ターゲット存在物をおとり存在物へ結合させるための装置、および該装置を使用する検出方法
本発明は、a) 中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;b) 該脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックスを含み、上記アンカー複合体の各々が、(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体、および(ii)おとり存在物を含むことを特徴とする装置であって、該装置上に固定させたおとり存在物上にターゲット存在物を結合させるための装置に関する。また、本発明は、検出および製薬目的のような上記装置の種々の使用にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ターゲット存在物をおとり存在物へ結合させるための方法および装置、並びに相応する検出方法に関する。
本発明の上記方法および装置は、産業分野において、種々の目的、例えば、i) ターゲット存在物(例えば、抗原、抗体、細胞タンパク質、細胞膜、リガンド分子、ペプチド、薬物、核酸、糖残留物、脂質等)の存在についてアッセイするための生物医学分析、プロテオミクス、ゲノミクス、バイオセンサーおよびミクロアレー技術において、或いは、ii) 治療上興味ある細胞レセプターに結合する興味ある製剤候補ターゲット分子のような、興味あるターゲット存在物のスクリーニングにおける製剤分析において、或いは、iii) 興味ある治療用分子を必要のある患者の興味あるターゲットレセプター、ターゲット細胞またはターゲット臓器へ伝達するための生物医学および治療用途において使用する。
【背景技術】
【0002】
当該技術においては、おとり存在物、とりわけ興味あるおとり分子、とりわけ、おとり抗体および各種他のおとりレセプタータンパク質またはおとりペプチドのような興味あるおとりタンパク質、とりわけ、診断および薬理学的適合性を有するタンパク質のような生物学的適合性を有するタンパク質へのターゲット存在物、とりわけターゲット分子の結合について改良された検出を可能にする新規な装置および方法が求められている。
とりわけ、当該技術においては、治療上適切なおとり分子、とりわけおとりタンパク質に結合する或いはそれらタンパク質に対して活性であるターゲット候補薬物分子の簡単で低コストの高処理量スクリーニング方法が求められている。
例えば、診断において一般的に使用されているアッセイ法のような、溶液中の分析物の存在についての現行のアッセイ法は、ターゲット分子、とりわけ抗原に対して産生させたおとりレセプター分子、とりわけ抗体の使用を含む。当該技術において既知の多分析物アッセイは、多数のおとりレセプター分子、とりわけ抗体の使用を含み、多ターゲット分析物についてのアッセイを指向している。
結合性アッセイの自動化および/または小型化は、多数のターゲット分子を同時にアッセイすべき場合に必要である。従って、生体分子のアッセイにおいて使用する材料、表面コーティーングおよび検出方法が、当該技術において大いに求められている。
また、当該技術においては、治療上有用な成分、とりわけ興味ある薬物および製薬上活性な分子、とりわけ薬理学および治療的に適合性を有する分子のターゲット存在物、とりわけ興味あるターゲット細胞およびレセプター分子への伝達を可能にし得る新規な方法が求められている。興味ある薬物の興味あるターゲットレセプターまたは興味あるターゲット細胞への伝達についての現行のアッセイ法は、ベクター類、基本的にはウイルスベクターおよび非ウイルスベクター類、とりわけ、合成リポソームおよびポリマー類の使用を含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
興味ある治療用分子のターゲット細胞およびレセプターへの伝達は、問題があり、固定させたおとり存在物が興味あるターゲット存在物に結合するのを可能にするような、特異性おとり存在物のターゲッティングベクターへの制御された固定化を必要とする。
また、小型化生体分子アッセイ装置、とりわけタンパク質アッセイ装置を製造するときに直面する再現性技術問題は、興味ある相応するターゲット分子(1種以上)に対して“おとりレセプター”分子の最大の利用性を確保するようにするための、“おとりレセプター”分子、とりわけ“おとりレセプター”タンパク質の適切な結合に関連している。
おとりレセプター分子をアッセイ基体に結合させるのに利用可能な方法は、1) 該基体表面へのおとり分子またはおとり分子に対してレセプターとして作用する分子の直接の物理的吸着(例えば、酵素免疫吸着測定法、ELISA)、または2) おとり分子を共有または非共有結合させるリンカー分子による基体の表面物質の化学修飾を使用している。
しかしながら、上記結合方法は、種々の技術的欠点を有する。基体表面領域上へおとりタンパク質を直接吸着させると、多くの場合、該おとりタンパク質の構造形態の変化を生じさせ、このおよりタンパク質は、その相応するターゲット分子に対しもはや適切には利用できなくなる。さらに、おとりタンパク質またはおとりタンパク質に対してレセプターとして作用する分子の直接の吸着は、おとりタンパク質の無秩序で制御されていない配向およびおとりタンパク質の制御されていない表面密度をもたらす。
さらに、基体の表面領域とおとりレセプタータンパク質またはおとりタンパク質に対してレセプターとして作用する分子と間での共有結合リンカーの使用は、複雑且つコスト高であり、その後の反応のための適切に配向されたおとり分子の制御されていない密度をもたらす。これらの欠点は、使用するおとりタンパク質物質の初期量の点で、選定した基体上へのおとりタンパク質の正確な結合を低い割合でしかもたらさない。
即ち、当該技術においては、改良された生体分子アッセイ方法、とりわけタンパク質アッセイ方法および相応する装置が求められている。
さらに、当該技術においては、興味ある製剤分子を、必要とする患者のターゲットレセプター、ターゲット細胞、ターゲット組織またはターゲット臓器に伝達するのに有用である新規な装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の目的は、装置上に固定するおとり存在物上にターゲット存在物を結合させるための装置からなり、該装置は、
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
b) 上記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、上記アンカー複合体の各々が、下記を含むことを特徴とする:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシン(Annexin)タンパク質を含む融合複合体 (該アネキシンタンパク質は、上記脂質層に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり分子:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子。
本発明に従う装置においては、上記脂質層は、下記からなる群から選択し得る:
ai) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層を含む、脂質二分子層;
aii) 空気と水溶液間の界面に形成させた脂質単分子層を含む、脂質単分子層;
aiii) 水性コアを囲む1種以上の脂質二分子層を有する小胞からなるリポソームを含む、水溶液中のリポソーム。
【0005】
“融合複合体”とは、本明細書においては、パートナー分子、とりわけ、タンパク質、ペプチドまたは核酸に共有結合させたアネキシンタンパク質成分を含むまたは該タンパク質からなるハイブリッド分子を意図する。上記第2分子がタンパク質またはペプチドである場合、上記アネキシン成分との共有結合は、組換えDNA技術法のよる標準ペプチド結合または化学結合のいずれかによって行い、上記化学結合は、標準ペプチド結合またはタンパク質化学法による任意の他の化学結合のいずれかである。さらに、上記融合複合体においては、上記アネキシンタンパク質は、上記第2分子に直接結合させるか、或いは、スペーサー鎖、とりわけ1〜20個のアミノ酸残基で変動し得るアミノ酸長を有するアミノ酸スペーサー鎖、最も好ましくは親水性アミノ酸残基により上記第2分子から分離するかのいずれかであり得る。
本発明に従う装置においては、アンカー複合体の上記二次元マトリックスは、アネキシンタンパク質とパートナー分子との融合複合体を含有する二次元(2D)タンパク質マトリックスからなり、上記パートナー分子は、好ましくは、タンパク質、ペプチドまたは核酸からなる群から選ばれる。上記2Dタンパク質マトリックスは、特異的で非共有結合による上記脂質層上の上記融合複合体の上記アネキシン成分の集合体に由来する。上記融合複合体は、上記脂質層に指向させて安定に結合させる。
本発明に従う装置においては、上記おとり分子は、上記アンカー複合体の1部であり、上記アンカー複合体は、下記のいずれかからなる:
i) 上記おとり分子が、上記融合複合体のアネキシン成分に融合させるパートナー分子である、上記で定義するような融合複合体;または、
ii) 上記おとり分子を上記融合複合体のパートナー分子に共有または非共有結合させている、上記で定義した融合複合体と上記おとり分子間の複合体;または、
iii) 上記おとり分子を中間分子によって上記融合複合体のパートナー分子に結合させる場合の、上記で定義した融合複合体、おとり分子および中間分子間の複合体;上記中間分子は、上記融合複合体の上記おとり分子およびパートナー分子の双方に結合する。
【0006】
上記脂質層が、下記:
ai) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層;
aii) 空気と水溶液間の界面で形成された脂質単分子層;
である場合、本発明のもう1つの目的は、おとり存在物上へのターゲット存在物分子の結合を検出するための系からなり、この系は、上記で定義したような複数の装置を含む。また、本発明は、おとり存在物分子上へのターゲット存在物分子の結合を検出する方法にも関し、該方法は、下記の工程を含む:
a) 試験すべきサンプルを調製する工程;
b) 上記試験すべきサンプルを上記で定義したような検出装置または検出系と接触させる工程;および、
c) (i) 上記検出装置内または上記検出系内に含ませたおとり存在物(1種以上)と(ii) 上記試験サンプル中に最終的に存在するターゲット存在物間で最終的に形成された複合体を検出する工程。
上記脂質層が、下記:
ai) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層;
aii) 空気と水溶液間の界面で形成された脂質単分子層;
である場合、本発明は、サンプル中のターゲット存在物の存在をアッセイする方法にも関し、下記の工程を含む:
a) アネキシンタンパク質と、上記ターゲット存在物に結合するおとり存在物間のアンカー複合体を調製する工程;
b) 上記サンプルを上記アンカー複合体と混合し、それによって、上記アンカー複合体のおとり成分とターゲット分子間の複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られたアンカー複合体を、最終的には上記ターゲット存在物との複合体の形で、脂質層 (該脂質層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含み、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する)の表面に固定させる工程;
d) 上記アンカー複合体のおとりタンパク質と上記ターゲット存在物 (上記ターゲット存在物が上記サンプル中に存在する場合の)間で形成された複合体を検出する工程。
【0007】
上記脂質層が水溶液中のリポソームである場合、本発明のもう1つの目的は、存在物、とりわけ、薬理学および治療上興味ある薬物および分子をターゲット存在物、とりわけ、興味あるターゲット細胞およびレセプター分子へ伝達するための装置からなる。該装置は、下記:
a) 1層以上の脂質層と、水溶液中に溶解または懸濁させた1種以上の製薬上活性な成分を含有する内部コアとを含むリポソーム;上記脂質層(1層以上)は、1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する;
b) 上記外部脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、上記アンカー複合体の各々は、下記を含むことを特徴とする:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体 (該アネキシンタンパク質は、上記リン脂質に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子。
本発明の説明の全体を通じて、ターゲット存在物、とりわけターゲット分子のおとり存在物、とりわけおとり分子への結合を開示し;上記おとり存在物は、アネキシン成分を含有するアンカー複合体の1部であり;上記アンカー複合体は、脂質層表面に、アネキシンタンパク質と上記脂質層中に含ませた負荷電分子、例えば、負荷電リン脂質との間の特異的相互作用により、配向させた形で安定に結合させた2Dタンパク質マトリックスとして集合させている。本発明は、カルシウムイオンの存在下に負荷電リン脂質を含有する脂質表面上で2D結晶質集合体(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Brisson等、1999年;Oling等、2001年;Reviakine等、1998年)のような高い良好に形成された密度を有する2Dタンパク質マトリックスを形成させるというアネキシンタンパク質、とりわけアネキシン-A5の固有の性質に基づき、上記2Dタンパク質マトリックスは、カルシウム含有緩衝液中で洗浄したとき、安定でほぼ不可逆的に結合している(Govorukhina等、2002年;Oling等、2001年;Richter等、出稿中)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者等は、今回、ターゲット分子に特異的に有効に結合するおとり分子を含む新規な装置を設計した。
さらに詳細には、本発明者等は、ターゲット分子が装置上に固定させているおとり分子に特異的に結合し、該おとり分子を、脂質層に安定結合させているアンカー複合体中に含ませる新規な装置を設計した。
即ち、本発明の新規な装置は、おとり分子のターゲット分子への特異的結合を模索する種々の方法において使用し得る。
ある種の実施態様においては、本発明の新規な装置は、おとり分子とターゲット分子間の特異的結合事象の検出を模索する方法において使用する。そのような実施態様は、上記装置中に含ませたおとり分子に特異的に結合する候補ターゲット分子のスクリーニング方法における本発明に従う装置の使用を含む。
ある種の他の実施態様においては、本発明の新規な装置は、ターゲット細胞の細胞膜において発現するターゲット分子への上記装置内に含ませたおとり分子の特異的結合を模索する方法において使用する。そのような実施態様は、ターゲット細胞への1種以上の治療上有用な分子の伝達を考慮しての、ターゲット細胞の細胞膜上への上記装置の結合を行なうための上記装置の使用を含む。
【0009】
本発明の目的は、装置上に固定させるおとり存在物上にターゲット存在物を結合させるための装置からなり、下記:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
b) 上記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、上記アンカー複合体の各々が、下記を含むことを特徴とする:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、上記リン脂質に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子。
【0010】
即ち、本発明者等は、今回、ターゲット存在物、とりわけターゲット分子の改良された結合および検出方法を実施し得ることを見出しており、下記からなる装置を使用する:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの生理食塩水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
上記脂質層は、下記である:
ai) 脂質二分子層、例えば、固形基体をコーティーングする脂質二分子層;
aii) 脂質単分子層、例えば、空気と水溶液間の界面に形成させた脂質単分子層;
aiii) 水溶液中のリポソーム、例えば、水性コアを囲む1種以上の脂質二分子層を有する小胞からなるリポソーム;
b) アネキシンタンパク質とパートナー分子、とりわけタンパク質、ペプチドまたは核酸間の融合複合体を含有する二次元(2D)タンパク質マトリックス。
上記2Dタンパク質マトリックスは、特異的および非共有結合による上記脂質層上の上記融合複合体の上記アネキシン成分の集合体に由来する。
上記融合複合体は、上記脂質層に指向させて安定結合させる。
c) おとり分子は、上記アンカー複合体の1部であり、上記アンカー複合体は、下記のいずれかからなる:
i) 上記おとり分子が、上記融合複合体のアネキシン成分に融合させるパートナー分子である、上記で定義するような融合複合体;または、
ii) 上記おとり分子を上記融合複合体のパートナー分子に共有または非共有結合させる、上記で定義した融合複合体と上記おとり分子間の複合体;または、
iii) 上記おとり分子を中間分子によって上記融合複合体のパートナー分子に結合させる場合の、上記で定義した融合複合体、おとり分子、並びに上記おとり分子および上記融合複合体のパートナー分子の双方に結合する中間分子間の複合体。
【0011】
ある種の実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記脂質層に非共有結合させる。
ある種の他の実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記脂質層に共有結合させ得る。具体的には、共有結合は、上記脂質層でのアンカー複合体の上記二次元マトリックスの形成の後で上記アンカー複合体と上記脂質層中に含ませた脂質分子との間で生じさせる。当業者であれば、周知の方法を使用して、タンパク質と脂質分子間に共有結合を生じさせ得るであろう。具体的には、共有結合は、アンカー複合体中に含ませた1個以上のリシン残基の、より詳細にはアンカー複合体のアネキシン成分のアルファ-またはイプシロン-基と上記脂質層の脂質分子中に含まれるカルボキシル基との間で生じさせ得る。
用語“存在物”は、本明細書においては、小分子、生物学的分子、並びに、とりわけ細胞、細胞由来の膜小胞およびフラグメント、天然または人工リポソーム、および無機粒子のような超分子集合体を包含するものとする。
本発明によれば、一般に、おとり存在物は、おとりタンパク質、ペプチドまたは核酸からなる。
本発明によれば、上記融合複合体中に含ませた上記アネキシンタンパク質は、好ましくは、アネキシン-A5タンパク質またはアネキシン-A5の修飾形からなる。
本発明者等は、(i) アネキシンタンパク質と(ii) パートナー分子との融合複合体を使用して、該アネキシン融合複合体が、アネキシン-A5タンパク質それ自体の既知の特性を、脂質層上で安定な高密度2Dマトリックスとなる自己集合体に与えることを見出した。
一般に、本発明に従う装置においては、上記パートナー分子は、パートナータンパク質からなる。本明細書全体を通じて、上記パートナータンパク質は、“第2タンパク質”とも称し得る。
【0012】
さらに詳細には、本発明者等は、(i) アネキシン-A5タンパク質と(ii) 第2タンパク質との融合複合体を使用して、該アネキシン融合複合体が、アネキシン-A5タンパク質それ自体の既知の特性を、脂質層上で安定な高密度2Dマトリックスとなる自己集合体に与えることを見出した。
上記融合複合体においては、上記パートナー分子は、一般に、有機化合物、有利には、ポリペプチド、即ち、ペプチドまたはタンパク質からなる。
融合複合体の他の実施態様においては、上記パートナー分子は、無機分子からなり得る。
ある種の実施態様においては、上記脂質層は、脂質二分子層からなる。これらの実施態様は、固形基体をコーティーングする脂質二分子層を包含する。
ある種の他の実施態様においては、上記脂質層は、脂質単分子層からなる。これらの実施態様は、空気と水溶液間の界面に形成された脂質単分子層を包含する。
さらにある種の他の実施態様においては、上記脂質層は、水溶液中のリポソームの外部脂質層からなる。これらの実施態様はリポソームからなる脂質層を包含し、該リポソームは、水性コアを囲む1種以上の脂質二分子層を含む小胞からなる。
【0013】
さらに、本発明者等は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメイン(Loewenadler等、1987年;Nilsson等、1987年)に組換えDNA技術によって融合させたアネキシン-A5タンパク質、またはArg-Gly-Asp (RGD)細胞付着配列を含有するペプチド(RuoslahtiおよびPierschbacher、1987年)に融合させたアネキシン-A5タンパク質のいずれかから調製した融合複合体が、空気-水界面の脂質単分子層上および固形物支持脂質二分子層上で2D結晶を形成させ、これら2D結晶が、アネキシン-A5により形成され且つOling等(2001年)、Reviakine等(1998年)において説明されている2D結晶と同様なp6対称および幾何学特性を示すことを見出した。従って、トリマーの形成およびトリマーの2D結晶に関与するアネキシン-A5の自己集合特性は、アネキシン-A5−ZZ融合複合体において保持されている。
さらにまた、本発明者等は、脂質層上の融合複合体の表面密度を、(i) 融合複合体と(ii) アネキシン分子の混合物を融合複合体分子対アネキシン分子の限定された比率で使用することによって調整し得ることも見出した。とりわけ、脂質層上の融合複合体分子の表面密度は、(i) 融合複合体分子と(ii) アネキシン-A5分子の混合物を融合複合体分子対アネキシン-A5分子の限定された比率で使用することによって調整し得る。
アンカー複合体の脂質結合2D集合体中の融合複合体分子対アネキシン-A5分子の分子比は、前以って形成させた脂質層に添加する出発物質として機能する水性混合物中のこれら分子間の分子比と同じである。従って、上記脂質層上の融合複合体の表面密度は、予測し得、調整可能である。アネキシン-A5の最高表面密度は、〜3.3×1012分子/cm2または〜200ng/cm2である。
本発明に従う装置においては、アンカー複合体の脂質結合2D集合体中の(i) 融合複合体対(ii) 融合していないアネキシン分子の分子比は、1:0〜0:1で変動し得る。しかしながら、上記比は、好ましくは0.5:0.5〜0.01:0.99、より好ましくは0.4:0.6〜0.1:0.99、最も好ましくは0.3:0.7〜0.1:0.9の範囲である。
【0014】
さらにまた、本発明者等は、アネキシン-A5タンパク質のようなアネキシンタンパク質の、カルシウム含有溶液による多数回の洗浄時に偽不可逆的な形でカルシウムイオンの存在下に脂質層に結合する性質が融合複合体およびアンカー複合体の双方において保持されていることも証明している。
さらにまた、本発明者等は、アンカー複合体を脂質層上に結合させた上記2Dタンパク質マトリックスに含ませたとき、上記アンカー複合体のおとり分子が、溶媒相に対し、従って、溶媒相中に含ませ上記おとり分子に結合する性質を有する如何なる分子に対しても高暴露性を示すことも見出している。
さらにまた、本発明者等は、脂質二分子層上のRGD含有ペプチドに結合させたアネキシン-A5からなるアンカー複合体の2Dマトリックスが細胞付着を容易にすることも見出している。
さらにまた、本発明者等は、脂質層上のジスルフィド結合アネキシン-A5 (T163C;C314S)ダイマーを含むアンカー複合体の2Dマトリックスが、負荷電リン脂質を含有するリポソームをカルシウムイオンの存在下に固定させ得ることも見出している。
即ち、本発明によれば、おとりタンパク質を含む新規な結合および検出装置を製造しており、該検出装置は、上述した脂質層上に2Dマトリックスを形成するアネキシン-A5系アンカー複合体の技術的利益に由来する利点を有する。
さらに詳細には、本発明は、おとり分子上へのターゲット分子の結合を検出する装置を開示し、上記おとり分子は、上記装置上に、アネキシン-A5タンパク質とパートナー分子間の上記融合複合体を含む上記アンカー複合体の1部として固定させており、上記融合複合体は上記脂質層上に結合させており、上記脂質層は、i) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層、またはii) 空気-水界面に形成された脂質単分子層のいずれかからなる。
【0015】
既に説明したように、本発明者等は、上記融合複合体のパートナー分子および上記アンカー複合体のおとり分子のそれらの相応するリガンド(1種以上)に対する高利用性が、使用する上記融合複合体の配向結合に基づき存在することを見出している;何故ならば、アネキシン成分は、その凸側表面により脂質層に結合させており、一方、上記パートナー分子およびおとり分子は、脂質層と接触している面と反対のアネキシン成分の面で溶媒に暴露させるからである。
さらに、上記融合複合体の高表面密度は、アネキシンタンパク質を脂質層に結合させたときのアネキシンタンパク質の2D自己集合特性により可能である。
本発明のもう1つの目的は、複数の上述したような検出装置を含む、おとり存在物上へのターゲット存在物分子の結合を検出する装置からなる。
最も好ましくは、本発明によれば、上記アネキシンタンパク質は、アネキシン-A5タンパク質またはアネキシン-A5の修飾形からなる。
第1の好ましい実施態様においては、上記脂質層は、固形基体をコーティーングする脂質二分子層であり;本発明装置の上記固形基体は、該基体が均質な脂質二分子層コーティーングの形成を適切に可能にすることを条件として、種々のタイプであり得る。本発明に従う装置の上記第1の実施態様においては、上記固形基体は、装置の1部である。
好ましくは、上記固形基体は、雲母、シリカ、シリコン、無機ガラスおよび金からなる基体群から選択する。
雲母基体としては、JBG-Metafix社(フランス国モンジジエ)から、標章“白ルビー雲母、品質Clear-Scratch-Less CLSS”として販売されているような白雲母が好ましい。
シリカ基体としては、Q-Sense社(スウェーデン国ゴテンブルグ)から販売されているもののようなシリカコーティーング石英結晶が好ましい。
シリコン基体としては、CEA社(フランス国グルノーブル)から販売されているもののようなシリコンウェハーが好ましい。
無機ガラスとしては、Fisher Scientific社(米国ペンシルベニア州ピッツバーグ)から販売されているもののような顕微鏡カバーガラスが好ましい。
【0016】
本発明に従う“脂質層”は脂質分子を含む層からなり、この層は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する。即ち、上記脂質層は、上記脂質層に中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える1種以上の化合物を含む。中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える化合物(1種以上)は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する任意の化合物からなり得る。脂質層のある種の実施態様においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える化合物は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有するリン脂質からなる。ある種の実施態様においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える化合物は、ポリリン酸塩含有分子、ヘパリン分子のようなポリ硫酸塩含有分子またはヘパリンの任意のポリ硫酸塩含有誘導体のような、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有するポリマー類からなる。
本発明に従う“脂質単分子層”とは、上記で定義したような単一脂質層を意図する。ある種の実施態様においては、上記脂質単分子層は液媒と空気の界面に位置させ、上記液媒は、好ましくは、水または食塩水溶液もしくは任意の緩衝剤水溶液を含ませた水または任意の他の水溶液のような水性または親水性液媒からなる。
本発明に従う“脂質二分子層”とは、上記で定義したような2層の脂質層を含み、これら2層の脂質層が非共有相互作用により互いに結合している二分子層を意図する。
ある種の実施態様においては、上記脂質二分子層は、それぞれ、下記からなる2つの脂質層を含む:
(i) (i)1種以上の両親媒性分子、最も好ましくは1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層からなる第1分子層;上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し;上記脂質層は、一面で本発明の装置の固形基体に、反対面で二分子層の第2分子層に非共有結合している;および、
(ii) (i)1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層からなる第2分子層;上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し;上記脂質層は、一面で上記第1分子層に非共有結合しており、上記脂質層の反対面は、溶媒に暴露させ、融合複合体のアネキシン成分の親和性により結合させる。
【0017】
脂質層の第1の好ましい実施態様においては、上記脂質層は、(i)1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層を含むかまたはそれらの層からなりさえし、上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する。中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する好ましいリン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類である。
脂質層のこの第1の好ましい実施態様においては、上記脂質層は、C14のまたはより長鎖の、例えば、C16、C18、C20のアルキルまたはアルケニル鎖を有する両親媒性分子を含むかまたはそれらの分子からなりさえする。好ましい両親媒性分子は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類、N-[1-(2,3-ジオレオキシルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルスルフェート(DOTAP)のような脂質分子である。
上記で定義したような2つの分子層を含む脂質二分子層を使用する場合、上記第1分子層を、固形基体と相互作用する脂質の親水性部分によって配向させ、脂質の疎水性鎖の先端を上記第2分子層の疎水性鎖の先端と結合させる。脂質二分子層の上記第1の実施態様は、使用する固形基体が雲母、シリカ、シリコンまたは無機ガラスからなる場合にとりわけ適切である。
【0018】
“負の正味電荷を有するリン脂質”とは、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(POPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(POPG)、カルジオリピン類、または脳脂質抽出物のようなこれらの混合物のような天然または合成リン脂質を意図する。
また、スルファチド類のような負荷電性脂質も、負の正味電荷を有するリン脂質に代えて使用し得る。
中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質は、上記脂質層に、上記融合複合体のアネキシン成分に結合する性質を付与する。とりわけ、アネキシン、とりわけアネキシン-A5は、高親和性でもって、ホスホセリン基を含有するそのような脂質にカルシウムイオンの存在下に結合する。
最も好ましくは、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記リン脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DMPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)およびカルジオリピンからなる群から選択する。最も好ましくは、DOPSを使用する。
