説明

タンパク質相互作用解析方法、ポリヌクレオチド、および、組成物

【課題】対象タンパク質が核局在シグナル配列を含む場合であっても、タンパク質間相互作用の動態を精度よく解析することができ、その結果、実験の再現性を改善することができる、タンパク質相互作用解析方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、互いに結合することにより発光酵素活性が回復するよう分割させたN末側発光酵素とC末側発光酵素を調整し、N末側発光酵素と融合させた一方のタンパク質、および、C末側発光酵素と融合させた他方のタンパク質を含む細胞を作製し、作製した細胞に当該細胞外から所定の発光基質を添加し、所定の発光基質が与えられた細胞の発光画像を撮像し、撮像した発光画像に基づいて、細胞内におけるタンパク質の相互作用の動態を解析する方法において、作製工程において、少なくとも一方のタンパク質の核局在シグナル配列を変異させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内のタンパク質間相互作用を非侵襲的に解析する、タンパク質相互作用解析方法、ポリヌクレオチド、および、組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞内でのタンパク質の相互作用を観察するために、ルシフェラーゼ等の発光酵素を分割して、対象となる2つのタンパク質にそれぞれ融合させ、細胞内で発現させた融合タンパク質が、対象タンパク質間の相互作用により互いに結合することにより、回復した発光酵素活性を観察・測定していた。
【0003】
例えば、非特許文献1および2では、分割したスプリットルシフェラーゼをMyoDとIdにそれぞれ結合させて融合タンパクとして細胞内で発現させ、スプリットルシフェラーゼ同士の結合により回復したルシフェラーゼ活性を観察することにより、細胞内におけるMyoD−Id相互作用やその局在を解析する方法(スプリットルシフェラーゼアッセイ)が開発されている。
【0004】
【非特許文献1】R.Paulmurugan, Y.Umezawa, S.S.Gambhir, “Noninvasive imaging of protein−protein interactions in living subjects by using reporter protein complementation and reconstitution strategies”, Proceedings of the National Academy of Sciences, vol.99, no.24, pp.15608−15613, 2002
【非特許文献2】Kathryn E.Luker, Matthew C.P.Smith, Gary D.Luker, Seth T.Gammon, Helen Piwnica−Worms, David Piwnica−Worms, “Kinetics of regulated protein−protein interactions revealed with firefly luciferase complementation imaging in cells and living animals”, Proceedings of the National Academy of Sciences, vol.101, no.33, pp.12288−12293, 2004
【非特許文献3】Jody M.Lingbeck, Julie S.Trausch−Azar, Aaron Ciechanover, Alan L.Schwartz, “Determinants of Nuclear and Cytoplasmic Ubiquitin−mediated degradation of MyoD”, The Journal of Biological Chemistry, Vol.278, No.3, pp.1817−1823, 2003
【非特許文献4】Julie S.Trausch−Azar, Jody Lingbeck, Aaron Ciechanover, Alan L.Schwartz, “Ubiquitin−Proteasome−mediated degradation of Id1 is modulated by MyoD”, The Journal of Biological Chemistry, Vol.279, No.31, pp.32614−32619, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、上述のMyoDやIdには、核局在シグナル(NLS:Nuclear Localization Signal)配列が存在することが、非特許文献3,4等において報告されているが、従来の方法では、対象タンパク質に核局在シグナル配列が存在する場合、対象タンパク質が核に局在するため分割されたルシフェラーゼが効率よく再構成されず、発光強度が弱いという問題がある。
【0006】
