説明

タンパク質分画デバイスおよびそれを用いるタンパク質の分画・回収方法

【課題】 血清、血漿等をはじめとする2種類以上のタンパク質を含有する溶液から数多くの低分子量タンパク質が含まれる溶液を高回収率かつ高濃度で得る。
【解決手段】 中空糸膜が充填された分画モジュールにより処理された溶液中のタンパク質を回収するための回収モジュールを具備するタンパク質分画デバイスであって、該回収モジュールが溶液中のタンパク質を吸着させる機能を有するタンパク質分画デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分画されたタンパク質を吸着させることで濃縮する機能を有する回収モジュールを具備したタンパク質分画デバイスに関する。また本発明は、該タンパク質分画デバイスを用いた溶液中に含まれるタンパク質の分画・回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポストゲノム研究として、プロテオーム解析研究(プロテオミクス)が注目されている。遺伝子産物であるタンパク質は、疾患の病態に直接リンクしていると考えられることから、タンパク質を網羅的に調べるプロテオーム解析の研究成果は診断と治療に広く応用できると期待されている。しかも、プロテオーム解析により、ゲノム解析では発見できなかった病因タンパク質や疾患関連因子を多く発見できる可能性が高いとみられている。
【0003】
プロテオーム解析が急速に進展したのは、技術的には質量分析装置(mass spectrometer:MS)による高速構造分析が可能となってきたことが大きい。MALDI−TOF−MS(matrix assisted laser desorption ionization time−of−flight mass spectrometry)等の実用化によって、ポリペプチドのハイスルースループット超微量分析が可能となり、従来検出し得なかった微量タンパク質までが同定可能となり、疾患関連因子の探索に強力なツールとなっている。
【0004】
プロテオーム解析を臨床に応用する第一の目的は、疾患によって誘導される、あるいは消失するバイオマーカータンパク質を発見することである。バイオマーカーは病態に関連して挙動するため、診断マーカーとなり得るほか、創薬ターゲットとなる可能性も高い。すなわち、プロテオーム解析の成果は、診断マーカーや創薬ターゲットの創出に直接繋がるため、ポストゲノム時代の診断・治療の切り札(エビデンス)技術となる。さらに、同定されたバイオマーカーは患者の薬剤応答性評価や副作用発現予測といった直接的に患者が享受しうる利益につながることから、いわゆるテーラーメード医療(オーダーメード医療)の推進にも大きな役割を果たすといえる。
【0005】
臨床研究でのプロテオーム解析(臨床プロテオミクス)においては、多数の検体を迅速、確実に解析することが求められている。しかも臨床検体は微量かつ貴重であることから、高分解能・高感度・高機能測定を迅速に行う必要がある。この大きな推進力となったのは質量分析(mass spectrometry)であるが、これは質量分析装置が有する超高感度でハイスループットであるという特性の貢献するところが大きい。しかしながら、その手法や機器が急速に改良されてきてはいるものの、現在のところプロテオーム解析が臨床現場で簡便かつ迅速に実施できる状況にはないのが実状である。
【0006】
その原因のひとつに、臨床検体の前処理が必要であることが挙げられる。質量分析により解析する前に、臨床検体のタンパク質を分画、精製する必要があるが、この処理には数日かかるのが実態であり、さらには前処理の操作が煩雑かつ経験を要することが、臨床への応用の大きな障害となっている。少量の血液や体液から全身の疾患の診断や病態管理ができるならば、その有用性は極めて大きいものの、血清、血漿中に含まれるタンパク質の多様性のために、多くの課題を抱えているのが現状である。
【0007】
ヒトタンパク質は10万種以上あるとも推定されているが、血清中に含まれるタンパク質だけでも約1万種類にものぼるといわれ、それらすべてを合わせた血清中濃度は約60〜100mg/mLと推定される。血清中の高含量タンパク質は、アルブミン(分子量66kDa)、免疫グロブリン(150〜190kDa)、トランスフェリン(80kDa)、ハプトグロビン(>85kDa)、リポタンパク質(数100kDa)等であり、いずれも大量(>mg/mL)に存在する。一方、病態のバイオマーカーや病因関連因子と考えられているペプチドホルモン、インターロイキン、サイトカイン等の生理活性タンパク質の多くは、極微量(<ng/mL)しか存在せず、その含有量比は高分子量の高含量成分に比べると、実にナノ〜ピコレベルである。タンパク質の大きさという観点では、タンパク質全種類の70%以下は分子量60kDa以下であり、上記の極微量なバイオマーカータンパク質はいずれもこの領域に含まれる場合がほとんどである(例えば非特許文献1)。これらのタンパク質は、腎臓を通過して尿中に一部排泄されるため、血液のみならず尿を検体として測定することも可能である。
【0008】
一般的な血清学的検査でプロテオーム解析を行うには、病因関連の微量成分検出の妨害となるアルブミン、IgGといった高含量、高分子量の成分を除外することが必須となる。これらのタンパク質を分離する手段として、現状では高速液体クロマトグラフィー(Liquid chromatography:LC)や二次元電気泳動(Two−dimensional polyacrylamide gel electrophoresis:2D PAGE)が用いられているが、これらの作業だけでも1〜2日を要する。この所要時間は、MALDI−TOF−MSやESI−MS(electrospray ionization mass spectrometry)等の数分という分析時間に比べて非常に長く、MSのもつハイスループットという大きな利点が臨床プロテオーム解析では十分発揮できずにいる。このため、医療現場で診断や治療のためにできるだけ短時間に分析結果がほしいという目的には、現時点では実用性に極めて乏しいと言わざるを得ず、日常の臨床検査にMSが利用しにくいひとつの大きな原因になっている。
【0009】
この点が解決されれば、臨床プロテオーム解析による臨床検査の診断の迅速性は飛躍的に向上すると期待できる。具体的には、LCや2D−PAGEの代替となるような、微量の検体から高速で目的タンパク質群を分画・分離できるデバイスがあればよい。
【0010】
アルブミンを除去対象物質として、すでに実用化されている製品あるいは開示されている技術としては、ブルー色素などのアフィニティーリガンドを固定化した担体(たとえば、日本ミリポア社:“Montage Albumin Deplete Kit(登録商標)”、日本バイオ・ラッド社:Affi−Gel Blue(登録商標)ゲル)、高分子量成分を遠心分離ろ過によって分画する遠心管形式の濾過濃縮ユニット(たとえば、日本ミリポア社:“アミコンウルトラ(登録商標)”、ザルトリウス社:“ビバスピン”)、電気泳動原理によって分画する方法(たとえば、グラディポア社:“Gradiflow(登録商標)”システム)、Cohnのエタノール沈澱などの伝統的な沈殿法やクロマトグラフィーによって分画する方法(例えば非特許文献2)などがある。また、抗アルブミン抗体を固定化した担体とプロテインGを固定化した担体を用いて血漿中のアルブミンとIgGを除去し、二次元電気泳動により解析を行った報告(例えば非特許文献3)がある他、アルブミンと免疫グロブリンG(IgG)を同時に除去する製品が上市されている(GEヘルスケア社:Albumin and IgG Removal kit)。しかしながら、これらはいずれも分離分画性能が不十分であったり、微量サンプルには不適当であったり、サンプルが希釈されてしまったり、固定化抗体の溶出がみられたり、あるいは質量分析等に障害となる薬剤が混入したりするなどの問題点があるのが実状である。
【0011】
電気泳動の手法でタンパク質を分取する製品としては、バイオラッド社の“モデル491プレップセル”、“ミニプレップセル”、アトー(株)の“プレップフォレーシス(登録商標)”等がある。これらの製品は、円筒状のゲルの上部にアプライしたタンパク質をドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)により分離し、分離されたタンパク質をゲルの下部から回収することで分取を行う。これらの製品は、一度にある程度まとまった量のタンパク質を処理できる利点があるものの、電気泳動のゲルを準備するのに時間と手間がかかる上、分取したサンプル中にゲルに含まれる未反応のアクリルアミド等の夾雑物が混入することがあるため、質量分析に供する試料としては適さない。