脂質層においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質の含有量は、上記脂質層の総質量基準で、2質量%〜100質量%、有利には20質量%〜40質量%で変動する。
当業者であれば、上記負荷電リン脂質中の脂質層の含有量を、使用する固形基体に応じて適応させることは可能であろう。例えば、上記負荷電リン脂質の含有量は、雲母を固形基体として使用する場合、脂質層の総質量基準で、好ましくは20質量%〜100質量%で変動する。もう1つの具体的な例においては、上記負荷電リン脂質の含有量は、シリカを固形基体として使用する場合、脂質層の総質量基準で、好ましくは20質量%〜30質量%で変動する。
脂質層内の負荷電リン脂質の含有量が上記の下限範囲よりも低い場合、低い密度を有する融合複合体の2Dマトリックスが得られ、高検出感度を与える検出装置の製造を妨げ得る。
【0019】
脂質層に含ませる他の脂質は、種々の適切なタイプのリン脂質であり得る。これらの他のリン脂質は、好ましくは、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチンのようなレシチン類からなる群から選択する。
最も好ましい実施態様においては、とりわけ雲母、シリカ、シリコンまたは無機ガラスを固形基体として使用する場合、脂質層は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)の混合物からなる。
上記第1の好ましい実施態様によれば、脂質二分子層は、上述の脂質類によって形成された脂質小胞を固形基体上に付着させることによって形成させ、上記脂質小胞は、とりわけ、実施例5-1において説明しているような超音処理により調製する。一般に、当業者であれば、予め形成させたリン脂質小胞から脂質二分子層を形成させるための適切な技術的プロトコールを、KellerおよびKasemo (1998年);Richter等 (2003年);RichterおよびBrisson (2003年);および、RichterおよびBrisson (2005年)の論文において見出すであろう。
既に上記で詳述したように、本発明に従う装置のある種の実施態様においては、上記脂質層は、固形基体上に吸着させるか、或いはリン脂質二分子層に結合させたアネキシン-A5 (T163C;C314S)のジスルフィド結合複合体から調製した融合複合体の2Dマトリックスへ結合させるかしたリン脂質小胞の層からなる。
別の実施態様においては、上記脂質二分子層は、負荷電性ポリマー、ポリリン酸塩含有分子、ヘパリン分子のようなポリ硫酸塩含有分子で置換える。
さらにもう1つの実施態様においては、上記脂質二分子層は、ポリマー分子のクッションまたは層によって固形基体から分離する(SackmannおよびTanaka、2000年)。
【0020】
前記で詳述したように、脂質層のある種の実施態様は、空気と水溶液の界面の脂質単分子層からなる。
本発明に従う脂質単分子層の特定の実施態様においては、上記脂質単分子層は、(i) 1種以上の両親媒性分子、最も好ましくは1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層からなる単分子層からなり、上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し、上記脂質単分子層は、空気と水溶液の界面に形成させ、溶媒に暴露させて、上記融合複合体のアネキシン成分に結合させる。
脂質単分子層の第1の好ましい実施態様においては、上記脂質単分子層は、(i)1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層を含むかまたはそれらの層からなりさえし、上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する。中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する好ましいリン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類である。
脂質単分子層のこの第1の好ましい実施態様においては、上記脂質単分子層は、C14のまたはより長鎖の、例えば、C16、C18、C20のアルキルまたはアルケニル鎖を有する両親媒性分子を含むかまたはそれらの分子からなりさえする。好ましい両親媒性分子は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類、N-[1-(2,3-ジオレオキシルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルスルフェート(DOTAP)のような脂質分子である。
上記第1の好ましい実施態様によれば、上記脂質単分子層は、配向させて、脂質の親水性部分を水溶液に対して暴露させ、脂質の疎水性鎖を空気に対して暴露させる。
【0021】
“負の正味電荷を有するリン脂質”とは、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(POPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(POPG)、カルジオリピン類、または脳脂質抽出物のようなこれらの混合物のような天然または合成リン脂質を意図する。
また、スルファチド類のような負荷電性脂質も、負の正味電荷を有するリン脂質に代えて使用し得る。
中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質は、上記脂質単分子層に、上記融合複合体のアネキシン成分に結合する性質を付与する。とりわけ、アネキシン、とりわけアネキシン-A5は、高親和性でもって、ホスホセリン基を含有するそのような脂質にカルシウムイオンの存在下に結合する。
最も好ましくは、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記リン脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DMPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)およびカルジオリピンからなる群から選択する。最も好ましくは、DOPSを使用する。
【0022】
上記脂質単分子層においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質の含有量は、上記脂質単分子層の総質量基準で、2質量%〜100質量%、有利には20質量%〜40質量%で変動する。
当業者であれば、上記負荷電リン脂質中の脂質単分子層の含有量を、状況に応じて変化させることは可能であろう。例えば、上記負荷電リン脂質の含有量は、脂質単分子層の総質量基準で、好ましくは20質量%〜100質量%で変動する。
上記脂質単分子層内の負荷電リン脂質の含有量が上記の下限範囲よりも低い場合、低い密度を有する融合複合体の2Dマトリックスが得られ、高検出感度を与える検出装置の製造を妨げ得る。
上記脂質単分子層に含ませる他の脂質は、種々の適切なタイプのリン脂質であり得る。これらの他のリン脂質は、好ましくは、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチンのようなレシチン類からなる群から選択する。
最も好ましい実施態様においては、上記脂質単分子層は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)の混合物からなる。
【0023】
本発明によれば、上記融合複合体のアネキシン成分の主たる有益な性質は、リン脂質表面上に高密度2Dタンパク質マトリックスを形成する能力並びに上記2Dタンパク質マトリックスを上記リン脂質表面上に安定結合させるという事実である。さらに、アネキシン-A5および数種の、アネキシン-A4およびアネキシン-A12のような他のアネキシン類が示すようなトリマーとしての自己集合性およびトリマーをベースとする2D結晶質集合体は、アンカー複合体の表面密度の認識と調整を与えることのようなさらなる利点を提供する。アネキシン-A5が好ましい。
当該技術において広く知られているように、アネキシン-A5は、4個のアネキシン繰返し相同性ドメインを含む(Huber等、1990年;Concha等、1993年)。また、アネキシン類は、高親和性をもって、負荷電リン脂質を含有する脂質表面にカルシウムイオンの存在下に結合することも知られている(Tait等、1989年;BlackwoodおよびErnst、1990年;Pigault等、1994年;Meers、1996年)。アネキシン-A5は、アネキシン-A5トリマーとしておよびアネキシン-A5トリマーから形成された2D結晶質配列体として、空気-水界面の脂質単分子層のレベル(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Brisson等、1999年)で、さらに、雲母上形成させた固形物支持リン脂質二分子層のレベルで(Reviakine等、1998年;RichterおよびBrisson、2005年)で自然に自己集合する(図5-2、5-3A)。また、アネキシン-A5は、シリカコーティーングシリコン基体上に形成させた固形物支持リン脂質二分子層上で緊密充填2D自己集合体を形成することも知られている(RichterおよびBrisson、2003年;Richter等、2005年) (図5-3B)。
【0024】
“アネキシン”タンパク質とは、本明細書においては、アネキシン-A1、アネキシン-A2、アネキシン-A3、アネキシン-A4、アネキシン-A5、アネキシン-A6、アネキシン-A7、アネキシン-A8、アネキシン-A9、アネキシン-A12、アネキシン-A、アネキシン-B、アネキシン-Cおよびアネキシン-D、並びに任意のこれらの“官能活性”タンパク質誘導体からなる群から選ばれるタンパク質を意図する。
“アネキシン-A5”タンパク質とは、本明細書においては、クマネズミ類、人類、ハツカネズミ類、野鶏類および反芻類からなる群から選ばれた種に由来するアネキシン-A5のようなアネキシン-A5群のタンパク質、並びに任意のこれらの“官能活性”タンパク質誘導体を意図する。
本発明に従うアネキシンタンパク質の“官能活性”誘導体とは、任意の天然産生アネキシンタンパク質に由来し且つリン脂質層、とりわけリン脂質二分子層に安定結合させるアネキシン成分の高密度2D緊密充填集合体の形成を可能にする任意のタンパク質を包含する。
また、アネキシンタンパク質の官能活性誘導体は、参照タンパク質として使用する天然産生の相応するアネキシンのアミノ酸配列に関して1個以上のアミノ酸残基の違いを有するタンパク質も包含する。また、アネキシンタンパク質の官能活性誘導体は、参照アネキシン-A5タンパク質と比較して、1個以上のアミノ酸残基の負荷、置換または欠落を含み且つこれらの修飾がリン脂質二分子層に安定結合させるアネキシン成分の高密度2D緊密充填配列の形成を変化させないタンパク質も包含する。
アネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体の特定の実施態様は、下記の実施例において例示しており、該官能活性誘導体は、ドブネズミ(Rattus norvegicus)由来の天然産生アネキシン-A5タンパク質に由来する変異体化[T163C;C314S]アネキシン-A5タンパク質である。
【0025】
クマネズミ類、人類、ハツカネズミ類、野鶏類および反芻類に由来するアネキシン-A5タンパク質の群のうちで最低の相同性アネキシン-A5タンパク質は、77%のアミノ酸同一性を共有する。
好ましくは、本発明に従うある融合複合体の1部であるアネキシンタンパク質成分は、相応する天然産生アネキシンタンパク質に対して少なくとも50%のアミノ酸同一性を有する。より好ましくは、上記アネキシンタンパク質成分は、相応する天然産生アネキシンタンパク質に対して、少なくとも77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有する。具体的な例としては、一般に、唯一の修飾が最初の繰返し領域の前のN-末端配列および4番目の繰返し領域の後のC-末端配列の欠落からなるアネキシン官能活性誘導体は、相応する天然産生アネキシンタンパク質に対して約90%のアミノ酸配列同一性を有する。
2つのアミノ酸配列間の同一性の割合を判定するには、配列を最適比較目的において位置合せする。例えば、間隙を第1および第2アミノ酸配列の一方または双方に最適位置合せのために導入し、非相同性配列は、比較目的において無視し得る。
最適比較目的において、2つのアミノ酸配列の同一性パーセントを、CLUSTAL W (バージョン 1.82)により、下記のパラメーターによって判定し得る:
(1) CPU MODE=ClustalW mp;(2) ALIGNMENT=“full”;(3) OUTPUT FORMAT=“aln w/numbers”;(4) OUTPUT ORDER =“aligned”;(5) COLOR ALIGNMENT =“no”;(6) KTUP (word size) =“default”;(7) WINDOW LENGTH=“default”;(8) SCORE TYPE=“percent”;(9) TOPDIAG =“default”;(10) PAIRGAP =“default”;(11) PHYLOGENETIC TREE/TREE TYPE=“none”;(12) MATRIX=“default”;(13) GAP OPEN=“default”;(14) END GAPS=“default”;(15) GAP EXTENSION=“default”;(16) GAP DISTANCES=“default”;(17) TREE TYPE=“cladogram”;および、18) TREE GRAP DISTANCES=“hide”。
【0026】
本発明の融合複合体中に含ませ得るとりわけ好ましいアネキシン-A5成分は、SEQ ID No.1〜SEQ ID No.5のアミノ酸配列からなる群から選ばれたアネキシン-A5タンパク質、またはこれらの官能活性誘導体からなる。
SEQ ID No.1〜SEQ ID No.5のアネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体に包含されるタンパク質群を具体的に定義するためには、以下の配列の下記の特性に留意すべきである。
SEQ ID No.1のラットアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 20〜80、(ii) 92〜152、(iii) 176〜236および(iv) 251〜311。
SEQ ID No.2のマウスアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 21〜81、(ii) 93〜153、(iii) 177〜237および(iv) 252〜312。
SEQ ID No.3のヒトアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 22〜82、(ii) 94〜154、(iii) 178〜238および(iv) 253〜313。
SEQ ID No.4のウシアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 22〜82、(ii) 94〜154、(iii) 178〜238および(iv) 253〜313。
SEQ ID No.5のニワトリアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 23〜83、(ii) 95〜155、(iii) 179〜239および(iv) 254〜314。
上記で定義したようなアネキシン-A5成分の具体的な実施態様は、本発明に従う1つの融合複合体に含ませるラット由来変異体化[T163C;C314S]アネキシン-A5タンパク質、即ち、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインに融合させたラットアネキシン-A5からなる本発明におけるSEQ ID No.6の融合複合体からなる。
【0027】
既に本明細書において説明しているように、本発明の融合複合体に含ませるアネキシンタンパク質は、アネキシン-A5以外の他のアネキシン類も包含し、アネキシン-1 (SEQ ID No.7)、アネキシン-2 (SEQ ID No.8)、アネキシン-3 (SEQ ID No.16)、アネキシン-4 (SEQ ID No.10)、アネキシン-6 (SEQ ID No.9)、アネキシン-7 (SEQ ID No.12)、アネキシン-8 (SEQ ID No.11)、アネキシン-9 (SEQ ID No.18)、アネキシン-A (SEQ ID No.17)、アネキシン-B (SEQ ID No.15)、アネキシン-C (SEQ ID No.13)およびアネキシン-D (SEQ ID No.14)、並びに任意のこれらの官能活性誘導体からなる群から選択し得る。
“融合複合体”とは、本明細書においては、本明細書において“パートナー分子”とも称する第2成分、とりわけ、タンパク質、ペプチドまたはオリゴヌクレオチドに共有結合させたアネキシンタンパク質成分を含むまたはそれからなるハイブリッド分子を意図する。上記パートナー分子がタンパク質またはペプチドである場合、上記アネキシン成分との共有結合は、組換えDNA技法による標準ペプチド結合または化学結合のいずれかによって実施し、その化学結合は、図6および7に例示しているように、タンパク質化学法による標準ペプチド結合または他の任意の化学結合である。さらに、上記融合複合体においては、アネキシンタンパク質は、上記第2分子に直接結合させてもよく、或いは、上記第2分子から、スペーサー鎖、とりわけ、1〜20個のアミノ酸残基で変動し得るアミノ酸長を有するアミノ酸スペーサー鎖、最も好ましくは親水性アミノ酸残基によって分離してもよい。
本明細書において定義するような組換えDNA技法により形成させた融合タンパク質においては、アネキシン成分は、そのアミノ酸配列のN-末端或いは対照的にC-末端のいずれかに位置させる。
1つの好ましい実施態様においては、アネキシン成分は、上記融合タンパク質のN-末端に位置させ、この場合、第2タンパク質は、上記融合タンパク質のC-末端に位置させる。
【0028】
上記アネキシン成分と第2タンパク質間のタンパク質化学法によって産生させた融合複合体の具体的な例は、架橋剤のSPDP (N-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルチオ)プロピオネート)によって得られる。
既に本明細書において説明しているように、本発明に従う装置においては、使用するおとり分子は、1種以上のターゲット分子に対して親和性を有し、そのターゲット分子の存在を試験すべきサンプル中で模索する。
既に説明しているように、上記おとり分子は、アネキシンタンパク質とパートナー分子、とりわけ第2タンパク質との融合複合体を含むまたはそれからなるアンカー複合体の1部として装置上に固定させる。
1つの実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記融合複合体から専らなり、この実施態様においては、アネキシン-A5タンパク質と融合させるパートナー分子は、おとり分子自体からなり、この場合、上記おとり分子は、おとりタンパク質からなる(図2、モード1)。
もう1つの実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記融合複合体に含ませるパートナー分子、例えば、パートナータンパク質を上記おとり分子に直接または間接的に非
共有結合させている上記融合複合体を含む。上記融合複合体に含ませるパートナー分子は、該おとり分子を上記第2タンパク質と単純に非共有結合させる場合に、上記おとり分子に直接非共有結合させる(図2、モード2)。
さらにもう1つの実施態様においては、上記融合複合体に含ませるパートナー分子、例えば、パートナータンパク質は、上記おとり分子に、上記おとり分子を中間タンパク質に結合させている場合に間接的に非共有結合させ、上記中間タンパク質自体は、上記融合複合体に含ませる第2タンパク質に直接または間接的に非共有結合させている(図2、モード3)。
上記各実施態様においても、おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
【0029】
本発明に従う装置の好ましい実施態様においては、アネキシンタンパク質と第2タンパク質との融合複合体において、上記第2タンパク質は、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質からなる。
好ましくは、抗体のFc成分に対して親和性を有する上記タンパク質は、Uhlen等(1990年)に説明されているもののような黄色ブドウ球菌由来のプロテインAの1部と同類のZZドメインからなる。さらに好ましくは、抗体のFc成分に対して親和性を有する上記タンパク質は、Elliasson等(1988年)によって説明されているもののようなブドウ球菌種由来のGタンパク質またはブドウ球菌種由来のGタンパク質の1部からなる。
この好ましい実施態様によれば、抗体のFc成分に対して親和性を有する上記タンパク質は、上記おとり分子であり得、この場合、上記検出装置は、試験すべきサンプル中の抗体の存在の検出を可能にする。
さらに、この好ましい実施態様によれば、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質からなる第2タンパク質は、上記おとり分子からなるものではなく、この場合、上記おとり分子は、(i) 上記第2タンパク質上に直接結合させた抗体(図3、モード2A)、または(ii) おとり結合性中間分子、とりわけおとり特異性抗体(図3、モード3A)に結合させた興味あるおとり分子(図3、モード3)のいずれかであり得、上記おとり結合性中間分子は上記第2タンパク質に直接結合している(図3、モード3A)。
本発明に従う装置のもう1つの好ましい実施態様においては、アネキシンタンパク質と第2タンパク質との融合複合体において、上記第2タンパク質は、抗体の相補性決定領域(CDRS)を含む抗体フラグメントからなる。
この好ましい実施態様によれば、上記抗体フラグメントは、上記おとり分子自体からなり得、この場合、上記検出装置は、上記抗体フラグメントと親和性を有するターゲット分子の検出を可能にする。
さらに、この好ましい実施態様によれば、上記抗体フラグメントは、おとり特異性抗体フラグメントからなり、該抗体フラグメントにおとり分子を直接非共有結合させる。
この好ましい実施態様の好ましい局面においては、上記抗体フラグメントは、親抗体に由来するFabまたは単鎖可変フラグメント(scFv)からなる群から選択する。
【0030】
本発明に従う検出装置のさらにもう1つの好ましい実施態様においては、アネキシンタンパク質と第2タンパク質との融合複合体において、上記第2タンパク質は、そのようにおとりタンパク質からなる上記おとり分子からなる。
本発明に従う検出装置のもう1つの好ましい実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシン-A5タンパク質とおとり特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントとの融合複合体;および、(ii) 上記融合複合体の上記おとり特異性抗体フラグメントに非共有結合させたおとり分子からなる。上記おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質と抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;および、(ii) 上記融合複合体上にそのFcドメインによって非共有結合させている抗体からなり、上記抗体はおとり分子である。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質と抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;(ii) 上記融合複合体上にそのFcドメインによって非共有結合させたおとり特異性抗体;および、(iii) 上記おとり特異性抗体上に非共有結合させた上記おとり分子からなる。上記おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質とおとりタンパク質であるタンパク質との融合複合体からなる。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質とおとり分子に対して親和性を有する第2タンパク質との融合複合体;および、(ii) 上記第2タンパク質に結合させたおとり分子からなる。上記おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
【0031】
好ましくは、本発明に従う検出装置においては、上記おとり分子は、生物学的分子、その誘導体およびその集合体からなる群、有機分子の群、ポリマー類の群、並びに無機分子およびその凝集物の群から選択する。
最も好ましくは、本発明に従う検出装置においては、上記おとり分子は、抗原特異性抗体、病原体特異性抗体、腫瘍細胞特異性抗体、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、脂質結合性タンパク質、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、増殖因子、ホルモン、薬物、オリゴヌクレオチド、核酸、糖残基、脂質、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選択する。
当業者であれば、本発明に従う融合複合体は、とりわけ融合タンパク質をコード化する発現ベクターの製造における周知の組換えDNA技法により、全く容易に製造し得るであろう。
タンパク質産生の組換え遺伝子操作を開示している一般的方法については、当業者であれば、とりわけSambrook等(1989年)の参考書を参照し得る。また、当業者であれば、Ausubel等(1989年)の参考書も参照し得る。
【0032】
本発明に従う装置を製造するのに使用し得る融合複合体の産生、即ち、SEQ ID No.1のアネキシン-A5タンパク質と黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインを含む融合タンパク質の産生の具体的な実施態様は、本明細書の実施例において提示している。
実施例1において例示している融合複合体の特定の実施態様においては、二重変異を有するSEQ ID No.1のアネキシン-A5成分[T163C;C314S]と第2タンパク質成分(ZZドメイン)を、最終組換え融合タンパク質におけるペプチド結合により、一緒に共有結合させている。
即ち、本発明装置の1つの好ましい実施態様においては、アネキシン成分と、パートナー分子、例えば、第2タンパク質成分を標準ペプチド結合によって一緒に共有結合させる。
上記融合複合体の1つの特定の実施態様においては、この融合複合体は、組換えタンパク質からなる。
本発明装置のもう1つの実施態様においては、上記融合タンパク質は、実施例2において例示しているように、ペプチド結合以外の共有結合によってパートナー分子、例えば、第2タンパク質成分に化学共有結合させたアネキシンタンパク質からなる。
このさらなる実施態様は、アネキシン-A5 [T163C;C314S]成分と第2タンパク質間の該アネキシン-A5成分中に取込ませたシステイン残基と第2タンパク質にグラフトさせたシステイン反応性基による化学架橋によって明白に例示している。そのような特定の実施態様においては、アミノ酸位置314に存在するシステイン残基をセリン残基で置換し、且つアミノ酸位置163に存在するスレオニン残基をシステイン残基で置換したSEQ ID No.1のアネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体を使用し得る。任意のタンパク質へのシステイン反応性基のグラフト化は、当業者にとって周知の方法に従い、ヘテロ二官能性架橋試薬によって実施する。タンパク質化学によるタンパク質の化学修飾を開示している一般的な方法については、当業者であれば、とりわけ、Wong (1991年)の参考書を参照し得る。
このように、本発明に従う検出装置の特定の実施態様においては、アネキシン-A5タンパク質と第2タンパク質を、アネキシン-A5タンパク質のシステイン残基と第2成分にグラフトさせたシステイン反応性基間の化学結合によって一緒に共有結合させている。
【0033】
本発明に従う装置のある種の好ましい実施態様においては、上記装置は基体を含み、上記脂質層を該基体上にコーティーングする。
これらの好ましい実施態様によれば、上記基体は、固形基体からなる。
固形基体は、好ましくは、雲母、シリコン、無機ガラスおよび金からなる群から選択する。
他の好ましい実施態様においては、上記基体は、液媒の空気-液体界面からなる。
容易に理解し得るように、本発明に従う装置の上記一般的な説明に続いて、該装置は、ターゲット分子スクリーニング手段の高レベルの小型化を可能にし、好ましくは、アッセイサンプル中の複数ターゲット分子または複数おとり分子を使用する1つのターゲット分子のいずれかの存在についての同時スクリーニング用のバイオチップとして使用する。
従って、本発明は、アンカー複合体中に含ませるおとり分子を2タイプ以上含む系、即ち、アンカー複合体中に含ませるおとり分子の収集体にも関する。
即ち、本発明は、上記系が複数の上記で定義したような検出装置を含む、ターゲット分子のおとり分子上への結合を検出する系にも関する。
好ましくは、上記検出系においては、上記複数の検出装置の各々の検出装置は、独自のおとり分子、とりわけ独自のおとりタンパク質を含む。2種以上の所定のおとり分子が、試験すべきアッセイサンプル中に存在する2種以上のターゲット分子に対して特異的に結合し得ることに留意すべきである。
好ましくは、上記検出系においては、検出系に含ませる2つの異なる検出装置は、異なるおとり分子、とりわけ異なるおとりタンパク質を含む。本発明の主題である各検出装置、とりわけ、上記で定義したような検出系に含ませる各検出装置は、固形基体を、この固形基体から形成させた粒子の形で或いはこの固形基体でコーティーングした粒子の形で含み得る。
本発明に従う装置のもう1つの実施態様においては、上記固形基体は、固形粒子の集合体の形にある。本発明の装置のこの特定の実施態様においては、上記粒子、好ましくはシリカ粒子、シリカコーティーング粒子またはガラスビーズを、既に上記で定義した種類の脂質二分子層(Mornet等、2005年)でコーティーングし、その上に、本発明のアンカー複合体を結合させる。
好ましくは、この特定の実施態様によれば、装置の1部である各粒子またはビーズは、これら粒子またはビーズに結合した、1つの所定のタイプのおとりタンパク質の多数の分子を含有する。
【0034】
バイオチップの形で製造する本発明に従う検出形の具体的な例は、1連のおとり分子を含む1連のアンカー複合体を含む系からなり、これら1連のおとり分子は1連の異なるターゲット特異性抗体からなり、各ターゲット特異性抗体は、異なる特異性抗原に対しておよび/または所定の抗原の異なるエピトープに対して特異性であって、相応するターゲット特異性抗体によって認識される1種以上の抗原からなる1種以上のターゲット分子の存在についてアッセイサンプルをスクリーニングする。
本発明に従う装置または検出系は、治療上興味あるターゲット分子のような生物学的興味のあるターゲット分子のあらゆるスクリーニング方法を含む、アッセイサンプル中に含まれるターゲット分子の結合をアッセイする方法を実施するのに使用する。
即ち、本発明のさらなる目的は、ターゲット分子のおとり分子上への結合を検出する方法からなり、該方法は、下記の工程を含む:
a) 試験すべきサンプルを調製する工程;
b) 上記試験すべきサンプルを上記で定義したような検出装置とまたは検出系と接触させる工程;および、
c) (i) 上記検出装置内または上記検出系内に含ませたおとり分子(1種以上)と(ii) 上記試験サンプル中に最終的に存在するターゲット分子(1種以上)間で最終的に形成された複合体を検出する工程。
また、本発明は、下記の工程を含む、サンプル中のターゲット分子の存在をアッセイする方法にも関する:
a) アネキシンタンパク質と上記ターゲット分子に結合するおとり分子との融合複合体を調製する工程;
b) 上記サンプルを上記融合複合体と混合し、それによって、上記融合複合体のおとり成分とターゲットとの複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られた融合複合体を、最終的には上記ターゲット分子との複合体の形で、固形基体をコーティーングしているリン脂質二分子層(該リン脂質二分子層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含み、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する)の表面上に固定させる工程;
