説明

タンパク質抽出のためのイオン性液体の使用

【課題】
タンパク質をさらに解析できるように、生物学的サンプルからタンパク質を抽出するのに用いる方法を提供すること。
【解決手段】
生物学的サンプルから、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するための方法であって、使用される抽出剤が一般式Kで表されるイオン性液体である前記方法により、前記課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的サンプルから、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するための方法であって、使用される抽出剤が一般式Kで表されるイオン性液体である前記方法、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するためのキット、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の検出または解析は、医学における重要性が増加している。このことは、病気の徴候または病理学的変化の兆しを解明するための組織サンプルの解析に特に当てはまる。このため、細胞の完全なプロテオーム解析が研究されている。この目的のためには、その全体に関与する全タンパク質の解析によってのみ、疾患およびその発生について結論を出すことができるため、特定のサンプルの全タンパク質を定量的に抽出することが必要不可欠である。
【0003】
イオン性液体または液体塩は、有機カチオンと一般的な無機アニオンからなるイオン種である。これらは、中性分子を含まず、通常は373Kより低い融点を有する。
潜在的な用途が多岐にわたることから、現在、イオン性液体の領域では集中的な研究が行われている。イオン性液体の総説は、例えば、非特許文献1〜5である。
【0004】
【非特許文献1】R. Sheldon "Catalytic reactions in ionic liquids", Chem. Commun., 2001, 2399-2407
【非特許文献2】M.J. Earle, K.R. Seddon "Ionic liquids. Green solvent for the future”, Pure Appl. Chem., 72 (2000), 1391-1398
【非特許文献3】P. Wasserscheid, W. Keim "Ionische Fluessigkeiten - neue Loesungen fuer die Uebergangsmetallkatalyse" [Ionic Liquids - New Solutions for Transition-Metal Catalysis], Angew. Chem., 112 (2000), 3926-3945;
【非特許文献4】T. Welton "Room temperature ionic liquids. Solvents for synthesis and catalysis”, Chem. Rev., 92 (1999), 2071-2083
【非特許文献5】R. Hagiwara, Ya. Ito "Room temperature ionic liquids of alkylimidazolium cations and fluoroanions”, J. Fluorine Chem., 105 (2000), 221-227).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、タンパク質をさらに解析できるように、生物学的サンプルからタンパク質を抽出するのに用いる方法を提供することが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって本発明は、生物学的サンプルから、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するための方法であって、使用される抽出剤が一般式Kで表されるイオン性液体である前記方法に関する。
【0007】
驚くべきことに、一般式Kで表されるイオン性液体が、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを生物学的サンプルから抽出するために好適であることを見出した。これはまた、生物学的サンプルのサンプル調製における通常の場合のように、生物学的サンプルが固定されている場合にも適用することができる。驚くべきことに、本発明による抽出方法は固定サンプルにも用いることができ、このことは本方法の潜在的な用途を大きく拡大する。このようにして、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを生物学的サンプルから抽出するための本発明の方法により、生物学的サンプルを広く扱うことができる。
【0008】
本発明による方法は、抽出される構成要素が分解されない、すなわちその化学構造が保持されている、という利点を有する。このことは、例えば、WO2004/080579において記載されている、抽出されるタンパク質が、次の解析を可能にするためのタンパク質分解工程でペプチドに分解されなければならないような、既知の方法に対して有意義な利点である。したがって、全体として、本発明による方法は、従来技術に記載されている方法を用いては達成することが不可能であった、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドの単離のための生物学的サンプルの簡単な調製を可能にする。
【0009】
本発明による方法においては、当業者に知られている全ての生物学的サンプルから、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出することができる。生物学的サンプルは、好ましくは、例えばバイオプシーおよび組織学的調製物などの組織、細胞、細胞培養物および/または、例えば血液、血漿、血清、尿、分泌液もしくは唾液などの体液である。特に、組織および細胞培養物からのタンパク質の抽出は、特定のタンパク質の検出、例えば、疾患の存在を示すタンパク質の検出、を可能にする。したがって、本発明による方法はまた、病理学的に興味深い組織サンプルに特に有利である。