また、同一の検出装置で同時に複数の対象を色別で検出する場合等では、発光強度差が過大とならないよう発光強度を調節して漏れ込みを防ぐ必要があるが、従来の方法では、ルシフェラーゼ遺伝子を改変させるか種類の異なるルシフェラーゼを用いて調整しなければならなかった。また、同時に検出しない場合であっても、発光強度差がある場合は、検出装置等の感度をその都度、切り換えて設定しなければならず煩雑であり、再現性などにおいても問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、対象タンパク質が核局在シグナル配列を含む場合であっても、タンパク質間相互作用の動態を精度よく解析することができ、その結果、実験の再現性を改善することができる、タンパク質相互作用解析方法、ポリヌクレオチド、および、組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法は、細胞内においてタンパク質の相互作用を解析するタンパク質相互作用解析方法であって、互いに結合することにより発光酵素活性が回復するよう分割させたN末側発光酵素とC末側発光酵素を調整し、前記N末側発光酵素と融合させた一方の前記タンパク質、および、前記C末側発光酵素と融合させた他方の前記タンパク質を含む前記細胞を作製する作製工程と、前記作製工程で作製した前記細胞に当該細胞外から所定の発光基質を添加する添加工程と、前記添加工程で前記所定の発光基質が与えられた前記細胞の発光画像を撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像した前記発光画像に基づいて、前記細胞内における前記タンパク質の相互作用の動態を解析する解析工程と、を含み、前記作製工程において、少なくとも一方の前記タンパク質の核局在シグナル配列を変異させること、を特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法は、上記記載のタンパク質相互作用解析方法において、前記作製工程は、前記核局在シグナル配列のリシン残基および/またはアルギニン残基を、非荷電アミノ酸に置換すること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法は、上記記載のタンパク質相互作用解析方法において、前記非荷電アミノ酸は、アラニンまたはグリシンであること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法は、上記記載のタンパク質相互作用解析方法において、一方の前記タンパク質は、野生型Idタンパク質であり、他方の前記タンパク質は、前記核局在シグナル配列に対応する、アミノ酸番号102番目、104番目、112番目のリシン残基、および、103番目、110番目、111番目のアルギニン残基を、アラニン残基に変異させた変異型MyoDタンパク質であること、を特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法は、上記記載のタンパク質相互作用解析方法において、一方の前記タンパク質は、前記核局在シグナル配列に対応する、アミノ酸番号70番目、81番目、84番目のリシン残基、および、68番目、80番目のアルギニン残基を、アラニン残基に変異させた変異型Idタンパク質であり、他方の前記タンパク質は、野生型MyoDタンパク質であること、を特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法は、上記記載のタンパク質相互作用解析方法において、前記N末側発光酵素は、ホタルルシフェラーゼのアミノ酸番号1番目から416番目のアミノ酸配列を含むN末側スプリットルシフェラーゼであり、前記C末側発光酵素は、前記ホタルルシフェラーゼのアミノ酸番号399番目から550番目のアミノ酸配列を含むC末側スプリットルシフェラーゼであること、を特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、C末側スプリットルシフェラーゼと、核局在シグナル配列を含むMyoDタンパク質と、の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、前記MyoDタンパク質の前記核局在シグナル配列におけるリシン残基およびアルギニン残基が、アラニン残基またはグリシン残基をコードするよう変異されたこと、を特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる組成物は、上記記載のポリヌクレオチドと、N末側スプリットルシフェラーゼと野生型Idタンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、を少なくとも含む組成物であること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、N末側スプリットルシフェラーゼと、核局在シグナル配列を含むIdタンパク質と、の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、前記Idタンパク質の前記核局在シグナル配列におけるリシン残基およびアルギニン残基が、アラニン残基またはグリシン残基をコードするよう変異されたこと、を特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる組成物は、上記記載のポリヌクレオチドと、C末側スプリットルシフェラーゼと野生型MyoDタンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、を少なくとも含む組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、対象タンパク質が核局在シグナル配列を含む場合であっても、タンパク質間相互作用の動態を精度よく解析することができ、その結果、実験の再現性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法(具体的には撮像工程および解析工程)で用いる発光観察システム100の構成について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、発光観察システム100の全体構成の一例を示す図である。図2および図3は、発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示すブロック図である。図4は、発光観察システム100の画像解析装置110の構成の一例を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、発光観察システム100は、細胞102を収納した容器103(具体的にはシャーレ、スライドガラス、マイクロプレート、ゲル支持体、微粒子担体など)と、容器103を配置するステージ104と、発光画像撮像ユニット106と、画像解析装置110と、で構成されている。
【0022】
ここで、発光画像撮像ユニット106は、ステージ104の下側に配置してもよい。蛍光よりも微弱な発光を測定するための発光画像撮像ユニット106を下側に配置することにより、カバー開閉によるサンプル上方からの外乱光を完全に遮断できて発光画像のS/N比を増すことができる。なお、この構成の場合、容器103の底部は光透過性を有する素材を用い、ステージ104には光を透過させるよう穴を有していてもよい。
【0023】
細胞102は、例えば、分割されたN末側発光酵素(例えばN末側スプリットルシフェラーゼなど)と融合させた対象タンパク質(例えばIdタンパク質など)、および、分割されたC末側発光酵素(例えばC末側スプリットルシフェラーゼ)と融合させた他方の対象タンパク質(例えばMyoDタンパク質など)を含む生きた細胞であり、少なくとも一方の対象タンパク質の核局在シグナル配列には、核局在化を防ぐよう所定の変異が導入されている。例えば、核局在シグナル配列のリシン残基および/またはアルギニン残基は、非荷電アミノ酸(例えば、アラニンやグリシン)に置換されていてもよい。また、ここで、細胞102に、上記融合タンパク質がそれぞれ発現されるよう構成した、当該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを導入することにより、両融合タンパク質が細胞102内で発現されるよう構成してもよい。なお、細胞102には、当該細胞の撮像時に、当該細胞外から所定の発光基質(例えばルシフェリンなど)が与えられる。
【0024】
発光画像撮像ユニット106は、具体的には正立型の発光顕微鏡であり、細胞102の発光画像を撮像する。発光画像撮像ユニット106は、図示の如く、対物レンズ106aと、ダイクロイックミラー106bと、CCDカメラ106cと、結像レンズ106fと、で構成されている。対物レンズ106aは、具体的には、(開口数/倍率)の値が0.01以上のものである。ダイクロイックミラー106bは、細胞102から発せられた発光を色別に分離し、2色の発光を用いて発光量を色別に測定する場合に用いる。CCDカメラ106cは、対物レンズ106a、ダイクロイックミラー106bおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された細胞102の発光画像および明視野画像を撮る。また、CCDカメラ106cは、画像解析装置110と有線または無線で通信可能に接続される。結像レンズ106fは、対物レンズ106aおよびダイクロイックミラー106bを介して当該結像レンズ106fに入射した像(具体的には細胞102を含む像)を結像する。なお、図1では、ダイクロイックミラー106bで分離した2つの発光に対応する発光画像を2台のCCDカメラ106cで別々に撮像する場合の一例を示しており、1つの発光を用いる場合には、発光画像撮像ユニット106は、対物レンズ106a、1台のCCDカメラ106cおよび結像レンズ106fで構成されてもよい。
【0025】