c) 上記融合複合体のおとり成分と上記ターゲット分子(上記ターゲット分子が上記サンプル中に存在する場合の)との間で形成された複合体を検出する工程。
【0035】
また、本発明は、下記の工程を含む、サンプル中のターゲット分子の存在をアッセイする方法にも関する:
a) 上記ターゲット分子に結合するおとり分子を調製する工程 (該おとり分子は、i) アネキシンタンパク質との融合複合体の1部、ii) アネキシン-A5融合複合体の1部である第2分子に結合する分子、iii) アネキシン-A5融合複合体の1部である第2分子にそれ自体で結合する中間分子に結合する分子であり得る);
b) 上記サンプルを上記おとり分子と混合し、それによって、上記おとり成分とターゲット分子との複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られた融合複合体を、最終的には上記ターゲット分子との複合体の形で、脂質層の表面に固定させる工程 (上記脂質層は、i) 固形基体をコーティーングしている脂質二分子層、またはii) 空気と水溶液間の界面に形成させた脂質単分子層のいずれかであり;上記脂質層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含み、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する);
d) 上記アンカー複合体の上記おとり成分と上記ターゲット分子(上記ターゲット分子が上記サンプル中に存在する場合の)との間で形成された複合体を検出する工程。
上記方法の好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質を含み、上記抗体は、おとりタンパク質またはおとり特異性抗体のいずれかであるか、或いは上記おとり分子に結合する分子に対して特異性である。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインからなるタンパク質を含む。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、ブドウ球菌由来のGタンパク質からなるタンパク質を含む。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、ターゲット特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントからなるおとりタンパク質を含む。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、おとり特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントを含む。
【0036】
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、オリゴヌクレオチド、核酸、糖残基、脂質、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選ばれたおとり分子を含む。
1つの例示としての実施態様においては、ターゲット分子の検出、定量および特性決定は、質量分析により或いは蛍光法、偏光解析法、QCM-D、表面プラスモン共鳴法のような公知の表面感受性方法の1つにより実施する。
もう1つの例示としての実施態様においては、ターゲット分子の検出、定量および特性決定は、ターゲット特異性抗体を使用することによって実施し、該ターゲット特異性抗体は、アッセイ方法を実施する前に標識化する。
そのような特定の実施態様においては、本発明の装置のおとり分子(1種以上)とターゲット分子(1種以上)間で形成された複合体の検出、定量または特性決定は、最終的に上記装置に結合する検出可能な分子を検出することによって実施する。
【0037】
上記検出可能な分子は、3[H]、14[C]、125[I]または32[P]のような放射性アイソト−プであり得る。また、検出可能な分子は、小蛍光染料分子または緑色蛍光タンパク質(GFP)群のタンパク質のような蛍光分子であり得る。検出可能な分子は、周知のβ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンステラーゼまたはカタラーゼのような酵素であり得る。当該技術において広く使用されている如何なる他の通常の検出可能分子も、本明細書においては、本発明のアッセイ方法に従って使用し得る検出可能な分子に包含される。
検出工程のもう1つの実施態様としては、おとり分子(1種以上)とターゲット分子(1種以上)間で形成された複合体の検出、定量または特性決定を、興味ある特異性ターゲット分子(その存在をアッセイサンプルにおいて模索する)の対して特異性の抗体を使用して実施する。
検出工程の更なる実施態様においては、おとり分子(1種以上)とターゲット分子(1種以上)間で形成された複合体の検出、定量または特性決定は、実施例5および図10〜14において例示しているように、散逸モニタリングによる水晶振動子微量天秤(QCM-D)法を使用して実施する。
【0038】
上記の明細から明らかなように、本発明のアッセイ装置および方法は、従来技術の装置および方法におけるそのような有利な組合せにおいては見出し得ない多くの技術的利点を集結している。
第1に、本発明者等が着想した本発明のアッセイ装置は、容易に且つ再現可能に製造することができる。例えば、固形基体上の脂質二分子層または空気-水界面の単分子層の製造、およびこれら層への融合複合体の高密度マトリックスの形成は、1時間以内で実施し得る。
第2に、既に上記で説明したように、脂質層上でのアネキシン-A5成分の制御された配向により、興味あるおとりタンパク質の溶媒への適切な暴露が可能になり、分析すべきアッセイサンプルに最終的に含まれるターゲット分子捕捉の最高の効率を確保する。
第3に、脂質層は、空気-水界面または固形基体の表面全体を覆い、また、脂質層は、アネキシン-A5またはアネキシン-A5誘導体の連続2D集合体により覆われており、これらの双方により、分子の非特異吸着を阻止する。
第4に、脂質層の表面でのおとりタンパク質の偽不可逆固定が、アネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体のようなアネキシン-A5タンパク質成分の性質によって得られている。
第5に、アンカー複合体の2Dマトリックスによる脂質層の完全被覆が、アネキシン-A5成分の自己集合性によって得られている。
さらに、本発明に従う装置においては、おとりタンパク質並びにおとりタンパク質と相応するターゲット分子間の複合体は、固形基体からリン脂質二分子層により分離されており、従来技術の方法および装置において一般に直面するおとりタンパク質変性の問題を回避している。
【0039】
この方策は、脂質層上で高密度を有し且つ安定な2D分子マトリックスを形成する基本的性質を与える他の分子、とりわけタンパク質にも及び得る。この方策は、とりわけ、脂質単分子層(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Brisson等、1999年a;Brisson等、1999年b)およびリン脂質二分子層(Reviakine等、1998年)上のアネキシン類、とりわけアネキシン-A5がその場合であるように、脂質層上で2D結晶を形成する性質を与えるタンパク質にも及び得る。空気-水界面の脂質単分子層中に取込ませた脂質との特異的相互作用により2D結晶を形成するタンパク質の例は、Brisson等、1999年a並びにEllisおよびHebert (2001年)において見出し得る。脂質表面上に安定な高密度2D配列を形成する基本的性質を与えるタンパク質の例は、ストレプタビジンであり、これは、ビオチン化脂質を含有する脂質単分子層(Darst等、1991年;Brisson等、1999年b;Farah等、2001年;RatanabanangkoonおよびGast、2003年)上並びにビオチン化脂質を含有し固形支持体をコーティーングする脂質二分子層(ReviakineおよびBrisson、2001年;RichterおよびBrisson、2003年)上に2D結晶を形成する。ターゲット分子の結合および検出は、ストレプタビジンを含有するアンカー複合体の2Dマトリックスに直接または間接的に結合させるおとり分子を使用することによって実現し得る。おとり分子とストレプタビジンとの結合は、1) 組換えDNA技法によって得られた融合複合体、ii) おとり分子、融合複合体の第2分子、またはおとり分子と第2分子間に位置するアンカー複合体の中間分子のいずれかのビオチン化二官能性試薬による化学架橋を含み得る。脂質表面上に安定な高密度2Dマトリックスを形成するタンパク質のもう1つの例は、GM1ガングリオシド含有脂質表面に結合するコレラ菌由来のコレラ毒素のB5成分である(Ludwig等、1986年;Mosser等、1992年;Brisson等、1999年b)。他の例は、N”,N”-ビス[カルボキシメチル]-L-リシン-(ニトリロ酢酸)-ニッケルキレート化基により共有的に修飾した脂質分子を含有する高密度2Dマトリックス搭載脂質表面を形成するポリヒスチジン伸長によって操作したタンパク質である(Kubalek等、1994年;Brisson等、1999年a)。そのようなタンパク質の例は、ロドバクター カプスラータス(Rhodobacter capsulatus)由来のタンパク質HupR (Venien-Bryan等、1997年)および血管内皮カドヘリンVE-EC1-4の細胞外フラグメント(Al-Kurdi等、2004年)である。種々のタイプの脂質表面上で2Dタンパク質マトリックスとして自己集合するタンパク質のさらにもう1つの例は、S層群のタンパク質からなる(SchusterおよびSleytr、2000年;Moll等、2002年)。
【0040】
前記で詳述したように、本発明に従う装置のある種の実施態様は、必要のある患者の特異性細胞タイプ、特異性組織タイプまたは特異性臓器に向けての興味ある伝達治療用分子のターゲッティング用の有用なベクターを提供する。
これらの実施態様によれば、本発明の装置は、脂質小胞、即ち、リポソームの形にあり、少なくとも溶媒に暴露させる外側脂質層は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し、標的細胞(1種以上)、標的組織(1種以上)または標的臓器(1種以上)の生体液中、膜表面にまたは細胞内含有物中に存在するターゲット分子に特異的に結合し得るおとり分子を含むアンカー複合体の二次元マトリックスによってコーティーングされている。これらの実施態様によれば、上記脂質小胞の内部部分は、1種以上の治療上有用な化合物を溶解または懸濁させている液媒を含む。上記脂質小胞、即ち、リポソームの内部部分は、本明細書においては、“コア”または“内部コア”とも称し、1種以上の製薬上活性な成分を溶解または懸濁させている液媒、好ましくは水性液媒を含有する上記脂質小胞、即ち、リポソームの内部中心部分からなる。
これらの実施態様によれば、本発明に従う装置は、全身または局所経路のいずれかにより、患者に投与し得る。その後、おとり分子を含む上記装置は、表面で相応するターゲット分子を発現する細胞、組織または臓器に特異的に結合する。その後、上記おとり分子のターゲット分子上への特異的結合によりターゲット細胞、組織または臓器に結合した装置は、細胞内に内在化し、本発明に従う装置の脂質小胞の内部部分に当初含ませた治療上有用な分子を伝達させる。
具体的には、本発明に従うそのような実施態様の装置内に含ませたアンカー複合体の1部であるおとり分子は、がん細胞の細胞表面に特異的に発現するまたは存在する抗原に対して特異的に結合するおとり分子からなる。これらの実施態様によれば、上記装置脂質小胞の内部部分中に含ませる治療上有用な分子は、がん患者の治療に現在使用されている周知の細胞毒成分のような、がんに対して活性な製薬用成分からなる群から選択する。
【0041】
即ち、本発明は、さらに、請求項1記載の装置を含むターゲッティング療法用分子用のベクターに関し、該装置は、下記を含む脂質小胞からなる:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する外側脂質層;
b) 上記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;上記アンカー複合体の各々は、下記を含む:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、上記リン脂質層に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子;および、
c) 上記脂質小胞の内部部分中の、溶解または懸濁させた1種以上の製薬上活性な分子を含む液媒。
上述したように、本発明に従う治療用分子のターゲッティング用ベクターにおいては、上記おとり分子は、興味ある標的細胞、標的組織または標的臓器の表面で発現するターゲット分子に特異的に結合する。
好ましくは、上記のベクターにおいては、上記アンカー複合体は、上記おとり分子に融合させたアネキシンタンパク質、即ち、上記アネキシン分子と上記おとり分子との融合複合体からなる。
上記おとり分子は、本明細書において開示した任意の種類のおとり分子であり得る。
本発明を、如何なる形でも限定するものではない以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
実施例
【実施例1】
【0042】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]と第2タンパク質との組換えDNA技法による融合複合体の産生(上記第2タンパク質は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインからなる)
実施例1-1:アネキシン-A5 [T163C;C314S]−ZZ発現ベクターの構築
黄色ブドウ球菌由来のプロテインAと同類のZZドメインのコード配列に結合させたラットアネキシン-A5のコード配列を含有する発現ベクターを、分子生物学の標準方法によって構築した。
ラットアネキシン-A5コード配列を、pKK233-2-アネキシン-A5発現ベクター(Pepinsky等、1988年)から、Ncol消化により切取り、発現ベクターpGELAF+ (Schanstra等、1993年)中に2つのNcol制限部位間でクローニングして、pGEF-A5発現ベクターを得た。
部位特異性変異誘発を標準手法(Kunkel、1985年)により実施して二重変異[T163C;C314S]を挿入して、pGEF-A5B発現ベクターを得た。利用し得る全てのアッセイを実施して、[T163C;C314S]二重変異体アネキシン-A5タンパク質が野生タイプアネキシン-A5の既知の性質全てを有することを、とりわけ、その脂質膜への結合に関する事項、および脂質単分子層(Oling等、2001年;Govorukhina等、2002年)上および雲母支持脂質二分子層(Reviakine等、1998年)上でのトリマーの2D結晶質アレーの形成について検証した。この理由により、使用する用語アネキシン-A5は、ここでは、二重変異体[T163C;C314S]アネキシン-A5を称するものとする。
アネキシン-A5遺伝子の3’末端でZZコード配列を融合させるために、pGEF-A5B中のアネキシン-A5の停止コドンを除去し、TAAと置換えた。プライマー:5'-GAAGAGCTCAGGGCCATAAAACAAG-3' [SEQ ID No.19](Sacl部位はアンダーラインを付している)および5'-CATGCTAGCTAAGTCATCCTCGCCTCCACAGA-3' [SEQ ID No.20] (Nhel部位はアンダーラインを付している)によって産生させたPCRフラグメントをSaclおよびNhelで消化し、Sacl/Nhel消化pGEF-A5B中に連結反応させて、pGEF-A5B'を得た。
シグナル配列を欠落し、NhelおよびBamHI制限部位を含有するZZフラグメントを、pEZZ18ベクター(Amersham BioSciences社)からPCRにより産生させた。使用したプライマーは、5'-TGTGCTAGCCAAGCCGTAAACAAATTCAAC-3'[SEQ ID No.21] (Nhel部位はアンダーラインを付している)および5'-GCAGGATCCCTATACCGAGCTCGAATTCGCGTCTAC-3' [SEQ ID No.22] (BamHl部位はアンダーラインを付している)であった。PCR産生物をNhelおよびBamHIにより消化し、Nhel/BamHI消化pGEF-A5B’中に連結反応により導入してpGEF-A5BZZを得た。アネキシン-A5−ZZタンパク質をコードする配列をXba1/BamH1により切取り、pET-11b発現ベクター(Novagen社)中にクローニングし、pET-A5BZZ発現ベクターを得た。
アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質に相応するヌクレオチド配列を標準法によって検証し、SEQ ID No.6のアミノ酸配列をコードしていることを評価した。
【0043】
実施例1-2:アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の発現
大腸菌BL21 (DE3)細胞を、プラスミドpET-A5BZZにより、ヒートショックによって形質転換した。細胞を、アンピシリン(100μg/mL)を含有するLBプレートに塗沫し、37℃で1夜インキュベートした。
1つのクローンを集め、25mlのLBアンピシリン培地中で37℃にて約20時間インキュベートし、OD600約3で終結させた。必要容量を採取し、400mLのLB-アンピシリン培地中に0.1のODに希釈した。
その後、培養物を、ODが0.6〜0.7に達するまで、30℃でインキュベートし、その後、誘導を0.4mMのIPTGにより開始させ、インキュベーションを30℃でさらに16時間実施した。最終ODfを測定した。
細胞を遠心分離(10分間、6,700g)により集菌し、ペレットを、10mM Tris、1mM EDTA、0.01% NaN3、10%グリセリン、pH 7.5を含有する緩衝液の、6.7×ODfに等しい容量中に再懸濁させた。
細胞懸濁液を、15秒間隔で1分間の13Wでの5工程音波処理によるパルスモードで操作するBransonソニケーターにより、4℃で超音波処理した。膜フラグメントおよび大破片を、4℃で1時間の48,000gでの遠心分離により分離した。細胞溶解性抽出物(CSE)とも称する上清を集め、使用するまで4℃で保存した。
アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、図7Aにおいて示すように、高レベルで発現している。
【0044】
実施例1-3:アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の精製
CSEを0.22μmフィルター上で濾過し、5mLの画分で、20mM Tris、pH 8、0.02% NaN3を含有する緩衝液(緩衝液A)で予め平衡させたSuperdex 75排除カラム(Amersham BioSciences社)に適用した。タンパク質の溶出は、緩衝液Aにより実施した。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、SDS-PAGEにて示しているように、約55mLで溶出した(図7B)。
アネキシン-A5−ZZを含有する画分をプールし、緩衝液Aで予め平衡させたMonoQ HR5/5アニオン交換カラム(Amersham BioSciences社)に適用した。溶出は、緩衝液A中での0から0.5MのNaCl勾配のより実施した。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、約270mM NaClで純粋タンパク質として溶出する(図7Cに示すSDS-PAGE分析)。
純粋タンパク質の質量は、MALDI-TOF質量分光分析により、50077Daと推定した;初期メチオニンを除いた理論質量は、50074Daである。
約40mg量の純粋アネキシン-A5−ZZタンパク質が、175mgの総タンパク質から出発して、400mLの細胞培養からのCSEにおいて産生されている(収率約23%)。該タンパク質は、4℃で保存したとき1年以上安定である。
アネキシン-A5−ZZ複合体が安定な2D自己集合体を形成し且つIgG類に結合する能力は、QCM-Dによって実証している(図10,11,12)。
【実施例2】
【0045】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]と第2タンパク質との共有化学結合による融合複合体の産生(上記第2タンパク質は、ブドウ球菌類由来のプロテインGからなる)
ブドウ球菌類由来の組換えプロテインG (Pierce Biotechnology社、米国)とアネキシン-A5 [T163C;C314S]との融合複合体の調製を、ヘテロ二官能性試薬のN-スクシンイミジル 3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオネート(SPDP) (Pierce Biotechnology社)を使用して2工程で実施する:i) プロテインGをSPDPにカップリングさせる;ii) 共有複合体を、1個の利用可能なメルカプト基を与えるアネキシン-A5 [T163C;C314S]と(2-ピリジル-ジスルフィド活性化プロテインG)間で形成させる。
プロテインG分子当り少数のSPDP分子により誘導体化されるプロテインGを得るためには、プロテインGとSPDPを等モル比で混合する。DMSO中に1mg/mLで溶解したSPDPを、160mMホウ酸塩緩衝液、pH 7.9中1mg/mLの適切な量のプロテインGと混合する。反応は、周囲温度で2時間のインキュベーションにより実施した。
アネキシン-A5 [T163C;C314S]はジスルフィド結合ダイマーに酸化する生来の性向を有するので、新たに還元したアネキシン-A5を、プロテインG-SPDPとカップリングさせる直前に、アネキシン-A5のジスルフィド結合ダイマーをDTTで還元することによって調製する。20mM Tris、300mM NaCl、0.01% NaN3、pH 8中に1mgのアネキシン-A5ダイマーを含有する1mlの溶液を、10mM HEPES、pH 6.4中100mM DTTの100μlと混合する。周囲温度で30分間のインキュベーション後に、過剰のDTTを、10mM HEPES、150mM NaCl、pH 7.4で溶出させるHiTrap脱塩カラム(5mL)上でのゲル濾過により除去する。
アネキシン-A5と(プロテインG-SPDP)間の架橋は、2/1に等しいモル比(アネキシン-A5/プロテインG)で、次のようにして実施する:10mM HEPES、150mM NaCl、pH 7.4中アネキシン-A5 (約0.4mg/mL)と160mMホウ酸塩緩衝液、pH 7.9中(プロテインG-SPDP) (約0.2mg/mL)の適切容量を混合し、周囲温度で16時間以上インキュベートする。
架橋生成物の特性決定をSDS-PAGEによって実施する。(アネキシン-A5-プロテインG)ヘテロダイマーおよび(アネキシン-A5)2-プロテインGヘテロトリマーについて予測した位置でのタンパク質移行を観察している(図9A)。
アネキシン-A5とプロテインGとの共有架橋複合体を、緩衝液A中に溶出させるSuperdex 75 (Amersham BioSciences社)上でのゲル濾過、次いで、緩衝液A中での0〜0.5M NaCl勾配により溶出させるMono-Q上でのアニオン交換クロマトグラフィーによって精製する。各画分をSDS-PAGEにより分析する。アネキシン-A5-プロテインGヘテロダイマーおよび(アネキシン-A5)2-プロテインGヘテロトリマーに相応する各ピークが分別されている(図9B)。
1mgのアネキシン-A5ダイマーと0.4mgのプロテインGから出発して、プロテインGに対して約6%の収率に相当する50μgのプロテインG−アネキシン-A5複合体を得る。
プロテインG−アネキシン-A5複合体が安定な2D自己集合体を形成し且つラットIgG類に結合する能力は、QCM-Dにより実証している(図13)。
【実施例3】
【0046】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]のダイマーから形成させるアンカー複合体の産生
ジスルフィド結合により結合させた2個のアネキシン-A5 [T163C;C314S]分子間のアンカー複合体の調製を、試薬4,4’-ジチオジピリジン(DTDP)により実施する。
アネキシン-A5 [T163C;C314S]の還元形は、実施例2に記載したようにして得る。
還元アネキシン-A5 [T163C;C314S]をDTDPにより酸化させるには、次のプロトコールが推奨される:還元アネキシン-A5を、DTDPと、2.5のモル比[アネキシン-A5/DTDP]で、50mM リン酸ナトリウム、pH 7.4中で約20℃にて30分間混合する。ジスルフィド結合アネキシン-A5ダイマーの収率は、75%に近い。ジスルフィド結合アネキシン-A5ダイマーを、緩衝液Aで予め平衡させたMonoQ HR5/5カラム(Amersham BioSciences社)によるアニオン交換クロマトグラフィーによって精製する。アネキシン-A5ダイマーは、約280mM NaClにおいて溶出する。精製タンパク質の質量をMALDI-TOFにより検証する。
また、(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)の形成は、還元アネキシン-A5 [T163C;C314S]分子の自然発生酸化によっても得られる。
【実施例4】
【0047】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]とRGD含有ペプチドとのアンカー複合体の共有化学結合による産生、およびターゲット細胞を固定させるための応用
実施例4-1:アネキシン-A5 [T163C;C314S]とRGD含有ペプチドとのアンカー複合体の共有化学結合による産生
アネキシン-A5 [T163C;C314S]とArg-Gly-Asp (RGD)アミノ酸配列を含有するペプチドとのアンカー複合体の調製を、試薬4,4’-ジチオジピリジン(DTDP)により実施する。
上記ペプチド配列は、GCRGYGRGDSPGであり(VandeVondele等、2003年)、細胞付着モチーフRGDおよびアネキシン-A5 [T163C;C314S]とのジスルフィド結合を形成させるのに使用するシステイン残基の双方を含有している。
アネキシン-A5 [T163C;C314S]の還元形は、実施例2に記載したようにして得る。
次のプロトコールが推奨される:還元アネキシン-A5を、上記GCRGYGRGDSPGおよびDTDPと、1/4/1に等しいモル比[アネキシン-A5/RGD-ペプチド/DTDP]で、50mM リン酸ナトリウム、pH 7.4中で約20℃にて30分間混合する。アンカー複合体アネキシン-A5−RGDペプチドの収率は、60%に近い。
また、アネキシン-A5−RGDペプチドの形成は、還元アネキシン-A5 [T163C;C314S]とRGD-ペプチド間の自然発生酸化によっても得られる。
アネキシン-A5−RGDペプチドの質量は、MALDI-TOFにより検証する。
実施例4-2:固形基体をコーティーングしている脂質二分子層上のアネキシン-A5−RGDペプチドの2Dマトリックスのターゲット細胞を固定させるための応用
ガラス基体をコーティーングしている脂質二分子層上のアネキシン-A5−RGDペプチドの2Dマトリックスへのヒト血管内皮細胞付着は、達成されている。上記アネキシン-A5−RGDペプチドの2Dマトリックス上への細胞付着は、細胞付着に関して当該技術において使用される標準プロトコールと同等である。対照試験として、ガラス基体をコーティーングしている脂質二分子層上のアネキシン-A5 (RGDペプチドを欠落している)の2Dマトリックスを使用したとき、付着は観察されなかった。
【実施例5】
【0048】
本発明に従う検出装置の製造
実施例5-1:支持型リン脂質二分子層上のアネキシン-A5−ZZ融合複合体の安定な2D自己集合層の形成、およびその後のQCM-Dによるマウスモノクローナル抗体の結合
結果は、図10に示している。
この図は、ターゲット分子(この場合は、マウスモノクローナル抗体(IgG))を、固形物支持リン脂質二分子層(SLB)上に形成させた融合複合体アネキシン-A5−ZZの2D自己集合マトリックスに特異的結合させることによって検出する試験の典型的な例を示している。
I. 方法:
I-1) QCM-D
QCM-D測定(Rodahl等、1995年)を、Richter等(2003年)に記載されているようにして、軸流チャンバー(QAFC 302)を備えたQ-SENSE D300装置(Q-SENSE社、スウェーデン国ゴテンブルグ)により実施した。要するに、シリカコーティーング水晶振動子の表面への分析物の吸着時に、付着質量に関連する共振周波数の変化ΔFおよびアドレイヤー中の摩擦損失に関連する散逸の変化ΔDをリアルタイムで測定する。
図10〜13においては、横座標は、分で表す時間を示す。左縦座標(ΔF、青色)は、Hz単位で表しており、15MHzの調波における水晶振動子の標準化共振周波数の変化を示す。Sauerbreyの等式によれば、吸着物質の質量は、ΔFに直線的に関連する(m = -C×ΔF、C = 17.7ng・cm-2・Hz-1) (Sauerbrey、1959年)。右縦座標(ΔD、オレンジ)は、散逸変化を示す。
I-2) 脂質小胞の調製
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(DOPS) (Avanti Polar Lipids社、米国アラバマ州)をクロロホルムに溶解し、所望量で混合し、先ず窒素流下に、次いで真空デシケーター内で1夜乾燥させる。脂質を、超純水中で調製した150mM NaCl、2mM NaN3および10mM HEPES、pH 7.4を含有する緩衝液(緩衝液B)中に、約1mg/mLの最終濃度で再懸濁液させる。脂質懸濁液を、5回の凍結-解凍および渦流処理サイクルで均質化する。小単層小胞(SUV)を、冷凍による30分間の30%負荷サイクルでのパルスモードで操作するチップソニケーター(Misonix、米国ニューヨーク州)による音波処理、次いで、チタン粒子を除去するための10分間16,000gでの遠心分離によって得る。SUV懸濁液を、使用するまで、窒素下に4℃で保存する。
【0049】
II. 試験
図10の位置1において、緩衝液C (2mM CaCl2を加えた緩衝液B)中100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの溶液を、QCM-Dチャンバーを通してシリカコーティーング水晶振動子の先端上に流す。特徴的二相挙動を示すΔFとΔDの変化は、プラトーで得られたΔFおよびΔD値、即ち、ΔF約-25HzおよびΔD約0と共に、シリカコーティーング水晶振動子上での均質な無欠陥SLB形成の特徴である。固形基体上での脂質小胞の付着による脂質二分子層の形成を開示している一般的方法については、当業者であれば、とりわけ以下の論文を参照し得る(KellerおよびKasemo、1991年;Richter等、2003年;RichterおよびBrisson、2003年;Richter等;2005年)。
2においては、QCM-Dチャンバーに緩衝液Cを流して過剰のSUVを除去する。
3においては、緩衝液C中の20μg/mLのアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の溶液を注入する。SLBへの該融合複合体の特異的結合は、周波数の低下、ΔF約-31Hz、および散逸の上昇、ΔD約1.5×10-6をもたらしている。参照として、SLBを全体的に覆っているアネキシン-A5の2Dマトリックスは、ΔF約-17HzおよびΔD約0.2×10-6の値をもたらしている。4においては、緩衝液Cによる数回の洗浄(青矢印)を実施しているが、結合物質の如何なる放出も誘発させていない。これらの結果は、アネキシン-A5−ZZ融合複合体が安定結合の2D自己集合マトリックスをSLB上に形成していることを示唆している。
5においては、緩衝液C中の20μg/mLのIgG溶液を添加し、周波数の急速な低下をもたらしており、ΔFは約-53Hzで安定化している。散逸の変化、ΔD最終約3×10-6は、センサー振動子上での吸着分子の可撓性層の存在の特徴である。IgG分子は、アネキシン-A5−ZZ層上に固定されており、緩衝液Cで過度に洗浄したとき(図9におけるR)、結合物質の如何なる放出も誘発させていない。
対照試験を実施したところ、IgG分子は、非特異的には、SLBにもアネキシン-A5マトリックスにも結合していないことを示唆していた。