【0010】
生物学的サンプルは、固定されていなくても固定されていてもよく、好ましくは固定されている。固定は、例えば、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ホルマリン代替物(formalin subsitute)、例えばエタノール、メタノールもしくはイソプロパノールなどのアルコール、または、例えばパラフィン、樹脂もしくはポリマーなどの不活性材料の使用などによる、当業者に既知の全ての方法により行うことができる。生物学的サンプルは、好ましくは、ホルマリンを使用して固定される。ホルマリンは、組織学的サンプルの調製において最も一般的な固定剤であり、その価格の安さと良好な固定作用のために広く使用され、100年以上も使われてきている。
【0011】
しかしながら、ホルマリンを使用した固定は、サンプルマトリックスとタンパク質との架橋を生じるという不都合を有する。その結果、一般的にタンパク質は不溶性になり、さらなる解析に使用することが不可能になる。しかしながら、本発明による方法においては、イオン性液体の使用により、タンパク質はその構造を保持したまま抽出することができ、そしてさらに解析することができる。このようにして、ホルマリンを使用する最も一般的な固定法は、次の解析の可能性を限定することなくその実効可能性が拡大される。したがって、ここでは、本発明による方法を使用して、ホルマリンを用いることにより極めて長い期間既に保存されているサンプルを、最新のタンパク質解析を使用して研究することができる、すなわち、解析するサンプルの可能性にタイムリミットがない。
【0012】
一般的に、例えば、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレートまたはハロゲン化物アニオンなどの、当業者に知られている一般式Kで表される全てのイオン性液体は、本発明による方法に好適である。
好適なイオン性液体の例は、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロライドおよびトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムテトラフルオロボレートである。
【0013】
イオン性液体のアニオンAは、好ましくは、イミドの群、特に一般式
[N(R
式中、Rは1〜8個のC原子を有する部分的にもしくは完全にフッ素置換されたアルキルまたはRf2Xであり、ここで、Rf2は1〜8個のC原子を有する部分的にもしくは完全にフッ素置換されたアルキルであり、XはSOもしくはCOである、で表されるイミド群、
フルオロアルキルホスフェートの群、特に一般式
[PF(C2y+1−z6−x、ここで1≦x<6、1≦y≦8および0≦z≦2y+1、で表されるフルオロアルキルホスフェートの群、
またはこれらの混合物、
から選択される。
【0014】
は、好ましくはトリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ノナフルオロブチルまたはRf2SO、特にトリフルオロメチルまたはRf2SO、ここでRf2は特に好ましくはトリフルオロメチルである。フルオロアルキルホスフェートの場合は、好ましくは、x=3、z=0およびy=2、3または4であり、ここでyは特に好ましくは2である。特に好ましくは[(CFSON]または[PF(Cを含有するイオン性液体は、本発明の方法におけるタンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドの抽出に特に好適である。
イオン性液体のカチオンKの選択に関しては、本質的に制限がない。しかしながら、好ましくは有機カチオン、特に好ましくはアンモニウム、ホスホニウム、ウロニウム、チオウロニウム、グアニジウムまたはび複素環カチオンが挙げられる。
【0015】
アンモニウムカチオンは、例えば式(1)
[NR (1)、
式中、
Rは、各場合において、互いに独立に、
H、ここで全ての置換基Rは同時にHであることはできず、
OR’、NR’、但し、式(1)の最大で1個の置換基RがOR’またはNR’であり、
1〜20個のC原子を有する直鎖または分枝アルキル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する、直鎖または分枝アルケニル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する、直鎖または分枝アルキニル、
3〜7個のC原子を有する、飽和、部分不飽和、もしくは完全不飽和シクロアルキルであり、ここでこれは1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよく、
【0016】
ここで、1個または2個以上のRは、部分的または完全にハロゲン、特に−Fおよび/または−Cl、により、または部分的に−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOXもしくは−NOにより置換されていてもよく、ならびに、α位にないRの1個または2個以上の隣接しない炭素原子は、群−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−および−P(O)R’−、ここでR’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化されている、もしくは過フッ素化されているC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、または、非置換もしくは置換フェニルであってもよく、およびX=ハロゲンであってもよい、から選択される、原子および/または原子団により置換されていてもよい、
により記載することができる。
【0017】
ホスホニウムカチオンは、例えば式(2)
[PR (2)、
式中、
は、各場合において、互いに独立に、
H、OR’、NR’
