癌腫で過剰発現されるので、抗腫瘍標的として想定されている。
【0008】
別の研究は、PTP1B欠失細胞中で、IGF−1(インシュリン様成長因子−1)シグナリングが促進されていることを示した(68)。インシュリン及びIGF−1受容体の自己リン酸化ドメインは、ほぼ同一であり、しかも、おそらく両方ともPTP1Bの良い基質であるので、この結果はそれほど驚くべきことではない。IGF−1超感受性による影響として観測されたものの1つに、アポトーシスからの防御があったが、これは、PTP1B阻害剤に、顕著なアポトーシス要素を伴う神経変性疾患における利用価値がありうることを示すものである。
【0009】
PTP1B、即ちタンパク質チロシンホスファターゼ1B(遺伝子名はPTPN1又はPTP1B、SwissProt登録番号P18031)は、435アミノ酸及び分子量50kDを有する細胞内タンパク質であり、複数の組織で発現される。そのC末端配列は、PTP1Bが小胞体膜に結合していることを予測し、これは実験的に確かめられた。
【0010】
PTP1Bにインシュリンシグナリングにおける抑制性の役割があることに加えて、Jak2がPTP1Bの基質であることも示されている。この基質選択性は、PTP1Bの遮断によってレプチン受容体を介したシグナリングが増強されることを説明するものであるかもしれない。
【0011】
ホスファターゼは免疫系においても見いだされている。最も初期に発見されたPTPの1つであるCD45は、Tリンパ球及びBリンパ球における抗原受容体シグナリングに不可欠である。従って、このPTPは免疫抑制薬の良い標的と考えられるだろう。Srcホモロジードメインを含むPTPであるSHP1もまた、TCRシグナリング及びB細胞シグナリングに関与するが、SHP2ノックアウト表現型(82〜84)は、それがはるかに広い役割をもつことを示す。
【0012】
SHP−1(Swissprot:P29350、遺伝子名はPTPN6、PTP1C又はHCP)は、595アミノ酸を有する67.6kDの細胞質ゾルタンパク質であり、主として造血系由来の細胞で発現される。SHP−1は、2つのN端SH2(Srcホモロジー2)ドメインと、触媒ドメインと、2つのC末端自己調節性チロシンリン酸化部位を含有している。SHP−1は、BCR、TCR、EpoR、CSF−1、lyn、syk、及びc−Kitが関与する系路において、通常、負の調節因子であり、その抑制又は遺伝的除去により、免疫応答の増強がもたらされる。
【0013】
ホスファターゼはさらに、感染症の進展にも関与している。病原菌がそれらの生存率を増大させるためにPTPを利用するという一連の興味深い発見がある。これら細胞内PTPとPTP導入性微生物のPTPとが同じ系路を標的にしているかどうかは、全く明らかではないが、これらのPTPは、アプリオリに良い薬物標的と考えられるだろう。最も初期の例は、エルシニア(Yersinia)細菌であるが、この細菌は、生体内における病原性に不可欠なYopHと呼ばれるPTPをコードする(35〜36)。胃潰瘍の原因となる通常の感染性細菌であるヘリコバクターピロリ(H.pylori)は、CagAと呼ばれるタンパク質を胃の皮層細胞中に導入し、その細胞上で繁殖する(37)が、最近、CagAがリン酸化に際してSHP2を活性化することが判明した(38)。別の例はサルモネラ(Salmonella)であるが、この細菌は、SptPと呼ばれるPTPをその宿主細胞内に導入することが知られている(39)。他の細菌(ミコバクテリア(Mycobacteria)、サルモネラ(Salmonella))も、PTPによってそれらの宿主を操作すると考えられている(35)。
【0014】
病原菌がPTPを用いることのより間接的な証跡は、リーシュマニア症の治療用に確立された薬剤であるスチボグルコン酸ナトリウムがSHP1を強く阻害し、また、それに劣る程度においてSHP2も阻害するという観測から得られる(40)。従って、SHP1、SHP2、及び微生物PTPは、感染症における有効な標的であると考えられる。SHP−2(Swissprot:Q06124;異名はPTP−2C、PTP−1D、SH−PTP3、SH−PTP2;遺伝子名はPTPN11、PTP2C、又はSHPTP2)は、593アミノ酸を有する68kDの細胞質ゾルタンパク質であり、広く発現される。主としてSHP−2は、GHR、レプチンR(Ob)、EGFR、InsR、PDGFR、及び、NF−κBなどの細胞内活性化因子を含めたサイトカイン受容体のアゴニストである。
【0015】
血管内皮単層は炎症における重要な役割を果たしている。局所炎症では、L−セレクチン及びE−セレクチンなどのサイトカイン誘発接着性分子がアップレギュレーションされ、また、密着結合の透過性が増強されて(41)、好中球血管外遊走がこれに続く。アンジオポエチン−1、及びその内皮受容体Tie−2がこの過程にアンタゴナイズすることが最近示された(42)。また、内皮特異的なPTP−β(又は、マウスオーソログであるVE−PTP)が、Tie−2受容体キナーゼを特異的に脱リン酸化することも示された(43)。これは、PTP−βが好中球及びマクロファージによる血管外遊走の抑制因子として、炎症における薬物標的であることを示唆するだろう。PTP−β(Swissprot:P23467)は、1,997アミノ酸を有する224kDのI型膜タンパク質であり、主として内皮細胞で発現される。
【0016】
最後に、SAP−1(胃癌関連タンパク質チロシンホスファターゼ−1)と呼ばれるチロシンホスファターゼは癌に関与すると言われている(44)。Sap−1(Swissprot:Q15426)は、1,118アミノ酸を有する123kDのI型膜タンパク質であり、脳、心臓、及び胃で非常に弱く発現される。
【0017】
SAP−1は、1994年に、I型膜貫通PTPファミリーの新メンバーとしてクローニングされた(45)。大きな細胞外ドメインは、8つのフィブロネクチンタイプIII様ドメインからなる。他の多くの受容体PTPとは異なり、Sap−1は、触媒活性を有する単独のチロシンホスファターゼドメインを有し、GLEPP−1、PTP−β、及びDEP−1に近縁である(46、47)。SAP−1 mRNAは、膵臓でも、又は結腸でも検出できなかったが、膵臓癌及び結腸直腸癌細胞中では、mRNA及びタンパク質が強く発現されていた。Sap−1の発現は、生検において免疫組織学的に検査され、その過剰発現が軽度の形成異常を伴うアデノーマから腺癌への進行と相関していることが判明した(48)。過剰発現による研究は、p130casがSAP−1の基質であることを示唆している(44)。
【0018】
従って、ホスファターゼは、「ドラッガブルな(druggable)」標的として現れ、これに対する阻害剤が探索されている。そのような阻害剤は、例えば、低分子量化合物阻害剤でもよい。
【0019】
ホスファターゼに対する多くの低分子量阻害剤が公知である。現在開発中のものの大部分は、(49)の総説にあるものなど、PTP1Bに特異的なものである。
【0020】
ホスファターゼ阻害剤は、ペプチド阻害剤、又はそのようなペプチド阻害剤のミメティックであってもよい。PTP1Bを阻害するペプチドミメティックの例は、(50)に記載のホスホチロシルミメティック、例えば、(ジフルオロホスホノメチル)フェニルアラニン(FPmp)など、公知である。ホスホチロシンミメティックの別の例は、例えば、(51)に記載されているものなどの(ジフルオロナフチルメチル)ホスホン酸である。
【0021】
ホスファターゼに対するペプチド阻害剤を同定するためのアプローチは、Flintら(12)によって開発された。彼らのストラテジーは、基質とまだ相互作用はできるが、解離することができない触媒不活性変異体を使用するものである。これらの変異体は「捕捉変異体」と呼ばれた。捕捉変異体及びバナジン酸塩で処理された細胞からの基質を用いて、細胞が分析された(13、14)。ホスファターゼYopH及びPTPαに関する生化学的アプローチを用いて、2つのグループが、これらのPTPによる異なったペプチドに対する選択性を明らかにし(15、16)、再度、触媒ドメインの特異性を明らかにした。
【0022】
薬理学的標的であるPTP1Bの認識部位を模擬したランダムペプチドライブラリー(17)又は化学物質(18)のアッセイは、リン酸化チロシンからの位置−2及び−3における酸性残基、並びに位置−1における芳香族基を好む選択性を実証した。さらに最近では、1つのグループが、異なった短ペプチド配列に対するPTP1Bの親和性をテストするために、リバースアラニンスキャンを行い(19)、Asante−Appiahら(20)は、システイン以外のすべてのアミノ酸で位置をひとつずつ変えた合成ペプチドライブラリーでTC−PTPをテストした。
【0023】
Wang Pengら(68)は、コンビナトリアルライブラリーを質量分析でスクリーニングし、タンパク質チロシンホスファターゼSHP−1の最適な基質を同定した。このアプローチは、SHP−1が−2の位置で酸性残基を好み、そのうちアスパラギン酸の方がわずかにグルタミン酸より好まれることを明らかにした。−1の位置において、SHP−1は酸性残基も好むが、他の様々なアミノ酸も許容される。Wang Pengらが生成したSHP−1阻害剤の1つに、配列RNNEFpYA−NHがあったが、このペプチドは「クラス3」として、即ち、SHP−1の最も好ましくない基質として分類された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、5つの異なったタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)、即ち、Sap−1、PTP1B、PTP−β、SHP1、及びSHP2の「理想的な」基質として機能する合成ホスホペプチドの同定に基づいている。これらのホスホペプチドは、例えば、前述のPTPに対して特異的であり、それらの阻害剤として有用である。
【0025】
これらのPTPは様々な病理学的状態の発達に関与するので、本発明のペプチド阻害剤は、これらの疾患を治療又は予防するための新規アプローチを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
PTP捕捉変異体、ファージディスプレイ、及びSPOTなどの公知の技術を用いて、5つの異なったタンパク質チロシンホスファターゼ、即ち、Sap1、PTP1B、PTP−β、SHP1、及びSHP2の「理想的な」基質を同定した。
【0027】
従って本発明は、これらのタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の特異的阻害剤として用いることのできる新規合成ホスホペプチドに関する。
【0028】
本明細書において、「ホスホペプチド」という用語は、ホスホペプチドだけではなく、ホスホペプチドの誘導体、塩、及び、ペプチドミメティックにせよ非ペプチド性ミメティックにせよ、ミメティックを包含するものである。
【0029】
第1の態様では、本発明は、ホスホペプチドであって、
−2:E、L、又はV、
−1:疎水性アミノ酸、特にI又はL、
0:Y、
+1:G、
+2:A、T、又はS、
+3:疎水性アミノ酸、又はフェノールアミノ酸、特にF又はY、
+4:A又はG
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基である、ホスホペプチドに関する。これらの配列特性を有するいかなるペプチドも、Sap−1特異的阻害剤として用いることができる。
【0030】
チロシン残基は、通常、「Y」又はTyrとして短縮表記されるが、本出願を通して、リン酸化されたチロシン残基は、このチロシン残基がリン酸化されていることを明らかにするために、「Z」として標識される場合があることに留意するべきである。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、このホスホペプチドは、
ELYGSYYA(配列番号1)、
EFYGAFA(配列番号2)、
EFYGAFG(配列番号3)、及び
AEGELYGSLYA(配列番号4)
からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む。
【0032】
いかなる疑問も避けるために述べると、本明細書に示されるすべてのペプチド配列に関して、左側がペプチドのN端側に対応し、また、右側がペプチドの最もC末端側に対応している。同様に、所与のペプチドの最初に言及されるアミノ酸はそのペプチドのN末端アミノ酸に対応し、ペプチドの最後に言及されるアミノ酸はそのペプチドのC末端アミノ酸に対応している。本発明のペプチドは、本明細書に示された配列を含むものであり、従って、本明細書に示されたペプチド配列のN末端アミノ酸は、このペプチド自体のN末端である必要はなく、また、本明細書に示された配列のC末端アミノ酸も、このペプチド自体のC末端である必要はないことを理解するべきである。
【0033】
本発明の別の態様は、ホスホペプチドであって、
−2:E又はP、
−1:疎水性アミノ酸、特にF、
0:Y、
+1:G又はA、
+2:T、
+3:疎水性アミノ酸、特にY、F、I、又はL、
+4:G又はA
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基である、ホスホペプチドに関する。これらの配列特性を有するいかなるペプチドも、PTP1B阻害剤として用いることができる。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、このホスホペプチドは、
EFYATYG(配列番号5)、
EFYGTYG(配列番号6)、
EFYATYA(配列番号7)、及び
EFYGTYA(配列番号8)
からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む。
【0035】
本発明のさらに別の態様では、このホスホペプチドは、
−3:酸性アミノ酸、特にE又はD、
−2:L又はE、
−1:疎水性アミノ酸、特にL、
0:Y、
+1:A又はG、
+2:S、
+3:Y、L、又は酸性アミノ酸、
+4:フェノールアミノ酸、特にY又はF
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、ここで、数字はペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYはリン酸化されたチロシン残基である。これらの配列特性を有するいかなるペプチドも、PTP−β阻害剤として用いることができる。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、このホスホペプチドはアミノ酸配列ELLYGSYY(配列番号9)を含む。
【0037】
本発明のさらに別の態様では、このホスホペプチドは、
−2:E又はP、
−1:疎水性アミノ酸、特にF、Y、又はL、
0:Y、
+1:A、
+2:E、Q、又はH、
+3:疎水性アミノ酸、特にV、又はI、
+4:G、
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、ここで、数字はペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYはリン酸化されたチロシン残基である。これらの配列特性を有するいかなるペプチドも、SHP1阻害剤として用いることができる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、このホスホペプチドは、アミノ酸配列EFYAEVG(配列番号10)を含む。
【0039】
本発明のさらに別の態様は、ホスホペプチドであって、
−2:E又はF、
−1:疎水性アミノ酸、特にフェノールアミノ酸、特にF、
0:Y、
+1:A、
+2:E、
+3:V又はI、
+4:G、
+5:R
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基である、ホスホペプチドに関する。これらの配列特性を有するいかなるペプチドも、SHP−2阻害剤として用いることができる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、このホスホペプチドは、アミノ酸配列EFYAEVGR(配列番号11)を含む。
【0041】
さらに別の好ましい実施形態では、本発明のホスホペプチドは、50個若しくは約50個未満のアミノ酸、又は30個若しくは約30個未満のアミノ酸、又は20個若しくは約20個未満のアミノ酸、又は15個若しくは約15個未満のアミノ酸、約10個のアミノ酸、又は約9個のアミノ酸、又は約8個のアミノ酸、又は約7個のアミノ酸を含む。
【0042】
本発明は、
a) 1つ又は複数のアミノ酸残基が添加、除去、又は置換されている、本発明のどのペプチドの活性変異体も、
b) (a)の活性画分、前駆体、塩、又は誘導体も、
c) 本発明のペプチドの配列又は構造に基づいて設計されたペプチド性若しくは非ペプチド性ミメティック、又はそのフラグメントも含む。
【0043】
本発明で定義されたポリペプチド若しくはペプチドの活性変異体、又はこれらをコードする核酸には、置換ペプチド又は置換ポリペプチドとして実質上対応する配列の有限集合が含まれ、これらは、当業者であるならば、過度の実験をせずに、実施例で提示された教示と機能的特徴に基づいて日常的に入手できるものである。
【0044】
本発明によると、これらの活性変異体における好ましい変異は、「保存的」又は「安全な」置換として周知のものである。保存的アミノ酸置換は、分子の構造及び生物学的機能を保存するために、十分に類似した化学的特性を有するアミノ酸による置換である。ホスホペプチド又はその誘導体における「共通配列」の外側では、特に挿入又は欠失がいくつかのアミノ酸、例えば、30個未満、そして好ましくは10個未満のアミノ酸のみに関与し、かつ、例えばシステイン残基など、(ポリ)ペプチドの機能的立体配座に極めて重要なアミノ酸を削除又は置換除去しない場合、それらの機能を変化させることなく、残りの配列中にアミノ酸の挿入及び欠失を生成することができる。
【0045】
文献は、自然なポリペプチドの配列及び/又は構造に関する統計的研究及び物理化学研究を基礎にした多くのモデルを提供しており、これらに基づいて、保存的アミノ酸置換の選択を行うことができる(52、53)。プロテインデザイン実験は、特定のアミノ酸サブセットの使用により、折り畳み可能な活性タンパク質を生成できることを示しており、タンパク質構造中により容易に収容でき、かつ機能的ホモローグ及び構造的ホモローグ、並びにパラローグを検出するのに使用できるアミノ酸置換を分類するのに役立っている(54)。これらの同義アミノ酸グループ、及びより好ましい同義アミノ酸グループは表1に定義するものが好ましい。
【表1】


