説明

タールデカンター装置

【課題】臭気ガスが大気中へ放散されることを、経済的に防止するタールデカンター装置を提供すること。
【解決手段】コークス炉ガス(COG)を冷却・洗浄したCOG洗浄廃液を回収し、静置することで、アンモニア水(安水)とタールとスラッジとに固液分離させるタールデカンター装置において、前記タールデカンター装置6内部に滞留する臭気ガスがタールデカンター装置6のスラッジ排出口12を通じて大気中に放散することを防止するために、前記タールデカンター装置6内部の天井から安水面下までの仕切板16を取付けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉ガス(以下、「COG」と言う。)の冷却・洗浄廃液を回収、分離するタールデカンター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に、図3、図4を参照しながら背景技術、及び従来技術について説明する。
【0003】
コークス炉1に装入した石炭を乾留する際に発生するCOGは、炉上部の上昇管曲管部2でアンモニア水(以下「安水」と言う。)を散布3することにより、冷却・洗浄される。冷却・洗浄されたCOGはCOG通気配管4を通り、図示しないCOG精製設備へと配送される。COGを冷却・洗浄したCOG洗浄廃液は、COG通気配管4底部を流下して分岐管5からタールデカンター装置6内に流入する。
【0004】
前記COG洗浄廃液は安水を主成分としてタール、硫化水素等が含まれており、タールデカンター6装置内で静置することにより、上層に安水7、中層にタール8、下層にタール中に含まれるスラッジ9が沈降分離する。前記安水7は前記タールデカンター装置6より直接、又はタンクを介してポンプ10で前記上昇管曲管部2へ配送し、COGの冷却・洗浄に再利用する。
【0005】
前記COG通気配管4より前記タールデカンター装置6内に直接流下した前記COG洗浄廃液には、COGが一部巻き込まれ、タールデカンター装置6内の気相部11に滞留する。この臭気の強いガス(以後、「臭気ガス」と記載。)中には、アンモニア、ナフタリン等の臭気成分以外にも水素、メタン等の可燃ガス、及び一酸化炭素、硫化水素等の有毒ガスが含まれている。前記の臭気ガスは人体や周囲環境に悪影響を及ぼすため、大気中へ放散することを防止する必要がある。
【0006】
タールデカンター装置6のスラッジ排出口12は、基本的には大気開放部であるため、従来技術では、ブロワー等の機器でタールデカンター装置6内部の臭気ガスを吸引して処理設備まで配送することによって、スラッジ排出口12より臭気ガスが大気中へ放散することを防止していた。しかし、これらの設備投資が大きく、また、ブロワー等の機器が故障した際、一時的に臭気ガスが大気中へ放散されるといった欠点があった。
【0007】
そこで、最近は、タールデカンター装置6と負圧状態であるCOG通気配管4とを繋ぐ連絡管13を設け、タールデカンター装置6内部を負圧状態に保持する構造が一般的に用いられている。具体的には、タールデカンター内圧調節弁15を前記連絡管13に取付け、タールデカンター装置6の気相部11の圧力を調整する。
ただし、この場合は、前記スラッジ排出口12よりタールデカンター6装置中へ大量の空気が流入し、COG通気配管4中へ空気が混入してしまう恐れがある。
空気がCOG通気配管4中に混入すると、可燃性のCOGと助燃性の酸素が反応して爆発事故が起こる危険性があるので、窒素等の不活性ガス装入配管14をタールデカンター装置6へ接続し、空気吸引量よりも多くの不活性ガスを吹込むことにより、COG通気配管4中への空気混入を防止する方法が発明されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、内圧調節弁15やこれに接続する圧力センサー(PIC)等の付属計器類は、臭気ガス中に含まれる低温で固形状物質となるナフタリン等で目詰まりしやすく、また、不活性ガスは高価なため維持費用もかかるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭53−41301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に述べたように従来技術では、タールデカンター装置内圧調整用の不活性ガス、制御弁、計器類、制御システムの構築等が必要となる。また、タールデカンター装置内部の臭気ガスにはナフタリン等の凝固性物質が多量に含まれており、制御弁への付着による流路閉塞や、計器類への付着による検知精度低下を防止しなければならず、制御弁や計器類廻りに蒸気(又は高温安水)による洗浄システムを設置し、頻繁に洗浄を実施する必要がある。さらには、制御弁や計器類のメンテナンス時には、予備の手動弁でタールデカンター装置内圧を調整するため、通常運用時に比べて不活性ガス吹き込み量が増大して、ランニングコストが増加する。
