説明

ターボ機械のロータのモジュールごとのバランス取りのための方法

【課題】回転軸に沿って一方の側にベアリング面(22)を、他方の側に接合面(24)を備える第1のターボ機械モジュール(20)を、このモジュールを備えるロータ(1)に関してバランス取りする方法である。
【解決手段】
第1のモジュール(20)のベアリング(22)について、接合面(24)に垂直な軸に対する同心度のずれを割り出すステップ、
等価補完モジュールについて、理論的な幾何学的アンバランスを計算するステップ、
短い支承軸(40)を、接合面(24)に隣接して第1のモジュールに取り付けて、回転軸がモジュール(20)の軸に実質的に一致する短ロータを形成し、この短ロータのアンバランスを測定するステップ、および
モジュールの合計のアンバランスを、短ロータのアンバランスに幾何学的アンバランスに相当する体系的なアンバランスを加えることによって割り出すステップ
を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ機械の分野に関し、特にはガスタービンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械は、ロータを備え、ロータは、通常は、別個に製造されて機械的に組み立てられる複数の部材で構成されている。すなわち、ガスタービンエンジンは、それぞれが圧縮機およびタービンで構成される1つ以上のロータアセンブリを備える。これらのアセンブリは、エンジンの保守に関してある程度の柔軟性を保証するために、取り替え可能なモジュールで構成される。ガスタービンエンジンのロータの場合には、圧縮機モジュールがタービンモジュールに組み合わせられる。したがって、例えば修理の文脈において、ロータの圧縮機モジュールまたはタービンモジュールを、他のモジュールに交換することが可能である。
【0003】
このようなターボ機械のモジュール式の構造は、各モジュールの事前のバランス取りを必要とする。これは、あるモジュールを別のモジュールで置き換えた後でロータ全体のバランスを取り直す必要がないことが望ましいためである。
【0004】
したがって、ロータのモジュールごとのバランス取りのための方法であって、この方法を使用してバランス取りを済ませた構成部品を、ロータのバランスの取り直しを必要とせずに標準的に交換できる方法が考えられている。
【0005】
すなわち、本方法は、圧縮機モジュールおよびタービンモジュールで構成されているガスタービンエンジンのロータにおいて、各モジュールのバランス取りを別個に、各モジュールを等価補完タービンモジュールまたは等価補完圧縮機モジュール(あるいは、代替タービンモジュールまたは代替圧縮機モジュール)に組み合わせて行う。等価補完モジュール(代替マスとも称される)は、それらの長さ、質量、および重心位置によって、バランス取りを行おうとする構成部品のロータにおける補助部品を代理する。このようなアセンブリがバランス装置に取り付けられ、バランス装置が、アセンブリのアンバランスを測定して、モジュールの矯正面においてなすべき矯正を指示することができ、すなわちマスおよび矯正面におけるマスの位置(半径および角度)を指示することができる。
【0006】
この方法によれば、2つのモジュールが、あたかも完璧な補完モジュールに組み合わせられたかのようにバランス取りされる。しかしながら、モジュール、等価補完モジュール、およびツーリングの接触における誤差が、バランス取りを損なうと思われる。これらの誤差は、バランス取り対象のモジュールの接合面がモジュールの回転軸に対して垂直からずれていることに起因している。
【0007】
モジュールを等価補完モジュールと一緒にバランス取りするとき、いくつものアンバランスを区別することが可能である。バランス装置によって示されるように、全体のアンバランスを、以下のベクトル和に従って分解することができる:
Bt=Bp+Bg+Bo+Ba
【0008】
Btは、モジュールおよび等価補完モジュールによって形成されるアセンブリからなるロータの全体のアンバランスである。その特徴は、バランス装置によってもたらされる。
【0009】
Bpは、材料の非一様性、ロータを構成している構成部品の取り付けにおける誤差、ならびにブレードの分布に起因するバランス取り対象のロータの固有のアンバランスである。このアンバランスは、不変であるが未知である。これを矯正することが求められる。
【0010】