ここで、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合、発光画像撮像ユニット106は、図2に示すように、対物レンズ106aと、CCDカメラ106cと、スプリットイメージユニット106dと、結像レンズ106fと、で構成されてもよい。そして、CCDカメラ106cは、スプリットイメージユニット106dおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された生体試料(細胞102等)の発光画像(スプリットイメージ)および明視野画像を撮像してもよい。スプリットイメージユニット106dは、生体試料(細胞102等)から発せられた発光を色別に分離し、ダイクロイックミラー106bと同様、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。
【0026】
また、複数色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合(つまり、多色の発光を用いる場合)、発光画像撮像ユニット106は、図3に示すように、対物レンズ106aと、CCDカメラ106cと、フィルターホイール106eと、結像レンズ106fと、で構成されてもよい。そして、CCDカメラ106cは、フィルターホイール106eおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された生体試料(細胞102等)の発光画像および明視野画像を撮像してもよい。フィルターホイール106eは、生体試料(細胞102等)から発せられた発光をフィルター交換によって色別に分離し、複数色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。
【0027】
再び図1に戻り、画像解析装置110は、例えば、パーソナルコンピュータである。そして、画像解析装置110は、図4に示すように、大別して、制御部112と、システムの時刻を計時するクロック発生部114と、記憶部116と、通信インターフェース部118と、入力装置122や出力装置124に接続された入出力インターフェース部120と、で構成されており、これら各部はバスを介して接続されている。
【0028】
上記構成において、記憶部116は、ストレージ手段であり、具体的には、RAMやROM等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。そして、記憶部116は制御部112の各部の処理により得られたデータなどを記憶する。通信インターフェース部118は、画像解析装置110と、CCDカメラ106cと、の間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部118は他の端末と有線または無線の通信回線を介してデータを通信する機能を有する。入出力インターフェース部120は、入力装置122や出力装置124に接続する。ここで、出力装置124には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下で、出力装置124をモニターとして記載する場合がある。)。また、入力装置122には、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニターを用いることができる。
【0029】
制御部112は、OS(Operating System)等の制御プログラムや各種の処理手順等を規定したプログラムや所要データを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の処理を実行する。そして、制御部112は、大別して、発光画像撮像指示部112aと、発光画像取得部112bと、画像解析部112cと、解析結果出力部112dと、で構成されている。
【0030】
発光画像撮像指示部112cは、通信インターフェース部118を介して、CCDカメラ106cへ発光画像および明視野画像の撮像を指示する。発光画像取得部112bは、CCDカメラ106cで撮像した発光画像および明視野画像を、通信インターフェース部118を介して取得する。
【0031】
画像解析部112cは、発光画像取得部112bで取得した複数の発光画像に基づいて、対象タンパク質の相互作用状態の変動や動態を解析する。換言すると、画像解析部112cは、複数の発光画像に基づいて、対象タンパク質間の相互作用の状態や、相互作用を行っている対象タンパク質が細胞102内でどのように移動していくのか等を解析する。また、画像解析部112cは、複数の発光画像に基づいて、対象タンパク質の相互作用状態がどのように変化していくのかを数値化して解析する。解析結果出力部112dは、画像解析部112cでの解析結果を出力装置124に出力する。具体的には、解析結果出力部112dは、画像解析部112cで得られた対象タンパク質間の相互作用状態の変動についての時系列の数値データを、グラフ化して出力装置124に表示する。
【実施例】
【0032】
本実施の形態における実施例について以下に図5〜図9を用いて説明する。ここで、図5は、スプリットルシフェラーゼアッセイの検出原理を示す図である。
【0033】
