説明

タンパク質分離カラム

本発明は、タンパク質溶液を伴う分離プロセスを実行するためのカラムに関する。このカラムの少なくとも内部表面は、フルオロポリマーから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を汚染することのない、タンパク質溶液からのタンパク質のような溶解した成分の分離に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質が、治療薬、すなわち薬剤であるバイオテクノロジー産業において、バイオプロセス操作によってこれらのタンパク質が得られるが、タンパク質は、水性媒体中で、例えば、しばしば治療タンパク質が1g/リットル以下、時には治療タンパク質が1ppm程度の少なさの、非常に希釈された溶液として得られる。しばしば、治療タンパク質と一緒に産生された他のタンパク質も、溶解した成分として溶液中に存在する。次いで、溶液の溶媒から(または、単に溶液から)、そして溶液中に存在し得るいずれもの不要タンパク質から、治療タンパク質を分離するために溶液を処理する。治療タンパク質、または存在する場合は不要タンパク質のいずれかを吸着する吸着性マトリックス材料を接触させ、それぞれ、治療タンパク質を溶液から分離し、それによって濃縮された形態の治療タンパク質を得るか、または溶液から不要タンパク質を除去し、それによって溶液中に残存する治療タンパク質を精製するかのいずれかによって、典型的に分離を実行する。
【0003】
典型的に、マトリックス材料は、基材上に存在するプロテインAまたはプロテインGのような結合タンパク質を含む。結合タンパク質は、溶液中に存在する標的タンパク質または他の標的の溶解した成分を基材に結合し、そして基材は、基材を通してのタンパク質溶液の流動を可能にし、この流動は、蛇行性経路または微細経路あるいはその両方中であるため、標的タンパク質または他の標的の溶解した成分は、基材上に存在する結合タンパク質と密接に接触し、それによって、溶液が基材を通過する間に、基材内に細孔を含むその表面上に吸着される。結合タンパク質および基材の組み合わせは、典型的に、親和性マトリックスと呼ばれる。親和性マトリックスの基材は、様々な異なる形態であり得、例えば、分離カラムのような容器中のパッキング、または分離が実行される容器の内部を架橋する多孔性膜のような形態であり得る。パッキングは、多孔性ポリマー材料のビーズまたはゲル、あるいはモノリス、すなわち押出された長さのような粒子材料のような形態であり得る。基材は、タンパク質溶液中でのスラリー化のための正磁性材料を含み得る。吸着性マトリックス材料の他の吸着機構としては、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーおよび多孔性膜を使用する濾過が挙げられる。吸着後、次いでマトリックス材料に吸着された標的タンパク質または他の標的の溶解した成分をマトリックス材料から溶出し、すなわち、親和性マトリックスと、マトリックス材料から吸着物質(タンパク質または他の溶解した成分)を除去する溶出液とを接触させることによって溶出する。
【0004】
タンパク質溶液の処理を実行する容器は、吸着法、および溶液から除去される特定の溶解した成分次第で、1つまたは複数の腐食性液体環境に曝される。例えば、吸着の有効性を増加させるために、吸着マトリックス材料を低pHの濃縮塩溶液と接触させる。この塩溶液は、通常、タンパク質溶液に、または容器へのタンパク質溶液の供給と同時に容器に添加される。吸着マトリックス材料からの吸着成分、例えば、標的タンパク質の溶出を、高pHの濃縮塩溶液によって実行してもよい。吸着を促進するために濃縮塩溶液が使用されない場合、しばしば、溶出を引き起こすためにそれを使用する。もう1つの腐食性液体環境である強苛性溶液を使用して洗浄することによって、これらの腐食性液体環境に暴露される表面である容器の内部表面を定期的に清浄する。しかしながら、溶液が汚染されず、それによって治療タンパク質が汚染されないように、処理が実行される内部表面容器が液体環境によって腐食されないことが重大である。
【0005】
バイオプロセス産業では、容器の構造材料として耐腐食性の金属合金を使用し、そしてその内部表面を形成することによって、この重大性に対処してきた。(非特許文献1)は、ステンレス鋼が、非腐食性および非汚染性であり、加熱および殺菌処理に耐え、そして容易に溶接されて、それによってバイオプロセスの厳密な要求条件を満たすことを開示している。ステンレス鋼が非腐食性および非汚染性であることを考慮しても、バイオテクノロジー産業は、それにもかかわらず腐食に遭遇し、より耐腐食性の材料の使用へと移行することによってこれに対処してきた。最大0.03重量%のCを有するステンレス鋼316Lが最も広範囲に使用されている。