1〜20個のC原子を有する直鎖または分枝アルキル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する、直鎖または分枝アルケニル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する、直鎖または分枝アルキニル、
3〜7個のC原子を有する、飽和、部分不飽和、もしくは完全不飽和シクロアルキルであり、ここでこれは1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよく、
【0018】
ここで、1個または2個以上のRは、部分的または完全にハロゲン、特に−Fおよび/または−Cl、により、または部分的に−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOXもしくは−NOにより置換されていてもよく、ならびに、α位にないRの1個または2個以上の隣接しない炭素原子は、群−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−および−P(O)R’−、ここでR’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化されている、もしくは過フッ素化されているC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、または、非置換もしくは置換フェニルであってもよく、およびX=ハロゲンであってもよい、から選択される、原子および/または原子団により置換されていてもよい、
により記載することができる。
【0019】
しかしながら、全ての4個または3個の置換基RおよびRが完全にハロゲンにより置換されている、式(1)および(2)のカチオン、例えば、トリス(トリフルオロメチル)メチルアンモニウムカチオン、テトラ(トリフルオロメチル)アンモニウムカチオンまたはテトラ(ノナフルオロブチル)アンモニウムカチオン、は除外される。
【0020】
ウロニウムカチオンは、例えば式(3)
[(RN)−C(=OR)(NR)] (3)、
およびチオウロニウムカチオンは、式(4)
[(RN)−C(=SR)(NR)] (4)、
式中、
〜Rは、それぞれ互いに独立して、
水素、ここで水素はRについては除外され、
1〜20個のC原子を有する直鎖または分枝アルキル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する、直鎖または分枝アルケニル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する、直鎖または分枝アルキニル、
3〜7個のC原子を有する、飽和、部分不飽和、もしくは完全不飽和シクロアルキルであり、ここでこれは1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよく、
【0021】
ここで、1個または2個以上の置換基R〜Rは、部分的または完全にハロゲン、特に−Fおよび/または−Cl、により、または部分的に−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOXもしくは−NOにより置換されていてもよく、ならびに、α位にないR〜Rの1個または2個以上の隣接しない炭素原子は、群−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−および−P(O)R’−、ここでR’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化されている、もしくは過フッ素化されているC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、または、非置換もしくは置換フェニルであってもよく、およびX=ハロゲンであってもよい、から選択される、原子および/または原子団により置換されていてもよい、
により記載することができる。
【0022】
グアニジウムカチオンは、式(5)
[C(NR)(NR1011)(NR1213)] (5)、
式中、
〜R13は、それぞれ互いに独立して、
水素、−CN、NR’、−OR’、
1〜20個のC原子を有する直鎖または分枝アルキル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する、直鎖または分枝アルケニル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する、直鎖または分枝アルキニル、
3〜7個のC原子を有する、飽和、部分不飽和、もしくは完全不飽和シクロアルキルであり、ここでこれは1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよく、
【0023】
ここで、1個または2個以上の置換基R〜R13は、部分的または完全にハロゲン、特に−Fおよび/または−Cl、により、または部分的に−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOXもしくは−NOにより置換されていてもよく、ならびに、α位にないR〜R13の1個または2個以上の隣接しない炭素原子は、群−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−および−P(O)R’−、ここでR’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化されている、もしくは過フッ素化されているC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、または、非置換もしくは置換フェニルであってもよく、およびX=ハロゲンであってもよい、から選択される、原子および/または原子団により置換されていてもよい、
により記載することができる。
【0024】
さらに、一般式(6)
[HetN] (6)、
式中、
HetNは、群
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
ここで、置換基R1’〜R4’は、それぞれ互いに独立して、
水素、−CN、−OR’、NR’、−P(O)R’、−P(O)(OR’)、−P(O)(NR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、