スプリットルシフェラーゼアッセイとは、ホタルルシフェラーゼやウミシイタケルシフェラーゼ等のルシフェラーゼを、特定の位置で分割して発光酵素活性(生物発光能)を失活させた後、そのフラグメント(断片)であるN末側ルシフェラーゼ(NLuc)とC末側ルシフェラーゼ(CLuc)を再構成させ発光酵素活性を回復させる手法であり、タンパク質間相互作用の検出や、タンパク質の細胞内小胞体移行検出等に用いられる。
【0034】
図5は、相互作用を起こすタンパク質として、IdとMyoDを用いた例を示している。すなわち、細胞内で発現させた、NLuc−Id融合タンパク質中のId遺伝子部位と、MyoD−CLuc融合タンパク質中のMyoD遺伝子部位とが相互作用して結合すると、NLuc遺伝子部位とCLuc遺伝子部位とが結合して発光酵素活性が回復し、検出可能なシグナルを発する。本実施例においては、このスプリットルシフェラーゼアッセイ系において、IdまたはMyoD遺伝子中の核局在シグナル配列に変異を導入させた実施の形態について説明する。ここで、本実施例における実験の流れ(手順)は、以下の通りである。
【0035】
[スプリットルシフェラーゼ遺伝子の作製およびMyoD遺伝子とId遺伝子のクローニング]
[手順1]
まず、スプリットルシフェラーゼ遺伝子(NLuc/CLuc)の作製のために、PCRに用いる合成オリゴDNAを以下に示す配列で調整した。
(NLuc遺伝子作製用合成オリゴDNA配列)
NLuc_Forward(配列番号1):5’−GCCACCATGGAAGATGCCAAAAACATT−3’
NLuc_Reverse(配列番号2):5’−CAGGGATCCGTCCTTGTCGATGAGAGCGTT−3’
(CLuc遺伝子作製用合成オリゴDNA配列)
CLuc_Forward(配列番号3):5’−ATCGGATCCGGCTACGTTAACAACCCCGAG−3’
CLuc_Reverse(配列番号4):5’−GACTCTAGAATTATTACACGGCGATCT−3’
【0036】
また、MyoD遺伝子およびId遺伝子のクローニングのために、PCRに用いる合成オリゴDNAを以下に示す配列で調整した。
(MyoD遺伝子作製用合成オリゴDNA配列)
MyoD_Forward(配列番号5):5’−GGGCCATGGAGCTTCTATCGCCGCCACTC−3’
MyoD_Reverse(配列番号6):5’−GATGGATCCAAGCACCTGATAAATCGCATT−3’
(Id遺伝子作製用合成オリゴDNA配列)
Id_Forward(配列番号7):5’−GAGGGATCCCTTGGTCTGTCGGAGCAAAGC−3’
Id_Reverse(配列番号8):5’−GTGTCTAGACTCAGCGACACAAGATGCGAT−3’
【0037】
[手順2]
そして、pGL4.10(プロメガ(株)製)を鋳型として、N末側ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc:GL4.10遺伝子の1番目から416番目のアミノ酸を含む。)、および、C末側ルシフェラーゼ遺伝子(CLuc:GL4.10遺伝子の399番目から550番目のアミノ酸を含む。)を、上記合成オリゴDNAをプライマーとしてPCRにより増幅した。
【0038】
[手順3]
そして、マウス骨格筋cDNAライブラリ(タカラバイオ(株)製)を鋳型として、MyoD遺伝子(マウスのMyoD遺伝子の1番目から318番目のアミノ酸配列に対応する領域を含む。)、および、Id遺伝子(マウスのId遺伝子の29番目から148番目のアミノ酸配列に対応する領域を含む。)を、上記合成オリゴDNAをプライマーとしてPCRにより増幅した。
【0039】
[手順4]
そして、PCRで増幅させたNLuc遺伝子およびMyoD遺伝子を、pBluescriptIIベクターにサブクローニングした後、NLuc遺伝子の下流に存在するBamHI部位とXbaI部位の間にId遺伝子を、MyoD遺伝子の下流に存在するBamHI部位とXbaI部位の間にCLuc遺伝子をそれぞれ挿入して、融合遺伝子(NI:NLuc−Id、および、MC:MyoD−CLuc)を作製した。
【0040】
[手順5]
そして、それぞれの融合遺伝子を哺乳類細胞の発現ベクターpCI−neo(プロメガ(株)製)へ組み込んだ。
【0041】
[Myo遺伝子およびId遺伝子への変異導入]
つづいて、MyoDおよびId遺伝子の核局在シグナル配列に変異を以下の手順で導入した。
【0042】
[手順1]
まず、それぞれの遺伝子に変異を導入するため、合成オリゴDNAを以下に示す塩基配列で調整した。
(MyoD遺伝子への変異導入用合成オリゴDNA配列)
Myo_mut_A_des(配列番号9):5’−CTGCAAGGCGTGCGCGGCCGCGACCACCAACGC−3’
Myo_mut_A_opp(配列番号10):5’−GCGTTGGTGGTCGCGGCCGCGCACGCCTTGCAG−3’
Myo_mut_B_des(配列番号11):5’−CCAACGCTGATGCCGCCGCGGCCGCCACCATGC−3’
Myo_mut_B_opp(配列番号12):5’−GCATGGTGGCGGCCGCGGCGGCATCAGCGTTGG−3’