6においては、2mMのEDTA、即ち、カルシウムキレート化剤を加えた緩衝液Cの溶液をQCM-Dチャンバーを通して流して、SLBに結合したアネキシン-A5−ZZ/IgG複合体の即座の置換を得ている。
【0050】
実施例5-2:支持型リン脂質二分子層上の(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)の安定な2D自己集合マトリックスの形成、およびその後のQCM-Dによるマウスモノクローナル抗体の結合
結果は、図11に示している。
この試験の原理は、図9に示す原理と同様であるが、(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)の混合物(4:1 (質量:質量))を使用して2D自己集合マトリックスを形成させ、引続き、その上に、IgG分子を固定させる。
1においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入。その後、QCM-Dチャンバーに緩衝液Cを流して過剰のSUVを除去する(図11のR)。
2においては、緩衝液C中に20μg/mLの総濃度で(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)の混合物(4:1 (質量:質量))を含有する溶液を注入する。プラトーにおいて、(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)混合物の結合は、ΔF約-20Hzをもたらしている。-17Hzおよび-31Hzの最大ΔF値が、それそれ、純粋アネキシン-A5(図示していない)および純粋アネキシン-A5−ZZ(図9)において得られていること並びに試験した混合物(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)中のアネキシン-A5−ZZの含有量が20%であることを考慮すると、この場合の見出された観察ΔF値、即ち、-20Hzは、アネキシン-A5とアネキシン-A5−ZZの理想的な混合から予測した値と一致している。
3においては、緩衝液C中20μg/mLのIgGの注入は、周波数の急速な低下をもたらしており、ΔFは約-15Hzで安定化している。20%アネキシン-A5−ZZにより得られたこの値は、純粋(100%)アネキシン-A5-ZZの2Dマトリックス(上記の実施例5-1において記載したような)によって得られた-53Hzの値と一致している;後者の場合、IgGは、立体障害効果に基づき、アネキシン-A5−ZZ結合部位の全てを飽和していないようであり、IgG分子のサイズは、アネキシン-A5−ZZ融合複合体のサイズ(約50kDa)よりも有意に大きい(約150kDa)。
【0051】
実施例5-3:溶液中で前以って形成させた(アネキシン-A5−ZZ/IgG)の複合体の[PC:PS (4:1)] SLB上への結合のQCM-Dによる検出
結果は、図12に示している。
この試験においては、アネキシン-A5−ZZ分子とマウスモノクローナルIgG分子との非共有複合体を、1.5mLの緩衝液C中で、双方の種の等モル比に相当する40μgのアネキシン-A5−ZZと120μgのIgGを周囲温度で15分間混合することによって溶液中で形成させた。
2においては、この混合物を、(1)において形成させたDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SLB上に注入した。上記(アネキシン-A5−ZZ/IgG)複合体の結合は、-85HzのΔFの低下をもたらしている。この値は、IgGを前以って形成させたアネキシン-A5−ZZ層(実施例5-1および図10で説明した)に添加したときに得られた値とほぼ同一である。この試験は、複合体を、PS含有脂質表面上のアネキシン-A5成分の特異的相互作用により、固定させる前の溶液中で先ず形成させ得ることを示唆している。結合物質は、洗浄時に安定である(図12におけるR)。
実施例5-4:[PC:PS (4:1)] SLB上のアネキシン-A5[T163C;C314S]とブドウ球菌種由来のプロテインGとの化学架橋融合複合体の2D自己集合マトリックスへのラットモノクローナル抗体(IgG)の結合のQCM-Dによる検出
結果は、図13に示している。
この試験においては、アネキシン-A5とプロテインGから形成させる化学架橋複合体を、実施例2および図9A、Bにおいて説明したようにして調製し、ラットモノクローナルIgG分子を固定させるのに使用した。ラットモノクローナル抗体は、プロテインGとは反応するが、プロテインAとは反応しない。
1においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入。その後、QCM-Dチャンバーに緩衝液Cを流して過剰のSUVを除去する(図13におけるR)。
2においては、緩衝液C中に10μg/mLの総濃度で(アネキシン-A5−プロテインG)の化学架橋複合体を含有する溶液を注入する。プラトーにおいて、該複合体の結合は、ΔF約-35Hzに相当する。この値は、SLB表面を全体的に覆う(アネキシン-A5−プロテインG)の2Dマトリックスにおいて予期したものである。
3においては、緩衝液C中の20μg/mLのラットモノクローナル抗体の注入は、周波数の急速な低下をもたらし、ΔFは約-25Hzで安定している。
【実施例6】
【0052】
固形基体をコーティーングしている脂質二分子層に結合させた(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)融合複合体の2Dマトリックスのターゲットリポソームを固定するための応用
固形基体をコーティーングしている脂質二分子層に結合させた(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)融合複合体の2Dマトリックスがターゲットリポソームを固定する性質を実施例6において説明し、図14で例証する。
1においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入;この注入は、支持型脂質二分子層の形成をもたらす。
2においては、緩衝液C中に40μg/mLの(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)ダイマーを含有する溶液を注入する。プラトーにおいて、(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)の結合は、ΔF約-38Hzをもたらしている。この値は、図14において例証しているように、(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)ダイマーが1つのアネキシン-A5成分により脂質二分子層に結合し、一方、その第2成分は水溶液に暴露されていることを示している。
3においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入;この注入は、リポソームの急速な結合を生じさせている。純粋DOPCリポソームおよびDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVによるカルシウムイオンの不存在下での対照試験は、リポソームの吸着は観察されず、(3)において観察されたSUVの結合が特異的であることを示唆している。
この試験は、固形基体をコーティーングしている脂質二分子層に結合させた(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)融合複合体の2Dマトリックスが、ターゲットリポソームを、拡大解釈すれば、負荷電リン脂質を含有する細胞膜を固定させ得ることを実証している。
【実施例7】
【0053】
空気-水界面の脂質単分子層上への融合複合体アネキシン-A5-ZZの2D結晶マトリックスの形成
この試験においては、脂質単分子層を、空気-水界面に、Brisson等(1999年a、b)に記載されている標準手順の後、クロロホルム:ヘキサン(1:1、(容量/容量))中に溶解させた150μMのDOPS、450μMのDOPCを含有する0.6μlの脂質混合物を、2mM CaCl2、150mM NaCl、10mM HEPES、3mM NaN3、pH 7.4を含有する緩衝液中の0.1mg/mlのアネキシン-A5−ZZの17μl液滴上に適用することによって形成させる。30分〜16時間の時間範囲のインキュベーション後、界面フィルムを、穿孔カーボンフィルムでコーティーングし且つ1%酢酸ウラニルで陰性染色した電子顕微鏡(EM)に移す。
EM観察は、2k×2k Gatan-794スロースキャンCCDカメラを備えた、120kVで操作するPhilips CM120電子顕微鏡によって行なう。電子顕微鏡写真を、低線量条件下、45,000×の倍率および300nmに近い焦点値において記録する。画像をフーリエ変換により分析する。
アネキシン-A5−ZZは、アネキシン-A5に構造的に相同性のp6対称を有する2D結晶を形成している。
【0054】
表1
本発明の配列
【0055】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】脂質層上のおとり-アンカー複合体の2D集合体の図式を示す。 図1に示す特定の実施態様においては、アンカー複合体は、アネキシン成分に直接結合させたおとり分子からなり、上記アネキシン成分はアネキシン-A5タンパク質からなる。 3つのタイプの脂質層は、それぞれ、下記を示す: 1:固形基体をコーティーングしている脂質二分子層; 2:空気-水界面での脂質単分子層; 3:水溶液中のリポソーム。
【図2】脂質層が固形基体をコーティーングしている脂質二分子層からなり、アネキシン成分がアネキシン-A5タンパク質からなる、本発明に従う本明細書においては検出装置とも称するアッセイ装置の特定の実施態様の図式を示す。 図1の下方には、脂質二分子層(2)でコーティーングした固形基体(1)を示している。 融合複合体(3)のアネキシン-A5成分を脂質二分子層の外表面に結合させて、2D自己集合性タンパク質マトリックスを形成している。おとり分子(4)は、上記融合複合体の上記アネキシン成分に直接結合させている。また、試験するターゲット存在物の分子(5)も、液体溶媒中の遊離ターゲット分子(51)またはおとり分子に結合させたターゲット分子(52)のいずれかとして示している。
【0057】
【図3】脂質層に結合させたアネキシン-A5タンパク質成分を含有するアンカー複合体の1部であるおとり成分へのターゲット分子の種々の結合形態の図式を示す。 モード1:融合複合体は、おとり分子に融合させたアネキシン-A5からなる。 モード2:アンカー複合体は、下記を含む: ‐パートナー分子に融合させたアネキシン-A5タンパク質からなる融合複合体;および、 ‐上記融合複合体のパートナー分子に結合させたおとり分子。 モード3:アンカー複合体は、下記を含む: ‐パートナー分子に融合させたアネキシン-A5タンパク質からなる融合複合体; ‐(i) 一方側で上記融合複合体のパートナー分子に結合させ且つ(ii) 他方側でおとり分子に結合させた中間分子;および、 ‐上記中間分子に結合させたおとり分子。 モード2Aおよびモード3Aにおいては、好ましい実施態様の例を示しており、融合複合体は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメイン(Loewenadler等、1987年;Nilsson等、1987年)に組換えDNA技術により融合させたアネキシン-A5タンパク質を含む。 モード2Aにおいては、プロテインAのZZドメインはIgG分子に結合し、該IgG分子はおとり分子であり; モード3Aにおいては、プロテインAのZZドメインは、おとり分子に対して特異性のIgG分子に結合する。この実施態様においては、IgG分子は、融合複合体とおとり分子間の中間分子である。
【0058】
【図4】アネキシン-A5成分を含有するアンカー複合体の2Dマトリックス中に含ませたおとり分子に結合させたターゲット分子検出の特定の実施態様の図式を示す。 I:標識化ターゲット結合性分子を使用する、脂質層上のアネキシン-A5含有アンカー複合体の2Dマトリックスの1部であるおとり分子に結合させたターゲット分子の検出を示す図式;上記脂質層は、i) 固形基体をコーティーングしている脂質二分子層、またはii) 空気-水界面の脂質単分子層のいずれかである。アネキシン。 II:好ましい実施態様においては、上記ターゲット結合性分子は、アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質と抗-ターゲット抗体間の複合体からなり、該複合体は、好ましくはアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質成分レベルで、標識化、とりわけ蛍光標識化する。
【図5】リン脂質表面上にアネキシン-A5により形成させた2-D自己集合体の二次元突出構造を示す。 1) カルシウムイオンの存在下に負荷電リン脂質を含有する脂質表面に結合させたときに形成されたアネキシン-A5のトリマー。アネキシン-A5モノマーは、赤で着色している。4個のアネキシンドメインは、I〜IVで番号付けしている。アネキシン-A5のトリマーは、p6対称を有する2D結晶内(図5-2、3A)、p3対称を有する2D結晶内(図示せず)、および高密度緊密充填配列内(図5-3B)において見出される(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Oling等、2001年;Reviakine等、1998年;Govorukhina等、2002年;RichterおよびBrisson、2003年;RichterおよびBrisson、出稿中)。 2) 空気-水界面の脂質単分子層(この場合、混合物DOPC:DOPS、4:1 (質量:質量)からなる)上で、アネキシン-A5トリマーは、p6対称を有する2D結晶を形成している。この図は、電子顕微鏡画像の分析(Oling等、2001年)によって得られたアネキシン-A5のp6 2D結晶の2D突出マップを提示している。青丸は、6角形の頂点に位置する6個のアネキシン-A5トリマー+中心アネキシン-A5トリマーを囲んでいる。 3A) 雲母支持体上に形成させた(DOPC:DOPS、4:1 (質量:質量))脂質二分子層上では、p6対称を有する2D結晶質集合体も、原子間力顕微鏡により観察されている(Reviakine等、1998年)。 3B) シリカ支持体上に形成させた(DOPC:DOPS、4:1 (質量:質量))リン脂質二分子層上では、アネキシン-A5トリマーは、原子間力顕微鏡によって示されるように、2D高密度緊密充填配列を形成している(RichterおよびBrisson、2003年)。 尺度バー:10nm。
【0059】
【図6】アネキシン-A5と組換えDNA技法により得られたプロテインXなる名称の第2タンパク質との融合複合体のモデルを示す。 この図で示す例においては、融合タンパク質は、C-末端においてプロテインXのN-末端に融合させたアネキシン-A5から、2つのタンパク質を分離する短リンカー配列(点線部分)を有して形成されている。
【図7】融合複合体アネキシン-A5−ZZの、SDS-PAGE分析による発現および精製を示す。 A.レーン1:細胞可溶性抽出物(2μl)。矢印で示すアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、42 kDaの見掛けMW (理論MW:50,074 Da)で移行している。レーン2:分子量マーカー。 B.Superdex 75カラム(Amersham BioSciences社)によるゲル濾過によるアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の精製。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質(矢印)は、鋭敏なピークで溶出している。 C.Mono-Qアニオン交換クロマトグラフィーによるアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の精製。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質(矢印)の純粋画分は、〜270mM NaClにおいて溶出している。
【0060】
【図8】化学架橋による、アネキシン-A5とプロテインX間の融合複合体のモデルを示す。 この図で示す例においては、融合タンパク質は、アミノ酸位置163に位置する1個のメルカプト基を有する変異形のアネキシン-A5 (T163C;C314S)とプロテインX間の共有架橋により形成され、上記プロテインXは、ヘテロ二官能性架橋剤のN-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP) (Pierce社)によって前以って活性化されている。 二重変異体(T163C;C314S)アネキシン-A5は、アネキシン-A5の既知の脂質結合特性の全てを示し、従って、二重変異体(T163C;C314S)アネキシン-A5は、以下、アネキシン-A5と称する。 知られているように、N-スクシンイミジル基は、アルカリ性pHにおいて、第一級アミン類と反応する(Wong、1991年)。アネキシン-A5-SHを2-ピリジル-ジスルフィド活性化プロテインXと混合すると、[アネキシン-A5-S-S-プロテインX]からなるジスルフィド結合複合体が形成される。 SPDPとあらゆるタンパク質間の反応の非特異性により、種々のタイプの[アネキシン-A5-S-S-プロテインX]複合体を形成させることができる。 第一級アミンおよびメルカプト基の双方と反応する他のヘテロ二官能性架橋剤、例えば、SMTP、SULFO-LC-SMTP、LC-SPDP、SMCC、SULFO-SMCC、MBS、SULFO-MBS、SMPB、SULFO-SMPB (Pierce Biotechnology社、米国)を、SPDPの代りに使用してもよい。
【0061】
【図9】アネキシン-A5とブドウ球菌由来のプロテインG間の化学架橋融合複合体の産生と精製を示す。 図9Aは、二重変異体アネキシン-A5 (T163C;C314S)とSPDP変性プロテインG間の、化学架橋による融合複合体の産生を示す。 I:アネキシン-A5B;II:プロテインG;III:プロテインG-SPDP;IV:アネキシン-A5B+プロテインG-SPDP;V:アネキシン-A5B+プロテインG-SPDP+β-メルカプト-エタノール。 1:アネキシン-A5B;2:プロテインG;3:アネキシン-A5Bダイマー;4:融合複合体アネキシン-A5B-プロテインG;5:多量体アネキシン-A5B-プロテインG。 アネキシン-A5Bは、アネキシン-A5の二重変異体(T163C;C314S)を意味することに留意すべきである。 図9Bは、[アネキシン-A5B-プロテインG]融合複合体のゲル濾過による精製を示す。 I:第1ピークからの画分;II:第2ピークからの画分;III:第3ピークからの画分;IV:第4ピークからの画分。 1:アネキシン-A5B;2:プロテインG;3:(アネキシン-A5B)2 = ジスルフィド結合ダイマー;4:融合複合体[アネキシン-A5B-プロテインG];5:多量体[アネキシン-A5B-プロテインG]。
【図10−14】本発明に従う検出装置を使用しての検出アッセイを示す。この場合使用した検出方法は、散逸モニタリングによる水晶振動子微量天秤(QCM-D)法である(Rodhal等、1995年)。 図10は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上のアネキシン-A5−ZZの前以って形成させた2D自己集合性マトリックスへのIgG結合の検出を例示する。 図11は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上の[アネキシン-A5/アネキシン-A−ZZ]の2D自己集合性マトリックスへのIgG結合の検出を例示する。 図12は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上での、溶液中で前以って形成させた[アネキシン-A5−ZZ/IgG]の複合体の結合の検出を例示する。 図13は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上の[アネキシン-A5B-プロテインG]架橋複合体の2DマトリックスへのIgG結合の検出を例示する。 図14は、リポソームを固定するためのアンカー複合体[アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5]の使用を例示する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ターゲット存在物をおとり存在物へ結合させるための方法および装置、並びに相応する検出方法に関する。
本発明の上記方法および装置は、産業分野において、種々の目的、例えば、i) ターゲット存在物(例えば、抗原、抗体、細胞タンパク質、細胞膜、リガンド分子、ペプチド、薬物、核酸、糖残留物、脂質等)の存在についてアッセイするための生物医学分析、プロテオミクス、ゲノミクス、バイオセンサーおよびミクロアレー技術において、或いは、ii) 治療上興味ある細胞レセプターに結合する興味ある製剤候補ターゲット分子のような、興味あるターゲット存在物のスクリーニングにおける製剤分析において、或いは、iii) 興味ある治療用分子を必要のある患者の興味あるターゲットレセプター、ターゲット細胞またはターゲット臓器へ伝達するための生物医学および治療用途において使用する。
【背景技術】
【0002】
当該技術においては、おとり存在物、とりわけ興味あるおとり分子、とりわけ、おとり抗体および各種他のおとりレセプタータンパク質またはおとりペプチドのような興味あるおとりタンパク質、とりわけ、診断および薬理学的適合性を有するタンパク質のような生物学的適合性を有するタンパク質へのターゲット存在物、とりわけターゲット分子の結合について改良された検出を可能にする新規な装置および方法が求められている。
とりわけ、当該技術においては、治療上適切なおとり分子、とりわけおとりタンパク質に結合する或いはそれらタンパク質に対して活性であるターゲット候補薬物分子の簡単で低コストの高処理量スクリーニング方法が求められている。
例えば、診断において一般的に使用されているアッセイ法のような、溶液中の分析物の存在についての現行のアッセイ法は、ターゲット分子、とりわけ抗原に対して産生させたおとりレセプター分子、とりわけ抗体の使用を含む。当該技術において既知の多分析物アッセイは、多数のおとりレセプター分子、とりわけ抗体の使用を含み、多ターゲット分析物についてのアッセイを指向している。
結合性アッセイの自動化および/または小型化は、多数のターゲット分子を同時にアッセイすべき場合に必要である。従って、生体分子のアッセイにおいて使用する材料、表面コーティーングおよび検出方法が、当該技術において大いに求められている。
また、当該技術においては、治療上有用な成分、とりわけ興味ある薬物および製薬上活性な分子、とりわけ薬理学および治療的に適合性を有する分子のターゲット存在物、とりわけ興味あるターゲット細胞およびレセプター分子への伝達を可能にし得る新規な方法が求められている。興味ある薬物の興味あるターゲットレセプターまたは興味あるターゲット細胞への伝達についての現行のアッセイ法は、ベクター類、基本的にはウイルスベクターおよび非ウイルスベクター類、とりわけ、合成リポソームおよびポリマー類の使用を含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
興味ある治療用分子のターゲット細胞およびレセプターへの伝達は、問題があり、固定させたおとり存在物が興味あるターゲット存在物に結合するのを可能にするような、特異性おとり存在物のターゲッティングベクターへの制御された固定化を必要とする。
また、小型化生体分子アッセイ装置、とりわけタンパク質アッセイ装置を製造するときに直面する再現性技術問題は、興味ある相応するターゲット分子(1種以上)に対して“おとりレセプター”分子の最大の利用性を確保するようにするための、“おとりレセプター”分子、とりわけ“おとりレセプター”タンパク質の適切な結合に関連している。
おとりレセプター分子をアッセイ基体に結合させるのに利用可能な方法は、1) 該基体表面へのおとり分子またはおとり分子に対してレセプターとして作用する分子の直接の物理的吸着(例えば、酵素免疫吸着測定法、ELISA)、または2) おとり分子を共有または非共有結合させるリンカー分子による基体の表面物質の化学修飾を使用している。
しかしながら、上記結合方法は、種々の技術的欠点を有する。基体表面領域上へおとりタンパク質を直接吸着させると、多くの場合、該おとりタンパク質の構造形態の変化を生じさせ、このおよりタンパク質は、その相応するターゲット分子に対しもはや適切には利用できなくなる。さらに、おとりタンパク質またはおとりタンパク質に対してレセプターとして作用する分子の直接の吸着は、おとりタンパク質の無秩序で制御されていない配向およびおとりタンパク質の制御されていない表面密度をもたらす。
さらに、基体の表面領域とおとりレセプタータンパク質またはおとりタンパク質に対してレセプターとして作用する分子と間での共有結合リンカーの使用は、複雑且つコスト高であり、その後の反応のための適切に配向されたおとり分子の制御されていない密度をもたらす。これらの欠点は、使用するおとりタンパク質物質の初期量の点で、選定した基体上へのおとりタンパク質の正確な結合を低い割合でしかもたらさない。
即ち、当該技術においては、改良された生体分子アッセイ方法、とりわけタンパク質アッセイ方法および相応する装置が求められている。
さらに、当該技術においては、興味ある製剤分子を、必要とする患者のターゲットレセプター、ターゲット細胞、ターゲット組織またはターゲット臓器に伝達するのに有用である新規な装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の目的は、装置上に固定するおとり存在物上にターゲット存在物を結合させるための装置からなり、該装置は、
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
b) 上記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、上記アンカー複合体の各々が、下記を含むことを特徴とする:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシン(Annexin)タンパク質を含む融合複合体 (該アネキシンタンパク質は、上記脂質層に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり分子:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子。
本発明に従う装置においては、上記脂質層は、下記からなる群から選択し得る:
ai) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層を含む、脂質二分子層;
aii) 空気と水溶液間の界面に形成させた脂質単分子層を含む、脂質単分子層;
aiii) 水性コアを囲む1種以上の脂質二分子層を有する小胞からなるリポソームを含む、水溶液中のリポソーム。
【0005】
“融合複合体”とは、本明細書においては、パートナー分子、とりわけ、タンパク質、ペプチドまたは核酸に共有結合させたアネキシンタンパク質成分を含むまたは該タンパク質からなるハイブリッド分子を意図する。上記第2分子がタンパク質またはペプチドである場合、上記アネキシン成分との共有結合は、組換えDNA技術法のよる標準ペプチド結合または化学結合のいずれかによって行い、上記化学結合は、標準ペプチド結合またはタンパク質化学法による任意の他の化学結合のいずれかである。さらに、上記融合複合体においては、上記アネキシンタンパク質は、上記第2分子に直接結合させるか、或いは、スペーサー鎖、とりわけ1〜20個のアミノ酸残基で変動し得るアミノ酸長を有するアミノ酸スペーサー鎖、最も好ましくは親水性アミノ酸残基により上記第2分子から分離するかのいずれかであり得る。
本発明に従う装置においては、アンカー複合体の上記二次元マトリックスは、アネキシンタンパク質とパートナー分子との融合複合体を含有する二次元(2D)タンパク質マトリックスからなり、上記パートナー分子は、好ましくは、タンパク質、ペプチドまたは核酸からなる群から選ばれる。上記2Dタンパク質マトリックスは、特異的で非共有結合による上記脂質層上の上記融合複合体の上記アネキシン成分の集合体に由来する。上記融合複合体は、上記脂質層に指向させて安定に結合させる。
本発明に従う装置においては、上記おとり分子は、上記アンカー複合体の1部であり、上記アンカー複合体は、下記のいずれかからなる:
i) 上記おとり分子が、上記融合複合体のアネキシン成分に融合させるパートナー分子である、上記で定義するような融合複合体;または、
ii) 上記おとり分子を上記融合複合体のパートナー分子に共有または非共有結合させている、上記で定義した融合複合体と上記おとり分子間の複合体;または、
iii) 上記おとり分子を中間分子によって上記融合複合体のパートナー分子に結合させる場合の、上記で定義した融合複合体、おとり分子および中間分子間の複合体;上記中間分子は、上記融合複合体の上記おとり分子およびパートナー分子の双方に結合する。
【0006】
上記脂質層が、下記:
ai) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層;
aii) 空気と水溶液間の界面で形成された脂質単分子層;
である場合、本発明のもう1つの目的は、おとり存在物上へのターゲット存在物分子の結合を検出するための系からなり、この系は、上記で定義したような複数の装置を含む。また、本発明は、おとり存在物分子上へのターゲット存在物分子の結合を検出する方法にも関し、該方法は、下記の工程を含む:
a) 試験すべきサンプルを調製する工程;
b) 上記試験すべきサンプルを上記で定義したような検出装置または検出系と接触させる工程;および、
c) (i) 上記検出装置内または上記検出系内に含ませたおとり存在物(1種以上)と(ii) 上記試験サンプル中に最終的に存在するターゲット存在物間で最終的に形成された複合体を検出する工程。
上記脂質層が、下記:
ai) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層;
aii) 空気と水溶液間の界面で形成された脂質単分子層;
である場合、本発明は、サンプル中のターゲット存在物の存在をアッセイする方法にも関し、下記の工程を含む:
a) アネキシンタンパク質と、上記ターゲット存在物に結合するおとり存在物間のアンカー複合体を調製する工程;
b) 上記サンプルを上記アンカー複合体と混合し、それによって、上記アンカー複合体のおとり成分とターゲット分子間の複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られたアンカー複合体を、最終的には上記ターゲット存在物との複合体の形で、脂質層 (該脂質層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含み、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する)の表面に固定させる工程;
d) 上記アンカー複合体のおとりタンパク質と上記ターゲット存在物 (上記ターゲット存在物が上記サンプル中に存在する場合の)間で形成された複合体を検出する工程。
【0007】
上記脂質層が水溶液中のリポソームである場合、本発明のもう1つの目的は、存在物、とりわけ、薬理学および治療上興味ある薬物および分子をターゲット存在物、とりわけ、興味あるターゲット細胞およびレセプター分子へ伝達するための装置からなる。該装置は、下記:
a) 1層以上の脂質層と、水溶液中に溶解または懸濁させた1種以上の製薬上活性な成分を含有する内部コアとを含むリポソーム;上記脂質層(1層以上)は、1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する;
b) 上記外部脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、上記アンカー複合体の各々は、下記を含むことを特徴とする:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体 (該アネキシンタンパク質は、上記リン脂質に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子。