1〜20個のC原子を有する直鎖または分枝アルキル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する、直鎖または分枝アルケニル、
2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する、直鎖または分枝アルキニル、
3〜7個のC原子を有する、飽和、部分不飽和、もしくは完全不飽和シクロアルキル、ここでこれは1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよく、
飽和、部分不飽和、もしくは完全不飽和ヘテロアリール、ヘテロアリール−C〜C−アルキル、またはアリール−C〜C−アルキルであり、
ここで、置換基R1’、R2’、R3’および/またはR4’は一緒に環を形成していてもよく、
【0027】
ここで、1個または2個以上の置換基R1’〜R4’は、部分的または完全に、ハロゲン、特に−Fおよび/または−Cl、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOXもしくは−NOにより置換されていてもよいが、R1’およびR4’は同時にハロゲンにより完全に置換されていてはならず、ならびに、ヘテロ原子に結合していないR1’〜R4’の1個または2個以上の隣接しない炭素原子は、群−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−および−P(O)R’−、ここでR’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化されている、もしくは過フッ素化されているC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、または、非置換もしくは置換フェニルであってもよく、およびX=ハロゲンであってもよい、から選択される、原子および/または原子団により置換されていてもよい、
で表されるカチオンを用いることができる。
【0028】
本発明の目的のためには、完全不飽和置換基は芳香族置換基をも意味するように用いられる。
本発明によれば、式(1)〜(5)で表される化合物の好適な置換基RおよびR〜R13は好適な置換基は、水素以外には、好ましくはC〜C20アルキル基、特にC〜C14アルキル基、および、C〜Cアルキル基、特にフェニル、により置換されていてもよい飽和または不飽和C〜Cシクロアルキル基(すなわち、芳香族をも含む)である。
式(1)または(2)で表される化合物中の置換基RおよびRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。置換基RおよびRは、好ましくは異なっている。
置換基RおよびRは、特に好ましくは、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシルまたはテトラデシルである。
【0029】
グアニジウムカチオン[C(NR)(NR1011)(NR1213)]の4個までの置換基はまた、単環式、二環式もしくは多環式カチオンを形成するようにペアを組んで結合していてもよい。
一般的な限定なしに、かかるグアニジウムカチオンの例は、
【化3】

【化4】

【0030】
ここで、置換基R〜R10およびR13は、上記の意味を有することができ、または上記の特に好ましい意味を有することができる、
である。
必要に応じて、上記グアニジウムカチオンの炭素環または複素環はまた、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SONR’、SOXまたはSOH、ここでXおよびR’は上記の意味を有する、置換もしくは非置換フェニル、あるいは、非置換もしくは置換複素環であってもよい。
【0031】
ウロニウムカチオン[(RN)−C(=OR)(NR)]またはチオウロニウムカチオン[(RN)−C(=SR)(NR)]の4個までの置換基はまた、単環式、二環式もしくは多環式カチオンを形成するようにペアを組んで結合していてもよい。
一般的な限定なしに、かかるカチオンの例は、下記
式中、Y=OもしくはSである:
【化5】

【化6】

【0032】
ここで、置換基R、RおよびRは、上記の意味を有することができる、または上記の特に好ましい意味を有することができる、
で示される。
必要に応じて、前記カチオンの炭素環または複素環はまた、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SONR’、SOXまたはSOH、あるいは置換もしくは非置換フェニルまたは非置換もしくは置換複素環、ここでXおよびR’は上記の意味を有する、であってもよい。
【0033】
置換基R〜R13は、それぞれ互いに独立して、好ましくは1〜10個のC原子を有する直鎖または分枝アルキル基である。式(3)〜(5)の化合物中の置換基RおよびR、RおよびR、RおよびR、R10およびR11、ならびに、R12およびR13は、同一であってもよく、異なっていてもよい。置換基R〜R13は、特に好ましくは、それぞれ互いに独立して、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、フェニルまたはシクロヘキシルであり、極めて特に好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルまたはn−ブチルである。
【0034】
本発明によれば、式(6)で表される好適な置換基R1’〜R4’は、水素以外には、好ましくは、C〜C20アルキル基、特にC〜C12アルキル基、および、C〜Cアルキル基、特にフェニル、により置換されていてもよい飽和または不飽和C〜Cシクロアルキル基(すなわち、芳香族をも含む)である。
【0035】
置換基R1’およびR4’は、それぞれ互いに独立して、特に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。これらは特に極めて好ましくは、メチル、エチル、n−ブチルまたはヘキシルである。ピロリジニウム、ピペリジニウムまたはインドリニウム化合物においては、2個の置換基R1’およびR4’は、好ましくは異なっている。