【0010】
本発明は、このような従来設備が有していた問題を解決しようとするものであり、臭気ガスが大気中へ放散されることを、経済的に防止するタールデカンター装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、臭気ガスが大気中へ放散されることを防止するための仕切板を内部に設置したタールデカンター装置であり、その要旨とするところは、以下の通りである。
【0012】
(1)コークス炉ガスを冷却・洗浄したCOG洗浄廃液を回収し、静置することでアンモニア水とタール分とスラッジ分とに固液分離させるタールデカンター装置において、前記タールデカンター装置内部に滞留する臭気ガスがタールデカンター装置のスラッジ排出口を通じて大気中に放散することを防止するために、前記タールデカンター装置内部に天井から安水面下までの仕切板を取付けたことを特徴とする。
(2)前記タールデカンター装置内の前記安水の液位が前記タールデカンター装置内の仕切板最下端を下回り、前記タールデカンター装置内の臭気ガスと前記タールデカンター装置外の大気とが連通しないように、前記安水の液位が制御されることを特徴とする。
(3)前記タールデカンター装置内の仕切板の設置位置は、前記タールデカンター装置とCOG通気配管を接続する連絡管と前記タールデカンター装置のスラッジ排出口の中間位置とし、前記仕切板の最下端は前記安水面より深く、沈降したスラッジ面またはスラッジ排出機に接しない深さの位置とし、スラッジ排出口に近接した位置とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タールデカンター装置内部に仕切板を設置したり、あるいはタールデカンター装置内部に設置した仕切板とタールデカンター内部の液面制御だけで、タールデカンター装置内部の臭気ガス雰囲気と外部の空気雰囲気を完全に遮断することができるため、タールデカンター装置内部の臭気ガスが大気中へ放散されることを経済的に防止する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による防臭実施形態を示すタールデカンター装置の概略縦断側面図である。
【図2】本発明による防臭実施形態を示すタールデカンター装置の横断平面図である。
【図3】タールデカンター装置廻りのフロー概略図である。
【図4】従来技術による防臭実施形態を示すタールデカンター装置の概略縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付図面の図1、図2を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
同図には、COG洗浄廃液をタールデカンター装置6内で静置することにより、上層に安水7、中層にタール8、下層にタール中に含まれるスラッジ9が沈降分離した状態が示されている。本発明においても、COGを冷却・洗浄したCOG洗浄廃液は、COG通気配管4底部を流下して分岐管5からタールデカンター装置6内に流入している点は、前記の従来と同様である。
【0016】
タールデカンター装置6と負圧状態であるCOG通気配管4を配管(連絡管13)で連結させ、タールデカンター装置6内部を負圧状態とし、タールデカンター装置6の大気開放部である前記スラッジ排出口12よりタールデカンター装置6内部へ外部空気が流入するのを防止するために、スラッジ排出口12の手前のタールデカンター装置6内部天井に鉛直に仕切板16を設置する。前記仕切板16の左右方向の両端部側は、デカンター装置6における左右両側板に気密に連結されて、気相部11の臭気ガスが漏洩しないようにされている。前記仕切板16の下端は、タールデカンター装置6内部で分離したCOG洗浄廃液中の安水7の液層中にあり、安水7の液位を仕切板16の底面よりも常時上位に保持するために安水7の液位の制御である液面制御を行う。
【0017】