金属合金研磨表面上で、または金属合金溶接部において、または分離工程の液体環境において腐食が検出された場合、316Lよりも高い耐腐食性を有するAL6XN、低炭素、高純度スーパーオーステナイト系ステンレス鋼(21重量%のCr、24重量%のNi、6.5重量%のMo、0.21重量%のNi、0.03重量%以下のC、総計100重量%までの残りはFeである)にステンレス鋼を変更する。AL6XNの耐腐食性が不十分である場合、インコネル(Inconel)(登録商標)625(I625)を使用する(Ni 61重量%、Cr 21.5重量%、Mo 9重量%、Fe 2.5重量%、Cb+Ta 3.7重量%、および少量の他の元素)。なおさらに高い耐腐食性が必要である場合、ハステロイ(Hastelloy)(登録商標)C276を使用する(Ni 57重量%、Cr 15.5重量%、Mo 16重量%、Fe 5.5重量%、W 3.75重量%、Co 最大1.25重量%、Mn 最大0.5重量%)。分離または清浄の有効性を改善するために液体環境の温度および/またはpHを変更した場合、腐食の問題は悪化し得る。
【0006】
より耐腐食性の金属合金を使用することによってステンレス鋼の腐食性の態様が対処されているが、タンパク質溶液の汚染の態様は、より耐腐食性の金属合金が使用される場合でさえ一般的に検討されていない。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,541,588B1号明細書
【特許文献2】米国特許第6,541,588号明細書
【特許文献3】米国特許第5,703,185号明細書
【特許文献4】米国特許第4,723,658号明細書
【特許文献5】米国特許第5,045,605号明細書
【特許文献6】米国特許第3,624,250号明細書
【非特許文献1】M.ゴンザレス(M.Gonzales),「ステンレス スチール チュービング イン ザ バイオテクノロジー インダストリー(Stainless Steel Tubing in the Biotechnology Industry)」 バイオテクノロジー/ファーマシューティカル ファシリティーズ デザイン(Biotechnology/Pharmaceutical facilities design),2001年4月30日
【非特許文献2】J.シャイアス(J.Scheirs)編、ジョン ウィリー アンド サンズ(John Wiley & Sons)出版のモダン フルオロポリマーズ,ハイ パフォーマンス ポリマーズ フォー ダイバース アプリケーションズ(Modern Fluoropolymers,High Performance Polymers for Diverse Applications)(1998)、第311〜326頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に遭遇し得る条件下、すなわち、容器が製造される金属を含有する腐食生成物によって金属合金容器がタンパク質溶液を汚染する条件下での分離プロセスの液体環境に対する不活性に関して、最良の耐腐食性金属合金さえも不十分であることが見出されている。金属汚染は容認できない事態であり、すなわち、金属汚染が絶対的に低くても、その存在は治療タンパク質に対して有害な影響を及ぼし得る。吸着され、従って吸着性マトリックス材料上で濃縮された治療タンパク質の場合、液体環境中の金属汚染の存在は、非常に貴重なタンパク質の収量損失から、タンパク質の治療価値の完全な損傷まで、または消費が望ましくないタンパク質にさせるまでの範囲で悪影響を有する。使用される様々な耐腐食性金属合金の研磨表面に関して、この欠陥が存在することが見出されている。容器を製造するために使用され、容器の内部に必然的に暴露される、すなわち内部表面の一部を形成する溶接部から生じる金属汚染に関して、より多くの関心が集まっている。溶接部は、研磨表面よりも、液体環境による腐食の攻撃に感応性である。なぜならば、溶接部の組成およびミクロ構造は、ベース金属のものとは異なり得るからである。加えて、溶接部は、残留応力、物理的欠陥および変更された機械的特性の結果としての亀裂に感応性であり得る。変更された機械的特性および組成上の差異の組み合わせが、環境によって誘導された亀裂に対するより高い感応性を生じ得る。
【0009】
本発明は、タンパク質溶液が処理される容器の内部表面がフルオロポリマーを含む場合、液体環境に対するより優れた耐腐食性が生じることを見出した。フルオロポリマーは金属反応器中で製造され、そして350℃を超える温度で金属装置中でペレットを形成するように溶融加工されて、フルオロポリマー自体が金属汚染物質を含有し得る事実にもかかわらず、フルオロポリマーは、タンパク質またはタンパク質含有溶液を誘引せず、そしてCr、Ni、Fe、MnまたはMoのような最も一般的な金属による液体環境のより少ない汚染をもたらすか、または汚染を生じない。米国特許公報(特許文献1)は、合計300ppmより多いFe、NiおよびCr金属を含有するフルオロポリマー溶融ペレットを開示する(表1)。溶融ペレットは、様々な用途のための、そして本発明で使用される容器の内部表面のための物品の溶融製造に関する通常の出発材料である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、タンパク質溶液から溶解した成分を分離するための装置として本発明の容器を記載することができ、これは、フルオロポリマーを含む内部表面を有するカラムと、前記溶液から前記溶解した成分を分離するための、前記カラム中に配置された吸着性マトリックス材料とを備える。