置換基R2’またはR3’は、各場合において互いに独立して、特に水素、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。R2’は、特に好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチルまたはsec−ブチルである。R2’およびR3’は、極めて特に好ましくは水素である。
【0036】
〜C12アルキル基は、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチル、さらにまたペンチル、1−、2−もしくは3−メチルブチル、1,1−、1,2−もしくは2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシル、任意にジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピルまたはノナフルオロブチルである。
【0037】
二重結合が複数個存在してもよい、C原子2〜20個を有する直鎖または分枝アルケニルは、例えば、アリル、2−もしくは3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに4−ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、−C17、−C1019〜−C2039、好ましくはアリル、2−もしくは3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに好ましくは4−ペンテニル、イソペンテニルまたはヘキセニルである。
【0038】
三重結合が複数個存在してもよい、C原子2〜20個を有する直鎖または分枝アルキニルは、例えば、エチニル、1−もしくは2−プロピニル、2−もしくは3−ブチニル、さらに4−ペンチニル、3−ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、−C15、−C1017〜−C2037、好ましくはエチニル、1−もしくは2−プロピニル、2−もしくは3−ブチニル、4−ペンチニル、3−ペンチニルまたはヘキシニルである。
【0039】
アリール−C〜C−アルキルは、例えば、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、フェニルペンチルまたはフェニルヘキシル、ここでフェニル環およびアルキレン鎖の両方は、部分的または完全に、上記の通り、ハロゲン、特に−Fおよび/または−Cl、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOXもしくは−NOにより置換されていてもよい。
【0040】
したがって、3〜7個のC原子を有する、非置換飽和または部分飽和もしくは完全不飽和シクロアルキル基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロペンタ−1,3−ジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサ−1,3−ジエニル、シクロヘキサ−1,4−ジエニル、フェニル、シクロヘプテニル、シクロヘプタ−1,3−ジエニル、シクロヘプタ−1,4−ジエニルまたはシクロヘプタ−1,5−ジエニルであり、これらの各々は、C〜Cアルキル基により置換されていてもよく、ここでシクロアルキル基またはC〜Cアルキル基により置換されているシクロアルキル基はまた同様に、F、Cl、BrもしくはI、特にFもしくはClなどのハロゲン原子、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOにより置換されていてもよい。
【0041】
置換基R、R〜R13またはR1’〜R4’においては、ヘテロ原子に対してα位にない1個または2個以上の炭素原子はまた、群−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−および−P(O)R’−、ここでR’=フッ素化されていない、部分的にフッ素化されている、もしくは過フッ素化されているC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、または非置換もしくは置換フェニルから選択される原子および/または原子団により置換されていてもよい。
【0042】
一般的な限定なく、このように修飾された置換基R、R〜R13またはR1’〜R4’の例は:
−OCH、−OCH(CH、−CHOCH、−CH−CH−O−CH、−COCH(CH、−CSC、−CSCH(CH、−S(O)CH、−SOCH、−SO、−SO、−SOCH(CH、−SOCHCF、−CHSOCH、−O−C−O−C、−CF、−C、−C、−C、−C(CF、−CFSOCF、−CN(C)C、−CHF、−CHCF、−C、−CFH、−CH、−C(CFH、−CHC(O)OH、−CH、−C(O)CまたはP(O)(Cである。
R’において、C〜Cシクロアルキルは、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチルである。
【0043】
R’における置換フェニルは、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SOX’、SONR’’またはSOHにより置換されているフェニルであり、ここでX’はF、ClもしくはBrであり、R’’はR’について定義されている通り、フッ素化されていない、部分的にフッ素化されている、もしくは過フッ素化されているC〜CアルキルまたはC〜Cシクロアルキルであり、例えば、o−、m−もしくはp−メチルフェニル、o−、m−もしくはp−エチルフェニル、o−、m−もしくはp−プロピルフェニル、o−、m−もしくはp−イソプロピルフェニル、o−、m−もしくはp−tert−ブチルフェニル、o−、m−もしくはp−ニトロフェニル、o−、m−もしくはp−ヒドロキシフェニル、o−、m−もしくはp−メトキシフェニル、o−、m−もしくはp−エトキシフェニル、o−、m−もしくはp−(トリフルオロメチル)フェニル、o−、m−もしくはp−(トリフルオロメトキシ)フェニル、o−、m−もしくはp−(トリフルオロメチルスルホニル)フェニル、o−、m−もしくはp−フルオロフェニル、o−、m−もしくはp−クロロフェニル、o−、m−もしくはp−ブロモフェニル、o−、m−もしくはp−ヨードフェニル、さらに好ましくは、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジメチルフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジヒドロキシフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジフルオロフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジクロロフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジブロモフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジメトキシフェニル、5−フルオロ−2−メチルフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニルまたは2,4,5−トリメチルフェニルである。
【0044】
1’〜R4’におけるヘテロアリールは、5〜13員環を有する、飽和または不飽和単環式もしくは二環式複素環基であり、式中、1、2もしくは3個のN原子および/または1個もしくは2個のS原子またはO原子が存在してもよく、複素環基は、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SOX’、SONR’’またはSOHであり、ここでX’およびR’’は上記の意味を有する。
複素環基は、好ましくは、置換または非置換2−もしくは3−フリル、2−もしくは3−チエニル、1−、2−もしくは3−ピロリル、1−、2−、4−もしくは5−イミダゾリル、3−、4−もしくは5−ピラゾリル、2−、4−もしくは5−オキサゾリル、3−、4−もしくは5−イソオキサゾリル、2−、4−もしくは5−チアゾリル、3−、4−もしくは5−イソチアゾリル、2−、3−もしくは4−ピリジル、2−、4−、5−もしくは6−ピリミジニル、さらに好ましくは1,2,3−トリアゾル−1−、−4−もしくは−5−イル、1,2,4−トリアゾル−1−、−4−もしくは−5−イル、1−もしくは5−テトラゾリル、1,2,3−オキサジアゾル−4−もしくは−5−イル、1,2,4−オキサジアゾル−3−もしくは−5−イル、1,3,4−チアジアゾル−2−もしくは−5−イル、1,2,4−チアジアゾル−3−もしくは−5−イル、1,2,3−チアジアゾル−4−もしくは−5−イル、2−、3−、4−、5−もしくは6−2H−チオピラニル、2−、3−もしくは4−4H−チオピラニル、3−もしくは4−ピリダジニル、ピラジニル、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾフリル、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾチエニル、1−、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−1H−インドリル、1−、2−、4−もしくは5−ベンズイミダゾリル、1−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾピラゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾキサゾリル、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンズイソキサゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾチアゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンズイソチアゾリル、4−、5−、6−もしくは7−ベンズ−2,1,3−オキサジアゾリル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−キノリニル、1−、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−イソキノリニル、1−、2−、3−、4−もしくは9−カルバゾリル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、8−もしくは9−アクリジニル、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−シノリニル、2−、4−、5−、6−、7−もしくは8−キナゾリニルまたは1−、2−もしくは3−ピロリジニルである。
【0045】
ヘテロアリール−C〜C−アルキルは、アリール−C〜C−アルキルと同様に、例えば、ピリジニルメチル、ピリジニルエチル、ピリジニルプロピル、ピリジニルブチル、ピリジニルペンチルまたはピリジニルヘキシルを意味するように用いられ、ここで上記の複素環はさらにこのようにアルキレン鎖と結合していてもよい。
【0046】
HetNは好ましくは、
【化7】

であり、ここで、置換基R1’〜R4’はそれぞれ、互いに独立して上記の意味を有する。
本発明によるイオン性液体のカチオンは、好ましくはアンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウム、ピリジニウムまたはピロリジニウムカチオンである。
【0047】