【0012】
タンパク質試料を濃縮する技術としては、限外濾過膜を用いる方法、一旦沈殿させて少量の溶媒に再溶解する方法、凍結乾燥して少量の溶媒に再溶解する方法、乾燥ゲルで溶媒を吸収する方法などがある。限外濾過膜を用いた方法は一般的に用いられる手法で、具体的には、遠心分離でタンパク質溶液試料をろ過することにより濃縮を行うための遠心管型濾過濃縮ユニット(たとえば、日本ミリポア社:“アミコンウルトラ(登録商標)”、ザルトリウス社:“ビバスピン”)を用いる。しかしながら、膜の細孔径には分布があり、規定された分画分子量以上の物質が通過できる細孔も存在するため、実際は膜の分画分子量以上の分子量であるタンパク質が細孔を通過して濾液に漏出することがあり、したがって、回収率の低下は避けられないのが実状である。
【非特許文献1】アンダーソン・NL(Anderson NL),アンダーソン・NG(Anderson NG)著,「ザ・ヒューマン・プラズマ・プロテオーム:ヒストリー・キャラクター・アンド・ダイアグノスティック・プロスペクツ(The human plasma proteome:history,character,and diagnostic prospects)」,モレキュラー・アンド・セルラー・プロテオミクス(Molecular & Cellular Proteomics),2002年,第1巻,p845−867.
【非特許文献2】日本生化学会編,「新生化学実験講座(第1巻)タンパク質(1)分離・精製・性質」,東京化学同人,1990年
【非特許文献3】グリーノウ・キャリー(Carrie Greenough)ら著,「ア・メソッド・フォー・ザ・ラピッド・ディプレーション・オブ・アルブミン・アンド・イムノグロブリン・フロム・ヒューマン・プラズマ(A method for the rapid depletion of albumin and immunogloburin from human plasma)」,プロテオミクス(Proteomics),2004年,第4巻,p3107−3111.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、溶液中に含まれる少なくとも2種類以上のタンパク質を分画する際に、中空糸膜を充填した分画モジュールによって分画されたタンパク質を回収モジュールに吸着させた後、少量の溶出用緩衝液を用いて溶出させることで、分画されたタンパク質をロスすることなく濃縮できることを見いだし、本発明に到達した。
【0014】
すなわち本発明は、分画したタンパク質を高収率で濃縮できる回収モジュールを備えたタンパク質分画デバイスを提供することを目的とする。また本発明は、前記タンパク質分画デバイスを用いたタンパク質の分画方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために以下の構成を有する。
(1)中空糸膜が充填された分画モジュールにより処理された溶液中のタンパク質を回収するための回収モジュールを具備するタンパク質分画デバイスであって、該回収モジュールが溶液中のタンパク質を吸着させる機能を有するタンパク質分画デバイス。
(2)該タンパク質分画デバイスを用いてタンパク質を含む溶液を分画するタンパク質の分画方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、血清、血漿をはじめとする溶液に含まれる少なくとも2種類以上のタンパク質をそれらの物理的性状の違いにより分画し、分画されたタンパク質を回収モジュールに吸着させ、少量の溶出用緩衝液を用いて吸着したタンパク質を溶出させることにより、分画したタンパク質を高収率で回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、中空糸膜が充填された分画モジュールにより処理された溶液中のタンパク質を回収するための回収モジュールを具備するタンパク質分画デバイスであって、該回収モジュールが溶液中のタンパク質を吸着させる機能を有することを特徴とするタンパク質分画デバイスである。
【0018】
本発明でいう“分画”とは、溶液中の溶質を分離することであり、溶質が複数種類含まれる場合には、その全部または一部を分離することを指す。例えば体液成分を解析するための試料を調製する場合、回収成分と廃棄成分とを弁別することになる。また、本発明でいう“分画モジュール”とは、溶液中のタンパク質を物理的性状の違いにより弁別する用途で用いる器具のことである。すなわち、本発明の分画モジュールを用いることにより、タンパク質を分子量、等電点といった物理的性状の違いで二群以上に分画することができる。
【0019】
本発明の分画モジュールにおける分画手段としては、上記の通りタンパク質を分子量、等電点といった物理的性状の違いで二群以上に分画できるものであれば特に限定されないが、分子量の違いで分画する方法が簡便かつ効果的である。したがって、膜あるいは多孔質ビーズが充填された分画モジュールが好ましく用いられ、孔径分布が小さくシャープな分画特性を有する中空糸膜が充填された分画モジュールがより好ましく用いられる。
【0020】
本発明の分画モジュールに充填する中空糸膜は、液体中に含まれる低分子量物質が膜を界面として双方向に移動可能な細孔を有する。このような機能を有する中空糸膜の製造方法は、湿式紡糸、乾湿式紡糸等、一般的に用いられる中空糸膜の製造方法であれば特に限定されない。例えば、二重環式口金を用いて中空糸膜を製膜する場合、ポリマー流体を口金を用いて中空糸状に紡糸し、流下過程で多孔質を形成し、凝固浴を通すことで固化し、洗浄浴にて芯側流体を洗浄し、乾燥、捲縮付与後巻き取ると、中空糸膜が得られる。これらの作業はオンラインで行うことが好ましい。なお、得られた中空糸膜は表面の擦過傷や、折り曲げ、押圧などによる中空部の潰れ等の無いことが好ましい。
【0021】
本発明で用いる中空糸膜は、ドライタイプ、ウェットタイプともに利用可能である。ドライタイプの中空糸膜を用いる場合は、膜の表面をグリセリン等で処理して乾燥を防ぐことが好ましい。
【0022】
本発明において分画モジュールに充填する中空糸膜の素材は、工業的に中空糸膜を形成可能な材料であれば特に限定されず、例えばポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの合成高分子およびそれらの誘導体、それらを含む共重合体あるいは複合体、もしくはセルロース、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、硝酸セルロース、ジエチルアミノエチルセルロースなどの天然高分子およびそれらの誘導体、それらを含む共重合体あるいは複合体が好適に用いられる。
【0023】
また、これらの素材が2種以上混合されていてもよく、素材の性質を改良する目的で種々の添加物が混合されていてもよい。例えば、親水性高分子あるいは疎水性高分子を中空糸膜の素材となる高分子とブレンドして製膜し、中空糸膜表面の親水化、疎水化を図ることは好ましい。
【0024】
また、中空糸膜の表面に親水性高分子あるいは疎水性高分子をコーティングする方法や、グラフト重合する方法も好ましい。ここで用いられる親水性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸、ポリビニルピリジン、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体およびこれらの金属塩、エステルなどの合成化合物や、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、キトサン、リグニン、ポリリジン、絹フィブロイン、カラギーナン、カゼイン、グリコール酸、コラーゲン、ゼラチンおよびこれらの金属塩、エステルなどの天然化合物が好適に利用される。なお、上述の合成高分子化合物と天然高分子化合物を組み合わせてもよい。
【0025】
その他の親水化方法としては、酸素プラズマを照射する方法やポリシラザンをコーティングする方法も利用できる。一方、疎水化方法としては、シリコンコーティング、フッ素コーティング、プラズマ照射による表面処理が好適に用いられる。上述の親水化、疎水化いずれの方法によっても、タンパク質の吸着を抑制することができる。
【0026】
本発明の分画モジュールは、1本で分画することも可能であるが、より高い分離効率を得るために、複数段設置して分画することも可能である。複数段の分画モジュールを用いて分画することで、例えば血漿中の高分子量タンパク質の除去効率が格段に向上する。このとき、モジュールの回路は、直列に設置してもよいし、並列に設置してもよい。