【0011】
金属汚染を決定するための試験は、実施例に開示されている。前記された様々な耐腐食性合金材料から生じる金属汚染レベルは、約1900ng/cm〜10,000ng/cm以上の範囲であることがわかっている。本発明の装置を使用した場合、試験で使用された液体環境中にこれらの汚染金属は検出されない。この時の検出限度は32ng/cmである(上記金属汚染物質の全総量)。従って、フルオロポリマーから生じる溶液の金属汚染が関係する限りでは、溶液は本質的に金属汚染を含まない。
【0012】
フルオロポリマー容器の内部表面が液体分離環境を汚染しないという利点の他にも、構造体のフルオロポリマー材料は、溶接材料、すなわち組成の異なる材料を使用せずに溶接可能であるという追加的な利点を有する。フルオロポリマーの表面を一緒にして互いに結合させるために十分に加熱して圧力を適用した時に、フルオロポリマーはそれ自体に固着して溶接する。従って、溶接部は、処理容器の内部表面を形成するフルオロポリマーの表面と同程度に非汚染性である。
【0013】
フルオロポリマー容器の内部表面のもう1つの利点は、タンパク質は金属表面に固着することが知られているため、タンパク質が、金属合金表面よりもフルオロポリマー表面には固着しないと思われることである。フルオロポリマー内部表面によって構成された容器では、タンパク質の収量がより多いであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の装置は、タンパク質溶液から、タンパク質溶液中に含有される溶解した成分を分離するために、上記されるような既知の分離技術を使用する。従って、本発明の一実施形態に従って、分離は、タンパク質溶液を吸着性マトリックス材料と接触させて前記溶液から前記タンパク質を吸着させる工程を含み、それによって溶液からタンパク質を分離する。上記されるような既知の手段によって、例えば、親和性マトリックスを形成する少なくとも1つの吸着剤を含むか、または化学的相互作用もしくはサイズ排除のいずれかによってマトリックス材料自体が吸着機能を提供する吸着性マトリックス材料によって、吸着が得られる。プロテインAおよびプロテインGは、親和性マトリックスで使用される最も一般的な結合タンパク質である。所望の特定のタンパク質を誘引する有効性に従って吸着剤を選択する。「タンパク質(プロテイン)」は、本明細書で使用される場合、広範囲の意味で使用され、しばしば単純にタンパク質と呼ばれる、ペプチド、ポリペプチド、長鎖ポリペプチド、例えば少なくとも20のアミノ酸単位を含有するもの、ならびに糖タンパク質およびリンタンパク質のような異種タンパク質が挙げられる。通常、標的タンパク質は治療タンパク質であり、吸着性マトリックス材料上に吸着される。しかしながら、標的タンパク質は、ウィルスを構成するもう1つのタンパク質のようなタンパク質溶液の不要な溶解した成分であり得る。これは、吸着性マトリックス材料によって治療タンパク質から分離可能である。この場合、治療タンパク質を溶液中に残存させたまま、従って、不要タンパク質を存在させなくするか、またはより低濃度のウィルスが残存する。次いで、治療タンパク質を標的とする吸着剤を使用して、本発明のプロセスを繰返すことによって残りの溶液から治療タンパク質を分離することができる。
【0015】
既知の形態の吸着性マトリックス材料を使用することができ、例えば、ビーズ、ゲル、モノリスおよび多孔性膜であり、全て、溶液が吸着性マトリックス材料を通過する時に治療タンパク質のような溶解標的タンパク質との密接な接触を達成する。吸着とは、標的の溶解した成分が誘引され、内部に捕獲されるか、またはマトリックス材料の表面上もしくは付近で排除されるかのいずれかを意味し、ここでは表面とはマトリックス材料の外側表面または内部表面、例えば、亀裂および裂け目の表面、およびマトリックス材料内の細孔の表面、ならびに連続気泡モノリスの気泡壁であっても、あるいは単に多孔性膜の細孔であってもよい。クロマトグラフィー分離においてビーズおよびゲルが典型的に使用され、そして分離の濾過型に多孔性膜がよりしばしば使用される。多数の多孔性膜を使用することができる。クロマトグラフィー分離のゲルパッキングは、標的タンパク質をゲルマトリックス材料上に吸着させる方法としてサイズ排除を使用する。カラムの形態のような容器中にモノリスが挿入された時に、連続気泡または細孔を介してタンパク質溶液がモノリスを流通して、モノリスの細孔中に吸着した標的タンパク質が残存するように、開放した細孔を有する連続気泡構造の発泡プラスチック材料の押出多孔性プラグの形態でモノリスパッキングは利用可能である。