本発明の説明の全体を通じて、ターゲット存在物、とりわけターゲット分子のおとり存在物、とりわけおとり分子への結合を開示し;上記おとり存在物は、アネキシン成分を含有するアンカー複合体の1部であり;上記アンカー複合体は、脂質層表面に、アネキシンタンパク質と上記脂質層中に含ませた負荷電分子、例えば、負荷電リン脂質との間の特異的相互作用により、配向させた形で安定に結合させた2Dタンパク質マトリックスとして集合させている。本発明は、カルシウムイオンの存在下に負荷電リン脂質を含有する脂質表面上で2D結晶質集合体(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Brisson等、1999年;Oling等、2001年;Reviakine等、1998年)のような高い良好に形成された密度を有する2Dタンパク質マトリックスを形成させるというアネキシンタンパク質、とりわけアネキシン-A5の固有の性質に基づき、上記2Dタンパク質マトリックスは、カルシウム含有緩衝液中で洗浄したとき、安定でほぼ不可逆的に結合している(Govorukhina等、2002年;Oling等、2001年;Richter等、出稿中)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者等は、今回、ターゲット分子に特異的に有効に結合するおとり分子を含む新規な装置を設計した。
さらに詳細には、本発明者等は、ターゲット分子が装置上に固定させているおとり分子に特異的に結合し、該おとり分子を、脂質層に安定結合させているアンカー複合体中に含ませる新規な装置を設計した。
即ち、本発明の新規な装置は、おとり分子のターゲット分子への特異的結合を模索する種々の方法において使用し得る。
ある種の実施態様においては、本発明の新規な装置は、おとり分子とターゲット分子間の特異的結合事象の検出を模索する方法において使用する。そのような実施態様は、上記装置中に含ませたおとり分子に特異的に結合する候補ターゲット分子のスクリーニング方法における本発明に従う装置の使用を含む。
ある種の他の実施態様においては、本発明の新規な装置は、ターゲット細胞の細胞膜において発現するターゲット分子への上記装置内に含ませたおとり分子の特異的結合を模索する方法において使用する。そのような実施態様は、ターゲット細胞への1種以上の治療上有用な分子の伝達を考慮しての、ターゲット細胞の細胞膜上への上記装置の結合を行なうための上記装置の使用を含む。
【0009】
本発明の目的は、装置上に固定させるおとり存在物上にターゲット存在物を結合させるための装置からなり、下記:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
b) 上記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、上記アンカー複合体の各々が、下記を含むことを特徴とする:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、上記リン脂質に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子。
【0010】
即ち、本発明者等は、今回、ターゲット存在物、とりわけターゲット分子の改良された結合および検出方法を実施し得ることを見出しており、下記からなる装置を使用する:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの生理食塩水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
上記脂質層は、下記である:
ai) 脂質二分子層、例えば、固形基体をコーティーングする脂質二分子層;
aii) 脂質単分子層、例えば、空気と水溶液間の界面に形成させた脂質単分子層;
aiii) 水溶液中のリポソーム、例えば、水性コアを囲む1種以上の脂質二分子層を有する小胞からなるリポソーム;
b) アネキシンタンパク質とパートナー分子、とりわけタンパク質、ペプチドまたは核酸間の融合複合体を含有する二次元(2D)タンパク質マトリックス。
上記2Dタンパク質マトリックスは、特異的および非共有結合による上記脂質層上の上記融合複合体の上記アネキシン成分の集合体に由来する。
上記融合複合体は、上記脂質層に指向させて安定結合させる。
c) おとり分子は、上記アンカー複合体の1部であり、上記アンカー複合体は、下記のいずれかからなる:
i) 上記おとり分子が、上記融合複合体のアネキシン成分に融合させるパートナー分子である、上記で定義するような融合複合体;または、
ii) 上記おとり分子を上記融合複合体のパートナー分子に共有または非共有結合させる、上記で定義した融合複合体と上記おとり分子間の複合体;または、
iii) 上記おとり分子を中間分子によって上記融合複合体のパートナー分子に結合させる場合の、上記で定義した融合複合体、おとり分子、並びに上記おとり分子および上記融合複合体のパートナー分子の双方に結合する中間分子間の複合体。
【0011】
ある種の実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記脂質層に非共有結合させる。
ある種の他の実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記脂質層に共有結合させ得る。具体的には、共有結合は、上記脂質層でのアンカー複合体の上記二次元マトリックスの形成の後で上記アンカー複合体と上記脂質層中に含ませた脂質分子との間で生じさせる。当業者であれば、周知の方法を使用して、タンパク質と脂質分子間に共有結合を生じさせ得るであろう。具体的には、共有結合は、アンカー複合体中に含ませた1個以上のリシン残基の、より詳細にはアンカー複合体のアネキシン成分のアルファ-またはイプシロン-基と上記脂質層の脂質分子中に含まれるカルボキシル基との間で生じさせ得る。
用語“存在物”は、本明細書においては、小分子、生物学的分子、並びに、とりわけ細胞、細胞由来の膜小胞およびフラグメント、天然または人工リポソーム、および無機粒子のような超分子集合体を包含するものとする。
本発明によれば、一般に、おとり存在物は、おとりタンパク質、ペプチドまたは核酸からなる。
本発明によれば、上記融合複合体中に含ませた上記アネキシンタンパク質は、好ましくは、アネキシン-A5タンパク質またはアネキシン-A5の修飾形からなる。
本発明者等は、(i) アネキシンタンパク質と(ii) パートナー分子との融合複合体を使用して、該アネキシン融合複合体が、アネキシン-A5タンパク質それ自体の既知の特性を、脂質層上で安定な高密度2Dマトリックスとなる自己集合体に与えることを見出した。
一般に、本発明に従う装置においては、上記パートナー分子は、パートナータンパク質からなる。本明細書全体を通じて、上記パートナータンパク質は、“第2タンパク質”とも称し得る。
【0012】
さらに詳細には、本発明者等は、(i) アネキシン-A5タンパク質と(ii) 第2タンパク質との融合複合体を使用して、該アネキシン融合複合体が、アネキシン-A5タンパク質それ自体の既知の特性を、脂質層上で安定な高密度2Dマトリックスとなる自己集合体に与えることを見出した。
上記融合複合体においては、上記パートナー分子は、一般に、有機化合物、有利には、ポリペプチド、即ち、ペプチドまたはタンパク質からなる。
融合複合体の他の実施態様においては、上記パートナー分子は、無機分子からなり得る。
ある種の実施態様においては、上記脂質層は、脂質二分子層からなる。これらの実施態様は、固形基体をコーティーングする脂質二分子層を包含する。
ある種の他の実施態様においては、上記脂質層は、脂質単分子層からなる。これらの実施態様は、空気と水溶液間の界面に形成された脂質単分子層を包含する。
さらにある種の他の実施態様においては、上記脂質層は、水溶液中のリポソームの外部脂質層からなる。これらの実施態様はリポソームからなる脂質層を包含し、該リポソームは、水性コアを囲む1種以上の脂質二分子層を含む小胞からなる。
【0013】
さらに、本発明者等は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメイン(Loewenadler等、1987年;Nilsson等、1987年)に組換えDNA技術によって融合させたアネキシン-A5タンパク質、またはArg-Gly-Asp (RGD)細胞付着配列を含有するペプチド(RuoslahtiおよびPierschbacher、1987年)に融合させたアネキシン-A5タンパク質のいずれかから調製した融合複合体が、空気-水界面の脂質単分子層上および固形物支持脂質二分子層上で2D結晶を形成させ、これら2D結晶が、アネキシン-A5により形成され且つOling等(2001年)、Reviakine等(1998年)において説明されている2D結晶と同様なp6対称および幾何学特性を示すことを見出した。従って、トリマーの形成およびトリマーの2D結晶に関与するアネキシン-A5の自己集合特性は、アネキシン-A5−ZZ融合複合体において保持されている。
さらにまた、本発明者等は、脂質層上の融合複合体の表面密度を、(i) 融合複合体と(ii) アネキシン分子の混合物を融合複合体分子対アネキシン分子の限定された比率で使用することによって調整し得ることも見出した。とりわけ、脂質層上の融合複合体分子の表面密度は、(i) 融合複合体分子と(ii) アネキシン-A5分子の混合物を融合複合体分子対アネキシン-A5分子の限定された比率で使用することによって調整し得る。
アンカー複合体の脂質結合2D集合体中の融合複合体分子対アネキシン-A5分子の分子比は、前以って形成させた脂質層に添加する出発物質として機能する水性混合物中のこれら分子間の分子比と同じである。従って、上記脂質層上の融合複合体の表面密度は、予測し得、調整可能である。アネキシン-A5の最高表面密度は、〜3.3×1012分子/cm2または〜200ng/cm2である。
本発明に従う装置においては、アンカー複合体の脂質結合2D集合体中の(i) 融合複合体対(ii) 融合していないアネキシン分子の分子比は、1:0〜0:1で変動し得る。しかしながら、上記比は、好ましくは0.5:0.5〜0.01:0.99、より好ましくは0.4:0.6〜0.1:0.99、最も好ましくは0.3:0.7〜0.1:0.9の範囲である。
【0014】
さらにまた、本発明者等は、アネキシン-A5タンパク質のようなアネキシンタンパク質の、カルシウム含有溶液による多数回の洗浄時に偽不可逆的な形でカルシウムイオンの存在下に脂質層に結合する性質が融合複合体およびアンカー複合体の双方において保持されていることも証明している。
さらにまた、本発明者等は、アンカー複合体を脂質層上に結合させた上記2Dタンパク質マトリックスに含ませたとき、上記アンカー複合体のおとり分子が、溶媒相に対し、従って、溶媒相中に含ませ上記おとり分子に結合する性質を有する如何なる分子に対しても高暴露性を示すことも見出している。
さらにまた、本発明者等は、脂質二分子層上のRGD含有ペプチドに結合させたアネキシン-A5からなるアンカー複合体の2Dマトリックスが細胞付着を容易にすることも見出している。
さらにまた、本発明者等は、脂質層上のジスルフィド結合アネキシン-A5 (T163C;C314S)ダイマーを含むアンカー複合体の2Dマトリックスが、負荷電リン脂質を含有するリポソームをカルシウムイオンの存在下に固定させ得ることも見出している。
即ち、本発明によれば、おとりタンパク質を含む新規な結合および検出装置を製造しており、該検出装置は、上述した脂質層上に2Dマトリックスを形成するアネキシン-A5系アンカー複合体の技術的利益に由来する利点を有する。
さらに詳細には、本発明は、おとり分子上へのターゲット分子の結合を検出する装置を開示し、上記おとり分子は、上記装置上に、アネキシン-A5タンパク質とパートナー分子間の上記融合複合体を含む上記アンカー複合体の1部として固定させており、上記融合複合体は上記脂質層上に結合させており、上記脂質層は、i) 固形基体をコーティーングする脂質二分子層、またはii) 空気-水界面に形成された脂質単分子層のいずれかからなる。
【0015】
既に説明したように、本発明者等は、上記融合複合体のパートナー分子および上記アンカー複合体のおとり分子のそれらの相応するリガンド(1種以上)に対する高利用性が、使用する上記融合複合体の配向結合に基づき存在することを見出している;何故ならば、アネキシン成分は、その凸側表面により脂質層に結合させており、一方、上記パートナー分子およびおとり分子は、脂質層と接触している面と反対のアネキシン成分の面で溶媒に暴露させるからである。
さらに、上記融合複合体の高表面密度は、アネキシンタンパク質を脂質層に結合させたときのアネキシンタンパク質の2D自己集合特性により可能である。
本発明のもう1つの目的は、複数の上述したような検出装置を含む、おとり存在物上へのターゲット存在物分子の結合を検出する装置からなる。
最も好ましくは、本発明によれば、上記アネキシンタンパク質は、アネキシン-A5タンパク質またはアネキシン-A5の修飾形からなる。
第1の好ましい実施態様においては、上記脂質層は、固形基体をコーティーングする脂質二分子層であり;本発明装置の上記固形基体は、該基体が均質な脂質二分子層コーティーングの形成を適切に可能にすることを条件として、種々のタイプであり得る。本発明に従う装置の上記第1の実施態様においては、上記固形基体は、装置の1部である。
好ましくは、上記固形基体は、雲母、シリカ、シリコン、無機ガラスおよび金からなる基体群から選択する。
雲母基体としては、JBG-Metafix社(フランス国モンジジエ)から、標章“白ルビー雲母、品質Clear-Scratch-Less CLSS”として販売されているような白雲母が好ましい。
シリカ基体としては、Q-Sense社(スウェーデン国ゴテンブルグ)から販売されているもののようなシリカコーティーング石英結晶が好ましい。
シリコン基体としては、CEA社(フランス国グルノーブル)から販売されているもののようなシリコンウェハーが好ましい。
無機ガラスとしては、Fisher Scientific社(米国ペンシルベニア州ピッツバーグ)から販売されているもののような顕微鏡カバーガラスが好ましい。
【0016】
本発明に従う“脂質層”は脂質分子を含む層からなり、この層は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する。即ち、上記脂質層は、上記脂質層に中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える1種以上の化合物を含む。中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える化合物(1種以上)は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する任意の化合物からなり得る。脂質層のある種の実施態様においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える化合物は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有するリン脂質からなる。ある種の実施態様においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を与える化合物は、ポリリン酸塩含有分子、ヘパリン分子のようなポリ硫酸塩含有分子またはヘパリンの任意のポリ硫酸塩含有誘導体のような、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有するポリマー類からなる。
本発明に従う“脂質単分子層”とは、上記で定義したような単一脂質層を意図する。ある種の実施態様においては、上記脂質単分子層は液媒と空気の界面に位置させ、上記液媒は、好ましくは、水または食塩水溶液もしくは任意の緩衝剤水溶液を含ませた水または任意の他の水溶液のような水性または親水性液媒からなる。
本発明に従う“脂質二分子層”とは、上記で定義したような2層の脂質層を含み、これら2層の脂質層が非共有相互作用により互いに結合している二分子層を意図する。
ある種の実施態様においては、上記脂質二分子層は、それぞれ、下記からなる2つの脂質層を含む:
(i) (i)1種以上の両親媒性分子、最も好ましくは1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層からなる第1分子層;上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し;上記脂質層は、一面で本発明の装置の固形基体に、反対面で二分子層の第2分子層に非共有結合している;および、
(ii) (i)1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層からなる第2分子層;上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し;上記脂質層は、一面で上記第1分子層に非共有結合しており、上記脂質層の反対面は、溶媒に暴露させ、融合複合体のアネキシン成分の親和性により結合させる。
【0017】
脂質層の第1の好ましい実施態様においては、上記脂質層は、(i)1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層を含むかまたはそれらの層からなりさえし、上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する。中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する好ましいリン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類である。
脂質層のこの第1の好ましい実施態様においては、上記脂質層は、C14のまたはより長鎖の、例えば、C16、C18、C20のアルキルまたはアルケニル鎖を有する両親媒性分子を含むかまたはそれらの分子からなりさえする。好ましい両親媒性分子は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類、N-[1-(2,3-ジオレオキシルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルスルフェート(DOTAP)のような脂質分子である。
上記で定義したような2つの分子層を含む脂質二分子層を使用する場合、上記第1分子層を、固形基体と相互作用する脂質の親水性部分によって配向させ、脂質の疎水性鎖の先端を上記第2分子層の疎水性鎖の先端と結合させる。脂質二分子層の上記第1の実施態様は、使用する固形基体が雲母、シリカ、シリコンまたは無機ガラスからなる場合にとりわけ適切である。
【0018】
“負の正味電荷を有するリン脂質”とは、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(POPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(POPG)、カルジオリピン類、または脳脂質抽出物のようなこれらの混合物のような天然または合成リン脂質を意図する。
また、スルファチド類のような負荷電性脂質も、負の正味電荷を有するリン脂質に代えて使用し得る。
中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質は、上記脂質層に、上記融合複合体のアネキシン成分に結合する性質を付与する。とりわけ、アネキシン、とりわけアネキシン-A5は、高親和性でもって、ホスホセリン基を含有するそのような脂質にカルシウムイオンの存在下に結合する。
最も好ましくは、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記リン脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DMPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)およびカルジオリピンからなる群から選択する。最も好ましくは、DOPSを使用する。
脂質層においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質の含有量は、上記脂質層の総質量基準で、2質量%〜100質量%、有利には20質量%〜40質量%で変動する。
当業者であれば、上記負荷電リン脂質中の脂質層の含有量を、使用する固形基体に応じて適応させることは可能であろう。例えば、上記負荷電リン脂質の含有量は、雲母を固形基体として使用する場合、脂質層の総質量基準で、好ましくは20質量%〜100質量%で変動する。もう1つの具体的な例においては、上記負荷電リン脂質の含有量は、シリカを固形基体として使用する場合、脂質層の総質量基準で、好ましくは20質量%〜30質量%で変動する。
脂質層内の負荷電リン脂質の含有量が上記の下限範囲よりも低い場合、低い密度を有する融合複合体の2Dマトリックスが得られ、高検出感度を与える検出装置の製造を妨げ得る。
【0019】
脂質層に含ませる他の脂質は、種々の適切なタイプのリン脂質であり得る。これらの他のリン脂質は、好ましくは、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチンのようなレシチン類からなる群から選択する。
最も好ましい実施態様においては、とりわけ雲母、シリカ、シリコンまたは無機ガラスを固形基体として使用する場合、脂質層は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)の混合物からなる。
上記第1の好ましい実施態様によれば、脂質二分子層は、上述の脂質類によって形成された脂質小胞を固形基体上に付着させることによって形成させ、上記脂質小胞は、とりわけ、実施例5-1において説明しているような超音処理により調製する。一般に、当業者であれば、予め形成させたリン脂質小胞から脂質二分子層を形成させるための適切な技術的プロトコールを、KellerおよびKasemo (1998年);Richter等 (2003年);RichterおよびBrisson (2003年);および、RichterおよびBrisson (2005年)の論文において見出すであろう。
既に上記で詳述したように、本発明に従う装置のある種の実施態様においては、上記脂質層は、固形基体上に吸着させるか、或いはリン脂質二分子層に結合させたアネキシン-A5 (T163C;C314S)のジスルフィド結合複合体から調製した融合複合体の2Dマトリックスへ結合させるかしたリン脂質小胞の層からなる。
別の実施態様においては、上記脂質二分子層は、負荷電性ポリマー、ポリリン酸塩含有分子、ヘパリン分子のようなポリ硫酸塩含有分子で置換える。
さらにもう1つの実施態様においては、上記脂質二分子層は、ポリマー分子のクッションまたは層によって固形基体から分離する(SackmannおよびTanaka、2000年)。
【0020】
前記で詳述したように、脂質層のある種の実施態様は、空気と水溶液の界面の脂質単分子層からなる。
本発明に従う脂質単分子層の特定の実施態様においては、上記脂質単分子層は、(i) 1種以上の両親媒性分子、最も好ましくは1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層からなる単分子層からなり、上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し、上記脂質単分子層は、空気と水溶液の界面に形成させ、溶媒に暴露させて、上記融合複合体のアネキシン成分に結合させる。
脂質単分子層の第1の好ましい実施態様においては、上記脂質単分子層は、(i)1種以上の脂質と(ii)1種以上のリン脂質との混合物を含む脂質層を含むかまたはそれらの層からなりさえし、上記1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する。中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する好ましいリン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類である。
脂質単分子層のこの第1の好ましい実施態様においては、上記脂質単分子層は、C14のまたはより長鎖の、例えば、C16、C18、C20のアルキルまたはアルケニル鎖を有する両親媒性分子を含むかまたはそれらの分子からなりさえする。好ましい両親媒性分子は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、カルジオリピン類、N-[1-(2,3-ジオレオキシルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルスルフェート(DOTAP)のような脂質分子である。
上記第1の好ましい実施態様によれば、上記脂質単分子層は、配向させて、脂質の親水性部分を水溶液に対して暴露させ、脂質の疎水性鎖を空気に対して暴露させる。
【0021】
“負の正味電荷を有するリン脂質”とは、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(POPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(POPG)、カルジオリピン類、または脳脂質抽出物のようなこれらの混合物のような天然または合成リン脂質を意図する。
また、スルファチド類のような負荷電性脂質も、負の正味電荷を有するリン脂質に代えて使用し得る。
中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質は、上記脂質単分子層に、上記融合複合体のアネキシン成分に結合する性質を付与する。とりわけ、アネキシン、とりわけアネキシン-A5は、高親和性でもって、ホスホセリン基を含有するそのような脂質にカルシウムイオンの存在下に結合する。
最も好ましくは、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記リン脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DMPS)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(POPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセリン(DOPG)およびカルジオリピンからなる群から選択する。最も好ましくは、DOPSを使用する。
【0022】
上記脂質単分子層においては、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する上記1種以上のリン脂質の含有量は、上記脂質単分子層の総質量基準で、2質量%〜100質量%、有利には20質量%〜40質量%で変動する。
当業者であれば、上記負荷電リン脂質中の脂質単分子層の含有量を、状況に応じて変化させることは可能であろう。例えば、上記負荷電リン脂質の含有量は、脂質単分子層の総質量基準で、好ましくは20質量%〜100質量%で変動する。
上記脂質単分子層内の負荷電リン脂質の含有量が上記の下限範囲よりも低い場合、低い密度を有する融合複合体の2Dマトリックスが得られ、高検出感度を与える検出装置の製造を妨げ得る。
上記脂質単分子層に含ませる他の脂質は、種々の適切なタイプのリン脂質であり得る。これらの他のリン脂質は、好ましくは、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、卵レシチンのようなレシチン類からなる群から選択する。
最も好ましい実施態様においては、上記脂質単分子層は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)の混合物からなる。
【0023】
本発明によれば、上記融合複合体のアネキシン成分の主たる有益な性質は、リン脂質表面上に高密度2Dタンパク質マトリックスを形成する能力並びに上記2Dタンパク質マトリックスを上記リン脂質表面上に安定結合させるという事実である。さらに、アネキシン-A5および数種の、アネキシン-A4およびアネキシン-A12のような他のアネキシン類が示すようなトリマーとしての自己集合性およびトリマーをベースとする2D結晶質集合体は、アンカー複合体の表面密度の認識と調整を与えることのようなさらなる利点を提供する。アネキシン-A5が好ましい。
当該技術において広く知られているように、アネキシン-A5は、4個のアネキシン繰返し相同性ドメインを含む(Huber等、1990年;Concha等、1993年)。また、アネキシン類は、高親和性をもって、負荷電リン脂質を含有する脂質表面にカルシウムイオンの存在下に結合することも知られている(Tait等、1989年;BlackwoodおよびErnst、1990年;Pigault等、1994年;Meers、1996年)。アネキシン-A5は、アネキシン-A5トリマーとしておよびアネキシン-A5トリマーから形成された2D結晶質配列体として、空気-水界面の脂質単分子層のレベル(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Brisson等、1999年)で、さらに、雲母上形成させた固形物支持リン脂質二分子層のレベルで(Reviakine等、1998年;RichterおよびBrisson、2005年)で自然に自己集合する(図5-2、5-3A)。また、アネキシン-A5は、シリカコーティーングシリコン基体上に形成させた固形物支持リン脂質二分子層上で緊密充填2D自己集合体を形成することも知られている(RichterおよびBrisson、2003年;Richter等、2005年) (図5-3B)。
【0024】
“アネキシン”タンパク質とは、本明細書においては、アネキシン-A1、アネキシン-A2、アネキシン-A3、アネキシン-A4、アネキシン-A5、アネキシン-A6、アネキシン-A7、アネキシン-A8、アネキシン-A9、アネキシン-A12、アネキシン-A、アネキシン-B、アネキシン-Cおよびアネキシン-D、並びに任意のこれらの“官能活性”タンパク質誘導体からなる群から選ばれるタンパク質を意図する。
“アネキシン-A5”タンパク質とは、本明細書においては、クマネズミ類、人類、ハツカネズミ類、野鶏類および反芻類からなる群から選ばれた種に由来するアネキシン-A5のようなアネキシン-A5群のタンパク質、並びに任意のこれらの“官能活性”タンパク質誘導体を意図する。
本発明に従うアネキシンタンパク質の“官能活性”誘導体とは、任意の天然産生アネキシンタンパク質に由来し且つリン脂質層、とりわけリン脂質二分子層に安定結合させるアネキシン成分の高密度2D緊密充填集合体の形成を可能にする任意のタンパク質を包含する。
また、アネキシンタンパク質の官能活性誘導体は、参照タンパク質として使用する天然産生の相応するアネキシンのアミノ酸配列に関して1個以上のアミノ酸残基の違いを有するタンパク質も包含する。また、アネキシンタンパク質の官能活性誘導体は、参照アネキシン-A5タンパク質と比較して、1個以上のアミノ酸残基の負荷、置換または欠落を含み且つこれらの修飾がリン脂質二分子層に安定結合させるアネキシン成分の高密度2D緊密充填配列の形成を変化させないタンパク質も包含する。
アネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体の特定の実施態様は、下記の実施例において例示しており、該官能活性誘導体は、ドブネズミ(Rattus norvegicus)由来の天然産生アネキシン-A5タンパク質に由来する変異体化[T163C;C314S]アネキシン-A5タンパク質である。
【0025】
クマネズミ類、人類、ハツカネズミ類、野鶏類および反芻類に由来するアネキシン-A5タンパク質の群のうちで最低の相同性アネキシン-A5タンパク質は、77%のアミノ酸同一性を共有する。
好ましくは、本発明に従うある融合複合体の1部であるアネキシンタンパク質成分は、相応する天然産生アネキシンタンパク質に対して少なくとも50%のアミノ酸同一性を有する。より好ましくは、上記アネキシンタンパク質成分は、相応する天然産生アネキシンタンパク質に対して、少なくとも77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有する。具体的な例としては、一般に、唯一の修飾が最初の繰返し領域の前のN-末端配列および4番目の繰返し領域の後のC-末端配列の欠落からなるアネキシン官能活性誘導体は、相応する天然産生アネキシンタンパク質に対して約90%のアミノ酸配列同一性を有する。
2つのアミノ酸配列間の同一性の割合を判定するには、配列を最適比較目的において位置合せする。例えば、間隙を第1および第2アミノ酸配列の一方または双方に最適位置合せのために導入し、非相同性配列は、比較目的において無視し得る。
最適比較目的において、2つのアミノ酸配列の同一性パーセントを、CLUSTAL W (バージョン 1.82)により、下記のパラメーターによって判定し得る:
(1) CPU MODE=ClustalW mp;(2) ALIGNMENT=“full”;(3) OUTPUT FORMAT=“aln w/numbers”;(4) OUTPUT ORDER =“aligned”;(5) COLOR ALIGNMENT =“no”;(6) KTUP (word size) =“default”;(7) WINDOW LENGTH=“default”;(8) SCORE TYPE=“percent”;(9) TOPDIAG =“default”;(10) PAIRGAP =“default”;(11) PHYLOGENETIC TREE/TREE TYPE=“none”;(12) MATRIX=“default”;(13) GAP OPEN=“default”;(14) END GAPS=“default”;(15) GAP EXTENSION=“default”;(16) GAP DISTANCES=“default”;(17) TREE TYPE=“cladogram”;および、18) TREE GRAP DISTANCES=“hide”。
【0026】
本発明の融合複合体中に含ませ得るとりわけ好ましいアネキシン-A5成分は、SEQ ID No.1〜SEQ ID No.5のアミノ酸配列からなる群から選ばれたアネキシン-A5タンパク質、またはこれらの官能活性誘導体からなる。
SEQ ID No.1〜SEQ ID No.5のアネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体に包含されるタンパク質群を具体的に定義するためには、以下の配列の下記の特性に留意すべきである。
SEQ ID No.1のラットアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 20〜80、(ii) 92〜152、(iii) 176〜236および(iv) 251〜311。
SEQ ID No.2のマウスアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 21〜81、(ii) 93〜153、(iii) 177〜237および(iv) 252〜312。
SEQ ID No.3のヒトアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 22〜82、(ii) 94〜154、(iii) 178〜238および(iv) 253〜313。
SEQ ID No.4のウシアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 22〜82、(ii) 94〜154、(iii) 178〜238および(iv) 253〜313。
SEQ ID No.5のニワトリアネキシン-A5タンパク質においては、それぞれ、4つの繰返し領域が次の特定領域に存在する:(i) 23〜83、(ii) 95〜155、(iii) 179〜239および(iv) 254〜314。
上記で定義したようなアネキシン-A5成分の具体的な実施態様は、本発明に従う1つの融合複合体に含ませるラット由来変異体化[T163C;C314S]アネキシン-A5タンパク質、即ち、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインに融合させたラットアネキシン-A5からなる本発明におけるSEQ ID No.6の融合複合体からなる。
【0027】
既に本明細書において説明しているように、本発明の融合複合体に含ませるアネキシンタンパク質は、アネキシン-A5以外の他のアネキシン類も包含し、アネキシン-1 (SEQ ID No.7)、アネキシン-2 (SEQ ID No.8)、アネキシン-3 (SEQ ID No.16)、アネキシン-4 (SEQ ID No.10)、アネキシン-6 (SEQ ID No.9)、アネキシン-7 (SEQ ID No.12)、アネキシン-8 (SEQ ID No.11)、アネキシン-9 (SEQ ID No.18)、アネキシン-A (SEQ ID No.17)、アネキシン-B (SEQ ID No.15)、アネキシン-C (SEQ ID No.13)およびアネキシン-D (SEQ ID No.14)、並びに任意のこれらの官能活性誘導体からなる群から選択し得る。
“融合複合体”とは、本明細書においては、本明細書において“パートナー分子”とも称する第2成分、とりわけ、タンパク質、ペプチドまたはオリゴヌクレオチドに共有結合させたアネキシンタンパク質成分を含むまたはそれからなるハイブリッド分子を意図する。上記パートナー分子がタンパク質またはペプチドである場合、上記アネキシン成分との共有結合は、組換えDNA技法による標準ペプチド結合または化学結合のいずれかによって実施し、その化学結合は、図6および7に例示しているように、タンパク質化学法による標準ペプチド結合または他の任意の化学結合である。さらに、上記融合複合体においては、アネキシンタンパク質は、上記第2分子に直接結合させてもよく、或いは、上記第2分子から、スペーサー鎖、とりわけ、1〜20個のアミノ酸残基で変動し得るアミノ酸長を有するアミノ酸スペーサー鎖、最も好ましくは親水性アミノ酸残基によって分離してもよい。
本明細書において定義するような組換えDNA技法により形成させた融合タンパク質においては、アネキシン成分は、そのアミノ酸配列のN-末端或いは対照的にC-末端のいずれかに位置させる。
1つの好ましい実施態様においては、アネキシン成分は、上記融合タンパク質のN-末端に位置させ、この場合、第2タンパク質は、上記融合タンパク質のC-末端に位置させる。
【0028】
上記アネキシン成分と第2タンパク質間のタンパク質化学法によって産生させた融合複合体の具体的な例は、架橋剤のSPDP (N-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルチオ)プロピオネート)によって得られる。
既に本明細書において説明しているように、本発明に従う装置においては、使用するおとり分子は、1種以上のターゲット分子に対して親和性を有し、そのターゲット分子の存在を試験すべきサンプル中で模索する。
既に説明しているように、上記おとり分子は、アネキシンタンパク質とパートナー分子、とりわけ第2タンパク質との融合複合体を含むまたはそれからなるアンカー複合体の1部として装置上に固定させる。
1つの実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記融合複合体から専らなり、この実施態様においては、アネキシン-A5タンパク質と融合させるパートナー分子は、おとり分子自体からなり、この場合、上記おとり分子は、おとりタンパク質からなる(図2、モード1)。
もう1つの実施態様においては、上記アンカー複合体は、上記融合複合体に含ませるパートナー分子、例えば、パートナータンパク質を上記おとり分子に直接または間接的に非
共有結合させている上記融合複合体を含む。上記融合複合体に含ませるパートナー分子は、該おとり分子を上記第2タンパク質と単純に非共有結合させる場合に、上記おとり分子に直接非共有結合させる(図2、モード2)。
さらにもう1つの実施態様においては、上記融合複合体に含ませるパートナー分子、例えば、パートナータンパク質は、上記おとり分子に、上記おとり分子を中間タンパク質に結合させている場合に間接的に非共有結合させ、上記中間タンパク質自体は、上記融合複合体に含ませる第2タンパク質に直接または間接的に非共有結合させている(図2、モード3)。
上記各実施態様においても、おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
【0029】
本発明に従う装置の好ましい実施態様においては、アネキシンタンパク質と第2タンパク質との融合複合体において、上記第2タンパク質は、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質からなる。
好ましくは、抗体のFc成分に対して親和性を有する上記タンパク質は、Uhlen等(1990年)に説明されているもののような黄色ブドウ球菌由来のプロテインAの1部と同類のZZドメインからなる。さらに好ましくは、抗体のFc成分に対して親和性を有する上記タンパク質は、Elliasson等(1988年)によって説明されているもののようなブドウ球菌種由来のGタンパク質またはブドウ球菌種由来のGタンパク質の1部からなる。
この好ましい実施態様によれば、抗体のFc成分に対して親和性を有する上記タンパク質は、上記おとり分子であり得、この場合、上記検出装置は、試験すべきサンプル中の抗体の存在の検出を可能にする。
さらに、この好ましい実施態様によれば、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質からなる第2タンパク質は、上記おとり分子からなるものではなく、この場合、上記おとり分子は、(i) 上記第2タンパク質上に直接結合させた抗体(図3、モード2A)、または(ii) おとり結合性中間分子、とりわけおとり特異性抗体(図3、モード3A)に結合させた興味あるおとり分子(図3、モード3)のいずれかであり得、上記おとり結合性中間分子は上記第2タンパク質に直接結合している(図3、モード3A)。
本発明に従う装置のもう1つの好ましい実施態様においては、アネキシンタンパク質と第2タンパク質との融合複合体において、上記第2タンパク質は、抗体の相補性決定領域(CDRS)を含む抗体フラグメントからなる。
この好ましい実施態様によれば、上記抗体フラグメントは、上記おとり分子自体からなり得、この場合、上記検出装置は、上記抗体フラグメントと親和性を有するターゲット分子の検出を可能にする。
さらに、この好ましい実施態様によれば、上記抗体フラグメントは、おとり特異性抗体フラグメントからなり、該抗体フラグメントにおとり分子を直接非共有結合させる。
この好ましい実施態様の好ましい局面においては、上記抗体フラグメントは、親抗体に由来するFabまたは単鎖可変フラグメント(scFv)からなる群から選択する。
【0030】
本発明に従う検出装置のさらにもう1つの好ましい実施態様においては、アネキシンタンパク質と第2タンパク質との融合複合体において、上記第2タンパク質は、そのようにおとりタンパク質からなる上記おとり分子からなる。
本発明に従う検出装置のもう1つの好ましい実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシン-A5タンパク質とおとり特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントとの融合複合体;および、(ii) 上記融合複合体の上記おとり特異性抗体フラグメントに非共有結合させたおとり分子からなる。上記おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質と抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;および、(ii) 上記融合複合体上にそのFcドメインによって非共有結合させている抗体からなり、上記抗体はおとり分子である。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質と抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;(ii) 上記融合複合体上にそのFcドメインによって非共有結合させたおとり特異性抗体;および、(iii) 上記おとり特異性抗体上に非共有結合させた上記おとり分子からなる。上記おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質とおとりタンパク質であるタンパク質との融合複合体からなる。
本発明に従う検出装置のさらなる実施態様においては、上記アンカー複合体は、(i) アネキシンタンパク質とおとり分子に対して親和性を有する第2タンパク質との融合複合体;および、(ii) 上記第2タンパク質に結合させたおとり分子からなる。上記おとり分子は、おとりタンパク質からなり得る。
【0031】
好ましくは、本発明に従う検出装置においては、上記おとり分子は、生物学的分子、その誘導体およびその集合体からなる群、有機分子の群、ポリマー類の群、並びに無機分子およびその凝集物の群から選択する。
最も好ましくは、本発明に従う検出装置においては、上記おとり分子は、抗原特異性抗体、病原体特異性抗体、腫瘍細胞特異性抗体、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、脂質結合性タンパク質、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、増殖因子、ホルモン、薬物、オリゴヌクレオチド、核酸、糖残基、脂質、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選択する。
当業者であれば、本発明に従う融合複合体は、とりわけ融合タンパク質をコード化する発現ベクターの製造における周知の組換えDNA技法により、全く容易に製造し得るであろう。
タンパク質産生の組換え遺伝子操作を開示している一般的方法については、当業者であれば、とりわけSambrook等(1989年)の参考書を参照し得る。また、当業者であれば、Ausubel等(1989年)の参考書も参照し得る。
【0032】
本発明に従う装置を製造するのに使用し得る融合複合体の産生、即ち、SEQ ID No.1のアネキシン-A5タンパク質と黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインを含む融合タンパク質の産生の具体的な実施態様は、本明細書の実施例において提示している。
実施例1において例示している融合複合体の特定の実施態様においては、二重変異を有するSEQ ID No.1のアネキシン-A5成分[T163C;C314S]と第2タンパク質成分(ZZドメイン)を、最終組換え融合タンパク質におけるペプチド結合により、一緒に共有結合させている。
即ち、本発明装置の1つの好ましい実施態様においては、アネキシン成分と、パートナー分子、例えば、第2タンパク質成分を標準ペプチド結合によって一緒に共有結合させる。
上記融合複合体の1つの特定の実施態様においては、この融合複合体は、組換えタンパク質からなる。
本発明装置のもう1つの実施態様においては、上記融合タンパク質は、実施例2において例示しているように、ペプチド結合以外の共有結合によってパートナー分子、例えば、第2タンパク質成分に化学共有結合させたアネキシンタンパク質からなる。
このさらなる実施態様は、アネキシン-A5 [T163C;C314S]成分と第2タンパク質間の該アネキシン-A5成分中に取込ませたシステイン残基と第2タンパク質にグラフトさせたシステイン反応性基による化学架橋によって明白に例示している。そのような特定の実施態様においては、アミノ酸位置314に存在するシステイン残基をセリン残基で置換し、且つアミノ酸位置163に存在するスレオニン残基をシステイン残基で置換したSEQ ID No.1のアネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体を使用し得る。任意のタンパク質へのシステイン反応性基のグラフト化は、当業者にとって周知の方法に従い、ヘテロ二官能性架橋試薬によって実施する。タンパク質化学によるタンパク質の化学修飾を開示している一般的な方法については、当業者であれば、とりわけ、Wong (1991年)の参考書を参照し得る。
このように、本発明に従う検出装置の特定の実施態様においては、アネキシン-A5タンパク質と第2タンパク質を、アネキシン-A5タンパク質のシステイン残基と第2成分にグラフトさせたシステイン反応性基間の化学結合によって一緒に共有結合させている。
【0033】
本発明に従う装置のある種の好ましい実施態様においては、上記装置は基体を含み、上記脂質層を該基体上にコーティーングする。
これらの好ましい実施態様によれば、上記基体は、固形基体からなる。
固形基体は、好ましくは、雲母、シリコン、無機ガラスおよび金からなる群から選択する。
他の好ましい実施態様においては、上記基体は、液媒の空気-液体界面からなる。
容易に理解し得るように、本発明に従う装置の上記一般的な説明に続いて、該装置は、ターゲット分子スクリーニング手段の高レベルの小型化を可能にし、好ましくは、アッセイサンプル中の複数ターゲット分子または複数おとり分子を使用する1つのターゲット分子のいずれかの存在についての同時スクリーニング用のバイオチップとして使用する。
従って、本発明は、アンカー複合体中に含ませるおとり分子を2タイプ以上含む系、即ち、アンカー複合体中に含ませるおとり分子の収集体にも関する。
即ち、本発明は、上記系が複数の上記で定義したような検出装置を含む、ターゲット分子のおとり分子上への結合を検出する系にも関する。
好ましくは、上記検出系においては、上記複数の検出装置の各々の検出装置は、独自のおとり分子、とりわけ独自のおとりタンパク質を含む。2種以上の所定のおとり分子が、試験すべきアッセイサンプル中に存在する2種以上のターゲット分子に対して特異的に結合し得ることに留意すべきである。
好ましくは、上記検出系においては、検出系に含ませる2つの異なる検出装置は、異なるおとり分子、とりわけ異なるおとりタンパク質を含む。本発明の主題である各検出装置、とりわけ、上記で定義したような検出系に含ませる各検出装置は、固形基体を、この固形基体から形成させた粒子の形で或いはこの固形基体でコーティーングした粒子の形で含み得る。
本発明に従う装置のもう1つの実施態様においては、上記固形基体は、固形粒子の集合体の形にある。本発明の装置のこの特定の実施態様においては、上記粒子、好ましくはシリカ粒子、シリカコーティーング粒子またはガラスビーズを、既に上記で定義した種類の脂質二分子層(Mornet等、2005年)でコーティーングし、その上に、本発明のアンカー複合体を結合させる。
好ましくは、この特定の実施態様によれば、装置の1部である各粒子またはビーズは、これら粒子またはビーズに結合した、1つの所定のタイプのおとりタンパク質の多数の分子を含有する。
【0034】
バイオチップの形で製造する本発明に従う検出形の具体的な例は、1連のおとり分子を含む1連のアンカー複合体を含む系からなり、これら1連のおとり分子は1連の異なるターゲット特異性抗体からなり、各ターゲット特異性抗体は、異なる特異性抗原に対しておよび/または所定の抗原の異なるエピトープに対して特異性であって、相応するターゲット特異性抗体によって認識される1種以上の抗原からなる1種以上のターゲット分子の存在についてアッセイサンプルをスクリーニングする。
本発明に従う装置または検出系は、治療上興味あるターゲット分子のような生物学的興味のあるターゲット分子のあらゆるスクリーニング方法を含む、アッセイサンプル中に含まれるターゲット分子の結合をアッセイする方法を実施するのに使用する。
即ち、本発明のさらなる目的は、ターゲット分子のおとり分子上への結合を検出する方法からなり、該方法は、下記の工程を含む:
a) 試験すべきサンプルを調製する工程;
b) 上記試験すべきサンプルを上記で定義したような検出装置とまたは検出系と接触させる工程;および、
c) (i) 上記検出装置内または上記検出系内に含ませたおとり分子(1種以上)と(ii) 上記試験サンプル中に最終的に存在するターゲット分子(1種以上)間で最終的に形成された複合体を検出する工程。
また、本発明は、下記の工程を含む、サンプル中のターゲット分子の存在をアッセイする方法にも関する:
a) アネキシンタンパク質と上記ターゲット分子に結合するおとり分子との融合複合体を調製する工程;
b) 上記サンプルを上記融合複合体と混合し、それによって、上記融合複合体のおとり成分とターゲットとの複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られた融合複合体を、最終的には上記ターゲット分子との複合体の形で、固形基体をコーティーングしているリン脂質二分子層(該リン脂質二分子層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含み、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する)の表面上に固定させる工程;
c) 上記融合複合体のおとり成分と上記ターゲット分子(上記ターゲット分子が上記サンプル中に存在する場合の)との間で形成された複合体を検出する工程。
【0035】
また、本発明は、下記の工程を含む、サンプル中のターゲット分子の存在をアッセイする方法にも関する:
a) 上記ターゲット分子に結合するおとり分子を調製する工程 (該おとり分子は、i) アネキシンタンパク質との融合複合体の1部、ii) アネキシン-A5融合複合体の1部である第2分子に結合する分子、iii) アネキシン-A5融合複合体の1部である第2分子にそれ自体で結合する中間分子に結合する分子であり得る);
b) 上記サンプルを上記おとり分子と混合し、それによって、上記おとり成分とターゲット分子との複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られた融合複合体を、最終的には上記ターゲット分子との複合体の形で、脂質層の表面に固定させる工程 (上記脂質層は、i) 固形基体をコーティーングしている脂質二分子層、またはii) 空気と水溶液間の界面に形成させた脂質単分子層のいずれかであり;上記脂質層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物を含み、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する);
d) 上記アンカー複合体の上記おとり成分と上記ターゲット分子(上記ターゲット分子が上記サンプル中に存在する場合の)との間で形成された複合体を検出する工程。
上記方法の好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質を含み、上記抗体は、おとりタンパク質またはおとり特異性抗体のいずれかであるか、或いは上記おとり分子に結合する分子に対して特異性である。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインからなるタンパク質を含む。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、ブドウ球菌由来のGタンパク質からなるタンパク質を含む。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、ターゲット特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントからなるおとりタンパク質を含む。
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、おとり特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントを含む。
【0036】
上記方法のさらに好ましい実施態様においては、上記融合複合体は、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、オリゴヌクレオチド、核酸、糖残基、脂質、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選ばれたおとり分子を含む。
1つの例示としての実施態様においては、ターゲット分子の検出、定量および特性決定は、質量分析により或いは蛍光法、偏光解析法、QCM-D、表面プラスモン共鳴法のような公知の表面感受性方法の1つにより実施する。
もう1つの例示としての実施態様においては、ターゲット分子の検出、定量および特性決定は、ターゲット特異性抗体を使用することによって実施し、該ターゲット特異性抗体は、アッセイ方法を実施する前に標識化する。
そのような特定の実施態様においては、本発明の装置のおとり分子(1種以上)とターゲット分子(1種以上)間で形成された複合体の検出、定量または特性決定は、最終的に上記装置に結合する検出可能な分子を検出することによって実施する。
【0037】
上記検出可能な分子は、3[H]、14[C]、125[I]または32[P]のような放射性アイソト−プであり得る。また、検出可能な分子は、小蛍光染料分子または緑色蛍光タンパク質(GFP)群のタンパク質のような蛍光分子であり得る。検出可能な分子は、周知のβ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンステラーゼまたはカタラーゼのような酵素であり得る。当該技術において広く使用されている如何なる他の通常の検出可能分子も、本明細書においては、本発明のアッセイ方法に従って使用し得る検出可能な分子に包含される。
検出工程のもう1つの実施態様としては、おとり分子(1種以上)とターゲット分子(1種以上)間で形成された複合体の検出、定量または特性決定を、興味ある特異性ターゲット分子(その存在をアッセイサンプルにおいて模索する)の対して特異性の抗体を使用して実施する。
検出工程の更なる実施態様においては、おとり分子(1種以上)とターゲット分子(1種以上)間で形成された複合体の検出、定量または特性決定は、実施例5および図10〜14において例示しているように、散逸モニタリングによる水晶振動子微量天秤(QCM-D)法を使用して実施する。
【0038】
上記の明細から明らかなように、本発明のアッセイ装置および方法は、従来技術の装置および方法におけるそのような有利な組合せにおいては見出し得ない多くの技術的利点を集結している。
第1に、本発明者等が着想した本発明のアッセイ装置は、容易に且つ再現可能に製造することができる。例えば、固形基体上の脂質二分子層または空気-水界面の単分子層の製造、およびこれら層への融合複合体の高密度マトリックスの形成は、1時間以内で実施し得る。
第2に、既に上記で説明したように、脂質層上でのアネキシン-A5成分の制御された配向により、興味あるおとりタンパク質の溶媒への適切な暴露が可能になり、分析すべきアッセイサンプルに最終的に含まれるターゲット分子捕捉の最高の効率を確保する。
第3に、脂質層は、空気-水界面または固形基体の表面全体を覆い、また、脂質層は、アネキシン-A5またはアネキシン-A5誘導体の連続2D集合体により覆われており、これらの双方により、分子の非特異吸着を阻止する。
第4に、脂質層の表面でのおとりタンパク質の偽不可逆固定が、アネキシン-A5タンパク質の官能活性誘導体のようなアネキシン-A5タンパク質成分の性質によって得られている。
第5に、アンカー複合体の2Dマトリックスによる脂質層の完全被覆が、アネキシン-A5成分の自己集合性によって得られている。
さらに、本発明に従う装置においては、おとりタンパク質並びにおとりタンパク質と相応するターゲット分子間の複合体は、固形基体からリン脂質二分子層により分離されており、従来技術の方法および装置において一般に直面するおとりタンパク質変性の問題を回避している。
【0039】
この方策は、脂質層上で高密度を有し且つ安定な2D分子マトリックスを形成する基本的性質を与える他の分子、とりわけタンパク質にも及び得る。この方策は、とりわけ、脂質単分子層(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Brisson等、1999年a;Brisson等、1999年b)およびリン脂質二分子層(Reviakine等、1998年)上のアネキシン類、とりわけアネキシン-A5がその場合であるように、脂質層上で2D結晶を形成する性質を与えるタンパク質にも及び得る。空気-水界面の脂質単分子層中に取込ませた脂質との特異的相互作用により2D結晶を形成するタンパク質の例は、Brisson等、1999年a並びにEllisおよびHebert (2001年)において見出し得る。脂質表面上に安定な高密度2D配列を形成する基本的性質を与えるタンパク質の例は、ストレプタビジンであり、これは、ビオチン化脂質を含有する脂質単分子層(Darst等、1991年;Brisson等、1999年b;Farah等、2001年;RatanabanangkoonおよびGast、2003年)上並びにビオチン化脂質を含有し固形支持体をコーティーングする脂質二分子層(ReviakineおよびBrisson、2001年;RichterおよびBrisson、2003年)上に2D結晶を形成する。ターゲット分子の結合および検出は、ストレプタビジンを含有するアンカー複合体の2Dマトリックスに直接または間接的に結合させるおとり分子を使用することによって実現し得る。おとり分子とストレプタビジンとの結合は、1) 組換えDNA技法によって得られた融合複合体、ii) おとり分子、融合複合体の第2分子、またはおとり分子と第2分子間に位置するアンカー複合体の中間分子のいずれかのビオチン化二官能性試薬による化学架橋を含み得る。脂質表面上に安定な高密度2Dマトリックスを形成するタンパク質のもう1つの例は、GM1ガングリオシド含有脂質表面に結合するコレラ菌由来のコレラ毒素のB5成分である(Ludwig等、1986年;Mosser等、1992年;Brisson等、1999年b)。他の例は、N”,N”-ビス[カルボキシメチル]-L-リシン-(ニトリロ酢酸)-ニッケルキレート化基により共有的に修飾した脂質分子を含有する高密度2Dマトリックス搭載脂質表面を形成するポリヒスチジン伸長によって操作したタンパク質である(Kubalek等、1994年;Brisson等、1999年a)。そのようなタンパク質の例は、ロドバクター カプスラータス(Rhodobacter capsulatus)由来のタンパク質HupR (Venien-Bryan等、1997年)および血管内皮カドヘリンVE-EC1-4の細胞外フラグメント(Al-Kurdi等、2004年)である。種々のタイプの脂質表面上で2Dタンパク質マトリックスとして自己集合するタンパク質のさらにもう1つの例は、S層群のタンパク質からなる(SchusterおよびSleytr、2000年;Moll等、2002年)。
【0040】
前記で詳述したように、本発明に従う装置のある種の実施態様は、必要のある患者の特異性細胞タイプ、特異性組織タイプまたは特異性臓器に向けての興味ある伝達治療用分子のターゲッティング用の有用なベクターを提供する。
これらの実施態様によれば、本発明の装置は、脂質小胞、即ち、リポソームの形にあり、少なくとも溶媒に暴露させる外側脂質層は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し、標的細胞(1種以上)、標的組織(1種以上)または標的臓器(1種以上)の生体液中、膜表面にまたは細胞内含有物中に存在するターゲット分子に特異的に結合し得るおとり分子を含むアンカー複合体の二次元マトリックスによってコーティーングされている。これらの実施態様によれば、上記脂質小胞の内部部分は、1種以上の治療上有用な化合物を溶解または懸濁させている液媒を含む。上記脂質小胞、即ち、リポソームの内部部分は、本明細書においては、“コア”または“内部コア”とも称し、1種以上の製薬上活性な成分を溶解または懸濁させている液媒、好ましくは水性液媒を含有する上記脂質小胞、即ち、リポソームの内部中心部分からなる。
これらの実施態様によれば、本発明に従う装置は、全身または局所経路のいずれかにより、患者に投与し得る。その後、おとり分子を含む上記装置は、表面で相応するターゲット分子を発現する細胞、組織または臓器に特異的に結合する。その後、上記おとり分子のターゲット分子上への特異的結合によりターゲット細胞、組織または臓器に結合した装置は、細胞内に内在化し、本発明に従う装置の脂質小胞の内部部分に当初含ませた治療上有用な分子を伝達させる。
具体的には、本発明に従うそのような実施態様の装置内に含ませたアンカー複合体の1部であるおとり分子は、がん細胞の細胞表面に特異的に発現するまたは存在する抗原に対して特異的に結合するおとり分子からなる。これらの実施態様によれば、上記装置脂質小胞の内部部分中に含ませる治療上有用な分子は、がん患者の治療に現在使用されている周知の細胞毒成分のような、がんに対して活性な製薬用成分からなる群から選択する。
【0041】
即ち、本発明は、さらに、請求項1記載の装置を含むターゲッティング療法用分子用のベクターに関し、該装置は、下記を含む脂質小胞からなる:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する外側脂質層;
b) 上記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;上記アンカー複合体の各々は、下記を含む:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、上記リン脂質層に結合させており、上記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐上記アネキシンタンパク質に融合させた上記パートナー分子、
‐上記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により上記パートナー分子に間接的に結合させた分子;および、
c) 上記脂質小胞の内部部分中の、溶解または懸濁させた1種以上の製薬上活性な分子を含む液媒。
上述したように、本発明に従う治療用分子のターゲッティング用ベクターにおいては、上記おとり分子は、興味ある標的細胞、標的組織または標的臓器の表面で発現するターゲット分子に特異的に結合する。