Bgは、幾何学的なアンバランスである。これは、バランス取り対象のモジュールの接合面がモジュールの回転軸に対して直角でないことに起因して生じ、代替モジュールによって実証される。このアンバランスは、不変である。これは、モジュールの取り付けについて体系的に実行される幾何学的な特徴付けから知られている。これを矯正することが求められる。
【0011】
Boは、ツーリングのアンバランスであり、すなわち等価モジュール、回転するツーリング、および駆動機構の誤差によって生み出されるすべてのアンバランスである。これらのアンバランスは、ツーリングを反転させる操作によって打ち消される。この操作が、軸を通過する基準面に対して0°で第1のアンバランスの測定を実行し、基準面に対して180°に反転させることによってツーリングへと取り付けられたアセンブリの第2の測定を実行することを含むことを、思い出すことができる。
【0012】
Baは、補完モジュールの接触のアンバランスである。これは、補完モジュールをバランス取り対象のモジュールに接触させる際の誤差によって引き起こされる偏心によって生み出される。これは、変動しかつ未知である。全体としてのロータのバランスにどのような影響を有するのかを知るために、その大きさを割り出す必要がある。これは、補完モジュールまたは代替マスによるモジュールのバランス取りにおいて誤差を持ち込む破滅的なアンバランスである。さらに具体的には、この誤差は、ある取り付け作業と別の取り付け作業とで変化し、未知であり、ツーリングに関する反転の作業によっても矯正することができない。この種の誤差の非再現性は、例えば温度が異なる可能性があり、さらには締め付けおよび位置決めがばらつく可能性があるなど、ある取り付け作業と別の取り付け作業とで条件が変化することによって説明できる。したがって、このアンバランスは、モジュールごとのバランス取りの方法が「使用できる」結果をもたらすために、最小値よりも低く保たれる必要がある破滅的なアンバランスである。特には、この誤差に起因する偏心は、モジュールの接合面の幾何学的な誤差に起因する偏心と同程度であるが、後者は、それを予想することができなくても、最小にすることができ、あるいは増加させることが可能である。したがって、そのような誤差は、取り付け作業の状況に応じて、モジュールごとのバランス取りの方法を適用したアンバランスの矯正に、過剰または誤差値を生み出しがちである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
接触誤差は、予測不可能であって再現性がない。接触誤差は、モジュールごとのバランス取りを乱し、結果を誤ったものにする。
【0014】
本発明の目的は、補完モジュールおよびツーリングの接触誤差の有害な影響が取り除かれる改良されたモジュールごとのバランス取り方法を発見することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、この課題に対する解決策が提供される。回転軸に沿って一方の側にベアリング面を、他方の側に接合面を備える第1のターボ機械モジュールを、このモジュールを備えるロータに関してバランス取りする本発明による方法は、
等価補完モジュールが、これら2つのモジュールを接合面によって組み立てることで上記ロータと等価であるロータが形成されるように画定され、
この等価ロータの合計のアンバランス、およびこれに対応して上記モジュールに対してなすべき矯正が割り出され、前期方法が、
第1のモジュールのベアリングについて、接合面に垂直な軸に対する同心度のずれを割り出すステップ、
上記等価補完モジュールによって生み出され、上記同心度のずれから生じる理論的な幾何学的アンバランスを計算するステップ、
短い支承軸を、接合面に隣接して第1のモジュールに取り付けて、回転軸がモジュールの軸に実質的に一致する短ロータを形成し、この短ロータのアンバランスを測定するステップ、および
上記モジュールのアンバランスを、ロータのアンバランスに上記理論的な幾何学的アンバランスに相当する体系的なアンバランスを加えることによって割り出すステップを含むことを特徴とする。
【0016】
特には、短い支承軸の長さが、短ロータの軸が、ロータおよびバランス取りの公差に応じて変化し得る値だけ、モジュールの軸に対して中心からずれるように決定される。
【0017】
このように、本発明は、実際の補完モジュールを計算による理論的な補完モジュールで置き換え、計算による理論的な補完モジュールの特徴が矯正すべきアンバランスを割り出すために導入されることに基づいている。この手段によって、モジュールのバランス取りの際に、接触誤差なく取り付けられた完璧な補完モジュールの影響が考慮される。