【0016】
吸着工程を実行後、前記マトリックス材料から除去するために前記マトリックス材料上に吸着された標的の溶解した成分、例えばタンパク質の前記溶出によって分離を続けることができる。分離工程は、分離が実行される容器の内部において腐食性液体環境を生じる腐食性の液体の使用を含み得る。使用される特定の液体は、実行される分離次第である。例えば、低pHの濃縮塩溶液との吸着性マトリックス材料の接触によって吸着を補助することが可能である。マトリックス材料によって保持された標的の溶解した成分の溶出は、濃縮塩溶液であってもよいが高pHの溶出液とのマトリックス材料の接触によって得ることが可能である。あるいは、分離は、結合を補助する高pH塩溶液の使用、それに続く溶出のための低pH塩溶液の使用を伴ってもよい。結合工程と溶出工程との間の差異は、塩濃度の変化のみを伴い得る。結合タンパク質による、すなわち親和性マトリックスを使用する吸着が実行される実施形態において、溶出液は吸着されたタンパク質と接触し、そしてそれをマトリックス材料から除去する。次いで、定期的に、濃苛性溶液を使用して洗浄することによって容器を清浄する。室温(20℃)でこれらの工程を実行することができるが、生産性を高めるためにはより高い温度が好ましい。系の分離の有効性および純度を維持するために、容器の内部表面と一緒に吸着性マトリックス材料を清浄してもよく、そして所望により処分してもよい。次いで、さらなる分離プロセスを達成するために、新しい吸着性マトリックス材料を容器内に配置することができる。
【0017】
本発明に従って、内部で分離が実行される容器の表面はフルオロポリマーを含む。容器の大きさ次第で容器全体をフルオロポリマーで製造することができるが、商業的な大きさの容器に関して、容器は典型的に、フルオロポリマーでライニングされた金属容器である。容器、カラム、パイプ、バルブ、熱交換器、ホース等のフルオロポリマーライニングは、(非特許文献2)に開示されている。この文献に開示される通り、ライニングを得るために様々な方法を利用可能であり、限定されないが、接着結合された布バッキングを有するフルオロポリマーのシート、接着結合されエッチングされたフルオロポリマーのシート、一緒に溶接されたフルオロポリマーシートのルーズライニング、粉末、ビーズまたは樹脂の形態のフルオロポリマーを使用するロトライニング、フルオロポリマーのスプレーおよび焼成粉末コーティング、ならびに液体フルオロポリマーコーティング系が挙げられる。典型的に、ライニングの厚さの穿刺が生じずにパッキングの形態での吸着性マトリックス材料の装填および取出しに耐性を有するように、ライニングの厚さは約0.25mm〜5.1mmであるが、好ましくは、厚さは少なくとも約2mmである。フルオロポリマーライニングは耐腐食性に関して既知であるが、タンパク質分離プロセスおよびタンパク質自体の化学的性質を含む独特な性質は極めて価値が高く、そして非常に希薄な溶液においてのみ入手可能であることから、バイオプロセス産業では、金属内部表面を含む金属容器に焦点が置かれ続けてきた。また、フルオロポリマーは、金属装置中で製造され、そして300℃を超える極めて高い温度で加工(溶融製造)されるため、金属汚染物質を含有することも知られている。米国特許公報(特許文献2)は、ペレットを形成するための溶融押出の前にフルオロポリマーをフッ素処理することによって、300ppmより高い溶融加工においてフルオロポリマーの金属汚染の低下が生じることを開示するが、この工程は本発明の実施において不必要である。
【0018】
分離が実行される容器をカラムと呼ぶこともできる。すなわち、一般的に円筒形状を有し、そして円筒形状の直径未満から直径以上までの範囲の長さを有する。従って、カラムはタンクの外観を有し得る。円筒形状は垂直となるように一般的に配置され、そして円筒形状は円形または異なる環状の形状であり得る。カラムへのタンパク質溶液のインプットおよびアウトプットは、バッチ、またはカラムの連続操作と一致し得る。連続操作において、カラムのトップで溶液インプットがあり、そしてボトムからアウトプットがあり得る(すなわち、ダウンフローモード)。あるいは、操作はアップフロー式であり得、ここでは溶液インプットがカラムのボトムであり、吸着性マトリックス材料中を通して上方に流動し、そしてカラムのトップでカラムを流出する。連続クロマトグラフィー法は当業者に周知であり、これは移動床を含み、移動床技術をシミュレートする。従って、インレット開口およびアウトレット開口は、カラムのトップおよびボトムクロージャーに配置される。バッチ操作カラムの一形態は遠心チューブであり、ここでは、トップエンドがタンパク質溶液のためのインレット開口を有し、そしてカラムボトムが閉鎖されており、カラムボトムでの溶液の収集が可能である。