説明

タンパク質ポリマー及びその製造方法

本発明の目的は、ユビキチン様タンパクSUMOを用いて多様な生理活性や酵素活性を発揮しうるタンパク質ポリマーを提供すること、並びにタンパク質コンジュゲイトやタンパク質ポリマーを細菌などの宿主細胞において大量に生産できる系を提供することである。本発明によれば、目的タンパク質が直接またはアクセプターを介して結合したユビキチン様タンパク質(SUMO)を主鎖に含むタンパク質ポリマーが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ユビキチン様タンパク質(SUMO)のイソペプチド結合性を利用した新規タンパク質ポリマー、及びその製造方法に関するものである。さらに本発明は、細菌などの宿主細胞中でのタンパク質コンジュゲイトもしくはタンパク質ポリマーの高レベルの発現のための組み換えベクターおよびそれを用いたタンパク質コンジュゲイトもしくはタンパク質ポリマーの高レベルの発現方法に関するものである。
【背景技術】
酵素、抗体、受容体などのタンパク質分子は、バイオリアクターやバイオセンサーなどに固定化され、有用物質の生産や分離精製、未知物質の検出や機能解明、薬剤のスクリーニングなどに利用されている。従ってこれらのタンパク質分子をポリマー化することができれば既存のバイオリアクターやバイオセンサーの機能・性能を向上させることができ、また創薬や再生医療、食品加工等に応用できる。
従来からタンパク質分子を重合させる方法としては架橋剤を用いる方法が一般的である。しかしながら、この方法では重合する分子の方向性を制御することが困難であったり、重合させたい分子の活性中心に架橋剤が結合し、その結果、タンパク質の変性や活性損失が起こるなどの問題があった。従って、これまでタンパク質の機能を保ちつつ生化学的に均一なポリマーを合成する手法は存在しない。
一方、ユビキチンは76個のアミノ酸からなり、酵母からヒトに至るまで非常に良く保存された小さなタンパク質である。ユビキチンは活性化酵素(E1)、結合酵素(E2)、リガーゼ(E3)から構成される複合酵素系によって標的タンパク質に共有結合する。つまりユビキチンのC末端のカルボキシル基が標的タンパク質のリジン残基のε−アミノ基にイソペプチド結合する。さらに、標的タンパク質のリジン残基に結合したユビキチンの48番目のリジン残基に別のユビキチンのC末端がイソペプチド結合を繰り返すことにより、ポリユビキチン鎖が形成される。
また、SUMO(small ubiquitin−related modifer)は小さなユビキチン様タンパク質で、酵母からヒトに至るまで進化上極めてよく保存されており、細胞増殖制御に重要な役割を果たし、核膜孔複合体の近くに多く存在している。SUMOもまたユビキチンと同様な機構によりイソペプチド結合を介して他のタンパク質に結合し、ポリマー化が起こることが報告される(M.H.Tatham et al.,J.Biol.Chem.Vol.276,p.35368,2001;A.Pichier et al.,Cell,Vol.108,p.109,2002;及び、E.S.Johnson & A.A.Gupta,Cell,Vol.106,p.735,2001を参照)。また、ユビチキンと融合したタンパク質は分解されやすいのに対し、SUMOと融合したタンパク質は安定になることが知られている(J.M.Desterro et al.,Mol.Cell,Vol.2,p.8660,1998;及びT.Buschmann st al.,Cell,Vol.101,p.753,2000を参照)。しかしながら、目的タンパク質を融合させたSUMOをポリマー化させた例は今まで報告がない。
【発明の開示】
本発明の第一の目的は、ユビキチン様タンパクSUMOを用いて多様な生理活性や酵素活性を発揮しうるタンパク質ポリマーを提供することにある。本発明の第二の目的は、タンパク質コンジュゲイトやタンパク質ポリマーを細菌などの宿主細胞において大量に生産できる系を提供することである。
本発明者らは上記第一の目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、目的タンパク質が直接またはアクセプターを介して結合したユビキチン様タンパク質(SUMO)を、酵素によるイソペプチド結合反応によりポリマー化することに成功した。さらに本発明者らは、上記第二の目的を解決するために鋭意検討した結果、哺乳動物のSUMO化酵素(即ち、SUMO化E1酵素とE2酵素の2種類)とSUMOとアクセプターとを大腸菌で同時に発現させることにより、菌体内でイソペプチド結合を形成させることに成功し、タンパク質コンジュゲイトやポリマーを多量に生産する技術を開発した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明によれば、以下の(1)〜(30)の発明が提供される。
(1) 目的タンパク質が直接またはアクセプターを介して結合したユビキチン様タンパク質(SUMO)を主鎖に含むタンパク質ポリマー。
(2) 目的タンパク質がポリマー中に1種又は2種以上含まれる、(1)に記載のタンパク質ポリマー。
(3) 主鎖が直鎖状、分枝状、環状、又は自己集合によるチューブ形状である(1)又は(2)に記載のタンパク質ポリマー。
(4) アクセプターが、ポリマー中に1種又は2種以上含まれる(1)から(3)のいずれかに記載のタンパク質ポリマー。
(5) アクセプターがRanGAP1−C2(Ran GTPase activating protein−C2)、RanBP2−IR(Ran binding protein 2−Internal Repeat domain)、TDG(Thymine DNA Glycosylase)、TONAS(Tonalli related SP−ring protein)、又はPML(promyelocytic leukemia)である(1)から(3)のいずれかに記載のタンパク質ポリマー。
(6) 下記式(I):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、Xは目的タンパク質、太線はイソペプチド結合、aは2〜100の平均重合度を示す。)
で表されるタンパク質ポリマー。
(7) 下記式(II):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、X、Y、及びZは目的タンパク質、太線はイソペプチド結合、b、c、及びdは0から100の平均重合度を示す。但し、b、c、及びdが同時に0の場合は除く)
で表されるタンパク質ポリマー。
(8) 下記式(III):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、Aはアクセプター、Xは目的タンパク質、太線はイソペプチド結合、eは2〜100の平均重合度を示す。)
で表されるタンパク質ポリマー。
(9) 下記式(IV):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、X、Y、及びZは目的タンパク質、Aはアクセプター、太線はイソペプチド結合、f、g、及びhは0から100の平均重合度を示す。但し、f、g、及びhが同時に0の場合は除く)。
で表されるタンパク質ポリマー。
(10) 下記式:X−SUMO−A−Y
(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、Aはアクセプター、X及びYは目的タンパク質を示す。)
で表されるタンパク質コンジュゲイト。
(11) 下記の工程:
(a)ユビキチン様タンパク質(SUMO)と目的タンパク質の融合体又は結合体を作製する工程;
(b)前記融合体又は結合体をイソペプチド結合により重合する工程;
を含むタンパク質ポリマーの製造方法。
(12) 下記の工程:
(a)ユビキチン様タンパク質(SUMO)とアクセプターと目的タンパク質の融合体又は結合体を作製する工程;
(b)前記融合体又は結合体をイソペプチド結合により重合する工程;
を含むタンパク質ポリマーの製造方法。
(13) SUMO活性化酵素E1、SUMO結合酵素E2、ATP、及び金属イオンの存在下に重合反応を行うことを特徴とする、(11)又は(12)に記載の方法。
(14) 反応促進物または基盤ペプチド、もしくはその両方の因子をさらに反応系に添加する、(11)から(13)のいずれかに記載の方法。
(15) ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNAを含み、活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)とを宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター。
(16) ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)がAos1とUbaとの融合タンパク質であるAUであり、結合酵素(E2)がUbc9である、(15)に記載の組み換え発現ベクター。
(17) ユビキチン様タンパク質をコードするDNA及びアクセプターをコードするDNAを含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとを個別に宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター。
(18) ユビキチン様タンパク質をコードするDNA及び/又はアクセプターをコードするDNAに隣接して1種以上の目的タンパク質をコードするDNAをさらに含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプター(このうちの両方又は片方には上記目的タンパク質が融合している)とを個別に宿主内で同時に発現できる、(17)に記載の組み換え発現ベクター。