【0018】
例えば、この方法によれば、ツーリングに関する反転作業のそれぞれにおいて、上述したBa型の接触誤差によって導入される誤差の蓄積を回避できるようになる。
【0019】
特にはガスタービンエンジンのロータを目的としているが、本発明は、任意の種類のバランス取りおよびモジュール化が求められる任意のロータ部品に適用される。
【0020】
本発明の解決策は、さらに以下の利点を提供する。
【0021】
正確なモジュールごとのバランス取りが達成できるようになる。その精度は、使用されるバランス装置の精度および実行される同心度の測定にのみ依存する。
【0022】
従来技術のモジュールごとのバランス取り方法に比べ、短い時間でバランス取りの作業を実行できるようになる。この時間の短縮は、以下に関係している。
【0023】
矯正作業の際に加えられるマスに対するロータの反応。実際の補完モジュールにおいては、平面の分離に乏しいことに起因する高度の不安定が存在する。対照的に、短い支承軸においては、ロータが安定なままであり、一方の矯正面においてなされる矯正が、他方の面に余り影響しない。これは、良好な平面の分離からもたらされる。
【0024】
短い支承軸を横切る矯正面のアクセス容易性。短い支承軸は、補完モジュールに比べて長さが短いため、アクセス容易性が改善される。
【0025】
短い支承軸における接触の精度は、補完モジュールよりも制約が少ない。
【0026】
さらに、軽量かつバランスした短いツーリングを備えるバランス装置によって、ツーリングの反転操作を無くすことができる。
【0027】
この方法は、機械加工の精度に関してあまり多くを要求しない短い支承軸を使用するため、従来からの方法よりも費用対効果に優れている。
【0028】
次に、本発明を、添付の図面を参照して以下でさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、ガスタービンエンジンのロータを示している。例えば、ここでのロータは、2軸エンジンの高圧ロータである。ロータ1は、第1のモジュールおよび第2のモジュールで構成されている。ここで、第1のモジュールは、圧縮機10であり、第2のモジュールは、タービン20である。これらはそれぞれ、各ベアリング12および22のための支持軸、ならびに接合面14および24を備える。ロータは、ベアリング12および22を通過するその回転軸AAを中心として回転する。それぞれのモジュールは、単位部品を積み重ねることによって得られている。製造公差のため、2つのモジュールを組み立てる接合面14および24は、モジュール自体の回転軸に対して完璧には垂直でない。これにより、取り付け作業の際に偏心e(図では誇張されている)が生じる。
【0030】
図2は、タービンモジュール20のバランス取りのための取り付け作業を示している。モジュール20は、一方の側にベアリング22のための支持部を形成する支承軸を備え、他方の側に等価補完圧縮機モジュールへの固定のための手段を有する接合面24を備える。等価圧縮機モジュール10’は、一端14’をタービンモジュール20の接合面24に固定することによって、タービンモジュール20に取り付けられている。このモジュール10’は、他端にベアリング12’の取り付けのための支承軸を備える。この等価補完モジュール10’は、この場合には圧縮機モジュールであるが、バランス取りの目的における動的な挙動に関して、ロータの圧縮機を機械的に置き換えるものである。したがって、その長さは、2つのベアリング12’および22の間の距離がエンジンのそれであるように画定されている。その質量および重心は、圧縮機10のそれらと同じである。取り付けは完璧であると仮定される。
【0031】
モジュール20のバランス取りの作業のために、このアセンブリが、それ自体は知られているバランス装置に配置される。測定される全体のアンバランスは、モジュールの固有のアンバランスに、垂直のずれおよびツーリングのアンバランスに起因する幾何学的なアンバランスを加えたものに相当する。後者は、反転操作によって取り除かれる。
【0032】
図は、誤差のない取り付けを示している。しかしながら、上述のように、取り付けの状況に応じて、いわゆる接触のアンバランスが、幾何学的なアンバランスに加えられる。接触のアンバランスは、管理が不可能であって、アンバランスを小さくもするし、あるいは大きくもする。
【0033】
この問題を克服するため、本発明によれば、理論的な幾何学的アンバランスが計算され、これを考慮に入れることによってアンバランスが割り出される。
【0034】