全ての場合において、吸着性マトリックス材料はカラム内に配置されて、溶液がカラムの長さを横切って、溶液からの標的の溶解した成分の所望の吸着分離が実行される時に、吸着性マトリックス材料は溶液と密接に接触し、そして/または溶液を捕捉する。遠心チューブにおいて使用されるマトリックス材料は、サイズ排除によって典型的に操作される多孔性膜であり得るが、場合により結合タンパク質もしくは他の相互作用種を含むことによって、または膜を製作することによって補助され得る。遠心力の適用によって、溶液が膜を通過し、そして膜上に標的の溶解した成分を残す。連続操作に使用されるより大きいカラムは、カラムの内部表面を形成するフルオロポリマーのシェルおよびライニングを含むが、本発明の遠心チューブの実施形態は典型的に完全にフルオロポリマーのものである。フルオロポリマーライニングは所望の金属汚染からの解放を提供するが、シェルはカラムのために必要な機械強度を提供する。好ましくはシェルは金属製であるが、シェルはタンパク質分離システムともはや接触しないため、高価な耐腐食性材料を必要とせず、必要な機械強度を提供するいずれかの材料で製造可能である。シェルが存在する本発明の実施形態の場合、内部表面を形成するライニングを上記の通りに達成することができる。
【0019】
本発明において使用されるフルオロポリマーは、好ましくは、限定されないが、製造の容易さ、およびライニングを完成するために溶接を必要とする製造プロセスにおける溶接の容易さのため、溶融流動可能なフルオロポリマーである。またフルオロポリマーは、好ましくは部分的に結晶性であり、すなわち、それらは融点を有する。融点は、好ましくは、少なくとも約225℃、より好ましくは、少なくとも約250℃、そして最も好ましくは250℃〜315℃であり、そして343℃程度の高さであってもよい。好ましいフルオロポリマーの一群は、過フッ素化ポリマー、すなわち、テトラフルオロエチレン(TFE)のホモポリマー、およびテトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化モノマーとのコポリマーである。このコポリマーは、1つまたは複数のかかる過フッ素化コモノマーを含み得る。過フッ素化モノマーの例としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、およびアルキル基が1個〜5個の炭素原子を含有するペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)のような3個〜8個の炭素原子を含有するペルフルオロオレフィンが挙げられる。かかるビニルエーテルの例としては、ペルフルオロ(メチル、エチルおよびプロピルビニルエーテル)が挙げられる。TFEおよびPAVEのコポリマーは、MFAコポリマーを含むPFAコポリマーとして市販品として入手可能であり、これは、TFEと、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)および少なくとも1つの追加のビニルエーテル、例えばペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)とのコポリマーであり、そしてかかるコポリマーは、1重量%〜10重量%のPAVE共重合モノマーを典型的に含有する。PFAコポリマーは、典型的に300℃〜310℃の範囲の融点、および1g/10分〜50g/10分の溶融流量(MFR)を有し、これらは両方ともASTM D 3307−93に従って決定される。TFEおよびHFPのコポリマーは、FEPコポリマーとして市販品として入手可能である。典型的に、コポリマーのHFP含量は、約2.0〜5.3のヘキサフルオロプロピレンインデックス(HFPI)によって特徴づけられる。HFPIは、コポリマーのフィルム上で測定された2つの赤外線吸光度の比率であり、米国特許公報(特許文献3)の連結段落第3欄および第4欄に開示される通り、3.2を掛けることによってこれをHFPの重量%へと変換することができる。好ましくは、TFE/HFPコポリマーは、少なくとも約2000サイクル、好ましくは少なくとも約4000サイクルであるMITフレックスライフを示すようにコポリマーに有効な量でPAVEのような少なくとも1つの追加の共重合モノマーを含有する。MITフレックスライフの測定については、米国特許公報(特許文献3)に開示されている。一般的に、かかる追加モノマーの量は、コポリマーの総重量を基準として約0.2重量%〜3重量%である。1つの好ましいPAVEはペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)であり、そして最も好ましいPAVEはペルフルオロ(エチルビニルエーテル)である。FEPコポリマーは、典型的に、1g/10分〜50g/10分の溶融流量(MFR)および250℃〜280℃の融点を示し、両方ともASTM D2116−91aに従って決定される。