好ましくは、上記のベクターにおいては、上記アンカー複合体は、上記おとり分子に融合させたアネキシンタンパク質、即ち、上記アネキシン分子と上記おとり分子との融合複合体からなる。
上記おとり分子は、本明細書において開示した任意の種類のおとり分子であり得る。
本発明を、如何なる形でも限定するものではない以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
実施例
【実施例1】
【0042】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]と第2タンパク質との組換えDNA技法による融合複合体の産生(上記第2タンパク質は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメインからなる)
実施例1-1:アネキシン-A5 [T163C;C314S]−ZZ発現ベクターの構築
黄色ブドウ球菌由来のプロテインAと同類のZZドメインのコード配列に結合させたラットアネキシン-A5のコード配列を含有する発現ベクターを、分子生物学の標準方法によって構築した。
ラットアネキシン-A5コード配列を、pKK233-2-アネキシン-A5発現ベクター(Pepinsky等、1988年)から、Ncol消化により切取り、発現ベクターpGELAF+ (Schanstra等、1993年)中に2つのNcol制限部位間でクローニングして、pGEF-A5発現ベクターを得た。
部位特異性変異誘発を標準手法(Kunkel、1985年)により実施して二重変異[T163C;C314S]を挿入して、pGEF-A5B発現ベクターを得た。利用し得る全てのアッセイを実施して、[T163C;C314S]二重変異体アネキシン-A5タンパク質が野生タイプアネキシン-A5の既知の性質全てを有することを、とりわけ、その脂質膜への結合に関する事項、および脂質単分子層(Oling等、2001年;Govorukhina等、2002年)上および雲母支持脂質二分子層(Reviakine等、1998年)上でのトリマーの2D結晶質アレーの形成について検証した。この理由により、使用する用語アネキシン-A5は、ここでは、二重変異体[T163C;C314S]アネキシン-A5を称するものとする。
アネキシン-A5遺伝子の3’末端でZZコード配列を融合させるために、pGEF-A5B中のアネキシン-A5の停止コドンを除去し、TAAと置換えた。プライマー:5'-GAAGAGCTCAGGGCCATAAAACAAG-3' [SEQ ID No.19](Sacl部位はアンダーラインを付している)および5'-CATGCTAGCTAAGTCATCCTCGCCTCCACAGA-3' [SEQ ID No.20] (Nhel部位はアンダーラインを付している)によって産生させたPCRフラグメントをSaclおよびNhelで消化し、Sacl/Nhel消化pGEF-A5B中に連結反応させて、pGEF-A5B'を得た。
シグナル配列を欠落し、NhelおよびBamHI制限部位を含有するZZフラグメントを、pEZZ18ベクター(Amersham BioSciences社)からPCRにより産生させた。使用したプライマーは、5'-TGTGCTAGCCAAGCCGTAAACAAATTCAAC-3'[SEQ ID No.21] (Nhel部位はアンダーラインを付している)および5'-GCAGGATCCCTATACCGAGCTCGAATTCGCGTCTAC-3' [SEQ ID No.22] (BamHl部位はアンダーラインを付している)であった。PCR産生物をNhelおよびBamHIにより消化し、Nhel/BamHI消化pGEF-A5B’中に連結反応により導入してpGEF-A5BZZを得た。アネキシン-A5−ZZタンパク質をコードする配列をXba1/BamH1により切取り、pET-11b発現ベクター(Novagen社)中にクローニングし、pET-A5BZZ発現ベクターを得た。
アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質に相応するヌクレオチド配列を標準法によって検証し、SEQ ID No.6のアミノ酸配列をコードしていることを評価した。
【0043】
実施例1-2:アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の発現
大腸菌BL21 (DE3)細胞を、プラスミドpET-A5BZZにより、ヒートショックによって形質転換した。細胞を、アンピシリン(100μg/mL)を含有するLBプレートに塗沫し、37℃で1夜インキュベートした。
1つのクローンを集め、25mlのLBアンピシリン培地中で37℃にて約20時間インキュベートし、OD600約3で終結させた。必要容量を採取し、400mLのLB-アンピシリン培地中に0.1のODに希釈した。
その後、培養物を、ODが0.6〜0.7に達するまで、30℃でインキュベートし、その後、誘導を0.4mMのIPTGにより開始させ、インキュベーションを30℃でさらに16時間実施した。最終ODfを測定した。
細胞を遠心分離(10分間、6,700g)により集菌し、ペレットを、10mM Tris、1mM EDTA、0.01% NaN3、10%グリセリン、pH 7.5を含有する緩衝液の、6.7×ODfに等しい容量中に再懸濁させた。
細胞懸濁液を、15秒間隔で1分間の13Wでの5工程音波処理によるパルスモードで操作するBransonソニケーターにより、4℃で超音波処理した。膜フラグメントおよび大破片を、4℃で1時間の48,000gでの遠心分離により分離した。細胞溶解性抽出物(CSE)とも称する上清を集め、使用するまで4℃で保存した。
アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、図7Aにおいて示すように、高レベルで発現している。
【0044】
実施例1-3:アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の精製
CSEを0.22μmフィルター上で濾過し、5mLの画分で、20mM Tris、pH 8、0.02% NaN3を含有する緩衝液(緩衝液A)で予め平衡させたSuperdex 75排除カラム(Amersham BioSciences社)に適用した。タンパク質の溶出は、緩衝液Aにより実施した。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、SDS-PAGEにて示しているように、約55mLで溶出した(図7B)。
アネキシン-A5−ZZを含有する画分をプールし、緩衝液Aで予め平衡させたMonoQ HR5/5アニオン交換カラム(Amersham BioSciences社)に適用した。溶出は、緩衝液A中での0から0.5MのNaCl勾配のより実施した。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、約270mM NaClで純粋タンパク質として溶出する(図7Cに示すSDS-PAGE分析)。
純粋タンパク質の質量は、MALDI-TOF質量分光分析により、50077Daと推定した;初期メチオニンを除いた理論質量は、50074Daである。
約40mg量の純粋アネキシン-A5−ZZタンパク質が、175mgの総タンパク質から出発して、400mLの細胞培養からのCSEにおいて産生されている(収率約23%)。該タンパク質は、4℃で保存したとき1年以上安定である。
アネキシン-A5−ZZ複合体が安定な2D自己集合体を形成し且つIgG類に結合する能力は、QCM-Dによって実証している(図10,11,12)。
【実施例2】
【0045】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]と第2タンパク質との共有化学結合による融合複合体の産生(上記第2タンパク質は、ブドウ球菌類由来のプロテインGからなる)
ブドウ球菌類由来の組換えプロテインG (Pierce Biotechnology社、米国)とアネキシン-A5 [T163C;C314S]との融合複合体の調製を、ヘテロ二官能性試薬のN-スクシンイミジル 3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオネート(SPDP) (Pierce Biotechnology社)を使用して2工程で実施する:i) プロテインGをSPDPにカップリングさせる;ii) 共有複合体を、1個の利用可能なメルカプト基を与えるアネキシン-A5 [T163C;C314S]と(2-ピリジル-ジスルフィド活性化プロテインG)間で形成させる。
プロテインG分子当り少数のSPDP分子により誘導体化されるプロテインGを得るためには、プロテインGとSPDPを等モル比で混合する。DMSO中に1mg/mLで溶解したSPDPを、160mMホウ酸塩緩衝液、pH 7.9中1mg/mLの適切な量のプロテインGと混合する。反応は、周囲温度で2時間のインキュベーションにより実施した。
アネキシン-A5 [T163C;C314S]はジスルフィド結合ダイマーに酸化する生来の性向を有するので、新たに還元したアネキシン-A5を、プロテインG-SPDPとカップリングさせる直前に、アネキシン-A5のジスルフィド結合ダイマーをDTTで還元することによって調製する。20mM Tris、300mM NaCl、0.01% NaN3、pH 8中に1mgのアネキシン-A5ダイマーを含有する1mlの溶液を、10mM HEPES、pH 6.4中100mM DTTの100μlと混合する。周囲温度で30分間のインキュベーション後に、過剰のDTTを、10mM HEPES、150mM NaCl、pH 7.4で溶出させるHiTrap脱塩カラム(5mL)上でのゲル濾過により除去する。
アネキシン-A5と(プロテインG-SPDP)間の架橋は、2/1に等しいモル比(アネキシン-A5/プロテインG)で、次のようにして実施する:10mM HEPES、150mM NaCl、pH 7.4中アネキシン-A5 (約0.4mg/mL)と160mMホウ酸塩緩衝液、pH 7.9中(プロテインG-SPDP) (約0.2mg/mL)の適切容量を混合し、周囲温度で16時間以上インキュベートする。
架橋生成物の特性決定をSDS-PAGEによって実施する。(アネキシン-A5-プロテインG)ヘテロダイマーおよび(アネキシン-A5)2-プロテインGヘテロトリマーについて予測した位置でのタンパク質移行を観察している(図9A)。
アネキシン-A5とプロテインGとの共有架橋複合体を、緩衝液A中に溶出させるSuperdex 75 (Amersham BioSciences社)上でのゲル濾過、次いで、緩衝液A中での0〜0.5M NaCl勾配により溶出させるMono-Q上でのアニオン交換クロマトグラフィーによって精製する。各画分をSDS-PAGEにより分析する。アネキシン-A5-プロテインGヘテロダイマーおよび(アネキシン-A5)2-プロテインGヘテロトリマーに相応する各ピークが分別されている(図9B)。
1mgのアネキシン-A5ダイマーと0.4mgのプロテインGから出発して、プロテインGに対して約6%の収率に相当する50μgのプロテインG−アネキシン-A5複合体を得る。
プロテインG−アネキシン-A5複合体が安定な2D自己集合体を形成し且つラットIgG類に結合する能力は、QCM-Dにより実証している(図13)。
【実施例3】
【0046】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]のダイマーから形成させるアンカー複合体の産生
ジスルフィド結合により結合させた2個のアネキシン-A5 [T163C;C314S]分子間のアンカー複合体の調製を、試薬4,4’-ジチオジピリジン(DTDP)により実施する。
アネキシン-A5 [T163C;C314S]の還元形は、実施例2に記載したようにして得る。
還元アネキシン-A5 [T163C;C314S]をDTDPにより酸化させるには、次のプロトコールが推奨される:還元アネキシン-A5を、DTDPと、2.5のモル比[アネキシン-A5/DTDP]で、50mM リン酸ナトリウム、pH 7.4中で約20℃にて30分間混合する。ジスルフィド結合アネキシン-A5ダイマーの収率は、75%に近い。ジスルフィド結合アネキシン-A5ダイマーを、緩衝液Aで予め平衡させたMonoQ HR5/5カラム(Amersham BioSciences社)によるアニオン交換クロマトグラフィーによって精製する。アネキシン-A5ダイマーは、約280mM NaClにおいて溶出する。精製タンパク質の質量をMALDI-TOFにより検証する。
また、(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)の形成は、還元アネキシン-A5 [T163C;C314S]分子の自然発生酸化によっても得られる。
【実施例4】
【0047】
アネキシン-A5 [T163C;C314S]とRGD含有ペプチドとのアンカー複合体の共有化学結合による産生、およびターゲット細胞を固定させるための応用
実施例4-1:アネキシン-A5 [T163C;C314S]とRGD含有ペプチドとのアンカー複合体の共有化学結合による産生
アネキシン-A5 [T163C;C314S]とArg-Gly-Asp (RGD)アミノ酸配列を含有するペプチドとのアンカー複合体の調製を、試薬4,4’-ジチオジピリジン(DTDP)により実施する。
上記ペプチド配列は、GCRGYGRGDSPGであり(VandeVondele等、2003年)、細胞付着モチーフRGDおよびアネキシン-A5 [T163C;C314S]とのジスルフィド結合を形成させるのに使用するシステイン残基の双方を含有している。
アネキシン-A5 [T163C;C314S]の還元形は、実施例2に記載したようにして得る。
次のプロトコールが推奨される:還元アネキシン-A5を、上記GCRGYGRGDSPGおよびDTDPと、1/4/1に等しいモル比[アネキシン-A5/RGD-ペプチド/DTDP]で、50mM リン酸ナトリウム、pH 7.4中で約20℃にて30分間混合する。アンカー複合体アネキシン-A5−RGDペプチドの収率は、60%に近い。
また、アネキシン-A5−RGDペプチドの形成は、還元アネキシン-A5 [T163C;C314S]とRGD-ペプチド間の自然発生酸化によっても得られる。
アネキシン-A5−RGDペプチドの質量は、MALDI-TOFにより検証する。
実施例4-2:固形基体をコーティーングしている脂質二分子層上のアネキシン-A5−RGDペプチドの2Dマトリックスのターゲット細胞を固定させるための応用
ガラス基体をコーティーングしている脂質二分子層上のアネキシン-A5−RGDペプチドの2Dマトリックスへのヒト血管内皮細胞付着は、達成されている。上記アネキシン-A5−RGDペプチドの2Dマトリックス上への細胞付着は、細胞付着に関して当該技術において使用される標準プロトコールと同等である。対照試験として、ガラス基体をコーティーングしている脂質二分子層上のアネキシン-A5 (RGDペプチドを欠落している)の2Dマトリックスを使用したとき、付着は観察されなかった。
【実施例5】
【0048】
本発明に従う検出装置の製造
実施例5-1:支持型リン脂質二分子層上のアネキシン-A5−ZZ融合複合体の安定な2D自己集合層の形成、およびその後のQCM-Dによるマウスモノクローナル抗体の結合
結果は、図10に示している。
この図は、ターゲット分子(この場合は、マウスモノクローナル抗体(IgG))を、固形物支持リン脂質二分子層(SLB)上に形成させた融合複合体アネキシン-A5−ZZの2D自己集合マトリックスに特異的結合させることによって検出する試験の典型的な例を示している。
I. 方法:
I-1) QCM-D
QCM-D測定(Rodahl等、1995年)を、Richter等(2003年)に記載されているようにして、軸流チャンバー(QAFC 302)を備えたQ-SENSE D300装置(Q-SENSE社、スウェーデン国ゴテンブルグ)により実施した。要するに、シリカコーティーング水晶振動子の表面への分析物の吸着時に、付着質量に関連する共振周波数の変化ΔFおよびアドレイヤー中の摩擦損失に関連する散逸の変化ΔDをリアルタイムで測定する。
図10〜13においては、横座標は、分で表す時間を示す。左縦座標(ΔF、青色)は、Hz単位で表しており、15MHzの調波における水晶振動子の標準化共振周波数の変化を示す。Sauerbreyの等式によれば、吸着物質の質量は、ΔFに直線的に関連する(m = -C×ΔF、C = 17.7ng・cm-2・Hz-1) (Sauerbrey、1959年)。右縦座標(ΔD、オレンジ)は、散逸変化を示す。
I-2) 脂質小胞の調製
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(DOPS) (Avanti Polar Lipids社、米国アラバマ州)をクロロホルムに溶解し、所望量で混合し、先ず窒素流下に、次いで真空デシケーター内で1夜乾燥させる。脂質を、超純水中で調製した150mM NaCl、2mM NaN3および10mM HEPES、pH 7.4を含有する緩衝液(緩衝液B)中に、約1mg/mLの最終濃度で再懸濁液させる。脂質懸濁液を、5回の凍結-解凍および渦流処理サイクルで均質化する。小単層小胞(SUV)を、冷凍による30分間の30%負荷サイクルでのパルスモードで操作するチップソニケーター(Misonix、米国ニューヨーク州)による音波処理、次いで、チタン粒子を除去するための10分間16,000gでの遠心分離によって得る。SUV懸濁液を、使用するまで、窒素下に4℃で保存する。
【0049】
II. 試験
図10の位置1において、緩衝液C (2mM CaCl2を加えた緩衝液B)中100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの溶液を、QCM-Dチャンバーを通してシリカコーティーング水晶振動子の先端上に流す。特徴的二相挙動を示すΔFとΔDの変化は、プラトーで得られたΔFおよびΔD値、即ち、ΔF約-25HzおよびΔD約0と共に、シリカコーティーング水晶振動子上での均質な無欠陥SLB形成の特徴である。固形基体上での脂質小胞の付着による脂質二分子層の形成を開示している一般的方法については、当業者であれば、とりわけ以下の論文を参照し得る(KellerおよびKasemo、1991年;Richter等、2003年;RichterおよびBrisson、2003年;Richter等;2005年)。
2においては、QCM-Dチャンバーに緩衝液Cを流して過剰のSUVを除去する。
3においては、緩衝液C中の20μg/mLのアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の溶液を注入する。SLBへの該融合複合体の特異的結合は、周波数の低下、ΔF約-31Hz、および散逸の上昇、ΔD約1.5×10-6をもたらしている。参照として、SLBを全体的に覆っているアネキシン-A5の2Dマトリックスは、ΔF約-17HzおよびΔD約0.2×10-6の値をもたらしている。4においては、緩衝液Cによる数回の洗浄(青矢印)を実施しているが、結合物質の如何なる放出も誘発させていない。これらの結果は、アネキシン-A5−ZZ融合複合体が安定結合の2D自己集合マトリックスをSLB上に形成していることを示唆している。
5においては、緩衝液C中の20μg/mLのIgG溶液を添加し、周波数の急速な低下をもたらしており、ΔFは約-53Hzで安定化している。散逸の変化、ΔD最終約3×10-6は、センサー振動子上での吸着分子の可撓性層の存在の特徴である。IgG分子は、アネキシン-A5−ZZ層上に固定されており、緩衝液Cで過度に洗浄したとき(図9におけるR)、結合物質の如何なる放出も誘発させていない。
対照試験を実施したところ、IgG分子は、非特異的には、SLBにもアネキシン-A5マトリックスにも結合していないことを示唆していた。
6においては、2mMのEDTA、即ち、カルシウムキレート化剤を加えた緩衝液Cの溶液をQCM-Dチャンバーを通して流して、SLBに結合したアネキシン-A5−ZZ/IgG複合体の即座の置換を得ている。
【0050】
実施例5-2:支持型リン脂質二分子層上の(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)の安定な2D自己集合マトリックスの形成、およびその後のQCM-Dによるマウスモノクローナル抗体の結合
結果は、図11に示している。
この試験の原理は、図9に示す原理と同様であるが、(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)の混合物(4:1 (質量:質量))を使用して2D自己集合マトリックスを形成させ、引続き、その上に、IgG分子を固定させる。
1においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入。その後、QCM-Dチャンバーに緩衝液Cを流して過剰のSUVを除去する(図11のR)。
2においては、緩衝液C中に20μg/mLの総濃度で(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)の混合物(4:1 (質量:質量))を含有する溶液を注入する。プラトーにおいて、(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)混合物の結合は、ΔF約-20Hzをもたらしている。-17Hzおよび-31Hzの最大ΔF値が、それそれ、純粋アネキシン-A5(図示していない)および純粋アネキシン-A5−ZZ(図9)において得られていること並びに試験した混合物(アネキシン-A5/アネキシン-A5−ZZ)中のアネキシン-A5−ZZの含有量が20%であることを考慮すると、この場合の見出された観察ΔF値、即ち、-20Hzは、アネキシン-A5とアネキシン-A5−ZZの理想的な混合から予測した値と一致している。
3においては、緩衝液C中20μg/mLのIgGの注入は、周波数の急速な低下をもたらしており、ΔFは約-15Hzで安定化している。20%アネキシン-A5−ZZにより得られたこの値は、純粋(100%)アネキシン-A5-ZZの2Dマトリックス(上記の実施例5-1において記載したような)によって得られた-53Hzの値と一致している;後者の場合、IgGは、立体障害効果に基づき、アネキシン-A5−ZZ結合部位の全てを飽和していないようであり、IgG分子のサイズは、アネキシン-A5−ZZ融合複合体のサイズ(約50kDa)よりも有意に大きい(約150kDa)。
【0051】
実施例5-3:溶液中で前以って形成させた(アネキシン-A5−ZZ/IgG)の複合体の[PC:PS (4:1)] SLB上への結合のQCM-Dによる検出
結果は、図12に示している。
この試験においては、アネキシン-A5−ZZ分子とマウスモノクローナルIgG分子との非共有複合体を、1.5mLの緩衝液C中で、双方の種の等モル比に相当する40μgのアネキシン-A5−ZZと120μgのIgGを周囲温度で15分間混合することによって溶液中で形成させた。
2においては、この混合物を、(1)において形成させたDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SLB上に注入した。上記(アネキシン-A5−ZZ/IgG)複合体の結合は、-85HzのΔFの低下をもたらしている。この値は、IgGを前以って形成させたアネキシン-A5−ZZ層(実施例5-1および図10で説明した)に添加したときに得られた値とほぼ同一である。この試験は、複合体を、PS含有脂質表面上のアネキシン-A5成分の特異的相互作用により、固定させる前の溶液中で先ず形成させ得ることを示唆している。結合物質は、洗浄時に安定である(図12におけるR)。
実施例5-4:[PC:PS (4:1)] SLB上のアネキシン-A5[T163C;C314S]とブドウ球菌種由来のプロテインGとの化学架橋融合複合体の2D自己集合マトリックスへのラットモノクローナル抗体(IgG)の結合のQCM-Dによる検出
結果は、図13に示している。
この試験においては、アネキシン-A5とプロテインGから形成させる化学架橋複合体を、実施例2および図9A、Bにおいて説明したようにして調製し、ラットモノクローナルIgG分子を固定させるのに使用した。ラットモノクローナル抗体は、プロテインGとは反応するが、プロテインAとは反応しない。
1においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入。その後、QCM-Dチャンバーに緩衝液Cを流して過剰のSUVを除去する(図13におけるR)。
2においては、緩衝液C中に10μg/mLの総濃度で(アネキシン-A5−プロテインG)の化学架橋複合体を含有する溶液を注入する。プラトーにおいて、該複合体の結合は、ΔF約-35Hzに相当する。この値は、SLB表面を全体的に覆う(アネキシン-A5−プロテインG)の2Dマトリックスにおいて予期したものである。
3においては、緩衝液C中の20μg/mLのラットモノクローナル抗体の注入は、周波数の急速な低下をもたらし、ΔFは約-25Hzで安定している。
【実施例6】
【0052】
固形基体をコーティーングしている脂質二分子層に結合させた(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)融合複合体の2Dマトリックスのターゲットリポソームを固定するための応用
固形基体をコーティーングしている脂質二分子層に結合させた(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)融合複合体の2Dマトリックスがターゲットリポソームを固定する性質を実施例6において説明し、図14で例証する。
1においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入;この注入は、支持型脂質二分子層の形成をもたらす。
2においては、緩衝液C中に40μg/mLの(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)ダイマーを含有する溶液を注入する。プラトーにおいて、(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)の結合は、ΔF約-38Hzをもたらしている。この値は、図14において例証しているように、(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)ダイマーが1つのアネキシン-A5成分により脂質二分子層に結合し、一方、その第2成分は水溶液に暴露されていることを示している。
3においては、緩衝液C中の100μg/mLのDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVの注入;この注入は、リポソームの急速な結合を生じさせている。純粋DOPCリポソームおよびDOPC:DOPS(4:1 (質量:質量)) SUVによるカルシウムイオンの不存在下での対照試験は、リポソームの吸着は観察されず、(3)において観察されたSUVの結合が特異的であることを示唆している。
この試験は、固形基体をコーティーングしている脂質二分子層に結合させた(アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5)融合複合体の2Dマトリックスが、ターゲットリポソームを、拡大解釈すれば、負荷電リン脂質を含有する細胞膜を固定させ得ることを実証している。
【実施例7】
【0053】
空気-水界面の脂質単分子層上への融合複合体アネキシン-A5-ZZの2D結晶マトリックスの形成
この試験においては、脂質単分子層を、空気-水界面に、Brisson等(1999年a、b)に記載されている標準手順の後、クロロホルム:ヘキサン(1:1、(容量/容量))中に溶解させた150μMのDOPS、450μMのDOPCを含有する0.6μlの脂質混合物を、2mM CaCl2、150mM NaCl、10mM HEPES、3mM NaN3、pH 7.4を含有する緩衝液中の0.1mg/mlのアネキシン-A5−ZZの17μl液滴上に適用することによって形成させる。30分〜16時間の時間範囲のインキュベーション後、界面フィルムを、穿孔カーボンフィルムでコーティーングし且つ1%酢酸ウラニルで陰性染色した電子顕微鏡(EM)に移す。
EM観察は、2k×2k Gatan-794スロースキャンCCDカメラを備えた、120kVで操作するPhilips CM120電子顕微鏡によって行なう。電子顕微鏡写真を、低線量条件下、45,000×の倍率および300nmに近い焦点値において記録する。画像をフーリエ変換により分析する。
アネキシン-A5−ZZは、アネキシン-A5に構造的に相同性のp6対称を有する2D結晶を形成している。
【0054】
表1
本発明の配列
【0055】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】脂質層上のおとり-アンカー複合体の2D集合体の図式を示す。 図1に示す特定の実施態様においては、アンカー複合体は、アネキシン成分に直接結合させたおとり分子からなり、上記アネキシン成分はアネキシン-A5タンパク質からなる。 3つのタイプの脂質層は、それぞれ、下記を示す: 1:固形基体をコーティーングしている脂質二分子層; 2:空気-水界面での脂質単分子層; 3:水溶液中のリポソーム。
【図2】脂質層が固形基体をコーティーングしている脂質二分子層からなり、アネキシン成分がアネキシン-A5タンパク質からなる、本発明に従う本明細書においては検出装置とも称するアッセイ装置の特定の実施態様の図式を示す。 図1の下方には、脂質二分子層(2)でコーティーングした固形基体(1)を示している。 融合複合体(3)のアネキシン-A5成分を脂質二分子層の外表面に結合させて、2D自己集合性タンパク質マトリックスを形成している。おとり分子(4)は、上記融合複合体の上記アネキシン成分に直接結合させている。また、試験するターゲット存在物の分子(5)も、液体溶媒中の遊離ターゲット分子(51)またはおとり分子に結合させたターゲット分子(52)のいずれかとして示している。
【0057】
【図3】脂質層に結合させたアネキシン-A5タンパク質成分を含有するアンカー複合体の1部であるおとり成分へのターゲット分子の種々の結合形態の図式を示す。 モード1:融合複合体は、おとり分子に融合させたアネキシン-A5からなる。 モード2:アンカー複合体は、下記を含む: ‐パートナー分子に融合させたアネキシン-A5タンパク質からなる融合複合体;および、 ‐上記融合複合体のパートナー分子に結合させたおとり分子。 モード3:アンカー複合体は、下記を含む: ‐パートナー分子に融合させたアネキシン-A5タンパク質からなる融合複合体; ‐(i) 一方側で上記融合複合体のパートナー分子に結合させ且つ(ii) 他方側でおとり分子に結合させた中間分子;および、 ‐上記中間分子に結合させたおとり分子。 モード2Aおよびモード3Aにおいては、好ましい実施態様の例を示しており、融合複合体は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZZドメイン(Loewenadler等、1987年;Nilsson等、1987年)に組換えDNA技術により融合させたアネキシン-A5タンパク質を含む。 モード2Aにおいては、プロテインAのZZドメインはIgG分子に結合し、該IgG分子はおとり分子であり; モード3Aにおいては、プロテインAのZZドメインは、おとり分子に対して特異性のIgG分子に結合する。この実施態様においては、IgG分子は、融合複合体とおとり分子間の中間分子である。
【0058】
【図4】アネキシン-A5成分を含有するアンカー複合体の2Dマトリックス中に含ませたおとり分子に結合させたターゲット分子検出の特定の実施態様の図式を示す。 I:標識化ターゲット結合性分子を使用する、脂質層上のアネキシン-A5含有アンカー複合体の2Dマトリックスの1部であるおとり分子に結合させたターゲット分子の検出を示す図式;上記脂質層は、i) 固形基体をコーティーングしている脂質二分子層、またはii) 空気-水界面の脂質単分子層のいずれかである。アネキシン。 II:好ましい実施態様においては、上記ターゲット結合性分子は、アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質と抗-ターゲット抗体間の複合体からなり、該複合体は、好ましくはアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質成分レベルで、標識化、とりわけ蛍光標識化する。