【0027】
本発明でいう“回収モジュール”とは、分画モジュールで分画されたタンパク質を吸着させ、吸着したタンパク質を少量の溶出用緩衝液で溶出させることにより、分画されたタンパク質を回収し、高濃度のタンパク質溶液として得る用途で用いる器具のことをいう。分画モジュールにより分画されたタンパク質を回収モジュールの充填物と接触させることで吸着させ、次いで少量の溶出用緩衝液を流すことで吸着したタンパク質を溶液として回収することにより、タンパク質溶液を濃縮することができる。
【0028】
本発明において、分画モジュールと回収モジュールをオンラインで連結することが好ましい。ここでいう“オンライン”とは、分画液を連続的に回収モジュールで処理する方法を指し、例えば、分画モジュールにより処理された分画液の出口と回収モジュールの入口の間に管を設置する方法や、分画モジュールにより処理された分画液をリザーバーに溜めて、それをポンプで回収モジュールに送液する方法が好ましく用いられる。分画モジュールと回収モジュールをオンラインで連結させることにより、分画されたタンパク質を含む溶液を直接濃縮処理することが可能となることから、操作が格段に簡便になるばかりでなく、吸着等によるタンパク質の損失を防ぐことができるため好ましい。
【0029】
本発明の回収モジュールの形状は、溶液を漏出することなく通過させることができれば特に限定されず、パックドカラム、オープンカラム、キャピラリーカラムなどが好ましく利用できる。
【0030】
本発明における回収モジュールの充填物は、タンパク質試料と接触したときに測定に悪影響を及ぼす溶出物がなく、溶出用緩衝液を用いることで吸着したタンパク質を脱着できるものであれば特に限定されず、ビーズ、ゲル、布地、編み地、中空糸膜、平膜などが好ましく用いられる。処理時間等の作業効率を考慮した場合、ビーズ、ゲルを用いるのがより好ましく、操作中に起こる圧力上昇をできるだけ防ぐことができる多孔質のビーズ、ゲルを用いるのがいっそう好ましい。充填物の表面には、タンパク質を吸着させるための修飾を施すことが好ましい。また、修飾の効果を発揮させるために充填物の基材そのものに対して非特異的にタンパク質が吸着しないことが好ましい。よって、充填物の基材表面を親水化あるいは疎水化処理することにより、タンパク質の非特異的吸着を抑制することが好ましい。
【0031】
本発明の回収モジュール充填物において好ましい態様であるビーズ、ゲルは、タンパク質を吸着可能であり、かつ吸着したタンパク質をある組成の溶液で脱着できるものであれば特に限定されず、例えばイオン交換樹脂、逆相樹脂、金属キレート樹脂、タンパク質固定化樹脂、レクチン固定化樹脂、群特異性アフィニティー樹脂などが利用できる。これらの樹脂を単独で用いることも可能であるし、複数の充填物を用いることも可能である。ここで、回収モジュールには、数多くのタンパク質を吸着可能なイオン交換樹脂、逆相樹脂を含むことが、より高い回収率を達成できるため好ましい。また、充填物として使用する樹脂の形状は特に限定されないが、溶液を流したときに圧力損失が起こりにくい多孔質のものが好ましく用いられる。
【0032】
本発明の回収モジュールは、単段で用いても効果があるが、複数具備することで、それぞれのタンパク質吸着特性により補完できることから、分画モジュールで分画されたタンパク質を確実に吸着させることが可能となる。さらに、吸着対象の異なる吸着材が装填された回収モジュールを連結して用いることで、タンパク質の性状の違いにより分別して回収することが可能となるため好ましい。したがって、複数の回収モジュールを回路内に直列あるいは並列に設置することで、さらに高いタンパク質回収効果が得られる。例えば、イオン交換樹脂を充填した回収モジュールを使用する場合、吸着基が四級アンモニウム基のものとDEAE基のものを設置することで、より幅広い種類のタンパク質を吸着させることが可能となり、その結果多くのタンパク質を回収することができる。
【0033】
網羅的にタンパク質を回収するためには、上述の通り、イオン交換樹脂、逆相樹脂といった大部分のタンパク質を吸着可能な吸着材を、単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。また、イオン交換樹脂、逆相樹脂を利用しない場合でも、特定のタンパク質を特異的に吸着する吸着材を組み合わせて用いることで、トータルとして網羅的にタンパク質を回収することができるため好ましい。このように、複数の樹脂を用いることで、網羅的にタンパク質を回収できる。
【0034】
本発明でいう“イオン交換樹脂”とは、三次元的な網目構造を有する高分子にイオン交換を行うためのイオン交換基を付与した樹脂のことである。イオン交換樹脂が含まれる回収モジュールを用いることで、分画されたタンパク質を静電相互作用により効率よく吸着させることが可能となる。イオン交換基には、大きく分類して陽イオン交換基、陰イオン交換基の2種類あり、陽イオン交換基としては、例えばカルボキシメチル基、スルホプロピル基などが、陰イオン交換基としては、例えばジエチルアミノエチル(DEAE)基、ジエチルアミノプロピル基、四級アンモニウム基、トリメチルアミノエチル基、トリメチルアミノプロピル基などがそれぞれ好適に用いられる。 本発明における“逆相樹脂”とは、疎水基により疎水性が付与された樹脂のことを指す。タンパク質は一般的に疎水性の領域を有することから、逆相樹脂が含まれる回収モジュールを用いることで、分画されたタンパク質を疎水性相互作用により効率よく吸着させることが可能となる。疎水基としては、疎水性が付与できるものであれば特に限定されないが、炭化水素が好ましく用いられ、例えばブチル基(炭素数4個)、オクチル基(炭素数8個)、オクタデシル基(炭素数18個)が好ましく用いられる。このとき、炭素数が多いほど強い疎水性が付与される。
【0035】
緩衝液の組成、pHに応じて樹脂を使い分けることで、分画されたタンパク質を効率よく吸着させることができ、その結果分画したタンパク質を高い収率で回収することが可能となる。タンパク質の変性を防ぐには、中性〜弱塩基性の緩衝液を用いることが好ましく、この場合大多数の血清タンパク質の等電点より高いpHでの操作となることから、イオン交換樹脂を用いる場合は、陰イオン交換基を有するイオン交換樹脂を含む回収モジュールを用いることが好ましい。陰イオン交換樹脂が含まれる回収モジュールを用いることで、中性〜塩基性のpH領域で特に効率よくタンパク質を吸着可能となり、その結果高い回収率で分画タンパク質が得られる。また、回収モジュールにイオン交換樹脂が含まれる場合、緩衝液の塩濃度は0.1〜100mMであることが好ましく、1〜50mMであることがより好ましい。塩濃度が100mMを超えると、分画されたタンパク質とイオン交換樹脂との相互作用が弱くなり、網羅的にタンパク質を吸着させることができなくなるため好ましくない。一方、回収モジュールに逆相樹脂が含まれる場合、緩衝液中に有機溶媒が含まれないことが好ましい。有機溶媒が含まれると、タンパク質と逆相樹脂との相互作用が弱まり、網羅的にタンパク質を吸着できなくなるため好ましくない。 本発明のタンパク質分画デバイスは、好ましくは、分画分子量がシャープである中空糸膜を充填した分画モジュールを用いて分画したタンパク質溶液を、タンパク質を吸着させる機能を有する回収モジュールに吸着させ、少量の溶出用緩衝液で脱着させて回収する。これにより、膜による濃縮では避けられなかった低分子量物質の損失がなくなるため、分画されたタンパク質の回収率が格段に向上する。
【0036】
本発明のタンパク質分画デバイスは、好ましくは分画モジュールにより処理されたタンパク質を含む溶液を回収モジュールに循環させて処理する。分画されたタンパク質を含む溶液を回収モジュールに循環させることで、タンパク質を確実にモジュールに吸着させることが可能となる。
【0037】
本発明におけるタンパク質分画デバイスを用いてタンパク質を分画する場合、好ましくは以下の手法で行う。
【0038】
はじめに回路に投入したタンパク質を含む溶液を分画モジュールにより分画し、分画された溶液を回収モジュールに通過させることでタンパク質を吸着させる。このとき、分画されたタンパク質を確実に吸着させるために、回収モジュールを複数設置することが望ましい。
【0039】
また、回収モジュールを通過したタンパク質溶液を循環させ、回収モジュール内の充填物に複数回接触させることにより、より多くのタンパク質を回収することができるため好ましい。さらに、吸着したタンパク質を溶出用緩衝液で溶出することにより、分画されたタンパク質を溶液として得ることができる。このとき、少量の溶出用緩衝液で溶出を行うと、タンパク質溶液が濃縮されたことになるため好ましい。