【0020】
また本発明に従って、非晶質フルオロポリマーを使用してもよい。非晶質ポリマーは、結晶融点を有さないが、ガラス転移温度(Tg)によって特徴づけられる。本発明に使用するためのかかるフルオロポリマーは非エラストマー性であり、そして0℃より高いTgを有する。本発明に従って使用される非晶質ポリマーのTgは、本発明のプロセス工程でポリマーが暴露される温度と少なくともほぼ同一でなければならない。テフロン(Teflon)(登録商標)AFは、160℃および240℃のTgを有する市販品として入手可能な非晶質ペルフルオロポリマー(本願特許出願人)である。非晶質フルオロポリマーの利点は、溶液からのコーティングとしてそれらを適用可能であるということである。使用工程におけるこれらのコーティングへの損傷は、溶液からフルオロポリマーのさらなる適用によって容易に修復される。修理の目的に関しては、非晶質フルオロポリマーのTgは、ポリマーが暴露される温度ほど高い必要はない。
【0021】
また好ましくは、ライニング用シートまたはライニング自体の溶融製造間の気泡形成を回避するために、−CFCHOH、−CONH、−COOHおよび−COF末端基のような末端基から−CF末端基を形成するために、ペルフルオロポリマーをフッ素処理する。好ましくはフッ素化後、フルオロポリマーは、10炭素原子あたり(総計で)50未満、より好ましくは20未満のかかる基を有する。結晶性フルオロポリマーのフッ素化は、米国特許公報(特許文献4)に開示される。非晶質フルオロポリマーのフッ素化は、米国特許公報(特許文献5)に開示される。好ましくは、溶融押出しによって形成されてペレット形状に切断されたフルオロポリマーのペレット上でフッ素処理を実行する。次いで、容器全体へ、または容器内部の表面を形成するまさにライニングへとペレットを溶融製造する。しかしながら、ロトライニングの場合、関係する唯一の溶融製造は、ライニングを形成するためのフルオロポリマーの溶融温度より高く加熱された容器の回転シェルに対してフルオロポリマーの粉末の溶解であり、粉末をフッ素処理することができ、押出成型ペレットは形成されない。しかしながら、大きいカラムに関しては、最初にライニングを形成するためにフッ素処理ペレットを使用し、次いで、ライニングはシェルの内部表面に対して固定される。
【0022】
上記過フッ素化熱可塑性テトラフルオロエチレンコポリマーに加えて、エチレン/テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)およびエチレン/クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)のようなフッ素化熱可塑性(溶融製造可能な)ポリマーも本発明で使用することができる。ETFEが好ましい。かかるETFEは、エチレンおよびテトラフルオロエチレンのコポリマーであり、好ましくは、応力割れ抵抗のようなコポリマーの特性を改善するために、少ない割合で1つまたは複数の追加モノマーを含有する。米国特許公報(特許文献6)は、かかるポリマーを開示している。E(エチレン)とTFE(テトラフルオロエチレン)とのモル比は、約40:60〜約60:40、好ましくは約45:55〜約55:45である。またコポリマーは、好ましくは、約0.1モル%〜約10モル%の、少なくとも2個の炭素原子を含有する側鎖を提供する少なくとも1つの共重合性ビニルモノマーを含有する。ペルフルオロアルキルエチレンはかかるビニルモノマーであり、ペルフルオロブチルエチレンが好ましいモノマーである。ポリマーは約250℃〜約270℃、好ましくは約255℃〜約270℃の融点を有する。ASTM 3159の手順に従って融点を決定する。好ましくは、本発明において使用されるETFEは、ASTM 3159の手順に従って決定される場合、1g/10分〜50g/10分の溶融流量(MFR)を有する。フッ化ビニリデンポリマーを使用することもできるが、溶液からの溶解した成分の誘引および溶媒存在下での苛性洗浄溶液による攻撃に対する感応性がより大きいため用心が必要である。本発明において使用される好ましいフルオロポリマーはペルフルオロポリマーであり、すなわち過フッ素化ポリマーである。
【実施例】
【0023】
実施例1および実施例2に示す2つの方法を使用して、金属合金およびフルオロポリマーの腐食に関する評価を実行する。使用される方法は、それぞれ、プロセス部品から金属汚染レベルを決定するため半導体産業用に本発明の一部として開発された金属抽出技術、ならびにASTM G48−00の塩化第二鉄溶液の使用による、ステンレス鋼および関連合金の耐孔食性および耐隙間腐食性(Pitting and Crevice Corrosion Resistance of Stainless Steels and Related Alloys by Use of Ferric Chloride Solution)の手順である。実施例1および実施例2に記載の両方法において使用される塩溶液は、媒体に塩酸を添加することによってpH2に調節された15重量%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液である。