これらの教示に基づいて行われた置換によって生成した活性変異体も、1つ又は複数のアミノ酸が除去又は付加された活性変異体も同様に、本発明の対象、即ち、本発明のペプチドと同じ生物活性か、又はもし可能なら改善さえされている生物活性を有する新規ペプチドのうちに数えられる。
【0046】
本明細書において、塩とは、PTP阻害性ペプチド又はそのアナローグにおけるカルボキシル基塩、及びアミノ基の酸添加塩の両方をいう。カルボキシル基塩は当技術分野で公知の方法で形成できるが、これらには、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、鉄塩、又は亜鉛塩などの無機塩と、例えば、トリエタノールアミン、アルギニン若しくはリジン、ピペリジン、プロカインなどのアミンによって形成された塩など、有機塩基による塩とが含まれる。酸添加塩には、例えば、無機酸、例えば、塩酸又は硫酸などによる塩と、有機酸、例えば、酢酸又は蓚酸などによる塩とが含まれる。当然ながら、そのような塩のどれも、本発明のPTP結合活性又は阻害活性の生物活性を保持していなければならない。
【0047】
ほとんどのホスファターゼは、細胞内でそれらの活性を作用させるので、本発明のホスホペプチドは、細胞膜を通して細胞質に送達するのが望ましい。これは、選択された送達の経路及び方法によって、例えば、リポソームを用いることによって実現できる。細胞内送達を実現するためには、他に、脂質二重層を通した移行、又は、チャンネルタンパク質、受容体などの膜タンパク質を通した移行を媒介する特有の部分を、ペプチドに結合させることもできる。
【0048】
従って、さらに別の好ましい実施形態では、本発明のホスホペプチドは、細胞貫通ペプチドに連結される。
【0049】
細胞貫通ペプチドは当技術分野で公知である。それらは、例えば、ペネトラチン(Penetratin)、ホメオドメイン由来若しくはHIV tatタンパク質由来のもの、又は膜移行配列を含むシグナル配列ベースのものなど、タンパク質由来のものでもよい。細胞貫通ペプチドはさらに、トランスポータン(transportan)のように、合成及び/又はキメラであってもよい。細胞貫通ペプチドの例、及び細胞貫通の可能な機構については、例えば、(55)又は(56)に総説がある。
【0050】
本発明の化合物の細胞貫通を増進又は促進するためには、他に、親油性特性を導入することもできる。さらに、自然に細胞膜を横切って輸送される分子であって、これらの化合物が細胞膜を横切って細胞質中に進入するのを容易にするか、又はこれらの化合物の浸透性を促進する分子で、これらの化合物を化学的に修飾、誘導体化、結合、又は複合体化することもできる。これらの膜ブレンド剤の例には、融合誘導ポリペプチド、イオンチャンネル形成ポリペプチド、他の膜ポリペプチド、及び、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸などの長鎖脂肪酸がある(米国特許第5,149,782号)。これらの膜ブレンド剤は、分子結合体を細胞膜の脂質二重層に挿入して、それらの細胞質への進入を容易にする。分子を膜貫通送達するための他の有益な方法では、受容体介在性のエンドサイトーシス活性の機構を利用する。これらの受容体システムには、ガラクトース、マンノース、マンノース6−リン酸、トランスフェリン、アシアログリコプロテイン、トランスコバラミン(ビタミンB12)、インシュリン、及び他のペプチド成長因子、例えば、表皮成長因子(EGF)などを認識するものが含まれる。ビオチン受容体及び葉酸受容体などの栄養物受容体も、細胞膜を横切った輸送を促進するのに有利に用いることができるが、これは、ほとんどの細胞の細胞膜表面におけるビオチン受容体及び葉酸受容体の位置及び多重性、並びに付随する受容体介在性の膜貫通輸送過程によるものである(米国特許第5108921号)。従って、細胞質中に送達するべき化合物と、ビオチン又は葉酸などのリガンドとの間で形成された複合体は、ビオチン受容体又は葉酸受容体を有する細胞膜と接触させることによって、受容体介在性膜貫通輸送機構を開始させることができ、それによって所望の化合物の細胞内への進入が可能となる。
【0051】
本発明の化合物を改変して、脳血液関門における透過性を改善することも有用であろう。ペプチドを改変して、脂溶性を高めるか(例えば、コレステリルなどの大きな親油性部分とエステル化することによって)、又は、関門の脳側での保持を促進する、切断可能な「ターゲッティング」部分を供給することができる(57)。或いは、ペプチドをトランスフェリン受容体に特異的な抗体に連結して、この受容体がもつ、血液脳関門を通して鉄を輸送する役割を利用することもできる(58)。血行性薬物送達分野におけるバイオミメテック輸送及び合理的薬物送達の他の方法は、当技術分野で公知である(59)。
【0052】
別の好ましい実施形態では、本発明は、本発明のホスホペプチドの配列及び/又は構造に基づいて設計されたペプチド性ミメティック(ペプチドミメティックとも呼ばれる)、又は非ペプチド性ミメティックを提供する。そのようなペプチドミメティックは、Yをリン酸化されたチロシン残基とするところの、ペプチドRNNEFYA−NHではないことが好ましい。
【0053】
このミメティックでは、ペプチド又はポリペプチドの性質が、アミノ酸側鎖、アミノ酸キラリティー、及び/又はペプチドバックボーンのレベルで化学的に改変されている。これらの改変は、同程度か、又は改善された治療特性、診断特性及び/又は薬物動態特性を有するPTP結合性化合物及びPTP阻害性化合物を提供することを意図したものである。
【0054】
例えば、対象への注射後に、ペプチドがペプチダーゼで切断されやすいことが問題であるとき、特に感受性が高いペプチド結合を切断可能でないペプチドミメティックで置換することにより、ペプチドをより安定にし、従って治療薬としてさらに有用にすることができる。同様に、L−アミノ酸残基の置換は、プロテアーゼ分解に対するペプチドの感受性を弱める標準的な方法であり、最終的には、ペプチド以外の有機化合物に一層類似させるものである。t−ブチルオキシカルボニル基、アセチル基、テイル(theyl)基、スクシニル基、メトキシスクシニル基、スベリル(suberyl)基、アジピル基、アゼライル(azelayl)基、ダンシル基、ベンジルオキシカルボニル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、メトキシアゼライル(methoxyazelayl)基、メトキシアジピル基、メトキシスベリル(methoxysuberyl)基、及び2,4,−ジニトロフェニル基などのアミノ末端ブロック基も有用である。ペプチドにおける電荷をもったN末端及びC末端をブロックすることには、ペプチドが疎水性の細胞膜を通過して細胞内に入るのを促進する別の効果もあるだろう。ペプチドミメティックに含まれる好ましいアミノ酸の代替基は、表2に規定するものである。
【表2】