【0040】
本発明のタンパク質分画デバイスにおいて用いられる“溶出用緩衝液”は、回収モジュールの充填物に吸着したタンパク質の相互作用を解離させることができる溶液であれば特に限定されない。吸着したタンパク質を溶出させるには、溶出用緩衝液に、塩、有機溶媒等を添加して用いるのが好ましい。塩を添加する場合、その塩濃度は10mM〜10Mが好ましく、50mM〜5Mがより好ましい。イオン交換樹脂に吸着したタンパク質を溶出させるためには、一般的に高い塩濃度の溶液を用いて溶出する必要があるが、本発明のタンパク質分画デバイスでは、溶出用緩衝液のpHを低くすることにより、50〜100mMという低い塩濃度でもタンパク質を溶出することが可能となる。
【0041】
本発明のタンパク質分画デバイスにおける“モジュールおよび回路内に充填された液体”は、タンパク質を溶解可能なものであれば任意でよく、例えば緩衝液、水、水溶性有機溶媒およびそれらの混合物が挙げられる。ここで、緩衝液として好適に用いられるのは、例えばリン酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液、炭酸水素塩緩衝液、酢酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、ギ酸塩緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、トリス塩酸緩衝液などが挙げられる。また、本発明において好適に用いられる水溶性有機溶媒としては、アセトニトリル、ピリジン等の含窒素化合物、1,4−ジオキサン、プロピレンオキシド等の環状エーテル化合物、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン化合物、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物、メタノール、エタノール、2−プロパノール等の一価アルコール類、2−メトキシエタノール(メチルセロソルブ)、2−エトキシエタノール(エチルセロゾルブ)などのセロソルブ類、2−アミノエタノール(モノエタノールアミン)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類が挙げられる。さらに、タンパク質の膜透過性を向上させたり、低分子量タンパク質の透過性を高めたりすることを目的として、添加物が含まれていてもよい。本発明において好適に用いられる添加物の例としては、タンパク質変性剤、カオトロピックイオン等が挙げられ、例えば尿素、グアニジン塩酸塩、チオシアン酸カリウムが好適に用いられる。
【0042】
本発明のタンパク質分画デバイスでは、モジュールおよび回路内に充填された液体をポンプにより送液することが好ましい。ポンプによりモジュールおよび回路内に充填された液体を送液することで、安定してモジュールにタンパク質が含まれる液体を送液できるばかりでなく、タンパク質が含まれる液体を閉鎖系の回路内に循環させることが可能となり、その結果効率よく液体中のタンパク質を分画できる。
【0043】
本発明において用いられるポンプは、各モジュールおよびそれらを接続する管内の液体を定量的に送液できる装置であればよく、例えば、ローラーポンプ(ATTO(株)製“ペリスタポンプ”(登録商標)、東京理化器械(株)製マイクロチューブポンプなど)、ダイヤフラム式ポンプ、高速液体クロマトグラフィー等で用いられる送液ユニット、シリンジポンプなどのポンプを用いることができる。また、ローラーポンプの機構を組み入れた装置を作製して用いることも好ましい。本発明における循環回路の流速は0.1〜100mL/minが好ましく、1〜20mL/minがより好ましい。いっそう好ましくは、2〜10mL/minである。また、試料や緩衝液を回路内に注入する際の流速は、0.001〜10mL/minが好ましく、0.01〜1mL/minがより好ましい。
【0044】
本発明におけるタンパク質分画デバイスの回路を構成するチューブは、特に限定されないが、例えばシリコンチューブ、タイゴンチューブ、テフロンチューブ、ファーメド(登録商標)チューブ、バイトン(登録商標)チューブ、ポリエチレンチューブ、ポリプロピレンチューブ、ポリ塩化ビニルチューブ、テフロンチューブなどが挙げられる。ローラーポンプを用いる場合、ローラーとの接触部分はフレキシブルかつ強度の高いチューブを用いることが好ましい。タンパク質の吸着を抑制するために、チューブの内表面に親水化あるいは疎水化処理を施すことも好ましい。揮発性の溶媒を使用する場合には、分画処理中に溶媒が揮発して回路内に気泡が発生するのを防ぐために、ガス透過性の低いチューブを用いることが好ましく、表面をコーティング等で加工することにより、ガス透過性を低下させたチューブを使用することも好ましい。
【0045】
本発明でいう“タンパク質を含む溶液”とは、タンパク質が溶存した液体全般を指し、そこに含まれるタンパク質の種類、含有量、濃度は特に限定されない。また、溶媒の種類についても、タンパク質を溶解可能であれば特に限定されない。また、本発明でいう“タンパク質を含む体液”とは、一般的な生体を構成する液体のことを指し、例えば血液、血漿、血清、リンパ液、尿、唾液、骨髄液、腹水、胸水、汗、涙などが挙げられる。
【0046】
また、本発明のタンパク質の分画方法は、中空糸膜が充填された分画モジュールにより処理された溶液中のタンパク質を回収するための回収モジュールを具備するタンパク質分画デバイスであって、該回収モジュールが溶液中のタンパク質を吸着させる機能を有するタンパク質分画を用いてタンパク質を含む溶液を分画・回収する。これにより、溶液中に含まれるタンパク質を効率よく分画し、分画されたタンパク質を高収率で回収することができる。
【0047】
さらに、本発明のタンパク質の分画方法では、タンパク質を含む溶液は、好ましくはタンパク質を含む体液である。これにより、特に血液、尿などの体液中に含まれるタンパク質を効率よく分画し、分画されたタンパク質を高収率で回収することができる。
【0048】
さらに、本発明のタンパク質の分画方法では、好ましくはタンパク質を含む溶液を分子量の大きさの違いで分画・回収する。これにより、体液中に含まれるタンパク質を分子量の大きさの違いを利用して効率よく分画し、分画されたタンパク質を高収率で回収することができる。
【0049】
上記の通り、本発明における“タンパク質分画デバイス”を用いてタンパク質が含まれる溶液を処理することで、濃縮されたタンパク質溶液を高い回収率で得ることができる。このとき、除去対象となる高分子量のタンパク質の回収率が1%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。一方、回収対象となる低分子量のタンパク質の回収率は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。例えば、血清中のタンパク質を分画する場合、分画、濃縮処理後のタンパク質含量が、血清アルブミンや免疫グロブリンなど高分子量かつ高含量のタンパク質については処理前の1%未満となり、一方β2ミクログロブリンやインターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)等のサイトカイン類をはじめとする低分子量のタンパク質については処理前の20%以上となることが好ましい。もし、分画後のタンパク質溶液中に高分子量、高含量タンパク質が処理前の1%以上残存した場合、質量分析や二次元電気泳動等により解析する際、微量タンパク質の検出を妨げることがあるため好ましくない。逆に、高分子量、高含量タンパク質が処理前の1%未満とした試料では、質量分析、二次元電気泳動で微量なタンパク質を数多く検出することが可能となる。
【0050】
本発明のタンパク質分画デバイスにより、上述の通りタンパク質を含有する溶液から目的のタンパク質を含む群を効率よく回収することができる。したがって、本発明のタンパク質分画デバイスを用いて、例えば血清、血漿中に含まれる低分子量タンパク質を選択的かつ高収率で回収し、質量分析、二次元電気泳動等で解析することにより、患者の血清、血漿に含まれるタンパク質の発現量を健常者のそれと定量的に比較できるようになり、疾患によるタンパク質発現量の増減を知ることができる。したがって、本発明のタンパク質分画デバイスは、疾患関連タンパク質の同定や新規創薬ターゲットの創出において特に有用である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