【0024】
(実施例1)
本実施例において、金属の研磨表面に及ぼす塩溶液の影響を決定する。全ての試験材料に関して、隙間のない試験クーポンを提供する。各金属クーポンの大きさは、2インチ×2インチ×厚さ0.125インチ(2.54cm×2.54cm×0.3cm)である。PFA試験クーポンの大きさは、2インチ×2インチ×厚さ0.060インチ(2.54cm×2.54cm×0.16cm)である。各試験クーポンを上記試験溶液に7日間含浸させ、そして温度を40℃に維持する。7日暴露後、試験溶液中での金属汚染レベルを測定し、そしてクーポン1cmあたりのngとして報告する。高分解能誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によって、塩溶液中の金属汚染を決定する。米国、94538 カリフォルニア州、フレモント、フレモント ブルバード 44050(Fremont Blvd,Fremont,CA 94538,USA)のケムトレース(CHEMTRACE)(登録商標)カンパニー(Company)によるクリーンルーム環境で、クーポン含浸および金属分析を実行する。クーポンの懸濁前の塩溶液を分析し、溶液中にCr、Ni、Mo、MnおよびFeの金属がないことを証明する。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
PFAは、本願出願人から入手可能なテフロン(Teflon)(登録商標)PFA HP フルオロポリマーである。PFAフルオロポリマーは、テトラフルオロエチレンと、フルオロポリマーを溶融可能にさせるために十分なペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマーとして周知である。合金のコストが高くなるほど塩溶液中における汚染時に金属クーポンの金属汚染は減少するが、それにもかかわらず、合金中に存在する特定の金属の量によって汚染は変化し、200ng/cmを超える。対照的に、PFAクーポンからの金属汚染は非常に低いため、検出不可能である(b/d=検出限度未満)。
【0027】
(実施例2)
本実施例において、塩溶液中での金属腐食に及ぼす温度の影響をASTM G48 方法Dに従って決定する。一定温度で72時間、塩溶液中で試験クーポンを懸濁させ、そして隙間腐食に関して試験する。隙間腐食が観察されるまで、10℃の増加量で温度を増加させる。試験クーポンをクーポンの両側で多数の隙間ワッシャーに取り付け、そして20インチ・ポンド(2.26N・m)まで回転させる。500mlの溶液を含有する独立試験管中でクーポンを試験する。316Lに関して25℃で、そして他の合金に関して35℃で腐食試験を開始する。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
PFAフルオロポリマーは80℃で隙間腐食の兆候を示さなかったため、試験を延長して塩溶液中85℃でさらに1週間の暴露を実行したが、なお腐食は見られない。この試験はすでにPFAフルオロポリマーの優性を示すため、試験を中止する。
【0030】
(実施例3)
プロテインA−インシュリン増殖因子の溶融タンパク質を含有するバクテリア懸濁液500μlを、316Lステンレス鋼クロマトグラフィーカラム(長さ2.5cm、直径0.5cm)中に注入する。このカラムの内部表面は、テフロン(Teflon)(登録商標)AFフルオロポリマーによってコーティングされており、IgGセファローズ6 ファーストフロー(IgG Sepharose 6 Fast Flow)(ニュージャージー州、ピスカタウェイ(Piscataway,NJ)のアマシャム ファルマシア(Amersham Pharmacia))培地が充填されている。試料を注入後、約10カラム体積の水性結合緩衝液(pH7.5、0.05M トリス(Tris)−HClと0.05%のツィーン(Tween)20からなる)をカラムに添加し、続いて、5カラム体積の水性洗浄緩衝液(pH4.6、10mM酢酸アンモニウムからなる)を添加する。すすぎ後、吸着した溶融タンパク質を5カラム体積の水性溶出緩衝液(pH3.2、0.2M酢酸からなる)によって溶出する。
【0031】
テフロン(Teflon)(登録商標)AFによってコーティングされた内部表面を有する316Lステンレス鋼クロマトグラフィーカラムは、タンパク質に悪影響を及ぼす金属の腐食およびリーチングに対して高い耐性を示す。カラムから流出したいずれの溶液においても、金属汚染は検出されない。
【0032】
上記フルオロポリマーコーティングカラムは、フルオロポリマーの溶液によってステンレス鋼チューブの内部表面をコーティングし(充填および排出)、続いて乾燥および加熱して溶媒を除去し、それによってチューブのフルオロポリマーライニングを形成する。