(19) ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA;ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNA;ユビキチン様タンパク質をコードするDNA;及び/又はアクセプターをコードするDNAを含み、活性化酵素(E1)、結合酵素(E2)、ユビキチン様タンパク質及び/又はアクセプターとを個別に宿主内で同時に発現できる、組み換え発現ベクター。
(20) (1)又は(2)に記載の組み換えベクターと、(17)又は(18)に記載の組み換えベクターとを組み合わせて使用することを含む、活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)とユビキチン様タンパク質とアクセプターとを宿主内で同時に発現する方法。
(21) (19)に記載のベクターを使用し、必要に応じ、ユビキチン様タンパク質をコードするDNA又はアクセプターをコードするDNAを含む組み換えベクターを組み合わせて使用することを含む、活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)とユビキチン様タンパク質とアクセプターとを宿主内で同時に発現する方法。
(22) ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)、ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)、目的タンパク質が結合していてもよいユビキチン様タンパク質、及び目的タンパク質が結合していてもよいアクセプターを発現できる形質転換体。
(23) (15)又は(16)に記載の組み換えベクターと、(17)又は(18)に記載の組み換えベクターとを有する、(22)に記載の形質転換体。
(24) (22)又は(23)に記載の形質転換体を培養して、該形質転換体内においてユビキチン様タンパク質とアクセプターとの結合体を産生することを含む、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの結合体の製造方法。
(25) ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質をコードするDNAを含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質を宿主内で発現できる、組み換え発現ベクター。
(26) ユビキチン様タンパク質をコードするDNA及びアクセプターをコードするDNAに隣接して1種以上の目的タンパク質をコードするDNAをさらに含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターと目的タンパク質との融合タンパク質を宿主内で発現できる、(25)に記載の組み換え発現ベクター。
(27) (15)又は(16)に記載の組み換えベクターと、(25)又は(26)に記載の組み換えベクターとを組み合わせて使用することにより、活性化酵素(E1)、結合酵素(E2)及びユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質を宿主内で同時に発現させることを含む、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質のポリマーの製造方法。
(28) ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA、ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNA、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターと所望により目的タンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを含み、上記の活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)と融合タンパク質を宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター。
(29) ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)、ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターと所望により目的タンパク質との融合タンパク質を発現できる形質転換体。
(30) (15)又は(16)に記載の組み換えベクターと、(25)又は(26)に記載の組み換えベクターとを有する、(29)に記載の形質転換体。
(31) (29)又は(30)に記載の形質転換体を培養して、該形質転換体内においてユビキチン様タンパク質とアクセプターと所望により目的タンパク質との融合タンパク質のポリマーを産生することを含む、タンパク質ポリマーの製造方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のタンパク質ポリマーがとりうる様々な構造を示す。
図2は、GST−SUMO融合体発現ベクターの構造を示す。
図3は、GST−SUMOのポリマー化反応産物をSDS−変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ウェスタン法で検出した結果を示す。
図4は、C2−SUMO融合体発現ベクターの構造を示す。
図5は、GST−C2−SUMO融合体発現ベクターの構造を示す。
図6は、E1、E2酵素によるGST−C2−SUMOのポリマー化反応、ならびに反応産物をSDS−変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ウェスタン法で検出した結果を示す。
図7は、改変型SUMO−E1酵素(AU)の構造模式図を示す。SUMOとアクセプター間にイソペプチド結合を形成する酵素を改変し、大腸菌体内での発現を容易にしたものである。本明細書において、この改変型酵素をAUと称する。従来のSUMO−E1はAos1とUba2の2つのサブユニットタンパク質からなる酵素である。Aos1とUba2を遺伝子工学的手法で融合させたタンパク質AUを作製した。このAUタンパク質は本発明者らのオリジナルのデザインであり、Aos1およびUba2のI、II、III、IVをドメイン構造を保存する形で融合させてある。Cysは酵素活性に必須のシステイン残基の位置を示してある。
図8は、大腸菌体内で目的タンパク質XとYのコンジュゲイトを合成する方法を模式的に示してある。具体的な実験例は実施例3に示した。実施例3において、XはT7−domainであり、YはHIS−domainである。また、アクセプターAとしてC2配列を用いている。
図9は、実施例3で用いた発現ベクターの線図である。
図10は、実施例3の結果を示す。
図11は、大腸菌体内で目的タンパク質Xのポリマーを合成する方法を模式的に示す。具体的な実験例は実施例4に示した。実施例4おいて、XはGST−domainであり、アクセプターAとしてC2配列を用いている。
図12は、実施例4で用いた発現ベクターの線図である。
図13は、実施例4の結果を示す。
図14は、実施例5(各種アクセプター配列を用いた解析)の結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
1.本発明のタンパク質ポリマー
本発明のタンパク質ポリマーは、目的タンパク質が直接またはアクセプターを介して結合したユビキチン様タンパク質(SUMO:small uiquitin−related modifer)を主鎮に含むタンパク質ポリマーである。
本発明のタンパク質ポリマーに使用する「SUMO」は、ユビキチン様タンパク質を意味し、ユビキチンと高い相同性を有するモディフィアー群の全てを含む。また、その由来は問わない。哺乳動物由来のものが好ましいが、酵母、昆虫、両生類、ハ虫類、植物など哺乳動物以外のものでもよい。本発明に用いることのできるSUMOとしては、例えば配列番号1のアミノ酸配列を有するSUMO−1、配列番号2のアミノ酸配列を有するSUMO−2、配列番号3のアミノ酸配列を有するSUMO−3が挙げられるが、これらに限定はされず、例えばSUMOタンパク質活性・機能を有する限りにおいて、当該アミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入していてもよい。
本発明のタンパク質ポリマーにおける「アクセプター」とは上記のSUMOとイソペプチド結合可能なリジン残基を含むアミノ酸配列を有するタンパク質であって、一般に−F−Lys−H−Glu−(F:疎水性アミノ酸、H:任意のアミノ酸)で表される。アクセプターとしては、例えば、RanGAP1(Ran GTPase activating protein)、RanBP2−IR(Ran binding protein 2−Internal Repeat domain)、PML(promyelocytic leukemia)などが使用される。本発明において好適に使用されるRanGAP1(Ran GTPase activating protein)は配列番号4のアミノ酸配列を有し、121番目のリジン残基がSUMOとイソペプチド結合する(なお、RanGAP1の全長は580アミノ酸で、このうちC末端領域の397から580番目のアミノ酸配列がC2配列である)。
上記のアクセプターは、単独であってもよいが、2種以上を適宜組み合わせてもよい。2種以上のアクセプターを使用すると、ポリマーの主鎖が枝分かれ構造をとりうる。また、60度又は120度の折れ曲がりを持つ構造配列を有するアクセプターを使用すると、ポリマーの主鎖が三角形や六角形などの環状構造をとりうる。さらに、環状構造をとる場合において、互いに相互作用するタンパク質をアクセプターを介してSUMOに結合させると、該タンパク質の相互作用により自己集合を起こし、ポリマーの主鎖がチューブ状構造をとりうる。図1は、本発明のタンパク質ポリマーがとりうる様々な構造を示す。