【0055】
ペプチドミメティック及び他の非ペプチド性ミメティックを合成及び開発するための技法は、当技術分野で周知である(60〜62)。例えば、タンパク質間相互作用を破壊し、さらにタンパク質複合体形成を阻害できるミニプロテイン及び合成模倣体について記載されている(63)。タンパク質の構造及び機能を調査及び/又は改善するために、生体外及び生体内両方の翻訳システムを用いて、自然でないアミノ酸をタンパク質に組み入れるための様々な方法も、文献に開示されている(64)。
【0056】
本発明はさらに、本発明のホスホペプチドの機能的誘導体に関する。このホスホペプチドは、Yをリン酸化されたチロシン残基とするころの、ペプチドRNNEFYA−NHではないことが好ましい。
【0057】
本明細書において、「誘導体」という用語は、アミノ酸部分の側鎖に存在する官能基、又は末端N基若しくはC基から、公知の方法によって調製できる誘導体のことをいう。そのような誘導体には、例えば、カルボキシル基のエステル又は脂肪族アミド、及び遊離アミノ基のNアシル誘導体又は遊離水酸基のOアシル誘導体が含まれ、アシル基、例えば、アルカノイル基又はアロイル基で形成される。
【0058】
本発明のホスホペプチドの機能的誘導体は、安定性、半減期、生体利用性、人体による許容度、又は免疫原性などのペプチドの特性を改善するために、ポリマーに結合することができる。この目標を実現するために、アミノ酸残基上の1つ又は複数の側鎖として存在する1つ又は複数の官能基に結合した少なくとも1つの部分を含む、ペプチドの機能的誘導体が生成される。そのような官能基は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)でもよい。PEG化は、公知の方法で行うことができ、例えば、国際公開第WO92/13095号に記載されている。PEG化処理過程の他の例は、例えば、国際公開第WO02/28437号、第WO99/55377号、第WO99/55376号、又は第WO99/27897号に開示されている。
【0059】
従って、本発明の好ましい実施形態では、本発明のホスホペプチドはPEG化されている。
【0060】
本発明のペプチドの生成方法
本発明のペプチドは、当技術分野で公知のいかなる適当な方法で、例えば、分子生物学的方法で、また、好ましくは化学的方法で用いてもよい。
【0061】
化学合成技術の例には、固相合成法及び液相合成法がある。固相合成法としては、例えば、合成するべきペプチドのC末端に対応するアミノ酸を有機溶媒に不溶の支持体に結合し、アミノ基及び側鎖官能基が適切な保護基で保護されているアミノ酸をC末端からN末端への順序でひとつずつ縮合する反応と、ペプチドのアミノ基の保護基又は樹脂に結合したアミノ酸を遊離させる反応との交互反復によって、ペプチド鎖を伸長する。固相合成法は、用いられる保護基のタイプによって、主として、tBoc法と、Fmoc法とに分類される。通常使用される保護基には、アミノ基用に、tBoc(t−ブトキシカルボニル)、Cl−Z(2−クロロベンジルオキシカルボニル)、Br−Z(2−ブロモベンジルオキシカルボニル)、Bzl(ベンジル)、Fmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)、Mbh(4,4’−ジメトキシジベンズヒドリル)、Mtr(4,メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルフォニル)、Trt(トリチル)、Tos(トシル)、Z(ベンジルオキシカルボニル)、及びCl2−Bzl(2,6−ジクロロベンジル);グアニジノ基用に、NO(ニトロ)及びPmc(2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルフォニル);水酸基用にtBu(t−ブチル)が含まれる。
【0062】
ホスホチロシンは、合成中、例えば、下記の実施例で記載されるように、F−mocホスホチロシンに組み入れることによって合成される。
【0063】
所望のペプチドを合成した後、それに脱保護基反応を施し、固形担体から切り取る。そのようなペプチド切断反応は、Boc法ではフッ化水素又はフルオロホルムスルホン酸で、またFmoc法ではTFAで行うことができる。
【0064】
このようにして得られた化合物は、その後、1つ又は複数の精製ステップにかけられる。精製は、これを目的とする公知の方法のいずれの1つによっても、即ち、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、電気泳働、又は同様のものを用いる従来のいかなる操作手順によっても行うことができる。例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いることができる。溶出は、タンパク質精製で通常使用される水−アセトニトリルベースの溶剤を用いて行うことができる。
【0065】
本発明には、本発明の化合物の精製試料も含まれる。本明細書において、精製試料とは、乾燥重量で、本発明の化合物が少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%である試料のことをいう。
【0066】
医学上の有用性
本発明はさらに、本発明のホスホペプチドの医学的利用に関する。
【0067】
1.本発明のホスホペプチドによって阻害されるホスファターゼは、いくつかの病態の進行に関与することが記載されている。従って、PTPの特異的な阻害剤である、本発明のホスホペプチド、ミメティック、又は機能的誘導体は、本発明に従って薬物として用いられる。このホスホペプチド、ミメティック或いは機能的誘導体は、Yをリン酸化されたチロシン残基とするところの、ペプチドRNNEFYA−NHではないことが好ましい。
【0068】
好ましい実施形態では、Sap1を阻害するホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体は、癌、特に胃又は腸の癌の治療及び/又は予防用薬物を製造するために使用される。
【0069】
別の好ましい実施形態では、PTP1Bを阻害するホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体は、糖尿病及び/又は肥満症の治療及び/又は予防用薬物を製造するために使用される。
【0070】
PTP1Bはさらに、例えば、卵巣癌又は乳癌などの腫瘍疾患における関与が示されているか、又は示唆されている。PTP1B欠失細胞において、促進されたIGF−1シグナリングが示されたので、PTP1Bの阻害剤には、IGF−1様の効果もあるかもしれず、従って、うっ血性心不全、神経変性疾患、脳の虚血症イベント、又は脱髄疾患などのIGF−1介在性疾患の予防用又は治療用に用いることができる。
【0071】
別の好ましい実施形態では、PTP1Bを阻害するホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体は、食欲抑制剤として使用される。
【0072】
本発明はさらに、PTP−βを阻害するホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用であって、炎症の治療及び/又は予防用薬物を製造するための使用に関する。多発性硬化症を治療及び/又は予防するための、そのようなペプチド、ミメティック、又は機能的誘導体の使用は、本発明に従い特に好ましい。
【0073】
本発明はさらに、PTP−βを阻害するホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用であって、固形癌又は転移癌などの血管新生依存性疾患の治療及び/又は予防用薬物を製造するための使用に関する。
【0074】
本発明はさらに、ホスファターゼSHP1及びSHP2を阻害するホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用であって、感染症、特にリーシュマニア症の治療及び/又は予防用薬物を製造するための使用に関する。
【0075】
本発明のホスホペプチド、ミメティック、又は機能的誘導体をそれを必要とする患者に薬学的有効量投与することを含む、PTP介在性疾患を治療する方法も、本発明の範囲内にある。
【0076】
医薬組成物
本発明は、これらのホスホペプチド、ミメティック、又は機能的誘導体の1つ又は複数を含む医薬組成物にも関する。
【0077】
この医薬組成物はさらに、薬学的に許容される担体、賦形剤、安定化剤、又は希釈剤をさらに含むことが好ましい。
【0078】
本発明による有効成分は、様々な方法で個体に投与することができる。投与経路には、皮内経路、経皮経路(例えば、遅延放出製剤中で)、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、経口経路、硬膜外経路、局所経路、及び鼻腔内経路が含まれる。他のいかなる治療法上有効な投与経路も用いることができ、例えば、上皮組織又は内皮組織を通した吸収、又は、活性薬をコードするDNA分子が患者に投与され(例えばベクターを介して)、活性薬の生体内での発現及び分泌を引き起こす遺伝子療法よって投与できる。さらに、本発明によるペプチドは、薬学的に許容される界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤、及び媒体など、生物学的に活性な薬剤の他のコンポーネントと共に投与することもできる。
【0079】
「薬学的に許容される」ものの定義は、有効成分のもつ生物活性の有効性を妨げず、かつそれが投与される宿主に有害でない、いかなる担体も包含されるものである。例えば非経口投与において活性ペプチドは、注射用に食塩水、ブドウ糖溶液、血清アルブミン、及びリンゲル液などの媒体中に単位用量形態で処方することができる。
【0080】
非経口投与(例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与)用には、活性ペプチドは、溶液、懸濁液、乳剤、又は凍結乾燥粉末薬として、薬学的に許容される非経口媒体(例えば、水、食塩水、ブドウ糖溶液)、及び、等張性(例えば、マンニトール)又は化学安定性(例えば、保存剤及び緩衝液)を維持する添加物と共に処方することができる。この製剤は、一般的に使用される技法で殺菌される。
【0081】
PCT特許出願第WO92/13095号に記載されているように、人体中での分子の半減期を増強する結合操作を行うことによって、例えば、ポリエチレングリコールに分子を連結することによって、本発明による活性ペプチドの生体利用性を改善することができる。
【0082】
活性ペプチドの治療有効量は、受容体タイプ、本発明による物質の受容体に対する親和性、ペプチドが示すなんらかの残留細胞毒活性、投与経路、及び患者の臨床症状を含めた、多くの変数の関数になるだろう。
【0083】
「治療有効量」とは、投与した際、本発明による物質によって、生体内におけるタンパク質チロシンホスファターゼの阻害が引き起こされる量である。1回用量又は複数回用量として個体に投与される用量は、薬物動態特性、投与経路、患者の状態及び特徴(性別、年齢、体重、健康、大きさ)、症候の程度、併用治療、治療の頻度、及び所望の効果を含めた様々な要因によって異なるだろう。確立された用量範囲の調節及び操作は、十分に、当業者の能力の範囲内である。
【0084】