実施例1
血液透析器(東レ製TS1.6ML)の両端の樹脂接着部分を切り、ポリスルホン製中空糸膜を得た。得られた中空糸膜の寸法は、内直径200μm、膜厚40μmであり、液が透過する部分の断面を観察したところ非対称構造を有していた。この中空糸膜を100本束ね、中空糸膜の中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をプラスチック管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを作製した。ミニモジュールの直径は約8mm、長さは約13cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に、中空糸内に液体を循環させるためのポート(循環ポート)と透析液ポートをそれぞれ2個有している。作製したミニモジュールの中空糸膜およびモジュール内部を蒸留水にて十分に洗浄したものを、分画モジュールAとした。
【0053】
内径4mm、長さ10mmの空カラムに、100μLのQ Sepharose HPビーズ(GEヘルスケア製)を充填してカラムを作製し、回収モジュールAとした。また、同様にして100μLのDEAE Sepharose HPビーズ(GEヘルスケア製)を充填してカラムを作製し、回収モジュールBとした。
【0054】
上記の分画モジュールAおよび外径4mm、内径2mmのシリコンチューブ(アズワン製)を用いて、分画循環回路を作製した。分画循環回路の途中に定量送液ポンプ(東京理化器械製)を設置し、回路内の液体を循環させることを可能とした。また、血液透析用回路(東レ製)のポートを切り出して分画循環回路内に設置し、サンプルの注入口を設けた。回収モジュールAと回収モジュールBをシリコンチューブで直列に接続し、さらに分画モジュールAの濾液出口と回収モジュールAの入口をシリコンチューブで接続した。分画モジュールと回収モジュールAの間には、定量送液ポンプを設置した。回収モジュールBの出口にシリコンチューブを接続し、その先端部をリザーバーに向けた。また、シリコンチューブでリザーバー内の液体を回収モジュールに循環させるための回路を設け、濃縮循環回路を形成した。このとき、回路の途中に定量送液ポンプを設置し、一端をリザーバー内に、もう一端を回路に設置した三方バルブに接続した。分画循環回路内に25mMの炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)(以下緩衝液A)を充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスAと表記)。分画デバイスAの概略図を図1に示す。
【0055】
実施例2
上記の分画モジュールAおよび外径4mm、内径2mmのシリコンチューブを用いて、分画循環回路を作製した。分画循環回路の途中に定量送液ポンプを設置し、回路内の液体を循環させることを可能とした。また、実施例1と同様にしてサンプルの注入口を設けるとともに、濃縮循環回路との接続部として三方バルブを設置した。回収モジュールAと回収モジュールBを直列に接続し、分画モジュールAの濾液出口と回収モジュールAの入口を定量送液ポンプ、三方バルブを設置したシリコンチューブで接続した。さらに、回収モジュールBの出口と分画循環回路とを途中に三方バルブを設置したシリコンチューブで接続し、濃縮循環回路を形成した。このとき、シリコンチューブの一端は、分画循環回路に設けた三方バルブと接続した。また、回収モジュールBの出口側に設置した三方バルブにシリコンチューブを接続し、溶液の回収部とした。分画循環回路内に緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスBと表記)。分画デバイスBの概略図を図2に示す。
【0056】
実施例3
上記の分画モジュールAおよび外径4mm、内径2mmのシリコンチューブを用いて、分画循環回路を作製した。分画循環回路の途中に定量送液ポンプを設置し、回路内の液体を循環させることを可能とした。また、実施例1と同様にしてサンプルの注入口を設置した。分画モジュールAの濾液出口にシリコンチューブを接続し、濾液をリザーバーに回収できるようにした。容器中の溶液を回収モジュールに循環させるため、以下の回路を組んだ。回収モジュールAと回収モジュールBをシリコンチューブで直列に接続し、回収モジュールAの入口側および回収モジュールBの出口側にもシリコンチューブを接続した。回収モジュールAの入口側に接続したシリコンチューブの端部は、リザーバー中の溶液に浸漬できるようにし、定量送液ポンプを設置することで送液できるようにした。さらに三方バルブを設置し、洗浄液および溶出用緩衝液を送液するためのシリンジを取り付けられるようにした。また、回収モジュールBの出口側に接続したシリコンチューブも、中を通過した溶液がリザーバーへと入るように設置した。なお、このシリコンチューブ回路の途中に三方バルブを設置し、それを切り替えることで回収容器に溶液を回収できるようにした。分画循環回路内に緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスCと表記)。分画デバイスCの概略図を図3に示す。
【0057】
実施例4
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)製の平板(荷重たわみ温度92℃)を79×23×2mmの大きさに加工し、幅1mm×高さ1mm×長さ40mmの流路を形成した。流路内に、20μlのPOROS 20 HQビーズ(アプライドバイオシステムズ製)を充填し、さらに上板を貼りあわせ、回収モジュールCとした。
【0058】
実施例1に記載の分画モジュールAおよび外径4mm、内径2mmのシリコンチューブを用いて、循環回路を作製した。回路の途中に定量送液ポンプ(東京理化器械製)を設置し、液体の循環が可能となるようにした。また、実施例1と同様にして、サンプルの注入口を設けた。回収モジュールAと回収モジュールCを直列に接続し、分画モジュールの濾液出口と回収モジュールAの入口を定量送液ポンプ、三方バルブを設置したシリコンチューブで接続した。さらに、回収モジュールCの出口と分画循環回路とを途中に三方バルブを設置したシリコンチューブで接続し、濃縮循環回路を形成した。このとき、シリコンチューブの一端は、分画循環回路に設けた三方バルブと接続した。また、回収モジュールCの出口側に設置した三方バルブにシリコンチューブを接続し、溶液の回収部とした。分画循環回路内に緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスDと表記)。分画デバイスDの概略図を図4に示す。
【0059】
実施例5
実施例1に記載の分画モジュールおよび外径4mm、内径2mmのシリコンチューブを用いて、循環回路を作製した。回路の途中に定量送液ポンプ(東京理化器械製)を設置し、液体の循環が可能となるようにした。また、実施例1と同様にして、サンプルの注入口を設けた。分画モジュールの濾液出口と回収モジュールAの入口をシリコンチューブで接続した。分画モジュールと回収モジュールAの間には、定量送液ポンプを設置した。回収モジュールAの出口にシリコンチューブを接続し、その先端部をリザーバーに向けた。また、シリコンチューブでリザーバー内の液体を回収モジュールに循環させるための回路を設け、濃縮循環回路を形成した。このとき、回路の途中に定量送液ポンプを設置し、一端をリザーバー内に、もう一端を回路に設置した三方バルブに接続した。分画循環回路内に緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスEと表記)。分画デバイスEの概略図を図5に示す。
【0060】
実施例6
実施例1に記載の中空糸膜を100本充填した分画モジュールAを2本(以下、分画モジュールA1、分画モジュールA2と表記)、および同様の方法で中空糸膜を40本充填した分画モジュールBを1本作製した。各モジュールについて、外径4mm、内径2mmのシリコンチューブを用いて、中空糸膜内側を液が通過する循環回路をそれぞれ作製した。さらに、分画モジュールA1の中空糸膜外側の出口と分画モジュールA2の中空糸膜内側の入口、および分画モジュールA2の中空糸膜外側の出口と分画モジュールB中空糸膜内側の入口をそれぞれシリコンチューブで接続した。さらに、血液透析用回路(東レ製)のポートを切り出して分画部の入口に設置し、サンプルおよび緩衝液の注入口を設けた。このようにして、分画部Aを作製した。回収モジュールAと回収モジュールBをシリコンチューブで直列に接続し、さらに分画部の濾液出口と回収モジュールAの入口をシリコンチューブで接続した。分画部と回収モジュールAの間には、定量送液ポンプ(東京理化器械製)を設置した。また、回収モジュールBの出口にシリコンチューブを接続し、その先端部をリザーバーAに向けた。また、シリコンチューブでリザーバーA内の液体を回収モジュールに循環させるための回路を設け、濃縮循環回路を形成した。このとき、回路の途中に定量送液ポンプを設置し、一端をリザーバーA内に、もう一端を回路に設置した三方バルブに接続した。分画部の回路に緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスFと表記)。分画デバイスFの概略図を図6に示す。