本発明のタンパク質ポリマーにおける「目的タンパク質」としては特に限定はされず、任意のタンパク質であってよいが、例えば酵素、サイトカイン類、ホルモン、抗体、受容体、生理活性ペプチド等を用いることができる。ポリマー中に含まれるこれら目的タンパク質は1種であっても2種以上であってもよい。
酵素としては、例えばリパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、及びラクターゼ等が挙げられる。
サイトカイン類としては、例えばインターフェロン−α、−β、−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキン、成長因子(上皮細胞成長因子、繊維芽細胞成長因子、神経細胞成長因子)等が挙げられる。
ホルモンとしては、例えばインシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵胞刺激ホルモン等が挙げられる。
抗体としては、ヒト免疫グロブリン等を挙げることができ、抗体のF(ab’)、Fab’、又はFab等の活性断片であってもよい。また、抗体としての類似機能をもつ物質、例えば一本鎖状の抗原結合活性をもつ物質、具体的には一本鎖Fabペプチドであってもよい。
受容体としては、例えばホルモン受容体、サイトカイン受容体、増殖因子に対する受容体、神経伝達物質に対する受容体、抗体受容体(Fc受容体)、補体受容体等が挙げられる。
生理活性ペプチドとしては、β−アミロイド、アンジオテンシン、エンドセリン、カルシトシン、ニューロペプチドY、ニューロキニンA、オキシトシン、PACAP等が挙げられる。
上記の目的タンパク質の分子量(kDa)は、2〜1000kDa、好ましくは2〜100kDa、特に10〜50kDaの範囲であり、目的タンパク質の分子量がこの範囲にあるとSUMOとの融合体が立体障害を起こさないため好ましい。
本発明のタンパク質ポリマーが、前記式(I)で表される場合、aで示される平均重合度は2〜100、好ましくは2〜50、より好ましくは3〜10である。
本発明のタンパク質ポリマーが、前記式(II)で表される場合、b,c,及びdで表される平均重合度は、0〜100、好ましくは0〜50、より好ましくは0〜10である(但し、b,c,及びdが同時に0の場合は除く)。
本発明のタンパク質ポリマーが、前記式(III)で表される場合、eで示される平均重合度は2〜100、好ましくは2〜50、より好ましくは3〜10である。
本発明のタンパク質ポリマーが、前記式(IV)で表される場合、f,g,及びhで表される平均重合度は、0〜100、好ましくは0〜50、より好ましくは0〜10である(但し、f,g,及びhが同時に0の場合は除く)。
また、前記式(IV)で表されるタンパク質ポリマーにおいて、構成単位であるX−A−SUMO、Y−A−SUMOあるいはZ−A−SUMOは、それぞれランダムに結合してもよく、またブロック的に結合していてもよい。反応系に最初からX−A−SUMO、Y−A−SUMO及び/又はZ−A−SUMOとを仕込むとランダムなポリマーが得られ、最初にX−A−SUMO又はY−A−SUMO又はZ−A−SUMOのいずれかを仕込み、次いで他の構成単位を順次仕込むとブロック的なポリマーを製造することができる。
さらに、ユビキチン様タンパク質SUMOと目的タンパク質X、およびアクセプターAと目的タンパク質Yの融合タンパク質が結合した、式:X−SUMO−A−Yで表されるタンパク質コンジュゲイトも本発明の範囲内である。XおよびYの種類と数には制限はなく、特にアクセプターに結合させる目的タンパク質(Y)は、アクセプターのアミノ末端側あるいはカルボキシ末端側のいずれに結合していてもよく、両方に結合することもできる。
2.本発明のタンパク質ポリマーの製造方法
(1)反応基質の作製
次に、本発明のタンパク質ポリマーの製造方法について説明する。本発明のタンパク質ポリマーを製造するには、まずモノマーとなる反応基質を作製する。
反応基質を作製する方法としては、ユビキチン様タンパク質(SUMO)、目的タンパク質、アクセプターをコードする遺伝子を連結させて適当な発現系に導入して融合タンパク質として発現させる方法、あるいはそれぞれのタンパク質を別個に作製し、後に架橋剤等を用いて化学的に結合させる方法のいずれであってもよい。
本明細書において「融合体」というときは、遺伝子工学的に融合タンパク質として発現させる方法により作製した反応基質をいい、「結合体」というときは、化学的結合により作製した反応基質をいうものとする。遺伝子工学的に又は化学的結合により作製した反応基質は、いずれもポリマー化のよい基質となる。
融合体を作製するには、SUMO、目的タンパク質、又はアクセプターをコードする遺伝子を含むDNA断片をそれぞれ構築した後、発現ベクターのプロモーターの下流に該DNA断片を挿入し、次いで該発現ベクターを適切な宿主細胞中に導入する。
上記目的タンパク質は、GST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)、MBP(マルトース結合タンパク質)、ヒスチジンヘキサマー、チオレドキシンなどの遺伝子、あるいは緑色蛍光タンパク質(GFP)をはじめとする蛍光タンパク質などのリポーター遺伝子の下流につなぎ、これらとの融合タンパク質として発現されることが好ましい。また、目的タンパク質自体が、GST、MBP、ヒスチジンヘキサマー、チオレドキシン、蛍光タンパク質であってもよい。
ユビキチン様タンパク質(SUMO)と目的タンパク質との融合体、又はユビキチン様タンパク質(SUMO)とアクセプターと目的タンパク質の融合体(以下、これらを総称してSUMO−タンパク質融合体という)を遺伝子工学的に作製する場合、用いる宿主細胞としては、目的遺伝子を発現できるものであれば特に限定されず、例えば、細菌、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等を挙げることができる。
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、上記目的とするDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
組換えベクターの導入は、用いる宿主細胞に応じて常套的に用いられる方法で行えばよい。
組換えベクターを導入した形質転換体を培地に培養し、培養物中にSUMO−タンパク質融合体を生成蓄積させ、該培養物より該SUMO−タンパク質融合体を採取することにより、SUMO−タンパク質融合体を単離することができる。
形質転換体の培養方法は、通常の方法に従って行うことができる。形質転換体が大腸菌等の原核生物、酵母菌等の真核生物である場合、これら微生物を培養する培地は、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養には天然培地、合成培地のいずれでもよい。培養形式、培養温度、培養時間、培地pHは、用いる宿主細胞に応じて通常行われる条件を採用すればよい。
上記形質転換体の培養物から本発明のSUMO−タンパク質融合体を単離精製するには、通常の酵素の単離、精製法を用いればよい。例えば、SUMO−タンパク質融合体が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の酵素の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティクロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
また、SUMO−タンパク質融合体が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法により該融合体を回収後、該融合体の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を、タンパク質変性剤を含まないあるいはタンパク質変性剤の濃度がタンパク質が変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、該融合体を正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
本発明で用いるSUMO−タンパク質融合体が細胞外に分泌された場合には、培養上清に該融合体を回収することができる。即ち、培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
あるいは、SUMO−タンパク質融合体の合成は、適当な細胞よりタンパク質合成能を有する成分を抽出し、その抽出液を用いて目的の蛋白質を合成させる無細胞蛋白質合成系を用いて行ってもよい。このような無細胞蛋白質合成系には、リボゾーム、開始因子、伸長因子及びtRNA等の転写・翻訳系に必要な要素が含まれている。
(2)タンパク質ポリマーの製造
次に、得られたSUMO−タンパク質融合体からタンパク質ポリマーを製造するには、SUMO−タンパク質融合体をSUMO活性化酵素E1(Aso1/Uba2)、SUMO結合酵素H2(Ubc9)、ATP、及び金属イオンの存在下、反応液中でイソペプチド結合によってポリマー化する。
重合反応は一般に精製した酵素成分を用いて行うのが良いが、SUMOのポリマー化反応に関わるE1及びE2酵素は基質特異性が高いので、精製純度は特別に高くないものでも使用できる。
反応液中の基質の濃度は反応に支障がない限りどのような濃度であってもよいが、好ましくは0.01mM〜1Mである。反応に用いる酵素濃度は特に限定されないが、好ましくは0.01mg/ml〜100mg/mlである。また、ATP濃度は0.01〜10mMの範囲にあることが好ましい。
金属イオンとしては、好ましくはマグネシウムイオン、カルシウムイオン等の二価金属イオンが用いられる。反応液中にマグネシウムイオンを添加する場合、濃度は0.01〜10mMの範囲にあることが好ましい。
また、上記反応系に反応促進物質を適宜添加してもよい。反応促進物質としては、例えばSP−RINGタンパク質又はSIZ/PIASと呼ばれる一群のタンパク質ファミリー、RanBP2/Nup358などが挙げられるがこれらに限定はされない。
反応温度は、E1及びE2の活性を阻害しない温度範囲であればよく、最適温度を含む範囲の温度が好ましい。反応温度は通常10℃〜60℃であり、好ましくは30℃〜40℃である。
また、上記のポリマー化反応を効率的に行うために基盤タンパク質上で行うことが好ましい。本発明において「基盤タンパク質」とは、SUMOのC末端とイソペプチド結合可能なリジン残基を含むアミノ酸配列を有するタンパク質をいい、例えばRanGAP1(Ran GTPase activating protein)、RanBP2−IR(Ran binding protein2−Internal Repeat domain)、PML(promyelocytic leukemia)、Sp100、p53などが好適に使用できる。
目的物質を分離定量する方法として、例えば、必要に応じて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を挙げることができる。あるいは、反応生成物をポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)などで分離した後、適当な抗体を用いてイムノブロット分析を行うことにより基質の減少と反応生成物の増加を検出することができる。
本発明のSUMOタンパク質ポリマーはそのままで各種用途に使用することができるが、取扱いを容易にするため、あるいは単位重量当りの反応性を向上させるため、種々の無機化合物担体又は有機化合物担体に担持させた状態で使用することが好ましい。
3.菌体内の生合成システムを用いる本発明のタンパク質コンジュゲイトもしくはポリマーの製造方法
これまでは細菌宿主細胞内でイソペプチド結合によるタンパク質コンジュゲイトを過剰発現させたり蓄積したりすることはできなかった。最も大きな理由は、細菌はイソペプチド結合を触媒する酵素群を体内に持ちあわせていないことがあげられる。本発明者らは、哺乳動物のSUMO化酵素(E1及びE2酵素)とSUMOとアクセプターとを大腸菌で同時に発現させることで、菌体内でイソペプチド結合を形成させることに成功し、タンパク質コンジュゲイトを多量に生産する技術を開発した。
即ち、本発明の方法は、従来は試験管内で行っていた反応を大腸菌体内の生合成システムを用いることで、タンパク質コンジュゲイトもしくはポリマーの過剰発現を可能にした組み換え発現システムに関するものである。
本発明の実施例3及び4においては、2種類の発現ベクターを使用した。第一の発現ベクターはSUMOとアクセプターと目的タンパク質をコードするベクターであり、第2の発現ベクターは、SUMOとアクセプターとをイソペプチド結合する反応を触媒する酵素(E1及びE2酵素)をコードしている。この2種類のベクターを菌体内に取り込ませ、ベクター上の遺伝子群を同時発現させることで、目的タンパク質を含むコンジュゲイトもしくはポリマーを高レベルで発現させることができる。
SUMOはユビキチン様タンパク質で、ATP−Mg2+存在下、E1(SUMO活性化酵素)およびE2(SUMO結合酵素)と呼ばれる酵素により、SUMOのC末端のグリシン残基とアクセプター配列中のリジン残基のアミノ基側鎖がイソペプチド結合する。
本来、SUMO−E1はAos1とUba2と呼ばれる2つのタンパク質のヘテロ複合体よりなる。本明細書に記載する実施例3においては、Aos1およびUba2はPCRによりマウスcDNAよりクローン化し、その後、2つの断片を直列にライゲーションすることで融合タンパク質をデザインした。このAos1−Uba2融合遺伝子(AU遺伝子)をpGEX発現ベクターのBamHI−EcoRI部位に導入し、GST−AUタンパク質を大腸菌で発現させる系を開発した。このpGEXベクターのXbaI部位には、AUとは独立に、SUMO−E2であるUbc9を導入し、図9に示すようなpGEX−AU/Ubc9を作製した。このベクターでは、GST−AUがTaqプロモーター下流に連結し、Ubc9はT7プロモーター下流に連結しており、2つの遺伝子産物がIPTGにより発現誘導可能となるように設計されている。ここで用いたベクターはpBR322由来の複製起点を持ち、アンピシリン薬剤耐性である。プラスミド名はpGEX−AU/Ubc9とした。このプラスミドベクターより発現されるGST−AUとUbc9は、それぞれE1およびE2の酵素活性を有し、SUMO化反応を触媒する能力を持っている。
一方、RanGAP1と呼ばれるタンパク質のC末端ドメインC2(RanGAP1の全長は580アミノ酸で、このうちC末端領域の397から580番目のアミノ酸配列がC2配列である)が細胞内で特異的にSUMO化を受けることが知られている。C2ドメインに(His)6を含むアミノ酸配列を融合したタンパク質HIS−domain−C2とSUMO−1にT7−tag配列を含むアミノ酸配列を融合したタンパク質T7−domain−SUMO−1の2つの産物をコードする遺伝子をそれぞれT7プロモーター下流に導入した発現ベクターが図9に示してある。SUMO−1はヒトcDNAより、C2はアフリカツメガエルのcDNAよりPCRで得た。ここで用いたベクターはpACYCを改変したもので、p15A複製起点を持ち、クロランフェニコール薬剤耐性である。2つの遺伝子発現はIPTGにより誘導できる。プラスミド名はpT−SUMO/C2とした。
上述のpGEX−AU/Ubc9およびpT−SUMO/C2を同時に宿主(例えば、大腸菌など)に導入する。この2つのプラスミドを同時に取り込んだ菌体はアンピシリンとクロランフェニコールの両方を含む培地で選別できる。得られたコロニーを別個の液体培地で好適な条件下で培養し、さらにIPTGを加えて発現を誘導しながら培養する。菌体を遠心分離器で沈澱させ、その後、超音波処理などにより菌体を破砕する。遠心分離の後、上澄み液を取り出し、ニッケルアガロースビーズとインキュベーションし、ビーズに結合したタンパク質を溶出する等の操作により、T7−domain−SUMO−1とHis−domain−C2のコンジュゲイトを回収することができる。
上記で用いたベクターを改変することで、様々なタンパク質コンジュゲイトを作製できる。図8に示したように、T7−domainに変えて、目的タンパク質Xを導入し、His−domainに変えて目的タンパク質Yを導入すれば、X−SUMO−C2−YというX−Yのコンジュゲイトを作製できる。
また、この実験ではC2をアクセプターとして用いているが、C2以外のアクセプター配列を用いることも可能である。さらに、SUMO−1の他に、SUMO−2やSUMO−3といった、関連配列を用いることも可能である。これらの組み合わせに制限はない。
さらに従来においては、細菌宿主細胞内でタンパク質を共有結合させることでポリマー化することはできなかった。タンパク質ポリマーを過剰発現させ蓄積させる技術も開発されていない。本発明においては、哺乳動物のSUMO関連因子を大腸菌で発現させることで、菌体内でイソペプチド結合を形成することに成功し、タンパク質ポリマーを多量に生産する技術を提供することが可能になった。
本明細書に記載する実施例4においては、X−A−SUMOのXとしてGSTタンパク質(27kDa)、A配列としてRanGAP1と呼ばれるタンパク質のC末端ドメインC2を用いている(GST−C2−SUMO−1)。GST−C2−SUMO−1をベクターはpACYCに組み込んで、このプラスミドをpT−GST−C2−SUMOと呼ぶ(図12を参照)。
上述のpGEX−AU/Ubc9およびpT−GST−C2−SUMOを同時に宿主(例えば、大腸菌など)に導入する。この2つのプラスミドを同時に取り込んだ菌体はアンピシリンとクロランフェニコールの両方を含む培地で選別できる。得られたコロニーを別個の液体培地で好適な条件下で培養し、さらにIPTGを加えて発現を誘導しながら培養する。菌体を遠心分離器で沈澱させ、その後、超音波処理などにより菌体を破砕する。遠心分離の後、上澄み液を取り出し、グルタチオンセファロースビーズとインキュベーションし、ビーズに結合したタンパク質を溶出する等の操作により、GST−C2−SUMOがポリマー化したGST−C2−SUMOポリマーを回収することができる。
上記で用いたベクターを改変することで、GSTの代わりに様々なタンパク質Xをポリマーに導入できる。すなわち、図11に示したように、様々な目的タンパク質XをC2−SUMOの融合タンパク質として導入することで、C2−SUMOを基軸とするXのポリマーを大腸菌で多量に生産できる。
また、この実験ではアクセプターとしてC2を用いているが、C2以外のアクセプター配列を用いることも可能である。さらに、SUMO−1の他に、SUMO−2やSUMO−3といった、関連配列を用いることも可能で、ポリマーの基軸の形を改変することも可能である。アクセプターとSUMOとの組み合わせに特に制限はない。
以下、菌体内の生合成システムを用いる本発明のタンパク質コンジュゲイトもしくはポリマーの製造方法の実施方法(以下、本方法とも称する)についてさらに詳細に説明する。
(1)E1酵素及びE2酵素
ユビキチン、SUMO,NEDD8/Rub1,Apg12などのユビキチン様の構造を持つタンパク質群はユビキチンファミリーと呼ばれている。これらユビキチンファミリータンパク質は活性化酵素(E1)および結合酵素(E2)により、別のタンパク質のアクセプター部位にイソペプチド結合する性質を持つ。ユビキチンE1としてUba1が、SUMO−E1としてAos1/Uba2ヘテロダイマーが、NEDD8−E1としてAPP−BP1/Uba3ヘテロダイマーが、Apg12のE1としてApg7が知られている。ユビキチンE2としてUbc1〜8,10,11,13が、SUMO−E2としてUbc9が、NEDD8−E2としてUbc12が、Apg12のE2としてApg10が知られている(田中啓二・大隈良典(編集)、実験医学「タンパク質分解の最前線2001」Vol.19,No2,2001を参照)。