本発明によるポリペプチドの必要とされる用量は、約0.0001から100mg/kgまで、約0.01から10mg/kgまで、約0.1から5mg/kgまで、又は約1から3mg/kgまでの範囲で変動するだろうが、これは上述のように、多くの治療上の裁量を必要とするものである。
【0085】
1日の用量は、通常、所望の結果を得るために有効である、分割用量又は持続放出形状で与えられる。第2投与又は後続投与は、個体に投与した初回用量又は先行用量より多いか、少ないか、又は同じ用量で行うことができる。第2投与又は後続投与は、疾患期間中又は疾患開始以前に投与することができる。
【0086】
本発明はさらに、本発明のペプチド、ミメティック、又は機能的誘導体の有効量を、薬学的に許容される担体と混合することを含む、医薬組成物を調製する方法にも関する。
【0087】
雑誌記事若しくは要約、公開若しくは未公開の米国特許出願若しくは外国特許出願、米国特許若しくは外国特許、又他のいかなる引用文献も含めた、本明細書に引用されたすべての文献を、参照により、引用された文献に示されたすべてのデータ、表、図、及びテキストを含めた全体として、本明細書に組み込む。さらに、本明細書に引用された文献中の引用文献の全内容も、参照により全体として組み込む。
【0088】
公知の方法のステップ、従来の方法のステップ、公知の方法、又は従来の方法の参照は、いかなる意味においても、本発明のいかなる態様、記載、又は実施形態も、関連技術において開示、教示、又は示唆されていることを認めるものではない。
【0089】
特定の実施形態についての以上の記載は、本発明の一般的な本質を完全に明らかにするものであり、他の者も、当該技術の範囲内における知識(本明細書に引用された文献の内容も含む)を応用することによって、過度の実験をすることなく容易に、本発明の一般概念から逸脱せずに、特定の実施形態を改変し、かつ/又は、様々な適用のために適応させることができる。従って、そのような適応及び改変は、本明細書に示された教示及び教導に基づいて、開示された実施形態の均等物の範囲内にあるものである。本明細書における術語又は用語は、限定ではなく、説明を目的とするものであり、本明細書における用語又は術語は、当業者の知識と併せて、本明細書に示された教示及び教導の観点から、当業者によって解釈されるべきであることを理解するべきである。
【0090】
これまで、本発明の説明を行ったが、本発明を限定するものではなく実例として提供する以下の実施例を参照することにより、本発明はより容易に理解されるだろう。
【実施例】
【0091】
ホスホチロシンを含むランダムファージライブラリーを用いて、タンパク質チロシンホスファターゼの基質特異性を調べた。
【0092】
実験の概要
操作手順は、ホスホチロシンを含むランダムペプチド配列を保持するファージライブラリーの作製が可能となるように設定した。ファージは、固定された基質捕捉性のGST−PTP融合タンパク質で選択した。複数ラウンドの選択の後、個々のクローンをELISA及びSPOT分析で確認した。ディスプレイされたペプチドの重要なものをコードする配列は、サブクローニングして、Elkキナーゼを発現する細菌中で同時発現させた。この結果得られたタンパク質は、その後、PTPの野生型バージョンの基質として用いた。この操作手順を用いて、いくつかのPTPの共通配列を同定した。最後に、基質認識に重要であると記載されている触媒ドメイン中の特定の残基に変異を有するPTPを用いて、同一のプロトコールを実施した。
【0093】
各ファージが特有の(ホスホ)ペプチドを提示するM13バクテリオファージライブラリーに、5つのPTPを曝露した。提示されたペプチドは、自然なファージのタンパク質に隣接された硬直した構造中に埋め込まれた。この同じファージディスプレイ法がキナーゼの選択性の研究において効率的であることが既に示されている(21〜23)。このファージの主要キャプシドタンパク質であるタンパク質VIII上にディスプレイされたペプチドレパートリーを用いたので、これにより、提示される配列のコピー数が増加した(24)。同じライブラリーは、以前、fynキナーゼのリン酸化部位をマッピングするのに用いられている(22)。リン酸化されたランダムライブラリーの使用によって、ShcにおけるPTBドメインの共通配列も同定された(22)。さらに最近では、ファージ上に発現されたcDNAライブラリーが、SHP−2におけるSH2ドメインと相互作用するリガンドの同定に効率的であることも示されている(25)。
【0094】
この実施例では、事前にリン酸化されたM13ファージライブラリーを利用した操作手順(26)を用い、それに続いて、異なるPTPによる「捕捉」を行った。PTP1Bの共通配列を同定したが、これは、既に記載されているものとは異なっていた(19)。ELISA及びSPOT技法を用いることによって得られた配列の正当性を確認した。後者の方法は、同定された配列中の、発見された個々のアミノ酸をテストするために、そして、認識されるのに必要な最小のアミノ酸をマッピングするために用いた。さらに、この技法によって、DNAシーケンシングより得られたデータから、直接、陽性クローンを広範囲にスクリーングすることが可能となった。これに従って、近縁のPTP(PTP−Sap1、SHP1、SHP2、及びPTP−β)を用いた新ラウンドのパニングを行った。これらのホスファターゼは、異なったファージに対する選択性を示した。
【0095】
材料及び方法
クローニング及び精製
PTPは、以前に記載されている(27)ように、クローニングし、精製した。簡潔には、すべてのPTPにおける触媒ドメインの始め及び終わりに対応する特異的プライマーを用いて、注目の領域を含有するESTをPCRによって増幅した。これらのプライマーは、5′端にEcoRI部位を、そして3’末端にNotI部位をもつように設計した。これらの2つの制限部位は、触媒ドメインをpGEX4TKベクター(Pharmacia社)にインフレームでクローニングするのに用いた。捕捉を行う変異体を構築するために、発明者らは、記載されている(27)ような、DからAへの突然変異を生成する内部プライマーを設計した。PTP−Sap1中のR88位の変異は、次の内部プライマーを用いて行った。即ち、5’ATT GTA GCG GTT CTT GGC GT3’及び5’ACG CCA AGA ACC GCT ACA ATA ATG TGC TGC CCT ATG ACT G3’である。SPOT分析に用いられたクローンは、GSTとインフレームなPKAリン酸化部位をコードする改変されたpGEX2TKにサブクローニングした。コンストラクトはシーケンシングによってチェックした。大腸菌(Escherichia coli)BL21(コドン+;Stratagene社)を形質転換して、シングルコロニーを、37℃、25mLのLB+amp+Cm中で、ODが0.5に達するまで増殖させた。タンパク質生成は、最終濃度250μMのIPTGを添加した後、3時間、30℃で行った。細菌を沈殿させ、溶菌緩衝液(50mM Tris pH8.0、5mM EDTA、0.1% トリトンX−100、150mM NaCl +プロテアーゼ阻害剤カクテルコンプリート(商標)(Roche Molecular Biochemicals社))に再懸濁し、さらに、氷上で1時間のリゾチーム(最終濃度200μg/ml)処理と、それに続く3ラウンドの超音波処理によって溶菌した。溶菌液の上清を、グルタチオンセファロースビーズ(Pharmacia社)の50%溶液100μlと、4℃、2時間以上インキュベートした。最後に、ビーズを十分に洗浄し、10mM グルタチオンを含む50mM Tris(pH8.0)で、PTPを溶出した。グリセロールを最終濃度20%まで添加し、生成されたタンパク質の量をBio Rad社のタンパク質アッセイで測定し、そして使用するまでアリコートを−20℃で保存した。
【0096】
PEP−GSTコンストラクトは、以下の通りに調製した。用いられたプライマーは、M13のpVIIIキャプシド配列+2か所の制限部位(XhoI及びNotI)に対応しており、センス配列が、5’TAT CTC GAG TCT TTC GCT GCT GAG GGT GA3’であり、アンチセンス配列が、5’ATA GCG GCC GCT TGC AGG GAG TCA AAG GCC G3’であった。ファージDNAは、PCRミックスに10のファージを添加することにより、直接増幅した。Herculase Polymerase(Stratagene社)を用いたPCRの後、Microcon(登録商標)PCR(Millipore社)を用いてDNA断片(100bp)を精製し、さらにUtrafree(登録商標)−DA(Millipore社)でゲル抽出した。最後に、クローニング及びタンパク質精製を、PTPに関するものと同じプロトコールに従って、ただし、TKB1(Stratagene社)細菌を形質転換し、シングルコロニーを増殖して、メーカーによる記載に忠実に従ってタンパク質生成及びリン酸化を誘導したことを唯一の相違点として、実行した。この場合も、すべてのコンストラクトは、タンパク質生成の前にDNAシーケンシングでチェックした。
【0097】
SPOT分析のためのGST−PTPの標識化は、以下の通りに行った。2〜5μgのGST融合タンパク質をグルタチオン−セファロースビーズ(Amersham Pharmacia Biotech社)に4℃で結合した。洗浄後、GST融合タンパク質は、ウシ心臓から得たプロテインキナーゼ(Sigma社)によって、PKA緩衝液(20mM Tris pH7.5、100mM NaCl、12mM MgCl、1mM DTT)中で、35μCiの(γ−32P)ATPの存在下に、氷上で30分間、放射性同位元素標識した。洗浄後、融合タンパク質は、50mM Tris(pH8.0)中の10mM 遊離グルタチオンでビーズから溶出した(28)。
【0098】
ライブラリーのリン酸化
ファージ(10〜1010)は、全容積20μlのキナーゼ緩衝液(25mM Tris pH7.5、5mM MgCl、2.5mM MnCl、2.5mM DTT、及び1mM ATP)中、30℃で、3時間、インキュベートした。まず、未精製ライブラリーをPTP捕捉変異体上でアッセイしたが、バックグランドが高く、リン酸化されたものも、リン酸化されていないものも、結合したクローンの数のいかなる増幅も観測できなかった(データは示されていない)。従って、全ライブラリーをリン酸化して、抗PTyrカラム(Upstate社)中を通した。結合したファージをフェニルリン酸で溶出し、クローンは再び、カラム中を二度通した。増幅されたチロシン含有ファージは、その後、4℃でTE中に保存し、捕捉実験に用いた(下記参照)。得られたファージの配列分析では、チロシン周辺のアミノ酸組成にいかなる偏向も示されず、配列決定された30クローンのうち2クローンのみがチロシンを全く持たなかった(結果は示していない)。さらに、どの配列も二度は見いだされなかった。発明者らは、野生型ファージはリン酸化されず、それに対してライブラリーは高度にリン酸化されるという以前に得られた結果((22、25、29)データは示されていない)を確認した。これは、発明者らのリン酸化プロトコールに従い、(γ−32P)ATPをトレーサーとして用いて検査した。
【0099】
選択されたファージのパニング、増幅、及びシーケンシング