【0061】
実施例7
実施例6と同様にして、分画モジュールA1、A2、および分画モジュールBを接続することにより、分画部Aを作製した。分画部の出口の先にシリコンチューブを接続し、リザーバーBに分画液を送液できるようにした。回収モジュールAと回収モジュールBをシリコンチューブで直列に接続し、さらにリザーバーBと回収モジュールAの入口をシリコンチューブで接続した。また、回収モジュールBの出口にシリコンチューブを接続し、濾液をリザーバーBに回収できるようにした。さらに、回収モジュールAの手前に三方バルブを設置し、洗浄液および溶出用緩衝液を送液するためのシリンジを取り付けられるようにした。また、回収モジュールBの出口側のシリコンチューブに三方バルブを接続し、それを切り替えることで回収容器に溶液を回収できるようにした。分画部Aに緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスGと表記)。分画デバイスGの概略図を図7に示す。
【0062】
実施例8
実施例6と同様にして、分画モジュールA1、A2、および分画モジュールBを接続することにより、分画部Aを作製した。一方、逆相樹脂であるOASIS(登録商標) HLB(ウォーターズ)を充填したカラム(以下、回収モジュールDと表記)と回収モジュールAを、三方バルブおよび注入口を設けたシリコンチューブで接続した。分画部Aの濾液出口と回収モジュールDの入口を三方コックを設けたシリコンチューブで接続した。一方、回収モジュールAの出口に、三方コックを設置したシリコンチューブを接続し、その先端をリザーバーCに向けた。また、三方コックを設置したシリコンチューブを用いて、各回収モジュールの循環回路を作製した。なお、各循環回路には、定量送液ポンプ(東京理化器械製)を設置した。分画部Aに緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスHと表記)。分画デバイスHの概略図を図8に示す。
【0063】
実施例9
分画モジュールA1、分画モジュールA2、分画モジュールBおよび分画分子量が3000の中空糸膜40本を充填した分画モジュールCを1本作製した。各モジュールについて、外径4mm、内径2mmのシリコンチューブを用いて、中空糸膜内側を液が通過する循環回路をそれぞれ作製した。さらに、血液透析用回路(東レ製)のポートを切り出して分画部の入口に設置し、サンプルおよび緩衝液の注入口を設けた。分画モジュールA1の中空糸膜外側の出口と分画モジュールA2の中空糸膜内側の入口、分画モジュールA2の中空糸膜外側の出口と分画モジュールBの中空糸膜内側の入口、分画モジュールBの中空糸膜外側の出口と分画モジュールCの入口、および分画モジュールCの中空糸膜外側の出口とサンプル注入口の回路に設けたコックをそれぞれシリコンチューブで接続した。また、分画モジュールCの回路に設けた三方コックにシリコンチューブを接続し、その先端をリザーバーCに向けた。このようにして、分画部Cを作製した。回収モジュールAと回収モジュールBをシリコンチューブで直列に接続し、さらにリザーバーCと回収モジュールAの入口をシリコンチューブで接続した。リザーバーCと回収モジュールAの間には、定量送液ポンプ(東京理化器械製)を設置した。また、回収モジュールBの出口にシリコンチューブを接続し、その先端部をリザーバーCに向けた。また、シリコンチューブでリザーバーC内の液体を回収モジュールに循環させるための回路を設け、濃縮循環回路を形成した。このとき、回路の途中に定量送液ポンプを設置し、一端をリザーバーC内に、もう一端を回路に設置した三方バルブに接続した。分画部Cの回路に緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスIと表記)。分画デバイスIの概略図を図9に示す。
【0064】
実施例10
実施例9と同様にして、分画モジュールA1、分画モジュールA2、分画モジュールBおよび分画モジュールCを接続することにより、分画部Cを作製した。回収モジュールAと回収モジュールBをシリコンチューブで直列に接続し、さらにリザーバーCと回収モジュールAの入口をシリコンチューブで接続した。また、回収モジュールBの出口にシリコンチューブを接続し、濾液をリザーバーCに回収できるようにした。さらに、回収モジュールAの手前に三方バルブを設置し、洗浄液および溶出用緩衝液を送液するためのシリンジを取り付けられるようにした。また、回収モジュールBの出口側のシリコンチューブに三方バルブを接続し、それを切り替えることで回収容器に溶液を回収できるようにした。分画部Cに緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスJと表記)。分画デバイスJの概略図を図10に示す。
【0065】
実施例11
実施例9と同様にして、分画モジュールA1、分画モジュールA2、分画モジュールBおよび分画モジュールCを接続することにより、分画部Cを作製した。回収モジュールDと回収モジュールAを、三方バルブおよび注入口を設けたシリコンチューブで接続した。また、リザーバーCと回収モジュールDの入口を三方コックを設けたシリコンチューブで接続した。一方、回収モジュールDおよび回収モジュールAそれぞれの下流に設置した三方コックにシリコンチューブを接続し、それぞれ濃縮液を回収できるようにした。分画部Cに緩衝液Aを充填し、タンパク質分画デバイスを作製した(以下、分画デバイスKと表記)。分画デバイスKの概略図を図11に示す。
【0066】
実施例12
ヒト市販血清(シグマ製、Cat.H1388)1mLを遠心して不溶物を沈殿させ、ポアサイズが0.22μmのMILLEX−GLフィルター(ミリポア製)を用いて上清を濾過し、緩衝液Aで4倍希釈した(以下、希釈血清と表記)。4.5mLの希釈血清を5mLのシリンジ(テルモ製)にとり、その先端部にシリコンチューブを取り付けて、マイクロシリンジポンプ(KD Scientific製)にセットした。また、25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)を50mLのシリンジ(ニプロ製)にとり、希釈血清を針の先まで充填し、気泡が混入していないことを確認した後、針先をタンパク質分画デバイスAの回路に設けた注入口に刺して接続した。送液ポンプAを作動させて循環回路内に充填した緩衝液Aを5mL/minで循環させ、次いでシリンジポンプを作動させて希釈血清を0.2mL/minで押し出すと同時に、送液ポンプBを作動させて分画モジュールの濾液を0.2mL/minで回収モジュールAへと送液し、さらに循環回路内へと送った。2時間後、すべてのポンプを止め、回収モジュールに緩衝液Aを通過させて洗浄した後、100mMの塩化ナトリウムを含む50mMギ酸アンモニウム緩衝液(pH3.5)を0.5mL流し、回収モジュールに吸着したタンパク質を溶出させた。酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるヒト血清アルブミン(HSA:分子量67,000)および回収対象タンパク質に含まれるβ2ミクログロブリン(β2MG:分子量11,500)、IL−6(分子量21,000)、IL−8(分子量6,500)の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.08%であったのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率はそれぞれ35%、43%、51%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0067】
実施例13
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスBの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.05%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は40%、44%、54%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0068】