本方法では特にE1酵素として、図7に示すようなAos1及びUba2の融合タンパク質であるAUを使用することが好ましく、E2酵素としてUbc9を使用することが好ましい。
(2)ユビキチン様タンパク質、アクセプター、及び目的タンパク質、
本方法で使用するユビキチン様タンパク質は、ユビキチン様タンパク質を意味し、ユビキチンと高い相同性を有するモディフィアー群の全てを含み、その具体例としては、ユビキチン、SUMO,NEDD8/Rub1,Apg12などが挙げられる。また、その由来は限定されず、哺乳動物由来のものが好ましいが、酵母、昆虫、両生類、ハ虫類、植物など哺乳動物以外のものでもよい。本発明に用いることのできるSUMOとしては、例えば配列番号1のアミノ酸配列を有するSUMO−1、配列番号2のアミノ酸配列を有するSUMO−2、配列番号3のアミノ酸配列を有するSUMO−3が挙げられるが、これらに限定はされず、例えばSUMOタンパク質活性・機能を有する限りにおいて、当該アミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入していてもよい。
本方法で用いる「アクセプター」とは上記のユビキチン様タンパク質とイソペプチド結合可能なリジン残基を含むアミノ酸配列を有するタンパク質であって、一般に−F−Lys−H−Glu−(F:疎水性アミノ酸、H:任意のアミノ酸)で表される。アクセプターとしては、本明細書中上記の「1.本発明のタンパク質ポリマー」の項目に記載したものを使用することができる。アクセプターとしては中部にSUMO結合部位が1つである場合と複数個ある場合の大きくわけると2つのグループがある。1つの場合(例えばRanGAP1−C2やTDG)は直鎖状に、複数ある場合(例えばRanBP2−IRやTONAS)は積層、あるいは房状のポリマーが形成されると考えられる。
本発明で用いる「目的タンパク質」としては特に限定はされず、任意のタンパク質であってよい。「目的タンパク質」としては、本明細書中上記の「1.本発明のタンパク質ポリマー」の項目に記載したものを使用することができる。
(3)発現ベクター
本発明は;
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNAを含み、活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)とを宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター;
ユビキチン様タンパク質をコードするDNA及びアクセプターをコードするDNAを含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとを個別に宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター;
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA;ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNA;ユビキチン様タンパク質をコードするDNA;及び/又はアクセプターをコードするDNAを含み、活性化酵素(E1)、結合酵素(E2)、ユビキチン様タンパク質及び/又はアクセプターとを個別に宿主内で同時に発現できる、組み換え発現ベクター;
ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質をコードするDNAを含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質を宿主内で発現できる、組み換え発現ベクター;並びに
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA、ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNA、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターと所望により目的タンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを含み、上記の活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)と融合タンパク質を宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター;
に関するものである。
上記した各種の組み換え発現ベクターは、通常の発現ベクター中の適当な導入遺伝子挿入部位に所望の遺伝子を挿入することにより構築することができる。発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、上記した目的とする塩基配列を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。発現ベクターとしては、例えば、Promega社、QIAGEN社、Stratagene社、Pharmacia社、宝酒造社などから市販されている各種の発現ベクターを使用できる。
(4)形質転換体とそれを用いたユビキチン様タンパク質とアクセプターとの結合体及びタンパク質ポリマーの生産
本発明において上記(3)に記載の発現ベクターを導入するために用いる宿主細胞としては、目的遺伝子を発現できるものであれば特に限定されず、例えば、細菌、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等を挙げることができる。本発明では、上記の中でも細菌(例えば、エッシェリヒア属、セラチア属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、シュードモナス属、バチルス属、ミクロバクテリウム属等に属する細菌)を使用することが好ましく、大腸菌を使用することが特に好ましい。
組換え発現ベクターの導入は、用いる宿主細胞に応じて常套的に用いられる方法で行えばよく、例えば、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法、リポフェクション法などが挙げられる。
組換え発現ベクターを導入した形質転換体を培地に培養し、培養物中にSUMO−タンパク質融合体を生成蓄積させ、該培養物より該ユビキチン様タンパク質−タンパク質融合体を採取することにより、ユビキチン様タンパク質−タンパク質融合体を単離することができる。
形質転換体の培養方法、形質転換体の培養物から本発明のユビキチン様タンパク質−タンパク質融合体の単離精製、並びに目的物質の分離定量については、本明細書中上記2.に記載した通り行うことができる。
(5)ユビキチン様タンパク質/アクセプター結合体、およびユビキチン様タンパク質/アクセプターのポリマー(タンパク質ポリマー)
上記(4)の方法により、ユビキチン様タンパク質/アクセプター結合体またはユビキチン様タンパク質/アクセプターのポリマー(タンパク質ポリマー)を生産・単離することができる。
ユビキチン様タンパク質/アクセプター結合体の具体例としては、アクセプター(A)とSUMOに目的タンパク質XとYをそれぞれ結合させた融合タンパク質を用いることができる。これによりX−SUMO−Y−Aというコンッジュゲイトができる。SUMOやアクセプターに結合させるXおよびYの種類と数には制限はなく、特にアクセプターに結合させる目的タンパク質は、アクセプターのアミノ末端側あるいはカルボキシ末端側のいずれであってもかまわないし、両方に取り付けてもかまわない。
本発明の方法で生産されるタンパク質ポリマーは、目的タンパク質が直接またはアクセプターを介して結合したユビキチン様タンパク質(例えば、SUMO:small uiquitin−related modiferなど)を主鎖に含むタンパク質ポリマーである。
タンパク質ポリマーの一例としては、下記式(III):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、Aはアクセプター、Xは目的タンパク質、太線はイソペプチド結合、eは2〜100の平均重合度を示す。)
で表されるタンパク質ポリマーが挙げられる。
タンパク質ポリマーの別の例としては、下記式(IV):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、X、Y、及びZは目的タンパク質、Aはアクセプター、太線はイソペプチド結合、f、g、及びhは0から100の平均重合度を示す。但し、f、g、及びhが同時に0の場合は除く)。
で表されるタンパク質ポリマーが挙げられる。
本発明のタンパク質ポリマーが、前記式(III)で表される場合、eで示される平均重合度は2〜100、好ましくは2〜50、より好ましくは3〜10である。
本発明のタンパク質ポリマーが、前記式(IV)で表される場合、f,g,及びhで表される平均重合度は、0〜100、好ましくは0〜50、より好ましくは0〜10である(但し、f,g,及びhが同時に0の場合は除く)。
また、前記式(IV)で表されるタンパク質ポリマーにおいて、構成単位であるX−A−SUMO、Y−A−SUMOあるいはZ−A−SUMOは、それぞれランダムに結合してもよく、またブロック的に結合していてもよい。式(III)のタンパク質ポリマーを製造する場合は、X−A−SUMO、Y−A−SUMOあるいはZ−A−SUMOをコードするDNAを同一又は異なる発現ベクターに組み込んで組み換え発現ベクターを作製し、それを宿主に導入して発現させることにより行なうことができる。形質転換宿主内に最初からX−A−SUMO、Y−A−SUMO及び/又はZ−A−SUMOを発現させるとランダムなポリマーが得られ、最初にX−A−SUMO又はY−A−SUMO又はZ−A−SUMOのいずれかを発現させ、次いで他の構成単位を順次発現させていくとブロック的なポリマーを製造することができる。