(Id遺伝子への変異導入用合成オリゴDNA配列)
Id_mut_A_des(配列番号13):5’−GGCTGCTACTCAGCCCTCGCGGAGCTGGTGCCC−3’
Id_mut_A_opp(配列番号14):5’−GGGCACCAGCTGCGCGAGGGCTGAGTAGCAGCC−3’
Id_mut_B_des(配列番号15):5’−CCTGCCCCAGAACGCCGCAGTGAGCAAGGTGG−3’
Id_mut_B_opp(配列番号16):5’−CCACCTTGCTCACTGCGGCGTTCTGGGGCAGG−3’
Id_mut_C_des(配列番号17):5’−GCCGCAGTGAGCGCGGTGGAGATCCTGC−3’
Id_mut_C_opp(配列番号18):5’−GCAGGATCTCCACCGCGCTCACTGCGGC−3’
【0043】
[手順2]
そして、上述のように作製したNI遺伝子およびMC遺伝子の発現ベクター(NI、および、MC)を鋳型として、上記の合成オリゴDNAを用いて、MyoD遺伝子およびId遺伝子の変異型遺伝子発現ベクター(NI_m、および、MC_m)を作製した。なお、変異型作製には、QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)を用いて、作製はキットのマニュアルに従って行った。
【0044】
[手順3]
そして、作製した野生型および変異型DNAの配列をDNAシーケンシングにより確認した。ここで、図6〜図9は、それぞれ、作製した各融合遺伝子(NI、NI_m、MC、および、MC_m)の構成を示す図である。以上の操作を行うことにより、図6に示すようにN末側スプリットルシフェラーゼNLucと野生型Id遺伝子との融合遺伝子NI(配列番号19,20)、図7に示すようにN末側スプリットルシフェラーゼNLucと変異型Id遺伝子との融合遺伝子NI_m(配列番号21,22)、図8に示すように野生型MyoD遺伝子とC末側スプリットルシフェラーゼCLucとの融合遺伝子MC(配列番号23,24)、および、図9に示すように変異型MyoD遺伝子とC末側スプリットルシフェラーゼCLucとの融合遺伝子MC_m(配列番号25,26)を有する発現ベクターが得られた。なお、配列番号19,21,23,25の配列は、DNA配列であり、配列番号20,22,24,26の配列は、アミノ酸配列である。ここで、図10および図11は、MyoD遺伝子とId遺伝子の核局在シグナルの野生型および変異型アミノ酸配列を示す図である。
【0045】
図10に示すように、本実施例では、野生型MyoDのアミノ酸配列の102番目、104番目、112番目のリシン残基、および、103番目、110番目、111番目のアルギニン残基を、アラニン残基に置換した。また、図11に示すように、野生型Idのアミノ酸配列の70番目、81番目、84番目のリシン残基、および、68番目、80番目のアルギニン残基をアラニン残基に置換した。これにより、核内移行に関与する領域である核局在シグナルの変異によって、MyoDタンパク質およびIdタンパク質が細胞質に留まるので、スプリットルシフェラーゼが細胞質に留まることができる。
【0046】
[スプリットルシフェラーゼ融合遺伝子のトランスフェクションと発光測定]
以上のように作製した融合遺伝子発現ベクター(NI、NI_m、MC、および、MC_m)を、以下の手順で細胞にトランスフェクションし、その発光を測定した。
【0047】
[手順1]
HeLa細胞をATCC社より入手し、5% CO2インキュベーター内で低グルコースDMEM培地(GIBCO社製)で培養した。
【0048】
[手順2]
そして、96−well multiplate(NUNC社製)に、1x10/wellの細胞密度で播種し、一晩培養した。
【0049】
[手順3]
そして、NI融合遺伝子とMC融合遺伝子、NI融合遺伝子とMC_m融合遺伝子、NI_m融合遺伝子とMC融合遺伝子、NI_m融合遺伝子とMC_m融合遺伝子の組み合せで、発現ベクターを混合してLipofectamine2000(インビトロジェン(株)製)を用いて、マニュアルにしたがってトランスフェクションを行い、5% CO2インキュベーター内で一晩培養した。
【0050】
[手順4]
終濃度0.5mMのルシフェリン(プロメガ(株)製)を加えて、ルミノメーター(Luminescenser JNR−2000(アトー(株)製))で発光量を測定した。図12は、各発現ベクターを導入した細胞において、ルミノメーターで測定した発光量を示すグラフ図である。
【0051】
[スプリットルシフェラーゼを用いた発光イメージング]
[手順1]
細胞を直径35mmガラスボトムディッシュに、2x10/dishの細胞密度で播種し、5% CO2インキュベーター内で一晩培養した。
【0052】
[手順2]
そして、NI融合遺伝子とMC融合遺伝子、NI融合遺伝子とMC_m融合遺伝子、NI_m融合遺伝子とMC融合遺伝子、NI_m融合遺伝子とMC_m融合遺伝子の組み合せで発現ベクターを混合して、Lipofectamine2000(インビトロジェン(株)製)を用いてトランスフェクションを行い、5% CO2インキュベーター内で一晩培養した。