具体的には、連絡管13でCOG通気配管4の上部に接続し負圧とされているタールデカンター装置6の内圧は、本発明では、前記COG通気配管4の圧力となり負圧となるため、コークス炉より配送されるCOG流量の増減に比例して変動する。従って、タールデカンター装置6の内圧と安水7の液圧との圧力差を連続して計測し、その圧力差により安水7の液位を測定する。
タールデカンター装置6の内圧は、適宜COG通気配管4内またはタールデカンター装置6内に圧力計を設置して計測し、また、安水7の液圧は、タールデカンター装置6内における負圧側となっている安水7の液圧を測定し、これらの圧力差を連続して計測することで、その圧力差により安水7の液位を測定することができる。
安水7の液位が高い場合は、安水7の排出出口からの抜出し量を増量させ、安水7の液位が低い場合は、安水7の排出出口からの抜出し量を減量させることで、安水7の液位が仕切板16の下端を下回ることのないように液位(液面レベル)の制御を行う。排出出口から抜き出された安水7は、上昇管曲管部2において、安水を散布3される。
また、仕切板16の最下端は硬化しやすいスラッジ9や、スクレーパ(図示を省略)を備えたスラッジ排出機17に触れないような位置に配置し、安水面からの臭気漏れを最小限にするために、デカンター装置6側においてこれに接続する連絡管13と分岐管5の間に設置して分岐管5側の安水水位が大気圧レベルに降下するよりも、分岐管5とスラッジ排出口12との間に仕切板16を設置するように、より好ましくは、スラッジ排出口12に近い位置に設置し、スラッジ排出口12側の安水の大気圧側の露出面積を極力少なくすることが好ましい。
【0018】
前記のように安水7の液面制御によって、外気は仕切板16と安水7の液面で常に遮断され、タールデカンター装置6内部と外部の間で気体の出入りが完全に無くなるため、タールデカンター6内圧を負圧に保持することができ、タールデカンター装置6内部の臭気ガスが大気中へ放散することを完全にかつ経済的に防止することができる。
また、前記のように仕切板16を設けることにより、図4における不活性ガス装入配管14を含む不活性ガス装入系およびタールデカンター内圧調節弁15および圧力センサー等の設備を簡素にすることができ、メンテナンスコストを安くすることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 コークス炉
2 上昇管曲管部
3 安水散布
4 COG通気配管
5 分岐管
6 タールデカンター装置
7 上層/安水
8 中層/タール
9 下層/スラッジ
10 ポンプ
11 気相部
12 スラッジ排出口
13 連絡管
14 不活性ガス装入配管
15 タールデカンター内圧調節弁
16 仕切板
17 スラッジ排出機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉ガス(以下、「COG」と言う)を冷却・洗浄したCOG洗浄廃液を回収し、静置することで、アンモニア水(以下と言う。)とタールとスラッジとに固液分離させるタールデカンター装置において、
前記タールデカンター装置内部に滞留する臭気ガスがタールデカンター装置のスラッジ排出口を通じて大気中に放散することを防止するために、
前記タールデカンター装置内部の天井から安水面下までの仕切板を取付けたことを特徴とするタールデカンター装置。
【請求項2】
前記タールデカンター装置内の前記安水の液位が前記タールデカンター装置内の仕切板最下端を下回り、前記タールデカンター装置内の臭気ガスと前記タールデカンター装置外の大気とが連通しないように、前記安水の液位が制御されることを特徴とする請求項1に記載のタールデカンター装置。
【請求項3】
前記タールデカンター装置内の仕切板の設置位置は、前記タールデカンター装置とCOG通気配管を接続する連絡管と前記タールデカンター装置のスラッジ排出口の中間位置とし、前記仕切板の最下端は前記安水面より深く、沈降したスラッジ面またはスラッジ排出機に接しない深さの位置とされていることを特徴とする請求項1および請求項2に記載のタールデカンター装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−209159(P2010−209159A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54264(P2009−54264)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】