【0033】
(実施例4)
ステンレス鋼製カラムのシェルを形成するために、ドーム形状のクロージャーによって閉鎖されたトップおよびボトムを有する直径1.5mおよび高さ1mの円筒形側壁からなるタンクからカラムを調製する。トップクロージャーは、カラムの内部中へタンパク質溶液を供給するためのインレットポートを備えており、そしてボトムクロージャーは、溶液がカラムから流出するアウトレットポートを備えており、ボトムクロージャーのドーム形状は、このポートに溶液を方向付けている。多孔性トレイはボトムクロージャーを架橋し、そして親和性マトリックス材料のビーズはこのトレイ上に保持される。ビーズは、インレットポートのちょうど下までカラムの内部に充填される。ビーズ床のトップ全体を横切ってタンパク質溶液を分配するための分配マニホールドは、インレットポートとビーズ床のトップ表面との間に位置する。分配マニホールドおよびトレイは、フルオロポリマー製である。実施例1および2で試験されたPFAフルオロポリマーによって、カラムの内部表面はライニングされる。シリンダー部分のライニングは、ガラス布に積層されたフルオロポリマーのシートによるものであり、ガラス布はシリンダーの内部表面に面してこの表面に接着される。シートは厚さ2mmである。トップおよびボトムクロージャーの内部表面は、同一厚さの熱形成されたガラスバッキングを有するシートによってライニングされ、それぞれのクロージャーに接着される。インレットおよびアウトレット開口もフルオロポリマーによってライニングされる。フルオロポリマーシートの隣接端部間の縫い目は、PFAフルオロポリマー自体によって溶接される。ボトムクロージャーのライニングと円筒形シェルとの間の交差点も突合せ溶接されるが、トップクロージャーは取外し可能であり、そして円筒形シェルのライニングとトップクロージャーとの間の隙間を満たすフルオロポリマーシールによってその場所に固定される。またクロージャーのライニングは、インレットおよびアウトレットポートのライニングにも溶接される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質溶液から溶解した成分を分離するための装置であって、フルオロポリマーを含む内部表面を有するカラムと、前記溶液から前記溶解した成分を分離するための、前記カラム中に配置された吸着性マトリックス材料とを備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記溶解した成分がウィルスであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記溶解した成分がタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記カラムが完全に前記フルオロポリマー製であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記カラムがライニングとして前記内部表面を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記カラムが開放ボトムエンドを有し、それによって、前記溶液が前記ボトムエンドを通して前記カラムを流出できることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記カラムが閉鎖ボトムエンドを有し、それによって、前記溶液が前記カラムのボトムエンドで捕集されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記吸着性マトリックス材料が、前記溶解した成分を前記マトリックス材料に結合するための親和性材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記吸着性マトリックス材料がイオン交換マトリックス材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記吸着性マトリックス材料がサイズ排除マトリックス材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記吸着性マトリックス材料が多孔性膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。

【公表番号】特表2007−505328(P2007−505328A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533044(P2006−533044)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/015063
【国際公開番号】WO2004/103518
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】