ファージ(10〜10)は、キナーゼ緩衝液(20mM Tris pH7.5、5mM MgCl、2.5mM MnCl、1mM ATP、2.5mM DTT、そして、3ユニットのsrcキナーゼを含む場合と、含まない場合とがある)中、30℃で、3時間、インキュベートした。バクロウイルスから精製されたp60srcは、Upstate Biotech社から購入した。グルタチオンセファロースビーズは、捕捉緩衝液(20mM Tris pH7.5、150mM NaCl、及び1mM EDTA)に最終濃度1%のBSAを含む溶液中で、4℃、4時間、3μgのGST又はPTP−GSTでプレコーティングした。ファージは、4℃で、30分間、GST−ビーズを用いてプレクリアーし、遠心して、上清を、4℃で、1.5時間、コーティングされたPTP−GSTと定常的に振盪しながらインキュベートした。最後に、ビーズをスピンダウンして、何度か(第1パニングでは5回、その後は10回)、最終濃度0.25%のTween(登録商標)を含むPBS溶液で洗浄した。ファージは、定常的に振盪しながら、室温で10分間、酸処理(グリシン緩衝液、pH2.7)することによってPTP−GSTから溶出し、ビーズをスピンダウンして、ファージを上清中に回収した。pHを回復するために、1/10容積の1M Tris(pH9.0)溶液を添加した。最後に、両方の分画(結合及び非結合)で、ファージのタイターを測定し、結合分画の残りは、記載された操作手順(24)に従い、XL1 MRF’細菌(Stratagene社)を感染させるのに用いた。翌日、細胞をこすり取り、メーカーの操作手順に従って、ヘルパーファージM13K07(Pharmacia社)を用いてファージを増幅した。
【0100】
捕捉されたクローンの数に増加が観測された場合、ファージをシングルクローンとして精製し、フォワードプライマー:5’ATG AAA AAG TCT TTA GTC CTC3’及びリバースプライマー:5’CAG CTT GAT ACC GAT AGT TGC3’をファージプライマーとして用いて、コロニーPCRを行った。PCR産物は、次に、同じプライマーを用いて精製し、配列決定した。配列は、SeqmanIIソフトウェアを用いて、両方向に読んだ。
【0101】
GST−PEPコンストラクト及びpNPPの脱リン酸化アッセイ
100ngのPEP−GSTコンストラクトを、PTP緩衝液(50mM Hepes pH7.4、0.05% ノニデット Np−40、及び1mM DTT)中で、10ngのPTP野生型とインキュベートした。反応は、異なったタイムラップに等容積のアリコートを、50mM バナジン酸塩溶液と混合して停止させた。最後に、96ウェルドットブロット装置(Bio−Rad社)を用いて、全混合液をニトロセルロース膜上にスポッティングし、基質のリン酸化状態を抗ホスホチロシン抗体(クローンG410、Upstate社)を用いて可視化した。
【0102】
pNPP加水分解では、200ngのPTPを、全容積50μlのアッセイ緩衝液(50mM Tris pH6.8、及び2mM DTT)中、室温で、異なった量の汎用基質(0〜60mM)とインキュベートした。プレートを405nmで計測し、動態パラメータは、非線形回帰法プログラム(Graphpad社、Prism(登録商標))を用いて決定した。
【0103】
ELISA
シングルクローンは、以前に記載されているように増幅した。コーティングは、GST−PTP又はGST単独で、PBS中で行った(96ウェルプレート形式ではウェルあたり2μg)。ファージのリン酸化は、記載されたプロトコールに従って(ホスホ−Tyr認識の特異性を検査し、それによって、陽性クローンが触媒ドメインに特異的であることを確認するために、(30)に示されるように、3Uのsrcキナーゼの存在下、及び非存在下に)行い、この処理過程中に、各ウェルを、5%無脂肪粉ミルクのPBS溶液中でブロッキングした。ウェルをPBS−0.5% Tween(商標)で5回洗浄し、ファージを、100μlの捕捉緩衝液(20mM Tris pH7.5、150mM NaCl、及び1mM EDTA)中のPTP−GST又はGSTと、4℃で2時間、インキュベートした。ウェルをPBS−5%ミルクで十分に洗浄し、1時間ブロッキングした。ファージの存在は、一次抗体として抗M13モノクローナル抗体(Pharmacia社)を用いて検出し、シグナルは、ヤギ抗マウスIg−HRP(DAKO社)で増幅し、Pharmacia社のプロトコールの記載に従って、ABTS(Sigma社)を用いて、ペルオキシダーゼ活性によって明らかにした。
【0104】
SPOT合成及びプロービング
ペプチドは、Sigma−Genosys社によって提供された誘導体化したセルロース膜上で、手動で合成した。20種のFmoc−アミノ酸活性エステルも、Sigma−Genosys社によって提供された。Novabiochem社からのFmoc−ホスホチロシン(#04−12−1156)を、カップリング試薬であるN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC;Sigma社)及びヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt;Fluka社;Espanelら、投稿済み)の存在下で取り込ませた。
【0105】
膜は、ウエスタン洗浄緩衝液(10mM Tris、pH7.4、0.1% トリトンX−100、及び150mM NaCl)+SPOTブロッキング緩衝液(Sigma−Genosys社)でブロッキングし(少なくとも2時間)、4℃でプロービングした。2時間後に、膜をウエスタン洗浄緩衝液で何度か洗浄し、そのオートラジオグラフィーを行った。
【0106】
Tyr偏向ライブラリーの構築
発明者らは、pVIIIタンパク質のC末端部分で9アミノ酸のインサートをディスプレイする、(1)に記載されているファージミドを用いた。発明者らは、(i)インサートの5’末端にあるEcoRI部位に対応するEFモチーフを除去すること、及び(ii)ディスプレイされる配列の中央に固定されたチロシンを添加することを望んだ。DNAインサートは、5’末端にMunIを、そして3’末端にBamH1を有するように設計した(下線部)。プライマーは、ポリメラーゼによる充填のために、pGXb(太字)プライマーのリバース配列も有するように延長されている。従って、ELXXXXYXXXXDP(Xはどんなアミノ酸も意味する)をコードする合成オリゴヌクレオチドの配列は、5’−ATA CAA TTG (NNK) TAT (NNK) NNG GAT CCT ACA CAT GCA GCT CCC GGA Gであり、ただし、n=A、T、G、又はC、かつK=G又はTである。ライブラリーを構築するのに用いられた方法は、(2、3)に記載されている通りに実施した。簡潔には、400pmoleのライブラリープライマー及びpGXb、(5’−GTC TCC GGG AGC TGC ATG TG−3’)をアニールし、相補鎖を、Klenow DNA PolI(New England Biolabs社)を用いて充填した。次に、DNAをフェノールクロロホルム沈殿によって抽出し、産物をMunI及びBamHIで消化した。その後、混合物をコントロールと共に15%ポリアクリルアミドゲルにロードし、正しい大きさとして移動するバンドを切り、回収した(4)。インサートは、EcoRI及びBamHIで事前に開環されたpC89ベクターにクローニングした(1)。XL1BlueMRF’エレクトロポレーション用コンピテントセル(Stratagene社)を、このライゲーション反応液で形質転換し、20枚の大きなプレート(アンピシリン及びテトラサイクリンを含む100mlのLBアガー)に広げた。細胞を採取し、2mLアリコートを凍結させた。
【0107】
ファージは以下の通り増幅した。Tet(12.5μg/ml)及びAmp(50μg/ml)を補充された5リットルのLBに、2mlのライブラリー細菌を希釈し、OD600が0.2〜0.3に達するまで振盪した。このとき、発明者らは、最終濃度2.4μg/mlのIPTGと、タイター1012のM13K07ヘルパーファージ(Pharmacia社)とを添加し、再び5時間、37℃で、振盪した。ファージをポリエチレングリコールで二度沈殿し、CsClの平衡遠心で精製した(2)。ライブラリーの品質を力価測定によってテストし、最終形質導入ユニットタイターは1010ファージ/mlであった。
【0108】
結果
この実施例中では、リン酸化されたチロシン残基を「pY」と表す場合がある。添付の配列リストでは、このアミノ酸残基は、通常のチロシン残基として、即ち「Tyr」又は「Y」として現れる。図においては、ホスホチロシンを「Z」として示す。
【0109】
PTP1Bに関するファージディスプレイ
PTP1B捕捉変異体((12)並びに、材料及び方法)をポジティブコントロールとして用いて、基質認識を研究するためにファージディスプレイライブラリーを用いることの有効性を検証した。PTP1Bには、いくつかの利点がある。即ち、(i)現在、PTP1Bの主要な細胞基質について詳しく記載されていること(9、10)、(ii)リバースアラニンスキャンが行われ(19)、「最適」の基質共通配列の決定が行われたこと、及び(iii)PTP1Bとペプチドとの相互作用に関する結晶学的記述の正確なマッピングが行われたことである(31、32)。
【0110】
チロシン偏向ライブラリー(材料及び方法を参照)を3回パンニングした後に、結合したファージの濃縮が観測された。捕捉されたファージは、保存モチーフ(表3)を見出すために直接配列決定した。その後、適合させたELISAアッセイ(材料及び方法を参照)を行ったが、このELISAはすべての捕捉されたクローンを検出するのに十分な感受性を持たなかった。その上、このアッセイの成功率は、テストされるPTPに依存するように見えた(下記参照)。
【0111】
これらの実験では、ファージのキャプシドが2つの選択可能なアミノ酸(リン酸化チロシンの−2及び−1の位置にそれぞれE及びF)をディスプレイするのが観測された。この偏向から、何故、ランダムにディスプレイされた配列の第1ポジションにチロシンを有する陽性ファージが、多数得られたのか説明できる。それにもかかわらず、キャプシドのアミノ酸がチロシンに先行しないところで、1b−4(図1及び表3)のようないくつかのファージが、独立した保存モチーフを表した。実際、基質チロシンの−1におけるフェノール基が相互作用を安定させ、さらに、触媒ポケットにリン酸を配置するであろうことが実証されている(31)。
表III
PTP1Bによって選択されたクローン
クローン ディスプレイされた配列 プール中のコピー数 ELISA
1b-1 EFpYATYGSAATDPAK (配列番号12) 4X +
1b-2 EFIpYQNLADPLDPAK (配列番号13)
1b-3 EFpYDIILAGMADPAK (配列番号14)
1b-4 EFQpYZGEYTRGDPAK (配列番号15)
1b-5 EFPEpYAMLSNSDPAK (配列番号16)
1b-6 EFEPIpYNAYQVDPAK (配列番号17)
1b-7 EFpYGTYRGQDSDPAK (配列番号18) +
1b-9 EFpYNLYEGVMSDPAK (配列番号19)
1b-11 EFQSPVpYGNFADPAK (配列番号20)
1b-12 EFATpYEEYALMDPAK (配列番号21)
1b-13 EFpYGTFAPKPLDPAK (配列番号22)
1b-14 EFpYGTYRGQDSDPAK (配列番号23) 2X