【0053】
[手順3]
そして、培地中にルシフェリン0.5mM(プロメガ(株)製)を加えて発光顕微鏡LV(LUMINOVIEW)−200(オリンパス(株)製)にセットし、CCDカメラORCA−ER(浜松ホトニクス(株)製)を用いて発光イメージを、画像解析装置110として構成したパーソナルコンピュータに取り込んだ。発光イメージの解析は、画像解析部112cとして機能するMetamorphソフトウェア(ユニバーサルイメージング社製)を用いて行った。ここで、図13〜図16は、各発現ベクターの組合せ(NI+MC,NI_m+MC,NI+MC_m,NI_m+MC_m)を導入したHEK293細胞において取得した発光イメージを示す図である。
【0054】
以上の実験の結果、図12に示すように、NI_mとMCの組合せで導入した場合(図14)では、両方とも野生型であるNIとMCの組合せで導入した場合(図13参照)に比べて、約10分の1倍の発光量を示し、NIとMC_mの組合せ(図15参照)では、両野生型NIとMCの組合せ(図13参照)に比べて約4倍強い発光量を示した。なお、両方とも変異型であるNI_mとMC_mの組合せ(図16参照)では、両野生型NIとMCの組合せと同程度の発光量を示していた。これにより、少なくとも一方の核局在シグナル配列を変異させれば、野生型の組合せ(NI+MC)よりも、それぞれ約10分の1倍、4倍、同程度の感度で測定が可能となり、実験系に応じて感度を調整することが可能となることが判った。
【0055】
例えば、発光量が約4倍高くなる変異型のスプリットルシフェラーゼの組合せを用いれば、細胞質に留まったルシフェラーゼが効率よく再構成され、従来の方法より4倍強いシグナルが得られる。また、発光量が約10倍低くなる変異型のスプリットルシフェラーゼの組合せを用いることによって、従来より10倍弱いシグナルが得られ、発光強度差が過大とならないよう発光強度を調節することができる。
【0056】
以上、本実施例によれば、対象タンパク質が核局在シグナル配列を含む場合であっても、タンパク質間相互作用の動態を精度よく解析することができ、その結果、実験の再現性を改善することができる。
【0057】
[他の実施の形態]
上述した実施の形態においては、主に、分割された発光酵素をスプリットルシフェラーゼとして説明を行ったが、本発明はこれに限られず、スプリットルシフェラーゼに替えてスプリットGFPを用いてもよい。なお、この場合、細胞へのルシフェリン添加に替えて励起光を照射することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかるタンパク質相互作用解析方法、ポリヌクレオチド、および、組成物は、バイオ、製薬、医療など様々な分野で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】発光観察システム100の全体構成の一例を示す図である。
【図2】発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】発光観察システム100の画像解析装置110の構成の一例を示すブロック図である。
【図5】スプリットルシフェラーゼアッセイの検出原理を示す図である。
【図6】作製した融合遺伝子NIの構成を示す図である。
【図7】作製した融合遺伝子NI_mの構成を示す図である。
【図8】作製した融合遺伝子MCの構成を示す図である。
【図9】作製した融合遺伝子MC_mの構成を示す図である。
【図10】MyoD遺伝子の核局在シグナルの野生型および変異型アミノ酸配列を示す図である。
【図11】Id遺伝子の核局在シグナルの野生型および変異型アミノ酸配列を示す図である。
【図12】各発現ベクターを導入した細胞において、ルミノメーターで測定した発光量を示すグラフ図である。
【図13】NI発現ベクターとMC発現ベクターを導入したHEK293細胞において取得した発光イメージを示す図である。
【図14】NI_m発現ベクターとMC発現ベクターを導入したHEK293細胞において取得した発光イメージを示す図である。
【図15】NI発現ベクターとMC_m発現ベクターを導入したHEK293細胞において取得した発光イメージを示す図である。
【図16】NI_m発現ベクターとMC_m発現ベクターを導入したHEK293細胞において取得した発光イメージを示す図である。
【符号の説明】
【0060】
100 発光観察システム
103 容器(シャーレ)
104 ステージ
106 発光画像撮像ユニット
106a 対物レンズ(発光観察用)
106b ダイクロイックミラー
106c CCDカメラ
106d スプリットイメージユニット
106e フィルターホイール
106f 結像レンズ
110 画像解析装置
112 制御部
112a 発光画像撮像指示部
112b 発光画像取得部
112c 画像解析部
112d 解析結果出力部
114 クロック発生部
116 記憶部
118 通信インターフェース部
120 入出力インターフェース部
122 入力装置