実施例14
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスCの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.05%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は36%、41%、49%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0069】
実施例15
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスDの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.06%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は38%、43%、48%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0070】
実施例16
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスEの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.09%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は32%、34%、36%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0071】
実施例17
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスEの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.03%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は33%、39%、46%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0072】
実施例18
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスFの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.03%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は33%、38%、42%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0073】
実施例19
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスGの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.06%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は32%、37%、45%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0074】
実施例20
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスHの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.06%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は31%、36%、40%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0075】
実施例21
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスIの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.06%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は30%、34%、38%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0076】
実施例22
実施例12と同様にして、希釈血清Aを入れたシリンジをシリンジポンプにセットし、タンパク質分画デバイスJの回路と接続して、分画処理を行った。実施例12と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が0.06%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は31%、33%、38%であった。したがって、回収対象タンパク質を選択的かつ高回収率で得ることができた。
【0077】
比較例1
上記の分画モジュールおよび外径4mm、内径2mmのシリコンチューブを用いて、循環回路を作製した。循環回路の途中に定量送液ポンプを設置し、それを作動させることにより回路内の液体を循環させることを可能とした。また、血液透析用回路のポートを切り出して循環回路内に設置し、サンプルの注入口を設けた。分画モジュールの濾液出口に、濾液すなわち分画液を回収するための容器を設置した。回路内に25mMの炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)(以下緩衝液A)を充填した。作製した回路により、循環流速5mL/min、押出流速0.2mL/minで2時間、室温で希釈血清Aを処理した。このとき、濾液として回収された分画液は約24mLであった。分画分子量3,000の平膜が装填された遠心濾過ユニットであるビバスピン20(ザルトリウス製)2本に分画液を2等分して入れて遠心処理を行い、分画液を約0.5mLとした。実施例6と同様にして酵素免疫測定法(ELISA)でこの溶液中の除去対象タンパク質に含まれるHSAおよび回収対象タンパク質に含まれるβ2MG、IL−6、IL−8の各濃度を測定して含有量を求め、処理前の含有量と比較することで回収率を算定した。その結果、HSAの回収率が3.5%であるのに対し、β2MG、IL−6、IL−8の回収率は10%、15%、5%であった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図2】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図3】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図4】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図5】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図6】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図7】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図8】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図9】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図10】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図11】本発明におけるタンパク質分画デバイスの一態様を示した概念図を表す。
【図12】本発明における回収モジュールの一態様を示した断面図を表す。
【図13】本発明における回収モジュールの一態様を示した断面図を表す。
【符号の説明】
【0079】
101a 試料入りシリンジ
101b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
101c 洗浄液または溶出用緩衝液入りシリンジ
102a、102b、102c、102d 三方バルブ
103 サンプル注入口
104 分画循環流路
105a、105b、105c 送液ポンプ
106 分画モジュール
107 回収モジュール