本目的のため、接合面の垂直のずれに起因する偏心が割り出される。
【0035】
図3は、タービンモジュール20についてこの偏心を測定する方法を示している。
【0036】
モジュール20の接合面24に関する2つの基準面Pr1およびPr2ならびに平面24に対して垂直な基準軸Arが画定される。三次元測定装置のセンサPaが、ベアリング22のための支持軸の位置を測定する。これにより、支承軸の軸の基準軸からの距離について、測定値がもたらされる。この偏心を測定するために、例えばGeneral ElectricによってGenspectの名称の下で開発された方法を使用することができる。
【0037】
偏心の値を知ることで、代替マスまたは等価補完モジュールの幾何学的なアンバランスが、その重心およびマスについての知識から割り出されている。このアンバランスは、cm.gで表現される。
【0038】
構成部品のアンバランスが、以下の方法で割り出される。
【0039】
実際の補完モジュールに代えて、単純な短い支承軸が、バランス取りの対象のモジュールに配置される。図4が、そのような短い支承軸40のタービンモジュール20への取り付けを示している。支承軸40は、モジュールの接合面24への取り付けのための接合面44を備え、さらにベアリング42のための支持部を形成する円柱形の表面を有する。図4から分かるとおり、2つのベアリング42および22の間の軸は、実質的にモジュールの軸に一致する。2つの軸の間の接合面において測定される偏心は、ロータの種類およびバランス取りの公差に応じて変化し得る。
【0040】
この短い支承軸の取り付けの目的は、幾何学的誤差の影響を取り除くことにある。測定されるアンバランスが、本出願の冒頭において述べた構成部品のアンバランスBpに相当する。
【0041】
タービンモジュール20の合計のアンバランスが、ベクトル和
Bt=Bp+Bg
によって得られる。
【0042】
ターボ機械のロータにおいては、通常は、各モジュールについて2つの矯正面が存在する。
【0043】
図5の図は、2つの矯正面C1およびC2において矯正すべき合計のアンバランスを示している。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】ガスタービンエンジンのロータを、その2つのモジュールとともに概略的に示す。
【図2】モジュールごとのバランス取りの目的のための等価補完モジュールのタービンモジュールへの取り付けを概略的に示す。
【図3】モジュールについての偏心の測定の原理を示す。
【図4】短い支承軸が取り付けられたタービンモジュールを示す。
【図5】2つの矯正面C1およびC2において矯正すべき合計のアンバランスを示した図である。
【符号の説明】
【0045】
10 圧縮機モジュール
10’ 等価補完圧縮機モジュール
12、22 ベアリング
14、14’、24、44 接合面
20 タービンモジュール
40 短い支承軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に沿って一方の側にベアリング面を、他方の側に接合面を備える第1のターボ機械モジュールを、前記モジュールを備える、ロータに関してバランス取りする方法であって、
等価補完モジュールが、これら2つのモジュールを接合面によって組み立てることで前記ロータと等価であるロータが形成されるように画定され、
前記等価ロータの合計のアンバランス、およびこれに対応して前記モジュールに対してなすべき矯正が割り出され、前記方法が、
第1のモジュールのベアリングについて、接合面に垂直な軸に対する同心度のずれを割り出すステップ、
前記等価補完モジュールについて、理論的な幾何学的アンバランスを計算するステップ、
短い支承軸を、接合面に隣接して第1のモジュールに取り付けて、回転軸がモジュールの軸に実質的に一致する短ロータを形成し、この短ロータのアンバランスを測定するステップ、および
前記モジュールの合計のアンバランスを、短ロータのアンバランスに幾何学的アンバランスに相当する体系的なアンバランスを加えることによって割り出すステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ロータが、ガスタービンエンジンのロータであって、圧縮機モジュールおよびタービンモジュールが、別個にバランス取りされる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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