コンセンサス: φpYGXY
【0112】
次に、捕捉変異体によって選択されたコンセンサスペプチドが、WT PTP1Bによって脱リン酸化されるであろうか否かをテストした。ディスプレイされた配列をGST発現性ベクターにサブクローニングすることにより、最も頻繁な配列であると判明した配列を、PTP1Bが脱リン酸化できるかどうかテストした(1b−1)。WT型のPTP1Bがディスプレイされたペプチドを脱リン酸化できることが判明した(示されていない)。他のものによって既に観測されているように、GSTタグがTKB1細胞中でElkキナーゼによってリン酸化されなかったことが留意された。これは、ディスプレイされたペプチドに特異的な脱リン酸化が検出されたことを意味する。
【0113】
最後に、ファージから単離された共通配列の結合を確認するために、SPOT分析を行った(Espanelら、印刷中)。この技法により、10個の配列(表3)をテストして、ELISAと同様の結果が得られうるかどうか検査することが可能となった。SPOTプロトコールを用いて、ホスホ−Tyr(pY)を有するペプチド、又はホスホ−Tyr(pY)を持たないペプチドを膜上で(材料及び方法を参照)合成した。
【0114】
さらに、複数のTyrに関して、すべての可能なホスホペプチドの組合せを検査した。2つの配列(1b−6及び1b11)を除外したすべてが、PTP1B捕捉変異体によって認識された。興味深いことに、これらの2つの配列は、PηpYXXφコンセンサス(Xはどんなアミノ酸も表し、ηはTyr又はPhe、そしてφはどんな疎水性アミノ酸も表す)を共有する。PTP1Bが好むコンセンサスを有するいくつかの配列は、ELISAでは見いだされなかったが、SPOTでは確認された(例えば、1b−9、1b−4)。二重リン酸化ペプチドは、単独リン酸化ペプチド(例えば、1b−1スポット4又は1b−12スポット36)ほどよく反応するようには見えなかった。興味深い例外はSPOT15であって(クローン1b−4)、2つのリン酸化されたTyrが相互に伴っている場合、2つのリン酸化チロシンが他のアミノ酸によって切り離された場合より、結合が効率的になったように見えた。
【0115】
配列1b−4がこのアッセイで最も良い基質であったので、これをバリンスキャン用に選んだ(図1C)。このアッセイでは、各位置をバリンと交換し、結合をテストする。このペプチド上の結合に、3つの位置、即ち、−1、+1、及び+3が決定的であった。
【0116】
ホスホ−Tyr(pY)周辺における、最小の好ましい配列は、
EFpYG/ATYG/A(配列番号4〜8)
と定義できるかもしれない。また、+2において求核性アミノ酸(Ser又はThr)が、そして+3において、Phe(例えば、1b−13では、それ以外のコンセンサスが保存されていてもシグナルがより弱い)ではなくTyrが好まれている可能性もある。
【0117】
PTP Sap1及びPTP−βに関するファージディスプレイ
PTP−Sap1及びPTP−βは、PTPの同じサブファミリーに属する(1、2)。
【0118】
PTP1Bで行われたように、Tyr偏向ライブラリーのパニングを行ったところ、両方のPTPに関して、3ラウンド後にファージ濃縮を観測することができた(図2)。シングルクローンをELISAでテストした。PTP−Sap1は、捕捉が非常に効率的であり、陽性クローンを容易に検出することができた(表4)が、PTP−βは、この方法を用いてテストされた30ファージのうち、3ファージしか捕捉することができなかった(表5)。Sap−1クローンの配列は、PTP1B(表2)の配列を想起させるものであった。位置−1及び+3におけるフェニル基(Pheが好まれる)と、+1における不変のグリシンとが、認識される最小の共通配列であるように思われる。脱リン酸化アッセイは、テストされたすべてのクローンで保存された酵素活性を示した(データは示されていない)。PTP−βによって選択されたクローンは、濃縮が観測されたにもかかわらず、より可変的であり、ELISA(表4)で陽性であったものは、−1にLys又はThr(疎水性アミノ酸)を有した。陽性クローンの配列は、この位置におけるこれら2つのアミノ酸のうち1つを好む選択性を示した。その上、このホスファターゼは、触媒アッセイであまり効率的でないように見え、実際、PTP−Sap1の同じ実験と比較したところ、GSTペプチドの脱リン酸化が弱かった(データは示されていない)。
表IV: PTP-Sap1によって選択されたクローン
クローン ディスプレイされた配列 プール中のコピー数 ELISA
x2 EFpYGQFpYGPPQDPAK (配列番号24) +
x3 EFpYGAYTSTTADPAK (配列番号25) +
x5 EFpYGAYSNADLDPAK (配列番号26) 2X +
x9 EFpYGTFAQSAEDPAK (配列番号27) 3X +
x10 EFpYGAFGDFTKDPAK (配列番号28) +
x41 EFpYGELGHISQDPAK (配列番号29) +
x42 EFDVpYGSATSMDPAK (配列番号30) +
x50 EFpYGSFFPISQDPAK (配列番号31) -
x51 EFpYGAFGAP. (配列番号32) +
x58 EFpYGPVASDASDPAK (配列番号33) +