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【実施例】
(実施例1)SUMO−目的タンパク質融合体を構成単位とするタンパク質ポリマーの製造
(1)SUMO−目的タンパク質融合体の作製
GST(グルタチオン結合蛋白質:27kDa)、及びSUMOをコードするDNA断片をそれぞれPCRを用いて合成し、発現ベクター、pGEX(アマシャムファルマシア)に連結した(図2)。組換えプラスミドで形質転換したE.coliから抽出物を調製し、グルタチオン結合カラムにのせ、リン酸緩衝液生理食塩水で平衡化した。カラムを同じ緩衝液で洗浄した後、GST−SUMO融合体を20mM還元型グルタチオンを含む同じ緩衝液で溶出し、セファデックスG−75カラムでゲル濾過させた。
(2)SUMO−目的タンパク質融合体のポリマー化
上記で得られたGST−SUMO融合体は約50kDaであった。このGST−SUMO融合体0.2μgを、0.02μgE1、0.02μgE2、5mM ATPの存在下、20μlの20mM Tris−HCl,pH7.5,20mM NaCl,0.1mM DTT,5mM MgCl溶液中で37℃にて10分間反応させた。反応産物をSDSポリアクリルアミド変性ゲル電気泳動で分離した後、タンパク質をニトロセルロース膜に移行させ、GST抗体によりGST−SUMOを検出したところ、階段状のバンドが高分子領域に向かって複数検出された(図3)。このバンドは約50kDaの間隔で存在しており、この分子量の差はGST−SUMOの1分子にほぼ一致するものであった。このことから、階段状のバンドは、GST−SUMO分子(n=1)のC末端が別のGST−SUMO分子内のリジン残基にイソペプチド結合し(n=2)、さらにこの反応が2回(n=3)、3回(n=4)と繰り返した反応産物と考えられた。すなわち、この反応によって、GST−SUMOの繰り返し構造を有する新規の蛋白質ポリマーが合成したことが示された。この反応条件下においては、n=4程度のポリマーの合成が可能であることが示された。
(実施例2)SUMO−アクセプター−目的タンパク質融合体を構成単位とするタンパク質ポリマーの製造
(1)目的タンパク質(GST)−アクセプター(C2)−SUMO融合体の作製
アクセプターとしてC2と呼ばれるRanGAP1(RanGTPase Activating Protein 1)のC末端領域を選択した。RanGAP1は低分子量GTP結合タンパク質Ranの加水分解を促進する活性を持つタンパク質で、核−細胞質間の物質輸送に関わる。C2−SUMO融合体を得るために、C2、及びSUMOをコードするDNA断片をそれぞれPCRを用いて合成し、発現ベクター、pET28(ノバジェン)に連結した(図4)。組換えプラスミドで形質転換した大腸菌(E.coli)から抽出物を調製し、Ni(ニッケル)カラムにのせ、リン酸緩衝液生理食塩水で平衡化した。カラムを同じ緩衝液で洗浄した後、C2−SUMO融合体を250mMイミダゾールを含む同じ緩衝液で溶出し、セファデックスG−75カラムでゲル濾過させた。
上記で得られたC2−SUMO融合体、及びGST(グルタチオン結合蛋白質:27kDa)、をコードするDNA断片をそれぞれPCRを用いて合成し、発現ベクター、pGEX(アマシャムファルマシア)に連結した(図5)。組換えプラスミドで形質転換したE.coliから抽出物を調製し、グルタチオン結合カラムにのせ、リン酸緩衝液生理食塩水で平衡化した。カラムを同じ緩衝液で洗浄した後、GST−C2−SUMO融合体を20mM還元型グルタチオンを含む同じ緩衝液で溶出し、セファデックスG−75カラムでゲル濾過させた。
(2)目的タンパク質(GST)−アクセプター(C2)−SUMO融合体のポリマー化
上記で得られたGST−C2−SUMO融合体は約60kDaであった。GST−C2−SUMO融合体0.2μgを、0.1μgE1、0.1μgE2、5mM ATPの存在下、20μlの20mM Tris−HCl,pH7.5,20mM NaCl,0.1mM DTT,5mM MgCl溶液中で37℃にて10分間反応させた。反応産物をSDSポリアクリルアミド変性ゲル電気泳動で解析したところ、階段状のバンドが高分子領域に向かって複数検出された(図6)。このバンドは約60kDaの間隔で存在しており、この分子量の差はGST−C2−SUMOの1分子にほぼ一致するものであった。このことから、階段状のバンドは、GST−C2−SUMO分子(n=1)のC末端が別のGST−C2−SUMO分子のC2配列内のアクセプターリジン残基にイソペプチド結合し(n=2)、さらにこの反応が2回(n=3)、3回(n=4)と繰り返した反応産物と考えられた。この反応条件下においては、n=11程度のポリマーの合成が可能であることが示された。
(実施例3)SUMOとアクセプターとの結合体の生産
(1)E1およびE2酵素を発現する発現ベクターの構築
マウスAos1及びUba2のcDNAをクローニングするために、先ず、BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov)検索を行い、マウスAos1とUba2のcDNAを見出した(Genebank登録番号:NM−019748(マウスAos1)及びNM−016682(マウスUba2))。Aos1とUba2のコード領域を、鋳型としてBALB/MKマウス上皮ケラチノサイトcDNAライブラリーを使用し、プライマーとして以下のオリゴヌクレオチドを使用してPCRにより増幅した。


増幅したPCR断片をpGEXベクター(Amersham Pharmacia Biotech)のEcoRI部位にクローニングし、得られたプラスミド構築物をそれぞれpGEX−Aos1及びpGEX−Uba2と命名した。Mouse Aos1 cDNAの塩基配列を配列番号5に示し、Mouse Uba2の塩基配列を配列番号6に示す。
Aos1−Uba2キメラ構築物を作製するために、Aos1及びUba2を以下のオリゴヌクレオチドを用いてPCRにより増幅した。

増幅した断片をBamHI+EcoRI及びEcoRIでそれぞれ切断し、BamHI+EcoRIで消化pGEXベクターに挿入した。得られたプレスミドpGEX−AUはGST−Aos1−Uba2融合タンパク質をコードしている。マウスAU cDNAの塩基配列を(GAATTCはAos1とUba2の結合領域)を配列番号7に示す。
Xenopus(アフリカツメガエル)のUbc9(塩基配列を配列番号8に示す)をクローニングしpT7−7vectorに挿入した(Saitoh et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,Vol94,3736−3741,1997)。ちなみに、アフリカツメガエルのUbc9のアミノ酸配列はヒトおよびマウスのUbc9のアミノ酸配列と100%相同である。以下のプライマーを用いてPCRを行った。

増幅したDNA断片をNHeIで切断後、XhoIで処理したpGEX−AUとライゲーションした。作製されたプラスミドを解析したところ、図8に示すように、それぞれの配列がN末端からC末端に向かう形で順向きにタンデムに並ぶ構造をしていた。このプラスミドベクターをPGEX−AU/Ubc9と名付けた。GST−AUタンパク質はtacプロモーターの、Ubc9はT7プロモーターの制御を受け、IPTGにより誘導される。
(2)T7−domain−SUMO−1を発現する発現ベクターのpT−SUMO−1/C2プラスミドベクターの作製
human SUMO−1 cDNA(塩基配列を配列番号9に記載する)と以下のプライマーを用いて、T7−SUMO−1をコードするDNA断片をPCRで増幅する。このタンパク質はT7−tag配列(met−ala−ser−met−thr−gly−gly−gln−gln)(配列番号20)がSUMO−1のN末端にある融合タンパク質である。

増幅断片をNdeI+HindIIIで切断後、同じくNdeI+HindIIIで処理したpT−Trx(Chang,A.C.Y.& Cohen,S.N.:J.Bacteriol.,134,1141−1156,1978;Yasukawa,T.et al.:J.Biol.Chem.,270,25328−25331,1995)とライゲーションする。得られたプラスミドをpT−T7−SUMO−1と呼ぶ。
アクセプターとしてC2と呼ばれるRanGAP1(RanGTPase Activating Protein 1)のC末端領域を選択した。RanGAP1は低分子量GTP結合タンパク質Ranの加水分解を促進する活性を持つタンパク質で、核−細胞質間の物質輸送に関わる。C2−SUMO融合体を得るために、C2、及びSUMOをコードするDNA断片をそれぞれPCRを用いて合成し、発現ベクターpET28(ノバジェン)に連結した。このプラスミドベクターをpET28−His−C2と称する。このプラスミドはHis−C2融合タンパク質をコードしている。C2配列のN末端上流に以下の配列が融合している。

このプラスミドを鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRを行った。

増幅断片をBglIIで切断後、同じくBglIIで処理した上述のpT−T7−SUMO−1とライゲーションした。得られたプラスミドpT−SUMO−1/C2は、T7プロモターをIPTGで誘導することで、His−C2とT7−SUMO−1の2種類の融合タンパク質を同時に発現するようにデザインされている。
(3)大腸菌での発現とタンパク質の部分精製