124 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内においてタンパク質の相互作用を解析するタンパク質相互作用解析方法であって、
互いに結合することにより発光酵素活性が回復するよう分割させたN末側発光酵素とC末側発光酵素を調整し、前記N末側発光酵素と融合させた一方の前記タンパク質、および、前記C末側発光酵素と融合させた他方の前記タンパク質を含む前記細胞を作製する作製工程と、
前記作製工程で作製した前記細胞に当該細胞外から所定の発光基質を添加する添加工程と、
前記添加工程で前記所定の発光基質が与えられた前記細胞の発光画像を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像した前記発光画像に基づいて、前記細胞内における前記タンパク質の相互作用の動態を解析する解析工程と、
を含み、
前記作製工程において、
少なくとも一方の前記タンパク質の核局在シグナル配列を変異させること、
を特徴とするタンパク質相互作用解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質相互作用解析方法において、
前記作製工程は、
前記核局在シグナル配列のリシン残基および/またはアルギニン残基を、非荷電アミノ酸に置換すること、
を特徴とするタンパク質相互作用解析方法。
【請求項3】
請求項2に記載のタンパク質相互作用解析方法において、
前記非荷電アミノ酸は、アラニンまたはグリシンであること、
を特徴とするタンパク質相互作用解析方法。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質相互作用解析方法において、
一方の前記タンパク質は、野生型Idタンパク質であり、
他方の前記タンパク質は、前記核局在シグナル配列に対応する、アミノ酸番号102番目、104番目、112番目のリシン残基、および、103番目、110番目、111番目のアルギニン残基を、アラニン残基に変異させた変異型MyoDタンパク質であること、
を特徴とするタンパク質相互作用解析方法。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク質相互作用解析方法において、
一方の前記タンパク質は、前記核局在シグナル配列に対応する、アミノ酸番号70番目、81番目、84番目のリシン残基、および、68番目、80番目のアルギニン残基を、アラニン残基に変異させた変異型Idタンパク質であり、
他方の前記タンパク質は、野生型MyoDタンパク質であること、
を特徴とするタンパク質相互作用解析方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載のタンパク質相互作用解析方法において、
前記N末側発光酵素は、ホタルルシフェラーゼのアミノ酸番号1番目から416番目のアミノ酸配列を含むN末側スプリットルシフェラーゼであり、
前記C末側発光酵素は、前記ホタルルシフェラーゼのアミノ酸番号399番目から550番目のアミノ酸配列を含むC末側スプリットルシフェラーゼであること、
を特徴とするタンパク質相互作用解析方法。
【請求項7】
C末側スプリットルシフェラーゼと、核局在シグナル配列を含むMyoDタンパク質と、の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、
前記MyoDタンパク質の前記核局在シグナル配列におけるリシン残基およびアルギニン残基が、アラニン残基またはグリシン残基をコードするよう変異されたこと、
を特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドと、
N末側スプリットルシフェラーゼと野生型Idタンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、
を少なくとも含む組成物。
【請求項9】
N末側スプリットルシフェラーゼと、核局在シグナル配列を含むIdタンパク質と、の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、
前記Idタンパク質の前記核局在シグナル配列におけるリシン残基およびアルギニン残基が、アラニン残基またはグリシン残基をコードするよう変異されたこと、
を特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチドと、
C末側スプリットルシフェラーゼと野生型MyoDタンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、
を少なくとも含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−296973(P2009−296973A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157222(P2008−157222)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】