コンセンサス: FpYGAφ

表V: PTP-bによって選択されたクローン
クローン ディスプレイされた配列 ELISA
B1 EFLpYQSFSGNVDPAK (配列番号34) ++
B27 EFLpYGSFFRPPDPAK (配列番号35) +
B32 EFTpYQTYSPAADPAK (配列番号36) +

コンセンサス: LpYQ/GSF

表VI
Km (mM)
Sap-1WT 2.665 +/-0.463
Sap-1R88N 2.67 +/-0.2295
【0119】
PTP−Sap1における陽性クローンのSPOT分析
PTP−1Bにおいてと同様、PTP−Sap1における陽性クローンをSPOTでテストした。Sapに特異的な配列のほとんどすべてがELISAテストにおいて陽性であった。最良のファージは、EFpYGAφという共通配列を共有していた。SPOT分析(図3A)では、すべての配列が陽性であり、再度、二重リン酸化されたファージは、より弱いシグナル(例えば、X−5)を示した。さらに、第2のTyrの配列前後関係も相互作用に影響を及ぼした。例えば、X−2は、両方のリン酸化されたチロシンで同様のSPOT結果を示したが、これはおそらく、第2のTyrも好まれる環境(FpYG)の中にあるという事実によるものである。この実施例は、第2のTyrについてのポジティブセレクションも可能であるという仮説を支持する。
【0120】
好まれる配列中の必要なアミノ酸を記述するために、バリンスキャンを次に行うことにした(図3B)。X−5は、それが二度現れ、ELISAアッセイにおいて結合が最も強かったため選択された。このアッセイでは、スポット9〜12が極めて重要であるように見えた。これらのアミノ酸の1つがバリンに変わった際、それにより結合が劇的に反転した。また、+1位におけるGlyも、選択的な位置であった。このGlyは、ランダム配列から発して、配列決定されたすべてのクローンで選択されていた。加えて、+2におけるAlaはそれほど必須ではないが、小さいアミノ酸がファージディスプレイのこの位置で選択されているように見えた。従ってこれは、Valでの置換によって結合が抑制されるものではない。最後に、+3におけるフェニル基は、選択されたクローンのほとんどすべてに存在するが、Valで置換された場合、結合を解除しなかった。ファージの配列を注意深く見ると、X−58は+3にValを有し、かつELISAで認識されており、即ち、この位置でのバリンスキャンは、好まれるアミノ酸(Phe)をそれほど好まれない(Val)ものに交換するだけであることを意味する。実際、バリンはこの位置でSHP−1及びSHP−2の2つPTPに必須であることが判明した(データは示されていない)。
【0121】
この分析から、Valによって置換できず、その位置の構造グループに限定されていると思われる選択性の位置が3か所(−2、−1、+1)あると結論することができた。置換された際に、よりフレキシブルな他の位置(+2及び+3)もおそらくある。従って、PTP−Sap1に関する共通配列は、EFpYGAFA/Gである。
【0122】
PTP−Sap1における触媒ドメイン内の主要残基を変異させることによる基質共通配列の改変
PTP−βと、PTP SAP1との触媒ドメイン間の配列同一性は非常に高い(50%以上)。それにもかかわらず、選択されたクローンはいくつかのアミノ酸において異なっていた。即ち、位置−1は、PTP−Sap1用のキャプシド配列では、厳密にPheでなければならないが、PTP−βでは、Leu又はThrであることが判明した。基質ペプチドを伴ったPTP1Bの共結晶化産物が以前にマッピングされている(31、32)。Arg47(触媒ドメインにおける付番(19、20、31−33))における相互作用の正確な記述が示されている。このアミノ酸は、「理想的な」ペプチド基質中のPhe−1と相互作用すると考えられている。この領域の単純なアライメントは、PTP−Sap1におけるこの位置に対応するアミノ酸がArg即ちArg88であり、PTP−βにおいてはAsn即ちAsn101であることを示す(図4)。この位置は実際に、Tyrリン酸化ペプチドにおける、位置−1に対する親和性の主要な変調因子であるかもしれず、これは、PTP−Sap1クローンとPTP1Bクローンとの間の類似性を説明するものである。
【0123】
この仮説をテストするために、wtバックグランド及び捕捉変異体バックグランドでPTP−Sap1R88N変異体を生成した。まず、この変異が基質の非特異的な認識を改変しないことを確認するために、汎用ホスファターゼ基質(pNPP)に対する、変異体の触媒能をテストした(表6)。
【0124】
次に、この捕捉変異体をTyr偏向ライブラリーに曝露した。3ラウンドの後、結合したファージの濃縮が観測されたが、クローン数のこの増加は、ホスホ−Tyrに依存していた(係数10〜10の間)。DNAシーケンシングの後、発明者らは、PTP−Sap1 R88N捕捉変異体が、ファージの保存されたファミリーと相互作用でき、これらの配列がPTP−Sap1によって捕捉されたクローンの配列と異なることを観測した(表7)。
【表3】

【0125】
位置−1に疎水性アミノ酸があることは、PTP−βプール中で観測されたクローンと同様である。従って、PTP−Sap1 R88Nは、基質選択性においてPTP−βに類似している。実際に−1位が改変されたので、これは、認識過程中に、この位置が触媒ドメインのアルギニン又はリジン(例えば、PTP SHP−1/2)と強く相互作用するという考えを援護するものである。PTP−Sap1 R88N変異体は−1でLeuを選択したが、この選択は厳密なものではなく、これは、おそらく他のアミノ酸もこの位置の選択性に関与することを示すものである。それにもかかわらず、選択されたクローンの大部分は−1で疎水性アミノ酸(η)を有する。
【0126】
表6は、8個の異なったPTP−Sap1 R88Nクローンの配列を示す。
表VIII: PTP-Sap1 R88Nクローン
Sm-1 EFAHLpYGTFREDPAK (配列番号67)
Sm-2 EFGATpYGVYTSDPAK (配列番号68)
Sm-7 EFLpYGEIQGTQDPAK (配列番号69)
Sm-8 EFLpYANVERSSDPAK (配列番号70)
Sm-10 EFIpYGQILPRSDPAK (配列番号71)
Sm-11 EFpYGQIGDHLVDPAK (配列番号72)
Sm-12 EFpYGEYRPRAQDPAK (配列番号73)
Sm-15 EFIpYGSFHQTADPAK (配列番号74)

コンセンサス: ηpYGXφ.
【0127】
クローンプールのELISAシグナルは、あらゆる選択ラウンドの後に増強されたが、これは、陽性クローンの数がラウンド中に増大し続けていたことを確認するものである(データは示されていない)。従って、これらの変異体に捕捉された配列を直接SPOT膜に曝露して、最小コンセンサスがどのように影響されたかテストすることにした。図5に示すように、PTP−Sap1 R88Nの親和性が変化していた。位置−1において、Pheはまだ受容されたが、基質認識がよりフレキシブルになっており、Ile、Leu、及びThrもSPOTアッセイで認識されうる。1クローン(sm−8)のみがここで認識されていない。触媒ドメインR88N変異体によって、好まれたモチーフは、
ηpYGXφ
である。
【0128】
まとめると、これらのデータは、クローンを選択するための、ファージディスプレイと組み合わせたPTP点変異体研究と、触媒ドメインから基質に相互作用するアミノ酸を発見するためのSPOT分析とを提供する。
表IX 上記に提示された研究フレームで得られた結果をまとめる。すべての配列が位置0にホスホチロシン(pY)を有する。
Sap1:
−2:50%E又は50%L/V(疎水性)
−1:100%疎水性(77%I/L)
+1:100%G
+2:36%A、29%T、14%S、及び21%その他
+3:疎水性、85%フェノール基(20%Y及び65%F)
+4:58%A又はG
→コンセンサス:ELpYGSYYA(配列番号1)
→例:EFpYGAFA/G(Km=7.0uM)(配列番号2、3)
→例:AEGELpYGSLYA(Km=7.6uM)(配列番号4)
PTP1B:
−2:60%E及び20%P
−1:100%疎水性(そのうち60%F)
+1:66%G/A
+2:47%T
+3:100%疎水性、そのうち80%フェノール基(67%Yと13%F);20%I/L
+4:53%G/A
→コンセンサス:EFpYA/GTYG/A(配列番号5〜8)
PTP−β
−3:50%酸性(E又はD)
−2:62%L、13%E
−1:100%疎水性(62%L)
+1:100%A(23%)又はG(77%)
+2:38%S
+3:62%Y、23%L、及び15%酸性
+4:31%フェノール基(Y又はF)
→コンセンサス:ELLpYGSYY(配列番号9)
SHP1:
−2:56%E、22%P
−1:89%疎水性(56%F、それ以外はY又はL)
+1:100%A
+2:33%E、22%Q、又はH
+3:89%疎水性(67%V、22%I)
+4:44%G
→コンセンサス:EFpYAEVG(配列番号10)
SHP2:
−2:77%E及び27%F
−1:100%疎水性、そのうち90%フェノール基(77%F)
+1:77%A
+2:44%E
+3:77%V、23%I
+4:66%G
+5:66%R
→コンセンサス:EFpYAEVGR(配列番号11)
【0129】
概要及び考察
ファージキャプシド上に発現されたランダムペプチドライブラリーを、3つのPTPにおける触媒ドメインの特異性を研究するのに用いた。パニングの各ラウンド後に、捕捉されたファージプールの濃縮が観測され、また、PTP捕捉変異体はシングルファージを捕捉することができた。同じ配列をGST融合タンパク質としてディスプレイした際、野生型PTPはそれを脱リン酸化することができた。
【0130】
ファージディスプレイとSPOT技術との組合せによって、このように、これらのPTPによる基質認識に必要な主要アミノ酸の定義が得られた。
【0131】
最後に、基質認識に直接関与すると予測されたアミノ酸は、変異された際にそれらが好む基質配列を変えるため、実際に確認できることが示された。
【0132】
SHP1及びSHP2
上記に概説された操作手順を用いて、SHP1及びSHP2の最適な基質配列(表8)を得ることができた。2つのPTPは、近縁の触媒ドメインを有し、これらの最適配列であるEFZAEVG(配列番号10)及びEFZAEVGR(配列番号11)も同様に強い近縁性を示し、ただし他のPTP認識モチーフとは明確に異なっていた。
【0133】
不遍向ライブラリーでのPTP−βの再スクリーニング
先に述べたように、多くのモチーフがキャプシドによってコードされている2つのアミノ酸を合体していることが判明した。従って、ライブラリー中のランダム配列が異なった前後関係で提示されている第2のライブラリー(「ライブラリー6」、実験手順を参照)を生成した。ランダム配列の中央にチロシンをコードするコドンが含まれている。この追加研究を用いたことによって、モチーフがELLZGSYY(配列番号9)に伸長された。この独立した実験は、この操作手順が、最適のPTP認識配列を同定するのに再現可能であることをさらに示した。
【0134】
この技法を用いて、タンパク質チロシンホスファターゼPTP1B、Sap1、PTP−β、SHP1、及びSHP2の理想的な基質を定義した。これらのペプチドは、それぞれのホスファターゼの基質に対する高度に特異的な阻害剤としての機能を果たすことができ、従って、それぞれのホスファターゼの阻害を必要とする疾患において有用である。
(参考文献)
【0135】