上述のpGEX−AU/Ubc9およびpT−SUMO/C2を同時に大腸菌BL21DE3株に導入する。2つのプラスミドを同時に取り込んだ菌体はアンピシリンとクロランフェニコールの両方を含む培地で選別できる。これとは独立に、pT−SUMO/C2のみを導入したものをクロランフェニコール培地で選別する。
それぞれの培地で得られたコロニーを別個のLB液体培地1Lで37℃で16時間震盪培養する。0.02mM IPTGを加え、25℃でさらに16時間震盪培養する。
菌体を遠心分離器で沈澱させ、その後、10mlのPBSバッファーに懸濁した後、超音波処理により菌体を破砕する。遠心分離の後、上澄み液を取り出し、ニッケルアガロースビーズ1mlと1時間4℃でインキュベーションする。ビーズをPBSで洗浄後、250mMイミダゾールを含むPBSでビーズに結合したタンパク質を溶出する。タンパク質は12%SDS−PAGEおよびウエスタン法で解析する。
図10のレーン1にはpGEX−AU/Ubc9およびpT−SUMO/C2を同時に大腸菌BL21DE3株に導入したもの、レーン2にはpT−SUMO/C2を導入したものを示してある。前者では40kdaのタンパク質が、後者では25kdaのタンパク質がクマシ−ブル−染色で明瞭に観察される。前者のバンドはHis抗体およびSUMO−1抗体に反応性を示すが、後者はHis抗体のみに反応性がある。40kdaタンパク質は1Lの培養から約0.2mg得ることができる。
これらの結果は、前者において、T7−domain−SUMO−1とHis−domain−C2のコンジュゲイトが大腸菌体内で大量に生産されたことを示している。
(実施例4)SUMOとアクセプターを構成単位とするポリマーの生産
(1)GST−C2−SUMO−1を発現するpT−GST−C2−SUMO−1プラスミドベクターの作製
C2−SUMO融合体、及びGST(グルタチオン結合蛋白質:27kDa)、をコードするDNA断片をそれぞれPCRを用いて合成し、発現ベクターpGEX(アマシャムファルマシア)に連結した。得られたプラスミドをpGEX−C2−SUMO−1と称する。このpGEX−C2−SUMO−1を鋳型DNAとして、以下のプライマーを用いてPCRで、GST−C2−SUMO−1の断片を増幅した。

増幅断片をNotIで切断後、同じくNotIで処理したpT−Trx(Chang,A.C.Y.& Cohen,S.N.:J.Bacteriol.,134,1141−1156,1978;Yasukawa,T.et al.:J.Biol.Chem.,270,25328−25331,1995)とライゲーションする。得られたプラスミドpT−GST−C2−SUMO−1は、T7プロモーターをIPTGで誘導することで、GSTとC2とSUMO−1の融合タンパク質を発現するようにデザインされている。
(2)大腸菌での発現とタンパク質の部分精製
上述のpGEX−AU/Ubc9およびpT−GST−C2−SUMOを同時に大腸菌BL21DE3株に導入する。2つのプラスミドを同時に取り込んだ菌体はアンピシリンとクロランフェニコールの両方を含む培地で選別できる。これとは独立に、pT−GST−C2−SUMOのみを導入したものをクロランフェニコール培地で選別する。
それぞれの培地で得られたコロニーを別個のLB液体培地1Lで37℃で16時間震盪培養する。0.02mM IPTGを加え、25℃でさらに6時間または12時間震盪培養する。
菌体を遠心分離器で沈澱させ、その後、10mlのPBSバッファーにけんだく後、超音波処理により菌体を破砕する。遠心分離の後、上澄み液を取り出し、グルタチオンセファロースビーズ1mlと1時間4℃でインキュベーションする。ビーズをPBSで洗浄後、20mMグルタチオンを含むPBSでビーズに結合したタンパク質を溶出する。タンパク質は10%SDS−PAGEおよびウエスタン法で解析する。
図13のレーン1にはpGEX−AU/Ubc9およびpT−GST−C2−SUMOを同時に大腸菌BL21DE3株に導入し12時間発現誘導したもの、レーン2には6時間発現誘導したものを示してある。コントロールとして、レーン3にはpT−GST−C2−SUMOのみを12時間誘導発現したものを示してある。レーン1および2では約60kdaの階段状のバンドがクマシ−ブル−染色で明瞭に観察されるが、レーン3ではこれらが認められない。前者のバンドはSUMO−1抗体に反応性を示すことから、GST−C2−SUMOがポリマー化したバンドであると考えられる。こうしたタンパク質は1Lの培養から約0.1mg得ることができる。以上の結果は、GST−C2−SUMOポリマーが大腸菌体内で大量に生産されたことを示している。
(実施例5)各種アクセプター配列を用いた解析
アクセプター配列C2に加えて、Thymine DNA Glycosylase(TDG),TONAS1,RanBP2−IRのアクセプター配列としての性質を解析した。即ち、TDG(Thymine DNA Glycosylase)(アミノ酸配列は配列番号28に示す)、RanBP2−IR(internal repeat domain in Ran binding protein 2)(アミノ酸配列は配列番号29に示す)、TONAS(Tonalli related SP−ring protein)(アミノ酸配列は配列番号30に示す)をGSTのC末端に結合した形の融合タンパク質(GST−TDG,GST−BP2−IR,GST−TONAS)をSUMO酵素E1およびE2,ATP,SUMO−1と30℃で30分反応させた。コントロールとして酵素を加えずに反応させた。反応後GSTビーズを加えて反応物を精製し、電気泳動に供し、染色し、タンパク質を検出した。結果を図14に示す。具体的には以下の通り行った。
(1)GST−TDG
GST−TDG(70kDa)1μgを1μg SUMO−1、1μg E1、1μg E2、5mM ATP存在下、100μlの20mM Tris−HCl,pH7.5,20mM NaCl,0.1mM DTT,5mM MgCl溶液中で30℃にて30分間反応させた。反応後、反応溶液中に30μlのグルタチオンビーズを加え、室温にて30分間反応させた。ビーズに結合した蛋白質をSDSポリアクリルアミド変性ゲル電気泳動で解析したところ、90kDaの位置にバンドが確認された(図14のA)。このバンドと反応前のGST−TDGの分子量の差は約20kDaで一分子のSUMO−1にほぼ一致するものであった。このことから、TDGはC2と同様に1分子のSUMO−1を結合するアクセプターと考えられる。
(2)GST−RanBP2−IR
GST−RanBP2−IR(70kDa)1μgを1μg SUMO−1、1μg E1、1μg E2、5mM ATP存在下、100μlの20mM Tris−HCl,pH7.5,20mM NaCl,0.1mM DTT,5mM MgCl溶液中で30℃にて30分間反応させた。反応後、反応溶液中に30μlのグルタチオンビーズを加え、室温にて30分間反応させた。ビーズに結合した蛋白質をSDSポリアクリルアミド変性ゲル電気泳動で解析したところ、階段状にバンドが確認された(図14のB)。このことから、RanBP2−IRは複数分子のSUMO−1を結合するアクセプターと考えられる。このアクセプターは枝分かれタイプあるいは積層タイプのポリマーを構築する可能性が高い。
(3)GST−TONAS1delta
GST−TONAS1delta(60kDa)1μgを1μg SUMO−1、1μg E1、1μg E2、5mM ATP存在下、100μlの20mM Tris−HCl,pH7.5,20mM NaCl,0.1mM DTT,5mM MgCl溶液中で30℃にて30分間反応させた。反応後、反応溶液中に30μlのグルタチオンビーズを加え、室温にて30分間反応させた。ビーズに結合した蛋白質をSDSポリアクリルアミド変性ゲル電気泳動で解析したところ、階段状にバンドが確認された(図14のC)。このことから、TONASは複数分子のSUMO−1を結合するアクセプターと考えられる。このアクセプターは枝分かれタイプあるいは積層タイプのポリマーを構築する可能性が高い。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、複数種のタンパク質の導入も可能で、多様な生理活性や酵素活性を発揮しうるタンパク質ポリマーが提供される。本発明のタンパク質ポリマーは、バイオリアクター、バイオセンサー等に利用すれば有用タンパク質の生産、微量化学物質の認識を効率的に行うことができ、食品製造、医薬品製造分野等において有用である。また、本発明のタンパク質ポリマーは、免疫、情報伝達、神経伝達、癌細胞の増殖などの各種の生体機構に関与する分子の機能解明や制御など、分子生物学全般の基礎研究、あるいは再生医療・癌治療に応用できる。さらに本発明によれば、タンパク質コンジュゲイトやタンパク質ポリマーを細菌などの宿主細胞において大量に生産できる系を提供することが可能になる。
本願が主張する優先権の基礎となる日本特許出願である特願2002−288566号及び特願2003−64713号に記載の内容は全て、本明細書の開示の一部として本明細書中に引用により取り込まれるものとする。
【配列表】




















【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質が直接またはアクセプターを介して結合したユビキチン様タンパク質(SUMO)を主鎖に含むタンパク質ポリマー。
【請求項2】
目的タンパク質がポリマー中に1種又は2種以上含まれる、請求項1に記載のタンパク質ポリマー。
【請求項3】
主鎖が直鎖状、分枝状、環状、又は自己集合によるチューブ形状である請求項1又は2に記載のタンパク質ポリマー。
【請求項4】
アクセプターが、ポリマー中に1種又は2種以上含まれる請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質ポリマー。
【請求項5】