【図5】リン脂質表面上にアネキシン-A5により形成させた2-D自己集合体の二次元突出構造を示す。 1) カルシウムイオンの存在下に負荷電リン脂質を含有する脂質表面に結合させたときに形成されたアネキシン-A5のトリマー。アネキシン-A5モノマーは、赤で着色している。4個のアネキシンドメインは、I〜IVで番号付けしている。アネキシン-A5のトリマーは、p6対称を有する2D結晶内(図5-2、3A)、p3対称を有する2D結晶内(図示せず)、および高密度緊密充填配列内(図5-3B)において見出される(Mosser等、1991年;Voges等、1994年;Oling等、2001年;Reviakine等、1998年;Govorukhina等、2002年;RichterおよびBrisson、2003年;RichterおよびBrisson、出稿中)。 2) 空気-水界面の脂質単分子層(この場合、混合物DOPC:DOPS、4:1 (質量:質量)からなる)上で、アネキシン-A5トリマーは、p6対称を有する2D結晶を形成している。この図は、電子顕微鏡画像の分析(Oling等、2001年)によって得られたアネキシン-A5のp6 2D結晶の2D突出マップを提示している。青丸は、6角形の頂点に位置する6個のアネキシン-A5トリマー+中心アネキシン-A5トリマーを囲んでいる。 3A) 雲母支持体上に形成させた(DOPC:DOPS、4:1 (質量:質量))脂質二分子層上では、p6対称を有する2D結晶質集合体も、原子間力顕微鏡により観察されている(Reviakine等、1998年)。 3B) シリカ支持体上に形成させた(DOPC:DOPS、4:1 (質量:質量))リン脂質二分子層上では、アネキシン-A5トリマーは、原子間力顕微鏡によって示されるように、2D高密度緊密充填配列を形成している(RichterおよびBrisson、2003年)。 尺度バー:10nm。
【0059】
【図6】アネキシン-A5と組換えDNA技法により得られたプロテインXなる名称の第2タンパク質との融合複合体のモデルを示す。 この図で示す例においては、融合タンパク質は、C-末端においてプロテインXのN-末端に融合させたアネキシン-A5から、2つのタンパク質を分離する短リンカー配列(点線部分)を有して形成されている。
【図7】融合複合体アネキシン-A5−ZZの、SDS-PAGE分析による発現および精製を示す。 A.レーン1:細胞可溶性抽出物(2μl)。矢印で示すアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質は、42 kDaの見掛けMW (理論MW:50,074 Da)で移行している。レーン2:分子量マーカー。 B.Superdex 75カラム(Amersham BioSciences社)によるゲル濾過によるアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の精製。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質(矢印)は、鋭敏なピークで溶出している。 C.Mono-Qアニオン交換クロマトグラフィーによるアネキシン-A5−ZZ融合タンパク質の精製。アネキシン-A5−ZZ融合タンパク質(矢印)の純粋画分は、〜270mM NaClにおいて溶出している。
【0060】
【図8】化学架橋による、アネキシン-A5とプロテインX間の融合複合体のモデルを示す。 この図で示す例においては、融合タンパク質は、アミノ酸位置163に位置する1個のメルカプト基を有する変異形のアネキシン-A5 (T163C;C314S)とプロテインX間の共有架橋により形成され、上記プロテインXは、ヘテロ二官能性架橋剤のN-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP) (Pierce社)によって前以って活性化されている。 二重変異体(T163C;C314S)アネキシン-A5は、アネキシン-A5の既知の脂質結合特性の全てを示し、従って、二重変異体(T163C;C314S)アネキシン-A5は、以下、アネキシン-A5と称する。 知られているように、N-スクシンイミジル基は、アルカリ性pHにおいて、第一級アミン類と反応する(Wong、1991年)。アネキシン-A5-SHを2-ピリジル-ジスルフィド活性化プロテインXと混合すると、[アネキシン-A5-S-S-プロテインX]からなるジスルフィド結合複合体が形成される。 SPDPとあらゆるタンパク質間の反応の非特異性により、種々のタイプの[アネキシン-A5-S-S-プロテインX]複合体を形成させることができる。 第一級アミンおよびメルカプト基の双方と反応する他のヘテロ二官能性架橋剤、例えば、SMTP、SULFO-LC-SMTP、LC-SPDP、SMCC、SULFO-SMCC、MBS、SULFO-MBS、SMPB、SULFO-SMPB (Pierce Biotechnology社、米国)を、SPDPの代りに使用してもよい。
【0061】
【図9】アネキシン-A5とブドウ球菌由来のプロテインG間の化学架橋融合複合体の産生と精製を示す。 図9Aは、二重変異体アネキシン-A5 (T163C;C314S)とSPDP変性プロテインG間の、化学架橋による融合複合体の産生を示す。 I:アネキシン-A5B;II:プロテインG;III:プロテインG-SPDP;IV:アネキシン-A5B+プロテインG-SPDP;V:アネキシン-A5B+プロテインG-SPDP+β-メルカプト-エタノール。 1:アネキシン-A5B;2:プロテインG;3:アネキシン-A5Bダイマー;4:融合複合体アネキシン-A5B-プロテインG;5:多量体アネキシン-A5B-プロテインG。 アネキシン-A5Bは、アネキシン-A5の二重変異体(T163C;C314S)を意味することに留意すべきである。 図9Bは、[アネキシン-A5B-プロテインG]融合複合体のゲル濾過による精製を示す。 I:第1ピークからの画分;II:第2ピークからの画分;III:第3ピークからの画分;IV:第4ピークからの画分。 1:アネキシン-A5B;2:プロテインG;3:(アネキシン-A5B)2 = ジスルフィド結合ダイマー;4:融合複合体[アネキシン-A5B-プロテインG];5:多量体[アネキシン-A5B-プロテインG]。
【図10−14】本発明に従う検出装置を使用しての検出アッセイを示す。この場合使用した検出方法は、散逸モニタリングによる水晶振動子微量天秤(QCM-D)法である(Rodhal等、1995年)。 図10は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上のアネキシン-A5−ZZの前以って形成させた2D自己集合性マトリックスへのIgG結合の検出を例示する。 図11は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上の[アネキシン-A5/アネキシン-A−ZZ]の2D自己集合性マトリックスへのIgG結合の検出を例示する。 図12は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上での、溶液中で前以って形成させた[アネキシン-A5−ZZ/IgG]の複合体の結合の検出を例示する。 図13は、QCM-Dによる、[PC:PS (4:1)]SLB上の[アネキシン-A5B-プロテインG]架橋複合体の2DマトリックスへのIgG結合の検出を例示する。 図14は、リポソームを固定するためのアンカー複合体[アネキシン-A5-S-S-アネキシン-A5]の使用を例示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
b) 前記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、前記アンカー複合体の各々が、
(i) パートナー分子に融合させたアネキシン(Annexin)タンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、前記リン脂質層に結合させており、前記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群:
‐前記アネキシンタンパク質に融合させた前記パートナー分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により前記パートナー分子に間接的に結合させた分子、
から選ばれたおとり存在物;
を含むことを特徴とする装置であって、該装置上に固定させたおとり存在物上にターゲット存在物を結合させるための装置。
【請求項2】
前記脂質層が、脂質二分子層、脂質単分子層、またはリポソーム外部脂質層からなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記脂質層が、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質の混合物を含み、前記1種以上のリン脂質が中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する、請求項1記載の装置。
【請求項4】
(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質の混合物を含み、前記1種以上のリン脂質が中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し、前記脂質層が、前記1種以上のリン脂質中で、前記リン脂質二分子層の総質量%基準で2質量%〜100質量%の含有量を有する、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記脂質(i)が、レシチン、DMPC、DOPC、POPC、卵レシチン、DOPS、POPS、DOPA、DOPG、カルジオリピン、DOTAPからなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記1種以上のリン脂質(ii)が、グリセロホスホセリン、グリセロホスホコリン、グリセロホスホグリセリンおよびグリセロホスホエタノールアミンの脂肪酸エステルからなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記1種以上のリン脂質(ii)が、DMPS、DOPS、POPS、DOPA、DOPG、カルジオリピン、および脳脂質抽出物のようなこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記融合複合体のアネキシン成分が、アミノ酸配列SEQ ID No. 1〜5および7〜18からなるアネキシン-A5タンパク質およびその官能性誘導体の群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項9】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質からなる、請求項1記載の装置。
【請求項10】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、黄色ブドウ球菌由来のAタンパク質のZZドメインからなる、請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、ブドウ球菌由来のGタンパク質からなる、請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、抗体のCDRSを含む抗体フラグメントからなる、請求項1記載の装置。
【請求項13】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、FabまたはscFvからなる抗体フラグメントからなる、請求項1記載の装置。
【請求項14】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、前記おとり分子からなる、請求項1記載の装置。
【請求項15】
前記アンカー複合体が、(i) アネキシンタンパク質とターゲット特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントとの融合複合体からなる、請求項1記載の装置。
【請求項16】
前記アンカー複合体が下記からなる、請求項1記載の装置:
(i) アネキシンタンパク質とおとり特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントとの融合複合体;および、
(ii) 前記融合複合体のおとり特異性抗体フラグメントに非共有結合させたおとり分子。
【請求項17】
前記アンカー複合体が下記からなる、請求項1記載の装置:
(i) アネキシンタンパク質と、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;および、
(ii) そのFc成分により前記融合複合体上に非共有結合させた抗体(該抗体は前記おとりタンパク質である)。
【請求項18】
前記アンカー複合体が下記からなる、請求項1記載の装置:
(i) アネキシンタンパク質と、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;
(ii) そのFc成分により前記融合複合体上に非共有結合させたおとり特異性抗体;および、
(iii) 前記おとり特異性抗体上に非共有結合させた前記おとりタンパク質。
【請求項19】
前記おとり分子が、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、オリゴヌクレオチド、オリゴシド(oligosides)、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項20】
前記融合複合体において、前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質を、標準ペプチド結合により一緒に共有結合させる、請求項1記載の装置。
【請求項21】
前記融合複合体が、組換えDNA技法により産生させた組換え融合タンパク質からなる、請求項1記載の装置。
【請求項22】
前記融合複合体において、前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質を、標準ペプチド結合以外の化学結合により一緒に共有結合させる、請求項1記載の装置。
【請求項23】
前記融合複合体において、前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質を、前記アネキシンタンパク質のシステイン残基と前記パートナータンパク質のシステイン反応性基との化学結合により一緒に共有結合させる、請求項1記載の装置。
【請求項24】
前記装置が基体も含み、前記脂質層が該基体上にコーティーングされている、請求項1記載の装置。
【請求項25】
前記基体が、固形基体からなる、請求項24記載の装置。
【請求項26】
前記固形基体が、雲母、シリコン、無機ガラスおよび金からなる群から選ばれる、請求項25記載の装置。
【請求項27】
前記基体が、液媒の空気-液体界面からなる、請求項24記載の装置。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項記載の複数の検出装置を含む、ターゲット分子をおとり分子上への結合を検出するための系。
【請求項29】
前記複数の検出装置の各々の検出装置が、独自のおとりタンパク質を含む、請求項28記載の系。
【請求項30】
前記系内に含ませた2個の異なる検出装置が、異なるおとり分子を含む、請求項28記載の系。
【請求項31】
下記の工程を含むことを特徴とする、おとり分子上へのターゲット分子の結合を検出する方法:
a) 試験すべきサンプルを調製する工程;
b) 前記試験すべきサンプルを請求項1〜27のいずれか1項記載の検出装置または請求項28〜30のいずれか1項記載の検出系と接触させる工程;および、
c) (i) 前記検出装置内または前記検出系内に含ませたおとり分子(1種以上)と(ii) 前記試験サンプル中に最終的に存在するターゲット分子(1種以上)間で最終的に形成された複合体を検出する工程。
【請求項32】
下記の工程を含むことを特徴とする、サンプル中のターゲット分子の存在のアッセイ方法:
a) アネキシンタンパク質と前記ターゲット分子に結合するおとり分子間の融合複合体を調製する工程;
b) 前記サンプルを前記融合複合体と混合し、それによって、前記融合複合体のおとり成分とターゲット間の複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られた融合複合体を、最終的には前記ターゲット分子との複合体の形で、固形基体をコーティーングしている脂質二分子層(該脂質二分子層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物であり、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する)の表面上に固定させる工程;
c) 前記融合複合体のおとり成分と前記ターゲット分子(前記ターゲット分子が前記サンプル中に存在する場合の)と間で形成された複合体を検出する工程。
【請求項33】
前記融合複合体が、抗体のFc成分との親和性を有するタンパク質からなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記融合複合体が、黄色ブドウ球菌由来のAタンパク質のZZドメインからなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項35】
前記融合複合体が、ブドウ球菌由来のGタンパク質のフラグメントからなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項36】
前記融合複合体が、ターゲット特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントからなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項37】
前記融合複合体が、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、オリゴヌクレオチド、オリゴシド(oligoside)、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選ばれたおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項38】
請求項1記載の装置を含み、該装置が下記を有する脂質小胞からなることを特徴とするターゲッティング療法用分子用のベクター:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する外側脂質層;
b) 前記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;前記アンカー複合体の各々は、下記を含む:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、前記リン脂質層に結合させており、前記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐前記アネキシンタンパク質に融合させた前記パートナー分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により前記パートナー分子に間接的に結合させた分子;および、
c) 前記脂質小胞の内部部分中の、溶解または懸濁させた1種以上の上活性な分子を含む液媒。
【請求項1】
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する脂質層;
b) 前記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;
を含み、前記アンカー複合体の各々が、
(i) パートナー分子に融合させたアネキシン(Annexin)タンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、前記リン脂質層に結合させており、前記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群:
‐前記アネキシンタンパク質に融合させた前記パートナー分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により前記パートナー分子に間接的に結合させた分子、
から選ばれたおとり存在物;
を含むことを特徴とする装置であって、該装置上に固定させたおとり存在物上にターゲット存在物を結合させるための装置。
【請求項2】
前記脂質層が、脂質二分子層、脂質単分子層、またはリポソーム外部脂質層からなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記脂質層が、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質の混合物を含み、前記1種以上のリン脂質が中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する、請求項1記載の装置。
【請求項4】
(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質の混合物を含み、前記1種以上のリン脂質が中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有し、前記脂質層が、前記1種以上のリン脂質中で、前記リン脂質二分子層の総質量%基準で2質量%〜100質量%の含有量を有する、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記脂質(i)が、レシチン、DMPC、DOPC、POPC、卵レシチン、DOPS、POPS、DOPA、DOPG、カルジオリピン、DOTAPからなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記1種以上のリン脂質(ii)が、グリセロホスホセリン、グリセロホスホコリン、グリセロホスホグリセリンおよびグリセロホスホエタノールアミンの脂肪酸エステルからなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記1種以上のリン脂質(ii)が、DMPS、DOPS、POPS、DOPA、DOPG、カルジオリピン、および脳脂質抽出物のようなこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記融合複合体のアネキシン成分が、アミノ酸配列SEQ ID No. 1〜5および7〜18からなるアネキシン-A5タンパク質およびその官能性誘導体の群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項9】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質からなる、請求項1記載の装置。
【請求項10】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、黄色ブドウ球菌由来のAタンパク質のZZドメインからなる、請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、ブドウ球菌由来のGタンパク質からなる、請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、抗体のCDRSを含む抗体フラグメントからなる、請求項1記載の装置。
【請求項13】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、FabまたはscFvからなる抗体フラグメントからなる、請求項1記載の装置。
【請求項14】
前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質間の融合複合体において、前記パートナータンパク質が、前記おとり分子からなる、請求項1記載の装置。
【請求項15】
前記アンカー複合体が、(i) アネキシンタンパク質とターゲット特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントとの融合複合体からなる、請求項1記載の装置。
【請求項16】
前記アンカー複合体が下記からなる、請求項1記載の装置:
(i) アネキシンタンパク質とおとり特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントとの融合複合体;および、
(ii) 前記融合複合体のおとり特異性抗体フラグメントに非共有結合させたおとり分子。
【請求項17】
前記アンカー複合体が下記からなる、請求項1記載の装置:
(i) アネキシンタンパク質と、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;および、
(ii) そのFc成分により前記融合複合体上に非共有結合させた抗体(該抗体は前記おとりタンパク質である)。
【請求項18】
前記アンカー複合体が下記からなる、請求項1記載の装置:
(i) アネキシンタンパク質と、抗体のFc成分に対して親和性を有するタンパク質との融合複合体;
(ii) そのFc成分により前記融合複合体上に非共有結合させたおとり特異性抗体;および、
(iii) 前記おとり特異性抗体上に非共有結合させた前記おとりタンパク質。
【請求項19】
前記おとり分子が、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、オリゴヌクレオチド、オリゴシド(oligosides)、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選ばれる、請求項1記載の装置。
【請求項20】
前記融合複合体において、前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質を、標準ペプチド結合により一緒に共有結合させる、請求項1記載の装置。
【請求項21】
前記融合複合体が、組換えDNA技法により産生させた組換え融合タンパク質からなる、請求項1記載の装置。
【請求項22】
前記融合複合体において、前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質を、標準ペプチド結合以外の化学結合により一緒に共有結合させる、請求項1記載の装置。
【請求項23】
前記融合複合体において、前記アネキシンタンパク質とパートナータンパク質を、前記アネキシンタンパク質のシステイン残基と前記パートナータンパク質のシステイン反応性基との化学結合により一緒に共有結合させる、請求項1記載の装置。
【請求項24】
前記装置が基体も含み、前記脂質層が該基体上にコーティーングされている、請求項1記載の装置。
【請求項25】
前記基体が、固形基体からなる、請求項24記載の装置。
【請求項26】
前記固形基体が、雲母、シリコン、無機ガラスおよび金からなる群から選ばれる、請求項25記載の装置。
【請求項27】
前記基体が、液媒の空気-液体界面からなる、請求項24記載の装置。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項記載の複数の検出装置を含む、ターゲット分子をおとり分子上への結合を検出するための系。
【請求項29】
前記複数の検出装置の各々の検出装置が、独自のおとりタンパク質を含む、請求項28記載の系。
【請求項30】
前記系内に含ませた2個の異なる検出装置が、異なるおとり分子を含む、請求項28記載の系。
【請求項31】
下記の工程を含むことを特徴とする、おとり分子上へのターゲット分子の結合を検出する方法:
a) 試験すべきサンプルを調製する工程;
b) 前記試験すべきサンプルを請求項1〜27のいずれか1項記載の検出装置または請求項28〜30のいずれか1項記載の検出系と接触させる工程;および、
c) (i) 前記検出装置内または前記検出系内に含ませたおとり分子(1種以上)と(ii) 前記試験サンプル中に最終的に存在するターゲット分子(1種以上)間で最終的に形成された複合体を検出する工程。
【請求項32】
下記の工程を含むことを特徴とする、サンプル中のターゲット分子の存在のアッセイ方法:
a) アネキシンタンパク質と前記ターゲット分子に結合するおとり分子間の融合複合体を調製する工程;
b) 前記サンプルを前記融合複合体と混合し、それによって、前記融合複合体のおとり成分とターゲット間の複合体を形成せしめる工程;
c) 工程b)で得られた融合複合体を、最終的には前記ターゲット分子との複合体の形で、固形基体をコーティーングしている脂質二分子層(該脂質二分子層は、(i) 1種以上の脂質と(ii) 1種以上のリン脂質との混合物であり、該1種以上のリン脂質は、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する)の表面上に固定させる工程;
c) 前記融合複合体のおとり成分と前記ターゲット分子(前記ターゲット分子が前記サンプル中に存在する場合の)と間で形成された複合体を検出する工程。
【請求項33】
前記融合複合体が、抗体のFc成分との親和性を有するタンパク質からなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記融合複合体が、黄色ブドウ球菌由来のAタンパク質のZZドメインからなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項35】
前記融合複合体が、ブドウ球菌由来のGタンパク質のフラグメントからなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項36】
前記融合複合体が、ターゲット特異性抗体のCDRドメインを含む抗体フラグメントからなるおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項37】
前記融合複合体が、増殖因子レセプター、ホルモンレセプター、神経伝達物質レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、細胞外マトリックスレセプター、レクチン、サイトカイン、セルピン、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ラス様GTPアーゼ、ヒドロラーゼ、ステロイドホルモンレセプター、転写因子、ヒートショック転写因子、DNA結合性タンパク質、亜鉛-フィンガータンパク質、ロイシン-ジッパータンパク質、ホメオドメインタンパク質、細胞内シグナル伝達モジュレーターおよびエフェクター、アポトーシス関連因子、DNA合成因子、DNA修復因子、DNA組換え因子、細胞表面抗原、C型肝炎ウイルス(HCV)プロテアーゼまたはHIVプロテアーゼおよび抗体、オリゴヌクレオチド、オリゴシド(oligoside)、小分子、ポリマー、無機分子およびその凝集物からなる群から選ばれたおとり分子を含む、請求項32記載の方法。
【請求項38】
請求項1記載の装置を含み、該装置が下記を有する脂質小胞からなることを特徴とするターゲッティング療法用分子用のベクター:
a) 1種以上の脂質を含み、中性pHの水溶液中で負の正味電荷を有する外側脂質層;
b) 前記脂質層に結合させたアンカー複合体の二次元マトリックス;前記アンカー複合体の各々は、下記を含む:
(i) パートナー分子に融合させたアネキシンタンパク質を含む融合複合体(該アネキシンタンパク質は、前記リン脂質層に結合させており、前記パートナー分子は、有機または無機化合物からなる);
(ii) 下記からなる群から選ばれたおとり存在物:
‐前記アネキシンタンパク質に融合させた前記パートナー分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた分子、
‐前記パートナー分子に共有または非共有結合させた1種以上の中間分子により前記パートナー分子に間接的に結合させた分子;および、
c) 前記脂質小胞の内部部分中の、溶解または懸濁させた1種以上の上活性な分子を含む液媒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−537432(P2007−537432A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512123(P2007−512123)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005320
【国際公開番号】WO2005/114192
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(500262164)
【出願人】(506256242)ユニヴェルシテ ドゥ ボルドー アン (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005320
【国際公開番号】WO2005/114192
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(500262164)
【出願人】(506256242)ユニヴェルシテ ドゥ ボルドー アン (6)
【Fターム(参考)】
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