【0136】

【0137】

【0138】

【0139】

【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】YZGXYモチーフを含むPTP−1B結合性ペプチドのSPOT分析を示す。A:ファージディスプレイスクリーニングから得られたペプチドに対するPTP−1Bの結合。チロシン又はホスホチロシン(Z)を含有する15量体ペプチドをSPOT膜上で合成した。ブロットは、放射性同位元素標識されたPTP−1B DA(WPDモチーフ内のアスパラギン酸がアラニンに変異されている捕捉変異体)でプローブした。B:(A)における膜上でテストされたペプチドの配列。C:(B)における配列1b−4のバリンスキャン。
【図2】PTP−βによって捕捉されたファージの濃縮を示す。パニングの各ラウンド後にファージの力価測定をし、結合分画と非結合分画との間の比率を計算した。
【図3】EFZGモチーフを含むペプチドに対するPTP−Sap1の結合のSPOT分析を示す。A:ファージディスプレイから得られたペプチドに対するPTP−Sap1の結合。ホスホチロシン(Z)を有する15量体ペプチドと、ホスホチロシン(Z)をもたない15量体ペプチドとを膜上で合成した。放射性同位元素標識されたPTP−Sap1DAの結合をオートラジオグラフィーで明らかにした。B:SPOTにおける、バリン(下線部)スキャンによるクローンX5の結合部位マッピング。第1のチロシンのみがリン酸化されたが、これはそれがパネルAで最も強い結合を示したものであったからである。膜は、放射性同位元素標識されたPTP−Sap1DAでプローブし、オートラジオグラフィーで明らかにした。
【図4】PTP1BにおけるR47の周辺領域での配列アラインメントを示す。このアライメントは、ClustalW配列アライメントソフトウェアを用いて行った。数字は触媒ドメインにおける付番に対応している。
【図5】(B)に示される配列を有するペプチドに対するPTP−Sap1 R88NのSPOT上での結合を示す。ホスホチロシン(Z)を有する15量体ペプチドと、ホスホチロシン(Z)をもたない15量体ペプチドとを膜上で合成した。放射性同位元素標識されたPTP−Sap1 R88Nの結合をオートラジオグラフィーで明らかにした。1クローンのみが結合しなかった(Sm−8)。位置−1にT、F又はIを有するクローン(それぞれ、クローンSm−2、Sm−11、及びSm−15)で最も強いシグナルが得られている。
【配列表】

























【特許請求の範囲】
【請求項1】
−2:E、L、又はV、
−1:疎水性アミノ酸、特にI又はL、
0:Y、
+1:G、
+2:A、T、又はS、
+3:疎水性アミノ酸、又はフェノールアミノ酸、特にF又はY、
+4:A又はG
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基であるホスホペプチド。
【請求項2】
ELYGSYYA(配列番号1)、
EFYGAFA(配列番号2)、
EFYGAFG(配列番号3)、及び
AEGELYGSLYA(配列番号4)
からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む、請求項1記載のホスホペプチド。
【請求項3】
−2:E又はP、
−1:疎水性アミノ酸、特にF、
0:Y、
+1:G又はA、
+2:T、
+3:疎水性アミノ酸、特にY、F、I、又はL、
+4:G又はA
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基であるホスホペプチド。
【請求項4】
EFYATYG(配列番号5)、
EFYGTYG(配列番号6)、
EFYATYA(配列番号7)、及び
EFYGTYA(配列番号8)
からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む、請求項3記載のホスホペプチド。
【請求項5】
−3:酸性アミノ酸、特にE又はD、
−2:L又はE、
−1:疎水性アミノ酸、特にL、
0:Y、
+1:A又はG、
+2:S、
+3:Y、L、又は酸性アミノ酸、
+4:フェノールアミノ酸、特にY、又はF
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基であるホスホペプチド。
【請求項6】
アミノ酸配列ELLYGSYY(配列番号9)を含む、請求項5記載のホスホペプチド。
【請求項7】
−2:E又はP、
−1:疎水性アミノ酸、特にF、Y、又はL、
0:Y
+1:A、
+2:E、Q、又はH、
+3:疎水性アミノ酸、特にV又はI、
+4:G
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基であるホスホペプチド。
【請求項8】
アミノ酸配列EFYAEVG(配列番号10)を含む、請求項7記載のホスホペプチド。
【請求項9】
−2:E及びF、
−1:疎水性、特にフェノールアミノ酸、
0:Y、
+1:A、
+2:E、
+3:V又はI、
+4:G、
+5:R
という特徴を有するアミノ酸配列を含み、数字がペプチドのアミノ酸位置を表し、かつ位置0のYがリン酸化されたチロシン残基であるホスホペプチド。
【請求項10】
位置−1のアミノ酸がFである、請求項9記載のホスホペプチド。
【請求項11】
アミノ酸配列EFYAEVGR(配列番号11)を含む、請求項9又は10に記載のホスホペプチド。
【請求項12】
50個若しくは約50個未満のアミノ酸、又は30個若しくは約30個未満のアミノ酸、又は20個若しくは約20個未満のアミノ酸、又は15個若しくは約15個未満のアミノ酸、又は約10個のアミノ酸、又は約9個のアミノ酸、又は約8個のアミノ酸、又は約7個のアミノ酸を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のホスホペプチド。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のホスホペプチドの配列及び/又は構造に基づいて設計されたペプチドミメティック又は非ペプチド性ミメティックであって、前記ペプチドミメティックが、ペプチドRNNEFYA−NHではなく、Yはリン酸化されたチロシン残基である、ペプチドミメティック又は非ペプチド性ミメティック。
【請求項14】
アミノ酸残基上の1つ又は複数の側鎖として存在する1つ又は複数の官能基に結合した少なくとも1つの部分を含み、ペプチドRNNEFYA−NHではなく、Yはリン酸化されたチロシン残基である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のホスホペプチドの機能的誘導体。
【請求項15】
前記部分がポリエチレングリコール(PEG)部分である、請求項14記載の機能的誘導体。
【請求項16】
前記ペプチドが細胞貫通性部分に連結されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載のホスホペプチド。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のホスホペプチド、ペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、又は機能的誘導体の薬物としての使用。
【請求項18】
癌、特に胃又は腸の癌の治療及び/又は予防用薬物を製造するための請求項1又は2に記載のホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用。
【請求項19】
糖尿病及び/又は肥満症の治療及び/又は予防用薬物を製造するための請求項3又は4に記載のホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用。
【請求項20】
請求項3又は4に記載のホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の食欲抑制剤としての使用。
【請求項21】
炎症の治療及び/又は予防用薬物を製造するための請求項5又は6に記載のホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用。
【請求項22】
多発性硬化症の治療及び/又は予防用薬物を製造するための請求項5又は6に記載のホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用。
【請求項23】
固形癌又は転移癌などの血管新生依存性疾患の治療及び/又は予防用薬物を製造するための請求項5又は6に記載のホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用。
【請求項24】
感染症、特にリーシュマニア症の治療及び/又は予防用薬物を製造するための請求項7〜9のいずれか一項に記載のホスホペプチド、又はそのペプチドミメティック、非ペプチド性ミメティック、若しくは機能的誘導体の使用。
【請求項25】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の1つ又は複数のホスホペプチド、ミメティック、又は機能的誘導体を含み、薬学的に許容される担体、賦形剤、安定化剤、又は希釈剤をさらに含んでいてもよい医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−513143(P2006−513143A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−532181(P2004−532181)
【出願日】平成15年8月20日(2003.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050385
【国際公開番号】WO2004/020466
【国際公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(504444485)アプライド リサーチ システムズ アルス ホールディング ナムローゼ フエンノートシャップ (3)
【Fターム(参考)】