108 回収モジュール
109 リザーバー
110 回収容器
201a 試料入りシリンジ
201b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
201c 洗浄液または溶出用緩衝液入りシリンジ
202a、202b、202c、202d 三方バルブ
203 サンプル注入口
204 分画循環流路
205a、205b 送液ポンプ
206 分画モジュール
207 回収モジュール
208 回収モジュール
209 回収容器
301a 試料入りシリンジ
301b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
301c 洗浄液または溶出用緩衝液入りシリンジ
302a、302b、302c 三方バルブ
303 サンプル注入口
304 分画循環流路
305a、305b 送液ポンプ
306 分画モジュール
307 回収モジュール
308 回収モジュール
309 リザーバー
310 回収容器
401a 試料入りシリンジ
401b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
401c 洗浄液または溶出用緩衝液入りシリンジ
402a、402b、402c、402d 三方バルブ
403 サンプル注入口
404 分画循環流路
405a、405b 送液ポンプ
406 分画モジュール
407 回収モジュール
408 回収モジュール
409 回収容器
501a 試料入りシリンジ
501b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
501c 洗浄液または溶出用緩衝液入りシリンジ
502a、502b、502c、502d 三方バルブ
503 サンプル注入口
504 分画循環流路
505a、505b、505c 送液ポンプ
506 分画モジュール
507 回収モジュール
508 リザーバー
509 回収容器
601a 試料入りシリンジ
601b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
601c 洗浄液または溶出用緩衝液注入用シリンジ
602a、602b、602c、602d 三方バルブ
603a、603b、603c サンプル注入口
604a、604b、604c、604d、604e 送液ポンプ
605a、605b、605c 分画モジュール
606 回収モジュール
607 回収モジュール
608 リザーバー
609 回収容器
701a 試料入りシリンジ
701b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
701c 洗浄液または溶出用緩衝液注入用シリンジ
702a、702b、702c 三方バルブ
703a、703b、703c サンプル注入口
704a、704b、704c、704d 送液ポンプ
705a、705b、705c 分画モジュール
706 回収モジュール
707 回収モジュール
708 リザーバー
709 回収容器
801a 試料入りシリンジ
801b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
801c 洗浄液または溶出用緩衝液入りシリンジ
802a、802b、802c、802d、802e、802f、802h 三方コック
803a、803b、803c サンプル注入口
804a、804b、804c、804d、804e 送液ポンプ
805a、805b、805c 分画モジュール
806 回収モジュール
807 回収モジュール
808a、808b 廃液容器
809a、809b 回収容器
901a 試料入りシリンジ
901b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
901c 洗浄液または溶出用緩衝液注入用シリンジ
902a、902b、902c、902d 三方コック
903a、903b、903c、903d、905e サンプル注入口
904a、904b、904c、904d、904e、904f 送液ポンプ
905a、905b、905c、905d 分画モジュール
906 回収モジュール
907 回収モジュール
908 リザーバー
909 回収容器
1001a 試料入りシリンジ
1001b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
1001c 洗浄液または溶出用緩衝液注入用シリンジ
1002a、1002b、1002c 三方コック
1003a、1003b、1003c、1003d、1003e サンプル注入口
1004a、1004b、1004c、1004d、1004e 送液ポンプ
1005a、1005b、1005c、1005d 分画モジュール
1006 回収モジュール
1007 回収モジュール
1008 リザーバー
1009 回収容器
1101a 試料入りシリンジ
1101b 25mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.0)入りシリンジ
1101c 洗浄液または溶出用緩衝液注入用シリンジ
1102a、1102b、1102c、1102d、1102e、1102f、1102g、1102h、1102i 三方コック
1103a、1103b、1103c、1103d、1103e サンプル注入口
1104a、1104b、1104c、1104d、1104e、1104f 送液ポンプ
1105a、1105b、1105c、1105d 分画モジュール
1106 回収モジュール
1107 回収モジュール
1108 リザーバー
1109a、1109b 廃液容器
1110a、1110b 回収容器1201 充填ビーズ
1202 フィルター
1301 PEEKチューブ
1302 ねじ式コネクタ
1303 上板
1304 下板
1305 充填ビーズ
1306 フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜が充填された分画モジュールにより処理された溶液中のタンパク質を回収するための回収モジュールを具備するタンパク質分画デバイスであって、該回収モジュールが溶液中のタンパク質を吸着させる機能を有することを特徴とするタンパク質分画デバイス。
【請求項2】
分画モジュールにより処理されたタンパク質を含む溶液を回収モジュールに循環させて処理することを特徴とする請求項1に記載のタンパク質分画デバイス。
【請求項3】
分画モジュールと回収モジュールがオンラインで連結されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のタンパク質分画デバイス。
【請求項4】
回収モジュールを複数具備してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質分画デバイス。
【請求項5】
回収モジュールを複数具備し、それぞれが異なる吸着材を充填されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質分画デバイス。
【請求項6】
回収モジュールがイオン交換樹脂、逆相樹脂のうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク質分画デバイス。
【請求項7】
回収モジュールが陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質分画デバイス。
【請求項8】
モジュールおよび回路内に充填された液体をポンプにより送液することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク質分画デバイス。
【請求項9】
請求項1〜8に記載のタンパク質分画デバイスを用いてタンパク質を含む溶液を分画・回収することを特徴とするタンパク質の分画方法。
【請求項10】
タンパク質を含む溶液がタンパク質を含む体液であることを特徴とする請求項9に記載のタンパク質の分画方法。
【請求項11】
タンパク質を含む溶液を分子量の大きさの違いで分画・回収することを特徴とする請求項9または10に記載のタンパク質の分画方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2006−276009(P2006−276009A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55041(P2006−55041)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】