アクセプターがRanGAP1−C2(Ran GTPase activating protein−C2)、RanBP2−IR(Ran binding protein 2−Internal Repeat domain)、TDG(Thymine DNA Glycosylase)、TONAS(Tonalli related SP−ring protein)、又はPML(promyelocytic leukemia)である、請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質ポリマー。
【請求項6】
下記式(I):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、Xは目的タンパク質、太線はイソペプチド結合、aは2〜100の平均重合度を示す。)
で表されるタンパク質ポリマー。
【請求項7】
下記式(II):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、X、Y、及びZは目的タンパク質、太線はイソペプチド結合、b、c、及びdは0から100の平均重合度を示す。但し、b、c、及びdが同時に0の場合は除く)
で表されるタンパク質ポリマー。
【請求項8】
下記式(III):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、Aはアクセプター、Xは目的タンパク質、太線はイソペプチド結合、eは2〜100の平均重合度を示す。)
で表されるタンパク質ポリマー。
【請求項9】
下記式(IV):

(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、X、Y、及びZは目的タンパク質、Aはアクセプター、太線はイソペプチド結合、f、g、及びhは0から100の平均重合度を示す。但し、f、g、及びhが同時に0の場合は除く)。
で表されるタンパク質ポリマー。
【請求項10】
下記式:X−SUMO−A−Y
(式中、SUMOはユビキチン様タンパク質、Aはアクセプター、X及びYは目的タンパク質を示す。)
で表されるタンパク質コンジュゲイト。
【請求項11】
下記の工程:
(a)ユビキチン様タンパク質(SUMO)と目的タンパク質の融合体又は結合体を作製する工程;
(b)前記融合体又は結合体をイソペプチド結合により重合する工程;
を含むタンパク質ポリマーの製造方法。
【請求項12】
下記の工程:
(a)ユビキチン様タンパク質(SUMO)とアクセプターと目的タンパク質の融合体又は結合体を作製する工程;
(b)前記融合体又は結合体をイソペプチド結合により重合する工程;
を含むタンパク質ポリマーの製造方法。
【請求項13】
SUMO活性化酵素E1、SUMO結合酵素E2、ATP、及び金属イオンの存在下に重合反応を行うことを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
反応促進物または基盤ペプチド、もしくはその両方の因子をさらに反応系に添加する、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNAを含み、活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)とを宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター。
【請求項16】
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)がAos1とUbaとの融合タンパク質であるAUであり、結合酵素(E2)がUbc9である、請求項15に記載の組み換え発現ベクター。
【請求項17】
ユビキチン様タンパク質をコードするDNA及びアクセプターをコードするDNAを含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとを個別に宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター。
【請求項18】
ユビキチン様タンパク質をコードするDNA及び/又はアクセプターをコードするDNAに隣接して1種以上の目的タンパク質をコードするDNAをさらに含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプター(このうちの両方又は片方には上記目的タンパク質が融合している)とを個別に宿主内で同時に発現できる、請求項17に記載の組み換え発現ベクター。
【請求項19】
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA;ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNA;ユビキチン様タンパク質をコードするDNA;及び/又はアクセプターをコードするDNAを含み、活性化酵素(E1)、結合酵素(E2)、ユビキチン様タンパク質及び/又はアクセプターとを個別に宿主内で同時に発現できる、組み換え発現ベクター。
【請求項20】
請求項1又は請求項2に記載の組み換えベクターと、請求項17又は18に記載の組み換えベクターとを組み合わせて使用することを含む、活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)とユビキチン様タンパク質とアクセプターとを宿主内で同時に発現する方法。
【請求項21】
請求項19に記載のベクターを使用し、必要に応じ、ユビキチン様タンパク質をコードするDNA又はアクセプターをコードするDNAを含む組み換えベクターを組み合わせて使用することを含む、活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)とユビキチン様タンパク質とアクセプターとを宿主内で同時に発現する方法。
【請求項22】
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)、ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)、目的タンパク質が結合していてもよいユビキチン様タンパク質、及び目的タンパク質が結合していてもよいアクセプターを発現できる形質転換体。
【請求項23】
請求項15又は請求項16に記載の組み換えベクターと、請求項17又は18に記載の組み換えベクターとを有する、請求項22に記載の形質転換体。
【請求項24】
請求項22又は23に記載の形質転換体を培養して、該形質転換体内においてユビキチン様タンパク質とアクセプターとの結合体を産生することを含む、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの結合体の製造方法。
【請求項25】
ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質をコードするDNAを含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質を宿主内で発現できる、組み換え発現ベクター。
【請求項26】
ユビキチン様タンパク質をコードするDNA及びアクセプターをコードするDNAに隣接して1種以上の目的タンパク質をコードするDNAをさらに含み、ユビキチン様タンパク質とアクセプターと目的タンパク質との融合タンパク質を宿主内で発現できる、請求項25に記載の組み換え発現ベクター。
【請求項27】
請求項15又は請求項16に記載の組み換えベクターと、請求項25又は26に記載の組み換えベクターとを組み合わせて使用することにより、活性化酵素(E1)、結合酵素(E2)及びユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質を宿主内で同時に発現させることを含む、ユビキチン様タンパク質とアクセプターとの融合タンパク質のポリマーの製造方法。
【請求項28】
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)をコードするDNA、ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)をコードするDNA、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターと所望により目的タンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを含み、上記の活性化酵素(E1)と結合酵素(E2)と融合タンパク質を宿主内で同時に発現できる組み換え発現ベクター。
【請求項29】
ユビキチン様タンパク質を活性化する酵素(E1)、ユビキチン様タンパク質とアクセプターの結合酵素(E2)、及びユビキチン様タンパク質とアクセプターと所望により目的タンパク質との融合タンパク質を発現できる形質転換体。
【請求項30】
請求項15又は請求項16に記載の組み換えベクターと、請求項25又は26に記載の組み換えベクターとを有する、請求項29に記載の形質転換体。
【請求項31】
請求項29又は30に記載の形質転換体を培養して、該形質転換体内においてユビキチン様タンパク質とアクセプターと所望により目的タンパク質との融合タンパク質のポリマーを産生することを含む、タンパク質ポリマーの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/031243
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500090(P2005−500090)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012596
【国際出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【出願人】(801000050)財団法人くまもとテクノ産業財団 (38)
【Fターム(参考)】