極めて特に好ましくは、本発明の方法における抽出のための使用には、アンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウム、ピリジニウムもしくはピロリジニウムトリフルオロメチルスルホニルイミド、または、アンモニウムもしくはホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートが極めて特に好ましく、ここで、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロライド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムテトラフルオロボレート、N−(3−ヒドロキシプロピル)−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−(エトキシメチル)−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−(2−メトキシエチル)ピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−エチル−4−(N,N−ジメチルアンモニウム)ピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−ブチル−4−(N,N−ジメチルアンモニウム)ピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−ヘキシル−4−(N,N−ジメチルアンモニウム)ピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−(エトキシメチル)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−(2−メトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−(2−エトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、テトラ−ブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、テトラエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシル(テトラデシル)アンモニウムトリフルオロメチルスルホニルイミド、メチルトリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、(エトキシメチル)エチルジメチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、(2−エトキシメチル)エチルジメチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、(2−エトキシエチル)エチルジエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、エチルジメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、テトラブチルホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、テトラメチルアンモニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートまたはテトラブチルアンモニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、
【0048】
および特に好ましくはN−(3−ヒドロキシプロピル)−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−(エトキシメチル)−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシル(テトラデシル)アンモニウムトリフルオロメチルスルホニルイミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムトリフルオロメチルスルホニルイミドまたはテトラブチルアンモニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートが、本発明による方法において特に良好な結果をもたらす。
【0049】
本発明による方法は、0〜95℃、好ましくは55〜65℃、および極めて特に好ましくは60℃の温度で行うことができる。好ましい温度においては、比較的短時間に改善された抽出が観察される。一般的な抽出、特に比較的繊細なタンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドの抽出については、上記温度範囲内のより低温で、この目的に必要となるであろうより長い抽出時間を考慮に入れて、本発明の方法を行うことが望ましい。
【0050】
本発明による方法は、生物学的サンプルから、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを、そのサンプルの細胞の基本構造を保持したままで抽出するのに好適である。しかしながら、さらに、対応した前処置がなされたサンプル、例えば細胞の基本構造が本発明の方法の使用前に破壊されてしまっているサンプル、に本発明の方法を使用することもまた考え得ることである。この前処置は当業者に既知の全ての方法で、例えば手によるホモジナイズもしくはボルテックスにより、行うことができる。
【0051】
本発明による方法を用いて得られた抽出物は、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを含む。これらは、例えば電気泳動(例えば2次元電気泳動)、免疫化学検出法(例えばウェスタンブロット解析、ELISA、RIA)、タンパク質アレイ(例えば平面およびビーズベースシステム)、質量分析(例えばMaldi、EsiおよびSeldi)および全てのバイオクロマトグラフィー分離法(IEX、SEC、HICおよびアフィニティクロマトグラフィー)等の当業者に既知の全てのタンパク質解析に適している。
【0052】
本発明は同様に、少なくとも1種のイオン性液体を含む、上記本発明の方法の1つによるタンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドの抽出のためのキットに関する。本発明によるキットは、1種または2種以上のイオン性液体を含むことができる。キットが2種以上のイオン性液体を含む場合には、これらは別々の形態であってもよく、混合物の形態で一緒になっていてもよい。好ましくは、上記の特に好ましいイオン性液体がキット中に含まれる。
【0053】
さらに、キットはさらなる態様において、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを沈殿させるために好適な少なくとも1種の試薬をさらに含み、ここで前記試薬は、例えばトリクロロ酢酸などの当業者に既知の全ての沈殿試薬から選択することができる。
本発明によるキットは、使用者が簡単な方法で生物学的サンプルからタンパク質を抽出することができるようにするとともに、必要に応じて、さらなる解析における使用のためにタンパク質を沈殿することができるようにする。
【0054】
同様に、本発明は、本発明のキットの、生物学的サンプルからタンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するための使用にも関する。
さらなる解説なしに、当業者は最も広い範囲で上記記載を用いることができるとみなされる。したがって、好ましい態様および例は、どのような方法によっても全く限定することのない記載的開示としてのみみなされるべきである。
【実施例】
【0055】
例1
1gのホルマリン固定組織サンプル(例えば肺、心臓、腎臓、肝臓、脾臓)を何回も10mlの等張リン酸緩衝生理食塩水溶液で洗浄し、メスを用いて小片に切断する。0.1gの切断サンプルを60μlのトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムトリフルオロメチルスルホニルイミドと混合し、回転ミキサー中で2時間にわたり60℃でインキュベートする。上清溶液を分離し、その中に含まれているタンパク質のさらなる解析に用いることができる。
【0056】
タンパク質解析
例1で得られた抽出物を用いて、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を以下のように行う:3μlのタンパク質抽出物を16μlのSDSサンプルアプリケーションバッファー(3M Tris pH 8.5、グリセロール24%(v/v)、ドデシル硫酸ナトリウム8%(w/v)、2−メルカプトエタノール2%、ブロモフェノールブルー0.1%(w/v))と混合し、混合物を95℃で5分間インキュベートする。10,000×gで遠心した後、サンプルを10%SDS−PAGEにアプライし、120ボルトで90分間分離する。
抽出されたタンパク質を同定するためには、例えば膜タンパク質であるカルネキシン(90kDa、抗カルネキシン、C末端、1:2000、Calbiochem Cat.No.:208880)などに対する抗体を用いて、ゲルのウェスタンブロットを行う。ウェスタンブロット解析においては、カルネキシンはその野生型の分子サイズで同定される。
全体として、本発明による方法は、生物学的サンプルからのタンパク質の抽出に有利に適していることが見出されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的サンプルから、タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するための方法であって、使用される抽出剤が一般式Kで表されるイオン性液体であることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
生物学的サンプルが、組織、細胞、細胞培養物および/または体液であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物学的サンプルが、固定されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生物学的サンプルが、ホルマリンを使用して固定されていることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
イオン性液体のアニオンAが、
一般式[N(R、式中、Rは1〜8個のC原子を有する部分的にもしくは完全にフッ素置換されたアルキルまたはRf2Xであり、ここで、Rf2は1〜8個のC原子を有する部分的にもしくは完全にフッ素置換されたアルキルであり、XはSOもしくはCOである、で表されるイミドの群、
一般式[PF(C2y+1−z6−x、ここで1≦x≦6、1≦y≦8および0≦z≦2y+1、で表されるフルオロアルキルホスフェートの群、
またはこれらの混合物、
から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
イオン性液体のカチオンKが、アンモニウム、ホスホニウム、ウロニウム、チオウロニウム、グアニジウムおよび複素環カチオンの群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
抽出が0〜95℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によりタンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するための、少なくとも1種のイオン性液体を含むキット。
【請求項9】
タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを沈殿させるために好適な少なくとも1種の試薬をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
タンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを沈殿させるために好適な少なくとも1種の試薬が、トリクロロ酢酸であることを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
請求項8〜10に記載のキットの、生物学的サンプルからタンパク質、タンパク質断片および/またはペプチドを抽出するための使用。

【公開番号】特開2006−348031(P2006−348031A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161757(P2006−161757)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】